以下、本発明に係る圧電/電歪デバイスのいくつかの実施の形態例を図1〜図7を参照しながら説明する。
まず、第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aは、圧電/電歪素子により電気的エネルギと機械的エネルギとを相互に変換する素子を包含する概念である。従って、各種アクチュエータや振動子等の能動素子、特に、逆圧電効果や電歪効果による変位を利用した変位素子として最も好適に用いられるほか、加速度センサ素子や衝撃センサ素子等の受動素子としても好適に使用され得る。
そして、この第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aは、図1に示すように、相対する一対の薄板部12a及び12bと、これら薄板部12a及び12bを支持する固定部14とが一体に形成されたセラミック基体16を具備し、一対の薄板部12a及び12bの各一部にそれぞれ圧電/電歪素子18a及び18bが形成されて構成されている。
つまり、この圧電/電歪デバイス10Aは、前記圧電/電歪素子18a及び18bの駆動によって一対の薄板部12a及び12bが変位し、あるいは薄板部12a及び12bの変位を、圧電/電歪素子18a及び18bにより検出する構成を有する。従って、図1の例では、薄板部12a及び12bと圧電/電歪素子18a及び18bにてアクチュエータ部19a及び19bが構成されることになる。このことから、一対の薄板部12a及び12bは、固定部14によって振動可能に支持された振動部として機能することになる。
更に、一対の薄板部12a及び12bは、各先端部分が内方に向かって肉厚とされ、該肉厚部分は、薄板部12a及び12bの変位動作に伴って変位する可動部として機能すると共に、物品を例えば挟持して取り付けるための物品取付部としても機能することになる。以下、一対の薄板部12a及び12bの先端部分を可動部20a及び20bと記す。
なお、可動部20a及び20bの互いに対向する端面34a及び34b間には、空隙(空気)36を介在させるようにしてもよいし、図示しないが、これら端面34a及び34bの間に可動部20a及び20bの構成部材と同じ材質、あるいは異なる材質からなる複数の部材を介在させるようにしてもよい。この場合、各可動部20a及び20bの互いに対向する端面34a及び34bは、取付面34a及び34bとしても機能することになる。
セラミック基体16は、例えばセラミックグリーン積層体を焼成により一体化したセラミック積層体で構成されている。これについては後述する。
このようなセラミックスの一体化物は、各部の接合部位に接着剤が介在しないことから、経時的な状態変化がほとんど生じないため、接合部位の信頼性が高く、かつ、剛性確保に有利な構造であることに加え、後述するセラミックグリーンシート積層法により、容易に製造することが可能である。
また、この第1の実施の形態では、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202から薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204にかけて、付加部材206が連続して配置されている。付加部材206の構成材料としては、金属又は金属を含む材料を用いることができる。
更に、この圧電/電歪デバイス10Aにおいては、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202に湾曲部210が形成され、薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204に湾曲部212が形成されている。湾曲部210及び212は、前記付加部材206と同様の構成材料を使用することができる。
そして、圧電/電歪素子18a及び18bは、後述のとおり別体として圧電/電歪素子18a及び18bを準備して、セラミック基体16に膜形成法を用いることにより、直接セラミック基体16に形成されることとなる。
この圧電/電歪素子18a及び18bは、圧電/電歪層22と前記圧電/電歪層22の両側に形成された一対の電極24及び26とを有して構成され、前記一対の電極24及び26のうち、一方の電極26が少なくとも一対の薄板部12a及び12bの上に形成されている。
また、この圧電/電歪素子18a及び18bは、圧電/電歪層22並びに一対の電極24及び26をそれぞれ多層構造とし、一方の電極24と他方の電極26が櫛歯状の断面となるようにそれぞれ互い違いに積層して構成されている。つまり、圧電/電歪素子18a及び18bは、一方の電極24と他方の電極26とがそれぞれ圧電/電歪層22を間に挟んだ多段構成とされている。もちろん、多層構造に限らず、単層構造であってもよい。
圧電/電歪素子18a及び18bは、圧電/電歪層22が4層構造とされ、特に、セラミック基体16の薄板部12a及び12b、可動部20a及び20b、並びに固定部14の各側面にかけてほぼ連続して第1の配線パターン50が形成されている。この第1の配線パターン50は、固定部14の側面において空隙40によって一方の部分24A(一方の電極24を構成する部分)と他方の部分26A(他方の電極26を構成する部分)とに分離されている。
また、前記空隙40には絶縁層42が充填されており、第1の配線パターン50における絶縁部44として機能することとなる。なお、一方の電極24には端子28が形成され、他方の電極には端子30が形成されている。
次に、この第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aの各構成要素について説明する。
可動部20a及び20bは、上述したように、薄板部12a及び12bの駆動量に基づいて作動する部分であり、圧電/電歪デバイス10Aの使用目的に応じて種々の部材が取り付けられる。例えば、圧電/電歪デバイス10Aを変位素子として使用する場合であれば、光シャッタの遮蔽板等が取り付けられ、特に、ハードディスクドライブの磁気ヘッドの位置決めや、リンギング抑制機構に使用するのであれば、磁気ヘッド、磁気ヘッドを有するスライダ、スライダを有するサスペンション等の位置決めを必要とする部材が取り付けられる。
固定部14は、上述したように、薄板部12a及び12b並びに可動部20a及び20bを支持する部分であり、例えば前記ハードディスクドライブの磁気ヘッドの位置決めに利用する場合には、VCM(ボイスコイルモータ)に取り付けられたキャリッジアーム、前記キャリッジアームに取り付けられた固定プレート又はサスペンション等に固定部14を支持固定することにより、圧電/電歪デバイス10Aの全体が固定される。また、この固定部14には、図1に示すように、圧電/電歪素子18a及び18bを駆動するための端子28及び30、その他の部材が配置される場合もある。
可動部20a及び20b並びに固定部14を構成する材料としては、剛性を有するものであれば特に限定されないが、上述したように、セラミックグリーンシート積層法を適用できるセラミックスを好適に用いることができる。
具体的には、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアをはじめとするジルコニア、アルミナ、マグネシア、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタンを主成分とする材料等が挙げられる他、これらの混合物を主成分とした材料が挙げられるが、機械的強度や靱性が高い点において、ジルコニア、特に安定化ジルコニアを主成分とする材料と部分安定化ジルコニアを主成分とする材料が好ましい。
薄板部12a及び12bは、上述したように、圧電/電歪素子18a及び18bの変位により駆動する部分である。薄板部12a及び12bは、可撓性を有する薄板状の部材であって、表面に配置された圧電/電歪素子18a及び18bの伸縮変位を屈曲変位として増幅して、可動部20a及び20bに伝達する機能を有する。従って、薄板部12a及び12bの形状や材質は、可撓性を有し、屈曲変形によって破損しない程度の機械的強度を有するものであれば足り、可動部20a及び20bの応答性、操作性を考慮して適宜選択することができる。
薄板部12a及び12bを構成する材料としては、可動部20a及び20bや固定部14と同様のセラミックスを好適に用いることができ、ジルコニア、中でも安定化ジルコニアを主成分とする材料と部分安定化ジルコニアを主成分とする材料は、薄肉であっても機械的強度が大きいこと、靱性が高いこと、圧電/電歪層や電極材との反応性が小さいことから最も好適に用いられる。
前記安定化ジルコニア並びに部分安定化ジルコニアにおいては、次のように安定化並びに部分安定化されたものが好ましい。即ち、ジルコニアを安定化並びに部分安定化させる化合物としては、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化セリウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムがあり、少なくともそのうちの1つの化合物を添加、含有させることにより、あるいは1種類の化合物の添加のみならず、それら化合物を組み合わせて添加することによっても、目的とするジルコニアの安定化は可能である。
なお、それぞれの化合物の添加量としては、酸化イットリウムや酸化イッテルビウムの場合にあっては、1〜30モル%、好ましくは1.5〜10モル%、酸化セリウムの場合にあっては、6〜50モル%、好ましくは8〜20モル%、酸化カルシウムや酸化マグネシウムの場合にあっては、5〜40モル%、好ましくは5〜20モル%とすることが望ましいが、その中でも特に酸化イットリウムを安定化剤として用いることが好ましく、その場合においては、1.5〜10モル%、更に好ましくは2〜4モル%とすることが望ましい。また、焼結助剤等の添加物としてアルミナ、シリカ、遷移金属酸化物等を0.05〜20wt%の範囲で添加することが可能であるが、圧電/電歪素子18a及び18bの形成手法として、膜形成法による焼成一体化を採用する場合は、アルミナ、マグネシア、遷移金属酸化物等を添加物として添加することも好ましい。
なお、機械的強度と安定した結晶相が得られるように、ジルコニアの平均結晶粒子径を0.05〜3μm、好ましくは0.05〜1μmとすることが望ましい。また、上述のように、薄板部12a及び12bについては、可動部20a及び20b並びに固定部14と同様のセラミックスを用いることができるが、好ましくは、実質的に同一の材料を用いて構成することが、接合部分の信頼性、圧電/電歪デバイス10Aの強度、製造の煩雑さの低減を図る上で有利である。
圧電/電歪素子18a及び18bは、少なくとも圧電/電歪層22と、該圧電/電歪層22に電界をかけるための一対の電極24及び26を有するものであり、ユニモルフ型、バイモルフ型等の圧電/電歪素子を用いることができるが、薄板部12a及び12bと組み合わせたユニモルフ型の方が、発生する変位量の安定性に優れ、軽量化に有利であるため、このような圧電/電歪デバイス10Aに適している。
前記圧電/電歪素子18a及び18bは、図1に示すように、薄板部12a及び12bの側面に形成する方が薄板部12a及び12bをより大きく駆動させることができる点で好ましい。
圧電/電歪層22には、圧電セラミックスが好適に用いられるが、電歪セラミックスや強誘電体セラミックス、あるいは反強誘電体セラミックスを用いることも可能である。但し、この圧電/電歪デバイス10Aをハードディスクドライブの磁気ヘッドの位置決め等に用いる場合は、可動部20a及び20bの変位量と駆動電圧、又は出力電圧とのリニアリティが重要とされるため、歪み履歴の小さい材料を用いることが好ましく、抗電界が10kV/mm以下の材料を用いることが好ましい。
具体的な材料としては、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス等を単独で、あるいは混合物として含有するセラミックスが挙げられる。
特に、高い電気機械結合係数と圧電定数を有し、圧電/電歪層22の焼結時における薄板部(セラミックス)12a及び12bとの反応性が小さく、安定した組成のものが得られる点において、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、及びマグネシウムニオブ酸鉛を主成分とする材料、もしくはチタン酸ナトリウムビスマスを主成分とする材料が好適に用いられる。
更に、前記材料に、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ等の酸化物等を単独で、もしくは混合したセラミックスを用いてもよい。
例えば、主成分であるジルコン酸鉛とチタン酸鉛及びマグネシウムニオブ酸鉛に、ランタンやストロンチウムを含有させることにより、抗電界や圧電特性を調整可能となる等の利点を得られる場合がある。
なお、シリカ等のガラス化し易い材料の添加は避けることが望ましい。なぜならば、シリカ等の材料は、圧電/電歪層22の熱処理時に、圧電/電歪材料と反応し易く、その組成を変動させ、圧電特性を劣化させるからである。
一方、圧電/電歪素子18a及び18bの一対の電極24及び26は、室温で固体であり、導電性に優れた金属で構成されていることが好ましく、例えばアルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、鉛等の金属単体、もしくはこれらの合金が用いられ、更に、これらに圧電/電歪層22あるいは薄板部12a及び12bと同じ材料を分散させたサーメット材料を用いてもよい。
圧電/電歪素子18a及び18bにおける電極24及び26の材料選定は、圧電/電歪層22の形成方法に依存して決定される。例えば薄板部12a及び12b上に一方の電極24を形成した後、前記電極24上に圧電/電歪層22を焼成により形成する場合は、一方の電極24には、圧電/電歪層22の焼成温度においても変化しない白金、パラジウム、白金−パラジウム合金、銀−パラジウム合金等の高融点金属を使用する必要があるが、圧電/電歪層22を形成した後に、前記圧電/電歪層22上に形成される最外層の他方の電極26は、低温で電極形成を行うことができるため、アルミニウム、金、銀等の低融点金属を主成分として使用することができる。
また、電極24及び26の厚みは、少なからず圧電/電歪素子18a及び18bの変位を低下させる要因ともなるため、特に圧電/電歪層22の焼成後に形成される電極には、焼成後に緻密でより薄い膜が得られる有機金属ペースト、例えば金レジネートペースト、白金レジネートペースト、銀レジネートペースト等の材料を用いることが好ましい。
そして、この第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aは、超音波センサや加速度センサ、角速度センサや衝撃センサ、質量センサ等の各種センサに好適に利用でき、端面34a及び34bないし薄板部12a及び12b間に取り付けられる物体のサイズを適宜調整することにより、センサの感度調整が容易に行えるという更なる利点がある。
また、圧電/電歪デバイス10Aの製造方法においては、セラミック積層体の表面に圧電/電歪素子18a及び18bを形成する方法として、上述したスクリーン印刷法のほかに、ディッピング法、塗布法、電気泳動法等の厚膜形成法や、イオンビーム法、スパッタリング法、真空蒸着、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、めっき等の薄膜形成法を用いることができる。
このような膜形成法を用いて圧電/電歪素子18a及び18bを形成することにより、接着剤を用いることなく、圧電/電歪素子18a及び18bと薄板部12a及び12bとを一体的に接合、配置することができ、信頼性、再現性を確保できると共に、集積化を容易にすることができる。
この場合、厚膜形成法により圧電/電歪素子18a及び18bを形成することが好ましい。特に、圧電/電歪層22の形成において厚膜形成法を用いれば、平均粒径0.01〜5μm、好ましくは0.05〜3μmの圧電セラミックスの粒子、粉末を主成分とするペーストやスラリー、又はサスペンションやエマルジョン、ゾル等を用いて膜化することができ、それを焼成することによって良好な圧電/電歪特性を得ることができるからである。
なお、電気泳動法は、膜を高い密度で、かつ、高い形状精度で形成できるという利点がある。また、スクリーン印刷法は、膜形成とパターン形成とを同時にできるため、製造工程の簡略化に有利である。
また、セラミック積層体を切除する方法としては、ダイシング加工、ワイヤソー加工等の機械加工のほか、YAGレーザ、エキシマレーザ等のレーザ加工や電子ビーム加工を適用することが可能である。
このように、第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイスにおいては、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202から薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204にかけて、金属又は金属を含む材料で構成された付加部材206を連続して配置するようにしている。
通常、セラミックスは圧縮応力には高い破壊強度を持っているが、引張応力に対しては低い。一方、金属は逆に引張応力に対しては高い破壊強度を持っているが、圧縮応力に対しては屈曲する等、変形しやすく形状を維持する強度が低い。但し、セラミックスのように割れてしまうようなことはない。つまり、金属は弾性変形しやすく破壊に至るまでの弾性変形の許容量がセラミックスに比べて大きいという性質を有する。従って、2つの材料(セラミックスと金属)を合わせることで両方の欠点を互いに補うことができ、高い強度を確保することができる。
更に、表面に金属を配置することで、引張応力に対して金属が弾性変形し、応力を吸収することから、破壊限界が高くなり、セラミックスが表面に露出している場合と比べて破壊強度が高くなり、特に、耐衝撃性を高めることができる。
この第1の実施の形態では、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202から薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204にかけて付加部材206を連続して配置していることから、この付加部材206を金属にて構成することにより、上述の作用効果を得ることができる。即ち、通常、接合部分202及び204で応力集中が発生するが、セラミックスよりも柔らかい付加部材206が伸縮することで前記応力集中による衝撃を吸収し、耐衝撃性を高めることができる。
付加部材206を弾性率の高い金属にて構成した場合は、上述の耐衝撃性を高める上で有利であるが、セラミック基体16から剥離するおそれがある。そこで、付加部材206の構成材料としては、上述した金属のほかに、金属を含むサーメットによって構成するようにしてもよい。この場合、セラミックスとの接合強度が高いため、剥離の心配はない。
つまり、付加部材206を構成する材料は、(1)金属のようにセラミックスより弾性率が高いこと、(2)セラミック基体16の主材料であるセラミックスと熱膨張率が近似していること、(3)セラミックスとの付着強度(接合強度)が高いこと、が求められ、このような特性を有する材料としては、セラミック基体16の構成材料(セラミックス)と金属とのサーメットが挙げられる。
金属は、高温でセラミックスと同時焼成できるPtなどの貴金属系が好ましいが、チタン、クロム、ニッケル等であってもよい。セラミックスはジルコニアが好ましい。
ここで、サーメット中の金属の比率が低いとセラミックスとの接合強度は高くなるが、金属としての性質が乏しくなるため、強度の向上があまり望めなくなる。このことから、金属の比率が高く、セラミックスとの接合強度が確保できる条件が好ましい。従って、サーメットの配合比は、体積比でセラミックスを1としたとき、金属は0.5〜1が好ましく、更に好ましくは0.7〜0.9である。
上述のような付加部材206を有する圧電/電歪デバイス10Aを作製するには、セラミックグリーンシートを積層して得られるセラミックグリーン積層体を作製する過程において、後に付加部材206となるサーメットペーストをパターン印刷する工程を追加するだけで済む。
即ち、薄板部12a及び12bにあたるグリーンシートを、金型を用いた打抜き加工やレーザ加工等の方法で所定の形状に加工した後、薄板部12a及び12bの裏面となる面(一対の薄板部12a及び12bが互いに対向する面)のうち、所定位置(この場合、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202と、薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204に相当する位置)に、所定厚みのサーメットペーストによるパターンをスクリーン印刷を用いて形成する。
印刷以外の方法としては、マスキングを用いてスプレーによりパターン形成したり、あるいはサーメットのグリーンシートを作製し、打抜き加工して付加部材として積層して形成するようにしてもよい。
ここで、サーメットペーストの厚さは0.003〜0.07mmが好ましく、より好ましくは0.005〜0.01mmである。0.03mmよりも薄いと破壊強度を向上させる効果が乏しくなり、0.07mmよりも厚いと薄板部12a及び12b全体が厚くなりすぎて、変位量が小さくなるという弊害が起こるからである。従って、サーメットペーストを形成する部分におけるセラミック部分の厚みと、形成するサーメットペーストの厚みを適宜調整して、破壊強度とのバランスを考慮しつつ圧電/電歪デバイス10Aとしての特性を最適化することが好ましい。
付加部材206のうち、接合部分202及び204に進入させる長さ(進入長さ)は、薄板部12a及び12bの厚さ(セラミック部分の厚さ)以上が好ましい。前記進入長さが短すぎると、パターン印刷や積層時における位置合わせ精度が厳しくなり、歩留まりが低下するおそれがあるからである。
また、この第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイスにおいては、前記湾曲部210及び212の存在により、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202並びに薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204での応力集中点をなくすことができ、耐衝撃性を高めることができる。湾曲部210及び212の曲率半径Rは5μm以上であり、好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。
上述のような湾曲部210及び212を有する圧電/電歪デバイス10Aを作製するには、サーメットペーストの塗布方法を利用する。即ち、グリーンシートを積層した状態で角部(前記接合部分202及び204)にサーメットペーストを塗布あるいはディップすることで、該サーメットペーストが表面張力によって湾曲形状になることを利用して、上述の湾曲部210及び212を形成する。その後、グリーンシートを積層してセラミックグリーン積層体58を作製し、焼成することにより、図1及び図2に示すように、湾曲部210及び212を有するセラミック基体16を得ることができる。
他の方法としては、まず、セラミック基体16を作製した後、あるいはその途中工程で、湾曲部210及び212とすべき部分にサーメットペースト等を注入して、前記接合部分202及び204に湾曲部210及び212を形成するようにしてもよい。
更に、この第1の実施の形態では、セラミック基体16を構成する場合に、例えば図1に示すように、固定部14の内壁のうち、薄板部12a及び12b近傍にそれぞれ切込み(切欠き)200を形成するようにしている。これにより、一対の薄板部12a及び12bの長さが実質的に長くなり、変位量を大きくとることができると共に、薄板部12a及び12bが撓みやすくなるため、消費電力の低減化も図ることができる。
また、圧電/電歪素子18a及び18bにおける第1の配線パターン50をそれぞれ薄板部12a及び12bの上端まで延在させて形成するようにしたので、薄板部12a及び12bの裏面からのセラミックスの破壊(亀裂の発生や破損等)を回避できることに加えて、薄板部12a及び12bの表面(側面)からのセラミックスの破壊を回避することができる。
なお、図3の変形例に係る圧電/電歪デバイス10Aaのように、固定部14に切欠き200を設けないようにしてもよい。特に、図3の例での固定部14は、第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aの固定部14の一部を切欠き200の底部を基準に切断したような形状を有する。この場合、圧電/電歪デバイス10Aaの小型、軽量化に有利になると共に、固定部14の載置面積が狭い場合に有利となる。
次に、第2の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Bは、図4に示すように、上述した図2に示す第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aとほぼ同様の構成を有するが、薄板部12a及び12bの側面のうち、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202と対応する箇所に補強材216が配置されている点で異なる。補強材216の存在により、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202での剛性を高めることができ、耐衝撃性を高めることができる。補強材216は、付加部材206と同様の構成材料を使用することができる。
補強材216を配置する方法としては、セラミック基体16とした後に、例えばスクリーン印刷で補強材216のペーストを印刷し、焼成するか、あるいは、積層したセラミックグリーン積層体58の所定位置に補強材216のペーストを印刷し、その後、焼成してセラミック基体16としてもよい。
次に、第3の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Cは、図5に示すように、上述した第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aとほぼ同様の構成を有するが、可動部20a及び20bのうち、固定部14に対向する部分が階段状に形成され、各取付面34a及び34bに段差218を有する点と、固定部14の内壁のうち、薄板部12a及び12b近傍にそれぞれ切込み(切欠き)220が形成されている点で異なる。
このように構成することにより、薄板部12a及び12bと可動部20a及び20bとの接合部分202並びに薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204での応力集中点を増やし、分散させることで、1箇所に集中する応力を小さくすることができ、耐衝撃性を高めることができる。
そして、段差218の数としては2以上が好ましい。また、図5において、段差218の高さHは薄板部12a及び12bの厚さd以下がよく、好ましくはd/2以下であるとよい。具体的には2μm〜100μmの範囲がよく、好ましくは5μm〜70μmの範囲であるとよい。
また、図5において、段差218の長さLは、d/2以上がよく、具体的には、2μm以上、好ましくは10μm以上、更に好ましくは50μm以上であるとよい。長すぎると変位の低下が引き起こされるが、逆に共振周波数が高くなる傾向にある。
上述のような段差218を有する圧電/電歪デバイス10Cを作製するには、グリーンシートに部分印刷でパターンを形成し、その後、グリーンシートを積層してセラミックグリーン積層体を作製し、該セラミックグリーン積層体を焼成することによってセラミック基体16を作製するという方法が好ましく採用される。
次に、第4の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Dは、図6に示すように、上述した第1の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Aとほぼ同様の構成を有するが、薄板部12a及び12bの先端部分が肉厚になっておらず、該先端部分の厚みと薄板部12a及び12bの中間部分の厚みがほぼ同じになっている点と、付加部材206が薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204のみに形成されている点と、付加部材206が、薄板部12a及び12bの先端から薄板部12a及び12bと固定部14との接合部分204にかけて薄板部12a及び12bの裏面に沿って連続して形成されている点と、付加部材206の先端部分に1以上の突起部224が形成されている点で異なる。
突起部224は破壊強度の向上には直接関係しないが、薄板部12a及び12bの先端部分に物品を例えば接着剤にて固定する場合に、該接着剤の流れ落ちを防止することができ、物品を確実に薄板部12a及び12bの先端部分に取り付けることができる。
図6では、突起部224を1つの薄板部12a又は12bに対して2つ設けた場合を示したが、その他、3つ以上設けてもよいし、図7の第5の実施の形態に係る圧電/電歪デバイス10Eに示すように、1つだけ設けるようにしてもよい。
上述した圧電/電歪デバイス10A、10Aa、10B〜10Eによれば、各種トランスデューサ、各種アクチュエータ、周波数領域機能部品(フィルタ)、トランス、通信用や動力用の振動子や共振子、発振子、ディスクリミネータ等の能動素子のほか、超音波センサや加速度センサ、角速度センサや衝撃センサ、質量センサ等の各種センサ用のセンサ素子として利用することができ、特に、光学機器、精密機器等の各種精密部品等の変位や位置決め調整、角度調整の機構に用いられる各種アクチュエータに好適に利用することができる。
なお、この発明に係る圧電/電歪デバイスは、上述の実施の形態に限らず、この発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。