JP4370393B2 - 耐熱性グルタミナーゼおよび耐熱性グルタミナーゼ遺伝子 - Google Patents
耐熱性グルタミナーゼおよび耐熱性グルタミナーゼ遺伝子 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルタミナーゼ、グルタミナーゼ遺伝子、組み換え体DNA及びグルタミナーゼの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
グルタミナーゼ(glutaminase、L-グルタミンアミドハイドロラーゼL-Glutamine amidohydrolase、EC3.5.1.2、以下、グルタミナーゼという)は、グルタミンをグルタミン酸とアンモニアに加水分解する酵素である。食品加工業とくに蛋白質を酵素的に分解して得られる調味食品、例えば醤油を製造する場合に重要な役割を果たすものとして知られている。醤油製造の際に、原料蛋白質は麹菌の生産する種々な蛋白質分解酵素の作用により、ペプチドを経て最終的には構成アミノ酸にまで分解される。構成アミノ酸の一種であるグルタミン酸は、醤油の旨味成分のうちで中心的な役割を果たしている。醤油製造でのグルタミン酸の生成については2つの経路が考えられている。上述した蛋白質原料の分解過程で直接生成する経路(第1の経路)と、原料蛋白質の分解過程で生成したグルタミンがグルタミナーゼの作用によってグルタミン酸に変換され生成する経路(第2の経路)である。醤油製造で原料となる大豆を含め、植物の貯蔵蛋白質はグルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸に富んでおり、そのかなりの部分がアミドの形のグルタミンやアスパラギンとして存在していることが知られている。また、醤油醸造中で原料の分解により生成したグルタミンは非酵素的に比較的速やかに、無味のピログルタミン酸へと変化する。従って、醤油醸造においてはグルタミンをグルタミン酸に変換する反応(第2の経路)が大変重要視されている。
【0003】
醤油製造においては、グルタミナーゼを高生産する黄麹菌を用いることによって、醤油諸味のグルタミン酸量が増加すること(非特許文献1参照)、そして、黄麹菌の不溶性画分(細胞表層、細胞表面、細胞内、菌体表面、菌体内と記載されることもある)のグルタミナーゼと醤油諸味中のグルタミン酸との間に相関関係があることが示され(非特許文献2参照)、麹菌の生産するグルタミナーゼが重要であることが認識された。
【0004】
麹カビ(黄麹菌)であるアスペルギルス・オリゼ及びアスペルギルス・ソーヤは、味噌・醤油・日本酒等の日本における醸造食品の製造に古くから使われてきており、高い酵素生産性と、長年の利用による安全性に対する信頼の高さから、産業上特に重要な微生物である。
【0005】
これら黄麹菌を含むアスペルギルス属のグルタミナーゼについては、いくつかが精製され、その性質が報告されている。アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)から菌体内および菌体外グルタミナーゼが精製され、それらの諸性質が調べられている(非特許文献3参照)。これらのグルタミナーゼはいずれも分子量約113,000であり、ほぼ同様の性質を有している。また、同じくアスペルギルス・オリゼから上記とは異なる2種類の菌体外グルタミナーゼが精製され諸性質が調べられている(特許文献1参照)。これらについては遺伝子も単離解析されている。また、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)についても菌体外のグルタミナーゼが精製され、その遺伝子についても報告がある(特許文献2参照)。また、それとは異なるグルタミナーゼ遺伝子がアスペルギルス・ソーヤから単離されてもいる(特許文献3参照)。
【0006】
ところで黄麹菌のグルタミナーゼについてはその局在性について検討されている。細胞外、細胞表層、細胞内(細胞膜、細胞質)の3つに大別し、それぞれの画分について粗酵素液を用いた諸性質、分布の比率が調べられている。その結果、大部分のグルタミナーゼが細胞表層および細胞内に局在していることが報告されている(非特許文献4参照)。
【0007】
これまでに明らかにされている黄麹菌由来のグルタミナーゼ及びグルタミナーゼ遺伝子は菌体外のグルタミナーゼである。また、矢野らが得た唯一の菌体内グルタミナーゼについても分子量および酵素学的性質の解析から、菌体外のグルタミナーゼと同一の可能性が示唆されている。従って、明確に細胞表層および細胞内に局在性を示すグルタミナーゼおよびグルタミナーゼ遺伝子については報告されていない。上述した通り、醤油製造においては、不溶性のグルタミナーゼに効果があることが知られているため、それらグルタミナーゼを単離することは強く望まれている。また、これらグルタミナーゼについては、生産量が低い等のため工業的利用の面でも限界があり、大量調製が可能となる該遺伝子を単離することは強く望まれている。
【0008】
蛋白質を酵素的に分解して製造する調味食品において、高温で蛋白質を分解することは、蛋白質の分解速度を高め、雑菌による汚染を防止し、効率的にグルタミン酸含量の多い調味食品を製造する目的の上で極めて有効な方法である。しかしながら、グルタミンからピログルタミン酸への変換効率は高温になるほど増加するため、高温下で速やかにグルタミナーゼが作用しなくてはならない。従って、このような条件に使用しうるグルタミナーゼは至適温度が高く、耐熱性を有することが必要であり、このような性質を有するグルタミナーゼを単離することは強く望まれている。
【0009】
【非特許文献1】
Yamamoto et. al. J. Ferment. Technol., Vol. 52,No. 8, 564-569 (1974)
【非特許文献2】
醤研 Vol.5, No.1, 21-25 1979
【非特許文献3】
Yano, T et al, J. Ferment. Technol., Vol.66, No.2, 137-143 (1988)
【非特許文献4】
醤研 Vol.11, No.3, 109-114 1985
【特許文献1】
WO99/60104、特開2002-218986
【特許文献2】
特開2000-166547
【特許文献3】
特願2001-187433
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これ故、本発明は、全く新規なグルタミナーゼ、グルタミナーゼ遺伝子、組み換え体DNA及びグルタミナーゼの製造法、特に、耐熱性に優れるグルタミナーゼ、耐熱性に優れるグルタミナーゼ遺伝子、組み換え体DNA及び耐熱性に優れるグルタミナーゼの製造法を提供することを目的としたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、黄麹菌より新規グルタミナーゼ遺伝子をクローニングすることに成功し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
1.以下の(a)又は(b)の蛋白質。
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質
2.配列番号2で表されるアミノ酸配列全長と70%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質又はその部分断片であり、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質。
3.以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードするグルタミナーゼ遺伝子。
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質
4.配列番号2で表されるアミノ酸配列全長と70%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質又はその部分断片であり、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質をコードするグルタミナーゼ遺伝子。
5.以下の(a)又は(b)のDNAからなるグルタミナーゼ遺伝子。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
6.前記3.、4.又は5.に記載の遺伝子をベクターDNAに挿入したことを特徴とする組み換え体DNA。
7.前記6.記載の組み換え体DNAを含む形質転換体又は形質導入体。
8.前記7.記載の形質転換体又は形質導入体を培地に培養し、培養物よりグルタミナーゼを採取することを特徴とするグルタミナーゼの製造法である。
なお、本明細書において、配列番号1で表される塩基配列及び配列番号2で表されるアミノ酸配列は、先の出願2001-403261号(出願日2001年12月27日)の明細書における配列番号13493及び13494とそれぞれ同一である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、グルタミナーゼ遺伝子又は該遺伝子を含有するグルタミナーゼ酵素活性を有する蛋白質をコードする遺伝子(以下、単にグルタミナーゼ遺伝子ということもある)をクローニングするため、黄麹菌アスペルギルス・オリゼRIB40株のゲノム配列データベースを検索し、従来知られているグルタミナーゼ遺伝子と異なる塩基配列を有する遺伝子を同定した。種々の培地で黄麹菌を培養し遺伝子発現の検討をした結果、フスマ培地で培養した菌体に該遺伝子の発現を見出し、菌体より抽出したRNAからcDNAをクローニングした。得られたcDNAの全長ORFを酵母発現プラスミドベクター(pYES2.1/V5-His-TOPO)に組み込み、該プラスミドで形質転換した酵母(INVSc)を用いて機能解析した。その結果、本cDNAがグルタミナーゼをコードしていることが確認され、該遺伝子産物由来のグルタミナーゼを大量に生産させることに成功したものである。
【0014】
1.本発明のグルタミナーゼ
本発明のグルタミナーゼは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。該酵素は、例えば、アスペルギルス・ソーヤあるいはアスペルギルス・オリゼ等の黄麹菌の培養物から精製することができる。また、該酵素は、上記黄麹菌等からクローニングしたグルタミナーゼ遺伝子を適当な宿主ベクター系で発現させることにより得ることができる。
【0015】
本発明のグルタミナーゼは、酵素活性を有する限り、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい。ここで、複数のアミノ酸とは、アミノ酸残基のグルタミナーゼ蛋白質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、通常2〜300個のアミノ酸を意味し、望ましくは2〜170個のアミノ酸を意味し、更に望ましくは2〜50個のアミノ酸を意味し、最も好ましくは2〜10個を意味する。更に、グルタミナーゼ活性を有する限り、配列番号2で表されるアミノ酸配列の全長と70%以上、望ましくは75%以上、更に望ましくは80%以上、最も望ましくは85%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質又はその部分断片であってもよい。
【0016】
2つのアミノ酸配列又は塩基配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行なう。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
【0017】
上記の原理に従い、2つのアミノ酸配列又は塩基配列における配列相同性は、Karlin及び Altschul のアルゴリズム(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990及びProc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムがAltschul等によって開発された(J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)。更に、Gapped BLASTは、BLASTより感度良く配列相同性を決定するプログラムである(Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997)。上記のプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
【0018】
配列間の配列相同性として、本明細書では、Tatiana A. Tatusova等によって開発されたBLAST 2 Sequencesソフトウェア(FEMS Microbiol Lett., 174:247-250,1999)を用いて決定した値を用いる。このソフトウェアは、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能であり、入手も可能である。用いるプログラム及びパラメーターは、以下の通りである。アミノ酸配列の場合、blastpプログラムを用いパラメーターとしては、Open gap: 11 and extension gap:1 penalties, gap x#dropoff: 50, expect: 10, word size: 3, Filter: ON を用いる。塩基配列の場合、blastnプログラムを用いパラメーターとしては、Reward for a match: 1, Penalty fora mismatch: -2, Strand option: Both strands, Open gap: 5 and extension gap: 2 penalties, gap x#dropoff: 50, expect: 10, word size: 11, Filter: ONを用いる。いずれのパラメーターも、ウェブサイト上でデフォルト値として用いられているものである。
【0019】
ただし、上記BLASTソフトウェアで有意な配列相同性を示す配列が見つからない場合には、更に、高感度なFASTAソフトウェア(W.R. Pearson and D.J. Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci., 85:2444-2448, 1988)を用いて、配列相同性を示す配列をデータベースから検索することもできる。FASTAソフトウェアは、例えば、ゲノムネットのウェブサイトで利用できる。この場合も、パラメーターとしてデフォルト値を用いる。例えば、塩基配列についての検索を行なう場合は、データベースにnr-ntを用い、ktup値は6を用いる。いずれの場合も、全体の30%以上、50%以上、又は70%以上のオーバーラップを示さない場合は、機能的に相関しているとは必ずしも推定されないため、2つの配列間の配列相同性を示す値としては用いない。
【0020】
上記の各方法は、主にデータベース中から配列相同性を示す配列を検索するために用いられるが、個別の配列の配列相同性を決定する手段として、本発明では、Genetyx Win Ver.5(ゼネティックス社製)のホモロジー解析を用いることができる。この方法は、高速、かつ高感度な方法として多用されているLipman-Pearson法(Science,227:1435-1441,1985)に基づくものである。塩基配列の配列相同性を解析する際は、可能であれば蛋白質をコードしている領域(CDS又はORF)を用いる。パラメーターとしては、Unit Size to compare = 2,Pick up Location = 5として結果を%表示させる。最も高いポイントを示したアライメントの配列相同性を結果として用いるが、問い合わせ配列の30%以上、50%以上、又は70%以上のオーバーラップを示さない場合は、機能的に相関しているとは必ずしも推定されないため、2つの配列間の配列相同性を示す値としては用いない。例えば、数塩基/残基程度の完全一致領域があったとしても、それは偶然の結果に過ぎない可能性が高く、また、全体の数%程度の長さにおける一致では、特に機能モチーフが含まれていたとしても、全体として同じ機能を果たすと考えることは困難である。
【0021】
具体的に、上記の各方法を用いて配列番号2に表されるアミノ酸配列との相同性検索を行った場合、公知のグルタミナーゼのうち、最も配列相同性の高いグルタミナーゼ(クリプトコッカス・ノダエンシス由来、特開2002-262887号公報)との相同性は36%程度であり、配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるグルタミナーゼは、全く新規なものであるといえる。
【0022】
2.グルタミナーゼ遺伝子のクローニング
本発明のグルタミナーゼ遺伝子は、例えば、アスペルギルス・ソーヤあるいはアスペルギルス・オリゼ等の黄麹菌、その他の糸状菌、又はその他の真菌類から得ることができる。更に具体的には、例えば、アスペルギルス・オリゼRIB40株(Aspergillus oryzae var. viridis Murakami,anamorph;ATCC42149)が挙げられる。これらの菌体を、グルタミナーゼを生産する条件の培地で培養したものから、定法により全RNAを回収する。培地としては、例えば、フスマ培地(2.78gの小麦フスマに2.22gの脱イオン水を加え、121℃・50分間オートクレーブしたもの)を用いることができる。上記培地で適当な時間、例えば30時間培養したのち、液体窒素を満たした乳鉢中に適量(例えば1g)を移し、乳棒を用いて粉砕し、Cathala等の方法(DNA, 2(4):329-335, 1983)で全RNAを調製する。
【0023】
このようにして得られた全RNAを鋳型として、RT-PCRを行なう。プライマーとしては、本発明のグルタミナーゼ遺伝子を増幅することのできる組み合わせであればどのような組み合わせのものを用いてもよく、例えば、配列番号7及び配列番号8の配列のオリゴヌクレオチドを用いることができる。RT-PCRは、市販のキット、例えば、RNA LA-PCR Kit(宝酒造社製)を用いて定法により行なうことができる。得られた本発明のグルタミナーゼ遺伝子を含むDNAは、例えば、pCR2.1-TOPO、pYES2.1/V5-His-TOPO(ともにInvitrogen社製)などのプラスミドベクターに組み込むことができる。このようにして得られたDNAの塩基配列は、サンガー法により、市販の試薬及びDNAシークエンサーを用いて決定することができる。このようにして得られる本発明のグルタミナーゼ遺伝子を含むDNA及びそれによりコードされるグルタミナーゼのアミノ酸配列の例を夫々配列番号1(先の出願2001-403261号における配列番号13493)及び配列番号2(先の出願2001-403261号における配列番号13494)に例示する。
【0024】
本発明のグルタミナーゼ遺伝子は、上記のもののほか、グルタミナーゼ活性を有する限り、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードしている遺伝子であってもよい。このような遺伝子は、後述するハイブリダイゼーションによる選択のほか、種々の公知の変異導入方法によって得ることもできる。
【0025】
本発明のグルタミナーゼ遺伝子は、次のように、ハイブリダイゼーションによる選択法を用いて得ることもできる。遺伝子源としては、例えば、アスペルギルス・ソーヤ又はアスペルギルス・オリゼ等の黄麹菌が挙げられる。これらの生物から、定法によりRNA又はゲノムDNAを調製し、プラスミド又はファージに組み込み、ライブラリーを調製する。次いで、プローブとして用いる核酸を検出法に応じた方法で標識する。プローブとして用いる核酸、充分な特異性を得られる長さであればよく、例えば、配列番号1に記載の配列の少なくとも100塩基以上、望ましくは200塩基以上、さらに望ましくは450塩基以上、最も望ましくは700塩基以上の部分又は全体を含むものが挙げられる。次いで、標識したプローブにストリンジェントな条件でハイブリダイズするクローンを上記ライブラリーから選択する。ハイブリダイゼーションは、プラスミドライブラリーであれば、コロニーハイブリダイゼーションによって、ファージライブラリーであれば、プラークハイブリダイゼーションによって行なうことができる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドのシグナルが非特異的なハイブリッドのシグナルと明確に識別される条件であり、使用するハイブリダイゼーションの系と、プローブの種類、配列及び長さによって異なる。そのような条件は、ハイブリダイゼーションの温度を変えること、洗浄の温度及び塩濃度を変えることにより決定可能である。例えば、非特異的なハイブリッドのシグナルまで強く検出されてしまう場合には、ハイブリダイゼーション及び洗浄の温度を上げるとともに、必要により洗浄の塩濃度を下げることにより特異性を上げることができる。また、特異的なハイブリッドのシグナルも検出されない場合には、ハイブリダイゼーション及び洗浄の温度を下げるとともに、必要により洗浄の塩濃度を上げることにより、ハイブリッドを安定化させることが出来る。このような最適化は、本技術分野の研究者が容易に行ないうるものである。
【0027】
また、配列番号1に記載の塩基配列の500塩基以上の部分又は全長と75%以上、望ましくは80%以上、更に望ましくは85%以上、最も望ましくは90%以上の配列相同性を示すような塩基配列は、本発明のグルタミナーゼと実質的に同等の活性を有する蛋白質をコードしていると考えられる。
【0028】
上記のような塩基配列の配列相同性又はコードするアミノ酸配列の配列相同性を示すようなDNAは、上記のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもでき、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群又は公共データベースのなかから、例えば、前述のBLASTソフトウェアを用いた検索により発見することも容易である。このような検索は、本技術分野の研究者が通常用いている方法である。
【0029】
このようにして得られたDNAがグルタミナーゼ活性を有する蛋白質をコードしていることは、後述する「5.グルタミナーゼの製造」のように、適当なベクターに組み込み、適当な宿主を形質転換し、形質転換体を培養してグルタミナーゼ活性を測定することにより確認することができる。
【0030】
3.組み換えベクターの作製
本発明の組み換えベクターは、本発明のグルタミナーゼ遺伝子を適当なベクター上に連結することにより得ることができる。ベクターとしては、形質転換する宿主中でグルタミナーゼを生産させうるものであれば如何なるものでも用いることができる。例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、染色体組み込み型、人工染色体等のベクターを用いることができる。
【0031】
上記ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、URA3、niaDのような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子又はアンピシリン、カナマイシンあるいはオリゴマイシン等の薬剤に対する抵抗遺伝子等が挙げられる。また、組み換えベクターは、宿主細胞中で本発明の遺伝子を発現することのできるプロモーター又はその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)を含むことが望ましい。プロモーターとしては、具体的には、例えば、GAL1プロモーター、amyBプロモーター、lacプロモーター等が挙げられる。また、精製のためのタグをつけることもできる。例えば、グルタミナーゼ遺伝子の下流に適宜リンカー配列を接続し、ヒスチジンをコードする塩基配列を6コドン以上接続することにより、ニッケルカラムを用いた精製を可能にすることができる。
【0032】
4.形質転換体の取得
本発明の形質転換体は、宿主を、本発明の組み換えベクターで形質転換することにより得られる。宿主としては、本発明のグルタミナーゼを生産することができるものであれば特に限定されず、例えば、サッカロミセス・セレビシエ、チゴサッカロミセス・ルキシー等の酵母、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー等の糸状菌、エシェリシア・コリ、バチルス・ズブチルス等の細菌が挙げられる。形質転換は、宿主により公知の方法で行なうことができる。酵母の場合は、例えば、酢酸リチウムを用いる方法(Methods Mol. Cell. Biol., 5, 255-269(1995))等を用いることができる。糸状菌の場合は、例えば、プロトプラスト化した後ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いる方法(Mol. Gen. Genet., 218, 99-104(1989))を用いることができる。細菌を用いる場合は、例えば、エレクトロポレーションによる方法(Methods Enzymol., 194, 182-187(1990))等を用いることができる。
【0033】
5.グルタミナーゼの製造
本発明のグルタミナーゼの製造法は、本発明の形質転換体又は形質導入体を培養し、得られる培養物からグルタミナーゼ蛋白質を採取することからなるものである。培地及び培養方法は、宿主の種類と組み換えベクター中の発現制御配列によって適当なものを選べばよい。例えば、宿主がサッカロミセス・セレビシエであり、発現制御配列がGAL1プロモーターである場合、例えば、ラフィノースを炭素源とする液体最少培地で前培養した菌体を、ガラクトース及びラフィノースを炭素源とする液体最少培地に希釈・接種し、培養することにより、本発明のグルタミナーゼを生産させることができる。また、例えば、宿主がアスペルギルス・ソーヤであり、発現制御配列がamyBプロモーターである場合、例えば、マルトースを炭素源とする液体最少培地で培養することにより、本発明のグルタミナーゼを生産させることができる。
【0034】
また、例えば、宿主が大腸菌であり、発現制御配列がlacプロモーターである場合、IPTGを含有する液体培地で培養することにより本発明のグルタミナーゼを生産することができる。本発明のグルタミナーゼが菌体内又は菌体表面に生産された場合は、菌体を培地から分離し、その菌体を適当に処理することにより本発明のグルタミナーゼを得ることができる。例えば、サッカロミセス・セレビシエの菌体表面に生産された場合、菌体そのものを酵素剤として用いて、菌体を破砕した後、Triton X-100, Tween-20, Nonidet P-40等の非イオン性の界面活性剤を低濃度で作用させ、遠心分離し、その上清から本発明のグルタミナーゼを回収することができる。培養液中に本発明のグルタミナーゼが生産された場合は、遠心分離・ろ過等により菌体を除去することにより本発明のグルタミナーゼを得ることができる。何れの場合も、硫安分画、各種クロマトグラフィー、アルコール沈殿、限外ろ過等を用いた定法により、本発明のグルタミナーゼを更に純度の高いものとして得ることもできる。
【0035】
グルタミナーゼの力価の測定法には、[測定法1]L-グルタミンを加水分解して生成されるL-グルタミン酸を定量する方法、[測定法2]酵素反応で生成するアンモニアを定量する方法が挙げられる。測定法2については市販のキットを使用しても良く、例えば、F-キット アンモニア(ロシュ・ダイアグノシス社製)がある。
本酵素の力価測定法には[測定法1]を採用した。
【0036】
具体的には2%(W/V)L-グルタミン溶液250 μlに0.2 Mリン酸緩衝液(pH 7.0) 500 μl及び酵素液250 μlを加え、37℃、20分間反応させた後、0.75 N過塩素酸液250 μlを添加して反応を停止させ、これに1.5N水酸化ナトリウム液125 μlを加え、反応液を中和した。上記の反応液を遠心(10000 r.p.m.、10分)し、上清100μlに50mMのEDTA・Naを含む0.1 M塩酸ヒドロキシルアミン緩衝液1.0 ml (pH 8.0)、20 mM NAD+溶液(オリエンタル酵母社製)1.0 ml及び500単位/mlのL-グルタミン酸脱水素酵素液(SIGMA社製)50 μlを添加し、37℃で30分間反応させ、分光光度計により340 nmにおける吸光度を測定した。そして、予め作成したL-グルタミン酸の検量線より、その生成量を調べておき、上記の条件下で1分間あたり1μモルのグルタミン酸を生成する酵素量を1単位(U)とした。
【0037】
特に、本発明のグルタミナーゼは、公知のグルタミナーゼと比較して、高温条件下におけるグルタミナーゼ活性に優れている。特に、グルタミンからピログルタミン酸への変換効率は高温になるほど増加するが、本発明のグルタミナーゼを用いることによって、高温下で速やかにグルタミンからグルタミン酸に加水分解することができる。したがって、本発明のグルタミナーゼを用いれば、例えば食品等の生産過程において高温で酵素反応させることができ、雑菌による汚染を防止し、効率的にグルタミン酸含量の多い調味食品を製造することができる。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例
1.アスペルギルス・オリゼのグルタミナーゼ遺伝子のクローニング
アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)RIB40株(Aspergillus oryzae var. viridis Murakami,anamorph;ATCC42149)の分生子約100,000個を150ml容の三角フラスコに入った5gのフスマ培地(前述)に接種し、30℃で、30時間静置培養し培養物を得た。液体窒素を注いで冷却してある乳鉢に培養物を入れ、液体窒素を追加した後、液体窒素で冷却してある乳棒を用いて念入りに粉砕した。粉砕された菌体から、Cathala等の方法[DNA, 2(4):329-335, 1983]で全RNAを抽出した。更に、DNA-freeキット(Ambion社製)を用いてDNase I処理を行ない、混入していたDNAを分解した。得られた全RNA1.0μgを鋳型として、Marathon cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を用いてRT-PCRを行なった。
逆転写反応のプライマーは、オリゴdTの3'側にアダプター配列の付いたキットに付属のものを用い、逆転写反応は、42℃で60分間行なった。
【0040】
次いで、上記逆転写反応産物に、キットに添付の説明書に従い、RNaseH、DNAポリメラーゼ及びDNAリガーゼ等を含んだカクテルを加え、16℃で90分間反応させた後、更に、T4DNAポリメラーゼを加え、16℃、50分間反応させ、2本鎖cDNAのライブラリーを合成した。
【0041】
次いで、上記反応物にアダプターDNA、DNAリガーゼ等を加え、アダプターを結合させた二本鎖cDNAのライブラリーを合成した。夫々の反応液組成及び反応条件は、全て添付の説明書に従った。
【0042】
次いで、上記で得られた二本鎖cDNAのライブラリーを鋳型として、アスペルギルス・オリゼのゲノムデータベースを参考にプライマーを作製し、First Choice RLM-RACE Kit(Ambion社製)、Marathon cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を用いて5'RACE及び3'RACEを行なった。その結果、それぞれ約400bp、700bpの増幅断片が得られ、本酵素遺伝子が発現していることを確認した。尚、5'RACEには配列番号3及び配列番号4のプライマーを用いて、3'RACEには配列番号5及び配列番号6のプライマーを用いた。RACE法を用いて転写開始点、転写終止点を明らかにした後、配列番号7と配列番号8のプライマーを設計し、上記で得られた二本鎖cDNAのライブラリーを鋳型として、5'側は、開始コドンの直前から、3'側は、終止コドン直前までをPCR増幅した。耐熱性 DNAポリメラーゼとしては、Takara EX Taq DNA Polymerase(宝酒造社製)を用い、反応液の組成はポリメラーゼに添付の説明書に従った。
【0043】
PCR反応は、94℃、2分間の後、94℃、30秒間、55℃、30秒間、72℃、2分間を30サイクル行ない、72℃、5分間行なった。増幅産物の一部を0.7%アガロースゲルで電気泳動したところ、約1.8kbのバンドが確認された。なお、サーマルサイクラーとしては、GeneAmp 5700 Sequence detection system(PE Applied Biosystems社製)を用い、温度コントロール法は、カリキュレートコントロールによった。
【0044】
次いで、pYES2.1TOPO TA Expression Kit(Invitrogen社製)を用いて、上記増幅産物をpYES2.1/V5-His-TOPOベクター上に組み込み、大腸菌TOP10F'株(Invitrogen社製)を形質転換し、形質転換体を得た。形質転換体よりQIAprep spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミドを抽出し、得られたプラスミドをXbaI、HindIII(ともに宝酒造社製)を用いて制限酵素処理し、遺伝子挿入の向きを確認した。CEQTM DTCS-Quick Start Kit(BECKMAN COULTER社製)を用いてシークエンス反応を行ない、CEQ2000XLシークエンサー(BECKMAN COULTER社製)で塩基配列を決定した。
【0045】
その結果、配列番号1に示す1884bのオープンリーディングフレーム(ORF)のDNA配列が明らかとなった。このプラスミド「pYESAsgahB」は、2002年12月12日付けで、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP-8260として寄託されている。また、pYESAsgahBに含まれるクローンの開始コドンから終止コドン直前までの塩基配列を配列番号1に記載した。上記塩基配列を解析したところ、このDNAは、628アミノ酸残基からなる蛋白質をコードしていることが分かった。このアミノ酸配列は配列番号2に記載した。
【0046】
更に、このアミノ酸配列を公知のアミノ酸配列データベースに対して配列相同性の高い配列を検索した。検索には、NCBI blastp( http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用い、データベースとしては、nrを指定した。その結果、一致する配列は無く、最も高い配列相同性を示したものは、酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の機能未知蛋白ORF near MEL(GenBank:CAA85738)であった。コード領域全長の配列相同性を解析ソフトGENETYX-WIN Ver.5.0で調べたところ、約42%の配列相同性であった。なお、NCBI blastpを用いた場合には、配列番号2に示したアミノ酸配列と相同性の高い公知のグルタミナーゼは見いだせなかった。
【0047】
また、配列番号1の塩基配列について配列相同性の高い配列を検索した。検索に、NCBI blastn (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用い、データベースとしては、nrを指定した。その結果、一致する配列は無かった。アミノ酸配列で最も高い配列相同性を示した上記サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の機能未知蛋白ORF near MEL(GenBank:CAA85738)のコード領域全長の配列相同性を解析ソフトGENETYX-WIN Ver.5.0で調べたところ、1884塩基にわたり、50%の配列相同性であった。なお、NCBI blastnを用いた場合には、配列番号1に示した塩基配列と相同性の高い公知のグルタミナーゼ遺伝子は見いだせなかった。
【0048】
2.グルタミナーゼcDNAの発現
上記のplasmid pYESAsgahBは、ガラクトースにより目的タンパク質(グルタミナーゼ)の誘導発現が可能である。宿主は、INVSc1 (Invitrogen社製、Genotype:MATa、his3Δ1、leu2、trp1-289、ura3-52/ MATα、his3Δ1、leu2、trp1-289、ura3-52)を使用し、酢酸リチウム法により、上記のplasmid pYESAsgahBを用いて宿主酵母を形質転換した。選択培地には、(0.67% Yeast Nitrogenbase without amino acids (Difco社製)、2% raffinose (和光純薬工業社製)、0.192% Yeast Synthetic Drop-out Medium Supplement Witout uracil(SIGMA社製))を使用した。酢酸リチウム法は、「タンパク質実験プロトコール-機能解析編-」(P63-P88細胞工学別冊:秀潤社)の記載に従った。
【0049】
次に得られた形質転換体を用いて、pYES2.1TOPO TA Expression Kitに添付のプロトコールに従い、タンパク質の発現を行った。200 ml用バッフル付三角フラスコを用いて選択培地20 mlに形質転換体をコロニーより植菌し、30 ℃、140 rpmで約14時間振とう培養し、これを種培養とした。次に種培養の濁度(OD600)を測定し、初期濁度がOD600 = 0.4となるようにタンパク質発現誘導培地へ種培養を接種した。タンパク質発現誘導培地による培養は500 ml用坂口フラスコを使用し、培地50 mlで30 ℃、140rpmで振とう培養した。タンパク質発現誘導培地は、選択培地の炭素源を1% raffinose、2% galactose(和光純薬工業社製)としたものを使用した。
【0050】
誘導を開始してから30 時間後の培養液を3000rpmで10分間遠心分離し、上清を菌体外分泌タンパク質画分、沈殿を菌体画分とした。菌体画分に対し、ペレットと等容の抽出バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM EDTA、5mM MgCl2、50mM KCl、5% glycerol、3mM DTT、1%プロテアーゼ阻害剤ミックス・DMSO溶液(和光純薬工業))を加えて懸濁し、菌体懸濁液を調製した。この懸濁液に、等容のガラスビーズを加え、マルチビーズショッカーを用いて30秒間激しく攪拌した後、1分30秒間氷中に冷却した。これを15回繰り返した後、15000rpm、20分間遠心分離を行い、上清を菌体内可溶性蛋白質画分とし、沈殿を菌体残渣画分とした。
【0051】
上記で得られた菌体内可溶性蛋白質画分を粗酵素液とし、グルタミナーゼ活性を測定した。その結果を表1に示す。表中の数値は、タンパク質発現誘導30時間後の菌体内可溶性総蛋白質量あたりのグルタミナーゼ活性(mU/mg)を示す。「vector」はplasmid pYES2.1-V5-his-TOPOの形質転換体、「AsgahB」は、plasmid pYESAsgahBの形質転換体をそれぞれ示す。また、(-)は、ガラクトースを含まないタンパク質非発現誘導培地、(+)は、ガラクトースを含むタンパク質発現誘導培地で培養したことを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示した結果より、タンパク質発現誘導培地で培養したplasmid pYESAsgahBの形質転換体は、plasmid pYES2.1-V5-his-TOPOの形質転換体と比較して約24倍のグルタミナーゼ活性を示すことが明らかとなった。また、plasmid pYESAsgahBの形質転換体を、ガラクトースを含まないタンパク質非発現誘導培地で培養した時と比較しても約24倍のグルタミナーゼ活性を示すことが明らかとなった。以上のことより、本発明により得られた遺伝子がグルタミナーゼ遺伝子であることが確認され、本遺伝子を使用することによりグルタミナーゼの大量製造が可能となることが明らかとなった。
【0054】
3.グルタミナーゼの至適温度および耐熱性
pYES2.1TOPO TA Expression Kitを使用すると本酵素のC末部位にV5エピトープタグとそれに続いて6×Hisタグが付加される。上記2と同様な方法により得られる菌体内可溶性画分の粗酵素溶液からTALONTM Purification Kit(クロンテック社製)を用いて酵素を精製した。ただし、菌体内可溶性画分の粗酵素溶液の調製には抽出バッファーのかわりにKitに添付の1×Elution/Washバッファーを使用した。精製方法は添付のプロトコールに従った。すなわち、得られた粗酵素液に予め1×Elution/Washバッファーで平衡化したレジンを加え、4℃でゆっくりと30分間、攪拌しながら酵素をレジンに吸着させた。酵素を吸着させたレジンを1000rpmで5分間遠心し、レジンと上清とに分離させ、上清を非吸着画分とした。粗酵素溶液と非吸着画分のグルタミナーゼ活性を測定し、レジンに吸着されていることを確認した。次に、酵素を吸着させたレジンを10倍量の1×Elution/Washバッファーでレジンを洗浄した後、1000rpmで5分間遠心し、レジンを集めた。これを2回繰り返した後、1倍量の1×Elution/Washバッファーでレジンを懸濁し、gravity-flowカラムに移した。5倍量の1×Elution/Washバッファーでレジンを洗浄した後、5倍量の1×Elutionバッファーで溶出して活性画分を回収した。以上の操作により精製グルタミナーゼを得た。
【0055】
上記精製酵素を用いて耐熱性および至適温度について調べた。
(I)耐熱性(熱安定性)
酵素をO.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で30-60℃にて10分または30分間熱処理し、十分に冷却させた後、O.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で37℃にて活性を測定した。30分間の熱処理をしないサンプルの反応性を100%として、各温度における反応性を相対値で求めた。その結果を図1に示す。図1に示した結果より、本酵素は、50℃以下において80%以上の残存活性を示すことが明らかとなった。
(II)至適温度
O.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で30-60℃にて活性を測定し、最高値を100%として各温度における反応性を相対値で求めた。その結果を図2に示す。図2に示した結果より、本酵素の至適温度は55℃であることが明らかとなった。
【0056】
これまでに知られている麹菌アスペルギルス・オリゼおよびアスペルギルス・ソーヤ由来のグルタミナーゼの至適温度(図1)および耐熱性(図2)について表2にまとめた。なお、表中の「耐熱性」の欄に記載の温度は、カッコ内の時間にて熱処理をした際に、80%以上の残存活性をしめす熱処理温度を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示した結果より、従来知られているアスペルギルス属由来のグルタミナーゼと比較して、本酵素は至適温度が高く、耐熱性に優れたグルタミナーゼであることが明らかとなった。
【0059】
【発明の効果】
本発明により、全く新規な蛋白質、グルタミナーゼ遺伝子、組み換え体DNA及びグルタミナーゼの製造法が提供された。本発明により、上記グルタミナーゼの蛋白質工学的な改良が行なえるようになった。また本発明は、食品加工用の酵素生産、醸造食品の生産に用いる微生物の改良にも用いることができる。
【0060】
【配列表】
【0061】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3〜8はプライマーである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本酵素の耐熱性を検討した結果を示す特性図である。
【図2】本酵素の至適温度を検討した結果を示す特性図である。
Claims (6)
- 以下の(a)又は(b)の蛋白質。
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは2〜50個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質 - 以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードするグルタミナーゼ遺伝子。
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは2〜50個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質 - 以下の(a)又は(b)のDNAからなるグルタミナーゼ遺伝子。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルタミナーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA - 請求項2又は3に記載の遺伝子をベクターDNAに挿入したことを特徴とする組み換え体DNA。
- 請求項4記載の組み換え体DNAを含む形質転換体又は形質導入体。
- 請求項5記載の形質転換体又は形質導入体を培地に培養し、培養物よりグルタミナーゼを採取することを特徴とするグルタミナーゼの製造法。
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