JP4370991B2 - 自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法および耐遅れ破壊特性に優れた自動車構造部材用鋼材 - Google Patents

自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法および耐遅れ破壊特性に優れた自動車構造部材用鋼材 Download PDF

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本発明は、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法に係り、とくにビッカース硬さ(HV)で250以上の高硬度を有するか、熱処理によりビッカース硬さ(HV)で250以上の高硬度となる、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法および耐遅れ破壊特性に優れた自動車構造部材用鋼材に関する。
なお、本発明でいう「鋼材」には、鋼板、鋼帯および鋼管等、あるいはそれらを用いて構成された構造体をも含むものとする。また、本発明でいう「鋼材」は、好ましくは薄肉鋼材とする。本発明でいう「薄肉」とは、板厚あるいは肉厚が4.5mm以下の鋼材をいうものとする。また、本発明でいう「自動車構造部材」には、自動車走行で想定される、雨天や、小石が敷かれ道や融雪剤が散布された道などの腐食環境下に晒される自動車足回り部材や、インパクトビーム、センターピラーなどの部材が含まれるものとする。
金属材料、例えば、鋼材を引張強さで720MPaを超えて高強度化して使用する場合には、使用鋼材の拡散性水素に起因する遅れ破壊挙動について予め知っておく必要がある。鋼材の拡散性水素に起因する遅れ破壊挙動は、使用される環境によって大きく変動するため、従来から、鋼材の耐遅れ破壊特性の評価は、実際の使用環境下での長期間の暴露試験により行なわれてきた。しかし、この試験には多大な試験時間と労力とを必要とするため、試験期間を短縮した室内試験を用いる方法が種々提案され、実施されている。とくに、高力ボルトや、PC鋼棒等に関する提案が多くなされている。
例えば、非特許文献1には、高力ボルト、線材を対象に、ボルト形状や棒状の試験片を酸等に浸漬して、水素チャージしたのち、大気雰囲気中で一定荷重を付加する定荷重試験により、限界水素量又は限界応力等を求め、耐遅れ破壊性を評価する方法が提案されている。また、非特許文献2には、棒状の試験片を電解質(チオシアン酸アンモニウム)溶液中に浸漬して水素チャージしながら、一定荷重を付加する定荷重試験を行い、限界応力を求め、耐遅れ破壊性を評価する方法が提案されている。
また、非特許文献3には、塩酸中に浸漬した状態であるいは電気的に水素チャージしながら4点曲げ試験を行なう方法、あるいはU字曲げ加工しボルト締めした試験片を塩酸中に浸漬する方法など、遅れ破壊特性を評価する方法が提案されている。
また、特許文献1には、空洞を有する棒状の金属材試験片の外周面全体を水素侵入雰囲気(ガス)に晒しながら、試験片に一定荷重を加え、同時に空洞に侵入した水素量を測定し、試験片破断時までの侵入水素量を金属材の遅れ破壊の指標とする金属材の遅れ破壊評価方法が提案されている。
また、特許文献2には、棒状鋼材に静的な曲げ荷重を一定時間加え、ついで曲げ疲労させて疲労破断するまでの回数を求め、遅れ破壊性を評価する鋼材の遅れ破壊性評価方法が提案されている。この方法は、静的な曲げ荷重を一定時間付加することにより、拡散性水素を応力誘起拡散させて引張応力部に水素を集中させて疲労特性の劣化を測定し、微量な水素侵入下での遅れ破壊性を評価しようとするものである。
また、特許文献3には、予め同種の鋼材について、低歪速度引張試験により拡散性水素を含む鋼材の伸びを測定し、拡散性水素を含有しない場合の鋼材の伸びに対する劣化度で定義される水素脆化危険度指数と、鋼中に存在する拡散性水素量との相関関係を求めておき、評価対象鋼材中に存在する拡散性水素量を測定して、その相関関係から、評価対象鋼材の水素脆化危険度を評価する鋼材の水素脆化感受性評価方法が提案されている。
また、例えば特許文献4には、薄板を深絞り加工して作製した円筒、あるいは薄肉の鋼管を食塩水中に浸漬して、1週間後に割れの有無を観察する、薄肉材の耐水素脆性特性を評価する方法が提案されている。
また、特許文献5、特許文献6には、U曲げしたサンプルをカチオン塗装したのち、曲げ頂点にスリットを入れて、塗装膜を破壊した状態にして、電解質溶液中で電気的に水素チャージを行いながら、割れが発生するまでの時間(30分まで)を測定し、耐遅れ破壊特性を評価する方法が提案されている。
また、特許文献7には、C−リング試験片を使って、塩酸中に200時間まで浸漬したのち、割れ発生の有無を調査し、耐遅れ破壊特性を評価する方法が提案されている。
また、特許文献8には高強度熱延鋼板を用いて、特許文献9には高強度冷延鋼板を用いて、ERWにより造管した高強度ERW鋼管について、C−リング試験片を使った耐遅れ破壊特性の評価が開示されている。
また、高力ボルトや、PC鋼棒では、拡散性水素量を正確に同定するために、特許文献1にも記載されているように、2本の試験片に水素チャージしたのち、試験片を乾燥させて、そのうちの一本の試験片について遅れ破壊特性の評価を実施し、残りの一本の試験片には荷重をかけずに水素量を測定する方法が実施されている。
特開平8−145862号公報 特開平11−30577号公報 特開2001−264240号公報 特開平6−145893号公報 特開平7−102341号公報 特開平7−197183号公報 特開平8−337817号公報 特許第3111861号公報 特開平3−138316号公報 N.Suzuki et al.:Wire J. International,vol.19,(1986),pp.36〜47 Takai et al.:鉄と鋼 vol.79(1993),pp.685〜691 長滝ら:NKK技報、No.145(1994)、pp.33〜39.
しかしながら、非特許文献1に記載された技術では、酸に浸漬して水素チャージするため、任意の拡散性水素量を鋼中に侵入させることが難しいこと、および試験を大気中で実施するため、チャージされた拡散性水素が試験時間の経過とともに減少し、試験時に希望する拡散性水素量を確保することが難しいことなどの問題があった。
また、非特許文献2に記載された技術では、電解質溶液の濃度を変化させたとしても、侵入させる拡散性水素量には限界があり、試験片中拡散性水素量を任意の量に調整することが難しく、拡散性水素量を変化させた条件で行なう必要のある鋼材の遅れ破壊特性の調査には不向きな方法である。
また、非特許文献3に記載された技術では、4点曲げ試験片、あるいはU字曲げ加工しボルト締めした試験片を使用するため、自動車足回り部材等の自動車構造部材が受ける一定応力が負荷される応力状態での試験ではなく、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価する試験方法としては十分であるとは言い難い。
また、特許文献1に記載された技術では、用いる試験片が空洞を有する特殊な形状を有しており、例えば薄肉鋼材のように、鋼材の寸法形状によっては空洞付の試験片を採取できない場合があるという問題がある。また、特許文献1に記載された技術では、中空部分を有する中実試験材を試験液体中に浸漬して破断するまでに試験片の中空部分まで抜けてきた水素の合計量を限界拡散水素量として把握している。しかし、例えば遅れ破壊時の拡散性水素量が、中空部分に蓄まった水素に相当するわけではないため、遅れ破壊を引き起こした場合の拡散性水素量の測定方法としては問題がある。というのは、試験液から試験材に入り込んだ水素は、定常状態であったとしても、「非拡散性水素(中実部分)+拡散性水素(中実部分)+中空部分に蓄まった水素」がバランスして存在しているだけであり、遅れ破壊時に試験片に存在する拡散性水素量が、中空部分に蓄まった水素に相当するわけではない。また、中空部分に蓄まった水素を測定のためにキャリアーガスで連続的に取り出すたびに、試験液からは、新たに水素が試験片に侵入する。そのため、中空部分に蓄まった水素量が、遅れ破壊時に試験片に存在する拡散性水素量であるとは到底言えない。
また、特許文献2に記載された技術によれば、棒状試験片を採取できる場合には、鋼材の耐遅れ破壊性の評価は可能であるが、所定寸法形状の試験片を採取できない場合には、静的曲げ荷重の負荷方法をその都度変更する必要がある。さらに、試験片の寸法形状が変化すると、静的曲げ荷重の負荷状況と水素の集中部位との対応が変化するため、荷重負荷と水素の集中部位の対応を制御する必要がある。しかし、荷重負荷部と水素の集中部位とを対応させることはほとんど不可能であり、鋼材の耐遅れ破壊性の評価ができなくなるという問題があった。
また、特許文献3に記載された技術では、拡散性水素を含む鋼材の伸び劣化度をもとに鋼材の水素脆化危険度を推定している。しかし、この伸びの劣化度を利用する方法は、水素脆化を推定する一方法ではあるが、伸びの劣化が水素による脆化促進に伴う破断の短時間化とは必ずしも一対一に対応できない。このため、この伸びの劣化度を利用する方法により、鋼材の耐遅れ破壊特性を評価することには問題がある。また、特許文献3に記載された技術では、水素分析装置へ投入する前に行なうめっき剥離や乾燥等の前処理中に漏れる水素量を考慮して水素分析しておらず、拡散性水素量の測定精度にも問題を残している。
また、特許文献1〜特許文献3、非特許文献1、非特許文献2に記載された技術では、使用するサンプルが棒状あるいはボルト状を想定しており、体積に対する表面積が小さく、体積自体も大きいため、チャージされた水素量を測定する際に、大気中にたとえ1時間放置しても拡散性水素が全て漏れてなくなるという心配はない。しかし、肉厚の薄い板状サンプルを用いる場合には、大気中に放置すると、拡散性水素が急激に漏れるため、上記した従来技術は、遅れ破壊挙動を評価する手段としては問題を残していた。
また、特許文献1にも記載されているように、高力ボルトや、PC鋼棒では、拡散性水素量を正確に同定するために、2本の試験片に水素チャージしたのち、試験片を乾燥させて、そのうちの一本の試験片について遅れ破壊特性の評価を実施し、残りの一本の試験片には荷重をかけずに水素量を測定する方法が実施されている。しかし、これも、高力ボルトや、PC鋼棒のような容積が大きく、重量のある試験片が採取できる場合には可能であるが、薄肉鋼材の場合には、採取できる試験片の肉厚が薄くなり、試験片を大気中で扱うと急激に水素が抜けて、水素量の正確な測定ができなくなるとともに、耐遅れ破壊特性の評価も不正確となる。
また、上記した従来の方法は、ボルトや棒鋼の水素による遅れ破壊等の水素脆化を対象としているため、特許文献1や特許文献2、さらには非特許文献1と非特許文献2にも記載されているように、それらの使用環境を反映して評価する応力水準は、試験片の破断応力の70〜90%で評価する場合が殆どである。
しかし、例えば、自動車足回り部材のような利用環境、使用環境であれば、鋼材の引張強さの70〜90%が常時負荷されるとは考えにくい。また、部材に導入される拡散性水素も、1ppmを越える量が常時導入されているとは考えにくい。したがって、例えば自動車足回り部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を、上記したような従来技術を用いて評価すると、過酷すぎる条件での評価ということになり、使用環境、利用環境に即した自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価となっていないという問題があった。すなわち、上記したような従来技術では、自動車足回り部材等の自動車構造部材用鋼材に対する耐遅れ破壊特性評価の適正な基準を与えていなかったと言える。
また、特許文献4〜特許文献9には、薄肉高強度鋼材についての耐遅れ破壊特性の評価方法が記載されているが、自動車構造部材用鋼材の十分な耐水素脆化特性の評価方法であるとは言い難い。
特許文献4に記載された技術では、CGLハイテン材の耐水素脆化特性を評価しているが、深絞り加工した加工材を食塩水に浸漬するだけであり、自動車構造部材等における実際の応力負荷や、拡散性水素量を反映した試験条件となっていないという問題があった。
特許文献5及び特許文献6に記載された技術では、U曲げしたサンプルを電解質溶液中で電解チャージしながら割れ発生までの時間を評価しており、自動車足回り部材等の自動車構造部材が受ける応力状態での試験ではなく、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価する試験方法としては十分であるとは言い難い。また、試験材中に含まれる水素量をガスクロマトグラフィで水素を分析する必要があるが、分析前にカチオン塗装を酸等で除去する必要があり、その際に水素が試験片に導入されることもあり、また一方で、大気中に放置するため試験片から水素が抜けるため、試験片中の水素量測定が不正確となるという問題がある。
特許文献7に記載された技術では、C−リング試験片を使用し、塩酸中に浸漬する方法を採用しており、特許文献5や特許文献6に記載された技術と同様に、自動車構造部材が受ける応力状態での試験とは言い難く、また、所望の拡散性水素量を試験片に自由に導入することが難しくなるという問題があった。
特許文献8、特許文献9に記載された技術では、C−リング試験片を使用して試験片に歪を導入している。このため、歪が集中した箇所にのみ水素が集中する傾向があり、自動車構造部材が受ける環境とは異なる環境での評価となり、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価する方法としては問題を残していた。
このように、上記した特許文献1〜特許文献9に記載された技術はいずれも、使用環境下での応力状態で、かつ使用環境下で導入される拡散性水素を的確にしかも制御良く導入して耐遅れ破壊特性を評価する方法であるとは言い難く、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価する方法、あるいは耐遅れ破壊特性に優れた鋼材の開発に利用する評価方法としては、問題を残していた。
本発明は、このような従来技術の問題を解決し、好ましくは薄肉の、高強度化・高硬度化された自動車構造部材用鋼材、あるいは熱処理を施されて高強度化・高硬度化される自動車構造部材用鋼材について、耐遅れ破壊特性を正確に評価できる耐遅れ破壊特性評価方法を提案することを目的とする。また、本発明は、この自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法に基づいて評価して、耐遅れ破壊特性に優れる自動車構造部材用鋼材を提案することを目的とする。
本発明者らは、上記した課題を達成するために、とくに薄肉の試験片しか採取できない場合に、耐遅れ破壊特性を評価した試験片中の拡散性水素量を精度良く推定する方法について、まず鋭意検討した。その結果、同一材料から切出し、同一肉厚(板厚)で、同一の表面性状に加工された試験片およびダミー片を用意し、試験片およびダミー片に同一条件の電解質溶液中での電気化学的手段により拡散性水素を導入する水素チャージを無負荷で行ったのち、試験片には荷重負荷して耐遅れ破壊特性を評価し、一方、ダミー片は無負荷として試験片が破断または所定の時間経過するまで、試験片と同一の条件下に保持して、試験片が破断した場合にはダミー片で、破断しなかった場合は試験片又はダミー片で拡散性水素量を分析することとした。
そして、その際、試験片およびダミー片からの拡散性水素の散逸を極力防止するために、試験片及びダミー片への水素のチャージを、
(1)試験片には電解セルを設置し、ダミー片は電解槽に浸漬し、試験片では荷重負荷して耐遅れ破壊特性評価試験を続行しながら、一方ダミー片では無負荷状態で、電解質溶液中での電気化学的手段により行なう方法とするか、あるいは
(2)試験片及びダミー片に電解質溶液中での電気化学的手段で同一量の水素をチャージした後、試験片及びダミー片表面にめっきを施しめっき膜により水素を封じ込める方法として、行なう、
ことが、試験時の試験片中の拡散性水素量を精度良く推定できる好ましい方法であることを見出した。
また、より精度よく拡散性水素量を推定するには、電気化学的手段による水素チャージ停止時あるいはめっき膜剥離時を起点として、試験片又はダミー片を分析装置へ投入するまでを、所定温度以下の大気中で所定時間以内で行なうこと、あるいは予め測定した、電気化学的手段による水素チャージ停止時あるいはめっき膜剥離時を起点とする大気雰囲気中での経過時間と拡散性水素の変化量との関係に基づいて、得られた拡散性水素量の測定値を補正すること、がよいことを見出した。
さらに、本発明者らは、自動車足回り部材等の自動車構造部材用として好適な、高強度化・高硬度化された自動車構造部材用鋼材、あるいは熱処理を施されて高強度化・高硬度化されてから使用される自動車構造部材用鋼材で、とくに薄鋼板、薄鋼帯、鋼管等の板厚(肉厚)4.5mm以下の薄肉鋼材およびそれらの構造体を対象とした場合に、耐遅れ破壊特性を正確に評価できる好ましい方法について鋭意検討した。この結果、上記した知見以外にも以下の点が重要であることを見出した。
(1)鋼材が実際に使用される硬さ(強度)(以下、鋼材実使用時の硬さともいう)、つまり、高強度化・高硬度化された鋼材をそのまま、あるいは加工または熱処理等を施された高強度化・高硬度化された状態で、しかも使用される環境を模擬した拡散性水素量、負荷応力の条件下で、試験を行なうこと、
(2)評価対象を実使用時の鋼材硬さが、ビッカース硬さ(HV)で250以上600以下である鋼材に限定すること、
(3)負荷する応力レベルを、実使用時の鋼材硬さに応じて算出して決めること、
(4)試験片への応力負荷は、一定荷重を連続して負荷する定荷重試験とするか、あるいは、10Hz未満の変動速度で変動荷重を負荷する変動荷重試験とすることがよいこと、
(5)試験片及びダミー片に導入する拡散性水素量は、0.05 ppm以上、1ppm未満の範囲とすることがよいこと、
(6)使用するダミー片は、表面積600mm以上、重量3.5g以上とすること。
ついで、本発明者らは、上記した自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法を使用して、自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性に及ぼす組成等各種要因の影響について鋭意検討し、耐遅れ破壊特性に優れた新規な自動車構造部材用鋼材を見出した。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)ビッカース硬さ(HV)で250以上を有する自動車構造部材用鋼材又は熱処理を施されてビッカース硬さ(HV)で250以上の硬さを有するようになる自動車構造部材用鋼材を評価対象材とし、前記評価対象材から採取した試験片に拡散性水素を電気化学的手段でチャージしながら、該試験片に定荷重として応力σを負荷する定荷重試験又は該試験片に応力σを変動荷重として10Hz未満の変動速度で負荷する変動荷重試験を実施し、該定荷重試験又は変動荷重試験の結果と拡散性水素量との対応から自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価するに当たり、
前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250以上を有する場合には、そのまま、もしくは加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち該評価対象材から前記試験片およびダミー片を採取し、一方前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250未満の場合には該評価対象材に加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち前記試験片およびダミー片を採取し、又は前記評価対象材から試験片およびダミー片を採取したのち該試験片およびダミー片に加工または熱処理を施しビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整し、試験に供するものとし、
前記ダミー片は前記試験片と同一肉厚、同一表面性状でかつ重量が3.5g以上、表面積が600mm以上とし、
前記試験片には電解液を満たした電解セルをセットするとともに、前記ダミー片は前記電解溶液と同じ電解溶液を満たした電解槽に浸漬し、
前記電気化学的手段を、電解溶液中で白金電極と前記試験片又は前記ダミー片との間に予め定めた一定電流密度の電流を流し、該試験片又は該ダミー片に0.05ppm以上1ppm未満の拡散性水素量を定常状態で保持可能とする電解処理とし、
該電解処理は、前記試験片と前記ダミー片とで同一の条件とし、無負荷状態で一定時間行い前記試験片及び前記ダミー片中の拡散性水素量を定常状態に保持したのち、前記試験片及び前記ダミー片で該電解処理を継続したまま、前記定荷重試験を次(1)式
σ(MPa)=3(HV−10)×α ………(1)
(ここで、σ:応力(MPa)、HV:ビッカース硬さ、α:定数(:0.10以上0.7未満の範囲内の一定値)
で定義される応力σ(MPa)を所定時間負荷する定荷重試験とし又は前記変動荷重試験を前記(1)式で定義される応力σ(MPa)を変動荷重として10Hz未満の変動速度で所定時間負荷する変動荷重試験として行ない、前記定荷重試験又は前記変動荷重試験後、
拡散性水素量を、前記試験片が所定時間内に破断した場合には前記ダミー片で、前記試験片が破断しなかった場合は該試験片又は前記ダミー片で、測定し、該測定した拡散性水素量と前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の結果とを対応させ、耐遅れ破壊特性を評価することを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(2)(1)において、前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の終了後、前記試験片又は前記ダミー片の拡散性水素量を測定するに際し、前記試験片又は前記ダミー片への前記電解処理の停止時を起点とし拡散性水素の分析装置へ投入するまでの大気雰囲気中での経過時間から、予め測定した大気雰囲気中での経過時間と拡散性水素の変化量との関係に基づいて、得られた拡散性水素量の測定値を補正することを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(3)ビッカース硬さ(HV)で250以上を有する自動車用鋼材又は加工または熱処理を施されてビッカース硬さ(HV)で250以上の硬さを有するようになる自動車構造部材用鋼材を評価対象材とし、
前記評価対象材から採取した試験片に拡散性水素を電気化学的手段でチャージしながら、該試験片に一定の応力σを負荷する定荷重試験又は該試験片に応力σを変動荷重として10Hz未満の変動速度で負荷する変動荷重試験を実施し、該定荷重試験又は変動荷重試験の結果と拡散性水素量との対応から自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価するに当たり、
前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250以上を有する場合には、そのまま、もしくは加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち該評価対象材から前記試験片およびダミー片を採取し、一方前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250未満の場合には該評価対象材に加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち前記試験片およびダミー片を採取し、又は前記評価対象材から試験片およびダミー片を採取したのち該試験片およびダミー片に加工または熱処理を施しビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整し、試験に供するものとし、
前記ダミー片は前記試験片と同一肉厚、同一表面性状でかつ重量が3.5g以上、表面積が600mm以上とし、
前記電気化学的手段を、電解溶液中で白金電極と前記試験片又は前記ダミー片との間に予め定めた一定電流密度の電流を流し、該試験片又は該ダミー片に0.05ppm以上1ppm未満の拡散性水素量を定常状態で保持可能とする電解処理とし、
該電解処理は、前記試験片と前記ダミー片とで同一の条件とし、無負荷状態で一定時間行い前記試験片及び前記ダミー片中の拡散性水素量を同一量の定常状態に保持したのち、前記試験片と前記ダミー片とに拡散性水素を封じ込めるめっきを施し、
前記定荷重試験を次(1)式
σ(MPa)=3(HV−10)×α ………(1)
(ここで、σ:応力(MPa)、HV:ビッカース硬さ、α:定数(:0.10以上0.7未満の範囲内の一定値)
で定義される応力σ(MPa)を定荷重として所定時間負荷する定荷重試験とし又は前記変動荷重試験を前記(1)式で定義される応力σ(MPa)を変動荷重として10Hz未満の変動速度で所定時間負荷する変動荷重試験として大気雰囲気中で行ない、該定荷重試験中又は該変動荷重試験中は、前記めっきを施されたダミー片を前記定荷重試験又は前記変動荷重試験を行なう同一大気雰囲気中に保管し、前記定荷重試験又は前記変動荷重試験後、
拡散性水素量を、前記試験片が所定時間内に破断した場合には前記ダミー片で、前記試験片が破断しなかった場合は該試験片又は前記ダミー片で、測定し、該測定した拡散性水素量と前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の結果とを対応させ、耐遅れ破壊特性を評価することを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(4)(3)において、前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の終了後、前記試験片又は前記ダミー片の拡散性水素量を測定するに際し、前記試験片又は前記ダミー片のめっき剥離時を起点とし拡散性水素の分析装置へ投入するまでの大気雰囲気中での経過時間から、予め測定した大気雰囲気中での経過時間と拡散性水素の変化量との関係に基づいて、得られた拡散性水素量の測定値を補正することを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記電解処理における前記無負荷状態で行なう一定時間を、1時間以上とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記自動車構造部材用鋼材が、板厚4.5mm以下の薄肉鋼材であることを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記試験片が、切欠き付き試験片であることを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(8)(1)ないし(7)のいずれかにおいて、前記定荷重試験の所定時間を50時間以上、前記変動荷重試験の所定時間を、変動速度が0.1Hz未満の場合には50時間以上、変動速度が0.1Hz以上10Hz未満の場合には20時間以上とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(9)(1)ないし(7)のいずれかにおいて、前記定荷重試験の所定時間を150時間以上、前記変動荷重試験の所定時間を、変動速度が0.1Hz未満の場合には150時間以上、変動速度が0.1Hz以上10Hz未満の場合には60時間以上とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
(10)質量%で、C:0.05〜0.45%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.030%以下、S:0.003%以下、sol.Al:0.008〜0.1%、N:0.005%以下を、次(2)式
Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ………(2)
(ここで、Ceq:炭素当量(%)、C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが0.07〜0.9を満足するように含み、残部が実質的にFeからなる組成を有し、ビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さを有するか、あるいは焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施された後にビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さとなる自動車構造部材用鋼材であって、該自動車構造部材用鋼材から試験片およびダミー試験片を採取し、あるいは該自動車構造部材用鋼材に焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施してビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さ、好ましくは鋼材実使用時の硬さに調整したのち試験片およびダミー片を採取し、該試験片およびダミー片を用い、(8)に記載された自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法で耐遅れ破壊特性を評価した際に前記試験片が破断しないことを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れる自動車構造部材用鋼材。
(11)(10)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.15〜0.25%、Si:0.1〜0.55%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.016%以下、S:0.003%以下、sol.Al:0.008〜0.1%、N:0.005%以下を、前記(2)式で定義される炭素当量Ceqが0.07〜0.60を満足するように含み、残部が実質的にFeからなる組成を有することを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(12)(10)又は(11)において、前記組成が、さらにC、Pを次(3)式
P<−(4/50)×C+0.045 ………(3)
(ここで、C、P:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含有する組成とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(13)(10)又は(11)において、前記組成が、さらにC、Pを次(4)式
P<−(4/50)×C+0.033 ………(4)
(ここで、C、P:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含有する組成とし、(9)に記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法で耐遅れ破壊特性を評価した際に前記試験片が破断しないことを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(14)(10)ないし(13)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.005〜0.04%を、次(5)式
Ti−(48/14)N>0 ・・・・・・(5)
(ここで、Ti、N:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含有する組成とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(15)(10)ないし(14)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.03%以下を含有する組成とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(16)(10)ないし(15)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.05〜0.25%、Ni:0.10%以下、Mo:0.20%以下、V:0.10%以下、B:0.0001〜0.005%のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(17)(10)ないし(16)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.20%以下を含有する組成とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(18)(10)ないし(17)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0030%を含有する組成とすることを特徴とする自動車構造部材用鋼材。
(19)(10)ないし(18)のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材で構成されてなる自動車構造部材。
本発明によれば、遅れ破壊試験時に試験片に含まれる拡散性水素量を精度良く測定でき、
また、負荷応力や拡散性水素量等の試験条件を所望の範囲に自由に設定でき、とくに自動車足回り部材のような雨や湿気等に晒され、及び、小石等が当たり腐食防止用の皮膜が取れやすく、更に、融雪剤(塩)が散布されるような腐食されやすい環境において使用される環境下における自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を精度良く評価でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明は、とくに板厚4.5mm以下の薄板、あるいは肉厚4.5mm以下の鋼管、あるいはそれらを用いた構造体を含む薄肉の、高硬度化された、あるいは熱処理により高硬度化されて使用される自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を精度良く評価できるという効果もある。また、本発明は、材料選定の基準として活用できるという効果もある。
また、本発明によれば、耐遅れ破壊特性に優れた自動車構造部材用鋼材を安価に提供でき、産業上格段の効果を奏する。
まず、本発明の耐遅れ破壊特性評価方法について説明する。
本発明では、ビッカース硬さ(HV)で250以上、好ましくは600以下を有する自動車構造部材用鋼材又は加工または熱処理を施されて後にビッカース硬さ(HV)で250以上、好ましくは600以下の硬さを有するようになった自動車構造部材用鋼材を評価対象材とする。本発明は、とくに板厚あるいは肉厚が4.5mm以下の薄肉鋼材の耐遅れ破壊特性評価に有効である。
評価対象材の硬さをビッカース硬さ(HV)で250以上に限定したのは、ビッカース硬さHVで250以上で耐遅れ破壊特性が問題とされ、ビッカース硬さHVで250未満の場合には、耐遅れ破壊特性は全く考慮する必要がないためである。なお、評価対象材のビッカース硬さHVの上限は600とすることが好ましい。ビッカース硬さHVで600を超えると、耐遅れ破壊特性が劣化しすぎて、さらに感度のよい耐遅れ破壊特性評価方法を必要とする。なお、ここでいう「熱処理」は、焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を意味し、焼入れ処理は、通常、オーステナイト(γ)域に加熱したのち水冷する処理をいう。
なお、ビッカース硬さHVの測定は、JIS規定に準拠して行なえばよいが、誤差の観点から10kg重(98.07N)の荷重で測定することが好ましい。硬さ測定は、鋼材断面を鏡面研磨した後、板厚1/4〜1/2の範囲で板厚方向にランダムに10点以上測定し、平均した値とすることが好ましい。
本発明の耐遅れ破壊特性評価方法では、ビッカース硬さ(HV)が250以上の実際に鋼材が使用される状態の硬さ(鋼材実使用時の硬さ)にされた鋼材から試験片およびダミー片を採取する。つまり、すでにビッカース硬さHVで250以上に高硬度化された鋼材がそのままの状態で使用される場合には、そのままの状態から、また加工または熱処理を施されてHV250以上になった状態で使用される場合には、加工または熱処理を施してHV250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち、試験片およびダミー片を採取する。なお、評価対象材から試験片およびダミー片を採取したのち試験片およびダミー片に加工又は熱処理を施してHV250以上の鋼材実使用時の硬さに調整してもよい。加工歪等が導入される場合には、加工歪を導入した状態から採取してもよい。
本発明で対象とする自動車構造部材のうち、とくに自動車足回り部材は、雨天や、自動車走行時に小石が跳ねて塗装膜が傷ついたり、あるいは冬期には“塩”等の融雪剤が撤かれ、腐食が発生し水素が侵入するような環境下で使用される。しかし、自動車構造部材が使用される環境は、高力ボルトやPC鋼棒のように、引張強さ(TS)の70〜90%という高い応力が常時負荷されるような環境ではなく、これより低い応力が負荷される環境である。また、自動車構造部材が使用される環境は、ラインパイプがサワー環境下で使用される際に起こるような1〜20ppm程度の拡散性水素が侵入することはない。本発明の評価方法では、このような使用環境下での自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価する。なお、耐遅れ破壊特性評価に用いる試験は、定荷重試験又は変動荷重試験とする。
(1)試験片およびダミー片の形状
本発明では、評価対象の自動車構造部材用鋼材から、試験片とダミー片とを採取する。組成を含め製造条件が同じ、あるいは熱処理条件が同じであれば、同一材料と見なして構わないが、試験片とダミー片とはできるだけ隣接した個所から採取することが好ましい。
試験片は、主として定荷重試験又は変動荷重試験を実施するために用いる。一方、ダミー片は拡散性水素の分析用とする。
使用する試験片の寸法形状は、本発明ではとくに限定されない。本発明は、板厚4.5mm以下の板状試験片又は管材から切出した弧状試験片を含む、薄板試験片を用いる場合に特に有効となる。試験片は、砥粒番号#400以上の研削材を用いて表面仕上を行なうことが表面状態の影響を少なくし、水素チャージ量のバラツキを少なくするという観点から好ましい。試験片には、平行部またはくびれ部を形成することが好ましい。また、試験片には試験目的に応じ、種々の切欠きを付与することができる。なお、使用環境下では、腐食が発生し凹部が存在するため、実際の凹部に模擬した切欠きを付与することが好ましく、応力集中係数0.5以上の切欠きとすることが望ましい。変動速度が10Hz未満の変動荷重試験の場合には、切欠きを付与する必要はないが、定荷重試験では、状況に応じ切欠きを付与してもよい。
なお、拡散性水素の侵入・放出条件を試験片と同じとするために、ダミー片の肉厚(板厚)及び表面性状は、試験片のそれと同一にする。本発明では、電流密度で拡散性水素量を制御するため、肉厚(板厚)以外のダミー片の寸法形状は試験片と同じにする必要はない。また、拡散性水素の分析精度の観点からは、ダミー片の重量は重いほうが好ましい。本発明では、ダミー片の肉厚を試験片のそれと同一にする必要があるため、表面積を広く、重量を重くすることが好ましい。このようなことから、ダミー片は、重量3.5g以上、望ましくは6g以上、表面積600 mm以上、望ましくは1000mm以上とすることが好ましい。ダミー片の表面積、重量が上記した好適範囲を外れると、ダミー片に含まれる拡散性水素量自体が少なく、水素の分析測定精度が低下するということに加えて、拡散性水素量を評価する際、ダミー片を水素分析装置にセットするまでの間に漏れ(抜け)出す量が多く、測定された水素量への信頼性が低下する。
試験片、ダミー片の寸法形状の一例を図5に示す。なお、図5(a)の試験片は切欠き付き試験片(R=0.5mm、応力集中係数:約2.4)の例である。
(2)電解処理
上記した試験片及びダミー片に拡散性水素をチャージする。拡散性水素のチャージは、本発明では、電気化学的手段である電解処理を用いて行なう。拡散性水素のチャージは、酸等に浸漬することによっても可能であるが、酸の濃度を変化しても、所望量の拡散性水素を安定して精度よくチャージすることができない。このため、本発明では、拡散性水素のチャージは、電解液(種類、濃度)の選択と電流密度の変化により所望の拡散性水素量を精度よくチャージできる電解処理とした。
本発明で拡散性水素のチャージに用いる電解処理では、例えば、図2、図3に示すように、電解槽7あるいは電解セル3を用いて、電解質溶液2中で、試験片1(ダミー片6)を陰極側、白金電極4を陽極側として、試験片1又はダミー片6と白金電極4との間に予め定めた一定の電流密度で電流を流し、試験片1(ダミー片6)に拡散性水素をチャージする。電流密度を一定とすることにより、試験片(ダミー片)に導入される水素量と、導入された水素が試験片(ダミー片)から外に出ようとする量とが釣り合い定常状態となり、試験片(ダミー片)中に一定量の拡散性水素を保持できる。なお、拡散性水素をチャージしている間には、電解質溶液2には窒素あるいはアルゴン等の不活性ガスを吹込み、脱気することが好ましい。これは、電解質溶液中の酸素が試験片又はダミー片に錆を発生させ、チャージする水素量の制御ができなくなる場合を防ぐためである。
本発明では、まず、試験片(ダミー片)に導入される拡散性水素量と電流密度との関係を予め求めておき、この関係から求めた一定の電流密度で電流を流す電解処理を行う。
電解処理で導入される拡散性水素量は、鋼材の種類、電解質の種類及び濃度、電流密度、電解時間、電解液の温度等、により変化する。しかし、本発明では、これらパラメータのうち、電解質の種類、濃度、電流密度をそれぞれ変化させて、導入する拡散性水素量を調整することが好ましい。電解液の温度は変えないことが好ましい。
というのは、電解質溶液の温度は、室温近傍では数℃変化しても導入される拡散性水素量への影響が少なく、一方、70〜80℃という高温にすると電解質溶液の液面の低下が著しく、さらに保温手段や液循環手段等を必要とするなど装置が大きくなリ過ぎるという問題がある。また、本発明では、水素の導入、放出が釣り合った平衡状態で耐遅れ破壊特性の評価を行なうため、ある一定時間以上の電解時間を必要とする。
導入される拡散性水素量は、電解質の種類および濃度、温度、電流密度を一定としても、鋼材の種類(組成)、硬さ、熱処理等によって変化するため、本発明では、予め、鋼材(部材)ごとに、ダミー片を用いて、電解質の種類および濃度、温度を一定にして、電流密度を変化して導入される拡散性水素をそれぞれ分析し、図6に示すような電流密度と導入される拡散性水素量との関係を求めておく。この関係を使用して、所望の拡散性水素量を試験片(およびダミー片)に導入するための電流密度を決定し、電解処理を行う。ただし、耐遅れ破壊特性の正確な評価のためには、試験後、必ず、拡散性水素を測定しておく必要がある。
電解時間は、試験片(ダミー片)中の拡散性水素量が一定となる定常状態となるのに必要な一定時間とすることが好ましく、板厚:4.5mm以下の板状試験片であれば、一定時間は、1時間以上、好ましくは15時間以上、より好ましくは20時間程度である。
また、電解質溶液中に投入する電解質は、3%NaCl+0.3g/l NHSCN、0.5%HSO+1.4g/lチオ尿素等のうちから選択し電流密度を変化させることにより、導入する拡散性水素量を0.05ppm以上、1ppm未満の範囲内の所望の拡散性水素量に調整する。なお、電解質は予め窒素やアルゴン等で脱気しておくことが、試験片の錆発生防止、所望の導入拡散性水素量を制御しつつ水素チャージを行なうという観点から好ましい。脱気は電解処理中も行うことがより好ましい。
導入する拡散性水素量は、本発明が対象とする自動車構造部材用鋼材が晒される実使用環境に則して決定した。本発明が評価対象とする自動車構造部材、とくに足回り部材では、自動車の走行中に生じる小石のまき上げによる衝突等により表面塗装が剥離したり、融雪剤(塩)に起因する錆の発生により、腐食が発生し、水素が多量に侵入することが考えられる。しかし、ラインパイプ等のサワー環境で侵入する水素量1〜20ppm程度よりはかなり少ない。そこで、非常に過酷な状況を想定しても、鋼材に侵入する水素量は1ppm未満であると考え、導入する拡散性水素量の上限を1ppm未満とした。一方、自動車構造部材の使用環境によっては、鋼材に侵入する拡散性水素量は少ない場合があり、さらに電気化学的手段で拡散性水素を導入しガスクロマトグラフィ装置等で分析するときの誤差を考慮して拡散性水素のチャージ量として認識できる下限が0.05ppmであるため、本発明では0.05ppmを導入する拡散性水素量の下限とした。
本発明では、上記したように、予め求めた拡散性水素量と電流密度との関係から求めた一定の電流密度で行なう電解処理を、試験片とダミー片とに同一条件で定常状態になるまで無負荷状態で一定時間施し、試験片とダミー片とに同一量の拡散性水素を導入する。
(3)定荷重試験又は変動荷重試験
拡散性水素を導入された試験片は、ついで定荷重試験又は変動荷重試験に供される。本発明では、定荷重試験又は変動荷重試験は、電解処理を継続し、試験片及びダミー片への拡散性水素の導入を継続しながら行なうか、あるいは電解処理後に試験片及びダミー片にめっき膜を形成するめっき処理を施し拡散性水素の封じ込めを行ったのち、大気雰囲気中で行なう。
(イ)拡散性水素の導入を継続しながら試験する場合
試験片1の平行部あるいはくびれ部に、図3(a)、(b)に示すように試験片1が電解質溶液2中に浸漬可能な電解セル3をセットする。電解セル3は水素チャージの様子や試験時に試験片が見えるようにガラス製とすることが好ましい。電解セル3には、セット後に電解質溶液2が注入され、さらに白金電極4が電解質溶液2に浸漬して配置される。なお、電解セル3の試験片1への取り付けに際しては、電解溶液が漏れないように十分なシール(例えばゴム栓11)を施すことは言うまでもない。なお、試験片の錆防止のために、電解質溶液2には窒素等の脱気用ガスを1時間以上脱気ガス吹き込み用パイプ5から吹き込み続けることが好ましい。電解質溶液を1時間以上脱気したのち、所定の条件で電解処理を施す。なお、電解セルは図3に示すような上部開放型(a)、あるいは密閉型(b)としてもよく、またこれらに限定されることはない。
電解処理は、試験片1(ダミー片6)を陰極側、白金電極4を陽極側として、電源8から電流を流す。電解処理条件は、試験片とダミー片とで同一の条件とし、まず、図1(a)に示すように、無負荷の状態で一定時間行い、試験片及びダミー片中の拡散性水素量を定常状態に保持する。無負荷の状態で行なう電解処理の一定時間は、1時間以上、好ましくは15時間以上、より好ましくは20時間程度とする。無負荷状態での電解処理が1時間未満では、水素の侵入と漏れが釣り合う「均衡状態」になっておらず、試験片の肉厚方向で拡散性水素の分布が均一とならず、拡散性水素量が低い状態と同じとなり所望の拡散性水素量での試験結果が得られない。一方、無負荷の状態で行なう電解処理を20時間を超えて長くしても、定常状態となり、効果は飽和する。また、電解質溶液の上面側にフタ12またはゴム栓11を置き、脱気に伴う、電解液の飛沫を防止させる。
上記した無負荷の状態での電解処理後、図1(b)に示すように、試験片1及びダミー片6とも、電解処理を継続したまま、試験片1を定荷重試験機10にセットし定荷重試験又は変動荷重試験を行なう。図1(b)に示す例は、定荷重試験の場合である。
ダミー片6は、図1(a)、図2に示すように試験片とは別な電解槽7で、電解質溶液2中に浸漬して試験片1と同じ条件で電解処理し、試験片と同量の拡散性水素を導入する。なお、電解条件は試験片とダミー片との場合で全く同一としてもよいが、図1に示すような試験片の電解処理では、試験片の平行部(くびれ部)のみ電解質溶液と接触し、つかみ部では電解質溶液と接触していないため、つかみ部から僅かながら拡散性水素の放出のみが生じる。しかし、定荷重試験や変動荷重試験時には、平行部や最狭部分に応力が集中するため、その部分が所望の拡散性水素量になっていればよい。ダミー片で確立した水素チャージ条件をそのまま利用しても平行部や最狭部分ではダミー片と同じとなるため、ほとんどの場合、ダミー片で確立した水素チャージ条件をそのまま利用できる。しかし、より一層正確を期すには試験片のうち電解質に浸漬していない部分からの水素の漏れを考慮して水素チャージ条件を設定してもよいが、水素の出入りの釣り合いは、電解質の浸漬部分で定常状態になるので、その漏れ量は僅かなレベルに留まっている。
なお、定荷重試験又は変動荷重試験の方法はとくに限定する必要はなく、通常の定荷重試験機、疲労試験機を利用することができる。例えば、図1(b)に示す片持ち梁式の定荷重試験機10に試験片1をセットし、錘10c、支点10a、梁10bを介し一定荷重を負荷する定荷重試験としても、あるいはサーボパルサー式試験機で一定荷重を負荷する試験でもよい。また、サーボパルサー式試験機に試験片1をセットし、所定の変動速度で変動荷重を繰返し負荷する変動荷重試験としてもよい。
試験終了後、試験片が破断した場合にはダミー片で、試験片が破断しなかった場合は試験片又はダミー片で、拡散性水素量を測定する。破断した試験片で拡散性水素の分析を行なうと、破断時から水素が試験片外に漏れ、試験時の状態から変化し正確な拡散性水素量を評価できなくなるからである。
(ロ)拡散性水素の封じ込めを行なって大気雰囲気中で試験する場合
試験片及びダミー片を電解槽中に浸漬して、(2)項で示したように同一の電解処理条件で同一量の拡散性水素を導入する。電解処理に際しては、予め求めた拡散性水素と電流密度の関係から所望の拡散性水素が導入できる電流密度で、試験片及びダミー片中の拡散性水素が定常状態に達するまで、1時間以上、好ましくは15時間、さらに好ましくは20時間以上行なう。
電解処理終了後、試験片及びダミー片表面にめっき処理を施し、拡散性水素を封じ込め、放出を防止するためのめっき膜を形成する。めっき膜は、Cdめっき、Znめっき等、水素の拡散係数が小さく、かつ孔のない緻密な膜構造を有する材料を選択することが好ましい。めっき処理は、電気めっき処理によって行なう。めっき処理に際しては、導入された拡散性水素が試験片外へ放出されるのを極力防止しつつ、均一で緻密なめっき膜を形成するために、めっき処理作業はできるかぎり短時間で完了すること、緻密なめっき膜の形成を促進するため、めっき処理前に#1000の研磨紙で素早く研磨すること、などの注意が必要となる。なお、形成するめっき膜の膜厚は50〜70μm程度とすることが好ましい。
めっき膜を形成された試験片は、定荷重試験機又は変動荷重試験機にセットされ、大気雰囲気中で荷重を負荷され、試験に供される。なお、試験中、ダミー片は試験片と同じ大気雰囲気中に放置される。
試験終了後、(イ)と同様に、試験片が破断した場合にはダミー片で、試験片が破断しなかった場合は試験片又はダミー片で、拡散性水素量を測定する。
(ハ)定荷重試験又は変動荷重試験の応力負荷条件
本発明で耐遅れ破壊特性を評価するために実施する定荷重試験は、試験片に定荷重として一定の応力σを負荷する試験とし、試験片に負荷する応力σは、次(1)式
σ(MPa)=3(HV−10)×α ………(1)
(ここで、σ:応力(MPa)、HV:ビッカース硬さ、α:定数(:0.1以上0.7未満の範囲内の一定値)
で定義される応力σとする。
また、本発明で耐水素脆化特性を評価するために実施する変動荷重試験は、試験片に負荷応力として、上限応力σと下限応力を、10Hz未満の変動速度で所定時間、繰返し負荷する試験とし、負荷する上限応力σを前記(1)式で定義される応力σとする。なお、試験片の座屈を防止するため、下限応力は0MPa以上の引張応力(15MPa程度)とすることが好ましい。なお、水素の拡散定数と、負荷応力の変動速度を考慮すると、変動速度が10Hz以上と速すぎた場合には、拡散性水素の鋼材特性への悪影響、すなわち耐遅れ破壊特性の低下が顕在化しない。これは、水素の拡散と遅れ破壊挙動が連動しないためと考えられ、負荷応力の変動速度を10Hz未満に限定した。
ここで、「3×(HV−10)」は、ビッカース硬さHVを用いて表現した鋼材の強度を意味し、定数αを乗じるのは、負荷する応力を鋼材強度のα倍とすることを意味する。本発明では、αは、0.1以上0.7未満の範囲内の一定値を選択する。本発明は、自動車構造部材が受けると想定される環境下でその部材が使用可能かどうかの評価を行なうことを主旨としている。実際には、想定する自動車構造部材によって、想定される応力条件が多少異なるため、想定する応力により、定数αを0.1以上0.7未満の範囲内の一定値を選択して使用することが好ましい。高力ボルトやPC鋼棒のように、負荷応力を鋼材強度(引張強さ)の0.7〜0.9とすると、自動車構造部材が負荷される想定応力とはかけ離れすぎており、使用する鋼材の耐遅れ破壊特性の模擬とはなりえない。通常、自動車構造部材の使用環境では、高力ボルトやPC鋼棒の使用環境に比べて、低い応力しか作用しないことから、負荷応力の上限を鋼材強度の0.7未満に限定した。一方、負荷応力の下限は、使用環境下で負荷される最低レベルである、鋼材強度の0.1とした。
本発明では、上記した範囲内の拡散性水素量および応力負荷の条件下で、所定時間試験する。所定時間は、定荷重試験の場合には、50時間以上、望ましくは100時間以上、より望ましくは150時間以上、さらに望ましくは200時間以上とすることが好ましい。定荷重試験の場合、試験の所定時間が50時間未満では、使用環境下で遅れ破壊を発生することがある。定荷重試験の場合、100時間以上破断しない場合には、それ以上試験しても破断しないことがほとんどである。なお、より一層緻密に考えた場合には、200時間を超えて試験すればよく、200時間を超えて破断しない場合は破断が全く見られない。
また、変動荷重試験で、変動速度が0.1Hz未満の場合には、試験の所定時間は、定荷重試験と同様に50時間以上とすることが好ましい。変動速度が0.1Hz以上10Hz未満の場合には、20時間以上、望ましくは40時間以上、より望ましくは60時間以上、さらに望ましくは80時間以上、さらにさらに望ましくは100時間以上とすることが好ましい。変動荷重試験の場合、試験の所定時間が20時間未満では、使用環境下で遅れ破壊を発生することがある。変動荷重が、0.1Hz以上10Hz未満の場合には、定荷重試験の場合よりも遅れ破壊の発生が短時間側にシフトするため、上記した基準とした。これは、水素の拡散と連動するためであると推定される。
このようなことから、本発明では、上記した範囲内の拡散性水素量および応力負荷の条件下で定荷重試験を行なった場合又は変動速度が0.1Hz未満の変動荷重試験を行なった場合に、50時間以上破断しない場合を、一方変動速度が0.1Hz以上10Hz未満の変動荷重試験を行なった場合には20時間以上は破断しない場合を、耐遅れ破壊特性に優れる鋼材と判定する。
(4)拡散性水素量の分析方法
本発明では、拡散性水素量の測定は、測定用サンプル(主としてダミー片)を昇温しながら、水素を放出させ、その水素を分析する方法で行なう。
本発明では、拡散性水素量を精度良く測定するために、試験片が破断した場合にはダミー片を測定用サンプルとして使用して拡散性水素量を分析する。なお、試験片が破断しなかった場合には試験片またはダミー片を使用する。
破断した試験片を測定用サンプルとして、試験後に拡散性水素を分析しても、水素は破断時に漏れが始まっており、また破断時から経過時間が長くなるとさらに拡散性水素が減少し、試験時に試験片中に含まれる拡散性水素量を正確に把握することができなくなる。とくに薄肉試験片では、棒状試験片に比して拡散性水素がより抜けやすい状況にある。
本発明でいう「拡散性水素」とは、昇温脱離分析した時の「温度−水素量」のプロファイルで、低温側のピークを占める水素量のことをいうものとする。ピークの温度はサンプルの厚みや形状、昇温速度によってはずれるものの、6.0mm以下程度の板状のサンプルで、しかも200℃/hで昇温分析した場合には、図4に示すように250℃までに放出された水素の合計量に相当する。なお、昇温速度はとくに限定されないが、50〜200℃/hの範囲とすることが測定能率や測定値の信頼性の観点から好ましい。また、水素の分析は、ガスクロマトグラフィ、あるいは質量分析器等で行なうことが好ましい。
なお、試験後、測定用サンプルを水素分析装置へ投入するまでの時間は、できるだけ短時間とすることが好ましい。ここでいう、「試験後、測定用サンプルを水素分析装置へ投入するまでの時間」とは、電解セルで水素チャージを継続しながら試験する場合には、試験片(ダミー片)への電解セル(電解槽)での水素チャージ(電解処理)終了時を起点とし水素分析装置へ投入するまでの時間である。一方、めっき膜で試験片(ダミー片)中に導入された水素を封じ込めた場合には、めっき膜剥離時を起点とし水素分析装置へ投入するまでの時間をいうものとする。
試験片、ダミー片が薄板の場合にはとくに、水素の放出が早いため、試験後、あるいは電解処理終了後、水素分析装置へ投入するまでに置かれる雰囲気は、10℃以下、好ましくは0℃以下、さらに好ましくは液体窒素等の低温雰囲気とすることが好ましい。なお、雰囲気温度が15〜30℃では、その雰囲気に置くことができる許容時間は25分以下程度である。この範囲を超えると、放出量が増加し、分析値が、試験時に試験片(ダミー片)に含まれていた正確な拡散性水素量とはいえなくなる。
なお、水素分析装置へは、測定サンプル(ダミー片または試験片)を、そのまま投入できないので、少なくとも前処理のために5〜15分程度は大気環境に置かざるを得ない。つまり、測定サンプルは、電解質溶液から取り出した状態では、水分、汚れ、薄い酸化膜が付着しており、そのまま水素分析装置に投入すると、とくに、ガスクロマトグラフ式装置では、これらから酸素、一酸化炭素、炭酸ガス等のピークも検出され、水素のピークと重なり、見かけは、水素量が多めに評価される傾向があり、正確な水素量の測定ができなくなる。このため、表面の水分をウェスでとると同時に#400〜800以上の研磨紙で研磨することが必要となり、このような前処理に10分程度費やさざるをえない。また、めっき膜を形成した場合でも、水素分析装置に投入する前にめっき剥離等の前処理が必要であり、同様に測定サンプルは大気中に放置されることになる。
また、正確な拡散性水素量を得るためには、試験後、測定用サンプルを水素分析装置へ投入するまでの時間内に放出された水素を考慮することが好ましい。試験後、測定用サンプルを水素分析装置へ投入するまでに大気雰囲気中に置かれた時間(大気放置時間)と、放出された拡散性水素量との関係(大気雰囲気温度:一定)を、図7に示すように、予めもとめておき、大気雰囲気中に置かれた時間から放出拡散性水素量をもとめ、水素分析により得られた拡散性水素量(測定値)を補正することが好ましい。これにより、より精度高い拡散性水素量とすることができる。
上記した本発明の方法に従い、定荷重試験又は変動荷重試験を行なうことにより、試験時に試験片に含まれる拡散性水素を精度良く測定でき、鋼材の耐遅れ破壊特性を精度良く評価することができる。したがって、本発明は、実使用環境下で使用有効期限内に、対象とする鋼材製自動車構造部材に遅れ破壊等による破壊などの不具合を生じるか否かの判定を精度良く行なえ、材料選定の基準として有効に活用できる。
つぎに、本発明の耐遅れ破壊特性に優れる自動車構造部材用鋼材について説明する。本発明の自動車構造部材用鋼材は、ビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さを有するか、あるいは焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施された後にビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さとなる耐遅れ破壊特性に優れる鋼材である。なお、耐遅れ破壊特性の向上という観点からは焼入れ処理または焼入れ焼戻処理後のビッカース硬さHVは530以下とすることが望ましく、さらに望ましくは480以下である。
なお、ここでいう「耐遅れ破壊特性に優れる」とは、自動車構造部材用鋼材から試験片およびダミー試験片を採取し、上記した本発明の耐遅れ破壊特性評価方法を用いて試験して、定荷重試験の場合に50時間以上、0.1Hz以上10Hz未満の変動速度で行なった変動荷重試験の場合に20時間以上破断しない場合をいう。なお、該自動車構造部材用鋼材が、ビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さを有する場合には該鋼材からあるいは該鋼材に成形時の加工、または実際に使用される時に実施される熱処理を施したのちの該鋼材から試験片およびダミー試験片を採取し、一方、鋼材がビッカース硬さHVで250未満で、熱処理等によりHV250以上の硬さにして使われる場合には、実際に鋼材を使用する時に実施される焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施してビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さとしたのち試験片およびダミー片を採取するものとする。なお、鋼材から試験片およびダミー片を採取してから、上記した焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施してもよい。
本発明の耐遅れ破壊特性に優れた構造部材用高硬度鋼材の組成限定理由について説明する。以下、質量%は、単に%で記す。
C:0.05〜0.45%
Cは、焼入れ性を向上させ、熱処理後の硬さを高める作用を有する。本発明では鋼材のビッカース硬さHVを250以上とするために、Cは0.05%以上含有する必要がある。一方、0.45%を超える含有は硬さが高くなりすぎるとともに、熱処理によっては粒界にフィルム状の炭化物が形成される場合が顕著になり、耐遅れ破壊特性が著しく劣化する。このため、Cは0.05〜0.45%に限定した。なお、耐遅れ破壊特性の観点からは0.25%以下、熱処理後の強度確保の観点からは0.15%以上とすることが好ましい。
Si:0.1〜0.6%
Siは、固溶して鋼材の強度を高めるとともに、フェライト変態を促進させ、成形性を高める作用を有する。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、0.6%を超えて含有すると、熱処理後の低温靭性が劣化し、また電縫溶接性が低下する。このため、Siは0.1〜0.6%の範囲に限定した。なお、低温靭性確保の観点からは0.55%以下となることが好ましく、より好ましくは0.45%以下である。また、スケール欠陥の発生防止という観点からは、Si含有量はより低い方が好ましい。
Mn:0.5〜2.5%
Mnは、フェライトの形成を抑制し焼入れ性を向上させ、鋼材の硬さを増加させる元素であり、少なくとも熱延処理後にビッカース硬さHV250以上を確保するために本発明ではMn:0.5%以上の含有を必要とする。一方、2.5%を超えて含有すると、必要以上に硬化し、耐遅れ破壊特性が劣化する。このため、Mnは0.5〜2.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.0%以下である。なお、電縫溶接性の観点から、Mn含有量(質量%)とSi含有量(質量%)との比である、Mn/Siは4〜9の範囲に調整することが好ましい。
P:0.030%以下
Pは、焼入れ処理時にオーステナイト粒界に偏析し、焼戻し処理時にセメンタイト−Fe母相界面に偏析し、耐遅れ破壊特性を著しく劣化させる。このため、本発明ではPはできるだけ低減することが好ましい。しかし、過度の低減は製造コストの高騰を招き経済的に不利となるため、0.030%程度までであれば許容できる。このため、Pは0.030%以下に限定した。なお、Pの偏析を少なくし耐遅れ破壊特性を向上させる観点からは、好ましくは0.016%以下である。
S:0.003%以下
Sは、Mnと結合しMnSを形成し、圧延方向に展伸した形状で鋼材中に存在し、鋼材の延性、成形性、低温靭性、疲労特性等に悪影響を及ぼすため、本発明ではできるだけ低減することが好ましい。しかし、過度の低減は製造コストの高騰を招き経済的に不利となるため、0.003%程度までであれば許容できる。このため、Sは0.003%以下に限定した。
sol.Al:0.008〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合しAlNを形成しオーステナイト粒の粒成長を抑制し、結晶粒微細化に寄与する元素であり、このような効果を得るために本発明ではsol.Alとして0.008%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、粗大なアルミナ系介在物を生成させ、表面欠陥を発生させ、製造性を低下させる。このため、sol.Alは0.008〜0.1%の範囲に限定した。
N:0.005%以下
Nは、AlやTiと結合してAlN、TiNを形成する。Nを多量含有するとAlN、TiNの過剰析出を招き低温靭性が劣化する。このため、Nは0.005%以下に限定した。
上記した基本成分に加えて、本発明ではさらに、必要に応じてTi:0.005〜0.04%、および/または、Nb:0.03%以下、および/または、Cr:0.05〜0.3%、Ni:0.10%以下、Mo:0.20%以下、V:0.10%以下、B:0.0001〜0.0015%のうちの1種または2種以上、および/または、Cu:0.20%以下、および/または、Ca:0.001〜0.0030%を選択して含有できる。
Ti:0.005〜0.04%
Tiは、NをTiNとして固定し、Bの窒化物形成を抑制し、Bの有効活用により焼入れ性を向上させる作用を有する。また、TiはNをTiNとして固定し固溶N量を低減して加工性を向上させる作用を有する。このような効果を得るためには0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.04%を越えて含有すると、熱処理前の成形性や熱処理後の低温靭性が劣化する。このため、Tiは0.005〜0.04%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.03%以下である。
Ti−(48/14)N >0 ………(5)
(ここで、Ti、N:各元素の含有量(質量%))
Tiは、本発明では、上記した範囲内でかつ(5)式を満足するように含有することが好ましい。(5)式を満足するようにTiを調整して含有することにより、鋼中に固溶するNを完全に固定することができ、Nの悪影響を無害化することができる。
Nb:0.03%以下
Nbは、炭窒化物を形成して、結晶粒を微細化する作用を有し、低温靭性を向上させる有効な元素であり、必要に応じ選択して含有できる。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが望ましいが、0.03%を超えて含有すると、熱処理前の成形性が低下する。このため、Nbは0.03%以下に限定することが好ましい。
Cr、Ni、Mo、V、Bは、いずれも焼入れ性を向上させる元素であり、必要に応じ選択して含有できる。
Ni、Mo、Vは焼入れ性を向上させ、鋼材の硬さ増加、低温靭性向上に寄与する。このような効果はNi:0.005%以上、Mo:0.005%以上、V:0.005%以上の含有で顕著に認められるが、Ni:0.10%、Mo:0.20%、V:0.10%をそれぞれ超える含有は熱処理前の成形性を劣化させる。このため、Ni:0.10%以下、Mo:0.20%以下、V:0.10%以下に、それぞれ限定することが好ましい。
Crは、Mnと同様に焼入れ性を向上させ、鋼材の硬さを増加させる元素であり、ビッカース硬さHV250以上を確保するために本発明では0.05%以上含有することがこのましい。一方、0.3%を超えて含有するとビッカース硬さが600を超えて高くなりすぎ、耐遅れ破壊特性が劣化する。このため、Crは0.05〜0.3%の範囲に限定することが好ましい。なお、Crは、Mnに比べてマルテンサイト変態開始温度を低下させる度合いが少なく、そのためCrの含有は焼入れ歪の増加を抑制できる。また、Crはオーステナイト粒界にPと共偏析しがたいため、耐遅れ破壊特性への悪影響は少ない。なお、熱処理後の硬さが高くなりすぎないために、Crは0.25%以下とすることが好ましい。
Bは、耐遅れ破壊特性を大きく劣化させずに、少量の含有で焼入れ性を向上させる元素であり、本発明では、0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.005%を超えて含有すると、耐遅れ破壊特性が顕著に劣化する。このため、Bは0.0001〜0.005%の範囲に限定することが好ましい。なお、耐遅れ破壊特性向上の観点からは、より好ましくは0.003%以下である。
なお、Cr、Ni、Mo、Vの含有は、炭素当量の増加に寄与するため、C,Si,Mn,Cr含有量との関係で所定の炭素当量Ceqの範囲内となるように含有量を調整することが好ましい。
Cu:0.20%以下
Cuは、腐食を抑制する作用を有するとともに、鋼中への水素侵入を抑制する作用を有し、必要に応じ含有できる。このような効果を得るためには0.005%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は、熱間圧延時の表面欠陥発生の原因となる。このため、Cuは0.20%以下に限定することが好ましい。
Ca:0.0001〜0.0030%
Caは、Sと結合し粒状のCaSを形成し、展伸したMnS系介在物を少なくして、鋼材の加工性、低温靭性、耐疲労特性、耐遅れ破壊特性等を向上させる。このような効果は0.0001%以上の含有で発現するが0.0030%を超える含有はCaO系介在物量を増加させ、加工性、低温靭性、耐疲労特性、耐遅れ破壊特性等を劣化させる。このため、Caは0.0001〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。
上記した成分の範囲内としたうえで、本発明では(2)式で定義される炭素当量Ceqが、0.07〜0.9となるように成分を調整する。
Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ………(2)
(ここで、Ceq:炭素当量(%)、C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
なお、(2)式中の元素で含有しないものは零として計算するものとする。
Ceqが0.07未満では、鋼材の硬さHVが250以上を確保することができない。一方、Ceqが0.9を超えると、鋼材の硬さHVが600を超え、耐遅れ破壊特性が劣化する。このため、Ceqを0.07〜0.9の範囲に限定した。なお、耐遅れ破壊特性向上の観点からはCeqを0.60以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.55程度以下である。
上記した成分範囲に加えて、さらに耐遅れ破壊特性の向上のために、C、Pを(3)式又は(4)式を満足するように調整することが好ましい。
P<−(4/50)×C+0.045 ………(3)
P<−(4/50)×C+0.033 ………(4)
(ここで、C、P:各元素の含有量(質量%))
Pは、熱処理後の旧オーステナイト粒界に偏析して耐遅れ破壊特性を劣化させ、Cは、熱処理後の旧オーステナイト粒界にフィルム状炭化物を形成して耐遅れ破壊特性を劣化させるとともに、過剰なCは熱処理後の硬さを増加させすぎて、耐遅れ破壊特性を劣化させる。P、Cは相乗して耐遅れ破壊特性を劣化させる可能性が高い。このため、本発明ではP、C含有量を、上記した範囲内としたうえで、(3)式を満足するように調整することが好ましい。これにより、耐遅れ破壊特性が顕著に向上する。なお、P、C含有量を(4)式を満足するように調整することにより、より一層、耐遅れ破壊特性が向上する。
耐遅れ破壊特性に及ぼすC含有量とP含有量との関係を図8に示す。図8は、定荷重試験における試験条件(拡散性水素量、負荷応力)を略同じ範囲内とし、各鋼材で熱処理によりビッカース硬さHV250以上に調整したサンプルを用いて行なった結果である。P、C含有量が、(3)式を満足しない場合には破断時間が50時間未満であり、(3)式を満足し(4)式を満足しない場合には、破断時間が50時間以上150時間未満、(4)式を満足する場合には、150時間以上、好ましくは250時間以上破断しない。P含有量とC含有量との関係がこのような特定関係を満足するようにP、C含有量を調整することにより、耐遅れ破壊特性が顕著に向上することがわかる。
上記した成分以外の残部は実質的にFeからなる。ここで「実質的にFe」とは、Feおよび不可避的不純物からなることを意味する。
上記した範囲に組成を調整することにより、焼入れ処理または焼入れ焼戻処理後のビッカース硬さがHVで250以上好ましくは600以下となり、高硬度を維持しつつ優れた耐遅れ破壊特性を確保できる。なお、耐遅れ破壊特性向上の観点からは、焼入れ処理または焼入れ焼戻処理後の硬さは、HVで530以下とすることが望ましく、480以下とすることがさらに望ましい。
本発明の自動車構造部材用鋼材の製造方法は、とくに限定されないが、上記した組成範囲の溶鋼を通常の溶製法で溶製したのち、公知の連続鋳造法等の鋳造法で鋼素材とし、公知の圧延等の熱間加工、あるいはさらに冷間加工、さらには熱処理等を施されて所望の硬さに調整された、薄板、鋼管等の鋼材とすることが好ましい。
本発明では、耐遅れ破壊特性を評価するに際し、その鋼材が使用される状態に沿した状態にて評価を行なう。つまり、評価対象の鋼材がそのまま、あるいは加工して利用される場合で、ビッカース硬さHVですでに250以上の場合には、その鋼材から試験片及びダミー片を加工して評価する。加工時の歪を鋼材に印加させたものを評価してもよい。鋼材が熱処理されて利用される場合は、鋼材に焼入れ処理又は焼入れ焼戻処理からなる熱処理を施してビッカース硬さHVで250以上の、実際に使用される状態(硬さ)にしてから、試験片及びダミー片を加工して評価を行なう。この熱処理の条件は、特に限定されない。熱処理雰囲気については、脱炭等を防止し鋼材の表面と中心部での強度、組織のばらつきを極力抑えるために、不活性ガス雰囲気又は窒素ガス雰囲気等の無酸素雰囲気、あるいは酸素含有量が10%以下の減酸素雰囲気とすることが望ましい。
以下、実施例にしたがい、さらに本発明について説明する。
(実施例1)
表1に示す板厚(肉厚)を有する鋼材を用意し、硬さがビッカース硬さHVで250未満のものについては表1に示す熱処理を施し、ビッカース硬さHVで250以上の表1に示す各硬さに調整した。なお、サンプルNo.A、No.Cはとくに熱処理を行わなかった。これら硬さを調節された鋼材から図5に示す形状寸法とほぼ同一の試験片およびダミー片を採取した。
なお、一部の試験片には応力集中係数が1.8〜2.8となるように切欠きを付与した。また、採取した試験片およびダミー片の板厚は各サンプルの板厚と同一とした。なお、熱処理時にスケール、曲がりが発生したものは、両面からほぼ等量づつ研削し平坦な試験片、ダミー片とした。使用した試験片およびダミー片の寸法形状を表3にまとめて示す。
ついで、これら試験片に、図1に示すように電解セル3を試験片1の平行部が電解質溶液2に浸漬するように取り付けて、表4に示す条件の電解処理を無負荷状態で施した。なお、使用した電解質は、表2に示す。一方、ダミー片6には、図1に示すように、試験片1とは別の電解槽7で、試験片1と同一条件で電解処理を施した。なお、電流密度は、予め求めた拡散性水素量−電流密度の関係から、所望の拡散性水素量を導入できるように変化させた。
表3に示す無負荷状態の電解処理を所定時間(無負荷電解時間)施したのち、試験片1を図1に示す定荷重試験機10にセットし、試験片1に表3に示す負荷応力σとなるように一定荷重を負荷し定荷重試験を実施した。なお試験中は、試験片及びダミー片とも表3に示す条件の電解処理を継続した。
また、一部の試験では、電解セル3を使用せずに、電解槽7で表4に示す条件で電解処理を行い拡散性水素をチャージし、電解処理終了後、試験片及びダミー片表面に亜鉛めっき処理を施し、表面にZnめっき膜を形成し、拡散性水素を封じ込めた。亜鉛めっき処理は、電解浴として酸性塩化亜鉛アンモニウム浴を用い、亜鉛板を陽極とし、試験片/ダミー片を陰極とする電気めっき処理とした。亜鉛めっきは、電流密度:28mA/cm、処理時間30分とした。なお、試験片/ダミー片と導線との接触位置を2回以上変更して電気めっき処理を施し、試験片およびダミー片全体に均一なめっき膜を形成するようにした。めっき膜を形成された試験片1を図1に示す定荷重試験機10にセットし、試験片1に表3に示す負荷応力となるように一定荷重を負荷して大気雰囲気中で、試験片得に電解セルを配設し電解処理を継続しながら試験する場合と同様に定荷重試験を実施した。なお試験中、ダミー片は、試験片と同一環境、つまり、大気中で放置された。
また、一部、定荷重試験に代えて、変動荷重試験を実施した。なお、変動荷重試験は、図5(c)に示す寸法形状の試験片を使用し、表3に示す電解処理条件、および応力負荷条件(負荷応力:上限応力σ、下限応力:15MPa(引張応力)とした。)で行ない、試験片には電解セルをセットし電解処理を継続しながら、実施した。なお、変動荷重試験中、ダミー片を電解槽中に浸漬し、電解処理を継続した。
なお、電解質溶液2の脱気のため、電解セル3への窒素ガス吹き込みを行なった。定荷重試験は、原則として50時間までとし、状況に応じ一部、250時間まで継続した。なお、50時間経過前に破断したものは、「破断」とし、それぞれ、括弧の内に、破断時間を記入した。なお、50時間を越えた数字は、その時間まで一定荷重が負荷され試験が継続されていたことを意味する。
変動荷重試験は、原則として20時間までとし、状況に応じ一部、100時間まで継続した。なお、20時間経過前に破断したものは、「破断」とし、それぞれ、括弧の内に、破断時間を記入した。なお、20時間を越えた数字は、その時間まで、試験を継続していたことを意味する。
試験終了後、試験片が破断しない場合には試験片とダミー片を、試験片が破断した場合にはダミー片を、測定用サンプルとして水素分析を実施した。なお、試験片については、電解質液に浸漬された部分のみを切り取り、測定用サンプルとして拡散性水素を分析した。
なお、拡散性水素の分析の前処理として、測定用サンプルとして用いる試験片とダミー片について、水分の除去、表面の酸化膜除去、汚れの除去をウエスあるいは研磨紙を用いて行なった。この前処理は、水素、酸素、一酸化炭素、炭酸ガス、水分のガスクロマトグラフィでのピークが互いに近接しており、ピークの重複による水素量の測定誤差を少なくするために必須とした。
なお、電解セルで水素チャージを継続しながら試験した場合には、試験片(ダミー片)への電解セル(電解槽)での水素チャージ(電解処理)終了時を起点とし、水素分析の前処理を行ない、水素分析装置へ投入するまでの時間を大気放置時間として記録した。めっき膜で試験片(ダミー片)中に導入された水素を封じ込めた場合には、めっき膜剥離時を起点とした。この大気放置時間に基づき、一部の場合に、予め求めた放出水素量と放置時間との関係から測定値を補正した。なお、水素分析の前処理が、8〜15℃程度の環境下で行なわれた場合は、大気放置中でも拡散性水素の放出は少ないものとして、測定値の補正は行なわなかった。
拡散性水素の分析は、一定流量の高純度アルゴンを流しながら、測定用サンプルを200℃/hの昇温速度で昇温し、放出される水素を恒温装置を経由してガスクロマトグラフィに導入し水素分析を行なった。なお、室温から250℃までに放出されるピークを構成する合計水素量を拡散性水素量とした。
得られた拡散性水素量と定荷重試験又は変動荷重試験の結果を纏めて表4に示す。
Figure 0004370991
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Figure 0004370991
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本発明によれば、拡散性水素量、負荷応力を所望の範囲に変化させることができ、さらに薄肉鋼材でも試験片に導入された拡散性水素量を正確に推定できる。このため、自動車構造部材が使用される実使用環境を模擬した拡散性水素量、負荷応力の条件下で、薄肉の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を正確に評価できる。それにより、その鋼材の使用応力、使用環境における適用可否の判断指標にできる。
定荷重試験で本発明範囲の負荷応力条件、拡散性水素量条件で試験し、50時間以上破断しない本発明例(試験No.5〜No.7、No.9、No.15〜20、No.22、No.24、No.26、No.28)は、設定された条件で優れた耐遅れ破壊特性を示す例である。一方、定荷重試験で本発明範囲内の負荷応力条件、拡散性水素量条件で試験し、50時間未満で破断した本発明例(試験No.4、No.21、No.23、No.25、No.27)は、設定された負荷応力および拡散性水素条件下では、耐遅れ破壊特性に劣る例であると評価できる。
また、変動荷重試験では、変動速度を0.1Hz以上10Hz未満として試験すると定荷重試験に比べ短時間側で破断する(試験No.12、No.13)。このため、変動荷重試験では、本発明範囲内の負荷応力条件、拡散性水素量条件で試験し、20時間以上破断しない場合を耐遅れ破壊特性に優れるとする必要がある。変動荷重試験では、変動速度が10Hz以上では、破断時間の短時間化が認められず耐遅れ破壊特性の評価はできない(試験No.10、No.11)。しかし、変動速度が0.1Hz未満では定荷重試験と同じ挙動を示す(試験No.14)。
試験No.8は、ダミー片の重量、表面積が本発明範囲を低く外れる場合であり、ダミー片を用いて水素量を測定しても低い値しか得られず、試験片の正確な拡散性水素量が測定できなかった比較例である。なお、この例は、試験片は破断しなかったが試験片の大気放置時間が25分と長いため、試験片からの水素の漏れ量が多くなっている。
試験No.4、No.12、No.13、No.21、No.23、No.25、No.27、No.30は試験片が破断し、破断時に、試験片を回収できないために(破断時に通常は立ち会えない)、試験片で水素分析できないゆえに、ダミー片を使って水素分析した例である。
試験No.8は、試験片は破断してないが、試験片回収が破断後26分経過した後であり、試験片から水素が漏れているため、ダミー片を使って、拡散性水素を把握した例である。
一方、試験片No.2、No.5〜No.7、No.9、No.10、No.14、No.15、No.18、No.19、No.22、No.24、No.26、No.28は、試験片、ダミー片いずれを使っても、拡散性水素量を評価できた例である。
試験No.16は、ダミー片の大気放置時間が長く、ダミー片の拡散性水素量が低い値しか得られなかったために、試験片で拡散性水素量を同定した例である。
試験No.17は、試験No.16と同様に試験した例でダミー片の大気放置時間を基に、図7に示す関係を用いて大気放置中に放出された水素量を補正した例であり、補正により正確な拡散性水素量が推定できることがわかる。
試験No.19、No.20は、板厚が4.9mmと厚い例であり、拡散性水素が試験片等から抜けにくく、大気放置時間が35分と長くなっても測定誤差を考慮しても水素はほとんど漏れていない。
試験No.29、No.30は、熱処理後の硬さがHV600を超えるため、耐遅れ破壊特性が顕著に劣化し拡散性水素量が0.05ppmに満たない、0.04ppmであっても、破断し、耐遅れ破壊特性を本発明方法では正確に評価できない例である。
(実施例2)
表5に示す組成の鋼素材を熱間圧延して、熱延鋼材とした。ついで、これら鋼材に表6に示す熱処理を施し、表8に示す硬さの鋼材とした。これら鋼材から、試験片およびダミー片を採取した。試験片およびダミー片は図5に示す形状に準じたものとし、表8に示す寸法とした。なお、試験片およびダミー片の板厚は鋼材板厚と同一とした。なお、熱処理時にスケール、曲がりが発生したものは、両面からほぼ等量づつ研削し平坦な試験片、ダミー片とした。
これら試験片およびダミー片を用いて、表7に示す条件の電解処理により試験片およびダミー片に同一量の拡散性水素量を導入し、表7に示す負荷応力条件で、実施例1と同様に定荷重試験又は変動荷重試験を実施し、実施例1と同様に破断の有無と導入された拡散性水素量を測定した。
得られた結果を表8に示す。
Figure 0004370991
Figure 0004370991
Figure 0004370991
Figure 0004370991
本発明例(試験No.2−5〜No.2−17、No.2−20、No.2−22〜No.2−27)はいずれも、自動車構造部材の実使用環境を模擬した本発明範囲の負荷応力条件、拡散性水素量条件において定荷重試験では50時間以上破断せず、変動荷重試験では20時間以上破断しない。つまり、組成を本発明の範囲内に調整し、ビッカース硬さHVが250以上600以下のものであれば、実使用環境を模擬した応力条件、拡散性水素条件において、耐遅れ破壊特性に優れた鋼材であると判断できる。
一方、組成が本発明の範囲を外れる鋼材である比較例は、自動車構造部材の実使用環境を模擬した本発明範囲の負荷応力条件、拡散性水素量条件の定荷重試験で50時間未満で破断し、耐遅れ破壊特性が劣化している鋼材である。
なお、P、C含有量の関係が(3)式、さらには(4)式を満足する本発明例は、破断時間が50時間を超えて長時間側となり、一層、耐遅れ破壊特性が向上している。
試験No.2-1、No.2-2は、ビッカース硬さHVが250未満であり、導入する拡散性水素量を1ppm超えとしても遅れ破壊の発生は認められない。また、試験No.2-3と試験No.2-4とを比較すれば、HV250以上のビッカース硬さを有する鋼材では、導入する拡散性水素量が1ppmを超えると、早期に破断が生じることがわかる。また、試験No.2-31は、C含有量が本発明の範囲を高く外れており硬さがHV600を超え耐遅れ破壊特性が顕著に劣化して、微量の拡散性水素量の導入でも早期に破断が生じている。
また、試験No.2-18、No.2-19は、Mn含有量が本発明範囲を外れた比較例であり、早期に破断が生じている。また、試験No.2-28はPが、No.2-29はBが、試験No.2-30はCrが、それぞれ本発明範囲を外れた比較例であり、早期に破断が生じている。
また、試験片が破断した例(試験No.2−4、No.2−10、No.2−11、No.2−17、No.2−18、No.2−19、No.2−21、No.2−24〜No.2−31)では、試験片では水素が抜け、正確に拡散性水素量の定量できず、ダミー片を用いて拡散性水素量を測定した。
本発明の実施に好適な定荷重試験機および電解処理装置を示す概略説明図である。 ダミー片に電解処理を施す電解槽の一例を示す模式図である。 電解セルの構造の一例を示す模式図である。 拡散性水素量の定義を示す説明図である。 試験片、ダミー片の寸法形状の一例を模式的に示す説明図である。 電解処理における導入される拡散性水素量と電流密度の関係の一例を模式的に示すグラフである。 大気中放置の場合のダミー片の拡散性水素量変化の一例を模式的に示すグラフである。 耐遅れ破壊特性に及ぼすC含有量とP含有量との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 試験片
2 電解質溶液
3 電解セル
4 白金電極
5 脱気ガス吹き込み用パイプ
6 ダミー片
7 電解槽
8 電源
10 定荷重試験機
10a 支点
10b 梁(レバー)
10c 錘
11 ゴム栓
12 フタ

Claims (19)

  1. ビッカース硬さ(HV)で250以上を有する自動車構造部材用鋼材又は加工または熱処理を施されてビッカース硬さ(HV)で250以上の硬さを有するようになる自動車構造部材用鋼材を評価対象材とし、前記評価対象材から採取した試験片に拡散性水素を電気化学的手段でチャージしながら、該試験片に定荷重として応力σを負荷する定荷重試験又は該試験片に変動荷重として応力σを10Hz未満の変動速度で負荷する変動荷重試験を実施し、該定荷重試験又は変動荷重試験の結果と拡散性水素量との対応から自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価するに当たり、
    前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250以上を有する場合には、そのまま、もしくは加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち該評価対象材から前記試験片およびダミー片を採取し、一方前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250未満の場合には該評価対象材に加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち前記試験片およびダミー片を採取し、又は前記評価対象材から試験片およびダミー片を採取したのち該試験片およびダミー片に加工または熱処理を施しビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整し、試験に供するものとし、
    前記ダミー片は前記試験片と同一肉厚、同一表面性状でかつ重量が3.5g以上、表面積が600mm以上とし、
    前記試験片には電解溶液を満たした電解セルをセットするとともに、前記ダミー片は前記電解液と同じ電解溶液を満たした電解槽に浸漬し、
    前記電気化学的手段を、電解溶液中で白金電極と前記試験片又は前記ダミー片との間に予め定めた一定電流密度の電流を流し、該試験片又は該ダミー片に0.05ppm以上1ppm未満の拡散性水素量を定常状態で保持可能とする電解処理とし、
    該電解処理は、前記試験片と前記ダミー片とで同一の条件とし、無負荷状態で一定時間行い前記試験片及び前記ダミー片中の拡散性水素量を定常状態に保持したのち、前記試験片及び前記ダミー片で該電解処理を継続したまま、前記定荷重試験を下記(1)式で定義される応力σ(MPa)を所定時間負荷する定荷重試験とし又は前記変動荷重試験を下記(1)式で定義される応力σ(MPa)を10Hz未満の変動速度で所定時間負荷する変動荷重試験として行ない、前記定荷重試験又は前記変動荷重試験後、
    拡散性水素量を、前記試験片が所定時間内に破断した場合には前記ダミー片で、前記試験片が破断しなかった場合は該試験片又は前記ダミー片で、測定し、該測定した拡散性水素量と前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の結果とを対応させ、耐遅れ破壊特性を評価することを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。

    σ(MPa)=3(HV−10)×α ………(1)
    ここで、σ:応力(MPa)、
    HV:ビッカース硬さ
    α:定数(:0.10以上0.7未満の範囲内の一定値)
  2. 前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の終了後、前記試験片又は前記ダミー片の拡散性水素量を測定するに際し、前記試験片又は前記ダミー片への前記電解処理の停止時を起点とし拡散性水素の分析装置へ投入するまでの大気雰囲気中での経過時間から、予め測定した大気雰囲気中での経過時間と拡散性水素の変化量との関係に基づいて、得られた拡散性水素量の測定値を補正することを特徴とする請求項1に記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  3. ビッカース硬さ(HV)で250以上を有する自動車用鋼材又は加工または熱処理を施されてビッカース硬さ(HV)で250以上の硬さを有するようになる自動車構造部材用鋼材を評価対象材とし、
    前記評価対象材から採取した試験片に拡散性水素を電気化学的手段でチャージしながら、該試験片に定荷重として応力σを負荷する定荷重試験又は該試験片に変動荷重として応力σを10Hz未満の変動速度で負荷する変動荷重試験を実施し、該定荷重試験又は変動荷重試験の結果と拡散性水素量との対応から自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性を評価するに当たり、
    前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250以上を有する場合には、そのまま、もしくは加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち該評価対象材から前記試験片およびダミー片を採取し、一方前記評価対象材がビッカース硬さ(HV)で250未満の場合には該評価対象材に加工または熱処理を施してビッカース硬さ(HV)250以上の鋼材実使用時の硬さに調整したのち前記試験片およびダミー片を採取し、又は前記評価対象材から試験片およびダミー片を採取したのち該試験片およびダミー片に加工または熱処理を施しビッカース硬さ(HV)で250以上の鋼材実使用時の硬さに調整し、試験に供するものとし、
    前記ダミー片は前記試験片と同一肉厚、同一表面性状でかつ重量が3.5g以上、表面積が600mm以上とし、
    前記電気化学的手段を、電解溶液中で白金電極と前記試験片又は前記ダミー片との間に予め定めた一定電流密度の電流を流し、該試験片又は該ダミー片に0.05ppm以上1ppm未満の拡散性水素量を定常状態で保持可能とする電解処理とし、
    該電解処理は、前記試験片と前記ダミー片とで同一の条件とし、無負荷状態で一定時間行い前記試験片及び前記ダミー片中の拡散性水素量を同一量の定常状態に保持したのち、前記試験片と前記ダミー片とに拡散性水素を封じ込めるめっきを施し、
    前記定荷重試験を下記(1)式で定義される一定応力σ(MPa)を所定時間負荷する定荷重試験として又は前記変動荷重試験を下記(1)式で定義される応力σ(MPa)を変動荷重として10Hz未満の変動速度で所定時間負荷する変動荷重試験として、大気雰囲気中で行ない、該定荷重試験中又は該変動荷重試験中は、前記めっきを施されたダミー片を前記定荷重試験又は前記変動荷重試験を行なう同一大気雰囲気中に保管し、前記定荷重試験又は前記変動荷重試験後、
    拡散性水素量を、前記試験片が所定時間内に破断した場合には前記ダミー片で、前記試験片が破断しなかった場合は該試験片又は前記ダミー片で、測定し、該測定した拡散性水素量と前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の結果とを対応させ、耐遅れ破壊特性を評価することを特徴とする自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。

    σ(MPa)=3(HV−10)×α ………(1)
    ここで、σ:応力(MPa)、
    HV:ビッカース硬さ
    α:定数(:0.10以上0.7未満の範囲内の一定値)
  4. 前記定荷重試験又は前記変動荷重試験の終了後、前記試験片又は前記ダミー片の拡散性水素量を測定するに際し、前記試験片又は前記ダミー片のめっき剥離時を起点とし拡散性水素の分析装置へ投入するまでの大気雰囲気中での経過時間から、予め測定した大気雰囲気中での経過時間と拡散性水素の変化量との関係に基づいて、得られた拡散性水素量の測定値を補正することを特徴とする請求項3に記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  5. 前記電解処理における前記無負荷状態で行なう一定時間を、1時間以上とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  6. 前記自動車構造部材用鋼材が、板厚4.5mm以下の薄肉鋼材であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  7. 前記試験片が、切欠き付き試験片であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  8. 前記定荷重試験の所定時間を50時間以上、前記変動荷重試験の所定時間を、変動速度が0.1Hz未満の場合には50時間以上、変動速度が0.1Hz以上10Hz未満の場合には20時間以上とすることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  9. 前記定荷重試験の所定時間を150時間以上、前記変動荷重試験の所定時間を、変動速度が0.1Hz未満の場合には150時間以上、変動速度が0.1Hz以上10Hz未満の場合には60時間以上とすることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法。
  10. 質量%で、
    C:0.05〜0.45%、 Si:0.1〜0.6%、
    Mn:0.5〜2.5%、 P:0.030%以下、
    S:0.003%以下、 sol.Al:0.008〜0.1%、
    N:0.005%以下
    を、下記(2)式で定義される炭素当量Ceqが0.07〜0.9を満足するように含み、残部が実質的にFeからなる組成を有し、ビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さを有するか、あるいは焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施された後にビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さとなる自動車構造部材用鋼材であって、該自動車構造部材用鋼材から試験片およびダミー試験片を採取し、あるいは該自動車構造部材用鋼材に焼入れ処理または焼入れ焼戻処理を施してビッカース硬さHVで250以上600以下の硬さとしたのち試験片およびダミー片を採取し、該試験片およびダミー片を用い、請求項8に記載された自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法で耐遅れ破壊特性を評価した際に前記試験片が破断しないことを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れる自動車構造部材用鋼材。

    Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ………(2)
    ここで、Ceq:炭素当量(%)、
    C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%)
  11. 前記組成に代えて、質量%で、
    C:0.15〜0.25%、 Si:0.1〜0.55%、
    Mn:0.5〜2.5%、 P:0.016%以下、
    S:0.003%以下、 sol.Al:0.008〜0.1%、
    N:0.005%以下
    を、前記(2)式で定義される炭素当量Ceqが0.07〜0.60を満足するように含み、残部が実質的にFeからなる組成を有することを特徴とする請求項10に記載の自動車構造部材用鋼材。
  12. 前記組成が、さらにC、Pを下記(3)式を満足するように含有する組成であることを特徴とする請求項10又は11に記載の自動車構造部材用鋼材。

    P<{−(4/50)×C+0.045} ………(3)
    ここで、C、P:各元素の含有量(質量%)
  13. 前記組成が、さらにC、Pを下記(4)式を満足するように含有する組成であり、請求項9に記載された自動車構造部材用鋼材の耐遅れ破壊特性評価方法で耐遅れ破壊特性を評価した際に前記試験片が破断しないことを特徴とする請求項10又は11に記載の自動車構造部材用鋼材。

    P<{−(4/50)×C+0.033} ………(4)
    ここで、C、P:各元素の含有量(質量%)
  14. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.005〜0.04%を、下記(5)式を満足するように含有する組成とすることを特徴とする請求項10ないし13のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材。

    Ti−(48/14)N>0 ………(5)
    ここで、Ti、N:各元素の含有量(質量%)
  15. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.03%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材。
  16. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.05〜0.25%、Ni:0.10%以下、Mo:0.20%以下、V:0.10%以下、B:0.0001〜0.005%のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項10ないし15のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材。
  17. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.20%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項10ないし16のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材。
  18. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0030%を含有する組成とすることを特徴とする請求項10ないし17のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材。
  19. 請求項10ないし18のいずれかに記載の自動車構造部材用鋼材で構成されてなる自動車構造部材。
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