JP4818703B2 - プロトン伝導性固体高分子電解質及び燃料電池 - Google Patents
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Description
また燃料電池を市場に提供するにあたって、長寿命化の観点からも多くの改良が成されており、触媒の一酸化炭素被毒の問題を解決するにあたり、作動温度を100℃〜150℃といった中温域に設定した中温域型高分子固体燃料電池の研究も盛んに行なわれている。この場合、蒸気圧の問題から、プロトン伝導の媒体として水を用いることが難しく、特許文献1(特表平11−503262号公報)に見られるように、リン酸を媒体およびキャリアとする検討が行なわれている。また、100℃以上で燃料ガスおよび空気の供給下、安定に高分子電解質を維持しなければいけないという観点から、これらの高分子は一般的に耐熱性および化学的安定性が求められる。
また、特許文献1には、リン酸などの強酸をドープさせたポリベンズイミダゾールからなる固体電解質膜が開示されているが、燃料電池動作のために十分なプロトン伝導度を得るためには、ポリベンズイミダゾール質量に対して4〜5倍程度のリン酸を含有させなければならない。このようなリン酸含有量の大きな膜は、機械的強度が低く、また燃料電池に組み込んだ場合にガスのクロスオーバーを発生させる可能性がある。その一方で、膜の機械的強度を高めるためにリン酸のドープ率を低くすると、プロトン伝導性が低下するという問題がある。
本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質は、酸と、該酸を含浸するマトリックスポリマーとが少なくとも混合されてなり、前記マトリックスポリマーは、分子中に塩基性分子構造を具備していることを特徴する。
また、本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質においては、前記塩基性分子構造がピリジレン基であることが好ましい。
更に、本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質においては、前記マトリックスポリマーが、分子中にウレア結合を含む下記一般式(1)に示す分子構造を少なくとも1モル%以上100モル%以下の範囲で具備していることが好ましい。ただし、一般式(1)において、R1は−C6H4−CH2−C6H4−基または−C6H4−O−C6H4−基であり(−C6H4−はフェニレン基)、R2はピリジレン基である。
また、本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質においては、前記マトリックスポリマーが架橋されていてもよい。
また、本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質においては、前記マトリックスポリマーに、ポリパラバン酸樹脂が含まれていても良い。ポリパラバン酸樹脂の構造式は、例えば、下記一般式(3)乃至(8)に示す通りである。
また、本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質においては、前記酸がリン酸あるいはホスホン酸またはこれらの混合物であることが好ましい。
また、本発明の燃料電池においては、前記酸素極または前記燃料極のいずれか一方または両方に、先のいずれかに記載のプロトン伝導性固体高分子電解質が含まれていてもよい。
また、本発明によれば、作動温度が100℃以上200℃以下で無加湿、あるいは相対湿度50%以下であっても、少量の酸がドープされてなるプロトン伝導性固体高分子電解質を用いることによって、良好な発電性能を長期間安定的に示す固体高分子型の燃料電池を得ることが出来る。
「プロトン伝導性固体高分子電解質」
本実施形態のプロトン伝導性固体高分子電解質(以下、高分子電解質という)は、酸と、この酸を含浸するマトリックスポリマーとが少なくとも混合されてなり、マトリックスポリマーの分子中に塩基性分子構造が備えられてなるものである。マトリックスポリマーとしては、分子中に塩基性分子構造を有するとともにウレア結合を備えた芳香族ポリウレア樹脂を用いることができる。また、芳香族ポリウレア樹脂中のウレア結合の一部をポリパラバン酸構造に転化させたウレア含有ポリパラバン酸樹脂を用いても良い。以下、本実施形態の高分子電解質を構成する芳香族ポリウレア樹脂、ウレア含有ポリパラバン酸樹脂及び酸について、順次説明する。
芳香族ポリウレア樹脂は、分子中に塩基性分子構造を備えた芳香族ポリウレア樹脂である。塩基性分子構造としては、ピリジレン基を例示することができ、ピリジレン基の他にもキノリレン、キノキサリレン、アクリジレン等を例示することができる。
この芳香族ポリウレア樹脂の具体的な分子構造は、先の一般式(1)に示した通りである。一般式(1)において、R1を−C6H4−CH2−C6H4−基または−C6H4−O−C6H4−基であり(−C6H4−はフェニレン基)とすることで、高分子電解質の耐熱性の向上を図ることができる。また、R2をピリジレン基とすることで、芳香族ポリウエア樹脂に酸を安定して保持することができる。また、一般式(1)に示す分子構造を少なくとも1モル%以上備えることで、酸を安定して保持することができるまた、一般式(1)に示す分子構造を100モル%以下備えることで、溶媒に対する溶解性が低下することがなく、所謂キャスト法による成形性が向上し、高分子電解質を所望の形状にすることが容易になる。
これらの他の分子構造が結合することによって、高分子電解質の耐熱性を更に向上することができる。
また、上記の芳香族ポリウレア樹脂に含まれるウレア結合を転化することによって分子内にポリパラバン酸構造を導入することができる。このパラバン酸構造が導入されたウレア含有ポリパラバン酸樹脂は、先の一般式(2)に示す分子構造を有する。このウレア含有ポリパラバン酸樹脂には、未転化のウレア結合が残存している。すなわち、転化率は100%未満である。尚、一般式(2)におけるR3、R4は一般式(1)の場合と同様である。このウレア含有ポリパラバン酸樹脂には、芳香族ポリウレア樹脂中に含まれる塩基性分子構造がそのまま含有される。
本実施形態における酸とは、リン酸、ホスホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホイミド酸、リンタングステン酸等を示すが、耐熱性、腐食性、揮発性、導電性の観点から、リン酸およびホスホン酸またはこれらの混合物が好ましい。これらの酸はいずれも、マトリックスポリマー中の塩基性分子構造またはポリパラバン酸構造と相互作用してマトリックスポリマーに含浸(ドープ)されてプロトン伝導度を発現させる。マトリックスポリマーに対する酸のドープ率は、酸の種類にもよるが、5モル%以上800モル%以下の範囲が好ましく、150モル%以上5001モル%以下の範囲がより好ましい。ドープ率が低すぎるとプロトン伝導度が低下してしまうので好ましくなく、またドープ率が高すぎると高分子電解質の機械的強度が低下するので好ましくない。
また、本実施形態の高分子電解質においては、低分子架橋剤による架橋構造がマトリックスポリマーに形成されていても良い。低分子架橋剤としては、二酸無水物、ジエポキシ化合物、ジイソシアネートから選ばれる化合物が好ましい。これら低分子架橋剤によって、マトリックスポリマー中のウレア結合部分同士が架橋された架橋構造が形成され、高分子電解質の機械的強度が更に向上する。架橋反応は主に、マトリックスポリマー中のNH基に対して起こり、隣接する分子鎖のNH基同士が架橋されてマトリックスポリマー全体の分子構造が安定化される。
また、ジエポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル,2,2’−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)−プロパンなどが挙げられる。
更に、ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート(ODI)、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサフルオロビフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどが挙げられる。更にはこれらの誘導体も使用できる。
また本実施形態の高分子電解質においては、マトリックスポリマーに、ポリパラバン酸樹脂が含有されていてもよい。具体的には、芳香族ポリウレア樹脂またはウレア含有ポリパラバン酸樹脂と、ポリパラバン酸樹脂とによってポリマーアロイが形成され、このポリマーアロイに酸が含浸されて高分子電解質が形成されていればよい。ポリパラバン酸樹脂としては、先の一般式(3)乃至(8)に示す構造のものを例示できる。
ポリマーアロイ中におけるポリパラバン酸樹脂の含有率は、98質量%以下の範囲が好ましく、20質量%以上90質量%以下の範囲がより好ましい。含有率が20質量%未満になると、高分子電解質のプロトン伝導度が低下してしまうので好ましくない。
更にまた、マトリックスポリマーにポリパラバン酸樹脂等が含有されてポリマーアロイを形成することで、マトリックスポリマーの機械的強度をより高めることができる。また、ポリパラバン酸は上述のように、比較的弱い塩基性を有しているので、ポリパラバン酸樹脂等が含有された場合でも酸の含浸率が低下することがなく、高いプロトン伝導度を維持できる。
高分子電解質の製造方法は、マトリックスポリマーを合成する工程と、合成されたマトリックスポリマーを例えば膜状に成形するとともにマトリックスポリマーに酸を含浸させる工程とからなる。
マトリックスポリマーの合成方法は、例えば、文献(E.Scortanu,LNicolaescu,G.Caraculacu,LDiaconu,andA.Caraculacu,Eur.Polym,J.34(1998)1265−1272)にあるように、ジアミンとジイソシアネートの反応から芳香族ポリウレア樹脂を得る方法によって合成される。芳香族ポリウレア樹脂の合成スキームを下記の式(13)に示す。なお、式(13)において、R1は−C6H4−CH2−C6H4−基または−C6H4−O−C6H4−基であり(−C6H4−はフェニレン基)、R2はピリジレン基であり、繰り返し単位数を示すn1は10以上100000以下の自然数である。
また、ジイソシアネートとして、メチレンジフェニルジイソシアネート、ジフェニルエーテルイソシアネートのいずれか一方または両方を用いることにより、芳香族ポリウレア樹脂中に芳香族環を導入することが可能になる。
この式(14)に示すように、塩基性分子構造を有する芳香族ポリウレア樹脂と、ウレア含有ポリパラバン酸樹脂とは、中間体と完成体の関係にある。
本発明においては、文献(E.Scortanu,LNicolaescu,G.Caraculacu,LDiaconu,andA.Caraculacu,Eur.Polym,J.34(1998)1265−1272)にみられるジアミンとジイソシアネートの反応から、複素環を分子内に有する芳香族ポリウレアを合成し、これをパラバン酸に転化することによって、前駆体を経由しないで主鎖に塩基性分子構造を有するポリパラバン酸樹脂を提供することができる。また、前駆体である複素環を分子内に有する芳香族ポリウレア樹脂においても、プロトン伝導性を有し、燃料電池へ応用可能である。
また、本発明によれば、反応段階が一段少ないことから、本発明の高分子電解質は安価に市場に提供できる材料である。
図1には、本実施形態の燃料電池を構成する単セルの模式図を示す。図1に示す単セル1は、酸素極2と、燃料極3と、酸素極2および燃料極3の間に挟持された本実施形態の高分子電解質4(以下、電解質膜4と表記する場合がある)と、酸素極2の外側に配置された酸化剤流路5aを有する酸化剤配流板5と、燃料極3の外側に配置された燃料流路6aを有する燃料配流板6とから構成され、作動温度100℃〜200℃、湿度が無加湿若しくは相対湿度50%以下の条件で作動するものである。
なお、燃料として供給される水素は、炭化水素若しくはアルコールの改質により発生された水素が供給されるものでも良く、また、酸化剤として供給される酸素は、空気に含まれる状態で供給されても良い。
常温にて20mmol(ミリモル)の4,4’−メチレンジフェニル−ジイソシアネートを70mLのNメチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した(溶液A)。そしてこの溶液Aを、10mmolの4,4’−ジアミノジフェニルメタンと10mmolの2,5−ジアミノピリジンとが70mLのNメチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解されてなる溶液Bに滴下し、常温で4時間攪拌後、さらに80℃にて18時間反応させた。
マトリックスポリマーの溶液をガラス上にキャスト成膜し、厚さ60μmの深赤色の高分子膜を得た。この膜を濃度85%のリン酸に漬けたところ、膜自重の1.95倍まで膨潤した。このようにして、実施例1の高分子電解質を製造した。
実施例1で得られたマトリックスポリマーをジクロロエタンに分散させ、3当量のオキザリルジクロライドを導入し、60℃にて11時間還流した(ポリウレアからポリパラバン酸への転化反応)。マトリックスポリマーは分散状態にあることから、ほぼ収率100%で分子内に複素環を有するポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂を得た。得られたポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂を10質量%になるようにNMPに溶解し、ガラス上にキャスト成膜した。得られた膜の厚さは55μmでほぼ黒色に近い深赤色の高分子膜を得た。この膜を濃度85%のリン酸に漬けたところ、膜自重の1.85倍まで膨潤した。このようにして、実施例2の高分子電解質を製造した。
尚、上記のポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂について、プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz,DMSO−d6)を確認したところ、8〜9ppmにピーク強度比としては小さいものの、ウレア結合と思われるピークが確認できた。よって、上記のポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂には、若干量のポリウレア樹脂が残存しているものと考えられる。
実施例2のポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂について、プロトン核磁気共鳴スペクトル(NMR)によってウレア結合と思われるピークが確認できたため、実施例2のポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂が5重量%となるようにNMPに溶解し、これに、NMRの積分比から見積もったウレアの存在比率に対して当量(ポリパラバン酸1ユニットに対して0.05当量程度)の4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネートを加え、アルゴンガス雰囲気下で攪拌を行い、均一に溶解させた後シャーレに流し込み、80℃のホッテプレートの上で溶媒を除去しながら、架橋反応を行なった。得られた膜の厚みは90μmであり、膜の色は実施例2の色と殆ど同色であった。この膜を濃度85%のリン酸に漬けたところ、膜自重の1.65倍まで膨潤した。このようにして、実施例3の高分子電解質を製造した。
実施例2において調製されたマトリックスポリマー0.8gと、別途合成した4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネートを原料とする分子量約50万のポリパラバン酸樹脂0.2gをNMPに溶解させたのち、ガラス板上にキャスト製膜した(ポリマーアロイの調製)。得られた膜の厚みは70μmであり、膜の色は実施例2の色と殆ど同色であった。この膜を濃度85%のリン酸に漬けたところ、膜自重の1.70倍まで膨潤した。このようにして、実施例4の高分子電解質を製造した。
文献(T.C.Patton,Polym.Preprints,12(1971)162−168)を参考にして、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをシアン化水素によって環化させた後、濃塩酸によって加水分解して得られる塩基性分子構造を有しないポリパラバン酸樹脂を合成した。得られた樹脂をNMPに溶解して10質量%の溶液に調製した。この溶液を用いてキャスト成膜することにより、薄い赤色がかった透明な膜を得た。膜の厚みは60μmであり、この膜を濃度85%のリン酸に漬けたところ、膜自重の1.24倍まで膨潤した。このようにして、比較例1の高分子電解質を製造した。
常温にて20mmolの4,4’−メチレンジフェニル−ジイソシアネートを70mLのNMPに溶解して溶液Cとし、この溶液Cを、20mmolの4,4−ジアミノジフェニルメタンが70mLのNMPに溶解されてなる溶液Dに滴下させ、常温で4時間攪拌後、さらに80℃にて18時間反応させた。
実施例1において調製したマトリックスポリマー(芳香族ポリウレア樹脂)と、実施例2において調製したマトリックスポリマー(ポリウレア含有ポリパラバン酸樹脂)とについて、赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図2に示す。
Claims (6)
- 酸と、該酸を含浸するマトリックスポリマーとが少なくとも混合されてなり、
前記マトリックスポリマーは、下記式(1)に示す芳香族ポリウレア樹脂を少なくとも1モル%以上100モル%以下の範囲で具備しており、
前記酸は、リン酸、ホスホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホイミド酸、リンタングステン酸から選択されることを特徴とするプロトン伝導性固体高分子電解質。
ただし、式(1)において、R1は−C6H4−CH2−C6H4−基または−C6H4−O−C6H4−基であり(−C6H4−はフェニレン基)、R2はピリジレン基であり、繰り返し単位数を示すn1は10以上100000以下の自然数である。
- 前記マトリックスポリマー中のウレア結合部分同士が架橋されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプロトン伝導性固体高分子電解質。
- ポリパラバン酸樹脂がさらに混合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のプロトン伝導性固体高分子電解質。
- 酸素極、燃料極および両電極に挟持された高分子電解質膜を備え、酸化剤流路を形成した酸化剤配流板を酸素極側に設け、燃料流路を形成した燃料配流板を燃料極側に設けたものを単位セルとする燃料電池において、前記高分子電解質膜が請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のプロトン伝導性固体高分子電解質であることを特徴とする燃料電池。
- 前記酸素極または前記燃料極のいずれか一方または両方に、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のプロトン伝導性固体高分子電解質が含まれていることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池。
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