JP4357678B2 - 脂環式エステル化合物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な脂環式エステル化合物及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、反応性炭素−炭素不飽和2重結合を特定な部位に有し、各種化成品の中間体や各種架橋構造形成剤として用いることができ、特に脂環式エポキシ化合物を製造するための中間原料として有用な、新規な脂環式エステル化合物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電気絶縁材、各種注型成型材、塗料等に用いられる架橋構造形成剤として、熱や光で架橋反応を起こす反応性官能基を有する化合物が広く用いられており、近年、その種類及び用途はさらに拡大の傾向にある。例えば、塗料分野においては、高い耐候性を有する硬化物を形成する架橋構造形成剤が強く望まれており、また、電気絶縁材分野においては高い熱変形温度と低い吸水率を有する硬化物を形成する架橋構造形成剤が用いられている。
【0003】
一般に、これら架橋構造形成剤と反応する硬化剤等との架橋反応時に副成物がでない付加反応を行うものが好ましく、且つその使用前においては一定の保存安定性を有する架橋構造形成剤が必要とされている。これら架橋構造形成剤としては、例えば、アリル基やグリシジル基を架橋に関わる反応性官能基として有している化合物が好ましく、実際にこれらの反応性官能基を有する化合物が広く利用されている。
【0004】
例えば、グリシジル基を有する化合物としては、ビスフェノールAから誘導されるジグリシジルエーテル等のエポキシ樹脂が広く用いられている。しかしながら、ビスフェノールA等のフェノール系化合物から誘導されるエポキシ樹脂は、紫外線により変色する等、耐候性に関して低いレベルにあり、屋外での使用には制限がある。
【0005】
また、高い耐候性を有する硬化物を形成するグリシジル基を有する架橋構造形成剤として、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、テレフタル酸ジグリシジルエステル、さらにはトリメリット酸トリグリシジルエステル等、フェノール系以外の化合物から誘導されるグリシジル化合物が提案されている。これらは、硬化物の耐候性が高く、塗料分野において広く用いられている。しかしながら、例えば耐水性に十分ではなく、電気絶縁分野においては吸水性の点で十分ではない。また、これらグリシジルエステル化合物は、一般的にはトリメリット酸等のカルボン酸とエピクロルヒドリンにより製造されており、イオン性塩素、有機結合性塩素、さらにはクロルヒドリン構造となった加水分解性塩素を含有しており、例えば電気絶縁材分野等に用いる場合は制限がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、高い耐候性及び低い吸水性を有する、塗料及び電気絶縁材に用いることができる架橋構造形成剤に関する検討を行った。本発明者らは、3官能以上の反応性置換基が結合する化合物に着目し、特に高い耐候性を硬化物に付与有するトリメリット酸トリグリシジルエステルのその硬化物の有する耐候性、及び耐熱性を保持させ、吸水性を低下させるべく、鋭意検討を行った。
【0007】
その結果、トリメリット酸トリグリシジルエステル等の3官能以上のグリシジルエステル化合物の該グリシジル基を一部又はすべて下記一般式(5)で表される特定の構造を有する脂環式エポキシ基に置換した化合物は、その硬化物が、高い耐候性、耐熱性、及び低吸水性を有することを見出し、塗料や電気絶縁材料等に有用に用いられることを見出した。
【0008】
【化5】
(式中、xは1及び2から選ばれる整数。)
【0009】
本発明らは、上記に示した特定構造の脂環式エポキシ基を含有するエステル化合物を製造するために有用な前駆体となる新規な脂環式エステル化合物、及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記脂環式エポキシ基を有するエステル化合物の前駆体となる化合物、及びその製造方法に関し鋭意検討した。その結果、炭素−炭素不飽和2重結合を有する不飽和脂環式エステル化合物が、後工程として該2重結合をエポキシ化することにより、上記耐候性、耐熱性、及び低吸水性を有する硬化物を形成することができる化合物が得られることを見出し本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(1)で表される脂環式エステル化合物。
【0012】
【化6】
【0013】
(式中、nは0または1である。X1、X2、X3、及びX4はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数12以下のアルキル基、アリル基、または下記一般式(2)で表される不飽和脂環基であり、X1、X2、X3、及びX4のうち、いずれか1つ以上が該不飽和脂環基であり、且つ該不飽和脂環基とアリル基の数の和が2以上4以下である。)
【0014】
【化7】
(式中、mは1及び2から選ばれる整数を表す。)
【0015】
2.一般式(1)において、nが0であり、X1、X2、及びX3が一般式(2)においてmが2である請求項1記載の脂環式エステル化合物。
【0016】
3.下記一般式(3)で表されるアルキルエステル化合物と、3−ヒドロキシシクロペンテン及び3−ヒドロキシシクロヘキセンから選ばれる少なくとも1種以上の不飽和脂環式アルコール化合物、または該不飽和脂環式アルコール化合物とアリルアルコールとの混合物をエステル交換反応させることを特徴とする請求項1記載の脂環式エステル化合物の製造方法。
【0017】
【化8】
【0018】
(式中、nは0または1である。また、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に置換基を有してもよい炭素数12以下のアルキル基を表す。)
【0019】
4.アルキルエステル化合物の酸価が0.1当量/100g以下である請求項3記載の脂環式エステル化合物の製造方法。
【0020】
5.下記一般式(4)で表される酸ハライド化合物と、3−ヒドロキシシクロペンテン及び3−ヒドロキシシクロヘキセンから選ばれる少なくとも1種以上の不飽和脂環式アルコール化合物、または該不飽和脂環式アルコール化合物とアリルアルコールとを用いて反応させることを特徴とする請求項1記載の脂環式エステル化合物の製造方法。
【0021】
【化9】
【0022】
(式中、nは0または1を表す。また、Y1、Y2、Y3、及びY4はそれぞれ独立にハロゲンを表す。)
【0023】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の一般式(1)中のX1、X2、X3、及びX4はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数12以下のアルキル基、アリル基、又は上記一般式(2)で表される不飽和脂環基である。また、該式中のnは0または1である。
【0024】
また本発明においては、上記一般式(2)で表される不飽和脂環基が1つ以上含まれることが必須である。特に該不飽和脂環基が2以上が好ましく、例えば上記一般式(1)においてnが0の場合は、X1、X2、及びX3が該不飽和脂環基であることが好ましい。不飽和脂環基の数が増加するに従い、誘導されるエポキシ化合物を硬化してなる硬化物の耐熱性や耐水性及び機械的特性が向上する傾向にある。また、上記一般式(2)中のmは1の場合が、耐熱性や耐水性が向上する点で望ましい。
【0025】
また、本発明においては、上記一般式(1)で表されるX1、X2、X3、及びX4のうち、不飽和脂環基とアリル基の和が2以上4以下である。アリル基は、本発明の脂環式エステル化合物から誘導されるエポキシ化合物において、通常グリシジル基となり、該エポキシ化合物を硬化する際には架橋反応基として作用する。しかしながら、上記に示したように、不飽和脂環基の数が多い方が好ましく、従ってアリル基は、上記一般式(1)中のnが0の場合は2以下であり、好ましくは0が好ましい。また、nが1の場合はアリル基の数は3以下であり、好ましくは1以下が好ましく、特に0が好ましい。
【0026】
本発明においては、上記アルキル基の含まれる個数は0又は1である。該アルキル基が1を越える場合には、例えば上記一般式(1)においてnが0の場合には最終的に得られるエポキシ化合物の反応基数が1以下となり、得られる硬化物の機械的強度が低くなる傾向にある。また、該アルキル基の炭素数が12を越える場合には最終的に得られるエポキシ化合物の成型時の粘度が高くなったり、また、得られる硬化物の耐熱性が低下する傾向にある。
【0027】
該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。また、該アルキル基には、エポキシ化合物へ誘導する場合に阻害効果を示したり、最終的に得られるエポキシ化合物からなる硬化物の耐候性や耐水性に影響を及ぼさない範囲で置換基を有してもよい。これら置換基としては、例えばハロゲン基、ニトロ位、ニトリル基、アルコキシル基、等が挙げられる。
【0028】
本発明の好ましい具体的構造としては、例えば上記一般式(1)において、nが0の場合であり、X1、X2、X3、及びX4がすべて上記一般式(2)においてm=0である不飽和脂環基でありことが最も好ましい。
下記に本発明の脂環式エステル化合物の好ましい構造を示す。
【0029】
【化10】
【0030】
以下、本発明の脂環式エステル化合物の製造方法を説明する。
本発明の脂環式エステル化合物は、上記一般式(3)で表されるアルキルエステル化合物と3−ヒドロキシシクロペンテン及び3−ヒドロキシシクロヘキセンから選ばれる少なくとも1種以上の不飽和脂環式アルコール化合物、または該不飽和脂環式化合物とアリルアルコールの混合物を用いてエステル交換反応させることにより得ることができる。該式中、R1、R2、R3、及びR4は、炭素数12以下の該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。これらR1、R2、R3、及びR4で表されるアルキル基は、同一であってもよく、各々独立に異なっていても良い。
【0031】
上記エステル交換反応においては、該アルキル基は反応後にアルコール化合物として脱離する。該エステル交換反応は平衡反応であり、平衡を生成物側に有利にするために、一般的には、原料として用いるアルコール化合物の量を当量と比較し比較的多く用いたり、生成する該アルキル基由来のアルコール化合物を反応系外へ除去することにより、反応速度やエステル化合物の収率を向上することができる。従って、本発明においては、該アルキル基由来のアルコール化合物が、例えば減圧法等で反応系外へ除去することが容易であるものが望ましく、そのようなアルキル基としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が望ましく、特にメチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基が望ましい。
【0032】
また、該アルキル基には、エステル交換反応に際し反応の阻害効果を示さない範囲で置換基を有していてもかまわない。これら置換基の例としては、例えばハロゲン基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、等が挙げられる。
【0033】
本発明の脂環式エステル化合物の製造方法において、用いられる上記原料となるアルコール化合物の使用量は、例えば原料エステル化合物のアルキルエステル基を全て原料アルコールによりエステル交換する場合には、量論的には原料エステル化合物の該エステル基に対し当量である。しかし、先述したようにエステル交換反応の平衡を生成系に有利にするため、通常当量以上100当量以下が望ましく、さらには1.1当量以上20当量以下、特に2当量以上6当量以下が望ましい。また、例えば、アリル基とシクロヘキセニル基を同時に含有するような本発明の脂環式エステル化合物を製造する場合には、アリルアルコール及び3−ヒドロキシシクロヘキセンを所望の比率となるように同時に仕込んでもよいし、一方の原料のみでエステル交換反応をしておき、後工程としてもう一方の原料アルコールを用いてエステル交換をして製造してもよく、このように2段以上で反応させる場合には、所望の構造の脂環式エステル化合物が得られれば、上記原料アルコール使用量に限定されるものではない。
【0034】
また、本発明の製造方法で用いられる上記一般式(3)で表される化合物は、酸価が0.1当量/100g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.005当量/100g以下、特に好ましくは0.001当量/100g以下である。本発明では該酸価が0である場合が最も好ましいが、上記一般式(3)で表される化合物は、通常、未反応の残留カルボン酸基や加水分解して生成したカルボン酸基を含有する化合物、さらには該原料エステル化合物を合成する際に用いられた酸触媒等の酸成分が不純物として含有されており、該酸性分に由来する酸価を有している場合が殆どである。該酸価が0.1当量/100gを越えるような高い値の場合には、原料に用いる3−ヒドロキシシクロペンテン及び3−ヒドロキシシクロヘキセンが脱水反応を起こす傾向にあり、シクロヘキサジエン等の脂環式ジエン化合物や、互いにエーテル結合を介して縮合したジシクロヘキセニルエーテル等の脂環式エーテル化合物が生成するため、これら原料の本発明の脂環式エステル化合物に対する選択性が低下する傾向にある。
【0035】
上記本発明でいう酸価とは、化合物100g中に含有される含有酸当量であり、「官能基別有機化合物定量法の実際」(ヴァイス著、江島昭訳、廣川書店発行、初版)第1部第5章記載の方法で定量される。具体的には、本発明で用いられる酸価は、フェノールフタレインエタノール溶液を指示薬として用い、試料Wgを2−プロパノール25mlに溶解し、氷水で冷却しながら、予め規定度を求めたN規定の水酸化ナトリウムアルコール性溶液(2−プロパノールの体積:水の体積=1:1)により滴定を行い、終点における該水酸化ナトリウムアルコール性溶液の滴定量Amlから、下式により求める。
酸価(当量/100g)=(A×N)/(10×W))
【0036】
本発明の脂環式エステル化合物の製造方法においては、一般に使用される公知のエステル交換触媒が好適に使用できる。
【0037】
そのような触媒としては、例えばアルカリ金属類の水素化物類、酸化物類、水酸化物類、アルコレート類、アミド類又は塩類が挙げられる。該アルカリ金属類としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムが挙げられ、特にリチウム、ナトリウム、及びカリウムが好適に使用できる。本発明においては、本発明でエステル交換に用いる不飽和脂環式アルコール等のアルコール類によるアルコレート類を用いてもよい。また、アルカリ金属類の塩類としては有機酸類又は無機酸類のものであり、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、ステアリン酸塩、炭酸塩類、炭酸水素塩類、リン酸塩、硼酸塩、C1〜C4の第一錫酸塩類又はアンチモン酸塩類、第二錫酸塩等が挙げられる。本発明においては、これらの中で、アルカリ金属類の水酸化物類、酸化物類、アルコレート類、炭酸塩類、炭酸水素塩類が特に好適に使用でき、アルコレート類、水酸化物類、がさらに好適に使用できる。これら触媒は、本発明においては、反応させる反応混合物にに対し、通常、0.0001〜20重量%、好適には0.001〜10重量%、特に好適には0.005〜5重量%の量で使用される。
【0038】
また、クラウンエーテル類やポリエチレングリコール類等のアルカリ金属化合物を錯体にさせる物質を加えて用いてもよい。このような錯体形成剤はアルカリ金属化合物に対し、0.1〜200モル%の範囲で使用できる。
【0039】
また、本発明の製造方法でにおいて、チタン、錫またはジルコニウムの塩類又は錯体類を触媒として好適に使用することもできる。このような触媒系の例としては、チタンアルコキシド類、酢酸チタン、アセチルアセトン酸チタン、ブチル錫酸、錫アルコキシド類、ジメチル錫、酸化ジブチル錫、ジラウリン酸ジブチル錫、水素化トリブチル錫、塩化トリブチル錫、ジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウム(IV)ハライド類、硝酸ジルコニウム類、アセチルアセトン酸ジルコニウム、等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、又は一種以上の混合物で用いても構わない。上記各アルコキシド類としては、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が挙げられる。本発明においては、チタンアルコキシド類、、錫アルコキシド類、酸化ジブチル錫、ジルコニウムアルコキシド、が特に好適に使用でき、チタンアルコキシド類、酸化ジブチル錫がさらに好適に使用できる。本発明においては、これら触媒の使用量は反応混合物に対し、0.0001〜20重量%、好適には0.001〜10重量%の範囲である。
【0040】
また、本発明の製造方法で使用できる触媒として、米国特許第4062884号に記載されているような、窒素含有塩類を使用してもよい。これらの例としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、メチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン等である。これらは、本発明においては、反応混合物に対し0.0001〜10重量%の範囲で使用できる。
【0041】
さらに、本発明の製造方法において使用できる触媒として、タリウム化合物、例えば、酸化物類、水酸化物類、炭酸塩類、臭化物類、塩化物類、フッ化物類、シアン酸塩類、ホスホン酸塩類、酢酸塩類、硝酸塩類、タリウムメチレート、タリウムエチレート、等が使用できる。これらの使用量は、一般的に反応混合物に対し0.0001〜10重量%である。
【0042】
さらに、本発明で使用できる触媒として、第3級アミン類や第4級アンモニウム基を官能基として有するイオン交換樹脂や、酸化アンチモン等のアンチモン系化合物類、酢酸マンガン等のマンガン系化合物類、トリブチルホスフィンやトリフェニルホスフィン等のホスフィン類、トリメチルアルシン、トリブチルアルシン、トリフェニルアルシン等のアルシン類、トリフェニルスチビン等のスチビン類、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド等の硫黄化合物類、ジフェニルセレニド等のセレン化合物類、トリフェニルホスホニウムハライド(塩素又は臭素)、テトラフェニルホスホニウムハライド(塩素、臭素、又は沃素)、テトラフェニルアルソニウムハライド(塩素、臭素、及び沃素)等のオニウム塩が挙げられる。
【0043】
本発明の脂環式エステル化合物の製造方法において、上記エステル交換反応温度は、通常、50〜250℃の範囲である。好適な温度範囲は70〜200℃、特に好適には80〜180℃の範囲である。温度が250℃を越える場合には、副反応が起こる傾向にあり収率が低下する。また、50℃以下では反応速度が遅く、工業的生産性が低い。該反応温度は、一定で行っても構わないし、段階的又は連続的に温度を変化させる方法で温度制御を行ってもよい。
【0044】
また、本発明の反応系は加圧系、常圧系、又は減圧系である。特に本発明の望ましい方法は常圧又は減圧系であり、例えば常圧から徐々に減圧状態にすることにより、エステル交換により生成するアルキルアルコール類を反応系から除去することにより平衡反応を生成系に有利にする方法が望ましい。
【0045】
また、常圧系で反応を行う際には、反応雰囲気下や反応液中に窒素等の不活性ガスをバブリングしたり、反応雰囲気下に対する液面積を増加させる等、公知の方法により反応液中からエステル交換により生成するアルキルアルコール類を除去することが、反応生成速度及び収率を向上させる点で望ましい。本発明においては、原料に用いる上記一般式(3)で表されるエステル化合物の転化率が30%以上、さらには50%以上、特に70%以上まで常圧で反応させ、ついで減圧にすることにより転化率を向上させる方法を行ってもよい。
【0046】
また、減圧で反応を実施する際に、原料として用いるアルコール化合物も反応の結果生じるアルキルアルコール類と同時に反応系から除去される傾向となる場合には、反応系内に原料アルコール化合物が不足しないように注意する必要がある。
【0047】
減圧時の真空度は、該エステル交換により生成するアルキルアルコールの蒸気圧や原料として用いるアルコール化合物、さらには反応温度にも左右されるが、通常、0.01torr〜常圧、の範囲であり、特に1torr以上が好適である。
【0048】
また、本発明においては、上記減圧法を実施した場合には、特に反応後期もしくは反応終了後に最も高真空にすることにより、反応系に残留する原料に用いた過剰のアルコール化合物の余剰分やエステル交換の結果生じたアルキルアルコール類を反応系から除去できる。
【0049】
さらに、本発明においては上記エステル交換反応時に、反応を阻害したり、生成物に影響を及ぼさない範囲で、溶媒を用いても構わない。このような溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素類やこれらのハロゲン化物等である。
【0050】
本発明においては、上記エステル交換反応において得られる本発明の化合物がその用途において悪影響を及ぼさない範囲で、原料アルコール化合物やエステル交換で生じるアルキルアルコール類、及び触媒等が残留していても構わない。また、触媒は水等の各種溶剤での洗浄、液−液抽出法、不均一触媒の場合は濾過法、イオン交換樹脂法、シリカゲル等による吸着法、等の公知の方法により除去することができる。また、これら触媒の除去を行う際には、反応生成物を溶媒で希釈して実施してもよい。該溶媒は、生成物を変性させないものであれば特に制限はなく、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類や、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、塩化メチレンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素等が好適に使用できる。
【0051】
また、本発明の脂環式エステル化合物は、上記一般式(4)で表される酸ハライド化合物と3−ヒドロキシシクロペンテン及び3−ヒドロキシシクロヘキセンから選ばれる少なくとも1種以上の不飽和脂環式アルコール化合物、または該不飽和脂環式アルコール化合物とアリルアルコールとを用いて反応させることにより製造することができる。上記一般式(4)中に示されるY1、Y2、Y3、及びY4はそれぞれ独立にハロゲンを表す。該ハロゲンとしては、塩素、臭素、沃素である。
【0052】
上記製造方法において、原料として用いるアルコール化合物の使用量は、例えば原料酸ハライド化合物の酸ハライド部をすべてエステル化する場合には、該酸ハライド部に対し1当量である。しかしながら、反応を十分に完結させる目的で、該使用量は望ましくは1当量以上100当量以下、望ましくは1.1当量以上30当量以下である。
【0053】
本発明においては、上記酸ハライドを用いる反応は、溶媒を用いることが望ましく、該溶媒としては、該酸ハライド、原料として用いるアルコール化合物、及び生成されるエステル化合物と反応しないものであれば特に制限はない。例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化物等が挙げられるがこの限りではない。これら溶媒の使用量は特に制限はないが、通常、原料として用いる上記一般式(4)で示される化合物1重量部に対し、0.1〜200重量部の範囲である。
【0054】
また、該反応は脱塩酸反応であり、反応系内で発生する塩酸を捕捉する目的で塩酸捕捉剤を共存させることが望ましい。該塩酸捕捉剤としては、塩酸捕捉能のあるピリジン、トリエチルアミン、等の塩酸と塩を形成できる一般的に公知の化合物が好適に用いられる。これら塩酸捕捉剤の使用量は、通常、反応系内で発生する塩酸量に対して当量以上が望ましい。
【0055】
本発明の上記製造方法において、上記酸ハライド化合物、溶媒、及び塩酸捕捉剤からなる系内に、原料アルコール化合物を添加する方法が望ましい。原料に用いるアルコールを2種以上用いる場合は、混合物として同時に添加してもよく、さらには、別々に2段以上に分けて添加してもよい。
【0056】
また、該反応通常発熱反応であり、生成物に影響のない範囲で冷却や加熱により温度制御をしてもよい。また、発熱を制御したり、副生物を抑制する目的で、上記アルコール化合物の添加速度を制御してもよい。また、反応速度を高める目的で、該アルコール化合物添加後に加熱し、反応温度を高めることも有効である。本発明で実施される該反応温度は、通常、−10〜200℃、望ましくは10〜150℃の範囲である。
また、上記反応は、オートクレーブ等を用いて加圧下で行ってもよく、常圧下、さらには減圧下で行ってもよい。
【0057】
反応終了後は、例えば、減圧にすることにより、未反応の原料に用いたアルコールや溶媒を除去できる。さらには、例えば水洗により、塩酸を捕捉した塩酸捕捉剤の塩酸塩を除去できる。
以下、実施例により本発明を説明する。
【0058】
【実施例】
<測定法>
1.核磁気共鳴スペクトル
反応生成物の核磁気共鳴スペクトルは、テトラメチルシランを基準物質とし、重クロロホルムを溶媒として用いて、日本電子製JNM−α400(400MHz)で1H−NMRスペクトル、及び13C−NMRのデータを得た。
【0059】
2.赤外吸収スペクトルの測定(IR)
反応生成物を臭化カリウム板に塗布し、Nicolet Instrument Corporation社製FT−IRスペクトロメーター、Impact400Dで測定した。
【0060】
3.液体クロマトグラフィーの測定
試料をメタノールに溶解した溶液を、下記条件で展開・検出することにより分析を行った。
検出器 :島津製作所社製SPD−6A
検出波長 :254nm
展開液 :メタノール/水=8/2(体積比)
展開液流速:1ml/分
カラム :日本分光社製Finepak SIL C18S
カラム温度:40℃
【0061】
4.エポキシ当量の測定
化合物0.5000g、n−プロピルアルコールを50ml、ベンジルアルコール3ml、及びヨウ化カリウム0.2gを蒸留水に溶解した溶液をを混合し、加熱することにより還流させ、ついで、指示薬としてBTB溶液を添加し、0.1Nの塩酸を用いて、滴定を行うことで当量点を求める、指示薬滴定法によりエポキシ当量を測定した。
【0062】
実施例1
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管、及び蒸留用冷却管付きト字管を付した500mlの4つ口フラスコに、酸価0.00004当量/100gであるトリメリット酸トリメチルを126g(0.50モル)、3−ヒドロキシシクロヘキセンを294g(3.0モル)、水酸化リチウムを0.6g(0.025モル)を仕込んだ。ついで、上記窒素導入管の先端を反応液内に入るように設定し、窒素ガスを流すことにより液をバブリングした。
【0063】
攪拌しながら、反応液温度が95℃になるようにフラスコを加熱し、95℃において6時間、105℃で3時間、115℃で3時間反応させた。この間、蒸留用冷却管を通じ、3−ヒドロキシシクロヘキセンを含有するメタノールが留出した。ついで、窒素のバブリングを停止し、蒸留用冷却管の先端からトラップを介し、減圧ラインを設置し、温度を115℃に保持したまま、10torrまで約4時間かけて真空度を低下させ、10torrにおいて2時間保持した。
【0064】
反応終了後、フラスコ温度を室温に冷却し、ヘキサン200mlを添加し、生成物を溶解後、1リットルの分液ロートへ移し、さらにヘキサン150mlを添加した。そして、蒸留水300mlで加えヘキサン層を洗浄する操作を5回行った。得られたヘキサン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレートすることによりヘキサンを除去した結果、淡黄色の粘性液体を224g得た。
【0065】
液体クロマトグラフィーの測定の結果、原料のトリメリット酸トリメチルは全く観測されず、転化率は100%であった。さらに、検出されたピーク全体の面積に対する主生成物ピークの面積比は96%であった。
【0066】
また、得られた生成物の元素分析の結果を表1に示した。また、IR測定結果を図1に示した。さらに、各磁気共鳴スペクトルの測定を行い、下記に示す結果を得た。また、得られたスペクトルを図2に示した。参考に、原料に用いたトリメリット酸トリメチルの核磁気共鳴スペクトルを図3に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
<1H−NMRスペクトル>
δ(ppm):7.70〜8.60(3H、芳香環中の炭素原子上にあるプロトン)
δ(ppm):5.80〜6.15(6H、脂環基中の炭素−炭素不飽和2重結合を形成する炭素上のプロトン)
δ(ppm):5.45〜5.60(3H、脂環基中のエステル酸素原子に結合する炭素上のプロトン)
δ(ppm):0.80〜2.25(18H、脂環基中の炭素−炭素不飽和2重結合を形成しておらず且つエステル酸素原子に結合していない炭素原子上のプロトン)
δ(ppm):7.25〜7.30(測定時に用いた溶媒クロロホルムに由来するプロトン)
以上の結果から、本実施例で得られた粘性液体は下式(6)で得られる脂環式エステル化合物である。
【0069】
【化11】
【0070】
実施例2
トリメリット酸トリメチルの代わりに、酸価0.00002当量/100gのトリメリット酸トリブチルを189g(0.5モル)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、淡黄色の粘性液体222gを得た。
【0071】
液体クロマトグラフィーの測定結果、原料のトリメリット酸トリブチルは全く観測されず、転化率は100%であった。さらに、検出されたピーク全体の面積に対する主生成物ピークの面積比は95%であった。
【0072】
主生成物のIR測定、及び核磁気共鳴スペクトルの測定の結果、実施例1で得た結果と同等であり、本実施例で得られた化合物は実施例1で得た化合物と同じ脂環式エステル化合物であった。
【0073】
実施例3
攪拌装置、温度計、滴下ロート、還流器を付した1リットルの4つ口フラスコに、トリメリット酸トリクロライド26.55g(0.1モル)、トルエン500ml、及びトリエチルアミン35.35gを仕込み、該フラスコを温度10℃の水槽に入れ、激しく攪拌した。ついで、該滴下ロートを用いて3−ヒドロキシシクロヘキセン32.34g(0.33モル)を約30分かけて滴下した。滴下後、10℃で1時間、ついで、該水槽の温度を約1時間書けて50℃まで上昇させ、該温度で3時間攪拌し、さらに80℃で6時間攪拌した。
【0074】
そして、フラスコ室温に戻し、内容物を1リットルの分液ロートに移し、300mlの蒸留水で該トルエン溶液を洗浄する操作を5回繰り返した。その後トルエン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレートすることによりようばいであるトルエン及び残留する3−ヒドロキシシクロヘキセンやトリエチルアミンを除去した。その結果、淡黄色の粘性液体が44.21g得られた。
【0075】
液体クロマトグラフィーの測定結果、検出されたピーク全体の面積に対する主生成物ピークの面積比は96%であった。
【0076】
主生成物のIR測定、及び核磁気共鳴スペクトルの測定の結果、実施例1で得た結果と同等であり、本実施例で得られた化合物は実施例1で得た化合物と同じ脂環式エステル化合物であった。
【0077】
実施例4
実施例1で得られた化合物4.50gを100mlのクロロホルムに溶解し、該溶液を水で冷却しながら、乾燥m−クロロ過安息香酸1.90gを添加し、室温中で、12時間攪拌した。
【0078】
反応終了後、上記反応液に1.1gの水酸化カルシウムを添加し、1時間攪拌後、該溶液を濾過処理し、ついでクロロホルムを減圧除去することにより、無色透明な高粘性液体4.92gを得た。
【0079】
該化合物のエポキシ当量を測定したところ、171g/当量であり、エポキシ化合物が生成していた。
【0080】
【発明の効果】
本発明の脂環式エステル化合物は、各種化成品の中間体や各種架橋構造形成剤や添加剤として用いることができ、特に脂環式エポキシ化合物を得るための有用な中間原料となり得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた化合物の赤外吸収スペクトル図である。
【図2】実施例1で得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル図である。
【図3】実施例1で原料として用いたトリメリット酸トリメチルの核磁気共鳴スペクトル図である。
Claims (5)
- 一般式(1)において、nが0であり、X1、X2、及びX3が一般式(2)においてmが2である請求項1記載の脂環式エステル化合物。
- アルキルエステル化合物の酸価が0.1当量/100g以下である請求項3記載の脂環式エステル化合物の製造方法。
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