JP7384262B2 - プレス成形品の遅れ破壊予測方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法 - Google Patents
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Description
さらに、本発明は、遅れ破壊の発生を予測した結果に基づいて遅れ破壊を抑制するようにプレス成形条件を決定してプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法に関する。
自動車の骨格部品は一般にプレス成形によって製造されているが、引張強度で980MPaを超える高張力鋼板を使用したプレス成形品においては、プレス成形工程から部品組付け工程で発生したひずみや残留応力と、自動車の製造中や使用中に侵入した水素に起因した遅れ破壊の発生が懸念される。
例えば、特許文献1には、深絞り成形した高張力鋼板の試験片を水素侵入環境下に置き、当該試験片のフランジ部に発生する亀裂発生状況によって遅れ破壊特性を評価する方法が開示されている。
また、特許文献2には、塑性ひずみが付与された鋼材の試験片に対して水素を導入し、水素脆化特性(遅れ破壊特性)を塑性ひずみ量に基づいて評価する方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と残留応力と組織内における結晶粒の歪みを対応づけた関係を用いて、鋼板成形品の予め選定した評価部位の組織内における結晶粒の歪みに対応した水素量を求めることで、評価部位における遅れ破壊特性を評価する方法が開示されている。
また、特許文献2に開示されている方法は、鋼材の遅れ破壊特性(水素脆化特性)の優劣を塑性ひずみ量に基づいて評価するものであり、プレス成形品における遅れ破壊発生に対する応力分布や水素濃度分布の影響を考慮できないといった問題があった。
さらに、特許文献3に開示されている方法は、鋼板成形品における遅れ破壊特性を評価する評価部位を選定し、当該評価部位における残留応力と結晶粒の歪み、水素量を測定し、遅れ破壊発生の判定条件として結晶粒の歪み、残留応力及び水素量を用いているが、プレス成形品のような大きい部品ではプレス成形品全体の結晶粒の歪みや水素量を測定するには膨大な時間とコストがかかるという問題があった。
さらに、本発明は、上記の方法により遅れ破壊が発生すると予測された部位において遅れ破壊が発生しないようにプレス成形条件を決定し、該決定したプレス成形条件によりプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する応力分布及びひずみ分布算出工程と、
前記高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する水素濃度分布設定工程と、
前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した応力分布と、前記水素濃度分布設定工程において設定した水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する水素拡散解析工程と、
予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布、前記水素拡散解析工程において算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する遅れ破壊発生部位予測工程と、を含むことを特徴とするものである。
前記応力分布及びひずみ分布算出工程において、前記ひずみ分布として相当塑性ひずみ分布を算出し、
前記水素濃度分布設定工程において、相当塑性ひずみと水素濃度の関係式を予め取得し、該取得した相当塑性ひずみ分布と水素濃度の関係式に基づいて、前記相当塑性ひずみ分布に対応する水素濃度分布を設定することを特徴とするものである。
前記水素濃度分布設定工程において、前記高張力鋼板における静水圧応力と水素濃度の関係式を予め取得し、前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品の応力分布より静水圧応力分布を算出し、前記静水圧応力と水素濃度の関係式に基づいて前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を算出し、該算出した前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布に加算することを特徴とするものである。
前記高張力鋼板は引張強度が1GPa以上であることを特徴とするものである。
前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する応力分布及びひずみ分布算出部と、
前記高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する水素濃度分布設定部と、
前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した応力分布と、前記水素濃度分布設定部により設定した水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する水素拡散解析部と、
予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布、前記水素拡散解析部により算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する遅れ破壊発生部位予測部と、を備えることを特徴とするものである。
前記応力分布及びひずみ分布算出部は、前記ひずみ分布として相当塑性ひずみ分布を算出し、
前記水素濃度分布設定部は、相当塑性ひずみと水素濃度の関係式を予め取得し、該取得した相当塑性ひずみ分布と水素濃度の関係式に基づいて、前記相当塑性ひずみ分布に対応する水素濃度分布を設定することを特徴とするものである。
前記水素濃度分布設定部は、前記高張力鋼板における静水圧応力と水素濃度の関係式を予め取得し、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布より静水圧応力分布を算出し、前記静水圧応力と水素濃度の関係式に基づいて前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を算出し、該算出した前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布に加算することを特徴とするものである。
コンピュータを、
前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する応力分布及びひずみ分布算出部と、
前記高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する水素濃度分布設定部と、
前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した応力分布と、前記水素濃度分布設定部により設定した水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する水素拡散解析部と、
予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布、前記水素拡散解析部により算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する遅れ破壊発生部位予測部と、して実行させる機能を備えることを特徴とするものである。
前記応力分布及びひずみ分布算出部は、前記ひずみ分布として相当塑性ひずみ分布を算出し、
前記水素濃度分布設定部は、相当塑性ひずみと水素濃度の関係式を予め取得し、該取得した相当塑性ひずみ分布と水素濃度の関係式に基づいて、前記相当塑性ひずみ分布に対応する水素濃度分布を設定することを特徴とするものである。
前記水素濃度分布設定部は、前記高張力鋼板における静水圧応力と水素濃度の関係式を予め取得し、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布より静水圧応力分布を算出し、前記静水圧応力と水素濃度の関係式に基づいて前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を算出し、該算出した前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布に加算することを特徴とするものである。
前記プレス成形品の仮のプレス成形条件を設定する仮プレス成形条件設定工程と、
該仮のプレス成形条件に基づいて、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプレス成形品の遅れ破壊予測方法により遅れ破壊の発生する部位を予測し、該予測した結果に基づいて前記プレス成形品における遅れ破壊発生の有無を判定する遅れ破壊発生有無判定工程と、
該遅れ破壊発生有無判定工程において前記プレス成形品に遅れ破壊が発生すると判定された場合、前記仮のプレス成形条件を変更する仮プレス成形条件変更工程と、
前記遅れ破壊発生有無判定工程において前記プレス成形品に遅れ破壊が発生無しと判定されるまで、前記仮プレス成形条件変更工程と、前記遅れ破壊発生有無判定工程と、を繰り返し実行する繰り返し工程と、
前記遅れ破壊発生有無判定工程において前記プレス成形品に遅れ破壊が発生無しと判定された場合、その場合の前記仮のプレス成形条件をプレス成形条件として決定するプレス成形条件決定工程と、
該決定したプレス成形条件で前記高張力鋼板を前記プレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
を含む、ことを特徴とするものである。
発明者らは、高張力鋼板のプレス成形品において遅れ破壊が発生する部位を予測する方法を検討するに際し、高張力鋼板の単軸引張応力下における遅れ破壊試験による検討を行った。
引張試験片11においては静水圧の分布により水素はR部15と平行部13の境目に集中して存在し、水素濃度の高い部位は割れ発生部位(図2(b)参照)と対応していることがわかる。この結果から、遅れ破壊の予測には、水素拡散後の水度濃度分布を考慮することが重要であるとの結論に至った。
高張力鋼板をプレス成形すると、プレス成形品においては、曲げ(平面ひずみ)、張出(二軸引張)、単軸引張など、様々な変形モードが存在する。そこで、高張力鋼板(一例として、1470MPa冷延鋼板、板厚1.2mm)を供試材とし、圧延(平面ひずみ)、単軸引張、単軸圧縮および二軸引張・圧縮など、種々の変形モードでひずみが付与された試験片を作成した。そして、ひずみが付与された試験片を、水素侵入環境下に一定時間置いた後、試験片中の水素量を測定する水素チャージ試験を実施した。
そして、図3(a)に示す結果から、プレス成形品に侵入する水素量とプレス成形品のひずみとの関係は、例えば、式(1)に示すような、相当塑性ひずみの関係式として表されるものとした。
引張試験片11において割れが発生したR部15と平行部13の境目付近では、静水圧応力が発生する。ここで、静水圧応力とは、物体の表面に作用する三方向の垂直応力の平均で定義される平均応力を指す。引張方向の静水圧応力が発生すると、鋼中の結晶格子が開き、結晶格子に固溶する水素量が増加し、鋼中に侵入する水素量は増加すると考えられる。
さらに、図5に示す結果において浸漬時間20時間と比べると浸漬時間30時間の方がより低い応力、低い相当塑性ひずみで割れが発生していることから、浸漬時間により遅れ破壊判定条件は異なる。
<プレス成形品の遅れ破壊予測方法>
本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の遅れ破壊予測方法は、高張力鋼板のプレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するものであって、一例として図1に示すように、応力分布及びひずみ分布算出工程S1と、水素濃度分布設定工程S3と、水素拡散解析工程S5と、遅れ破壊発生部位予測工程S7と、を含むものである。
以下、上記の各工程について説明する。
応力分布及びひずみ分布算出工程S1は、プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する工程である。
本実施の形態1において、応力分布及びひずみ分布算出工程S1は、プレス成形品の各CAE解析要素について応力とひずみを算出することにより、プレス成形品の応力分布とひずみ分布を算出する。
水素濃度分布設定工程S3は、高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、応力分布及びひずみ分布算出工程S1において算出したプレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する工程である。
ひずみと水素濃度の関係式導出工程S11は、プレス成形に用いる高張力鋼板におけるひずみと水素濃度の関係式を、水素チャージ試験により実験的に求める工程である。
水素拡散解析工程S5は、応力分布及びひずみ分布算出工程S1において算出した応力分布と、水素濃度分布設定工程S3において設定した水素濃度分布と、に基づいて、プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する工程である。
プレス成形品中の水素は、水素濃度勾配と静水圧応力勾配に応じて拡散する。そのため、プレス成形品における水素濃度分布を正確に予測するためには、式(4)に示す拡散方程式を解いて、プレス成形品の各CAE要素の水素を再分配させる必要がある。
遅れ破壊発生部位予測工程S7は、予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、応力分布及びひずみ分布算出工程S1において算出したプレス成形品の応力分布及びひずみ分布並びに水素拡散解析工程S5において算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する工程である。
遅れ破壊判定条件導出工程S13は、プレス成形に用いる高張力鋼板の遅れ破壊試験を行い、遅れ破壊が発生する応力、ひずみ及び水度濃度の関係を遅れ破壊判定条件として導出する工程である。
遅れ破壊判定条件導出工程S13において導出する遅れ破壊判定条件は、図7に示すように、相当塑性ひずみ、応力及び水素濃度の3元系となる。
本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の遅れ破壊予測装置1(以下、「遅れ破壊予測装置1」という)は、高張力鋼板のプレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するものであって、図8に示すように、応力分布及びひずみ分布算出部3と、水素濃度分布設定部5と、水素拡散解析部7と、遅れ破壊発生部位予測部9と、を備えたものである。
遅れ破壊予測装置1は、コンピュータ(PC等)のCPU(中央演算処理装置)によって構成されたものであってもよい。この場合、上記の各部は、コンピュータのCPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
応力分布及びひずみ分布算出部3は、プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出するものである。
本実施の形態1において、応力分布及びひずみ分布算出部3は、プレス成形品の各CAE解析要素について応力とひずみを算出することにより、プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する。
水素濃度分布設定部5は、高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、応力分布及びひずみ分布算出部3により算出したプレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定するものである。
本実施の形態1において水素濃度分布設定部5は、高張力鋼板について予め取得した相当塑性ひずみと水素濃度の関係式(前述した式(1))に基づいて、プレス成形品の各CAE解析要素についてひずみ(相当塑性ひずみ)に対応した水素濃度を求めることにより、プレス成形品に水素濃度分布を設定する。
水素拡散解析部7は、応力分布及びひずみ分布算出部3により算出した応力分布と、水素濃度分布設定部5により設定した水素濃度分布と、に基づいて、プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出するものである。
本実施の形態1において、水素拡散解析部7は、プレス成形品の各CAE要素について、応力分布及びひずみ分布算出部3により算出した応力と、水素濃度分布設定部5により設定した水素濃度と、に基づいて、式(4)に示す拡散方程式を解いてプレス成形品の各CAE解析要素について水素拡散後の水素濃度を算出することにより、水素拡散後の水素濃度分布を算出する。
遅れ破壊発生部位予測部9は、予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、応力分布及びひずみ分布算出部3により算出したプレス成形品の応力分布及びひずみ分布並びに水素拡散解析部7により算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するものである。
本発明の実施の形態1は、プレス成形品の遅れ破壊予測プログラムとして構成することができる。
すなわち、本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の遅れ破壊予測プログラムは、高張力鋼板のプレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するものであって、図8に示すように、コンピュータを、応力分布及びひずみ分布算出部3と、水素濃度分布設定部5と、水素拡散解析部7と、遅れ破壊発生部位予測部9と、して実行させる機能を有することを特徴とするものである。
<プレス成形品の製造方法>
本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、高張力鋼板を用いたプレス成形品における遅れ破壊の発生を抑制してプレス成形品を製造するものである。そして、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、図14に示すように、仮プレス成形条件設定工程S21と、遅れ破壊発生有無判定工程S23と、仮プレス成形条件変更工程S25と、繰り返し工程S27と、を含む。さらに、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、プレス成形条件決定工程S29と、プレス成形工程S31と、を含む。
仮プレス成形条件設定工程S21は、プレス成形品の仮のプレス成形条件を設定する工程である。
仮プレス成形条件設定工程S21において設定される仮のプレス成形条件として、例えば、鋼板を曲げ加工した曲げ部を有するプレス成形品を対象とする場合、曲げ部の曲げR(パンチ肩半径)が挙げられる。この他に、パンチとダイとのクリアランス、鋼板の板厚などが挙げられる。また、ドローベンド方式(引張曲げ・曲げ伸ばし)の場合、さらに、ダイ肩半径、側壁部のクリアランス及びしわ押さえ力等が挙げられる。
遅れ破壊発生有無判定工程S23は、仮プレス成形条件設定工程S21において設定した仮のプレス成形条件に基づいて、前述した本発明に係るプレス成形品の遅れ破壊発生予測方法により遅れ破壊の発生する部位を予測する。さらに、遅れ破壊発生有無判定工程S23は、遅れ破壊の発生する部位の予測結果に基づいて、プレス成形品における遅れ破壊発生の有無を判定する。
具体的には、遅れ破壊発生部位予測工程S7においては、プレス成形品の各CAE解析要素について遅れ破壊が発生するか否かを判定する。そして、遅れ破壊が発生すると判定されたCAE解析要素が有る場合、プレス成形品において遅れ破壊の発生が有ると判定する(S23a)。これに対し、遅れ破壊が発生すると判定されたCAE解析要素が無い場合、プレス成形品において遅れ破壊の発生が無いと判定する(S23a)。
仮プレス成形条件変更工程S25は、遅れ破壊発生有無判定工程S23においてプレス成形品に遅れ破壊が発生すると判定された場合、仮のプレス成形条件を変更する工程である。
仮のプレス成形条件の変更は、遅れ破壊発生部位予測工程S7においてプレス成形品に遅れ破壊が発生すると予測された部位の応力とひずみが緩和されるようにすればよく、例えば、曲げ加工した曲げ部の曲げRを大きくするとよい。
繰り返し工程S27は、変更した仮のプレス成形条件の下で、遅れ破壊発生有無判定工程S23と、仮プレス成形条件変更工程S25と、を繰り返し実行する。この繰り返しは、遅れ破壊発生有無判定工程S23において遅れ破壊の発生無しと判定されるまで実行する。そのため、仮のプレス成形条件を一回変更したのみでは遅れ破壊発生無しと判定されない場合には、仮プレス成形条件変更工程S25についても繰り返すことになる。
プレス成形条件決定工程S29は、遅れ破壊発生有無判定工程S23において遅れ破壊発生無しと判定された場合、その場合の仮のプレス成形条件をプレス成形品のプレス成形条件として決定する工程である。
プレス成形工程S31は、プレス成形条件決定工程S29において決定したプレス成形条件で高張力鋼板をプレス成形品にプレス成形する工程である。
プレス成形品21は、高張力鋼板である1470MPa級冷延鋼板(板厚1.2mm)をプレス成形したものであり、曲げ部23と、曲げ部23の両端から延在する片部25と、を有するものであり、曲げ部23の曲率半径は5mmとした。
一方、曲げ部23のB部においては、応力が980MPaであったので、B部における遅れ破壊判定条件としては、図13(b)に示すσ=980MPaのときの相当塑性ひずみと水素濃度の関係を用いた。
しかしながら、水素拡散解析後の水素濃度(図中の★A)は、割れ判定条件の水素濃度よりも高いため、割れは発生すると判定された。
しかしながら、水素拡散解析後の水素濃度(図中の☆B)は、割れ判定条件の水素濃度よりも低いため、割れは発生しないと判定された。
しかしながら、水素拡散解析後の水素濃度(図中の★A)は、割れ判定条件の水素濃度よりも高いため、割れは発生すると判定された。
しかしながら、水素拡散解析後の水素濃度(図中の☆B)は、割れ判定条件の水素濃度よりも低いため、割れは発生しないと判定された。
設定した仮のプレス成形条件でプレス成形したプレス成形品21の曲げ部23のA部(図13(a)参照)における応力は1120MPa(曲げR=5mm)から1020MPa(曲げR=7mm)に低下した。また、曲げ部23のA部における相当塑性ひずみは0.023(曲げR=5mm)から0.010(曲げR=7mm)に低下した。
そして、(ケース1)及び(ケース2)のそれぞれについて、プレス成形品21の各CAE解析要素について算出した応力と水素濃度とに基づいて水素拡散解析を行うことにより、水素拡散後の水素濃度分布を算出した。
図15に示すように、曲げ部23の曲げRを5mmから7mmに変更したことにより、遅れ破壊判定条件が緩和され、さらに水素拡散解析後の水素濃度も低下した。この結果、曲げ部23の曲げRが7mmにおける水素拡散解析後の水素濃度(図15中の★)は、(ケース1)及び(ケース2)のいずれにおいても、曲げRが7mmの遅れ破壊判定条件(σ=1020MPa)の水素濃度よりも低くなり、遅れ破壊が発生しないと予測された。
そこで、曲げ部23の曲げRを7mmに変更した仮のプレス成形条件をプレス成形条件として決定した。
さらに、決定したプレス成形条件でプレス成形品21をプレス成形し、遅れ破壊試験を実施したところ、遅れ破壊は発生しなかった。
3 応力分布及びひずみ分布算出部
5 水素濃度分布設定部
7 水素拡散解析部
9 遅れ破壊発生部位予測部
11 引張試験片
13 平行部
15 R部
21 プレス成形品
23 曲げ部
25 片部
Claims (12)
- 高張力鋼板のプレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するプレス成形品の遅れ破壊予測方法であって、
前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する応力分布及びひずみ分布算出工程と、
前記高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する水素濃度分布設定工程と、
前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した応力分布と、前記水素濃度分布設定工程において設定した水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する水素拡散解析工程と、
予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布、前記水素拡散解析工程において算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する遅れ破壊発生部位予測工程と、
を含む、プレス成形品の遅れ破壊予測方法。 - 前記応力分布及びひずみ分布算出工程において、前記ひずみ分布として相当塑性ひずみ分布を算出し、
前記水素濃度分布設定工程において、相当塑性ひずみと水素濃度の関係式を予め取得し、該取得した相当塑性ひずみ分布と水素濃度の関係式に基づいて、前記相当塑性ひずみ分布に対応する水素濃度分布を設定する、
請求項1に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測方法。 - 前記水素濃度分布設定工程において、前記高張力鋼板における静水圧応力と水素濃度の関係式を予め取得し、前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品の応力分布より静水圧応力分布を算出し、前記静水圧応力と水素濃度の関係式に基づいて前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を算出し、該算出した前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を前記応力分布及びひずみ分布算出工程において算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布に加算する、請求項1又は2に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測方法。
- 前記高張力鋼板は引張強度が1GPa以上である、請求項1又は2に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測方法。
- 前記高張力鋼板は引張強度が1GPa以上である、請求項3に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測方法。
- 高張力鋼板のプレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するプレス成形品の遅れ破壊予測装置であって、
前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する応力分布及びひずみ分布算出部と、
前記高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する水素濃度分布設定部と、
前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した応力分布と、前記水素濃度分布設定部により設定した水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する水素拡散解析部と、
予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布、前記水素拡散解析部により算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する遅れ破壊発生部位予測部と、
を備える、プレス成形品の遅れ破壊予測装置。 - 前記応力分布及びひずみ分布算出部は、前記ひずみ分布として相当塑性ひずみ分布を算出し、
前記水素濃度分布設定部は、相当塑性ひずみと水素濃度の関係式を予め取得し、該取得した相当塑性ひずみ分布と水素濃度の関係式に基づいて、前記相当塑性ひずみ分布に対応する水素濃度分布を設定する、
請求項6に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測装置。 - 前記水素濃度分布設定部は、前記高張力鋼板における静水圧応力と水素濃度の関係式を予め取得し、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布より静水圧応力分布を算出し、前記静水圧応力と水素濃度の関係式に基づいて前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を算出し、該算出した前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布に加算する、請求項6又は7に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測装置。
- 高張力鋼板のプレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測するプレス成形品の遅れ破壊予測プログラムであって、
コンピュータを、
前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布を算出する応力分布及びひずみ分布算出部と、
前記高張力鋼板について予め取得したひずみと水素濃度の関係式に基づいて、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布を設定する水素濃度分布設定部と、
前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した応力分布と、前記水素濃度分布設定部により設定した水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品について水素拡散解析を行い、水素拡散後の水素濃度分布を算出する水素拡散解析部と、
予め取得した応力、ひずみ及び水素濃度に基づく遅れ破壊判定条件と、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布及びひずみ分布、前記水素拡散解析部により算出した水素拡散後の水素濃度分布と、に基づいて、前記プレス成形品における遅れ破壊の発生する部位を予測する遅れ破壊発生部位予測部と、
として機能させる、プレス成形品の遅れ破壊予測プログラム。 - 前記応力分布及びひずみ分布算出部は、前記ひずみ分布として相当塑性ひずみ分布を算出し、
前記水素濃度分布設定部は、相当塑性ひずみと水素濃度の関係式を予め取得し、該取得した相当塑性ひずみ分布と水素濃度の関係式に基づいて、前記相当塑性ひずみ分布に対応する水素濃度分布を設定する、
請求項9に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測プログラム。 - 前記水素濃度分布設定部は、前記高張力鋼板における静水圧応力と水素濃度の関係式を予め取得し、前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品の応力分布より静水圧応力分布を算出し、前記静水圧応力と水素濃度の関係式に基づいて前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を算出し、該算出した前記静水圧応力分布に対応した水素濃度分布を前記応力分布及びひずみ分布算出部により算出した前記プレス成形品のひずみ分布に対応した水素濃度分布に加算する、請求項9又は10に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測プログラム。
- 高張力鋼板を用いたプレス成形品における遅れ破壊の発生を抑制して前記プレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の仮のプレス成形条件を設定する仮プレス成形条件設定工程と、
該仮のプレス成形条件に基づいて、請求項1に記載のプレス成形品の遅れ破壊予測方法により遅れ破壊の発生する部位を予測し、該予測した結果に基づいて前記プレス成形品における遅れ破壊発生の有無を判定する遅れ破壊発生有無判定工程と、
該遅れ破壊発生有無判定工程において前記プレス成形品に遅れ破壊が発生すると判定された場合、前記仮のプレス成形条件を変更する仮プレス成形条件変更工程と、
前記遅れ破壊発生有無判定工程において前記プレス成形品に遅れ破壊が発生無しと判定されるまで、前記仮プレス成形条件変更工程と、前記遅れ破壊発生有無判定工程と、を繰り返し実行する繰り返し工程と、
前記遅れ破壊発生有無判定工程において前記プレス成形品に遅れ破壊が発生無しと判定された場合、その場合の前記仮のプレス成形条件をプレス成形条件として決定するプレス成形条件決定工程と、
該決定したプレス成形条件で前記高張力鋼板を前記プレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
を含む、プレス成形品の製造方法。
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