JP4403443B2 - Ly6h遺伝子 - Google Patents

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Description

技 術 分 野
本発明は、特に脳に特異的に強く発現している遺伝子、より詳しくは、血液幹細胞の精製、血液細胞の分化の研究、免疫細胞の活性化、活性型免疫細胞の産生抑制、腫瘍治療などに利用されてきているLy6ファミリー(後記文献参照)に属する新しい蛋白質をコードする遺伝子に関する。また本発明は、該遺伝子によりコードされる新規な蛋白質およびその特異抗体にも関する。更に本発明は、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療および予防剤などにも関している。
背 景 技 術
Ly6ファミリーに属する蛋白質は、低分子GPIアンカー構造を持ち、マウス15番染色体上にクラスターを構成する細胞表面の糖蛋白質群として同定された〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,84,1638−1643(1987)〕。
該Ly6ファミリーは、骨髄細胞やリンパ球系細胞に特異的に強い発現を示すことから、T細胞の分化や造血幹細胞のマーカーとして利用されている〔Immunol.Cell Biol.,73,277−296(1995)〕。その生体内での機能は未だ不明な点が多いが、リンパ球系において高度に発現の調節がなされていることより、免疫系、とりわけT細胞の分化や機能に重要な役割を果たしていると考えられる。例えばLy6cは、インテグリン依存的な接着によるCD8T細胞のリンパ節への誘導を媒介しているとの報告がある〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,94,6898−6903(1997)〕。
また、多くのGPIアンカー蛋白質は、プロテインキナーゼと相互作用することが知られている〔Science,254,1016−1019(1991)〕。例えば、p561ckやp59fynとLy6とが相互作用することからT細胞のシグナルトランスダクションに関与する可能性が示唆されている〔Eur.J.Immunol.,23,825−831(1993)〕。Ly6aを欠いたマウスから得られるT細胞は抗原性刺激に対する増殖能が増長されるという報告もなされている〔J.Exp.Med.,186,705−717(1997)〕。T細胞のみならず、B細胞の活性化を調節している可能性も示唆されている〔J.Immunol.,144,2197−2204(1990)〕。
更に、いくつかのGPIアンカー蛋白質は、リンパ球系および神経系のいずれにも発現し、機能していることが知られている〔Nature,379,826−829(1996);Curr.Biol.,,705−708(1997)〕。Ly6ファミリーでは、Ly6a.2とLy6Eとがいずれにも発現、機能していることが報告されている〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,85,2255−2259(1996);J.Immunol.,157,969−973(1996)〕。
かかるLy6ファミリーに属する蛋白質およびこれをコードする遺伝子の生理的役割の解明とそれにより得られる情報は、基礎科学研究の分野はもとより、医薬品分野においても、血液幹細胞の精製、血液細胞分化の研究、免疫細胞の活性化、免疫細胞の活性化の抑制、腫瘍の治療などの面で有用であると考えられる。
近年、アルツハイマー病患者において、加齢に伴う脳の萎縮に比べて、大脳の側頭葉における過剰な萎縮が報告されており(Jobst,K.A.,et al.,Lancet,343,829−830(1994))、この大脳側頭葉部位に影響する遺伝子がアルツハイマー病の発症および進展に何らかの関連があると考えられる。かかる遺伝子が解明できれば、アルツハイマー病の治療および予防分野に有効な情報を与えることができる。
従って、本発明の目的は、斯界で要望される上記情報、殊にLy6ファミリーに属する新規なヒト蛋白質およびこれをコードする遺伝子を提供することにある。
また本発明の目的は、アルツハイマー病を初めとする各種神経変性疾患の治療および予防剤を提供することにある。
上記目的より、本発明者は、各種ヒト組織由来の遺伝子につき検索を重ねた結果、該目的に合致する新しい脳特異的遺伝子の単離、同定に成功すると共に、この新しく単離した遺伝子の発現がアルツハイマー病患者の海馬や嗅内皮質を含む側頭葉において顕著に減少しており、これがアルツハイマー病の発症、進行或いは痴呆などの一因であり、該遺伝子およびその発現産物の利用が、アルツハイマー病治療および予防に有用であることを見出した。本発明は之等の知見に基づいて完成されたものである。
発 明 の 開 示
本発明によれば、以下の(a)または(b)の蛋白質をコードする塩基配列を含む遺伝子が提供される。
(a)配列番号:1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:1で示されるアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用および脳における記憶形成作用から選ばれる少なくとも1種の生理作用を有する蛋白質。
本発明によれば、特に、配列番号:2で示される塩基配列を含む当該遺伝子およびヒト遺伝子である当該遺伝子が提供される。
また本発明によれば、以下の(a)および(b)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子、特にヒト遺伝子である当該遺伝子が提供される。
(a)配列番号:3で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:3で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
更に本発明によれば、上記遺伝子を含む遺伝子発現ベクター;該遺伝子発現ベクターを含む宿主細胞;該宿主細胞によって発現される遺伝子発現産物;本発明遺伝子によってコードされる蛋白質;およびこれら遺伝子発現産物乃至蛋白質に結合性を有する抗体が提供される。
更に本発明によれば、上記蛋白質もしくはその同効物または上記遺伝子発現産物を有効成分とし、これを製剤学的担体と共に含む神経変性疾患治療および予防剤、より詳しくは配列番号:1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質もしくはその同効物または配列番号:2で示される塩基配列を含む遺伝子の全部または一部の発現産物であって且つ神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用および脳における記憶形成作用から選ばれる少なくとも1種の生理作用を有する遺伝子発現産物を有効成分とする上記神経変性疾患治療および予防剤、特に、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病治療および予防剤が提供される。
加えて本発明によれば、配列番号:2で示される塩基配列の少なくとも20個の連続するポリヌクレオチド配列からなるセンス鎖オリゴヌクレオチド;該センス鎖オリゴヌクレオチドを有効成分とし、これを製剤学的担体と共に含む遺伝子治療剤;および配列番号:2で示される塩基配列の少なくとも10個の連続するオリゴヌクレオチド配列からなる遺伝子特異的プローブが提供される。
また本発明によれば、上記蛋白質もしくはその同効物または上記遺伝子発現産物を用いる、之等蛋白質乃至遺伝子発現産物に結合するかまたはこれらの活性に影響を与える候補化合物のスクリーニング方法;スクリーニング用キット;およびスクリーニングされた上記化合物が提供される。
以下、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC−IUB Communication on Biological Nomenclature,Eur.J.Biochem.,138:9(1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従うものとする。
本発明遺伝子の一具体例としては、後述する実施例に示される「LY6H」と名付けられたPCR産物のDNA配列から演繹されるものを挙げることができる。その塩基配列は、配列番号:3に示されるとおりである。
該LY6H遺伝子は、配列番号:1に示される140アミノ酸配列の新規な脳特異的蛋白質(LY6H蛋白質という)をコードする420のオープンリーディングフレーム(ORF)を含むcDNAであり、全長854塩基からなっている。
本発明遺伝子の発現産物であるLY6H蛋白質は、FASTAプログラム(Person W.R.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,85,2444−2448(1988))を利用したGenBank/EMBLデーターベースの検索の結果、マウスLy6ファミリー蛋白質〔Immunol.Cell Biol.,73,277−296(1995)〕と高い相同性が認められた。また、遺伝子相互においても高い相同性が認められた。このことから、本発明遺伝子は、新規なヒトのLy6遺伝子と考えられる。
本発明LY6H遺伝子は、ヒト胎児脳cDNAライブラリーから無作為に選択した28000以上のcDNAクローンの配列解析により、脳に特異的に発現する遺伝子として同定された。その染色体上の位置は、RHによる染色体マッピング〔Hum.Mol.Genet.,,339−346(1996)〕の結果、8q24.3上に位置することが判った。
従って、本発明に係わる遺伝子およびその発現産物の提供によれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトLY6H蛋白質の遺伝子工学的製造およびそれを用いた抗体の作成が可能であり、これらにより、血液幹細胞の精製、血液細胞の分化の研究、免疫細胞の活性化やその抑制、腫瘍の治療などが可能となると考えられる。
加えて、本発明に係わる遺伝子発現産物(ポリペプチド)の提供によれば、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、パーキンソン病、脳虚血などの神経変性疾患に対する予防および治療剤を提供することが可能となる。また、本発明に係わる遺伝子のセンス鎖は、遺伝子治療剤として利用することができ、これによって上記神経変性疾患の発症の抑制、進展の抑制などを行うことができる。
更に本発明によれば、本発明遺伝子発現産物(ポリペプチド)に結合するかまたはその活性に影響を及ぼす化合物のスクリーニング方法およびそのスクリーニング用キットが提供でき、これによって、スクリーニングされた該化合物も提供できる。かかるスクリーニング化合物の特定には、本発明遺伝子の発現産物に結合する抗体を利用することができる。
本明細書において、「遺伝子」なる用語は、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられている。その長さは何ら制限されるものではない。従って、本発明遺伝子(DNA)には、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)並びに該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)およびそれらの断片のいずれもが含まれる。
本発明遺伝子(DNA)は、またリーダ配列、コード領域、エキソン、イントロンを含むことができる。ポリヌクレオチドには、RNAおよびDNAが包含される。該DNAには、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAが含まれる。ポリペプチドには、その断片、同族体(ホモログ)、誘導体、変異体が包含される。上記変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、欠失、置換、付加および挿入によって改変されたアミノ酸配列を有する変異体、同じ機能を有する改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。
尚、これらアミノ酸配列の改変(変異など)は、天然において、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、天然由来の遺伝子(例えば本発明の具体例遺伝子)を利用して人為的にこれを行うこともできる。
上記変異体は、変異のないポリペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものであることができる。また、上記ポリペプチドは、変異体、ホモログなどを含めて、いずれも共通に保存する構造的な特徴があり、本発明遺伝子発現産物の生物活性、例えば神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用を有しているものであることができる。なお、ポリペプチドの相同性は、配列分析ソフトウェア、例えばFASTAによるSWISSPLOTSデータベースの検索によって解析することができる(Clustal,V.,Methods Mol.Biol.,25,307−318(1994))。
上記変異体をコードする遺伝子は、アミノ酸置換についてサイレントまたは保存されている。即ち、塩基配列によってコードされるアミノ酸残基は変らない。
保存的な置換アミノ酸残基、即ち、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換しても、元のアミノ酸残基を有するポリペプチドの活性が保存されているであろう置換可能なアミノ酸残基は、各アミノ酸残基(元のアミノ酸残基)に対して以下に示されるとおりである:
元のアミノ酸残基 保存的な置換アミノ酸残基
Ala Ser
Arg Lys
Asn Gln,His
Asp Glu
Cys Ser
Gln Asn
Glu Asp
Gly Pro
His AsnまたはGln
Ile LeuまたはVal
Leu IleまたはVal
Lys Arg,AlnまたはGlu
Met LeuまたはIle
Phe Met,LeuまたはTyr
Ser Thr
Thr Ser
Trp Tyr
Tyr TrpまたはPhe
Val IleまたはLeu
また、システィン残基(Cys)は、これを他のアミノ酸残基、例えばセリン残基(Ser)、アラニン残基(Ala)、バリン残基(Val)などに置換することが可能である。
本発明遺伝子およびその発現産物の提供は、アルツハイマー病、脳虚血、パーキンソン病などの神経変性疾患の解明、把握、診断、予防および治療に極めて有用な情報乃至手段を与える。また、本発明遺伝子は、上記神経変性疾患の処置に利用される本発明遺伝子の発現を誘導する新規薬剤の開発の上でも好適に利用できる。更に、個体或は組織における本発明遺伝子の発現またはその発現産物の検出や、該遺伝子の変異(欠失や点変異)乃至発現異常の検出は、上記神経変性疾患の解明や診断において好適に利用できる。
本発明遺伝子は、具体的には配列番号:1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする配列番号:2の塩基配列を含む遺伝子、例えば配列番号:3で示される塩基配列を有する遺伝子(LY6H遺伝子)として示されるが、特にこれに限定されない。例えば、本発明遺伝子は、上記特定のアミノ酸配列において一定の改変を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子や、上記特定のアミノ酸配列と一定の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子や、之等遺伝子の塩基配列と一定の相同性を有する塩基配列の遺伝子であることができる。
上記特定のアミノ酸配列や塩基配列に対して、一定の相同性とは、例えば、少なくとも70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上の相同性であることができる。本発明はかかる相同性を有する相同物(遺伝子相同物および蛋白相同物)を包含する。
本発明遺伝子には、また「配列番号:1で示されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列(改変されたアミノ酸配列)からなるポリペプチドをコードする遺伝子」も包含される。ここで、「アミノ酸の欠失、置換または付加」の程度およびそれらの位置などは、改変されたアミノ酸配列のポリペプチドが、配列番号:1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(LY6H蛋白質)と同様の生物学的機能を有する同効物であれば、特に制限されない。上記「同様の機能」としては、例えば神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用、脳における記憶形成作用などの生理活性を例示することができ、「同効物」とは、之等の機能を有するものをいう。従ってこの改変されたアミノ酸配列からなる蛋白質には、配列番号:1で示されるアミノ酸配列の一部(連続するもの)であって且つ上記該アミノ酸配列の全部と同様の上記生理活性を有するもの(同効物)が包含される。また、上記改変されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子は、その利用によって、改変前のアミノ酸配列のポリペプチドをコードする本発明遺伝子が検出できるものであってもよい。なお、上記改変における複数は、通常2以上、数個を意味するが、これに限定されない。
本発明のLY6H遺伝子の相同物(および該遺伝子産物の相同物)とは、本発明遺伝子(またはその発現産物)と配列相同性を有し、構造的特徴、遺伝子発現パターンにおける共通性、上記したような生物学的機能の類似性などにより、ひとつの遺伝子ファミリーと認識される一連の関連遺伝子(およびその発現産物)を意味する。これには本発明遺伝子のアレル体(対立遺伝子)も当然含まれる。
尚、これらアミノ酸配列の改変(変異)などは、天然において、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、天然由来の遺伝子(例えば本発明の具体例遺伝子)に基づいて人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変・変異の原因および手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変遺伝子を包含する。
前記アミノ酸配列の改変(変異)のための人為的手段としては、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス〔Methods in Enzymology,154,350,367−382(1987);同 100,468(1983);Nucleic Acids Res.,12,9441(1984);続生化学実験講座1「遺伝子研究法II」、日本生化学会編,p105(1986)〕などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段〔J.Am.Chem.Soc.,89,4801(1967);同91,3350(1969);Science,150,178(1968);Tetrahedron Lett.,22,1859(1981);同 24,245(1983)〕およびそれらの組合せ方法などが例示できる。より具体的には、DNAの合成は、ホスホルアミダイト法またはトリエステル法による化学合成によることもでき、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うこともできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該鎖を共にアニーリングさせるかまたは適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用いて相補鎖を付加するかによって、化学合成した一本鎖生成物から得ることもできる。
本発明遺伝子の具体的態様としては、配列番号:3に示される塩基配列を有する遺伝子を例示できる。この塩基配列中のコーディング領域(配列番号:2に示す配列)は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列の各アミノ酸残基を示すコドンの一つの組合せ例を示している。本発明の遺伝子は、かかる特定の塩基配列を有する遺伝子に限らず、各アミノ酸残基に対して任意のコドンを組合せ、選択した塩基配列を有することも可能である。コドンの選択は、常法に従うことができ、例えば利用する宿主のコドン使用頻度などを考慮することができる〔Ncleic Acids Res.,,43(1981)〕。
また、本発明遺伝子には、前記のとおり、配列番号:3に示される塩基配列と一定の相同性を有する塩基配列からなるものも包含される。上記相同性は、配列番号:3に示される塩基配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するポリヌクレオチドおよびその相補鎖ポリヌクレオチドを言う。かかる相同性を有する遺伝子は、例えば、上記配列番号:3で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとして特定される。より詳しくは、6×SSC中65℃一夜の条件または50%ホルムアミドを含む4×SSC中37℃一夜の条件下で、該配列番号:3に示される塩基配列のDNAとハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子が、上記相同性を有する遺伝子に包含される。ここで、SSCは、標準食塩−クエン酸緩衝液である(standard saline citrate;1×SSC=0.15M NaCl,0.015M sodium citrate)。
本発明遺伝子は、本発明により開示された本発明遺伝子の具体例についての配列情報に基づいて、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる〔Molecular Cloning 2d Ed,Cold Spring Harbor Lab.Press(1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)など参照〕。
具体的には、本発明遺伝子が発現される適当な起源より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、本発明遺伝子に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより実施できる〔Proc.Natl.Acad,Sci.,USA.,78,6613(1981);Science,222,778(1983)など〕。
上記において、cDNAの起源としては、本発明の遺伝子を発現する各種の細胞、組織やこれらに由来する培養細胞など、特に脳組織が例示される。また、これらからの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。また、cDNAライブラリーは市販されてもおり、本発明においてはそれらcDNAライブラリー、例えばクローンテック社(Clontech Lab.Inc.)などより市販されている各種cDNAライブラリーなどを用いることもできる。
本発明の遺伝子をcDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。具体的には、例えばcDNAによって産生される蛋白質に対して、該蛋白質の特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーションなどやこれらの組合せなどを例示できる。
ここで用いられるプローブとしては、本発明の遺伝子の塩基配列に関する情報をもとにして化学合成されたDNAなどが一般的に使用できるが、既に取得された本発明遺伝子やその断片も良好に利用できる。また、本発明遺伝子の塩基配列情報に基づき設定したセンス・プライマー、アンチセンス・プライマーをスクリーニング用プローブとして用いることもできる。
前記プローブとして用いられるヌクレオチド配列は、配列番号:2に対応する部分ヌクレオチド配列であって、少なくとも10個の連続した塩基、好ましくは20個の連続した塩基、より好ましくは30個の連続した塩基、最も好ましくは50個の連続した塩基を有するものであることができる。また、配列番号:2で示されるオリゴヌクレオチド配列を有する陽性クローンそれ自体をプローブとして用いることもできる。
本発明遺伝子の取得に際しては、PCR法〔Science,230,1350(1985)〕によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法〔Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6),35(1994)〕、特に5’−RACE法〔M.A.Frohman,etal.,Proc.Natl.Acad.Sci,,USA.,,8998(1988)〕などの採用が好適である。
かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、本発明によって明らかにされた本発明の遺伝子の配列情報に基づいて適宜設定でき、これは常法に従って合成できる。尚、増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法などによればよい。
上記で得られる本発明遺伝子或いは各種DNA断片は、常法、例えばジデオキシ法〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463(1977)〕やマキサム−ギルバート法
〔Methods in Enzymology,65,499(1980)〕などに従って、また簡便には市販のシークエンスキットなどを用いて、その塩基配列を決定することができる。
このようにして得られる本発明の遺伝子によれば、例えば該遺伝子の一部または全部の塩基配列を利用することにより、個体もしくは各種組織における本発明遺伝子の発現の有無を特異的に検出することができる。
かかる検出は常法に従って行うことができ、例えばRT−PCR〔Reverse transcribed−Polymerase Chain reaction;E.S.Kawasaki,et al,,Amplification of RNA.In PCR Protocol,A Guide to methods and applications,Academic Press,Inc.,SanDiego,21−27(1991)〕によるRNA増幅やノーザンブロッティング解析〔Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Lab.(1989)〕、in situ RT−PCR〔Nucl.Acids Res.,21,3159−3166(1993)〕やin situハイブリダイゼーションなどを利用した細胞レベルでの測定、NASBA法〔Nucleic acid sequence−based amplification,Nature,350,91−92(1991)〕およびその他の各種方法を挙げることができる。好適には、RT−PCRによる検出法を挙げることができる。
尚、ここでPCR法を採用する場合に用いられるプライマーとしては、本発明遺伝子のみを特異的に増幅できる該遺伝子特有のものである限り、特に制限はなく、本発明遺伝子の配列情報に基いて適宜設定することができる。通常プライマーとして10〜35程度のヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチド程度の長さを有する本発明遺伝子の部分配列を有するものを挙げることができる。
このように、本発明遺伝子には、本発明にかかるLY6H遺伝子を検出するための特異プライマーおよび/または特異プローブとして使用されるDNA断片もまた包含される。
当該DNA断片は、配列番号:2で示される塩基配列のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとして規定することできる。ここで、ストリンジェントな条件としては、プライマーまたはプローブとして用いられる通常の条件を挙げることができ、特に制限はされないが、例えば、前述するような6×SSC中65℃一夜の条件または50%ホルムアミドを含む4×SSC中37℃一夜の条件を例示することができる。
本発明遺伝子はこれを通常の遺伝子工学的手法に利用することにより、該遺伝子の発現産物(ポリペプチド)またはこれを含む蛋白質を容易に大量に、安定して製造することができる。
従って本発明は、本発明遺伝子のコードするアミノ酸配列のポリペプチド(本発明遺伝子の発現産物)をも提供するものであり、また該ポリペプチドの製造のための、例えば本発明遺伝子を含有するベクター、該ベクターによって形質転換された宿主細胞、該宿主細胞を培養して本発明ポリペプチドを製造する方法などをも提供するものである。
本発明ポリペプチドの具体的態様としては、配列番号:1で示されるアミノ酸配列のポリペプチド(LY6H蛋白質)を挙げることができるが、本発明ポリペプチドには、該LY6H蛋白質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり且つLY6H蛋白質と同様の機能を有するポリペプチドを挙げることができる。具体的には、前記LY6H遺伝子の相同物(アレル体を含むLY6H同等遺伝子)の発現産物を挙げることができる。
また、本発明LY6H蛋白質の相同物には、配列番号1で示されるアミノ酸配列のポリペプチドと同一活性を有する、哺乳動物、例えばウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマなどや、ラット、マウス、ウサギなどのげっ歯類動物の蛋白質も包含される。
本発明ポリペプチドは、本発明により提供される遺伝子の配列情報に基づいて、常法の遺伝子組換え技術〔例えば、Science,224,1431(1984);Biochem.Biophys.Res.Comm.,130,692(1985);Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,5990(1983)など参照〕に従って調製することができる。
該ポリペプチドの製造は、より詳細には、所望の蛋白をコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から回収することにより行われる。
上記宿主細胞としては、原核生物および真核生物のいずれも用いることができ、例えば原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌といった一般的に用いられるものが広く挙げられ、好適には大腸菌、とりわけエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株に含まれるものを例示できる。また、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、酵母などの細胞が含まれ、前者としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞〔Cell,23:175(1981)〕やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞およびそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,77:4216(1980)〕などが、後者としては、サッカロミセス属酵母細胞などが好適に用いられる。勿論、これらに限定される訳ではない。
原核生物細胞を宿主とする場合は、該宿主細胞中で複製可能なベクターを用いて、このベクター中に本発明遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーターおよびSD(シャイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを好適に利用できる。上記ベクターとしては、一般に大腸菌由来のプラスミド、例えばpBR322、pBR325、pUC12、pUC13などがよく用いられるが、これらに限定されず既知の各種のベクターを利用することができる。大腸菌を利用した発現系に利用される上記ベクターの市販品としては、例えばpGEX−4T(Amersham Pharmacia Biotech社)、pMAL−C2,pMAl−P2(New England Biolabs社)、pET21,pET21/lacq(Invitrogen社)、pBAD/His(Invitrogen社)などを例示できる。
脊椎動物細胞を宿主とする場合の発現ベクターとしては、通常、発現しようとする本発明遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終了配列を保有するものが挙げられ、これは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、具体的には、例えばSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr〔Mol.Cell.Biol.,:854(1981)〕などが例示できる。上記以外にも既知の各種の市販ベクターを用いることができる。動物細胞を利用した発現系に利用されるかかるベクターの市販品としては、例えばpEGFP−N,pEGFP−C(Clontrech社)、pIND(Invitrogen社)、pcDNA3.1/His(Invitrogen社)などの動物細胞用ベクターや、pFastBac HT(GibciBRL社)、pAcGHLT(PharMingen社)、pAc5/V5−His,pMT/V5−His,pMT/Bip/V5−his(以上Invitrogen社)なとの昆虫細胞用ベクターなどが挙げられる。
また、酵母細胞を宿主とする場合の発現ベクターの具体例としては、例えば酸性ホスファターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80:1(1983)〕などが例示できる。市販の酵母細胞用発現ベクターには、例えばpPICZ(Invitrogen社)、pPICZα(Invitrogen社)などが包含される。
プロモーターとしても特に限定なく、エッシェリヒア属菌を宿主とする場合は、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、PL/PRプロモーターなどを好ましく利用できる。宿主がバチルス属菌である場合は、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。酵母を宿主とする場合のプロモーターとしては、例えばpH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどを好適に利用できる。また、動物細胞を宿主とする場合の好ましいプロモーターとしては、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどを例示できる。
尚、本発明遺伝子の発現ベクターとしては、通常の融合蛋白発現ベクターも好ましく利用できる。該ベクターの具体例としては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白として発現させるためのpGEX(Promega社)などを例示できる。
また、成熟ポリペプチドのコード配列が宿主細胞からのポリペプチドの発現、分泌を助けるポリヌクレオチド配列としては、分泌配列、リーダ配列が例示でき、細菌宿主に対して融合成熟ポリペプチドの精製に使用されるマーカー配列(ヘキサヒスチジン・タグ、ヒスチジン・タグ)、哺乳動物細胞の場合はヘマグルチニン(HA)・タグを例示できる。
所望の組換えDNA(発現ベクター)の宿主細胞への導入法およびこれによる形質転換法としては、特に限定されず、一般的な各種方法を採用することができる。
また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計した遺伝子によりコードされる本発明の目的蛋白質が、形質転換体の細胞内、細胞外または細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
かくして得られる本発明の組換え蛋白質(LY6H蛋白質)は、所望により、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175−1259頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry,25(25),8274(1986);Eur.J.Biochem.,163,313(1987)など参照〕により分離、精製できる。
該方法としては、具体的には、通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せが例示でき、特に好ましい方法としては、本発明蛋白質に対する特異的な抗体を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィーなどを例示することができる。
尚、本発明ポリペプチドをコードする所望の遺伝子の設計に際しては、配列番号:2に示されるLY6H遺伝子の塩基配列を良好に利用することができる。該遺伝子は、所望により、各アミノ酸残基を示すコドンを適宜選択変更して利用することも可能である。また、LY6H遺伝子でコードされるアミノ酸配列において、その一部のアミノ酸残基ないしはアミノ酸配列を置換、欠失、付加などにより改変する場合には、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシスなどの前記した各種方法により行うことができる。
本発明ポリペプチドは、また配列番号:1に示すアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。
かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていく所謂ステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含し、本発明蛋白質の合成は、そのいずれによってもよい。
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジト法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドなど)法、ウッドワード法などを例示できる。
これら各方法に利用できる溶媒も、この種ペプチド縮合反応に使用されることのよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THE)、酢酸エチルなどおよびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第3級ブチルエステルなどの低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルなどのアラルキルエステルなどとして保護することができる。
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばチロシン残基の水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第3級ブチル基などで保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に、例えばアルギニン残基のグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、p−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基などの適当な保護基により保護することができる。
上記保護基を有するアミノ酸、ペプチドおよび最終的に得られる本発明蛋白質におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸などを用いる方法などに従って実施することができる。
かくして得られる本発明ポリペプチドは、前記した各種の方法、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、向流分配法などのペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、適宜精製を行うことができる。
本発明ポリペプチドは、その特異抗体を作成するための免疫抗原としても好適に利用できる。この免疫抗原を利用することにより、所望の抗血清(ポリクローナル抗体)およびモノクローナル抗体を取得することができる。
該抗体の製造法自体は、当業者によく理解されているところであり、本発明においてもこれら常法に従うことができる〔例えば、続生化学実験講座「免疫生化学研究法」、日本生化学会編(1986)など参照〕。
例えば、抗血清の取得に際して利用される免疫動物としては、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ニワトリなどの通常動物を任意に選択でき、上記抗原を使用する免疫方法や採血などもまた常法に従い実施できる。
モノクローナル抗体の取得も、常法に従い、上記免疫抗原で免疫した動物の形質細胞(免疫細胞)と形質細胞腫細胞との融合細胞を作成し、これより所望抗体を産生するクローンを選択し、該クローンの培養により実施することができる。免疫動物は、一般に細胞融合に使用する形質細胞腫細胞との適合性を考慮して選択され、通常マウスやラットなどが有利に用いられている。免疫は、上記抗血清の場合と同様であり、所望により通常のアジュバントなどと併用して行うこともできる。
尚、融合に使用される形質細胞腫細胞としても、特に限定なく、例えばp3(p3/x63−Ag8)〔Nature,256:495−497(1975)〕、p3−U1〔Current Topics in Microbiology and Immunology,81:1−7(1978)〕、NS−1〔Eur.J.Immunol.,:511−519(1976)〕、MPC−11〔Cell,:405−415(1976)〕、SP2/0〔Nature,276:269−271(1978)〕など、ラットにおけるR210〔Nature,277:131−133(1979)〕などおよびそれらに由来する細胞などの各種の骨髄腫細胞をいずれも使用できる。
上記免疫細胞と形質細胞腫細胞との融合は、通常の融合促進剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウイルス(HVJ)などの存在下に公知の方法に準じて行うことができ、所望のハイブリドーマの分離もまた同様に行い得る〔Meth.in Enzymol.,73:3(1981);上記続生化学実験講座など〕。
また、目的とする抗体産生株の検索および単一クローン化も常法により実施され、例えば抗体産生株の検索は、上記の本発明抗原を利用したELISA法〔Meth.in Enzymol.,70:419−439(1980)〕、プラーク法、スポット法、凝集反応法、オクテロニー(Ouchterlony)法、ラジオイムノアッセイなどの一般に抗体の検出に用いられている種々の方法に従い実施することができる。
かくして得られるハイブリドーマからの本発明抗体の採取は、該ハイブリドーマを常法により培養してその培養上清として得る、また、ハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳動物に投与して増殖させその腹水として得る方法などにより実施される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。このようにして得られる抗体は、更に塩析、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィーなどの通常の手段により精製することができる。
かくして得られる抗体は、本発明のLY6H蛋白質に結合性を有することによって特徴付けられ、これは、前述したLY6H蛋白質の精製およびその免疫学的手法による測定乃至識別などに有利に利用できる。また該抗体は、本発明遺伝子の発現減少が神経変性疾患であるアルツハイマー病患者の脳側頭葉部位において確認されていることから、LY6H蛋白質に対するアゴニストやアンタゴニストのスクリーニングにも利用することができる。本発明はかかる新規な抗体をも提供するものである。
本発明ポリペプチドは、これを有効成分とする医薬品として医薬分野において有用である。従って、本発明は本発明ポリペプチドを有効成分とする医薬組成物をも提供するものである。
本発明ポリペプチドの上記医薬組成物としての有用性は、前記したようにその脳特異的ポリペプチドが有する神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用、脳の記憶形成作用にある。これらの活性を確認する方法としては、例えば以下の各方法を挙げることができる。
1)神経細胞生存維持作用
本発明ポリペプチドの神経細胞生存維持作用を測定する方法としては、例えば、SD系ラット胎仔の全脳より海馬を無菌的に取り出し、酵素処理して得られる細胞を10%牛胎児血清を含むDMEM培地を入れたポリLリジン(シグマ社)でコーティングした96ウエルプレートに最終的に2×10細胞/cmになるように播く。
次いで細胞を24時間培養後、培養液を1% N2添加物(N2 Supplement,ギブコ社製)を含んだDMEMに交換し、有効成分としての本発明ポリペプチドを添加する(本発明群)。また、比較のため、沸騰水浴中で5分間加熱処理した本発明ポリペプチドの添加(沸騰蛋白質群)を行う。
上記で調製した各群の細胞(培養液)を72時間培養後、例えばプロメガ社のセルタイター96ウエル・アッセイシステムを用いてMTT[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide]アッセイにより、本発明ポリペプチドの海馬神経細胞に対する生存維持効果を調べることができる。
また、上記SD系ラット胎仔の全脳より中脳腹側部を無菌的に取り出し、同様にMTTアッセイにより、本発明ポリペプチドの中脳神経細胞に対する生存維持効果を調べることができる。
2)ドパミン神経細胞生存維持作用
本発明ポリペプチドの神経細胞生存維持作用を測定する方法としては、例えば以下の如きドパミン神経細胞の生存維持作用を測定する方法を挙げることができる。即ち、先ず上記1)で調製した各群の細胞(培養液)を72時間培養後、PBSに溶解した4%パラホルムアルデヒドを用いて15分間室温で放置して固定し、その後1% トリトンX100/PBSを用いて膜を透過させる。
抗体の非特異的な結合を防ぐために、細胞を10%ヤギ血清を含むPBSで1時間インキュベートし、その後、抗チロシン水酸化酵素ポリクロナール抗体(ケミコン社製、PBSで1000倍希釈)を用いて16時間4℃でインキュベートする。抗体液を除いた後、細胞をPBSで洗い、ペルオキシダーゼ標識デキストランポリマー結合ヤギ抗ラビットイムノグロブリン(ダコ社製)を加えて室温で1時間インキュベートする。
チロシン水酸化酵素陽性細胞の検出は、基質としてジアミノベンチジンを用いる発色反応の有無により可能である。かくしてチロシン水酸化酵素陽性細胞数を指標として、本発明ポリペプチドのドパミン神経細胞の生存維持作用を測定することができる。
3)神経伸長作用
本発明ポリペプチドの神経伸長作用の測定は、例えばPC12細胞(ATCC寄託番号:CRL1721:Science,229,393−395(1985))を用いて、次の如くして実施できる。即ち、5%熱非働化(56℃、30分)ウマ血清と10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ変法MEM(D−MEM)培地で継代培養したPC12細胞を、コラーゲンでコートした直径35mmプラスチックペトリ皿に6x10細胞/3ml培地の濃度で移植し、移植2日目に種々の濃度の本発明ポリペプチド、神経成長因子(NGF:和光純薬社製)およびFCSの各々を含むD−MEMに交換し、それらのそれぞれについて培養を続け、3日目の細胞の形態変化を位相差顕微鏡により観察する。かくして神経線維様突起の形成が観察されるか或いは神経線維様突起の形成が促進されるかをコントロールと対比することによって、本発明ポリペプチドの神経伸長作用を評価することができる。
4)グリア細胞活性化作用
グリア細胞活性化作用は、クニス(Kniss)らやボクラー(Bogler)らの方法に準じて、例えばFGFによるグリア細胞の活性化に本発明ポリペプチドが与える影響を測定することによって、評価することができる(Kniss,D.A,and Burry,R.W.,Brain Res.,439,281−288(1988):Bogler,O.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,87(16),6368−6372(1990))。
5)脳の記憶形成作用
脳の記憶形成作用は、例えばモーリスの水迷路実験(Morris,R.G.M.,J.Neurosci,Meth.,11,47−60(1984))の方法に準じて測定できる。
また、例えば変異ベータアミロイド前駆蛋白質遺伝子または変異プレセニリン1遺伝子トランスジェニックマウス(Nature,373,523−527(1995):Nature Med.,,560−564(1999))などのアルツハイマー病モデル動物にLY6H蛋白質或いはスクリーニングによって得られるLY6H蛋白質に対するアゴニストやアンタゴニストを投与し、症状の進行度或いは神経変性の程度を非投与群と比較することができる。
また、ヒト脳側頭葉で遺伝子を発現(遺伝子治療)させるためには、アデノウイルスベクターなど(Straus,E.S.,Plenum Press New York,451−496(1984),Setoguchi,Y.,et al.,Blood,84,2953−2964(1994))を用いる。即ち、アデノウイルスベクターに本発明遺伝子を組み込み、幹細胞中で培養後、脳側頭葉に直接投与または末梢より静脈内投与して、アルツハイマー性の痴呆症またはアルツハイマー病の改善が得られるか、進展が抑制されるかを判定することなどが考えられる。
本発明医薬組成物において、有効成分とするポリペプチドには、その医薬的に許容される塩もまた包含される。かかる塩には、当業界で周知の方法により調製される、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウムなどの無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが包含される。更に上記塩には、有効成分としての本発明ポリペプチドと適当な有機酸ないし無機酸との反応によって得られる無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩およびナプシレートなどが例示される。
本発明医薬組成物には、本発明ポリペプチドを有効成分として、その薬学的有効量を、適当な無毒性医薬製剤担体ないし希釈剤と共に含有するものが含まれる。
上記医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬製剤担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤或は賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用できる。
特に好ましい本発明医薬製剤は、通常の蛋白製剤などに使用され得る各種の添加剤成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製され得る。
上記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体などを例示できる。これらは必要に応じて、単独でまたは界面活性剤などと組合せて使用することができる。界面活性剤などとの組合せによれば、特に有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
上記L−アミノ酸としては、特に限定はなく、例えばグリシン、システィン、グルタミン酸などのいずれでもよい。
上記糖としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール類、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類などおよびそれらの誘導体を使用できる。
上記界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。具体例としては、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などを使用できる。
セルロース誘導体としても特に限定はなく、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを使用できる。
上記糖類などの添加剤成分の添加量は、通常之等の添加剤が使用される場合のそれらを参考にして適宜決定できる。一般に、糖類は有効成分1μg当り0.0001mg程度以上、好ましくは0.01〜10mg程度の範囲内から選ばれるのが適当である。界面活性剤は、通常有効成分1μg当り0.00001mg程度以上、好ましくは0.0001〜0.01mg程度の範囲から選択されるのが適当である。安定化剤としてのヒト血清アルブミンは、有効成分1μg当り0.0001mg程度以上、好ましくは0.001〜0.1mg程度の範囲内から選ばれるのが適当である。安定化剤としてのアミノ酸は、有効成分1μg当り0.001〜10mg程度の範囲から選ばれるのが適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り0.00001mg程度以上、好ましくは0.001〜0.1mg程度の範囲から選ばれるのが適当である。
本発明医薬製剤中に含ませる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲内とするのが適当である。
本発明医薬製剤中には、更に例えば緩衝剤、等張化剤、キレート剤なども添加することができる。ここで緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)などを例示できる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンなどを例示できる。またキレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸などを例示できる。之等の添加量は、通常用いられるそれらの添加量と同様のものとすることができる。
本発明医薬製剤は、溶液製剤として調製使用できる他、これを凍結乾燥化して保存できる状態とすることもできる。かかる凍結乾燥品は、用時水、生埋的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調製した後に徒用することができる。
本発明医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択できる。その代表的なものには、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これら各種形態は、投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤などに分類される。上記各形態は、それぞれ、通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。
例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、前記医薬製剤担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウムなどの賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリドなどの界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤;グリセリン、デンプンなどの保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などを使用することができる。
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠とすることができ、また二重錠ないしは多層錠とすることもできる。
丸剤の形態に成形するに際しては、医薬製剤担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤;ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤などを使用できる。
カプセル剤は、常法に従い通常本発明有効成分を上記で例示した各種の医薬製剤担体と混合して、硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセルなどに充填して調製できる。
経口投与用液体投与形態は、慣用される不活性希釈剤、例えば水、を含む医薬的に許容される溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシルなどを包含し、更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤などの助剤を含ませることができる。これらは常法に従い調製できる。
非経口投与用の液体投与形態、例えば滅菌水性乃至非水性溶液、エマルジョン、懸濁液などへの調製に際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびオリーブ油などの植物油などを使用できる。また注入可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチルなどを配合することもできる。更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤などを添加することもできる。
上記各種形態の医薬製剤は常法に従い滅菌処理される。該滅菌処理は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理および加熱処理などにより実施できる。また、これらは使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製することもできる。
坐剤や膣投与用製剤の形態に成形するに際しては、医薬製剤担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチンおよび半合成グリセライドなどを使用できる。
ペースト、クリーム、ゲルなどの軟膏剤の形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば白色ワセリン、パラフイン、グリセリン、セルロース誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイトおよびオリーブ油などの植物油などを使用できる。
経鼻または舌下投与用組成物は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
尚、本発明医薬薬剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品などを含有させることもできる。
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独でまたはブドウ糖やアミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮肉、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
上記医薬製剤の投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。一般的には、通常、1日当り患者体重1kg当り、有効成分量が0.01μg〜10mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度となる量とするのがよい。該製剤は1日に1回投与することもでき、また2回以上、数回に分けて投与することもできる。
また、後記実施例に示されるように、本発明遺伝子は、アルツハイマー病患者の脳側頭葉部位においてその発現が消失または低下していることから、本発明遺伝子の全部または一部を含有する任意の遺伝子発現ベクターを作成して、該発現ベクターを脳側頭葉組織に導入して、該組織内で本発明遺伝子を強制的に発現させれば、脳側頭葉組織における神経細胞の過剰な萎縮を含む神経変性などが抑制され、結果としてアルツハイマー病の進展などが抑制されるこことなる。従って、本発明はかかる神経変性抑制作用を有する遺伝子治療用組成物(遺伝子治療剤)をも提供するものである。
更に、本発明によれば、上記遺伝子発現ベクターないしは遺伝子治療用ベクター、該ベクターにより本発明遺伝子を導入した細胞、これらを有効成分とする医薬組成物(遺伝子治療剤)も提供される。
上記遺伝子治療剤を利用した遺伝子治療は、例えば本発明遺伝子の導入、発現用ベクターおよび該ベクターにより本発明遺伝子を導入した細胞から選ばれる少なくとも1種を、神経変性疾患患者の脳神経細胞または脳側頭葉組織部位に、投与することによって実施される。かくして、これら組織における神経変性を抑制し、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、パーキンソン病、脳虚血などの症状を抑制することができる。
以下、かかる遺伝子治療につき詳述する。尚、以下の遺伝子治療の実施においては、特記しないかぎり、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA、遺伝学および免疫学の慣用的な方法を用いることができる。これらは、例えばマニアティス(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning:A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York(1982))、サムブルック(Sambrook,J.,et al.,Molecular cloning:A laboratory manual,2nd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York(1981))、アウスベル(Ausbel,F.M.,et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York,(1992))、グローバー(Glover,D.,DNA Cloning,I and II(Oxford Press)(1985))、アナンド(Anand,Techniques for the Analysis of Complex Genomes,(Academic Press(1992))、グスリー(Guthrie,G.,et al.,Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology,(Academic Press)(1991))およびフィンク(Fink,et al.,Hum,Gene Ther.,,11−19(1992)に記載されている。
遺伝子治療は、本発明遺伝子の全部または一部を含有する遺伝子治療用導入用ベクターまたは該ベクターにより本発明遺伝子を導入された細胞を用いて実施できる。該遺伝子治療は、例えばLY6H遺伝子の発現が認められない細胞に、該遺伝子乃至その機能を供給する方法である。かかる遺伝子治療によって、受容細胞/標的細胞周囲の神経細胞の変性が抑制される。
本発明遺伝子または該遺伝子の一部は、当該遺伝子を染色体外に維持するようなベクターを用いて細胞に導入することができる。この場合において当該遺伝子は、染色体外の位置から細胞により発現できる。また、LY6H遺伝子の発現が認められない脳神経の側頭葉部位に遺伝子部分を導入して発現させる場合、当該遺伝子部分は細胞の生存維持或いは非腫瘍的増殖に必要なLY6H蛋白質の一部分をコードしてもよい。
遺伝子導入用ベクターとしては、後述するように当該分野において既に知られている各種のベクターに本発明遺伝子を導入したものであることができる。
遺伝子導入用ベクターの標的細胞への導入は、当該分野において既に知られている各種の細胞にDNAを導入する方法、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈、ウイルス形質導入などに従い容易に実施できる。ここで本発明遺伝子を導入して形質転換した細胞は、脳神経組織の過剰萎縮の抑制を含む脳神経変性抑制のための医薬や治療研究のためのモデル系として利用できる。
前記如く、本発明に従う遺伝子治療によれば、導入された本発明遺伝子やその断片は、脳神経組織またはその周囲組織において該遺伝子の発現産物の量を増加させ、かくして遺伝子発現組織における脳神経組織の萎縮を抑制できる。かかる遺伝子治療は、正常細胞に比して、LY6H遺伝子の発現またはLY6H蛋白質がなくなっているか、またはそのレベルが減少している脳神経細胞組織の双方において好適に用いられる。
本発明に係わる遺伝子治療は、以下の如くして実施される。即ちまず、例えば、アルツハイマー型痴呆症患者、アルツハイマー病患者の脳側頭葉部に測定位置を固定したコンピュータトモグラム(CT)スキャンにて、脳側頭葉部の萎縮が認められるか否か或いは該萎縮が進行している患者を確認することによって、本発明の遺伝子治療の対象患者をスクリーニングする。
次に、本発明遺伝子を発現させるべく標的細胞において、細胞内のLY6HmRNAを作り出し、翻訳を促し、LY6H遺伝子の発現を促進させる。そのために好ましくは遺伝子のmRNAに対応するセンス・オリゴヌクレオチドを製造し、該センス・オリゴヌクレオチドを標的細胞に供給する。上記遺伝子治療によって、LY6H遺伝子の発現機能を促進する作用を細胞に供給して、受容細胞/標的細胞における脳の神経変性を抑制することができる。
上記センス・オリゴヌクレオチドを用いた遺伝子治療によれば、レトロウイルス、アデノウイルス、AAV由来のベクターにLY6H遺伝子を組込み、これを標的とする脳神経細胞に感染させてセンス・オリゴヌクレオチドを発現させることにより、所望の脳神経変性抑制効果およびその結果としての神経変性症状の軽減または進展抑制効果を得ることができる。
このように脳神経細胞または組織に、本発明遺伝子のセンス・オリゴヌクレオチドを導入してLY6H蛋白質の発現を増加させる場合、当該センス・オリゴヌクレオチドは、LY6H遺伝子の全長とする必要はなく、該LY6H遺伝子の発現を促進する機能と実質的に同質な機能を保持する限りにおいて、前記した改変体であってもよく、また該機能を保持した一部配列からなる遺伝子であってもよい。
かかる組換えおよび染色体外維持の双方のための所望遺伝子の導入のためのベクターは、当該分野において既に知られており、本発明ではかかる既知のベクターのいずれも使用できる。例えば、発現制御エレメントに連結したLY6H遺伝子のセンス・オリゴヌクレオチドのコピーを含み、かつ目的の細胞内で当該センス・オリゴヌクレオチド産物を発現できるウイルスベクターまたはプラスミドベクターを挙げることができる。かかるベクターとして、通常、前述する発現用ベクターを利用することもできるが、好適には、例えば起源ベクターとして、米国特許第5252479号明細書およびPCT国際公開WO93/07282号明細書に開示されたベクター(具体的にはpWP−7A、pwP−19、pWU−1、pWP−8A、pWP−21および/またはpRSVLなど)またはpRC/CMV(Invitrogen社製)などを用いて調製されたベクターを挙げることができる。より好ましくは、後述する各種ウイルス・ベクターを挙げることができる。
なお、遺伝子導入治療において用いられるベクターに使用されるプロモーターとしては、各種疾患の治療対象となる患部組織に固有のものを好適に利用することができる。その具体例としては、例えば、肝臓に対しては、アルブミン、α−フェトプロティン、α1−アンチトリプシン、トランスフェリン、トランススチレンなどを例示できる。結腸に対しては、カルボン酸アンヒドラーゼI、カルシノエンブロゲンの抗原などを例示できる。子宮および胎盤に対しては、エストロゲン、アロマターゼサイトクロームP450、コレステロール側鎖切断P450、17アルファーヒドロキシラーゼP450などを例示できる。
前立腺に対しては、前立腺抗原、gp91−フォックス遺伝子、前立腺特異的カリクレインなどを例示できる。乳房に対しては、erb−B2、erb−B3、β−カゼイン、β−ラクトグロビン、乳漿蛋白質などを例示できる。肺に対しては、活性剤蛋白質Cウログロブリンなどを例示できる。皮膚に対しては、K−14−ケラチン、ヒトケラチン1または6、ロイクリンなどを例示できる。脳に対しては、神経膠繊維質酸性蛋白質、成熟アストロサイト特異蛋白質、ミエリン、チロシンヒドロキシラーゼ膵臓ヴィリン、グルカゴン、ランゲルハンス島アミロイドポリペプチドなどを例示できる。甲状腺に対しては、チログロブリン、カルシトニンなどを例示できる。骨に対しては、α1コラーゲン、オステオカルシン、骨シアログリコプロティンなどを例示できる。腎臓に対してはレニン、肝臓/骨/腎臓アルカリ性ホスフォターゼ、エリスロポエチンなどを、膵臓に対しては、アミラーゼ、PAP1などを例示できる。
また、センス・オリゴヌクレオチド導入用ベクターの製造において、導入されるセンス・オリゴヌクレオチド(本発明遺伝子の配列に相応する全部または一部の配列を有するもの)は、本発明遺伝子の塩基配列情報に基づいて、前記の如く、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる。
かかるセンス・オリゴヌクレオチド導入用ベクターの細胞への導入は、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈法、ウイルス形質導入などを始めとする、細胞にDNAを導入する当該分野において既に知られている各種の方法に従って行うことができる。なお、上記センス・オリゴヌクレオチドで形質転換された細胞は、それ自体、単離された状態で脳神経変性抑制作用を有し、結果として神経変性症状の抑制ないしはその進展抑制のための医薬や、治療研究のためのモデル系として利用することも可能である。
遺伝子治療において、上記センス・オリゴヌクレオチド導入用ベクターは、患者の脳側頭葉部位またはその周辺部位に局所的にまたは全身的に注射投与することができる。また、幹細胞と共に培養した後に、局所的にまたは全身的に注射投与することができる。この投与により上記ベクターを患者の脳神経細胞内に導入することができる。形質導入された遺伝子が各標的細胞の染色体内に恒久的に取り込まれない場合には、該投与を定期的に繰り返すことができる。
本発明の遺伝子治療方法は、前記センス・オリゴヌクレオチド導入用の材料(センス・オリゴヌクレオチド導入用ベクター)を直接体内に投与するインビボ(in vivo)法と、培養幹細胞に遺伝子を導入して培養後、該細胞を患者体内に移植または導入するエクスビボ(ex vivo)法の両方の方法を包含する。また、センス・オリゴヌクレオチドを直接細胞内に導入による遺伝子治療も可能である。
本発明遺伝子のセンス・オリゴヌクレオチドを導入する標的細胞は、遺伝子治療(処置)の対象により適宜選択することができる。例えば、該標的細胞としては、脳神経細胞や脳神経組織以外に、リンパ球、線維芽細胞、肝細胞、造血幹細胞などを挙げることができる。
上記遺伝子治療におけるセンス・オリゴヌクレオチド導入方法には、ウイルス的導入方法および非ウイルス的導入方法が含まれる。
ウイルス的導入方法としては、例えば、導入されるセンス・オリゴヌクレオチドが、特に正常脳細胞に発現する外来の物質であることに鑑みて、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる方法を挙げることができる。その他のウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、HIV(human immunodeficiency virus)ベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV,adeno−associated virus)、ヘルペスウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター、エプスタイン−バーウイルス(EBV,Epstein−Barr virus)ベクターなどが挙げられる。
以下、具体的なセンス・オリゴヌクレオチド導入用ウイルスベクターの作成法並びに標的細胞または標的組織へのセンス・オリゴヌクレオチド導入法について述べる。
レトロウイルスベクター・システムは、ウイルスベクターとヘルパー細胞(パッケージング細胞)からなっている。ここでヘルパー細胞は、レトロウイルスの構造蛋白質gag(ウイルス粒子内の構造蛋白質)、pol(逆転写酵素)、env(外被蛋白質)などの遺伝子を予め発現しているが、ウイルス粒子を生成していない細胞を言う。一方、ウイルスベクターは、パッケージングシグナルやLTR(long terminal repeats)を有しているが、ウイルス複製に必要なgag、pol、envなどの構造遺伝子を持っていない。パッケージングシグナルはウイルス粒子のアセンブリーの際にタグとなる配列で、選択遺伝子(neo,hyg)とクローニングサイトに組込まれた所望の導入用センス・オリゴヌクレオチドがウイルス遺伝子の代りに挿入される。ここで高力価のウイルス粒子を得るにはインサートを可能な限り短くし、パッケージングシグナルをgag遺伝子の一部を含め広くとることと、gag遺伝子のATGを残さぬようにすることが重要である。
所望のセンス・オリゴヌクレオチドを組込んだベクターDNAをヘルパー細胞に移入することによって、ヘルパー細胞が作っているウイルス構造蛋白質によりベクターゲノムRNAがパッケージされてウイルス粒子が形成され、分泌される。組換えウイルスとしてのウイルス粒子は、標的細胞に感染した後、ウイルスゲノムRNAから逆転写されたDNAが細胞核に組み込まれ、ベクター内に挿入されたセンス遺伝子が発現する。
尚、所望の遺伝子の導入効率を上げる方法として、フイブロネクチンの細胞接着ドメインとヘパリン結合部位と接合セグメントとを含む断片を用いる方法
〔Hanenberg,H.,et al.,Exp.Hemat.,23,747(1995)〕を採用することもできる。
上記レトロウイルスベクター・システムにおいて用いられるベクターとしては、例えばマウスの白血病ウイルスを起源とするレトロウイルス〔McLachlin,J.R.,et al.,Proc.Natl.Acad.Res,Molec,Biol.,38,91−135(1990)〕を例示することができる。
アデノウイルスベクターを利用する方法につき詳述すれば、該アデノウイルスベクターの作成は、バークネル〔Berkner,K.L.,Curr.Topics Microbiol.Immunol.,158,39−66(1992)〕、瀬戸口康弘ら〔Setoguchi,Y.,et al.,Blood,84,2946−2953(1994)〕、鐘カ江裕美ら〔実験医学,12,28−34 (1994)〕およびケナーら〔Ketner,G.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,91,6186−6190(1994)〕の方法に準じて行うことができる。
例えば、非増殖性アデノウイルスベクターを作成するには、まずアデノウイルスの初期遺伝子のE1および/またはE3遺伝子領域を除去する。次に、目的とする所望の外来遺伝子発現単位(目的とする導入用センス・オリゴヌクレオチド、該センス・オリゴヌクレオチドを転写するためのプロモーター、転写された遺伝子の安定性を賦与するポリAから構成)およびアデノウイルスゲノムDNAの一部を含むプラスミドベクターと、アデノウイルスゲノムを含むプラスミドとを、例えば293細胞に同時にトランスフェクションする。この2者間で相同性組換えを起こさせて、遺伝子発現単位とE1とを置換することにより、所望のセンス・オリゴヌクレオチドを包含するベクターである非増殖性アデノウイルスベクターを作成することができる。また、コスミドベクターにアデノウイルスゲノムDNAを組み込んで、末端蛋白質を付加した3’側アデノウイルスベクターを作成することもできる。更に組換えアデノウイルスベクターの作成には、YACベクターも利用可能である。
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの製造につき概略すると、AAVはアデノウイルスの培養系に混入してくる小型のウイルスとして発見された。これには、ウイルス複製にヘルパーウイルスを必要とせず宿主細胞内で自律的に増殖するパイボウイルス属と、ヘルパーウイルスを必要とするディペンドウイルス属の存在が確認されている。該AAVは宿主域が広く、種々の細胞に感染するありふれたウイルスであり、ウイルスゲノムは大きさが4680塩基の線状一本鎖DNAからなり、その両端の145塩基がITR(inverted terminal repeat)と呼ばれる特徴的な配列を持って存在している。このITRの部分が複製開始点となり、プライマーの役割をなす。更にウイルス粒子へのパッケージングや宿主細胞の染色体DNAへの組込みにも、該ITRが必須となる。また、ウイルス蛋白質に関しては、ゲノムの左半分が非構造蛋白質、即ち複製や転写をつかさどる調節蛋白質のRepをコードしている。
組換えAAVの作成は、AAVが染色体DNAに組み込まれる性質を利用して行うことができ、かくして所望の遺伝子導入用ベクターが作成できる。この方法はより詳しくは、まず野生型AAVの5’と3’の両端のITRを残し、その間に所望の導入用センス・オリゴヌクレオチドを挿入したプラスミド(AAVベクタープラスミド)を作成する。一方、ウイルス複製やウイルス粒子の形成に必要とされるウイルス蛋白質は、別のヘルパープラスミドにより供給させる。この両者の間には共通の塩基配列が存在しないようにし、遺伝子組換えによる野生型ウイルスが出現しないようにする必要がある。その後、両者のプラスミドを例えば293細胞へのトランスフェクションにより導入し、さらにヘルパーウイルスとしてアデノウイルス(293細胞を用いる場合は非増殖型のものでもよい)を感染させると、非増殖性の所望の組換えAAVが産生される。続いて、この組換えAAVは核内に存在するので、細胞を凍結融解して回収し、混入するアデノウイルスを56℃加熱により失活させる。更に必要に応じて塩化セシウムを用いる超遠心法により組換えAAVを分離濃縮する。上記のようにして所望の遺伝子導入用の組換えAAVを得ることができる。
EBVベクターの製造は、例えば清水らの方法に準じて行うことができる〔清水則夫、細胞工学,14(3),280−287(1995)〕 。
本発明に係わるセンス・オリゴヌクレオチドの導入用EBVベクターの製造につき概略すると、EBウイルス(Epstein−Barr virus:EBV)は、1964年にエプスタイン(Epstein)らによりバーキット(Burkitt)リンパ腫由来の培養細胞より分離されたヘルペス科に属するウイルスである〔Kieff,E.and Liebowitz,D.:Virology,2nd ed.Raven Press,New York,1990,pp.1889−1920〕。該EBVには細胞をトランスフォームする活性があるので、遺伝子導入用ベクターとするためには、このトランスフォーム活性を欠いたウイルスを調製しなければならない。これは次の如くして実施できる。
即ち、まず、所望の外来遺伝子を組み込む標的DNA近傍のEBVゲノムをクローニングする。そこに外来遺伝子のDNA断片と薬剤耐性遺伝子を組込み、組換えウイルス作製用ベクターとする。次いで適当な制限酵素により切り出された組換えウイルス作製用ベクターをEBV陽性Akata細胞にトランスフェクトする。相同組換えにより生じた組換えウイルスは抗表面免疫グロブリン処理によるウイルス産生刺激により野生型AkataEBVとともに回収できる。これをEBV陰性Akata細胞に感染し、薬剤存在下で耐性株を選択することにより、野生型EBVが共存しない所望の組換えウイルスのみが感染したAkata細胞を得ることができる。さらに組換えウイルス感染Akata細胞にウイルス活性を誘導することにより、目的とする大量の組換えウイルスベクターを産生することができる。
本発明遺伝子治療において、所望遺伝子の標的細胞または標的組織への導入方法には、代表的には以下の2種類の方法が含まれる。
その第1法は、治療対象とする患者から標的細胞を採取した後、該細胞を体外で、例えばインターロイキン−2(IL−2)などの添加の下で培養し、レトロウイルスベクターに含まれる目的とするセンス・オリゴヌクレオチドを導入した後、得られる細胞を再移植する手法(ex vivo法)である。該方法は例えば欠陥遺伝子によって発生する遺伝子病や癌などの治療に好適である。
第2法は、目的センス・オリゴヌクレオチドを直接患者の体内や脳組織などの標的部位に注入する遺伝子直接導入法(直接法)である。
上記遺伝子治療の第1法は、より詳しくは、例えば次のようにして実施される。即ち、患者から採取した幹細胞などの単核細胞を血液分離装置を用いて単球から分取し、分取細胞をIL−2の存在下にAIM−V培地などの適当な培地で72時間程度培養し、導入すべきセンス・オリゴヌクレオチドを含有するベクターを加える。センス・オリゴヌクレオチドの導入効率をあげるために、プロタミン存在下に32℃で1時間、2500回転にて遠心分離した後、37℃で10%炭酸ガス条件下で24時間培養してもよい。この操作を数回繰り返した後、更にIL−2存在下にAIM−V培地などで48時間培養し、細胞を生理食塩水で洗浄し、生細胞数を算定し、センス・オリゴヌクレオチド導入効率を前記in situPCRや、例えば所望の対象が酵素活性であればその活性の程度を測定することにより、目的センス・オリゴヌクレオチド導入効果を確認する。
また、培養細胞中の細菌・真菌培養、マイコプラズマの感染の有無、エンドトキシンの検索などの安全度のチェックを行い、安全性を確認した後、予測される効果用量のセンス・オリゴヌクレオチドが導入された培養細胞を患者に点滴静注により戻す。かかる方法を例えば数週間から数カ月間隔で繰り返することにより遺伝子治療が施される。
ここでウイルスベクターの投与量は、導入する標的細胞により適宜選択される。通常、ウイルス価として、例えば標的細胞 1×10細胞に対して1×10cfuから1×10cfuの範囲となる投与量を採用することが好ましい。
上記第1法の別法として、目的センス・オリゴヌクレオチドを含有するレトロウイルスベクターを含有するウイルス産生細胞と例えば患者の細胞とを共培養して、目的とする細胞へセンス・オリゴヌクレオチドを導入する方法を採用することもできる。
遺伝子治療の第2法(直接法)の実施に当たっては、特に体外における予備実験によって、遺伝子導入法によって、実際に目的センス・オリゴヌクレオチドが導入されるか否かを、予めベクター遺伝子cDNAのPCR法による検索やin situPCR法によって確認するか、或いは目的センス・オリゴヌクレオチドの導入に基づく所望の治療効果である特異的活性の上昇や標的細胞の増殖増加や増殖抑制などを確認することが望ましい。また、ウイルスベクターを用いる場合は、増殖性レトロウイルスなどの検索をPCR法で行うか、逆転写酵素活性を測定するか、或は膜蛋白(env)遺伝子をPCR法でモニターするなどにより、遺伝子治療に際してセンス・オリゴヌクレオチド導入による安全性を確認することが重要であることはいうまでもない。
本発明遺伝子治療法において、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、パーキンソン病などを対象とする場合は、患者から幹細胞または脳神経細胞を採取後、酵素処理などを施して培養細胞を樹立した後、例えばAAVにて所望のセンス・オリゴヌクレオチドを標的とする脳神経細胞に導入し、G418細胞にてスクリーニングした後、IL−12などの発現量を測定(in vivo)測定し、次いで放射線処理を施行し、患者脳組織内または脳側頭葉部位に接種する神経変性疾患の治療法を一例として挙げることができる。
本発明はまた、本発明センス・オリゴヌクレオチド導入用ベクターまたは目的センス・オリゴヌクレオチドが導入された細胞を活性成分とし、それらの薬学的有効量を、適当な無毒性医薬担体ないし希釈剤と共に含有する医薬組成物または医薬製剤(遺伝子治療剤)をも提供する。
本発明医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢刑などの希釈剤ないし賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用できる。
本発明医薬製剤の投与単位形態としては、前記した本発明ポリペプチド製剤について詳述したものと同様のものを挙げることができ、治療目的に応じて各種の形態から適宜選択することができる。
以下、本発明神経変性疾患の治療および予防方法につき詳述する。
本発明は、過剰および不十分な量のLY6Hポリペプチドが関連するアルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病などの神経変性疾患の治療方法を提供する。LY6H活性が過剰な場合、いくつかの方法を用いることができる。1の方法は、たとえば、リガンド、基質、レセプター、酵素などの結合をブロックすることにより、あるいは2次的シグナルを阻害することにより、LY6Hポリペプチドの機能を阻害するのに効果的な量の前記した阻害化合物(アンタゴニスト)を医薬上許容される担体と共に対象に投与し、そのことにより異常な症状を改善することを含む。もう1つ別の方法において、内在性LY6Hと競争してリガンド、基質、酵素、レセプターなどとの結合能を有する可溶性形態のLY6Hポリペプチドを投与してもよい。かかる競争物質の典型例は、LY6Hポリペプチドのフラグメントを含む。他の方法において、内在性LY6Hと競争してリガンドとの結合能を有する可溶性形態のLY6Hポリペプチドを投与してもよい。かかる競争物質の典型例は、LY6Hポリペプチドのフラグメントを含む。
さらに他の方法において、LY6H遺伝子発現産物の遺伝子発現遮断法を用いて内在性LY6Hポリペプチドをコードする遺伝子の発現を阻害できる。公知のかかる方法は、内部生成した、あるいは別個に投与されたアンチセンス配列の使用を含む(例えばOligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression,CRC Press,Boca Raton,FL(1988)中、O’Connor、J.Neurochem 56:560(1991)を参照)。別法として、遺伝子と共に三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドを供給することもできる(例えばLeeら、Nucleic Acids Res.,6:3073(1979);Cooneyら、Science,241:456(1988);Dervanら、Science,251:1360(1991)参照)。これらのオリゴマーはそれ自体投与することができ、あるいは関連するオリゴマーをインビボで発現させることもできる。
LY6Hおよびその活性の過少発現に関連する異常な症状を治療するのに、またいくつかの方法が利用可能である。1の方法は、LY6Hを活性化する治療上有効量の化合物(すなわち、前記のアゴニスト)を医薬上許容される担体とともに対象に投与し、そのことにより異常な状態を改善することを含む。別法として、遺伝子治療を用いて、対象中の関連細胞によるLY6Hの内因的生成を有効ならしめてもよい。例えば、前記のごとく、複製欠損レトロウイルスベクターにて発現するように、本発明のポリヌクレオチドを操作してもよい。ついで、該レトロウイルス発現構築物を単離し、本発明のポリペプチドをコードするRNA含有のレトロウイルスプラスミドベクターでトランスダクションしたパッケージング細胞中に導入して、パッケージング細胞が目的とする遺伝子を含む感染性ウイルス粒子を生成するようにしてもよい。これらのプロデューサー細胞を対象に投与して細胞をインビボで操作し、インビボでポリペプチドを発現するようにしてもよい。遺伝子治療の概説としては、文献[Human Molecular Genetics,T.Strachan and A.P.Read,BIOS Scientific Publishers Ltd(1996)の第20章、Gene Therapy and other Molecular Genetic−based Therapeutic Approachesおよびその中の引用文献)が参照される。別法は、治療量のLY6Hポリペプチドを適当な医薬担体と組合わせて投与することである。
これらは、リン酸緩衝生理食塩液(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態などに調製することもでき、またプロタミンなどの遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。
上記医薬製剤中に含有されるべき有効成分の量およびその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。
一般には、医薬製剤としての所望のセンス・オリゴヌクレオチドを含有するレトロウイルスベクターの投与量は、1日当り体重1kg当り、例えばレトロウイルスの力価として約1×10pfuから1×1015pfu程度とするのがよい。
また所望の導入用センス・オリゴヌクレオチドが導入された細胞の場合は、1×10細胞/bodyから1×1015細胞/body程度の範囲から選ばれるのが適当である。
該製剤は1日に1回または数回に分けて投与することもでき、1から数週間間隔で間欠的に投与することもできる。尚、好ましくは、プロタミンなど遺伝子導入効率を高める物質またはこれを含む製剤と併用投与することができる。
本発明に従う遺伝子治療を神経変性疾患の治療に適用する場合は、種々の遺伝子治療を適宜組合わせて行う(結合遺伝子治療)こともでき、前記した遺伝子治療に、アセチルコリン分解酵素阻害剤などを利用する薬物療法やリハビリテーション療法などを組合わせて行うこともできる。さらに本発明遺伝子治療は、その安全性を含めて、NIHのガイドラインを参考にして実施することができる〔Recombinant DNA Advisory Committee,Human Gene Therapy,,365−389(1993)〕。
また本発明によれば、LY6H遺伝子の存在を検出するために、血液または血清のごとき生物学的試料を調製し、所望により核酸を抽出し、LY6H遺伝子が存在する否かについて分析することが可能である。
該検出方法は、例えば、本発明遺伝子のDNA断片を作成し、LY6H遺伝子のスクリーニングおよび/またはその増幅に用いられるように設計する。より具体的には、例えばプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノーザンブロット法などにおけるプローブとしての性質を有するもの、核酸配列をポリメラーゼで増幅するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、増幅した本発明遺伝子の全部または一部のDNA断片を得ることができるためのプローブとしての性質を有するものを作成できる。そのためにはまずLY6H遺伝子と同じ配列を持つプライマーを作成し、これをスクリーニング用プローブとして用い、生物学的試料(核酸試料)と反応させることにより、当該LY6H遺伝子の配列の存在を確認することができる。該核酸試料は、標的配列の検出を容易にする種々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティングで調製してもよい。
前記スクリーニング方法としては、特にPCR法を用いるのが感度の点から好ましく、該方法は、本発明遺伝子の断片をプライマーとして用いる方法であればとくに制限されず、従来公知の方法(Science,230,1350−1354(1985))や新たに開発された、或いは将来使用されるPCR変法(榊 佳之、ほか編、羊土社、実験医学、増刊,(9)(1990);蛋白質・核酸・酵素、臨時増刊、共立出版(株),35(17)(1990))のいずれも利用することが可能である。
プライマーとして使用されるDNA断片は、化学合成したオリゴDNAであり、これらオリゴDNAの合成は自動DNA合成装置など、例えばDNA合成装置(PharmaciaLKB Gene Assembler Plus:ファルマシア社製)を使用して合成することができる。合成されるプライマー(センスプライマーまたはアンチセンスプライマー)の長さは、約10〜30ヌクレオチド程度が好ましく例示できる。上記スクリーニングに用いられるプローブは、通常は標識したプローブを用いるが、非標識であってもよく、直接的または間接的に標識したリガンドとの特異的結合によって検出してもよい。適当な標識、並びにプローブおよびリガンドを標識する方法は、本発明の従来技術として知られており、例えばニック・トランスレーション、ランダム・プライミングム、キナーゼ処理のような既知の方法によって取り込ませることができる放射性標識、ビオチン、蛍光性基、化学発光基、酵素、抗体などがこれらの技術に包含される。
検出のために用いるPCR法としては、例えばRT−PCR法が例示されるが、当該分野で用いられる種々の変法を適応することができる。
また、上記測定方法は、試料中のLY6H遺伝子の検出のための試薬キットを利用することによって、簡便に実施することができる。
故に、本発明は本発明遺伝子のDNA断片を含有するLY6H遺伝子の検出用試薬キットをも提供する。
該試薬キットは、少なくとも配列番号:2に示される塩基配列もしくはその相補的塩基配列の一部または全てにハイブリダイズするDNA断片を必須構成成分として含んでいれば、他の成分として、標識剤、PCR法に必須な試薬(例えば、TaqDNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド三リン酸、プライマーなど)が含まれていてもよい。
標識剤としては、放射性同位元素または蛍光物質などの化学修飾物質などが挙げられるが、DNA断片自身が予め該標識剤でコンジュゲートされていてもよい。更に当該試薬キットには、測定の実施の便益のために適当な反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤、反応停止液などが含まれていてもよい。
更に本発明は、前記測定方法を用いる神経変性疾患の診断方法および該方法に用いる診断剤並びに診断用キットをも提供するものである。
また、前記方法を用いることにより、被検試料中から得られたLY6H遺伝子の配列を直接的若しくは間接的に配列決定することにより、野生型LY6H遺伝子と相同性の高い相同物である新たなLY6H遺伝子に関連する関連遺伝子を見出すことができる。
従って、本発明はかかる測定と被検試料中のLY6H遺伝子の配列決定により、被検試料中のヒトLY6H遺伝子に関連する関連遺伝子のスクリーニング方法をも提供するものである。
また、本発明ヒトLY6H遺伝子によりコードされる蛋白質(配列番号:1で示されるアミノ酸配列のポリペプチド)または該配列番号:1において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列のポリペプチド或いはこれらの断片を利用し、またこれら各蛋白質に対する抗体を利用すれば、野生型LY6Hおよび/または変異LY6Hの測定が可能となる。
従って、本発明は、野生型LY6Hおよび/または変異LY6Hの抗体測定法または抗原測定法を提供するものである。該測定法によって脳神経の障害の程度を野生型LY6H(ポリペプチド)の変化に基づいて検出することも可能である。かかる変化は、この分野における前記慣用技術によるLY6Hの配列の分析によっても検出でき、更に好ましくは、抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)を用いて、LY6Hポリペプチド中の相違またはLY6Hポリペプチドの有無を検出することによって検出できる。
上記野生型および/または変異LY6Hの測定の具体的な例を次に述べる。即ち、LY6H抗体は、血液・血清などのヒトより採取した生体材料試料含有溶液からLY6Hポリペプチドを免疫沈降し、かつポリアクリルアミドゲルのウェスタン・ブロットまたはイムノブロット上でLY6Hポリペプチドと反応することができる。また、LY6H抗体は、免疫組織化学的技術を用いてパラフィンまたは凍結組織切片中のLY6Hポリペプチドを検出することができる。抗体産生技術および精製する技術は当該分野においてよく知られているので、これらの技術を適宜選択することができる。
野生型LY6Hまたはその突然変異体を検出する方法に関連するより好ましい具体例には、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を用いるサンドイッチ法を含む、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)および免疫酵素法(IEMA)が含まれる。
また、本発明はLY6Hポリペプチドに対する結合活性を有する細胞膜画分または細胞表面上に存在するLY6Hレセプター乃至LY6Hに対するリガンドをも提供することが可能である。LY6Hレセプターの取得は、細胞膜画分を含む生体材料試料中において標識したLY6Hポリペプチドをコンジュゲートさせ、結合反応物を抽出・単離、精製し、単離物のアミノ酸配列を特定することによって達成される。該LY6Hレセプターポリペプチドの取得並びに配列決定は、この分野の当業者にとり自明である。
また本発明は、LY6Hレセプター結合反応物またはその結合断片を種々の薬剤のいずれかをスクリーニングする技術に用いることによって、化合物(LY6Hレセプター反応物:化合物は低分子化合物、高分子化合物、蛋白質、蛋白質部分断片、抗原、または抗体など言う)をスクリーニングすることができる。好ましくは、LY6Hレセプターを利用する。かかるスクリーニング試験に用いるLY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片は、固体支持体に付着させるかまたは細胞表面に運ばれている溶液中の遊離物であってもよい。
薬剤スクリーニングの一例としては、例えばLY6Hポリペプチドまたはその断片を発現する組換え蛋白質で安定して形質転換した原核生物または真核生物の宿主細胞を、好ましくは競合的結合アッセイにおいて利用することができる。また遊離のまたは固定した形態のかかる細胞を標準結合アッセイに用いることもできる。より具体的には、LY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片と、試験する物質との間の複合体の形成を測定し、LY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片とLY6Hポリペプチドまたはその断片との間の複合体の形成が試験する物質によって阻害される程度を検出することによって化合物をスクリーニングすることが可能である。
かくして、本発明は、当該分野で既知の方法によって、かかる物質とLY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片とを接触させ、次いで、該物質とLY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片との間の複合体の存在、またはLY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片とリガンドとの間の複合体の存在について測定する、薬剤のスクリーニング方法を提供することができる。さらに、LY6Hレセプター活性を測定して、かかる物質がLY6Hレセプターを阻害でき、かくして上記定義されたLY6Hの活性、例えば神経細胞の成長を調節できるかどうか或いは蛋白−蛋白相互結合の調節または複合体形成能の調節ができるかどうかを判断できる。かかる競合結合アッセイにおいては、より具体的には、LY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片を標識する。遊離のLY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片を、蛋白質:蛋白質複合体で存在するものから分離し、遊離(複合体未形成)標識の量は、各々、試験される因子のLY6Hレセプターに対する結合またはLY6Hレセプター:LY6Hポリペプチド結合の阻害の尺度となる。LY6Hポリペプチドの小さなペプチド(ペプチド疑似体)をこのように分析し、LY6Hレセプター阻害活性を有するものを測定できる。
本発明において、薬剤スクリーニングのための他の方法は、LY6Hレセプターポリペプチドに対して適当な結合親和性を有する化合物についてのスクリーニング法であって、該略すると、多数の異なるペプチド試験化合物をプラスチックのピンまたは他の物質の表面のごとき固体支持体上で合成し、次いでペプチド試験化合物をLY6Hレセプターポリペプチドと反応させ、洗浄し、次いで既知の方法を用いて反応結合LY6Hレセプターポリペプチドを検出する方法を例示できる(PCT特許公開番号:WO84−03564号)。精製されたLY6Hレセプターは、直接、前記の薬剤スクリーニング技術で使用するプレート上に被覆することができる。ポリペプチドに対する非−中和抗体を用いて抗体を補足し、LY6Hレセプターポリペプチドを固相上に固定することができる。
さらに本発明は、競合薬剤スクリーニングアッセイの使用をも目的とする。これによれば、LY6Hレセプターポリペプチドまたはその断片に対する結合性につき、LY6Hレセプターポリペプチドに特異的に結合できる中和抗体と試験化合物とを競合させる。抗体による該競合によって、LY6Hレセプターポリペプチドの1またはそれ以上の抗原決定部位を有するいずれのペプチドの存在をも検出することが可能である。
また、薬剤スクリーニングに関し、更なる方法として、本発明のLY6HポリペプチドまたはLY6H遺伝子発現産物は、本発明LY6HポリペプチドまたはLY6H遺伝子発現産物の活性を活性化(アゴニスト)または阻害(アンタゴニストまたは阻害剤という)する化合物のスクリーニングに用いることができる。
本発明のLY6HポリペプチドまたはLY6H遺伝子発現産物を用いて、例えば細胞、無細胞調製物、化学ライブラリーおよび天然物の混合物からアゴニストまたはアンタゴニストを同定するのに用いることもできる。これらのアゴニストまたはアンタゴニストは、本発明のLY6Hポリペプチドの天然または修飾基質、リガンド、酵素、レセプターなどであってもよく、あるいは本発明のポリペプチドの構造的または機能的を模倣物であってもよい(Coliganら、Current Protocols in Immunology 1(2)Chapter 5(1991)を参照)。
本発明LY6H遺伝子は、イン・サイト・ハイブリダゼーション(in situ hybridization)により、ヒト正常脳の各組織において発現が確認されたが、アルツハイマー病患者で特に大きな障害を受ける海馬や嗅内皮質(entorhinal cortex)で強い発現が見られ、また、アルツハイマー病患者の海馬や嗅内皮質を含む側頭葉において、その発現の顕著な減少が認められたことより、この病気の発症や進行などに関与している可能性が高いことが判明した。
したがって、このLY6H蛋白質またはLY6H遺伝子発現産物に対するアゴニストやアンタゴニストは、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病などの神経変性疾患の治療薬および予防薬として期待できる。
上記LY6H遺伝子に関連する各種疾病に対する医薬候補化合物のスクリーニングによって得られる化合物は、本発明蛋白質(本発明遺伝子発現産物)の機能、例えば、中枢神経系などにおける神経生存維持作用、神経伸長作用や神経再生作用、グリア細胞活性化作用、脳における記憶形成作用などの生理活性を促進し、それ故、例えばアルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病などの各種神経変性疾患の治療および予防剤として使用できる。このように、本発明蛋白質(遺伝子発現産物、その部分ペプチドおよび之等の塩を含む)は、本発明蛋白質の機能を促進する化合物のスクリーニングのための試薬として有用である。
本発明は、本発明蛋白質を用いて本発明蛋白質の機能を促進する化合物(以下、本発明蛋白質の機能促進剤と略記する場合がある)のスクリーニング方法をも提供する。より具体的には、本発明は、(a)(1)本発明蛋白質を神経細胞または神経組織に接触させた場合と(2)本発明蛋白質および試験化合物を神経細胞または神経組織に接触させた場合との比較を行うことを特徴とする本発明蛋白質の機能促進剤のスクリーニング方法、および(b)(1)本発明蛋白質を脊髄動物に投与した場合と(2)本発明蛋白質および試験化合物を脊髄動物に投与した場合との比較を行うことを特徴とする本発明蛋白質の機能促進剤のスクリーニング方法を提供する。
上記スクリーニング方法(a)は、より詳しくは(1)と(2)の場合における中枢神経系などにおける神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用などの生理活性を測定して比較する。また、上記スクリーニング方法(b)は、より詳しくは(1)と(2)の場合における脳の記憶形成作用などを測定して比較する。
上記において神経細胞(神経細胞および神経膠細胞)としては、ニューロブラストーマ、グリオーマ細胞またはその雑種細胞(例、N18TG−2、IMR−32、GOTO(例、GOTO−P3)、NB1、C6BU−1、U251、KNS42、KNS81、NG108−15細胞、神経への分化能をもつPC12細胞など)などが用いられる。神経組織としては、マウス神経上皮細胞、ラット海馬初代培養細胞、マウス胎児培養プルキンエ細胞、マウス後根神経節などが用いられる。試験化合物としては、ペプチド、蛋白、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
上記スクリーニング方法(a)を実施するには、本発明蛋白質(その部分ペプチドまたはその塩を含む)を、スクリーニングに適した緩衝液に溶解または懸濁することにより本発明蛋白質の標品を調製する。 緩衝液には、本発明蛋白質と神経細胞・組織との接触を阻害しない緩衝液(例えばpH約4〜10、望ましくはpH約6〜8)のリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液など)がいずれも利用できる。接触時間は、通常約1日〜10日、好ましくは約7日〜10日である。接触温度は、通常約37℃である。本発明蛋白質の中枢神経系などにおける神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用は、視覚的神経軸索の伸長の測定、細胞内Ca2+濃度の変化の測定などの常套手段により測定することができる。
上記(2)の場合における神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用などの生理活性を、上記(1)の場合に比べて約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらに好ましくは70%以上促進する試験化合物が、本発明蛋白質の機能促進剤として選択できる。
上記スクリーニング方法(b)を実施するには、本発明蛋白質またはこれと試験化合物とを、静脈注射、皮下注射、筋肉注射、経口投与などにより供試動物に投与する。本発明蛋白質の投与量は、経口投与の場合、一般に哺乳動物(体重50kgとして)一匹、一日当たり約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的投与の場合、その1回投与量は、投与対象、投与方法などによっても異なるが、例えば注射剤形態では、通常哺乳動物(体重50kgとして)一匹、一日当たり約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。
供試動物としては、例えばヒト、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌなどの哺乳動物のほか、魚類(例えばコイ、サケ、ニシン、ニジマス、金魚など)などが用いられる。本発明蛋白質の脳における記憶形成作用は公知の方法、例えばモーリスの水迷路実験〔Morris,R.G,M.,J.Neurosci.Meth,.11,47−60(1984)〕などに従って測定することができる。例えば上記(2)の場合における記憶形成作用が上記(1)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上促進される試験化合物は、本発明蛋白質の機能促進剤として有効である。
また、本発明の別の態様であるスクリーニング用キットは、本発明蛋白質(遺伝子発現産物、その部分ペプチド、それらの塩を含む)を必須の試薬成分として含有する。本発明スクリーニング用キットの例としては、次の構成1〜4からなるものが挙げられる。
構成1:測定用緩衝液ハンクス液、
構成2:蛋白質標品(本発明蛋白質またはその塩)
構成3:神経細胞または神経組織(前記した神経細胞または神経組織を10細胞/ウェルでイーグルMEM、ハンクス液などを用いて24穴プレートで5%炭酸ガス下、37℃で培養したもの)および
構成4:観察のための検出用倒立顕微鏡
上記スクリーニング用キットを利用したスクリーニングは以下の如くして実施できる。
〔測定法〕
試験化合物を加えたウェルの単位視野あたりの神経軸索を伸ばしている細胞数をカウントし、試験化合物を加えていないコントロールウェルの単位視野あたりの神経軸索を伸ばしている細胞数との有意差検定を行う。
さらに本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物、例えばペプチド、蛋白、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などから選ばれた化合物であり、本発明蛋白質の機能を促進する化合物である。本発明の蛋白質などの機能を促進する化合物は、それ自体が中枢神経系などにおける神経生存維持作用、神経伸長作用や神経再生作用、グリア細胞活性化作用などの生理活性を示すことによって、本発明の蛋白質などの機能を相加的にまたは相乗的に促進することもあるし、あるいは、それ自体は該生理活性を示さないが、本発明蛋白質の機能を促進する作用を奏することもある。該化合物の塩としては、生理学的に許容される塩基(例、アルカリ金属)や酸(例、有機酸、無機酸)との塩が挙げられる。とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば無機酸(例えば塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩あるいは有機酸(例えば酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩が挙げられる。本発明蛋白質の機能を促進する化合物またはその塩は、例えばアルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病などの各種神経変性疾患に対する安全で低毒性な治療および予防剤として有用である。
前記スクリーニング操作は、LY6Hポリペプチドを細胞表面に発現するかまたは本発明蛋白質に応答する細胞の使用を含んでいる。かかる細胞には、哺乳動物、酵母、DrosophilaまたはE.coli由来の細胞が包含される。ついで、LY6Hポリペプチド(または発現したポリペプチドを有する細胞膜)を発現するかまたはLY6Hポリペプチドに応答する細胞を、試験化合物と接触させて結合または機能的応答の刺激もしくは阻害を観察する。LY6H活性について、候補化合物と接触させた細胞の能力を接触させない同じ細胞と比較する。
上記アッセイは、候補化合物に直接または間接的に結合した標識を用いて、あるいは標識競争物質との競争を用いるアッセイにおいて、LY6Hポリペプチドを有する細胞への付着を検出することにより実施できる。かくして、候補化合物の結合を簡単に試験することができる。さらに、候補化合物がLY6Hポリペプチドの活性化により発生するシグナルを生じるかどうかを、LY6Hポリペプチドを有する細胞に適した検出系を用いて、これらのアッセイにより試験してもよい。活性化の阻害剤は、一般に、既知アゴニストの存在下でアッセイされ、候補化合物の存在がアゴニストによる活性化に及ぼす作用を観察する。さらに、アッセイは、簡単に、候補化合物とLY6Hポリペプチドを含む溶液を混合して混合物を形成させ、混合物中のLY6H活性を測定し、混合物のLY6H活性を標準と比較する工程を含んでいてもよい。
LY6H蛋白質に結合する低分子化合物(アゴニストやアンタゴニスト)は、BIACORE2000などを用いるスクリーニングによって得ることができる(Markgren,P.O.,et al.,Analytical Biochemistry,265,340−350(1998))。
また本発明によれば、より活性または安定した形態のLY6Hポリペプチド誘導体または例えばイン・ビボ(in vivo)でLY6Hポリペプチドの機能を高めるかもしくは妨害する薬剤を開発するために、それらが相互作用する目的の生物学的に活性なポリペプチドまたはその構造的アナログ、例えばLY6Hアゴニスト、LY6Hアンタゴニスト、LY6Hインヒビターなどを作製することが可能である。前記構造的アナログは、例えばLY6Hポリペプチドと他の蛋白質の複合体の三次元構造をX線結晶学、コンピューター・モデリングまたはこれらを組合わせた方法によって決定することができる。また、構造的アナログの構造に関する情報は、相同性蛋白質の構造に基づくポリペプチドのモデリングによっても得ることが可能である。
上記により、活性なまたは安定した形態のLY6Hポリペプチド誘導体を得る方法としては、例えばアラニン・スキャンによって分析することが可能である。該方法はアミノ酸残基をAlaで置換し、ペプチドの活性に対するその影響を測定する方法でペプチドの各アミノ酸残基をこのように分析し、当該ペプチドの活性や安定性に重要な領域を決定する方法である。該方法によって、より活性なまたは安定なLY6Hポリペプチド誘導体を設計することができる。
また機能性アッセイによって選択した標的−特異的抗体を単離し、次いでその結晶構造を解析することも可能である。原則として、このアプローチにより、続く薬剤の設計の基本となるファーマコア(pharmacore)を得る。機能性の薬理学的に活性な抗体に対する抗−イディオタイプ抗体を生成させることによって、化学的または生物学的に生成したペプチドのバンクよりペプチドを同定したり単離したりすることが可能である。故に選択されたペプチドもファーマコアとして作用できると予測される。
かくして、改善されたLY6H活性もしくは安定性またはLY6H活性のインヒビター、アゴニスト、アンタゴニストなどとしての作用を有する薬剤を設計・開発することができる。
かかる薬剤は、海馬ニューロンの初代培養細胞を用い、その生存維持に対する影響を調べることにより(Japan.J.Pharmacol.53,221−227(1990))、また変異ベータアミロイド前駆蛋白質遺伝子あるいは変異プレセニリン1遺伝子のトランスジェニックマウス(Nature,373,523−527(1995):Nature Med.,,560−564(1999))などのアルツハイマー病モデル動物の神経病変に及ぼす影響を調べることにより評価できる。
このようにして得られた化合物はアルツハイマー病のみならず、脳梗塞その他の神経変性疾患治療薬としても利用可能である。
また本発明によれば、LY6H遺伝子含有ノックアウト・マウス(変異マウス)を作成することによってLY6H遺伝子配列のどの部位が生体内で上記したような多様なLY6H活性に影響を与えるのか、即ちLY6H遺伝子産物、並びに改変LY6H遺伝子産物が生体内でどのような機能を有するのかを確認することができる。
該方法は、遺伝子の相同組換え体を利用して、生物の遺伝情報を意図的に修飾する技術であり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)を用いた方法を例示できる
(Capeccchi,M.R.,Science,244,1288−1292(1989))。
尚、上記変異マウスの作製方法はこの分野の当業者にとって既に通常の技術であり、この改変技術(野田哲生編、実験医学,増刊,14(20)(1996)、羊土社)に、ヒト野性型LY6H遺伝子および変異LY6H遺伝子を適応して容易に変異マウスを作製し得る。従って前記技術の適応により、改善されたLY6H活性もしくは安定性またはLY6H活性のインヒビター、アゴニスト、アンタゴニストなどとしての作用を有する薬剤を設計・開発することができる。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げる。
実施例1
(1)ヒトLY6H遺伝子のクローニングおよびDNA
シークエンジング
ヒト胎児脳より抽出したmRNAをクローンテック社より購入して出発材料とした。上記mRNAよりcDNAを合成し、ベクターλZAPII(ストラタジーン社製)に挿入し、cDNAライブラリーを構築した(大塚GENリサーチ・インスティチュート、大塚製薬株式会社)。インビボ・エキシジョン法(in vivo excision:Short,J.M.,et al.,Nucleic Acids Res.,16,7583−7600(1988))によって寒天培地上にヒト遺伝子を含む大腸菌コロニーを形成させ、ランダムにそのコロニーをピックアップし、96ウエルマイクロプレートにヒト遺伝子を含む大腸菌クローンを登録した。登録されたクローンは、−80℃にて保存した。
次に登録した各クローンを1.5mlのLB培地で一昼夜培養し、プラスミド自動抽出装置PI−100(クラボウ社製)を用いてDNAを抽出精製した。尚、コンタミした大腸菌のRNAは、RNase処理により分解除去した。最終的に30μlに溶解し、2μlはミニゲルによりおおまかにDNAのサイズおよび量をチェックした。その7μlをシークエンス反応に用い、残りの21μlは、プラスミドDNAとして4℃に保存した。また、この方法は若干のプログラム変更によって後記に示されるFISH(fluoresence in situ hybridization)のプローブ用としても使用可能なコスミドを抽出することができる。
続いてT3、T7或は合成オリゴヌクレオチド・プライマーを用いるサンガーらのジデオキシターミネーター法(Sanger,F.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463−5467(1977))或はジデオキシターミネーター法にPCR法を加味した方法であるサイクルシークエンス法(Carothers,A.M.,et al.,Bio.Techniques,,494−499(1989))を実施した。之等の方法は少量のプラスミドDNA(およそ0.1−0.5μg)をテンプレート(鋳型)として4種の塩基を特異的に停止する伸長反応させる方法である。
シークエンスプライマーとしてFITC(fluorescein isothiocyanate)蛍光標識したものを使用し、Taqポーリメラーゼにより約25サイクル反応させた。蛍光標識したDNA断片につき、自動DNAシークエンサー、ALFTMDNAシークエンサー(ファルマシア社製)によりcDNAの5’末端側から約400塩基の配列を決定した。
3’非翻訳領域は、各遺伝子の異質性(heterogeneity)が高く、個々の遺伝子を区別するのに適しているので、場合によっては、3’側のシークエンスも行った。
DNAシークエンサーで得られた膨大な塩基配列情報を、64ビットのコンピューターDEC3400に転送し、コンピュターによるホモロジー解析を行った。該ホモロジー解析は、UWGCGのFASTA(Pearson,W.R.and Lipman,D.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,85,2444−2448(1988))によるデータベース(GenBank,EMBL)検索により行った。
ヒト胎児脳cDNAライブラリーについての上記解析方法は、藤原ら〔Fujiwara,T.,et al.,DNA Res.,,107−111(1991)〕に詳述されている。
上記と同様な方法で、構築されたヒト胎児脳cDNAライブラリーから無作為に選択したESTs(expressed sequence tags;発現遺伝子断片の部分DNA配列)の配列決定を実施した。
FASTAによるGene BankとEMBLの配列検索の中で、GEN−425D01と命名したクローンが、マウスLy6ファミリー蛋白質をコードする遺伝子と高い相同性を示すことを発見した。
テンプレート(鋳型)としてベクター(pBluescript vector:ストラタジーン社製(Stratagene))内に挿入された二本鎖DNAと、プライマーとしての合成オリゴヌクレオチドとを使用して、サンガーらのジデオキシ・チェーン・ターミネェーション法によって、上記クローンの有する全コード領域を含むcDNAの塩基配列を決定した。
上記で得られたクローンのcDNA配列は、ABIPRISMTM377自動DNAシークエンサーによる配列決定の結果、420塩基の推定アミノ酸翻訳領域を含んでおり、これによってコードされるアミノ酸配列は、140アミノ酸残基を有し、全長cDNAクローンの核酸配列は、854塩基からなっていた。その全配列は、配列番号:3に示す通りであり、オープン・リーディング・フレームの核酸配列は配列番号:2に、該酸配列でコードされるアミノ酸の推定アミノ酸配列は配列番号:1に示す通りであった。
他のLy6ファミリー蛋白質と本ヒトLY6Hとのアミノ酸配列を比較検討し、またアミノ酸翻訳開始領域に保存されている塩基配列(Kozak,M.,J.Biol.Chem.,266,19867−19870(1991))と該ヒトLY6H遺伝子の5′領域の比較より決定された開始コドンは、配列番号:3の塩基配列の2番号のATGトリプレットである99−101番目に位置していた。また、ポリアデニレーション・シグナル(AATAAA)は、同塩基配列番号の832−837番目に位置していた。
(2)ノーザンブロット分析
組織におけるLY6Hの発現プロファイルを調べるため、各種のヒト組織を用いたノーザンブロット分析を行った。
ノーザン・ブロット分析には、ヒトMTN(Multiple−Tissue Northern)ブロットIとII(クローンテック社製)を使用した。
cDNA断片は、T3とT7プロモーター配列のプライマー・セットを用い、PCRによって増幅した。
上記GEN−425D01cDNAクローンのPCR増幅産物を[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識してプローブとした。
増幅産物を含むブロットをプレハイブリダイズ(条件は製品のプロトコールに従った)し、そしてそれから製品のプロトコールに従い、ハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイゼーションは、65℃で一晩、1M NaCl/50mMトリスHCl(pH7.5)/2×デンハルツ溶液/10%デキストランサルフェート/1%SDS溶液(100μg/ml変性サケ精子DNA含有)の溶液中で行った。2×SSC/0.1%SDSにて室温下にて2回洗浄後、次いで0.1×SSC/0.1%SDSにて65℃下に40分間で1回洗浄した。フィルターは−70℃下に18時間、X線フィルム(コダック社製)に対して露光した。
ヒト成人組織として、脳(brain)、膵臓(Pancreas)、精巣(testis)、小腸(Small intestine)、結腸(Colon)、胸腺(Thymus)、前立腺(prostate)、卵巣(Ovary)、心臓(Heart)、睾丸(Placenta)、肺(Lung)、肝臓(Liver)、骨格筋(Skeletal muscle)腎臓(Kidney)、脾臓(Spleen)、胎盤(Testis)および末梢血白血球(Peripheral blood leukocyte)を用いて上記試験を行った結果、LY6Hに相同する約1kbの転写体が、脳(brain)、膵臓(Pancreas)、精巣(testis)、小腸(Small intestine)、結腸(Colon)、胸腺(Thymus)、前立腺(prostate)および卵巣(Ovary)、特に脳において強く観察された。
(3)FISHによるコスミド・クローンと染色体の局

染色体の整列のためのFISHは、公知の方法(Takahashi E.,et al.,Hum.Genet.,86,14−16(1990))に従って、各コスミドDNAの0.5μgをプローブとして使用して実施した。FISHはプロビア100フィルム(フジ社製、ISO100)またはCCDカメラ・システム(アプライド・イメージング、サイトビジョン社製)によって捕えられた。
その結果、ヒトLY6H遺伝子は、第8染色体のバンドq24.3上に位置することが判った。即ちGEN−425D01は、染色体バンド8q24.3上にマップされた。
Ly6ファミリーに属する蛋白質に対する抗体は、遺伝子治療のターゲットとなる血液幹細胞の精製(van de Rijn,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,86,4634−4638(1989))、血液細胞の分化の研究(van de Rijn,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,86,4634−4638(1989);Classon,B.J.and Coverdale,L.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,91,5296−5300(1994))、免疫細胞の活性化(Malek,T.R.,et al.,J.Exp.Med.,164,709−722(1986))、活性型免疫細胞の産生抑制(Haque,A.,et al.,Immunology,69,558−563(1990))などに利用されており、また、抗腫瘍効果も認められている(Lu,L.,et al.,J.Immunol.,142,719−725(1989))。本実施例により提供されるヒトLY6H遺伝子の利用によれば、該遺伝子の各組織での発現の検出や、ヒトLY6H蛋白の遺伝子工学的製造およびそれを用いた抗体の作成が可能となり、これにより、上記のような血液幹細胞の精製、血液細胞の分化の研究、免疫細胞の活性化、免疫細胞の活性化の抑制、腫瘍の治療などが可能となる。
また、脳に強く発現しているLY6Hは、神経細胞の分化の研究、神経細胞の活性化、神経および精神疾患の治療も可能となる。
ヒトLY6H蛋白質をターゲットとした化合物のスクリーニングも可能となり、かくして得られる化合物には、抗ヒトLY6H蛋白抗体と同様の有用性がある。
実施例2
(1)アルツハイマー病疾患の脳組織におけるノーザン
ブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1(2)に従って実施した。
アルツハイマー病患者の脳組織におけるLY6H遺伝子の発現を調べるために、アルツハイマー病患者脳組織および正常ヒト能組織を用いたノーザンブロット分析を実施した。
ノーザンブロット分析は、ヒト正常脳ブロットIIとヒトアルツハイマーブロットII(いずれもインビトロゲン社製)を用いて、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、橋、視床、脳梁の各種脳組織、正常人とアルツハイマー病患者の脳の各組織における発現を比較した。
その結果を第1図に示す。
実施例1で示されたようにLY6H遺伝子は脳において強く発現しているが、本分析の結果、ヒト正常脳の各組織において発現が確認されたが、アルツハイマー病患者で特に大きな障害を受ける海馬や嗅内皮質(entorhinal cortex)で強い発現が見られ、また、アルツハイマー病患者の海馬や嗅内皮質を含む側頭葉において、その発現の顕著な減少が認められたことより、この病気の発症や進行などに関与している可能性が高いことが判明した。
したがって、LY6H遺伝子センス鎖、LY6H遺伝子発現産物およびLY6H蛋白質は、アルツハイマー病アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病の治療薬として期待できる。
また、LY6H蛋白質に対するアゴニストやアンタゴニストも、アルツハイマー病などの治療薬として期待できる。
実施例3
(1)LY6H発現ベクターの構築
インビボ・エキシジョン法により得られるLY6HのcDNAをMvlIおよびXhoIで切断処理して、約800塩基の断片を得る。この断片は、配列番号:1に示されるLY6H遺伝子の全コード領域を含んでおり、これを、予めEcoRVおよびXhoTで切断したpAc5.1/V5−HisA(Invitrogen社)に挿入して発現ベクター(PAC/LY6H発現ベクター)を得る。
(2)本発明有効成分蛋白質の発現と精製
pAC/LY6H発現ベクターとpCoHYGROベクター(Invitrogen社)のDNAを19:1の比率で混合後、リン酸カルシウム法にてショウジョウバエ(Schneider 2)細胞へ導入する。10%牛胎児血清を含むDBS発現培地(DES Expression Medium,Invitrogen社)で48時間23℃にて培養後、300μg/mlのハイグロマイシンB(Hygromycin B,Boeringer Mannheim社)を添加し、薬剤耐性細胞株の選別を2週間行う。得られる安定形質導入細胞株を、5×10細胞/mlの細胞濃度、10%牛胎児血清を含むDBS発現培地(Invitrogen社)20mlでファルコン5000(Falcon5000)培養フラスコ(Becton Dickinson社)20枚を用いて静置培養を行い、細胞を回収する。リン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)で2回洗浄後、2%牛血清アルブミン、フォスファチジルイノシトール−特異的ホスホリパーゼC(phosphatidylinositol−specific phospholipase C,PIPLC社)0.5単位/mlを含むPBSに懸濁し、37℃で一時間培養する。この培養上清より、イオン交換カラム等にて、目的蛋白質を精製することが可能である。
(3)海馬神経細胞の単離と培養
SD系ラット18日齢胎仔より無菌的に全脳を取り出し海馬を切り分ける。メスで細切後、0.25%トリプシン、0.002% DNase Iを含むPBS中で37℃、20分間インキュベートして酵素処理する。牛胎児血清を添加し酵素反応を停止させた後、プラスチック製チップを付けたピペットで細胞液を吸い上げて吐き出す操作を3回繰返して、細胞を分散させる。レンズペーパーを2枚重ねたフィルターに細胞液をろ過して消化されなかった組織片を除き、1000rpmで5分間遠心する。DMEM培地(ギブコ社製)を用いて細胞を洗い、10%牛胎児血清を含むDMEM培地を入れたポリLリジン(Sigma社)でコーティングした96ウエルプレートに細胞を最終的に2×10細胞/cmになるように播く。
(4)本発明有効成分蛋白質による処理
上記細胞を24時間培養後、培養液を1%N添加物(N Supplement,GIBCO社製)を含むDMEMに交換し、上記(2)の本発明有効成分蛋白質を添加する(本発明群)。
また比較のため、沸騰水浴中で5分間加熱処理した本発明有効成分蛋白質添加(沸騰蛋白質群)を行う。
(5)海馬神経細胞生存維持評
上記(4)で調製した各群の細胞(培養液)を72時間培養後、MTT[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide]アッセイにより、本発明有効成分蛋白質の海馬神経細胞に対する生存維持効果を調べることができる。このMTTアッセイには、例えばプロメガ社の「CellTiter 96」アッセイシステムを用いて実施することもできる。
(6)中脳神経細胞の単離と培養
SD系ラット14日齢胎仔より無菌的に全脳を取り出し、中脳腹側部(ventral midbrain)を切り分ける。メスで細切後、0.25%トリプシン、0.002%DNase Iを含むリン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)中で37℃、20分間インキュベートして酵素処理する。牛胎児血清を添加し酵素反応を停止させた後、プラスチック製チップを付けたピペットで細胞液を吸い上げて吐き出す操作を3回繰返して細胞を分散させる。レンズペーパーを2枚重ねたフィルターに細胞液をろ過して、消化されなかった組織片を除き、1000rpmで5分間遠心する。DMEM/F12培地(ギブコ社製)を用いて細胞を洗い、10%牛胎児血清を含むDMEM/F12培地を入れたポリLリジンでコーティングした96ウエルプレートに細胞を最終的に3×10細胞/cmになるように播く。
(7)本発明有効成分蛋白質による処理
上記(6)で調製した細胞を24時間培養後、培養液を1%N添加物(N Supplement,GIBCO社製)を含むDMEM/F12に交換し、上記(2)の本発明有効成分蛋白質を添加する(本発明群)。
また比較のため、沸騰水浴中で5分間加熱処理した本発明有効成分蛋白質添加(沸騰蛋白質群)をも行う。
(8)中脳神経細胞生存維持評価
上記(7)で調製した各群の細胞(培養液)を72時間培養後、MTT[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide]アッセイにより、本発明有効成分蛋白質の中脳神経細胞に対する生存維持効果を調べることができる。このMTTアッセイには、例えばプロメガ社の「Cell Titer 96」アッセイシステムを用いることができる。
(9)ドパミン神経細胞生存維持評価
上記(7)で調製した各群の細胞(培養液)を72時間培養後、PBSに溶解した4%パラホルムアルデヒドを用いて15分間室温で放置して細胞を固定し、その後1%トリトンX100/PBSを用いて膜を透過させる。
抗体の非特異的な結合を防ぐために、細胞を10%ヤギ血清を含むPBSで1時間インキュベートし、その後、抗チロシン水酸化酵素ポリクロナール抗体(CHEMICON社製、PBSで1000倍希釈)を用いて16時間4℃で細胞をインキュベートする。抗体液を除いた後、細胞をPBSで洗い、ペルオキシダーゼ標識デキストランポリマー結合ヤギ抗ラビットイムノグロブリン(DAKO社製)を加えて室温で1時間インキュベートする。
チロシン水酸化酵素陽性細胞の検出は、基質としてジアミノベンチジンを用いる発色反応の有無により可能である。チロシン水酸化酵素陽性細胞数を指標として、ドパミン神経細胞の生存維持を評価できる。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、新規な脳特異的遺伝子およびこれによりコードされる蛋白質が提供され、これらの利用によれば、血液幹細胞の精製、血液細胞の分化の研究、免疫細胞の活性化、活性型免疫細胞の産生抑制、腫瘍の治療などに有用な技術が提供される。また、本発明によれば、脳組織の神経生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用、脳における記憶形成作用などの生理活性を有する新規な遺伝子が提供される。
本発明遺伝子は、アルツハイマー病患者の脳側頭葉においてその発現が著しく減少していることより、之等の組織における神経変性を抑制すると考えられ、それ故、遺伝子治療剤として有用であり、また本発明遺伝子の発現産物はかかる神経変性疾患に対する予防および治療剤として有用である。
【配列表】
Figure 0004403443
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【図面の簡単な説明】
第1図は、アルツハイマー病患者脳の各部位におけるLY6H遺伝子の発現状況を示すノーザンブロット解析図である。

Claims (10)

  1. 以下の(a)または(b)の蛋白質をコードする塩基配列を含む遺伝子:
    (a)配列番号:1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
    (b)配列番号:1で示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ脳における記憶形成作用を有する蛋白質。
  2. 塩基配列が配列番号:2で示されるものである請求項1に記載の遺伝子。
  3. 以下の(a)および(b)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子:
    (a)配列番号:3で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (b)配列番号:3で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ脳における記憶形成作用を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
  4. ヒト遺伝子である請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子。
  5. 請求項2または3に記載の遺伝子を含む遺伝子発現ベクター。
  6. 請求項5に記載の遺伝子発現ベクターを含む宿主細胞。
  7. 請求項1乃至4のいずれかに記載する遺伝子によってコードされる蛋白質。
  8. 請求項7に記載の蛋白質に結合性を有する抗体。
  9. 配列番号:2で示される塩基配列を含む遺伝子の発現産物であって且つ脳における記憶形成作用を有する遺伝子発現産物。
  10. 請求項7に記載の蛋白質を用いることを特徴とする、之等蛋白質に結合するかまたは之等の活性に影響を与える、上記蛋白質に対するアゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニング方法。
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