JP4360060B2 - 目ずれ防止処理したガラス繊維織物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス繊維織物、このガラス繊維織物と熱硬化性樹脂とを含むガラス繊維強化樹脂、及びこのガラス繊維強化樹脂からなる絶縁層を備える積層板に関する。
【0002】
【従来の技術】
プリント配線板等の積層板は、絶縁層とその上に形成された導体層とを備えるものであり、絶縁層としては、ガラス繊維織物等のガラス繊維布により強化されたガラス繊維強化樹脂が通常用いられている。
【0003】
ところで、近年、電子部品の小型化、高性能化の要求が顕著になり、積層板においてもより一層の小型化が求められている。そして、このような要求に応えるために、薄物プリント配線板や多層プリント配線板が開発され、これらに用いるガラス繊維として薄物ガラス繊維織物が開発されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、薄物ガラス繊維織物はその薄さ故に取り扱いが困難であるという問題がある。ガラス繊維織物は、ガラス繊維からなる経糸と緯糸とがほぼ直交するように交差させて織られたものであるが、ガラス繊維織物が薄物である場合は、取り扱い時の張力やねじれ等により、ガラス繊維が位置ずれを生じて経糸と緯糸との交差角度や交差状態に異常を来たし、ガラス繊維織物全体としての均一性が失われる(これを一般に「目ずれ」という。)。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、薄物にした場合であっても、取り扱い時の張力やねじれ等に基づく上記目ずれが効果的に防止された、ガラス繊維織物を提供することを目的とする。本発明は、また、かかるガラス繊維織物と熱硬化性樹脂とを含むガラス繊維強化樹脂、及び、かかるガラス繊維強化樹脂からなる絶縁層を備える積層板を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造のグリシジル化合物と特定構造のモノアミノシランとを、グリシジル化合物中のエポキシ基がモノアミノシランと全て反応しうる条件で反応させた反応物(シラン化合物)を、ガラス繊維織物に付着させることにより、上記目的が達成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明のガラス繊維織物は、プリント配線板用繊維強化樹脂の繊維材料として使用される、シラン化合物を付着せしめたガラス繊維織物であって、上記シラン化合物は、下記一般式(1)で表されるグリシジル化合物1モルに対して、
【化7】
[式中、R1は炭素数1〜20の2価の有機基、R2は炭素数1〜10の3価の有機基、R3は炭素数1〜6の2価の有機基を示し、mは0又は1、nは0〜2の数をそれぞれ示す。]
下記一般式(2)で表されるモノアミノシランを(m×n+2)モル以上反応させてなるシラン化合物であり、上記シラン化合物の付着量は、ガラス繊維織物100重量部に対して0.1〜1.5重量部であることを特徴とするものである。
【化8】
[式中、pは1〜10の整数、qは1〜3の整数、をそれぞれ示す。]
【0008】
また、本発明のガラス繊維織物は、プリント配線板用繊維強化樹脂の繊維材料として使用される、シラン化合物を付着せしめたガラス繊維織物であって、上記シラン化合物は、下記一般式(3)で表されるシラン化合物であり、上記シラン化合物の付着量は、ガラス繊維織物100重量部に対して0.1〜1.5重量部であることを特徴とするものである。
【化9】
[式中、R1、R2、R3、m、n、p及びqは、上記R1、R2、R3、m、n、p及びqと同義である。]
【0009】
上記本発明のガラス繊維織物においては、上記R1が下記一般式(4)で表される2価の有機基であり、上記mが0であり、上記R3が下記一般式(5)で表される2価の有機基であることが好ましい。
【化10】
【化11】
[式中、R4及びR5は同一でも異なっていてもよく、それぞれメチル基または水素原子を示す。]
【0010】
また、上記R1及びR3がメチレン基であり、上記mが1であり、上記R2が下記式(6)で表される3価の有機基であることが好ましい。
【化12】
【0011】
本発明は、更に、上記ガラス繊維織物と、熱硬化性樹脂とを含むことを特徴とする、プリント配線板用のガラス繊維強化樹脂、及び、プリント配線板として使用される積層板であって、上記ガラス繊維強化樹脂からなる絶縁層と、該絶縁層上に形成された導体層と、を備える積層板を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のガラス繊維織物は、上述のように、一般式(1)で表されるグリシジル化合物(以下、「グリシジル化合物1」という。)と、一般式(2)で表されるモノアミノシラン(以下、「モノアミノシラン1」という。)とを反応させて得られるシラン化合物を付着せしめたものである。
【0013】
先ず、本発明におけるグリシジル化合物1について説明する。グリシジル化合物1は一般式(1)に示されるように、主鎖、末端基及び側鎖からなる化合物である。すなわち、R1がn回繰り返した2価基(m=0のとき)、又はR1及びR2がn回繰り返した2価基(m=1のとき)の片末端にR3が結合したものが主鎖であり、グリシジルオキシフェニル基(フェニル基におけるグリシジルオキシ基の置換位はオルト、メタ、パラのいずれであってもよい)が末端基である。側鎖は、R2に結合したグリシジルオキシ基であり、m=0の場合は側鎖は存在しない。
【0014】
したがって、グリシジル化合物1は2官能(n=0又はm=0)〜4官能(n=2且つm=1)のエポキシ化合物に該当する。また、一般式(1)における、R1は炭素数1〜20の2価の有機基、R2は炭素数1〜10の3価の有機基、R3は炭素数1〜6の2価の有機基でなければならず、nは0〜2の数でなければならないため、グリシジル化合物1は2〜4官能の低分子量エポキシ化合物である。なお、グリシジル化合物1は、異なるnの値を有する化合物の混合物として提供される場合があるため、このような場合のnは平均値を用いる。
【0015】
一般式(1)におけるmが0である場合は、R1の炭素数は1〜18が好ましく、1〜2個のフェニレン基を含むものであることがより好ましい。また、R3の炭素数は1〜3が好ましい。一般式(1)におけるmが0である場合は、R1は下記一般式(4)で表される2価の有機基であり、且つR3は下記一般式(5)で表される2価の有機基であることが特に好ましい。なお、下記一般式中、R4及びR5は同一でも異なっていてもよく、それぞれメチル基または水素原子を示す。
【化13】
【化14】
【0016】
一般式(1)におけるmが0であり、R1が上記一般式(4)で表される2価の有機基であり、R3が上記一般式(5)で表される2価の有機基である場合は、グリシジル化合物1は下記一般式(1a)で表されるビスフェノール型エポキシ樹脂となる。なお下記一般式中nは0〜2である。
【化15】
【0017】
かかるビスフェノール型エポキシ樹脂としては、下記一般式(1b)で表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂、下記一般式(1c)で表されるビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【化16】
【化17】
【0018】
一方、一般式(1)におけるmが1である場合は、R1及びR3は、いずれも炭素数1〜10のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基であることがより好ましく、メチレン基であることが特に好ましい。また、R2はベンゼン骨格を有する炭素数1〜10の3価の基であることが好ましく、下記式(6)で表される3価の有機基であることが特に好ましい。
【化18】
【0019】
一般式(1)におけるmが1であり、R1及びR3がいずれもメチレン基であり、R2が上記式(6)で表される3価の有機基である場合は、グリシジル化合物1は下記一般式(1d)で表されるフェノールノボラック型エポキシ樹脂となる。なお下記一般式中nは0〜2である。
【化19】
【0020】
次に、本発明におけるモノアミノシランについて説明する。本発明において用いられるモノアミノシランは、下記一般式(2)で表される化学構造を有したもの(モノアミノシラン1)である。なお、下記一般式において、pは1〜10の整数、qは1〜3の整数である。
【化20】
【0021】
モノアミノシラン1は、上記のようにケイ素原子に3つのアルコキシ基と1つのアミノアルキル基が結合した構造を有した化合物(シランカップリング剤)である。上記一般式におけるpは1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、1〜3が更に好ましい。また、qは1〜2が好ましい。モノアミノシラン1として特に好適なものとしては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリメキシシランが挙げられる。
【0022】
本発明においては、上述のグリシジル化合物1とモノアミノシラン1とを反応させることによりシラン化合物を得る。グリシジル化合物1はエポキシ基を分子中に有しており、モノアミノシランはアミノ基を分子中に有しているため、これらの基が反応して結合が生じる。この場合において、グリシジル化合物1の1モルに対して反応させるモノアミノシラン1のモル数は(m×n+2)以上でなければならない。(m×n+2)はグリシジル化合物1中のエポキシ基の数に対応しているため、上記条件で反応させるということはグリシジル化合物1中のエポキシ基がモノアミノシランと全て反応しうる条件で反応させることを意味する。
【0023】
例えば、グリシジル化合物1が、mが0である上記ビスフェノール型エポキシ樹脂の場合は、該樹脂1モルに反応させるモノアミノシラン1のモル数は2モル以上でなければならない。モノアミノシラン1のモル数の上限は特に制限されないが、未反応のモノアミノシラン1の量を減少させるという観点からは、アミノシラン1のモル数は2〜3モルが好ましく、2モルが更に好ましい。
【0024】
また、グリシジル化合物1が、mが1である上記フェノールノボラック型エポキシ樹脂である場合は、該樹脂のエポキシ基の数に対応して反応させるモノアミノシラン1のモル数を定めなければならない。例えば、エポキシ基の数が3、4である場合は、モノアミノシラン1のモル数はそれぞれ3以上、4以上となる。この場合においてもモノアミノシラン1のモル数の上限は特に制限されないが、未反応のモノアミノシラン1の量を減少させるという観点からは、モノアミノシラン1のモル数はエポキシ基の数と同じであることが好ましい。
【0025】
本発明において、グリシジル化合物1におけるnの値が2を超える場合は、R1、R2、R3が、それぞれ炭素数1〜20の2価の有機基、炭素数1〜10の3価の有機基、炭素数1〜6の2価の有機基であっても、得られるシラン化合物の水等の溶媒への溶解性や安定性が劣る傾向にあり、例えば、溶媒に溶解させてシラン化合物をガラス繊維織物に付着させることが困難になる。一方、R1、R2、R3のいずれかが上記炭素数を超える場合は、グリシジル化合物1におけるnが0〜2であっても、上記と同様の現象が生じる。
【0026】
そして、グリシジル化合物1に対して反応させるモノアミノシラン1のモル数が(m×n+2)未満である場合は、反応途中に硬化やゲル化が生じ易くなり、水等の溶媒への溶解性も極端に劣るようになるため、シラン化合物をガラス繊維織物に付着させることが困難になる。
【0027】
上述した条件にしたがって、グリシジル化合物1とモノアミノシラン1とを反応させた場合、シラン化合物の主成分として、−Si−(OCqH2q+1)3で表されるアルコキシシリル基を有する、以下の一般式(3)で表される化合物(以下「化合物3」という。)が生じていると考えられる。なお、下記一般式中、R1、R2、R3、m、n、p及びqは上記と同義である。
【化21】
【0028】
化合物3における、R1、R2及びR3の好適条件は上記と同様である。したがって、グリシジル化合物1としてビスフェノール型エポキシ樹脂を用いる場合は、化合物3は下記一般式(3a)で表されるシラン化合物となる。なお、下記一般式中、R1、R2、R3、R4、R5、m、n、p及びqは上記と同義である。
【化22】
【0029】
そして、グリシジル化合物1がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の場合は、それぞれ、下記一般式(3b)、(3c)で表されるシラン化合物が得られる。
【化23】
【化24】
【0030】
また、グリシジル化合物1がフェノールノボラック型エポキシ樹脂である場合は、下記一般式(3d)で表されるシラン化合物が得られる。
【化25】
【0031】
本発明において、グリシジル化合物1とモノアミノシラン1との反応条件は特に制限されない。反応に際しては、メチルセロソルブ等の有機溶剤を用いても溶剤を用いなくてもよい。また、反応速度を向上させるために、公知のエポキシ/アミン反応用触媒を用いてもよい。また、反応温度は室温〜100℃の範囲で可能であるが、溶媒を用いた場合の揮発を考慮すると、40〜80℃(好ましくは60〜80℃)が好ましい。また、反応生成物の赤外吸収スペクトルを採取するなどして、実質的にエポキシ基の全てがアミノ基と反応したと認められるまで、反応を継続することが好ましい。
【0032】
次に、本発明のガラス繊維織物について説明する。本発明のガラス繊維織物は、ガラス繊維織物と該ガラス繊維織物に付着した上記シラン化合物とを備えることを特徴とする目ずれ防止処理ガラス繊維織物であり、ガラス繊維織物に上記シラン化合物を付着せしめたものである。
【0033】
シラン化合物を付着させるガラス繊維織物は、5〜500TEX(好ましくは22〜68TEX)のガラス繊維束を経糸及び緯糸として用い、織り密度が、経方向で16〜64本/25mm、緯方向で15〜60本/25mmになるように織られたものであることが好ましい。そして、ガラス繊維織物を構成するガラス繊維束は、ガラス繊維モノフィラメント(フィラメント径は3〜23μmが好ましい)が50〜1200本集束されてなるものが好ましい。
【0034】
なお、ガラス繊維束は、澱粉等の皮膜形成剤と動植物油等の潤滑剤等を含む集束剤により、ガラス繊維モノフィラメントを複数束ねて作製されることが通常であり、ガラス繊維織物にはかかる集束剤の成分が付着している場合がある。本発明においては、このように集束剤が付着したガラス繊維織物に対して上記シラン化合物を付着させることもできるが、集束剤が付着したガラス繊維織物を、例えば、350〜450℃に加熱処理(脱油)して集束剤の少なくとも一部を除去させた後に、上記シラン化合物を付着させることが好ましい。
【0035】
また、ガラス繊維織物には、上記シラン化合物の付着の前及び/又は後に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等の公知のシランカップリング剤やコロイダルシリカ(例えば、日産化学社製、スノーテックス−O)等の公知の無機粒子を付着させる場合があるが、上記シラン化合物は、かかるシランカップリング剤及び/又は無機粒子が付着したガラス繊維織物に対して付着させてもよい。
【0036】
上記シラン化合物をガラス繊維織物に付着させる方法としては、シラン化合物又はシラン化合物溶液(水溶液、有機溶剤溶液、水及び有機溶剤の混合溶液等)にガラス繊維織物を浸漬させる方法や、シラン化合物やシラン化合物溶液をスプレーやロールコート等によりガラス繊維織物に塗布する方法が挙げられる。浸漬又は塗布の後は、スクイズロール等を用いて必要によりシラン化合物の付着量を調整することが可能であり、シラン化合物を溶液として付着させた場合には、風乾や加熱乾燥(30〜120℃、好ましくは50〜120℃)により、水や有機溶剤等の溶媒を除去することが好ましい。
【0037】
シラン化合物を付着させる場合においては、該化合物の水溶液(又は水分散液)を用いることが好適である。これは、種々の濃度のシラン化合物水溶液(又は水分散液)が調製可能であるため、シラン化合物の付着量の制御が容易となるからである。この場合において、シラン化合物は有機溶媒を含む状態で水に溶解(又は分散)させても、有機溶媒を含まない状態で水に溶解(又は分散)させてもよい。シラン化合物の水溶液(又は水分散液)を得る場合においては、シラン化合物の含有量は、水溶液(又は水分散液)全重量を基準として0.5〜5重量%であることが好ましい。
【0038】
シラン化合物は、グリシジル化合物1とモノアミノシラン1とを反応させて得られるものであり、上述のようにシラン化合物分子中にはアルコキシシリル基が存在する。かかるシラン化合物を付着せしめたガラス繊維織物においては、シラン化合物中のアルコキシシリル基の少なくとも一部は加水分解によりシラノール基を生じていることが好ましく、このシラノール基の少なくとも一部は、更にシラノール基又はアルコキシシリル基と縮合して−Si−O−Si−結合を生じていることが好ましい。
【0039】
したがって、シラン化合物をガラス繊維織物に付着させた後は、30〜120℃(好ましくは50〜120℃)で全体を加熱して、アルコキシシリル基の少なくとも一部の加水分解反応及び縮合反応を促進させることが好ましい。なお、シラン化合物を水溶液(又は水分散液)としてガラス繊維織物に付着させる場合においては、付着前に既に加水分解反応及び/又は縮合反応が生じていることがある。また、かかる反応を促進させるために酢酸等の有機酸を水溶液(又は水分散液)に添加することができる。また、水溶液(又は水分散液)を付着させた後に30〜120℃(好ましくは50〜120℃)で加熱することにより、水等の溶媒を除去することが可能になるのみならず、加水分解反応及び/又は縮合反応を促進させることもできる。
【0040】
シラン化合物をガラス繊維織物に付着させる重量は、ガラス繊維織物100重量部に対して0.1〜1.5重量部であり、0.2〜0.9重量部がより好ましい。シラン化合物の付着量が0.1重量部未満である場合は、目ずれ防止効果が充分に発現しない場合があり、1.5重量%を超す場合は、得られたガラス繊維織物を用いてガラス繊維強化樹脂を作製する場合における、樹脂含浸性が低下して強化樹脂の耐熱性が低下する場合がある。なお、ガラス繊維織物100重量部に対するシラン化合物の重量部は、シラン化合物に加水分解反応及び/又は縮合反応が生じていないとして算出した値である。
【0041】
このようにして得られる本発明のガラス繊維織物は、取り扱い時の張力やねじれ等により、ガラス繊維が位置ずれを生じて経糸と緯糸との交差角度や交差状態に異常を来たすことがない。すなわち、目ずれが防止されており、ガラス繊維織物全体としての均一性が保たれている。目ずれ防止効果は、目ずれが特に生じやすい薄物のガラス繊維織物(厚さ:20〜100μm程度)の場合に特に顕著である。
【0042】
上記シラン化合物を用いた場合に、目ずれ防止が可能になる理由は必ずしも明らかではないが、グリシジル化合物1及びモノアミノシラン1とは異なる原料を用いてシラン化合物を得た場合や、グリシジル化合物1のエポキシ基がモノアミノシラン1と全て反応しないような条件で得られたシラン化合物では、上記効果が得られないことから、シラン化合物を得るための原料として、特定構造のグリシジル化合物と特定構造のモノアミノシランとを用いたこと、そして、シラン化合物を得る場合に、グリシジル化合物中のエポキシ基がモノアミノシランと全て反応しうる条件で反応させたことに起因するものと推測される。
【0043】
次に、本発明のガラス繊維強化樹脂について説明する。本発明のガラス繊維強化樹脂は、上記本発明のガラス繊維織物と、熱硬化性樹脂とを含むことを特徴とするものである。なお、本発明におけるガラス繊維強化樹脂は、含有する熱硬化性樹脂(マトリックス樹脂)が半硬化の状態のプリプレグ、含有する熱硬化性樹脂が硬化した状態の硬化樹脂、の両方を包含する。
【0044】
ガラス繊維強化樹脂に用いる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられ、ガラス繊維強化樹脂の作製方法としては、ガラス繊維織物に熱硬化性樹脂(又は熱硬化性樹脂溶液等の樹脂ワニス)を含浸させる方法等の公知の方法が採用可能である。
【0045】
本発明のガラス繊維強化樹脂は、目止め防止がなされているために、樹脂ワニス等を含浸させてガラス繊維強化樹脂を作製する場合に、含浸を均一に行うことが可能で、このためにボイド等の発生を防止でき、得られるガラス繊維強化樹脂の耐熱性や強度等を向上させることが可能になる。また、かかる効果は用いるガラス繊維織物の厚さに依存せず、薄物のガラス繊維織物を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【0046】
次に、本発明の積層板について説明する。本発明の積層板は、上記ガラス繊維強化樹脂からなる絶縁層と、該絶縁層上に形成された導体層と、を備えるものである。かかる積層板において、導体層は絶縁層の両面に形成されていてもよく、片面に形成されていてもよい。また、絶縁層及び導体層の数は任意であり、単層の積層板であっても複数層の積層板であってもよい。なお、積層板の導体層における熱硬化性樹脂は硬化したものであることが好ましい。
【0047】
本発明の積層板は、絶縁層として耐熱性に優れる本発明のガラス繊維強化樹脂を有しているために、耐熱性の要求される電子部品用途のプリント配線板や、中心付近まで熱が伝達しやすい薄物のプリント配線板等に好適に用いることが可能である。
【0048】
本発明の積層板は、以下のような方法により作製することが好ましい。すなわち、NEMA規格FR−4の処方等に従って作製された難燃性エポキシ樹脂ワニスをガラス繊維織物に含浸させて加熱してプリプレグを作製し、これを複数枚積層して、その上に更に銅箔を積層して、全体を加熱加圧成型する方法を採用することが好ましい。
【0049】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[シラン化合物及びその溶液の調製]
(合成例1a)
冷却器、攪拌器、滴下ロート、温度計を取り付けた2000mLのセパラブルフラスコにエピコート828(油化シェル社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、上記一般式(1b)で表されるグリシジル化合物であって、nの平均値は0.14である。)380.0g(1mol)と、メチルセロソルブ380.0gを仕込み、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製、商品名A−1100、モノアミノシラン)442.8g(2mol)をゆっくり滴下し、70℃で3時間反応させた後、メチルセロソルブを442.8g入れ、シラン化合物の50重量%メチルセロソルブ溶液を得た。
【0051】
次いで、このメチルセロソルブ溶液を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シラン化合物濃度が0.8重量%の水溶液を得た。なお、得られたシラン化合物をFT−IR(日本電子株式会社製、JIR−3150)で分析したところ、エポキシ基が開環してアミノ基と結合を生じていることが確かめられた。
【0052】
(合成例1b)
合成例1aと同様にしてシラン化合物の50重量%メチルセロソルブ溶液を得た。このメチルセロソルブ溶液を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シラン化合物濃度が1.2重量%の水溶液を得た。なお、得られたシラン化合物をFT−IR(日本電子株式会社製、JIR−3150)で分析したところ、エポキシ基が開環してアミノ基と結合を生じていることが確かめられた。
【0053】
(合成例1c)
合成例1aと同様にしてシラン化合物の50重量%メチルセロソルブ溶液を得た。このメチルセロソルブ溶液を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シラン化合物濃度が2.0重量%の水溶液を得た。なお、得られたシラン化合物をFT−IR(日本電子株式会社製、JIR−3150)で分析したところ、エポキシ基が開環してアミノ基と結合を生じていることが確かめられた。
【0054】
(合成例2a)
冷却器、攪拌器、滴下ロート、温度計を取り付けた2000mLのセパラブルフラスコにエピコート154(油化シェル社製、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、上記一般式(1d)で表されるグリシジル化合物であって、nの平均値は1.6である。)325.0g(0.5mol)と、メチルセロソルブ325.0gを仕込み、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製、商品名A−1100、モノアミノシラン)398.5g(1.8mol)をゆっくり滴下し、70℃で3時間反応させた後、メチルセロソルブ398.5g入れ、シラン化合物の50重量%メチルセロソルブ溶液を得た。
【0055】
次いで、このメチルセロソルブ溶液を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シラン化合物濃度が0.8重量%の水溶液を得た。なお、得られたシラン化合物をFT−IR(日本電子株式会社製、JIR−3150)で分析したところ、エポキシ基が開環してアミノ基と結合を生じていることが確かめられた。
【0056】
(合成例2b)
合成例2aと同様にしてシラン化合物の50重量%メチルセロソルブ溶液を得た。このメチルセロソルブ溶液を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シラン化合物濃度が1.2重量%の水溶液を得た。なお、得られたシラン化合物をFT−IR(日本電子株式会社製、JIR−3150)で分析したところ、エポキシ基が開環してアミノ基と結合を生じていることが確かめられた。
【0057】
(合成例2c)
合成例2aと同様にしてシラン化合物の50重量%メチルセロソルブ溶液を得た。このメチルセロソルブ溶液を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シラン化合物濃度が2.0重量%の水溶液を得た。なお、得られたシラン化合物をFT−IR(日本電子株式会社製、JIR−3150)で分析したところ、エポキシ基が開環してアミノ基と結合を生じていることが確かめられた。
【0058】
(比較合成例1a)
アミノシランであるシランカップリング剤(n−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、東レダウコーニング社製、SZ6032)を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シランカップリング剤濃度が0.6重量%の水溶液を得た。
【0059】
(比較合成例1b)
シランカップリング剤濃度を2.0重量%とした他は、比較合成例1aと同様にして水溶液を得た。
【0060】
(比較合成例1c)
シランカップリング剤濃度を4.0重量%とした他は、比較合成例1aと同様にして水溶液を得た。
【0061】
[シラン化合物が付着したガラス繊維織物の調製]
(実施例1)
製織後、加熱脱油処理した厚さ30μmのガラス繊維織物(経糸ECD900 1/0 織密度56(本/25mm)、緯糸ECD900 1/0 織密度56(本/25mm)、IPC規格 Style106)に、合成例1aで得られた水溶液を含浸させ、スクイズローラで絞った後、110℃で5分間乾燥して、シラン化合物が付着したガラス繊維織物を得た。なお、ガラス繊維織物100重量部に対するシラン化合物の付着量は0.33重量部であった。
【0062】
(実施例2〜6)
合成例1aで得られた水溶液に代えて、合成例1b、1c、2a、2b、2cで得られた水溶液を用いた他は実施例1と同様にして、シラン化合物が付着したガラス繊維織物を得た。なお、合成例1b、1c、2a、2b、2cのシラン化合物が付着したガラス繊維織物が、それぞれ実施例2、3、4、5、6に該当し、ガラス繊維織物100重量部に対するシラン化合物の付着量は、それぞれ、0.42重量部、0.62重量部、0.33重量部、0.42重量部、0.62重量部であった。
【0063】
(比較例1〜3)
合成例1aで得られた水溶液に代えて、比較合成例1a、1b、1cで得られた水溶液を用いた他は実施例1と同様にして、シランカップリング剤が付着したガラス繊維織物を得た。なお、比較合成例1a、1b、1cのシランカップリング剤が付着したガラス繊維織物が、それぞれ比較例1、2、3に該当し、ガラス繊維織物100重量部に対するシランカップリング剤の付着量は、それぞれ、0.18重量部、0.60重量部、1.10重量部であった。
【0064】
(比較例4)
以下のようにして、グリシジル化合物とアミノシランとが未反応の状態で付着したガラス繊維織物を得た。
【0065】
先ず、比較合成例1a〜1cで用いたアミノシランであるシランカップリング剤(n−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、東レダウコーニング社製、SZ6032)を水に添加して分散・溶解させ、酢酸でpH=3.4に調整して、シランカップリング剤濃度が0.8重量%の水溶液を得た。次いで、この水溶液を比較例1と同様にして、シランカップリング剤が付着したガラス繊維織物を得た。
【0066】
これとは別に、以下の表1に示す組成のグリシジル化合物(エポキシ化合物)溶液をジメチルホルムアミドで希釈し、エポキシ化合物濃度が0.6重量%の溶液を得、この溶液を上記ガラス繊維織物に含浸させ、スクイズローラで絞った後、110℃で5分間乾燥して、グリシジル化合物(エポキシ化合物)とアミノシランとが未反応の状態で付着したガラス繊維織物を得た。なお、ガラス繊維織物100重量部に対するシランカップリング剤とエポキシ化合物の合計の付着量は0.53重量部であった。
【0067】
【表1】
【0068】
(比較例5)
エポキシ化合物濃度0.6重量%の溶液に代えて、エポキシ化合物濃度2.0重量%の溶液を用いた他は比較例4と同様にして、グリシジル化合物(エポキシ化合物)とアミノシランとが未反応の状態で付着したガラス繊維織物を得た。なお、ガラス繊維織物100重量部に対するシランカップリング剤とエポキシ化合物の合計の付着量は0.66重量部であった。
【0069】
(比較例6)
エポキシ化合物濃度0.6重量%の溶液に代えて、エポキシ化合物濃度4.0重量%の溶液を用いた他は比較例4と同様にして、グリシジル化合物(エポキシ化合物)とアミノシランとが未反応の状態で付着したガラス繊維織物を得た。なお、ガラス繊維織物100重量部に対するシランカップリング剤とエポキシ化合物の合計の付着量は0.92重量部であった。
【0070】
[ガラス繊維織物の評価]
実施例1〜6及び比較例1〜6で得られたガラス繊維織物を用いて、図1に示すガラス繊維織物試験片を作製した。すなわち、縦(図1におけるa)200mm、横(図1におけるb)25mmに切断したガラス繊維織物2の両末端を両面粘着テープを用いて台紙8に接着することでガラス繊維織物試験片1を得た。なお、ガラス繊維織物2においては、経糸4及び緯糸6とは直交しており、経糸4及び緯糸6とガラス繊維織物2の長辺が交差する角度(θ)は45度であった。また、台紙8間の間隔(図1におけるc)は150mmとした。
【0071】
島津製作所社製オートグラフAG5000B(ロードセル:100N)を用いて、上記ガラス繊維織物試験片の台紙部分をエアチャックで挟んで(チャック間間隔は150mm(図1におけるc))、引張速度1mm/分で図1の矢印方向に引張り、変位量(mm)と荷重(g重)との関係を測定した。実施例1〜6について得られたデータを、それぞれ図2〜7に、比較例1〜6について得られたデータを、それぞれ図8〜13に示す。なお、図2〜13においては、試験した数に相当する曲線が示されている。
【0072】
[積層板の作製]
(実施例7〜12、比較例7〜12)
実施例1〜6及び比較例1〜6で得られたガラス繊維織物に、NEMA規格FR−4処方に従って配合した以下の表2に示す組成のエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、130℃で7分間乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを4枚積層し、両面に銅箔を重ね、50kg/cm2の圧力で170℃、90分間加熱成型し積層板を得た。この積層板をエッチング処理して銅箔を除去し、40mm角に切断して積層板試験片とした。なお、実施例1〜6のガラス繊維織物を用いた積層板試験片が、それぞれ実施例7〜12に該当し、比較例1〜6のガラス繊維織物を用いた積層板試験片が、それぞれ比較例7〜12に該当する。
【0073】
【表2】
【0074】
[積層板試験片の評価(半田耐熱性)]
実施例7〜12、比較例7〜12の積層板試験片それぞれ3枚を、プレッシャークッカーにて121℃、2時間処理した後、260℃の半田浴に20秒浸漬し、試験片表面の膨れの有無を以下の基準に基づいて目視で評価した。
◎:膨れなし
○:長径8mm以上の膨れがなく、且つ長径4mm以上の膨れが3個以下発生
×:長径4mm以上の膨れが4個以上、又は長径8mm未満の膨れが1個以上発生、又は長径4mm未満の膨れが全面に発生
【0075】
積層板試験片の評価結果をまとめて以下の表3に示す。なお、表3には試験片それぞれの結果を列記し、例えば、「◎◎○」は、評価した3つの積層板試験片のうち、2つが◎の評価を得、1つが○の評価を得たことを意味する。
【0076】
【表3】
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、薄物にした場合であっても、取り扱い時の張力やねじれ等に基づく目ずれが効果的に防止された、ガラス繊維織物を提供することが可能になる。また、かかるガラス繊維織物を用いることにより、耐熱性に優れたガラス繊維強化樹脂及び積層板を提供することが可能になる。積層板については、溶融半田の温度(260℃)に晒されても膨れの発生が低減されるために、耐熱性の要求される電子部品用途のプリント配線板や、中心付近まで熱が伝達しやすい薄物のプリント配線板等に好適に用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ガラス繊維織物試験片の模式図である。
【図2】実施例1のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図3】実施例2のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図4】実施例3のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図5】実施例4のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図6】実施例5のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図7】実施例6のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図8】比較例1のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図9】比較例2のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図10】比較例3のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図11】比較例4のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図12】比較例5のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【図13】比較例6のガラス繊維織物の引張試験を行ったときの、変位量と荷重の関係を示す図である。
【符号の説明】
1・・・ガラス繊維織物試験片、2・・・ガラス繊維織物、4・・・経糸、6・・・緯糸、8・・・台紙。
Claims (8)
- プリント配線板用繊維強化樹脂の繊維材料として使用される、シラン化合物を付着せしめたガラス繊維織物であって、
前記シラン化合物は、下記一般式(1)で表されるグリシジル化合物1モルに対して、
下記一般式(2)で表されるモノアミノシランを(m×n+2)モル以上反応させてなるシラン化合物であり、
前記シラン化合物の付着量は、ガラス繊維織物100重量部に対して0.1〜1.5重量部であることを特徴とするガラス繊維織物。
- 前記シラン化合物中のアルコキシシリル基の少なくとも一部が加水分解されてシラノール基を生じていることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス繊維織物。
- 前記シラノール基の少なくとも一部が更にシラノール基又はアルコキシシリル基と縮合して−Si−O−Si−結合を生じていることを特徴とする請求項3記載のガラス繊維織物。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス繊維織物と、熱硬化性樹脂とを含むことを特徴とする、プリント配線板用のガラス繊維強化樹脂。
- プリント配線板として使用される積層板であって、
請求項7記載のガラス繊維強化樹脂からなる絶縁層と、該絶縁層上に形成された導体層と、を備える積層板。
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