JP7327353B2 - 鋼中水素分析用サンプルの作製方法、鋼中水素分析方法、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法及び鋼板の検査成績証明方法 - Google Patents

鋼中水素分析用サンプルの作製方法、鋼中水素分析方法、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法及び鋼板の検査成績証明方法 Download PDF

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Description

本発明は、めっき鋼板の地鉄中に存在する拡散性水素の量を精度良く測定するためのサンプルの作製方法に関するものであり、鋼中水素分析用サンプルの作製方法、鋼中水素分析用サンプルを用いた鋼中水素分析方法、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法及び鋼板の検査成績証明方法に関する。
めっき鋼板、特に防錆機能を有する亜鉛めっき鋼板中の水素濃度を測定するためには、水素濃度の測定前に、鋼板表面に被覆されている亜鉛めっきを剥離除去する必要がある。
従来、亜鉛めっき鋼板から亜鉛めっきを剥離する方法としては、塩酸等の酸液に浸漬する化学的な方法が挙げられる。
また、その他のめっきの剥離方法としては、例えば、めっき層を電解剥離する方法や(特許文献1参照。)、めっき層をレーザ光によって剥離する方法(特許文献2参照)が挙げられる。
特開昭60-52599号公報 特開2007-039716号公報
鋼板中の水素、特に室温でも鋼中で拡散できる水素(以下、拡散性水素とも記す。)は、めっき層が形成されていない状態の鋼板中から徐々に放出されてしまう。また、鋼板中に水素が侵入してしまうこともある。そこで、鋼板中の拡散性水素量を高精度で測定するために、鋼板への拡散性水素の侵入がなく、かつ鋼板からの拡散性水素の放出を抑制した鋼中水素分析用サンプルの作製が求められている。
しかしながら、塩酸等の酸液に浸漬する化学的な方法や、特許文献1にある電解剥離によってめっき層を剥離する場合、めっき剥離中に、鋼板中に拡散性水素が侵入してしまうという課題がある。そのため、鋼板中に存在する拡散性水素の量を精度良く測定することは困難である。
また、特許文献2に記載のめっき層をレーザ光によって剥離する方法では、レーザ光でめっき層を溶融させた際に、鋼板も高温に加熱されるため、鋼板中に存在していた水素の放出が促進されてしまう。また、鋼板が加熱されることで、鋼板内部のミクロ状態が変化して分析で得られる水素放出プロファイルが変化する可能性がある。このような原因により、鋼中の水素量、特に拡散性水素量を精度良く測定できないという課題がある。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鋼中の拡散性水素量を精度良く測定することを可能にする鋼中水素分析用サンプルの作製方法を提供することである。また、当該鋼中水素分析用サンプルを用いた鋼中水素分析方法、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法及び鋼板の検査成績証明方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。そして、めっき層が剥離した鋼板の表面にひずみが付与されるように、特定の条件でめっき鋼板の表面を押圧しながらめっき鋼板からめっき層を剥離する方法に着目した。そして、これにより得られる鋼中水素分析用サンプルを用いれば、鋼中の拡散性水素量を精度良く測定できることを見出し、本発明に至った。
詳細な機構は明らかではないが、めっき層が剥離した鋼板表面にひずみが付与されることで、鋼中の拡散性水素量の測定が行われるまでの間、拡散性水素の鋼板表面からの放出が抑制され、また、鋼板内への拡散性水素の侵入も抑制されると考えられる。
また、この鋼板表面へのひずみの付与は、めっき層の剥離の前後における硬さの変化により確認できることを知見した。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下の通りである。
[1]めっき鋼板の表面を押圧しながら、前記めっき鋼板からめっき層を剥離して鋼中水素分析用サンプルとする鋼中水素分析用サンプルの作製方法であり、
以下の式(1)を満たすことを特徴とする鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
1.05≦鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ≦2.00 ・・・式(1)
[2]前記めっき層を剥離する際、前記めっき鋼板の表面を冷却する抜熱処理を施すことを特徴とする前記[1]に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
[3]前記[1]又は[2]に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を分析することを特徴とする鋼中水素分析方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を測定し、当該拡散性水素量が所定の基準値以下であるか否かを判定することで鋼板の拡散性水素による脆性劣化を予測することを特徴とする鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法。
[5]前記[4]に記載の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法によって予測された拡散性水素による脆性劣化特性を鋼板の検査成績証として用いることを特徴とする鋼板の検査成績証明方法。
本発明によれば、鋼中の拡散性水素量を精度良く測定することを可能にする鋼中水素分析用サンプルの作製方法を提供できる。また、当該鋼中水素分析用サンプルを用いた鋼中水素分析方法、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法及び鋼板の検査成績証明方法を提供できる。
本発明では、めっき層が剥離した鋼板表面にひずみが付与されるため、鋼板への拡散性水素の侵入が抑えられると共に、鋼板からの拡散性水素の放出が抑えられる。従って、本発明の方法で得た鋼中水素分析用サンプルを用いれば、鋼中の拡散性水素量を高精度で測定できる。また、高精度で鋼中の拡散性水素量を測定できるため、鋼板の拡散性水素による脆性劣化を高精度で予測できる。
めっき鋼板を示す斜視図である。 鋼中水素分析用サンプルを示す斜視図である。 鋼中水素分析用サンプルを作製する方法の一例を説明するための概略図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
[鋼中水素分析用サンプルの作製方法]
本発明でいう鋼中水素分析用サンプルとは、めっき鋼板からめっき層が剥離した状態の鋼板のことである。本発明では、この鋼中水素分析用サンプルを用いて、鋼中の拡散性水素量の測定を行う。
図1に示すように、めっき鋼板10は、鋼板12の表面及び裏面に、それぞれめっき層11を備える。図2は、鋼中水素分析用サンプル20を示しており、鋼中水素分析用サンプル20はめっき鋼板10からめっき層11が剥離した状態の鋼板(図1の鋼板12に相当)である。
めっき鋼板10におけるめっき層11の種類としては、例えば、溶融めっき層、電気めっき層が挙げられる。これらのめっき層は、特に限定されず、それぞれ、従来公知のめっき層を用いることができる。電気めっき層は、例えば、電気亜鉛めっき、電気Zn-Ni合金めっき等が挙げられる。溶融めっき層は、例えば、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn-Al合金めっき、溶融Zn-Al-Mg合金めっき、溶融Zn-Al-Mg-Si合金めっき等が挙げられる。また、めっき後に公知の化成処理を施して、耐食性をさらに高めたものも本発明のめっき層に含まれる。
本発明に係るめっき鋼板10の鋼種は特に限定されず、普通鋼でもよく、特殊鋼でもよい。また、本発明に係るめっき鋼板10は、引張強度が980MPa以上であってよい。
本発明の鋼中水素分析用サンプル20の作製方法は、めっき鋼板の表面を押圧しながら、めっき鋼板からめっき層を剥離して鋼中水素分析用サンプルとする鋼中水素分析用サンプルの作製方法であり、以下の式(1)を満たす。
1.05≦鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ≦2.00 ・・・式(1)
本発明者らは鋭意検討の結果、めっき鋼板10からめっき層11が剥離することで得られる鋼中水素分析用サンプル20表面のビッカース硬さを所定の範囲にすることで、鋼板内への拡散性水素の侵入を防ぎ、かつ鋼板外への拡散性水素の放出を抑制できることを知見した。
より具体的には、鋼板内への拡散性水素の侵入を防ぎ、かつ鋼板外への拡散性水素の放出を抑制するために、めっき鋼板10の地鉄表面のビッカース硬さに対する鋼中水素分析用サンプル20のビッカース硬さの割合(鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ)を1.05以上2.00以下とすればよいことを、本発明者らは知見した。
上記式(1)を満たすように、めっき鋼板10の表面を押圧しながら、めっき層11を剥離することで、めっき層11が剥離した鋼板表層を中心にひずみが付与され、これにより、鋼板表面から鋼板外への拡散性水素の放出が抑制され、また、鋼板内への拡散性水素の侵入も抑制されると考えられる。
なお、本発明で、ひずみが付与された状態とは、鋼板表面側から内部に向けて圧力が付与されることで、鋼板の形状が変形した状態を指す。
また、鋼板表層とはめっき層11が剥離した鋼板地鉄表面から厚み方向で100μmまでの層を指し、鋼板表層は、鋼板内部、すなわち、板厚中央(板厚3/8~5/8程度)付近に比べてひずみ量が多い。
上記の割合(鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ)が1.05未満であると、ひずみの付与が不十分となり、鋼板内への拡散性水素の侵入を防ぐ効果、鋼板外への拡散性水素の放出を抑制する効果が十分に得られない。すなわち、得られたサンプルを用いても、鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測の精度が確保できない。一方、上記の割合が2.00超えであると、鋼板に過度の圧力を付与することになり、得られるサンプルが破損したり過度に変形したりする場合がある。よって、本発明では、鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さを1.05以上2.00以下とする。好ましくは、1.08以上1.90以下であり、より好ましくは、1.10以上1.80以下である。
ビッカース硬さの測定方法については、通常公知の測定方法として、JIS Z 2244に基づいてビッカース硬さを測定することができる。荷重は50gとし、めっき鋼板10のめっき処理がなされる前の地鉄表面の任意の位置を測定位置とする。そして、10点測定した中で最も高い値を、めっき鋼板10の地鉄表面のビッカース硬さとすることができる。また、めっき層11が剥離することで得られた鋼中水素分析用サンプル20の表面において、上記のめっき鋼板10の地鉄表面のビッカース硬さを測定した位置と同じ位置で測定したビッカース硬さを、鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さとする。
特に限定されないが、本発明のめっき鋼板10の地鉄表面のビッカース硬さは、100HV~500HVであることが好ましい。
また、上記の「鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ」の調整方法については、特に限定されないが、めっき鋼板10に付与する押圧力(荷重)等に基づいて調整することができる。
具体的に、本発明においては、データベースに、任意の「鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ」を得るために必要な押圧条件の情報が、鋼板の種類毎に記憶されている。そして、この情報に基づいて、所望の「鋼中水素分析用サンプルの表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ」を得るために必要となる押圧条件を把握し、めっき鋼板10の表面を押圧することができる。これにより、めっき鋼板10の地鉄表面のビッカース硬さに対する鋼中水素分析用サンプル20の表面のビッカース硬さを所望の値に調整することが可能になる。
上記の押圧条件の情報としては、例えば、めっき鋼板10の表面への押圧力(荷重)の情報が含まれる。
また、上記の押圧条件の情報としては、めっき鋼板10の表面への押圧力のみならず、めっき鋼板10の表面を押圧し、めっき層11を剥離する押圧剥離部のめっき鋼板表面10上の走行速度の情報を含んでいてもよい。
また、上記の押圧条件としては、用いる押圧剥離部の情報を含んでいてもよい。
押圧剥離部の具体例としては、フライスや旋盤といった機器、ハンドベルダー、ハンドルータ、グラインダ(精密グラインダ)といった電動工具等が挙げられる。グラインダには先端(研削部)に砥石を装着して、この砥石をめっき鋼板10と接触させて、めっき層11を剥離してもよい。
また、めっき鋼板10のサイズが小さい場合やめっき層11の厚みが小さい場合等において、少しずつめっき層11を剥離するように、切削量の少ない小型工具や研磨紙を押圧剥離部としてもよい。
また、上記の押圧条件の情報としては、めっき鋼板10の厚みやめっき層11の厚みに関する情報等を含んでいてもよい。
また、めっき層11の剥離を行う時間に関して、めっき層11の剥離に要する時間が長くなると、鋼板内の拡散性水素が放出されやすくなる。また、大気中等でめっき層11を剥離する場合、めっき層11が剥離した鋼板表面が長時間大気にさらされ、鋼板に錆が発生してしまうことで鋼板内に水素が侵入しやすくなる。そのため、できるだけ迅速にめっき層11の剥離を完了することが好ましい。
このとき、拡散性水素量の測定を行うサンプルのサイズや鋼板における水素の拡散速度も鑑み、厚みが数μm~数十μmオーダであるめっき層を剥離する場合、0.5mm/min以上の速さでめっき層11を除去することが好ましい。
一方、高速(回転)でめっき層11を剥離しようとすると、サンプルが局所的及び/又は瞬間的に、高温にさらされる可能性があるため、300mm/min以下とすることが好ましい。
また、本発明では、めっき層11を剥離する際、めっき鋼板10の表面を冷却する抜熱処理を施してもよい。めっき層11を剥離する際、鋼板が高温になる程、鋼板中の拡散性水素は放出されやすくなるため、鋼板内には熱をなるべく残存させないようにすることが好ましい。そのため、めっき層11を剥離する際、めっき鋼板10の表面を冷却する抜熱処理を施すことが好ましい。抜熱処理の具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、めっき層11を剥離する際に、めっき鋼板10を金属製マグネット台に固定することが挙げられる。これにより、十分な抜熱効果が得られる。また、液体窒素等の冷媒にめっき鋼板10を浸漬させながらめっき層11を剥離してもよい。
また、抜熱処理を施す場合、得られるサンプル20を用いてより精度が高い分析を行えるようにするために、めっき鋼板10の表面温度は、60℃未満に保持することが好ましく、50℃未満に保持することがより好ましい。
ここで、図3を参照しながら、本発明の一例として、グラインダを用い、めっき鋼板10からめっき層11を剥離して鋼中水素分析用サンプル20を得る方法を説明する。
図3は、鋼中水素分析用サンプルを作製する方法の一例を説明するための概略図であり、めっき鋼板10の表面を押圧し、めっき層11を剥離する押圧剥離部として、グラインダ30を用いる場合の例を説明するための図である。
図3に示すように、金属製マグネット台40上に設置されためっき鋼板10に対して、グラインダ30先端に形成された研削部31を接触させて荷重を負荷する。そして、研削部31をめっき鋼板10の表面上を移動させながら、めっき層を剥離する。図3に示すように、めっき鋼板10の表面上で研削部31を回転移動させながらめっき層を剥離してもよい。
このとき、負荷する荷重(押圧力)及び研削部31の移動速度については、データベースが管理する情報(めっき鋼板10の種類の情報、グラインダ30の情報、めっき鋼板10の厚みの情報、めっき層11の厚みの情報、所望の「鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ」の値の情報)から必要な条件を把握することができる。これにより、式(1)を満たす鋼中水素分析用サンプル20が得られる。
また、めっき鋼板10は、金属製マグネット台40上に設置されているため、鋼中水素分析用サンプル20の作製において、抜熱処理が施され、サンプル20からの拡散性水素の放出及びサンプル20への拡散性水素の侵入をより精度良く防止できる。なお、金属製マグネット台40は、電磁石式マグネット台としてもよい。
また、めっき層11の剥離及びその除去が完了したか否かについては、鋼中水素分析用サンプル20を取り出して、サンプルの両面を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析し、めっきの主成分である亜鉛(Zn)の元素分析(マッピング)を行うことで確認することができる。本発明では、剥離前のめっき鋼板の亜鉛(Zn)の量を100とした場合に、表面積比率で、亜鉛量が95.0%以上除去できたサンプルを、めっき層11の剥離が完了した鋼中水素分析用サンプル20とする。各種押圧条件(鋼板の種類、押圧力、押圧剥離部の移動速度等の条件)毎に、めっき層11の剥離が完了するために必要な時間をデータベース上に管理することで、予めめっき剥離に必要な作業時間を把握しておくことができる。
[鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法]
本発明の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法は、本発明の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を測定し、当該拡散性水素量が所定の基準値以下であるか否かを判定することで鋼板の拡散性水素による脆性劣化を予測する方法である。本発明の鋼中水素分析用サンプルの作製方法では、めっき鋼板からめっき層を剥離する際に、鋼板への拡散性水素の侵入がなく、かつ鋼板からの拡散性水素の放出が抑えられている。したがって、本発明の方法で得た鋼中水素分析用サンプルを用いれば、鋼中の拡散性水素量を高精度で測定できるので、鋼板の拡散性水素による脆性劣化を高精度で予測できる。
[鋼中の拡散性水素量の分析方法]
鋼中の拡散性水素量は公知の方法を用いて測定し、分析することができる。例えば、下記の方法で測定できる。
めっき鋼板からめっき層を剥離させた鋼中水素分析用サンプルを石英管中に入れ、石英管中をArで置換した後、200℃/hrで昇温し、400℃までに発生した水素をガスクロマトグラフにより測定する。ここで、室温(25℃)から250℃未満の温度域で検出された水素量の累積値を鋼中の拡散性水素量とする。
(所定の基準値の決定方法)
本発明でいう上記の所定の基準値とは、拡散性水素による脆性劣化が発生する鋼中の拡散性水素量のことであり、予め鋼板中の拡散性水素量と、拡散性水素による脆性劣化の関係を調べておき、拡散性水素による脆性劣化が発生する鋼中の拡散性水素量を設定した値である。当該所定の基準値は、鋼板の強度や、めっきの種類、めっき鋼板の用途によって変更してもよい。
上記の所定の基準値の決定方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法により決定することができる。
30×100mmの鋼板の両端に板厚2mmの板をスペーサとして挟み、スペーサ間の中央をスポット溶接にて接合して試験片を作製する。この際、スポット溶接は、インバータ直流抵抗スポット溶接機を用い、電極はクロム銅製の先端径6mmのドーム型を用いる。加圧力は380kgf、通電時間は16サイクル/50Hz、保持時間は5サイクル/50Hzとする。溶接電流値は、それぞれの鋼板強度に応じたナゲット径を形成する条件とする。例えば、引張強度が1250MPa未満では3.8mm、引張強度が1250MPa以上1400MPa未満では4.8mm、引張強度が1400MPa以上では6.0mmのナゲット径とする。両端のスペーサ間隔は40mmとし、鋼板とスペーサは、予め溶接により固縛する。溶接後24時間放置したのち、スペーサ部を切り落として、溶接ナゲットの断面観察をおこない、亀裂の有無を評価する。この耐水素脆性評価を、鋼板中の拡散性水素量を変化させて実施し、亀裂なしとなる鋼板中の拡散性水素量の臨界値を、上記所定の基準値とする。
[検査成績証明方法]
本発明の鋼板の検査成績証明方法は、上記鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法によって予測された拡散性水素による脆性劣化特性を鋼板の検査成績証として用いる方法である。上述したとおり、本発明の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法では、拡散性水素による脆性劣化が発生するか否かを高精度で予測できるので、これによって予測された拡散性水素による脆性劣化特性の検査成績証は、信頼性が高いものである。
本発明で予測された拡散性水素による脆性劣化特性を検査成績証に記載することで、めっき鋼板毎に、拡散性水素による脆性劣化をより正確に把握できる。
本発明について、実施例を参照しながら具体的に説明する。
[実施例1]
1.めっき鋼板の準備
以下の表1のNo.1~8のサンプルを得るためのめっき鋼板として、下記の引張強度が1100MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板を準備した。なお、鋼板の両面にめっき処理が施されている。
めっき層の種類:合金化溶融亜鉛めっき
片面あたりのめっき付着量:45g/m
鋼板サイズ:長手方向長さ30mm×短手方向長さ5mm×板厚1.4mm
2.鋼中水素分析用サンプルの作製
No.1~5、8として、図3に示したような形状を有し、研削部の表面材質がセラミック製であるグラインダ(研削部の鋼板表面との接触面積は5mmである)を用いて、表1に示す押圧条件で、めっき鋼板の表面を押圧しながら、めっき鋼板からめっき層を剥離してサンプルを得た。
また、No.6としては、耐水研磨紙#220を用いて、表1に示す押圧条件で、めっき鋼板の表面を押圧しながら、めっき鋼板からめっき層を剥離してサンプルを得た。
なお、表中、押圧条件における圧力とは、グラインダ又は耐水研磨紙のめっき鋼板表面への押圧力のことを指し、速度とは、グラインダ又は耐水研磨紙の鋼板表面上の移動速度を指す。
また、No.7として、37質量%塩酸水溶液と純水150mLとで作製した塩酸水溶液中に45秒間浸漬させてめっき層を剥離してサンプルを得た。
めっき層の剥離が完了したか否かは、各サンプルについて、予め同条件で複数のサンプルを作製しておき、めっき層の剥離の処理を開始してから10秒毎に処理を終了して、サンプルの両面を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析し、めっきの主成分である亜鉛(Zn)の元素分析(マッピング)を行った。本発明では、剥離前のめっき鋼板の亜鉛(Zn)の量を100とした場合に、表面積比率で、亜鉛量が95.0%以上除去できたサンプルを、めっき層の剥離が完了した鋼中水素分析用サンプルとした。この分析により、各サンプルについて、めっき層の剥離に必要となる時間を管理し、その時間を処理時間として、上記のめっき層の剥離の処理を行い、サンプルを得た。
3.ビッカース硬さ測定
ビッカース硬さの測定方法については、JIS Z 2244に基づいてビッカース硬さを測定した。荷重は50gとし、測定位置は、めっき鋼板のめっき処理がなされる前の地鉄表面の10点測定した中で最も高い値を、めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さとした。このとき、めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さは、300HVであった。
また、めっき層が剥離して得られた各サンプル表面においても、上記のめっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さを測定した位置と同じ位置で測定したビッカース硬さを、鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さとした。そして、上記のめっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さに対する割合を算出した。
4.鋼中の拡散性水素量の測定
各サンプルについて、同様にめっき層を剥離させた鋼中水素分析用サンプルを石英管中に入れ、石英管中をArで置換した後、200℃/hrで昇温し、400℃までに発生した水素をガスクロマトグラフにより測定した。ここで、室温(25℃)から250℃未満の温度域で検出された水素量の累積値を鋼中の拡散性水素量とした。
Figure 0007327353000001
拡散性水素量について、No.1~6のサンプル間では誤差が±10%の範囲内であり、拡散性水素による脆性劣化を精度良く予測し得ると判断できたため、合格とした。
[実施例2]
実施例1で拡散性水素量を測定した上記のサンプル(No.1~6)を用いて、拡散性水素による脆性劣化の評価を行った。上記のサンプルの拡散性水素量が基準値以下であるか否かを判定するために、以下の方法で評価を行った。
まず、30×100mmの鋼板の両端に板厚2mmの板をスペーサとして挟み、スペーサ間の中央をスポット溶接にて接合して試験片を作製した。この際、スポット溶接は、インバータ直流抵抗スポット溶接機を用い、電極はクロム銅製の先端径6mmのドーム型を用いた。加圧力は380kgf、通電時間は16サイクル/50Hz、保持時間は5サイクル/50Hzとした。溶接電流値は、ナゲット径が3.8mmとなるようにした。両端のスペーサ間隔は40mmとし、鋼板とスペーサは、予め溶接により固縛した。溶接後24時間放置したのち、スペーサ部を切り落として、溶接ナゲットの断面観察をおこない、亀裂の有無を評価した。この耐水素脆性評価を、鋼板中の拡散性水素量を変化させて複数実施し、亀裂なしとなる鋼板中の拡散性水素量の臨界値を0.30質量ppmと判断した。実施例1で用いたサンプル(No.1~6)の拡散性水素量は0.23~0.25質量ppmと計測されたため、上記サンプルは脆性劣化を防止できていると予測できた。
10 めっき鋼板
11 めっき層
12 鋼板
20 鋼中水素分析用サンプル
30 グラインダ
31 研削部
40 金属製マグネット台

Claims (7)

  1. めっき鋼板の表面を押圧しながら、前記めっき鋼板からめっき層を剥離して鋼中水素分析用サンプルとする鋼中水素分析用サンプルの作製方法であり、
    以下の式(1)を満たし、
    前記めっき層の剥離速度を0.5~300mm /minとすることを特徴とする鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
    1.05≦鋼中水素分析用サンプル表面のビッカース硬さ/めっき鋼板の地鉄表面のビッカース硬さ≦2.00 ・・・式(1)
    ここで、式(1)において、めっき鋼板の地鉄表面は、めっき鋼板のめっき処理がなされる前の地鉄表面である。
  2. 前記めっき層を剥離する際、前記めっき鋼板の表面を冷却する抜熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
  3. 前記めっき鋼板の表面を0.3~2.5MPaの押圧力で押圧しながら、前記めっき層を剥離することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
  4. 前記めっき鋼板の表面上において、押圧剥離部を10~25mm/sec.の移動速度で移動させながら押圧することで、前記めっき層を剥離することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法。
  5. 請求項1~4のいずれかに記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を分析することを特徴とする鋼中水素分析方法。
  6. 請求項1~4のいずれかに記載の鋼中水素分析用サンプルの作製方法によって作製した鋼中水素分析用サンプルの鋼中の拡散性水素量を測定し、当該拡散性水素量が所定の基準値以下であるか否かを判定することで鋼板の拡散性水素による脆性劣化を予測することを特徴とする鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法。
  7. 請求項に記載の鋼板の拡散性水素による脆性劣化の予測方法によって予測された拡散性水素による脆性劣化特性を鋼板の検査成績証として用いることを特徴とする鋼板の検査成績証明方法。
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