JP4387491B2 - 能動制振装置およびこれを用いた半導体露光装置 - Google Patents

能動制振装置およびこれを用いた半導体露光装置 Download PDF

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  • Exposure Of Semiconductors, Excluding Electron Or Ion Beam Exposure (AREA)
  • Exposure And Positioning Against Photoresist Photosensitive Materials (AREA)
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、可動質量の駆動反力によって構造体の振動を抑制する能動制振装置、いわゆるアクティブマスダンパに関する。また、これを使って床の振動が半導体露光装置の位置決めなどに及ぼす悪影響を除去または軽減する技術に関する。さらに、本発明は、構造物の振動検出のための振動センサとして、加速度センサに代えて速度センサを使ったタイプの能動制振装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体素子に対する微細化要求に応えるため、半導体露光装置を設置する床などの振動環境に対する要求は厳しくなっている。何故ならば、床などの振動が半導体露光装置の中に侵入すると、同装置内の高精度な計測計の読み値を狂わせたり、位置決め機構の精度を劣化させ、そして最終的には露光精度を劣化させるからである。
【0003】
上述のように半導体露光装置を設置する床の振動が露光精度などに及ぼす影響は顕著であり、まずは半導体露光装置そのものが床の振動を遮断する機能を持たねばならない。そのために、近年の半導体露光装置における本体構造体はアクティブ除振装置によって支持されている。除振装置のアクティブ化によって、高周波帯の除振域を拡大できる。そのうえ、床の振動を検出しこの信号を適切に処理して本体構造体を支えるアクティブ除振装置内のアクチュエータを駆動することによって床の振動の本体構造体への侵入を相殺することができる。所謂床振動フィードフォワードもしくは地動フィードフォワードと言われている技術を適用することができる。さらには、半導体露光装置内で可動機構(例えばウエハステージ)の駆動に起因する本体構造体の揺れは、同機構の駆動信号を適切に処理してアクティブ除振装置内のアクチュエータを駆動することによって抑制できる。これを反力フィードフォワードと称する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述した半導体露光装置内のアクティブ除振装置を最適に調整しても床の振動の本体構造体への侵入が規定以下に抑制できない場合、床そのものに対して振動軽減の対策を施すことになる。より具体的に、床を形成する梁等の構造部材を補強したり、あるいは床を形成する梁などにコンクリートを流し込んで床の質量を増加せしめるとともに減衰を付与することが行なわれる。
【0005】
しかしながら、床に対する補強工事などは、半導体露光装置を設置するクリーンルームの清浄な環境を乱す。したがって、床の補強工事などを生産活動中のクリーンルームに施すことは現実的な対応とは言いがたい。
【0006】
高価かつ大重量の半導露光装置を設置した後に発覚する、床の振動に起因した問題ほど厄介なものはない。半導体露光装置内の、例えばアクティブ除振装置のパラメータを変更して対処することができれば望ましいが、それによっても性能が満せねば床の振動を低減するための工事を行なわざる得ない。しかし、実際に床の補強工事などを敢行することには大きな困難を伴う。
【0007】
本発明は、このような状況に対応するものである。すなわち、例えば半導体露光装置等の装置に用いられる除振装置のパラメータ調整によっては床の振動が同装置に及ぼす影響を除去もしくは軽減することが困難である場合や、振動が多い床その他の構成部材そのものに対しても補強工事などを施すことが困難な場合において、床その他の構成部材の振動が装置の位置決め機構等に及ぼす悪影響を、能動制振装置を使って除去もしくは軽減せんとするものである。
【0008】
また、従来、構造物に対する能動的な制振制御の分野では、振動の検出に加速度センサを使っていた。そして、同センサの出力を演算処理した信号に基づいてアクチュエータを駆動していた。加速度センサを用いた場合のこの演算は、積分演算の処理が必要であった。しかし、積分演算を行う場合、加速度センサの低周波域のドリフト対策のために、フィルタリング処理も併用せねばならず、したがって演算処理には若干の複雑さがあった。そして、フィルタリング処理のためにフィードバック系の性能を劣化させていた。
【0009】
そこで、第二に本発明では、速度センサの利用を促す一つの応用を提示する。具体的に、良質な速度信号に基づくフィードバックによって、構造物の振動抑制能を高めた能動制振装置を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであって、半導体露光装置などの被制振装置を載置するクリーンルームの床などであって、床の振動の影響が顕著な部位に、もしくは半導体露光装置などの被制振装置に近接する床に設置する能動制振装置である。この能動制振装置は、小型かつ大推力の特性を有する。
【0011】
すなわち、本発明の能動制振装置は固定子と、該固定子に対して移動可能に設けられた可動子と、該可動子を移動させる駆動手段とを備え、前記可動子が移動する際の反力を利用して、前記固定子が取り付けられた構造部材の振動を抑制するものである。この能動制振装置は、前記固定子に設けられ、前記構造部材の振動を計測する固定子振動計と、前記可動子の振動を計測する可動子振動計と、前記可動子の変位量を計測する変位センサと、該変位センサ及び前記可動子振動計の出力信号を前記駆動手段にフィードバックすることによって、前記可動子を中立位置に保持するように制御する中立位置安定化制御装置とを備えている。前記固定子振動計の出力信号を前記駆動手段に入力し、前記可動子を移動させることにより、前記固定子が取り付けられた構造部材の制振を行うことができる。
【0012】
前記固定子振動計は速度センサとすることができる。前記可動子振動計は速度センサとすることができる。前記固定子振動計及び可動子振動計は加速度センサから成り、これらの振動計の出力信号を積分処理した後に前記駆動手段に入力することができる。また、前記固定子振動計及び可動子振動計は速度センサから成り、これらの振動計の出力信号をゲイン補償処理した後に前記駆動手段に入力することができる。前記駆動手段は磁気回路および巻線コイルを備えたリニアモータから成り、該磁気回路および巻線コイルのいずれか一方が前記可動子に設けられ、他方が前記固定子とすることができる。
【0013】
前記能動制振装置を備えた露光装置において、該露光装置の可動部の運転と同期して前記可動子の移動を行うことができる。
【0014】
本発明の露光装置は、上記の制振装置が、露光装置内に設けられていることを特徴とする。ここで、上記の制振装置が、ステージの近傍または露光装置の構成部材に設けられていることができる。また、上記の制振装置が、床または床を形成する構造部材に設けられることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
一方、近年、機械の運動制御の分野では、加速度センサの出力を使った制御が一般的になっている。例えば、車両の乗り心地改善を狙いとするサスペンションの制御や能動制振装置(通称、アクティブマスダンパと称する)を使った構造物の制振制御などでは加速度センサが必須のものとして使われている。これは、高感度かつ小型の加速度センサが容易に入手可能で、かつ制御対象にも容易に装着できるためである。
【0016】
ここで、加速度センサの出力をフィードバックすることによって、制御対象に印加している操作量の正体を考えてみる。ほとんどの場合、ダンピングとしての操作量を発生させていることが分かる。例えば、車両のサスペンション制御の場合、共振ピークに対してスカイフックダンピングを付与して同ピークを潰している。同様に、能動制振装置にあっては、慣性マスをリニアモータなどの電磁モータで駆動することが一般的であるが、加速度センサの出力を1階積分することによって速度信号を生成し、この信号に基づいてリニアモータを駆動している。つまり、速度項の操作量をリニアモータに発生させているのである。つまり、何れの場合も、加速度センサの出力をフィードバックすることによってダンピング力、すなわち速度項の力を獲得している。
【0017】
上述のように、機械の運動制御において多用されている加速度センサは、ほとんどの場合、ダンピングとしての操作量を制御対象に与えると言う使われ方である。ダンピングとしての操作量を発生させるのであれば、本来、次元の異なる加速度センサの出力を使う必然性はないと言わざる得ない。それでも、機械制御の分野で加速度センサを使っている理由は、このセンサが容易に入手可能で、かつ振動の検出分解能が高いと信じられているからである。つまり、運動制御の分野では、加速度センサを使うことが半ば常識となっており、振動制御を掛けようとする場合には迷うことなく加速度センサを実装していた。
【0018】
しかしながら、機械振動の分野における低周波の加速度は極めて小さく、加速度センサによってはこの周波数領域の信号は検出できない。真の信号は電気ノイズに埋もれて、実際に出力する信号はドリフト成分となる。このような加速度センサの性質に対して、速度センサでは加速度を1階積分した次元の信号を出力するため、原理的に低周波域の振動を高感度で検出できる。
【0019】
従来、上述のような観点での速度センサとしての特徴が認識されていなかったために、汎用的なセンサとして普及していなかった。速度センサの利用に格段の効果を認め、この利用が促進されれば、加速度センサと同様に入手容易な汎用センサになるものと考えられる。現在、ジオフォンセンサの名称で知られる速度センサや、サーボ型加速度センサと全く同じ原理で動作するサーボ型速度センサがある。しかしながら、先にも述べたように、これら速度センサの存在はひろく知られている状況にはなく、したがって、機械の振動制御のために使用するための設計がなされていないという状況である。このように、機械の振動制御にあうように速度センサの構造・電気設計を行なう必要がある。
【0020】
近年、高層ビルや大型の橋梁などに対して、揺れを抑制するためにアクティブマスダンパの搭載がすすめられている。高層ビルの場合で説明すると、高層ビルの揺れを振動センサによって検出し、この検出出力に応じて同ビル最上階に設けた可動質量を高層ビルの揺れと逆方向へ強制的に揺動させて、高層ビルの揺れを抑制している。
【0021】
このように、高層ビルや橋梁に対するアクティブマスダンパの適用は進行しているが、半導体露光製置を設置する床の振動を低減するために使用されている例はない。なんとなれば、半導体露光装置を設置している大面積の床の振動を、アクティブマスダンパの揺動ごときで抑制できるものとは考えにくかったからである。
【0022】
しかしながら、小型かつ大推力の特性を有するアクティブマスダンパ(以下、能動制振装置と称する)を提供することができれば、半導体露光装置を設置している床などの振動抑制のためにも使用可能となる。
【0023】
以下、まず、案出した小型かつ大推力の能動制振装置を示す。次に、小型であることを維持しつつ推力を向上させた能動制振装置の幾つかの構造を与える。そして、能動制振装置を長期稼働させたときに発生する潤滑切れに対処する運転方法を与える。最後に、被制振装置である半導体露光装置に侵入してくる振動の抑制のために能動制振装置を適用する構成を示す。
【0024】
【実施例】
図1は、本発明の一実施例を示す能動制振装置1の概観図である。図1において、2aと3aは平板状のリニアモータの対、2bと3bも平板状のリニアモータの対である。ここで、2aと2bは永久磁石(磁気回路)を有する可動子であり、3aと3bは巻線コイルを有する固定子である。可動子2aと2bは連結板4を介して剛に結合されており、固定子3a,3bの巻線コイルに電流を通電することによって、可動子2a,2bを同時に鉛直方向に動かす。可動子2aと2を連結板4を介して結合して一体の可動子となした理由は、大推力を得るためと、可動子の重量をアップするためである。5は可動子2bに取付けられたターゲットであり、変位センサ6の計測によって可動子2a,2bの移動距離を計測する。ターゲット5には可動子2a,2bの鉛直方向の加速度を検出する振動センサ7が取付けられており、この出力を可動子の運動特性安定化のために使用する。底板8に取付けられた振動センサ9は、底板8と剛に接触する床などの振動を計測する。ここで、振動センサとしては加速度センサまたは速度センサを用いることができるが、後述するように速度センサが好適である。
【0025】
図2は、能動制振装置1に対する制御系の構成の概略を示す。
可動子2a,2bの鉛直方向の位置は、底板8に固定した変位センサ6が可動子に取付けられたターゲット5の検出面を計測しており、この出力は制御装置10に入力され、可動子2a,2bを鉛直方向の所定の位置に定位させるためのフィードバック信号となす。すなわち、変位センサ6の信号を制御装置10に入力してから、適切な演算を施すことによって、ドライバ11a,11bを励磁し、固定子3a,3bの巻線コイル12a,12bに電流を通電することによって、可動子2a,2bを所定の場所に定位させる。この際、図1には可動子2a,2bを鉛直方向に案内する機構が図示されていないが、例えば、移動方向の摩擦が低い転がり案内のガイドレールを使用することができる。このような案内機構を使った場合、可動子2a,2bを所望の場所に定位させておくには減衰性能が劣る。そこで、可動子2a,2bと一体になって動く振動センサ7の信号を制御装置10に入力している。この信号は制御装置10の中で適切に信号処理されて、固定子3a,3bの巻線コイルに電流を通電するためのドライバ11a,11bを励磁するが、可動子2a,2bの動きに減哀(ダンピング)を付与するように作用している。すなわち変位センサ6と振動センサ7の出力信号の制御装置10への入力によって、可動子2a,2bを鉛直方向の所定の位置に安定に定位させておくことができる。
【0026】
床などの振動は、床と接する能動制振製置1の底板8の振動を振動センサ9によって検出する。そして、この出力信号も制御装置10への入力としている。制御装置10では、底板8の振動に応じて可動子2a,2bを駆動し、このときに発生する可動子2a,2bの駆動反力を底板8を介して床などに伝達させる。結局のところ、底板8と接する床などの振動を、可動子2a,2bの駆動反力によって抑制する。
【0027】
ここで、図1の能動制振装置1では可動子2と固定子3とからなる平板状にリニアモータを二対使用した。この理由は、床などの振動を抑制する目的で能動制振装置を使うために、駆動推力と可動子の質量とを増加させるためである。したがって、駆動推力と可動子の質量増加をはかれば、より大きな構造物の振動を制振することができる。その際、リニアモータを新規設計することなしに、既に実績のあるリニアモータを複数台使って、駆動推力と質量のアップが図れれば、コスト、信頼性、およびスペースの観点から好ましい。
【0028】
図3(a)〜(e)に、リニアモータを複数台使用して、駆動推力と質量の増加を図った能動制振装置の構造例を示す。同図はリニアモータの並列駆動のための機械的接続を表している。つまり、平板状のリニアモータを並列に連結して推力および可動質量の増加をはかった能動制振装置1を上面からみた概観図である。
【0029】
図3(a)は図1に示した能動制振装置である。リニアモータ2台を連結板4を使って結合した場合を示している。同図(b)は概略三角形状の連結部材4bの3つの側面に平板状のリニアモータを3つ連結した場合を、同図(c)は逆T字型の連結部材4cにリニアモータ3対を連結した場合を、同図(d)は概略四角形状の連結部材4dの側面に平板状のリニアモータを四つ連結した場合を、そして同図(e)は概略H型形状の連結部材4eに4対のリニアモータを連結した場合を示す。
【0030】
同図(a)から(e)の能動制振装置になるにしたがって、駆動推力の向上および可動部分の質量の増加が図れている。なお、例えば図1の場合、可動部分の質量は、永久磁石を有する可動子2a,2bの質量によって大部分が決まっている。しかし、可動子2の側面に付加質量を付けて、可動子としての質量を増やすことができる。また、例えば、図3(b)あるいは(d)の場合においては、連結部材4b,4dの中央部に可動子としての質量を増やすための重りを付加することができる。
【0031】
ここで、可動子2a,2bを鉛直方向に移動させるときの案内機構としては、例えば循環ボールを使ったガイドレールが使われる。注意すべきことは、可動子2a,2bを鉛直方向の特定の位置に位置決めしこの近傍で床の振動に応じて可動子2a,2bを上下動させている、ということである。この振幅は極めて小さい。したがって、同一の場所で可動子2a,2bが微小振動することに起因して、ガイドレールの潤滑は枯渇し、長時間の運転後には可動子のガイドレール上での移動がスムーズに行なえなくなる、という問題を引き起こす。このような問題に対処するために、本発明では二つの解決策を示す。
【0032】
まず、一つは、能動制振装置1の運転が、半導体露光装置(ステッパもしくはスキャナ)と独立にすなわちスタンドアローンで行なわれる場合のものである。能動制振装置1による駆動抑制は、通常の場合、数十Hzの床の振動モードに対して施されることに着目する。つまり、この振動周波数よりも十分低い周波数で可動子2a,2bを揺動させる。可動子2a,2bの低周波数による揺動では、能動制振装置1による振動抑制に影響は与えない。能動制振装置1における可動子2a,2bの平衡位置が、極くゆっくりと変化するだけだからである。このような動きを可動子2a,2bに与えることによって、ガイドレールの潤滑切れの問題は回避できる。
【0033】
二つ目の解決策は、能動制振装置1をステッパもしくはスキャナの運転に同期させるものである。より具体的に、ステッパの場合には適切な時間間隔のステップ期間中を捉えて、この期間に能動制振装置の可動子2a,2bを一旦着座させるか、もしくは平衡位置を中心に大きな振幅で強制的に動かす。スキャナの場合も、ステップ期間中などの露光に関係しない適切な期間を捉えて、能動制振装置1 における可動子2a,2bを着座させるか、もしくは平衡位置を中心に大きな振幅で強制的に動かす。このような動作を可動子2a,2bに与えることによって、ガイドレールの潤滑が適切に行なわれ、結果として可動子2a,2bが同一場所を中心に継続的に微小振動しても潤滑切れによって磨耗を起こすことがないように作用する。
【0034】
以下、図4〜6を用いて、上述した能動制振装置1を床等に設置して、床の振動が半導体露光装置に及ぼす位置決めなどへの影響を除去もしくは軽減する構成について説明する。
【0035】
[実施例1]
図4は、ウエハステージ13の近傍に本発明の能動制振装置1を配置した様子を示す。ウエハステージ13を搭載するステージ定盤14には外部から侵入する振動が存在し、例えばこれがウエハステージ13の主に鉛直方向の位置決め波形に重畳して位置決め精度を劣化させているとする。この場合、ステージ定盤14に重畳している振動を抑制することができれば、ウエハステージ13に重畳している振動も抑制できる。以って、位置決め精度を良好ならしめることができる。したがって、図4に示すごとく、ウエハステージ13の近傍であって、例えばステージ定盤14の上に能動制振装置1を設置する。
【0036】
[実施例2]
図5は、半導体露光装置を設置する床に直に能動制振装置1を配置する構成を示す。同図において、15は半導体露光装置16を設置しているクリーンルーム内の床を構成するグレーティングである。グレーティング15は梁17の上面に載置かつ固定されている。図示のように、半導体露光装置16を設置している近傍の床に能動制振装置1が設置されている。この床の部分の振動を抑制することによって、床の振動が半導体露光装置16内に侵入することが抑制される。もちろん、図5においては、能動制振装置1は半導体露光装置16に対して1台のみ使用しているように描かれているが、実際には、複数台使用しても構わない。複数台の上記能動制振装置を半導体露光装置16の周りに配置することによって、露光装置を設置する床振動を軽減することができ、良好な環境にすることができる。
【0037】
[実施例3]
図6は、グレーティング15下に能動制振装置1を設置する構成を示す。同図において、グレーティング15は梁17の上面に載置かつ固定されている。そして、18は梁17とともにグレーティング15上の搭載物(例えば、半導体露光装置)を支える大梁である。ここで、クリーンルームの床を構成しているグレーティング15上の主要な振動は、建屋の骨格を形成する大梁18に存在している場合が多い。つまり、大梁18にはグレーティング15を振動させる元々の振動がある。したがって、この部位の振動を抑制することができれば、グレーティング15上の振動も抑制できる。
【0038】
そこで、床を形成する構造部材としての大梁18の上に適切な固定治具19を使って能動制振装置1を固定する。幸いなことに、グレーディング15と大梁18との間には、能動制振装置1を設置可能な空間がある。図5のように、半導体露光装置16近傍の床の上に能動制振装置1を設置する場合、半導体露光装置16を含めたその他の生産設備のレイアウトの柔軟性や生産活動に伴う人やものの動きを邪魔する可能性は高い。しかし、図6の構成では、このようなことはないと言うメリットがある。もちろん、構造機材としての大梁に対する能動制振装置1を用いた振動抑制は、図6に示すように1台のみを使った場合に限定されるものではない。構造部材としての大梁18の振動モードを加味すると、能動制振装置1を複数台数使用することによって、構造部材そのものの振動が抑制でき、そのことがクリーンルームの床の振動を低減することにつながり、そして半導体露光装置16への振動の侵入を抑止して生産性の向上に寄与する。
【0039】
次に、能動制振装置1を使った振動抑制の効果を示す実験結果を示す。
図7に、(A)能動制振装置1を動作させないときと、(B)動作させたときの床振動のスペクトラムを示す。能動制振装置1を動作させていないとき、図中にAで指し示すように試験に供した床には約25Hzの振動ピークが存在していた。他の周波数にも振動のピークは存在するが、これらは床を伝達経路として伝播してきている振動ピークであって、約25Hzの振動ピークは床の固有振動モードであることが分かっている。能動制振装置1を動作させると、図中のBのごとくこの振動ピークが抑制されることが確認でき、したがって、能動制振装置1が効果的に機能していることが分かる。
【0040】
また、図7の周波数特性を得た床とは別のところに能動制振装置1を設置して、床の振動を抑制する実験を行なった。図8は、能動制振装置1を動作させないときと、動作させたときの床振動の加速度時系列信号を示す。同図(a)は能動制振装置1がオフの場合、同図(b)は能動制振装置をオンした場合における床の振動の加速度時系列信号である。明らかに、能動制振装置をオンしたときには、この装置を設置した近傍の床の振動が抑制できている。
【0041】
なお、図1では、本発明の能動制振装置1は、可動子2a,2bの近傍に、すなわち駆動点近傍に振動センサ9が設けられていた。しかしながら、可動子2a,2bの駆動点とは離れた部位の振動を振動センサ9によって検出して、この検出出力に応じて可動子2a,2bを駆動することも本発明に属する。また、図1に示す能動制振装置1では、変位センサ6と振動センサ7を用いて、可動子2a,2bを平衡位置に安定に定位させていた。すなわち、能動的に可動子2a,2bの平衡位置を確保していたのである。しかしながら、受動的なばねや粘性要素を用いて可動子2a,2bの平衡位置を確保してなる能動制振装置およびこれを用いた半導体露光装置も本発明に属することは言うまでもない。
【0042】
[実施例4]
図9は、図1の能動制振装置1において振動センサとして加速度計を用いた場合の、能動制振装置1に対するフィードバックの構成を示す。
同図において、可動子2a,2bと一体になっている加速度センサ7の出力は積分補償器20を介して速度信号となし、巻線コイルである固定子3a,3bに電流を通電する電力アンプの前段に負帰還されている。このフィードバックループによって、可動子2a,2bの動きにダンピングが掛けられる。次に、底板8を基準にした可動子2a,2bの移動距離を計測する変位センサ6の出力は、位置制御器22に入力されている。位置制御器22へのもう一つの入力は、目標電圧印加端子23に加える電圧であり、この電圧によって底板8を基準にした可動子2a,2bの鉛直方向の定位位置を定める。位置制御器22は、比較器とゲイン補償器もしくはP1補償器とで構成することができる。ここで、Pは比例を、1は積分動作を意味する。そして、位置制御器22の出力と先に説明した積分補償器20の負帰還信号とを加算した信号を電力アンプへの入力としている。このような破線で囲む中立位置安定化制御装置24によって、可動子2a,2bは鉛直方向の平衡位置に安定に定位する。
【0043】
なお、中立位置安定化制御装置24による機能は、変位センサ6と加速度センサの出力に基づくフィードバックを掛けなくても実現することができる。板ばねと粘性要素等を組み合わせて、受動的に可動子2a,2bを中立位置に保持しても構わない。
【0044】
可動子2a,2bが底板8と剛に接している不図示の構造物に対して制振作用を与えるには、上述した積分補償器20と位置制御器12の出力に基づくフィードバックの他に新たなフィードバックループが必要となる。それは、底板8に装着した加速度センサ9の出力に応動して可動子2a,2bを揺動させ、そのときの駆動反力によって底板8と剛に接する不図示の構造物の振動を抑制するためのループである。図2を参照して、底板8に取り付けた加速度センサ9の出力を、第2の積分補償器25に導き、その出力を電力アンプ21の前段にフィードバックしているループがこれに相当する。
【0045】
上述した制御装置の構成によって、可動子2a,2bを中立位置に定位させた状態で、その中立位置のまわりで底板8の振動に応じて可動子2a,2bを揺動させることができ、そしてこのときの駆動反力によって構造物に対して制振を与えることができる。
【0046】
[実施例5]
図10は、図1の振動センサとして速度計を用いた場合の能動制振装置1において、能動制振装置1に対するフィードバックの構成を示す。
図9に示した能動制振装置においては、汎用的に入手できる加速度センサ7,9を装着していた。そのため、可動子2a,2bを中立位置に安定して定位させるために加速度センサ7の出力を積分補償器20に通して速度信号に変換していた。同様に、加速度センサ9の出力も積分補償器15に通して速度信号に変換していた。本実施例では、7と9が加速度センサであったものを図10に示すようにそれぞれ速度センサ7V,9Vに置き換えている。この置き換えに伴って、積分補償器20,25をゲイン補償器20V,25Vとしている。速度センサ7V,9Vは絶対速度を出力するものであり、その出力をそのまま使って電力アンプ11Vを駆動することによって、ダンピングとしての操作力を発生させている。すなわち、速度センサ7Vの出力をゲイン補償器20Vを介してフィードバックすることによって、可動子2a,2bにダンピングを与えている。変位センサ6の出力に対する処理は図9と同様である。結局、変位センサ6と速度センサ7Vの出力を使ったフィードバックによって破線で囲むような速度センサを使った場合の中立位置安定化制御装置24Vが構成されている。そして、底板8に装着した速度センサ9Vの出力をゲイン補償器25Vを介して電力アンプ前段にフィードバックすることにより、底板8と剛に接する不図示の構造物の共振に対して可動子2a,2bの駆動反力によるダンピングとしての制振力を与えているのである。
【0047】
図9の能動制振装置においては、加速度センサを使用していたためダンピングとしての操作力を発生させるために積分演算が必要である。この演算をアナログの電子回路で実現する場合、コンデンサと抵抗で積分時定数を決めるわけであるが、特に時定数が大きい場合には容量の大きなコンデンサを使用せねばならないため、実装空間及びコンデンサの精度に問題を生じる。また、加速度センサの出力は低周波域でドリフトするので低周波域の信号をカットするフィルタリング処理も必要であり、これが能動制振装置の性能を落としている。一方、積分補償器20,25をディジタルで実現する場合、さほどの困難さはないものの、ワインドアップ等の対策を施す必要があり、若干の煩雑さが避けられない。
【0048】
これに対して、本実施例の能動制振装置によれば、速度センサ7V,9Vの出力に単純にゲインを掛けてフィードバックすればよいので、フィードバック装置が単純化するというメリットがある。
加えて、従来の余計なフィルタリング処理が不要となるので、制振性能の劣化要因も排除できるという効果がある。
【0049】
[デバイス生産方法の実施例]
次に上記説明した能動制振装置を備えた露光装置を利用したデバイスの生産方法の実施例を説明する。
図11は微小デバイス(ICやLSI等の半導体チップ、液晶パネル、CCD、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造のフローを示す。ステップ1(回路設計)ではデバイスのパターン設計を行なう。ステップ2(マスク製作)では設計したパターンを形成したマスクを製作する。一方、ステップ3(ウエハ製造)ではシリコンやガラス等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記用意したマスクとウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ4によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行なう。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
【0050】
図12は上記ウエハプロセスの詳細なフローを示す。ステップ11(酸化)ではウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)ではウエハ表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)ではウエハ上に電極を蒸着によって形成する。ステップ14(イオン打込み)ではウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)ではウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では上記説明した能動制振装置を備えた露光装置によってマスクの回路パターンをウエハに焼付露光する。ステップ17(現像)では露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)ではエッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行なうことによって、ウエハ上に多重に回路パターンが形成される。
【0051】
本実施例の生産方法を用いれば、従来は製造が難しかった高集積度のデバイスを低コストに製造することができる。
【0052】
【発明の効果】
本発明の効果は以下の通りである。
(1)半導体露光装置を設置した後で発覚する床などの振動に起因した露光精度への問題に迅速に対処できる。
【0053】
(2)すなわち、半導体露光装置内のユニットのパラメータを再調整することなく、また、半導体露光装置を設置する床の補強工事をすることなく、扱いの簡便な能動制振装置を用いて露光精度などへの影響を抑制ないし軽減することができる。
【0054】
(3)半導体露光装置を設置している床の振動状態は、新たな装置搬入によって変化する。このような状況においても、能動制振装置の設置場所や台数を変更するか、もしくは同装置の調整を変えることによって振動環境の変動に対処することができる。
また、速度センサとして速度計を用いることによる本発明の効果は以下の通りである。
【0055】
(4)抑制したい構造物の振動を加速度センサによって計測する場合は、この出力を1階積分して速度信号に変換して、能動制振装置内の慣性マスを駆動する。しかるに、速度センサを用いるとフィードバックの演算処理の中に積分を入れる必要がなくなる。つまり、速度センサの出力をダイレクトにフィードバックすればよいので、本発明によれば、フィードバック装置を単純にできるという効果がある。
【0056】
(5)上記(4)に関連して、加速度センサの出力に対する主たる積分補償以外のフィルタリング処理も併用するため、このフィルタリング処理に起因して制振効果に限界がある。すなわち、制振性能を高めるためにゲインを強くすると発振を招き易い。しかるに、速度センサの使用によってフィルタリング処理が不要となって、制振のためのゲインを高くとることが可能となる。つまり、制振効果を高めることが可能という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例を示す能動制振装置を示す図である。
【図2】 能動制振装置の制御系の構成を示す図である。
【図3】 並列駆動のための機械的接続を示す図である。
(a)2連結
(b)3連結
(c)もう一つの3連結
(d)4連結
(e)もう一つの4連結
【図4】 本発明の一実施例のウエハステージ近傍に設置した能動制振装置を示す図である。
【図5】 本発明の一実施例の半導体露光装置を設置する床に置かれた能動制振装置を示す図である。
【図6】 本発明の一実施例のグレーティング下への能動制振装置の装着図を示す図である。
【図7】 床の振動のスペクトラムを示す図である。
【図8】 床の振動の加速度時系列信号を示す図である。
(a)能動制振装置オフの場合
(b)能動制振装置オンの場合
【図9】 本発明の一実施例に係る能動制振装置に対するフィードバックの構成を示す図である。
【図10】 本発明の一実施例に係る能動制振装置に対するフィードバックの構成を示す図である。
【図11】 微小デバイスの製造のフローを示す図である。
【図12】 ウエハプロセスの詳細なフローを示す図である。
【符号の説明】
1:能動制振装置、2a,2b:永久磁石(磁気回路)を有する可動子、3a,3b:巻線コイルを有する固定子、4:連結板、5:ターゲット、6:変位センサ、7:振動センサ、7V:速度センサ、8:底板、9:振動センサ、9V:速度センサ、10:制御装置、11a,11b:ドライバ、12a,12b:巻線コイル、13:ウエハステージ、14:ステージ定盤、15:グレーティング、16:半導体露光装置、17:梁、18:大梁、19:固定治具、20:積分補償器、20V:ゲイン補償器、21:電力アンプ、22:位置制御器、23:目標電圧印加端子、24:中立位置安定化制御装置、24V:速度センサを使った中立位置安定化制御装置、25:積分補償器、25V:ゲイン補償器。

Claims (8)

  1. 固定子と、該固定子に対して移動可能に設けられた可動子と、該可動子を移動させる駆動手段とを備え、前記可動子が移動する際の反力を利用して、前記固定子が取り付けられた構造部材の振動を抑制する能動制振装置において、
    前記固定子に設けられ、前記構造部材の振動を計測する固定子振動計と、
    前記可動子の振動を計測する可動子振動計と、
    前記可動子の変位量を計測する変位センサと、
    該変位センサ及び前記可動子振動計の出力信号を前記駆動手段にフィードバックすることによって、前記可動子を中立位置に保持するように制御する中立位置安定化制御装置とを備え、
    前記固定子振動計の出力信号を前記駆動手段に入力し、前記可動子を移動させることにより、前記固定子が取り付けられた構造部材の制振を行うことを特徴とする能動制振装置。
  2. 前記固定子振動計が速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の能動制振装置。
  3. 前記可動子振動計が速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の能動制振装置。
  4. 前記固定子振動計及び可動子振動計は加速度センサから成り、これらの振動計の出力信号を積分処理した後に前記駆動手段に入力することを特徴とする請求項1に記載の能動制振装置。
  5. 前記固定子振動計及び可動子振動計は速度センサから成り、これらの振動計の出力信号をゲイン補償処理した後に前記駆動手段に入力することを特徴とする請求項1に記載の能動制振装置。
  6. 前記駆動手段は磁気回路および巻線コイルを備えたリニアモータから成り、
    該磁気回路および巻線コイルのいずれか一方が前記可動子に設けられ、他方が前記固定子に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の能動制振装置。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の能動制振装置を備えた露光装置において、
    該露光装置の可動部の運転と同期して前記可動子の移動を行うことを特徴とする露光装置。
  8. 請求項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
    露光された前記基板を現像する工程と、を有することを特徴とするデバイス製造方法。
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