JP4371755B2 - Bリンパ球の分類方法 - Google Patents

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Description

本発明は、血液試料中のBリンパ球の分類方法に関する。
健常人の末梢血液の白血球には、リンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球の種類がある。リンパ球はさらにサブセットと呼ばれる3種類(Tリンパ球、Bリンパ球、NKリンパ球)に大別される。Bリンパ球は、骨髄由来のリンパ球で表面に免疫グロブリンを持つ。また、形質細胞に分化し抗体を産生するなど、人体の免疫機能において非常に重要な役割を果たしている。通常は、リンパ球全体に占めるBリンパ球比率(%)として表示される。
Bリンパ球が免疫機構に強く関わっていることから、その増減は直接的に免疫機能の変化を捉えることにつながる。通常、Bリンパ球は一定の比率で存在するが、疾患の存在により変動することがあり、Bリンパ球比率を測定することにより疾患の存在についての情報を得るうえで有用である。
Bリンパ球の増加を示す疾患としては、多発性骨髄腫、Bリンパ球性慢性リンパ性白血病、伝染性単核球症、バーキットリンパ腫などがあげられる。Bリンパ球が減少する疾患としては、AIDS、進行癌、ホジキンリンパ腫、無リンパ球性低免疫グロブリン血症、無免疫グロブリン血症、細網異形性症、麻疹、水痘、ヘルペスなどがあげられる。
リンパ球の分類・計数を行う技術としては、補体で感作した羊赤血球とBリンパ球が結合することを利用しその塗抹標本を光学顕微鏡で観察しながら計数を行うロゼット法、血液の塗抹標本を蛍光標識抗体で標識し蛍光顕微鏡で観察しながら計数を行う表面免疫蛍光法など用手法が多く用いられていたが、近年は蛍光標識抗体を用いて標識した血球を液体中に流し個々の血球から得られる信号を信号処理することで分類・計数を行うフローシステムが一般的である。
フローシステムは、血球を液体中に流し血球個々に信号(例えば光学的特性の差異に基づく信号)を検出する。このとき、検出したい細胞に対する抗体を蛍光物質で標識してから添加することで、検出したい細胞のみが蛍光信号を発するようになり、この信号を検出することで希望する細胞の情報が得られる。
抗体は、特定の物質に対してのみ結合する特性をもっており、その特異性が非常に高いことが知られている。現在、特定の細胞のみに現れる物質(蛋白質など)が特定されており、この物質と結合するように調製された抗体を用いることで、細密な細胞の分類を行うことが可能となっている。Bリンパ球の分類・計数に使用される抗体(たとえば、抗CD19,抗CD20抗体)も、Bリンパ球のみに発現する物質と結合するように作製されている。
米国特許第4,284,412号公報(1981)
上記の蛍光標識抗体を利用したフローシステムは、使用する機器・試薬の取り扱いに熟練した操作者を必要とする。また、使用する蛍光標識抗体はその作製に非常に高度な技術と時間が必要であるため、微量ながらたいへん高価である。
蛍光標識抗体を利用したフローシステムは、微量の細胞と微量の蛍光標識抗体を損失無く結合させ測定するために複雑な手順が必要であり、短時間の操作の繰り返しと待ち時間を必要とする。
本発明は、安価で簡便なBリンパ球の分類方法を提供することを目的とする。
本発明のBリンパ球の分類方法は、
1)血液試料と、塩化アンモニウムを含む試薬と混合して、赤血球を溶解するとともに、前記血液試料中のBリンパ球を他のリンパ球と弁別可能な程度まで収縮させて測定用試料を調製し、
(2)前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに流し、
(3)フローセル中を流れる測定用試料中の細胞に光を照射し、
(4)照射された細胞から発せられる散乱光を少なくとも2つ検出し、
(5)検出された散乱光に基づいて、2次元分布図を作成し、
(6)作成された2次元分布図上で、Bリンパ球の集団の領域を特定し、
(7)特定された領域内のBリンパ球を計数する、
ことを特徴とする。
本発明によれば、高価な蛍光標識抗体を使わずに、簡便にBリンパ球を測定することができる。
本発明の血液試料とは、末梢血液をいい、Bリンパ球が含まれると予想される試料をさす。
本発明の塩化アンモニウムを含む試薬は、測定の障害となる血液試料中の赤血球を溶解し除去するとともに、前記血液試料中のBリンパ球を他のリンパ球と弁別可能な程度まで収縮させるためのものである。塩化アンモニウムの使用量は、赤血球を溶解するのに十分な量であり、5.0〜20.0mg/mlの範囲で使用できる。pHは好ましくは6.0〜8.0、より好ましくは7.0〜7.5の範囲で使用でき、pH調整は適当な酸やアルカリを使用して行うことができる。また、抗凝固・抗凝集対策としてEDTA塩を添加してもよい。血液試料との混合比は、1:10〜100(血液試料:塩化アンモニウム含有試薬)、好ましくは1:20〜30で好適に使用される。
血液試料と塩化アンモニウムを含む試薬との反応は、反応温度4〜35℃、好ましくは15〜25℃、反応時間15〜60分、好ましくは20〜40分で好適に実施できる。反応温度が高くなれば、反応時間を短縮することができる。この工程において、血液試料中の赤血球は溶解され、一方Bリンパ球は他のリンパ球と弁別可能な程度まで収縮される。通常のリンパ球サブセット分析では、血液試料に蛍光標識抗体を添加し反応させ、塩化アンモニウム塩を含む試薬を加え、室温で5分程度反応させた後測定が行われる。あるいは、血液試料に塩化アンモニウム塩を含む試薬を加え、室温で5分程度反応させた後、遠心分離を行って上清を取り除いて再懸濁させてから蛍光標識抗体を添加し反応させた後測定が行われる。しかし本発明者らは、血液試料と、塩化アンモニウムを含む試薬との反応を通常より長く行わせることによって、蛍光標識抗体を用いることなくBリンパ球を分類することが可能であることを見出した。
次に、上記工程で調製された測定用試料をフローサイトメータのフローセルに流す。フローサイトメータとしては、公知のフローサイトメータを使用することができる。
フローセルを流れる測定用試料中の細胞には、光が照射される。光源としては特に制限されず、アルゴン、He−Ne、半導体レーザなどが使用される。
光を照射された細胞からは、様々な角度の散乱光が発せられる。例えば、前方散乱光、前方低角(例えば0−5度)散乱光、前方高角(例えば6−20度)散乱光、側方散乱光、後方散乱光などである。
これらの散乱光のうち、少なくとも2つを検出し、検出した散乱光強度のそれぞれを2軸とする2次元分布図を作成する。このとき、例えば、前方散乱光強度を縦軸に、側方散乱光強度を横軸にとって2次元分布図を作成したとき、リンパ球は、他の白血球に比べて、前方散乱光強度及び側方散乱光強度が低い位置にクラスタを形成する。さらに、Bリンパ球は、他のリンパ球と比較して、前方散乱光強度は低め、側方散乱光強度は高めの位置に出現する(図2参照)。この位置に出現したクラスタがBリンパ球であることは、Bリンパ球を認識する抗体、すなわち蛍光標識された抗CD19あるいは抗CD20抗体をさらに用いて測定することによって確認することができる。
次に、作成された2次元分布図上で、Bリンパ球の集団の領域を特定(ゲーティング)し、特定された領域内の細胞数を計数する。同様に2次元分布図上で全リンパ球集団をゲーティングして全リンパ球数を計数しておけば、Bリンパ球集団の計数結果より、Bリンパ球比率(%)が算出することができる。
実施例1
抗凝固剤(EDTA-2K)処理された健常人末梢血試料50μlを塩化アンモニウム溶血剤(組成:1lの蒸留水にNH4Cl 89.9g,KHCO3 10.0g,EDTA4Na 370.0mgを溶解し、pH7.3にHClで調整する)1mlと混合し、20℃で5分及び30分反応させた後、フローサイトメータ(商品名:FACS Calibur、Becton Dickinson社製)を用い、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を測定して2次元分布図(サイトグラム)を作成し、付属のソフトウェア(商品名:CELLQuest、Becton Dickinson社製)を用いて解析を行った。
通常のプロトコールによる測定(反応時間5分)の場合(図1参照)と比べて、30分反応させた後に測定した場合には、図2に示したように、通常確認されるリンパ球集団クラスタの下方に新たなクラスタが出現する。
新規クラスタの同定
上記の測定で出現した新規クラスタの由来を確認するために、さらに蛍光標識抗体を用いて測定を行った。使用した標識抗体は以下の通りである。
FITC標識抗CD4抗体(商品名:LeuシリーズCD4(Leu-3a)、Becton Dickinson社製)
PerCP標識抗CD8抗体(商品名:LeuシリーズCD8(Leu-2a)、Becton Dickinson社製)
FITC標識抗CD19抗体(商品名:LeuシリーズCD19(Leu-12)、Becton Dickinson社製)
PE標識抗CD56抗体(商品名:LeuシリーズCD56(Leu-19)、Becton Dickinson社製)
FITC標識抗CD14抗体(商品名:Leuシリーズ抗LeuM3、Becton Dickinson社製)
PerCP標識抗CD45抗体(商品名:Leuシリーズ抗HLe-1、Becton Dickinson社製)
抗凝固剤処理された健常人末梢血を、比重分離試薬(商品名:Lymphoprep、AXIS SHIELD社製)を用いて単核細胞を分離し、その50μlに抗CD19蛍光標識抗体と抗CD45蛍光標識抗体を10μlづつ添加し、20℃、15分間反応させた後、さらに塩化アンモニウム溶血剤1mlを添加して20℃で30分間反応を行わせ、FACS Caliburを用いて、前方散乱光強度、側方散乱光強度及び蛍光強度を測定した。なお、蛍光強度の測定は、使用する各標識抗体に合わせて赤色蛍光または緑色蛍光を測定した。解析は、付属のソフトウェア(商品名:CELLQuest、Becton Dickinson社製)を用い、まず、図3のように解析用のゲートを区切り、このゲート内に含まれる抗CD19蛍光標識抗体陽性細胞の比率を算出した。他の標識抗体についても、抗CD19蛍光標識抗体の代わりに各標識抗体を用いた以外は同様に実施した。
以下に、本測定で得られた、新規クラスタを構成する細胞の各表面マーカーの陽性比率を示す。
Figure 0004371755
上記に示したように、新規クラスタを構成する細胞のほとんどがCD19陽性細胞であることが判明した。また、別の実験で蛍光標識抗CD20抗体を用いた測定においても、新規クラスタ内の細胞がCD20陽性であり、したがって、新規クラスタ内の細胞のほとんどがBリンパ球であることが判明した。
実施例2:Bリンパ球系疾患患者検体の測定
B−CLL(慢性Bリンパ球性白血病)患者検体、HCL(Hairly Cell Leukemia)患者検体を用いて測定を行った。
抗凝固処理された血液試料50μlに、塩化アンモニウム溶血剤1mlを添加し、20℃、30分間反応させた後、FACS Caliburで前方散乱光強度、側方散乱光強度を測定し、サイトグラムを作成した。結果を図4及び図5に示す。
いずれの場合においても、通常のリンパ球集団が出現する位置とは異なる位置に別のクラスタが出現した。
通常のプロトコールによる測定で得られるサイトグラムである。 本発明により得られるサイトグラムである。 本発明において用いられるサイトグラムである。 本発明によりB−CLL検体を測定したときに得られるサイトグラムである。 本発明によりHCL検体を測定したときに得られるサイトグラムである。

Claims (4)

  1. ( 1 ) 血液試料と、塩化アンモニウムを含む試薬と混合して、赤血球を溶解するとともに、前記血液試料中のB リンパ球を他のリンパ球と弁別可能な程度まで収縮させて測定用試料を調製し、
    ( 2 ) 前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに流し、
    ( 3 ) フローセル中を流れる測定用試料中の細胞に光を照射し、
    ( 4 ) 照射された細胞から発せられる散乱光を少なくとも2つ検出し、
    ( 5 ) 検出された散乱光に基づいて、2次元分布図を作成し、
    ( 6 ) 作成された2次元分布図上で、Bリンパ球の集団の領域を特定し、
    ( 7 ) 特定された領域内のBリンパ球を計数する、
    ことを特徴とする、Bリンパ球の分類方法。
  2. 前記工程(4)において検出される少なくとも2つの散乱光が、前方散乱光および側方散乱光を含む請求項1記載の方法。
  3. 前記2次元分布図が前方散乱光強度および側方散乱光強度に基づいて作製される請求項1または2記載の方法。
  4. 前記血液試料と前記試薬とを混合して4〜35℃の温度で15〜60分間反応させることにより前記測定用試料を調製する請求項1〜3の何れかに記載の方法。
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