JP4423050B2 - 疲労強度および冷間加工性に優れた高清浄度鋼 - Google Patents
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(社)日本鉄鋼協会編「第126・127回西山記念技術講座」、社団法人日本鉄鋼協会出版、昭和63年11月14日、第145〜167頁
CaOは、酸化物系介在物を鋼材の熱延工程で微細化し易い軟質のものにするうえで必須の成分であり、CaO含量が不足すると高SiO2系やSiO2・Al2O3系の硬質介在物となって熱延工程で微細化し難く、疲労特性や伸線加工性を劣化させる大きな原因になる。従って、CaOは少なくとも15%以上含有させねばならず、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上含有させることが望ましい。しかし、酸化物系介在物中のCaO含量が多くなり過ぎると、該介在物の熱間変形能が低下すると共に、硬質の高CaO系介在物が生成して破壊の起点になる恐れが生じてくるので、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下に抑えることが望ましい。
SiO2は、CaOやAl2O3等と共に低融点で軟質の酸化物系介在物を生成させる上で必須の成分であり、20%未満では、酸化物系介在物がCaOやAl2O3を主体とする大形もしくは硬質の介在物となり、破壊の起点となる。従って20%以上含有させることが必須であり、より好ましくは30%以上含有させることが望ましい。但し、SiO2含量が多過ぎると、酸化物系介在物がSiO2を主体とする高融点で且つ硬質の介在物になり、断線や破壊の起点になる可能性が高まる。こうした傾向は、SiO2含量が70%を超えると極めて顕著に表われてくるので、SiO2含量は70%以下に抑えることが極めて重要となる。より好ましくは65%以下、更に好ましくは45%未満、特に好ましくは40%以下に抑えるのがよい。
Al2O3は、軟質介在物の形成に必須の成分という訳ではなく、CaOやSiO2、更には本発明でその含有を必須とするLi2O,Na2O,K2O含量などを含めて、酸化物系介在物の適正な組成制御によっては、実質的にAl2O3を含まないものであっても構わない。しかし適量のAl2O3を含有させると、酸化物系介在物はより低融点で且つ軟質のものになり易くなるので、好ましくは5%程度以上、より好ましくは10%以上含有させることが望ましい。しかし、酸化物系介在物中のAl2O3が多過ぎると、硬質で微細化し難いアルミナ系介在物となり、やはり熱延工程で微細化し難いものになって破壊や折損の起点となるので、多くとも35%以下に抑えるべきであり、好ましくは30%程度以下に抑えるのがよい。
MgOは、MgO・SiO2系硬質介在物の生成源となって、破壊や折損の原因になり易く、こうした障害はMgO含量が20%を超えると顕著に表われてくる。よって、こうした障害を生じさせなくするには20%以下に抑えることが望ましい。より好ましくは15%以下である。
Li2O,Na2O,K2Oは、本発明で最も特異的で且つ重要な成分であり、生成する複合酸化物系介在物の融点と粘性を低下させるうえで極めて重要な作用を発揮する。そして、酸化物系介在物の低融点化と低粘化を進めて介在物の微細化を増進し、本発明で意図するレベルの疲労特性向上効果を確保するには、Li2O,Na2O,K2Oの1種以上を、合計で少なくとも0.5%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは2%以上含有させることが望ましい。しかし、Li2O,Na2O,K2Oの1種以上の合計が20%を超えると、酸化物系介在物が低融点化し過ぎて耐火物に耐する溶損性が顕著に高まり、使用されている内張り耐火物の溶出に由来する硬質介在物量が増大し、疲労特性や冷間加工性を却って低下させる。従って、酸化物系介在物中のLi2O,Na2O,K2Oの1種以上の総和は20%以下に抑えねばならず、好ましくは15%以下に抑えるのがよい。
実験は、90トンおよび250トン実機(又は実験室レベル)で行った。すなわち、実機では転炉で溶製した溶鋼を取鍋に出鋼し(実験室では、転炉から出鋼される溶鋼を模擬した500kgの溶鋼を溶製し)、各種のフラックスを添加して成分調整、電極加熱、アルゴンバブリングを実施し、スラグ精錬を実施した。なおスラグ精錬(溶鋼処理)では、処理中に、30%Li−70%Si、Ca−Siワイヤ、およびLi2CO3,Na2CO3,K2CO3とCaワイヤ、Mgワイヤなどとの混合体などの添加も行った。精錬終了後、該溶鋼を鋳造した(実験室では、実機と同等の冷却速度が得られる鋳型に鋳造した)。得られた鋼塊を鍛造し、熱間圧延して直径5.5mmの鋼線材とした。また比較材として、同様のプロセスで従来品相当材を試作し評価した。また鋼成分としては、ばね鋼成分とスチールコード成分について実施した。
長さ80mmの鋼線材(直径5.5mm)のL断面を研磨し、介在物の厚み、長さ、個数および介在物組成を求めた。
対象となる熱延鋼線材1500gを約100g毎に切断し、表面のスケールを除去した後、約90℃の温硝酸溶液に入れて酸溶解する。この溶液を篩目20μmのフィルターで濾過し、濾紙上に抽出された介在物をEPMAで分析すると共に長さを測定することにより、最大長さが20μm以上となっている硬質介在物(酸化物系介在物、例えばアルミナ、ジルコニアなど)の個数を計測し、鋼50gあたりの個数を算出した。
各熱延鋼線材(直径5.5mm)について、皮削り(SV)→低温焼鈍(LA)→冷間線引加工(直径4.0mm)→オイルテンパー[油焼入れと鉛浴(約450℃)焼戻し連続工程]→簡易歪取焼鈍(ブルーイング:約400℃)→ショットピーニング→歪取焼鈍を行った後、試験材として直径4.0mm×650mmのワイヤを採取し、中村式回転曲げ試験機を用いて、公称応力880MPa、回転数:4000〜5000rpm、中止回数:2×107回で試験を行う。そして、破断したもののうち介在物折損したものについて、下記式により破断率を求めた。また、破断面に現れた介在物の組成をEPMAによって調べると共に、最大の介在物のサイズ(幅)を測定した。
破断率=[介在物折損本数/(介在物折損+所定回数に達し中止した本数)]
×100(%)
伸線加工性の評価には試験伸線機を用いた。即ち、熱間圧延後の線材(直径5.5mm)を直径2.5mmまで1次伸線し、熱処理(空気パテンティング)した後、2次伸線して直径0.8mmとする。引き続いて熱処理(鉛パテンティング)およびブラスめっきを施した後、直径0.15mmまで湿式伸線し、鋼線10トン当りの断線回数に換算して評価した。また断線したものについては断面に現れた介在物について組成をEMPAによって調べると共に、最大の介在物のサイズ(幅)を測定した。
介在物中のLi2O濃度は従来のEPMAでは測定できないため、SIMSによる分析法を独自に開発し、下記の手順で測定した。
1)Li2Oを除く介在物組成をカバーする範囲の合成酸化物と、これらにLi2Oを加えた合成酸化物を多数作製し、それらのLi2O濃度を化学分析によって定量分析し、標準試料を作製する。
4)測定時の環境補正用として、別途Siウェハー上にLiをイオン注入した標準試料を作製し、Siに対するLiの相対2次イオン強度を測定し、上記2)を実施する際に補正する。
5)まず、鋼中介在物のCaO,MgO,Al2O3,MnO,SiO2,Na2O,K2Oなどの各濃度をEDX,EPMAなどによって分析する。
Claims (4)
- C:1.2%以下(質量%を意味する、以下同じ)、Si:0.1〜4%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.005%以下を満たし、残部がFeおよび不可避不純物であり、
鋼中に存在する酸化物系介在物が、CaO:15〜55%、SiO2:20〜70%、Al2O3:35%以下、MgO:20%以下であり、且つ、Li2O,Na2O,K2Oの1種以上:0.5〜20%を含有することを特徴とする疲労強度および冷間加工性に優れた高清浄度鋼。 - 前記酸化物系介在物はLi2O/SiO2(質量比)が0.01〜0.5となるものである請求項1に記載の高清浄度鋼。
- 前記酸化物系介在物中のSiO2含量が30%以上45%未満である請求項1又は2に記載の高清浄度鋼。
- 他の元素として、Cr:0.01〜3.0%,Ni:0.05〜1.0%,V:0.005〜0.5%,Nb:0.005〜0.10%,Mo:0.01〜1%,W:0.01〜1.0%,Cu:0.05〜2%,Ti:0.005〜0.06%よりなる群から選択される1種以上の元素を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の高清浄度鋼。
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