JP4304367B2 - 電波伝搬特性予測システム及びその方法並びにプログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電波伝搬特性予測システム及びその方法並びにプログラムに関し、特にいわゆるレイラウンチング処理を使用した幾何光学的手法による電波伝搬特性予測方式に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
無線通信システムにおける基地局や親機等の配置を援助するために電波伝搬シミュレータが用いられる。電波伝搬シミュレータによって任意の受信点での受信電力や、遅延拡がりを評価して、しかるべき送信局の設置場所を決定し、その結果、配置するべき基地局数の削減等の効率化が達成される。
【0003】
電波伝搬シミュレーションは大別して、統計的手法によるものと決定論的手法によるものとがある。統計的手法では、距離や周波数などを引数とする伝搬損失推定式を与え、そのパラメータを決定する際に、伝搬損失の実測定で得られた多数のデータをもとに多変量解析等により決定する手法である。一方、決定論的手法においては、アンテナから放射される電波を多数の電波線(レイ)の集まりと考え、各レイが幾何光学的に反射透過を繰り返して伝搬し、そして観測点に到達するレイを合成して伝搬損、遅延量を求める手法である。
【0004】
幾何光学的手法は、さらにイメージング法とレイラウンチング法とに大別される。イメージング法は送受信点間を結ぶレイの反射透過経路を、反射面に対する鏡映点を求めて決定する手法である。反射透過経路は、送受信点、反射透過物が規定された場合に一意に求まるため、イメージング法は厳密なレイの伝搬経路を探索する手法である。一方、レイラウンチング法は、アンテナから放射されるレイを受信点に関わり無く一定の方向に放射し、反射透過によるレイの伝搬経路を求め、受信点付近を通過したレイを当該受信点に到達したレイとみなす手法であり、例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
図15は観測領域100、送信点A18、受信点A20、2つの内容物A06、A09とが与えられた場合のレイラウンチング法の動作について説明する図である。本図では、簡単のため2次元平面に限定して動作の説明をするが、実際には3次元空間内で動作させる場合がある。
【0006】
まず、送信点A18からある伝搬経路の方向にレイA03を放射する。当該方向に放射したレイA03が観測領域100内に存在する内容物に衝突するか否かを観測領域内の全ての内容物に対して調べる。当該レイA03は内容物A06と反射点A19において衝突し、その結果、透過レイA07ならびに反射レイA11が生成される。反射により生成されたレイA11は、さらに内容物A09と衝突し、同じように透過レイA15ならびに反射レイ1A10が生成される。反射レイA10は受信点A20近傍を通過するため、当該レイを観測点における到来波として扱う。
【0007】
具体的には、レイA03、A11、A10の各伝搬距離の合計から規定される受信強度ならびに到来遅延時間が、図16のように記録される。図16の横軸101はレイが送信点A18から観測点A20まで、上記伝搬距離の合計を到達するのに要した遅延時間を示し、縦軸102はこの伝搬距離合計の経路を通過したレイが有する受信強度を表す。
【0008】
送信点A18から上記伝搬経路の方向へ放射されたレイA03について、透過波A07ならびにA15についても、上述した伝搬経路と同様の反射透過レイ探索を繰り返し、受信点A20近傍をレイが通過した場合には、レイA10の場合と同様に到来波として扱い、以上の処理を探索終了条件を満たすまで続ける。探索終了条件は、反射透過点での受信電界強度が所定値を下回った場合などとする。
【0009】
送信点A18から上記レイA03の方向へ放射されたレイの反射透過経路探索が終了した後、例えば他の伝搬経路のレイA21のように、送信点A18から放射するレイの放射角度を変えて同様のラウンチング処理を行い、これを送信点A18の全ての放射方向もしくは事前に規定した一部の放射方向について調べる。最終的には、受信点A20に対する遅延プロファイルである図17が得られる。図17の横軸201は送信点A18からレイが到来するまでの遅延時間を、縦軸202は当該経路を通過したレイが有する受信強度を表す。受信電力は図17に示した全てのパスの受信強度の和で与えられ、歪の程度を示す遅延拡がりは遅延時間の標準偏差により与えられる。
【0010】
このようなレイラウンチング法は、送受信点間を結ぶレイの伝搬経路の解をイメージング法のように厳密に求めるのではなく、近似的に与える手法であるために、伝搬経路探索に要する時間が短く出来るという特徴がある。
【0011】
図15に示した各レイには、送信点からの伝搬距離に応じたレイスプレッドが規定される。このレイスプレッドとは、レイの近傍に規定された拡がり領域であり、その拡がりは、送信点からの距離が長くなるほど大きくなり、また送信点から放射するレイの本数が多くなるほど狭くなるように規定される。
【0012】
図18を参照すると、図15と同等部分は同一符号にて示している。図18では、レイスプレッドの包絡線を具体的に示しており、レイA03に対するレイスプレッド包絡線はA01、A02で規定され、レイA11に対してはA12、A16、レイA10に対してはA22、A23にて規定される。かかるレイスプレッドは、受信点A20の近傍を通過するレイを当該受信点に到達するレイと見なすか否かを決定するために用いられる。
【0013】
具体的には、受信点A20が与えられたとき、A20とレイA10との距離Dと当該地点でのレイスプレッドの拡がり半径Sとを比較し、S≧Dであれば、当該レイを当該観測点での到達レイとして扱い、送信点からの伝搬距離、反射回数、距離D等を加味して、当該受信点A20における遅延時間、受信強度を記録するものである。
【0014】
以上を送信点A18から放射する他の全てのレイについて行い、受信点に取り込まれた到達レイの遅延時間、受信強度を逐一記録し、これらを合成することで当該受信点での遅延プロファイル特性を得る。
【0015】
さて、電波伝搬における主な幾何光学成分は反射波と透過波であるが、電波伝搬特性をより正確に推定するためには、非幾何光学成分である回折波を無視することは出来ない。ここで、回折とは、レイが構造物のエッジに衝突した際に、当該レイの進行方向以外の方向へ電波が回り込んで伝搬する現象である。本来、回折波は幾何光学成分ではないが、回折現象を近似的に幾何光学の枠組みで取り扱う手法として、非特許文献1に示されているUTD法(Uniform Theory of Diffraction )が一般的に用いられている。このUTD法は、回折エッジへの入射角と等しい放射角度をもった複数の回折レイを回折エッジの周囲に発生させることにより回折波をモデル化するものである。
【0016】
図19はUTD法を具体的に説明する模式図である。送信点S001から放射されたレイR001が構造物(内容物)E001の回折エッジE002へ入射する場合を想定している。UTD法では、回折エッジE002と入射レイR001の成す角Tiと回折エッジE002と回折レイR002の成す角Toが等しくなるように、回折レイR002が回折点D001から放射される。図19では、1本の回折レイしか示されていないが、前記条件を満たす回折レイは構造物E001の外部に設けられた円錐C001の側面に沿って無数に生じる。
【0017】
【特許文献1】
特開平9−33584号公報
【0018】
【非特許文献1】
"A uniform geometrical theory of diffraction for an edge in a perfectly conducting surface," Proc. IEEE, vol.62, pp.1448-1461, 1974
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
レイラウンチング法では、送信点から予め定められた間隔でレイを放射してレイと構造物との衝突を検出することにより、当該レイの経路追跡を行うものである。ところが、レイは無限小の太さを持つ3次元空間上に規定される線であるために、同様に線として与えられる構造物のエッジにレイが衝突する可能性はきわめて低い。そのため、レイラウンチング法に従来のUTD法を単純に適用しただけでは、回折波がほとんど発生せず、回折現象を正しく推定できないという問題がある。
【0020】
本発明の目的は、構造物のエッジ近傍をレイが通過する際に、回折現象を正しく推定して、ラウンチング法と組み合わせることにより、高速かつ高精度の電波伝搬特性予測システム及びその方法並びにプログラムを提供することである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明による電波伝搬特性予測システムは、三次元空間上に規定される観測空間内にエッジを有する構造物、送信点、受信点が夫々与えられ、前記送信点から異なる角度で複数の電波線(レイ)が放出され、前記レイはその進行に伴う前記構造物との衝突により反射並びに透過を繰り返し、この反射並びに透過の繰り返しの間、前記レイが前記受信点の近傍を通過した時に、通過時刻と強度とを得るレイラウンチング処理をなすようにした電波伝搬特性予測システムであって、前記レイに対して前記送信点からの伝搬距離の関数として与えられるレイスプレッドを規定するレイスプレッド規定手段と、前記レイと前記エッジとの距離を求める距離算出手段と、前記距離を定める前記レイ上の点と前記エッジ上の点を求めて、前記レイ上の点から前記送信点までの距離に対するレイスプレッド半径を求める半径算出手段と、前記レイスプレッド半径が、前記レイと前記エッジとの距離以上の場合に、前記エッジ上の点を回折点として複数の回折レイを発生させる回折レイ生成手段とを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明による電波伝搬特性推定方法は、三次元空間上に規定される観測空間内にエッジを有する構造物、送信点、受信点が夫々与えられ、前記送信点から異なる角度で複数の電波線(レイ)が放出され、前記レイはその進行に伴う前記構造物との衝突により反射並びに透過を繰り返し、この反射並びに透過の繰り返しの間、前記レイが前記受信点の近傍を通過した時に、通過時刻と強度とを得るレイラウンチング処理をなすようにした電波伝搬特性予測方法であって、前記レイに対して前記送信点からの伝搬距離の関数として与えられるレイスプレッドを規定するレイスプレッド規定ステップと、前記レイと前記エッジとの距離を求める距離算出ステップと、前記距離を定める前記レイ上の点と前記エッジ上の点を求めて、前記レイ上の点から前記送信点までの距離に対するレイスプレッド半径を求める半径算出ステップと、前記レイスプレッド半径が、前記レイと前記エッジとの距離以上の場合に、前記エッジ上の点を回折点として複数の回折レイを発生させる回折レイ生成ステップとを含むことを特徴とする。
【0023】
本発明によるプログラムは、三次元空間上に規定される観測空間内にエッジを有する構造物、送信点、受信点が夫々与えられ、前記送信点から異なる角度で複数の電波線(レイ)が放出され、前記レイはその進行に伴う前記構造物との衝突により反射並びに透過を繰り返し、この反射並びに透過の繰り返しの間、前記レイが前記受信点の近傍を通過した時に、通過時刻と強度とを得るレイラウンチング処理をなすようにした電波伝搬特性予測方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記レイに対して前記送信点からの伝搬距離の関数として与えられるレイスプレッドを規定するレイスプレッド規定処理と、前記レイと前記エッジとの距離を求める距離算出処理と、前記距離を定める前記レイ上の点と前記エッジ上の点を求めて、前記レイ上の点から前記送信点までの距離に対するレイスプレッド半径を求める半径算出処理と、前記レイスプレッド半径が、前記レイと前記エッジとの距離以上の場合に、前記エッジ上の点を回折点として複数の回折レイを発生させる回折レイ生成処理とを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の作用を述べる。レイラウンチング法では、送信点における放射間隔ならびに送信点からの伝搬距離に応じて定まるレイスプレッドが各レイにおいて夫々規定されるが、本発明では、エッジ近傍をレイが通過する際に、レイがエッジに直接衝突していなくても、当該エッジとレイとの距離がレイスプレッド半径よりも短い場合には、当該エッジで回折波を発生させるようにして、従来のレイラウンチング法と組み合わせることを容易とし、高速かつ高精度な電波伝搬特性予測方式が可能となる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳述する。図1は本発明の実施の形態において回折レイが生じる状況を示す図である。図1に示すように、以下、構造物E001のエッジE002の近傍を、送信点S001から放射されたレイR003が通過する場合について考える。ここで、レイR003にはレイスプレッドRS001が規定されており、このレイスプレッドRS001はエッジE002と区間E003で交差している。
【0026】
図2はエッジE002とレイスプレットRS001との交差判定を説明する図であり、図1を上面から見た図である。交差判定は、レイR003とエッジE002の間の垂直距離L1を測定し、この距離L1と当該地点のレイR003に対するレイスプレッドRS001の拡がり半径S1と値を比較することにより行う。すなわち、S1がL1以上の場合には、両者は交差するものとして判定して、回折レイの生成処理に進み、S1がL1より小さい場合には、回折レイは生じないものとする。
【0027】
図3〜図6は本発明の実施の形態による回折レイの生成処理を説明する図である。図3に示すとおり、回折レイの生成処理では、まず、エッジE002上で検出された交差区間E003の端点D002と送信点S001とを結ぶ経路R006に沿って、入射レイがエッジE002へ入射すると考えて、従来どおりのUTD法に従い回折円錐C002を求める。
【0028】
次に、図4に示すように交差区間E003のもう一方の端点D003について、同様に回折円錐C003を求める。こうして、2つの回折円錐C002とC003とを求めることにより、両者に挟まれた領域C004が定まる。本実施の形態では、図2に示すような状況で得られる交差区間E003は無数の回折点が集まって構成されたものであると考える。このとき、送信点S001と交差区間E003上の点を結ぶ経路に沿って、エッジE002に入射するレイから生じる回折レイは、いずれも図4に示す領域C004の内部を通過する。すなわち、本実施の形態では、領域C004は区間E003上の点を回折点とする無数の回折レイの集合体と等価であると考える。
【0029】
図5は本実施の形態における回折レイの割り当て方法を説明する図である。本実施の形態では、領域C004で表される回折レイの集合をレイラウンチング法の枠組みで近似するために、領域C004を複数の領域に分割し、各部分領域に一本ずつ回折レイを割り当てることを考える。まず、領域C004の水平断面上に、等間隔もしくは不等間隔に点D005を配置し、次に区間E003上に点D004を設ける。本実施の形態では、点D004を回折点として点D004と領域C004の断面上の各点を結ぶ経路上を、例えばR008のような回折レイが伝搬すると考える。このとき、回折レイのもとになる入射レイは、送信点S001と回折点D004とを結ぶ経路を伝搬するレイR005とする。
【0030】
図6は回折レイR008をレイラウンチング法におけるレイとみなした場合に、レイスプレッドRS002を規定する方法を説明する図である。ここでは、一例として、レイスプレッドRS002がレイR008を中心軸とする円錐で規定される場合について説明する。図6に示すとおり、回折レイR008に対するレイスプレッドRS002は擬似送信点S002から放射されたレイに対する円錐型のレイスプレッドとする。このとき、擬似送信点S002は、直線D005−D004を点D004から点D005と反対側に、線分S001−D004の長さと同じだけ伸ばした場所に位置する。また、レイスプレッドRS002を成す円錐の頂角は辺S002−D003と辺S002−D002との成す角に等しいとする。
【0031】
以上の処理を、図5に示すD005と同様な各点についてそれぞれ行うことにより、領域C004は各回折レイに規定されたレイスプレッドによって近似的に細分される。なお、本実形態では、一例として、円錐形状のレイスプレッドを取り挙げたが、レイスプレッドの形状は、各レイスプレッドを合成した場合の領域が領域C004にできる限り重複なく一致するように規定するのが望ましい。この様に、レイスプレッドとエッジとの交差線分を回析点の集合とし、この集合を波源として生じる回析レイの集合領域内に所定数の回析レイを割り当て、更にこれ等回析レイに対してレイスプレッド割り当てるようにしているからである。
【0032】
次に、本発明による回折波の生成方法を用いた伝搬経路の追跡動作について図7を用いて説明する。図7の例では、構造物B05、B06、B08、B09、B13が配置された空間において、送信点B18からレイを放射した場合の経路追跡を考える。
【0033】
送信点B18から放射されたレイB03は構造物B06と反射点B19にて衝突し、この点で反射・透過が発生する。透過したレイはB07に示すような経路にて放出され、さらにこれ以降の経路追跡が所望の終了条件を満たすまで行われる。ここでは、反射されたレイB11に着目して話を進める。反射点B19で発生した反射レイB11はさらに構造物B09へと到達し、反射点B20において透過レイB15と反射レイB10が生成される。これらの透過レイと反射レイは、いずれも以降同様に所望の終了条件を満たすまで経路追跡が行われる。
【0034】
一方、本発明によると図7の例の場合には、レイB11からさらに回折レイも生成される。B01、B02およびB12、B16は、それぞれレイB03およびB11に対するレイスプレッドの包絡線であり、図7の例では、レイB11と構造物B13のエッジとの距離がレイスプレッドよりも小さいので、構造物B13のエッジ上の回折点B21を起点とする回折レイを生成する。他だし、この例では、レイB11が送信点から放射された直後のレイではないので、レイB11の起点となる反射点B19から、送信点B18と当該起点B19の間の伝搬距離だけレイB11の進行方向と逆向きに進んだ点B22を擬似送信点とし、レイB11がこの擬似送信点B22から放射されたものとして、回折レイの生成に関する前記実施の形態を適用する。
【0035】
なお、今回は前記起点が反射点であったが、当該起点が透過点もしくは回折点の場合も同様に、擬似送信点を設けて本発明の実施の形態を適用する。
【0036】
前記実施の形態に従った場合に、回折点B21に入射するレイはB14であり、これに対して複数の回折レイB17が生成される。これらの回折レイについては、以降同様に所望の終了条件を満たすまで経路追跡を続ける。このように、反射・透過・回折を考慮して経路追跡を行うことにより、受信点における最終的な電波伝搬特性の推定結果を導く。
【0037】
以上のように、レイの広がりを考慮した本実施の形態による手法方法を用いると、イメージング法にUTD法を組み合わせたときに回折レイが生じる場合には、レイラウンチング法の場合でも回折レイが生成されるようになる。さらに、本発明によれば、回折点から放射された回折レイの伝搬追跡処理は、通常のレイラウンチング法の追跡処理と同様に取り扱うことができる利点がある。すなわち、擬似送信点から放射されたレイに対して構造物との衝突判定を行い、観測点との受信判定処理は回折レイに規定されたレイスプレッドを用いて行うという枠組みが維持されているため、従来のラウンチング法と組み合わせて回折現象を推定するのが容易である。
【0038】
以上のとおり、本発明によるとレイラウンチング法の高速処理性とUTD法による高精度な回折評価機能を容易に結合することができ、高速かつ高精度な電波伝搬推定機能を提供することが可能となる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。上記の第1の実施の形態では、回折レイを生成する際に2つの回折円錐C002とC003によって規定される領域C004の断面に、等間隔もしくは不等間隔に点を配置する方法を用いた。第2の実施形態では、仮想的な反射平面を用いて回折レイを生成する方法を用いる。
【0040】
図8と図9は、回折レイならびにレイスプレッドの包絡線(以下、レイスプレッド包絡線)の発生方法を説明する図である。図8では、円錐形状のレイスプレッドを想定し、入射レイR005および当該レイに対するレイスプレッド包絡線の一部R21、R22が構造物E001の回折エッジE002に入射する様子を示している。
【0041】
ここで、回折エッジE002に接し、構造物E001と角度T22をなす仮想反射平面VR01を設け、当該仮想反射平面にレイR005ならびにレイスプレッド包絡線R21、R22が入射するとして、反射レイならびに反射レイスプレッド包絡線を発生させる。このとき反射の法則により、入射レイと仮想反射平面VR01とのなす角T20と反射レイR008と仮想反射平面VR01とのなす角T21は等しい。仮想反射平面VR01は回折エッジE002を含むので、なす角T20となす角T21はそれぞれ入射レイと反射レイが回折エッジと成す角に等しい。
【0042】
したがって、従来のUTD法と比較すると、この方法によって生成される当該反射レイならびに当該反射レイスプレッド包絡線は、角度T22に対する回折レイならびに当該回折レイに対するレイスプレッド包絡線に相当する。なお、図9に示したレイスプレッド包絡線はごく一部であり、入射レイR005および当該入射レイに対する回折レイR008を取り囲むように無数のレイスプレッド包絡線が規定される。
【0043】
回折エッジと仮想反射平面のなす角を変化させて、他の角度についても同様に回折レイならびにレイスプレッド包絡線を発生させる。図9は、図8で規定した回折エッジと仮想反射平面のなす角T22よりさらに角度T32を小さくした場合の回折レイならびにレイスプレッド包絡線の一部を示している。この場合も、入射レイR005と回折エッジE002がなす角T20は、回折レイR009と回折エッジE002とがなす角T31と等しい。
【0044】
このように、回折レイを生成する場合、回折エッジと仮想反射平面のなす角を離散的に変化させると有限数の回折レイが生成され、同時に入射レイのレイスプレッドに応じて回折レイのレイスプレッドも規定される。このとき、回折エッジと仮想反射平面のなす角の離散間隔は、入射レイスプレッドの拡がり具合に応じて、生成される各回折レイのレイスプレッドの和領域が領域C004にできるだけ重複なく近似するように決められる。
【0045】
以上の方法に従うと、第1の実施の形態と同様に、レイラウンチング法とUTD法を組み合わせて高速かつ高精度に回折波を考慮した電波伝搬推定を実現することができる。
【0046】
図10は上述した実施の形態の処理動作を実現するための機能ブロックを示す図である。図10において、衝突点検出部1は送信点、反射点、透過点もしくは回折点から放射されたレイと、伝搬環境内部に設置された構造物との衝突点を検出するブロックである。反射・透過レイ生成部2は、衝突点検出部1で検出された衝突点において、反射・透過レイを生成するブロックである。レイスプレッド規定部3はこれ等レイのレイスプレッドを規定するブロックであり、当該レイに対して送信点からの伝搬距離の関数としてレイスプレッドが規定される。上記実施の形態では、当該距離が大なる程その半径が大となるようなスプレッドであり、例えば、円錐形である。
【0047】
距離算出部4はレイと構造物のエッジとの距離算出をなすものであり、またスプレッド半径算出部は、距離算出部4による算出距離を定めるレイ上の点とエッジ上の点とをを求めて、レイ上の点から送信点までの距離に対するスプレッド半径を求めるものである。交差エッジ検出部6はレイと構造物エッジの間の距離とレイスプレッド半径を比較して、レイスプレッドとエッジの間に交差領域が存在するか否かを判定するものである。
【0048】
入射レイ生成部7は、交差エッジ検出部6でレイスプレッドと交差するエッジが検出された場合に、エッジに入射するレイを計算するブロックである。回折レイ生成部8は、入射レイ生成部部7で計算された入射レイが交差エッジ検出部6で検出された交差エッジ領域に入射して発生する回折レイを生成するブロックである。制御部9はこれら各部1〜8を制御するものであり、記録媒体10に記憶されているプログラムの動作手順に従って動作して各部の制御を行うものであって、CPU(コンピュータ)からなる。記録媒体10はRAM及びROMからなり、RAMはCPUの作業用メモリであり、ROMはプログラムを格納したものである。上記の各実施の形態における動作処理手順は、予めプログラムとしてこのROMに格納しておくことで、制御可能である。
【0049】
図11は本発明の実施の形態の動作を示すフローチャートであり、図10の機能ブロックの動作にしたがった処理手順となっており、図10の各部1〜8の各処理を、ステップS1〜S8として、それぞれ対応して示している。
【0050】
本発明の実施の形態において、レイトレーシングによる経路追跡演算は、一般に負荷が大きく、複雑な伝搬環境を対象とする場合には膨大な計算時間を要することがある。また、図10の回折レイ生成部8で生成する回折レイの総数が多い場合には、この経路追跡処理に要する時間がさらに増えて全体の計算時間を押し上げる。
【0051】
本発明の実施の形態は単一CPUを用いても実現しうるが、複雑な伝搬環境を精度良く短時間で解析するには、複数のCPUを用いて処理を並列化させるのが有効である。図12は、かかる考え方に従って、本発明の実施の形態を複数CPUを用いて実現する際の基盤システムを説明する図である。N個の中央演算ユニット(CPU1〜N)F02〜F05、共通記録装置F01、ネットワークF06からなり、各CPUは他の全てのCPUとネットワークF06を介して通信することが可能である。共通記録装置F01は全てのCPU1〜Nから読み書きが可能である。
【0052】
共通記録装置F01はCPUのいずれかの内部に配置される場合があり、この場合、当該CPU以外のCPUはネットワークF06を経由して共通記録装置F01にアクセスする。共通記録装置F01はネットワークF06上に配置される場合がある。共通記録装置F01は、電波伝搬特性の記録や、各CPUを制御するための動作プログラムを格納する等に使用されるものである。
【0053】
図13は経路追跡処理を複数CPUで分散処理する方法について説明する図である。送信点と受信点を結ぶレイの伝搬経路は、送信点を起点とする方位ごとに互いに重複なく分類することができる。したがって、送信点を起点とする各方位ごとの経路探索処理を異なるCPUに割り当てれば全体の経路探索処理を並列化することができる。図13はこの方法に従ってレイの経路追跡を並列分散処理する構成を説明する図である。C01〜C04で示される互いに異なるM個の方位の経路追跡処理がC11〜C13で示される複数のCPUに割り当てられる様子が示されている。この方法に従えば、経路追跡処理を並列化して短時間で演算を終えることができる。
【0054】
上記実施の形態に従った伝搬解析システムはスタンドアロン型の計算機を用いても実現できるが、個々のユーザが独自にシステムを構築するとコスト高になる傾向が否めない。図14は伝搬解析部分をネットワークを介して複数のユーザ間で共用するシステムモデルを説明する図である。このモデルでは、ユーザ端末200が広域ネットワーク201を介してサーバ202にアクセスする。サーバ200にはユーザ認証機能と伝搬解析機能が含まれており、前記実施例で述べた単数もしくは複数CPUを利用した伝搬解析システムはこの部分に集約される。
【0055】
図14のシステムにおいて、ユーザはまず、ユーザ端末内に格納されている編集クライアントを用いて環境データの編集を行う(P100)。環境データには、解析対象となる空間の構造情報が記されており、伝搬解析シミュレータはこの構造情報をもとにレイトレーシングを行う。また、環境データには解析対象となる無線システムの仕様に関する特性情報が記される場合もあり、個々の機器特性に応じたエンジンの振る舞いをこの環境データを介してエンジンに指示することもできる。
【0056】
次に、作成した環境データをサーバへ転送するためにサーバ202との間でユーザ認証を行い(P101)、アクセス許可を得る(P102)。サーバとユーザ端末の間で交換されるデータは、認証系によるアクセス制御と通信路の暗号化によって機密保持が行われており、環境データの記載内容や解析データが当該ユーザ外の第三者に漏れることのないようにしてある。
【0057】
認証処理が済んだ後は、ユーザの環境データをサーバへ転送し(P103)、サーバ側では受信した環境データをもとに伝搬解析を行う(P104)。解析が終了すると、解析結果をユーザ端末に転送し(P105)、ユーザは端末で解析結果を表示する(P106)。
【0058】
以上のように、この方法に従えば、伝搬解析シミュレータのような高コスト部を集約して共有することで、解析コストを低く抑えることができる。また、システムの中心部分を一元管理できるため、メンテナンスが容易になるという利点もある。
【0059】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、レイラウンチング方によって電波伝搬特性の推定を行うに際して、構造物のエッジ付近をレイが通過する場合、このエッジとレイとの距離がレイスプレッドの半径よりも小なるときは、当該エッジで回折波を発生させるようにすることにより、従来のレイラウンチング法と組み合わせが容易になり、レイの回折波をも考慮した高速で高精度の電波伝搬特性の推定が可能となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における回折レイの発生状況を説明する図である。
【図2】本発明の実施の形態における回折レイ生成判定について説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における回折円錐を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における回折円錐を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における回折レイ通過点の配置を説明する図である。
【図6】本発明の第1実施形態における回折レイの生成方法を説明する図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における経路追跡動作を説明する図である。
【図8】本発明の第2の実施形態における回折レイの生成方法を説明する図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における回折レイの生成方法を説明する図である。
【図10】本発明の実施の形態における経路追跡の機能ブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態における動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態を複数CPUを用いて実行する基盤システムの構成図である。
【図13】本発明の実施形態のプロセスを複数CPUに割り当てる方法を説明する図である。
【図14】本発明の実施形態による電波伝搬推定システムの構成図である。
【図15】レイラウンチング法を模式的に説明する図である。
【図16】一本のレイに対する観測点におけるパスプロファイルの例を示す図である。
【図17】レイラウンチング法により得られる観測点におけるパスプロファイルの例を示す図である。
【図18】レイラウンチング法を模式的に説明する他の図である。
【図19】UTD(Uniform Theory of Diffraction )法を説明するための図である。
【符号の説明】
1 衝突検出部
2 反射・透過レイ生成部
3 レイスプレッド規定部
4 距離算出部
5 スプレッド半径算出部
6 交差エッジ検出部
7 入射レイ生成部
8 回折レイ生成部
9 制御部
10 記録媒体
C002,C003 回折円錐
C004 回折円錐C002,C003間の領域
D002,D003 交差区間端点
D004 回折点
E001 構造物(内容物)
E002 エッジ
E003 交差区間
R003 レイ
RS001 スプレッド
S001 送信点
VR01 仮想反射平面
Claims (13)
- 三次元空間上に規定される観測空間内にエッジを有する構造物、送信点、受信点が夫々与えられ、前記送信点から異なる角度で複数の電波線(レイ)が放出され、前記レイはその進行に伴う前記構造物との衝突により反射並びに透過を繰り返し、この反射並びに透過の繰り返しの間、前記レイが前記受信点の近傍を通過した時に、通過時刻と強度とを得るレイラウンチング処理をなすようにした電波伝搬特性予測システムであって、
前記レイに対して前記送信点からの伝搬距離の関数として与えられるレイスプレッドを規定するレイスプレッド規定手段と、
前記レイと前記エッジとの距離を求める距離算出手段と、
前記距離を定める前記レイ上の点と前記エッジ上の点を求めて、前記レイ上の点から前記送信点までの距離に対するレイスプレッド半径を求める半径算出手段と、
前記レイスプレッド半径が、前記レイと前記エッジとの距離以上の場合に、前記エッジ上の点を回折点として複数の回折レイを発生させる回折レイ生成手段と、
を含むことを特徴とする電波伝搬特性推定システム。 - 前記レイスプレッド規定手段は、前記送信点からの前記レイの伝搬距離が大になるにしたがって、前記レイスプレッドの半径が大になるような関数として規定することを特徴とする請求項1記載の電波伝搬特性推定システム。
- 前記回折レイ生成手段は、前記回折レイの生成に係る入射レイとして、前記回折点と送信点、もしくは前記レイの最直近の反射点、透過点、回折点から求まる擬似送信点と前記回折点を結ぶ線とすることを特徴とする請求項1または2記載の電波伝搬特性推定システム。
- 前記回折レイ生成手段は、前記レイスプレッドと前記エッジとの交差線分を回折点の集合とし、この回折点の集合を波源として生じる回折レイの集合領域内に所定数の回折レイを割り当て、さらにこれら各回折レイに対してレイスプレッドを割り当てることを特徴とする請求項1または2記載の電波伝搬特性推定システム。
- 前記回折レイ生成手段は、前記エッジに接する複数の仮想平面を仮定し、各仮想平面上で前記入射レイを入射波とする反射波を生成し、これらを回折レイとすることを特徴とする請求項3記載の電波伝搬特性推システム。
- 前記送信点を起点とするレイの方位ごとに、前記各手段を設けて、並列に実行するようにしたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の電波伝搬特性推システム。
- 三次元空間上に規定される観測空間内にエッジを有する構造物、送信点、受信点が夫々与えられ、前記送信点から異なる角度で複数の電波線(レイ)が放出され、前記レイはその進行に伴う前記構造物との衝突により反射並びに透過を繰り返し、この反射並びに透過の繰り返しの間、前記レイが前記受信点の近傍を通過した時に、通過時刻と強度とを得るレイラウンチング処理をなすようにした電波伝搬特性予測方法であって、
前記レイに対して前記送信点からの伝搬距離の関数として与えられるレイスプレッドを規定するレイスプレッド規定ステップと、
前記レイと前記エッジとの距離を求める距離算出ステップと、
前記距離を定める前記レイ上の点と前記エッジ上の点を求めて、前記レイ上の点から前記送信点までの距離に対するレイスプレッド半径を求める半径算出ステップと、
前記レイスプレッド半径が、前記レイと前記エッジとの距離以上の場合に、前記エッジ上の点を回折点として複数の回折レイを発生させる回折レイ生成ステップと、
を含むことを特徴とする電波伝搬特性推定方法。 - 前記レイスプレッド規定ステップは、前記送信点からの前記レイの伝搬距離が大になるにしたがって、前記レイスプレッドの半径が大になるような関数として規定することを特徴とする請求項7記載の電波伝搬特性推定方法。
- 前記回折レイ生成ステップは、前記回折レイの生成に係る入射レイとして、前記回折点と送信点、もしくは前記レイの最直近の反射点、透過点、回折点から求まる擬似送信点と前記回折点を結ぶ線とすることを特徴とする請求項7または8記載の電波伝搬特性推定方法。
- 前記回折レイ生成ステップは、前記レイスプレッドと前記エッジとの交差線分を回折点の集合とし、この回折点の集合を波源として生じる回折レイの集合領域内に所定数の回折レイを割り当て、さらにこれら各回折レイに対してレイスプレッドを割り当てることを特徴とする請求項7または8記載の電波伝搬特性推定方法。
- 前記回折レイ生成ステップは、前記エッジに接する複数の仮想平面を仮定し、各仮想平面上で前記入射レイを入射波とする反射波を生成し、これらを回折レイとすることを特徴とする請求項9記載の電波伝搬特性推方法。
- 前記送信点を起点とするレイの方位ごとに、前記各ステップを、並列に実行するようにしたことを特徴とする請求項7〜11いずれか記載の電波伝搬特性推方法。
- 三次元空間上に規定される観測空間内にエッジを有する構造物、送信点、受信点が夫々与えられ、前記送信点から異なる角度で複数の電波線(レイ)が放出され、前記レイはその進行に伴う前記構造物との衝突により反射並びに透過を繰り返し、この反射並びに透過の繰り返しの間、前記レイが前記受信点の近傍を通過した時に、通過時刻と強度とを得るレイラウンチング処理をなすようにした電波伝搬特性予測方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記レイに対して前記送信点からの伝搬距離の関数として与えられるレイスプレッドを規定するレイスプレッド規定処理と、
前記レイと前記エッジとの距離を求める距離算出処理と、
前記距離を定める前記レイ上の点と前記エッジ上の点を求めて、前記レイ上の点から前記送信点までの距離に対するレイスプレッド半径を求める半径算出処理と、
前記レイスプレッド半径が、前記レイと前記エッジとの距離以上の場合に、前記エッジ上の点を回折点として複数の回折レイを発生させる回折レイ生成処理と、
を含むことを特徴とするコンピュータ読取り可能なプログラム。
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