JP4311026B2 - インク吐出ヘッド制御装置、及びインク吐出装置 - Google Patents

インク吐出ヘッド制御装置、及びインク吐出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、サーマル方式のインク吐出ヘッドの駆動を制御するインク吐出ヘッド制御装置、及びこのインク吐出ヘッド制御装置を用いたインク吐出装置に関するものである。
特に、本発明は、サーマル方式のインク吐出ヘッドの発熱素子へのエネルギー量を上記発熱素子の駆動回数に応じて制御するインク吐出ヘッド制御装置と、このインク吐出ヘッド制御装置を用いたインク吐出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インク吐出装置の一例として、インクジェットプリンタが知られている。このインクジェットプリンタのインクの代表的な吐出方式として、熱エネルギーを用いてインクを吐出させるサーマル方式と、圧電素子を用いてインクを吐出させるピエゾ方式とが知られている。
サーマル方式のインク吐出部は、例えばインク加圧室と、インク加圧室内に設けられた発熱素子と、インク加圧室上に配置されたノズルとを備えるものである。そして、インク加圧室内のインクを発熱素子で急速に加熱し、発熱素子上のインクに気泡を発生させ、気泡発生時のエネルギーによってインク(インク滴)をノズルから吐出させるものである。
【0003】
このように、サーマル方式は、発熱素子を加熱することでインク滴を吐出させるインク吐出方式である。そのため、発熱素子の表面温度は300℃以上となり、インク滴の吐出を繰り返すに従い、発熱素子表面に、インク中の染料や添加物等の成分が変性して付着(堆積)してしまう場合がある。なお、このような発熱素子上の付着物は、従来より一般に、「コゲーション」と称されている。
【0004】
そして、発熱素子上にコゲーションが付着すると、本来の発熱素子表面の温度は、インク滴を吐出することができる温度になっているにもかかわらず、その温度が十分にインクに伝達されなくなる。このため、気泡発生効率が低下し、インク滴の吐出特性の変化、例えばインク滴の吐出速度の低下、さらにはインク滴の不吐出等が生じてしまうおそれがあった。
このような現象は、インクの種類や発熱素子の駆動電力等によって異なるが、例えばインク滴の吐出回数が数百万回〜数千万回でインク滴が不吐出になるおそれもあった。
【0005】
上記のようなコゲーションの発生を抑制する技術としては、耐熱性を向上させたインクの使用や、接液部材(発熱素子表面)の耐インク性の向上による方法が知られている。
【0006】
また、インク滴の吐出特性の経時変化を抑制する技術として、
(1)インク滴の吐出回数を記憶するとともに、ヘッドの温度とその温度での経過時間とを関連づけて計測して記憶し、それらの記憶内容に応じてインク吐出タイミングを制御するとともに、駆動パルスの幅を調整する技術(例えば、特許文献1参照)、
(2)ヘッドの温度を検出し、検出されたヘッドの温度に従って通常の記録時以外の時に通常の記録時とは異なる回復駆動条件によって発熱素子を駆動することで、コゲーションを除去する技術(例えば、特許文献2参照)、
(3)サーマル方式のものではなくピエゾ方式のものであるが、所定のインク滴の吐出回数後、駆動パルスの波形を補正して吐出特性を維持する技術(例えば、特許文献3参照)、
が知られている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−88289号公報
【特許文献2】
特開平10−315502号公報
【特許文献3】
特開2001−138498号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述の従来の技術において、耐熱性を向上させたインクの使用や、接液部材の耐インク性の向上によってコゲーションを抑制する方法では、インクや発熱素子のコストが高くなるという問題がある。
また、上記特許文献1〜特許文献3による方法は、インクの吐出特性の経時変化を抑制する技術であり、コゲーションの発生の抑制に関する技術ではない。さらに特許文献3による方法にあっては、ピエゾ方式の技術であってサーマル方式特有の発熱素子のコゲーションの発生を抑制するためのものではない。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、サーマル方式のインクジェットプリンタ等のインク吐出装置において、発熱素子のコゲーションの発生を抑制することにより、インク滴の必要な吐出速度を維持するとともに不吐出を防止することである。
【0010】
本発明は、以下の解決手段によって、上述の課題を解決する。
本発明の1つである請求項1の発明は、インク加圧室内に設けられた発熱素子にエネルギーを供給することにより、前記インク加圧室内のインクを加熱し、その加熱による熱エネルギーによって前記インク加圧室内からインク滴を吐出するインク吐出ヘッドの駆動を制御するためのインク吐出ヘッド制御装置であって、前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数に伴って増加する前記インク吐出ヘッドの使用レベルを検出する使用レベル検出手段と、前記使用レベル検出手段により検出された使用レベルを記憶する使用レベル記憶手段と、前記使用レベル記憶手段に記憶された使用レベルが、予め設定された基準レベルに到達したか否かを判別する使用レベル判別手段と、前記発熱素子に供給するエネルギー量を制御する供給エネルギー量制御手段とを備え、前記供給エネルギー量制御手段は、前記使用レベル判別手段により使用レベルが前記基準レベルに到達していないと判別されたときは、前記インク滴を吐出するための第1エネルギー量を前記発熱素子に供給するとともに、前記使用レベル判別手段により使用レベルが前記基準レベルに到達したと判別されたときは、前記第1エネルギー量より少ない第2エネルギー量を前記発熱素子に供給するように制御し、ここで、前記第1エネルギー量は、前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数の増加に伴って初期時に必要なインク滴の吐出速度が上昇してピークを迎え、その後、前記発熱素子の駆動回数の増加に伴って低下するように変化する前記発熱素子の駆動のためのエネルギー量であり、前記第2エネルギー量は、前記発熱素子の駆動回数の増加に伴ってインク滴の吐出速度が低下した後も必要なインク滴の吐出速度を確保できる前記発熱素子の駆動のためのエネルギー量であり、前記使用レベル判別手段は、使用レベルが、前記第1エネルギー量を前記発熱素子に供給したときに前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数の増加に伴って初期時に必要なインク滴の吐出速度が上昇から低下に転じる前記ピーク又はその近傍の前記発熱素子の駆動回数の推論値に相当する前記基準レベルに到達したか否かを判別する
【0011】
(作用)
上記発明においては、発熱素子の駆動回数に伴って増加するインク吐出ヘッドの使用レベル、例えばインク滴の吐出回数や印画枚数等が検出され、記憶される。そして、検出・記憶されている使用レベルが基準レベルに到達したと判別されると、それまでに供給されていたエネルギー量より少ないエネルギー量を発熱素子に供給するように制御される。ここで、基準レベルとは、例えば、発熱素子上のコゲーションの発生がそれまで以上に増大する状態となり、インク滴の吐出速度が上昇から低下に転じる発熱素子の駆動回数の推論値である。
【0012】
したがって、初期時には通常量のエネルギーを発熱素子に供給することで、初期時における必要なインク滴の吐出速度を確保することができると同時に、発熱素子上のコゲーションの発生がそれまで以上に増大する時のタイミングで発熱素子に供給するエネルギー量を少なくするので、インク滴の必要な吐出速度を確保しつつ、コゲーションの発生を抑制することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面等を参照して、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態であるサーマル方式のインク吐出装置の一例であるインクジェットプリンタ(以下単に「プリンタ」という。)のインク吐出ヘッド(プリントヘッド)10を示す断面模式図である。また、図2は、図1中、ノズルシート11とヘッドチップ13とをより詳細に示す斜視図である。
【0014】
図1において、本実施形態のインク吐出ヘッド10は、Y(黄)、M(マゼンタ)、C(シアン)、及びK(黒)の4色ごとに、それぞれ複数のインク吐出部(1つのノズル11aに対応する部分)が設けられている。すなわち、各色ごとに、インク吐出部は、図1中、紙面に対して垂直な方向に数百個単位で並設されており、それらの数百個単位で並設されたインク吐出部が4色分設けられることによって、1つのインク吐出ヘッド10を形成している。また、インクタンク21は、上記の数百個単位で並設されたインク吐出部に対して1つ設けられている。
【0015】
インク吐出ヘッド10の最下部には、ノズルシート(本発明におけるノズル形成部材に相当するもの)11が設けられている。ノズルシート11は、インク滴を吐出するためのノズル11aを複数形成したものであり、例えばニッケルによる電鋳技術により形成されている。
【0016】
ノズルシート11上には、バリア層12及びヘッドチップ13が積層されている。
ヘッドチップ13は、図2に示すように、シリコン等からなる半導体基板13aの一方の面に析出形成された発熱抵抗体13bを備えるものであり、発熱抵抗体13bは、半導体基板13a上に形成された導体部(図示せず)を介してプリント基板17と電気的に接続されている。
なお、本実施形態では、1つのインク吐出部において、ヘッドチップ13は、図1中、左側にのみ設けられており、右側には、インク流路16aを形成する目的で、ダミーチップ14(ヘッドチップ13と略同一形状であるが、インク滴の吐出機能を発揮しないもの)が設けられている。
【0017】
また、バリア層12は、例えば、感光性環化ゴムレジストや露光硬化型のドライフィルムレジストからなり、半導体基板13aの発熱抵抗体13bが形成された面の全体に積層された後、フォトリソプロセスによって不要な部分が除去されることにより形成されている。
【0018】
ここで、ノズルシート11のノズル11aの位置が発熱抵抗体13bの位置と合うように、すなわちノズル11aの中心軸と発熱抵抗体13bの中心軸とが同軸上に配置するように、ノズルシート11と、バリア層12と、ヘッドチップ13とが貼り合わされている。そして、ノズルシート11、バリア層12及びヘッドチップ13によって、インク加圧室(インク液室)15を構成している。
【0019】
すなわち、図2に示すように、インク加圧室15は、発熱抵抗体13bを囲むように、ヘッドチップ13、バリア層12及びノズルシート11から構成されている。そして、ヘッドチップ13は、インク加圧室15の天壁を構成し、バリア層12は、インク加圧室15の側壁を構成し、ノズルシート11は、インク加圧室15の底壁を構成する。これにより、インク加圧室15は、図2中、右側前方面に開口領域有し、この開口領域とインク流路16aとが連通される。
【0020】
ヘッドチップ13及びダミーチップ14上には、金属材料からなる流路板16が接着等されており、インク加圧室15とインクタンク21との間のインク流路16aを形成する。これにより、インクは、インクタンク21から流路板16によって形成されたインク流路16aを通り、インク加圧室15に供給される。
【0021】
また、図1において、流路板16の上方には、プリント基板17が配置されている。さらにまた、このプリント基板17の下側であって、流路板16の左側にはコネクタ30が実装されている。コネクタ30の図1中、上側の端子は、プリント基板17と電気的に接続されている。さらに、コネクタ30の図1中、下側の端子は、ヘッドチップ13の電極とワイヤボンディングにより金線18で接続されている。これにより、プリント基板17から流れた電流を、コネクタ30及び金線18を介してヘッドチップ13に送ることができる。
【0022】
さらにまた、プリント基板17は、FPC(フレキシブル・プリント・ケーブル)23によってプリンタ本体側の制御部と電気的に接続されている。さらに、ノズルシート11において、金線18によってコネクタ30とヘッドチップ13とが接続される領域は、開口されており、金線18によって接続された部分は、ノズルシート11の開口された部分を覆うように樹脂等の封止剤19により封止されている。
【0023】
また、コネクタ30及び流路板16の両側には、インク吐出部間の隔壁として補強の役割を果たすヘッドフレーム20が配置されている。ヘッドフレーム20は、ノズルシート11に接着されている。
さらにまた、インクタンク21は、プリント基板17を隔てて流路板16等が設けられた側の反対側に設けられている。さらに、プリント基板17には、インクタンク21内のインクを流路板16により形成されるインク流路16aに案内するためのインク供給管22が装着されている。
【0024】
以上の構成からなるインク吐出ヘッド10においては、プリンタの制御部からの指令によって、発熱抵抗体13bを選択するとともに、その選択した発熱抵抗体13bに短時間、例えば、1〜3μsecの間、画像データに基づくパルス電流が流される。これにより、発熱抵抗体13bが急速に加熱され、その結果、発熱抵抗体13bと接する部分に気相のインク気泡が発生し、そのインク気泡の膨張によってある体積のインクが押しのけられる(インクが沸騰する)。
【0025】
これにより、ノズル11aに接する部分の上記押しのけられたインクと同等の体積のインクがインク滴iとしてノズル11aから吐出され(図2参照)、印画紙上に着弾され、ドットが形成される。すなわち、その発熱抵抗体13bに対応するインク加圧室15内のインクを、インク加圧室15に対向するノズル11aから吐出させることができる。
【0026】
なお、上記のインク滴iの吐出後は、インクタンク21から、インク流路16aを介して、吐出されたインク滴iの体積分だけのインクが再度そのインク加圧室15内に満たされる。これにより、再度のインク滴iの吐出が可能となる。
【0027】
また、本実施形態のプリンタには、発熱素子13bに供給するエネルギー量を制御するためのインク吐出ヘッド制御装置40が設けられている。このインク吐出ヘッド制御装置40により、コゲーションの発生を抑制している。
図3は、本実施形態のインク吐出ヘッド制御装置40の構成を示すブロック図である。図3に示すように、インク吐出ヘッド制御装置40は、使用レベル検出手段41と、使用レベル記憶手段42と、使用レベル判別手段43と、供給エネルギー量制御手段44とを備える。
【0028】
使用レベル検出手段41は、発熱素子13bの駆動回数に伴って増加するインク吐出ヘッド10の使用レベルを検出するためのものである。
ここで、「使用レベル」とは、発熱素子13bの駆動回数に伴って増加する物理量であって、その使用レベルによって少なくとも発熱素子13bの大まかな駆動回数を推論することができる物理量(推論値)である。使用レベルとしては、例えばインク滴の吐出回数、印画枚数、インクタンク21の交換回数、メンテナンス回数、又はインク吐出ヘッド10のクリーニング回数が挙げられる。
【0029】
そして、使用レベル検出手段41は、カウント等によって上述したいずれかの使用レベルを検出する。例えば使用レベルが印画枚数に設定されている場合には、使用レベル検出手段41は、累積印画枚数をカウントするとともに、その印画枚数に所定値を掛けて発熱素子13bの駆動回数の換算値を算出する。例えば、インク吐出ヘッド10によりラインヘッドを形成して、A4版の用紙1枚に対し、5回のインク滴の着弾によって1ドットを形成するとともに、7200ラインを印画すると仮定したとき、発熱素子13bの駆動回数は、
7200×5=36000(回)
となる。
この場合に、平均印画率を5%と仮定すれば、
36000×0.05=1800(回)
となる。
したがって、A4版の用紙1枚当たり、発熱素子13bの駆動回数を1800回とカウントする。
【0030】
また、インクタンク21の交換回数をカウントするときには、インクタンク21内のインクが無しと判別されるまでの発熱素子13bの駆動回数に換算した推論値を予め設定しておき、インクタンク21が交換されたことを検知したときに、発熱素子13bの駆動回数に換算した推論値を使用レベルとして検出する。
【0031】
ここで、インク吐出ヘッド10に対してインクタンク21が独立して分離され、インクタンク21のみを交換する場合には、インクタンク21が交換されたことを検知したときに、使用レベルを検出する。これに対し、インク吐出ヘッド10とインクタンク21とが一体型であり、インクタンク21の交換時にはインク吐出ヘッド10が同時に交換される場合には、インクタンク21が交換されたことを検知したときに、使用レベルをリセット(発熱素子13bの駆動回数を0にリセット)する。
【0032】
さらにまた、定期的にメンテナンスやインク吐出ヘッド10のクリーニングが行われる場合には、そのメンテナンスやクリーニングが行われるまでの発熱素子13bの駆動回数の推論値を予め設定しておき、メンテナンスやクリーニングが行われたことを検知したときに、使用レベルを検出する。
【0033】
使用レベル記憶手段42は、使用レベル検出手段41により検出された使用レベルを記憶しておくためのものであり、例えば不揮発性メモリにより形成される。なお、記憶しておく使用レベルとしては、例えば使用レベルが印画枚数に設定されている場合には、その印画枚数のデータそのものでも良く、あるいは、上述したように発熱素子13bの駆動回数に相当する換算値であっても良い。使用レベルがインクタンク21の交換回数、メンテナンス回数、インク吐出ヘッド10のクリーニング回数に設定されている場合も同様である。
【0034】
使用レベル判別手段43は、使用レベル記憶手段42に記憶された使用レベルが、予め設定された基準レベルに到達したか否かを判別するものである。
ここで、本実施形態における基準レベルは、発熱素子13bの一千万回(10 回)の駆動回数(インク滴の吐出回数)に予め設定されている。発熱素子13bの一千万回の駆動回数を基準レベルに設定している理由については後述する。
【0035】
また、供給エネルギー量制御手段44は、使用レベル判別手段43により使用レベルが基準レベルに到達したと判別されたときは、それまでに供給していたエネルギー量より少ないエネルギー量を発熱素子13bに供給するように制御するものである。
【0036】
例えば、初期状態では、発熱素子13bに対してX1量のエネルギーを供給していたが、使用レベルが基準レベル(発熱素子13bの一千万回の駆動回数)に到達したと判別されたときは、それ以降は、発熱素子13bに対してX2量(X2<X1)のエネルギーを供給するように制御する。
以上のように制御することで、発熱素子13bのコゲーションの発生を少なくすることができる。
【0037】
図4は、発熱素子13bに加熱のためのエネルギーを供給するときの、駆動パルスのタイミングチャートを示す図である。
図4に示すように、インク滴を吐出しないときは、発熱素子13bに供給される電圧は、最低電圧に設定されている。これに対し、インク滴を吐出するときには、発熱素子13bに供給する電圧を最高電圧に上げるとともに、一定の駆動パルス幅の時間だけ維持する。これにより、発熱素子13bが加熱され、インク滴が吐出される。一旦インク滴が吐出されると、次に吐出されるまでの間の時間Tの経過後、再度、電圧が最高電圧に上げられ、インク滴の吐出が行われる。
【0038】
このような場合に、発熱素子13bに供給するエネルギーを少なくする方法としては、駆動パルス幅(最高電圧を供給し続ける時間)を小さくする方法、最高電圧自体を小さくする方法、、及び駆動パルス幅と最高電圧との双方を小さく方法等が挙げられるが、下記の実施形態では、駆動パルス幅を短くする方法を採用することとする。
【0039】
図5は、インク滴の吐出回数(発熱素子13bの駆動回数)と吐出速度との関係を示す図である。
図5では、
駆動周波数(1/T):8.4(kHz)
駆動電圧(最高電圧):10(V)
駆動パルス幅(時間):1.5(μs)
発熱素子13bの1個当たりの駆動電力:0.75(W)
とした。
すなわち、吐出時の発熱素子13bに供給される駆動エネルギーは、
1.5×0.75=1.125(μJ)
である。
【0040】
図5に示すように、この条件下におけるインク滴の吐出速度は、初期時はV(m/s)であったが、吐出回数が増大するに従い次第に上昇していき、吐出回数が一千万回付近で最高速度V (m/s)に到達する。しかしその後は、吐出速度は急速に低下していき、吐出回数が一億回(10 回)付近まで到達すると、初期時の吐出速度V の半分以下となる。このように吐出速度が低下した場合には、インク滴の着弾位置精度が低下し、さらにはインク滴の不吐出となるおそれがある。
【0041】
このような現象が生じるのは、初期時には、インク滴の吐出を繰り返すことで、発熱素子13b及びその周囲に対するエージングが行われ、これによって発熱素子13bの熱伝導率すなわちエネルギー効率が向上したと推測される。
しかし、熱伝導率すなわちエネルギー効率が向上することにより、過剰なエネルギーが発熱素子13bに次第に供給されることとなる。この結果、吐出回数がほぼ一千万回に到達した付近からコゲーションの発生が増大し、発熱素子13bの熱伝導率が低下してくるため、インク滴の吐出速度が急速に低下していくものと推測される。
【0042】
ここで、インク滴の吐出回数の増加に伴うコゲーションの発生を抑制するため、駆動エネルギーを最初から低く設定しておくことも考えられる。しかし、最初から駆動エネルギーを低く設定すると、初期時に必要な吐出速度V を確保することができなくなる。すなわち、エージングが未だ行われていない初期時において、インク滴の吐出に必要な吐出速度V を確保するためには、上述した1.125(μJ)の駆動エネルギーを発熱素子13bに供給する必要がある。
【0043】
そこで、本実施形態では、初期時は、インク滴の吐出速度V を確保することができる駆動エネルギーを発熱素子13bに供給するが、発熱素子13b及びその周囲に対するエージングが行われ、発熱素子13b上の熱伝導率すなわちエネルギー効率が向上し、以後は過剰なエネルギーが発熱素子13bに供給されると考えられる時点に到達したときに、発熱素子13bに供給する駆動エネルギーを少なくするように制御する。
【0044】
図6は、本実施形態の適用後の、インク滴の吐出回数と吐出速度との関係を示す図である。図5の場合と同様に、インク滴の吐出回数が一千万回に到達するまでは、発熱素子13bに対し、駆動パルス幅1.5(μs)の駆動エネルギーを供給する。これにより、インク滴の吐出回数が一千万回までの吐出速度の上昇の程度は、図5の場合と同様となる。
【0045】
そして、インク滴の吐出回数がほぼ一千万回に到達した付近で吐出速度が最高値V となり、その後の吐出速度は低下に転じる。そこで本実施形態では、吐出回数が一千万回に到達したときに、発熱素子13bに対し、駆動パルス幅を1.5(μs)から1.4(μs)にすることによって供給する駆動エネルギーを少なくする。
これにより、吐出回数が一千万回を超えた付近からコゲーションの発生が増大するが、このコゲーションの発生が増大し始まるタイミングで発熱素子13bに供給する駆動エネルギーを少なくするので、コゲーションの発生が抑制される。
【0046】
したがって、図6に示すように、吐出速度の低下が図5の場合と比較して大幅に少なくなり、吐出速度が一億回(10 回)に到達した付近で、初期時の吐出速度V とほぼ同等の速度となる。そして、その後も、吐出速度が大幅に低下することはなく、徐々に低下していくようになる。このようにすれば、吐出回数が数億回に到達しても、コゲーションの発生を抑制して必要な吐出速度を確保することができる。
【0047】
以上より、図5と比較すれば明らかであるが、図5の場合には、吐出回数が一億回(10 回)付近まで到達すると、吐出速度が初期時の半分以下となり、インク滴の着弾位置精度の低下や不吐出のおそれがあるが、図6の場合には、吐出回数が一億回(10 回)を超えても十分な吐出速度を確保することができるので、インク吐出ヘッド10の長寿命化を図ることができる。さらに、駆動エネルギーを少なくすることで、消費電力の低減を図ることもできる。
【0048】
ここで、以上のような駆動エネルギーの制御は、吐出回数が一千万回を境として2段階に変化させるようにしたが、3段階以上としても良い。例えば、吐出回数が一千万回に到達したときは、駆動パルス幅をそれまでの1.5(μs)から1.45(μs)とし、五千万回に到達したときには、さらに駆動パルス幅を1.45(μs)から1.40(μs)に制御することが挙げられる。
【0049】
なお、図5及び図6のグラフは、1つの例を示したものであって、インク滴の吐出速度の上昇がピークを向かえるのは、吐出回数が常に一千万回であるというわけではなく、種々の駆動条件や製造ばらつき等によって差が生じる。種々の実験結果では、吐出回数がほぼ一千万〜三千万回の範囲内で吐出速度がピークとなった。このように、吐出速度がピークを向かえる吐出回数は、必ずしも一定値をとるわけではないので、駆動エネルギーの変化を、多段階に行う方が好ましい。
【0050】
また、上記実施形態では、駆動電圧(最高電圧)を10(V)としたが、この駆動電圧を低下させることによって発熱素子13bに与える駆動エネルギーを少なくするようにしても良い。例えば、吐出回数が一千万回に到達するまでは駆動電圧を10(V)とし、一千万回に到達したときは、それ以降の駆動電圧を9(V)に低下させるように制御することが挙げられる。
【0051】
さらにまた、駆動パルス幅と駆動電圧とを同時に制御するようにしても良い。例えば、吐出回数が一千万回に到達するまでは、駆動パルス幅を1.5(μs)及び駆動電圧を10(V)とし、一千万回に到達したときは、それ以降の駆動パルス幅を1.45(μs)及び駆動電圧を9.5(V)に制御することが挙げられる。
【0052】
さらには、全てのインクの色で同一の制御を行うようにしても良いが、インクの色ごとに異なる制御を行うようにしても良い。インクは、色ごとに成分比率や添加物等が異なるため、特性が異なる。したがって、コゲーションの発生に対しても相違がある。例えば、黒色のインクでは、発熱素子13bの駆動回数に応じたコゲーションの発生が比較的緩やかであることが知られている。
【0053】
よって、例えば黒色以外のインクが供給される発熱素子13bに対しては図6で示した制御(吐出回数が一千万回に到達したときに駆動パルス幅を小さくする制御)を行うが、黒色のインクが供給される発熱素子13bに対しては、吐出回数が千五百万回に到達したときに駆動パルス幅を小さくするように制御するようにしても良い。
【0054】
また、インク吐出ヘッド10として、印画紙のほぼ全幅にわたってインク吐出部を並設したラインヘッドを用いる場合には、個々の発熱素子13bに対して上記のような制御を行うのではなく、ラインヘッドのインク吐出部を複数のグループに分け、そのグループ単位で使用レベルを検出して、そのグループ単位で駆動エネルギーを制御するようにしても良い。
なお、上記実施形態ではインクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタに用いられるインク吐出ヘッド10を例に挙げたが、プリンタに限ることなく、種々のインク吐出装置に適用することができる。例えば、生体試料を検出するためのDNA含有溶液を吐出するための装置に適用することも無論可能である。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、使用レベルを検出して、その検出した使用レベルに応じて発熱素子に供給するエネルギーを少なくするように制御したので、発熱素子の駆動回数の増加に伴うコゲーションの発生を抑制することができる。これにより、発熱素子の駆動回数が増加しても、コゲーションの発生を抑制して必要な吐出速度を確保することができ、インク吐出ヘッドの長寿命化を図ることができる。さらに、供給エネルギーを少なくすることで消費電力の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるサーマル方式のインクジェットプリンタのインク吐出ヘッドを示す断面模式図である。
【図2】図1中、ノズルシートとヘッドチップとをより詳細に示す斜視図である。
【図3】本実施形態のインク吐出ヘッド制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】発熱素子に加熱のためのエネルギーを供給するときの、駆動パルスのタイミングチャートを示す図である。
【図5】インク滴の吐出回数(発熱素子の駆動回数)と吐出速度との関係を示す図である。
【図6】本実施形態の適用後の、インク滴の吐出回数と吐出速度との関係を示す図である。
【符号の説明】
10 インク吐出ヘッド
11 ノズルシート(ノズル形成部材)
11a ノズル
13b 発熱素子
15 インク加圧室
40 インク吐出ヘッド制御装置
41 使用レベル検出手段
42 使用レベル記憶手段
43 使用レベル判別手段
44 供給エネルギー量制御手段

Claims (6)

  1. インク加圧室内に設けられた発熱素子にエネルギーを供給することにより、前記インク加圧室内のインクを加熱し、その加熱による熱エネルギーによって前記インク加圧室内からインク滴を吐出するインク吐出ヘッドの駆動を制御するためのインク吐出ヘッド制御装置であって、
    前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数に伴って増加する前記インク吐出ヘッドの使用レベルを検出する使用レベル検出手段と、
    前記使用レベル検出手段により検出された使用レベルを記憶する使用レベル記憶手段と、
    前記使用レベル記憶手段に記憶された使用レベルが、予め設定された基準レベルに到達したか否かを判別する使用レベル判別手段と、
    前記発熱素子に供給するエネルギー量を制御する供給エネルギー量制御手段と
    を備え
    前記供給エネルギー量制御手段は、前記使用レベル判別手段により使用レベルが前記基準レベルに到達していないと判別されたときは、前記インク滴を吐出するための第1エネルギー量を前記発熱素子に供給するとともに、前記使用レベル判別手段により使用レベルが前記基準レベルに到達したと判別されたときは、前記第1エネルギー量より少ない第2エネルギー量を前記発熱素子に供給するように制御し、
    ここで、前記第1エネルギー量は、前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数の増加に伴って初期時に必要なインク滴の吐出速度が上昇してピークを迎え、その後、前記発熱素子の駆動回数の増加に伴って低下するように変化する前記発熱素子の駆動のためのエネルギー量であり、
    前記第2エネルギー量は、前記発熱素子の駆動回数の増加に伴ってインク滴の吐出速度が低下した後も必要なインク滴の吐出速度を確保できる前記発熱素子の駆動のためのエネルギー量であり、
    前記使用レベル判別手段は、使用レベルが、前記第1エネルギー量を前記発熱素子に供給したときに前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数の増加に伴って初期時に必要なインク滴の吐出速度が上昇から低下に転じる前記ピーク又はその近傍の前記発熱素子の駆動回数の推論値に相当する前記基準レベルに到達したか否かを判別する
    インク吐出ヘッド制御装置。
  2. 請求項1に記載のインク吐出ヘッド制御装置において、
    前記供給エネルギー量制御手段は、前記発熱素子に供給する駆動パルスの電圧を小さくすることにより、前記第1エネルギー量より少ない前記第2エネルギー量を前記発熱素子に供給するように制御する
    インク吐出ヘッド制御装置。
  3. 請求項1に記載のインク吐出ヘッド制御装置において、
    前記供給エネルギー量制御手段は、前記発熱素子に供給する駆動パルスの幅を小さくすることにより、前記第1エネルギー量より少ない前記第2エネルギー量を前記発熱素子に供給するように制御する
    インク吐出ヘッド制御装置。
  4. 請求項1に記載のインク吐出ヘッド制御装置において、
    前記使用レベル検出手段は、初期時からの累積的なインク滴の吐出回数、印画枚数、インクタンクの交換回数、前記インク吐出ヘッドのクリーニング回数、及びメンテナンス回数のうち、少なくとも1つによって使用レベルを検出する
    インク吐出ヘッド制御装置。
  5. 請求項1に記載のインク吐出ヘッド制御装置において、
    前記基準レベルは、複数設定されており、
    前記使用レベル判別手段は、使用レベルが、複数の前記基準レベルのうちいずれかの前記基準レベルに到達したか否かを判別し、
    前記供給エネルギー量制御手段は、前記使用レベル判別手段により使用レベルがいずれかの前記基準レベルに到達したと判別されたときは、各前記基準レベルに到達するに従って、前記発熱素子に供給するエネルギー量を前記第1エネルギー量より少ない前記第2エネルギー量、前記第2エネルギー量より少ない第3エネルギー量、・・・と段階的に少なくしていくように制御する
    インク吐出ヘッド制御装置。
  6. 吐出すべきインクを収容するインク加圧室、
    前記インク加圧室内に設けられ、前記インク加圧室内のインクを加熱するための発熱素子、
    及び、前記発熱素子により加熱された前記インク加圧室内のインクを吐出するためのノズルが形成されたノズル形成部材
    を含むインク吐出ヘッドと、
    前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数に伴って増加する前記インク吐出ヘッドの使用レベルを検出する使用レベル検出手段、
    前記使用レベル検出手段により検出された使用レベルを記憶する使用レベル記憶手段、
    前記使用レベル記憶手段に記憶された使用レベルが、予め設定された基準レベルに到達したか否かを判別する使用レベル判別手段、
    前記発熱素子に供給するエネルギー量を制御する供給エネルギー量制御手段
    を含むインク吐出ヘッド制御手段と
    を備え、
    前記供給エネルギー量制御手段は、前記使用レベル判別手段により使用レベルが前記基準レベルに到達していないと判別されたときは、前記インク滴を吐出するための第1エネルギー量を前記発熱素子に供給するとともに、前記使用レベル判別手段により使用レベルが前記基準レベルに到達したと判別されたときは、前記第1エネルギー量より少ない第2エネルギー量を前記発熱素子に供給するように制御し、
    ここで、前記第1エネルギー量は、前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数の増加に伴って初期時に必要なインク滴の吐出速度が上昇してピークを迎え、その後、前記発熱素子の駆動回数の増加に伴って低下するように変化する前記発熱素子の駆動のためのエネルギー量であり、
    前記第2エネルギー量は、前記発熱素子の駆動回数の増加に伴ってインク滴の吐出速度が低下した後も必要なインク滴の吐出速度を確保できる前記発熱素子の駆動のためのエネルギー量であり、
    前記使用レベル判別手段は、使用レベルが、前記第1エネルギー量を前記発熱素子に供給したときに前記発熱素子の初期時からの累積的な駆動回数の増加に伴って初期時に必要なインク滴の吐出速度が上昇から低下に転じる前記ピーク又はその近傍の前記発熱素子の駆動回数の推論値に相当する前記基準レベルに到達したか否かを判別する
    インク吐出装置
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