JP4367741B2 - 有機りん化合物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般式(1)
【0002】
【化3】
Figure 0004367741
【0003】
[ここで、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]で示される有機りん化合物の製造方法に関し、特に、改良され、高純度・高品質の有機環状りん化合物が得られる製造方法に関する。
【0004】
【従来の技術】
一般式(1)の化合物は、それ自体、有機低分子及び高分子化合物の安定化剤、難燃化剤等として使用され、またこれらの製造時における品質、収率向上補助剤として使用されている。更に、この化合物は、数多くの安定化剤、難燃化剤及び難燃性高分子化合物の製造原料としても重要である。
【0005】
通常、一般式(1)の化合物は、下記一般式(3)
【0006】
【化4】
Figure 0004367741
【0007】
[ここで、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
の化合物に塩化りんを反応させて、下記一般式(4)
【0008】
【化5】
Figure 0004367741
【0009】
[ここで、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
の化合物を合成し、次いでこの化合物に水を加えて加水分解させ、発生する塩化水素を除去して一般式(2)
【0010】
【化6】
Figure 0004367741
【0011】
[ここで、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
の化合物を合成し、これを脱水閉環反応させて製造している。
【0012】
近年、一般式(2)の化合物を合成する方法として有機溶媒を使用する、改良された製造方法が提案されている(特開平10−1490号公報)が、一般式(2)の化合物から一般式(1)の化合物を製造するためには、上記脱水閉環反応の工程を経る必要がある。
【0013】
上記した従来の製造方法においては、一般式(2)の化合物から一般式(1)の化合物に反応させる工程において、常温で固体の化合物を単離し、溶融させてから反応させ、それを更に冷却・固化し、粉砕する工程が必要であったり、また有機溶媒を使用し、最終生成物を製造した後に有機溶媒を除去回収する工程が必要であったり、いずれも複雑な工程を要する。
【0014】
具体的に、上記特開平10−1490号公報には、「減圧下で110〜180℃で脱水閉環反応を行うが、好ましくは室温〜80度程度でまず付着水を除去し、その後徐々に昇温して110〜160℃で脱水閉環反応を行う。脱水閉環反応は120〜160℃/100mmHgで1〜10時間程度、通常、1〜3時間程度である。脱水閉環反応終了後、120℃付近で内容物をホーロー引きバットに流し出し、冷却、粗砕して白色結晶性粗粒体を得る。」と記載されている。
【0015】
また、上記工程において、加熱して溶融状態で脱水閉環反応させるため、いずれも工程中でも反応温度が120℃以上となることが必要で、熱効率が悪い上に、反応温度が高いため、不純物が生成し易いという欠点がある。
【0016】
得られた一般式(1)の化合物には有機酸化合物等の不純物が含有され、一般式(1)の化合物を用いて製造した各種材料、とりわけ電子材関係や半導体封止材料等において、その材料の性能が充分とはいえなかった。
【0017】
上記した従来の製造方法に見られるような、一般式(2)の化合物から一般式(1)の化合物を得る工程では、固体状の反応物を一度溶融してから反応させ、更に生成物を固化粉砕するという複雑な方法は余分な工程・装置を必要とするだけでなく、エネルギーも多量に必要である。
【0018】
更に、複雑な工程のために溶融等で高温にする必要があり、得られた一般式(1)の化合物には有機酸化合物等の不純物が含有される。具体的には、一般式(1)の化合物が酸化された形の下記一般式(5)の化合物が微量含まれる。
【0019】
【化7】
Figure 0004367741
【0020】
これらの不純物を含んだ一般式(1)の化合物を用いて製造した各種材料、とりわけ電子材関係や半導体封止材料等では、その不純物に起因するとみられる問題等が見られる。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
従って、不純物の含有量を減少させることにより、これらの問題を解決することが重要である。
【0022】
これら従来の製造方法は、全て、一般式(1)の有機りん化合物を得るために一般式(2)の化合物を、脱水環化する工程が不可欠であり、その工程で不純物が生成し易く、有機不純物生成の大きな原因となっている。通常はこの工程においては、不純物を減らすために一般式(2)の化合物を一度単離する。そして一般式(2)の化合物は常温で水不溶性の固体であり、単離した一般式(2)の化合物を溶融加熱することにより、一般式(2)の化合物を脱水閉環させて、一般式(1)の化合物を得ている。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、このような問題を解決するべく、種々検討を重ねた結果、驚くべきことに一般式(2)の化合物を脱水閉環させて一般式(1)の化合物を得る工程を、一般式(2)の化合物を溶融することなく、粉末固体の状態のまま低温で加熱することにより、粉末状態を変えることなく一般式(1)の化合物が得られることを見いだし本発明に至った。
【0024】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0025】
【化8】
Figure 0004367741
【0026】
[一般式(1)で、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
で示される有機りん化合物の製造方法において、一般式(2)
【0027】
【化9】
Figure 0004367741
【0028】
[一般式(2)で、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
で示される化合物を、粉末固体の状態のまま、加熱下で脱水閉環反応を行わせて一般式(1)の化合物を得ることを特徴とする有機りん化合物の製造方法である。
【0029】
また、本発明は、脱水閉環反応を行わせる前に、一般式(2)で示される化合物に水を加えて攪拌洗浄した後、洗浄水を分離することにより、一般式(2)で示される化合物を洗浄することを特徴とする上記製造方法である。
【0030】
【発明の実施の形態】
一般式(2)の化合物は、通常、下記一般式(3)
【0031】
【化10】
Figure 0004367741
【0032】
[ここで、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
の化合物に塩化りんを反応させて、下記一般式(4)
【0033】
【化11】
Figure 0004367741
【0034】
[ここで、R1、R2及びR3は同一または異なっていてもよい水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
の化合物を合成し、次いでこの化合物に水を加えて加水分解させ、発生する塩化水素を除去して一般式(2)の化合物を合成する。
【0035】
一般式(2)において、R1、R2及びR3が同一または相異なって水素原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ターシャリーブチルフェニル基等のアリール基、ベンジル基、エチルベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0036】
一般式(2)の化合物を単離し、粉体の状態で加熱して脱水閉環反応させることにより、一般式(1)の化合物が生成する。本発明においては、一般式(2)の化合物を粉体で良好な流動性を保ちながら加熱により、流動性の粉体状の一般式(1)の化合物を生成させるものである。その間、粉体の形態は変化するが、粉体状で良流動性を維持する。
【0037】
脱水閉環反応させる装置としては、加熱・攪拌できるものであればいずれの装置も使用できるが、反応物が粉体であり、加熱温度が高過ぎると溶融し、一度溶融したものが冷却すると、固化して攪拌が不可能になるため、好ましい反応装置としては次のような条件を満たしているものが挙げられる。
【0038】
反応装置としては、粉体の滞留を招くような構造のものは溶融冷却を起こす可能性があるため、例えば内装コイルは望ましくなく、ジャケット式が望ましい。粉体粒子の良好な攪拌を得るため、装置に邪魔板等があるものは望ましくない。攪拌機は粉体全体の良好な混合を得るため、幅広の攪拌機やスクリュウタイプのものが望ましい。また、下記ニーダー型、スクリュウ型等攪拌機の種類によっては、攪拌機内部を蒸気等で加熱するものでもよい。また、反応の方式としては、回分式、直列式のいずれでもよい。具体的な方式としては、化学工学便覧の攪拌及び混合の章(昭和50年改訂第三版1098−1108頁)に挙げられているが、通常の円錐円筒形の装置に幅広の各種攪拌機を備えた、ニーダーミキサー、ボニーミキサー、クラッチャー、スクリュウ型等が挙げられる。
【0039】
加熱方法としては、一般式(2)の化合物の融点未満の温度で、一般式(2)の化合物が粉体の状態のままで、攪拌、流動させている状態を保ちながら加熱する必要がある。この状態で加熱を続けて行くと、粉体のままで流動しながら、一般式(2)の化合物から一般式(1)の化合物への反応が進む。通常、一般式(2)の化合物の融点は置換基の種類により異なるが、一般式(2)の化合物と一般式(1)の化合物で置換基が同じであれば、一般式(1)の化合物の融点は一般式(2)の化合物の融点より高い。そのため、一般式(1)と(2)の化合物からなる混合物の融点は反応が進むにつれて、一般式(1)の化合物の融点に近づいていく。従って、反応の促進は、反応が進むにつれて加熱温度を高くすることにより可能であるが、反応系の溶融・固化等を避けるため及び有害な有機物系の不純物の生成を抑制するためには、一般式(2)の化合物の融点未満の温度で加熱することが好ましい。
【0040】
反応温度が低くても反応は進むが、温度が低いと反応速度や脱水速度等が低下するため60℃以上が望ましい。加熱方法としては、反応の進行に伴い段階的に昇温するのが効率的であり、60℃から一般式(2)の化合物の融点未満の温度まで段階的に加熱することが好ましい。反応時間は温度にもよるが、通常5時間〜10時間程度である。
【0041】
反応雰囲気としては、空気中でも一般式(1)の化合物が溶融せず紛状を維持できる程度の温度では、本発明が必要としている高純度の一般式(1)の化合物を得ることに問題はないが、窒素中では有機酸化合物等の不純物の生成が抑制されるため好ましい。酸素濃度は1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。
【0042】
また、脱水閉環反応を効率的に行うために、反応を減圧下で行うことが好ましい。圧力は低い程好ましいが、装置上の問題を考慮すれば水銀柱絶対圧300mmHg以下が好ましく、100mmHg以下がより好ましい。
【0043】
更に、有機酸化物や無機物等の不純物を減少させるためには、一般式(2)の化合物を脱水閉環反応させる前に水洗浄することが好ましい。一般式(2)の化合物は水不溶性の化合物であるので、加熱により溶融させた後、攪拌しながら洗浄水を添加し、次いで環流させながら1時間ほど洗浄を行った後、徐々に室温程度まで冷却し、洗浄水を除去した後、上記脱水閉環反応を行う。洗浄水の添加量は、通常、一般式(2)の化合物の1〜5倍程度であり、好ましくは2〜4倍程度である。
【0044】
脱水閉環反応後の粉体は流動し易い性状のため、包装可能な温度まで冷却した後包装する。
【0045】
【実施例】
以下に本発明の実施例について説明する。
【0046】
実施例1
一般式(2)でR1、R2、R3が全て水素である化合物(以下HBPと称する)で水分を含んでいるもの50gを、200mm×240mm×38mmHのステンレス製のバットに広げ、電気炉の乾燥機に入れた。
【0047】
60℃で3時間、80℃で2時間、95℃で4時間の順で乾燥した。乾燥は、湿潤物を適時混合しながら行った。放冷後、白色結晶粉末45.5gが得られた。収率99.5%、融点119.0℃ であった。
【0048】
液体クロマトグラフィーによる分析の結果、一般式(1)でR1、R2、R3が全て水素である化合物(以下HCAと称する)99.8%、一般式(3)でR1、R2、R3が全て水素である化合物(以下OPPと称する)0.15%、一般式(5)でR1、R2、R3が全て水素である化合物(以下CAと称する)0.07%であった。
【0049】
実施例2
東京理化製のエバポレーターを用い、あらかじめ窒素で容器内の空気を置換した1リットルの容器に、HBP 104.4gを仕込み、回転を始め、窒素を少量ずつ流しながら減圧を始め、25mmHgまで減圧した。その時の気相酸素濃度は90ppmであった。
【0050】
エバポレーターをシリコン油浴へ浸し、徐々に昇温した。60℃〜90℃に2時間かけた後、95℃〜97℃に3時間かけて脱水した脱水閉環反応により、留出した水分は11gであった。冷却後、白色結晶粉末92.5gが得られた。収率99.5%、融点119.0℃であった。
【0051】
液体クロマトグラフィーによる分析の結果、HCA 99.9%、OPP 0.01%、CA 0.02%であった。
【0052】
実施例3
撹拌機、温度計、環流冷却器を備えた1リットルの四つ口フラスコにHCA(HLCの分析値:HCA 95.3%、OPP 0.25%、CA 4.5%)320gを仕込み、昇温を開始し、140℃まで昇温して、HCAを完全に溶融させた。その後、撹拌を開始し、滴下ロートからトータル640gの精製水を、95℃を下回らないように少しずつ加え、約2時間かけて滴下した。
【0053】
その後、100℃で1時間維持し、その後徐々に冷却して室温まで降温した。ろ過器によりろ過して得られた結晶(HBP)に、実施例2と同様の装置を用いて同様の操作を行ったところ、白色結晶粉末316gが得られた。収率99.7%、、融点119.0℃であった。
【0054】
液体クロマトグラフィーによる分析の結果、HCA 99.9%、OPP 0.02%、CA 0.01%であった。
【0055】
実施例4
一般式(2)でR1がシクロヘキシル基で、R2とR3が水素である化合物を158g仕込み、その後は実施例2と同様な操作を行った。脱水閉環反応により留出した水分は、11gであった。
【0056】
冷却後、白色結晶粉末 127.6gが得られた。収率99.0%、融点163.1℃であった。
【0057】
液体クロマトグラフィーによる分析の結果、一般式(1)でR1がシクロヘキシル基で、R2とR3が水素である化合物99.8%、一般式(3)でR1がシクロヘキシル基で、R2とR3が水素である化合物(2−フェニル−6−シクロヘキシルフェノール)0.01%、一般式(5)でR1がシクロヘキシル基で、R2とR3が水素である化合物0.01%であった。
【0058】
比較例1
温度計、蒸留装置を備えた500mlの容器に、HBP 300gを仕込み、最初は常圧で昇温する。HBP中の水分が蒸発した後、HBPが徐々に溶融していく。約120℃で完全に溶解した後、更に徐々に昇温する。140℃に達したら、減圧を開始し、最終的には真空度を25mmHgまで減圧し、同温度を30分維持する。脱水閉環反応を終了させた後、反応器内を常圧に戻し、ステンレスのバットへ排出した。
【0059】
こうして、白色の板状結晶が263g得られた。収率99.5%、融点118.0℃であった。液体クロマトグラフィーによる分析の結果、HCA 95.9%、OPP 0.28%、CA 3.86%であった。
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、原料化合物を脱水閉環させて目的化合物を得る工程を、原料化合物を溶融することなく、粉末固体の状態のまま低温で加熱して行うことにより、高純度・高品質の有機環状りん化合物が得られる。

Claims (5)

  1. 下記一般式(1)
    Figure 0004367741
    [式中、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
    で示される有機りん化合物の製造方法において、下記一般式(2)
    Figure 0004367741
    [式中、R1、R2及びR3は同一または相異なって水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
    で示される化合物を、粉末固体の状態のまま、加熱下で脱水閉環反応を行わせて一般式(1)の化合物を得ることを特徴とする有機りん化合物の製造方法。
  2. 脱水閉環反応を、一般式(2)で示される化合物の融点未満の温度で行わせることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. 脱水閉環反応を、300mmHg以下の減圧下で行わせることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
  4. 脱水閉環反応を行わせる前に、一般式(2)で示される化合物に水を加えて攪拌洗浄した後、洗浄水を除去することにより、一般式(2)で示される化合物を洗浄することを特徴とする請求項1、2または3記載の製造方法。
  5. 一般式(1)で示される有機りん化合物が、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−9−ホスファフェナントレン−9−オキサイドであることを特徴とする請求項1または4記載の製造方法。
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