JP4346933B2 - アブラナ科植物のs遺伝子型同定方法 - Google Patents

アブラナ科植物のs遺伝子型同定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アブラナ科植物の新規S遺伝子型特異的DNA断片及びこれを利用したアブラナ科植物のS遺伝子型同定方法に関する。さらに詳しくは、アブラナ科植物のS遺伝子型を同定することにより、アブラナ科植物の育種における系統選抜や、一代雑種品種や親系統の種子の純度検定を簡便に行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アブラナ科等の植物には、自家受粉しても受精、結実しない「自家不和合性」がみられる。自家不和合性は自己花粉を識別し、その発芽・伸長を特異的に阻害することで近親交配を阻害し、種の多様性を維持する重要な機構ともいえる。
【0003】
キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー等のアブラナ科の野菜では、この自家不和合性を利用して、均一性が高く、高生産性のF1ハイブリッド品種が盛んに作られている。しかし、より均一なF1ハイブリッド品種の育種には、自家不和合性に関連する親系統のS遺伝子に関する情報が必要である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
S遺伝子は、自家不和合性を制御する複対立遺伝子で、数多くの遺伝子型(S遺伝子型)が存在することが知られている。一般に花粉と雌しべのS遺伝子型が一致すると不和合性が引き起こされるが、S遺伝子型は表現型として外見に表れないため、従来自家不和合性は交雑して出来る種子数を調査することによってしか判定できなかった。しかしながら、S遺伝子型は同一種内に約50種類もあり、この方法によってS遺伝子型を同定するのは容易ではない。
【0005】
そこで、S遺伝子産物であり、めしべ柱頭に発現する特異的糖タンパク質を等電点電気泳動や免疫化学的手法によって分析する方法が最初に開発された(例えば、非特許文献1〜5参照)。これらの方法では、柱頭を5〜10個集め、可溶性タンパク質をリン酸緩衝液等で抽出し、等電点電気泳動を行う。S糖タンパク質の検出は、S糖タンパク質がコンカナバリンAに結合することから、コンカナバリンAをFITC(フルオレサインイソチオシアネート)標識して検出する方法が初めに報告され(例えば、非特許文献1参照)、コンカナバリンAを結合させた後にパーオキシダーゼを結合させてパーオキシダーゼ活性を検出する方法に改良された(例えば、非特許文献2参照)。しかし、コンカナバリンAはS糖タンパク質以外の糖タンパク質も検出することから、S糖タンパク質の抗体を用いた検出が行われるようになり(例えば、非特許文献3参照)、Sハプロタイプ同定法としての精度が高まった。
【0006】
しかし、これらの方法には以下のような問題点があった。
(1) 材料に柱頭が必要なため、Sハプロタイプの同定には、植物を栽培して開花させる必要がある。
(2) 等電点電気泳動を利用するため、分析にやや経費がかかり、分析技術の熟練も必要である。抗体を用いて分析する場合は、抗原となるS糖タンパク質の精製、抗体の作成が必要になり、さらに経費と技術の熟練が必要となる。
(3) S糖タンパク質を持たないSハプロタイプが複数あり(非特許文献5)、これらのSハプロタイプの分析には利用できない。
(4) 抗体を用いた分析であっても、S糖タンパク質以外のタンパク質を検出することがある(非特許文献3及び5)。
【0007】
次いで、S遺伝子DNAをサザンブロット分析(例えば、非特許文献5〜8参照)により分析する方法が開発されたが、以下のような問題点があった。
(1) 葉から抽出したDNAで分析できるため、開花前の段階で分析可能であるが、比較的多量のDNAが必要なため、DNA抽出作業に手間がかかる。
(2) 植物ゲノムDNAのサザンブロット分析は、ある程度の分析技術の熟練と、経費がかかる。
(3) 同じSハプロタイプであっても異なるバンドパターンを示す系統がある(非特許文献8)。
【0008】
また、S遺伝子DNAをPCR-RFLPにより分析する方法(例えば、非特許文献9〜16参照)も開発されたが、以下のような問題点があった。
(1) プライマーがSLG以外の遺伝子も増幅するため、Sハプロタイプの同定が行いにくい(非特許文献9)、あるいは、プライマーのSLG増幅特異性は高く、分析の精度が高くても、すべてのSLG対立遺伝子を増幅できるわけではない(非特許文献12)。
(2) SRKを増幅するプライマーは、すべてのSRK対立遺伝子を識別できるとは限らない(非特許文献15)。そのため、いくつかのプライマーを用いた分析結果を組み合わせて、Sハプロタイプを同定する必要がある。
(3) SLGを欠失するSハプロタイプがある(非特許文献5及び16)。
【0009】
ところで、種子は外見によって品種を識別することが非常に困難であるため、販売用種子の品質管理を目的として、他品種の種子の混入を確認したり、他品種との交雑や品種の取り違えの有無を、種々の手法を組み合わせて検査する必要がある。このための方法としては、生態的特性や形態的特性の調査を行う栽培試験による方法と、蛋白質や核酸を分析する生化学的手法がある。
【0010】
前者としては、幼苗での検定(栽培の初期に形態的特徴等による判断方法)や成体での検定(結実した果実などの形態的特徴等による判断方法)等がある。また、後者としては、種子蛋白質を電気泳動で分析する方法や、それぞれの品種の持つアイソザイム(同じ反応を触媒するが多様性のある酵素群)を電気泳動と活性染色等を組み合わせて分析する方法、あるいはPCR法を利用した核酸分析等が一般的である。
【0011】
しかし、栽培試験には、時間がかかる、再現性が乏しい、労力を要する等の問題がある。また、生化学的手法は、当該品種に特異的な表現形質と電気泳動のバンドパターンの相関関係の強さから推定を行うものであり、当該品種に特異的な遺伝子を直接の対象としたものではないため、確証が得られにくいという問題がある。
【0012】
最近、S遺伝子座といわれていたものは、Sレセプターキナーゼ遺伝子(SRK)、S糖タンパク質遺伝子(SLG)、花粉側認識分子遺伝子(SP11、又はSCRともいう)の複合遺伝子座であることがわかってきた(例えば、非特許文献17参照)。発明者らはこれらの遺伝子の塩基配列について種内変異を調査したところ、SRKとその相同遺伝子であるSLGには3つの超可変領域があり(例えば、非特許文献18参照)、SP11は、シグナルペプチド領域以外は極めて変異に富むことがわかった(例えば、非特許文献16参照)。
【0013】
【特許文献1】
特開平8-275779号公報
【非特許文献1】
Nishio, T and Hinata K. (1980) Euphytica 29:p217-221
【非特許文献2】
Hinata, K. and Nishio, T. (1981) Theor. Appl. Genet. 60:p281-283
【非特許文献3】
Nou, I. S. et al, (1993) Sex. Plant Rep. 6:p79-86
【非特許文献4】
Ruffio-Chable, V. et al, (1997) Theor. Appl. Genet. 94:p338-346
【非特許文献5】
Okazaki, K. et al, (1999) Theor. Appl. Genet. 98:p1329-1334
【非特許文献6】
Nasrallah, J.B. et al, (1985) A, Nature 318:p263-267
【非特許文献7】
Sakamoto, K. et al, (1998) Mol. Gen. Genet. 258:p397-403
【非特許文献8】
Kusaba, M. et al, 2000) Genetics 154 :413-420
【非特許文献9】
Brace, J. et al, (1993) Sex. Plant Reprod. 6:p133-138
【非特許文献10】
Nishio, T. et al, (1994) Plant Cell Rep. 13:p546-550
【非特許文献11】
Sakamoto, K. et al, (2000) Plant Cell Rep. 19:p400-406
【非特許文献12】
Nishio, T. et al, (1996) Theor. Appl. Genet. 92:p388-394
【非特許文献13】
Brace, J. et al, (1994) Sex. Plant Reprod. 7:p203-208
【非特許文献14】
Lim, S.-H. et al, (2002) Theor. Appl. Genet. 104:p1253-1262
【非特許文献15】
Nishio, T. et al, (1997) Theor. Appl. Genet. 95:p335-342
【非特許文献16】
Sato, K. et al, (2002) Genetics 162:p931-940
【非特許文献17】
Suzuki G et al, (1999) Genetics 153, p391-400
【非特許文献18】
Nishio T & Kusaba M, (2000) Annals of Botany 85 Suppl.A, p141-146
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
発明者らは、S遺伝子座に存在する変異に富んだ領域をプローブとしてサザンブロット分析等を行えば、目的とするS遺伝子型の特異的検出が可能となると考えた。
【0015】
すなわち、本発明の目的は、S遺伝子型特異的DNA断片、特にSP11とSRK遺伝子上に存在する該断片を利用した、簡便で精度が高いS遺伝子同定法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、数種の新規S遺伝子型DNA断片を同定するとともに、これらを特異的に検出しうるプローブを作製することに成功した。このプローブは特異性が高く、アブラナ科植物ゲノム上の他のDNA断片に結合することもないことから、S遺伝子型の同定に極めて有効であることがわかった。さらに、ドットブロット法を用いて検出を行えば、より簡便かつ迅速にS遺伝子型の同定が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(17)に関する。
(1) アブラナ科植物のS遺伝子座に存在する、花粉側認識分子遺伝子、Sレセプターキナーゼ遺伝子及びS糖蛋白質遺伝子からなる群より選ばれる少なくとも1に含まれる塩基配列からなり、S遺伝子型を特定できるDNA断片。
(2) アブラナ科植物のS遺伝子座に存在する、花粉側認識分子遺伝子及び/又はSレセプターキナーゼ遺伝子に含まれる塩基配列からなり、S遺伝子型を特定できるDNA断片。
(3) 配列番号1〜17、配列番号47〜83及び配列番号121〜127からなる群より選ばれるいずれか1の配列で特定される、上記(2)記載のDNA断片。
(4) アブラナ科植物の個体あるいは個体群からS遺伝子型を特定できるDNA断片を検出することによりS遺伝子型を同定する方法。
(5) 前記DNA断片が上記(1)〜(3)のいずれか1に記載のDNA断片である、上記(4)記載の方法。
(6) 上記(5)記載の方法を利用した、種子の純度検定方法又は品質管理方法。
(7) 上記(5)記載の方法を利用した、植物育種方法。
(8) 上記(7)記載の育種方法により作出された、植物体又は品種。
(9) 上記(1)〜(3)のいずれか1に記載のDNA断片を特異的に増幅するための、10〜50塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー。
(10) 上記(1)〜(3)のいずれか1に記載のDNA断片に特異的にハイブリダイズし、該断片を検出するためのプローブ。
(11) 配列番号18〜34、配列番号84〜120及び配列番号128〜134からなる群より選ばれるいずれか1の配列で特定される上記(10)記載のプローブ。
(12) 前記検出を上記(10)又は(11)記載のプローブを用いて行う、上記(5)記載の方法。
(13) 以下の工程を含むS遺伝子型同定方法。
1)植物より試料DNAを抽出する工程
2)上記試料DNAを支持体に固定する工程
3)S遺伝子型特異的DNA断片検出用のプローブを標識し、上記試料DNAにハイブリダイズさせる工程
4)上記標識をもとに、植物のS遺伝子型を同定する工程
(14) 以下の工程を含むS遺伝子型同定方法。
1)S遺伝子型特異的DNA断片検出用のプローブを支持体に固定する工程
2)植物より試料DNAを抽出し、これを標識する工程
3)上記標識試料DNAを支持体上のプローブにハイブリダイズさせる工程
4)上記標識をもとに、植物のS遺伝子型を同定する工程
(15) 上記(10)又は(11)記載のプローブを固定したS遺伝子型同定用の支持体。
(16) 前記支持体としてメンブレン、ガラス板、キャピラリー及びビーズからなる群より選ばれるいずれか1を用いた、上記(15)記載のS遺伝子型同定用の支持体。
(17) 以下の1)〜3)から選ばれる少なくとも1以上を含む、S遺伝子型同定用キット。
1)上記(9)記載のプライマー
2)上記(10)又は(11)記載のプローブ
3)上記(15)記載の支持体
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本明細書中において、DNAとは2本鎖DNAのみならずこれを構成する1本鎖DNAも含む。また、DNA断片とは全長DNAのみならずこれを構成する部分DNAを意味するものとする。
【0019】
1.S遺伝子型特異的DNA断片
本発明にかかるDNA断片は、アブラナ科植物ゲノムのS複対立遺伝子座(S遺伝子座)に存在する、S遺伝子型特異的DNA断片である。該DNA断片は、各S遺伝子型に特異的な塩基配列からなり、アブラナ科植物のS遺伝子型を特定するために利用できる。なお、本明細書中において「S遺伝子型」とは、種内変異に富んだ上記S遺伝子座に存在する多様な遺伝子型をいう。
【0020】
S遺伝子座には、前述したSレセプターキナーゼ遺伝子(SRK)、S糖タンパク質遺伝子(SLG)、花粉側認識分子遺伝子(SP11、又はSCRともいう)が含まれる。本発明のDNA断片は、アブラナ科植物の異なる個体より抽出したゲノムDNAから、S遺伝子座に存在する上記遺伝子の特異性の高い領域(SP11ではシグナルペプチド領域以外のコード領域)をPCR増幅し、得られたDNAをシークエンシングして比較することにより特定できる。
【0021】
たとえば、B. oleraceaの異なるS遺伝子型の個体から葯を採取し、これより公知の方法に基づいてSP11のmRNAを単離する。次に前記mRNAをもとに1本鎖cDNAを作製し、これを鋳型に公知のS遺伝子等を元に調製したプライマーを用いてS遺伝子を特異的にPCR増幅する。このPCR産物を公知の方法でクローニングし(たとえば市販のTA cloning Kit (Invitrogen社製)等を用いて)、DNAシーケンサーで塩基配列を決定する。
こうして決定されたDNA断片としては、たとえば、配列番号1〜17、配列番号47〜83及び配列番号121〜127で示される塩基配列を有するDNA断片が挙げられる。
【0022】
2.S遺伝子型特異的DNA断片増幅用プライマー
本発明にかかるプライマーは、アブラナ科植物のゲノムDNAより前記S遺伝子型特異的DNA断片を特異的にPCR増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーであって、該DNA断片の配列をもとに市販のプライマー設計ソフト等を用いるなど、公知の方法により作製することができる。前記プライマーは15〜50塩基長、特に15〜25塩基長であることが好ましい。該プライマーとしては、たとえば、SP11については配列番号35〜46で特定されるオリゴヌクレオチド等を挙げることができる。
【0023】
3.S遺伝子型特異的DNA断片検出用プローブ
本発明にかかるプローブは、前記S遺伝子型特異的DNA断片に特異的にハイブリダイズし、該DNA断片を検出するためのプローブである。前記プローブの長さは特に限定されないが、好ましくは100〜300塩基長、より好ましくは150〜220塩基長であることがよい。該プローブは、また、アイソトープ、酵素、蛍光物質、ジゴキシゲニン(DIG)等により、標識されていてもよい。
【0024】
前記プローブは、本発明のS遺伝子のうち特にS遺伝子型の特異性が高い領域の配列をもとに作製することができる。該プローブとしては、たとえば、SP11であれば配列番号18〜34及び配列番号128〜134で特定される塩基配列を含むヌクレオチド等を挙げることができる。またSRKであれば配列番号84〜120で特定される塩基配列を含むヌクレオチドを挙げることができる。
【0025】
4.S遺伝子型同定方法
本発明にかかるS遺伝子型同定方法は、アブラナ科植物個体のゲノムDNAからS遺伝子型特異的DNA断片を検出することにより、そのS遺伝子型を同定する方法である。該S遺伝子型特異的DNA断片としては、たとえば1.記載の配列番号1〜17、配列番号47〜83及び配列番号121〜127で特定されるDNA断片が挙げられる。本発明の方法の対象はアブラナ科植物であれば特に限定されない。本明細書の実施例では、その例として、Brassica oleraceaとRaphanus sativusのS遺伝子型同定方法について記載した。
【0026】
前記検出の方法は特に限定されず、従来のサザンブロット法、PCR-RFLP法、PCR-SSCP法、ドットブロット法、マイクロアレイや遺伝子チップ等の固相化試料を利用した核酸ハイブリダイゼーション法を用いることができる。
【0027】
例えば、本発明のS遺伝子型同定方法は、以下の工程により実施できる。
1)植物より試料DNAを抽出する工程
2)上記試料DNAを支持体に固定する工程
3)S遺伝子型特異的DNA断片検出用のプローブを標識し、上記試料DNAにハイブリダイズさせる工程
4)上記標識をもとに、植物のS遺伝子型を同定する工程。
【0028】
また、本発明のS遺伝子型同定方法は、以下の工程により実施できる。
1)S遺伝子型特異的DNA断片検出用のプローブを支持体に固定する工程
2)植物より試料DNAを抽出し、これを標識する工程
3)上記標識試料DNAを支持体上のプローブにハイブリダイズさせる工程
4)上記標識をもとに、植物のS遺伝子型を同定する工程
【0029】
ここで、「試料DNA」は、たとえば、植物の葉や種子等を破砕し、適当な抽出液で抽出するなど、公知の方法にしたがって調整すればよい。また、試料DNAやプローブを固定する「支持体」は、特に限定されず、たとえば、メンブレン(たとえば、ナイロンメンブレン等)、ガラス板、キャピラリー、ビーズ(たとえば、ガラスビーズ等)を用いることができる。該支持体への試料DNAやプローブの固定も、特に限定されず、公知の方法にしたがって実施できる。特にプローブの場合は、予め調整したプローブを支持体に固定する方法のほか、支持体上でプローブを合成する方法であってもよい。
【0030】
前記「S遺伝子型特異的DNA断片検出用のプローブ」は、3.に記載した、本発明のS遺伝子型特異的DNA断片を特異的に検出するためのヌクレオチドであって、たとえば、配列番号18〜34、配列番号84〜120及び配列番号128〜134で特定される塩基配列を含むポリヌクレオチドを挙げることができる。試料DNAやプローブの「標識」は、アイソトープ標識、酵素標識、蛍光物質標識、ジゴキシゲニン(DIG)標識など、公知の任意の標識を用いることができる。
【0031】
なお、本発明のS遺伝子型同定方法は、従来のS遺伝子型同定方法に比較して以下の点で優れている。
(1) 電気泳動法を使わないので、多検体分析が容易である。
(2) 従来の電気泳動法はバンドパターンから判別するため、異なるものの識別は容易であるが、バンドパターンが似ているSハプロタイプの同定は容易ではないのに対し、本発明の方法はプローブが存在するSハプロタイプは全て同定が可能である。
(3)1試料あたりに要する費用が安い。
【0032】
以下に、本発明のS遺伝子型同定方法の好適な態様として、ドットブロット法を用いた方法について説明する。ドットブロット法とは、適当なメンブレンにDNAやRNA試料を変性、固定し、これに特異的なプローブをハイブリダイズさせることにより、試料中の特異的な配列を定量又は同定する方法である。この方法では、植物DNAの試料は、従来のサザンブロット法やPCR-RELP法のように精製度の高いDNA試料を用いる必要が無いという利点がある。たとえば、用いるDNA試料は、抽出液中で植物組織(葉や種子)を破砕し、60℃程度の高温でDNAを抽出し、遠心分離した上清を直接メンブレンに付け、アルカリ液でDNAを変性させるだけでもよい。
【0033】
本発明のドットブロット法で用いられるメンブレンの素材や大きさは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、特にナイロン製メンブレンが好ましい。
【0034】
メンブレンへのDNAの付着方法は特に限定されず、ピペットで一つずつ付着させても、市販の96穴のドットブロット装置を用いてもよいが、ピンの先端にDNAを付着させて写し取る器具を用いるとより効率的である。ただし、検出の精度を高めるために、付着させるDNA量をそろえることが必要で、そのために、植物組織と抽出液の量比を一定にし、破砕の程度やメンブレンに移す液量を一定にする。
【0035】
たとえば、ある実施態様においては、8cm×12cmのナイロンメンブレンに96試料、あるいは384試料の植物DNAを付着させ、SP11遺伝子の特異性が高い領域をプローブとしてS遺伝子型特異的DNA断片を検出することで、S遺伝子型を同定することが出来る。
【0036】
ドットブロット法では、プローブのハイブリダイズを検出するために、通常何らかの方法によりプローブを標識することが必要となる。前記標識方法は特に限定されず、アイソトープ標識、酵素標識、蛍光物質標識など公知のいずれの標識方法を用いても良いが、ジゴキシゲニン(DIG)標識が好ましい。DIG標識プローブは、抗DIG抗体−アルカリ性フォスファターゼ複合体を用いてプローブが結合した試料の位置を検出することができる。
【0037】
以上のような植物体のDNAをメンブレンに付着させるドットブロット法は、その植物体のS遺伝子型についてある程度の予備情報がある場合はよいが、全く予備情報がない場合は、種内に存在するS遺伝子型(約50種類)を順番にプローブとして分析する必要があり、煩雑になる。このような場合には、S遺伝子型DNA断片を特異的に検出しうる本発明のプローブをメンブレンにドットブロットする方法を用いることが好ましい。
【0038】
前記のプローブを固定する方法では、プローブの代わりに試料である植物体ゲノムDNAを標識し、植物DNAが結合するメンブレンの位置からそのS遺伝子型を判定する。植物体DNAの標識は、たとえばジゴキシゲニンやアイソトープ等で標識したデオキシヌクレオチドを基質として、植物体DNAを本発明のプライマーを用いてPCR増幅すればよい。この場合、鋳型に用いる植物DNAは、CTAB(Cetyl trimethyl ammonium bromide)法などにより精製したある程度精製度が高いものを用いることが望ましい。
【0039】
前記PCR増幅で用いるプライマーの数や種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、特定の塩基配列に関する2対(フォワードとリバース)では、種内に存在する多数のS遺伝子型の全てを増幅できないので、複数の塩基配列のプライマーを混合して用いることが好ましい。
【0040】
5.S遺伝子型同定用支持体及びキット
本発明はまた、S遺伝子型同定方法に利用される、支持体を提供する。該支持体は、前述した本発明のプローブを、適当な支持体に固定して作製される。プローブを固定する支持体は特に限定されないが、特に、メンブレン(たとえば、ナイロンメンブレン等)、ガラス板、キャピラリー、ビーズ(たとえば、ガラスビーズ等)が好ましい。また、該支持体への試料DNAやプローブの固定は特に限定されず、公知の方法にしたがって行うことができる。特にプローブの場合は、予め調整したプローブを支持体に固定する方法のほか、支持体上でプローブを合成する方法であってもよい。
【0041】
たとえば、ガラス板を支持体としたマイクロアレイは、市販のDNAマイクロアレイ作製用の装置を用いて、ガラス板上に本発明のプローブを整列・付着させるなど、公知の方法に基づいて作製できる(新遺伝子工学ハンドブック 羊土社、p280-284,(2000))。好ましくは、同一S遺伝子型に由来するSP11用プローブとSRK用プローブを対応する位置に整列させ、両方に結合することを指標とすれば、S遺伝子型同定の精度を高めることが出来る。
【0042】
さらに、本発明は、前記S遺伝子型特異的DNA断片増幅用プライマー及び該断片検出用プローブ、ならびにS遺伝子型同定用支持体から選ばれる少なくとも1以上を含む、S遺伝子型同定用のキットを提供する。かかるキットには上記必須要素の他、該同定方法に必要な他の試薬等を含めてもよい。
【0043】
6.S遺伝子型同定方法の利用
本発明のS遺伝子型同定方法は、種子の純度検定方法や品質管理方法、あるいは植物の育種方法にも利用することができる。
【0044】
たとえば、育種における利用方法としては、幼苗時期にS遺伝子型を同定し、早期個体選抜を行う、個体選抜の後、交配前にS遺伝子型の判定(ホモ、ヘテロの確認も含む)を行う等の方法が考えられる。このことにより、育種に要する栽培面積や労力の削減、育種期間の短縮等が考えられる。また、S遺伝子座近傍に存在する有用遺伝子及び/又は、有害遺伝子についても、栽培の極初期にS遺伝子型を同定することで、該遺伝子を有する個体選抜を行い、育種の効率化を図ることができる。また、F2世代のS遺伝子型を調べることにより、親系統の種子の純度検定を行うこともできる。
【0045】
さらに、本発明のS遺伝子型同定方法により、種子の生産から種苗の販売に至る間に、均一であるべき販売用種子への他品種種子の混入率や品種の取り違えの有無等を、栽培試験をすることなく、従来法より確実に調査することができる。かくして、本発明のS遺伝子同定方法は、種子の純度検定及び育種の品質管理方法にも利用できる。
【0046】
【実施例】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
実施例1:B. oleraceaのS遺伝子型特異的SP11及びSRK DNA断片の特定
1.B. oleraceaからのSP11及びSRKの単離
B. oleraceaの異なるS遺伝子型の個体から葯を採取し、Micro Fast Track mRNAIsolation Kit (Invitrogen)を用いてmRNAを単離した。100ngのmRNAをもとにFirst Strand cDNA synthesis Kit (Amersham-Pharmacia)を用いて1本鎖cDNAを得た。これを鋳型としてpSP11-1(5’-ATGAAATCTGCTATTTATGCTTTATTATG-3’:配列番号44)及びNotI-d(T)18 (Amercham Pharmacia Biotec)をプライマーとして1回目のPCRを行った。さらに、特異性を高めるためにそのPCR産物を鋳型としてpSP11-2(5’-TTCATATTCATCGTTTCAAGTC-3’:配列番号45)及びRT-1(5’-ACTGGAAGAATTCGCGGC-3’:配列番号46)をプライマーとして2回目のPCRを行った。このPCR産物をTA cloning Kit (Invitrogen)によりpCR2.1 vectorに挿入し、クローニングして、DNAシーケンサー(CEQ2000, Beckman Coulter)で塩基配列を決定した。
B. oleraceaの異なるS遺伝子型の個体から柱頭を採取し、上記と同様の手法で各SRKの塩基配列を決定した。
【0048】
2.S遺伝子型検出用の SP11プローブの作製
S遺伝子型検出用のSP11プローブは、上記SP11遺伝子のうち特にS遺伝子型の特異性が高い領域(保存性が高いシグナルペプチド部分の配列を除いた領域:以下、「SP11*」と記載する)の配列をもとに作製した。同様にS遺伝子型検出用のSRKプローブは上記SRK遺伝子のうち特にS遺伝子型の特異性が高い領域(保存性が高いシグナルペプチド部分の配列を除いた領域:以下、「SRK*」と記載する)の配列をもとに作製した。
【0049】
表1に、1.で同定したSP11遺伝子と対応する各S遺伝子型検出用のSP11*プローブ(「SP11*プローブ」)の配列番号を記載する。また、表2にSRK遺伝子と対応する各SRK*プローブの配列番号を記載する。
【0050】
【表1】
Figure 0004346933
【0051】
【表2】
Figure 0004346933
【0052】
実施例2:ゲノムDNAのドットブロットによるS遺伝子型の同定
東北大学農学部植物遺伝育種学研究室で系統保存しているB.oleracea のSテスターライン(S遺伝子型の異なる系統)のうちS5, S6, S7, S8, S9, S12, S13, S14, S15, S25, S29, S32, S57, S58, S60, S65の16系統と、B.oleracea のS39×緑嶺の自殖後代から選んだ16個体を用いた。
【0053】
1.ゲノムDNAの調製
ゲノムDNAの単離はCTAB(Cetyl trimethyl ammonium bromide)法の粉砕・抽出過程を改変して行った。上記B.oleraceaの葉3gを液体窒素を用いて凍結粉砕し、2×CTAB溶液(2%CTAB, 100mM Tris-HCl pH8.0, 1.4M NaCl, 20mM EDTA)6ml、1×CTAB溶液3ml、10%CTAB溶液0.5mlを混合した液でDNAを抽出した。クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)によりタンパク質を除去後、CTAB沈殿buffer(1%CTAB, 50mM Tris-HCl pH8.0, lmM EDTA)を添加して析出させたCTAB-DNAを紡ぎ、NaCl-TE(1MNaCl,10mM Tris-HCl pH8.0,1mM EDTA)に溶かした。イソプロパノールを加え、析出したDNAをエタノールで洗浄した。風乾後、1×TEに溶かし、RNase処理を行った。
【0054】
DNAの濃度の均一性が重要なため、電気泳動後のエチジウムブロマイド染色による濃度の測定とともに、DQ200 DyNA Quant TM 200 Fluorometer(ファルマシア社製)を用いた測定も行った。
【0055】
2.試料DNAのブロッティング
各系統のゲノムDNA1μg、2μg、5μgをそれぞれアルカリ変性と熱変性により1本鎖にしてからメンブレン(Nytran N:Schleicher & Schuell社製)にドットブロットし、その後中和処理した。これを、GS GENE LINKER(BIO-RAD社製)を用いて紫外線にあてた後、80℃で1時間ベイキングした。
【0056】
3.試料DNAの標識
次に、S8、S12、S57遺伝子型のSP11 cDNAを挿入したプラスミドDNAをテンプレートに、SP11 を増幅するプライマーを用いて基質にジゴキシゲニン(DIG)標識されたdNTPを加えたPCR反応を行うことでDIG標識した。なおPCR反応は0.1×SSC, 0.1%SDS、68℃で行った。
各系統ゲノムDNAをメンブレンにドットブロットし、S7、S12、S32遺伝子型のDNAを実施例1で作製したSP11* プローブを用いて検出した。
【0057】
4.結果
S7遺伝子型を有する個体群のSP11* プローブを用いた場合は、S7、S9遺伝子型の植物体にシグナルが検出され、S12遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブを用いた場合は、S12遺伝子型を有する植物体にのみシグナルが検出され、S32遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブを用いた場合は、S32遺伝子型を有する植物体にのみシグナルが検出された(図1)。上記S7遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブで検出されたS9遺伝子型の植物体は、後の分析で、S7遺伝子型であることがわかったので、本方法は系統の混入の検出にも有効であることがわかった。
【0058】
実施例3:プローブのドットブロットによるS遺伝子型の同定
メンブレンに、各S遺伝子型の非標識のSP11*を10倍の濃度勾配をつけてドットブロットした。プローブには、ゲノムDNAをテンプレートに、次の2つの方法でジゴキシゲニン(DIG)ラベルしたものを用いた。
1. 両側プライマーを用いたラベル:
ゲノムDNAをテンプレートに、S8遺伝子型を有する個体群のSP11 *を増幅するプライマーを用い、DIGラベルした。PCRは、93℃30秒・55℃30秒・72℃30秒を30サイクルで行った。
2. 片側プライマーを用いたラベル
ゲノムDNAをテンプレートに、SP11-A-Fを用い、DIGラベルした。PCRの反応条件は、93℃30秒・55℃30秒・72℃10秒を80サイクルで行った。用いたプライマーを表3に示す。
【0059】
【表3】
Figure 0004346933
【0060】
PCRラベルの場合フォワードプライマーとリバースプライマーを組み合わせて使用するが、全て混合してもよい。
また、片側PCRラベルの場合フォワードプライマーかリバースプライマーのどちらかを使用。それぞれ混合してもよい。
検出は実施例2と同様に行った。
【0061】
メンブレンにS7とS8遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブをドットブロットし、S8遺伝子型を有する個体群のSP11*領域を増幅するプライマーを用い、S8遺伝子型を有する個体群のゲノムDNAをテンプレートに、PCR法でDIGラベルしたものを使って検出したところ、S8遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブにのみシグナルが検出された(図2)。
【0062】
片側プライマーを用いたラベル法でも、メンブレンに濃度勾配をつけたS7、S8、S12、S32遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブをドットブロットし、S32ゲノムDNAをテンプレートにDIGラベルして、プローブとして用い検出したところ、S32遺伝子型を有する個体群のSP11*プローブにのみシグナルがみられた(図3)。
【0063】
3.結果
以上より、ゲノムDNAをテンプレートに、数種の片側のプライマーでラベルする方法と、数種の両側のプライマーでラベルする方法の両方が利用できることがわかった。ラベルの効率はプライマーが両側の方が優れていて、片側プライマーでラベルする方法はシグナルが薄く、両側のプライマーを用いた方がよいと思われた。しかし、片側プライマーは今回設計したプライマーだけで既に多くのS遺伝子型をラベルでき、プライマーを混ぜるとしても少しでよいという利点を持ち、両側プライマーの方はもう一方のプライマーの設計が困難で、混ぜるプライマーの数が多くなるという問題があった。
【0064】
実施例4:ゲノムDNAのサザンブロットによるS遺伝子型の同定
実施例2で用いたB.oleracea のSテスターライン16系統について、S57遺伝子型のSP11 cDNA配列(表1のBoSP11-57(配列番号14))をプローブ(SP11-57プローブ)としてサザンブロッティングを行った。結果を図4に示す。
図4から明らかなように、SP11-57プローブはS57遺伝子型のテスターライン(S57ハプロタイプをホモで有する)と特異的に反応した。
【0065】
実施例5:SP11*プローブとSP11プローブを用いたS遺伝子型同定(ドットブロット法)の比較
シグナルペプチド部分の配列を含むSP11プローブとシグナルペプチド部分の配列を含まないSP11*プローブについて、その特異性を比較検討した。試験は、実施例2に準じて、B.oleracea Sテスターライン16系統を対象に、(a)SP11-25プローブ、(b)SP11-32プローブ、(c)SP11-12*プローブ及び(d)SP11-32*プローブをプローブとしてドットブロット法で行った。結果を図5に示す。
【0066】
図5から明らかなように、SP11-25プローブはS25個体と特異的に強く反応したが、SP11-32プローブはこのプローブが認識するS32以外のS遺伝子型個体とも低濃度で交差反応を示した。一方、SP11-12*プローブ及びSP11-32*プローブは、それぞれのプローブが認識するS遺伝子型の個体と特異的に強く反応した。なお、SP11-32*は、高濃度でS13個体とも反応が認められたが、この程度の反応は実使用上問題にはならないと考えられた。すなわち、シグナルペプチド領域を除去したSP11*プローブを用いることにより、S遺伝子型をより特異的に検出できることが確認された。
【0067】
実施例6:SP11*プローブを用いた親系統の純度検定
種子の中にはホモで採種しても花粉の混入によりヘテロになるものもある。そこで、F2集団を用いて純度検定にドットブロットが使用できるかどうかを検討した。試験は、B.oleraceaのS18遺伝子型とS39遺伝子型のホモ個体同士を交配したF2世代を対象に、(a)SP11-18*プローブ及び(b)SP11-39*プローブを用いてドットブロット法で行った。結果を図6に示す。
【0068】
その結果、ホモ個体ではシグナルが強く現れ、ヘテロ個体ではシグナルが弱く現れることが確認された。つまり、SP11*プローブを用いたS遺伝子型同定方法は、親系統の種子の純度検定にも使用可能であることが実証された。
【0069】
実施例7:SP11*プローブを用いたS7ホモ個体とS18/S39ヘテロ個体の識別
各SP11*プローブをそれぞれ1/1、1/10、1/100及び1/1000に希釈してナイロンメンブレンにドットブロットした。一方、CATB法により抽出したB.oleracea S7ホモ個体及びS18/S39ヘテロ個体のゲノムDNAをPCRによりDIGラベルし、これを前述のドットブロットと反応させて検出を行った。結果を図7((a)S7ホモ個体、(b)S18/S39ヘテロ個体)に示す。
【0070】
図7から明らかなように、S7ホモ個体のサンプルはSP11-7*プローブとのみ特異的に反応し、S18/S39ヘテロ個体はSP11-18*プローブ及びSP11-39*プローブと特異的に反応した。
【0071】
実施例8:SP11*プローブによるS18ホモ個体及びS15ホモ個体の識別
CATB法により抽出したB.oleracea S18ホモ個体及びS15ホモ個体(合計48個体)のゲノムDNAをランダムにドットブロットし、SP11-18*プローブ及びSP11-15*プローブを用いて検出を行った。
図8(B)はブロットの方法を模式的に示したものである。ブロットは、1個体につき2反復でドットブロットし、左斜線上のドットは右斜線よりも2倍量のDNAがドットされている。数字は各個体番号を示す。結果を図8(A)に示す。
上のドットブロット分析の結果、個体番号17、22、36、47はS15/S15、その他はS18/S18個体であることが確認された。
【0072】
実施例9:Raphanus sativusのS遺伝子型の同定
実施例1の方法に準じて、Raphanus sativus(ダイコン)のS遺伝子型特異的SP11の特定を行った。すなわち、Raphanus sativusの異なるS遺伝子型の個体から葯を採取し、Micro Fast Track mRNAIsolation Kit (Invitrogen)を用いてmRNAを単離した。次いで、このmRNAを基に、First Strand cDNA synthesis Kit (Amersham-Pharmacia)を用いて1本鎖cDNAを作製した。これを鋳型としてpSP11-1(5'-ATGAAATCTGCTATTTATGCTTTATTATG-3’:配列番号44)及びNotI-d(T)18 (Amercham Pharmacia Biotec)をプライマーとして1回目のPCRを行った。さらに、そのPCR産物を鋳型としてpSP11-2(5'-TTCATATTCATCGTTTCAAGTC-3':配列番号45)及びRT-1(5'-ACTGGAAGAATTCGCGGC-3':配列番号46)をプライマーとして2回目のPCRを行った。このPCR産物をTA cloning Kit (Invitrogen)によりpCR2.1 vectorに挿入し、クローニングして、DNAシーケンサー(CEQ2000, Beckman Coulter)で塩基配列を決定した。
【0073】
こうして決定されたRaphanus sativusのSP11遺伝子と、これを検出するための特異的SP11*プローブ(シグナルペプチド領域を含まないSP11遺伝子)を下表4にまとめる。
【0074】
【表4】
Figure 0004346933
【0075】
実施例10:Raphanus sativusのドットブロットによるS遺伝子型の同定
Raphanus sativusのうちS1, S2, S4, S6, S13, S19, S20, S21の各S遺伝子型を有する個体のゲノムDNAを、実施例2の方法に準じてCTAB法により単離した。こうして調製したゲノムDNAと、DIGラベルしたRaphanus sativusのSP11-6*プローブを用いてドットブロットを行った。結果を図9に示す。
図9から明らかなように、S6遺伝子型のテスターラインはSP11-6*プローブと特異的に強く反応した。
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、アブラナ科植物のS遺伝子型を迅速かつ簡便に同定することができる。
【0077】
【配列表】
Figure 0004346933
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【0078】
【配列表フリーテキスト】
配列番号18〜34:アブラナ科S遺伝子型特異的プローブ
配列番号35〜46:プライマー
配列番号84〜120:アブラナ科S遺伝子型特異的プローブ
配列番号128〜134:アブラナ科S遺伝子型特異的プローブ
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例2におけるドットブロットの結果を示す。
【図2】図2は、実施例3における両側ラベルによるドットブロットの結果を示す。
【図3】図3は、実施例3における片側ラベルによるドットブロットの結果を示す。
【図4】図4は、実施例4におけるSP11-57 cDNAをプローブとして用いたサザンブロットの結果を示す。図中、矢印はサンプルウェルの位置を示す。
【図5】図5は、実施例5におけるSP11*プローブとSP11プローブを用いたS遺伝子型同定(ドットブロット法)の結果を示す。〔図中、(a)SP11-25プローブ、(b)SP11-32プローブ、(c)SP11-12*プローブ、(d)SP11-32*プローブ〕
【図6】図6は、実施例6におけるSP11*プローブを用いたF2世代のS遺伝子型同定(ドットブロット法)による親系統の純度検定結果を示す。〔図中、(a)SP11-18*プローブ、(b)SP11-39*プローブ;各番号は個体番号を表す〕
【図7】図7は、実施例7におけるSP11*プローブを用いたS7ホモ個体とS18/S39ヘテロ個体の検出結果を示す。〔図中、(a)S7ホモ個体、(b)S18/S39ヘテロ個体〕
【図8】図8は、実施例8におけるSP11*プローブによるB. oleraceaの個体識別結果を示す。〔図中、A (左)SP11-18*プローブ、(右)SP11-15*プローブ;Bはブロット方法を模式的に示したもので、各番号は個体番号を表す〕
【図9】図9は、実施例10におけるRaphanus sativusゲノムDNAのS遺伝子型同定(ドットブロット法)の結果を示す。

Claims (8)

  1. 配列番号128〜134で示される少なくとも2以上の塩基配列で特定されるプローブセットであって、Raphanus sativus(ラファヌス・サティブス)の花粉側認識分子遺伝子又はその断片に特異的にハイブリダイズしてR. sativusのS遺伝子型を特定するための前記プローブセット。
  2. 請求項記載のプローブセットを固定したR. sativusのS遺伝子型同定用支持体。
  3. 以下の1)及び/又は2)を含む、R. sativusのS遺伝子型同定用キット。
    1)請求項記載のプローブセット
    2)請求項記載の支持体
  4. 請求項記載のプローブセットを用いてR. sativusの個体あるいは個体群から当該プローブがそれぞれ特異的に認識するDNA断片を検出することによるR. sativusのS遺伝子型同定方法。
  5. 以下の工程を含むR. sativusのS遺伝子型同定方法。
    1)植物より試料DNAを抽出する工程、
    2)上記試料DNAを支持体に固定する工程、
    3)請求項記載のプローブセットを標識し、上記試料DNAにハイブリダイズさせる工程、及び
    4)上記標識をもとにR. sativusのS遺伝子型を同定する工程
  6. 以下の工程を含むR. sativusのS遺伝子型同定方法。
    1)請求項記載のプローブセットを支持体に固定する工程、
    2)植物より試料DNAを抽出し、これを標識する工程、
    3)上記標識試料DNAを支持体上のプローブにハイブリダイズさせる工程、及び
    4)上記標識をもとにR. sativusのS遺伝子型を同定する工程
  7. 請求項のいずれか一項に記載の方法を利用した、R. sativusにおける種子の純度検定方法又は品質管理方法。
  8. 請求項のいずれか一項に記載の方法を利用した、R. sativusの育種方法。
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