本発明は、高効率で低ノイズなスイッチング電源装置に関し、特にスイッチング電源装置に用いられるトランスの改良に関する。
図12は従来のアクティブクランプ回路付のスイッチング電源装置を示す回路構成図である。図13は従来のスイッチング電源装置に備えられたトランスを示す構成図である。図13に示すトランスTaは、中央脚41b及び側脚41a,41cを有するEコア41の中央脚41bに1次巻線5aが巻回され、この1次巻線5aの外周上に2次巻線5bが巻回され、Eコア41上に棒状のIコア42が配置されて、磁気回路を形成している。
図12に示すスイッチング電源装置において、直流電源Eiの両端にはトランスTaの1次巻線5a(巻数n1)とMOSFET等からなるスイッチQ1との直列回路が接続されている。スイッチQ1の両端にはダイオードDq1とコンデンサCq1とが並列に接続されている。
トランスTaの1次巻線5aの一端とスイッチQ1の一端との接続点にはMOSFET等からなるスイッチQ2の一端が接続され、スイッチQ2の他端はコンデンサCsを介して直流電源Eiの負極に接続されている。スイッチQ2の両端にはダイオードDq2が並列に接続されている。スイッチQ1,Q2は、共にオフとなる期間(デッドタイム)を有し、制御回路110のPWM制御により交互にオン/オフする。
トランスTaの2次巻線5b(巻数n2)の一端(●側)には、ダイオードDo1のアノードが接続され、ダイオードDo1のカソードにはダイオードDo2のカソードが接続され、ダイオードDo2のアノードは2次巻線5bの他端に接続されている。これらの素子により整流回路を構成している。
また、ダイオードDo2の両端にはインダクタLoとコンデンサCoとが直列に接続され、平滑回路を構成している。この整流平滑回路は、トランスTaの2次巻線5bに誘起された電圧(オンオフ制御されたパルス電圧)を整流平滑して直流出力を負荷Roに出力する。
制御回路110は、スイッチQ1とスイッチQ2とを交互にオン/オフ制御し、負荷Roの出力電圧が基準電圧以上となったときに、スイッチQ1に印加されるパルスのオン幅を狭くし、スイッチQ2に印加されるパルスのオン幅を広くするように制御する。
次に、このように構成されたスイッチング電源装置の動作を図14及び図15に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。なお、図14及び図15において、Vq1はスイッチQ1のドレイン−ソース間電圧、Iq1はスイッチQ1のドレイン電流、Vq2はスイッチQ2のドレイン−ソース間電圧、Iq2はスイッチQ2のドレイン電流、Ido1はダイオードDo1の電流、Ido2はダイオードDo2の電流を示している。
まず、期間T1では、スイッチQ1がオフで、スイッチQ2がオンである。このため、スイッチQ2に電流が流れ、スイッチQ1には電流は流れない。このとき、トランスTaの1次巻線5aには逆起電力が発生し、この逆起電力により2次巻線5bにも電圧が発生する。このため、ダイオードDo1はオフし、ダイオードDo2はオンする。そして、Lo→Co→Do2→Loと電流が流れて、負荷RoにインダクタLoのエネルギーが供給される。
次に、期間T2から期間T4では、スイッチQ1がオフ状態からオン状態に変わり、スイッチQ2がオン状態からオフ状態に変わる。このため、トランスTaの1次2次巻線間の漏洩インダクタンス(リーケージインダクタンス)とコンデンサCq1とにより共振を起こす。この共振によりスイッチQ1の電圧が正弦波状に低下しスイッチQ2の電圧が上昇する。そして、スイッチQ1の電圧がゼロボルト近傍で(期間T5)スイッチQ1をオンし、スイッチQ1の電流が流れる。
次に、期間T6では、スイッチQ1がオンで、スイッチQ2がオフである。このとき、直流電源EiからトランスTaの1次巻線5aを介してスイッチQ1に電流が流れて、1次巻線5aにエネルギーが蓄積される。このエネルギーにより2次巻線5bにも電圧が発生する。このため、ダイオードDo1はオンし、ダイオードDo2はオフする。そして、5b→Do1→Lo→Co→5bと電流が流れて、負荷Roに直流電力が供給される。
次に、期間T7では、スイッチQ1は、オン状態からオフ状態に変わり、スイッチQ2は、オフ状態からオン状態に変わる。この期間T7では、トランスTaの1次2次巻線間の漏洩インダクタンスとコンデンサCq1とにより共振を起こし、この共振によりスイッチQ1の電圧が上昇する。このとき、スイッチQ2がオンのため、トランスTaに蓄えられたエネルギーによりスイッチQ2の電圧は低下する。
次に、期間T8では、スイッチQ1の電圧が上昇しながら、ダイオードDo2の電流が流れ始める。期間9では、スイッチQ1の電圧が上昇して、スイッチQ2の電圧が零電圧になり、ゼロ電圧スイッチ(ZVS)になる。
特開平3−207263号公報(第1図)
しかしながら、スイッチQ2がオフすると、スイッチQ1の電圧が下がってくる途中で、ダイオードDo2がオンしているときダイオードDo1がオンしてしまう(図14の期間T3)。
このため、トランスTaの2次巻線5bが短絡状態になってしまい、トランスTaのインピーダンスが極端に下がってしまうので、共振による振動を続けられず、減衰してスイッチQ1が零電圧に達しなかった。このため、スイッチQ1は、ソフトスイッチングを行うことができなかった。
この対策として、(1)トランスのエアギャップを増やして励磁電流を増加させ、スイッチQ2がオフする時にトランスに蓄えられたエネルギーを増加させて、振動幅を大きくして、スイッチQ1の電圧のボトムを零電圧まで下げて零電圧スイッチ動作させる方法がある。しかし、スイッチQ1のドレイン電圧が零電圧まで下がるようにするにはトランスの励磁電流をかなり増加させなければならない。このため、励磁電流の増加によってトランスのロスが増加してしまい、効率を上げることができなかった。
また、(2)トランスの1次2次間の漏洩インダクタンスを大きくして、スイッチQ2がオフしたとき、スイッチに入っている直列インダクタンスを大きくして振動し易くして、スイッチQ1を零電圧スイッチ動作させる方法がある。しかし、この方法でも1次巻線から2次巻線に伝達されるエネルギーが漏洩インダクタンスのために伝達効率が悪くなり、最大出力が低下してかつ漏洩インダクタンスに蓄えられるエネルギーが大きくなり、効率が悪くなる等の問題があった。
本発明は、トランスの励磁電流を増やすことなくスイッチのゼロ電圧スイッチを可能とし、これによって高効率なスイッチング電源装置を提供することにある。
本発明は前記課題を解決するために以下の構成とした。請求項1の発明は、トランスの1次巻線に直列に接続された主スイッチとトランスの1次巻線の両端又は主スイッチの両端に接続され且つコンデンサ及び補助スイッチからなる直列回路の補助スイッチとを制御回路により交互にオン/オフさせて直流電源からトランスの1次巻線に流れる電流を制御し、トランスの2次巻線の電圧を整流平滑して直流出力を得るスイッチング電源装置において、前記トランスは、磁気回路が形成され、前記1次巻線と前記2次巻線とが取り付けられた主コアと、前記1次巻線と前記2次巻線との間に磁束を通すバイパスコアとを備え、前記バイパスコアの全体又は一部分を飽和するようにしたことを特徴とする。
請求項2の発明は、直流電源の両端に接続され且つ主スイッチ及び補助スイッチからなる第1直列回路と主スイッチの両端に接続され且つトランスの1次巻線及びコンデンサからなる第2直列回路とを有し、主スイッチと補助スイッチとを制御回路により交互にオン/オフさせ、トランスの2次巻線及び3次巻線からなる第3直列回路の電圧を整流平滑して直流出力を得るスイッチング電源装置において、前記トランスは、磁気回路が形成され、前記1次巻線と前記2次巻線と前記3次巻線とが取り付けられた主コアと、前記1次巻線と前記2次巻線との間及び前記1次巻線と前記3次巻線との間に磁束を通すバイパスコアとを備え、前記バイパスコアの全体又は一部分を飽和するようにしたことを特徴とするスイッチング電源装置。
請求項3の発明は、前記補助スイッチがオフし、前記主スイッチの電圧が零電圧になった後に、前記バイパスコアが飽和することを特徴とする。請求項4の発明では、前記制御回路は、前記バイパスコアが飽和した後に、前記主スイッチをオンさせることを特徴とする。請求項5の発明は、前記バイパスコアは、棒状のコアからなることを特徴とする。請求項6の発明は、前記バイパスコアは、磁束が通るコア領域の一部分を細くしたことを特徴とする。
請求項7の発明では、前記直流電源は、交流電源と、この交流電源に接続されて交流電圧を整流する入力整流回路とからなり、前記入力整流回路の一方の出力端と他方の出力端との間に接続され、入力平滑コンデンサと前記交流電源がオンされたときに前記入力平滑コンデンサの突入電流を軽減する突入電流制限抵抗とが直列に接続された直列回路を有し、前記主スイッチは、前記入力整流回路の一方の出力端に前記突入電流制限抵抗を介して接続されたノーマリオンタイプのスイッチからなり、前記制御回路は、前記交流電源がオンされたときに前記突入電流制限抵抗に発生した電圧により前記主スイッチをオフさせ、前記入力平滑コンデンサが充電された後、前記主スイッチをオン/オフさせるスイッチング動作を開始させることを特徴とする。
請求項8の発明では、前記トランスは補助巻線をさらに備え、該トランスの補助巻線に発生する電圧を前記制御回路に供給する通常動作電源部を有することを特徴とする。
請求項9の発明は、前記突入電流制限抵抗に並列に接続された半導体スイッチを有し、前記制御回路は、前記主スイッチのスイッチング動作を開始させた後、前記半導体スイッチをオンさせることを特徴とする。
本発明によれば、トランスの1次巻線と2次巻線の間にバイパスコアを挿入し、補助スイッチがオフしたときには、1次巻線と2次巻線との結合を悪くして、振動エネルギーが小さくても主スイッチを零電圧スイッチ動作できるようにしておき、主スイッチの電圧が零電圧になった後に、バイパスコアを飽和させる。即ち、1次巻線と2次巻線の結合を良くすることで零電圧スイッチを構成し、バイパスコアが飽和した後はトランスの伝達効率を良くし、漏洩インダクタンスに蓄えられるエネルギーも小さくして、電源全体の効率を良くすることができる。
以下、本発明に係るスイッチング電源装置及びそのトランスの実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
実施の形態のスイッチング電源装置は、トランスの1次巻線と2次巻線の間に鉄心(バイパスコア)を挿入し、スイッチQ2がオフしたときには、1次巻線と2次巻線との結合を悪くして、振動エネルギーが小さくてもスイッチQ1を零電圧スイッチ動作できるようにしておき、スイッチQ1の電圧が零電圧になった後に、バイパスコアを飽和させて、あたかもバイパスコアがなく漏洩インダクタンスがなかったかのようにして、1次巻線と2次巻線の結合を良くすることで零電圧スイッチを構成し、バイパスコアが飽和した後はトランスの伝達効率を良くし、漏洩インダクタンスに蓄えられるエネルギーも小さくして、電源全体の効率を良くすることを特徴とする。
図1は実施例1のトランスを示す構成図で、図1(a)はトランスの上面図、図1(b)はトランスの側面図、図1(c)はIコアの側面図である。図2は実施例1のトランスを備えた第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。
図1に示すトランスTは、中央脚41b及び側脚41a,41cを有する磁性材料からなるEコア41(本発明の主コアに対応)の中央脚41bに1次巻線5aが巻回され、この1次巻線5aと2次巻線5bとの間には、磁性材料からなる1つのバイパスコア43が挿入されている。
このバイパスコア43は棒状をなし、一端がEコア41に他端が磁性材料からなるIコア42に繋がれている。このため、磁束の一部がバイパスコア43を通るため、バイパスコア43によりトランスTの1次2次巻線間が疎結合となり、漏洩インダクタンスが大きくなるようになっている。
なお、バイパスコア43は、トランス本体の主コア41と一体であっても良く、あるいは、線状のもの、あるいは板状のもの、あるいは箔状のものであっても良い。
図2に示すスイッチング電源装置は、図12に示すスイッチング電源装置の構成に対して、実施例1のトランスTを用いた点が異なる。なお、図1に示すその他の構成は、図12に示すスイッチング電源装置の構成と同一構成であり、同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図2に示すスイッチング電源装置において、スイッチQ1がオンしたときには、直流電源Eiの電圧は、1次巻線5aに全て印加されるが、2次巻線5b側に負荷Roがある場合には、バイパスコア43に電圧が吸収されてしまい、なかなか二次側には出力されない。この状態が続くと、バイパスコア43は、すぐ飽和してしまう。バイパスコア43が飽和すると、従来のトランスと同様になり、1次巻線5aと2次巻線5bとの巻数比によって2次電圧が出力される。
そこで、バイパスコア43が飽和する前に、スイッチQ1が零電圧になるように、すなわち、非常に振動し易いバイパスコア43が飽和していないうちにスイッチQ1が零電圧になるようにして、スイッチQ1が零電圧になってからバイパスコア43が飽和するようにする。これにより、漏洩インダクタンスに蓄えられるエネルギーも小さく、励磁電流も増加することなく、零電圧スイッチを構成することができる。即ち、図2のようなトランスTを用いることにより、効率を犠牲にすることなく零電圧スイッチ動作できる。
次に、第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置及びそのトランスによる零電圧スイッチ動作を図3及び図4に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。図3は第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置のスイッチQ1がオンする時の各部における信号のタイミングチャートである。図4はスイッチQ1の電圧が零電圧になった後にバイパスコアを飽和させる様子を示す図である。
なお、図3に示す各部の名称は図14に示した各部の名称に対応する。図3に示す電圧V12は漏洩磁束起電圧で1次巻線5aの電圧から2次巻線5bの電圧を引いた差電圧を示している。
まず、期間T1では、スイッチQ1がオフで、スイッチQ2がオンである。このため、スイッチQ2に電流が流れ、スイッチQ1には電流は流れない。このとき、トランスTの1次巻線5aには逆起電力が発生し、この逆起電力により2次巻線5bにも電圧が発生する。このため、ダイオードDo1はオフし、ダイオードDo2はオンする。そして、Lo→Co→Do2→Loと電流が流れて、負荷RoにインダクタLoのエネルギーが供給される。
次に、期間T2から期間T3では、スイッチQ1がオフ状態からオン状態に変わり、スイッチQ2がオン状態からオフ状態に変わる。このため、トランスTの1次2次巻線間の漏洩インダクタンス(リーケージインダクタンス)とコンデンサCq1とにより共振を起こす。この共振によりスイッチQ1の電圧Vq1が正弦波状に低下しスイッチQ2の電圧が上昇する。
スイッチQ1の電圧が図4に示すように、電源電圧Eiよりも下がった期間T3(時刻t〜時刻t1)では、漏洩磁束起電圧V12が上昇する。即ち、1次巻線5aの電圧と2次巻線5bの電圧との差電圧は、バイパスコア43に印加されて1次2次巻線間の漏洩インダクタンスが大きくなる。
次に、期間T4では、時刻t1でスイッチQ1の電圧Vq1が零電圧になり、漏洩磁束起電圧V12が一定の上限電圧値となる。そして、期間T5の時刻t2では、バイパスコア43が飽和して、漏洩磁束起電圧V12が下がって一定の電圧値となる。この電圧値は、バイパスコア43以外の漏れ磁束による電圧である。このため、1次巻線5aと2次巻線5bの結合が良くなる。そして、期間T5では、スイッチQ1をオンし、スイッチQ1の電流Iq1が流れる。即ち、零電圧スイッチを構成し、バイパスコア43が飽和した後はトランスTの伝達効率を良くすることができる。
次に、期間T6では、スイッチQ1がオンで、スイッチQ2がオフである。このとき、漏洩磁束起電圧V12は零電圧となる。また、直流電源EiからトランスTの1次巻線5aを介してスイッチQ1に電流が流れて、1次巻線5aにエネルギーが蓄積される。このエネルギーにより2次巻線5bにも電圧が発生する。このため、ダイオードDo1はオンし、ダイオードDo2はオフする。そして、5b→Do1→Lo→Co→5bと電流が流れて、負荷Roに直流電力が供給される。
なお、スイッチQ1がオフするときの動作は、図15に示すタイミングチャートによる動作と同じ動作であるので、ここではその説明は省略する。
このように第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置によれば、トランスTの1次巻線5aと2次巻線5bの間にバイパスコア43を挿入し、スイッチQ2がオフしたときには、1次巻線5aと2次巻線5bとの結合を悪くして、1次側が2次側の影響(2次巻線5bの短絡状態)を受けないようにし、且つ振動エネルギーが小さくてもスイッチQ1を零電圧スイッチ動作できるようにしておき、スイッチQ1の電圧が零電圧になった後に、バイパスコア43を飽和させて、あたかもバイパスコア43がなく漏洩インダクタンスがなかったかのようにして、1次巻線5aと2次巻線5bの結合を良くすることで、トランスTの励磁電流を増やすことなく、スイッチQ1の零電圧スイッチを構成し、バイパスコア43を飽和させることによって1次巻線5aから2次巻線5bに効率よくエネルギーを効率良く伝達することができる。従って、トランスTにバイパスコア43を挿入して飽和させることによって、高効率でノイズの少ない零電圧スイッチを構成できる。
(バイパスコア43の設計)
バイパスコア43は、スイッチQ1が電圧Eiから零電圧に至るまでの磁束Bとバイパスコア43の飽和磁束Bmaxとの間に、式(1)が成立するように設計する必要がある。
B=∫vdt/(NS)
Bmax>B ・・・(1)
ここで、積分範囲は図4に示す時刻tからt1である。Nは1次巻線5aの巻数n1と2次巻線5bの巻数n2との巻数差である。Bは磁束密度であり、Sはバイパスコア43の断面積である。vは図4に示すスイッチQ1の電圧Vq1である。即ち、バイパスコア43の飽和磁束BmaxがスイッチQ1が電圧Eiから零電圧に至るまでの磁束Bよりも大きければ、スイッチQ1が零電圧になった後に、バイパスコア43が飽和するようになる。このため、バイパスコア43の飽和磁束Bmaxを、スイッチQ1が電圧Eiから零電圧に至るまでの磁束Bよりも大きくなるように設計する必要がある。
このため、バイパスコア43が飽和し難い場合には、図5のように、コア43aに対してテーパ部43bを介して一部分のコア43cを細かくしてその部分だけ飽和するようにしても良い。コアを細くすると、その部分に磁束が集中し、細い部分だけが磁気飽和してもスイッチング電源装置の動作では、バイパスコア43が飽和したのと同じになる。
(実施例2のトランス)
図6は実施例2のトランスを示す構成図で、図6(a)はトランスの上面図、図6(b)はトランスの側面図である。
図6に示すトランスTは、中央脚41b及び側脚41a,41cを有する磁性材料からなるEコア41の中央脚41bに1次巻線5aが巻回され、この1次巻線5aと2次巻線5bとの間には、側脚41a,41cの各々の側に磁性材料からなる2つのバイパスコア43が挿入されている。
4つのバイパスコア43は棒状をなし、Eコア41とIコア42との間に設けられている。このため、磁束の一部がバイパスコア43を通るため、4つのバイパスコア43によりトランスTの1次2次巻線間が疎結合となり、漏洩インダクタンスが大きくなる。このような実施例2のトランスをスイッチング電源装置に用いても良い。
次に第2の実施の形態に係るスイッチング電源装置を説明する。図7は第2の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。図7に示す第2の実施の形態に係るスイッチング電源装置は、直流電源Eiの両端には、スイッチQ2とトランスTの1次巻線5aとコンデンサCkとからなる直列回路が接続されている。スイッチQ2にはダイオードDq2が並列に接続されている。1次巻線5aとスイッチQ2との接続点には、スイッチQ1の一端が接続され、スイッチQ1の他端は直流電源Eiの負極に接続されている。スイッチQ1には並列にコンデンサCq1及びダイオードDq1が接続されている。
また、トランスTの2次巻線5bと3次巻線5c(巻数n3)とが直列に接続され、2次巻線5bの一端は、ダイオードDo1のアノードに接続され、3次巻線5cの一端は、ダイオードDo2のアノードに接続されている。ダイオードDo1のカソードは、ダイオードDo2のカソードに接続され、且つインダクタLoを介してコンデンサCoの一端及び負荷Roの一端に接続されている。2次巻線5bと3次巻線5cとの接続点は、コンデンサCoの他端及び負荷Roの他端に接続されている。また、トランスTの1次巻線5aと2次巻線5bとは同相となっており、2次巻線5bと3次巻線5cとは同相となっている。
なお、トランスTは、例えば図1(b)の構成に対して、Eコア41の中央脚41bに1次巻線5aを巻回し、この1次巻線5aと2次巻線5bとの間及び1次巻線5aと3次巻線5cとの間に、磁性材料からなる1つのバイパスコア43を挿入するように構成し、バイパスコア43を飽和するようにしても良い。
次に、図3に示すタイミングチャートを用いて動作を説明する。まず、期間T1において、スイッチQ2がオンで、スイッチQ1がオフであるとき、Ei→Q2→5a→Ck→Eiの閉ループで電流が流れる。このため、トランスTの1次巻線5aには起電力が発生し、この起電力により2次巻線5bにも電圧が発生する。このため、5b→Do1→Lo→Co→5bと電流が流れて、負荷Roに直流電力が供給される。
次に、期間T2において、スイッチQ2をオフすると、漏洩インダクタンスとコンデンサCq1とで共振を起こす(コンデンサCkはコンデンサCq1よりも非常に大きいため、無視した。)。
次に、期間T3において、スイッチQ1が零電圧になった後に、ダイオードDq1に電流が流れている期間T4で、スイッチQ1のゲート信号を入力する。即ち、ソフトスイッチングでスイッチQ1をオンしたことになるので、スイッチQ1のスイッチングロスを低減できる。
次に、期間T6において、スイッチQ1がオン、スイッチQ2がオフであるとき、コンデンサCkに蓄積されたエネルギーが1次巻線5aに送られる。このため、1次巻線5aにエネルギーが蓄積される。このエネルギーにより3次巻線5cにも電圧が発生する。このため、5c→Do2→Lo→Co→5cと電流が流れて、負荷Roに直流電力が供給される。
従って、第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置の効果と同様な効果が得られる。また、1次巻線5aに直列にコンデンサCkが接続されているので、1次巻線5aには直流は流れず、交流のみ流れる。このため、B−H特性が原点Oを中心としたカーブとなり、より少ない磁束密度Bで済むから、トランスTを小型化することができる。また、負荷RoにはスイッチQ1がオン時でもオフ時でも直流電力が供給される。即ち、両波整流を行っているので、リップルが少なくなり、出力電圧がより一定値となる。
また、トランスTにバイパスコア43を挿入して飽和させることによって、非常に小さい励磁電流で零電圧スイッチ動作でき、効率を上げることができ、低ノイズのスイッチング電源装置を提供できる。
図8は第3の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。第3の実施の形態に係るスイッチング電源装置は、第2の実施の形態に係るスイッチング電源装置に対して、2次側のインダクタLoを削除した点が異なるのみである。このため、その動作は、第2の実施の形態に係るスイッチング電源装置の動作と略同様であるので、その説明は省略する。また、その効果も同様である。
次に第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置を説明する。第1乃至第3の実施の形態に係るスイッチング電源装置では、スイッチとして、ノーマリオフタイプのMOS FET等を用いた。このノーマリオフタイプのスイッチは、電源がオフ時にオフ状態となるスイッチである。
一方、SIT(static induction transistor、静電誘導トランジスタ)等のノーマリオンタイプのスイッチは、電源がオフ時にオン状態となるスイッチである。このノーマリオンタイプのスイッチは、スイッチングスピードが速く、オン抵抗も低くスイッチング電源装置等の電力変換装置に使用した場合、理想的な素子であり、スイッチング損失を減少させ高効率が期待できる。
しかし、ノーマリオンタイプのスイッチング素子にあっては、電源をオンすると、スイッチがオン状態であるため、スイッチが短絡する。このため、ノーマリオンタイプのスイッチを起動できず、特殊な用途以外には使用できない。
そこで、第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置は、第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置の構成を有すると共に、スイッチQ1にノーマリオンタイプのスイッチを使用するために、電源オン時に、入力平滑コンデンサの突入電流を軽減する目的で挿入されている突入電流制限抵抗の電圧降下による電圧を、ノーマリオンタイプのスイッチの逆バイアス電圧に使用し、電源オン時の問題をなくす構成を追加したことを特徴とする。
図9は第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。図9に示すスイッチング電源装置は、図1に示す第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置の構成を有すると共に、交流電源Vac1から入力される交流電圧を全波整流回路B1で整流して、得られた電圧を別の直流電圧に変換して出力するもので、全波整流回路B1の正極側出力端P1と負極側出力端P2との間には、入力平滑コンデンサC1と突入電流制限抵抗R1とからなる直列回路が接続されている。なお、交流電源Vac1及び全波整流回路B1は、図1に示す直流電源Eiに対応する。
全波整流回路B1の正極側出力端P1には、トランスTの1次巻線5aを介してSIT等のノーマリオンタイプのスイッチQ1nが接続され、スイッチQ1nは、制御回路11のPWM制御によりオン/オフする。なお、スイッチQ2は、ノーマリオフタイプのスイッチである。
また、突入電流制限抵抗R1の両端にはスイッチS1が接続されている。このスイッチS1は、例えばノーマリオフタイプのMOSFET,BJT(バイポーラ接合トランジスタ)等の半導体スイッチであり、制御回路11からの短絡信号によりオン制御される。
突入電流制限抵抗R1の両端には、コンデンサC2と抵抗R2とダイオードD2とからなる起動電源部12が接続されている。この起動電源部12は、突入電流制限抵抗R1の両端に発生する電圧を取り出し、コンデンサC2の両端電圧をスイッチQ1nのゲートへの逆バイアス電圧として使用するために、制御回路11に出力する。また、入力平滑コンデンサC1に充電された充電電圧を制御回路11に供給する。
制御回路11は、交流電源Vac1をオンしたときに、コンデンサC2から供給された電圧により起動し、制御信号として端子bからスイッチQ1nのゲートに逆バイアス電圧を出力し、スイッチQ1nをオフさせる。この制御信号は、例えば、−15Vと0Vとのパルス信号からなり、−15Vの電圧により主スイッチQ1nがオフし、0Vの電圧によりスイッチQ1nがオンする。
制御回路11は、入力平滑コンデンサC1の充電が完了した後、端子bから制御信号として0Vと−15Vとのパルス信号をスイッチQ1nのゲートに出力し、スイッチQ1nをスイッチング動作させる。制御回路11は、スイッチQ1nをスイッチング動作させた後、所定時間経過後にスイッチS1のゲートに短絡信号を出力し、スイッチS1をオンさせる。
また、トランスTに設けられた補助巻線5d(巻数n4)の一端は、スイッチQ1nの一端とコンデンサC3の一端と制御回路11とに接続され、補助巻線5dの他端は、ダイオードD3のカソードに接続され、ダイオードD3のアノードはコンデンサC3の他端及び制御回路11の端子cに接続されている。補助巻線5dとダイオードD3とコンデンサC3とは通常動作電源部13を構成し、この通常動作電源部13は、補助巻線5dで発生した電圧をダイオードD3及びコンデンサC3を介して制御回路11に供給する。
次にこのように構成された第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置の動作を図9乃至図11を参照しながら説明する。
なお、図11において、Vac1は、交流電源Vac1の交流電圧を示し、入力電流は、交流電源Vac1に流れる電流を示し、R1電圧は、突入電流制限抵抗R1に発生する電圧を示し、C1電圧は、入力平滑コンデンサC1の電圧を示し、C2電圧は、コンデンサC2の電圧を示し、出力電圧は、コンデンサCoの電圧を示し、制御信号は、制御回路11の端子bからスイッチQ1nのゲートへ出力される信号を示す。
まず、時刻t0において、交流電源Vac1を印加(オン)すると、交流電源Vac1の交流電圧は全波整流回路B1で全波整流される。このとき、ノーマリオンタイプのスイッチQ1nは、オン状態であり、スイッチS1は、オフ状態である。このため、全波整流回路B1からの電圧は、入力平滑コンデンサC1を介して突入電流制限抵抗R1に全て印加される(図10中の(1))。
この突入電流制限抵抗R1に発生した電圧は、ダイオードD2、抵抗R2を介してコンデンサC2に蓄えられる(図10中の(2))。ここで、コンデンサC2の端子f側が例えば零電位となり、コンデンサC2の端子g側が例えば負電位となる。このため、コンデンサC2の電圧は、図11に示すように、負電圧(逆バイアス電圧)となる。このコンデンサC2の負電圧が端子aを介して制御回路11に供給される。
そして、コンデンサC2の電圧が、スイッチQ1nのスレッシホールド電圧THLになった時点(図11の時刻t1)で、制御回路11は、端子bから−15Vの制御信号をスイッチQ1nのゲートに出力する(図10中の(3))。このため、スイッチQ1nは、オフ状態となる。
すると、全波整流回路B1からの電圧により、入力平滑コンデンサC1は、充電されて(図10中の(4))、入力平滑コンデンサC1の電圧が上昇していき、入力平滑コンデンサC1の充電が完了する。
次に、時刻t2において、制御回路11は、スイッチング動作を開始させる。始めに、端子bから0Vの制御信号をスイッチQ1nのゲートに出力する(図10中の(5))。このため、スイッチQ1nは、オン状態となるため、全波整流回路B1の正極側出力端P1からトランスTの1次巻線5aを介してスイッチQ1nに電流が流れて(図10中の(6))、トランスTの1次巻線5aにエネルギーが蓄えられる。このエネルギーにより2次巻線5bにも電圧が発生する。このため、5b→Do1→Lo→Co→5bと電流が流れて、負荷Roに直流電力が供給される。
また、トランスTの1次巻線5aと電磁結合している補助巻線5dにも電圧が発生し、発生した電圧は、ダイオードD3及びコンデンサC3を介して制御回路11に供給される(図10中の(7))。このため、制御回路11が動作を継続することができるので、スイッチQ1nのスイッチング動作を継続して行うことができる。
次に、時刻t3において、端子bから−15Vの制御信号をスイッチQ1nのゲートに出力する。このため、時刻t3にスイッチQ1nがオフして、トランスTの漏洩インダクタンスとコンデンサCq1による共振を起こし、スイッチQ1nの電圧は上昇していき、スイッチQ2の電圧は下降していく。また、時刻t3に制御回路11から短絡信号をスイッチS1に出力すると、スイッチS1がオンして(図10中の(8))、突入電流制限抵抗R1の両端が短絡される。このため、突入電流制限抵抗R1の損失を減ずることができる。
なお、時刻t3は、交流電源Vac1をオンしたとき(時刻t0)からの経過時間として設定され、例えば入力平滑コンデンサC1と突入電流制限抵抗R1との時定数(τ=C1・R1)の約5倍以上の時間に設定される。以後、スイッチQ1nはオン/オフによるスイッチング動作を繰り返す。スイッチQ1nがスイッチング動作を開始した後には、スイッチQ1n及びスイッチQ2は、図1に示す第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置のスイッチQ1,Q2の動作と同様に動作する。
このように第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置によれば、制御回路11は、交流電源Vac1がオンされたときに突入電流制限抵抗R1に発生した電圧によりスイッチQ1nをオフさせ、入力平滑コンデンサC1が充電された後、スイッチQ1nをオン/オフさせるスイッチング動作を開始させるので、電源オン時における問題もなくなる。従って、ノーマリオンタイプの半導体スイッチが使用可能となり、損失の少ない、即ち、高効率な電力変換装置を提供することができる。
本発明のスイッチング電源装置は、DC−DC変換型の電源回路やAC−DC変換型の電源回路に適用可能である。
実施例1のトランスを示す構成図である。
実施例1のトランスを備えた第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。
第1の実施の形態に係るスイッチング電源装置のスイッチQ1がオンする時の各部における信号のタイミングチャートである。
スイッチQ1の電圧が零電圧になった後にバイパスコアを飽和させる様子を示す図である。
トランスに用いられるバイパスコアの形状の一例を示す図である。
実施例2のトランスを示す構成図である。
第2の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。
第3の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。
第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置を示す回路構成図である。
第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置の動作を説明する図である。
第4の実施の形態に係るスイッチング電源装置の各部における信号のタイミングチャートである。
従来のスイッチング電源装置を示す回路構成図である。
従来のスイッチング電源装置に備えられたトランスを示す構成図である。
従来のスイッチング電源装置のスイッチQ1がオンする時の各部における信号のタイミングチャートである。
従来のスイッチング電源装置のスイッチQ1がオフする時の各部における信号のタイミングチャートである。
符号の説明
Ei 直流電源
10,11,110 制御回路
Q1,Q2,Q1n スイッチ
Cs,Cq1,Ck コンデンサ
Dq1,Dq2,Do1,Do2 ダイオード
T,Ta トランス
5a 1次巻線(n1)
5b 2次巻線(n2)
5c 3次巻線(n3)
5d 補助巻線(n4)
Co コンデンサ
Lo インダクタ
Ro 負荷