本発明は、高清浄度鋼の溶製方法に関するものである。
高炉と転炉との組み合わせからなる銑鋼一貫工程においては、転炉では酸素ガスを用いた酸化精錬によって溶銑中炭素を脱炭精錬している。その際に、脱炭反応に伴って鉄やマンガンも酸化され、転炉内に鉄酸化物やマンガン酸化物を大量に含有するスラグが生成される。脱炭精錬終了後、溶鋼を転炉から取鍋に出鋼する際に、このスラグの一部が溶鋼に巻き込まれて取鍋内に排出され、排出されたスラグは溶鋼との密度差により取鍋内の溶鋼上に滞留する。
高清浄性が要求される鋼種では、出鋼時或いは出鋼後、金属Al等による脱酸処理により、転炉での酸化精錬によって濃度上昇した酸素が除去される。このように、溶鋼は脱酸されて酸素ポテンシャルが低下しても、鉄酸化物やマンガン酸化物を大量に含有した酸素ポテンシャルの高いスラグが共存する場合には、溶鋼中のAl等の強脱酸元素とスラグ中の鉄酸化物及びマンガン酸化物との反応が継続して発生し、溶鋼中にAl2 O3 等の脱酸生成物が継続して生成され、清浄性の高い溶鋼を得ることができない。そのため、スラグ中の鉄酸化物やマンガン酸化物を還元して低減する(この技術を「スラグ改質」と呼ぶ)ことによって高清浄度鋼を得る方法が多数提案されている。
例えば、特許文献1には、取鍋内のスラグ上にAl等の強脱酸剤を添加した後、Ar等の不活性ガスを溶鋼中に吹込み、溶鋼及びスラグをバブリング攪拌することによってスラグ中の鉄酸化物と強脱酸剤との反応を促進させ、スラグ改質を行う方法が提案されており、又、特許文献2には、MgO含有量が30mass%以上、Si、Al、Ti、Zrの内の1種類以上の還元剤の含有量が10mass%以上のスラグ改質剤を、バブリング攪拌等を行わなずにスラグ表面に添加し、スラグ改質剤中のMgOが還元されて生成するMgガスによってスラグを改質する方法が提案されている。
真空脱炭処理を施して溶製する極低炭素鋼の場合にも高清浄度鋼を得る方法が多数提案されており、例えば、特許文献3には、転炉からの出鋼時或いは出鋼後に取鍋にAlを添加してスラグ中のFeO濃度を0.2〜2.0mass%とし、その後、真空脱ガス設備において溶鋼に酸素ガスを供給しながら真空脱炭し、炭素濃度が0.003mass%以下になった時点でAlを添加して脱酸し、更に真空処理を5分間以上継続して、極低炭素高清浄度鋼を溶製する方法が提案されており、又、特許文献4には、真空脱ガス設備における真空脱炭処理後のAl脱酸により生成されるAl
2 O
3 も、極低炭素鋼の溶製の際には清浄性に重要な影響を及ぼすとし、これに対処するには真空脱炭処理前のスラグ改質のみでは十分でなく、Al脱酸後のスラグ改質が必要であるとし、真空脱炭処理前のスラグ改質に加えて、更に、真空脱炭処理後のAl脱酸後に取鍋内のスラグにCaOを添加してスラグ改質を行い、極低炭素高清浄度鋼を溶製する方法が提案されている。
特開平1−301814号公報
特開2003−3209号公報
特開平2−277711号公報
特開平3−158412号公報
しかしながら、特許文献1のように、溶鋼とスラグ改質剤とをバブリング攪拌する場合には、取鍋内のスラグがバブリング攪拌によって不必要に溶鋼中に巻き込まれ、スラグ起因の酸化物系非金属介在物が却って増加する場合も発生する。又、スラグに添加したAl等の脱酸剤の一部が溶鋼中に溶け込み、添加した脱酸剤が無駄になったり、或いは溶鋼中の脱酸剤成分の濃度が高くなり過ぎることも発生する。これに対して特許文献2では、バブリング攪拌しないため、これらの問題点は解消されるものの、単に上置きするだけであるのでスラグ改質剤の溶融速度が遅く、スラグ改質に必要以上の時間が費やされ、生産性が低下すると云った問題が発生する。又、Mgガスは熱力学的におよそ1500℃以上の高温にならないと発生せず、期待通りの効果が必ずしも得られてはいない。
又、転炉と真空脱ガス設備とを用いて極低炭素鋼を溶製する場合、本来、脱炭反応には、溶鋼中の溶存酸素濃度が高い程好ましく、特許文献3及び特許文献4のように出鋼時或いは出鋼直後にスラグ改質を実施すると、溶鋼中溶存酸素濃度が低下して効率的な真空脱炭反応が妨げられる。そのため、真空脱炭処理時に大量の酸素ガスを必要としたり、又、真空脱炭処理中にスラグ中の鉄酸化物濃度が増加してスラグ改質の効果が損なわれたりする。これに対処するため、特許文献4のように、更に真空脱炭処理後に再度のスラグ改質が必要になったりする。ところで、従来、特許文献3及び特許文献4のように、極低炭素高清浄度鋼を溶製することを目的として真空脱炭処理前にスラグ改質を行う理由は、真空脱炭処理後にスラグ改質を行おうとしても、スラグが固化しておりスラグ上にスラグ改質剤を添加しただけでは効率的なスラグ改質ができず、やむを得ずスラグが固化していない出鋼時又は出鋼直後に行っていたことによる。
このように従来のスラグ改質方法では、スラグ改質剤が過剰になったり、又、無駄になったりして、大量のスラグ改質剤を必要としている。更に、極低炭素鋼の溶製の場合には、スラグ改質剤の過剰の添加に起因して真空脱炭処理が遅延し、これによる真空脱ガス設備の生産性の低下が避けられない。更に又、真空脱炭処理後にスラグ改質を行わない場合には、溶鋼の清浄性が安定しないと云う問題も生じていた。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉で脱炭精錬された溶鋼を取鍋に出鋼し、出鋼時に混入した転炉スラグを取鍋内で改質して高清浄度鋼を溶製するに当たり、スラグ改質剤を過剰に使用することなくスラグを安定して改質することができ、更に、真空脱炭処理を施す場合には、真空脱ガス設備での処理時間を短縮させることも可能な高清浄度鋼の溶製方法を提供することである。
上記課題を解決するための本願第1の発明に係る高清浄度鋼の溶製方法は、転炉での脱炭精錬の後に真空脱ガス設備での真空脱炭処理及び真空脱炭処理後の脱酸処理を経て溶鋼を溶製するに際し、強還元剤を含有するスラグ改質剤を2回以上に分けて取鍋内に添加するとともに、真空脱ガス設備での脱酸処理前までのスラグ改質剤添加ではスラグ中の鉄酸化物濃度が溶鋼中の溶存酸素濃度と平衡する値より高い濃度を保つようにスラグ改質剤の添加量を調整して添加し、且つ、添加したスラグ改質剤を、前記真空脱ガス設備において少なくとも1回はスラグ中に押し込むか又は機械的にスラグと攪拌してスラグを改質することを特徴とするものである。
第2の発明に係る高清浄度鋼の溶製方法は、第1の発明において、前記溶鋼を転炉にて脱炭精錬した後に未脱酸の状態のままで真空脱ガス設備に搬送し、前記スラグ改質剤を真空脱ガス設備において少なくとも1回は取鍋内に添加することを特徴とするものである。
第3の発明に係る高清浄度鋼の溶製方法は、第2の発明において、添加したスラグ改質剤を、真空脱炭処理の後工程である溶鋼の脱酸処理後に少なくとも1回はスラグ中に押し込むか又は機械的にスラグと攪拌することを特徴とするものである。
第4の発明に係る高清浄度鋼の溶製方法は、第2又は第3の発明において、前記スラグ改質剤を、真空脱炭処理の後工程である溶鋼の脱酸処理後に少なくとも1回は取鍋内に添加することを特徴とするものである。
第5の発明に係る高清浄度鋼の溶製方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、更に高温でガスを発生する物質を取鍋内に添加し、添加した、高温でガスを発生する物質を、前記スラグ改質剤と共にスラグ中に押し込むか又は機械的にスラグと攪拌することを特徴とするものである。
尚、本発明において、スラグ改質剤に含有される強還元剤とは、Al、Si、Ti、Zr、Ca、Mgの1種又は2種以上である。
本発明によれば、強還元剤を含有するスラグ改質剤を1回又は2回以上に分けて取鍋内のスラグ上に上置き添加し、添加したスラグ改質剤を少なくとも1回はスラグ中に押し込むか又は機械的に攪拌してスラグを改質するので、少ないスラグ改質剤の使用量で、T.Fe濃度の低いスラグへと安定して改質することができ、その結果、高い清浄性を有する鋼を安定して製造することが可能となる。又、極低炭素鋼を溶製する場合には、上記に加えて更に溶存酸素の有効活用により真空脱炭処理時間を短縮することができる。
以下、本発明を具体的に説明する。本発明において溶銑を脱炭精錬するための設備は限定されるものではないが、以降の説明は一般的な高炉−転炉法にそって説明する。高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋やトーピードカー等の溶銑保持・搬送用容器で受銑し、次工程の脱炭精錬を行う転炉に搬送する。この搬送途中で、通常、予備脱硫処理や予備脱燐処理等の溶銑予備処理が施されるが、本発明においては実施しても実施しなくても、どちらでも構わない。
転炉精錬は生石灰等を媒溶剤として用いた通常の精錬を実施する。但し、この媒溶剤の添加量は、溶銑の予備脱燐処理に応じて設定する。即ち、予備脱燐処理により溶銑中燐濃度が鋼材製品レベルまで低下している場合には生石灰の添加量を少なくし、溶銑中燐濃度が高い場合には大量の生石灰を添加する。そして、酸素ガスを上吹き又は底吹きして脱炭精錬を行う。
転炉脱炭精錬終了時の溶鋼中炭素濃度は、製造する鋼種にもよるが0.02〜0.15mass%とすることが好ましい。この範囲が転炉における脱炭精錬の経済的な範囲である。即ち、0.02mass%未満まで脱炭精錬した場合には、スラグ中の鉄酸化物濃度及びマンガン酸化物濃度が高くなり、鉄及びマンガンの歩留まりが低下するのみならず、スラグ改質のために大量のスラグ改質剤を必要とするので好ましくない。一方、0.15mass%を超える場合には、溶鋼温度を確保するために、転炉脱炭精錬時にミルスケール、鉄鉱石、更にはマンガン鉱石等の吸熱反応を伴う副原料の転炉内への添加量を低減せざるを得ず、効率的な脱炭精錬ができない。又、極低炭素鋼を溶製する場合には、真空脱ガス設備における真空脱炭処理の負担が重くなるので好ましくない。
脱炭精錬終了後、溶鋼を転炉から取鍋に出鋼する。出鋼時、溶鋼に巻き込まれて炉内スラグの一部が取鍋内に流出し、取鍋内の溶鋼上に滞留する。出鋼時又は出鋼直後に取鍋内にスラグ改質剤を添加する。但し、本発明においては、必ずしも出鋼時及び出鋼直後に取鍋内にスラグ改質剤を添加する必要はなく、特に、極低炭素鋼を溶製する場合には、この時期のスラグ改質は次工程の真空脱炭処理を阻害するので、この段階でスラグ改質剤を添加する際には、スラグ改質剤の添加によるスラグ改質後のスラグ中の鉄酸化物濃度が、溶鋼中の溶存酸素濃度と平衡する値より高い濃度を保つようにスラグ改質剤の添加量を調整することが好ましい。この観点から、極低炭素鋼の溶製時には、出鋼時及び出鋼直後にはスラグ改質剤を添加しなくても構わない。尚、出鋼時又は出鋼直後にはスラグの温度及びスラグの流動性が高いので、スラグ改質剤をスラグ上に添加するだけでも、スラグ改質剤とスラグとの反応は一部起こり、スラグの一部分を改質することができるが、少ないスラグ改質剤使用量で十分にスラグを改質するためには、出鋼時又は出鋼直後に添加したスラグ改質剤も、後述するように、スラグ中へ機械的に押し込むか、或いは機械的にスラグと攪拌してスラグを改質することが好ましい。
スラグ改質後のスラグ中の鉄酸化物濃度が、溶鋼中の溶存酸素濃度と平衡する値より高い濃度を保つように、スラグ改質剤の添加量を調整するための具体的な方法は、次のようにして行うことができる。即ち、溶鋼中の溶存酸素濃度([mass%O])と平衡するスラグ中のトータル鉄(以下「T.Fe」と記す)濃度((mass%T.Fe))は、下記の(1)式によって求めることができるので、溶鋼中の溶存酸素濃度値に応じて、スラグ中のT.Fe濃度が(1)式で算出される値と同等となるか又は小さくならないように、スラグ改質剤の添加量を定めればよい。溶鋼中の溶存酸素濃度値は、分析して求める或いは炭素濃度から推定する等によって定めることができる。尚、T.Feとはスラグ中の全ての鉄酸化物(FeOやFe2 O3 等)の鉄分の合計値である。
又、出鋼時、AlやSi等の強脱酸元素による脱酸処理は実施しても実施しなくてもどちらでも構わないが、次工程に極低炭素鋼を溶製する際の真空脱炭処理等のように未脱酸状態の溶鋼を処理する工程がある場合には、次工程の処理を阻害するので、脱酸処理は実施せずに未脱酸状態のままとする。次工程に未脱酸状態の溶鋼を処理する工程がない場合には、出鋼時に強脱酸元素による脱酸を実施してもよい。出鋼時に強脱酸元素を添加することで、脱酸生成物の浮上・分離期間を長期間確保することができるので、清浄性を高めることが可能となる。
その後、スラグ改質剤を必要に応じて取鍋内に追加或いは添加した後、添加したスラグ改質剤をスラグ中に機械的に押し込むか又は機械的に攪拌して、取鍋内でスラグを改質する。このスラグ改質は、RH真空脱ガス設備、DH真空脱ガス設備又はVAD炉等の真空脱ガス設備や、連続鋳造機で鋳造する直前に溶鋼温度を均一化するために溶鋼をガス攪拌するバブリング−スタンド等で実施する。更には、取鍋の鋳造設備への搬送途中にスラグ改質のための専用の設備を設けてもよい。以下、RH真空脱ガス設備でスラグ改質を行う例を用いて説明する。
図1及び図2は、本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス設備の例を示す図であり、図1は、RH真空脱ガス設備の概略縦断面図、図2は、RH真空脱ガス設備の概略平面図で、図2では真空槽を省略している。これらの図において、1はRH真空脱ガス設備、2は取鍋、3は溶鋼、4はスラグ、5は真空槽、6は上部槽、7は下部槽、8は上昇側浸漬管、9は下降側浸漬管、10はAr吹き込み管、11はダクト、12は原料投入口、13は改質剤投入装置、14は投入シュートであり、真空槽5は上部槽6と下部槽7とから構成され、又、投入シュート14は、投入されたスラグ改質剤をスラグ4中に押し込む機能、及び、スラグ改質剤を掻き回すことによってスラグ改質剤とスラグ4とを機械的に攪拌する機能を有している。
RH真空脱ガス設備1において、真空脱炭処理等の未脱酸状態の溶鋼を処理する工程が有る場合と無い場合とで処理方法に若干の違いがあるため、以下、別々に説明する。
先ず、真空脱炭処理を例として未脱酸状態の溶鋼を処理する場合から説明する。
この場合には、溶鋼3は未脱酸状態であり、又、スラグ4は改質されないままか、或いは、スラグ4中の鉄酸化物濃度が溶鋼3中の溶存酸素濃度と平衡する値より高い濃度を保つようにスラグ改質された状態でRH真空脱ガス設備1に搬送される。搬送された取鍋2を昇降装置(図示せず)にて上昇させ、上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋2内の溶鋼3に浸漬させる。そして、Ar吹き込み管10から上昇側浸漬管8内にArを吹き込むと共に、真空槽5内をダクト11に連結される排気装置(図示せず)にて排気して真空槽5内を減圧する。真空槽5内が減圧されると、取鍋2内の溶鋼3は、Ar吹き込み管10から吹き込まれるArと共に上昇側浸漬管8を上昇して真空槽5内に流入し、その後、下降側浸漬管9を経由して取鍋2に戻る流れ、所謂、環流を形成してRH真空脱ガス精錬が施される。
溶鋼3の環流が形成され、溶鋼3に対してRH真空脱ガス精錬が施されると、溶鋼3は未脱酸状態であるので、真空槽5内では溶鋼3中の炭素と溶存酸素との反応が生じ、溶鋼3中の炭素はCOガスとなって排ガスと共に真空槽5からダクト11を介して排出され、溶鋼3は真空脱炭処理される。この場合、脱炭反応を促進させるために、酸素ガス、酸素含有ガス等の気体酸素源や鉄鉱石、ミルスケール等の固体酸素源を真空槽5内の溶鋼3に吹き付ける又は吹き込んでもよい。
例えば極底炭素鋼を溶製する場合には、溶鋼3の炭素濃度が0.003mass%未満となるまでこのようにして真空脱炭処理を継続し、溶鋼3の炭素濃度が0.003mass%未満の所定の値となったなら、原料投入口12から溶鋼3にAl等の脱酸剤を添加して溶鋼3を脱酸処理する。Al等の強脱酸剤の添加により溶鋼3中の溶存酸素濃度は急激に低下し、脱炭反応が終了する。真空脱炭促進のために気体酸素源又は固体酸素源を使用した場合には、Al等の強脱酸剤を添加する前に、気体酸素源及び固体酸素源の添加を終了する。
このような真空脱ガス精錬中に、具体的には、溶鋼3を環流させずに上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋2内の溶鋼3に浸漬させた状態(処理開始前)、又は、溶鋼3を環流させた状態(処理中)で、取鍋2内のスラグ4上にAl等の強還元剤を含有するスラグ改質剤を改質剤投入装置13によって添加する。
この場合、真空脱炭処理が終了する以前、即ち溶鋼3の脱酸処理前にスラグ改質剤を添加する場合には、スラグ4中の鉄酸化物濃度が溶鋼3中の溶存酸素濃度と平衡する値より高い濃度を保つように、即ち、上記の(1)式を満足するように、スラグ改質剤の添加量を調整する。溶鋼3の脱酸処理前に2回以上添加する場合も、その都度、上記の(1)式を満足するようにスラグ改質剤の添加量を調整する。このとき、スラグ4中へのスラグ改質剤の押し込み又はスラグ4とスラグ改質剤との機械的な攪拌の有無により、スラグ改質剤中の強還元剤の反応効率が大きく異なるため、この反応効率を考慮して添加量を決定する必要がある。
RH真空脱ガス設備1でスラグ改質剤を添加する際には、スラグ4の表面が既に固化しており、スラグ改質剤のスラグ4中への押し込み又はスラグ4との機械的な攪拌を実施しない場合には、スラグ改質剤中の強還元剤の反応効率は低い。従って、溶鋼3の脱酸前にスラグ改質剤を添加する場合、スラグ改質剤の押し込み又は機械的な攪拌を実施する時期に応じて添加量を変える必要がある。即ち、スラグ改質剤の押し込み又は機械的な攪拌を、溶鋼3の脱酸の前にも行う場合には、脱酸前のスラグ改質剤の添加量を少なくし、一方、スラグ改質剤の押し込み又は機械的な攪拌を溶鋼の脱酸後のみに行う場合には、脱酸前のスラグ改質剤の添加量を多くすることができる。但し、どちらの場合も、最終的には溶鋼3の脱酸処理後に少なくとも1回は押し込み又は機械的な攪拌を実施することが好ましく、押し込み又は機械的な攪拌を実施した後のトータルの強還元剤の反応効率は実質的に同じであり、スラグ改質剤の合計添加量は同一とする。
このように、スラグ改質剤の添加量を調整するならば、スラグ改質剤の添加時期はどの時期であっても構わないが、スラグ4中の鉄酸化物濃度を低下させず、真空脱炭処理を効率化させるには、真空脱炭処理の末期、望ましくは、真空脱炭処理終了後換言すればAl等の強脱酸剤による溶鋼3の脱酸処理後に、スラグ改質剤を添加することが好ましい。この場合、スラグ改質剤をスラグ4に押し込む時期又はスラグ改質剤とスラグ4とを機械的に攪拌する時期は、溶鋼3を脱酸した後とする。
溶鋼3の脱酸処理後にスラグ改質剤を一括添加する場合には、スラグ4を改質するに十分な量の改質剤を添加する必要があり、大量のスラグ改質剤を添加しなければならないことも生じる。大量のスラグ改質剤を一括添加すると、スラグ4上にスラグ改質剤同士が重なり合って、反応効率が悪化することもあるので、このような場合には、脱酸処理後であっても複数回に分けてスラグ改質剤を投入することが好ましい。
改質剤投入装置13に設置された投入シュート14は、投入シュート14自体が改質剤投入装置13の水平方向に移動すると同時に、その先端が左右上下に作動する機能を有しており、従って、スラグ改質剤は図2に示す斜線部の範囲に上置き添加され、そして、添加されたスラグ改質剤は、スラグ4と効率良く反応するように、投入シュート14の左右上下の作動によってスラグ4の中に押し込まれたり、或いは掻き回されてスラグ4と攪拌されたりするようになっている。
RH真空脱ガス設備1では、2本の浸漬管8,9が存在するためにスラグ改質剤を添加する範囲が限られるが、効率良くスラグ4を改質するためには、図2に示すようにスラグ4の表面の40%以上の範囲にスラグ改質剤を添加することが好ましい。
図3は、RH真空脱ガス設備1において上置き添加したスラグ改質剤のスラグ4中への押し込みの有無によるスラグ改質効果を示す図であり、図3に示すように、RH真空脱ガス設備1等での取鍋2内においては、スラグ改質剤をスラグ4に上置き添加しただけの場合には、スラグ4中のT.Fe濃度が減少せず、スラグ改質を十分に行うことができない場合も発生するが、添加したスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むことによってスラグ4中のT.Fe濃度が確実に減少し、スラグ4が効率的に改質されることが分かる。従って、本発明においては添加したスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むことが必要である。尚、スラグ改質剤をスラグ4中に押し込む方法は上記に限るものではなく、スラグ改質剤が機械的にスラグ4中に押し込まれる、或いは、反応が促進するように機械的に攪拌されるならばどのような方法であってもよい。
スラグ改質剤を機械的にスラグ4中に押し込む、或いは、スラグ改質剤を機械的にスラグ4と攪拌してスラグ4を改質する際に、高温でガスを発生する物質(以下、「ガス発生物質」と称す)を取鍋2のスラグ4の上に上置き添加し、このガス発生物質をスラグ改質剤と共に、機械的にスラグ4中に押し込む、或いは、機械的にスラグ4と攪拌することが好ましい。これは、ガス発生物質から発生するガスによってスラグ4が攪拌され、スラグ改質剤とスラグ4との反応が促進され、効率良くスラグ改質を行うことができるからである。
ガス発生物質としては、安価で経済性に優れることから、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどを用いることができる。このガス発生物質の添加時期は、スラグ改質剤と同時期であっても、又、スラグ改質剤添加時期の前後であってもどちらでも構わないが、ガス発生物質は添加直後から高温のスラグ4の熱によってガスを発生し始めるので、ガスが発生している間に押し込むことが重要であり、従って、ガス発生物質を添加したならば、できるだけ速やかにスラグ改質剤と共に押し込む或いは機械的に攪拌することが好ましい。ガス発生物質をスラグ改質剤と予め混合し、混合したものを改質剤投入装置13を介して添加してもよく、個別の添加装置から添加してもよい。又、ガス発生物質も、スラグ改質剤の添加された範囲に添加することが好ましく、従って、スラグ4の表面の40%以上の範囲に添加することが好ましい。ガス発生物質の添加量が少ないと、その効果が発揮されにくいので、スラグ改質剤の添加量の1/10程度以上のガス発生物質を添加することが望ましい。
スラグ改質剤を多数回に分けて添加し、且つ、その都度スラグ改質剤をスラグ4中に押し込む或いは機械的に攪拌すれば、効率良くスラグ4を改質することができるが、押し込む或いは機械的に攪拌する回数が増えると作業負担はその分重くなる。それ故、スラグ改質剤をスラグ4中へ押し込む或いは機械的に攪拌して行うスラグ改質の回数は特に限定するものではないが、スラグ4を完全に改質するために、脱酸剤添加後に少なくとも1回はスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むか、或いは機械的に攪拌してスラグ改質を行うことが好ましい。
そして、溶鋼3の脱酸処理後にスラグ改質剤の押し込み或いは機械的な攪拌によるスラグ改質を実施し、このスラグ改質実施後も更に数分間程度の環流を継続し、必要に応じてAl、Si、Mn、Nb、Ti等の成分調整剤を原料投入口12から溶鋼3に投入して溶鋼3の成分を調整した後、真空槽5を大気圧に戻してRH真空脱ガス精錬を終了する。
用いるスラグ改質剤は、Al、Si、Ti、Zr、Ca、Mgの1種又は2種以上の強還元剤を含有するものであれば、例えば金属Al単体であっても又金属Alと生石灰等媒溶剤との混合体であってもよいが、安価であり経済性に優れることから金属Alを50mass%程度含有するAl滓(「Al灰」とも呼ぶ)を用いることが好ましい。
以上説明したように、本発明では、RH真空脱ガス設備1で真空脱炭処理して例えば炭素濃度が0.003mass%未満の極底炭素鋼等を溶製する際に、真空脱炭処理完了まではスラグ4中の鉄酸化物濃度が溶鋼3中の溶存酸素濃度と平衡する値と同等又は低くならないように、溶鋼3中の溶存酸素濃度に応じてスラグ改質剤を添加するので、スラグ改質剤の使用量が適切化され、スラグ改質剤使用量を削減することができる。又、真空脱炭処理中は、上記のようにしてスラグ改質剤を添加するので、スラグ改質剤の添加によって溶鋼3中の溶存酸素が低下することがなく、即ち、溶鋼3中の溶存酸素濃度が高い状態で維持されるので、真空脱炭処理を迅速に行うことができ、脱炭用酸素不足に起因する真空脱炭処理時間の遅延を防止するのみならず、真空脱炭処理時間を短縮することさえ可能となる。更に又、スラグ改質剤をスラグ4中に押し込むか或いは機械的に攪拌してスラグ4を改質するので、T.Fe濃度の低いスラグへと安定して改質することができ、その結果、高い清浄性を有する極低炭素鋼を安定して製造することが可能となる。
次に、真空脱炭処理等の未脱酸状態の溶鋼を処理する工程が無い場合について説明する。
この場合には、RH真空脱ガス設備1に搬送されてくる溶鋼3は、既に脱酸された状態の場合と未脱酸状態の場合とがあるが、RH真空脱ガス設備1では、どちらの場合も同じようにしてスラグ改質剤を添加し、スラグ4を改質する。尚、溶鋼3が既に脱酸された場合には、溶鋼3中の溶存酸素濃度は十分下がっており、それと平衡するスラグ4中の鉄酸化物濃度も十分低いので、前述の(1)式で規定されるT.Fe値を考慮することなく、スラグ改質剤を添加してスラグ4を改質することができる。
RH真空脱ガス設備1に搬送された取鍋2を昇降装置にて上昇し、上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋2内の溶鋼3に浸漬させ、Ar吹き込み管10から上昇側浸漬管8内にArを吹き込むと共に真空槽5内を排気して、溶鋼3を取鍋2と真空槽5との間で環流させ、脱水素処理や脱窒素処理等の所定のRH真空脱ガス精錬を施す。
このような真空脱ガス精錬中に、具体的には、溶鋼3を環流させずに上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋2内の溶鋼3に浸漬させた状態(処理開始前)、又は、溶鋼3を環流させた状態(処理中)で、取鍋2内のスラグ4上にAl等の強還元剤を含有するスラグ改質剤を改質剤投入装置13によって添加する。
溶鋼3が未脱酸状態で、溶鋼3の脱酸処理前にスラグ改質剤を添加する場合には、前述した未脱酸溶鋼の場合と同様に、スラグ4中の鉄酸化物濃度が溶鋼3中の溶存酸素濃度と平衡する値と同等か又は平衡する値より高い濃度を保つように、スラグ改質剤の添加量を調整する。溶鋼3が既にAlにより脱酸されて溶存酸素が少ない場合には、スラグを改質するのに十分な量のスラグ改質剤を添加することができる。但し、Si脱酸のように溶存酸素濃度が比較的高い(数十ppm)の場合には、この溶存酸素と平衡する値と同等か又は平衡する値より高い濃度を保つように、スラグ改質剤の添加量を調整する。
その後、添加したスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むか或いは機械的に攪拌してスラグ4を改質する。このスラグ改質は、上記説明と同様に、改質剤投入装置13及び投入シュート14を用いてスラグ改質剤を取鍋2内のスラグ4上に添加し、添加したスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むか或いは機械的に攪拌して実施する。又、上記説明と同様にガス発生物質を添加し、このスラグ改質剤を、添加したガス発生物質と共にスラグ4に押し込むか或いは機械的に攪拌することが好ましい。但し、スラグ改質剤を2回以上に分けて添加する場合には、最後のスラグ改質剤添加後にスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むか或いは機械的に攪拌することが好ましく、従って、最後のスラグ改質剤添加以外の場合には、スラグ改質剤を押し込まなくても、又、機械的に攪拌しなくてもよい。更に、上記説明と同様に、未脱酸溶鋼を処理する場合には、溶鋼3を脱酸処理した後に少なくとも1回はスラグ改質剤をスラグ4中に押し込むか或いは機械的に攪拌してスラグ改質を行うことが好ましい。
そして、押し込みによるスラグ改質実施後も更に数分間程度の環流を継続し、必要に応じてC、Al、Si、Mn、Nb、Ti等の成分調整剤を原料投入口12から溶鋼3に投入して溶鋼3の成分を調整した後、真空槽5を大気圧に戻してRH真空脱ガス精錬を終了する。
以上説明したように、本発明では、スラグ改質剤をスラグ4中に押し込んでスラグ4を改質するので、T.Fe濃度の低いスラグへと安定して改質することができ、その結果、高い清浄性を有する鋼を安定して製造することが可能となる。又、溶鋼3中の溶存酸素濃度が高い場合には、スラグ4中の鉄酸化物濃度が溶鋼3中の溶存酸素濃度と平衡する値と同等か又は低くならないように、溶鋼3中の溶存酸素濃度に応じてスラグ改質剤を添加するので、スラグ改質剤の使用量を適切化して削減することができる。
尚、上記説明では、スラグ改質剤をスラグ中に押し込む、或いはスラグ改質剤とスラグとを機械的に攪拌してスラグを改質する精錬設備として、RH真空脱ガス設備1の例について説明したが、投入シュート14を備えた改質剤投入装置13を付帯させることで、DH真空脱ガス設備やVAD炉等の他の真空脱ガス設備でも実施することができる。又、同様に、投入シュート14を備えた改質剤投入装置13を設置する或いは付帯させることで、取鍋2の鋳造設備への搬送途中や連続鋳造機近接のバブリング−スタンドでも実施することができる。
転炉で脱炭精錬した溶鋼を取鍋に出鋼し、この溶鋼を連続鋳造機で鋳造する際に、下記の10種類(試験水準1〜10)のスラグ改質方法を用いてスラグ改質を実施した試験操業を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度、スラグ中のT.Fe濃度及び真空脱炭処理時の酸素ガス使用量等に及ぼす影響を調査した。この試験操業においては、転炉脱炭精錬終了時の溶鋼中炭素濃度を0.03〜0.04mass%に調整し、スラグ改質剤としては金属Alの単体を使用した。各試験操業の操業条件を表1に示す。表1の溶製工程の欄に示すLDは転炉、RHはRH真空脱ガス設備、B.STはバブリング−スタンドであり、又、表1の備考欄には、本発明の範囲内の試験操業には「本発明例」、それ以外の試験操業には「比較例」と表示した。
試験水準1〜6は、RH真空脱ガス設備における真空脱炭処理を必要としない鋼種(低炭素Alキルド鋼)に適用した例であり、全て出鋼時にAlで溶鋼を脱酸した。スラグ改質剤は、試験水準1、試験水準3、試験水準5では370kgを出鋼時に一括添加し、試験水準2、試験水準4、試験水準6では、出鋼時に100kg、RH真空脱ガス設備への到着時に200kg添加した。試験水準1〜4及び試験水準6では、転炉からの出鋼後にRH真空脱ガス設備で二次精錬を実施し、試験水準6では、RH真空脱ガス設備での二次精錬の後に、バブリング−スタンドに溶鋼を搬送し、バブリング−スタンドでスラグ改質剤の押し込みを実施した。試験水準5では、転炉からの出鋼後、直接バブリング−スタンドに溶鋼を搬送し、バブリング−スタンドでスラグ改質剤の押し込みを実施した。スラグ改質剤の押し込み時期は、試験水準3及び試験水準4ではRH真空脱ガス設備への到着時、試験水準5及び試験水準6ではバブリング−スタンドで、試験水準1及び試験水準2ではスラグ改質剤の押し込みは実施していない。
試験水準7〜10は、RH真空脱ガス設備における真空脱炭処理を必要とする鋼種(極低炭素Alキルド鋼)に適用した例であり、全て未脱酸状態でRH真空脱ガス設備へ搬送し、真空脱炭処理後にAlで溶鋼を脱酸した。又、全て出鋼時にスラグ改質剤を100kg取鍋内に添加し、RH真空脱ガス設備で200kgを追加投入した。スラグ改質剤の押し込み時期は、試験水準8ではRH真空脱ガス設備への到着時、試験水準9及び試験水準10では真空脱炭処理完了後のAl脱酸後で、試験水準7ではスラグ改質剤の押し込みは実施していない。
表2に、試験水準1〜6の試験操業における溶鋼中溶存酸素濃度及びスラグ中T.Fe濃度の推移を示し、又、表3に、試験水準7〜10の試験操業における溶鋼中溶存酸素濃度、真空脱炭処理時の送酸量、脱炭時間、及び、スラグ中T.Fe濃度の推移を示す。
表2に示すように、スラグ改質剤のスラグ中への押し込みを実施していない試験水準1及び試験水準2では、スラグ改質剤のスラグ中への押し込みを実施した試験水準3〜6に対して鋳造開始直前のスラグ中T.Fe濃度が高く、スラグの改質が十分に行われていないことが分かった。又、試験水準1〜6の試験操業から得られた、転炉出鋼時の溶存酸素濃度と鋳造開始前のスラグ中T.Fe濃度との関係を図4に示す。図4に示すように、試験水準3〜6では、出鋼時の溶存酸素濃度レベルに拘わらず、鋳造開始前のスラグ中T.Fe濃度は2mass%以下が確保されていた。
又、表3に示すように、真空脱炭処理を必要とする鋼種においても、スラグ改質剤のスラグ中への押し込みを実施していない試験水準7では、スラグ改質剤のスラグ中への押し込みを実施した試験水準8〜10に対して鋳造開始直前のスラグ中T.Fe濃度が高く、スラグの改質が十分に行われていないことが分かった。更に、試験水準8〜10のなかで比較すると、溶鋼の脱酸処理後に押し込みを実施した試験水準9及び試験水準10の方が、脱酸前に押し込みを実施した試験水準8に比べてスラグ中のT.Fe濃度が低下することが分かった。
又、試験水準7〜10の試験操業から得られた、RH真空脱ガス設備における脱酸前の溶存酸素濃度と鋳造開始前のスラグ中T.Fe濃度との関係を図5に示す。図5に示すように、試験水準8〜10では、脱酸前の溶存酸素濃度に拘わらず、鋳造開始前のスラグ中T.Fe濃度は3mass%以下が確保されていた。
このように、本発明方法によってスラグ中のT.Fe濃度を安定して低下することが可能であり、その結果、高い清浄性を有する鋼を安定して製造することが可能であることが分かった。尚、試験水準3〜6に対して試験水準8〜10の方がスラグ中のT.Fe濃度が高いが、これは鋼種の違いに起因する。
転炉で脱炭精錬した溶鋼を未脱酸状態で出鋼し、未脱酸状態のままRH真空脱ガス設備に搬送し、RH真空脱ガス設備において真空脱炭処理し、真空脱炭処理後にAl添加により脱酸処理して極低炭素鋼を溶製する際に、スラグ改質剤の添加時期を種々変更した試験操業を実施し、溶鋼中の溶存酸素濃度、スラグ中のT.Fe濃度及び真空脱炭処理時の酸素ガス使用量等に及ぼす影響を調査した。
スラグ改質の条件としては、(1)転炉出鋼時にのみスラグ改質剤を一括して添加し(押し込みは行わない)、その後は添加も押し込みも行わない(試験水準1)、(2)転炉出鋼時とRH真空脱ガス設備でのAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、押し込みは行わない(試験水準2)、(3)RH真空脱ガス設備でのAl脱酸後に一括してスラグ改質剤を1回添加し、押し込みを実施する(試験水準3)、(4)RH真空脱ガス設備への到着時とAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、共に押し込みを実施する(試験水準4)、(5)RH真空脱ガス設備への到着時とAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、押し込みはAl脱酸後のみ実施する(試験水準5)、(6)転炉出鋼時とRH真空脱ガス設備でのAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、押し込みはAl脱酸後のみ実施する(試験水準6)、(7)転炉出鋼時とRH真空脱ガス設備でのAl脱酸直前の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、押し込みはAl脱酸後のみ実施する(試験水準7)、の7つの試験水準で実施した。
この試験操業においては、転炉脱炭精錬終了時の溶鋼中炭素濃度を0.03〜0.04mass%に調整し、スラグ改質剤として金属Alの単体を使用した。これら7種類の試験水準での試験操業におけるスラグ改質剤の添加量及び添加時期並びにスラグ改質剤のスラグ中への押し込み時期を表4に示し、又、溶鋼中溶存酸素濃度、真空脱炭処理時の送酸量、脱炭時間、及び、スラグ中T.Fe濃度の推移を表5に示す。表4の備考欄には、本発明の範囲内の試験操業には「本発明例」、それ以外の試験操業には「比較例」と表示した。
これらの表に示すように、出鋼時にスラグ改質を実施していない試験水準3、試験水準4、試験水準5、並びに、出鋼時のスラグ改質剤添加量を抑えてスラグ中T.Fe濃度を溶存酸素と平衡する値よりも高くした試験水準2、試験水準6及び試験水準7では、RH真空脱ガス設備に到着したときの溶存酸素濃度は360〜750ppmと高い値であるのに対し、出鋼時にスラグ改質を実施した試験水準1では、未脱酸状態であるにも拘わらず、RH真空脱ガス設備に到着したときの溶存酸素濃度は150〜250ppmまで低下していた。
そして、試験水準2、試験水準3、試験水準4、試験水準5、試験水準6及び試験水準7では、溶存酸素は真空脱炭処理により消費され減少したが、試験水準1では真空脱炭処理により溶存酸素は250〜350ppmまで上昇していた。これに伴って試験水準1では真空脱炭処理中にスラグ中のT.Fe濃度が0.5〜1.3mass%程度上昇することが分かった。
又、これらの試験操業から得られた、転炉出鋼時の溶存酸素濃度とRH真空脱ガス設備への到着時の溶存酸素濃度との関係を図6に示し、真空脱炭処理終了後のAlによる脱酸前の溶鋼中溶存酸素濃度とRH真空脱ガス精錬終了時のスラグ中T.Fe濃度との関係を図7に示し、真空脱炭処理時において真空槽内に吹き込んだ脱炭用酸素ガスの送酸量とRH真空脱ガス精錬終了時のスラグ中T.Fe濃度との関係を図8に示し、RH真空脱ガス設備への到着時の溶鋼中溶存酸素濃度と真空脱炭処理時間との関係を図9に示す。
図6に示すように、出鋼時にスラグ改質を実施した試験水準1では、出鋼時にスラグ改質を実施していない試験水準3、試験水準4、試験水準5、並びに、出鋼時のスラグ改質剤添加量を抑えてスラグ中T.Fe濃度を溶存酸素と平衡する値よりも高くした試験水準2、試験水準6及び試験水準7に比較して、RH真空脱ガス設備への到着時の溶鋼中溶存酸素が低下していることが分かった。
図7に示すように、押し込みを行った試験水準3、試験水準4、試験水準5、試験水準6、試験水準7では、押し込みを行っていない試験水準1及び試験水準2に比較してRH真空脱ガス精錬終了時のスラグ中T.Fe濃度が安定して低いことが分かった。但し、試験水準3においては、Al脱酸前の溶存酸素濃度が高い場合に、RH真空脱ガス精錬時のスラグ中T.Fe濃度が高い場合が見られた。これは、Al脱酸前のT.Fe濃度が高いため、スラグ改質剤の添加量が不足して、T.Fe濃度を下げきれなかったものと思われる。
図8に示すように、試験水準2、試験水準3、試験水準4、試験水準5、試験水準6、試験水準7では、試験水準1に比較して真空脱炭処理時における脱炭用酸素ガスの使用量が少ないことが分かった。これは、試験水準2、試験水準3、試験水準4、試験水準5、試験水準6、試験水準7では溶鋼中の溶存酸素濃度が高く、少ない酸素ガス使用量で脱炭することができたためである。
図9に示すように、RH真空脱ガス設備への到着時の溶存酸素濃度が高い試験水準2、試験水準3、試験水準4、試験水準5、試験水準6、試験水準7では、試験水準1に比較して真空脱炭処理時間が短縮することが分かった。これは大量に存在する溶存酸素により脱炭反応が効率良く行われたためである。
これらの表及び図から以下の結論が得られた。即ち、試験水準1では、出鋼直後のスラグの温度及び流動性がまだ高い時期にスラグ改質を行うことにより、一旦2.0mass%程度以下にまで低下したスラグ中のT.Fe濃度が真空脱炭処理によって2.5〜3.0mass%程度まで上昇しており、スラグ改質が効率的でないことが分かった。又、試験水準2では、真空脱炭処理後のAl脱酸後にスラグ改質剤を添加しているものの、スラグ改質剤の押し込みを実施しておらず、この段階では既にスラグが固化しているため、スラグ改質剤の反応効率が低く、RH真空脱ガス精錬終了時のスラグ中T.Fe濃度は低下しない。そのため、試験水準1及び試験水準2では鋼の清浄性にバラツキが生じることが分かった。試験水準3では、真空脱炭処理は問題なく実施でき、処理後のスラグ中T.Fe濃度も低位になるが、Al脱酸前の溶存酸素濃度が高い場合には、スラグ改質剤の添加量を増やす必要があることが分かった。これに対して、試験水準4、試験水準5、試験水準6、試験水準7では、真空脱炭処理時間は試験水準3と遜色ない上に、少ないスラグ改質剤で安定してスラグ中のT.Fe濃度を低減可能であることが分かった。
実施例2と同一の工程により極低炭素鋼を溶製する際に、送酸脱炭終了後にスラグ改質剤を2回に分けて添加した場合と、1回のみ添加した場合とで、スラグ中のT.Fe濃度に差が生ずるか否かを調査した。
スラグ改質の条件としては、(1)RH真空脱ガス設備への到着時とAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、押し込みはAl脱酸後のみ実施する(試験水準1)、(2)RH真空脱ガス設備でのAl脱酸後に一括してスラグ改質剤を1回添加し、押し込みを実施する(試験水準2)、(3)RH真空脱ガス設備でのAl脱酸後に2回に分けてスラグ改質剤を添加し、押し込みは2回目の添加後のみ実施する(試験水準3)、の3つの試験水準で実施した。
この試験操業においては、転炉脱炭精錬終了時の溶鋼中炭素濃度を0.03〜0.04mass%に調整し、スラグ改質剤として金属Alの単体を使用した。これら3種類の試験水準での試験操業におけるスラグ改質剤の添加量及び添加時期並びにスラグ中T.Fe濃度の推移を表6に示す。
表6に示すように、真空脱炭処理終了以降に2回に分けてスラグ改質剤を添加し、添加したスラグ改質剤をスラグ中に押し込むことにより、スラグ上でスラグ改質剤同士が重なり合って、反応効率が悪化することが抑制され、少ないスラグ改質剤で効率的にスラグ中のT.Feを低減可能であることが分かった。
炭素濃度が0.03〜0.06mass%である約250トンの溶鋼を未脱酸のまま出鋼し、図1に示すRH真空脱ガス設備に搬送して極低炭素鋼を溶製する際に、スラグ改質時、スラグ上へのガス発生物質の添加の有無による溶鋼の清浄性への影響を調査した。
スラグ改質の条件としては、(1)RH真空脱ガス設備への到着時とAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加すると共に、ガス発生物質としての炭酸カルシウムを添加して、Al脱酸後に炭酸カルシウム共にスラグ改質剤をスラグ中に押し込む(試験水準1)、(2)RH真空脱ガス設備への到着時とAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加し、ガス発生物質としての炭酸カルシウムは添加せず、Al脱酸後にスラグ改質剤のみをスラグ中に押し込む(試験水準2)、(3)RH真空脱ガス設備への到着時とAl脱酸後の2回に分けてスラグ改質剤を添加するものの、ガス発生物質としての炭酸カルシウムは添加せず、又、スラグ改質剤のスラグ中への押し込みも行わない(試験水準3)、の3つの試験水準で実施した。
試験水準1〜3共に、RH真空脱ガス設備では、先ず、スラグ改質剤として100kgの金属Alの単体を取鍋内のスラグ上に上置き添加し、その後、真空脱炭処理し、次いで、溶鋼中の溶存酸素濃度を酸素センサーで測定し、溶存酸素を脱酸するために必要なAl量と製品の成分規格(Al濃度:0.02〜0.04mass%)とを満足するために必要な量の金属Alを添加した。
試験水準1では、その後、環流用Ar流量を3000Nl/min、真空槽内の圧力を66.7〜266.6Pa(0.5〜2torr)の状態に維持したまま、直径1〜10mm程度の炭酸カルシウムと直径10mm程度のスラグ改質剤としての金属Alとを1:2の質量比で混合した混合物を改質剤投入装置を介してスラグ上に添加し、投入シュートを用いて金属Al及び炭酸カルシウムをスラグ中に押し込んだ。取鍋内のスラグの組成は、CaO−SiO2 −Al2 O3 −MgO系であった。そして、金属Al及び炭酸カルシウムをスラグ中に押し込んでスラグを改質した後、溶鋼を数分間環流させて溶鋼の成分を調整し、RH真空脱ガス設備による精錬を終了した。
水準2では、水準1と同一のスラグ改質剤を添加し、投入シュートを用いて金属Alをスラグ中に押し込んだ後、水準1と同様に、溶鋼を数分間環流させて溶鋼の成分を調整してRH真空脱ガス設備による精錬を終了した。水準3では、溶鋼の脱酸後は、スラグ改質剤をスラグ上に上置き添加するのみとした。
その後、これらの溶鋼を連続鋳造機にてスラブ鋳片に鋳造し、熱間圧延、冷間圧延を経て薄鋼板製品とし、薄鋼板製品における酸化物系非金属介在物による表面欠陥の発生率を調査した。表7に、各試験における試験条件及び試験結果を示す。
表7に示すように、炭酸カルシウムを添加した試験では、改質剤の添加量が同一条件の試験水準2及び試験水準3の場合に比較して製品欠陥指数が最も低くなっており、清浄性が向上することが分かった。
本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス設備の概略縦断面図である。
本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス設備の概略平面図である。
スラグ改質剤のスラグ中への押し込みの有無によるスラグ改質効果を示す図である。
実施例1における転炉出鋼時の溶存酸素濃度と鋳造開始前のスラグ中T.Fe濃度との関係を示す図である。
実施例1におけるRH真空脱ガス設備での脱酸前の溶存酸素濃度と鋳造開始前のスラグ中T.Fe濃度との関係を示す図である。
実施例2における転炉出鋼時の溶存酸素濃度とRH真空脱ガス設備への到着時の溶存酸素濃度との関係を示す図である。
実施例2における真空脱炭処理終了後のAl脱酸前の溶鋼中溶存酸素濃度とRH真空脱ガス精錬終了時のスラグ中T.Fe濃度との関係を示す図である。
実施例2における真空脱炭処理時の送酸量とRH真空脱ガス精錬終了時のスラグ中T.Fe濃度との関係を示す図である。
実施例2におけるRH真空脱ガス設備への到着時の溶存酸素濃度と真空脱炭処理時間との関係を示す図である。
符号の説明
1 RH真空脱ガス設備
2 取鍋
3 溶鋼
4 スラグ
5 真空槽
8 上昇側浸漬管
9 下降側浸漬管
10 Ar吹き込み管
13 改質剤投入装置
14 投入シュート