JP4318346B2 - 光学情報基材用ポリカーボネート組成物及び光学情報基材 - Google Patents
光学情報基材用ポリカーボネート組成物及び光学情報基材 Download PDFInfo
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- Polyesters Or Polycarbonates (AREA)
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエステル交換法で製造されたポリカーボネート組成物に関し、特にCD、DVD等の光ディスクなどの光学情報基材用に好適に使用できるポリカーボネート組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性などに優れたエンジニアリングプラスチックスとして多くの分野において幅広く用いられている。中でも近年の情報化の進展により、音楽や映像用記録媒体及びパソコン等のデジタル情報記録媒体として需要が拡大しており、ポリカーボネートはCD、CD−ROM、CD−R、DVD−ROM、DVD−R等の光ディスクや光カードなどの光学情報基材用途ではなくてはならない樹脂となった。
【0003】
これら光ディスク等の光学情報基材には微細なグルーブやピットを正確成形することが必要とされ、該用途に使用されるポリカーボネートには高い転写性と低複屈折等の高い光学特性が要求される。その為、光学情報基材用ポリカーボネートには高い流動性が要求され、重量平均分子量が15,000前後の低分子量ポリカーボネートが使用されてきた。しかしながら、近年、記録媒体が従来のCDから記録密度が増大したDVDへの移行が始まり、今まで以上のより微細な転写性が要求されるようになってきた。その為、従来のCD用ポリカーボネートを用いてDVDを成形するには、流動性が不足して充分な転写性が得られなかった。そこで、汎用のポリカーボネートでは考えられない350〜390℃という高温に加熱することで溶融粘度を低下させて成形しているのが現状である。また、保存用記録媒体としての用途が増大してきたため、湿熱条件下におけるディスク基板の信頼性への要求も大きくなってきた。
【0004】
これまで、光学情報基材用途には、ホスゲン法で製造されたポリカーボネートが使用されてきた。しかしながら、ホスゲン法ポリカーボネートは、その製造時に毒性のホスゲンを使用することや、溶媒として塩化メチレンを使用することから、ポリカーボネート中に不純物として塩素イオンや塩化メチレンが残存するため、成形時の熱安定性の低下や金型腐食、及び光学情報基材の品質低下が発生して問題となっていた。その為、特開昭63−316313号公報、特開平4−146922号公報、特開昭63−97627号公報をはじめとして、これら不純物を低減した組成物や低減するための方法が数多く提案されている。
【0005】
そこで、近年、上記のような高温成形がなされるようになり、ポリカーボネート中に微量に残留している塩化メチレンから塩酸への転化率が増加して上記問題が顕在化してきたため、これら不純物のより完全な除去が望まれている。しかしながら、ポリカーボネートからこれら不純物を完全に除去するには多大な労力が必要となるため、近年ではホスゲンや塩化メチレンを使用しないエステル交換法ポリカーボネートが見直されてきている。
ところが、エステル交換法で製造されたポリカーボネートは、ホスゲン法で得られたポリカーボネートに比べて多くの水酸基末端を有しており(「高分子分析ハンドブック」朝倉書店発行、345頁、1985年)、このような高温成形下では熱劣化が大きく使用できず、湿熱下での長期信頼性も乏しいものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、良好な光情報基板、特に高温での成形が必要とされるDVD等の記録密度の高い良好な光情報基板を製造できるエステル交換法ポリカーボネートがないのが現状であり、本発明はそのようなエステル交換法ポリカーボネートを提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決する為に高い水酸基末端比率を有するエステル交換法ポリカーボネートの熱安定性と流動性の関係に着目して、詳細に解析検討し鋭意研究を重ねてきた。その結果、ポリカーボネート主鎖中に特定量の異種結合と分岐構造を導入することで、成形加工温度の低下が可能となり、高い水酸基末端比率を有するエステル交換法ポリカーボネートでもDVD等の光学情報基材が成形できるという驚くべき事実を見出すとともに、該ポリカーボネート中に含有されるナトリウム量を特定の範囲にし、且つ特定量の酸性化合物を添加することで特に成形加工時の溶融安定性を向上させるとともに高温湿熱時の微小光学欠陥を大幅に低下できることを見い出し本発明に到達した。一般的に、酸性化合物の添加はポリカーボネートの加水分解を加速するため、白濁を増加させる傾向にあった。本発明者らの検討においても、酸性化合物が添加された重量平均分子量が24,000程度の一般的なポリカーボネートから成形された成形品肉厚が3mm程度の成形品を120℃で耐スチーム試験したところ、無添加成形品に比べ白濁が激しかった。このような状況下で、高温湿熱下での光学欠陥が大幅に低下したことは非常に驚くべき発見であった。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(a)重量平均分子量が13,000〜18,000であり、(b)異種構造の合計量が0.03〜0.30モル%の範囲にあり、且つ該異種構造の50モル%以上が下記式(1)に示す分岐構造であり、(c)ナトリウム量が0.3ppm以下の範囲にある、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まないポリカーボネート100重量部に対して、(d)酸性化合物を0.1×10 -4 〜100×10 -4 重量部含有している光学情報基材用ポリカーボネート組成物からなることを特徴とするDVD基板、
【0009】
【化3】
(式中、Ar’は二価の芳香族残基Arから誘導される三価の芳香族残基を示す。)
但し、「実質的に塩素原子を含まない」とは、(1) 硝酸銀溶液を用いた電位差滴定法もしくはイオンクロマト法による塩素イオンの測定方法で塩素イオンが0.5ppm以下であり、同時に、(2) 燃焼法による塩素原子の測定方法で塩素原子が検出限界の10ppm以下である。
(2)該ポリカーボネートの全末端基に占める水酸基末端比率が5〜50モル%の範囲にあることを特徴とする上記(1)記載のDVD基板、及び
(3)芳香族ジヒドロキシ化合物の85モル%以上がビスフェノールAで有り、異種構造の50モル%以上が式(2)に示す構造単位であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のDVD基板、を提供するものである。
【0010】
【化4】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリカーボネートは芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造される。
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とは、HO−Ar−OHで示される化合物である(式中、Arは二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレンや、−Ar1 −Y−Ar2 −で表される2価の芳香族基である。その際、Ar1 及びAr2 は、各々独立にそれぞれ炭素数5〜70を有する2価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表し、Yは炭素数1〜30を有する2価のアルカン基を表す。)。
【0012】
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 において、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。
複素環式芳香族基の好ましい具体例としては、1ないし複数の環形成窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有する芳香族基を挙げることができる。
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 は、例えば、置換又は非置換のフェニレン、置換又は非置換のビフェニレン、置換または非置換のピリジレンなどの基を表す。ここでの置換基は前述のとおりのものである。
【0013】
2価のアルカン基Yは、例えば、下記式で示される有機基である。
【化5】
(式中、R1 、R2 、R3 、R4 は、各々独立に水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基、環構成炭素数5〜10の炭素環式芳香族基、炭素数6〜10の炭素環式アラルキル基を表す。kは3〜11の整数を表し、R5 およびR6 は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に、水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは炭素を表す。また、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 において、一つ以上の水素原子が反応に悪影響を及ぼさない範囲で他の置換基、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等によって置換されたものであっても良い。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0014】
【化6】
【0015】
(式中、R7 、R8 は、各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基またはフェニル基であって、m及びnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合には各R8 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよい。)
さらに、2価の芳香族基Arは、−Ar1 −Z−Ar2 −で示されるものであっても良い(式中、Ar1 、Ar2 は前述の通りで、Zは単結合又は−O−、−CO−、−S−、−SO2 −、−SO−、−COO−、−CON(R1 )−などの2価の基を表す。ただし、R1 は前述のとおりである。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0016】
【化7】
【0017】
(式中、R7 、R8 、mおよびnは、前述のとおりである。)
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、単一種類でも2種類以上でもかまわない。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例としてはビスフェノールAが挙げられ、芳香族ジヒドロキシ化合物として85モル%以上の割合で使用することが好ましい。また、これら芳香族ジヒドロキシ化合物は、塩素原子とアルカリまたはアルカリ土類金属の含有量が少ない方が好ましく、出来れば実質的に含有していないことが好ましい。
【0018】
本発明で用いられる炭酸ジエステルは、下記式で表される。
【化8】
(式中、Ar3 、Ar4 はそれぞれ1価の芳香族基を表す。)
Ar3 及びAr4 は、1価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表すが、このAr3 、Ar4 において、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。Ar3 、Ar4 は同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。
1価の芳香族基Ar3 及びAr4 の代表例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピリジル基を挙げることができる。これらは、上述の1種以上の置換基で置換されたものでも良い。
【0019】
好ましいAr3 及びAr4 としては、それぞれ例えば、下記式で示される基が挙げられる。
【化9】
【0020】
炭酸ジエステルの代表的な例としては、下記式で示される置換または非置換のジフェニルカーボネート類を挙げることができる。
【化10】
(式中、R9 及びR10は、各々独立に水素原子、炭素数1〜10を有するアルキル基、炭素数1〜10を有するアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基又はフェニル基を示し、p及びqは1〜5の整数であり、pが2以上の場合には各R9 はそれぞれ異なるものであっても良いし、qが2以上の場合には各R10はそれぞれ異なるものであっても良い。)
【0021】
この炭酸ジエステル類の中でも、非置換のジフェニルカーボネートや、ジトリルカーボネート、ジ−t−ブチルフェニルカーボネートのような低級アルキル置換ジフェニルカーボネートなどの対称型ジアリールカーボネートが好ましいが、特にジフェニルカーボネートが好適である。
これらの炭酸ジエステル類は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、これら炭酸ジエステル類は、塩素原子とアルカリまたはアルカリ土類金属の含有量が少ない方が好ましく、出来れば実質的に含有していないことが好ましい。
【0022】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの使用割合(仕込比率)は、用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの種類や、目標とする分子量や水酸基末端比率、重合条件等によって異なり特に限定されない。炭酸ジエステルは芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常0.9〜2.5モル、好ましくは0.95〜2.0モル、より好ましくは0.98〜1.5モルの割合で用いられる。
また、本発明においては、末端変換や分子量調節のために芳香族モノヒドロキシ化合物を併用してもよい。
【0023】
本発明において、エステル交換法とは、上記化合物を触媒の存在もしくは非存在下で、減圧下もしくは/及び不活性ガスフロー下で加熱しながら溶融状態でエステル交換反応にて重縮合する方法をいい、その重合方法、装置等には制限はない。例えば、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等を用い、これらを単独もしくは組み合わせることで容易に製造できる。また、溶融状態でエステル交換反応を行いプレポリマーを製造した後、固相状態で減圧下及び/又は不活性ガスフロー下で重合度を高める固相重合法でも製造できる。
【0024】
本発明で用いられるポリカーボネートは実質的に塩素原子を含有していない。具体的には、▲1▼硝酸銀溶液を用いた電位差滴定法もしくはイオンクロマト法による塩素イオンの測定方法で塩素イオンが0.5ppm以下であり、同時に、▲2▼燃焼法による塩素原子の測定方法で塩素原子が検出限界の10ppm以下である。好ましくは、▲1▼塩素イオンが上記測定法の検出限界以下の0.1ppm以下であり、同時に、▲2▼塩素原子が10ppm以下である。エステル交換法では、上記の方法で実質的に塩素原子を含有していない芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとから製造した場合には、他の塩素を含有する化合物を添加しない限り実質的に塩素原子を含有しないポリカーボネートを容易に得ることができる。
【0025】
本発明の光学情報基材用ポリカーボネート組成物は、上記によって得られたポリカーボネートにおいて、(a)該ポリカーボネートの重量平均分子量が13,000〜18,000であり、(b)該ポリカーボネート中の異種構造の合計量が0.03〜0.30モル%の範囲にあり、且つ該異種構造の50モル%以上が化1に示す分岐構造であり、(c)該ポリカーボネート中に含有するナトリウム量が0.3ppm以下の範囲にあり、更に(d)酸性化合物をポリカーボネート100重量部に対して0.1×10-4〜10×10-4重量部を含有していることを特徴としている。
【0026】
重量平均分子量は、好ましくは13,000〜17,000の範囲である。上記範囲より重量平均分子量が大きい場合には、流動性が悪くDVD等の高密度情報基板が成形できない。上記範囲より小さい場合には、情報基板の機械的強度が低くなり好ましくない。本発明の重量平均分子量の測定は、GPCを用いて行い測定条件は下記の方法によった。
テトラヒドロフラン溶媒、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求めた。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量である。)
本発明ポリカーボネート組成物において、該ポリカーボネート中の異種構造の量は、該ポリカーボネートを構成する芳香族ジヒドロキシ化合物由来の繰り返し主鎖構造単位に対して、0.03〜0.30モル%の範囲にあり、且つ該異種構造の50モル%以上が下記式(1)に示す分岐構造である。芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用いた場合には、下記式(2)の分岐構造を全異種構造量に対して、50モル%以上含有することが好ましい。
【0027】
【化11】
【0028】
【化12】
【0029】
該異種構造の量は、好ましくは0.04〜0.25モル%の範囲であり、特に好ましくは、0.05〜0.20モル%の範囲である。上記範囲より少ない場合には流動性の改善効果が小さく本発明の低温成形の効果が発現しない。また、上記範囲より多い場合には流動性は改善されるものも、基板としての機械的強度の低下や湿熱テストにおいて光学的欠陥が発生して好ましくない。本発明において、異種構造とは主鎖が原料として使用した芳香族ジヒドロキシ化合物から形成される直鎖状の結合に対して、ポリカーボネート製造過程で自然発生的に生成した構造や、予め分岐結合等の異種結合を導入する目的で添加した3官能以上の化合物に示す構造をいう。自然発生的に生成する異種構造としては、例えば、次の構造式に示される構造があるが、これらに特に限定されない。
【0030】
【化13】
【0031】
芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用いた場合には、次の構造式に示される構造が挙げられる。
【化14】
【0032】
また、分岐結合を導入する目的で添加される3官能以上の化合物としては、フェノール性水酸基またはカルボキシル基を有する化合物が挙げられ、例えば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’,2”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、α、α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン−2、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゾール、2,2’−ビス−[4,4−(4,4’−ジヒドロキシジフェニル)シクロヘキシル]プロパン、トリメリット酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0033】
本発明において、ポリカーボネート中の異種構造を定量する方法は、該ポリカーボネートを完全加水分解して、逆相液体クロマトグラフィーを用いて定量した。ポリカーボネートの加水分解はPolymer Degradation and Stability 45(1994),127〜137 に記載されているような常温での加水分解法が、操作が容易で分解過程での副反応もなく、完全にポリカーボネートを加水分解できるので好ましく、本発明においては室温(25℃)で行った。
【0034】
このような分岐構造をポリカーボネートに付与する方法としては、ポリカーボネートをエステル交換法で製造する際に、通常実施されているように3官能化合物や多官能化合物を添加して分岐構造を導入する方法や、3官能化合物や多官能化合物を添加することなく、重合温度、触媒、滞留時間等の製造条件を選択することで、重合過程で分岐構造を自然発生させてポリカーボネート中に導入する方法、及び両者を併用する方法が挙げられる。本発明においては、製造条件を制御することで重合過程で自然発生させて導入させる方法が、湿熱テストにおいて光学的欠陥の発生が少なく、機械的特性と低温成形性のバランスに優れた組成物が容易に得られる為に好ましく用いられる。一般的にエステル交換法では、ビスフェノールAポリカーボネートがアルカリの作用をうけてKolbe-Schmitt 反応に類似した反応によって次の式に示す構造が生成することが知られているが、反応条件を制御することで、前記式(2)で示す分岐構造を全分岐構造に対して50モル%以上含有するように制御して製造されたポリカーボネートが好ましい。
【0035】
【化15】
【0036】
そのようなポリカーボネートを製造する方法としては、特に限定されないが、国際公開出願特許WO97−32916号公開パンフレットに記載の製法条件が好ましい。上記範囲より少ない場合には、低温成形性の改善効果が小さいだけでなく、湿熱テストでの光学的欠陥が増加して好ましくない。
本発明ではポリカーボネート中に含有されるナトリウムの量が0.3ppm以下の量であることが必要である。好ましくは0.001〜0.2ppmの範囲であり、特に好ましくは0.003〜0.16ppmの範囲である。上記範囲より多い場合は成形加工中の滞留安定性が低下して好ましくない。
【0037】
本発明で使用される酸性化合物としては、pKa5以下の化合物をいい、特に限定はされない。例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ホウ酸等の無機酸類、アジピン酸、クエン酸、酢酸等の有機酸類、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類、ベンゼンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸ブチル等のスルホン酸エステル類等が挙げられる。これらの中で特に、リン酸、クエン酸、スルホン酸エステル類が好ましく使用される。本発明において、酸性化合物の使用量はポリカーボネート100重量部に対して0.1×10-4〜100×10-4重量部の範囲である。好ましくは0.4×10-4〜50×10-4重量部の範囲であり、特に好ましくは0.8×10-4〜20×10-4重量部の範囲である。上記範囲より少ない場合及び多い場合には、湿熱テスト時の微小光学欠陥が発生して好ましくない。
【0038】
また、本発明組成物中のポリカーボネートは、全末端基に占めるヒドロキシル末端比率が5〜50モル%の範囲であることが好ましい。好ましくは10〜40モル%の範囲であり、特に好ましくは15〜30モル%の範囲である。上記範囲より小さい場合には、均一な品質の情報基板が得られにくい傾向にあり、上記範囲より大きい場合には高温成形時の安定性が低下する傾向にある。フェノール性水酸基末端量の測定方法は、一般にNMRを用いて測定する方法や、チタン法や、UVもしくはIR法で求める方法が知られているが、本発明においては、酢酸酸性塩化メチレンに溶解し、四塩化チタンを加え、生成した赤色錯体を波長546nmの照射光で測光定量する方法(チタン法)で求めた。
【0039】
本発明の組成物には、必要に応じて耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤等を添加して用いても良い。更に、これら添加剤等は、重合終了後のポリカーボネート系樹脂が溶融状態の間に添加してもよいし、ポリカーボネートを一旦ペレタイズした後、添加剤を添加再溶融混練してもよい。
本発明の光情報基板用ポリカーボネート組成物から光情報基板に成形する方法については特に限定されず、一般に使用されている光ディスク用射出成形機が使用できる。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下実施例などを用いて、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は実施例などにより限定されるものではない。また、各項目の評価は以下の方法で測定した。
▲1▼ 重量平均分子量:
GPCを用いて行い、測定条件は下記の方法によった。テトラヒドロフラン溶媒、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求めた。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量である。)
【0041】
▲2▼ 異種構造量の定量:
ポリカーボネート55mgをテトラヒドロフラン2mlに溶解した後、5規定の水酸化カリウムメタノール溶液を0.5ml添加し、25℃で2時間攪拌して完全に加水分解した。その後、濃塩酸0.3mlを加え、逆相液体クロマトグラフィーで測定した。
逆相液体クロマトグラフィーは、Inertsil ODS−3カラム(登録商標:GLサイエンス社)、溶離液としてメタノールと0.1%リン酸水溶液からなる混合溶離液を用い、メタノール/0.1%リン酸水溶液比率を20/80からスタートし100/0までグラジエントする条件下で測定し、検出は波長300nmのUV検出器を用いて行い、標準物質の吸光係数から定量した。
【0042】
▲3▼ 水酸基末端基比率:
ポリカーボネート0.4gを塩化メチレン50mlに溶解した。該溶液10mlを50mlサンプル瓶に分取し、塩化メチレン12mlを加え良く混合した後、四塩化チタン2ml、酢酸1mlを加え、サンプル瓶を振り攪拌した。該溶液の波長546nmの吸収強度を分光光度計(島津社製スペクトロフォトメーターMPS−2000)を用いて、水酸基末端量を測定した。但し、吸湿を避けるために測定は全て窒素下で行った。水酸基末端比率はGPCで測定した数平均分子量を用いて計算した。
【0043】
▲4▼ 光情報基板の成形性評価:
日本製鋼所製光ディスク用射出成形機(J35EL II−DK)を用いて、成形温度370℃、金型温度120℃で厚さ0.6mmのDVD基板の成形を行った。複屈折及び転写性の評価は、Dr. schenk社製PROmeteus を用いて行った。複屈折はディスクの半径方向で測定した最大値と最小値との差(nm)を示し、転写性はディスク中心から50mm位置の測定値を用いて金型のグループ深さを基準にして計算した。
【0044】
▲5▼ 湿熱テスト:
上記370℃で成形したDVD−RAMディスク基板3枚を用いて、110℃×90RH%×150時間の湿熱テストを行った。評価は、ディスク3枚中に発生した200μm以上の光学欠陥と200μm以下の微小光学欠陥の数を数えた。なお、光学的欠陥は拡大レンズを用いて目視で評価した。
▲6▼ 基板強度:
上記370℃で成形したDVDディスク基板を用いて、支点間距離40mm、速度2mm/秒で曲げ試験を行った。曲げ強さが降伏点に到達するまでにDVDディスクが割れた場合を×、割れなかった場合を○として評価した。
【0045】
▲7▼ ナトリウム含有量の測定:
ポリカーボネートを酸素プラズマアッシュアーにて低温灰化した後、フレームレス原子吸光法にて測定した。
▲8▼ 成形機内滞留安定性の評価:
日本製鋼所製光ディスク用射出成形機(J35EL II−DK)を用いて、成形温度370℃、金型温度120℃で厚さ0.6mmのDVD基板を50枚成形した後成形を中断して、10分間成形機内に樹脂を滞留させた。その後、成形を開始してDVD基板を得た。成形を中断する直前10枚の平均色調と成形再開後の最も着色の大きいDVD基板の色調をCIELAB法で測定し、両者の色差△Eを求めた。
【0046】
【実施例1、2、比較例1〜8】
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートとからエステル交換法で重合条件を変えることで分子量、異種構造量、水酸基末端比率、ナトリウム含有量及び酸性化合物として用いたp−トルエンスルホン酸ブチル量の異なる表1記載のポリカーボネート組成物を製造した。該ポリカーボネート組成物を用いてDVD基板を成形し、特性評価を行った。その結果を表2に示す。
実施例1及び2のポリカーボネート組成物は、370℃でも良好な成形性を有していることから、100%の転写性を示すとともに、良好な基板特性(複屈折、湿熱テスト、基板強度)有していた。一方、本願範囲外の比較例は、全ての基板特性を満足するものは得られていない。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【発明の効果】
実施例で詳細に示したように、本発明の光情報基板用ポリカーボネート組成物は、通常のエステル交換法ポリカーボネートでは成形できなかったDVD−RAMのような記録密度の高い光情報基板を良好に得ることが出来る。また、得られた基板の特性も優れていることから、光学情報基材として好適に使用できる。
Claims (3)
- (a)重量平均分子量が13,000〜18,000であり、(b)異種構造の合計量が0.03〜0.30モル%の範囲にあり、且つ該異種構造の50モル%以上が下記式(1)に示す分岐構造であり、(c)ナトリウム量が0.3ppm以下の範囲にある、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まないポリカーボネート100重量部に対して、(d)酸性化合物を0.1×10 -4 〜100×10 -4 重量部含有している光学情報基材用ポリカーボネート組成物からなることを特徴とするDVD基板。
但し、「実質的に塩素原子を含まない」とは、(1)硝酸銀溶液を用いた電位差滴定法もしくはイオンクロマト法による塩素イオンの測定方法で塩素イオンが0.5ppm以下であり、同時に、(2)燃焼法による塩素原子の測定方法で塩素原子が検出限界の10ppm以下である。 - 該ポリカーボネートの全末端基に占める水酸基末端比率が5〜50モル%の範囲であることを特徴とする請求項1記載のDVD基板。
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