JP4315825B2 - 疲労特性に優れた高清浄ばね用鋼線 - Google Patents

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Description

本発明は、疲労特性に優れたばね用鋼線(ワイヤ)に関し、特に酸化物系介在物などの硬質介在物が少ない高清浄ばね用鋼線(ワイヤ)に関するものである。
近年、排ガス低減や燃費向上を目的とする自動車の軽量化や高出力化の要望が高まってきており、エンジンやサスペンション等に用いられる弁ばねや懸架ばねは、高応力設計が志向されている。その為ばねの負荷応力が増大し、ばね用鋼線の疲労特性の向上が求められている。疲労特性を向上するため、鋼線(ワイヤ)の引張強度を高めたり、表面を硬化処理したりされているが、近年のハイレベルの要求を満足するためにはさらなる改良が必要となる。すなわち鋼線(ワイヤ)の引張強度を高めることによって疲労特性はある程度改善されるが、引張強度をさらに高めると非金属介在物(酸化物系介在物などの硬質介在物など)などの内部欠陥に対する感受性が高くなり、該非金属介在物を起点とする折損が生じやすくなり、かえって疲労強度が低下してしまう。
そこで硬質の非金属介在物量を極力低減すると共に、そのサイズを小形化する方向で多くの改良研究が進められている。例えば非特許文献1には、タイヤコード用鋼材に含まれるAl23やSiO2等の非延性介在物量を可及的に低減することが有効であること、また弁ばね鋼では、介在物を融点が1400〜1500℃程度以下のCaO−Al23−SiO2系低融点組成に制御すれば、疲労破壊の起点になり難いことが明らかにされている。
また特許文献1,2には、非金属介在物を冷間加工時に延伸または破壊され易くし、実質的に破断の原因とならない軟質なものにするための非金属介在物組成が開示されている。
(社)日本鉄鋼協会編集・発行、「第126・127回西山記念技術講座」、昭和63年11月14日、第145〜167頁 特公平6−74484号公報 特公平6−74485号公報
しかし、前述した如く近年のばね用鋼線(弁ばね用鋼線、懸架ばね用鋼線)の分野の要求レベルは極めて高くなっており、従来の延長線上の改善手法で需要者の要望を満足させることはもはや困難となっており、従来手法を凌駕する性能向上対策を確立する必要に迫られている。
本発明はこうした状況に着目してなされたものであって、その目的は、鋼線中(ワイヤ中)に含まれて疲労特性に顕著な悪影響を及ぼす酸化物系介在物に注目し、熱延工程での延伸性を高め、介在物としてのサイズを可及的に小形化することにより、疲労特性において従来材を凌駕する性能を発揮する高清浄ばね用鋼線を提供することにある。
上記課題を達成することのできた本発明に係る疲労特性に優れた高清浄度ばね用鋼線(ワイヤ)とは、C:0.50〜0.70%(質量%の意。以下、同じ)、Si:1.5〜3%、Mn:0.1〜1%、及びCr:0.5〜3%を含有する引張強度1900MPa以上の高強度鋼線であって、
鋼線中に存在する酸化物系介在物が、CaO:15〜55%、SiO2:20〜70%、Al23:40%以下、MgO:20%以下となっており、且つLi2O,Na2O,K2Oの1種以上をこれらLi2O,Na2O,K2Oの合計量で0.5〜20%の範囲で含有する点に要旨を有するものである。
前記酸化物系介在物はLi2O/SiO2(質量比)が0.01〜0.5となるものが望ましく、SiO2含量は30%以上45%未満であってもよい。前記高清浄ばね用鋼線は、さらにV:0.5%以下、Nb:0.1%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下などを含有していてもよい。
酸化物系介在物を上記のようなものにすると酸化物系介在物を軟質で低融点とすることができるため、鋼線(ワイヤ)の製造過程において(具体的には鋼片を熱延する段階で)酸化物系介在物を十分に延伸し分断することができる。そのため得られる鋼線(ワイヤ)において、疲労破壊の起点となる粗大な硬質介在物を可及的に低減でき、疲労特性を十分に向上できる。
鋼線(ワイヤ)に酸化物系介在物として存在するSiO2、Al23、CaO、MgOなどの酸化物やこれらの複合酸化物が、疲労破壊を誘発する大きな原因になることは普く知られており、これら酸化物系介在物の成分組成を変えることで疲労特性などを改善する技術も、前掲の特許文献などを含めて多数提案されている。しかし、前述した如き従来の改質技術の延長線上の改善手法では、近年の需要者の要望を満足できなくなっていることも事実である。そこで本発明者らは、鋼線中に不可避的に混入してくる酸化物系介在物組成の範疇で改質を試みるのではなく、第三成分を積極添加することで上記酸化物系介在物を改質すべく、様々の添加材について研究を重ねた。
その結果、鋼線中に殆ど不可避的といえるほどに存在するSiO2,Al23,CaO,MgOを有効に活用すると共に、これらに適量のLi2O,Na2O,K2Oの1種以上を積極的に含有させると、酸化物系介在物が従来のものを凌駕するほどの高延性になること、そのため鋼線の製造過程において(具体的には鋼片を熱延する段階で)で容易に引き伸ばされて微細に分断され、鋼線としては酸化物系介在物が微細かつ均一に分散したものとなり、疲労特性が飛躍的に改善されることを見出し、上記本発明に想到したものである。
以下、本発明において酸化物系介在物を構成する各酸化物の含有率を定めた理由などを主体にして、詳細に説明していく。
CaO:15〜55%(質量%の意。以下、同じ)
CaOは、鋼片の熱延工程で酸化物系介在物を微細化し易い軟質のものにするうえで必須の成分であり、CaO含量が不足すると高SiO2系やSiO2・Al23系の硬質介在物となって熱延工程で微細化し難く、疲労特性を劣化させる大きな原因になる。従って、CaOは15%以上含有させねばならず、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上含有させることが望ましい。しかし、酸化物系介在物中のCaO含量が多くなり過ぎると、該介在物の熱間変形能が低下すると共に、硬質の高CaO系介在物が生成して破壊の起点になる恐れが生じてくるので、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下に抑えることが望ましい。
SiO2:20〜70%
SiO2は、CaOやAl23等と共に低融点で軟質の酸化物系介在物を生成させる上で必須の成分であり、20%未満では、酸化物系介在物がCaOやAl23を主体とする大形もしくは硬質の介在物となり、破壊の起点となる。従って20%以上含有させることが必須であり、より好ましくは30%以上含有させることが望ましい。但し、SiO2含量が多過ぎると、酸化物系介在物がSiO2を主体とする高融点で且つ硬質の介在物になり、断線や破壊の起点になる可能性が高まる。こうした傾向は、SiO2含量が70%を超えると極めて顕著に表われてくるので、SiO2含量は70%以下に抑えることが極めて重要となる。より好ましくは65%以下、更に好ましくは45%未満、特に好ましくは42%以下に抑えるのがよい。
Al23:40%以下
Al23は、軟質介在物の形成に必須の成分という訳ではなく、CaOやSiO2、更には本発明でその含有を必須とするLi2O,Na2O,K2O含量などを含めて、酸化物系介在物の適正な組成制御によっては、実質的にAl23を含まないものであっても構わない。しかし適量のAl23を含有させると、酸化物系介在物はより低融点で且つ軟質のものになり易くなるので、好ましくは5%程度以上、より好ましくは10%以上含有させることが望ましい。しかし、酸化物系介在物中のAl23が多過ぎると、硬質で微細化し難いアルミナ系介在物となり、やはり熱延工程で微細化し難いものになって破壊や折損の起点となるので、多くとも40%以下に抑えるべきであり、好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下、特に20%以下に抑えるのがよい。
MgO:20%以下
MgOは、MgO・SiO2系硬質介在物の生成源となって、破壊や折損の原因になり易く、こうした障害はMgO含量が20%を超えると顕著に表われてくる。よって、こうした障害を生じさせなくするには20%以下に抑える必要がある。好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、特に5%以下である。
Li2O,Na2O,K2Oの1種以上の総和:0.5〜20%
Li2O,Na2O,K2Oは、本発明で最も特異的で且つ重要な成分であり、生成する複合酸化物系介在物の融点と粘性を低下させるうえで極めて重要な作用を発揮する。そして、酸化物系介在物の低融点化と低粘化を進めて介在物の微細化を増進し、本発明で意図するレベルの疲労特性向上効果を確保するには、Li2O,Na2O,K2Oの1種以上を、合計で少なくとも0.5%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは2%以上含有させることが望ましい。しかし、Li2O,Na2O,K2Oの1種以上の合計が20%を超えると、酸化物系介在物が低融点化し過ぎて耐火物に耐する溶損性が顕著に高まり、使用されている内張り耐火物の溶出に由来する硬質介在物量が増大し、疲労特性を却って低下させる。従って、酸化物系介在物中のLi2O,Na2O,K2Oの1種以上の総和は20%以下に抑えねばならず、好ましくは15%以下に抑えるのがよい。
Li2O,Na2O,K2Oは、前述した如くどれも生成する複合酸化物系介在物の融点と粘性を低下させ、最終的に微細化する上で極めて重要な作用を発揮する。しかし、これらは等価ではなく、特に脱酸力の強いLiを酸化物系介在物生成起源として積極添加することにより、酸化物系介在物中に適量のLi2Oを含有させると効果が高められる。本発明者らが別途確認したところによると、Li2Oはガラス質の酸化物系介在物を結晶化させ易くする作用も有しており、この作用も酸化物系介在物の微細化を促進し、疲労特性の向上に顕著な影響を及ぼしていることが確認された。即ち、前記成分系の酸化物系介在物中に適量のLi2Oを含有させると、当該酸化物系介在物は結晶化し易くなり、ガラス質の酸化物系介在物中に微細な結晶を多数析出させる。その結果、熱延工程で酸化物系介在物に加わる負荷が、ガラス質と結晶質の境界部に集中して該介在物の分断が更に促進され、延いては、鋼線中に含まれる酸化物系介在物は一段と小形化される。Li2O単独添加でもその効果は大きいが、Na2O,K2Oの存在下で更にLi2Oが加わると、より一層その効果は向上する。こうしたことも相乗的に好結果をもたらし、疲労特性の向上に寄与しているものと考えられる。
更に加えてLiは強い脱酸力を有しており、溶存酸素量の低減にも寄与するので、凝固時に析出する高SiO2系介在物の生成と粗大化を抑制する作用も発揮する。また、溶存するLi,Na,Kの作用によって凝固時にSiO2−Li2O,SiO2−Na2O,SiO2−K2Oおよびそれらの混合体として生成することで、高SiO2系介在物の生成を抑制する作用もある。
Liを必須とする場合、酸化物系介在物中のLi2OとSiO2の質量比(Li2O/SiO2)を所定の範囲とすることが推奨される。Li2Oは複合酸化物の融点と粘性を低下させ、複合酸化物系介在物の微細化を促進する上で重要であり、特にネットワークを形成して粘性を上げてしまうSiO2との比で考えることが重要だからである。Li2OをSiO2に比べて十分に多くすることにより、複合酸化物系介在物の融点及び粘性の低下効果をより一層発揮することができ、介在物の微細化がより促進され、SiO2系の大型介在物を起点とする破壊をより確実に防止できる。なおLi2OをSiO2に比べて多くし過ぎても、却って複合酸化物系介在物の融点及び粘性が低下し、耐火物を溶損し、該耐火物に由来する硬質介在物が増大して疲労特性が低下する。以上の観点から、Liを必須とする場合、Li2OとSiO2の質量比(Li2O/SiO2)は、例えば0.01以上程度(好ましくは0.02以上程度、さらに好ましくは0.03以上程度)、0.5以下程度(好ましくは0.4以下程度)とするのが望ましい。
なお本発明では、酸化物系介在物中に他の酸化物としてMnOが混入してくることもあるが、MnOは、それ自身、疲労破壊の原因になることは少なく、しかもCa,Al,Liの如き強脱酸性元素の添加により還元され、酸化物系介在物中の含有量としては減少するので、その含有量は特に制限されない。
ところで特開2002−167647号公報には、Si脱酸鋼を対象とする疲労特性の改善技術が開示されており、この公報には、Si脱酸鋼に含まれる酸化物系介在物中のSiO2含量を45%以上に規定すると共に、アルカリ金属R(R=Na,K,Li)の酸化物(R2O)を0.5〜10%含有させることを定めている。
しかし該公報の段落0013には、「SiO2系介在物にR2O(R:Na,K,Li)が含まれている状態は、……SiO2にCaO,Al23およびMgOが含まれている状態に比較して溶鋼との反応性が高くなるため、界面エネルギーが低くなり、その効果により、R2Oが含まれているSiO2系介在物は微細化が可能となる」と明記され、また請求項1には、「45%以上のSiO2にアルカリ金属Rの酸化物を0.5〜10%含有させること」、更に実施例でも、「約50〜80%もの高SiO2系介在物にNa2Oを数%含有させること」が記載されていることからも明らかな様に、「高SiO2系介在物にアルカリ金属Rの酸化物を0.5〜10%含有させる」という基本思想である。またこの公報では、Li2O,K2O,Na2Oはほぼ等価であるとの前提に立って、実験では最も安価で入手の容易なNa2Oを用いた例を挙げているが、これらの中でも特に脱酸力の強いLi2Oについての具体的な作用は全く認識されていない。
これに対し本発明では、前掲の如く高SiO2系介在物は断線や破断の主原因になるため極力排除すべきものと考えており、よって酸化物系介在物の基本組成を、CaO:15〜55%、SiO2:20〜70%(好ましくは45%未満、更に好ましくは40%以下)、Al23:35%以下、MgO:20%以下と定めた上で、且つLi2O,Na2O,K2Oを適量含有させ、前述した如くこれらの効果を相乗的に発揮させるものである。従って、本願発明と特開2002−167647号公報に開示された発明とは、技術思想が異なる。
また本出願人は、Liを用いた鋼中介在物の組成制御技術として、先に特許第2654099号や特開平2−15111号公報を提案している。このうち特許第2654099号は、「Si系脱酸剤とアルカリ金属化合物の混合物を使用することによって脱酸生成物をアルカリ金属含有組成にコントロールする」もので、アルカリ金属化合物としては、化学的ならびに熱的安定性の比較的高いケイ酸塩(Na2SiO3,K2SiO3)やフッ化物(LiF,NaF)の使用を推奨している。また上記特開平2−15111号公報では、「Li,NaおよびKよりなる群から選択される1種または2種以上を10〜1質量%含有すると共に(但し、全量合金化されているものとする)、Siを60〜99%含む精錬用脱酸材」を使用することによって介在物を変形容易なものに形態制御し、疲労特性を改善する技術を開示した。
ところが本発明に至る経緯の中で行ったラボ実験によると、上記特許第2654099号に開示したケイ酸塩やフッ化物+Fe・Si合金添加では、所望量のLiが溶鋼中に歩留りにくく、その結果として、本発明で意図する介在物組成に制御し難い。
また、特開平2−15111号公報に開示した10〜1%Li・Si合金は、前者に比べると溶鋼への歩留りは良好であったが、所定量のLi2Oを含む酸化物系介在物の全介在物に対する比率が少なく、本発明で意図する様な組成制御は行えなかった。しかも10〜1%Li・Si合金は、プリメルト法で製造する際の液相線温度が高いためLiが蒸発し易く、Li歩留りが悪いためコスト高になる。
従って本発明でLiを活用するに当っては、Li−Si系状態図の組成域でプリメルトが比較的容易であり、しかも、Liが金属間化合物として存在するためLi活量が低く、溶鋼に添加したときにも爆発的な蒸発ロスを起こさない様にするため、液相線が比較的低く、その組成域にLi,Siからなる金属間化合物が多数存在する組成として「Li:11〜50%、残部Siと不可避不純物」のものを選択使用することが望ましい。この様な組成のプリメルト体を予め製造しておき、これを溶鋼に添加すれば、所定量のLiを溶鋼中に容易に歩留らせることができ、本発明で意図する所定の酸化物系介在物組成に制御することができる。また、上述したLi-Si合金「Li:11〜50%、残部Siと不可避不純物」に、必要に応じてCa,Mg,Na,Kなどを配合もしくはプリメルトしたものであっても良い。
Li,Na,K源としては、炭酸塩、すなわちLi2CO3,Na2CO3,K2CO3を使用し、これにCaやMg合金を混合したものであっても所定の歩留りが得られるため、これらを用いても構わない。またスラグ中にこれらの酸化物を添加しておくと歩留りは更に向上する。
上記の様に本発明では、酸化物系介在物の組成を適切に制御することにより該介在物を低融点・低粘性のものとし、熱延工程で微細化し得る様にすることで鋼線の疲労特性を高めたところに特徴を有するものであるが、ばね用鋼線(特に弁ばね用鋼線)は疲労特性の向上が強く求められており、しかもばね用鋼線は高強度化するほど疲労特性が却って低下しやすいという性質を有しているため、これらばね用鋼線に本発明を適用すると、その疲労特性向上効果が最も顕著にあらわれる。
疲労特性向上効果の恩恵を最も受けるばね用鋼線(ワイヤ)としては、C:0.50〜0.70%、Si:1.5〜3%、Mn:0.1〜1%、及びCr:0.5〜3%を含有する高強度鋼線が挙げられる。以下、鋼線の成分限定理由について説明する。
C:0.50〜0.70%
Cは高応力設計が求められるばね用鋼線として十分な強度を確保するために不可欠な元素である。Cが多くなるほど高強度となって欠陥感受性が高まるため、このようなばね用鋼線に本発明を適用すると疲労特性向上効果が最も顕著にあらわれる。従ってCは0.50%以上、好ましくは0.55%以上とする。しかしCが多すぎると靭延性が極端に悪くなり、表面疵や内部欠陥によって折損しやすくなるため、上限は0.70%、好ましくは0.68%とする。
Si:1.5〜3%
Siは製鋼時の脱酸剤と使用するため高清浄度鋼線を製造するには必須の元素である。また高強度化にも寄与し、本発明の疲労特性向上効果が顕著にあらわれる点で、上記Cと同様、重要な元素である。さらには軟化抵抗性を高め耐へたり性を向上させるのにも有効な元素である。従ってSiは1.5%以上、好ましくは1.6%以上とする。しかしSiが多すぎると、介在物中のSiO2濃度が高くなって大型介在物が生成し易くなり、また靭延性が極端に悪くなり、表面脱炭や表面疵が増加するため疲労特性が却って悪くなる。従ってSiは3%以下、好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.3%以下とする。
Mn:0.1〜1%
Mnも製鋼時の脱酸剤として有効であり、また焼入性を高めて強度向上に寄与するため、上記Siと同様、重要な元素である。従ってMnは0.1%以上、好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上とする。しかしMnが多すぎると、熱間圧延時やパテンティング処理時にベイナイト等の過冷組織が生成し易くなり、伸線性が著しく悪化する。従ってMnは1%以下、好ましくは0.9%以下とする。
Cr:0.5〜3%
Crは鋼線の靭延性を向上させるとともに耐へたり性を向上させる元素である。このためCrは0.5%以上、好ましくは0.55%以上、さらに好ましくは0.6%以上とする。しかしCrが多すぎるとパテンティング時間が長くなり過ぎ、また靭延性が低下する。従ってCrは3%以下、好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
前記ばね用鋼線は、必要に応じて結晶粒微細化元素(V:0.5%以下及び/又はNb:0.1%以下)、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下などを単独で又は適宜組み合わせて添加してもよい。
VやNbは、窒化物や炭窒化物を形成してピン止め効果を発揮するため、焼入れ焼戻し等の熱処理時の結晶粒の粗大化を防止し、靭延性を向上させるのに有効である。またVは、焼入れ焼戻し処理およびコイリング後の歪取り焼鈍時に2次析出硬化を起こして高強度化にも寄与する。従ってこれらの元素を添加(0%超)とする場合、好ましくはV:0.05%以上(特に0.08%以上)、Nb:0.01%以上(特に0.02%以上)とする。しかしVが過剰になると圧延時やパテンティング時にマルテンサイトやベイナイト組織が生成し、加工性が低下する。またNbが過剰になるとピン止め効果に有効なNb炭窒化物が凝集し、かえって結晶粒が粗大化しやすくなる。従ってVは0.5%以下(好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下)、Nbは0.1%以下(好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下)とする。
Niは焼入性を高め、低温脆化を防止するのに有用な元素である。従ってNiを添加(0%超)とする場合、好ましくは0.05%以上(さらに好ましくは0.10%以上、特に0.15%以上)とする。しかしNiが多すぎると圧延においてベイナイトあるいはマルテンサイト組織が生成し、靭延性が低下する。従ってNiは0.5%以下、好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下とする。
Moは軟化抵抗を向上させるとともに、析出硬化を発揮し、低温焼鈍後の耐力を上昇させるのに有用な元素である。従ってMoを添加(0%超)とする場合、好ましくは0.05%以上(特に0.1%以上)とする。しかしMoを過剰にするとマルテンサイトやベイナイト組織が生成し、加工性が悪くなる。従ってMoは0.5%以下(好ましくは0.3%以下)とする。
残部はFe及び不可避的不純物であってもよい。
本発明のばね用鋼線の引張強度は、1900MPa以上、好ましくは2000MPa以上である。
かくして得られる本発明の高清浄ばね用鋼線は、特に不純物として存在する酸化物系介在物が低融点・低粘性のものに組成制御されたもので、熱延工程で引き伸ばされて微細化されているので、これらが疲労破壊源になることはない。従ってこの鋼線は卓越した疲労特性を備えたものとなり、ばね用鋼線(特に高強度弁ばね用鋼線)などとして有効に活用できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
実験例
90トン転炉において鋼を溶解し、下記表1に示す化学組成に成分調整した。得られた溶鋼に、Li源(30%Li−70%Si合金、Li2CO3など)、Na源(Na2CO3)、K源(K2CO3)、Ca源(Ca−Siワイヤ、Caワイヤなど)、Mg源(Mgワイヤ)などを適宜添加して介在物組成を調整した後、鋳造し、次いで熱間圧延して直径8mmの鋼線材(ロッド)とした。さらに皮削り(SV)→鉛パテンティング(LP)→冷間線引加工(直径4.0mm)→オイルテンパー[油焼入れと鉛浴(約400℃)焼戻し連続工程]の順に処理することによって、オイルテンパー鋼線(ワイヤ)とした。
得られた鋼線(ワイヤ)は、以下のようにして評価した。
[介在物組成]
長さ80mmの鋼線(直径4.0mm)のL断面を研磨し、幅5μm以上の介在物の組成を分析した。LiについてはSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry;2次イオン質量分析)によって分析することとし、他の元素についてはEPMA(Electron Probe Micro−Analyzer;電子線プローブマイクロアナライザー)によって分析することとし、具体的には下記の手順で測定した。
(1)1次標準試料
(i)Li2Oを除く介在物組成をカバーする範囲の合成酸化物と、これらにLi2Oを加えた合成酸化物を多数作製し、それらのLi2O濃度を化学分析によって定量分析し、標準試料を作製する。
(ii)作製した各合成酸化物のSiに対するLiの相対2次イオン強度を測定する。
(iii)Siに対するLiの相対2次イオン強度と、上記(i)で化学分析したLi2O濃度の検量線を引く。
(2)2次標準試料(測定環境補正用)
(iv)測定時の環境補正用として、別途Siウェハー上にLiをイオン注入した標準試料を作製し、Siに対するLiの相対2次イオン強度を測定し、上記(ii)を実施する際に補正する。
(3)実際の測定
(v)まず、鋼中介在物のCaO,MgO,Al23,MnO,SiO2,Na2O,K2Oなどの各濃度をEPMAによって分析する。
(vi)鋼中介在物のSiに対するLiの相対2次イオン強度を測定し、上記(iii)で求めた検量線のうち上記(v)の分析結果に最も近い検量線を選択し、これによりLi2O濃度を求める。
[折損率、介在物サイズ、疲労強度]
ばね製造工程における熱履歴を模擬するため、オイルテンパー鋼線(ワイヤ)から長さ600mm分を採取し、温度400℃で20分間加熱(コイリング後の歪取焼鈍に相当)した後、2段階のショットピーニングを施し、次いで温度220℃で20分間加熱(歪取り焼鈍に相当)した。中村式回転曲げ疲労試験機を用いて、公称応力886MPa、回転数:4500〜5000rpm、中止回数:2×107回の条件で試験した。そして破断したもののうち介在物折損したものについて、下記式により折損率をもとめ、また破断面に現れた介在物のサイズ(面積が同じ円に換算したときの直径)を測定した。
折損率=[介在物折損本数/(介在物折損+所定回数に達し中止した本数)]
×100(%)
さらに応力Sを種々変えて破断までの繰り返し数Nを求めることによってS−N曲線を描き、繰り返し数2×107回での疲労強度を求めた。
結果を表1に示す。
Figure 0004315825
No.7の例では介在物中のLi2O、Na2O、及びK2Oの合計量が少なすぎ、介在物の微細化が不十分となって、折損起点となる介在物サイズが大きくなり、折損率が高くなり、しかも疲労強度が低下した。No.9の例では介在物中のLi2O、Na2O、及びK2Oの合計量が多すぎ、耐火物由来の介在物が多くなって、折損起点となる介在物サイズが大きくなり、折損率が高くなり、しかも疲労強度も低下した。なおNo.8の例ではSiが不足しているために疲労強度が不十分となり、No.10の例では介在物中のCaOが過剰となっているため、折損起点となる介在物サイズが大きくなり、折損率が高くなり、また疲労強度も悪化し、No.11の例では介在物中のAl23が過剰となっているために折損起点となる介在物サイズが大きくなり、折損率が高くなり、また疲労強度も悪化し、No.12の例ではCが不足しているために引張強度及び疲労強度が低下しており、No.13の例ではCが過剰なために欠陥感受性が高くなって折損率及び疲労強度が悪化しており、No.14の例ではSiが過剰なために介在物中のSiO2が過剰となって折損起点となる介在物サイズが大きくなり、折損率が高くなり、また疲労強度も悪化している。
これらに対してNo.1〜6の例では鋼成分が適切であり、しかも介在物組成が適切であって介在物が微細化されているために、折損率及び疲労強度共に良好となっている。特にNo.2の介在物中のLi2Oが5.2mass%となっている例は、No.6の介在物中のK2Oが5.3mass%となっている例に比べて、折損率及び疲労強度が共にさらに改善されている。

Claims (6)

  1. C:0.50〜0.70%(質量%の意。以下、同じ)、Si:1.5〜3%、Mn:0.1〜1%、及びCr:0.5〜3%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、引張強度1900MPa以上の高強度鋼線であって、
    鋼線中に存在する酸化物系介在物が、CaO:15〜55%、SiO2:20〜70%、Al23:40%以下、MgO:20%以下となっており、且つLi2O,Na2O,K2Oの1種以上をこれらLi2O,Na2O,K2Oの合計量で0.5〜20%の範囲で含有することを特徴とする疲労特性に優れた高清浄ばね用鋼線。
  2. 前記酸化物系介在物はLi2O/SiO2(質量比)が0.01〜0.5となるものである請求項1に記載の高清浄ばね用鋼線。
  3. 前記酸化物系介在物中のSiO2含量が30%以上45%未満である請求項1又は2に記載の高清浄ばね用鋼線。
  4. 前記高清浄ばね用鋼線は、さらにV:0.5%以下、及びNb:0.1%以下から選択された少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の高清浄ばね用鋼線。
  5. 前記高清浄ばね用鋼線は、さらにNi:0.5%以下を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高清浄ばね用鋼線。
  6. 前記高清浄ばね用鋼線は、さらにMo:0.5%以下を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の高清浄ばね用鋼線。
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