JP7327353B2 - 鋼中水素分析用サンプルの作製方法、鋼中水素分析方法、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法及び鋼板の検査成績証明方法 - Google Patents
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また、この鋼板表面へのひずみの付与は、めっき層の剥離の前後における硬さの変化により確認できることを知見した。
[1]めっき鋼板の表面を押圧しながら、前記めっき鋼板からめっき層を剥離して鋼中水素分析用サンプルとする鋼中水素分析用サンプルの作製方法であり、
以下の式(1)を満たすことを特徴とする鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
1.05≦鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ≦2.00 ・・・式(1)
[2]前記めっき層を剥離する際、前記めっき鋼板の表面を冷却する抜熱処理を施すことを特徴とする前記[1]に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
[3]前記[1]又は[2]に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を分析することを特徴とする鋼中水素分析方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を測定し、当該拡散性水素量が所定の基準値以下であるか否かを判定することで鋼板の拡散性水素による脆性劣化を予測することを特徴とする鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法。
[5]前記[4]に記載の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法によって予測された拡散性水素による脆性劣化特性を鋼板の検査成績証として用いることを特徴とする鋼板の検査成績証明方法。
本発明でいう鋼中水素分析用サンプルとは、めっき鋼板からめっき層が剥離した状態の鋼板のことである。本発明では、この鋼中水素分析用サンプルを用いて、鋼中の拡散性水素量の測定を行う。
1.05≦鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ≦2.00 ・・・式(1)
本発明者らは鋭意検討の結果、めっき鋼板10からめっき層11が剥離することで得られる鋼中水素分析用サンプル20表面のビッカース硬さを所定の範囲にすることで、鋼板内への拡散性水素の侵入を防ぎ、かつ鋼板外への拡散性水素の放出を抑制できることを知見した。
より具体的には、鋼板内への拡散性水素の侵入を防ぎ、かつ鋼板外への拡散性水素の放出を抑制するために、めっき鋼板10の地鉄表面のビッカース硬さに対する鋼中水素分析用サンプル20のビッカース硬さの割合(鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ)を1.05以上2.00以下とすればよいことを、本発明者らは知見した。
上記式(1)を満たすように、めっき鋼板10の表面を押圧しながら、めっき層11を剥離することで、めっき層11が剥離した鋼板表層を中心にひずみが付与され、これにより、鋼板表面から鋼板外への拡散性水素の放出が抑制され、また、鋼板内への拡散性水素の侵入も抑制されると考えられる。
なお、本発明で、ひずみが付与された状態とは、鋼板表面側から内部に向けて圧力が付与されることで、鋼板の形状が変形した状態を指す。
また、鋼板表層とはめっき層11が剥離した鋼板地鉄表面から厚み方向で100μmまでの層を指し、鋼板表層は、鋼板内部、すなわち、板厚中央(板厚3/8~5/8程度)付近に比べてひずみ量が多い。
また、上記の押圧条件の情報としては、めっき鋼板10の表面への押圧力のみならず、めっき鋼板10の表面を押圧し、めっき層11を剥離する押圧剥離部のめっき鋼板表面10上の走行速度の情報を含んでいてもよい。
また、上記の押圧条件としては、用いる押圧剥離部の情報を含んでいてもよい。
押圧剥離部の具体例としては、フライスや旋盤といった機器、ハンドベルダー、ハンドルータ、グラインダ(精密グラインダ)といった電動工具等が挙げられる。グラインダには先端(研削部)に砥石を装着して、この砥石をめっき鋼板10と接触させて、めっき層11を剥離してもよい。
また、めっき鋼板10のサイズが小さい場合やめっき層11の厚みが小さい場合等において、少しずつめっき層11を剥離するように、切削量の少ない小型工具や研磨紙を押圧剥離部としてもよい。
また、上記の押圧条件の情報としては、めっき鋼板10の厚みやめっき層11の厚みに関する情報等を含んでいてもよい。
このとき、拡散性水素量の測定を行うサンプルのサイズや鋼板における水素の拡散速度も鑑み、厚みが数μm~数十μmオーダであるめっき層を剥離する場合、0.5mm3/min以上の速さでめっき層11を除去することが好ましい。
一方、高速(回転)でめっき層11を剥離しようとすると、サンプルが局所的及び/又は瞬間的に、高温にさらされる可能性があるため、300mm3/min以下とすることが好ましい。
また、抜熱処理を施す場合、得られるサンプル20を用いてより精度が高い分析を行えるようにするために、めっき鋼板10の表面温度は、60℃未満に保持することが好ましく、50℃未満に保持することがより好ましい。
図3は、鋼中水素分析用サンプルを作製する方法の一例を説明するための概略図であり、めっき鋼板10の表面を押圧し、めっき層11を剥離する押圧剥離部として、グラインダ30を用いる場合の例を説明するための図である。
このとき、負荷する荷重(押圧力)及び研削部31の移動速度については、データベースが管理する情報(めっき鋼板10の種類の情報、グラインダ30の情報、めっき鋼板10の厚みの情報、めっき層11の厚みの情報、所望の「鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ」の値の情報)から必要な条件を把握することができる。これにより、式(1)を満たす鋼中水素分析用サンプル20が得られる。
本発明の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法は、本発明の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を測定し、当該拡散性水素量が所定の基準値以下であるか否かを判定することで鋼板の拡散性水素による脆性劣化を予測する方法である。本発明の鋼中水素分析用サンプルの作製方法では、めっき鋼板からめっき層を剥離する際に、鋼板への拡散性水素の侵入がなく、かつ鋼板からの拡散性水素の放出が抑えられている。したがって、本発明の方法で得た鋼中水素分析用サンプルを用いれば、鋼中の拡散性水素量を高精度で測定できるので、鋼板の拡散性水素による脆性劣化を高精度で予測できる。
鋼中の拡散性水素量は公知の方法を用いて測定し、分析することができる。例えば、下記の方法で測定できる。
本発明でいう上記の所定の基準値とは、拡散性水素による脆性劣化が発生する鋼中の拡散性水素量のことであり、予め鋼板中の拡散性水素量と、拡散性水素による脆性劣化の関係を調べておき、拡散性水素による脆性劣化が発生する鋼中の拡散性水素量を設定した値である。当該所定の基準値は、鋼板の強度や、めっきの種類、めっき鋼板の用途によって変更してもよい。
本発明の鋼板の検査成績証明方法は、上記鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法によって予測された拡散性水素による脆性劣化特性を鋼板の検査成績証として用いる方法である。上述したとおり、本発明の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法では、拡散性水素による脆性劣化が発生するか否かを高精度で予測できるので、これによって予測された拡散性水素による脆性劣化特性の検査成績証は、信頼性が高いものである。
[実施例1]
1.めっき鋼板の準備
以下の表1のNo.1~8のサンプルを得るためのめっき鋼板として、下記の引張強度が1100MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板を準備した。なお、鋼板の両面にめっき処理が施されている。
めっき層の種類:合金化溶融亜鉛めっき
片面あたりのめっき付着量:45g/m2
鋼板サイズ:長手方向長さ30mm×短手方向長さ5mm×板厚1.4mm
No.1~5、8として、図3に示したような形状を有し、研削部の表面材質がセラミック製であるグラインダ(研削部の鋼板表面との接触面積は5mm2である)を用いて、表1に示す押圧条件で、めっき鋼板の表面を押圧しながら、めっき鋼板からめっき層を剥離してサンプルを得た。
ビッカース硬さの測定方法については、JIS Z 2244に基づいてビッカース硬さを測定した。荷重は50gとし、測定位置は、めっき鋼板のめっき処理がなされる前の地鉄表面の10点測定した中で最も高い値を、めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さとした。このとき、めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さは、300HVであった。
各サンプルについて、同様にめっき層を剥離させた鋼中水素分析用サンプルを石英管中に入れ、石英管中をArで置換した後、200℃/hrで昇温し、400℃までに発生した水素をガスクロマトグラフにより測定した。ここで、室温(25℃)から250℃未満の温度域で検出された水素量の累積値を鋼中の拡散性水素量とした。
実施例1で拡散性水素量を測定した上記のサンプル(No.1~6)を用いて、拡散性水素による脆性劣化の評価を行った。上記のサンプルの拡散性水素量が基準値以下であるか否かを判定するために、以下の方法で評価を行った。
11 めっき層
12 鋼板
20 鋼中水素分析用サンプル
30 グラインダ
31 研削部
40 金属製マグネット台
Claims (7)
- めっき鋼板の表面を押圧しながら、前記めっき鋼板からめっき層を剥離して鋼中水素分析用サンプルとする鋼中水素分析用サンプルの作製方法であり、
以下の式(1)を満たし、
前記めっき層の剥離速度を0.5~300mm 3 /minとすることを特徴とする鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
1.05≦鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ≦2.00 ・・・式(1)
ここで、式(1)において、めっき鋼板の地鉄表面は、めっき鋼板のめっき処理がなされる前の地鉄表面である。 - 前記めっき層を剥離する際、前記めっき鋼板の表面を冷却する抜熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
- 前記めっき鋼板の表面を0.3~2.5MPaの押圧力で押圧しながら、前記めっき層を剥離することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
- 前記めっき鋼板の表面上において、押圧剥離部を10~25mm/sec.の移動速度で移動させながら押圧することで、前記めっき層を剥離することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
- 請求項1~4のいずれかに記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を分析することを特徴とする鋼中水素分析方法。
- 請求項1~4のいずれかに記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を測定し、当該拡散性水素量が所定の基準値以下であるか否かを判定することで鋼板の拡散性水素による脆性劣化を予測することを特徴とする鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法。
- 請求項6に記載の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法によって予測された拡散性水素による脆性劣化特性を鋼板の検査成績証として用いることを特徴とする鋼板の検査成績証明方法。
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