JP4348107B2 - 樹脂被覆アルミニウム材およびこれを用いた成形品 - Google Patents

樹脂被覆アルミニウム材およびこれを用いた成形品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂被覆アルミニウム材およびこれを用いた成形品に関する技術分野に属し、詳細には、板状または条形状のアルミニウム材またはアルミニウム合金材(以下、アルミニウム材という)の少なくとも片面に樹脂被覆層が形成されている樹脂被覆アルミニウム材およびこれを用いた成形品に関し、特には、各種電子部品の筐体に用いられるプレス成形時の耐疵つき性と耐指紋付着性に優れ且つ導電性を有する樹脂被覆アルミニウム材およびこれを用いた成形品に関する技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
ノートパソコンなどに代表される電子機器に対して小型軽量化への要望が増大する中、これらに搭載されるCD-ROMドライブ、CD-RW ドライブ、DVD-ROM /RAM ドライブ、ハードディスクドライブ、フロッピーディスクドライブ、液晶ディスプレー等の各種電子部品に対しても、小型軽量化への要望がこれまでに増して強くなっている。これら電子部品の筐体には、従来鋼板が用いられる事例が多かったが、軽量化のために鋼板に代わって比重の軽いアルミニウム材(アルミニウム材またはアルミニウム合金材)が採用される事例が増えている。更には、近い将来、テレビ及びAV機器に対して搭載が予想されている記録装置においても、そのドライブ装置の筐体にアルミニウム材が使用されることが考えられる。
【0003】
これらの電子部品用筐体は金属材のプレス成形加工により製造される場合が多い。このうち純アルミニウム材は鋼板に比べ柔らかくプレス成形時に疵つきが生じやすいため、アルミニウム材の中でもブリネル硬さが40以上である比較的硬質のアルミニウム合金材を用いることが望ましい。しかし、その場合でも疵つきが生じやすい欠点を解消するには至らない問題があった。また、成形加工等の取り扱い作業時に付着する作業者の指紋が目立ちやすい問題があった。更にまた、成形加工に際して焼き付きなどを防止し成形性を向上させるためにはアルミニウム材表面に潤滑性を付与することが望まれている。
【0004】
元来、こうした電子部品の多くはパソコンなどの内部に搭載される中間製品であり、消費者の評価に晒されるパソコンなどの最終製品ほどには疵や指紋付着などの外観は重要視されていなかった。更に、電子部品筐体の疵や指紋の付着は電子部品本来の機能自体には何ら悪影響を及ぼすものではない。しかし、近年ではCD-ROMドライブ等の中間製品とパソコン等の最終製品の製造者が異なるケースが増えており、本来消費者の目に触れる機会の少ない中間製品に対しても最終製品並の厳しい外観品質が求められる事例が増えているのが実状である。
【0005】
アルミニウム材への疵つき防止および指紋付着防止や潤滑性向上のため、アルミニウム材表面に潤滑剤を含む各種有機樹脂による塗装を施してこれを被覆する方法が知られている。しかし、絶縁物である有機樹脂で被覆されたアルミニウム材は、当然のことながら電気絶縁体となる。
【0006】
一方、電子部品の誤作動等を防ぐため、その筐体に対してはアース性やシールド性が求められている。塗装アルミニウム材で製造された電子部品の筐体からアースを取るためには、筐体上の樹脂被覆を除去してアース端子を設置すれば可能である。しかし、コストダウン要請が強い昨今において、わざわざアース端子を設けることはコストの点から許容されがたく、例えば単に板バネなどの金属片を接触させただけで導通が取れる筐体が望まれている。
【0007】
電気絶縁物である樹脂で被覆された金属材に導電性を付与する方法として、特開平5−57239号公報(特許文献1)、特開平5−320934号公報(特許文献2)、特開平7−313930号公報(特許文献3)、特開平7−290253号公報(特許文献4)及び特開平7−314601号公報(特許文献5)等に、ニッケル、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属粉末やカーボンブラックなどの導電性粉末を樹脂被覆へ導入する方法が提案されている。また、特開平2001−205730号公報(特許文献6)には、特定の粒径や形状を有するニッケル粉末を樹脂被覆に導入する方法やその製造方法が提案されている。
【0008】
しかし、これらの方法では、未塗装アルミニウム材に比べて抵抗値が高くなる上、樹脂被覆中の導電性粉末の分散が悪い場合には導通が得られない問題があった。導電性粉末の添加量の増大により抵抗値は低減するが、その場合粉末の脱落や目視外観の悪化、樹脂被覆の破損が生じやすくなるため、導電性粉末の添加量増大にも限界があった。また、導電性粉末の添加量を増やすと、樹脂被覆中の粉末が目立つため、塗装材の外観を損ねる問題があった。またニッケル、金、銀、銅などの電気化学的にアルミニウムよりイオン化傾向が低い金属粉末を過剰に樹脂皮膜に導入した場合、湿度の高い環境などで使用あるいは保管すると電食反応を起こす可能性が高まり、アルミニウム材の耐食性が低下する問題があった。電気化学的に同等であるアルミニウム粉末を導入する場合は、電食による耐食性低下の危険性はないが、アルミニウム粉末の表面は非常に酸化しやすいため良好な導電性は得られない問題があった。さらにニッケル、金、銀、銅などの異種金属粉末が過剰に添加されると、製品をリサイクルした際にアルミニウム再生地金の中にこれらの不純物添加元素の含有率が高くなるため再生地金の品質が低下し、リサイクル性が低下するという課題が生じる。更には、通常この方法では、樹脂被覆を形成する塗料中に金属粉末などの導電性粉末を混入し塗装する方法により製造されているが、金属粉末は樹脂に比べて比重が数倍以上重いため塗料中に沈降が生じやすく、例えばロールコート法等によりコイル状の金属材に対し連続的に塗装を施す場合、塗料槽底部に導電性粉末の沈降が生じやすく、導電性粉末の樹脂被覆への均質な導入には工業上の制約が大きい問題があった。
【0009】
一方、通常工業的に製造される金属板は熱間及び冷間圧延により薄板状に製造されており、金属板表面は一定範囲の粗面を有している。この粗面を利用した導電性の付与方法として、特開平10−305521号公報(特許文献7)には、表面粗度がRa値で0.1μm以上の鋼板に対し、膜厚がRa×1.2(即ち、Raの1.2倍)〜Ra+0.8μmの範囲内にあり、コロイダルシリカと潤滑剤を含むエポキシまたはウレタン樹脂で被覆することを特徴とした導電性に優れたプレコート鋼板が開示されている。また、特開2002−206178号公報(特許文献8)には、表面粗度Raが0.1〜2μmであるアルミニウム材に対し、樹脂の付着量が0.01〜1g/m2 であるプレコートアルミニウム材が開示されている。この方法によれば、アルミニウム材表面の粗面凸部が被覆されないため、樹脂被覆層に導電性粉末を添加しなくても未塗装板と同等もしくはこれに近い導電性を付与する(得る)ことができるため、導電性粉末の分散不良に起因する抵抗値の増大や、導電性粉末充填率増大に伴う樹脂被覆の割れや粉末の脱離などの問題を一挙に解決したプレコート導電性金属板を得ることができる。
【0010】
しかしながら、この方法では金属板の粗面凸部に未被覆部分が残存しているため、近年益々厳しさを増している耐疵つき性や成形加工性への要求において、なお性能が不足する事例が見受けられるようになってきた。
【0011】
この他、特開平7−314602号公報(特許文献9)には、表面粗度がRaで0.8μm以下かつRzで5μm以下にあるアルミニウム材に対し、5μm以下の有機樹脂被覆層で被覆されており、粒径が10μm以下かつ樹脂被覆層厚みの1〜10倍の粉末状潤滑剤を樹脂100重量部に対し1〜30重量部含有し、該粉末状潤滑剤がワックス及び/又はフッ素樹脂であることを特徴としたプレス成形性に優れた電気、電子機器成形部品用樹脂被覆アルミニウム材が開示されている。
【0012】
しかし、この公報(特許文献9)に記載されたアルミニウム材は、アルミニウム材が破断することなくプレスによる絞り成形が可能であることを指向したものである。つまり、この公報(特許文献9)において、「プレス成形性に優れる」とは、円筒深絞り試験においてアルミニウム材が破断することなく絞り抜けることを意味しており、プレス成形後のアルミニウム材に生じる疵や外観に関する記載は全くなく、そもそも課題とはされていない。更にまた、この公報では樹脂被覆アルミニウム材の導電性は課題となっておらず、検討もなされていない。この公報には、「膜厚が0.05μm未満では均一にアルミニウム表面を被覆することが困難」という記載があることから、この公報に記載のものはアルミニウム材表面を電気絶縁物である樹脂で均一に被覆することを意図しており、この場合当然のことながら樹脂被覆アルミニウム材は電気絶縁体となる。
【0013】
【特許文献1】
特開平5−57239号公報
【特許文献2】
特開平5−320934号公報
【特許文献3】
特開平7−313930号公報
【特許文献4】
特開平7−290253号公報
【特許文献5】
特開平7−314601号公報
【特許文献6】
特開平2001−205730号公報
【特許文献7】
特開平10−305521号公報
【特許文献8】
特開2002−206178号公報
【特許文献9】
特開平7−314602号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、耐疵つき性や成形加工性、耐指紋付着性が良好であると共に、アース端子などを設けなくても表面に単に金属片を接触させるだけで導電性を得ることができる樹脂被覆アルミニウム材およびその成形品を提供しようとするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。本発明は、耐疵つき性や成形加工性、耐指紋付着性が良好であると共に、アース端子などを設けなくても表面に単に金属片を接触させるだけで導電性を得ることができる樹脂被覆アルミニウム材およびその成形品であり、上記目的を達成できるものである。
【0016】
このようにして完成されて上記目的を達成することのできた本発明は、樹脂被覆アルミニウム材およびその成形品に係わり、これは請求項1〜4記載の樹脂被覆アルミニウム材(第1〜4発明に係る樹脂被覆アルミニウム材)、請求項5記載の成形品(第5発明に係る成形品)であり、それは次のような構成としたものである。
【0017】
即ち、請求項1記載の樹脂被覆アルミニウム材は、表面粗度がRaで0.2〜0.6μmである板状または条形状のアルミニウム材の少なくとも片面に、平均膜厚が前記Ra(μm)の0.5〜3倍である樹脂被覆層であってポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂の1種以上と潤滑粒子とを含有する樹脂被覆層が形成されている樹脂被覆アルミニウム材であって、前記潤滑粒子がフッ素系樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ふっ化黒鉛、窒化硼素の1種以上であって200℃以上の融点を有し、かつ、前記潤滑粒子の平均粒径が前記Ra(μm)の10倍以下であると共に、前記潤滑粒子の樹脂被覆層中での量が1〜30質量%であり、更に前記樹脂被覆層の表面に先端部半径:10mmの真鍮製球状端子を0.4Nの荷重をかけて接触させた際の前記アルミニウム材との電気抵抗値の平均が1Ω以下であることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材である(第1発明)。
【0018】
請求項2記載の樹脂被覆アルミニウム材は、前記樹脂被覆層の表面の100×100μm2 の視野内において、樹脂被覆部分、アルミニウム露出部分、潤滑粒子露出部分が共に存在している請求項1記載の樹脂被覆アルミニウム材である(第2発明)。
【0019】
請求項3記載の樹脂被覆アルミニウム材は、前記樹脂被覆層が潤滑剤を含有しており、該潤滑剤がポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、脂肪酸アミドの1種以上であると共に、該潤滑剤の量と前記潤滑粒子の量との合計が前記樹脂被覆層中35質量%以下である請求項1または2記載の樹脂被覆アルミニウム材である(第3発明)。
【0020】
請求項4記載の樹脂被覆アルミニウム材は、前記樹脂被覆層中の樹脂成分が、ウレタン変性エポキシ樹脂および/または脂環骨格含有エポキシ樹脂である請求項1〜3の何れかに記載の樹脂被覆アルミニウム材である(第4発明)。
【0021】
請求項5記載の成形品は、請求項1〜4の何れかに記載の樹脂被覆アルミニウム材を用いて成形されたことを特徴とする成形品である(第5発明)。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、アルミニウム材(アルミニウム材またはアルミニウム合金材)の表面粗度はRa値で0.2〜0.6μmであることとしている。この理由は、次の通りである。
【0023】
Ra値が0.2μm未満の場合、樹脂被覆アルミニウム材の表面の光沢度が過剰に大きくなるため、指紋が付着したり微少な疵が付いた場合に目立ちやすくなり、樹脂被覆アルミニウム材は耐疵つき性や耐指紋付着性に劣ったものとなる。また、アルミニウム材に塗装を施した際に(樹脂被覆層を形成させた際に)、微細な凹凸を有するアルミニウム材の凸部が露出し難くなるため、樹脂被覆アルミニウム材の抵抗値が増大して導電性に劣ったものとなる。一方、Ra値が0.6μm超の場合、樹脂被覆アルミニウム材に曲げ加工を施した際に、アルミニウム材に割れが生じ易くなるため、前記曲げ加工が施された部分の樹脂被覆層においてスジ模様が目立つようになったり、前記樹脂被覆層に割れが生じ易くなる。従って、本発明において、アルミニウム材の表面粗度はRa値で0.2〜0.6μmであることが必要であるので、そのようにしている。
【0024】
なお、アルミニウム材の表面粗度をRa値で0.2〜0.6μmに調整する方法としては、アルミニウム材の圧延工程にて適切な表面粗さに調整された圧延ロールを使用して圧延する方法や、アルミニウム材に適切な条件でエッチングや研磨、ショットブラストを施す方法等が挙げられる。
【0025】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、導電性の発現機構は、アルミニウム材の凸部が樹脂被覆層の表面から適切な割合で露出していることにあり、そのようにすることが必要である。よって、樹脂被覆層の厚さはアルミニウム材の表面粗度Raとの相関を取る必要があり、樹脂被覆層の平均膜厚がアルミニウム材の表面粗度Ra(μm)の0.5〜3倍の膜厚にあることが必要であり、1〜2倍の膜厚にあることが望ましい。即ち、樹脂被覆層の平均膜厚がアルミニウム材の表面粗度Raの0.5倍未満の場合、アルミニウム材凸部の露出する割合が多すぎるため、樹脂被覆アルミニウム材の加工時のアルミニウム材の保護が不十分となって耐疵つき性が著しく悪化する。一方、樹脂被覆層の平均膜厚がアルミニウム材の表面粗度Raの3倍超の場合、アルミニウム材の粗面凸部が露出する割合が低下して抵抗値が著しく増大し、導電性が悪くなる。従って、本発明において、樹脂被覆層の膜厚は、アルミニウム材の表面粗度Ra(μm)の0.5〜3倍であることが必要であるので、そのようにしている。
【0026】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、樹脂被覆層は、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂の1種以上と潤滑粒子とを含有してなり、この潤滑粒子は、フッ素系樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ふっ化黒鉛、窒化硼素の1種以上であって200℃以上の融点を有し、かつ、この潤滑粒子の平均粒径が前記アルミニウム材の表面粗度Ra(μm)の10倍以下であることとしている。また、前記潤滑粒子の樹脂被覆層中での量は1〜30質量%(重量%)であることとしている。
【0027】
前記のように、潤滑粒子の平均粒径は前記アルミニウム材の表面粗度Ra(μm)の10倍以下であることとしている。潤滑粒子の平均粒径が前記アルミニウム材の表面粗度Ra(μm)の10倍超の場合、樹脂被覆層からの潤滑粒子の脱離が生じやすくなり、このため、耐疵つき性や加工性が悪化することになるからである。
【0028】
また、潤滑粒子の樹脂被覆層中での含有量は1〜30質量%であることとしている。潤滑粒子の含有量が1質量%未満の場合には十分な耐疵つき性を発現することができず、一方、30質量%超の場合には樹脂被覆層からの潤滑粒子の脱離が生じやすくなることに加え、樹脂被覆層の強度や凝集力、樹脂被覆層とアルミニウム材との密着性が低下し、結果として耐疵つき性や加工性が悪化することになるからである。上記耐疵つき性あるいは更に加工性等の点から、潤滑粒子のより好ましい含有量は3〜25質量%である。特に樹脂被覆面10μmの平方視野内(10×10μm2 の視野内)に該潤滑粒子が5個以上存在することが耐疵つき性を向上させる上で好ましい。
【0029】
更に、潤滑粒子は200℃以上の融点を有するものであることとしている。この理由は、次の通りである。樹脂被覆を設ける際、樹脂被覆層中に含まれるエポキシ樹脂などを短時間で完全に硬化せしめるため、200℃程度に加熱する必要がある。潤滑粒子の融点が200℃未満の場合は、潤滑粒子が溶融するために粒子形状を保持し得ないからである。粒子形状を保持し得ないと、耐疵つき性を向上させることが難しくなる。
【0030】
潤滑粒子は樹脂被覆層の摩擦係数を低減するため、加工性に有益であるほか、樹脂被覆層中に潤滑粒子が存在することにより、加工に際して疵つきを大幅に軽減することができる。一般に、加工時に生じる疵は金型とアルミニウム材の接触によって生じるが、その間に樹脂被覆層、とりわけ潤滑粒子が介在することで両者が直接接触する機会を減少せしめることができ、結果として加工時の疵つきを大幅に低減することができる。
【0031】
更にまた、樹脂被覆層に所定量の潤滑粒子が露出して存在することにより、反射光が散乱して樹脂被覆アルミニウム材の目視外観が白っぽくなるため、指紋が付着した場合においても、これが目立ちにくくなる利点を有する。
【0032】
特に好ましい潤滑粒子として、耐疵つき性に優れ、かつ塗料化した際に樹脂や希釈溶媒との比重差が小さく潤滑粒子の沈降が生じにくい点で、フッ素系樹脂、なかでもポリ4フッ化エチレンを挙げることができる。
【0033】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、樹脂被覆層に適用できる樹脂種はポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂の1種以上である。これらの樹脂はアルミニウム材との密着性に優れかつ成形時のアルミニウム材の変形に追随し易い。そのため加工時にアルミニウム材からの樹脂被覆層の剥離が生じ難いため、樹脂被覆アルミニウム材の耐疵つき性や成形加工性を向上することができるからである。これに対し、樹脂被覆層の樹脂として本発明の範囲以外の樹脂種、例えばポリオレフィン系樹脂を用いた場合には、前記の要件を満たさないため耐疵つき性などが悪くなり、不十分となる。
【0034】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、樹脂被覆層に含有させる潤滑粒子の種類としては、フッ素系樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ふっ化黒鉛、窒化硼素の1種以上であり、かつ所定の平均粒径と融点(フッ素系樹脂の場合)の条件を満たすものである必要がある。この場合、潤滑粒子の存在による耐疵つき性や耐指紋付着性向上の効果を得ることができる。これに対し、融点が本発明の下限値以下の潤滑粒子を適用した場合、樹脂被覆層の形成時の加熱に伴い潤滑粒子が溶融して粒子形状を保持し得ないため、所要の耐疵つき性を得ることができない。また、平均粒径が本発明の上限値を超える潤滑粒子を適用した場合は、加工時に潤滑粒子の脱離が著しくなるため、所要の耐疵つき性を得ることができない。
【0035】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材は、前述のように、樹脂被覆層の平均膜厚がアルミニウム材の表面粗度Ra(μm)の0.5〜3倍であることとしていることに起因して、アルミニウム材の凸部を樹脂被覆層の表面から適切な割合で露出させることができ、このため、導電性(表面に単に金属片を接触させるだけで得られるような導電性)を発現させることができ、例えば樹脂被覆層の表面に先端部半径:10mmの真鍮製球状端子を0.4Nの荷重をかけて接触させた際の前記アルミニウム材との電気抵抗値の平均が1Ω以下であるようにすることができる。
【0036】
そこで、更にまた、本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材においては、樹脂被覆層の表面に先端部半径:10mmの真鍮製球状端子を0.4Nの荷重をかけて接触させた際の前記アルミニウム材との電気抵抗値の平均が1Ω以下であることとしている。従って、本発明の樹脂被覆アルミニウム材もしくは該樹脂被覆アルミニウム材を用いた成形品は、特に樹脂被覆を除去するなどして導通用の端子を設ける必要がなく、単に成形品の表面に金属片(例えば、板バネ等)などを接触させるだけで、優れたアース性やシールド性を得ることができる。
【0037】
上記の方法(上記真鍮製球状端子を0.4Nの荷重をかけて接触させる方法)で測定した電気抵抗値が1Ωを超える樹脂被覆アルミニウム板を電子部品用筐体に使用した場合には、電磁波などに起因するノイズを完全に除去することは困難となる。特に、前記電子部品がドライブ装置である場合は、書き込みエラーや再生エラーが誘発されやすくなり、また、液晶ディスプレーである場合は、画像ノイズが発生しやすくなる。そのため、本発明においては、上記の方法で測定した電気抵抗値の平均が1Ω以下であることに規制する。
【0038】
以上よりわかるように、本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材は、耐疵つき性や成形加工性、耐指紋付着性が良好であると共に、アース端子などを設けなくても表面に単に金属片(例えば、板バネ等)を接触させるだけで導電性を得ることができる。
【0039】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、樹脂被覆層の表面の100×100μm2 の視野内において、樹脂被覆部分、アルミニウム露出部分と共に、潤滑粒子露出部分が存在していることが望ましい(第2発明)。この3種の部分の中、樹脂被覆部分はプレス成形時における疵つきを低減し、アルミ露出部分は導電性を確保することに役立ち、潤滑粒子被覆部分はプレス成形時における摩擦を低減して疵つきを防止することに役立つという作用効果がある。
【0040】
上記樹脂被覆部分、アルミニウム露出部分が共に存在し、更にこれらと共に潤滑粒子露出部分が存在し得ることは、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置(例えばニコン社製ESEM-2700 型及びエダックス社製Falcon型)(以下、SEM-EDAX装置という)にて観察可能であり、樹脂被覆面に対して観察領域を0.1μm平方(0.1×0.1μm2 )に絞り、加速電圧7kVにて構成元素を分析した際に、1は炭素とアルミニウム(樹脂被覆層の下部のアルミニウムが共に検出される場合が多い)、2はアルミニウム、3は潤滑粒子の構成元素(例えばポリ4ふっ化エチレンの場合は炭素とフッ素)が主な成分として定量検出されることで確認できる。
【0041】
その原理は、次の通りである。SEM-EDAX観察に際して、高真空下、SEM 電子銃から発射された電子が試料に飛び込むと、反射電子となったり、二次電子、特性X線、連続X線等を発生させる。このうち特性X線は元素により異なる固有のエネルギーを有しており、この特性X線がEDAX検出器に検知されると、その固有エネルギーが電圧パルスに変換される。この電圧値の相違と発生量の定量により、電子を照射した領域内に存在する元素を同定/定量する(同定し定量する)ことが可能である。従って、前記の方法にて前記の元素が検出されることにより、上記3種の部分の存在を確認できる。
【0042】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、樹脂被覆層の摩擦係数をなお一層低減させるため、樹脂被覆層中に潤滑剤を添加しても良い。潤滑剤を添加する場合、好ましい潤滑剤として、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、脂肪酸アミドの1種以上を挙げることができる。これらの潤滑剤は、そのまま用いるか或いは該潤滑剤の溶剤分散体を適用しても良い。これらの潤滑剤を添加する場合、その潤滑剤の量については、その潤滑剤の量と潤滑粒子の量との合計が樹脂被覆層中35質量%以下となるようにすることが望ましい(第3発明)。なお、潤滑剤の量と潤滑粒子の量との合計が35質量%超とした場合は、これ以上の摩擦係数の低減効果は得られず(35質量%の場合より樹脂被覆層の摩擦係数を更に低くすることはできず)、逆に樹脂被覆層(樹脂被覆物)の凝集力が低下して皮膜強度が下がったり、アルミニウム材との密着力が低下するなどして、耐疵つき性がむしろ悪化する問題が生じる傾向がある。
【0043】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材において、樹脂被覆層中の樹脂成分がウレタン変性エポキシ樹脂および/または脂環骨格含有エポキシ樹脂であることが望ましい(第4発明)。これらの樹脂は、特にアルミニウム材との密着性に優れかつ成形時のアルミニウム材の変形に追随する。そのため、これらの樹脂を樹脂被覆層中の樹脂成分として用いた場合、過酷な加工条件下においてもアルミニウム材からの樹脂被覆層の剥離が極めて生じ難く、このため、特に加工時の耐疵つき性に優れた性質を示す。
【0044】
本発明において、樹脂被覆層はアルミニウム材の両面に設けても片面のみに設けても良い。使用するアルミニウム材の種別について特に限定はなく純アルミニウム又は各種アルミニウム合金を適宜使用できるが、耐疵つき性向上の観点からはブリネル硬さで40以上のアルミニウム合金材を用いることが望ましい。板厚についても特に限定はない。なぜなら、これらの選択は成形品としての用途や要求特性に応じて決めればよいからである。
【0045】
アルミニウム材に樹脂被覆層を設ける方法は特に限定されないが、均質な厚みの樹脂被覆層を比較的容易に形成できるという生産性と、製造コストなど経済上の理由から、樹脂、樹脂硬化剤、潤滑粒子、潤滑剤、希釈溶媒などを混合して構成される塗料をコイル状のアルミニウム材に連続的に塗装する方法が好ましい。前記の塗料に対し必要に応じて、更に沈降防止剤、表面調整剤、界面活性剤、顔料などの各種添加剤を本発明の要件を損ねない範囲内において適宜添加することが可能である。
【0046】
一例として、コイル状のアルミニウム材に対し、前記の塗料をロールコート法等により均質な厚みに塗布し、これを200℃程度で焼き付けるなどして連続的に樹脂被覆層を設ける方法を挙げることができる。
【0047】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材を用いて成形すると、電子部品用筐体等として好適な成形品を得ることができる。本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材を用いて成形された成形品は、疵つきが無いか又は少なく、また、指紋が付着していても該指紋が目立ち難く、更に、アース端子などを設けなくても表面に単に金属片(例えば、板バネ等)を接触させるだけで導電性を得ることができる(第5発明)。
【0048】
本発明において、アルミニウム材には、純アルミニウム材、いわゆるアルミニウム材の他に、アルミニウム合金材も含まれる。
【0049】
【実施例】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
〔例A〕
下記の素材調整方法〔アルミニウム材素材調整法〕に則って調整したアルミニウム材を使用し、そのアルミニウム材の表面に表1〜2に示す構成を有する樹脂被覆層(樹脂皮膜)を形成させることにより、実施例1〜45に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.1〜45)を作製した。
【0051】
この樹脂被覆アルミニウム材は、より詳細には、次のようにして作製した。即ち、表1〜2に示す樹脂、硬化剤、潤滑粒子並びに潤滑剤を希釈溶剤に溶解し分散させた塗料を調整し、この塗料をバーコーターにてアルミニウム材の表面に所定の厚みに塗布して、これを200℃にて1分間保持して樹脂を硬化せしめることにより樹脂被覆層を形成した。なお、表1〜2に示す樹脂種、潤滑粒子種および潤滑剤種の詳細を表7、8および9に示す。
【0052】
このようにして作製した樹脂被覆アルミニウム材について、下記評価方法〔樹脂被覆アルミニウム材の評価方法〕により、その特性を評価した。この結果を表3〜4に示す。
【0053】
〔例B〕
実施例1と同様の方法にて、表5のNo.1〜15に示す構成を有する樹脂被覆層(樹脂皮膜)を形成させ、これにより比較例1〜15に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.1B 〜15B )を作製した。
【0054】
このようにして作製した樹脂被覆アルミニウム材について、実施例1と同様の方法により、その特性を評価した。この結果を表6に示す。
【0055】
〔例C〕
表5のNo.16 に示す構成を有する樹脂被覆層(樹脂皮膜)を形成させ、樹脂被覆アルミニウム材(No.16C)を作製した。このようにして作製した樹脂被覆アルミニウム材について、実施例1と同様の方法により、その特性を評価した。この結果を表6に示す。
【0056】
〔アルミニウム材素材調整法〕
アルミニウム材の素材として、アルミニウム−マグネシウム系合金板〔いずれも板厚0.5mm、品種−調質AA5052−H34(Mg含有量:2.2乃至2.8質量%)〕を用い、これを仕上圧延ロールにて仕上圧延した。このとき、仕上げ圧延ロールの表面粗度を変化させることにより、仕上圧延により得られた素板の表面粗度をRaで0.1〜1.0μmに調節した。
【0057】
上記仕上圧延により得られた素板をアルカリ脱脂した後、クロム付着量:20mg/m2 となるようにリン酸クロメート処理して中間層(リン酸クロメート皮膜)を形成した。このようにして得られたアルミニウム材を母材とした。即ち、このようにして得られたアルミニウム材の表面に樹脂被覆層(樹脂皮膜)を形成させた。
【0058】
〔樹脂被覆アルミニウム材の評価方法〕
(1) 導電性
樹脂被覆アルミニウム材の樹脂皮膜(樹脂被覆層)の一部をサンドペーパー研磨によって除去し、この樹脂皮膜が除去された部分に、端子の一方を接続し、他方を先端が半径10mmの球状の真鍮棒を介して樹脂被覆アルミニウム材の樹脂皮膜(樹脂被覆層)部分に接続し、樹脂被覆アルミニウム材の樹脂皮膜(樹脂被覆層)表面に真鍮棒の先端を0.4Nの荷重で接触させ、この状態で樹脂被覆アルミニウム材の表面抵抗値を測定した。つまり、樹脂被覆アルミニウム材の樹脂被覆層の表面に先端部半径:10mmの真鍮製球状端子を0.4Nの荷重をかけて接触させ、この端子と母材のアルミニウム材との間の電気抵抗値を測定した。
【0059】
このとき、真鍮棒の表面の酸化膜は表面抵抗値の測定値にばらつきを与えるため、測定前に真鍮棒の表面をサンドペーパーにて研磨した。また、テスターの内部抵抗の影響を取り除くため、測定前に真鍮棒の先端の測定部と反対電極とを接触させた状態でゼロ点補正を行った。また、測定にはテスターにおける最も敏感なレンジを使用し、テスターの表示が止まったときに抵抗値を測定値とした。測定は10ヶ所について行い、その平均値を採用した。
【0060】
(2) 耐疵つき性
プレス成形加工後の樹脂被覆アルミニウム材(板)に生じた疵の程度を目視評価により判定した。より詳細には、次のようにして試験を行った。
【0061】
供試材(樹脂被覆アルミニウム材)を幅40mm、長さ200mmの短冊状に切断し、樹脂被覆が施されている面を外側としてプレス曲げ加工を行った。この曲げ加工に際しては、供試材表面に揮発性プレス油(日本工作油製G-6216FA)を塗布し、樹脂被覆アルミニウム材の板厚の1.1倍のクリアランスを有する金型を使用して、油圧プレスにて90度曲げ加工を行った。
【0062】
上記曲げ加工の後、樹脂被覆アルミニウム材(板)の外側面を目視観察して疵の程度を目視評価した。疵が生じていないか極めて軽微なものを◎(優:耐疵つき性に後記○よりも優れる)、疵は生じているが、その範囲が幅方向の50%未満のものを○(良:耐疵つき性良好)、疵が幅方向の50%以上に渡って生じているものを△(後記×よりは良いものの耐疵つき性不充分)、樹脂被覆層が除去され、アルミニウム材のカジリが生じたものを×(耐疵つき性不良)とした。
【0063】
(3) 耐指紋付着性
樹脂被覆アルミニウム材の樹脂被覆面(樹脂被覆層の表面)を素手で触った際の指紋が付着する前後の色差(ΔE)を測定することにより、耐指紋付着性を評価した。このとき、色差は色彩色差計(ミノルタ社製CR-300型)を使用して測定した。なお、色差(ΔE値)が0.50以下の場合は、付着した指紋を肉眼で視認することは困難であった。
【0064】
(4) 摩擦係数
バウデン法により摩擦係数を測定した。この詳細を以下説明する。
測定装置として、平面の一軸方向に移動可能なテーブル上に樹脂被覆アルミニウム材を重ねて載置し、加重検出器が設置された鋼球(直径4.76mm=3/16インチ〕を先端部に有するアームを樹脂被覆アルミニウム材の上に配置して所定の荷重を印可した。
【0065】
摩擦係数の測定は、前記の鋼球を十分に脱脂処理した後、所定の速度で移動させて測定した。具体的な測定条件は、加重は垂直方向に1.96N(200gf)、移動速度は200m/分とし、テーブルを一軸方向に移動させることにより樹脂被覆アルミニウム材上で鋼球を滑らせたときに印加される水平方向の荷重を測定し、前記水平方向の荷重と前記垂直方向の荷重との比の値を求めることにより算出した。なお、摩擦係数の測定は3回行い、その平均値を採用した。
【0066】
(5) 表面状態
樹脂被覆層の表面状態を、走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分析装置(ニコン社製ESEM-2700 型及びエダックス社製Falcon型を適用)にて観察した。この観察の内容の詳細を以下説明する。
【0067】
樹脂被覆層中の潤滑粒子の有無などの表面形態を、任意の倍率で観察した。また、樹脂被覆層の表面の100μmの平方視野内(100×100μm2 の視野内)において、樹脂被覆部分、アルミニウム露出部分、潤滑粒子露出部分が共に存在しているかどうかを確認した。これは、観察領域を0.1μm平方(0.1×0.1μm2 )に絞り、加速電圧7kVにて構成元素を分析した際に、1は炭素とアルミニウム、2はアルミニウム、3は潤滑粒子の構成元素(例えば、フッ素樹脂の場合は炭素とフッ素)の検出の有無を確認することにより、行った。これらの検出が有って樹脂被覆部分、アルミニウム露出部分、潤滑粒子露出部分が共に存在していることが確認された場合、○とした。
【0068】
〔評価結果〕
例A(本発明の実施例)に係る樹脂被覆アルミニウム材についての特性評価の結果を表3〜4に示す。例B(比較例)に係る樹脂被覆アルミニウム材および例Cについての特性評価の結果を表5に示す。
【0069】
(アルミニウム材表面粗度及び樹脂皮膜膜厚の影響)
実施例1〜9に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.1〜9 )は、本発明に係るアルミニウム材の表面粗度Ra値や樹脂皮膜(樹脂被覆層)の平均膜厚等の要件を全て充たすものである。実施例1〜9に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.1〜9)は、いずれも優れた耐疵つき性や導電性、耐指紋付着性を有している。この中、樹脂被覆層の平均膜厚が本発明に係る樹脂被覆層の平均膜厚の上限値(アルミニウム材の表面粗度Ra値の3倍)のもの(No.2, No.4, No.6)では、やや電気抵抗値が上昇し、本発明に係る樹脂被覆層の平均膜厚の下限値(アルミニウム材表面粗度Ra値の0.5倍)のもの(No.1, No.3, No.5)では、耐疵つき性や耐指紋付着性がやや低下している。樹脂被覆層の平均膜厚がアルミニウム材表面粗度Ra値の1〜2倍のもの(No.7, No.9)は、耐疵つき性や導電性、耐指紋付着性を兼備している。
【0070】
アルミニウム材の表面粗度Ra値が、本発明に係るアルミニウム材の表面粗度Ra値の下限値(0.2μm)よりも、小さい比較例1に係る樹脂被覆アルミニウム材(表5〜6のNo.1)は、表面の光沢度が過剰に大きいため、指紋や疵が目立ちやすくなり、耐疵つき性や耐指紋付着性に劣ったものとなった。また、微細な凹凸が少なく平滑であるため、凸部が露出しにくく抵抗値が高く、導電性に劣ったものとなった。
【0071】
アルミニウム材の表面粗度Ra値が、本発明に係るアルミニウム材の表面粗度Ra値の上限値(0.6μm)よりも大きい比較例2及び3に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.2B 及び3B)は、摩擦係数が高いほか、アルミニウム材に曲げ加工を施した際に、曲げ加工が施された部分の樹脂被覆層でスジ模様が目立ち、耐疵つき性に劣ったものとなっていた。
【0072】
樹脂皮膜(樹脂被覆層)の平均膜厚が、本発明に係る樹脂被覆層の平均膜厚の下限値(アルミニウム材表面粗度Ra値の0.5倍)よりも小さい比較例4及び5に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.4B 及び5B)は、樹脂皮膜による被覆量が少ないため、導電性に優れるものの、耐疵つき性や耐指紋付着性に劣ったものとなっていた。
【0073】
樹脂皮膜(樹脂被覆層)の平均膜厚が、本発明に係る樹脂被覆層の平均膜厚の上限値(アルミニウム材表面粗度Ra値の3倍)よりも大きい比較例6及び7に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.6B 及び7B)は、耐疵つき性に優れるものの、アルミニウム材凸部の露出が少ないために導電性が悪化していた。
【0074】
なお、樹脂被覆層を設けていない比較例17に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.17D)の場合、当然のことながら、導電性に優れているものの、耐疵つき性や耐指紋付着性は大きく劣っていた。
【0075】
(樹脂種の影響)
実施例9〜13に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.9〜13)は、本発明に係る樹脂被覆層に含有される樹脂種等の要件を全て充たすものである。実施例9〜13に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.9〜13)は、いずれも優れた耐疵つき性や導電性、耐指紋付着性を有している。特に、ウレタン変性エポキシ樹脂(表1〜2中、エポキシ1と表示)や脂環骨格含有エポキシ樹脂(表1〜2中、エポキシ2と表示)が好ましい樹脂種であるといえる。
【0076】
本発明に係る樹脂種の範囲に含まれない樹脂種であるポリオレフィン系エマルジョン(表5中、オレフィン系と表示)を適用した比較例8に係る樹脂被覆アルミニウム材(のNo.8B )は、耐疵つき性に劣ったものとなっていた。
【0077】
(潤滑粒子の種別、平均粒径、融点及び含有量の影響)
実施例14〜23に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.14 〜23)は、本発明に係る樹脂被覆層に含有される潤滑粒子種等の要件を全て充たすものである。実施例14〜23に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.14 〜23)は、いずれも、優れた耐疵つき性や導電性、耐指紋付着性を有している。特に、フッ素系樹脂、中でもポリ4フッ化エチレンが好ましい潤滑粒子種であるといえる。
【0078】
実施例24〜29に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.24 〜29)は、本発明に係る樹脂被覆層中での潤滑粒子の含有量等の要件を全て充たすものである。実施例24〜29に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.24 〜29)は、潤滑粒子の含有量が本発明に係る潤滑粒子の含有量(1〜30質量%)の範囲から外れる比較例9〜12に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.9B 〜12B )に比べ、良好な耐疵つき性を示していることがわかる。
【0079】
樹脂被覆層が潤滑粒子を含まない比較例9及び10に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.9B 及び10B)は、成形加工に際しての疵つきが著しく生じ、耐疵つき性に劣るものであった。比較例10に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.10B)は、潤滑剤の添加により摩擦係数が低減しているが、潤滑剤のみでは耐疵つき性は改善できないことがわかる。
【0080】
樹脂被覆層中の潤滑粒子の含有量が本発明に係る潤滑粒子の含有量の上限値(30質量%)よりも多い比較例11に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.11B)は、成形加工の際に潤滑粒子の脱落が著しく、耐疵つき性や作業性に劣ったものとなった。なお、この場合には経済性が悪化するという欠点もある。即ち、潤滑粒子は樹脂に比べ高価であるものが多いため、比較例11の場合のように潤滑粒子配合量が増えると原材料費が総じて高価なものとなり、ひいては経済性が悪化する。
【0081】
潤滑粒子の含有量が本発明に係る潤滑粒子の含有量の下限値(1質量%)よりも少ない比較例12に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.12B)は、摩擦係数が大きく、耐疵つき性も劣っていた。
【0082】
潤滑粒子の粒径が本発明に係る潤滑粒子の平均粒径の上限値(アルミニウム材表面粗度Ra値の10倍)よりも大きい比較例13及び14に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.13B及び14B )は、成形加工の際に潤滑粒子の脱落が著しく、耐疵つき性や作業性に劣ったものとなった。
【0083】
潤滑粒子の融点が本発明に係る潤滑粒子の融点の下限値(200℃)よりも低温である比較例15に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.15B)は、耐疵つき性が低下した。これは、樹脂皮膜を硬化させる際の加熱により潤滑粒子が融解して粒子形状を保ち得なかったためと考えられる。
【0084】
(潤滑剤量の影響)
実施例30〜45に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.30 〜45)は、本発明に係る要件を全て充たし、更に本発明の第3発明に係る潤滑剤種および潤滑剤の量の要件を充たすものである。実施例30〜45に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.30 〜45)は、いずれも優れた耐疵つき性や導電性、耐指紋付着性を有しているほか、摩擦係数が一層低減し加工性に優れたものであった。
【0085】
例C(No.16C)に係る樹脂被覆アルミニウム材は、潤滑剤の量が本発明の第3発明に係る潤滑剤の量の上限値(潤滑剤の量と潤滑粒子の量との合計が樹脂被覆層中35質量%)よりも多い。この樹脂被覆アルミニウム材は、摩擦係数が低いが、上記実施例30〜45に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.30 〜45)に比べ、顕著な潤滑性向上効果は得られず、逆に耐疵つき性が低下した。これは、潤滑剤の含有量が多すぎて、樹脂皮膜の造膜性やアルミニウム材との密着性が低下したためと思われる。このほか、プレス成形時に皮膜から脱離したカスが金型内に堆積するといった現象が認められ、これは作業性上好ましくない現象である。従って、潤滑剤を含有させる場合、潤滑剤の量と潤滑粒子の量との合計が樹脂被覆層中35質量%となるようにすることが望ましい。
【0086】
(まとめ)
以上のように、本発明の実施例1〜45に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.1〜45)は、導電性、耐疵つき性、耐指紋付着性、成形加工性に優れており、本発明の目的を達成できるものであることが確認された。これらは、優れた導電性、耐疵つき性、成形加工性、耐指紋付着性を兼備しており、主に電子部品用筐体として好適な成形品を得ることができる。中でも、実施例31や34に係る樹脂被覆アルミニウム材(No.31 や34)は、導電性、耐疵つき性、成形加工性、耐指紋付着性などがバランス良く、特に好適である。
【0087】
これに対し、比較例1〜15(No.1B 〜15B )に係る樹脂被覆アルミニウム材は、導電性、耐疵つき性、成形加工性、耐指紋付着性等のいずれか或いは全ての性能において劣っていて不充分であり、このため、主に電子部品用筐体として好適な成形品を得ることができない。
【0088】
【表1】
Figure 0004348107
【0089】
【表2】
Figure 0004348107
【0090】
【表3】
Figure 0004348107
【0091】
【表4】
Figure 0004348107
【0092】
【表5】
Figure 0004348107
【0093】
【表6】
Figure 0004348107
【0094】
【表7】
Figure 0004348107
【0095】
【表8】
Figure 0004348107
【0096】
【表9】
Figure 0004348107
【0097】
【発明の効果】
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材は、耐疵つき性や成形加工性、耐指紋付着性が良好であると共に、アース端子などを設けなくても表面に単に金属片を接触させるだけで導電性を得ることができる。従って、本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材によれば、成形加工に際し、成形加工性に優れ、疵つきが無いか又は少なく、また、指紋が付着していても該指紋が目立ち難く、更に、アース端子などを設けなくても表面に単に金属片を接触させるだけで導電性を得ることができる電子部品用筐体等の成形品を得ることができる。

Claims (5)

  1. 表面粗度がRaで0.2〜0.6μmである板状または条形状のアルミニウム材の少なくとも片面に、平均膜厚が前記Ra(μm)の0.5〜3倍である樹脂被覆層であってポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂の1種以上と潤滑粒子とを含有する樹脂被覆層が形成されている樹脂被覆アルミニウム材であって、前記潤滑粒子がフッ素系樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ふっ化黒鉛、窒化硼素の1種以上であって200℃以上の融点を有し、かつ、前記潤滑粒子の平均粒径が前記Ra(μm)の10倍以下であると共に、前記潤滑粒子の樹脂被覆層中での量が1〜30質量%であり、更に前記樹脂被覆層の表面に先端部半径:10mmの真鍮製球状端子を0.4Nの荷重をかけて接触させた際の前記アルミニウム材との電気抵抗値の平均が1Ω以下であることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材。
  2. 前記樹脂被覆層の表面の100×100μm2 の視野内において、樹脂被覆部分、アルミニウム露出部分、潤滑粒子露出部分が共に存在している請求項1記載の樹脂被覆アルミニウム材。
  3. 前記樹脂被覆層が潤滑剤を含有しており、該潤滑剤がポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、脂肪酸アミドの1種以上であると共に、該潤滑剤の量と前記潤滑粒子の量との合計が前記樹脂被覆層中35質量%以下である請求項1または2記載の樹脂被覆アルミニウム材。
  4. 前記樹脂被覆層中の樹脂成分が、ウレタン変性エポキシ樹脂および/または脂環骨格含有エポキシ樹脂である請求項1〜3の何れかに記載の樹脂被覆アルミニウム材。
  5. 請求項1〜4の何れかに記載の樹脂被覆アルミニウム材を用いて成形されたことを特徴とする成形品。
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