JP4380828B2 - 回収ポリエステルフィラメントおよびそれを用いた繊維製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回収されたポリエステルを原料として紡糸して得られた高配向糸を低倍率で延伸することにより得られたポリエステルマルチフィラメントおよびそれを用いた繊維製品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルは、力学的特性、耐熱性、成形性等に優れており、繊維、フィルム、成型品等の分野において極めて広い用途を有している。しかしながら、一方でこれらポリエステル製品は、使用後廃棄、回収され処分されるが、その際、燃焼しようとすると高熱を発し、通常の仕様の焼却炉では焼却炉が損傷し易いなどの問題が生じ、そのため高温耐久性の良い焼却炉が必要になるなどの課題がある。また、燃焼されずに廃棄された場合には、金属の様に腐食しないために永久的に屑として残存するために、それを野生動物が誤飲して死亡するなどの問題が生じており、環境保護の観点からも大きな社会問題となっている。
【0003】
さらに、最近ではポリ塩化ビニルのように組成中に塩素原子を含有する高分子は言うまでもなく、塩素原子を組成中に含有しない高分子でも燃焼時の温度条件によっては空気中のごく微量の塩素と反応して内分泌撹乱化学物質(所謂、環境ホルモン)の1種である猛毒のダイオキシンを発生するとの報告もあり、人体に影響を与えるこのような物質の発生を抑制すべく早急な対策が望まれている。そこで、資源の再利用、環境保護の観点から、廃棄されたポリマー製品を回収し、再利用することが必要であり、その中でも特に使用量が多く、今後も使用量の増大が見込まれるポリエチレンテレフタレートを使用した食用液体用ボトルは回収再利用する価値のある製品であり、実際に再利用され再製品化する試みが始まっている。(特開平5−279921号公報)
【0004】
これら回収されたポリエステルを粉砕後、製糸して繊維化する際、該ポリエステル中に含有される添加物、異物等の不純物、さらには回収時に分別されずに混入する金属等により、紡糸時においてノズルの背圧が上昇し長期の操業が困難である。そこで、その対策としてフィルターの孔サイズを大きくすると、紡糸或いは延伸工程において糸切れが多発し操業性が著しく低下するといった問題が発生し、回収されたポリエステルから汎用性のある衣料用マルチフィラメントを製糸することは困難であった。
【0005】
さらに、回収されたポリエステルはさまざまな種類の製品が混在しているために固有粘度が一定ではなく、製糸時においても粘度斑が大きく、単糸間あるいは単糸内で物性差が生じてしまい、布帛として染色すると染め斑が発生し芯地などの特殊用途以外では使用出来なかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を克服し、ポリエステル成型品を回収、再溶融してチップ化する際に、異物含有量を低減するとともに分子量のバラツキを特定の範囲に留めることにより、天然繊維に似た自然なムラ感を呈する衣料用ポリエステル繊維製品を安価に提供する得ることを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、有機および/または無機不純物の含有量を一定の量以下に抑制すること、さらには使用する回収ポリエステルの固有粘度のバラツキをある一定範囲内に収めたポリエステルを紡糸、延伸することにより本発明を完成するに至った。
その第1は、口栓部分が異素材からなる食用液体用ポリエステルボトルを、フレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させてチップ化した回収ポリエステルを含み、多くとも5重量%の有機および/または無機不純物を含有する原料を用いて、高配向未延伸を紡糸し、引き続き低倍率で熱延伸を行って、下記の特性値を満足するポリエステルフィラメントを製造することを特徴とする回収ポリエステルフィラメントの製造方法。
10≦DE(%)≦60
4000≦ΔMn≦13000
3.0≦ST10(g/d)≦3.9
0.05≦σST10(g/d)≦0.35
(ここで、DEは破断伸度を、ΔMnは数平均分子量の最大値と最小値の差を、ST10は10%伸長時の応力を、σST10はST10の標準偏差をそれぞれ表す。)
【0008】
その第2は回収ポリエステルの含有量が30重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の回収ポリエステルフィラメントの製造方法。
【0009】
その第3は上記1および2記載の製造方法で得られた回収ポリエステルフィラメントを用いてなる衣料用ポリエステル繊維製品。
【0010】
以下本発明について詳細に説明する。本発明における回収ポリエステルとは、主に食用液体用のボトルを原料とする回収ポリエステルを対象としている。一般のボトル用ポリエステルは耐久強度の要求から、一般衣料繊維用樹脂に比べ、重合度が高く繊維に再生するときに加熱溶融しても衣料用繊維として要求される重合度を十分維持できることからボトル用ポリエステルを用いることが有利である。
【0011】
繊維性能を維持し、工業的生産を可能にするためには、ポリエステル以外の不純物を多くとも5重量%含有してなることが必須であり(理想的には0重量%にすることが最も望ましく)、分別して回収されたポリエステルボトルを原料とする必要がある。しかしながら、食用液体用のボトルは加熱滅菌された液体を封入するため、ボトル口栓部分にはある程度の耐熱性が要求される。このため、ポリエステルボトルの口栓部分は異素材を用いることが多く、ポリエステルボトルを原料とする以上、これらの異素材を除去することは困難である。さらに、ボトルには金属性のキャップが使用されているものもあり、分別されずに回収された場合に、フレーク中に混入することもある。しかしながら、回収ポリエステルをチップ化する際にフィルターを通すことでこれらの異素材の量は5重量%以下することが可能であり、さらにその製糸方法を工夫すれば衣料用繊維としては十分に要求性能は満足される。
【0012】
【発明の実施形態】
本発明の回収ポリエステルとしては有機および/または無機不純物を多くとも5重量%含有する食用液体用ポリエステルボトルの回収品を原料として用いている。
【0013】
ここで言う有機不純物とは、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、スチレンブタジエンゴム、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンおよびこれらの熱分解物さらには副生成物であり、無機不純物とはSi、Ca、Na、Fe、Al、Sb、Co、K、Cr、Ti等の元素を含む無機物である。
【0014】
本発明においては、該有機および/または無機不純物が主成分であるポリエステルに対して5重量%を超えたものは紡糸時のノズ背圧上昇が著しく、さらに紡糸フィルターの孔サイズを大きくして背圧上昇を抑制すると紡糸や延伸工程での糸切れが多発し、衣料用繊維として製糸困難であり、本発明に使用することができない。
【0015】
さらに、製品中のポリエステルフィラメントは破断伸度が10〜60%であることが必要であり、10%未満では製編織工程で糸切れが生じ易く好ましくない。逆に60%を超えるものであると、後工程通過時の張力により容易に糸が伸びてしまい、実用性に欠ける。より好ましくは20〜50%である。
【0016】
本発明における回収ポリエステルを含有するポリエステルフィラメントの数平均分子量の最大値と最小値の差が4000〜13000であることが好ましく、この範囲に制御することにより製造工程上問題とならない範囲でフィラメント間およびフィラメント内に分子配向分布が生じる。
【0017】
該範囲は本来、製品の染め斑発生につながる可能性のある領域であるが、低コストで地球環境に優しい回収PET繊維製品を提供するという目的をアピールすれば、消費者に十分受け入れられる程度の斑であり、製品によっては天然繊維調の自然な斑感と判断することもできる。したがって、4000未満では糸の物性が均一なものとなり、できた製品も従来のものと何ら変わりなく、回収ポリエステル繊維特有の自然なムラ感が出ないだけでなく、原料である回収PET製品を再チップ化する再にメッシュの細かいフィルターによる濾過工程が必要となり、コストアップとなるばかりか、生産性も低下してしまう。一方、13000を超えると糸物性のバラツキが大きくなり、製品としたときに染斑が大きくなり問題となる。さらに好ましくは5000〜26000である。
【0018】
本発明における回収ポリエステルを含有するポリエステルフィラメントのST10は3.0〜4.0g/d であることが好ましく、3.0g/d 未満であると、配向が不十分であるため製編織時に機械的に引き伸ばされ易く、その部分だけが淡染化し製品として問題となってしまう。逆に、4.0g/d を超えると配向度が高く染色性が低下してしまう。より好ましくは3.1〜3.8g/d である。
【0019】
また、該回収ポリエステルを含有するポリエステルフィラメントのST10のバラツキ度合いを示すσst10が0.05〜0.35g/d であることが必要であり、前述のΔMnと同じくこの範囲に制御することによりフィラメント間およびフィラメント内に適度な分子配向分布が生じ、製品として問題とならない程度の自然なムラ感を呈するものとなる。したがって、0.05g/d 未満であると分子配向分布が少なく、製品とした時に自然なムラ感を呈しない。逆に0.35g/d を超えると分子配向分布が大きくなりすぎ、ムラが強く出てしまい製品として問題となる。より好ましくは0.06〜0.30g/d である。
【0020】
また、原料となるポリエステルの30重量%以上は回収されたポリエステルであることが必要であり、30重量%未満であると再利用の効率が低下し、本発明の目的を達し得ない。
【0021】
本発明によると、回収ポリエステルを積極的に利用することにより、地球環境に配慮すると共に、従来なら製品欠点の原因となる広い分子量分布を逆に利用することにより自然なムラ感を呈するポリエステル繊維製品を経済的かつ効率的に得ることができる。
【0022】
また、回収ポリエステルを用いて紡糸、延伸された糸の断面形状は丸断面だけでなく三角断面、中空断面あるいはその他の異形断面としても構わない。さらには、使用するポリマー中には抗菌性、難燃性、吸湿性、吸水性等の機能性を有する種々の機能剤および共重合物さらには艶消し剤や顔料等が複数含有されていても構わない。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。なお、本発明の評価における測定値は以下の方法で測定した。
【0024】
(有機不純物含有量) 赤外吸収スペクトル法により成分分析を行い有機不純物を同定すると共に核磁気共鳴法(1 H−NMR)により含有量を測定した。
【0025】
(無機不純物含有量)
X線マイクロアナライザー(堀場製EMAX−2770)を用いて無機元素分析を行った。
【0026】
(製糸操業性)
製糸操業性の評価は操業が困難なものを×、操業可能だが糸切れが多いものを△、操業に問題ないものを○として判定した。
【0027】
(数平均分子量;Mn)
製品中の30ヶ所から糸を取り出し、m−クレゾール/クロロベンゼン=50/50の溶媒に安定剤として安息香酸を0.25重量%加えて混合したものをキャリア−とし、取り出した試料をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)にそれぞれ溶解した後、該キャリアーを加え、GPC(WARTERS Model 150C)を使用してポリスチレン換算でMnを測定した。得られたMnの最大値と最小値の差をΔMnと定義した。
【0028】
(破断伸度;DE、10%伸長時応力;ST10)
製品中の30ヶ所から糸を取り出し、小型テンシロンを用いて破断伸度(DE)および10%伸長時の応力(ST10)を測定した。なお、ST10のバラツキは得られた30ヶ所のデータを母集団の標本とみなして次式より計算した。
√nΣST102 − (ΣST10)2 / √n(n-1)
【0029】
(繊維内染斑判定;DYU)
筒編地を作製し、分散染料(blue)で染色した後、グレースケール基準にて染斑の最も少ないものを1級、最も多いものを4級として4段階で判定した。
【0030】
(布帛の表面感)
布帛の表面感は、後加工の経験の長い3名の技術者により天然繊維に近い自然表面感のものから順に○、△、×の判定を行った。
【0031】
(実施例1)
回収されたポリエチレンテレフタレート製食用液体用ボトルをフレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させチップ化したポリマーを衣料用ポリエチレンテレフタレートに対して50重量%混合したものを乾燥後、溶融押出紡糸機を使用して、0.4mmの孔径を有する吐出孔を持つ紡糸口金から紡糸温度280℃、引取り速度3000m/分で溶融紡糸し、引き続き80℃に加熱されたホットローラーおよび120℃に加熱されたホットプレートを通過させ1.69倍の延伸倍率で延伸して75デニール24フィラメント延伸糸を得た。得られた延伸糸を筒編地にして150℃、3分の乾熱リラックスを行い、精練、染色の後ファイナルセットして仕上げ布を得た。天然繊維製品に似た自然な表面感を有する布帛であった。
【0032】
(実施例2)
回収されたポリエチレンテレフタレート製食用液体用ボトルをフレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させチップ化したポリマーを衣料用ポリエチレンテレフタレートに対して70重量%混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして仕上げ布を得た。天然繊維製品に似た自然な表面感を有する布帛であった。
【0033】
(実施例3)
回収されたポリエチレンテレフタレート製食用液体用ボトルをフレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させチップ化したポリマーのみを用いた以外は実施例1と同様にして仕上げ布を得た。天然繊維製品に似た自然な表面感を有する布帛であった。
【0034】
(実施例4)
回収されたポリエチレンテレフタレート製食用液体用ボトルをフレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させチップ化したポリマーを衣料用ポリエチレンテレフタレートに対して30重量%混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして仕上げ布を得た。
【0035】
(比較例1)
延伸倍率を2.15とした以外は実施例2と全く同法にて布帛を得た。延伸工程および製織時における糸切れが多く、操業性に劣るものであった。
【0036】
(比較例2)
延伸倍率を1.25とした以外は実施例2と全く同法にて布帛を得た。得られた布帛は染め斑が多く、スナッグも多く発生した。
【0037】
(比較例3)
紡糸時の引き取り速度を1500m/分とし、延伸倍率を2.89とした以外は実施例2と全く同法にて布帛を得た。延伸工程での糸切れが多発し操業困難であった。
【0038】
(比較例4)
回収されたポリエチレンテレフタレート製食用液体用ボトルをフレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させずにチップ化したポリマーのみを用いた以外は実施例3と同様にして仕上げ布を得た。紡糸時のノズル背圧上昇が大きく、糸切れも多発した。さらに延伸工程、製織工程でも糸切れが多く操業困難であった。
【0040】
(比較例5)
衣料用ポリエチレンテレフタレートのみを原料として使用した以外は実施例1と全く同様にして仕上げ布を得た。既存のポリエステル製品と何ら変わらない布帛であった。
【0041】
尚、実施例、比較例における実験条件並びに評価の結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
Claims (3)
- 口栓部分が異素材からなる食用液体用ポリエステルボトルを、フレーク状に粉砕し、溶融した後、フィルターを通過させてチップ化した回収ポリエステルを含み、多くとも5重量%の有機および/または無機不純物を含有する原料を用いて、高配向未延伸を紡糸し、引き続き低倍率で熱延伸を行って、下記の特性値を満足するポリエステルフィラメントを製造することを特徴とする回収ポリエステルフィラメントの製造方法。
10≦DE(%)≦60
4000≦ΔMn≦13000
3.0≦ST10(g/d)≦3.9
0.05≦σST10(g/d)≦0.35
(ここで、DEは破断伸度を、ΔMnは数平均分子量の最大値と最小値の差を、ST10は10%伸長時の応力を、σST10はST10の標準偏差をそれぞれ表す。) - 回収ポリエステルの含有量が30重量%以上である請求項1記載の回収ポリエステルフィラメントの製造方法。
- 請求項1または2記載の製造方法で得られた回収ポリエステルフィラメントを用いてなる衣料用ポリエステル繊維製品。
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