JP4390295B2 - 弁開閉時期制御装置 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の動弁装置において吸排気弁の開閉時期を制御するために使用される弁開閉時期制御装置に関する。
【０００２】
【従来の技術】
この種の弁開閉時期制御装置の１つとして、弁開閉用の回転軸に所定範囲で相対回転可能に外装されクランク軸のクランクスプロケット又はプーリからの回転動力が伝達される回転伝達部材と、前記回転軸に取り付けられた複数のベーンと、前記回転伝達部材に設けられた突部と前記回転軸との間に形成され前記ベーンによって進角用室と遅角用室とに夫々二分される複数の流体圧室と、前記進角用室に流体を給排する第１流体通路と、遅角用室に流体を給排する第２流体通路と、前記回転軸と前記回転伝達部材の相対位相が所定の位相である時に前記回転軸と前記回転伝達部材の相対位相を保持する位相保持機構とを備えたものがあり、例えば、特開平１−９２５０４号公報や特開平９−２５０３１０号公報に開示されている。
【０００３】
上記した各公報に開示されている弁開閉時期制御装置においては、第１流体通路を介して進角用室へ作動流体を供給すると共に第２流体通路を介して遅角用室から作動油を排出することにより、回転軸が回転伝達部材に対してベーンが突部の進角側の周方向端面に当接する最進角位置までの任意な位置に進角方向へ回転して弁開閉時期が早められ、第２流体通路を介して遅角用室へ作動流体を供給すると共に第１流体通路を介して進角用室から作動油を排出することにより、回転軸が回転伝達部材に対してベーンが突部の遅角側の周方向端面に当接する最遅角位置までの任意な位置に遅角方向へ回転して弁開閉時期が遅らされる。
【０００４】
また、上記した各公報に開示されている弁開閉時期制御装置においては、回転伝達部材から回転軸への回転伝達経路に流体圧室及びベーンが介在していることから、内燃機関の運転中、回転軸には常に遅角方向への力が作用しており、内燃機関の停止時に流体圧室への作動油の供給が停止されると、流体圧室の油圧によってベーンを保持できなくなり、回転軸は回転伝達部材に対して遅角方向へ回転し、回転軸と回転伝達部材の相対位相はベーンが突部の遅角側の周方向端面に当接する最遅角位置での位相となる。この状態にて内燃機関が始動されると、流体圧室の油圧が上昇し該油圧によりベーンを保持することができるようになるまでは不安定な状態となり、回転軸に生じる変動トルクによってベーンが振動し、突部の周方向端面と衝突して打音が生じたりするので、これを回避するために、位相保持機構により回転軸と回転伝達部材との相対位相が最遅角位置にて保持されるようになっている。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、内燃機関の高速回転域では、ピストンが上死点に向かい始めても、吸気が慣性により更にシリンダ内へ入り込もうとするため、吸気弁の閉時期を遅らせることにより体積効率が向上して内燃機関の出力向上を図ることができる。
【０００６】
しかしながら、上記した各公報に開示される弁開閉時期制御装置を吸気弁の開閉時期を制御するために用いる場合には、最遅角位置での弁開閉時期は、上記したように内燃機関の始動時に吸気が可能な時期に設定される必要があるため、高速回転域において吸気弁の閉時期を遅らせて吸気の慣性による体積効率の向上を図ることができない。これは、最遅角位置での弁開閉時期を吸気の慣性による体積効率の向上が可能な時期に設定すると、最遅角位置での内燃機関の始動時に、ピストンが下死点を過ぎ上死点に向かい始めても吸気弁が開いていて、また吸気に慣性がないため、一度吸入した吸気が逆流して排出してしまい、圧縮比が上がらずに、燃焼ができない状態が発生し、内燃機関の始動が困難となるからである。尚、この問題は、最遅角位置での弁開閉時期を吸気の慣性による体積効率の向上が可能な時期に設定しなくても、上記した各公報に開示される弁開閉時期制御装置にように、最遅角位置での弁開閉時期を始動時に吸気が可能な時期に設定した場合であっても、吸気弁の閉時期がピストンの下死点後に設定されていると、気圧の低い高所等では発生しやすい。
【０００７】
また、上記した各公報に開示される弁開閉時期制御装置を排気弁の開閉時期を制御するために用いる場合にも、排気弁の閉時期を同様に遅らせると、吸気弁と排気弁のオーバーラップ期間が長くなり、内部ＥＧＲ量（排気ガス再循環量）が増大して内燃機関の始動性の低下を招く。
【０００８】
これら問題を解消すべく、回転軸と回転伝達部材との相対位相が吸気の慣性による体積効率の向上が可能な弁開閉時期に対応する最遅角位置よりも所定角度だけ進角した中間位置にて位相保持機構により保持されるようにした弁開閉時期制御装置が特開平９−３２４６１３号公報に提案されている。しかしながら、この装置においては、内燃機関の停止時に上記したように回転軸が回転伝達部材に対して遅角方向へ回転する際、回転軸と回転伝達部材の相対位相が所定の中間位置になるのは一瞬であるため、位相保持機構により所定の中間位置に回転軸と回転伝達部材の相対位相を保持することができない場合があり、内燃機関の始動不良を確実に防止することはできない。
【０００９】
それゆえ、本発明は、内燃機関の始動不良を確実に防止しつつ、その可変制御領域を拡大させることができる弁開閉時期制御装置を提供することを、その課題とする。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために講じた本発明の技術的手段は、内燃機関のカムシャフトと共に回転する回転部材と、該回転部材に所定範囲で相対回転可能に外装されクランクシャフトと共に回転する回転伝達部材と、前記回転部材に設けられたベーンと、前記回転部材と前記回転伝達部材との間に形成され前記ベーンによって進角用室と遅角用室とに二分される流体圧室とを備え、前記進角用室及び前記遅角用室へ印加される流体圧によって前記回転部材と前記回転伝達部材が相対回転し、前記クランクシャフトの回転位相に対する前記カムシャフトの回転位相が変更させられることによって前記カムシャフトにより駆動される弁の開閉時期を変更する弁開閉時期制御装置において、前記回転部材を前記カムシャフトと共に回転する第１回転部材と、前記ベーンが設けられると共に前記第１回転部材に外装されて前記回転伝達部材との間に前記流体圧室を形成する第２回転部材とから構成し、前記第１回転部材と前記第２回転部材との間に、前記第１回転部材と前記第２回転部材とを所定角度だけ相対回転させると共に、内燃機関の始動時に、前記回転伝達部材に対して最遅角位相にある前記第２回転部材に対して前記第１回転部材を最進角位置にする相対回転駆動機構を設けたことである。
【００１１】
上記した手段によれば、内燃機関の停止時に流体圧室への作動流体の供給が停止されると、流体圧室の流体圧によってベーンを保持できなくなり、回転部材は回転伝達部材に対して遅角方向へ回転するものの、内燃機関の始動時には相対回転駆動機構により第１回転部材と第２回転部材とが所定角度だけ相対回転されてクランクシャフトの回転位相に対するカムシャフトの回転位相が所定角度だけ進角される。これにより、内燃機関の始動時の弁開閉時期が最遅角位置から所定角度だけ進角した相対位相時に得られるので、最遅角位置では中間的な相対位相時よりも更に弁の開閉時期を遅らせることができ、吸気の慣性を利用して体積効率の向上を図ることが可能となると共に、始動時の弁開閉時期を進角させることができ、圧縮比低下による内燃機関の始動不良を防止することが可能となる。
【００１２】
上記した手段においては、前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相が所定の位相である時に前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相を保持する位相保持機構を備えると共に、前記相対回転駆動機構が前記第１回転部材の外周に形成される外歯と前記第２回転部材の内周に形成される内歯に夫々噛合する内歯及び外歯をその内外周に有し、その両端面に付与される前記進角用室の流体圧及び前記遅角用室の流体圧によって軸方向に移動可能な制御ピストンと、該制御ピストンを軸方向一側に常時付勢する付勢部材とから構成され、互いに噛合する前記第１回転部材の外歯と前記制御ピストンの内歯及び前記第２回転部材の内歯と前記制御ピストンの外歯の少なくとも一方が前記制御ピストンの軸方向一側への移動により前記第１回転部材と前記第２回転部材とを所定角度だけ相対回転するようにヘリカル形状に形成されていることが望ましい。また、前記位相保持機構は、前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相が、前記ベーンにより前記進角用室の容積が最小とされる最大遅角状態における相対位相を保持することが望ましい。
【００１３】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に従った弁開閉時期制御装置の実施形態を図面に基づき、説明する。
【００１４】
図１乃至図５において、弁開閉時期制御装置は、内燃機関のシリンダヘッド７０に回転自在に支持されたカムシャフト１０の先端部（図１の左端）に一体的に組付けた第１内部ロータ２０と該第１内部ロータ２０に相対回転可能に外装された第２内部ロータ３０とからなりカムシャフト１０と共に回転する回転部材と、第２内部ロータ３０に所定範囲で相対回転可能に外装された外部ロータ５０、フロントプレート４０、リアプレート６０及びリアプレート６０の外周に一体的に設けたタイミングスプロケット６１から成る回転伝達部材と、第２内部ロータ３０に組付けた４枚のベーン９０と、外部ロータ５０に組付けたロック機構（位相保持機構）１１０と、第１内部ロータ２０と第２内部ロータ３０との間に配設される制御ピストン８０等からなる相対回転駆動機構等によって構成されている。尚、タイミングスプロケット６１には、周知のように、図示省略したクランクシャフトからクランクスプロケットとタイミングチェーンを介して図２、図４及び図５の時計方向に回転動力が伝達されるように構成されている。
【００１５】
カムシャフト１０は、吸気弁を開閉する図示しない周知のカムを有していて、内部にはカムシャフト１０の軸方向に延びる進角通路１１及び遅角通路１２が設けられている。遅角通路１２は、カムシャフト１０に設けた取付ボルト１６用の取付孔内に形成されていて、カムシャフト１０に設けた径方向の通路１３及び環状溝１４とシリンダヘッド７０に設けた接続通路７２を通して制御弁１００の接続ポート１０１ｂに接続されている。進角通路１１は、カムシャフト１０に設けた環状溝１５とシリンダヘッド７０に設けた接続通路７１を介して制御弁１００の接続ポート１０１ａに接続されている。
【００１６】
制御弁１００は、ソレノイド１０２へ通電することによりハウジング内に軸方向に移動可能に嵌挿されたスプール１０１をスプリング１０３に抗して図１の左方向へ移動できるものであり、非通電時には当該内燃機関によって駆動されるオイルポンプＰに接続された供給ポート１０１ｃが接続ポート１０１ｂに連通すると共に、接続ポート１０１ａが排出ポート１０１ｄに連通するように、また通電時には供給ポート１０１ｃが接続ポート１０１ａに連通すると共に、接続ポート１０１ｂが排出ポート１０１ｄに連通するように構成されている。このため、切換弁１００のソレノイド１０２の非通電時には遅角通路１２に作動油が供給され、ソレノイド１０２の通電時には進角通路１１に作動油が供給され、ソレノイド１０２への通電が図示しない制御装置によりデューティ制御される。
【００１７】
接続通路７２は、分岐通路７３を介してドレンに連通されていて、該分岐通路７３中には分岐通路７３の連通を開閉可能な開閉弁１２０が介装されている。開閉弁１２０は、ソレノイド１２２へ通電することによりハウジング内に軸方向に移動可能に嵌挿されたスプール１２１をスプリングに抗して図１の左側へ移動できるものであり、非通電時には分岐通路７３を介した接続通路７２とドレンの連通を遮断し、通電時には接続通路７２を分岐通路７３を介してドレンに連通するように構成されている。尚、ソレノイド１２２への通電は図示しない制御装置によりオン・オフ制御される。
【００１８】
第１内部ロータ２０は、大径部２０ａ及び小径部２０ｂを有する段付状の円筒状を呈し、単一の取付ボルト１６によってカムシャフト１０に一体的に固着されている。第１内部ロータ２０は、カムシャフト１０の先端面に対向する大径部２０ａの一端面に形成され進角通路１１に連通する環状溝２１と、該環状溝２１から軸方向に他端面側に軸対象に延び大径部２０ａと小径部２０ｂ間の段部に貫通する２つの通路２２と、大径部２０ａの外周面に形成され通路２２に連通する環状溝２３と、大径部２０ａ側に位置する小径部２０ｂの外周面に形成されたヘリカル状の外歯２４を有している。
【００１９】
第２内部ロータ３０は、第１内部ロータ２０の大径部２０ａの外周面上にその内周面の軸方向一側が相対回転可能に摺接するように外装されていて、４枚の各ベーン９０を夫々径方向に移動可能に取り付けるためのベーン溝３０ａを有すると共に、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が後述する所定の位相で同期したときロック機構１１０のロックピン１１１の頭部が所定量嵌入される受容孔３４と、この受容孔３４に進角通路１１から作動油を給排するように受容孔３４と環状溝２３を連通する通路３５と、各ベーン９０によって区画された進角用室Ｒ１に進角通路１１から作動油を給排するように環状溝２３と各進角用室Ｒ１を連通する通路３１と、カムシャフト１０側とは反対側の端面に形成され、その一端側が各ベーン９０によって区画された遅角用室Ｒ２に夫々開口するように径方向外方に延び、その他端側が周方向一側に延びる屈曲した４つの溝通路３２を有している。尚、各溝通路３２の他端側は同一円周上を周方向一側に延在するように形成されている。また、第２内部ロータ３０の内周面の軸方向他側には、第１内部ロータ２０の小径部２０ｂ上に設けられた外歯２４と対向するヘリカル状の内歯３３が形成されている。尚、第２内部ロータ３０の軸長は第１内部ロータ２０の軸長よりも短くされていて、図１及び図３に示すように、第２内部ロータ３０のカムシャフト１０側とは反対側の端面より第１内部ロータ２０の小径部２０ｂが突出している。また、各ベーン９０は、ベーン溝３０ａの底部に収容したベーンスプリング９１によって径方向外方に付勢されている。
【００２０】
外部ロータ５０は、第２内部ロータ３０の外周に所定範囲で相対回転可能に組付けられていて、その両側にはフロントプレート４０とリアプレート６０が接合され、貫通孔を貫通する４本の連結ボルト４５によって一体的に連結されている。また、外部ロータ５０の内周には所定の周方向間隔で４個の突部５１が径方向内方に向けて夫々突出形成されていて、これら突部５１の内周面が第２内部ロータ３０の外周面に摺接する構成で外部ロータ５０が第２内部ロータ３０に回転自在に支承されており、一つの突部５１にはロックピン１１１とスプリング１１２を収容する退避孔５２が外部ロータ５０の径方向に形成されている。
【００２１】
フロントプレート４０は、第２内部ロータ３０のカムシャフト１０側とは反対側の端面より突出する第１内部ロータ２０の小径部２０ｂを包囲するように軸方向に延びる円筒部４１を有し、該円筒部４１の先端には径方向内方に延び、その内周面がシール部材４３を介して第１内部ロータ２０の小径部２０ｂの外周面に液密的に摺接するフランジ部４２が形成されている。
【００２２】
各ベーン９０は、先端の断面形状が円弧形状であり、両プレート４０、６０間にて第２内部ロータ３０のベーン溝３０ａに径方向に移動可能に取り付けられていて、外部ロータ５０と、外部ロータ５０の各突部５１と、第２内部ロータ３０と、フロントプレート４０と、リアプレート６０との間に形成される流体圧室Ｒ０を進角用室Ｒ１と遅角用室Ｒ２とに二分しており、外部ロータ５０に形成した突部５１の互いに対向する周方向端面に各ベーン９０が当接することにより、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０間の相対回転角度が制限されるようになっている。
【００２３】
ロックピン１１１は、退避孔５２内に軸方向へ摺動可能に組み付けられていて、スプリング１１２によって第２内部ロータ３０に向けて付勢されている。スプリング１１２はロックピン１１１とリテーナ１１３間に介装されていて、リテーナ１１３は退避孔５２内にてスナップリング１１４により抜け止め固定されている。
【００２４】
第１内部ロータ２０の小径部２０ｂとフロントプレート４０の円筒部４１との間に形成される円筒空間４６には、カムシャフト１０の反対側のその一端側の内周面がシール部材８４を介して第１内部ロータ２０の小径部２０ｂ外周面を液密的に摺接し、その一端側の外周に形成される外周フランジ８１が円筒部４１の内周面を摺接する制御ピストン８０が軸方向に移動可能に配設されている。これにより、第１内部ロータ２０の小径部２０ｂに形成される径方向通路２５を介して遅角通路１２に連通されると共にフロントプレート４０の円筒部４１及びフランジ部４２に形成される４つの通路４４を介して第２内部ロータ３０の各溝通路３２の他端側に連通される第１圧力室４７と、通路２２を介して進角通路１１に連通される第２圧力室４８とが円筒空間４６内に区画形成されている。制御ピストン８０の他端側（カムシャフト１０側）の内外周面には、第１内部ロータ２０の外歯２４と第２内部ロータ３０の内歯３３に夫々常時噛合するヘリカル状の内歯８３及び外歯８２が形成されていて、これにより制御ピストン８０の第１及び第２圧力室４７、４８間の圧力差に応じた軸方向移動により第１及び第２内部ロータ２０、３０間が所定角度だけ相対回転されるようになっている。また、第２内部ロータ３０の端面と制御ピストン８０の外周フランジ部８１との間には、スプリング８６が介装されていて、これにより制御ピストン８０一端側端面に周方向に複数個突設されたストッパ部８５がフロントプレート４０のフランジ部４２に当接する側に常時付勢されている。
【００２５】
本実施形態においては、制御ピストン８０がスプリング８６によりストッパ部８５がフランジ部４２に当接する図１に示す第１位置にある時には、図２に示すようにカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して所定角度αだけ進角側（時計方向）に相対回転し、制御ピストン８０が第１圧力室４７の油圧によりスプリング８６に抗してカムシャフト１０側に移動し、制御ピストン８０の他端が第１内部ロータ２０の段部に当接する図３に示す第２位置にある時には、図４に示すように第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して図２に示す位置から所定角度αだけ遅角側（反時計方向）に相対回転するように、各内歯３３、８２、各外歯２４、８３のヘリカル形状（向き及び角度）が設定されている。この所定角度αは、後述する最大遅角位置からカムシャフト１０が進角側へ相対回転し、図示しない吸気弁の開閉時期が内燃機関の始動が可能な時期になるように設定されている。また、本実施形態においては、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、各ベーン９０が各突部５１の遅角側の周方向端面に当接する位置（第２内部ロータ３０が外部ロータ５０に対して最も遅角側に回転した位置）にあるとき、退避孔５２と受容孔３４が同期し、ロックピン１１１の頭部が受容孔３４に嵌入可能であるようになっている。
【００２６】
上記のように構成した本実施形態の弁開閉時期制御装置においては、内燃機関が始動され各進角用室Ｒ１及び各遅角用室Ｒ２並びに、第１圧力室４７及び第２圧力室４８に所定油圧が供給される中間位相でのバランス状態（各進角用室Ｒ１内の進角油圧による押圧力が、各遅角用室Ｒ２内の遅角油圧による押圧力と、外部ロータ５０から第２内部ロータ３０への回転伝達経路に流体圧室Ｒ０及びベーン９０が介在していることから第２内部ロータ３０に常に作用している遅角方向への力との和とバランスし、且つ、第１圧力室４７内の遅角油圧による押圧力が、第２圧力室４８内の進角油圧による押圧力とスプリング８６の付勢力との和とバランスしている状態）において、内燃機関の運転状態に応じて、制御弁１００のソレノイド１０２へ供給される電流のデューティ比を高くすることにより、進角通路１１と通路２２、３１を通して各進角用室Ｒ１に作動油が供給され、又進角通路１１と通路２２を通して第２圧力室４８に作動油が供給されると共に、各遅角用室Ｒ２から各通路３２、４４、２５と遅角通路１２と制御弁１００等を通して作動油が排出され、又第１圧力室４７から通路２５と遅角通路１２と制御弁１００等を通して作動油が排出されると、第２内部ロータ３０と各ベーン９０が外部ロータ５０、両プレート４０、６０等に対して進角側（図２の時計方向）に相対回転し、この相対回転量（θ）は、図５に示すように、各ベーン９０が各突部５１の進角側の周方向端面に当接することにより制限される。一方、制御ピストン８０はストッパ部８５がフランジ部４２に当接する第１位置（図１）に位置されて、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０は第２内部ロータ３０に対して所定角度αだけ進角側（時計方向）に相対回転される。この結果、図５に示すようにカムシャフト１０（第１内部ロータ２０）は、外部ロータ５０（クランクシャフト）に対してθ＋αだけ進角側に相対回転され、図示しない吸気弁の開閉時期が最大進角される。
【００２７】
また、制御弁１００のソレノイド１０２へ供給される電流のデューティ比を低くすることにより、遅角通路１２と各通路２５、４４、３２を通して各遅角用室Ｒ２に作動油が供給され、又遅角通路１２と通路２５を通して第１圧力室４７に作動油が供給されると共に、各進角用室Ｒ１から各通路３１、２２と進角通路１１と制御弁１００等を通して作動油が排出され、又第２圧力室４８から通路２２と進角通路１１と制御弁１００等を通して作動油が排出されると、第２内部ロータ３０と各ベーン９０が外部ロータ５０、両プレート４０、６０等に対して遅角側（図２の反時計方向）に相対回転し、この相対回転量は、図４に示すように、各ベーン９０が各突部５１の遅角側の周方向端面に当接することにより制限される。一方、制御ピストン８０は制御ピストン８０の他端が第１内部ロータ２０の段部に当接する第２位置（図３）に位置されて、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０は第２内部ロータ３０に対して図２に示す相対位置から所定角度αだけ遅角側（反時計方向）に相対回転される。この結果、図５に示す最大進角位置から図４に示すようにカムシャフト１０（第１内部ロータ２０）は、外部ロータ５０（クランクシャフト）に対してθ＋αだけ遅角側に相対回転され、図示しない吸気弁の開閉時期が最大遅角される。尚、この位相変換制御中（最大遅角状態時を除く）は、受容孔３４に通路３５を通して設定圧以上の油圧（上記した所定油圧よりも低い油圧）が供給されており、ロックピン１１１がスプリング１１２に抗して移動し、ロックピン１１１の頭部が受容孔３４から退避孔５２に退避して、ロックピン１１１によるロックが解除されている。また、上記した位相変換制御中、開閉弁１２０は非通電状態にあり、接続通路７２を分岐通路７３を介してドレンに連通していない。
【００２８】
内燃機関の停止時には、オイルポンプＰの駆動が停止されて流体圧室Ｒ０への作動油の供給が停止されると共に、制御弁１００が非通電状態とされる。これにより、進角用室Ｒ１内の進角油圧による押圧力と遅角用室Ｒ２内の遅角油圧による押圧力がベーン９０に作用しなくなり、第２内部ロータ３０には、上記した遅角方向への力（内燃機関のクランク軸が完全に停止するまでの間）のみが作用しており、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相に応じて停止時の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が決まることになる。この時、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、退避孔５２と受容孔３４が同期する所定位相（最大遅角位置）にあれば、スプリング１１２によりロックピン１１１の頭部が受容孔３４内に嵌入し、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が保持（ロック）される。また、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、退避孔５３と受容孔３４が同期する所定位相よりも進角側にある場合（例えば、図５に示す最大進角位置の時）には、上記した遅角方向への力により第２内部ロータ３０が外部ロータ５０に対して遅角側へ移動するが、各ベーン９０が各突部５１に当接することにより、所定位相に規制されてスプリング１１２によりロックピン１１１の頭部が受容孔３４内に嵌入し、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が保持（ロック）される。
【００２９】
一方、制御ピストン８０は、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が退避孔５２と受容孔３４が同期する所定位相（最大遅角位置）にあるときには、図３に示す第２位置にあり、この状態にてオイルポンプＰが停止されると第１圧力室４７は制御弁１００及びオイルポンプＰを介してドレンに連通され、制御ピストン８０はスプリング８６により第１位置に向けて移動しようとする。しかしながら、この時には第２内部ロータ３０は外部ロータ５０とロックピン１１１により結合され、図示しないクランクシャフトと同位相で連結されており、またカムシャフト１０は図示しない吸気弁の弁スプリングによるトルクや摩擦力等が作用しており、制御ピストン８０はスプリング８６により第１位置には移動できず、図３の位置に保持される。また、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、退避孔５３と受容孔３４が同期する所定位相よりも進角側にある場合（例えば、図５に示す最大進角位置の時）には、制御ピストン８０は図１に示す第１位置にあり、この状態にてオイルポンプＰが停止されるとスプリング８６により制御ピストン８０は図１に示す第１位置に保持される。
【００３０】
本実施形態においては、内燃機関の始動時に図示しないスタータスイッチがオンされると、スタータスイッチがオンされてから所定時間だけ開閉弁１２０のソレノイド１２２へ通電されて、遅角通路１２に連通される接続通路７２が分岐通路７３を介してドレンに接続される。これにより、内燃機関の始動時には、制御弁１００は非通電状態にあることから、進角用室Ｒ１及び遅角用室Ｒ２、並びに第１圧力室４７及び第２圧力室４８は共にドレンに連通される。このため、内燃機関の始動時にはカムシャフト１０に作用するカム変動トルクによりカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して遅角側及び進角側へ大きくばたつき易くなり（振動し易くなり）、このばたつきによりヘリカル形状の外歯２４及び内歯８３を介して制御ピストン８０に軸力が作用する。これにより、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して進角側にばたついた時には、制御ピストン８０にはその一端側ストッパ部８５がフランジ部４２に当接する側への軸力が作用し、該軸力とスプリング８６の付勢力により摩擦力に抗して制御ピストン８０がストッパ部８５がフランジ部４２に当接する第１位置に移動される。これに対して、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して遅角側にばたついた時には、制御ピストン８０には他端が第１内部ロータ２０の段部に当接する（第２位置）側への軸力が作用するものの、該軸力によって制御ピストン８０がスプリング８６の付勢力及び摩擦力に抗して第２位置側へ移動することができないように外歯２４及び内歯８３のヘリカル形状が設定されている。尚、この時には上記したように第２内部ロータ３０と外部ロータ５０とはロックピン１１１によりロックされており、ベーン９０が突部５１に衝接して打音が発生することはない。
【００３１】
この結果、内燃機関の始動時には、第２内部ロータ３０が外部ロータ５０に対して最大に遅角側に位置される所定の相対位相にてロックピン１１１が受容孔３４に嵌入した状態で、制御ピストン８０が第１位置に保持されることで、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して所定角度αだけ進角側に相対回転した状態に保持され、外部ロータ５０（図示しないクランクシャフト）に対してカムシャフト１０が最大遅角位置から所定角度αだけ進角した位置にて始動がなされる。これにより、最大遅角状態にて内燃機関の始動が困難となることなく、良好に始動がなされる。
【００３２】
以上のように、本実施形態においては、内燃機関の始動時に外部ロータ５０とカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０の相対位相が、外部ロータ５０に対してカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が所定角度αだけ進角した位相にあり、この相対位相にある時、図示しない吸気弁の開閉時期が内燃機関の始動が可能な時期になるように設定されている。そのため、この始動位置から外部ロータ５０に対してカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が所定角度αだけ遅角側へ回転する最遅角位置までは内燃機関が始動可能な弁開閉時期よりも更に弁の開閉時期を遅らせることができ、内燃機関の高速回転時に、上記したように制御弁１００を制御して遅角側へ位相変換し、内燃機関の始動が困難な時期まで図示しない吸気弁の閉時期を遅らせることで、吸気の慣性により体積効率が向上し、内燃機関の出力向上を図ることができる。
【００３３】
上記した実施形態においては、受容孔３４及び退避孔５２が径方向に形成され、ロックピン１１１が径方向に移動する弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明はベーンが周方向に厚肉とされて内部ロータに一体に設けられ、該ベーン又はリアプレート（又はフロントプレート）に退避孔を軸方向に形成し、リアプレート（又はフロントプレート）又はベーンに受容孔を軸方向に形成し、ロックピンが軸方向に移動する弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。また、上記した実施形態においては、ロックピン１１１によるロックが進角用室Ｒ１に供給される油圧により解除される弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明はロックピンを大径部及び小径部を有する段付状に形成して、該ロックピンの小径部に進角用室Ｒ１及び遅角用室Ｒ２に供給される油圧の一方を付与すると共にロックピンの段部と段付孔に形成される環状空間に進角用室Ｒ１及び遅角用室Ｒ２に供給される油圧の他方を付与し、何れかの油圧でロックピンによるロックが解除される弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。また、上記実施形態においては、各ベーン９０が各突部５１の進角側の周方向端面に当接することにより制限される弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明は最大進角量が進角用室Ｒ１と遅角用室Ｒ２の油圧を制御することによりベーンが突部５１の進角側の周方向端面に当接する前に制限されるようにされた弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。また、更に上記実施形態においては、吸気用のカムシャフト１０に組付けられる弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明は排気用のカムシャフトに組付けられる弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。
【００３４】
【発明の効果】
以上の如く、本発明によれば、内燃機関の停止時に流体圧室への作動流体の供給が停止されると、流体圧室の流体圧によってベーンを保持できなくなり、回転部材は回転伝達部材に対して遅角方向へ回転するものの、内燃機関の始動時には相対回転駆動機構により第１回転部材と第２回転部材とが所定角度だけ相対回転されてクランクシャフトの回転位相に対するカムシャフトの回転位相が所定角度だけ進角される。これにより、内燃機関の始動時の弁開閉時期が最遅角位置から所定角度だけ進角した相対位相時に得られるので、始動時の位相に制約を受けることなく、最遅角位置では始動時の相対位相時よりも更に弁の開閉時期を遅らせることができ、吸気の慣性を利用して体積効率の向上を図り内燃機関の出力を向上させることができると共に、始動時の弁開閉時期を進角させることができ、圧縮比低下による内燃機関の始動不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に従った弁開閉時期制御装置の一実施形態の油圧供給前の状態を示す縦断側面図である。
【図２】図１のＡ−Ａ断面図である。
【図３】本発明に従った弁開閉時期制御装置の一実施形態の遅角用室への油圧供給後の状態を示す縦断側面図である。
【図４】図３のＢ−Ｂ断面図である。
【図５】最進角状態を示す図３のＢ−Ｂ断面図である。
【符号の説明】
１０ カムシャフト
１１ 進角通路
１２ 遅角通路
２０ 第１内部ロータ（第１回転部材）
２２ 通路
２４ 外歯
２５ 通路
３０ 第２内部ロータ（第２回転部材）
３１ 通路
３２ 溝通路
３３ 内歯
３４ 受容孔
４０ フロントプレート（回転伝達部材）
４４ 通路
４７ 第１圧力室
４８ 第２圧力室
５０ 外部ロータ
５１ 突部
５２ 退避孔
６０ リアプレート（回転伝達部材）
６１ タイミングスプロケット（回転伝達部材）
７０ シリンダヘッド
８０ 制御ピストン（相対回転駆動機構）
８２ 外歯
８３ 内歯
８６ スプリング
９０ ベーン
１００ 制御弁
１１０ ロック機構（位相保持機構）
１１１ ロックピン
１１２ スプリング
１２０ 開閉弁
Ｒ０ 流体圧室
Ｒ１ 進角用室
Ｒ２ 遅角用室
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の動弁装置において吸排気弁の開閉時期を制御するために使用される弁開閉時期制御装置に関する。
【０００２】
【従来の技術】
この種の弁開閉時期制御装置の１つとして、弁開閉用の回転軸に所定範囲で相対回転可能に外装されクランク軸のクランクスプロケット又はプーリからの回転動力が伝達される回転伝達部材と、前記回転軸に取り付けられた複数のベーンと、前記回転伝達部材に設けられた突部と前記回転軸との間に形成され前記ベーンによって進角用室と遅角用室とに夫々二分される複数の流体圧室と、前記進角用室に流体を給排する第１流体通路と、遅角用室に流体を給排する第２流体通路と、前記回転軸と前記回転伝達部材の相対位相が所定の位相である時に前記回転軸と前記回転伝達部材の相対位相を保持する位相保持機構とを備えたものがあり、例えば、特開平１−９２５０４号公報や特開平９−２５０３１０号公報に開示されている。
【０００３】
上記した各公報に開示されている弁開閉時期制御装置においては、第１流体通路を介して進角用室へ作動流体を供給すると共に第２流体通路を介して遅角用室から作動油を排出することにより、回転軸が回転伝達部材に対してベーンが突部の進角側の周方向端面に当接する最進角位置までの任意な位置に進角方向へ回転して弁開閉時期が早められ、第２流体通路を介して遅角用室へ作動流体を供給すると共に第１流体通路を介して進角用室から作動油を排出することにより、回転軸が回転伝達部材に対してベーンが突部の遅角側の周方向端面に当接する最遅角位置までの任意な位置に遅角方向へ回転して弁開閉時期が遅らされる。
【０００４】
また、上記した各公報に開示されている弁開閉時期制御装置においては、回転伝達部材から回転軸への回転伝達経路に流体圧室及びベーンが介在していることから、内燃機関の運転中、回転軸には常に遅角方向への力が作用しており、内燃機関の停止時に流体圧室への作動油の供給が停止されると、流体圧室の油圧によってベーンを保持できなくなり、回転軸は回転伝達部材に対して遅角方向へ回転し、回転軸と回転伝達部材の相対位相はベーンが突部の遅角側の周方向端面に当接する最遅角位置での位相となる。この状態にて内燃機関が始動されると、流体圧室の油圧が上昇し該油圧によりベーンを保持することができるようになるまでは不安定な状態となり、回転軸に生じる変動トルクによってベーンが振動し、突部の周方向端面と衝突して打音が生じたりするので、これを回避するために、位相保持機構により回転軸と回転伝達部材との相対位相が最遅角位置にて保持されるようになっている。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、内燃機関の高速回転域では、ピストンが上死点に向かい始めても、吸気が慣性により更にシリンダ内へ入り込もうとするため、吸気弁の閉時期を遅らせることにより体積効率が向上して内燃機関の出力向上を図ることができる。
【０００６】
しかしながら、上記した各公報に開示される弁開閉時期制御装置を吸気弁の開閉時期を制御するために用いる場合には、最遅角位置での弁開閉時期は、上記したように内燃機関の始動時に吸気が可能な時期に設定される必要があるため、高速回転域において吸気弁の閉時期を遅らせて吸気の慣性による体積効率の向上を図ることができない。これは、最遅角位置での弁開閉時期を吸気の慣性による体積効率の向上が可能な時期に設定すると、最遅角位置での内燃機関の始動時に、ピストンが下死点を過ぎ上死点に向かい始めても吸気弁が開いていて、また吸気に慣性がないため、一度吸入した吸気が逆流して排出してしまい、圧縮比が上がらずに、燃焼ができない状態が発生し、内燃機関の始動が困難となるからである。尚、この問題は、最遅角位置での弁開閉時期を吸気の慣性による体積効率の向上が可能な時期に設定しなくても、上記した各公報に開示される弁開閉時期制御装置にように、最遅角位置での弁開閉時期を始動時に吸気が可能な時期に設定した場合であっても、吸気弁の閉時期がピストンの下死点後に設定されていると、気圧の低い高所等では発生しやすい。
【０００７】
また、上記した各公報に開示される弁開閉時期制御装置を排気弁の開閉時期を制御するために用いる場合にも、排気弁の閉時期を同様に遅らせると、吸気弁と排気弁のオーバーラップ期間が長くなり、内部ＥＧＲ量（排気ガス再循環量）が増大して内燃機関の始動性の低下を招く。
【０００８】
これら問題を解消すべく、回転軸と回転伝達部材との相対位相が吸気の慣性による体積効率の向上が可能な弁開閉時期に対応する最遅角位置よりも所定角度だけ進角した中間位置にて位相保持機構により保持されるようにした弁開閉時期制御装置が特開平９−３２４６１３号公報に提案されている。しかしながら、この装置においては、内燃機関の停止時に上記したように回転軸が回転伝達部材に対して遅角方向へ回転する際、回転軸と回転伝達部材の相対位相が所定の中間位置になるのは一瞬であるため、位相保持機構により所定の中間位置に回転軸と回転伝達部材の相対位相を保持することができない場合があり、内燃機関の始動不良を確実に防止することはできない。
【０００９】
それゆえ、本発明は、内燃機関の始動不良を確実に防止しつつ、その可変制御領域を拡大させることができる弁開閉時期制御装置を提供することを、その課題とする。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために講じた本発明の技術的手段は、内燃機関のカムシャフトと共に回転する回転部材と、該回転部材に所定範囲で相対回転可能に外装されクランクシャフトと共に回転する回転伝達部材と、前記回転部材に設けられたベーンと、前記回転部材と前記回転伝達部材との間に形成され前記ベーンによって進角用室と遅角用室とに二分される流体圧室とを備え、前記進角用室及び前記遅角用室へ印加される流体圧によって前記回転部材と前記回転伝達部材が相対回転し、前記クランクシャフトの回転位相に対する前記カムシャフトの回転位相が変更させられることによって前記カムシャフトにより駆動される弁の開閉時期を変更する弁開閉時期制御装置において、前記回転部材を前記カムシャフトと共に回転する第１回転部材と、前記ベーンが設けられると共に前記第１回転部材に外装されて前記回転伝達部材との間に前記流体圧室を形成する第２回転部材とから構成し、前記第１回転部材と前記第２回転部材との間に、前記第１回転部材と前記第２回転部材とを所定角度だけ相対回転させると共に、内燃機関の始動時に、前記回転伝達部材に対して最遅角位相にある前記第２回転部材に対して前記第１回転部材を最進角位置にする相対回転駆動機構を設けたことである。
【００１１】
上記した手段によれば、内燃機関の停止時に流体圧室への作動流体の供給が停止されると、流体圧室の流体圧によってベーンを保持できなくなり、回転部材は回転伝達部材に対して遅角方向へ回転するものの、内燃機関の始動時には相対回転駆動機構により第１回転部材と第２回転部材とが所定角度だけ相対回転されてクランクシャフトの回転位相に対するカムシャフトの回転位相が所定角度だけ進角される。これにより、内燃機関の始動時の弁開閉時期が最遅角位置から所定角度だけ進角した相対位相時に得られるので、最遅角位置では中間的な相対位相時よりも更に弁の開閉時期を遅らせることができ、吸気の慣性を利用して体積効率の向上を図ることが可能となると共に、始動時の弁開閉時期を進角させることができ、圧縮比低下による内燃機関の始動不良を防止することが可能となる。
【００１２】
上記した手段においては、前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相が所定の位相である時に前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相を保持する位相保持機構を備えると共に、前記相対回転駆動機構が前記第１回転部材の外周に形成される外歯と前記第２回転部材の内周に形成される内歯に夫々噛合する内歯及び外歯をその内外周に有し、その両端面に付与される前記進角用室の流体圧及び前記遅角用室の流体圧によって軸方向に移動可能な制御ピストンと、該制御ピストンを軸方向一側に常時付勢する付勢部材とから構成され、互いに噛合する前記第１回転部材の外歯と前記制御ピストンの内歯及び前記第２回転部材の内歯と前記制御ピストンの外歯の少なくとも一方が前記制御ピストンの軸方向一側への移動により前記第１回転部材と前記第２回転部材とを所定角度だけ相対回転するようにヘリカル形状に形成されていることが望ましい。また、前記位相保持機構は、前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相が、前記ベーンにより前記進角用室の容積が最小とされる最大遅角状態における相対位相を保持することが望ましい。
【００１３】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に従った弁開閉時期制御装置の実施形態を図面に基づき、説明する。
【００１４】
図１乃至図５において、弁開閉時期制御装置は、内燃機関のシリンダヘッド７０に回転自在に支持されたカムシャフト１０の先端部（図１の左端）に一体的に組付けた第１内部ロータ２０と該第１内部ロータ２０に相対回転可能に外装された第２内部ロータ３０とからなりカムシャフト１０と共に回転する回転部材と、第２内部ロータ３０に所定範囲で相対回転可能に外装された外部ロータ５０、フロントプレート４０、リアプレート６０及びリアプレート６０の外周に一体的に設けたタイミングスプロケット６１から成る回転伝達部材と、第２内部ロータ３０に組付けた４枚のベーン９０と、外部ロータ５０に組付けたロック機構（位相保持機構）１１０と、第１内部ロータ２０と第２内部ロータ３０との間に配設される制御ピストン８０等からなる相対回転駆動機構等によって構成されている。尚、タイミングスプロケット６１には、周知のように、図示省略したクランクシャフトからクランクスプロケットとタイミングチェーンを介して図２、図４及び図５の時計方向に回転動力が伝達されるように構成されている。
【００１５】
カムシャフト１０は、吸気弁を開閉する図示しない周知のカムを有していて、内部にはカムシャフト１０の軸方向に延びる進角通路１１及び遅角通路１２が設けられている。遅角通路１２は、カムシャフト１０に設けた取付ボルト１６用の取付孔内に形成されていて、カムシャフト１０に設けた径方向の通路１３及び環状溝１４とシリンダヘッド７０に設けた接続通路７２を通して制御弁１００の接続ポート１０１ｂに接続されている。進角通路１１は、カムシャフト１０に設けた環状溝１５とシリンダヘッド７０に設けた接続通路７１を介して制御弁１００の接続ポート１０１ａに接続されている。
【００１６】
制御弁１００は、ソレノイド１０２へ通電することによりハウジング内に軸方向に移動可能に嵌挿されたスプール１０１をスプリング１０３に抗して図１の左方向へ移動できるものであり、非通電時には当該内燃機関によって駆動されるオイルポンプＰに接続された供給ポート１０１ｃが接続ポート１０１ｂに連通すると共に、接続ポート１０１ａが排出ポート１０１ｄに連通するように、また通電時には供給ポート１０１ｃが接続ポート１０１ａに連通すると共に、接続ポート１０１ｂが排出ポート１０１ｄに連通するように構成されている。このため、切換弁１００のソレノイド１０２の非通電時には遅角通路１２に作動油が供給され、ソレノイド１０２の通電時には進角通路１１に作動油が供給され、ソレノイド１０２への通電が図示しない制御装置によりデューティ制御される。
【００１７】
接続通路７２は、分岐通路７３を介してドレンに連通されていて、該分岐通路７３中には分岐通路７３の連通を開閉可能な開閉弁１２０が介装されている。開閉弁１２０は、ソレノイド１２２へ通電することによりハウジング内に軸方向に移動可能に嵌挿されたスプール１２１をスプリングに抗して図１の左側へ移動できるものであり、非通電時には分岐通路７３を介した接続通路７２とドレンの連通を遮断し、通電時には接続通路７２を分岐通路７３を介してドレンに連通するように構成されている。尚、ソレノイド１２２への通電は図示しない制御装置によりオン・オフ制御される。
【００１８】
第１内部ロータ２０は、大径部２０ａ及び小径部２０ｂを有する段付状の円筒状を呈し、単一の取付ボルト１６によってカムシャフト１０に一体的に固着されている。第１内部ロータ２０は、カムシャフト１０の先端面に対向する大径部２０ａの一端面に形成され進角通路１１に連通する環状溝２１と、該環状溝２１から軸方向に他端面側に軸対象に延び大径部２０ａと小径部２０ｂ間の段部に貫通する２つの通路２２と、大径部２０ａの外周面に形成され通路２２に連通する環状溝２３と、大径部２０ａ側に位置する小径部２０ｂの外周面に形成されたヘリカル状の外歯２４を有している。
【００１９】
第２内部ロータ３０は、第１内部ロータ２０の大径部２０ａの外周面上にその内周面の軸方向一側が相対回転可能に摺接するように外装されていて、４枚の各ベーン９０を夫々径方向に移動可能に取り付けるためのベーン溝３０ａを有すると共に、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が後述する所定の位相で同期したときロック機構１１０のロックピン１１１の頭部が所定量嵌入される受容孔３４と、この受容孔３４に進角通路１１から作動油を給排するように受容孔３４と環状溝２３を連通する通路３５と、各ベーン９０によって区画された進角用室Ｒ１に進角通路１１から作動油を給排するように環状溝２３と各進角用室Ｒ１を連通する通路３１と、カムシャフト１０側とは反対側の端面に形成され、その一端側が各ベーン９０によって区画された遅角用室Ｒ２に夫々開口するように径方向外方に延び、その他端側が周方向一側に延びる屈曲した４つの溝通路３２を有している。尚、各溝通路３２の他端側は同一円周上を周方向一側に延在するように形成されている。また、第２内部ロータ３０の内周面の軸方向他側には、第１内部ロータ２０の小径部２０ｂ上に設けられた外歯２４と対向するヘリカル状の内歯３３が形成されている。尚、第２内部ロータ３０の軸長は第１内部ロータ２０の軸長よりも短くされていて、図１及び図３に示すように、第２内部ロータ３０のカムシャフト１０側とは反対側の端面より第１内部ロータ２０の小径部２０ｂが突出している。また、各ベーン９０は、ベーン溝３０ａの底部に収容したベーンスプリング９１によって径方向外方に付勢されている。
【００２０】
外部ロータ５０は、第２内部ロータ３０の外周に所定範囲で相対回転可能に組付けられていて、その両側にはフロントプレート４０とリアプレート６０が接合され、貫通孔を貫通する４本の連結ボルト４５によって一体的に連結されている。また、外部ロータ５０の内周には所定の周方向間隔で４個の突部５１が径方向内方に向けて夫々突出形成されていて、これら突部５１の内周面が第２内部ロータ３０の外周面に摺接する構成で外部ロータ５０が第２内部ロータ３０に回転自在に支承されており、一つの突部５１にはロックピン１１１とスプリング１１２を収容する退避孔５２が外部ロータ５０の径方向に形成されている。
【００２１】
フロントプレート４０は、第２内部ロータ３０のカムシャフト１０側とは反対側の端面より突出する第１内部ロータ２０の小径部２０ｂを包囲するように軸方向に延びる円筒部４１を有し、該円筒部４１の先端には径方向内方に延び、その内周面がシール部材４３を介して第１内部ロータ２０の小径部２０ｂの外周面に液密的に摺接するフランジ部４２が形成されている。
【００２２】
各ベーン９０は、先端の断面形状が円弧形状であり、両プレート４０、６０間にて第２内部ロータ３０のベーン溝３０ａに径方向に移動可能に取り付けられていて、外部ロータ５０と、外部ロータ５０の各突部５１と、第２内部ロータ３０と、フロントプレート４０と、リアプレート６０との間に形成される流体圧室Ｒ０を進角用室Ｒ１と遅角用室Ｒ２とに二分しており、外部ロータ５０に形成した突部５１の互いに対向する周方向端面に各ベーン９０が当接することにより、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０間の相対回転角度が制限されるようになっている。
【００２３】
ロックピン１１１は、退避孔５２内に軸方向へ摺動可能に組み付けられていて、スプリング１１２によって第２内部ロータ３０に向けて付勢されている。スプリング１１２はロックピン１１１とリテーナ１１３間に介装されていて、リテーナ１１３は退避孔５２内にてスナップリング１１４により抜け止め固定されている。
【００２４】
第１内部ロータ２０の小径部２０ｂとフロントプレート４０の円筒部４１との間に形成される円筒空間４６には、カムシャフト１０の反対側のその一端側の内周面がシール部材８４を介して第１内部ロータ２０の小径部２０ｂ外周面を液密的に摺接し、その一端側の外周に形成される外周フランジ８１が円筒部４１の内周面を摺接する制御ピストン８０が軸方向に移動可能に配設されている。これにより、第１内部ロータ２０の小径部２０ｂに形成される径方向通路２５を介して遅角通路１２に連通されると共にフロントプレート４０の円筒部４１及びフランジ部４２に形成される４つの通路４４を介して第２内部ロータ３０の各溝通路３２の他端側に連通される第１圧力室４７と、通路２２を介して進角通路１１に連通される第２圧力室４８とが円筒空間４６内に区画形成されている。制御ピストン８０の他端側（カムシャフト１０側）の内外周面には、第１内部ロータ２０の外歯２４と第２内部ロータ３０の内歯３３に夫々常時噛合するヘリカル状の内歯８３及び外歯８２が形成されていて、これにより制御ピストン８０の第１及び第２圧力室４７、４８間の圧力差に応じた軸方向移動により第１及び第２内部ロータ２０、３０間が所定角度だけ相対回転されるようになっている。また、第２内部ロータ３０の端面と制御ピストン８０の外周フランジ部８１との間には、スプリング８６が介装されていて、これにより制御ピストン８０一端側端面に周方向に複数個突設されたストッパ部８５がフロントプレート４０のフランジ部４２に当接する側に常時付勢されている。
【００２５】
本実施形態においては、制御ピストン８０がスプリング８６によりストッパ部８５がフランジ部４２に当接する図１に示す第１位置にある時には、図２に示すようにカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して所定角度αだけ進角側（時計方向）に相対回転し、制御ピストン８０が第１圧力室４７の油圧によりスプリング８６に抗してカムシャフト１０側に移動し、制御ピストン８０の他端が第１内部ロータ２０の段部に当接する図３に示す第２位置にある時には、図４に示すように第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して図２に示す位置から所定角度αだけ遅角側（反時計方向）に相対回転するように、各内歯３３、８２、各外歯２４、８３のヘリカル形状（向き及び角度）が設定されている。この所定角度αは、後述する最大遅角位置からカムシャフト１０が進角側へ相対回転し、図示しない吸気弁の開閉時期が内燃機関の始動が可能な時期になるように設定されている。また、本実施形態においては、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、各ベーン９０が各突部５１の遅角側の周方向端面に当接する位置（第２内部ロータ３０が外部ロータ５０に対して最も遅角側に回転した位置）にあるとき、退避孔５２と受容孔３４が同期し、ロックピン１１１の頭部が受容孔３４に嵌入可能であるようになっている。
【００２６】
上記のように構成した本実施形態の弁開閉時期制御装置においては、内燃機関が始動され各進角用室Ｒ１及び各遅角用室Ｒ２並びに、第１圧力室４７及び第２圧力室４８に所定油圧が供給される中間位相でのバランス状態（各進角用室Ｒ１内の進角油圧による押圧力が、各遅角用室Ｒ２内の遅角油圧による押圧力と、外部ロータ５０から第２内部ロータ３０への回転伝達経路に流体圧室Ｒ０及びベーン９０が介在していることから第２内部ロータ３０に常に作用している遅角方向への力との和とバランスし、且つ、第１圧力室４７内の遅角油圧による押圧力が、第２圧力室４８内の進角油圧による押圧力とスプリング８６の付勢力との和とバランスしている状態）において、内燃機関の運転状態に応じて、制御弁１００のソレノイド１０２へ供給される電流のデューティ比を高くすることにより、進角通路１１と通路２２、３１を通して各進角用室Ｒ１に作動油が供給され、又進角通路１１と通路２２を通して第２圧力室４８に作動油が供給されると共に、各遅角用室Ｒ２から各通路３２、４４、２５と遅角通路１２と制御弁１００等を通して作動油が排出され、又第１圧力室４７から通路２５と遅角通路１２と制御弁１００等を通して作動油が排出されると、第２内部ロータ３０と各ベーン９０が外部ロータ５０、両プレート４０、６０等に対して進角側（図２の時計方向）に相対回転し、この相対回転量（θ）は、図５に示すように、各ベーン９０が各突部５１の進角側の周方向端面に当接することにより制限される。一方、制御ピストン８０はストッパ部８５がフランジ部４２に当接する第１位置（図１）に位置されて、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０は第２内部ロータ３０に対して所定角度αだけ進角側（時計方向）に相対回転される。この結果、図５に示すようにカムシャフト１０（第１内部ロータ２０）は、外部ロータ５０（クランクシャフト）に対してθ＋αだけ進角側に相対回転され、図示しない吸気弁の開閉時期が最大進角される。
【００２７】
また、制御弁１００のソレノイド１０２へ供給される電流のデューティ比を低くすることにより、遅角通路１２と各通路２５、４４、３２を通して各遅角用室Ｒ２に作動油が供給され、又遅角通路１２と通路２５を通して第１圧力室４７に作動油が供給されると共に、各進角用室Ｒ１から各通路３１、２２と進角通路１１と制御弁１００等を通して作動油が排出され、又第２圧力室４８から通路２２と進角通路１１と制御弁１００等を通して作動油が排出されると、第２内部ロータ３０と各ベーン９０が外部ロータ５０、両プレート４０、６０等に対して遅角側（図２の反時計方向）に相対回転し、この相対回転量は、図４に示すように、各ベーン９０が各突部５１の遅角側の周方向端面に当接することにより制限される。一方、制御ピストン８０は制御ピストン８０の他端が第１内部ロータ２０の段部に当接する第２位置（図３）に位置されて、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０は第２内部ロータ３０に対して図２に示す相対位置から所定角度αだけ遅角側（反時計方向）に相対回転される。この結果、図５に示す最大進角位置から図４に示すようにカムシャフト１０（第１内部ロータ２０）は、外部ロータ５０（クランクシャフト）に対してθ＋αだけ遅角側に相対回転され、図示しない吸気弁の開閉時期が最大遅角される。尚、この位相変換制御中（最大遅角状態時を除く）は、受容孔３４に通路３５を通して設定圧以上の油圧（上記した所定油圧よりも低い油圧）が供給されており、ロックピン１１１がスプリング１１２に抗して移動し、ロックピン１１１の頭部が受容孔３４から退避孔５２に退避して、ロックピン１１１によるロックが解除されている。また、上記した位相変換制御中、開閉弁１２０は非通電状態にあり、接続通路７２を分岐通路７３を介してドレンに連通していない。
【００２８】
内燃機関の停止時には、オイルポンプＰの駆動が停止されて流体圧室Ｒ０への作動油の供給が停止されると共に、制御弁１００が非通電状態とされる。これにより、進角用室Ｒ１内の進角油圧による押圧力と遅角用室Ｒ２内の遅角油圧による押圧力がベーン９０に作用しなくなり、第２内部ロータ３０には、上記した遅角方向への力（内燃機関のクランク軸が完全に停止するまでの間）のみが作用しており、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相に応じて停止時の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が決まることになる。この時、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、退避孔５２と受容孔３４が同期する所定位相（最大遅角位置）にあれば、スプリング１１２によりロックピン１１１の頭部が受容孔３４内に嵌入し、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が保持（ロック）される。また、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、退避孔５３と受容孔３４が同期する所定位相よりも進角側にある場合（例えば、図５に示す最大進角位置の時）には、上記した遅角方向への力により第２内部ロータ３０が外部ロータ５０に対して遅角側へ移動するが、各ベーン９０が各突部５１に当接することにより、所定位相に規制されてスプリング１１２によりロックピン１１１の頭部が受容孔３４内に嵌入し、第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が保持（ロック）される。
【００２９】
一方、制御ピストン８０は、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が退避孔５２と受容孔３４が同期する所定位相（最大遅角位置）にあるときには、図３に示す第２位置にあり、この状態にてオイルポンプＰが停止されると第１圧力室４７は制御弁１００及びオイルポンプＰを介してドレンに連通され、制御ピストン８０はスプリング８６により第１位置に向けて移動しようとする。しかしながら、この時には第２内部ロータ３０は外部ロータ５０とロックピン１１１により結合され、図示しないクランクシャフトと同位相で連結されており、またカムシャフト１０は図示しない吸気弁の弁スプリングによるトルクや摩擦力等が作用しており、制御ピストン８０はスプリング８６により第１位置には移動できず、図３の位置に保持される。また、停止直前の第２内部ロータ３０と外部ロータ５０の相対位相が、退避孔５３と受容孔３４が同期する所定位相よりも進角側にある場合（例えば、図５に示す最大進角位置の時）には、制御ピストン８０は図１に示す第１位置にあり、この状態にてオイルポンプＰが停止されるとスプリング８６により制御ピストン８０は図１に示す第１位置に保持される。
【００３０】
本実施形態においては、内燃機関の始動時に図示しないスタータスイッチがオンされると、スタータスイッチがオンされてから所定時間だけ開閉弁１２０のソレノイド１２２へ通電されて、遅角通路１２に連通される接続通路７２が分岐通路７３を介してドレンに接続される。これにより、内燃機関の始動時には、制御弁１００は非通電状態にあることから、進角用室Ｒ１及び遅角用室Ｒ２、並びに第１圧力室４７及び第２圧力室４８は共にドレンに連通される。このため、内燃機関の始動時にはカムシャフト１０に作用するカム変動トルクによりカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して遅角側及び進角側へ大きくばたつき易くなり（振動し易くなり）、このばたつきによりヘリカル形状の外歯２４及び内歯８３を介して制御ピストン８０に軸力が作用する。これにより、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して進角側にばたついた時には、制御ピストン８０にはその一端側ストッパ部８５がフランジ部４２に当接する側への軸力が作用し、該軸力とスプリング８６の付勢力により摩擦力に抗して制御ピストン８０がストッパ部８５がフランジ部４２に当接する第１位置に移動される。これに対して、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して遅角側にばたついた時には、制御ピストン８０には他端が第１内部ロータ２０の段部に当接する（第２位置）側への軸力が作用するものの、該軸力によって制御ピストン８０がスプリング８６の付勢力及び摩擦力に抗して第２位置側へ移動することができないように外歯２４及び内歯８３のヘリカル形状が設定されている。尚、この時には上記したように第２内部ロータ３０と外部ロータ５０とはロックピン１１１によりロックされており、ベーン９０が突部５１に衝接して打音が発生することはない。
【００３１】
この結果、内燃機関の始動時には、第２内部ロータ３０が外部ロータ５０に対して最大に遅角側に位置される所定の相対位相にてロックピン１１１が受容孔３４に嵌入した状態で、制御ピストン８０が第１位置に保持されることで、カムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が第２内部ロータ３０に対して所定角度αだけ進角側に相対回転した状態に保持され、外部ロータ５０（図示しないクランクシャフト）に対してカムシャフト１０が最大遅角位置から所定角度αだけ進角した位置にて始動がなされる。これにより、最大遅角状態にて内燃機関の始動が困難となることなく、良好に始動がなされる。
【００３２】
以上のように、本実施形態においては、内燃機関の始動時に外部ロータ５０とカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０の相対位相が、外部ロータ５０に対してカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が所定角度αだけ進角した位相にあり、この相対位相にある時、図示しない吸気弁の開閉時期が内燃機関の始動が可能な時期になるように設定されている。そのため、この始動位置から外部ロータ５０に対してカムシャフト１０及び第１内部ロータ２０が所定角度αだけ遅角側へ回転する最遅角位置までは内燃機関が始動可能な弁開閉時期よりも更に弁の開閉時期を遅らせることができ、内燃機関の高速回転時に、上記したように制御弁１００を制御して遅角側へ位相変換し、内燃機関の始動が困難な時期まで図示しない吸気弁の閉時期を遅らせることで、吸気の慣性により体積効率が向上し、内燃機関の出力向上を図ることができる。
【００３３】
上記した実施形態においては、受容孔３４及び退避孔５２が径方向に形成され、ロックピン１１１が径方向に移動する弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明はベーンが周方向に厚肉とされて内部ロータに一体に設けられ、該ベーン又はリアプレート（又はフロントプレート）に退避孔を軸方向に形成し、リアプレート（又はフロントプレート）又はベーンに受容孔を軸方向に形成し、ロックピンが軸方向に移動する弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。また、上記した実施形態においては、ロックピン１１１によるロックが進角用室Ｒ１に供給される油圧により解除される弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明はロックピンを大径部及び小径部を有する段付状に形成して、該ロックピンの小径部に進角用室Ｒ１及び遅角用室Ｒ２に供給される油圧の一方を付与すると共にロックピンの段部と段付孔に形成される環状空間に進角用室Ｒ１及び遅角用室Ｒ２に供給される油圧の他方を付与し、何れかの油圧でロックピンによるロックが解除される弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。また、上記実施形態においては、各ベーン９０が各突部５１の進角側の周方向端面に当接することにより制限される弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明は最大進角量が進角用室Ｒ１と遅角用室Ｒ２の油圧を制御することによりベーンが突部５１の進角側の周方向端面に当接する前に制限されるようにされた弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。また、更に上記実施形態においては、吸気用のカムシャフト１０に組付けられる弁開閉時期制御装置に本発明を実施したが、本発明は排気用のカムシャフトに組付けられる弁開閉時期制御装置にも同様に実施し得るものである。
【００３４】
【発明の効果】
以上の如く、本発明によれば、内燃機関の停止時に流体圧室への作動流体の供給が停止されると、流体圧室の流体圧によってベーンを保持できなくなり、回転部材は回転伝達部材に対して遅角方向へ回転するものの、内燃機関の始動時には相対回転駆動機構により第１回転部材と第２回転部材とが所定角度だけ相対回転されてクランクシャフトの回転位相に対するカムシャフトの回転位相が所定角度だけ進角される。これにより、内燃機関の始動時の弁開閉時期が最遅角位置から所定角度だけ進角した相対位相時に得られるので、始動時の位相に制約を受けることなく、最遅角位置では始動時の相対位相時よりも更に弁の開閉時期を遅らせることができ、吸気の慣性を利用して体積効率の向上を図り内燃機関の出力を向上させることができると共に、始動時の弁開閉時期を進角させることができ、圧縮比低下による内燃機関の始動不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に従った弁開閉時期制御装置の一実施形態の油圧供給前の状態を示す縦断側面図である。
【図２】図１のＡ−Ａ断面図である。
【図３】本発明に従った弁開閉時期制御装置の一実施形態の遅角用室への油圧供給後の状態を示す縦断側面図である。
【図４】図３のＢ−Ｂ断面図である。
【図５】最進角状態を示す図３のＢ−Ｂ断面図である。
【符号の説明】
１０ カムシャフト
１１ 進角通路
１２ 遅角通路
２０ 第１内部ロータ（第１回転部材）
２２ 通路
２４ 外歯
２５ 通路
３０ 第２内部ロータ（第２回転部材）
３１ 通路
３２ 溝通路
３３ 内歯
３４ 受容孔
４０ フロントプレート（回転伝達部材）
４４ 通路
４７ 第１圧力室
４８ 第２圧力室
５０ 外部ロータ
５１ 突部
５２ 退避孔
６０ リアプレート（回転伝達部材）
６１ タイミングスプロケット（回転伝達部材）
７０ シリンダヘッド
８０ 制御ピストン（相対回転駆動機構）
８２ 外歯
８３ 内歯
８６ スプリング
９０ ベーン
１００ 制御弁
１１０ ロック機構（位相保持機構）
１１１ ロックピン
１１２ スプリング
１２０ 開閉弁
Ｒ０ 流体圧室
Ｒ１ 進角用室
Ｒ２ 遅角用室
Claims (3)
- 内燃機関のカムシャフトと共に回転する回転部材と、
該回転部材に所定範囲で相対回転可能に外装されクランクシャフトと共に回転する回転伝達部材と、
前記回転部材に設けられたベーンと、
前記回転部材と前記回転伝達部材との間に形成され前記ベーンによって進角用室と遅角用室とに二分される流体圧室とを備え、
前記進角用室及び前記遅角用室へ印加される流体圧によって前記回転部材と前記回転伝達部材が相対回転し、前記クランクシャフトの回転位相に対する前記カムシャフトの回転位相が変更させられることによって前記カムシャフトにより駆動される弁の開閉時期を変更する弁開閉時期制御装置において、
前記回転部材を前記カムシャフトと共に回転する第１回転部材と、
前記ベーンが設けられると共に前記第１回転部材に外装されて前記回転伝達部材との間に前記流体圧室を形成する第２回転部材とから構成し、
前記第１回転部材と前記第２回転部材との間に、前記第１回転部材と前記第２回転部材とを所定角度だけ相対回転させると共に、内燃機関の始動時に、前記回転伝達部材に対して最遅角位相にある前記第２回転部材に対して前記第１回転部材を最進角位置にする相対回転駆動機構を設けたことを特徴とする弁開閉時期制御装置。 - 前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相が所定の位相である時に前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相を保持する位相保持機構を備えると共に、
前記相対回転駆動機構が前記第１回転部材の外周に形成される外歯と前記第２回転部材の内周に形成される内歯に夫々噛合する内歯及び外歯をその内外周に有し、その両端面に付与される前記進角用室の流体圧及び前記遅角用室の流体圧によって軸方向に移動可能な制御ピストンと、
該制御ピストンを軸方向一側に常時付勢する付勢部材とから構成され、
互いに噛合する前記第１回転部材の外歯と前記制御ピストンの内歯及び前記第２回転部材の内歯と前記制御ピストンの外歯の少なくとも一方が前記制御ピストンの軸方向一側への移動により前記第１回転部材と前記第２回転部材とを所定角度だけ相対回転するようにヘリカル形状に形成されていることを特徴とする請求項１に記載の弁開閉時期制御装置。 - 前記位相保持機構は、前記第２回転部材と前記回転伝達部材の相対位相が、前記ベーンにより前記進角用室の容積が最小とされる最大遅角状態における相対位相を保持することを特徴とする請求項２に記載の弁開閉時期制御装置。
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| JP14925898A JP4390295B2 (ja) | 1998-05-29 | 1998-05-29 | 弁開閉時期制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP14925898A JP4390295B2 (ja) | 1998-05-29 | 1998-05-29 | 弁開閉時期制御装置 |
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Family Applications (1)
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| JP2010261312A (ja) * | 2009-04-28 | 2010-11-18 | Toyota Motor Corp | 内燃機関の可変動弁装置 |
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1998
- 1998-05-29 JP JP14925898A patent/JP4390295B2/ja not_active Expired - Fee Related
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| JPH11343818A (ja) | 1999-12-14 |
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