JP4333085B2 - プロトン伝導体及びその製造方法、プロトン伝導性高分子及びその製造方法、並びに電気化学装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロトン伝導体及びその製造方法、プロトン伝導性高分子及びその製造方法、並びに電気化学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最も広く使用されているプロトン伝導体の1つはNafion(パーフルオロスルホン酸樹脂、DoPont社製)であり、これはパーフルオロ化されたスルホン酸官能性高分子である。Nafionの構造は図3に示されていて、本質的に2つのサブ構造体に分割できる。i)パーフルオロ化された線状主鎖12、及びii)スルホン酸官能基を含むパーフルオロ化された側鎖14、即ちプロトン供与サイト。この構造は、許容できるプロトン伝導性が、化学的影響ばかりでなく熱的影響に対しても極めて不活性となる組み合わせである。
【0003】
さらに、図4に示すような、固体構造内でプロトンを伝導できる硫酸エステル(−OSO3H)又はスルホン酸基(−SO3H)のような酸性官能基を含む1から6のフラーレン化合物((A)〜(F))が、本出願人によって既に提案されている。このようなプロトン供与サイトは、直接でも、或いは種々のスペーサー分子を経由してもフラーレン核に付加することができる。結晶内に含まれる水の量により、これらの化合物は、10-2S/cm超のプロトン伝導率を発現する。
【0004】
しかしながら、これらのフラーレン系材料は幾つかの欠点を抱えている。最も大きい欠点は、熱的及び/又は化学的分解に対する耐性に欠けることである。1つの例として、図4の(F)に示すようなブチル連結型フラーレロスルホン酸(butyl-linked fullerosulfonic acid)(図4Fの化合物)は、約100〜110℃で早くも分解し始める。しかし、熱的及び化学的安定性は、燃料電池の用途に使用されるいずれの化合物にも必須である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の1つの目的は、従来技術の前記の欠点を解決することであって、高度のプロトン伝導性を有し、電気化学装置で求められる条件のもとで、熱的ばかりでなく化学的にも安定なフラーレン系プロトン伝導体、プロトン伝導性高分子及びプロトン伝導性高分子組成物(以下、フラーレン系プロトン伝導性材料と称することがある。)を提供することが本発明の1つの目的である。
【0006】
本発明のもう1つの目的は、向上したプロトン伝導性能を有するフラーレン系プロトン伝導性材料を提供することである。
【0007】
本発明の尚、もう1つの目的は、電気化学装置に求められる条件のもとで熱的及び化学的に安定なフラーレン系プロトン伝導性材料を提供することである。例えば、昇温脱離(TPD)による測定で約200℃の熱安定性を有することにより、約80°ないし約90℃の使用環境で工業的に有用な寿命で使用できるフラーレン系プロトン伝導性材料を提供することが本発明の目的である。
【0008】
本発明の別の目的は、前述のフラーレン系プロトン伝導性材料ばかりでなく、その高分子フィルムも製造する方法を提供することである。
【0009】
そして、本発明の更に別の目的は、許容出来る伝導率、自己加湿特性ばかりでなく、向上した熱的及び化学的安定性も有する電気化学装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、フラーレン分子と;前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と;前記スペーサー分子に付加したプロトン(H+)伝導性官能基と;からなる、プロトン伝導体であって、
前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の− CF 2 が前記フラーレン分子と結合し、その他端のCF 2 −にプロトン伝導性のスルホン 酸基等の(以下、同様)酸性官能基が結合している、
プロトン伝導体に係るものである。
【0011】
また、複数のプロトン伝導体と、前記複数の前記プロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝導体のそれぞれが、フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなっている、プロトン伝導性高分子であって、
前記複数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −C F 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し 、その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能基が結合しており、
前記連結分子が−(CF 2 ) n −からなり(但し、nは6〜8の自然数である。)、前記 プロトン伝導体を構成する前記フラーレン分子に直接結合して、前記複数のプロトン伝 導体間を連結している、
プロトン伝導性高分子に係るものである。
或いは、複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝導体のそれぞれが、フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなっている、プロトン伝導性高分子であって、
前記複数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −C F 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し 、その他端のCF 2 −にスルホン酸基が結合した部位を有し、
この部位とは別に、前記連結分子がスルホニルイミド(−SO 2 NHSO 2 −)からな り、その一方の−SO 2 及び他方のSO 2 −がそれぞれ、前記スペーサー分子の前記他端 のCF 2 −と結合して、前記複数のプロトン伝導体間を連結している、
プロトン伝導性高分子に係るものである。
【0012】
また、前記のプロトン伝導性高分子と;水分が存在することなくプロトン伝導性を高めることができる化合物と;を含むことを特徴とする、プロトン伝導性高分子組成物もよい。さらに、前記のプロトン伝導性高分子と、ゲル物質とからなる、プロトン伝導性高分子組成物もよい。
【0013】
また、本発明は、フラーレン分子と、少なくとも一部分がフッ素化され、酸前駆体基を 有するスペーサー分子前駆体とを組み合わせて第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物を加水分解して第2反応生成物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子 に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー 分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなるプロトン伝導体を形成する第3工程と ;
を有する、プロトン伝導体の製造方法に係るものである。
特に、フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −XF(但し、Xは プロトン伝導性の酸性官能基となる基である。)からなるスペーサー分子前駆体とを組 み合わせて第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物を加水分解して第2反応生成物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子 に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー 分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなるプロトン伝導体であって、前記スペー サー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記 フラーレン分子と結合し、その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能基が結合し ている、プロトン伝導体を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導体の製造方法に係るものである。
【0014】
また、フラーレン分子と、少なくとも一部分がフッ素化され、酸前駆体を有するスペー サー分子前駆体とを組み合わせて複数の第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物と連結分子前駆体を混合し、前記連結分子前駆体の1種から形成 される連結分子により前記第1反応生成物同士が前記連結分子を介して結合されてなる 、第2反応生成物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロト ン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記プロトン伝導体が 、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化 されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン伝導性官能基と からなる、網状構造のプロトン伝導性高分子を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法に係るものである。
特に、フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −XF(但し、Xは プロトン伝導性の酸性官能基となる基である。)からなるスペーサー分子前駆体とを組 み合わせて複数の第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物と、I−(CF 2 ) n −I(但し、nは6〜8の自然数である。)か らなる連結分子前駆体とを混合し、前記連結分子前駆体の1種から形成される連結分子 により前記第1反応生成物同士が前記連結分子を介して結合されてなる、第2反応生成 物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロト ン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝 導体のそれぞれが、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも 一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロト ン伝導性官能基とからなっている、網状構造のプロトン伝導性高分子であって、前記複 数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O− CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 にプロトン伝導性の酸性官能基が結合し ており、前記連結分子が−(CF 2 ) n −からなり(但し、nは6〜8の自然数である。) 、前記プロトン伝導体を構成する前記フラーレン分子に直接結合して、前記複数のプロ トン伝導体間を連結している、プロトン伝導性高分子を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法に係るものである。
また、フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −SO 2 Fからなる スペーサー分子前駆体とを組み合せて複数の第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物と、下記一般式(8)で表される連結分子前駆体とを用いること により、前記連結分子前駆体の1種から形成される連結分子により前記第1反応生成物 同士が前記連結分子を介して結合されてなる、下記一般式(9)で表される第2反応生 成物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロト ン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝 導体のそれぞれが、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも 一部がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン 伝導性官能基とからなっている、プロトン伝導性高分子であって、前記複数のプロトン 伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し、その他端のCF 2 −に スルホン酸基が結合した部位を有し、
この部位とは別に、前記連結分子がスルホニルイミド(−SO 2 NHSO 2 −)からな り、その一方の−SO 2 及び他方のSO 2 −がそれぞれ、前記スペーサー分子の前記他端 のCF 2 −と結合して、前記複数のプロトン伝導体間を連結している、プロトン伝導性 高分子を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法に係るものである。
【化4】
一般式(8):
一般式(9):
[R f −C 60 −CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 SO 2 NR 1 SO 2 CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 −C 60 −R f ] y
(但し、前記一般式(8)及び(9)において、R f は、−CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 SO 2 F、−CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 SO 2 NH 2 又は−CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 SO 2 NR 1 SiR 2 3 であり、或いは−CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 SO 2 NR 1 SO 2 CF 2 CF 2 OCF 2 CF 2 −C 60 −R f' (但し、R f' はR f と同じである。)である。yは自然数である。また、R 2 はアルキル基であり、R 1 はLi、Na、K、SiR 2 3 である。)
【0015】
さらに、フラーレン分子と、少なくとも一部分がフッ素化されたスペーサー分子前駆体 と、連結分子前駆体とを組み合わせて複数の架橋型第1反応生成物を形成する第1工程 と;
前記架橋型第1反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数の プロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記プロトン伝 導体が、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフ ッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン伝導性官 能基とからなる、網状構造のプロトン伝導性高分子を形成する第2工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法に係るものである。
特に、フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −XF(但し、Xは プロトン伝導性の酸性官能基となる基である。)からなるスペーサー分子前駆体と、I −(CF 2 ) n −I(但し、nは6〜8の自然数である。)からなる連結分子前駆体とを組 み合わせて架橋型第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記架橋型第1反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数の プロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロ トン伝導体のそれぞれが、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少な くとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加した プロトン伝導性官能基とからなっている、網状構造のプロトン伝導性高分子であって、 前記複数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し、 その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能基が結合しており、前記連結分子が−( CF 2 ) n −からなり(但し、nは6〜8の自然数である。)、前記プロトン伝導体を構 成する前記フラーレン分子に直接結合して、前記複数のプロトン伝導体間を連結してい る、プロトン伝導性高分子を形成する第2工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法に係るものである。
【0016】
本発明によれば、少なくとも一部分がフッ素化された前記スペーサー分子により、前記プロトン伝導性官能基を前記フラーレン分子と結合することにより前記及びその他の目的並びに長所を達成する。
【0017】
例えば、本発明のフラーレン系プロトン伝導性材料によれば、単位原子量当たり極めて多数の前記プロトン伝導性官能基を有するので、高度のプロトン伝導性を達成する。即ち、Nafionは原子量約1100単位当たり1個のプロトン供与サイトを含むのが普通であるのに対して、平均10個のプロトン伝導基を有するC60等のフラーレン分子は、この割合が約3倍に増大し(即ち、原子量約370単位当たり平均1個のプロトン供与サイトを有する)、重量に対する前記プロトン伝導性官能基の比率が著しく高くなる。
【0018】
さらに、本発明のフラーレン系プロトン伝導性材料は、前記プロトン伝導性官能基を少なくとも一部分がフッ素化された前記スペーサー分子を介して前記フラーレン主鎖に結合することにより、上述したような、従来のフラーレン系プロトン伝導体の熱的及び化学的安定性よりも高度の熱的及び化学的安定性を達成する。
【0019】
また、本発明は、第1極と、第2極と、前記第1極と前記第2極との間に挟持されている、本発明のプロトン伝導性高分子又はプロトン伝導性高分子組成物とからなり、前記プロトン伝導性高分子又はプロトン伝導性高分子組成物がプロトンを前記第1極から前記第2極へ伝導する、電気化学装置に係るものである。
【0020】
本発明の電気化学装置によれば、本発明のフラーレン系プロトン伝導性材料を含むプロトン交換膜を内部に利用することにより、向上した熱的及び化学的安定性を有する電気化学装置を得る。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施の形態に基づいて更に具体的に説明する。
【0022】
本発明における前記した目的やその他の目的及び長所は、図面を参照して本発明の好ましい例示の実施形態を詳細に説明することにより更に明らかにする。
【0023】
本発明に基づくプロトン伝導体は、前記プロトン伝導性官能基に順次付加される少なくとも1個の前記スペーサー分子に付加される前記フラーレン分子で具体化される。例えば、前記フラーレン分子当たり2個以上の前記スペーサー分子と2個以上の前記プロトン伝導性官能基が存在することが可能である。
【0024】
また、前記の各スペーサー分子と各プロトン伝導性官能基は、前記の各フラーレン分子において同種であることが比較的普通であるけれども、そのようなことは必須ではない。即ち、前記の各フラーレン分子は、複数の異なる前記スペーサー分子を有していてもよい。また同様にして、複数の異なる前記プロトン伝導性官能基が、同じタイプの前記スペーサー分子によっても、或いは異なるタイプの前記スペーサー分子によっても前記フラーレン分子に付加されてよい。
【0025】
一般的に、前記フラーレン分子は炭素原子から作られ、ほぼ球形を有する分子である。本発明に用いられる前記フラーレン分子として、いずれの周知のフラーレン分子も使用できる。例えば、フラーレン分子には、C36、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96、C266等が例として挙げられる。現在は、フラーレン分子は妥当な価格で容易に購入できること、そして一般的に、フラーレン分子の寸法が増すにつれて、その反応性は低下するのでC60及びC70又はそれらの混合物が特に好適に使用可能である。前記フラーレン分子は、プロトンキャリアが移動する方向とは無関係に一様な形状を有するので、前記フラーレン分子を使用するとプロトンの向上した移動度が発現され、それによって本発明では高度のプロトン伝導性能が得られる。さらに、例えば前記フラーレン分子は単位原子量当たり極めて多数のプロトン伝導基を有することができるので、本発明では高度のプロトン伝導性を達成する。
【0026】
また、前記フラーレン分子は、例えば、ハロゲン化物(F、Cl、Br等)、アルキル基及び/又はアリール基、完全に若しくは一部分がフッ素化された炭化水素、フッ素化されていない炭化水素、又はエーテル、エステル、アミド、及びケトンのような、その他の追加の官能基を付加することもできる。このような追加基は、燃料電池装置に存在する、例えば遊離基と比較して、この材料に安定化の効果を及ぼすことができる。
【0027】
また、これらの追加基は、フッ素原子の電気陰性度によって起こる影響により及び/又は固体中に含まれる水を疎水性フッ素化部位から離れている酢酸基の周りの親水性基に分離することにより、プロトン伝導性を高めることができる。
【0028】
しかしながら、これらの追加の官能基があると、前記フラーレン分子に付加できる前記スペーサー分子の数は減ると共に、前記フラーレン分子に付加できる前記プロトン伝導性官能基の数は減る。従って、本発明においては、前記フラーレン分子に前記のような追加の官能基を付加させないことが好ましく、これにより前記スペーサー分子の数及び前記プロトン伝導性官能基を最適化することができる。しかしながら、本発明に基づくプロトン伝導体は分子として極めて水溶性なので、前記スペーサー分子及び前記プロトン伝導性官能基が付加されている前記フラーレン分子を架橋することにより、プロトン伝導性高分子を形成するのが有用である。従って、前記フラーレン分子に付加した前記スペーサー分子の数は、後で考察するように、架橋型高分子を形成するために連結分子を前記フラーレン分子に付加する必要性ともバランスしなければならない。
【0029】
前記スペーサー分子としては、アルキル又はアリールでもよく、少なくとも一部分がフッ素化されていることが特徴である。本発明に基づくプロトン伝導体の全体にわたって付与されている、少なくとも一部分がフッ素化された前記スペーサー分子の存在により、熱的及び化学的安定性の向上を図ることができる。
【0030】
また、本発明の好ましい実施の形態において、前記スペーサー分子は、その他の原子又は基を含むことができる、完全に又は一部分がフッ素化された炭化水素鎖であることが好ましい。例えば、前記スペーサー分子の具体例としては、一部分がフッ素化された炭化水素鎖、パーフルオロ化された炭化水素鎖、CnF2n(但し、nは自然数である)、完全に又は一部分がフッ素化された芳香族構造体(即ち、前記スペーサー分子のフッ素化部分はCF2アルキルタイプに限定されない)、及び図1(A)の化合物7に示しているようなCF2−CF2−O−CF2−CF2等を挙げることができる。
【0031】
一般的に、前記スペーサー分子中のフッ素原子が多くなればなる程、前記スペーサー分子はそれだけ安定するが、部分フッ素化の場合には、安定性はF原子及びH原子の位置によっても左右される。現在では、CF2−CF2−O−CF2−CF2は、極めて安定であり容易に購入できるので好ましい。しかしながら、一部分がフッ素化された前記スペーサー分子は、パーフルオロ化スペーサー分子より、コスト的に安価にすることができ、しかも燃料電池で使用するのに充分な安定性を発現することができるので、この一部分がフッ素化された前記スペーサー分子が有利となる場合もある。
【0032】
即ち、例えば、図1(B)〜(D)に示しているように、前記スペーサー分子には以下に挙げるものが含有されていてよい。例えば、図1(B)の化合物8に示しているような、各末端部にCF2分子を有する非フッ素化スペーサー部分、図1(C)の化合物9に示しているような、フラーレン分子とCF2分子との間に結合された非フッ素化スペーサー部分、又は図1(D)の化合物10に示しているような、一方の末端部ではCF2分子によって前記フラーレン分子に結合され、もう一方の末端部では前記プロトン伝導性官能基に直接結合されている非フッ素化スペーサー部分などである。
【0033】
さらに、前記スペーサー分子は、例えば、エーテル、エステル又はケトンのようなその他の官能基を有していてもよく、これらを必要に応じて付加することができる。
【0034】
前記プロトン伝導性官能基としては、周知のいずれのプロトン伝導性官能基であってもよい。例えば、前記プロトン伝導性官能基としては、酸性官能基、又は硫酸エステル、スルホン酸基、リン酸エステル及びカルボン酸基からなる群より選ばれる基、或いはスルホンアミド(−SO2NH2)などが使用可能である。しかしながら、一般的に、酸は強ければ強いほど、好ましい。従って、スルホン酸基が特に好ましい。
【0035】
本発明に基づくプロトン伝導体は、下記に示すような製造方法によって作製することができる。以下に、本発明に基づくプロトン伝導体の製造方法を例示する。
【0036】
まず、前記フラーレン分子を、スペーサー分子前駆体と組み合わせて第1反応生成物を形成する。一般的に、このスペーサー分子前駆体は、前記フラーレン分子に付加する結合末端部及び前記プロトン伝導性官能基が最終的に形成される官能基前駆体末端部を含む。次に、この第1反応生成物が加水分解されると、プロトンを受け入れるための第2反応生成物が形成される。最後に、この第2反応生成物がプロトン化されると、目標の化合物、即ち本発明に基づくプロトン伝導体としての第3反応生成物が生成する。
【0037】
即ち、より具体的には、以下のプロセス段階を続けると、本発明に基づくプロトン伝導体を合成することが可能である。
【0038】
第1に、前記フラーレン分子を溶媒の中で前記スペーサー分子前駆体と組み合わせる。一般的に、前記スペーサー分子前駆体は、下記一般式(12)で表される。
一般式(12):X−RF−Y
(但し、前記一般式(12)において、
XはCl、Br又はIであり、
RFは完全に又は一部分がフッ素化されたスペーサーである。また、前記フラーレン分子に付加された状態で、エーテル、エステル、リン酸エステル及び/又はカルボン酸のようなその他の官能基を含んでいてもよい。
Yは、更に反応を行なって前記プロトン伝導性官能基に転化される官能基、である。)
【0039】
また、一般的に、溶媒混合物は、所望の反応生成物を溶解することができるが、前記フラーレン分子や低度の付加物を簡単に溶解できないような混合物なので、所望の反応生成物は、濾過又は遠心分離技術により副生物及び未反応フラーレン分子から容易に分離することができる。
【0040】
次に、前記フラーレン分子、前記スペーサー分子前駆体及び溶媒から成る混合物に、予め定められた反応時間、予め定められた反応温度のような予め定められた活性化エネルギーを与える。この予め定められた活性化エネルギーは、例えば、加熱、光(UVでも可視でもよい)の適用等のような、いずれの好適な方法によって供給してもよい。こうして、前記第1反応生成物は、前記スペーサー分子前駆体と前記フラーレン分子の組み合わせによって生成される。即ち、この第1反応生成物の一般式は[フラーレン分子−RF−Y]である。
【0041】
次に、未反応フラーレン分子及び溶媒に不溶の望ましくないあらゆる副生物(例えば、低度の付加物)は濾別される。
【0042】
第2に、濾過した前記第1反応生成物は、例えば、次のような塩基で加水分解される:MOH(但し、Mはアルカリである);M2CO3のような炭酸塩(但し、Mはアルカリである);又はMCO3のような炭酸塩(但し、Mはアルカリ土類である)。これにより、一般式[フラーレン分子−RF−加水分解型分子]の第2反応生成物が生成する。加えて、この加水分解プロセスの後には過剰量の塩基が残るが、これはクロマトグラフィーによってこの第2反応生成物から除去される。
【0043】
第3に、この第2反応生成物をプロトン化すると一般式[フラーレン分子−RF−プロトン伝導性官能基]の第3反応生成物が生成する。これが本発明に基づく目標とするプロトン伝導体である。前記第2反応生成物は、例えば、カチオン交換膜の使用又は強い無機酸の使用のような、いずれの好適な方法によってもプロトン化することができる。
【0044】
以下に、本発明に基づくプロトン伝導体の製造方法をより具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない(以下、同様)。
【0045】
第1に、1当量のC60を、24当量のI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F(スペーサー分子前駆体)及びC6F6/CS2の1:1の溶液混合物と組み合わせた。CS2の量は約7.9ml/C60mgであり、C6F6の量はこれと同じとする。次に、溶液温度を約94時間、約200℃に上げると、その結果、70%超の反応物が反応する。C6F6/CS2溶媒混合物は約50℃で沸騰するので、例えばオートクレーブの中のような大気圧より高い圧力のもとでこの工程を行った。前記スペーサー分子前駆体の内部では、I側は、このIが外れると前記フラーレン分子に付加することになる結合側である。一方、前記スペーサー分子前駆体のSO2F側は、後の段階で更に反応を行なうことにより前記プロトン伝導性官能基に変換される。溶媒がC6F6だけを含むと、前記フラーレン分子が沈殿して、極めて高いパーセンテージのC60が未反応のまま残されることになる。従って、この溶媒は、前記フラーレン分子が溶解するCS2のような成分も含む。また、第1反応生成物はC6F6に可溶であるので、C6F6も使用して未反応のC60から前記第1反応生成物を分離し易くすることが好ましい。
【0046】
温度も反応時間も上記の例に限られるものではなく、環境によって適宜変更することができる。従って、反応が行なわれる限り、高温側では短時間を使い、同様に、低温側では長時間を使うことができる。大抵の場合、高温側では前記フラーレン分子当たりの前記スペーサー分子の数が多くなる。しかし、いかなる場合も反応温度は前記スペーサー分子前駆体が分解し始める温度を超えてはならない。しかしながら、前記スペーサー分子が余りにも多く前記フラーレン分子に付加するならば、後で考察するように、或る重合方法の過程では連結分子の付加サイトの数が減る。また、反応温度が余り高いと望ましくない副反応が起こる。更に、付加されるスペーサー分子が多ければ多いほど、プロトン伝導基は多く存在し、これによってプロトン伝導性が高まることになるばかりでなく、水溶性も増大する(これは望ましくない)。
【0047】
従って、温度は、プロトン伝導性及び分子を連結するのに利用できるサイトの最適なバランスが得られ、同時に副反応を最小限に抑えるように選ばれる。分子を連結するのに十分なサイトがある場合、たとえ単一のプロトン伝導体が水溶性であっても、高分子は水不溶性にすることができる。反応温度は加熱によって得ることができる。それとは別に、加熱の代わりに、又は加熱に加えて、例えば、可視光又は紫外光のような光エネルギーのような別の適当な活性化エネルギーを使用することができる。従って、前述の例示の反応の場合、好ましい温度範囲は約94時間の反応時間で約190℃〜240℃である。
【0048】
この実施の形態では、第1工程終了後、下記一般式(2)で表される複数の第1反応生成物が得られ、未反応のC60は約5%〜7%である。なお、未反応C60及び溶媒に不溶のその他の望ましくない副生物は、その時点で濾過して取り除けばよい。
一般式(2):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)n
(但し、前記一般式(2)において、nは最大約8の自然数である。)
【0049】
第2工程で、前記一般式(2)で表される前記第1反応生成物をNaOHと反応させることにより加水分解する。この工程で使用される溶液は、前記第1反応生成物を加水分解するために、C6F6、THF(テトラヒドロフラン)及びNaOHで構成される。乾燥した前記第1反応生成物はTHFに容易に溶解しないので、この第1反応生成物を溶液にするためにC6F6を使用することが好ましい。また、前記第1反応生成物を使って充分に溶液が形成する限り、比率は特に限定されるべきものではなく、C6F6の量は適宜変更できる。水はC6F6には完全に不溶であるので、NaOHも前記第1反応生成物も溶液にするには、THFはC6F6、前記第1反応生成物及びNaOHと組み合わせて使用するのがよい。
【0050】
特に好ましいものとしては、本工程で使用した溶液は、前記第1反応生成物を溶液にするのに丁度充分なC6F6、そのC6F6の中で前記第1反応生成物の量の約10〜20倍に等しい量のTHF、及び1当量の前記フラーレン分子(ここではC60)当たりNaOH1リットル当たり1モルの(C60+THF)量の約1/10〜1/20容量を含んでいてよい。
【0051】
考えられる(100%の反応を想定して)NaOHの最小量は1個の−SO2F基当たり1個のNaOHであり、即ちC60当たり付加した8個の−Rf−SO2F付加物で見積ると少なくとも8当量である。しかしながら、比較的容易なので、100%の加水分解を確実に行なうのに充分な過剰のNaOHを使い、一方、過剰のNaOHでも簡単に取り除くには充分に少なくするのが常である。この反応を行なうには厳密な比率は必要ではないので、この方法は簡単にスケールアップすることができることから、大量にプロトン伝導体の生産を容易に行なうことができる。
【0052】
この加水分解を行う第2工程により、下記一般式(3)で表される複数の第2反応生成物、水及び過剰のNaOHが生成する。
一般式(3):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO3Na)n
(但し、前記一般式(3)において、nは最大約8の自然数である。)
【0053】
前記第2反応生成物及び副生物(過剰のNaOHを含む)を、水だけを使ってシリカゲルカラムに通すと、得られる溶液は塩基性であるので、これは望ましくない。従って、この溶液を1:1の割合のTHFと水を含んでシリカゲルカラムに通すと、過剰のNaOHが取り除かれ、そして極めて水溶性の所望の第2反応生成物を含む中性の溶液を生成することができる。この時点で、この溶媒(THFと水)を取り除くことが好ましい。
【0054】
第3工程で、前記第2反応生成物をプロトン化して第3反応生成物、即ち、本発明に基づくプロトン伝導体を生成することができる。溶媒を前記の工程で取り除いたのち、前記第2反応生成物と水を用いて溶液を作り、次に、この溶液をイオン交換カラムに注入すると、このカラム内ではHは各第2反応生成物のNaと置換することにより、下記一般式(4)で表される複数の前記第3反応生成物を生成することができる。
一般式(4):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO3H)n
(但し、前記一般式(4)において、nは最大約8の自然数である。)
【0055】
なお、プロトン化は、カチオン交換装置を用いて、HCl、H2SO4、HClO4若しくはHNO3のような強い無機酸を使用することによって行うことができ、或いはその他の任意の好適な方法を用いてもよい。
【0056】
前記第3反応生成物である、本発明に基づくプロトン伝導体は、熱的及び化学的安定性がより優れた優秀なプロトン伝導体であるが、これらのプロトン伝導体は水に極めて可溶である。従って、例えば、水が多く含まれるような燃料電池に本発明に基づくフラーレン系プロトン伝導性材料を使用する場合には、水中における前記の安定性を高めるために、本発明に基づくプロトン伝導体を重合して、プロトン伝導性高分子として使用するのが有用である。
【0057】
なお、前記した各一般式における、nの数値は、前記フラーレン分子がC60の場合、nの平均値は約6〜8であって、これによって優れたプロトン伝導性が発現される。また、C60フラーレン分子当たりの約6〜8の前記スペーサー分子は、C60フラーレン分子上で、下記の重合方法でプロトン伝導体を重合するのに使用される分子を連結するには充分なサイト数である。
【0058】
ここでは、前記第3反応生成物は約170℃〜180℃の分解温度(TPDによる測定)を示し、この温度は、例えば図4(F)の化合物6(分解温度:100〜110℃)の分解温度より高い。
【0059】
また、前記第3反応生成物は、例えば、図4(F)の化合物6のプロトン伝導率(全てS/cm単位であり、20℃で2.1×10-6、85℃で4.8×10-4、95℃で3.8×10-4及び105℃で3.4×10-4)より高いプロトン伝導率(全てS/cm単位であり、20℃で2.4×10-5、85℃で2.0×10-3、95℃で1.1×10-3及び105℃で7.9×10-4)を示している。この場合、伝導率は油回転ポンプによる真空(約0.001ミリバールを発生する)で50℃で一晩、試料を乾燥した後に測定した。
【0060】
前記第3反応生成物の分解温度はNafionの分解温度より低いけれども、前記第3反応生成物の場合にはこの分解温度は分子としても測定され、一方、Nafionの分解温度は高分子について測定される。従って、この比較は、必ずしも正確な比較であると言う訳でなく、前記第3反応生成物が重合され、プロトン伝導性高分子として使用されるときは、向上した安定性を示すことが期待される。また、高分子の形で使用される場合、このプロトン伝導体は旨く水不溶性になることが期待される。
【0061】
高分子構成組成物の中で本発明に基づくプロトン伝導体を使用するために、このプロトン伝導体は架橋分子により架橋される。この架橋分子は、完全に又は一部分がフッ素化された分子、アルキル及び/又はアリール基、CnF2n(nは自然数)、CFn、プロトン化前記スペーサー分子より長い分子、及びエーテル、エステル、アミド又はケトン及び酸性官能基からなる群より選ばれるその他の官能基、のうちの少なくとも1種類、特に好ましくは2種類以上を含有していることが好ましい。
【0062】
前述のように、重合において、全体として、高分子のプロトン伝導性の最適化ばかりでなく、熱的及び化学的安定性(水不溶性を含めて)も得られるように、前記フラーレン分子当たりの架橋分子の数と前記フラーレン分子当たりの前記スペーサー分子(更に、前記プロトン伝導性官能基に連結する)との数をバランスさせるのが有用である。
【0063】
そして、本発明に基づくプロトン伝導体の重合は、前記スペーサー分子前駆体を前記フラーレン分子に付加する第1工程と、前記スペーサー分子前駆体をプロトン化する第3工程の間で追加工程(第2工程)として行うことができる。また、それとは別に、重合は前記スペーサー分子前駆体を前記フラーレン分子に添加する第1工程と一緒にワンポット(one−pot)反応で行うこともできる。
【0064】
前記追加工程による重合の例として、次のプロセスは、本発明に基づくプロトン伝導体を製造する前述の例示プロセスと関連して使用してもよい。前記第1反応生成物としての、例えばC60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)nが生成すると、下記一般式(13)で表される二官能性連結分子前駆体と反応する。
一般式(13):X−R−X
(但し、前記一般式(13)において、
XはCl、Br又はIであり、
Rは次の2個以上の特性を有する分子である:アルキル及び/又はアリール基;完全に又は一部分がフッ素化されている;プロトン化スペーサー分子より長い分子;並びに例えば、エーテル、エステル、アミド、ケトン及び酸官能基のようなその他の官能基。)
【0065】
前記二官能性分子が前記第1反応生成物と反応すると、前記フラーレン分子の間に結合を形成することにより、例えば2個の前記フラーレン分子を連結して高分子とする連結分子として作用することができる。
【0066】
本実施の形態による、重合方法及びプロトン伝導体から形成される高分子は、略図の図5を参照されたい。図5に示しているように、フラーレン分子30はスペーサー分子32によってプロトン伝導基前駆体34に付加されている。プロトン伝導基前駆体34は−SO2Fであり、一方、スペーサー分子36は−CF2−CF2−O−CF2−CF2−である。連結分子36はフラーレン分子30と結合して高分子になるが、この場合、連結分子36は−(CF2)n−であり、nは6以上、好ましくは6〜8の自然数である。この反応は、反応を行なうのに充分な活性化エネルギーを用いて行なわれ、この場合、この活性化エネルギー、例えば加熱、UV光、可視光、等のような任意の好適な方法で得ることができる。
【0067】
そして、この高分子は上述のようにしてプロトン化される。
【0068】
プロトン伝導体の高分子網状構造を形成する方法の1つの例示の実施の形態としては、前記第1反応生成物としてのC60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)n100mgと、過剰の連結分子前駆体としてのI−(C8F16)−Iとを反応させ、下記一般式(5)で表される第2反応生成物を形成する。
【0069】
【化8】
一般式(5):
(但し、前記一般式(5)において、yは少なくとも2の自然数であり、nは最大約8の自然数である。)
【0070】
そして、前記第2反応生成物をプロトン化する前記第3工程で、前記第2反応生成物をNaOHで加水分解することにより、下記一般式(6)で表される第3反応生成物を形成することができる。
【化9】
一般式(6):
(但し、前記一般式(6)において、yは少なくとも2の自然数であり、nは最大約8の自然数である。)
【0071】
前記第3工程で、前記第3反応生成物をプロトン化することにより、下記一般式(7)で表される本発明に基づくプロトン伝導性高分子を得ることができる。
【化10】
一般式(7):
(但し、前記一般式(7)において、yは少なくとも2の自然数であり、nは最大約8の自然数である。)
【0072】
前記C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)nには、前記連結分子前駆体としてのI−(C8F16)−Iを使用したけれども、例えばI−(CnF2n)−I(但し、nは6以上の自然数である。)も使用することができ、これはプロトン化スペーサー分子より長い連結分子を生成することができる。
【0073】
一般的に、前記連結分子中に存在するフッ素原子が多ければ多いほど、高分子網状構造はそれだけ水不溶性となる。しかし、安定性は、一部分がフッ素化された前記連結分子前駆体の場合にはF原子とH原子の位置によっても決まる。さらに、前記連結分子前駆体のどちらかの末端部にヨウ素原子を有するのではなく、例えば、塩素又は臭素のような別のハロゲンを使用することもできる。前記連結分子前駆体を選ぶ場合に主に考慮すべき問題は、1種以上の次の諸特性を挙げるべきである:水不溶性を有する連結分子を生成する;燃料電池で一般的に求められる熱的及び化学的環境で高度の安定性を有する連結分子を生成する;自立型フィルムを形成する能力を有する連結分子を生成する;少なくとも2個の結合サイト;及びフラーレン分子との容易な反応性。さらに、あらゆる長さの前記連結分子前駆体を使用できるけれども、プロトン化スペーサー分子より長い連結分子を生成するような前記連結分子前駆体を使用するのが好ましい。
【0074】
ここでは、(C8F16)連結分子を選んだが、この連結分子は典型的燃料電池に求められる熱的及び化学的環境で安定であり、自立型フィルムを形成する能力を有し、水不溶性を発現するからである。さらに、前駆体分子I−(C8F16)−Iは市販されており、前記フラーレン分子としてのC60と容易に反応して、プロトン伝導体の形成方法の前述の例示の実施の形態で使用したI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2Fスペーサー分子前駆体によって生成されるプロトン化スペーサー分子より長い連結分子を生成するからである。
【0075】
ワンポット反応による重合の1つの例として、次のプロセスは、プロトン伝導体を作る前述の例示プロセスと関連して使用することができる。前記第1反応生成物C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)nを生成する前記第1工程の過程で、下記一般式(14)で表される二官能性連結分子前駆体を用いると並発反応が起こる。
一般式(14):X−R−X
(但し、前記一般式(14)において、
XはCl、Br又はIであり、
Rは次の2個以上の特性を有する分子である:アルキル及び/又はアリール基;完全に又は一部分がフッ素化されている;プロトン化スペーサー分子より長い分子;並びに例えば、エーテル、エステル、アミド、ケトン及び酸官能基のようなその他の官能基、
である。)
【0076】
即ち、前記フラーレン分子は前記スペーサー分子前駆体とも、前記二官能性連結分子前駆体とも同時に反応して、連結して高分子になる前記第1反応生成物を形成する。再び書くが、この反応は、反応を行なうのに充分な活性化エネルギーで行なわれ、この場合、この活性化エネルギーは、例えば加熱、UV光、可視光、等のような任意の好適な方法で得ることができる。
【0077】
プロトン伝導体から生成される本重合方法及び高分子を図6に示す。図6に示しているように、フラーレン分子30は、スペーサー分子32によってプロトン伝導基前駆体34に付加される。連結分子36はフラーレン分子30に結合する。連結して高分子になる第1反応生成物は、次には加水分解され、そしてプロトン化されてプロトン伝導性高分子を形成する。
【0078】
プロトン伝導体の高分子網状構造を形成する上記のワンポット方法の例示の実施の形態では、40mlのCS2に入れたC60357mgを、C6F640ml、I−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)n5.0g(即ち、24当量)、及びI−(CF2)8−I7.77g(即ち、24当量)と混合する。
【0079】
次に、この溶液をオートクレーブの中で96時間、200℃に加熱する。反応混合物を冷却したのち、溶媒を取り除くことにより、上記一般式(5)で表される架橋型第1反応生成物を形成することができる。
【0080】
次に、この架橋型第1反応生成物を次のように加水分解する。この架橋型第1反応生成物はC6F6を用いて溶液とし、約85mlのTHFで稀釈したのち、1MのNaOH6mlと共に一晩攪拌する。相分離をした後、フラーレン分子含有有機液体(対照的に、非架橋型で、従って水溶性のフラーレンのスルホン酸ナトリウムは専ら水層に含まれている)は、僅かに残るNaOHを取り除くために短いシリカゲルカラム(溶離液としてTHFを用いる)を通して濾別する。溶媒を取り除いた後に得られる加水分解された架橋型第1反応生成物、即ち上記一般式(6)で表される架橋型第2反応生成物は水不溶性であるが、メタノール、TH、F等のような極性の小さい溶媒には可溶である。
【0081】
次に、前記架橋型第2反応生成物をMeOH20mlに溶解し、H2O80mlで稀釈した(この溶液混合物を使用しても沈殿物は観察されなかった)のち、イオン交換カラムによりプロトン化する。
【0082】
80℃で一晩乾燥した後、上記一般式(7)で表される酸性の水不溶性物質1.8gが得られる。これが目標の本発明に基づくプロトン伝導性高分子である。
【0083】
反応量が大きい場合、上記した追加工程、又はワンポット方法のいずれの方法においても活性化エネルギーを加える段階の後で、追加の精製段階を加えることが得策となることがある。多量のI2は真空で物質を加熱するだけでは取り除くことはできないので、追加の精製工程は、反応中の生成物と一緒に形成するヨウ素を取り除くのに有用である。この追加の精製工程の例は次の通りである。
【0084】
得られた化合物を精製するために、C6F6/THF溶液を、H2Oに入れた1Mのチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)と共に振とうする。C6F6/THF溶液は、フッ化フラーレンスルホニルを1MのNaOHで加水分解するために使用される溶液と同様にして調製する。C6F6/THF/1MのNa2S2O3系は2相系であり、この系では、反応後に、塩、即ち過剰のNa2S2O3、NaI及びNa2S4O6(後方の2種類の化合物はチオ硫酸ナトリウムとI2との反応により形成する)が水層に存在するので、この塩を取り除くのは容易である。ヨウ素を含まないフッ化フラーレンスルホニルを含む有機相は分離し、溶媒を取り除いた後、反応物質を120℃で真空(0.001ミリバール)で一晩乾燥する。
【0085】
なお、C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)nには、連結分子前駆体としてI−(C8F16)−Iを使用したけれども、I−(CnF2n)−I(但し、nは6以上の自然数である。)も使用可能であり、これはプロトン化スペーサー分子より長い連結分子を生成することができる。事実、ワンポット反応重合方法の場合、連結分子前駆体I−(C6F12)−IはI−(C8F16)−Iよりも好ましく、これは前者は高分子の中で後者より高い伝導性を発現するからである。
【0086】
さらに、連結分子前駆体のどちらかの末端部にヨウ素原子を有するのではなく、例えば、塩素又は臭素のような別のハロゲンを使用することもできる。連結分子前駆体を選ぶ場合に主に考慮すべき問題には、1種以上の次の諸特性を挙げるべきである:水不溶性を有する連結分子を生成する;燃料電池で一般的に求められる熱的及び化学的環境で高度の安定性を有する連結分子を生成する;自立型フィルムを形成する能力を有する連結分子を生成する;少なくとも2個の結合サイト;及びフラーレン分子との容易な反応性。さらに、あらゆる長さの連結分子前駆体が使用できるけれども、プロトン化スペーサー分子より長い連結分子を生成するような連結分子前駆体を有するのが好ましい。
【0087】
ここでは、(C8F16)連結分子が典型的な燃料電池等の電気化学装置で見られる熱的及び化学的環境で安定であり、自立型フィルムを生成する能力を有し、水不溶性を発現するので、この連結分子を選んだ。さらに、前駆体分子I−(C8F16)−Iは市販されていて、C60と容易に反応し、プロトン伝導体を形成する方法の前述の例示の実施の形態で使用したI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2Fにより生成されるプロトン化スペーサー分子より長い連結分子を生成するので、前記の連結分子を選んだ。
【0088】
また、前記追加工程による重合の別の例及び強酸によるプロトン化の例として、次のプロセスを使用してもよい。
【0089】
第1に、一旦、前記第1反応生成物C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)nを生成し、次に、この生成物と、下記一般式(8)で表される二官能性トリメチルシリルアミド連結分子前駆体とを反応させる。
【0090】
【化11】
一般式(8):
(但し、前記一般式(8)において、R2はアルキル基であり、R1はLi、Na、K、SiR2 3である。)
【0091】
前記二官能性連結分子が前記第1反応生成物と反応すると、前記フラーレン分子に付加している前記スペーサー分子前駆体の間で結合を形成することにより、例えば、2個の前記フラーレン分子を連結して高分子にする連結分子として作用する。
【0092】
この反応は、反応を行なうのに充分な活性化エネルギーで行なわれるが、その場合、この活性化エネルギーは、例えば、加熱、UV光、可視光、等のような任意の好適な方法で得ることができる。さらに、この反応は、THF、ジオキサン、アセトニトリル、パーフルオロベンゼン又は各試薬と溶液を生成できるその他の任意の溶媒のような溶媒の中で行なわれる。この反応は室温でも、高温でも、そして大気圧下でも高圧下でも実施できて、下記一般式(9)で表される第2反応生成物になる。
【0093】
一般式(9):
[Rf−フラーレン分子(例えばC60)−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SO2CF2CF2OCF2CF2−フラーレン分子(例えばC60)−Rf]y
(但し、前記一般式(9)において、Rfは、−CF2CF2OCF2CF2SO2F、−CF2CF2OCF2CF2SO2NH2又は−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SiR2 3であり、或いは−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf'(但し、Rf'はRfと同じである。)である。yは自然数である。また、R2はアルキル基であり、R1はLi、Na、K、SiR2 3である。)
【0094】
即ち、前記の2個の例の二官能性連結分子前駆体とは違って、この二官能性連結分子前駆体は、前記フラーレン分子に付加する前記スペーサー分子前駆体の間に連結分子を形成する。
【0095】
即ち、この連結分子前駆体は前記フラーレン分子自体には付加しない。前記フラーレン分子当たり2個以上のRf分子が存在でき、そして一般的に存在する。従って、この第1段階の生成物は、いろいろな数の未反応のRf基を含む−SO2NR1SO2−連結型フラーレンサブユニットであり、前記一般式(9)中、Rf基には、フッ化スルホニルサイトばかりでなく、スルホアミド及び−SO2NR1SiR2 3のような副生物も挙げられる。
【0096】
第2に、前記第2反応生成物に付いたフッ化スルホニル官能基は、例えば、MOH(Mはアルカリである);炭酸塩(M2CO3(Mはアルカリである));MCO3(Mはアルカリ土類である)のような塩基を使用することにより、加水分解され、それによって下記一般式(10)で表されるような第3反応生成物が生成する。
【0097】
一般式(10):
[Rf2−フラーレン分子−CF2CF2OCF2CF2SO2NNaSO2CF2CF2OCF2CF2−フラーレン分子−Rf2]y
(但し、前記一般式(10)において、Rf2は、−CF2CF2OCF2CF2SO3Na、−CF2CF2OCF2CF2SO2NH2又は−CF2CF2OCF2CF2SO2NNaSiR2 3であり、或いは−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf2'(但し、Rf2'はRf2と同じである。)である。yは自然数である。また、R2はアルキル基であり、R1はLi、Na、K、SiR2 3である。)
【0098】
この反応工程は、塩基の水溶液の中で、又は溶媒との混合物の中で行なうことができる。後者は、1相を、そして前者と2相系を形成することがある。高温を使用してもよい。
【0099】
この重合方法及びプロトン伝導体から形成される高分子の略図は図7を参照されたい。図7に示しているように、スペーサー分子32を介してプロトン伝導基前駆体34が付加されているフラーレン分子30は、トリメチルシリルアミド(−R2 3−Si−N−R1−Si−R2 3−)と組み合わさって、
【化12】
で表されるスルホニルイミド連結体38により連結されたフラーレン分子30の高分子を形成する。即ち、この高分子の基本単位は、[フラーレン分子−スペーサー分子−スルホニルイミド連結体−スペーサー分子−フラーレン分子]の一般式を有する。
【0100】
第3に、前記第3反応生成物はプロトン化される。例えば、前記第3反応生成物は、イオン交換装置、又はHCl、H2SO4、HClO4、HNO3等のような強い無機酸を使用してプロトン化することができる。この反応は室温でも高温でも行なうことができて、下記一般式(11)で表される高分子を生成することができる。
一般式(11):
[Rf3−フラーレン分子−CF2CF2OCF2CF2SO2NHSO2CF2CF2OCF2CF2−フラーレン分子−Rf3]y
(但し、前記一般式(11)において、Rf3は、−CF2CF2OCF2CF2SO3Hであり、或いは−CF2CF2OCF2CF2SO2NHSO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf3'(但し、Rf3'はRf3と同じである。)である。また、yは自然数である。)
【0101】
先に上記で説明した2種類の重合方法とは対照的に、この方法では余分の連結単位を使用することなく、結合サイトとして酸前駆体(即ち、−SO2F官能基)を使用することにより架橋が得られる。得られるスルホニルイミド(−SO2NHSO2−)自体は強い酸性を示し、H+伝導性にはプロトン供与サイトとして作用する。
【0102】
前記第1工程から残された非未反応フッ化スルホニル(−SO2F)ばかりでなく、得られる可能性のある副生物(即ち、−SO2NH2、−SO2NR1SiR2 3)も、合成過程でスルホン酸に転化されてプロトン伝導性に寄与する。予備測定では固体中に含まれる水の量によるが、室温で最大約10-2S/cmの高いH+伝導率を示した。この物質は燃料電池で使用するのに重要な前提条件である、普通の溶媒、及び水には不溶である。前記第1反応生成物の前記スペーサー分子の少なくとも一部分のフッ素化に少なくとも一部は依るが、この高分子は高度の熱安定性ばかりでなく化学的安定性も達成する。TPD測定によると、最高少なくとも200℃まで熱安定性を示したが、これはNafionによって得られる安定性とほぼ同じである。
【0103】
プロトン伝導体の高分子網状構造を形成する本実施の形態では、次の段階を実施することが好ましい。
【0104】
第1工程では、
【化13】
の1MのTHF溶液0.5mlを、N2雰囲気の中で氷冷下で、固体第1反応生成物[C60−(CF2CF2OCF2CF2SO2F)n]0.2gに滴下しながら加えた後、室温で5時間攪拌する。暗褐色の沈殿物が生成した後、60℃で3時間真空中で乾燥する。こうして生成した固体をジオキサン8mlに溶解した後、THF2mlに入れた第1反応生成物[C60−(CF2CF2OCF2CF2SO2F)n]0.1gを滴下濾斗から加える。次に、18時間還流した後、溶媒を取り除き、得られた固体をTHFと水で洗浄すると、前述の第2反応生成物0.13gが得られる。
【0105】
第2工程、即ち加水分解では、前記第2反応生成物を1MのNaOH水溶液に分散して、室温で16時間攪拌する。濾過したのち、水で洗浄すると、固体の第3反応生成物が残る。
【0106】
第3工程、即ちプロトン化では、この固体第3反応生成物を10%のHClと共に12時間60℃に加熱する。濾過したのち、引き続いて10%のHCl及び水で洗浄すると、所望の本発明に基づくプロトン伝導性高分子が得られる。
【0107】
このスルホニルイミドを用いた架橋反応は、前記第一反応生成物と前記二官能性トリメチルシリルアミドの当量を制御することにより、架橋比を制御することが可能である。前述の条件ではSO2Fはほとんどがスルホニルイミド基に変換されているが、前記二官能性トリメチルシリルアミドを例えば0.1mlで反応させると収率を低下させることなく、前記フラーレン分子に連結したSO2F基の半分程度を残すことが可能である。この未反応SO2F基は、その後実施される加水分解、プロトン化によりスルホン酸基(−SO3H)に変換される。即ち、前記二官能性トリメチルシリルアミドの量を変えることにより、スルホニルイミド基とスルホン酸基の量を制御することが可能である。前記二官能性トリメチルシリルアミド0.01ml以下を反応させた場合は、十分な架橋構造が形成されず水溶性であるが、それ以上反応させた材料に関しては、水不溶性である。
【0108】
前述のように、この方法では、パーフルオロ化スペーサーを有する前記第1反応生成物を使用することを含む。しかしながら、それに代えて、前記第1反応生成物には、一部分がフッ素化された前記スペーサー分子を挙げてもよい。
【0109】
本方法により得られる本発明に基づくプロトン伝導性高分子は、例えば、燃料電池、電解セル、及び蓄電器でプロトン伝導膜として使用することができる。
【0110】
また、フラーレン核は次のような追加基を含むことができる:ハロゲン化物(F、Cl、Br);アルキル及び/又はアリール基;非フッ素化、一部分又は完全フッ素化分子;エーテル;エステル;アミド;及び/又はケト官能基。
【0111】
さらに、この高分子では、水が存在することなく、プロトン伝導性を高めることが出来る化合物と組み合わせて使用することができる。例えば、その化合物には、ポリアルキルエーテル、ポリエチレンカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール及びポリエチレンイミンのような高分子を挙げることができる。それとは別に、或いはポリマーの他に、この化合物には、アルキルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のような極性溶媒を挙げることができる。なお、更に、これらの化合物の完全な又は一部分がフッ素化された誘導体を使用することができる。
【0112】
さらに、本方法による高分子は、シリカゲルを含むコンポジットのようなゲル構造体の一部として使用することができる。このゲル構造体(プロトン伝導性高分子組成物)は、追加無機酸又は有機酸を含むことができる。有機酸としては、例えば、HClO4、H2SO4、H3PO4、ドデカタングストリン酸(H3PW12O40×40H2O)、カルボン酸等が可能である。
【0113】
次に、本発明に基づくフラーレン系プロトン伝導性材料は、例えば、燃料電池のような電気化学装置の中でプロトン交換膜として使用することができる。燃料電池は図2に略図で示している。
【0114】
燃料電池は、第1極20、第2極22及び前記両電極20、22の間に配置されたプロトン伝導膜24からなる。プロトン伝導体は、両電極20、22を、例えば白熱電球、ウォークマン、電気又は電子器具又は装置、電気回路等のような負荷26に接続する。水素(H2のような)が第1極20に供給されると、水素はプロトン(H+)と電子(e-)に分解される。電子は伝導体に沿って第1極20から移動し、負荷を駆動させた後、第2極22まで移動を続ける。この間に、プロトンはプロトン伝導膜24を通って第2極22へ移動する。第2極22には、例えば、空気又は別の酸素源のような酸素が供給される。従って、プロトンと電子は酸素が存在する第2極22に到達すると、これらは結合して水(H2O)を生成する。
【0115】
プロトン伝導膜24の厚さは、dである。自己加湿性ばかりでなく、材料コストを低減するために、dは可能な限り薄くすることが望ましい。dが薄くなるにつれて、プロトン伝導率は増大するので、水を容易に吸収する能力は増加する。dが充分薄いと、第2極22で生成する水によってこの膜が乾ききることはない。このことにより、所謂、自己加湿型燃料電池が作られ、この燃料電池ではこの膜の湿分を保持するための外部湿分源を必要としない。この膜が乾ききると、プロトンを伝導する能力が失われて、H2分子は通過しない、即ち、燃料電池は適切に作動しない。従って、この膜の密度は、膜の内部への水の吸収を妨げるような大きさであってはならない。再度書くが、厚さdが薄くなるにつれてプロトンを伝導する膜の能力は増大する。しかし、プロトンを伝導するこのような向上した能力は、H2の通過を妨げる必要性とバランスしなければならない。もし伝導膜がH2を通過させるならば、生成する電子の量は少なくなり、燃料電池の効率は低下する。従って、プロトンを通過させて水を吸収し、同時にH2の通過を効果的に妨げる伝導膜の能力により、その所要の厚さが決められる。
【0116】
前述の例示のプロセスにより作られる高分子(即ち、(C8F16)の分子によって架橋される一般式C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO3−H)nを有するプロトン伝導体)を有する燃料電池では、約20μm〜30μmの伝導膜厚さ(約10-3S/cmの許容できるプロトン伝導率を有する)によって優れた伝導率を有する自己加湿型燃料電池が作られる。
【0117】
【実施例】
本発明によるパーフルオロヘキシル架橋型材料のプロトン伝導率を、下記の測定I〜IIIで説明しているように測定した。
【0118】
測定 I 及び II:
図5に示している材料(n=6)(以後、図5の材料(n=6))及び図6に示している材料(n=6)(以後、図6の材料(n=6))の吸水量を、(19℃及び50℃)で測定した。測定前に、次の事前処理を行なった。
測定Iの事前処理:室温(19℃)で乾燥空気流(湿度15%)で一晩乾燥した。
測定IIの事前処理:室温(50℃)で乾燥空気流(湿度1.3%)で一晩乾燥した。
【0119】
図8及び9のt=0で乾燥空気流を水分飽和空気流で置換し、乾燥空気流から水分飽和空気流へ切り換えた後の伝導率対時間を記録した。測定は、図8に示しているようにT=19℃(測定I)の温度で、更に、図9に示しているようにT=50℃(測定II)の温度で行なった。
【0120】
図8及び9の結果で示されるように、これらの材料は素早く吸水することが判った。
【0121】
測定 III:
いろいろな温度でプロトン伝導率を測定した。また、空気相対湿度(R.H.)がプロトン伝導率に及ぼす影響を調べるために、R.H.を示した。図10に示しているように、図5に示している材料(n=6)(即ち、図5の材料(n=6))は、図6に示している材料(n=6)(即ち、図6の材料(n=6))より湿度変化を受け難いことが判った。
【0122】
前述のように、測定I〜IIIは、概ね、2段階プロセスによって調製された材料(図5の材料(n=6))が、1段階プロセスで調製された材料(図6の材料(n=6))より約2桁大きいプロトン伝導率を発現することを示している。2種類の試料を測定する時は同じ条件を使用した。
【0123】
C70系パーフルオロ化架橋型材料も、C60を使った架橋型材料の調製方法に関する前述の反応条件と似た条件を使って調製及び試験を行なった。更に詳しくは、1当量のC70を、スペーサー分子前駆体として24当量のI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F及びC6F6/CS2の1:1の溶媒混合物と組み合わせた。次に、溶液温度を約94時間、約240℃に上げると、この時点で70%超の反応物が反応した(C60を使った時と本質的には同じ収率)。
【0124】
C60で使用した反応温度(200℃)に対して、C70で使用した反応温度が高い(240℃)と、C60と比較してC70の反応性を下げる一因となることがある。C70系パーフルオロ化架橋型材料を作る残りの製造段階は、C60を使った時に説明した段階と同じである。
【0125】
図11は、C70系材料の試料のいろいろな温度でのプロトン伝導率ばかりでなく、C70系試料のプロトン伝導率を各C60系試料及びNafion試料と比較したのも示している。空気相対湿度(R.H.)がプロトン伝導性に及ぼす影響を調べるために、R.H.も測定した。
【0126】
この例では、t=−280分からt=0まで測定室を乾燥空気でパージした。図11に示しているように、この期間、C70系試料の伝導率は、C60系試料よりも低下が少なく、或るC70系試料(C70(Rf−SO3H)10/PVA)はNafion試料と比較すると改善された挙動を示した。t=0では、乾燥空気流を、諸試料のプロトン伝導率が増大することになる水飽和空気流で置き換えた。図11は、C70系試料がC60系試料及びNafion系試料よりも湿分変化に対して鈍感であった(少なくとも、PVA膜を使った場合には)ことを示している。
【0127】
本発明に基づくプロトン伝導体の湿度感度を更に小さくするために、酸性基(プロトン伝導性官能基)をフラーレン核に結合させるためにスペーサーモジュール(spacer module)として短いリンカー(linker)を使用することができる。例えば、CF2CF2OCF2CF2SO3Hの中に使用されるリンカーの長さは約8Åであるのに対して、CF2SO3Hの中で使用されるリンカーの長さは約3Åである。
【0128】
短いリンカーを使った材料の合成(例えば、C60又はC70との組み合わせ)及びその材料を不溶性にする方法(例えば、パーフルオロアルカンとスルホイミド結合体を使った架橋、及び結合剤(例えば、PVAの使用))は本明細書に記載されている通りである。酸性基は材料の親水部を形成するので、短いリンカーを使用すると、材料の中で水の保持を更によくする筈である酸性基の容積密度を高めることができる(例えばcm3当たり酸性基が多くなる)。水との相互作用がこのように高くなることは、材料は湿度変化の影響を受け難くなることを意味する。また、短いリンカーを使った分子は大幅に軽くなる。例えば、比較的長いリンカーをC60のフラーレン核に使用すると、或る酸性基のEW値は390質量単位であり、一方、短いリンカーをC60のフラーレン核に使用した第2の酸性基のEW値は220質量単位である。この結果、短い方のリンカーを使用すると材料の伝導率は高くなることになる。比較的短いリンカーは、EW値を220質量単位よりも小さくすることが出来る。また、短いリンカーを含んでいる、本発明に基づくフラーレン系プロトン伝導性材料が燃料電池装置に使用されると、このように短いリンカーの結果として、比較的密な充填が可能となり燃料の漏れを減らすことができる。
【0129】
本発明によるスルホニルイミド架橋型材料のプロトン伝導率を測定IV〜VIで説明しているように測定した。
測定 IV:
まず、C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2−F)n及びC70−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2−F)n0.2gに対して、二官能性トリメチルシリルアミド0.5mlを反応させた高架橋材料2種類のペレットと二官能性トリメチルシリルアミド0.1mlを反応させた低架橋材料2種類のペレットに対して、25℃の条件下で各相対湿度におけるプロトン伝導度を測定した。結果を図12に示す。
【0130】
図12より明らかなように、C60系、C70系の両者は、低下架橋体の方が幅広い湿度領域においてより高い伝導率を示し、高含水条件下ではNafion以上の導電率を示した。
【0131】
測定 V:
上記の測定IVで用いたサンプルについて、相対湿度30%から加湿した時の伝導率の経時変化を測定したところ、結果を図13に示すように、各サンプルともNafionと同様に水を素早く吸収して伝導率が向上した。
【0132】
測定 VI:
上記の測定Vで用いたサンプルについて、相対湿度94%から、乾燥空気を流した時の伝導率の経時変化を測定したところ、結果を図14に示すように、各サンプルともNafionと同様の伝導率の減少を示したが、C70系の低架橋材料はNafionよりも伝導率の低下が少なかった。
【0133】
なお、本発明を実施の形態及び実施例について説明したが、上述の例は、本発明の技術的思想に基づき種々に変形が可能であると考えられる。
【0134】
【発明の作用効果】
本発明によれば、高度の伝導性を有し、電気化学装置で求められる条件のもとで熱的ばかりでなく、化学的にも安定であるフラーレン系プロトン伝導性材料を提供することができる。
【0135】
また、最も広く使用されているプロトン伝導体であるNafionの長所を、球状フラーレン分子主鎖を使用する良い効果と組み合わせた新規のフラーレン系プロトン伝導性材料を提供することができる。
【0136】
さらに、例えば、このようなフラーレン系プロトン伝導性材料が、原子量単位当たり極めて多くのプロトン伝導基を有するので、高度のプロトン伝導性を達成する。
【0137】
さらに、本発明のフラーレン系プロトン伝導性材料は、前記プロトン伝導性官能基を前記フラーレン分子主鎖に結合する少なくとも一部分がフッ素化された前記スペーサー分子を有することにより、本発明は、従来のフラーレン系プロトン伝導体の熱的及び化学的安定性よりも高いこれらの安定性を達成する。
【0138】
また、短いリンカーを使って酸性基をフラーレン核と結合することにより、比較的低い湿度感度を有する架橋型材料を得ることができる。
【0139】
さらに、本発明の製造方法は、厳密な比率を必要としない反応を提供することができる。従って、これらの方法は、本発明のプロトン伝導体及びプロトン伝導性高分子の大量生産のためのスケールアップが容易にできる。
【0140】
最後に、本発明は、プロトン交換膜として本発明のフラーレン系プロトン伝導性材料を使用することにより、許容できる伝導率及び自己加湿性能ばかりでなく、向上した熱的及び化学的安定性も有する電気化学装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による種々の例示のプロトン伝導体である。
【図2】燃料電池の略図である。
【図3】広く使用されているプロトン伝導性材料であるNafionの構造の略図である。
【図4】種々のフラーレン系プロトン伝導性化合物である。
【図5】追加段階による重合の第1方法の略図である。
【図6】ワンポット反応による重合方法の略図である。
【図7】追加段階による重合の第2方法の略図である。
【図8】19℃における水飽和空気流のもとでのパーフルオロヘキシル架橋型材料のプロトン伝導率の変化を示す。
【図9】50℃における水飽和空気流のもとでのパーフルオロヘキシル架橋型材料のプロトン伝導率の変化を示す。
【図10】いろいろな温度におけるパーフルオロヘキシル架橋型材料のプロトン伝導率の変化を示す。
【図11】C70、C60及びNafion系の各パーフルオロヘキシル架橋型材料のプロトン伝導率の変化の比較である。
【図12】本発明の実施例による、本発明に基づくプロトン伝導性高分子の湿度による伝導率の変化を比較して示すグラフである。
【図13】同、本発明に基づくプロトン伝導性高分子の時間による伝導率の変化を比較して示すグラフである。
【図14】同、本発明に基づくプロトン伝導性高分子の時間による伝導率の変化を比較して示すグラフである。
【符号の説明】
20…第1極、22…第2極、24…プロトン伝導膜、26…負荷、
30…フラーレン、32…スペーサー分子、34…プロトン伝導基前駆体、
36…連結分子、38…スルホニルイミド連結体
Claims (34)
- フラーレン分子と;前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と;前記スペーサー分子に付加したプロトン(H+)伝導性官能基と;からなる、プロトン伝導体であって、
前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の− CF 2 が前記フラーレン分子と結合し、その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能 基が結合している、
プロトン伝導体。 - 前記フラーレン分子がC60又はC70である、請求項1に記載したプロトン伝導体。
- 前記プロトン伝導性の酸性官能基が、硫酸エステル、スルホン酸基、リン酸エステル及びカルボン酸基からなる群より選ばれる基である、請求項1に記載したプロトン伝導体。
- 複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝導体のそれぞれが、フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなっている、プロトン伝導性高分子であって、
前記複数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −C F 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し 、その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能基が結合しており、
前記連結分子が−(CF 2 ) n −からなり(但し、nは6〜8の自然数である。)、前記 プロトン伝導体を構成する前記フラーレン分子に直接結合して、前記複数のプロトン伝 導体間を連結している、
プロトン伝導性高分子。 - 複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝導体のそれぞれが、フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなっている、プロトン伝導性高分子であって、
前記複数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −C F 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し 、その他端のCF 2 −にスルホン酸基が結合した部位を有し、
この部位とは別に、前記連結分子がスルホニルイミド(−SO 2 NHSO 2 −)からな り、その一方の−SO 2 及び他方のSO 2 −がそれぞれ、前記スペーサー分子の前記他端 のCF 2 −と結合して、前記複数のプロトン伝導体間を連結している、
プロトン伝導性高分子。 - 前記フラーレン分子がC 60 又はC 70 である、請求項4又は5に記載したプロトン伝導性高分子。
- 前記プロトン伝導性の酸性官能基が、硫酸エステル、スルホン酸基、リン酸エステル及びカルボン酸基からなる群より選ばれる基である、請求項4に記載したプロトン伝導性高分子。
- 第1極と、第2極と、前記第1極と前記第2極との間に挟持されている、請求項4〜7のいずれか1項に記載されたプロトン伝導性高分子とからなり、前記プロトン伝導性高分子がプロトンを前記第1極から前記第2極へ伝導する、電気化学装置。
- 前記プロトン伝導性高分子が、約20μm〜30μmの厚さを有するフィルム状である、請求項8に記載した電気化学装置。
- 燃料電池として構成されている、請求項8に記載した電気化学装置。
- 請求項10に記載した前記燃料電池を搭載したデバイス。
- 電解セルである、請求項8に記載した電気化学装置。
- 蓄電器である、請求項8に記載した電気化学装置。
- フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −XF( 但し、Xはプロトン伝導性の酸性官能基となる基である。)からなるスペーサー分子前 駆体とを組み合わせて第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物を加水分解して第2反応生成物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子 に付加し、少なくとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー 分子に付加したプロトン伝導性官能基とからなるプロトン伝導体であって、前記スペー サー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記 フラーレン分子と結合し、その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能基が結合し ている、プロトン伝導体を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導体の製造方法。 - 前記フラーレン分子としてC60を用い、前記スペーサー分子前駆体としてI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2Fを用いることにより、C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)で表される前記第1反応生成物を得る、請求項14に記載したプロトン伝導体の製造方法。
- 前記第1工程で、C6F6/CS2の1:1溶液中、1当量の前記C60及び24当量の前記I−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2Fを、約200℃の温度で約94時間混合し、下記一般式(2)で表される複数の前記第1反応生成物を形成する、請求項15に記載したプロトン伝導体の製造方法。
一般式(2):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)n
(但し、前記一般式(2)において、nは最大約8の自然数である。) - 前記第2工程で、前記第1反応生成物を、溶液を形成するのに充分なC6F6と組み合わせ、約10〜20容積当量のテトラヒドロフランを加え、さらに前記第1工程で使用される1当量の前記C60当たり1モル/リットルのNaOHを加えることにより、下記一般式(3)で表される複数の前記第2反応生成物を形成する、請求項16に記載したプロトン伝導体の製造方法。
一般式(3):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO3Na)n
(但し、前記一般式(3)において、nは最大約8の自然数である。) - 前記第2工程と第3工程との間で、前記第2工程で形成された溶液を、1:1の割合のテトラヒドロフランと水を有するシリカゲルカラムに通すことによって過剰のNaOHを除去する工程と、前記テトラヒドロフラン及び水を除去する工程とを有する、請求項17に記載したプロトン伝導体の製造方法。
- 前記第3工程で、前記第2反応生成物と水の溶液を形成し、次に前記溶液をイオン交換カラムに通すことにより、下記一般式(4)で表される複数の第3反応生成物を生成する、請求項18に記載したプロトン伝導体の製造方法。
一般式(4):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO3H)n
(但し、前記一般式(4)において、nは最大約8の自然数である。) - フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −XF( 但し、Xはプロトン伝導性の酸性官能基となる基である。)からなるスペーサー分子前 駆体とを組み合わせて複数の第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記第1反応生成物と、I−(CF 2 ) n −I(但し、nは6〜8の自然数である。)か らなる連結分子前駆体とを混合し、前記連結分子前駆体の1種から形成される連結分子 により前記第1反応生成物同士が前記連結分子を介して結合されてなる、第2反応生成 物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロト ン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝 導体のそれぞれが、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも 一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロト ン伝導性官能基とからなっている、網状構造のプロトン伝導性高分子であって、前記複 数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O− CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 にプロトン伝導性の酸性官能基が結合し ており、前記連結分子が−(CF 2 ) n −からなり(但し、nは6〜8の自然数である。) 、前記プロトン伝導体を構成する前記フラーレン分子に直接結合して、前記複数のプロ トン伝導体間を連結している、プロトン伝導性高分子を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法。 - 前記第2反応生成物をプロトン化する前記第3工程で、前記第2反応生成物を加水分解して第3反応生成物を形成した後、前記第3反応生成物をプロトン化する、請求項20に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
- 前記フラーレン分子としてC60を用い、また前記スペーサー分子前 駆体としてI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2Fを用い、前記第1工程で、 C6F6/CS2の1:1溶液中、1当量の前記C60及び24当量の前記I−CF2−CF 2−O−CF2−CF2−SO2Fを、約200℃の温度で約94時間混合し、下記一般式 (2)で表される前記第1反応生成物を形成し、
前記第2工程で、前記連結分子前駆体としてI−(CF2)8−Iを用いて、下記一般 式(5)で表される前記第2反応生成物を形成する、
請求項20に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
一般式(2):C60−(CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F)n
(但し、前記一般式(2)において、nは最大約8の自然数である。)
【化1】
一般式(5):
(但し、前記一般式(5)において、yは少なくとも2の自然数であり、nは最大約8の自然数である。) - フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −SO 2 Fからなるスペーサー分子前駆体とを組み合せて複数の第1反応生成物を形成する第1 工程と;
前記第1反応生成物と、下記一般式(8)で表される連結分子前駆体とを用いること により、前記連結分子前駆体の1種から形成される連結分子により前記第1反応生成物 同士が前記連結分子を介して結合されてなる、下記一般式(9)で表される第2反応生 成物を形成する第2工程と;
前記第2反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数のプロト ン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロトン伝 導体のそれぞれが、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少なくとも 一部がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加したプロトン 伝導性官能基とからなっている、プロトン伝導性高分子であって、前記複数のプロトン 伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し、その他端のCF 2 −に スルホン酸基が結合した部位を有し、
この部位とは別に、前記連結分子がスルホニルイミド(−SO 2 NHSO 2 −)からな り、その一方の−SO 2 及び他方のSO 2 −がそれぞれ、前記スペーサー分子の前記他端 のCF 2 −と結合して、前記複数のプロトン伝導体間を連結している、プロトン伝導性 高分子を形成する第3工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法。
【化4】
一般式(8):
一般式(9):
[Rf−C60−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf]y
(但し、前記一般式(8)及び(9)において、Rfは、−CF2CF2OCF2CF2SO2F、−CF2CF2OCF2CF2SO2NH2又は−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SiR2 3であり、或いは−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf'(但し、Rf'はRfと同じである。)である。yは自然数である。また、R2はアルキル基であり、R1はLi、Na、K、SiR2 3である。) - 前記第2工程で;
1当量の固体の前記第1反応生成物を計量して、テトラヒドロフランに溶解したR2 3SiNNaSiR2 3(但し、R2はアルキル基である。)の1M溶液を大気中で滴状に 加え、暗褐色の沈殿物が形成するまで室温で攪拌し、前記暗褐色の沈殿物を真空中で乾 燥して第1固体を形成し、
前記第1固体をジオキサンに溶解し、それに前記のテトラヒドロフランに入れた1/ 2当量の前記第1反応生成物を加え、
第2固体が得られるまで前記溶解した第1固体を還流し、その間に前記第2反応生成 物を含有する前記第2固体を得る、
請求項25に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。 - 前記第3工程で、NaOHを用いて前記第2反応生成物を加水分解することにより、下記一般式(10)で表される第3反応生成物を形成する、請求項25に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
一般式(10):
[Rf2−C60−CF2CF2OCF2CF2SO2NNaSO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf2]y
(但し、前記一般式(10)において、Rf2は、−CF2CF2OCF2CF2SO3Na、−CF2CF2OCF2CF2SO2NH2又は−CF2CF2OCF2CF2SO2NNaSiR2 3であり、或いは−CF2CF2OCF2CF2SO2NR1SO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf2'(但し、Rf2'はRf2と同じである。)である。yは自然数である。また、R2はアルキル基であり、R1はLi、Na、K、SiR2 3である。) - 前記第3工程で、前記第3反応生成物をプロトン化することにより、下記一般式(11)で表される高分子を生成する、請求項27に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
一般式(11):
[Rf3−C60−CF2CF2OCF2CF2SO2NHSO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf3]y
(但し、前記一般式(11)において、Rf3は、−CF2CF2OCF2CF2SO3Hであり、或いは−CF2CF2OCF2CF2SO2NHSO2CF2CF2OCF2CF2−C60−Rf3'(但し、Rf3'はRf3と同じである。)である。また、yは自然数である。) - 前記第3工程で、HClと共に前記第2反応生成物を加熱する、請求項28に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
- フラーレン分子と、I−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −XF( 但し、Xはプロトン伝導性の酸性官能基となる基である。)からなるスペーサー分子前 駆体と、I−(CF 2 ) n −I(但し、nは6〜8の自然数である。)からなる連結分子前 駆体とを組み合わせて架橋型第1反応生成物を形成する第1工程と;
前記架橋型第1反応生成物をプロトン化して、複数のプロトン伝導体と、前記複数の プロトン伝導体の間を連結した少なくとも1個の連結分子とからなり、前記複数のプロ トン伝導体のそれぞれが、前記フラーレン分子と、前記フラーレン分子に付加し、少な くとも一部分がフッ素化されてなるスペーサー分子と、前記スペーサー分子に付加した プロトン伝導性官能基とからなっている、網状構造のプロトン伝導性高分子であって、 前記複数のプロトン伝導体のそれぞれにおいて、前記スペーサー分子が−CF 2 −CF 2 −O−CF 2 −CF 2 −からなり、その一端の−CF 2 が前記フラーレン分子と結合し、 その他端のCF 2 −にプロトン伝導性の酸性官能基が結合しており、前記連結分子が−( CF 2 ) n −からなり(但し、nは6〜8の自然数である。)、前記プロトン伝導体を構 成する前記フラーレン分子に直接結合して、前記複数のプロトン伝導体間を連結してい る、プロトン伝導性高分子を形成する第2工程と;
を有する、プロトン伝導性高分子の製造方法。 - 前記架橋型第1反応生成物をプロトン化する前記第2工程で、前記架橋型第1反応生成物を加水分解して架橋型第2反応生成物を形成した後、前記架橋型第2反応生成物をプロトン化する、請求項30に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
- 前記フラーレン分子としてC60を用い、前記スペーサー分子前駆体 としてI−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2Fを用い、また前記連結分子前駆 体としてI−(CF2)8−Iを用い、
前記第1工程で、C6F6/CS2の1:1溶液中、1当量の前記C60、24当量の前 記I−CF2−CF2−O−CF2−CF2−SO2F及び24当量の前記I−(CF2)8 −Iを、約200℃の温度で約96時間混合することにより、下記一般式(5)で表さ れる前記架橋型第1反応生成物を形成する、
請求項30に記載したプロトン伝導性高分子の製造方法。
【化5】
一般式(5):
(但し、前記一般式(5)において、yは少なくとも2の自然数であり、nは最大約8の自然数である。)
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