本発明に係るワイヤーソー加工装置は、各回転軸が互いに平行となるように配設されるとともに、各円筒状の外表面において回転軸方向における複数の同一位置に互いに対となる切断位置決め用環状溝がそれぞれ設けられた2本の基本ローラーと、回転軸が、前記2本の基本ローラーの各回転軸を共に含む平面上に存在せず、且つ同各回転軸に対して平行となるように配設されるとともに、回転軸方向において、前記複数対の切断位置決め用環状溝のうち隣接する何れの2対の間の略中央位置においても対応する中間環状溝が存在するように、円筒状の外表面において複数の中間環状溝が設けられた1本のワイヤ送り用ローラーと、を少なくとも備える。そして、この加工装置においては、少なくとも前記2本の基本ローラーと前記1本のワイヤ送り用ローラーからなる3本のローラーの周囲を前記回転軸方向の一方側から他方側に向けて略螺旋状に囲むように、ワイヤを、隣接する任意の2対の前記切断位置決め用環状溝のうち同回転軸方向の一方側の1対に係合させた後、同任意の2対の切断位置決め用環状溝に対応する前記中間環状溝に係合させ、その後、同任意の2対の切断位置決め用環状溝のうち同回転軸方向の他方側の1対に係合させることを同回転軸方向の一方側から他方側に向けて順に繰り返すことで、同3本のローラーの周囲に同ワイヤが複数回巻きつけられていている。そして、この加工装置は、前記2本の基本ローラーの間であって前記回転軸方向において前記複数対の切断位置決め用環状溝に対応する各位置に張られた互いに平行となる複数の前記ワイヤの直線部分を前記3本のローラーの回転を伴って同直線方向に往復運動させながら被切断物に食い込ませていくことで同被切断物の複数箇所を同一工程で切断するようになっている。
一般に、上記のように、ワイヤを巻きつけるための2本の基本ローラーと1本のワイヤ送り用ローラーからなる、各回転軸が互いに平行となる3本のローラーを備えたワイヤーソー加工装置においては、同2本の基本ローラーの各外表面において、回転軸方向における複数の同一位置に互いに対となる切断位置決め用環状溝がそれぞれ設けられているとともに、同1本のワイヤ送り用ローラーの外表面においても、回転軸方向において、前記複数対の切断位置決め用環状溝と同一の位置にてそれぞれ対応するワイヤ送り用環状溝が設けられている。
そして、かかる装置においては、例えば、ワイヤを、任意の1対の切断位置決め用環状溝に係合させた後、同任意の1対の切断位置決め用環状溝に隣接する切断位置決め用環状溝の一対と同一の回転軸方向位置に設けられているワイヤ送り用環状溝に係合させ、その後、同隣接する切断位置決め用環状溝の1対に係合させることを同回転軸方向の一方側から他方側に向けて順に繰り返すことで、同3本のローラーの周囲に同ワイヤが複数回巻きつけられている。
このような装置においては、ワイヤ送り用ローラーと2本の基本ローラーのうちの一方との間に張られているワイヤの各直線部分は、その両端部の回転軸方向位置が互いに等しくなるため回転軸方向と垂直方向に張られることになる。従って、上記一方の基本ローラーの各切断位置決め用環状溝にはワイヤの張力に基づく回転軸方向の力が働かない。
一方、ワイヤ送り用ローラーと2本の基本ローラーのうちの他方との間に張られているワイヤの各直線部分は、その両端部の回転軸方向位置が隣接する切断位置決め用環状溝同士の間隔分だけ異なるから回転軸方向と垂直の方向から同間隔に応じた所定角度だけ傾いた方向に張られることになる。従って、上記他方の基本ローラーの各切断位置決め用環状溝には、同間隔に応じたワイヤの張力に基づく回転軸方向の力が働くことになる。
かかるワイヤ張力に基づく回転軸方向の力は、上記他方の基本ローラーの切断位置決め用環状溝(の側面)とワイヤとの磨耗等を促進し、2本の基本ローラーの間に張られたワイヤの直線部分の軸方向位置の精度(従って、被切断物の加工精度)を低下させる原因となり得る。従って、このような装置においては、切断位置決め用環状溝同士の回転軸方向における間隔が大きくなると、同間隔そのものに応じたワイヤ張力に基づく回転軸方向の大きな力が上記他方の基本ローラーの切断位置決め用環状溝に働くことになって、この結果、装置の延べ使用時間の増大に応じて被切断物の加工精度が大きく低下していく可能性があった。
これに対し、上記本発明に係るワイヤーソー加工装置においては、ワイヤを、隣接する任意の2対の切断位置決め用環状溝のうち回転軸方向の一方側の1対に係合させた後、同任意の2対の切断位置決め用環状溝の回転軸方向における略中央位置に存在する前記中間環状溝に係合させ、その後、同任意の2対の切断位置決め用環状溝のうち同回転軸方向の他方側の1対に係合させることを同回転軸方向の一方側から他方側に向けて順に繰り返すことで、同3本のローラーの周囲に同ワイヤが複数回巻きつけられる。これによれば、2本の基本ローラーの切断位置決め用環状溝には、隣接する切断位置決め用環状溝同士の回転軸方向における間隔そのものに応じたワイヤ張力に基づく回転軸方向の力よりも小さい、同間隔の略半分の間隔に応じたワイヤ張力に基づく回転軸方向の力しか働かない。従って、装置の延べ使用時間の増大に応じて被切断物の加工精度が低下していく程度を少なくすることができ、この結果、高い加工精度が要求されるワイヤーソー加工が実現され得る。
上記本発明に係るワイヤーソー加工装置を使用して前記被切断物を切断するワイヤーソー加工方法としては、前記被切断物を台の上に配設し、前記複数のワイヤの直線部分を同直線方向に往復運動させながら、同被切断物の切断進行方向における前記台の同複数のワイヤの直線部分に対する相対位置を移動させることにより、同複数のワイヤの直線部分を同被切断物に食い込ませていくことで同被切断物を切断する方法を採用することが好適である。
また、本発明に係る他のワイヤーソー加工方法は、被切断物を台の上に配設し、直線状に張られたワイヤを同直線方向に往復運動させるとともに砥粒を含んだスラリーを同被切断物に供給しながら、同被切断物の切断進行方向における前記台の前記ワイヤに対する相対位置を移動させることにより、同ワイヤを同被切断物に食い込ませていくことで同被切断物を切断するワイヤーソー加工方法であって、前記ワイヤを前記被切断物の切断位置に案内するための案内部を有するとともに、同案内部により案内されたワイヤを同被切断物よりも先に同案内部から食い込ませ、同被切断物とともに切断していくための少なくとも一対のガイドを前記台の上に同被切断物を挟むように配設し、前記少なくとも一対のガイドは、前記ワイヤの同ガイド内への進入深さに応じて前記直線方向における同ガイドの切断長さが所定のパターンをもって変化する形状を呈していることを特徴とする方法である。
これによれば、台の上に配設された被切断物の切断が開始される前に、先ず、直線方向に往復運動しているワイヤが上記台の上に被切断物を挟むように配設された一対のガイドの案内部(例えば、溝)により被切断物の切断位置に正確に案内され、次いで、ワイヤが同切断位置に正確に案内された状態のまま同被切断物よりも先に同ガイドの案内部に食い込む。この結果、ワイヤはその往復運動が安定化し、ぶれることなく(上記直線方向と垂直方向に振動することなく)被切断物の切断位置に沿って正確に同往復運動する状態となり、この状態にて被切断物の切断が開始される。従って、高い加工精度が要求されるワイヤーソー加工が実現され得る。
また、この一対のガイドは、ワイヤの同ガイド内への進入深さに応じて前記直線方向における同ガイドの切断長さが所定のパターンをもって変化する形状を呈している。これによる作用は以下のようである。
即ち、上記のように、ワイヤーソー加工は、砥粒を含んだスラリーを被切断物(より具体的には、ワイヤと被切断物の切断面との隙間)に供給しながら行われる。その際、ワイヤの送り速度(切断進行方向の速度)が比較的大きい一定値に設定されていると、ワイヤの被切断物への進入深さの増大に応じてスラリーの前記隙間への供給の遅れが増大していき、円滑な切断が達成され得なくなるという問題があった。これを回避するため、従来では、例えば、複雑、且つ大柄な油圧サーボ機器等を利用して、ワイヤの送り速度を周期的に小さくする(或いはゼロにする)等のワイヤ送り速度の油圧サーボ制御等が実行されていた。
これに対し、被切断物とともに切断されていく一対のガイド形状を上記のようにすれば、ワイヤの被切断物への進入深さ(従って、ワイヤのガイド内への進入深さ)に応じて、ワイヤの加工面積が所定のパターンをもって変化し、この結果、同ワイヤの加工負荷も所定のパターンをもって変化する。従って、例えば、ワイヤの被切断物への送り荷重(ワイヤが被切断物へ接触する荷重)を適当な一定値に設定しておくのみで、上記油圧サーボ機器等を利用することなく、ワイヤの送り速度を上記所定のパターンをもって変化させることができる。ワイヤの被切断物への送り荷重を適当な一定値に設定するためには、例えば、所定の質量を有する錘と滑車等を利用して、同錘に働く重力(或いは、重力の一部)をワイヤが被切断物へ接触する荷重として作用するように構成すればよい。
従って、これによれば、上記所定のパターンに応じて、例えば、ワイヤの送り速度を周期的に小さくする等のワイヤ送り速度制御を達成することができ、その結果、上記スラリーの供給の遅れの増大を簡易な構成で確実に防止することができる。
また、本発明に係る他のワイヤーソー加工方法は、被切断物を台の上に配設し、直線状に張られたワイヤを同直線方向に往復運動させるとともに砥粒を含んだスラリーを同被切断物に供給しながら、同被切断物の切断進行方向における前記台の前記ワイヤに対する相対位置を移動させることにより、同ワイヤを同被切断物に食い込ませていくことで同被切断物を切断するワイヤーソー加工方法であって、前記被切断物には予め、切断開始時点での切断部分における前記直線方向の両端部近傍に前記ワイヤを同被切断物の切断位置に案内するための案内部がそれぞれ設けられ、且つ、前記供給されたスラリーを貯留するとともに同貯留されたスラリーを同ワイヤと同被切断物の切断面との隙間に供給するためのスラリーポケットが設けられていることを特徴とする方法である。
これによれば、被切断物には予め、切断開始時点での切断部分における前記直線方向(ワイヤの往復運動方向)の両端部近傍に前記ワイヤを同被切断物の切断位置に案内するための案内部(例えば、溝)がそれぞれ設けられている。従って、直線方向に往復運動しているワイヤが被切断物に接触して切断が開始される際、ワイヤは上記切断部分の両端部近傍において被切断物の案内部に案内されながら(例えば、溝にはまりながら)切断進行方向に向けて若干屈曲する。この結果、上記と同様、ワイヤは被切断物の切断位置に正確に案内されるとともに、この状態のまま同被切断物の切断が進行していく。従って、高い加工精度が要求されるワイヤーソー加工が実現され得る。
また、被切断物には予め、前記供給されたスラリーを貯留するとともに同貯留されたスラリーを同ワイヤと同被切断物の切断面との隙間に供給するためのスラリーポケットが設けられている。従って、十分な量のスラリーが上記隙間に向けて供給され続けられ得、その結果、スラリーの供給の遅れの増大を確実に防止できる。
上記本発明に係るワイヤーソー加工装置、及びワイヤーソー加工方法において切断される前記被切断物は、前記ワイヤーソー加工による切断後において、薄板部と、前記薄板部を支持する固定部と、少なくとも前記薄板部の平面上に形成されるとともに複数の電極と複数の圧電/電歪層とが交互に積層されてなり、同複数の電極の各側端面と同複数の圧電/電歪層の各側端面とにより形成された外部に露呈する側端面を有する圧電/電歪素子と、を備えた圧電/電歪デバイスであって、少なくとも前記圧電/電歪素子の外部に露呈した側端面が前記ワイヤーソー加工により形成される圧電/電歪デバイスを構成するものであることが好適である。
上述したように、かかる圧電/電歪デバイスの作動特性の精度を高くするためには、同圧電/電歪デバイス(特に、圧電/電歪素子がその平面上に形成された薄板部)の形状において高い加工精度が要求される。従って、後に上記のような圧電/電歪デバイスを構成するものを被切断物として選択すれば、精度の高い作動特性を発揮し得る圧電/電歪デバイスを安定して提供することができる。
発明の実施するための最良の形態
以下、図面を参照しながらこの種の圧電/電歪デバイスを切断するために使用されるワイヤーソー加工装置、及びワイヤーソー加工方向の実施形態について説明する。以下、その前に、先ず、この種の圧電/電歪デバイスの一例について説明する。
図1に斜視図を示した圧電/電歪デバイス10は、直方体の固定部11と、固定部から立設するように同固定部11に支持されるとともに互いに対向する一対の薄板部12,12と、前記薄板部12,12の先端に設けられるとともに同薄板部12,12の肉厚よりも厚い肉厚を有する保持部(可動部)13,13と、少なくとも前記薄板部12,12の各外側の平面上に形成された層状の電極と圧電/電歪層とが交互に積層された圧電/電歪素子14,14とを備えている。これらの構成の概略は、例えば、上記特許文献1に開示されている。
この圧電/電歪デバイス10は、例えば、図2に示したように、一対の保持部13,13の間に対象物Sを保持し、圧電/電歪素子14,14が発生する力によって薄板部12,12を変形せしめ、これにより保持部13,13を変位させて対象物Sの位置を制御し得るアクチュエータとして使用されるようになっている。この対象物Sは、磁気ヘッド、光ヘッド、或いは、センサとしての感度調整用重り等である。
固定部11、薄板部12,12、及び保持部13,13から構成された部分(これらは「基体部」とも総称される。)は、後に詳述するようにセラミックグリーンシートの積層体を焼成により一体化したセラミック積層体により構成されている。このようなセラミックスの一体化物は、各部の接合部に接着剤が介在しないことから、経時的な状態変化が殆ど生じないので、接合部位の信頼性が高く、かつ、剛性確保に有利である。また、セラミック積層体は、後述するセラミックグリーンシート積層法により、容易に製造することができる。
なお、基体部は、全体をセラミックス又は金属により構成してもよく、セラミックスと金属とを組合せたハイブリッド構造とすることもできる。また、基体部は、セラミックスを有機樹脂やガラス等の接着剤で接着して構成したり、金属をロウ付け、半田付け、共晶接合、拡散接合、或いは溶接等で接合して構成することもできる。
圧電/電歪素子14は、図3に拡大して示したように、固定部11(の一部)と薄板部12(の一部)がなす外側壁面(外側平面)上に形成されるとともに、複数の層状電極と複数の圧電/電歪層を有し、層状の電極と圧電/電歪層とが交互に積層された積層体である。電極と圧電/電歪層の各層は薄板部12の平面と平行な層を形成している。より具体的に述べると、圧電/電歪素子14は、薄板部12の外側平面上に、電極14a1、圧電/電歪層14b1、電極14a2、圧電/電歪層14b2、電極14a3、圧電/電歪層14b3、電極14a4、圧電/電歪層14b4、及び電極14a5が順に積層されてなる積層体である。電極14a1,14a3,14a5は互いに電気的に接続され、互いに電気的に接続された電極14a2,14a4と、絶縁状態を維持するように形成されている。換言すると、互いに電気的に接続された電極14a1,14a3,14a5と、互いに電気的に接続された電極14a2,14a4とは、櫛歯状の電極を構成している。
この圧電/電歪素子14は、後述するように、膜形成方法により基体部に一体的に形成される。また、圧電/電歪素子14を基体部とは別体として製造しておき、有機樹脂等の接着剤を用いて、或いは、ガラス、ロウ付け、半田付け、共晶接合等により基体部に貼り付けてもよい。
なお、ここでは、電極が全部で5層である多層構造を有する例を示したが、層の数は特に限定されない。一般には、層の数を多くすることにより、薄板部12,12を変形する力(駆動力)が増大する一方、消費電力も増大する。従って、実施にあたっては、用途及び使用状態等に応じて層の数を適宜選定すればよい。
以下、上記圧電/電歪デバイス10の各構成要素について追加的な説明を行う。
保持部13,13は、薄板部12,12の変位に基づいて作動する部分であり、同保持部13,13には圧電/電歪デバイス10の使用目的に応じて種々の部材が取り付けられる。例えば、圧電/電歪デバイス10を物体を変位させる素子(変位素子)として使用する場合、特に、ハードディスクドライブの磁気ヘッドの位置決めやリンギング抑制のために使用するのであれば、磁気ヘッドを有するスライダ、磁気ヘッドそのもの、及びスライダを有するサスペンション等の部材(即ち、位置決めを必要とする部材)が取り付けられてもよい。また、光シャッタの遮蔽板等が取り付けられてもよい。
固定部11は、上述したように、薄板部12,12並びに保持部13,13を支持する部分である。この圧電/電歪デバイス10を、例えば、前記ハードディスクドライブの磁気ヘッドの位置決めに利用する場合には、固定部11はVCM(ボイスコイルモータ)に取り付けられたキャリッジアーム、同キャリッジアームに取り付けられた固定プレート、又はサスペンション等に支持固定される。また、この固定部11には、圧電/電歪素子14,14を駆動するための図示しない端子及びその他の部材が配置される場合もある。端子の構造は電極と同様な幅であっても良いし、電極より狭いもの、或いは、一部が狭いものであっても良い。
保持部13,13及び固定部11を構成する材料は、保持部13,13及び固定部11が剛性を有するように構成される限りにおいて特に限定されない。一般には、これらの材料として、後述するセラミックグリーンシート積層法を適用できるセラミックスを用いることが好適である。より具体的には、この材料として、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアをはじめとするジルコニア、アルミナ、マグネシア、窒化珪素、窒化アルミニウム、又は酸化チタンを主成分とする材料等が挙げられるほか、これらの混合物を主成分とした材料が挙げられる。ジルコニア、特に安定化ジルコニアを主成分とする材料と部分安定化ジルコニアを主成分とする材料は、機械的強度や靱性が高い点において圧電/電歪デバイス10にとって好適である。また、保持部13,13及び固定部11を金属材料により製造する場合、その金属材料としては、ステンレス鋼、ニッケル等が好適である。
薄板部12,12は、上述したように、圧電/電歪素子14,14により駆動される部分である。薄板部12,12は、可撓性を有する薄板状の部材であって、表面に配設された圧電/電歪素子14,14の伸縮変位を屈曲変位に変換し、保持部13,13に伝達する機能を有する。従って、薄板部12,12の形状や材質は、可撓性を有し、屈曲変形によって破損しない程度の機械的強度を有するものであれば足り、保持部13,13の応答性、操作性等を考慮して選択される。
薄板部12の厚みDd(図1を参照)は、2μm〜100μm程度とすることが好ましく、薄板部12と圧電/電歪素子14とを合わせた厚みは7μm〜500μmとすることが好ましい。電極14a1〜14a5の各厚みは0.1μm〜50μm、圧電/電歪層14b1〜15b5の各厚みは3μm〜300μmとすることが好ましい。
薄板部12,12を構成する材料には、保持部13,13や固定部11と同様のセラミックスを用いることが好適であり、ジルコニア、中でも安定化ジルコニアを主成分とする材料と部分安定化ジルコニアを主成分とする材料は、薄肉であっても機械的強度が大きいこと、靱性が高いこと、圧電/電歪素子14の電極14a1を構成する電極材や圧電/電歪層14b1との反応性が小さいことから更に好適である。
また、薄板部12,12は、可撓性を有し、屈曲変形が可能な金属材料で形成することもできる。薄板部12,12に好適な金属材料のうち鉄系材料としては、各種ステンレス鋼、各種バネ鋼鋼材を挙げることができ、非鉄系材料としては、ベリリウム銅、リン青銅、ニッケル、ニッケル鉄合金を挙げることができる。
この圧電/電歪デバイス10に使用する前述した安定化ジルコニア並びに部分安定化ジルコニアは、次のように安定化並びに部分安定化されたものが好ましい。即ち、ジルコニアに、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化セリウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムのうち少なくとも1つの化合物、又はこれらのうち二つ以上の化合物を、同ジルコニアを安定化並びに部分安定化させる化合物として添加・含有させる。
なお、それぞれの化合物の添加量としては、酸化イットリウムや酸化イッテルビウムの場合にあっては、1〜30モル%、好ましくは1.5〜10モル%、酸化セリウムの場合にあっては、6〜50モル%、好ましくは8〜20モル%、酸化カルシウムや酸化マグネシウムの場合にあっては、5〜40モル%、好ましくは5〜20モル%とすることが望ましい。特に、酸化イットリウムを安定化剤として用いることが好ましく、その場合においては、1.5〜10モル%、(機械的強度を特に重視するときには更に好ましくは2〜4モル%、耐久信頼性を特に重視するときには更に好ましくは5〜7モル%)とすることが望ましい。
また、ジルコニアに、焼結助剤等の添加物としてアルミナ、シリカ、遷移金属酸化物等を0.05〜20wt%の範囲で添加することが可能である。圧電/電歪素子14,14の形成手法として、膜形成法による焼成一体化を採用する場合は、アルミナ、マグネシア、遷移金属酸化物等を添加物として添加することも好ましい。
なお、固定部11、薄板部12、及び保持部13の少なくとも一つをセラミックスで構成する場合、そのセラミックスの機械的強度が高く且つ安定した結晶相が得られるように、ジルコニアの平均結晶粒子径を0.05〜3μmとすることが好ましく、0.05〜1μmとすることが更に望ましい。また、上述のように、薄板部12,12は、保持部13,13並びに固定部11と同様(同様であるが異種)のセラミックスにより形成することができるが、好ましくは、保持部13,13並びに固定部11と実質的に同一の材料を用いて形成することが、接合部分の信頼性の向上、圧電/電歪デバイス10の強度の向上、及び同デバイス10の製造の煩雑さの低減を図る上で有利である。
圧電/電歪デバイスには、ユニモルフ型、バイモルフ型等の圧電/電歪素子を用いることができるが、薄板部12,12と組み合わせたユニモルフ型の方が、発生する変位量の安定性に優れ、軽量化に有利であり、且つ、圧電/電歪素子の発生応力の力の向きとデバイスの変形に伴う歪の向きとが相反することがないように保つことが容易に設計可能であることから、このような圧電/電歪デバイス10に適している。
前記圧電/電歪素子14,14は、図1に示したように、その一端を固定部11(又は保持部13でも良い。)上に位置させ、他端を薄板部12,12の側面の平面上に形成すると、薄板部12,12をより大きく駆動させることができる。
圧電/電歪層14b1〜14b4は、圧電セラミックスにより構成されることが好適である。その一方、圧電/電歪層14b1〜14b4は、電歪セラミックス、強誘電体セラミックス、或いは反強誘電体セラミックスにより構成することも可能である。また、このような圧電/電歪デバイス10において、保持部13,13の変位量と駆動電圧(又は出力電圧)とのリニアリティが重要とされる場合、圧電/電歪層14b1〜14b4は歪み履歴の小さい材料で形成されることが好ましく、従って、それらの抗電界が10kV/mm以下の材料で形成されることが好ましい。
圧電/電歪層14b1〜14b4の具体的な材料としては、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス等を単独であるいは混合物として含有するセラミックスが挙げられる。
圧電/電歪層14b1〜14b4の材料には、特に、高い電気機械結合係数と圧電定数を有し、同圧電/電歪層14b1〜14b4の焼結時における薄板部(セラミックス)12との反応性が小さく、且つ、安定した組成のものが得られる点において、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、及びマグネシウムニオブ酸鉛を主成分とする材料、もしくはチタン酸ナトリウムビスマスを主成分とする材料が好適である。
更に、圧電/電歪層14b1〜14b4の材料に、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ等の酸化物等を混合したセラミックスを用いてもよい。この場合、例えば、主成分であるジルコン酸鉛、チタン酸鉛、及びマグネシウムニオブ酸鉛に、ランタンやストロンチウムを含有させることにより、抗電界や圧電特性を調整可能となる等の利点を得られる場合がある。
なお、圧電/電歪層14b1〜14b4の材料にシリカ等のガラス化し易い材料を添加することは避けることが望ましい。なぜならば、シリカ等の材料は、圧電/電歪層14b1〜14b4の熱処理時に、圧電/電歪材料と反応し易く、その組成を変動させ、圧電特性を劣化させるからである。
一方、圧電/電歪素子14,14の電極14a1〜14a5は、室温で固体であり、導電性に優れた金属で構成されていることが好ましく、例えばアルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、鉛等の金属単体、もしくはこれらの合金で構成され得る。更に、これらの金属に圧電/電歪層14b1〜14b4、或いは薄板部12,12と同じ材料を分散させたサーメット材料を電極材として用いてもよい。
圧電/電歪素子14における電極材の選定は、圧電/電歪層14b1〜14b4の形成方法に依存して決定される。例えば、薄板部12の上に一つの電極14a1を形成した後、この電極14a1の上に圧電/電歪層14b1を焼成により形成する場合、電極14a1を、圧電/電歪層14b1の焼成温度においても変化しない白金、パラジウム、白金−パラジウム合金、銀−パラジウム合金等の高融点金属で形成しておく必要がある。このことは、形成後に圧電/電歪層が焼成される電極(電極14a2〜電極14a4)についても同様である。
これに対し、圧電/電歪層14b4の上に形成される最外層の電極14a5は、同電極14a5の形成後に圧電/電歪層の焼成がなされないので、アルミニウム、金、銀等の低融点金属を主成分とした材料で形成することができる。
また、層状の電極14a1〜14a5は、圧電/電歪素子14の変位を低下させる要因ともなるため、各層は薄いことが望ましい。特に圧電/電歪層14b4の焼成後に形成される電極14a5には、焼成後に緻密でより薄い膜が得られる有機金属ペースト、例えば金レジネートペースト、白金レジネートペースト、銀レジネートペースト等の材料を用いることが好ましい。
図1に示した圧電/電歪デバイス10においては、薄板部12,12の先端部分に一体的に形成される保持部13,13の厚みが、同薄板部12,12の厚みDdよりも大きくされていたが、図4に示したように、保持部13,13の厚みを薄板部12,12の厚みとほぼ同じにしてもよい。これにより、保持部13,13に物品を取り付ける場合に、保持部13,13間に薄板部12,12間の距離に相当する大きさの物品を挟み込むように取り付けることが可能となる。この場合、物品を取り付けるための接着剤が使用される領域が実質的に保持部13,13を構成することになる。更に、この場合、図4に破線にて示したように、接着剤を使用する領域を規定するための突起部15,15を設けてもよい。かかる突起部15,15は、薄板部12と同一の材料で一体焼結、或いは、一体成形されることが望ましい。
上述した圧電/電歪デバイス10は、超音波センサや加速度センサ、角速度センサや衝撃センサ、質量センサ等の各種センサとしても利用することもできる。また、かかる圧電/電歪デバイス10を各種センサとして利用する場合には、同圧電/電歪デバイス10は、対向する保持部13,13間、或いは薄板部12,12間に取り付けられる物体のサイズを適宜調整することにより、センサの感度調整を容易に行い得るという更なる長所を有する。
次に、上記圧電/電歪デバイス10の製造方法について説明する。圧電/電歪デバイス10の圧電/電歪素子14,14を除く基体部(即ち、固定部11、薄板部12,12、並びに保持部13,13)は、セラミックグリーンシート積層法を用いて製造されることが好ましい。一方、圧電/電歪素子14,14は、薄膜や厚膜等の膜形成手法を用いて製造されることが好ましい。
圧電/電歪デバイス10の基体部における各部材を一体的に成形することが可能なセラミックグリーンシート積層法によれば、各部材の接合部の経時的な状態変化がほとんど生じないため、接合部位の信頼性を高くすることができ、かつ、剛性を確保することができる。また、基体部を金属板を積層して形成する場合、金属の拡散接合法によれば、各部材の接合部の経時的な状態変化がほとんど生じず、接合部位の信頼性と剛性とを確保することができる。
この実施の形態に係る図1に示した圧電/電歪デバイス10においては、薄板部12,12と固定部11との境界部分(接合部分)並びに薄板部12,12と保持部13,13との境界部分(接合部分)は、変位発現の支点となるため、これらの接合部分の信頼性は圧電/電歪デバイス10の特性を左右する重要なポイントである。
また、以下において説明する製造方法は、生産性が高く成形性にも優れるため、所定形状の圧電/電歪デバイス10を短時間に、かつ、再現性よく得ることができる。なお、以下において、複数のセラミックグリーンシートを積層して得られた積層体をセラミックグリーンシート積層体22(図6を参照。)と定義し、このセラミックグリーンシート積層体22を焼成して一体化したものをセラミック積層体23(図7を参照。)と定義する。
また、かかる製造方法の実施にあたっては、図7のセラミック積層体を縦横に複数個並べたものと同等の1枚のワークシートを準備し、このワークシートの表面(上面)に後に圧電/電歪素子14となる積層体24(図8を参照。)を所定の部位に複数個分だけ連続させたものを形成し、このワークシートを切断することで、同一工程で多数個の圧電/電歪デバイス10を製造することが望ましい。更には、一つの窓(図5に示したWd1等)から2個以上の複数の圧電/電歪デバイス10が取り出されるように製造することが望ましい。但し、以下においては、説明を簡単にするため、セラミック積層体23の切断により圧電/電歪デバイス10を1個だけ取り出す方法について説明する。
まず、ジルコニア等のセラミック粉末にバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を添加混合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、リバースロールコーター法、ドクターブレード法等の方法により、所定の厚みを有する長方形のセラミックグリーンシートを作製する。
次に、図5に示したように、必要に応じて金型を用いた打抜加工やレーザ加工等の方法によりセラミックグリーンシートを種々の形状に加工し、複数枚のセラミックグリーンシート21a〜21fを得る。
図5に示した例においては、セラミックグリーンシート21b〜21eに対して、長方形の窓Wd1〜Wd4をそれぞれ形成する。窓Wd1と窓Wd4は略同一形状であり、窓Wd2と窓Wd3は略同一形状である。セラミックグリーンシート21a,21fは、後に薄板部12,12を構成する部分を含む。セラミックグリーンシート21b,21eは、後に保持部13,13を構成する部分を含む。なお、セラミックグリーンシートの枚数は、あくまでも一例である。また、図示された例では、セラミックグリーンシート21c,21dは、所定の厚みを有する一枚のグリーンシートでもよく、或いは、同所定の厚みを得るために複数枚のセラミックグリーンシートを積層する又は積層したものであってもよい。
その後、図6に示したように、セラミックグリーンシート21a〜21fを積層・圧着してセラミックグリーンシート積層体22を形成する。次いで、そのセラミックグリーンシート積層体を焼成して図7に示したセラミック積層体23を形成する。
なお、セラミックグリーンシート積層体22を形成するための(積層一体化のための)圧着回数や順序は限定されない。なお、一軸加圧(一方向への加圧)によっては圧力が十分に伝達されない箇所が存在する場合、複数回圧着を繰り返すか、或いは圧力伝達物を充填して圧着を行うことが望ましい。また、製造する圧電/電歪デバイス10の構造や機能に応じて、例えば窓Wd1〜Wd4の各形状、セラミックグリーンシートの枚数や厚み等は適宜決定され得る。
上記積層一体化のための圧着を加熱しながら行うようにすると、より確実な積層状態を得ることができる。また、セラミック粉末、バインダを主体としたペースト、又はスラリー等を接合補助層としてセラミックグリーンシート上に塗布、又は印刷して圧着を行えば、セラミックグリーンシート界面の接合状態をより良好な状態とすることができる。この場合、接合補助剤として使用されるセラミック粉末は、セラミックグリーンシート21a〜21fに使用されたセラミックスと同一又は類似した組成を有していることが、接合の信頼性確保の点で好ましい。更に、セラミックグリーンシート21a,21fが薄い場合、プラスチックフィルム(特に、表面にシリコーン系の離型剤をコーティングしたポリエチレンテレフタレートフィルム)を用いて同セラミックグリーンシート21a,21fを取り扱うことが好ましい。また、セラミックグリーンシート21b,21e等の比較的薄いシートに窓Wd1,Wd4等を形成する際、これらのシートを前記プラスチックフィルムに取り付けた状態で同窓Wd1,Wd4等を形成するための加工を行ってもよい。
次に、図8に示すように、前記セラミック積層体23の両表面、即ち、積層されたセラミックグリーンシート21a,21fの焼成後の表面にそれぞれ圧電/電歪層積層体24,24を形成する。圧電/電歪層積層体24,24の形成法としては、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法、及び電気泳動法等の厚膜形成法や、イオンビーム法、スパッタリング法、真空蒸着、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、及びめっき等の薄膜形成法を用いることができる。
このような膜形成法を用いて圧電/電歪層積層体24,24を形成することにより、接着剤を用いることなく、圧電/電歪層積層体24,24と薄板部12,12とを一体的に接合(配設)することができ、信頼性、再現性を確保できると共に、集積化を容易にすることができる。
この場合、厚膜形成法により圧電/電歪層積層体24,24を形成することがより好ましい。厚膜形成法を用いれば、平均粒径0.01〜5μm、好ましくは0.05〜3μmの圧電セラミックスの粒子や粉末を主成分とするペーストやスラリー、又はサスペンションやエマルジョン、ゾル等を用いて膜化することができ、それを焼成することによって良好な圧電/電歪特性を得ることができるからである。
なお、電気泳動法は、膜を高い密度で、かつ、高い形状精度で形成できるという利点を有する。また、スクリーン印刷法によれば、膜厚の制御とパターン形成とを同時に行うことができるので、製造工程を簡略化することが可能である。
ここで、セラミック積層体23及び圧電/電歪層積層体24,24の形成方法の一例について詳述する。まず、セラミックグリーンシート積層体22を1200〜1600℃の温度で焼成して一体化し、図7に示したセラミック積層体23を得た後、図3に示したように、同セラミック積層体23の両表面の所定位置に最下層の電極14a1,14a1を印刷して焼成し、次いで、その上に圧電/電歪層14b1,14b1と電極14a2,14a2とをこの順に印刷してから同時に焼成する。その後、同様に、一つの圧電/電歪層と一つの電極とをこの順に印刷してから同時に焼成する工程を2回だけ繰り返す。その後、圧電/電歪層14b4,14b4を印刷して焼成し、次いで、最上層の電極14a5,14a5を印刷して焼成することで圧電/電歪層積層体24,24を形成する。その後、電極14a1,14a3,14a5、及び電極14a2,14a4を駆動回路にそれぞれ電気的に接続するための端子(図示省略)を印刷、焼成する。
なお、最下層の電極14a1,14a1を印刷して焼成し、次いで、圧電/電歪層14b1,14b1を印刷して焼成し、その上に電極14a2,14a2を印刷して焼成し、その後、同様に、各圧電/電歪層と各電極とを交互に印刷・焼成する処理を3回繰り返して圧電/電歪層積層体24,24を形成してもよい。
この場合、例えば、電極14a1,14a2,14a3,14a4を白金(Pt)を主体とした材料、圧電/電歪層14b1〜14b4をジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を主体とした材料、他の電極14a5を金(Au)、更に、端子を銀(Ag)でそれぞれ構成するように、各部材の焼成温度が積層順に従って低くなるように材料を選定すると、ある焼成段階において、それより以前に焼成された材料の再焼結が起こらず、電極材等の剥離や凝集といった不具合の発生を回避することができる。
なお、適当な材料を選択することにより、圧電/電歪層積層体24,24の各部材と端子とを逐次印刷して、1回で一体焼成することも可能である。また、最外層の圧電/電歪層14b4の焼成温度を圧電/電歪層14b1〜14b3の焼成温度より高くして、これらの圧電/電歪層14b1〜14b4の最終的な焼結状態を同一にするように圧電/電歪積層体24を形成してもよい。
また、圧電/電歪層積層体24,24の各部材と端子は、スパッタ法や蒸着法等の薄膜形成法によって形成してもよく、この場合には、必ずしも熱処理を必要としない。
圧電/電歪層積層体24,24の形成においては、セラミックグリーンシート積層体22の両表面、即ち、セラミックグリーンシート21a及び21fの各表面に予め圧電/電歪層積層体24,24を形成しておき、そのセラミックグリーンシート積層体22と圧電/電歪層積層体24,24とを同時に焼成してもよい。
圧電/電歪層積層体24,24とセラミックグリーンシート積層体22とを同時焼成する方法としては、スラリー原料を用いたテープ成形法等によって圧電/電歪層積層体24,24の前駆体を成形し、この焼成前の圧電/電歪層積層体24,24の前駆体をセラミックグリーンシート積層体22の表面上に熱圧着等で積層し、その後、これらを同時に焼成する方法が挙げられる。但し、この方法では、上述した膜形成法を用いて、セラミックグリーンシート積層体22の表面及び/又は圧電/電歪層積層体24,24に予め電極14a1,14a1を形成しておく必要がある。
その他の方法としては、セラミックグリーンシート積層体22の少なくとも最終的に薄板部12,12となる部分にスクリーン印刷により圧電/電歪層積層体24,24の各構成層である電極14a1〜14a5、及び圧電/電歪層14b1〜14b4を形成し、これらを同時に焼成する方法が挙げられる。
圧電/電歪層積層体24,24の構成膜の焼成温度は、これを構成する材料によって適宜決定されるが、一般には、500〜1500℃であり、圧電/電歪層14b1〜14b4に対しては、1000〜1400℃が好適な焼成温度である。この場合、圧電/電歪層14b1〜14b4の組成を制御するためには、圧電/電歪層14b1〜14b4の材料の蒸発が制御される状態(例えば、蒸発源の存在下)で焼結することが好ましい。なお、圧電/電歪層14b1〜14b4とセラミックグリーンシート積層体22を同時焼成する場合には、両者の焼成条件を合わせることが必要である。圧電/電歪層積層体24,24は、必ずしもセラミック積層体23もしくはセラミックグリーンシート積層体22の両面に形成される必要はなく、セラミック積層体23もしくはセラミックグリーンシート積層体22の片面のみに形成されてもよい。
次に、上述のようにして、圧電/電歪層積層体24,24が形成されたセラミック積層体23のうちの不要な部分を切除する。具体的に述べると、図9に示した切断線(破線)C1〜C4に沿ってセラミック積層体23、及び圧電/電歪層積層体24,24を切断する。切断は、ワイヤーソー加工やダイシング加工等の機械加工のほか、YAGレーザ、エキシマレーザ等のレーザ加工や、電子ビーム加工により切断を行うことが可能である。
この切断のうち、図9に示した切断線(破線)C3及びC4に沿うセラミック積層体23と圧電/電歪層積層体24,24との切断は、前述のごとく、比較的強度が小さく脆い圧電/電歪層と粘り易い延性を有する金属とからなる圧電/電歪層積層体24,24の切断を含むので、切断時に被切断物(後に、圧電/電歪デバイス10を構成する「セラミック積層体23及び圧電/電歪層積層体24からなるもの」を以下、「被切断物」とも言う。)に対する加工負荷が小さい加工によることが望ましい。中でも複数個の圧電/電歪デバイス10を同時に形成するための同時切断に適し、加工負荷が小さいワイヤーソー加工が、かかる切断に適している。また、図9に示した切断線(破線)C1及びC2に沿うセラミック積層体23の切断には、ダイシング加工を採用することが望ましい。
また、かかる被切断物をワイヤーソー加工やダイシング加工の台(ステージ)に直接取りつけるのではなく、一般に被切断物をワックスや接着材等を用いて治具に接着し、この治具をワイヤーソー加工やダイシング加工のステージに取り付けて加工を行う。このとき、被切断物と治具の間に、ガラスやシリコンウェハーからなる板、或いは有機樹脂材料(PET,PC,PE,PP等)からなる板又はフィルムなどの薄板のカットベース(ベースプレート。被切断物とともに切断されるもの)を介在させることが望ましい。更に、この場合、被切断物とカットベースと治具との接着に、それぞれの所定溶媒に対して溶解性が異なる接着材を使用することが望ましい。
このように接着材を選択すれば、カットベースと治具とを分離する溶媒がカットベースと被切断物との接着に影響を与えることがないようにできるので、カットベースと治具との分離後においても、被切断物をカットベースに取りつけた状態で取り扱うことができるからである。例えば、ワイヤーソー加工の際に被切断物に当然に付着する砥粒を洗浄する場合、被切断物をカットベースに取りつけたままの状態で洗浄治具の所定の位置に載置して洗浄を行い、その後、洗浄治具内でカットベースと被切断物を取り外せば、同洗浄治具への被切断物の装填(載置)が容易になる。以上のように、図9に示した切断線C1〜C4に沿ってセラミック積層体23、及び圧電/電歪層積層体24,24を切断することで図1に示した圧電/電歪デバイス10が製造される。
次に、上述のようにして製造された圧電/電歪デバイス10が良品であるか否かを検査するための工程の例について簡単に説明する。圧電/電歪デバイス10が良品であるか否かを検査するためには、圧電/電歪素子14の電極間に付与される電圧と保持部13の変位量との間の関係(圧電/電歪デバイス10の静特性)、及び振動特性(圧電/電歪デバイス10の動特性)がそれぞれ所定の各規格範囲内にあるか否かを判定する必要がある。しかしながら、保持部13の変位量を直接測定することは困難である。
ここで、圧電/電歪デバイス10は、電極間に付与される電圧が同一である場合において同圧電/電歪素子14が有する静電容量が大きいほど保持部13の変位量が大きくなる特性を有する。換言すれば、圧電/電歪素子14の静電容量の大きさが所定の規格内にあるか否かを判定することは、圧電/電歪デバイス10の静特性が所定の規格範囲内にあるか否かを判定することに相当し得る。
また、圧電/電歪素子デバイス10の共振周波数は同圧電/電歪デバイス10の動特性と密接な関係があるから同動特性を判定する有力な指標値となり得る。換言すれば、圧電/電歪デバイス10の共振周波数が所定の規格内にあるか否かを判定することは、圧電/電歪デバイス10の動特性が所定の規格範囲内にあるか否かを判定することに相当し得る。
以上のことから、本例では、先ず、所定の公知の分極処理を圧電/電歪素子14,14に施した後、圧電/電歪素子14,14の静電容量、及び、圧電/電歪デバイス10の共振周波数をそれぞれ測定する。圧電/電歪素子14,14の静電容量は、例えば、電極間に付与される電圧を「0」から所定値に変更することにより電極に流れこむ電流値を測定していき、これを時間積分すること等により推定され得る同電極に溜まっている電荷量に基づいて測定され得る。
また、圧電/電歪デバイス10の共振周波数は、例えば、圧電/電歪素子14,14に対して一定の振幅を有する電圧を周波数を徐々に高くしながら印加していった場合における電極に溜まっている電荷量の周期的変化をFFT等を用いて分析していき、同電荷量についての共振が発生した時点での電圧の周波数に基づいて測定され得る。
そして、測定された圧電/電歪素子14,14の静電容量、及び測定された圧電/電歪デバイス10の共振周波数に基づいて、圧電/電歪デバイス10の静特性、及び動特性がそれぞれ所定の各規格範囲内にあるか否かを判定し、静特性及び動特性がともに規格範囲内にあると判定された場合にのみ、圧電/電歪デバイス10が良品であると判定する。以上が、圧電/電歪デバイス10が良品であるか否かを検査するための工程の例である。
次に、上記被切断物と同種の被切断物(以下、「被切断物HS」と総称する。)を縦横に複数個並べたものと同等の1枚のワークシート(以下、「ワークシートWS」と総称する。)を準備し、このワークシートWS(各被切断物HS)を切断することで、同一工程で多数個の圧電/電歪デバイス10と同種の圧電/電歪デバイスを製造する場合の一例について説明する。
図10は、縦に3つ、横に9つ並べられた27個の被切断物HSにて構成されるブロックを縦に3つ、横に3つ並べたワークシートWSの上面図である。この例におけるワークシートWSは、上述した(圧電/電歪層積層体24,24が印刷・形成される前の)セラミック積層体23(焼結体)を縦横に複数個並べたものに相当する。
このワークシートWSには、圧電/電歪デバイスの全長(圧電/電歪デバイス10の保持部13の端部から固定部11の端部までの長さに相当する長さ)を規定するための窓WL(貫通孔)が各被切断物HSの縦方向における両端部にそれぞれ形成されている。窓WLは、後にワークシートWSを構成する各セラミックグリーンシートの加工の段階にて同各セラミックグリーンシートに形成された同一形状の穴が積層されてなるものである。
かかる窓WSの形成により、圧電/電歪デバイスの全長の規定は、ダイシング加工等による被切断物HSの横方向における切断によらず、セラミックグリーンシートの加工により行うことができ、厚い焼結体(ワークシートWS)を切断する場合に比して同全長を製品毎に均一にする(全長を精度良く規定する)ことができる。
また、このワークシートWSには、上記各セラミックグリーンシートを積層する際に使用する積層用基準穴H1、圧電/電歪層積層体を構成する各構成要素(各電極、及び各圧電/電歪層)を印刷する際の印刷位置を規定するための印刷用基準穴H2、ダイシング加工による横方向の加工、或いはワイヤーソー加工による縦方向の加工を行う際の加工位置を規定するための加工用基準穴H3、及び、ワイヤーソー加工による縦方向の加工を行う際の加工位置を規定するための加工用基準穴H4が、所定箇所に所定個数ずつ形成されている。加工用基準穴H3と加工用基準穴H4との相違点については後述する。
かかる積層用基準穴H1、印刷用基準穴H2、加工用基準穴H3、及び、加工用基準穴H4も、上記窓WLと同様、後にワークシートWSを構成する各セラミックグリーンシートの加工の段階にて同各セラミックグリーンシートに形成された同一形状の穴が積層されてなるものである。基準穴H1〜H4は全て円筒状を呈した貫通孔であって、各作業段階において同作業段階に対応する基準穴に作業台(ステージ)の上面から鉛直方向に立設する同作業段階に対応する円柱状の基準ピンを差し込むことで同基準穴の上記各機能がそれぞれ達成される。
ただし、後に印刷用基準穴H2を構成する穴については、後に薄板部12に相当する薄板部を構成する部分を含むセラミックグリーンシート(図5における21a、21fに相当するグリーンシート)に形成された穴のみが他のセラミックグリーンシートに形成された穴よりも(直径において)若干小さめに形成されている。これは、以下の理由に基づく。
即ち、圧電/電歪デバイスにおいては、薄板部に対する圧電/電歪素子の印刷位置が、同圧電/電歪デバイスの作動特性に大きな影響を与える。従って、圧電/電歪素子の薄板部に対する印刷位置を精度良く規定する必要がある。このためには、基準ピンが同印刷用基準穴H2に挿入された状態にあるとき、同基準ピンが、後に薄板部を構成する部分を含むセラミックグリーンシートに形成された穴の内壁面(の一部)に確実に接触し得る必要がある。
一方、複数枚のセラミックグリーンシートに対して完全に同一形状の穴を完全に同一位置に形成することは実際には不可能である。従って、各セラミックグリーンシートに形成された、後に印刷用基準穴H2を構成する各穴の径、位置等にも、実際にはばらつきが発生し、この結果、印刷用基準穴H2の内壁面には実際には凹凸が発生する。従って、各セラミックグリーンシートに形成された、後に印刷用基準穴H2を構成する各穴の径(の加工上の目標値)を同一とすると、印刷用基準穴H2に挿入された上記基準ピンが、後に薄板部を構成する部分を含むセラミックグリーンシートに形成された穴の内壁面に接触し得ず、同グリーンシート以外のグリーンシートに形成された穴の内壁面にのみ接触し、この結果、圧電/電歪素子の薄板部に対する印刷位置の精度が低下するという事態が発生し得る。
従って、これを回避し、印刷用基準穴H2に挿入された基準ピンが、後に薄板部を構成する部分を含むセラミックグリーンシートに形成された穴の内壁面に接触し得ることを保証するため、本例では、後に印刷用基準穴H2を構成する穴について、後に薄板部を構成する部分を含むセラミックグリーンシートに形成された穴のみが他のセラミックグリーンシートに形成された穴よりも若干小さめに形成されている。
また、薄板部に対して前述した図4に破線にて示した突起部15に相当する突起部が設けられる場合には、突起部は上記対象物Sの位置を規定し得るものであるから、薄板部に対する同突起部の位置も圧電/電歪デバイスの作動特性に大きな影響を与える。従って、突起部が印刷により設けられる場合、同突起部の薄板部に対する印刷位置も精度良く規定する必要がある。
図11は、図10に示したワークシートWSを後に構成する複数枚のセラミックグリーンシートのうち上記後に薄板部を構成する部分を含むセラミックグリーンシート(図5における21a、21fに相当するグリーンシート)の上面図である。このセラミックグリーンシート上には、積層・焼成前の段階において、複数個の突起部HPがそれぞれ所定の位置に縦横に並んで印刷されている。このグリーンシートにかかる突起部HPを印刷する際にも、同グリーンシートに形成されている、後に印刷用基準穴H2の一部を構成する(上記若干小さめの)穴に基準ピンを挿入することにより突起部HPの印刷位置を規定すれば、同突起部HPの薄板部に対する印刷位置も精度良く規定され得る。
再び、図10を参照すると、図10に示したワークシートWSから多数個の圧電/電歪デバイスを取り出すためには、先ず、同ワークシートWS上の(各被切断物HS上の)所定の位置に上記圧電/電歪層積層体24,24に相当する圧電/電歪層積層体を複数個縦横に並べて印刷し、焼成する。そして、例えば、横方向に並んだ複数列の窓WLを通過する各平面にてダイシング加工にてワークシートWSを横方向に切断し、その後、縦方向に並んだ複数列の被切断物HSにおける図9の切断線C3,C4に対応する各平面にてワイヤーソー加工にてワークシートWSを縦方向に切断する。この場合、1つの被切断物HSから2個以上の複数の圧電/電歪デバイスが取り出されるようにワイヤーソー加工を行うことが望ましい。以上により、多数個の圧電/電歪デバイスが取り出される。
次に、上記加工用基準穴H3と加工用基準穴H4との相違点について説明する。図12は、ワークシートWSに複数個縦横に並べて形成された被切断物HSから圧電/電歪デバイスを取り出すためのワイヤーソー加工をワークシートWS全体に対して行う場合の同ワイヤーソー加工の様子を示した図である。図12に示したように、この例では、1つの被切断物HSから2個の圧電/電歪デバイスが取り出される。このように、ワークシートWS全体に対してワイヤーソー加工が行われる場合、図10に示した加工用基準穴H3に相当する基準穴を基準ピンに挿入することで同ワイヤーソー加工による切断位置が規定される。
一方、図13は、ワークシートWSに複数個縦横に並べて形成された被切断物HSから圧電/電歪デバイスを取り出すためのワイヤーソー加工を、予めワークシートWSから切断された同ワークシートの所定部分(以下、この種の部分を「ワークws」と総称する。)に対して行う場合の作業手順を示した図である。
即ち、先ず、図13(a)に示したように、ワークシートWSの切断後に形成される複数のワークwsがそれぞれ図10に示した加工用基準穴H4に相当する基準穴を含むように、切断線CLに沿った複数の平面にて同ワークシートWSをダイシング加工等により切断する。次いで、かかる切断により形成されたワークwsのうち被切断物HSを含まないものを取り除き、被切断物HSを含むもののみを取り出す。続いて、図13(b)に示すように、被切断物HSを含むワークwsにおける図10に示した加工用基準穴H4に相当する基準穴をそれぞれ基準ピンに挿入し、複数のワークwsを互いに隣接するように一列に配置する。そして、かかる状態にてワイヤーソー加工を各ワークwsに対して行う。この例においても、1つの被切断物HSから2個の圧電/電歪デバイスが取り出される。このように、ワークシートWSから切断された各ワークwsに対してワイヤーソー加工が行われる場合、図10に示した加工用基準穴H4に相当する基準穴(ワークws毎に設けられている基準穴)を基準ピンに挿入することで同ワイヤーソー加工による切断位置が規定される。以上が、図10に示した加工用基準穴H3と加工用基準穴H4との相違点である。
次に、上述したワイヤーソー加工を行う際に使用されるワイヤーソー加工装置(加工方法)の実施形態について図14〜図16を参照しながら説明する。このワイヤーソー加工装置の主要構成部品を示した概略斜視図である図14に示したように、この装置は、1本のワイヤ送り用ローラーRFと、一対の(2本)の基本ローラーRB1,RB2とからなる同一外径を有する3本のローラーを備えている。
3本のローラーは、各回転軸が互いに平行になるように、且つ、正面視にて各回転軸がそれぞれ正三角形の頂点に位置するように配置構成されている。また、一対の基本ローラーRB1,RB2の外表面には、回転軸方向における複数の同一位置に互いに対となる環状溝(切断位置決め用環状溝)がそれぞれ形成されていて、ワイヤ送り用ローラーRFの外表面にも回転軸方向における所定の複数位置にワイヤ送り用環状溝が形成されている。
そして、3本のローラーの周囲には、少なくとも上記対となる切断位置決め用環状溝同士をそれぞれ結ぶように、1本のワイヤWが、各ローラーに設けられた環状溝に順に係合されながら螺旋状に複数回巻きつけられている。従って、一対の基本ローラーRB1,RB2の間に張られた複数本のワイヤの直線部分Yは互いに平行となっている。
このワイヤーソー加工装置を使用してワークシートWS(被切断物)のワイヤーソー加工を行う際には、先ず、ワークシートWSを加工ステージ(台)の上に配設する。次いで、図示しない駆動装置を使用してワイヤWの両端を図14に示した細い矢印の方向に往復運動させて、3本のローラーを往復回転させながら上記複数の直線部分Yを細い矢印方向(即ち、水平方向)に往復運動させる。そして、3本のローラーの位置を固定した状態で図示しない駆動装置を使用して加工ステージを太い矢印方向(鉛直方向、上方向)に移動させる。これにより、上記複数の直線部分YをワークシートWSに食い込ませていくことで同ワークシートWSの複数箇所を同一工程で切断する。この場合、加工ステージの位置を固定した状態で3本のローラーの位置を下方向に移動させるように構成してもよい。
次に、ワイヤ送り用ローラーRFに形成されているワイヤ送り用環状溝の回転軸方向における位置とワイヤーソー加工の加工精度の低下との関係について説明する。図15は、回転軸方向において、基本ローラーRB1,RB2に形成されている複数対の切断位置決め用環状溝g1〜g9と同一の位置にてそれぞれ対応するワイヤ送り用環状溝h1〜h9がワイヤ送り用ローラーRFに設けられている場合のワイヤWの巻きつけ状態の詳細を示した図((a)はその正面図、(b)はその右側面図)である。
図15(b)に示したように、この場合、ワイヤWは、ワイヤ送り用環状溝h1に係合し、次に、一対の切断位置決め用環状溝g1,g1に係合し、次に、ワイヤ送り用環状溝h2に係合し、次に一対の切断位置決め用環状溝g2,g2に係合する、ということを順に回転軸方向(図15(b)において左方向)に繰り返すことで3本のローラーの周囲に螺旋状に巻きつけられる。なお、隣接する切断位置決め用環状溝同士の回転軸方向の間隔は、環状溝g3と環状溝g4、及び環状溝g6と環状溝g7については距離m、残りの環状溝同士については距離l(m>l)となっている。
この場合、ワイヤ送り用ローラーRFと基本ローラーRB1との間に張られているワイヤWの各直線部分は、その両端部の回転軸方向位置が互いに等しくなるため回転軸方向と垂直方向に張られることになる。従って、基本ローラーRB1の切断位置決め用環状溝g1〜g9にはワイヤWの張力に基づく回転軸方向の力が働かない。
一方、ワイヤ送り用ローラーRFと基本ローラーRB2との間に張られているワイヤWの各直線部分は、その両端部の回転軸方向位置が隣接する切断位置決め用環状溝同士の間隔分だけ異なるから回転軸方向と垂直の方向から同間隔に応じた所定角度だけ傾いた方向に張られることになる。従って、基本ローラーRB2の切断位置決め用環状溝g1〜g9には、同間隔に応じたワイヤの張力に基づく回転軸方向の力(以下、「スラスト力」と称呼する。)が働くことになる。具体的には、環状溝g1,g2,g4,g5,g7,g8には距離lに応じたスラスト力F1(図15(b)において左向きの力)が発生し、環状溝g3,g6には距離mに応じたスラスト力F2(図15(b)において左向きの力。F2>F1)が発生する。
先に述べたように、かかるスラスト力F1,F2は、基本ローラーRB2の切断位置決め用環状溝g1〜g9(の側面)とワイヤWとの磨耗等を促進し、上記直線部分Yの軸方向位置の精度(従って、ワークシートWSの加工精度)を低下させる原因となり得る。従って、かかるスラスト力は小さいほど好ましい。
これに対し、図16は、本発明に係る実施形態であって、回転軸方向において、基本ローラーRB1,RB2に形成されている複数対の切断位置決め用環状溝g1〜g9のうち隣接する2対の切断位置決め用環状溝の間の各中央位置においてそれぞれ対応するワイヤ送り用環状溝(特に、「中間環状溝」と称呼する。)がワイヤ送り用ローラーRFに設けられている場合のワイヤWの巻きつけ状態の詳細を示した図((a)はその正面図、(b)はその右側面図)である。具体的には、例えば、回転軸方向において、切断位置決め用環状溝g1とg2との間の中央位置に中間環状溝i2が、環状溝g2とg3との間の中央位置に中間環状溝i3が設けられている。
図16(b)に示したように、この場合、ワイヤWは、中間環状溝i1に係合し、次に、一対の切断位置決め用環状溝g1,g1に係合し、次に、中間環状溝i2に係合し、次に一対の切断位置決め用環状溝g2,g2に係合する、ということを順に回転軸方向(図16(b)において左方向)に繰り返すことで3本のローラーの周囲に螺旋状に巻きつけられる。なお、隣接する切断位置決め用環状溝同士の回転軸方向の間隔は、図15(b)における場合と同様である。
この場合、基本ローラーRB1,RB2の切断位置決め用環状溝には、隣接する切断位置決め用環状溝同士の回転軸方向における間隔そのものに応じたスラスト力よりも小さい、同間隔の半分の間隔に応じたスラスト力しか働かない。具体的には、基本ローラーRB1については、環状溝g1,g2,g4,g5,g7,g8には距離(l/2)に応じたスラスト力F3(図16(b)において左向きの力。F3<F1)が発生し、環状溝g3,g6には距離(m/2)に応じたスラスト力F4(図16(b)において左向きの力。F4<F2)が発生する。基本ローラーRB2については、環状溝g2,g3,g5,g6,g8,g9には距離(l/2)に応じたスラスト力F5(図16(b)において右向きの力。F5=F3)が発生し、環状溝g4,g7には距離(m/2)に応じたスラスト力F6(図16(b)において右向きの力。F6=F4)が発生する。
即ち、図16(b)に示す本発明の実施形態によれば、図15(b)に示す場合に比して、スラスト力の大きさを低減することができ、この結果、切断位置決め用環状溝g1〜g9の磨耗の程度が少なくなり、装置の延べ使用時間の増大に応じてワークシートWSの加工精度が低下していく程度を少なくすることができる。
以上、説明したワイヤーソー加工は、図17に示すように、ワイヤW(の上記複数の直線部分Y)を、ワークシートWSを構成する焼成されたセラミックグリーンシートの積層平面に平行な方向内において往復運動させながら、同ワイヤWを積層方向に進行(移動)せしめることにより実行されるものであった。一方、図18に示すように、ワイヤW(の上記複数の直線部分Y)を、セラミックグリーンシートの積層平面に垂直な方向内において往復運動させながら、同ワイヤWを積層方向と垂直な方向に進行(移動)せしめることにより実行してもよい。
この場合、以下のような工程を経ることが好ましい。即ち、図19(a)に示すように、先ず、ステージ上に配置されたワークシートWSを切断線CLに沿った平面にてダイシング加工等により切断して複数のワークwsを作成する。次いで、図19(b)に示すように、これら複数のワークwsの各々をステージ上にて矢印方向に90°回転させる。そして、図19(c)に示すように、各ワークwsをステージ上にて再配置し、この状態にてワイヤWによりワイヤーソー加工を行う。
図19(c)に示した各ワークwsの実際の配置状態を図20に示す。図20に示したように、各ワークwsは、ワイヤWによるワイヤーソー加工後に完成する圧電/電歪デバイスの開口部分(図1において、互いに対向する保持部13,13(薄板部12,12の端部)の間に挟まれる空間部分)に相当する部分が上を向いた状態にてステージに配置されている。
図21は、図20に示した各ワークwsを、ステージに対して図中に示した角度θに対応する向きになるように所定の治具を用いて配置した状態を示す図である。このようにすると、ワークwsのうち後に薄板部となる硬度が比較的高い部分に先ずワイヤWが食い込み、ワイヤWの往復運動が安定化した状態で、ワークwsのうち後に圧電/電歪素子となる硬度が比較的低い部分の切断が開始される。従って、後に圧電/電歪素子となるワークwsの部分の切断状態が良好となる。また、切断開始時点での切断長さ(切断面積、加工負荷)が短くなってワイヤWがワークwsに食い込みやすくなるから、ワイヤWの往復運動がより安定化しやすくなる。
また、図20に示したようにステージ上に配置された開口部分が上を向いた各ワークwsの内側空間内に、図22、及び図22のA部の拡大図である図23に示すように、ワックス、樹脂等のようなワークwsよりも硬度が低い充填物REを挿入した状態でワイヤーソー加工を開始することが好ましい。
これによれば、ワークwsよりも充填物REの方が硬度が低いことから、充填物REに対するワイヤーソー加工の進行速度がワークwsに対するワイヤーソー加工の進行速度よりも速くなる。この結果、図23に示すように、ワークwsの内側空間内における或る時点での切断面を表す切断線Zは下に凸の曲線となって、同内側空間内に、ワイヤーソー加工時にワークwsに向けて供給される砥粒を含むスラリーが溜まるスラリーポケットPが形成される。従って、ワイヤーソー加工において十分な量のスラリーがワイヤWと切断面との隙間に安定して供給され得るようになって、円滑な切断が達成される。
また、図24に示したように、図20に示したように配置された複数の(図20では3個の)ワークwsの一部(図24では1つ。ワークws2のみ)を、180°回転させた状態(上記開口部分が下を向いた状態)に配置すると好適である。これによると、ワイヤーソー加工の進行に伴う加工長さ(従って、加工面積、加工負荷)の変化の程度を少なくすることができ、安定したワイヤーソー加工を行うことができる。
また、図24に示したようにステージ上に配置された2つのワークws1に対して、図25、及び図25のB部の拡大図である図26に示したように、ワイヤWにより切断が開始される時点での切断部分に相当する位置(圧電/電歪デバイスにおける薄板部の先端の所定位置)に同ワイヤWを案内するための溝grを設けるとよい。これによれば、切断開始時点において、ワイヤWが溝grにより所定の切断位置に正確に案内され、且つ、同ワイヤWの往復運動が安定化する。そして、この状態にてワイヤーソー加工が開始されるから、高い加工精度が要求されるワイヤーソー加工が実現され得る。
なお、図24に示したワークws2に対して、ワイヤWにより切断が開始される時点での切断部分に相当する位置(圧電/電歪デバイスにおける固定部の端面の所定位置)に同ワイヤWを案内するための溝grを更に設けると、よりワイヤWの往復運動が安定化して更に好適である。また、これらの溝grは、セラミックグリーンシートの加工の段階にて形成しておくことが好ましい。
また、図27〜図29に示したように、ワークシートWSに対して予め、切断開始時点での切断部分における両端部にワイヤWを同ワークシートWSの切断位置に案内するための溝gr1をそれぞれ設けておくとよい。これによると、切断が開始される際、ワイヤWはワークシートWSの両端部にて、図29に示すように、上記溝gr1にはまりながら切断進行方向(下方向)に向けて若干屈曲する。
この結果、ワイヤWはワークシートWSの切断位置に正確に案内されるとともに、ワイやWの往復運動が安定化する。そして、この状態のままワークシートWSの切断が進行していくから、高い加工精度が要求されるワイヤーソー加工が実現され得る。この場合、図27〜図29に示したように、ワークシートWSに対して予め、切断部分における(ワイヤWの往復運動方向の)中央位置に貫通窓gr2を設けておくと、よりワイヤWの往復運動が安定化しやすくなる。
また、図27〜図29に示したように、ワークシートWSに対して予め、被切断物HSの全長を規定するための図10、及び図11の窓WLに相当する貫通窓を設けておくと更に好適である。これによると、貫通窓が、ワークシートWSに供給されたスラリーを貯留するとともに同貯留されたスラリーをワイヤWと切断面との隙間に供給するためのスラリーポケットの機能を達成し得る。従って、十分な量のスラリーが上記隙間に向けて供給され続けられ得、その結果、スラリーの供給の遅れの増大を確実に防止できる。
これらの溝gr1、貫通窓gr2、及び窓WLは、セラミックグリーンシートの加工の段階にて作成しておくことが好ましい。なお、溝gr1(、或いは貫通窓gr2)とワイヤWとの隙間は、スラリー内の砥粒の平均粒径の2倍〜4倍に設定するとよい。かかる図27〜図29に示した実施形態は、本発明の実施例に対応する。
また、図30に示したように、ステージ上に配置されたワークwsよりも高さが高く、且つ、その上面にワイヤWを所定の切断位置に案内するための溝grを形成した一対のガイドGD1,GD1を、ワークwsを挟むようにステージ上に配置することが好ましい。これによると、ワークwsの切断が開始される前に、先ず、ワイヤWが一対のガイドGD1,GD1の溝grによりワークwsの切断位置に正確に案内され(図30(a)を参照)、次いで、ワイヤWが同切断位置に正確に案内された状態のまま同ワークwsよりも先に同一対のガイドGD1,GD1の溝grに食い込む。この結果、ワイヤWはその往復運動が安定化し、ぶれることなくワークwsの切断位置に沿って正確に同往復運動する状態となり、この状態にてワークwsの切断が開始される(図30(b)を参照)。従って、高い加工精度が要求されるワイヤーソー加工が実現され得る。
この場合、図30に示したように、ステージ上における一対のガイドGD1,GD1の間の中央位置に、同ステージ上に配置されたワークwsよりも高さが高く、且つ、その上面にワイヤWを所定の切断位置に案内するための溝grを形成したガイドGD2を更に配置することが好ましい。これにより、より一層、ワイヤWの往復運動が安定化して加工精度が向上し得る。
また、この場合、図31に示したように、一対のガイドGD1,GD1、及びガイドGD2は、ワイヤWによるガイドの切断位置(ステージの上面からの高さ。ワイヤWのガイドへの進入深さ)に応じて切断長さが交互に長さpと長さq(>p)とに変化するような形状を有することが好ましい。これによると、ワイヤWのワークwsへの進入深さ(従って、ワイヤWのガイドGD1,GD2内への進入深さ)に応じて、ワイヤWの加工面積が周期的に変化し、この結果、同ワイヤWの加工負荷も周期的に変化する。
従って、例えば、ワイヤWのワークwsへの送り荷重(ワイヤが被切断物へ接触する荷重)を適当な一定値に設定しておくのみで、複雑な構成を有する油圧サーボ機器等を利用することなく、ワイヤWの送り速度を周期的に変化させることができる。従って、先に説明したように、スラリーのワイヤWと切断面との隙間への供給の遅れの増大を簡易な構成で確実に防止することができる。なお、一対のガイドGD1,GD1、及びガイドGD2のうちの何れか一方のみを、ワイヤWのガイドへの進入深さに応じて切断長さが交互に長さpと長さq(>p)とに変化するような形状としてもよい。
また、図32に示したように、一対のガイドGD1,GD1において、ワイヤWによるガイドの切断面が通過する位置に、且つ、ステージの上面からの高さが所定高さとなる毎に(ワイヤWの進入深さが所定深さとなる毎に)、貫通孔pdをそれぞれ設けてもよい。これによっても、ワイヤWのワークwsへの進入深さ(従って、ワイヤWのガイドGD1,GD2内への進入深さ)に応じて、ワイヤWの加工面積が周期的に変化するから、図31に示した実施形態と同一の効果を奏する。この場合、ガイドGD2には、ワイヤWを案内する溝としての上方に開口するU字状の溝puを設けることが好適である。
また、図32に示した実施形態において、図33に示したように、一対のガイドGD1,GD1の各々に設けられた貫通孔pdの高さを互いに異ならせても良い。この場合におけるワイヤーソー加工の進行の様子の一例を図34(a)〜(d)に時系列的に示す。図34(a)〜(d)に示したように、この場合、ワイヤWの送り速度が一対のガイドGD1,GD1の間で互いに異なることになるから、ワイヤWが水平方向に対して或る角度をもってワークws内に食い込んでいく。従って、スラリーのワイヤWと切断面との隙間への供給がより確実となって、より一層円滑な切断を達成することができる。かかる図31〜図33に示した実施形態は、本発明の実施例に対応する。
ところで、かかるスラリーをワークwsに供給するスラリー供給装置は、一般に、図35に示したように、スラリーを攪拌するためのスラリー攪拌用タンク31と、スラリー攪拌用タンク31から吐出されたスラリーの流路となる吐出管32と、吐出管32から流出するスラリーを一時的に蓄えるとともにワークwsにスラリーを供給するためのスラリーだめ33とから構成されている。
このようなスラリー供給装置を使用するにあたっては、スラリー攪拌用タンク31、吐出管32、及びスラリーだめ33の少なくとも1つに対して超音波発生装置を配設し、スラリーだめ33からワークwsに供給されるスラリーに対して超音波による高周波の振動を付与することが好ましい。このようにすると、スラリー中に不可避的に発生する凝集粒子が均一な砥粒に強制的に分散せしめられ、この結果、粗い砥粒がワークwsに当たることによる同ワークwsの欠け等の不具合の発生が効果的に防止され得る。
また、加工ステージ上に、ワークwsが上記開口部分が上を向くように配設されている場合においては、上記超音波発生装置を同加工ステージに配設し、同加工ステージに超音波による高周波の振動を付与することが好ましい。この場合、超音波による加工ステージの振幅方向はワイヤWの往復運動の方向に一致させ、且つ、振幅(変動幅の半分)の大きさは、図36に示したように、ワークwsの上記開口部分の幅r(一対の保持部の間の距離)を自然数で除した値とすることが好ましい。図36(a)は、振幅が上記幅rの二分の一の場合、図36(b)は、振幅が上記幅rの四分の一の場合をそれぞれ示している。
これによると、スラリーがワークwsの内側空間に進入しやすくなり、同内側空間が上記スラリーポケットの機能を発揮することになって、より円滑なワイヤーソー加工が達成され得る。また、図37に示したように、加工ステージの振幅方向とワイヤWの往復運動方向とが一致しているから、スラリー中の砥粒TRがワイヤWとワークwsの切断面との隙間内で図中に示す方向に回転しやすくなって、より一層、同隙間へのスラリーの供給が達成され易くなる。
11…固定部、12…薄板部、13…保持部、14…圧電/電歪素子、14a1〜14a5…電極(層状の電極、電極層)、14b1〜14b4…圧電/電歪層、21a〜21f…セラミックグリーンシート、22…セラミックグリーンシート積層体、23…セラミック積層体、24…圧電/電歪層積層体、W…ワイヤ、RB1,RB2…基本ローラー、RF…ワイヤ送り用ローラー、g1〜g9…切断位置決め用環状溝、i2〜i9…中間環状溝、GD1,GD1…一対のガイド