JP4311610B2 - 面発光レーザ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、面発光レーザに関する。
【0002】
【従来の技術】
面発光型半導体レーザ(面発光レーザ)は、基板に対して垂直方向に光を出射する半導体レーザであり、端面発光型に比べて高性能が得られ、冷却素子などが不必要であることから、面発光レーザを用いたシステムは極めて低コストであり、光インターコネクションの光源,光ピックアップ用の光源等の民生用途で用いられている。
【0003】
面発光型半導体レーザは、レーザ光を発生する活性層を含んだ活性領域を反射鏡で挟んだ構造となっている。その反射鏡としては、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した半導体分布ブラッグ反射鏡が広く用いられている。半導体分布ブラッグ反射鏡の材料としては、活性層から発生する光を吸収しない材料(一般に活性層よりワイドバンドギャップの材料)であって、格子緩和を発生させないために基板に格子整合する材料が用いられる。
【0004】
ところで、反射鏡の反射率は99%以上と極めて高くする必要がある。反射率は積層数を増やすことによって高くなる。しかし、積層数が増加すると、面発光型半導体レーザの作製が困難になってしまう。このため、低屈折率層と高屈折率層との屈折率差が大きい方が好ましい。AlGaAs系材料は、AlAsとGaAsが終端物質であり、格子定数は基板であるGaAsとほぼ同程度であり、屈折率差が大きく、少ない積層数で高反射率を得ることができるので、良く用いられている。
【0005】
また、低しきい値化のために、p側領域に電流狭さく構造が用いられている。特開平7−240506号には、AlAs/GaAsからなる半導体分布ブラッグ反射鏡による共振器と、イオン注入により高抵抗層を形成した電流狭さく構造とを用いた構造が示されている。また、特許第2917971号には、AlGaAs/GaAsからなる半導体分布ブラッグ反射鏡による共振器と、Al(Ga)Asの一部を選択的に酸化した酸化膜を用いた電流狭さく構造を用いた面発光レーザが示されている。ここで、酸化には、高温での水蒸気供給による酸化が用いられている。高温での水蒸気供給による酸化は、Alのような完全な絶縁体になること、また、活性層と狭さく層との距離を結晶成長で厳密に制御できること、電流通路を極めて狭くできること、さらに酸化により屈折率が小さくなり横方向の光閉じ込め効果があることから、無効電流の低減化,活性領域の低減化に向き、低消費電力化に適しており、最近良く用いられている。これらのような構成のマルチモード動作0.85μm帯VCSELが短距離の光伝送に用いられている。
【0006】
ところで、低コストで高速の光通信システムを実現するためには、光ファイバーにおける伝送損失の小さい1.3μm帯等の長波長であって、シングルモードで高出力動作するVCSELが必要となる。VCSELにおいてシングルモード動作を実現するために、一般に基本横モードのみ閉じ込めるように酸化狭窄径を極めて狭くする(1.3μm帯では5〜6μm程度以下にする)ことで実現している。しかしながら、酸化狭窄径を狭くするにしたがって抵抗が上昇し駆動電圧が高くなるとともに発熱により素子特性が劣化し、さらに電流が注入される活性領域が狭くなることから、光出力も低減するという極めて大きな問題がある。
【0007】
また、p型半導体材料では、禁則帯幅の異なる2種の半導体層のヘテロ界面に生じるポテンシャル障壁の影響が大きく、p型半導体分布ブラッグ反射鏡(p−DBR)の抵抗が高くなりやすく、抵抗を下げるためにある程度高濃度にドーピングする必要がある。しかしながら、0.85μm帯に比べて長波長帯においては、ドープされたp−DBRによる正孔の自由キャリア吸収および価電子帯間吸収が顕著になり、光学的特性が劣化するという問題がある。これらのため、p−DBRに電気を流さないトンネル接合構造(K.D.Choquette et al., Electron. Lett., Vol.36, No.16, pp.1388-1390, 2000)、イントラキャビティーコンタクト構造(G.Steinle et al., Electron. Lett., Vol.37, No.2, pp.93-95, 2001)のVCSELが検討されている。しかしながら、これらは選択酸化層により電流通路を狭くして基本モードを選択的に発振させる構成であり、抵抗が上昇し、高出力が得られないなどの問題があった。また、特開平11−243257には、電流狭窄や光閉じ込めのための選択酸化を用いずに、イオン注入による電流狭窄、一方の反射鏡と活性領域との間に光学的ガイド構造を含んだイントラキャビティー構造も提案されている。しかしながら、製造の再現性を向上させることを目的としており、低抵抗化やシングルモード高出力化を意図した設計にはなっていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シングルモード高出力の得られる面発光レーザを提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、電流狭窄部により活性層に電流を選択的に注入する電流注入部とを有する面発光レーザにおいて、
活性領域と上部反射鏡および下部反射鏡のうちの一方の反射鏡との間に、電流注入部よりも狭い領域であって、発振方向に垂直な方向における屈折率が周囲よりも高い光ガイド部が形成され
発振方向に垂直な方向における前記光ガイド部の周囲は空気からなっており、
前記上部反射鏡は、前記電流注入部よりも広い幅を有していることを特徴としている。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の面発光レーザにおいて、前記一方の反射鏡は、誘電体からなり、前記光ガイド部は、半導体層で形成され、誘電体からなる反射鏡に埋め込まれた構成となっていることを特徴としている。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の面発光レーザであって、
電極を備え、該電極と前記光ガイド部は接していないことを特徴としている。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態の面発光レーザは、少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、活性層に選択的に電流を注入する電流注入部を形成するための電流狭窄部とを有する面発光レーザにおいて、活性領域と上部反射鏡および下部反射鏡のうちの一方の反射鏡との間であって、電流注入部よりも狭い領域からなる基本横モード選択部の周囲に、高次モード発振抑制部が形成されていることを特徴としている。
【0023】
この第1の実施形態の面発光レーザでは、モード選択手段と電流狭窄手段とを別々にし、抵抗増加の原因となる狭い電流注入部を広くした構造で基本横モードを選択的に発振させることができる構造としたので、モード選択手段と電流狭窄手段を兼ねた従来構造の素子に比べて、温度上昇を抑えられ、環境温度が高温であってもシングルモード高出力が得られる。なお、高次モード発振抑制部とは、高次モードの実効的な反射率を相対的に下げるための構造を有する領域であって、様々の方法を用いることができる。
【0024】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態の面発光レーザは、少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、電流狭窄部により活性層に電流を選択的に注入する電流注入部とを有する面発光レーザにおいて、電流注入部よりも狭い領域の共振器長がNλ/2n(N:整数、λ:発振波長、n:媒体内の実効屈折率)の厚さになっていて、共振器長がNλ/2nの厚さとなっている領域の周囲に他の厚さの共振器長の領域が形成されていることを特徴としている。
【0025】
この第2の実施形態では、基本横モードのみ発振条件を満たす大きさの領域(基本横モード選択部)だけ共振器長をNλ/2nの厚さとしたので、Nλ/2nの厚さの部分以外では設計波長λに対して反射率が低くなる。高次モードにおいて発振条件を満たすためには基本横モード選択部よりも広い領域でNλ/2nの厚さが必要である。つまり、広い面積が必要な高次モードにおいては、反射率が低くなり発振条件を満たさなくなるので、基本モードのみ選択的に発振させることができる。さらに電流狭窄手段を別に設け、電流注入部の大きさを基本モード選択部よりも広くした構造としたので、モード選択手段と電流狭窄手段を兼ねた従来構造の素子に比べて、抵抗が低減し、温度上昇を抑えられ、高温環境下においてもシングルモード高出力が得られる。
【0026】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態の面発光レーザは、第2の実施形態において、共振器長がNλ/2nの厚さとなっている領域(基本横モード選択部)の周囲(高次モード発振抑制部)の共振器長が、Nλ/2n+λ/4nの厚さとなっていることを特徴としている。
【0027】
共振器長がNλ/2nの厚さ以外では、設計波長λに対して反射率が低くなるが、Nλ/2n+λ/4nの厚さの時に反射率が最も低くなるので、高次モード発振抑制効果が高くなる。
【0028】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態の面発光レーザは、少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、電流狭窄部により活性層に電流を選択的に注入する電流注入部とを有する面発光レーザにおいて、活性領域と上部反射鏡および下部反射鏡のうちの一方の反射鏡との間に、電流注入部よりも狭い領域であって、発振方向に垂直な方向における屈折率が周囲よりも高い光ガイド部が形成されていることを特徴としている。
【0029】
モード選択手段と電流狭窄手段を別々にする方法として、活性領域と一方の反射鏡との間に、電流注入部よりも狭く、発振方向に垂直な方向における屈折率が周囲よりも高い光ガイド部(基本横モード選択部)を設ける構造が挙げられる。この構造では、基本モードのみが相対的に損失を受けない大きさとした光ガイド部に光を閉じ込めるので、抵抗増加の原因となる狭い電流注入部を広げた構造で基本モードを選択的に発振させることができて、モード選択手段と電流狭窄手段を兼ねた従来構造の素子に比べて、温度上昇を抑えられ、環境温度が高温においても高出力が得られる。
【0030】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態の面発光レーザは、第4の実施形態において、一方の反射鏡が、誘電体からなり、光ガイド部が、半導体層で形成されメサ形状となっており、誘電体からなる反射鏡に埋め込まれた構成となっていることを特徴としている。
【0031】
上記光ガイド部を形成する手段として、屈折率の高い半導体をメサ形状として光ガイド部(基本横モード選択部)とし、その周囲(高次モード発振抑制部)を屈折率の低い誘電体で埋め込むことで実現することができる。半導体と誘電体とでは屈折率差が大きいので、光閉じ込め効果は高い。
【0032】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態の面発光レーザは、第4の実施形態において、発振方向に垂直な方向における光ガイド部の周囲が空気からなることを特徴としている。
【0033】
上記光ガイド部を形成する手段として、半導体または誘電体をメサ形状として光ガイド部(基本横モード選択部)とし、その周囲(高次モード発振抑制部)を屈折率の低い空気とすることで実現することができる。誘電体反射鏡部を別途形成し、光ガイド部に張り合わせることで実現できる。低屈折率部を空気としたが、低屈折率部は、窒素,真空等であっても良い。
【0034】
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態の面発光レーザは、第1乃至第6のいずれかの実施形態において、少なくともp側のオーミック電極が共振器内部に形成されていることを特徴としている。
【0035】
本発明では、p−DBRを電流経路とする必要がなくなり、ドープされたp−DBRによる正孔の自由キャリア吸収および価電子帯間吸収による光学的特性劣化の問題を避けることができ、低しきい値動作をし、シングルモード高出力が得られる。
【0036】
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態の面発光レーザは、少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、電流狭窄部により活性層に電流を選択的に注入する電流注入部とを有する面発光レーザにおいて、活性領域と上部反射鏡および下部反射鏡のうちの一方の反射鏡との間に、金属アパーチャーが形成され、電流注入部よりも金属アパーチャーが狭いことを特徴としている。
【0037】
ここで、金属アパーチャーは、内側が金属のない部分(基本横モード選択部)と、外側が金属がある部分(高次モード発振抑制部)とから構成されており、金属のない部分を光が導波できる。基本横モードのみ導波できる大きさの金属アパーチャーにより高次モードがカットされるので、基本横モードのみ選択的に発振させることができる。電流注入部の大きさを基本モード選択部より広くした構造としたので、モード選択手段と電流狭窄手段を兼ねた従来構造の素子に比べて、抵抗が低減し、温度上昇を抑えられ、高温環境下においてもシングルモード高出力が得られる。また、金属アパーチャーは、オーミック電極を兼ねることができ、より内部にコンタクトした構造となるので、電流経路を短くでき、抵抗を更に低減できる。
【0038】
(第9の実施形態)
本発明の第9の実施形態の面発光レーザアレイは、第1乃至第8のいずれかの実施形態の面発光レーザによって構成されていることを特徴としている。
【0039】
本発明の面発光レーザでは、抵抗が低減され、発熱が改善されたので、面発光レーザアレイとした場合に、他の素子(面発光レーザ)で発生した熱による特性劣化(しきい値上昇,出力低下など)が低減し、高性能の面発光レーザアレイを実現できる。さらに、他の素子(面発光レーザ)への熱の影響を低減できることから、素子間の間隔を狭くできるなどのメリットがある。また、複数の素子(面発光レーザ)をアレイにすることで、同時により多くのデータを伝送することが可能となる。
【0040】
(第10の実施形態)
本発明の第10の実施形態の光送信モジュールは、第1乃至第8のいずれかの実施形態の面発光レーザ、または、第9の実施形態の面発光レーザアレイを光源として用いたことを特徴としている。
【0041】
本発明の面発光レーザは、上記のようにシングルモード高出力が得られる素子であるので、S/Nが大きく取れ、シングルモードファイバーと組み合わせることで高速データ伝送が可能となる。また、抵抗が低減され、高温まで高性能を維持できるので、冷却素子が不要な低コストな光送信モジュールを実現することができる。
【0042】
(第11の実施形態)
本発明の第11の実施形態の光送受信モジュールは、第1乃至第8のいずれかの実施形態の面発光レーザ、または、第9の実施形態の面発光レーザアレイを光源として用いたことを特徴としている。
【0043】
本発明の面発光レーザは、上記のようにシングルモード高出力が得られる素子であるので、S/Nが大きく取れ、シングルモードファイバーと組み合わせることで高速データ伝送が可能となる。また、抵抗が低減され、高温まで高性能を維持できるので、冷却素子が不要な低コストな光送受信モジュールを実現することができる。
【0044】
(第12の実施形態)
本発明の第12の実施形態の光通信システムは、第1乃至第8のいずれかの実施形態の面発光レーザ、または、第9の実施形態の面発光レーザアレイを光源として用いたことを特徴としている。
【0045】
本発明の面発光レーザは、上記のようにシングルモード高出力が得られる素子であるので、S/Nが大きく取れ、シングルモードファイバーと組み合わせることで高速データ伝送が可能となる。また、抵抗が低減され、高温まで高性能を維持できるので、冷却素子が不要な低コストな光ファイバー通信システム,光インターコネクションシステムなどの光通信システムを実現することができる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて詳細に説明する。
【0047】
(第1の実施例)
図1は本発明の第1の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0048】
図1に示すように、この第1の実施例の面発光型半導体レーザ素子は、面方位(100)のn−GaAs基板上に,それぞれの媒質内における発振波長の1/4倍の厚さでn−AlGa1−xAs(x=1.0)とn−GaAsとを交互に35周期積層した周期構造からなるn−半導体分布ブラッグ反射鏡(下部半導体分布ブラッグ反射鏡:単に下部反射鏡ともいう)が形成されている。
【0049】
そして、その上に、下部GaAsスペーサ(クラッド)層,3層のGaIn1−xAs1−y(x、y)井戸層とGaAsバリア層からなる多重量子井戸活性層,上部GaAsスペーサ(クラッド)層が形成されている。なお、上部GaAsスペーサ層中の定在波の節の位置には、p−AlAs被選択酸化層(厚さ20nm)が形成されている。また、多重量子井戸活性層とスペーサ(クラッド)層とで、Nλ/2n(N:整数、λ:発振波長、n:媒体内の実効屈折率)の厚さになっている。この第1の実施例では、Nは6とした。
【0050】
さらにその上に、GaInPエッチングストップ層と、p-GaAsコンタクト層とが形成され、その一部が直径5μmだけエッチング除去されており、この領域だけ共振条件を満たす基本モード選択部を形成している。ここで、エッチングは、硫酸系のエッチング液でp-GaAsコンタクト層を(P系材料に対して)選択的にエッチングし、次に塩酸系のエッチング液でGaInPエッチングストップ層を(As系材料に対して)選択的にエッチングした。また、残されたp-GaAsコンタクト層の上にはリング状のp側電極が形成されている。なお、GaInPエッチングストップ層とp-GaAsコンタクト層との合計はλ/4nの厚さであり、共振器長はNλ/2n+λ/4nの厚さとなっており、共振条件を満たしておらず、高次モード発振抑制部を形成している。
【0051】
さらにこの上に、CaFとa−Siをそれぞれの媒質内における発振波長の1/4倍の厚さで交互に積層した周期構造、例えば、8周期から構成された上部反射鏡(誘電体反射鏡)が形成されている。誘電体反射鏡としては、CaF/a−Si以外にも、SiO/TiO,SiO/AlO,MgF/ZnSeなど、他の材料を用いることもできる。
【0052】
この第1の実施例の面発光レーザにおいて、活性層内の井戸層のIn組成xは37%,窒素組成は0.5%とした。また、井戸層の厚さは7nmとした。また、井戸層は、GaAs基板に対して約2.5%の圧縮歪(高歪)を有していた。MOCVD法によるGaInNAs活性層の原料には、TMG(トリメチルガリウム),TMI(トリメチルインジウム),AsH(アルシン)を用い、窒素の原料には、DMHy(ジメチルヒドラジン)を用いた。また、キャリアガスには、Hを用いた。DMHyは、低温で分解するので、600℃以下のような低温成長に適しており,特に低温成長の必要な歪みの大きい量子井戸層を成長する場合に好ましい原料である。この第1の実施例のGaInNAs面発光型半導体レーザ素子の活性層のように、歪が大きい場合は、非平衡となる低温成長が好ましい。この第1の実施例では、GaInNAs層は540℃で成長させた。
【0053】
また、この第1の実施例では、所定の大きさのメサを少なくともp−AlAs被選択酸化層の側面を露出させて形成し、側面の現れたAlAsを水蒸気で側面から酸化してAl電流狭さく部を形成した。酸化されていない電流注入領域は、基本モード選択部よりも広い、直径10μmとした。また、GaAs基板の裏面にn側電極を形成した。
【0054】
この第1の実施例において、作製した面発光型半導体レーザ素子の発振波長λは約1.3μmであった。また、GaInNAsを活性層に用いたので、GaAs基板上に長波長帯の面発光型半導体レーザ素子を形成できた。また、基本横モードのみ存在し得る狭い領域のみ活性層の高い利得が得られる波長λに対して共振条件を満たす共振器長Nλ/2nとしたので、基本横モード発振であった。従来、酸化狭窄構造の素子においては基本横モード発振させるために酸化狭窄径を5〜6μm程度に狭くすることで実現したが、この第1の実施例では、酸化狭窄径を10μmと広くしたので、抵抗は半分以下に低減でき、発熱を抑えることができた。また、p-DBRを電流経路としておらず、ドープされたp-DBRによる正孔の自由キャリア吸収および価電子帯間吸収による光学的損失を避けることができた。よって、低しきい値動作をし、基本横モードによるシングルモード高出力が得られた。
【0055】
なお、電流狭窄構造をこの第1の実施例では選択酸化で行ったが、電流狭窄構造で光を閉じ込める構造としておらず、プロトン等のイオン注入法による高抵抗化で形成しても良い。また、クラッド層としてGaAsを用いたが、AlGaAsなどGaAsよりもバンドギャップの大きい材料をすべてもしくは一部に用いても良い。また、メサ,p側電極(上部電極),電流注入領域の形状を円形としたが、矩形としても良い。
【0056】
(第2の実施例)
図2は本発明の第2の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0057】
この第2の実施例の面発光レーザが第1の実施例の面発光レーザとは異なるところは、第1の実施例のp側電極と同様に、n側電極も共振器内に形成したことである。第2の実施例では、下部反射鏡(n-DBR)にも電流を流さない構造としたので、抵抗を下げるためのドーピングが必要ではなく、n-DBRはアンドープとし、代りにn-GaAsコンタクト層をn-DBRと活性層との間に設けた。このため、下部反射鏡での吸収も低減し、しきい値を下げることができ、出力も向上した。この第2の実施例では、n側電極を形成するためにコンタクト層を表面に出す必要があるが、これは、n-GaAsコンタクト層の上部にGaInPエッチングストップ層を設けて制御した。
【0058】
(第3の実施例)
図3は本発明の第3の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0059】
この第3の実施例の面発光レーザが第1の実施例の面発光レーザと主に異なるところは、基本モード選択部として、半導体凹部を形成し、そこだけ共振器長をNλ/2nとする構造ではなく、凸部(メサ部)とし、そこだけ共振器長をNλ/2nとしたことである。具体的には、p-GaAsコンタクト層上にGaInP光ガイド層を成長し、直径5μmの基本モード選択部以外を選択的にエッチング除去して形成した。そして、上部反射鏡である誘電体が半導体凸部を埋め込んでおり、凸部である半導体の屈折率が周辺の誘電体より高いので、光が凸部に閉じ込められる。この効果によりしきい値電流は更に低減した。なお、p-GaAsコンタクト層は共振器の中にも存在するので、吸収を低減するために定在波の節の位置になるように厚さを設計することが好ましい。また、光ガイド層として、GaInPを用いたが、GaAsなど他の材料を用いても良く、複数の層から構成しても良い。
【0060】
(第4の実施例)
図4は本発明の第4の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0061】
この第4の実施例の面発光レーザが第3の実施例の面発光レーザと主に異なるところは、第2の実施例の構造のように、n側電極(下部電極)も共振器内に形成したことである。第4の実施例では、下部反射鏡(n-DBR)にも電流を流さない構造としたので、抵抗を下げるためのドーピングが必要ではなく、n-DBRはアンドープとし、代りに、n-GaAsコンタクト層をn-DBRと活性層との間に設けた。このため、下部反射鏡での吸収も低減し、しきい値を下げることができ、出力も向上した。第4の実施例では、n側電極を形成するためにコンタクト層を表面に出す必要があるが、これは、n-GaAsコンタクト層の上部にGaInPエッチングストップ層を設けて制御した。
【0062】
(第5の実施例)
図5は本発明の第5の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0063】
この第5の実施例の面発光レーザが第3の実施例の面発光レーザと主に異なるところは、光ガイド層を上部反射鏡である誘電体で埋め込んだ構造ではなく、周囲は空気としたことである。この第5の実施例では、凸部である半導体の屈折率が周辺の空気より高いので、光が凸部に閉じ込められる。この効果により、しきい値電流は更に低減した。
【0064】
この第5の実施例の素子(面発光レーザ)は、光ガイド層とp側電極との間に空間を設けて配置させ、上部反射鏡を別途形成し、上部反射鏡を光ガイド層に接着して形成した。
【0065】
(第6の実施例)
図6は本発明の第6の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0066】
この第6の実施例の面発光レーザが第5の実施例の面発光レーザと主に異なるところは、第6の実施例の面発光レーザでは、第2の実施例の構造のように、n側電極(下部電極)も共振器内に形成したことである。第6の実施例の面発光レーザでは、下部反射鏡(n-DBR)にも電流を流さない構造としたので、抵抗を下げるためのドーピングが必要ではなく、n-DBRはアンドープとし、代りにn-GaAsコンタクト層をn-DBRと活性層との間に設けた。このため、下部反射鏡での吸収も低減し、しきい値を下げることができ、出力も向上した。第6の実施例の面発光レーザでは、n側電極を形成するためにコンタクト層を表面に出す必要があるが、これは、n-GaAsコンタクト層の上部にGaInPエッチングストップ層を設けて制御した。
【0067】
(第7の実施例)
図7は本発明の第7の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0068】
第7の実施例の面発光レーザが第1の実施例の面発光レーザと主に異なるところは、高次モード発振抑制部として、金属部を形成して高次モード光を遮断するようにしている点である。第7の実施例の面発光レーザでは、オーミックコンタクトを取るために高濃度となるコンタクト層が腹の位置にならないように、基本モード選択部のコンタクト層をエッチングして除去して、活性層とクラッド層を含む共振器部分がNλ/2nの厚さとなるようにした。上記金属部は、p側電極を兼ねており、電流狭窄部より内側(電流注入部側)に一部が形成されているので、さらに抵抗が低減された。
【0069】
(第8の実施例)
図8は本発明の第8の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0070】
第8の実施例の面発光レーザが第7の実施例の面発光レーザと主に異なるところは、コンタクト層が定在波の腹の位置にならないようにする仕方である。第8の実施例の面発光レーザでは、GaInP光ガイド層をメサ形状にして基本モード選択部を形成し、その周辺に高次モード発振抑制部として金属部を形成した。活性層とクラッド層及び光ガイド層を含む共振器部分がNλ/2nの厚さとなるようにした。そしてコンタクト層は節の位置になるようにした。上記金属部はp側電極を兼ねており、電流狭窄部より内側(電流注入部側)に一部が形成されているので、さらに抵抗が低減された。
【0071】
(第9の実施例)
図9は本発明の第9の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【0072】
第9の実施例の面発光レーザが第7の実施例の面発光レーザと異なるところは、第9の実施例の面発光レーザでは、第7の実施例のp側電極と同様に、n側電極も共振器内に形成したことである。第9の実施例の面発光レーザでは、下部反射鏡(n-DBR)にも電流を流さない構造としたので、抵抗を下げるためのドーピングが必要ではなく、n-DBRはアンドープとし、代りにn-GaAsコンタクト層をn-DBRと活性層との間に設けた。このため、下部反射鏡での吸収も低減し、しきい値を下げることができ、出力も向上した。第9の実施例の面発光レーザでは、n側電極を形成するためにコンタクト層を表面に出す必要があるが、これは、n-GaAsコンタクト層の上部にGaInPエッチングストップ層を設けて制御した。
【0073】
なお、高次モード発振抑制方法としては、高次モードの実効的な反射率を相対的に下げることができれば良く、実施例に示した方法以外であってもかまわない。
【0074】
(第10の実施例)
図10は本発明の第10の実施例の面発光レーザアレイ(面発光型半導体レーザアレイチップ)を示す図である。
【0075】
この第10の実施例の面発光レーザアレイは、第2の実施例の面発光レーザの8素子が1次元に並んで構成されている。これは2次元に集積させてもかまわない。第10の実施例の面発光レーザアレイでは、上面にp側個別電極とn側共通電極が形成されている。
【0076】
(第11の実施例)
図11は本発明の第11の実施例の光送信モジュールの概要図である。この第11の実施例の光送信モジュールは、第10の実施例の面発光レーザアレイ(面発光型半導体レーザアレイチップ)とシリカファイバーとを組み合わせたものとなっている。この第11の実施例では、面発光レーザからのレーザ光が光ファイバーに入力され、伝送される。シングルモードファイバーを用いている。同時により多くのデータを伝送するために複数の半導体レーザが集積したレーザアレイを用いた並列伝送が試みられている。この第11の実施例では、シングルモード高出力面発光レーザを用いているので、高速な並列伝送が可能となり、従来よりも多くのデータを同時に伝送できるようになった。
【0077】
この第11の実施例では、面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)と光ファイバーとを1対1に対応させたが、発振波長の異なる複数の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を1次元または2次元にアレイ状に配置して波長多重送信することにより、伝送速度を更に増大することが可能となる。
【0078】
(第12の実施例)
図12は本発明の第12の実施例の光送受信モジュールの概要図である。この第12の実施例の光送受信モジュールは、第2の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)と、受信用フォトダイオードと、安価なフッ素系POF(プラスチックオプティカルファイバー)とを組み合わせたものとなっている。
【0079】
本発明による面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を光通信システムに用いる場合、面発光レーザとPOFは低コストであるので、図12に示すように、送信用の面発光レーザと、受信用フォトダイオードと、POFとを組み合わせた光送受信モジュールを用いた低コストの光通信システムを実現できる。また、POFはファイバの径が大きくてファイバとのカップリングが容易で実装コストを低減できることから、極めて低コストのモジュールを実現できる。また、本発明の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)の場合、抵抗が小さく発熱が小さいので高温まで高出力が得られ、温度特性が良いこと、及び、低しきい値であることにより、冷却システムなしで使える、低コストのシステムを実現できる。
【0080】
本発明に係る面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を用いた光通信システムとしては、光ファイバーを用いたLAN(Local Area Network)などのコンピュータ等の機器間伝送、さらには、機器内のボード間データ伝送、ボード内のLSI間、LSI内の素子間等、光インターコネクションとして特に短距離通信に用いることができる。
【0081】
近年LSI等の処理性能は向上しているが、これらを接続する部分の伝送速度が今後ボトルネックとなる。システム内の信号接続を従来の電気接続から光インターコネクトに変えると、例えばコンピュータシステムのボード間、ボード内のLSI間、LSI内の素子間等を本発明に係る光送信モジュールや光送受信モジュールを用いて接続すると、超高速コンピュータシステムが可能となる。
【0082】
また、複数のコンピュータシステム等を本発明に係る光送信モジュールや光送受信モジュールを用いて接続した場合、超高速ネットワークシステムが構築できる。特に、面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)は端面発光型レーザに比べて桁違いに低消費電力化でき2次元アレイ化が容易なので、並列伝送型の光通信システムに適している。
【0083】
【発明の効果】
以上に説明したように、請求項1記載の発明によれば、少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、電流狭窄部により活性層に電流を選択的に注入する電流注入部とを有する面発光レーザにおいて、活性領域と上部反射鏡および下部反射鏡のうちの一方の反射鏡との間に、電流注入部よりも狭い領域であって、発振方向に垂直な方向における屈折率が周囲よりも高い光ガイド部が形成されているので(すなわち、活性領域と一方の反射鏡との間に、発振方向に垂直な方向における屈折率が周囲より高く、電流注入部より狭くて基本モードのみが相対的に損失を受けない大きさとした光ガイド部を設けて光を閉じ込めたので)、広い電流注入部を有する構造でも基本モードを選択的に発振させることができ、モード選択手段と電流狭窄手段を兼ねた従来構造の素子に比べて、温度上昇を抑えられ、環境温度が高温においても高出力を得ることができる。また、請求項1記載の発明によれば、発振方向に垂直な方向における光ガイド部の周囲は空気からなるので(すなわち、半導体または誘電体をメサ形状として光ガイド部とし、その周囲を屈折率の低い空気としたので)、半導体と空気、または誘電体と空気は屈折率差が大きいことにより、光閉じ込め効果を高めることができる。
【0087】
また、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の面発光レーザにおいて、前記一方の反射鏡は、誘電体からなり、前記光ガイド部は、半導体層で形成され、誘電体からなる反射鏡に埋め込まれた構成となっているので(すなわち、屈折率の高い半導体をメサ形状として光ガイド部とし、その周囲を屈折率の低い誘電体で埋め込んだので)、半導体と誘電体とでは屈折率差が大きいことにより、光閉じ込め効果を高めることができる。
【0088】
また、請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の面発光レーザにおいて、発振方向に垂直な方向における光ガイド部の周囲は空気からなるので(すなわち、半導体または誘電体をメサ形状として光ガイド部とし、その周囲を屈折率の低い空気としたので)、半導体と空気、または誘電体と空気は屈折率差が大きいことにより、光閉じ込め効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図5】本発明の第5の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図6】本発明の第6の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図7】本発明の第7の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図8】本発明の第8の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図9】本発明の第9の実施例の面発光レーザ(面発光型半導体レーザ素子)を示す図である。
【図10】本発明の第10の実施例の面発光レーザアレイ(面発光型半導体レーザアレイチップ)を示す図である。
【図11】本発明の第11の実施例の光送信モジュールの概要図である。
【図12】本発明の第12の実施例の光送受信モジュールの概要図である。

Claims (3)

  1. 少なくとも1層の活性層を含む活性領域と、活性層の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡を含む共振器構造と、電流狭窄部により活性層に電流を選択的に注入する電流注入部とを有する面発光レーザにおいて、
    活性領域と上部反射鏡および下部反射鏡のうちの一方の反射鏡との間に、電流注入部よりも狭い領域であって、発振方向に垂直な方向における屈折率が周囲よりも高い光ガイド部が形成され
    発振方向に垂直な方向における前記光ガイド部の周囲は空気からなっており、
    前記上部反射鏡は、前記電流注入部よりも広い幅を有していることを特徴とする面発光レーザ。
  2. 請求項1記載の面発光レーザにおいて、前記一方の反射鏡は、誘電体からなり、前記光ガイド部は、半導体層で形成され、誘電体からなる反射鏡に埋め込まれた構成となっていることを特徴とする面発光レーザ。
  3. 請求項1または請求項2に記載の面発光レーザであって、
    電極を備え、該電極と前記光ガイド部は接していないことを特徴とする面発光レーザ。
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