JP4300065B2 - 自動車用プロピレン系樹脂組成物、その製造方法及びその成形体 - Google Patents

自動車用プロピレン系樹脂組成物、その製造方法及びその成形体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装性に優れた自動車用プロピレン系樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明は、塗装性と機械物性のバランスに優れた自動車用プロピレン系樹脂組成物、その製造方法及びその成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレンは、主に射出成形用材料として、自動車部品に代表される工業部品分野で、幅広く使用されている。特に自動車バンパーやインストルメントパネル等の部品は、ポリプロピレン系材料が主要素材として使用されている。
これらの部品は意匠性付与のために、表面に塗装を施すケースが多いが、ポリプロピレンは塗膜密着性に乏しいため、ポリプロピレン部品の表面にプライマーを塗布して、塗膜を密着させる工夫がなされている。
しかしながら、このプライマーは、有機溶剤を溶媒として含むため、排出VOCの原因となり、環境負荷を増大させている。
【0003】
このため、ポリプロピレンに塗膜密着性を付与することにより、プライマー成分を塗布することなく塗膜を密着させ、環境負荷を低減させる試みがなされている。
例えば、ポリプロピレンに極性官能基がグラフトされた変性ポリプロピレンを塗装改質材としてポリプロピレンに練り込み、プライマーを塗布すること無く、塗膜を密着させる方法が示されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。しかしながら、これらの方法では、塗膜を密着させるために、多量の変性ポリプロピレンを添加しなければならず、これに伴い衝撃強度等の機械物性が大幅に低下してしまうという欠点を持っていた。さらに、近年の環境負荷低減の要望から、塗料溶媒を、従来の有機溶剤から水へと変更することも望まれており、これに伴い、塗料溶媒とポリプロピレンとの濡れ性が低下するため、従来の溶剤系塗料を使用する場合に比べ、更に多量の変性ポリプロピレンを添加しなければならず、従来の方法では、水性塗料に対する塗装性を満足させるためには、機械物性を大幅に犠牲にすることが必要であった。このため、水性塗料に対する塗装性と機械物性のバランスに優れた、プライマーレス塗装可能なプロピレン系樹脂組成物の開発が待ち望まれていた。
【0004】
【特許文献1】
特開昭62−257946号公報
【特許文献2】
特開平9−48885号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、水性塗料のプライマーレス塗装を前提とした、塗装性と機械物性のバランスに優れた自動車用プロピレン系樹脂組成物、その製造方法及びその成形体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、塗装性と機械物性のバランスに優れたプロピレン系樹脂組成物に関して鋭意検討した結果、特定の構造を有し、機械物性バランスに優れるポリプロピレン系樹脂組成物に、特定の分子量を有する変性ポリプロピレンを塗装改質成分として使用することにより、変性ポリプロピレンの配合量を大幅に削減することが可能となり、その結果、機械物性と塗装性のバランスに優れたプロピレン系樹脂組成物とすることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記(a)〜(d)成分からなるポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、ポリプロピレンの分子末端に酸無水物基または水酸基から選ばれる極性官能基を有するモノマーをグラフトさせた変性ポリプロピレン(B)を1〜15重量部含有するプロピレン系樹脂組成物であって、変性ポリプロピレン(B)の重量平均分子量が8000〜15000、極性官能基のグラフト率が3.0〜16重量%であることを特徴とする自動車用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
(a)成分:アイソタクチックペンタッド分率が0.98以上であり、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が200〜300g/10分のプロピレン単独重合体部分と、ガラス転移温度が−40℃以下であり、135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]が3〜15dl/gのプロピレン・エチレン共重合体部分からなるプロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
(b)成分:コモノマー含量が28重量%以上で、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が0.5〜20g/10分であるエチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体 20〜40重量部
(c)成分:レーザー回折法によって測定した平均粒径が10μm以下であるタルク 30〜50重量部
(d)成分:ポリスチレン構造を有するAセグメントの含量が1〜25重量%である下記構造を有するスチレン系水添ブロック共重合ゴム 10〜20重量部
A−B 又は、A−B−A
(但し、Aセグメントはポリスチレン構造を示し、Bセグメントはエチレン・ブテン又はエチレン・プロピレン構造を示す。)
【0009】
また、本発明の第の発明によれば、第1の発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリヒドロキシポリオレフィン(C)が1〜15重量部配合されていることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第の発明によれば、第1又は2の発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリアミド(D)が1〜15重量部配合されていることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第の発明によれば、第3の発明において、ポリアミド(D)の融点が260℃以下であり、そのMFR(JIS K7210 条件20、温度280℃、荷重21.18N)が70g/10分以上であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第の発明によれば、第1〜4のいずれか発明において、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が30〜50g/10分、曲げ弾性率(JIS K7203)が1700MPa以上、23℃で測定されるアイゾッド衝撃強度(JIS K7110)が300J/m以上、引張伸び(JIS K7113)が200%以上、脆化温度(JIS K7216)が−10℃以下、比重が0.9〜1.25、であり、且つ、碁盤目剥離試験の碁盤目残存率100%であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
(ここで、上記碁盤目残存率は、射出成形により成形した平板に、前処理を全く施すこと無く、エアースプレーガンを用いて、直接水性メラミン系塗料を厚さ約15ミクロンとなるようにスプレー塗布し、120℃で1時間焼付け乾燥した後、室温で48時間放置し、この後、この試験片表面に片刃カミソリを用い、直交する縦横11本ずつの平行線を2mm間隔で引き、碁盤目を100個作り、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522)を充分圧着し、塗装面と粘着テープの角度を約30度に保ちながら一気に引き剥がす作業を5回繰り返し、碁盤目で囲まれた部分の状態を観察して、剥離しなかった碁盤目の数を評価して、求める。)
【0014】
また、本発明の第の発明によれば、下記(a)〜(d)成分からなるポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、ポリプロピレンの分子末端に酸無水物基または水酸基から選ばれる極性官能基を有するモノマーをグラフトさせた変性ポリプロピレン(B)1〜15重量部を混合、溶融混練することにより得られるプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、変性ポリプロピレン(B)の重量平均分子量が8000〜15000、極性官能基のグラフト率が3.0〜16重量%であることを特徴とする自動車用プロピレン系樹脂組成物の製造方法が提供される。
(a)成分:アイソタクチックペンタッド分率が0.98以上であり、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が200〜300g/10分のプロピレン単独重合体部分と、ガラス転移温度が−40℃以下であり、135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]が3〜15dl/gのプロピレン・エチレン共重合体部分からなるプロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
(b)成分:コモノマー含量が28重量%以上で、MFR(JIS K7210条件14、温度230℃、荷重21.18N)が0.5〜20g/10分であるエチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体 20〜40重量部
(c)成分:レーザー回折法によって測定した平均粒径が10μm以下であるタルク 30〜50重量部
(d)成分:ポリスチレン構造を有するAセグメントの含量が1〜25重量%である下記構造を有するスチレン系水添ブロック共重合ゴム 10〜20重量部
A−B 又は、A−B−A
(但し、Aセグメントはポリスチレン構造を示し、Bセグメントはエチレン・ブテン又はエチレン・プロピレン構造を示す。)
【0016】
また、本発明の第の発明によれば、第6の発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリヒドロキシポリオレフィン(C)が1〜15重量部配合されていることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第の発明によれば、第6又は7の発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリアミド(D)が1〜15重量部配合されていることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第の発明によれば、第8の発明において、ポリアミド(D)の融点が260℃以下であり、そのMFR(JIS K7210 条件20、温度280℃、荷重21.18N)が、70g/10分以上であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第10の発明によれば、第6〜9のいずれか発明において、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が30〜50g/10分、曲げ弾性率(JIS K7203)が1700MPa以上、23℃で測定されるアイゾッド衝撃強度(JIS K7110)が300J/m以上、引張伸び(JIS K7113)が200%以上、脆化温度(JIS K7216)が−10℃以下、比重が0.9〜1.25、であり、且つ、碁盤目剥離試験の碁盤目残存率100%であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物の製造方法が提供される。
(ここで、上記碁盤目残存率は、射出成形により成形した平板に、前処理を全く施すこと無く、エアースプレーガンを用いて、直接水性メラミン系塗料を厚さ約15ミクロンとなるようにスプレー塗布し、120℃で1時間焼付け乾燥した後、室温で48時間放置し、この後、この試験片表面に片刃カミソリを用い、直交する縦横11本ずつの平行線を2mm間隔で引き、碁盤目を100個作り、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522)を充分圧着し、塗装面と粘着テープの角度を約30度に保ちながら一気に引き剥がす作業を5回繰り返し、碁盤目で囲まれた部分の状態を観察して、剥離しなかった碁盤目の数を評価して、求める。)
【0021】
また、本発明の第11の発明によれば、射出成形品、圧縮成形品、射出圧縮成形品、及び、押出成形品からなる群から選ばれた成形品であって、第1〜のいずれかの発明に係るプロピレン系樹脂組成物から構成されていることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物の成形体が提供される。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
1.プロピレン系樹脂組成物
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)と、エチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体(b)、タルク(c)、必要に応じて、スチレン系水添ブロック共重合ゴム(d)とからなるポリプロピレン系樹脂組成物(A)と、変性ポリプロピレン(B)、必要に応じて、ポリヒドロキシポリオレフィン(C)及び/又はポリアミド(D)とからなる組成物である。以下に各配合成分について説明する。
【0023】
(A)ポリプロピレン系樹脂組成物
(a)プロピレン・エチレンブロック共重合体
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体成分(a)は、プロピレン単独重合体部分とプロピレン・エチレン共重合体部分から構成されるブロック共重合体である。
プロピレン単独重合体部分のアイソタクチックペンタッド分率は、0.98以上、好ましくは0.980〜0.995、より好ましくは0.985〜0.995である。アイソタクチックペンタッド分率が0.98未満では、成形体の剛性や耐熱性が劣る。
アイソタクチックペンタッド分率とは、Macromolecules,6,925(1973年)記載の方法、すなわち13C−NMRを使用する方法で測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック分率である。換言すれば、アイソタクチックペンタッド分率は、プロピレンモノマー単位が5個接続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、ピークの帰属に関しては、Macromolecules,8,687(1975年)に記載の方法に基づいて行った。具体的には13C−NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの強度分率としてアイソタクチックペンタッド単位を測定する。
アイソタクチックペンタッド分率が0.98以上のプロピレン単独重合体部分は、高立体規則性触媒を用いて製造することができる。高立体規則性触媒としては、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、さらに各種の電子供与体および電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と有機アルミニウム化合物並びに芳香族カルボン酸エステルを組み合わせた触媒、および、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させた担持型触媒などを例示することができる。
【0024】
プロピレン単独重合体部分のメルトフローレート(MFR)は、10〜300g/10分であることが好ましく、より好ましくは100〜300g/10分、さらに好ましくは200〜300g/10分である。MFRが10g/10分未満では、プロピレン系樹脂組成物の流動性が劣り、300g/10分を超えると耐衝撃性が劣る傾向があるため、それぞれ好ましくない。
プロピレン単独重合体部分のMFRは、JIS K7210 条件14に基づき、温度230℃、荷重21.18Nで測定する。
プロピレン単独重合体部分のMFRは、プロピレン単独重合体部分の重合時に水素濃度を制御することにより、調整することができる。
【0025】
また、プロピレン・エチレン共重合体部分のガラス転移温度は、−40℃以下、好ましくは−40〜−60℃、より好ましくは−41〜55℃である。プロピレン・エチレン共重合体部分のガラス転移温度が−40℃を超えると、低温での耐衝撃特性が急激に低下してしまうため、好ましくない。
プロピレン・エチレン共重合体部分のガラス転移温度は、動的固体粘弾性測定装置により測定する。
プロピレン・エチレン共重合体部分のガラス転移温度は、エチレンと共重合モノマーの共重合比により操作することが出来る。
【0026】
さらに、プロピレン・エチレン共重合体部分の135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]は、3〜15dl/g、好ましくは4〜12dl/g、より好ましくは5〜10dl/gである。固有粘度が3dl/g未満の場合、共重合体成分そのものの靭性が劣り、15dl/gを超えると共重合体部分の分散性が低下し、それぞれ耐衝撃性の低下要因となる。
なお、プロピレン・エチレン共重合体部分の固有粘度は、共重合体部分を重合する際に添加する水素の添加量を調整することにより、制御される。
【0027】
プロピレン・エチレンブロック共重合体中のプロピレン単独重合体部分の量とプロピレン・エチレン共重合体部分の量は、ポリプロピレン単独重合体部分がマトリックス相となる範囲で選択する必要がある。プロピレン単独重合体部分の量は、好ましくは50〜99重量%、より好ましくは70〜97重量%、さらに好ましくは80〜95重量%であり、プロピレン・エチレン共重合体部分の量は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは3〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%である。この共重合体部分の濃度は、赤外分光スペクトル法や13C−NMR法等の常法に従って測定される値である。
プロピレン・エチレン共重合体部分の量は、プロピレン単独重合体部分の重合量とプロピレン・エチレン共重合体部分の重合量の比率を重合時間などにより制御し、調整することができる。
【0028】
本発明で用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体は、従来公知の任意の方法により重合することが出来るが、例えば気相重合法、塊状重合法、溶液重合法、スラリー重合法などを挙げることができ、1つの反応器でバッチ式に重合したり、複数の反応器を組み合わせて連続式に重合してもよい。具体的には、最初にプロピレンの単独重合により結晶性ポリプロピレン単独重合体部分を形成し、次に、プロピレンとエチレンとのランダム共重合によってプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を形成して製造するのが好ましい。
重合触媒は、ハロゲン化チタンのようなチタン化合物、バナジウム化合物、アルキルアルミニウム−マグネシウム錯体、アルキルアルコキシアルミニウム−マグネシウム錯体のような有機アルミニウム−マグネシウム錯体や、アルキルアルミニウム或いはアルキルアルミニウムクロリドなどの有機金属化合物との組合せによるいわゆるチーグラー型触媒、もしくはWO−91/04257号公報等に示されるようなメタロセン系触媒が挙げられる。なお、メタロセン系触媒と称せられる触媒は、アルモキサンを含まなくてもよいが、好ましくはメタロセン化合物とアルモキサンとを組み合わせた触媒、いわゆるカミンスキー系触媒のことである。
【0029】
(b)エチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物(A)で使用されるエチレン・オクテン及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体成分(b)は、耐衝撃性を向上しつつ、かつ良好な成形性、物性、収縮特性を発現させる目的で用いるものである。また、好ましくは、下記(d)成分と併用することにより、さらに高度な物性バランスと成形性が発現される。
(b)成分のエチレンと共重合されるコモノマーは、1−オクテン又は1−ブテンであり、そのコモノマー含量は28重量%以上、好ましくは28重量%〜60重量%、さらに好ましくは28重量%〜50重量%である。また、(b)成分のMFR(JIS K7210;条件14、温度230℃、荷重21.18N)は、0.5〜20g/10分、好ましくは0.7〜15g/10分、特に好ましくは0.9〜10g/10分の範囲である。共重合コモノマー含量やMFRが上記範囲を逸脱した場合、プロピレン系樹脂組成物の耐衝撃性や引張伸び、脆化温度等が不十分となる。
(B)成分の共重合コモノマー含量やMFRは、重合時におけるエチレンとコモノマーの供給比率や水素濃度、重合温度などにより調整することができる。
上記エチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体は、1種類である必要はなく、2種類以上の混合物であってもよい。
【0030】
(b)成分は、重合法として、例えば、気相流動床法、溶液法、スラリー法や高圧重合法などにより、エチレンと共重合コモノマーを共重合することにより得られる。重合触媒としては、ハロゲン化チタンのようなチタン化合物、バナジウム化合物、アルキルアルミニウム−マグネシウム錯体、アルキルアルコキシアルミニウム−マグネシウム錯体のような有機アルミニウム−マグネシウム錯体や、アルキルアルミニウム或いはアルキルアルミニウムクロリドなどの有機金属化合物との組合せによるいわゆるチーグラー型触媒、もしくはWO−91/04257号公報等に示されるようなメタロセン系触媒が挙げられる。なお、メタロセン系触媒と称せられる触媒は、アルモキサンを含まなくてもよいが、好ましくはメタロセン化合物とアルモキサンとを組み合わせた触媒、いわゆるカミンスキー系触媒のことである。
【0031】
(b)成分は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)100重量部に対して、20〜40重量部、好ましくは25〜35重量部となるように配合される。(b)成分の配合比率が上記範囲を逸脱した場合、曲げ弾性率や収縮特性が悪化する。
【0032】
(c)タルク
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物で使用されるタルク成分(c)は、平均粒径が10μm以下、好ましくは0.5〜8μmである。平均粒径が上記範囲を逸脱すると、剛性が劣る。
該平均粒径の測定は、レーザー回折法(例えば堀場製作所製LA920W)や、液層沈降方式光透過法(例えば島津製作所製CP型等)によって測定した粒度累積分布曲線から読み取った累積量50重量%の粒径値より求めることができる。本発明の値は、前者の方法により測定された平均粒径値である。これらタルクは、天然に産出されたものを機械的に微粉砕化することにより得られたものをさらに精密に分級することによって得られる。又、この分級操作は複数回重ねて行ってもよい。機械的に粉砕する方法としては、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、スクリーンミル、ジェット粉砕機、コロイドミル、ローラーミル、振動ミル等の粉砕機を用いる方法が挙げられる。これらの粉砕されたタルクは、本発明で示される平均粒径に調整するために、サイクロン、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、シャープカットセパレーター等の装置で、1回又は繰り返し湿式又は乾式分級する。本発明で用いるタルクを製造する際は、特定の粒径に粉砕した後、シャープカットセパレーターにて分級操作を行うのが好ましい。これらのタルクは、重合体との接着性或いは分散性を向上させる目的で、各種有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理したものを用いてもよい。
【0033】
(c)成分は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)100重量部に対して、30〜50重量部、好ましくは33〜42重量部となるように配合される。配合比率が上記範囲を逸脱した場合、剛性や脆化特性が劣る。
【0034】
(d)スチレン系水添ブロック共重合ゴム
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、スチレン系水添ブロック共重合ゴム成分(d)を配合してもよい。(d)成分は、上記(b)成分と併用することにより、さらに高度な物性バランスと成形性を発現させる目的で配合されるものである。
(d)成分は、ポリスチレン構造を有するAセグメントの含量が1〜25重量%、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは7〜22重量%で、エチレン・ブテン又はエチレン・プロピレン構造を示すBセグメントと共に、下記構造を構成するブロック共重合体である。
A−B 又は、 A−B−A
Aセグメントの含有量が25重量%を超えると、脆化温度が劣る。なお、ポリスチレン構造単位の含有量は、赤外スペクトル分析法、13C−NMR法などの常法によって測定される値である。
【0035】
(d)成分の具体例としては、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。該ブロック構造を有するエラストマー共重合体は、上記構造式に示すようなトリブロック構造とジブロック構造の混合物であってもよい。これらのブロック共重合体は、一般的なアニオンリビング重合法で製造することができる。これには、逐次的にスチレン、ブタジエン、スチレンを重合しトリブロック体を製造した後に水添する方法(SEBSの製造方法)と、スチレン−ブタジエンのジブロック共重合体を始めに製造した後、カップリング剤を用いてトリブロック体にした後水添する方法がある。また、ブタジエンの代わりにイソプレンを用いることにより、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)も製造することができる。
【0036】
(d)成分をポリプロピレン系樹脂組成物(A)の構成成分として用いる場合には、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)100重量部に対して、10〜20重量部、好ましくは12〜18重量部、特に好ましくは12〜16重量部となるように配合される。配合比率が上記範囲を逸脱した場合、剛性や脆化特性が劣る傾向がある。
【0037】
(B)変性ポリプロピレン
本発明のプロピレン系樹脂組成物で使用される変性ポリプロピレン成分(B)は、ポリプロピレンの分子末端に極性官能基を有するモノマーをグラフトさせた樹脂である。
グラフトされる極性官能基としては、メラミン系やウレタン系等の塗料樹脂と反応する官能基であれば任意の官能基が使用出来るが、この中でも、酸無水物基、水酸基が好適に使用される。
【0038】
変性ポリプロピレン(B)の重量平均分子量は、8000〜15000、好ましくは8000〜12000である。重量平均分子量が8000未満の場合、プロピレン系樹脂組成物の剥離強度が低下し、塗膜密着性において基材剥離が発生し、15000を超えると基材表面への偏在性が低下するため、それぞれ塗装性が低下し好ましくない。
【0039】
変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、GPCにより測定する重量平均分子量である。具体的には、次の条件で行う。
装置 :Waters社製HLC/GPC 150C
カラム温度:135℃
溶媒 :o−ジクロロベンゼン
流量 :1.0ml/min
カラム :東ソー株式会社製 GMHHR−H(S)HT 60cm×1
注入量 :0.15ml(濾過処理無し)
溶液濃度 :5mg/3.4ml
試料調整 :o−ジクロロベンゼンを用い、5mg/3.4mlの溶液に調整し140℃で1〜3時間溶解させる。
検量線 :ポリスチレン標準サンプルを使用する。
検量線次数:1次
PP分子量:PS×0.639
【0040】
また、グラフトモノマー成分のポリプロピレンへの極性官能基のグラフト率は、3.0〜16重量%、好ましくは、3.5〜15重量%である。グラフト率が3重量%未満では、塗膜密着性に乏しく、16重量%を超えると変性ポリプロピレンの分散性が低下し、プロピレン系樹脂組成物中に変性ポリプロピレンが塊となって分散する傾向があるため、それぞれ不具合が生じる。
極性官能基のグラフト率とは、変性ポリプロピレンにグラフトしていない未グラフト成分を溶解再沈法等により除去した後に測定するグラフト率である。具体的には、ペレット状の変性ポリプロピレンを、200℃の加熱プレス成形により、肉厚0.15mmのフィルム状とし、このフィルムを、ソックスレー抽出器を用いアセトン溶媒にて、85℃×1.5時間抽出処理し、70℃のオーブンで20分間乾燥する。抽出乾燥処理したフィルムを用い、IRを用いて赤外吸収ピーク強度を定量し、グラフト率を検量線から算出するものである。
【0041】
変性ポリプロピレン(B)は、従来公知の方法により製造することが出来るが、例えば、有機溶媒の溶液中でポリプロピレン重合粉末とグラフトモノマーを、有機過酸化物を開始剤としてグラフト反応させる溶液法や、押出機等の溶融混練装置を用いて、グラフトモノマーをポリプロピレンにグラフト反応させる混練法等を挙げることが出来る。
【0042】
変性ポリプロピレン(B)は、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対して、1〜15重量部、好ましくは3〜12重量部、より好ましくは5〜10重量部となるように配合される。配合比率が1重量部未満では、塗装性が劣り、15重量部を超えると、耐衝撃性、耐熱性等の物性低下が著しいため、好ましくない。
【0043】
(C)ポリヒドロキシポリオレフィン
本発明のプロピレン系樹脂組成物においては、必要に応じて、ポリヒドロキシポリオレフィン成分(C)を配合することができる。成分(C)は、分子末端に水酸基を有し、分子量が、好ましくは1000〜5000の低分子量ポリオレフィンであり、例えば、共役ジエンモノマーをアニオン重合等の公知の方法により重合させ、それを加水分解して得たポリマーを水素添加することにより得られる。具体的には、三菱化学社製の商品名ポリテールH(Polytail H)が挙げられる。
【0044】
成分(C)は、水酸基価(mgKOH/g)20以上100以下が好ましい。水酸基価が20未満では塗膜との反応性が不足で、100を超えると樹脂との相溶性が悪化するため、それぞれ塗膜との密着性が低下し、好ましくない。
【0045】
成分(C)ポリヒドロキシポリオレフィンは、必要に応じて、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対して、1〜15重量部となるように配合される。配合比率が1重量部未満では、塗装性と機械物性バランスの改善効果が不十分で、15重量部を超えると、剛性、耐熱性等の物性低下が著しい為、好ましくない。
【0046】
(D)ポリアミド樹脂
本発明のプロピレン系樹脂組成物においては、必要に応じて、ポリアミド樹脂成分(D)を配合することができる。
ポリアミド樹脂成分(D)は、融点260℃以下であることが好ましい。融点が260℃を超えると、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)との溶融混練を250℃以上で行う必要があり、これに伴い、ポリプロピレン他のポリオレフィン成分の熱劣化を引き起こすために、好ましくない。
なお、ポリアミド樹脂の融点は、示差操作型熱量計(DSC)により測定される吸熱ピーク温度である。
【0047】
また、成分(D)のポリアミド樹脂の280℃で測定されるMFR@280℃は、70g/10分以上、好ましくは70〜500、更に好ましくは80〜350g/10分である。MFRが70未満では分散性が劣るため、好ましくない。
【0048】
成分(D)のポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6等が挙げられ、従来公知の、ラクタム開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合等により製造することが出来る。
【0049】
ポリアミド樹脂成分(D)は、必要に応じて、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対して、1〜15重量部となるように配合される。配合比率が1重量部未満では、塗装性が劣る傾向があり、15重量部を超えると、耐衝撃性等の物性が低下するため、好ましくない。
【0050】
(E)付加的成分(任意成分)
本発明のプロピレン系樹脂組成物には、上述した(A)〜(D)成分の他に、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、その他の成分が配合されていてもよい。この様なその他の配合成分としては、着色するための顔料、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン等光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、銅害防止剤、滑剤、難燃剤、等を挙げることができる。
【0051】
2.プロピレン系樹脂組成物の製造方法
本発明のプロピレン系樹脂組成物の製造方法は、特に制限は無いが、各配合成分を上記配合割合で、予め成分(a)〜(d)を混合、溶融混練して成分(A)を製造し、続いて成分(B)〜(E)を配合して、混合、溶融混練、さらに成形して製造する方法、(a)〜(d)、及び(B)〜(E)を同時に混合、溶融混練、さらに成形して製造する方法、プロピレン系重合体の一部又は全部とエラストマーとを混練し、その後に残りの成分を混合、溶融混練、さらに成形して製造する方法等を採用することができる。
各成分の混合、溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の通常の混練機を用いて混練・造粒するのが好ましい。この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練・造粒方法を選択することが好ましく、通常は二軸押出機を用いて行われる。
【0052】
3.プロピレン系樹脂組成物の物性と成形加工
上記で得られた本発明のプロピレン系樹脂組成物は、剛性、耐衝撃性、塗装性において高度な物性バランスを有しており、具体的には、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が好ましくは30〜50g/10分、曲げ弾性率(JIS K7203)が好ましくは1700MPa以上、より好ましくは1700〜2500MPa、23℃で測定されるアイゾッド衝撃強度(JIS K7110)が好ましくは300J/m以上、より好ましくは300〜800J/m、引張伸び(JIS K7113)が好ましくは200%以上、より好ましくは200〜500%、脆化温度(JIS K7216)が好ましくは−10℃以下、より好ましくは−10〜−40℃、比重が好ましくは0.9〜1.25、且つ、成形体表面の溶剤洗浄・プライマー塗布等の前処理を施さずに塗装したメラミン系水性塗料の塗膜密着性が、碁盤目剥離試験の碁盤目残存率で100%である。
【0053】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、公知の各種方法により、種々の成形品に加工することができる。例えば、射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、圧縮成形、押出成形、中空成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等にて成形することによって各種成形品を得ることができる。このうち、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形がより好ましい。
【0054】
本発明のプロピレン系樹脂組成物から成形された成形体は、剛性、耐衝撃性、塗装性において高度な物性バランスを有し、成形体とした場合、成形体表面の溶剤洗浄・プライマー塗布等の前処理を施さずに塗装することが可能であり、このようにして塗装処理したメラミン系水性塗料の塗膜密着性が、碁盤目剥離試験の碁盤目残存率で100%である。
したがって、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、各種工業部品分野、特に薄肉化、高機能化、大型化された各種成形品、例えばバンパー、インストルメントパネル、ガーニッシュなどの自動車部品やテレビケースなどの家電機器部品などの各種工業部品用成形材料として、実用に十分な性能を有している。
【0055】
【実施例】
以下に、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける各種物性の測定方法及び用いた原材料は、以下の通りである。
【0056】
1.物性の測定方法
(1)MFR:プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)、エチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体(b)、スチレン系水添ブロック共重合ゴム(d)、及びプロピレン系樹脂組成物のMFRは、JISK7210 条件14に準拠し、230℃、21.18N荷重で測定し、ポリアミド(D)のMFR@280℃は、JISK7210 条件20に準拠し、280℃、21.18N荷重で測定した。
(2)曲げ弾性率(単位:MPa):JIS−K7203に準拠して23℃下で測定した。
(3)アイゾット(IZOD)衝撃強度(単位:kJ/m2):JIS−K7110に準拠し、23℃、及び−30℃で測定した。
(4)引張伸び(単位:%):JIS−K7113に準拠して、23℃で測定した。
(5)脆化温度(単位:℃):JIS−K7216に準拠して測定した。
(6)塗装性:射出成形により成形した平板に、前処理を全く施すこと無く、エアースプレーガンを用いて、直接水性メラミン系塗料を厚さ約15ミクロンとなるようにスプレー塗布し、120℃で1時間焼付け乾燥した後、室温で48時間放置する。この後、試験片表面に片刃カミソリを用い、直交する縦横11本ずつの平行線を2mm間隔で引き、碁盤目を100個作る。その上にセロハン粘着テープ(JIS−Z1522)を充分圧着し、塗装面と粘着テープの角度を約30度に保ちながら一気に引き剥がす作業を5回繰り返し、碁盤目で囲まれた部分の状態を観察して、剥離しなかった碁盤目の数を評価する。
(7)グラフト率:ペレット状の変性ポリプロピレン(B)を、200℃の加熱プレス成形により、肉厚0.15mmのフィルム状とする。このフィルムを、ソックスレー抽出機を用いアセトン溶媒にて、85℃×1.5時間抽出処理した後、70℃のオーブンで20分間乾燥処理を行う。抽出処理したフィルムを用い、IRを用いて赤外吸収ピーク強度を定量し、グラフト率を計算した。
(8)アイソタクチックペンタッド分率:13C−NMRを用いてMacromolecure,8,687(1975)に記載されている方法に基づき測定した。
(9)固有粘度[η]:135℃デカリン中で測定した。
(10)ガラス転移温度:動的固体粘弾性測定装置 SOLIDS ANALYZER RSA II(レオメトリックス社製)により測定した。
【0057】
2.原材料
(a)プロピレン・エチレンブロック共重合体
表1に示すプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた。
【0058】
【表1】
Figure 0004300065
【0059】
(b)エチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体
表2に示すエチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体を用いた。
【0060】
【表2】
Figure 0004300065
【0061】
(c)タルク
表3に示すタルクを用いた。
【0062】
【表3】
Figure 0004300065
【0063】
(d)スチレン系水添ブロック共重合ゴム
表4に示すスチレン系水添ブロック共重合ゴムを用いた。
【0064】
【表4】
Figure 0004300065
【0065】
(B)変性ポリプロピレン
【0066】
変性ポリプロピレン(B)として、製造例1〜6に示した方法で製造した変性ポリプロピレン(変性PP1、変性PP2、変性PP3、変性PP4、変性PP5、変性PP6)と、三洋化成工業社製酸変性ポリプロピレン「ユーメックス1210」を用いた。各変性ポリプロピレンの重量平均分子量とグラフト率を表5に示す。
【0067】
製造例1(変性PP1)
数平均分子量3000のポリプロピレンワックス300重量部、無水マレイン酸9重量部を、還流管を付けた反応基の中に仕込み、キシレン700重量部を加えた後に窒素置換した。攪拌下、窒素を少量導入しながら150℃に昇温し、均一に溶解した後、ジクミルパーオキサイド16.5重量部を3時間かけて添加し、更に4時間反応を続けた。その後、最初常圧で、次いで180℃、3mmHgの減圧下、2時間かけてキシレン及び未反応のマレイン酸を除去した。続いて、トルエン1250重量部を添加し、トルエン溶液中に酸変性ポリプロピレンを溶解させた後、モノエタノールアミン12重量部を加え、50℃で60分間反応させた。得られた変性ポリプロピレンは、重量平均分子量9800、水酸基価13mgKOH、グラフト率4.0wt%であった。
【0068】
製造例2(変性PP2)
数平均分子量15000のポリプロピレンワックスを用い、無水マレイン酸の仕込量を6重量部とした以外は、製造例1と同様の方法により変性ポリプロピレンを製造した。得られた変性ポリプロピレンは、重量平均分子量14000、水酸基価11mgKOH、グラフト率3.2wt%であった。
【0069】
製造例3(変性PP3)
数平均分子量18000のポリプロピレンワックスを用いた以外は、製造例1と同様の方法により変性ポリプロピレンを製造した。得られた変性ポリプロピレンは、重量平均分子量16000、水酸基価14mgKOH、グラフト率4.3wt%であった。
【0070】
製造例4(変性PP4)
数平均分子量2700のポリプロピレンワックスを用いた以外は、製造例1と同様の方法により変性ポリプロピレンを製造した。得られた変性ポリプロピレンは、重量平均分子量7500、水酸基価13mgKOH、グラフト率3.9wt%であった。
【0071】
製造例5(変性PP5)
数平均分子量7000のポリプロピレンワックスを用い無水マレイン酸の配合比率を20重量部とした以外は、製造例1と同様の方法により変性ポリプロピレンを製造した。得られた変性ポリプロピレンは、重量平均分子量9200、水酸基価27mgKOH、グラフト率8.6wt%であった。
【0072】
製造例6(変性PP6)
数平均分子量7000のポリプロピレンワックスを用い無水マレイン酸の配合比率を32重量部とした以外は、製造例1と同様の方法により変性ポリプロピレンを製造した。得られた変性ポリプロピレンは、重量平均分子量8000、水酸基価50mgKOH、グラフト率14.5wt%であった。
【0073】
【表5】
Figure 0004300065
【0074】
(C)ポリヒドロキシポリオレフィン
ポリヒドロキシポリオレフィン(C)として、三菱化学社製ポリテールH(Polytail H)を用いた。
(D)ポリアミド
ポリアミド(D)として、三菱エンジニアリングプラスチック社製の6ナイロン(ノバミッド1007、融点225℃、280℃で測定されるMFR=300g/10分)を用いた。
【0075】
実施例1〜16
表6に示した配合組成により、プロピレン・エチレンブロック共重合体、エラストマー、タルク、変性ポリプロピレン、ポリヒドロキシポリオレフィン、ポリアミドを配合し、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製Irgafos168)0.05重量部、ステアリン酸カルシウム0.3重量部と共に混合した後、2軸押出機(日本製鋼所製TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート15kg/hで溶融混練し、プロピレン系樹脂組成物ペレットを得た。得られたペレットを用いて、金型温度40℃、シリンダ温度230℃の条件で射出成形し、プロピレン系樹脂組成物の各種試験片とした。得られた試験片を用いて、上述の方法により、各種物性を評価した。評価結果は表8に示す。水性塗料の塗膜密着性と機械物性のバランスに優れた材料であることが示された。
【0076】
比較例1〜16
表7に示した配合組成により、実施例と同様の方法で実験を行い、表9に示す評価結果を得た。評価結果は表に示した通りであり、一部の試料では変性ポリプロピレン(B)の過剰充填により基材が脆弱化し、基材と塗膜の界面で塗膜が剥がれているのではなく、基材が破壊することにより塗膜が剥がれる、基材破壊現象が確認された。又、水性塗料が密着した材料配合の試料では、衝撃強度等の機械物性が劣り、塗膜密着性と機械物性のバランスに於いて、本発明の材料に比べて劣ることが確認された。
【0077】
【表6】
Figure 0004300065
【0078】
【表7】
Figure 0004300065
【0079】
【表8】
Figure 0004300065
【0080】
【表9】
Figure 0004300065
【0081】
【発明の効果】
特定の構造を有する変性ポリプロピレンが配合された、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、衝撃強度、曲げ剛性等の強度バランスに優れ、且つ、溶剤プライマーを塗布すること無く塗膜を密着せしめることが可能であるため、工業的に非常に有用なものである。更に本発明のプロピレン系樹脂組成物は、水性塗料に対してプライマーレスで塗膜密着を実現するため、プライマーに起因する有機溶媒のみならず、塗料溶媒に起因する有機溶媒の使用量削減を実現せしめることが可能となり、環境負荷の低減に多大な効果をもたらす。更に、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、強度バランスにも優れ、成形品の薄肉化を実現し、特にその使用量が増大している自動車部品等では、軽量化に伴う燃費効率の向上にも繋がる技術である。このことは、エネルギー資源の節約、地球環境の保護といった近年の社会的な問題を解決する一つの有効な手段であると言え、その工業的価値は極めて大きい。

Claims (11)

  1. 下記(a)〜(d)成分からなるポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、ポリプロピレンの分子末端に酸無水物基または水酸基から選ばれる極性官能基を有するモノマーをグラフトさせた変性ポリプロピレン(B)を1〜15重量部含有するプロピレン系樹脂組成物であって、変性ポリプロピレン(B)の重量平均分子量が8000〜15000、極性官能基のグラフト率が3.0〜16重量%であることを特徴とする自動車用プロピレン系樹脂組成物。
    (a)成分:アイソタクチックペンタッド分率が0.98以上であり、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が200〜300g/10分のプロピレン単独重合体部分と、ガラス転移温度が−40℃以下であり、135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]が3〜15dl/gのプロピレン・エチレン共重合体部分からなるプロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
    (b)成分:コモノマー含量が28重量%以上で、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が0.5〜20g/10分であるエチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体 20〜40重量部
    (c)成分:レーザー回折法によって測定した平均粒径が10μm以下であるタルク 30〜50重量部
    (d)成分:ポリスチレン構造を有するAセグメントの含量が1〜25重量%である下記構造を有するスチレン系水添ブロック共重合ゴム 10〜20重量部
    A−B 又は、A−B−A
    (但し、Aセグメントはポリスチレン構造を示し、Bセグメントはエチレン・ブテン又はエチレン・プロピレン構造を示す。)
  2. ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリヒドロキシポリオレフィン(C)が1〜15重量部配合されていることを特徴とする、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
  3. ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリアミド(D)が1〜15重量部配合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
  4. ポリアミド(D)の融点が260℃以下であり、そのMFR(JIS K7210 条件20、温度280℃、荷重21.18N)が70g/10分以上であることを特徴とする、請求項に記載のプロピレン系樹脂組成物。
  5. MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が30〜50g/10分、曲げ弾性率(JIS K7203)が1700MPa以上、23℃で測定されるアイゾッド衝撃強度(JIS K7110)が300J/m以上、引張伸び(JIS K7113)が200%以上、脆化温度(JIS K7216)が−10℃以下、比重が0.9〜1.25、であり、且つ、碁盤目剥離試験の碁盤目残存率100%であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物。
    (ここで、上記碁盤目残存率は、射出成形により成形した平板に、前処理を全く施すこと無く、エアースプレーガンを用いて、直接水性メラミン系塗料を厚さ約15ミクロンとなるようにスプレー塗布し、120℃で1時間焼付け乾燥した後、室温で48時間放置し、この後、この試験片表面に片刃カミソリを用い、直交する縦横11本ずつの平行線を2mm間隔で引き、碁盤目を100個作り、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522)を充分圧着し、塗装面と粘着テープの角度を約30度に保ちながら一気に引き剥がす作業を5回繰り返し、碁盤目で囲まれた部分の状態を観察して、剥離しなかった碁盤目の数を評価して、求める。)
  6. 下記(a)〜(d)成分からなるポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、ポリプロピレンの分子末端に酸無水物基または水酸基から選ばれる極性官能基を有するモノマーをグラフトさせた変性ポリプロピレン(B)1〜15重量部を混合、溶融混練することにより得られるプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、変性ポリプロピレン(B)の重量平均分子量が8000〜15000、極性官能基のグラフト率が3.0〜16重量%であることを特徴とする自動車用プロピレン系樹脂組成物の製造方法。
    (a)成分:アイソタクチックペンタッド分率が0.98以上であり、MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が200〜300g/10分のプロピレン単独重合体部分と、ガラス転移温度が−40℃以下であり、135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]が3〜15dl/gのプロピレン・エチレン共重合体部分からなるプロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
    (b)成分:コモノマー含量が28重量%以上で、MFR(JIS K7210条件14、温度230℃、荷重21.18N)が0.5〜20g/10分であるエチレン・オクテンランダム共重合体及び/又はエチレン・ブテンランダム共重合体 20〜40重量部
    (c)成分:レーザー回折法によって測定した平均粒径が10μm以下であるタルク 30〜50重量部
    (d)成分:ポリスチレン構造を有するAセグメントの含量が1〜25重量%である下記構造を有するスチレン系水添ブロック共重合ゴム 10〜20重量部
    A−B 又は、A−B−A
    (但し、Aセグメントはポリスチレン構造を示し、Bセグメントはエチレン・ブテン又はエチレン・プロピレン構造を示す。)
  7. ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリヒドロキシポリオレフィン(C)が1〜15重量部配合されていることを特徴とする、請求項に記載のプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
  8. ポリプロピレン系樹脂組成物(A)100重量部に対し、さらに、ポリアミド(D)が1〜15重量部配合されていることを特徴とする、請求項6又は7に記載のプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
  9. ポリアミド(D)の融点が260℃以下であり、そのMFR(JIS K7210 条件20、温度280℃、荷重21.18N)が、70g/10分以上であることを特徴とする、請求項に記載のプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
  10. MFR(JIS K7210 条件14、温度230℃、荷重21.18N)が30〜50g/10分、曲げ弾性率(JIS K7203)が1700MPa以上、23℃で測定されるアイゾッド衝撃強度(JIS K7110)が300J/m以上、引張伸び(JIS K7113)が200%以上、脆化温度(JIS K7216)が−10℃以下、比重が0.9〜1.25、であり、且つ、碁盤目剥離試験の碁盤目残存率100%であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
    (ここで、上記碁盤目残存率は、射出成形により成形した平板に、前処理を全く施すこと無く、エアースプレーガンを用いて、直接水性メラミン系塗料を厚さ約15ミクロンとなるようにスプレー塗布し、120℃で1時間焼付け乾燥した後、室温で48時間放置し、この後、この試験片表面に片刃カミソリを用い、直交する縦横11本ずつの平行線を2mm間隔で引き、碁盤目を100個作り、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522)を充分圧着し、塗装面と粘着テープの角度を約30度に保ちながら一気に引き剥がす作業を5回繰り返し、碁盤目で囲まれた部分の状態を観察して、剥離しなかった碁盤目の数を評価して、求める。)
  11. 射出成形品、圧縮成形品、射出圧縮成形品、及び、押出成形品からなる群から選ばれた成形品であって、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物から構成されていることを特徴とする、プロピレン系樹脂組成物の成形体。
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