JP4323739B2 - 固体電解質材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体電解質材料に関し、詳しくは、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに利用可能な固体電解質材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、固体高分子型燃料電池に用いられている固体電解質材料としては、イオン交換基としてスルホン酸基を用いるものが主流である。この系ではプロトン伝導性を発現させるためには水が不可欠であり、また、電解質中に液体水が十分量保持されることが不可欠となるため、作動温度が100℃以下に制限されている。この温度条件面での制限を打破する固体電解質膜として、塩基性を有することにより一定量のリン酸を保持することが可能なポリベンゾイミダゾールのような高分子膜に、リン酸を含浸した電解質膜(以下「リン酸含浸電解質膜」という)が提案されている。このリン酸含浸電解質膜は、リン酸が高温無水条件でプロトン伝導性を示すことを利用し、固体電解質膜へ応用したものである。また、この系を改良したものとして種々の特許が出願されている(特開2000−273159、特開2000−38472)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したリン酸導入電解質膜では、燃料電池のカソードにおいて発電に伴い水が生成し、この生成水により導入されたリン酸あるいはリン酸化合物が溶出し、経時的にプロトン伝導性能が低下するという問題があった。
【0004】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高分子化合物にリン酸化合物を含浸して得られる固体電解質材料であってプロトン伝導性の経時的な低下を防止可能なものを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段、発明の実施の形態及びその作用効果】
本発明の固体電解質材料は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の第1の固体電解質材料は、ヒドロキシル基がリンに結合しているホスホリル基を含有する高分子化合物に、リン酸化合物を含浸して得られることを特徴とする。この固体電解質材料によれば、リン酸化合物と高分子化合物中のホスホリル基とが結合したりあるいは両者間に相互作用が働いたりして、水によるリン酸化合物の溶出が抑制されるため、経時的なプロトン伝導性の低下が抑制される。
【0007】
本発明の第2の固体電解質材料は、高分子化合物中のホスホリル基のリンに結合しているヒドロキシル基と、含浸するリン酸化合物との脱水縮合により得られることを特徴とする。この固体電解質材料によれば、リン酸化合物と高分子化合物中のホスホリル基とが脱水縮合によって結合して、水によるリン酸化合物の溶出が抑制されるため、経時的なプロトン伝導性の低下が抑制される。
【0010】
本発明の第1の固体電解質材料において、前記高分子化合物にリン酸化合物を含浸したあと熱処理して得られるものであってもよい。こうすれば、熱処理によってリン酸化合物と高分子化合物中のホスホリル基とが結合しやすくなったりあるいは両者間に相互作用が働きやすくなったりするので、経時的なプロトン伝導性の低下が一層抑制される。
【0011】
本発明の第1および第2の固体電解質材料におけるホスホリル基は、ヒドロキシル基がリンに結合しているものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸基、ホスホン酸基又はホスフィン酸基が好ましく、リン酸基又はホスホン酸基がより好ましい。更に該ホスホリル基の導入量は、固体電解質材料1gあたり0.01〜3.0mmolであることが好ましい。下限値を下回ると本発明の効果が十分得られなくなるため好ましくなく、上限値を上回ると固体電解質主鎖の結晶性が低下し物性が低下するため好ましくない。
【0012】
本発明の第1および第2の固体電解質材料における含浸するリン酸化合物は、特に限定はされないが、例えば、リン酸、ポリリン酸、アルキルリン酸などを挙げることができる。このうち、リン酸が好ましい。更に、リン酸の場合の含浸量は、固体電解質材料1gあたり0.01〜30mmolであることが好ましい。下限値を下回ると十分なプロトン伝導性が得られないため好ましくなく、上限値を上回ると膜物性が低下するため好ましくない。
【0013】
本発明の第1〜第3の固体電解質材料における高分子化合物は、ヒドロキシル基がリンに結合しているホスホリル基を含有していれば特に限定されないが、例えば炭化水素部を有する高分子化合物であってもよく、このような高分子化合物としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、直鎖型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、架橋型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、直鎖型ポリスチレン樹脂、架橋型ポリスチレン樹脂、直鎖型ポリ(トルフルオロスチレン)樹脂、架橋型(トリフルオロスチレン)樹脂、ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、ポリ(アリルエーテルケトン)樹脂、ポリ(アリレンエーテルスルホン)樹脂、ポリ(アリレンエーテルスルホン)樹脂、ポリ(フェニルキノサンリン)樹脂、ポリ(ベンジルシラン)樹脂、ポリスチレン樹脂などであってホスホリル基を含有するものが挙げられる。ポリスチレン樹脂としては、スチレンモノマーとアクリロニトリル、アクリル酸エステル、ブタジエン等のモノマーの1種又は2種以上とを共重合した樹脂(いずれかのモノマーがホスホリル基を含有している)や、ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン樹脂、ポリスチレン−グラフト−ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン−グラフト−テトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられる。
【0014】
あるいは、窒素含有のヘテロ環を有する高分子化合物であってもよく、このような高分子化合物としては、例えば、窒素含有五員環であるピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール等を有する高分子化合物や、窒素含有六員環であるピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、チアゾリン、オキサゾリン等を有する高分子化合物や、これら五員環または六員環と縮環したヘテロ環であるインドール、ベンズピラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズ(イソ)チアゾール、ベンズ(イソ)オキサゾール、キノリン、キノキザリン等を有する高分子化合物であってホスホリル基を含有するものが挙げられる。このうち、イミダゾール環を有する高分子化合物として、例えば、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズビスイミダゾールなどを挙げることができる。通常、ポリベンズイミダゾールは、芳香族二塩基酸および芳香族テトラミンから製造することができ、例えば、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2’−(ピリジレン−3”,5”)−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2’−(フリーレン−2”,5”)−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2’−(ナフチレン−1”,6”)−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2’−(ビフェニレン−4”,4”)−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2’−アミレン−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2’−オクタメチレン−5,5’−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,6’−(m−フェニレン)−ジイミダゾールベンゼン、ポリ−2’,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ジ(ベンズイミダゾール)エーテル、ポリ−2’,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ジ(ベンズイミダゾール)スルフィド、ポリ−2’,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ジ(ベンズイミダゾール)スルホン、ポリ−2’,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ジ(ベンズイミダゾール)メタン、ポリ−2’,2”−(m−フェニレン)−5,5”−ジ(ベンズイミダゾール)−プロパン−2,2、および、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5”−ジ(ベンズイミダゾール)−エチレン−1,2などが挙げられる。このうち、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾールが好ましい。また、ポリベンズビスイミダゾールの例としては、ポリ−2,6’−(m−フェニレン)ベンズビスイミダゾール、ポリ−2,6’−(ピリジレン−2”、6”)ベンズビスイミダゾール、ポリ−2,6’−(ピリジレン−3”、5”)ベンズビスイミダゾール、ポリ−2,6’−(ナフチレン−1”、6”)ベンズビスイミダゾール、ポリ−2,6’−(ナフチレン−2”、7”)ベンズビスイミダゾールなどを挙げることができる。このうち、ポリ−2,6’−(m−フェニレン)ベンズビスイミダゾールが好ましい。
【0015】
本発明の第1および第2の固体電解質材料における高分子化合物は、ヒドロキシル基がリンに結合しているホスホリル基を有する側鎖が主鎖に結合していてもよい。ここで、主鎖としては、特に限定されないが、例えば既に例示した高分子化合物群の中から選んでもよい。また、側鎖としては、特に限定されないが、炭素数1〜10の炭化水素鎖(例えばアルキル鎖、アルケニル鎖、アルキニル鎖、(ポリ)エーテル鎖など)であってもよい。
【0016】
本発明の第1〜第3の固体電解質材料は、室温の蒸留水に1時間浸漬し、電解質材料中のリン含有量が、浸漬前に比べて10%以上残存していることが好ましく、50%以上残存していることがより好ましく、80%以上残存していることが更に好ましい。
【0017】
また、本発明の第1〜第3の固体電解質材料は、燃料電池の電解質膜として利用することができる。本発明の固体電解質材料を燃料電池の電解質膜として利用した場合、発電に伴ってカソードで水が生成したとしても、この生成水による含浸されたリン酸化合物の溶出が抑制され、経時的なプロトン伝導性能の低下が抑制されるため、燃料電池性能が向上する。
【0018】
【発明の実施例】
[実施例1]
まず、三口フラスコにジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す)30ml、2−クロロエチルホスホン酸2.5g(1.7×10-2mol)、トリエチルアミン1.7g(1.7×10-2mol)を入れ、窒素雰囲気下、室温で1時間攪拌して2−クロロエチルホスホン酸のトリエチルアミン塩溶液を得た。次に、重量平均分子量が13万のポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール(以下、PBIと略す)2.0g(6.5×10-3mol)をDMAc38gに溶かし、これに水素化リチウム0.5g(6.5×10-2mol)を入れ、85℃で3時間攪拌してPBI溶液を得た。その後、PBI溶液に2−クロロエチルホスホン酸のトリエチルアミン塩溶液を滴下し、1日攪拌して反応を行い、この反応溶液をアセトン中に沈澱させ、濾過、減圧乾燥を行った。ここで得られた物質の5wt%ジメチルスルホキシド溶液にイオン交換樹脂を入れ、室温で24時間攪拌してイオン交換を行った。その後この溶液を濾過した後、アセトンに再沈澱させ、濾過、減圧乾燥を行いエチルホスホン酸基を有するPBI(以下、PBI−EPと略す)(図1参照)を得た。
【0019】
なお、図1では便宜上、繰り返し単位中の2つのベンゾイミダゾールの窒素原子にエチルホスホン酸基を導入した場合を例示したが、実際にはベンゾイミダゾールの窒素原子の全てにエチルホスホン酸基が導入されているとは限らない。
【0020】
続いて、PBI−EPの5wt%ジメチルスルホキシド溶液を調製し、この溶液をポリテトラフルオロエチレンシート上に流延し、60℃で2日間乾燥を行ったあと、真空下で24時間減圧乾燥を行いキャスト膜を作製した。さらに得られたキャスト膜を85%リン酸水溶液に浸漬し、80℃で4時間加熱した後、140℃で真空乾燥を行い最終生成物である電解質膜を得た。
【0021】
[実施例2]
実施例2の電解質膜は、実施例1と同様にキャスト膜を作製し、得られたキャスト膜を85%リン酸水溶液に浸漬し、80℃で4時間加熱した後、100℃で真空乾燥を行い得られたものである。
【0022】
[実施例3]
実施例3の電解質膜は、実施例1と同様にキャスト膜を作製し、得られたキャスト膜を85%リン酸水溶液に浸漬し、80℃で4時間加熱した後、180℃で真空乾燥を行い得られたものである。
【0023】
[比較例1]
比較例1の電解質膜は、まずPBI粉末2.0gを10wt%トリフルオロ酢酸20mlに溶解させ、さらにリン酸を加えて室温で一晩攪拌し溶液を調製し、この溶液を、ポリテトラフルオロエチレンシート上に流延し、40℃で脱溶媒した後、80℃で真空乾燥を行い得られたものである。
【0024】
[リン酸溶出の確認]
実施例1〜3および比較例1の電解質膜を室温の蒸留水に1時間浸漬し、それぞれの膜中に残留するリン酸量を定量した。定量方法としては、浸漬処理後の膜を80℃で減圧乾燥し元素分析及びIPC発光分析によりP/Nを求めた。この結果を表1に示す。また表1において、P/NとはPBIの窒素原子モル量に対するリン酸モル量の比率のことである
【0025】
【表1】
【0026】
表1より、比較例1の場合は、水洗処理によりリン酸が溶出するのに対し、実施例1〜3の場合は、きわめて効果的に溶出が抑制された。この実験結果は、実施例1〜3において、含浸したリン酸とPBI−EPのホスホン酸基とが脱水縮合した式(2)の化合物や、含浸したリン酸とPBI−EPのホスホン酸基との間に水素結合等の強い相互作用が働いている化合物が生成したことを示唆するものである。
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、m、qは0以上の整数を示し、また便宜上、繰り返し単位中の2つのベンゾイミダゾールの窒素原子に、エチル基に結合したリン複合基を導入した場合を例示したが、実際にはベンゾイミダゾールの窒素原子の全てに、エチル基に結合したリン複合基が導入されているとは限らない。)
【0029】
[燃料電池における評価の比較]
実施例1の電解質膜を使用した燃料電池と比較例1の電解質膜を使用した燃料電池との安定性の比較を行った。具体的な方法として、電解質膜の両面に白金触媒を塗布し、それを一対のガス拡散電極(アノードおよびカソード)で挟み込んで膜電極接合体(以下、MEAと略す)を作成した。このMEAを一対の導電性セパレータで挟み込むことにより単セルを作成した。なお、各セパレータの表面には溝が形成され、一方のセパレータとMEAの片面とが接合することでそのセパレータに形成された溝を酸化ガス通路として機能させ、他方のセパレータとMEAの片面とが接合することでそのセパレータに形成された溝を燃料ガス通路として機能させた。そして、アノードとカソードとを負荷を介して電気的に接続し、無水状態で、温度140℃、圧力0.2MPa、電流密度0.5A/cm2という条件でこの単セルを作動させた。そのときの作動時間と単セルの出力電圧との関係を図2のグラフに表した。
【0030】
図2より、比較例1の電解質膜を使用した燃料電池では、カソードで生成する水によって含浸したリン酸が溶出して徐々に性能低下するのに対し、実施例1の電解質膜を使用した燃料電池の場合は、性能低下がほとんど認められなかった。
【0031】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のPBI−EPを得るための合成方法を示す説明図である。
【図2】実施例1と比較例1を使用した燃料電池における作動時間と単セルの出力電圧との関係を表したグラフである。
Claims (1)
- ヒドロキシル基がリンに結合しているホスホリル基を含有する高分子化合物をリン酸水溶液に浸漬し、その状態で加熱したあと140℃〜180℃で真空乾燥することにより、室温の蒸留水に1時間浸漬したあとの電解質材料中のリン含有量が浸漬前に比べて80%以上残存しているようにする、
固体電解質材料の製造方法。
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