以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は本発明に係るベルト式無段変速機の変速制御装置が適用された車両用無段変速機1を示している。この車両用無段変速機(以下、単に変速機と称する)1はエンジンEGの回転速度やトルクを変換し、エンジンEGの回転動力をディファレンシャル機構60経由で左右の駆動輪(車両の前輪)WL,WRに伝達する構成を有している。
変速機1は、互いに平行に延びて設けられた入力軸10、中空軸11、出力軸20及び中間軸40を有しており、ディファレンシャル機構60とともに図示しない変速機ケース内に収容されている。入力軸10はエンジンEGのクランクシャフトCSにカップリング機構CPを介して連結されており、中空軸11はこの入力軸10の外周側に入力軸10に対して相対回転自在に保持されている。中空軸11上にはドライブプーリ12が設けられており、中空軸11と入力軸10との間には遊星歯車機構14が設けられている。また、出力軸20上にはドリブンプーリ22、中間軸ドライブギヤ24及びスタートクラッチ25が設けられており、中間軸40上には中間軸ドリブンギヤ42及びファイナルドライブギヤ44が設けられている。中空軸11上に設けられたドライブプーリ12と出力軸20上に設けられたドリブンプーリ22との間には無端ベルト30が掛け渡されており、これらドライブプーリ12、ドリブンプーリ22及び無端ベルト30からベルト式変速機構CVTが構成されている。
ドライブプーリ12は、中空軸11上に固定された固定側ドライブプーリ半体12aと、中空軸11に対して相対回転不能かつ中空軸11の軸方向に移動自在に設けられた可動側ドライブプーリ半体12bとからなり、可動側ドライブプーリ半体12bの側方(図1では右方)に設けられたシリンダ室(油圧室)13内にプーリ側圧(作動油の圧力)を作用させてプーリ推力を発生させることにより、可動側ドライブプーリ半体12bを中空軸11に固定されたシリンダ壁13aに対して移動させることができる。すなわちドライブプーリ12は与えられたプーリ推力に応じて溝幅(両ドライブプーリ半体12a,12b間の間隔)を変化させることができる構成となっている。具体的には、シリンダ室13内の圧力を高めてプーリ推力を上昇させると、可動側ドライブプーリ半体12bが無端ベルト30の張力に抗して固定側ドライブプーリ半体12aに近づいて(図1における紙面左方に移動して)ドライブプーリ12の溝幅が狭められ、シリンダ室13内の圧力を低くしてプーリ推力を低下させると、可動側ドライブプーリ半体12bが無端ベルト30の張力により固定側ドライブプーリ半体12aから離れて(図1における紙面右方に移動して)ドライブプーリ12の溝幅が広げられる。
ドリブンプーリ22は、出力軸20上に固定された固定側ドリブンプーリ半体22aと、出力軸20に対して相対回転不能かつ出力軸20の軸方向に移動自在に設けられた可動側ドリブンプーリ半体22bとからなり、可動側ドリブンプーリ半体22bの側方(図1では左方)に設けられたシリンダ室(油圧室)23内にプーリ側圧を作用させてプーリ推力を発生させることにより、可動側ドリブンプーリ半体22bを出力軸20に固定されたシリンダ壁23aに対して移動させることができる。すなわちドリブンプーリ22は与えられたプーリ推力に応じて溝幅(両ドライブプーリ半体22a,22b間の間隔)を変化させることができる構成となっている。具体的には、シリンダ室23内の圧力を高めてプーリ推力を上昇させると、可動側ドリブンプーリ半体22bが無端ベルト30の張力に抗して固定側ドリブンプーリ半体22aに近づいて(図1における紙面右方に移動して)ドリブンプーリ22の溝幅が狭められ、シリンダ室23内の圧力を低くしてプーリ推力を低下させると、可動側ドリブンプーリ半体22bが無端ベルト30の張力により固定側ドリブンプーリ半体22aから離れて(図1における紙面左方に移動して)ドリブンプーリ22の溝幅が広げられる。
遊星歯車機構14は、入力軸10にスプライン嵌合されて入力軸10と一体となって回転するサンギヤ14aと、中空軸11と一体に形成されたリングギヤ14bと、入力軸10に対して相対回転自在に設けられたプラネタリキャリヤ14cと、このプラネタリキャリヤ14cに回転自在に支承され、サンギヤ14a及びリングギヤ14bの双方と常時噛合した複数のプラネタリギヤ14dとを有して構成される。サンギヤ14aとリングギヤ14bとの間にはフォワードクラッチ15が設けられており、プラネタリキャリヤ14cと変速機ケースとの間にはリバースブレーキ16が設けられている。フォワードクラッチ15は図示しないクラッチピストンの油圧作動を受けてサンギヤ14aとリングギヤ14bとの結合及びその解除を行い、リバースブレーキ16は図示しないブレーキピストンの油圧作動を受けてプラネタリキャリヤ14cと変速機ケース側上の部材3との結合及びその解除を行う。
ここで、フォワードクラッチ15を係合(サンギヤ14aとリングギヤ14bとを結合)させると、サンギヤ14aとリングギヤ14bとは相対回転不能となり、リバースブレーキ16を係合(プラネタリキャリヤ14cと変速機ケース上の部材3とを結合)させると、プラネタリキャリヤ14cと変速機ケースとは相対回転不能となる。このため、入力軸10が回転した状態でフォワードクラッチ15を係合させると(リバースブレーキ16は非係合とする)、中空軸11は入力軸10と一体となって回転し、これによりドライブプーリ12は入力軸10と同一の方向に回転する(これを順方向回転とする)。なお、このときサンギヤ14aとリングギヤ14bとは相対回転しないので、各プラネタリギヤ14dは自転することなく、サンギヤ14a及びリングギヤ14bと一体となって、入力軸10のまわりを回転(公転)する。一方、入力軸10が回転した状態でリバースブレーキ16を係合すると(フォワードクラッチ15は非係合とする)、サンギヤ14aが入力軸10と一体となって回転する一方で、各プラネタリギヤ14dは自転してリングギヤ14bをサンギヤ14aとは反対の方向へ回転させるので、中空軸11を介してリングギヤ14bと一体に係止されたドライブプーリ12は入力軸10とは反対の方向に回転する(これを逆方向回転とする)。なお、フォワードクラッチ15とリバースブレーキ16がともに非係合となっているときには、入力軸10及びこれと一体のサンギヤ14aが回転するのみであり、エンジンEGの回転動力は中空軸1、すなわちドライブプーリ12には伝達されない。
中間軸ドライブギヤ24は出力軸20に対して相対回転自在に設けられており、スタートクラッチ25は図示しないクラッチピストンの油圧作動を受けて出力軸20と中間軸ドライブギヤ24との結合及びその解除を行う。ここで、スタートクラッチ25を係合(出力軸20と中間軸ドライブギヤ24とを結合)させると、中間軸ドライブギヤ24は出力軸20に対して相対回転不能となる。このため、出力軸20が回転した状態でスタートクラッチ25を係合させると、中間軸ドライブギヤ24は出力軸20と一体となって出力軸20とともに回転する。
ドライブプーリ12とドリブンプーリ22との間に掛け渡された無端ベルト30は多数の金属製のエレメント32が図示しないスチールベルト上に嵌め込まれた構成となっている。各エレメント32はその両側面がV字状に形成されており、これらV字状の側面がドライブプーリ12を構成する両ドライブプーリ半体12a,12bの対向するプーリ面(円錐状の斜面)及びドリブンプーリ22を構成する両ドリブンプーリ半体22a,22bの対向するプーリ面により挟持されるように両プーリ12,22に適切な(各プーリ面に対して無端ベルト30が滑ることのない)プーリ推力を与えることにより、エンジンEGの動力をドライブプーリ12からドリブンプーリ22へ伝達することができるようになっている。なお、この無端ベルト30は、多数のリンクプレートが、互いにオーバーラップする切り欠き内に押し込まれたピンを介してジョイント式に結合されているリンクプレートチェーン等からなっていてもよい。このような構成のものであっても、同じく両プーリ12,22に適切なプーリ推力を与えることにより、エンジンEGの動力をドライブプーリ12からドリブンプーリ22に伝達することができる。
中間軸ドリブンギヤ42及びファイナルドライブギヤ44はともに中間軸40上に固定して設けられており、中間軸ドリブンギヤ42は、出力軸20上に設けられた中間軸ドライブギヤ24と常時噛合している。また、ファイナルドライブギヤ44は、ディファレンシャル機構60のディファレンシャルケース61に固定されたファイナルドリブンギヤ64と常時噛合している。
ディファレンシャル機構60は、ディファレンシャルケース61の内部に2つのディファレンシャルピニオン62a,62a及び2つのサイドギヤ62b,62bからなる差動機構63が収容された構成となっており、サイドギヤ62b,62bには左右のアクスルシャフトASL,ASRが固定されている。これら左右のアクスルシャフトASL,ASRはその中心軸が中間軸40の中心軸と平行になるように配置されており、ディファレンシャルケース61はこれら左右のアクスルシャフトASL,ASRの中心軸を回転軸として回転できるように支持されている。また、左右のアクスルシャフトASL,ASRの端部には左右の駆動輪WL,WRが取り付けられている。ディファレンシャルケース61に固定されたファイナルドリブンギヤ64は上述のようにファイナルドライブギヤ44と常時噛合しているので、中間軸40が回転するとディファレンシャルケース61全体が、左右のアクスルシャフトASL,ASRとともに、これらアクスルシャフトASL,ASRの中心軸まわりに回転する。
ここで、ドライブプーリ12とドリブンプーリ22それぞれに無端ベルト30の滑りが発生することのない適切なプーリ推力を与えた状態で入力軸10にエンジンEGの回転動力を入力すると、その回転動力は、入力軸10→ドライブプーリ12→無端ベルト30→ドリブンプーリ22→出力軸20と伝達される。そして、ドライブプーリ12及びドリブンプーリ22それぞれのプーリ推力を増減させることによって両プーリ12,22それぞれの溝幅を変えることができ、無端ベルト30の両プーリ12,22に対する巻き掛け半径比(プーリ比)を変化させて滑らかな無段階変速ができるようになっている。
具体的には、ドリブンプーリ22のプーリ推力を高くし、ドライブプーリ12のプーリ推力を低くする制御を行ったときには、ドリブンプーリ22の溝幅は狭く、ドライブプーリ12の溝幅は広く設定されるので、無端ベルト30のドリブンプーリ22に対する巻き掛け半径はドライブプーリ12に対する巻き掛け半径よりも大きくなり、変速機1は低速走行対応の低レシオ状態(出力軸20の回転速度が入力軸10の回転速度よりも小さくなる状態)となる。また、ドライブプーリ12のプーリ推力とドリブンプーリ22のプーリ推力とを同程度とする制御を行ったときには、ドライブプーリ12の溝幅とドリブンプーリ22の溝幅とはほぼ等しくなるように設定されるので、無端ベルト30のドライブプーリ12に対する巻き掛け半径とドリブンプーリ22に対する巻き掛け半径とはほぼ等しくなり、変速機1は中速走行対応の中レシオ状態(出力軸20の回転速度が入力軸10の回転速度とほぼ同程度となる状態)となる。また、ドライブプーリ12のプーリ推力を高くし、ドリブンプーリ22のプーリ推力を低くする制御を行ったときには、ドライブプーリ12の溝幅は狭く、ドリブンプーリ22の溝幅は広く設定されるので、無端ベルト30のドライブプーリ12に対する巻き掛け半径はドリブンプーリ22に対する巻き掛け半径よりも大きくなり、変速機1は高速走行対応の高レシオ状態(出力軸20の回転速度が入力軸10の回転速度より大きくなる状態)となる。
上記のようにエンジンEGの回転動力が入力軸10から出力軸20に伝達されている状態でスタートクラッチ25を係合させると、中間軸ドライブギヤ24が出力軸20と一体となって回転するので、出力軸20に伝達されたエンジンEGの回転動力は更に中間軸ドライブギヤ24から中間軸ドリブンギヤ42に伝達されて、中間軸40が回転する。これにより中間軸40上のファイナルドライブギヤ44がファイナルドリブンギヤ64、すなわちディファレンシャルケース61を回転させるので、左右のサイドギヤ62b,62bに連結されたアクスルシャフトASL,ASRを介して左右の駆動輪WL,WRが駆動される。一方、スタートクラッチ25が非係合の状態では中間軸ドライブギヤ24と出力軸20とは連結されず、出力軸20の回転動力は中間軸ドライブギヤ24に伝達されないので、左右の駆動輪WL,WRは駆動されない。
変速機1におけるベルト式変速機構CVTのプーリ比は前述のように連続的に無段階で変化させることができるが、ベルト式変速機構CVT1が実際に取り得るプーリ比の範囲は、運転席内に設けられたセレクトレバーにより選択されているシフトポジションによって異なる。すなわち、セレクトレバーにより「D」のシフトポジションが選択されているときには、上述の「低レシオ(低速走行対応)」、「中レシオ(中速走行対応)」、「高レシオ(高速走行対応)」の三つのレシオに対応する範囲のプーリ比をとることができるが、セレクトレバーにより「L」又は「R」のシフトポジションが選択されているときには、車速、アクセル開度の大きさに拘わらず、「低レシオ」の範囲でのプーリ比のみをとることが可能である。
次に、本変速機1の変速制御装置の詳細について説明する。図2に示すように、変速機1の変速制御装置は、車体(図示せず)内に設けられた電子制御ユニット70と、この電子制御ユニット70により電気的に駆動されるドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ91及びドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ92と、エンジンEG等により駆動され、これら両リニアソレノイドバルブ91,92を介してドライブプーリ12のシリンダ室13とドリブンプーリ22のシリンダ室23とに圧油を供給する油圧ポンプPとを有した構成となっている。また、電子制御ユニット70には、図2に示すように、スロットル開度センサ81、車速センサ82、シフトポジションセンサ83、ドライブプーリ回転速度センサ84及びドリブンプーリ回転速度センサ85からの検出信号が入力されるようになっており、電子制御ユニット70はこれらセンサ81〜85からの検出信号に基づいてドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ91及びドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ92に変速制御信号(電圧信号)を出力し、これら両バルブ91,92を作動させるようになっている。
スロットル開度センサ81は車両の運転席内に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に対応するスロットルバルブ(図示せず)の開度(スロットル開度)を検出するセンサであり、車速センサ82は出力軸20の回転速度等から車両の走行速度(車速)を検出するセンサである。また、シフトポジションセンサ83はセレクトレバーの位置、すなわちセレクトレバーにより選択されたシフトポジションを検出するセンサである。また、ドライブプーリ回転速度センサ84はドライブプーリ12に固定された回転数検出用ギヤ(図示せず)の回転数からドライブプーリ12の回転速度を検出するセンサであり、ドリブンプーリ回転速度センサ85はドリブンプーリ22に固定された回転数検出用ギヤ(図示せず)の回転数からドリブンプーリ22の回転速度を検出するセンサである。
図2に示すように、電子制御ユニット70は記憶部71、目標エンジン回転数設定部72、目標プーリ推力設定部73、変速制御信号出力部74及びディザ付加部75を有している。記憶部71は車速とスロットル開度とから定まる目標エンジン回転数のマップをシフトポジションごとに記憶しており、目標エンジン回転数設定部72はこのマップをもとに、スロットル開度センサ81により検出されるスロットル開度の情報と、車速センサ82により検出される車速の情報と、シフトポジションセンサ83により検出されるシフトポジションの情報とから目標エンジン回転数を設定する。目標プーリ推力設定部73は目標エンジン回転数設定部72において設定された目標エンジン回転数を実現するのに最適な目標プーリ推力をドライブプーリ12及びドリブンプーリ22のそれぞれについて設定する。変速制御信号出力部74はドライブプーリ12及びドリブンプーリ22それぞれのプーリ推力が目標プーリ推力設定部73において設定されたそれぞれの目標プーリ推力まで連続的に変化するようにドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ91及びドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ92それぞれに変速制御信号を出力する。また、ディザ付加部75は、ベルト式変速機構CVTの変速状態に応じ、変速制御信号出力部74が出力する上記変速制御信号(ドライブプーリ12のプーリ推力を目標プーリ推力まで変化させる変速制御信号及びドリブンプーリ22のプーリ推力を目標プーリ推力まで変化させる変速制御信号)の少なくとも一部にディザ(任意の振幅及び任意の周波数幅とからなる信号の変動成分)を付加する。
次に、上記構成を有する変速機1の変速制御装置の具体的な作用について説明する。目標エンジン回転数設定部72が現在のアクセル開度と車速、及び選択されているシフトポジションから記憶部71に記憶されたマップに基づいて目標エンジン回転数を設定すると、続いて目標プーリ推力設定部73がこの目標エンジン回転数を実現するのに最適な目標プーリ推力をドライブプーリ12及びドリブンプーリ22のそれぞれについて設定する。このように目標プーリ推力設定部73がドライブプーリ12及びドリブンプーリ22のそれぞれについての目標プーリ推力を設定すると、今度は変速制御信号出力部74が、ドライブプーリ12及びドリブンプーリ22それぞれのプーリ推力が設定された目標プーリ推力まで連続的に変化するようにドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ91及びドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ92それぞれに変速制御信号を出力する。これにより油圧ポンプPからの圧油がドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ91経由でドライブプーリ12のシリンダ室13に供給されるとともに、ドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ92経由でドリブンプーリ22のシリンダ室23に供給され、ドライブプーリ12とドリブンプーリ22それぞれの溝幅は目標エンジン回転数設定部72において設定した目標エンジン回転数を実現するのに最適なプーリ比となる。なお、両プーリ12,22それぞれの溝幅の比によって定まるベルト式変速機構CVTのプーリ比は、ドライブプーリ回転速度センサ84により検出されるドライブプーリ12の回転速度とドリブンプーリ回転速度センサ85により検出されるドリブンプーリ22の回転速度との比に基づいて、電子制御ユニット70において判断される。
このように、変速機1におけるプーリ比の変化はアクセル開度と車速とに応じて自動的に行われ、車速が上昇したときにはプーリ比は低レシオ側から高レシオ側へ滑らかに(無段階に)推移し、車速が低下したときにはプーリ比は高レシオ側から低レシオ側へ滑らかに推移する。また、急加速を必要とするときなどアクセルペダルをいっぱいに踏み込んだ場合には、プーリ比が高レシオ側から低レシオ側へ急速に推移し、これにより登坂走行時や追い越し走行時などにおいて所要の加速力を得ることができるようになっている。
変速機1の変速制御装置の作用は上記の通りであるが、車両が高速走行している状態から運転者がブレーキペダルを踏み込み、これにより車両が減速する場合には上記制御とは異なるところがあり、以下にこの場合の作用について説明する。
図3〜図6は高速等速走行状態からブレーキペダルを踏んで車両を減速させた場合に変速制御装置が行う変速制御の第1実施形態を示しており、図3は電子制御ユニット70が行う制御のフロー、図4〜図6はそれぞれ第1実施形態における第1実施例、第2実施例、第3実施例に対応する車速、電子制御ユニット70が両プーリ12,22に出力する変速制御信号及びこれにより設定されるベルト式変速機構CVTのプーリ比の関係を示すグラフである。
この第1実施形態では、電子制御ユニット70は、車両の減速走行中に、先ず現在の車両の車速が予め定めたディザ制御開始車速以下であるか否かを判断する(ステップS11)。そして、現在の車速がディザ制御開始車速よりも大きいと判断したときには、ドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に通常の変速制御信号を出力する(ステップS12)。ここで通常の変速制御信号とは、現在のプーリ推力が目標プーリ推力まで線形的に変化するように出力される変速制御信号のことである(以下同じ)。一方、上記ステップS11において、現在の車速がディザ制御開始車速以下であると判断したときには、続いて現在の車両の車速が予め定めたディザ制御終了車速以上であるか否かを判断する(ステップS13)。そして、現在の車速がディザ制御終了車速以上であると判断したときには、通常の変速制御信号にディザを加えてこれをドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に出力する(ステップS14)。一方、上記ステップS13において、現在の車速がディザ制御終了車速よりも小さいと判断したときには、通常の変速制御信号をドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に出力する(ステップS15)。
この第1実施形態の第1実施例では、図4に示す如く、車速が予め定めたディザ制御開始車速からディザ制御終了車速にある間は、ドリブンプーリ22に出力する変速制御信号(ドリブンプーリ側変速制御信号)にディザを加え、ドライブプーリ12に出力する変速制御信号(ドライブプーリ側変速制御信号)は常に線形的なものとしている。ドリブンプーリ側変速制御信号にディザを加えてこれをドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ92に出力すると、ドリブンプーリ22のシリンダ室23に作用する圧油は周期的な或いはランダムな微小変動をしながら目標プーリ推力まで変化することとなるので、ドリブンプーリ22の溝幅もこれに応じて微小変動しながら変化する。このようなドリブンプーリ22の溝幅の微小変動により、変速の途中であっても無端ベルト30に一定の張力変化を与えることができ、変速時(ここでは減速時)において無端ベルト30の張力に緩みが生じて起こる振動を抑えることが可能である。
上記第1実施形態の第2実施例では、図5に示す如く、車速が予め定めたディザ制御開始車速からディザ制御終了車速にある間は、ドライブプーリ側変速制御信号にディザを加え、ドリブンプーリ側変速制御信号は常に線形的なものとしている。ドライブプーリ側変速制御信号にディザを加えてこれをドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ91に出力すると、これによりドライブプーリ12のシリンダ室13に作用する圧油は周期的な或いはランダムな微小変動をしながら目標プーリ推力まで変化することとなるので、ドライブプーリ12の溝幅もこれに応じて微小変動しながら変化する。このようなドライブプーリ12の溝幅の微小変動により、変速の途中であっても無端ベルト30に一定の張力変化を与えることができ、変速時(ここでは減速時)において無端ベルト30の張力に緩みが生じて起こる振動を抑えることができるのは上記第1実施例の場合と同様である。
上記第1実施形態の第3実施例では、図6に示す如く、車速が予め定めたディザ制御開始車速からディザ制御終了車速にある間は、ドライブプーリ側変速制御信号とドリブンプーリ側変速制御信号との双方にディザを加えている。この場合には、ドライブプーリ12のシリンダ室13に作用する圧油とドリブンプーリ22のシリンダ室23に作用する圧油の双方が周期的な或いはランダムな微小変動をしながら目標プーリ推力まで変化することとなるので、上記第1実施例及び第2実施例の場合と同様の効果を得ることができる。
図7及び図8は高速等速走行状態からブレーキペダルを踏んで車両を減速させた場合に変速機1の変速制御装置が行う変速制御の第2実施形態を示しており、図7は電子制御ユニット70が行う制御のフロー、図8は車速、両プーリ12,22に出力する変速制御信号及びこれにより設定されるベルト式変速機構CVTのプーリ比の関係を示すグラフである。
この第2実施形態では、電子制御ユニット70は、車両の減速走行中に、先ず現在の車両の車速が予め定めたディザ制御開始車速以下であるか否かを判断する(ステップS21)。そして、現在の車速がディザ制御開始車速よりも大きいと判断したときには、ドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に通常の変速制御信号を出力する(ステップS22)。一方、上記ステップS21において、現在の車速がディザ制御開始車速以下であると判断したときには、続いて現在の車速が予め定めたディザ制御終了車速以上であるか否かを判断する(ステップS23)。そして、現在の車速がディザ制御終了車速以上であると判断したときには、更に、現在の変速速度(プーリ比の変化速度)が予め定めた閾値以下であるか否かを判断する(ステップS24)。そして、現在の変速速度が上記閾値以下であると判断したときには通常の変速制御信号に第1のディザ(図7中ではディザ1)を加えてこれをドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に出力する(ステップS25)。一方、上記ステップS24において、現在の変速速度が上記閾値よりも大きいと判断したときには、通常の変速制御信号に第2のディザ(図7中ではディザ2)を加えてこれをドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に出力する(ステップS26)。ここで、第2のディザは第1のディザよりも振幅が小さく、かつ周期が短いものとする。また、上記ステップS23において、現在の車速がディザ制御終了車速よりも小さいと判断したときには、通常の変速制御信号をドライブプーリ12及びドリブンプーリ22に出力する(ステップS27)。
図8は第1実施形態における第1実施例の場合よりも急減速し、変速速度が閾値よりも大きくなった場合の例を示している。この図から分かるように、車速が予め定めたディザ制御開始車速からディザ制御終了車速にある間は、ドリブンプーリ22に出力する変速制御信号(ドリブンプーリ側変速制御信号)にディザを加え、ドライブプーリ12に出力する変速制御信号(ドライブプーリ側変速制御信号)は常に線形的なものとしているのは第1実施形態における第2実施例の場合と同様であるが、ドライブプーリ側変速制御信号に加えられるディザが第1実施形態における第2実施例の場合よりも周期が小さく、かつ周期が短いものとなっている。変速速度が大きい場合(急変速時)には、変速速度の小さい場合(緩変速時)に対し、無端ベルト30の張りの緩みが生じ易く、異常共振がより起こり易い状態であるので、ディザ付加部75が変速制御信号に付加するディザは、ベルト式変速機構CVTの変速速度に応じて可変に設定されることが好ましく、これにより変速速度が大きい場合(特に急減速した場合)であっても、上記無端ベルトの上記制振及び制音効果を十分に発揮させることが可能となる。特に、本実施形態のように、変速速度が大きいときには変速速度が小さいときよりもディザの振幅を小さくし、かつ周期を短くすること(更には比較的高い周波数の一定の微小変動を発生させること)が好ましい。このようにすれば、無端ベルト30のプーリ12,22に対するディザによるスリップを効果的に防止することができるので、本発明の効果を一層十分に発揮させることが可能となる。
図9は、上述の第1実施形態の第1実施例に対応する異常音の低減効果を示す図あり、実線が本変速制御装置による場合、破線は従来における変速制御装置による場合の結果である。この図より、変速制御信号にディザを加えることによって効果的に異常音(騒音)が低減されていることが分かる。
以上説明したように、本車両用無段変速機1の変速制御装置では、ベルト式変速機構CVTの変速状態に応じ、ドライブプーリ12及びドリブンプーリ22それぞれのプーリ推力を目標プーリ推力まで変化させる変速制御信号の少なくとも一部にディザを付加する機能を備えているので、ドライブプーリ12及びドリブンプーリ22の少なくとも一方の溝幅は細かな増減を繰り返しながら目標プーリ推力に対応する溝幅まで変化することとなる。このため、変速時、特にプーリ比を高レシオ側から低レシオ側に変化させた場合に発生しがちな無端ベルト30の振動を抑えることができ、これに起因する大きな異音の発生を効果的に抑制することが可能である。
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示したものに限定されない。例えば、上述の実施形態では、ドライブプーリ及びドリブンプーリそれぞれのプーリ推力の変化は、油圧ポンプより吐出される圧油により可動側のプーリ半体(可動側ドライブプーリ半体12b及び可動側ドリブンプーリ半体22b)を移動させて行っていたが、これは、可動側のプーリ半体を電動モータにより移動させる構成であってもよい。また、上述の実施形態では、変速制御信号にディザを付加するケースとして、ベルト式変速機構のプーリ比が高レシオ側から低レシオ側に変化する場合のみを示したが、ディザの付加の適用が、プーリ比が低レシオ側から高レシオ側に変化する場合についても可能であるのは勿論である。また、上述の実施形態では、本発明に係るベルト式無段変速機が車両用無段変速機として用いられている場合を示したが、これは一例であり、他の動力装置一般に適用することも可能である。