以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すことととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る有機質PTCサーミスタの第1実施形態の基本構成を示す斜視図である。
図1に示す有機質PTCサーミスタ(以下、単に「サーミスタ」ともいう。)100は、互いに対向した状態で配置された一対の電極板13及び電極板14と、電極板13と電極板14との間に配置されており、かつ「正の抵抗−温度特性」を有するサーミスタ素体10とから構成されている。
本実施形態のサーミスタ100において、サーミスタ素体10は、一対の本体層11と、その本体層11間に設けられた内部固定層12とから構成されている。一対の本体層11は、電極方向(図1のz方向)に互いに対向し、電極板13及び電極板14と平行になるようにそれぞれ形成されている。また、電極方向から見たときに、内部固定層12は、サーミスタ素体10の全面に形成されており、本体層の全部と対向するように配置されている。内部固定層12は、電極方向に一対の本体層11に挟まれており、電極板13及び電極板14と電気的にも直接接続されていない。
電極板13及び電極板14は、例えば、平板状の形状を有しており、サーミスタの電極として機能する電子伝導性を有するものであれば特に限定されないが、本体層11よりも小さい膨張率を有することが好ましい。また、電極板13の一端及び電極板14の一端にはそれぞれリード端子13a、14aが形成されており、リード端子13a、14aから外部に電荷を放出又は注入することが可能となっている。
次に、サーミスタ素体100の本体層11及び内部固定層12の組成物について説明する。
<本体層11>
本体層11は高分子マトリックスに導電性粒子が分散されたものであり、好ましくは更に低分子有機化合物が含有されたものである。
高分子マトリックスとしては、熱可塑性であれば特に制限なく用いることができ、結晶性であっても非結晶性であってもよい。
このような高分子マトリックスとしては、(1)ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)、(2)少なくとも1種のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン)と、少なくとも1種の極性基を含有するオレフィン性不飽和モノマ−に基づく繰り返し単位で構成されたコポリマ−(例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマー)、(3)ハロゲン化ビニルおよびビニリデンポリマ−(例えば、ポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド)、(4)ポリアミド(例えば12−ナイロン)、(5)ポリスチレン、(6)ポリアクリロニトリル、(7)熱可塑性エラストマ−、(8)ポリエチレンオキサイド、ポリアセタ−ル、(9)熱可塑性変性セルロ−ス、(10)ポリスルホン類、(11)ポリメチル(メタ)アクリレ−ト等が挙げられる。
より具体的には、(1)高密度ポリエチレン[例えば、商品名:ハイゼックス2100JP(三井化学社製)、Marlex6003(フィリップ社製)等]、(2)低密度ポリエチレン[例えば、商品名:LC500(日本ポリケム社製)、DYMH−1(ユニオン−カ−バイド社製)等]、(3)中密度ポリエチレン[例えば、商品名:2604M(ガルフ社製)等]、(4)エチレン−エチルアクリレ−トコポリマ−[例えば、商品名:DPD6169(ユニオン−カ−バイド社製)等]、(5)エチレン−アクリル酸コポリマ−[例えば、商品名:EAA455(ダウケミカル社製)等]、(6)ヘキサフルオエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマ−[例えば、商品名:FEP100(デュポン社製)等]、(7)ポリビニリデンフルオライド[例えば、商品名:Kynar461(ペンバルト社製)等]等が挙げられる。
これらのなかでも、メタロセン系触媒により重合された直鎖状ポリエチレンが特に好ましい。ここで、「メタロセン系触媒」とは、ビス(シクロペンタジニエル)金属錯体系の触媒であり、この触媒を用いた重合反応により得られる直鎖状ポリエチレンは分子量分布が狭くなる傾向にあるため、比較的低温のトリップ動作温度のサーミスタを一層容易に得ることができる。
このような高分子マトリックスの分子量としては、重量平均分子量Mwが10000〜5000000であることが好ましい。これらの高分子マトリックスは1種のみを用いても2種以上を併用してもよく、異なる種類の高分子マトリックス同士が架橋された構造を有するものを用いてもよい。
本体層11に低分子有機化合物が含有される場合は、高分子マトリックスの融点は、トリップ動作時の低分子有機化合物の融解による流動、素体の変形などを防止するため、低分子有機化合物の融点よりも高いことが望ましく、7℃以上高いことが好ましく、7〜40.5℃高いことが望ましい。また、高分子マトリックスの融点は、70〜200℃であることが好ましい。
導電性粒子としては、電子伝導性を有し、膨張前のサーミスタ素体10中において導電経路を構築できる粒子であれば特に制限なく使用することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、各形状の金属粒子若しくはセラミック系導電性粒子を用いることができる。これらは1種類を単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いられる。
これらのなかで、特に過電流保護素子のように、十分に低い室温抵抗値と十分な抵抗変化率の双方が求められる用途にサーミスタ100を使用する場合、導電性金属粒子を用いることが好ましい。この導電性金属粒子を用いると最終的に得られるサーミスタの抵抗値をより低くすることができる。そのような観点から、導電性金属粒子としては、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、銀、亜鉛若しくはコバルト等が用いられるが、特に、銀若しくはニッケルを用いると好ましい。さらにその形状としては、球状、フレーク状若しくは棒状等が挙げられるが、表面にスパイク状の突起を有するものが好ましい。このような導電性金属粒子は、その一つ一つの粒子(一次粒子)が個別に存在する粉体であってもよいが、それらの一次粒子が鎖状に連なりフィラメント状の二次粒子を形成していることがより好ましい。その材質はニッケルを主成分とすると好ましく、比表面積が0.4〜2.5m2/gであって、見かけ密度が0.2〜1.0g/cm3程度であるとより好ましい。ここで、「比表面積」とは、BET一点法に基づく窒素ガス吸着法により求められる比表面積を示す。
このような導電性粒子は下記式(I)で表される化合物の分解反応により得られる粒子であることが好ましい。なお、式(I)中、Mは、Ni、Fe及びCuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であると好ましく、Niであるとより好ましい。
M(CO)4 …(I)
すなわち、M(CO)4 → M + 4COの反応の進行により生成する粒子であることが好ましい。M(CO)4の分解反応により生成した金属粉は、反応条件により、粒子サイズや粒子形状を、上述した好ましい範囲に制御することができる。
一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5〜4.0μm程度である。これらのうち、一次粒子の平均粒径は1.0〜4.0μmが最も好ましい。この平均粒径はフィッシュー・サブシーブ法で測定したものである。
このような導電性粒子としては、より具体的には、フィラメント状ニッケルパウダ[商品名:INCO Type 255、270、277、287ニッケルパウダ(インコ社製)、商品名:INCO Type 210ニッケルパウダ(インコ社製)等]を挙げることができる。
低分子有機化合物としては、分子量1000程度までの結晶性物質であれば特に制限はないが、20〜30℃において固体であるものが好ましい。
このような低分子有機化合物としては、(1)ワックス(具体的にはパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスをはじめとする植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックスのような天然ワックス等)、(2)油脂(具体的には脂肪又は固体脂と称されるもの)などが挙げられる。
ワックスや油脂の成分は、炭化水素(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素等)、脂肪酸(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素の脂肪酸等)、脂肪酸エステル(具体的には、炭素数20以上の飽和脂肪酸とメチルアルコール等の低級アルコールとから得られる飽和脂肪酸のメチルエステル等)、脂肪酸アミド(具体的には、炭素数10以下の飽和脂肪酸第1アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド等)、脂肪族アミン(具体的には、炭素数16以上の脂肪族第1アミン)、高級アルコール(具体的には、炭素数16以上のn−アルキルアルコール)などから選択されるものであるが、これら自体を低分子有機化合物として用いることができる。これらは1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
特に、トリップ動作温度が100℃以下であるようなサーミスタを作製するためには、融点mp40〜100℃の低分子有機化合物を使用することが好ましい。
より具体的には、例えば、(1)パラフィンワックス[例えば、テトラコサンC24H50;融点(mp)49〜52℃、ヘキサトリアコンタンC36H74;mp73℃、商品名:HNP−10(日本精蝋社製);mp75℃、商品名:HNP−3(日本精蝋社製);mp66℃等]、(2)マイクロクリスタリンワックス[例えば、商品名:Hi−Mic−1080(日本精蝋社製);mp83℃、商品名:Hi−Mic−1045(日本精蝋社製);mp70℃、商品名:Hi−Mic2045(日本精蝋社製);mp64℃、商品名:Hi−Mic3090(日本精蝋社製);mp89℃、商品名:セラッタ104(日本石油精製社製);mp96℃、商品名:155マイクロワックス(日本石油精製社製);mp70℃等]、(3)脂肪酸[例えば、ベヘン酸(日本精化社製);mp81℃、ステアリン酸(日本精化社製);mp72℃、パルミチン酸(日本精化社製);mp64℃等]、(4)脂肪酸エステル[例えば、アラキン酸メチルエステル(東京化成社製);mp48℃等]、(5)脂肪酸アミド[例えば、オレイン酸アミド(日本精化社製);mp76℃等]がある。これらの低分子有機化合物は、トリップ動作温度等によって1種あるいは2種以上を選択して用いることができる。
低分子有機化合物の含有量は、高分子マトリックスの含有量に対して、体積基準で5〜50%とすることが好ましい。低分子有機化合物の含有量が体積基準で5%未満になると、抵抗変化率が十分に得られ難くなる傾向にある。低分子有機化合物の含有量が体積基準で50%を越えると、低分子有機化合物が溶融する際にサーミスタ素体10が大きく変形する他、導電性粒子との混練が困難になる傾向にある。
また、本体層11中の導電性粒子の含有量は、得られるサーミスタ100の非トリップ動作時の抵抗値と、温度上昇に伴う抵抗値の変化及び均一な混練物を得る観点から調整される。例えば、導電性粒子としてニッケルを主成分とする粒子を用いる場合、サーミスタ100の抵抗値を2×10−1Ω・cm以下にするようにその粒子の含有割合を調整すればよい。
なお、本体層11の構成材料として、上述のもの以外に、さらに従来のサーミスタ素体に添加される各種添加剤を含有してもよい。
<内部固定層12>
内部固定層12の構成材料としては、本体層11の膨張率よりも低い膨張率を示す材質のものであれば特に限定されないが、本実施形態の場合、本体層11が内部固定層12によって分離された状態となっているため、サーミスタ素体10内の電子伝導性を好適に保つために導電体を用いることが好ましい。
このような導電体のものとしては、ニッケル、銅、ステンレス、鉄、金、アルミ、白金、パラジウム、タングステン、錫、亜鉛、チタン、マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデン、銀等及びこれらの化合物(窒化物、炭化物、酸化物等)、混合物などが挙げられる。また、樹脂に上記金属元素やカーボンなど導電性物質を添加し、電子伝導性を有するように調整されたものであってもよい。
内部固定層12に有機材料を用いる場合、その融点は、本体層11中の高分子マトリックスの融点よりも大きくすることが好ましい。これにより、内部固定層12の有機材料が本体層11の高分子マトリックスよりも低い温度で融解膨張し、本発明の効果が妨げられることを防止できる。
サーミスタ素体10が上記の構成を有するものであると、サーミスタ100を繰り返しのトリップ動作をさせた場合におけるサーミスタ100の抵抗値の変化量を小さくさせることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。すなわち、温度の上昇によって、本体層11内部の高分子マトリックスが膨張する際、内部固定層12の存在によって、この高分子マトリックスの側面方向(図1のxy面上の方向)の膨張が妨げられる。これに伴い、本体層11内部において、高分子マトリックスと導電性粒子との間でトリップ動作時に発生するひずみが減少し、繰り返しのトリップ動作後における導電性粒子同士の配置のずれが抑制されるものと考えられる。その結果、有機質PTCサーミスタ100を繰り返しのトリップ動作をさせても、その室温時の抵抗値が上昇し難くなるものと考えられる。
このとき、本体層11の電極方向(図1のz方向)の膨張は、その側面方向の膨張に比べると、内部固定層12による影響をほとんど受けない。そのため、この電極方向の膨張により、サーミスタ素体10の「正の抵抗−温度特性」が保持されることとなる。
次に、上述した有機質PTCサーミスタ100の製造方法の好適な一例について、図2を参照しながら説明する。
はじめに、高分子マトリックスに、あらかじめ乾燥処理を施した導電性粒子を加え、例えばミル等の撹拌手段を用いて撹拌混合することにより、混練物を調製する。このとき、熱可塑樹脂を用いる場合には、撹拌混合とともに熱処理(溶融混練)を行ってもよい。熱処理の温度は、高分子マトリックスの融点以上の温度であることが好ましく、高分子マトリックスの融点又は軟化点に対して5〜40℃以上高い温度であることがより好ましい。
この混練の作業は、公知の混練技術を使用すればよく、ニーダ、押し出し機、ミル、ディスパー等の撹拌手段で、例えば、10〜120分程度行えばよい。具体的には、例えば、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)などを用いることができる。
低分子有機化合物を含ませる場合は、あらかじめ高分子マトリックスと低分子有機化合物とを溶融混合するか、溶媒中で溶解し混合しておくことが好ましい。
なお、必要に応じて混練物を更に粉砕処理し、粉砕物を再び混練しても良い。混練においては、高分子マトリックスの熱劣化を防止する目的で酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノ−ル類、有機イオウ類、フォスファイト類等が用いられる。
得られた混錬物を、公知の熱圧着機もしくは加圧ローラ等を用いて所定の厚さ(例えば0.8mm)のシート形状にプレス成型した後、所定の面積(例えば9mm×3.5mm)を有する角型に打ち抜くことにより、成形シート16を2枚作製する。なお、必要に応じて、異なる材質からなる成形シート16を2枚作製してもよい。
次に、電極板13、14、及び内部固定層12の形成用シート17(以下、「内部固定シート」という。)を用意する。ここで、電極板13、14としては、通常の有機質PTCサーミスタの電極材料に用いられるものであれば、特に限定されることなく採用でき、例えばニッケルなどの金属板や金属箔を挙げることができる。その厚みは25〜200μm程度である。電極板13、14の形状は特に限定されない(例えば柄の付いたもの等)。また、内部固定シート17としては、上述の内部固定層12の材料からなり、その厚みは、例えば導電体のもので25〜100μm程度である。縦横の寸法は成形シート16と同寸(例えば9mm×3.5mm)である。
続いて、図2に示すように、これらを電極板13、成形シート16、内部固定シート17、成形シート16及び電極板14の順に位置合わせを行いながら積層し、公知の熱圧着機若しくは加圧ローラを用いて熱圧着することにより、有機質PTCサーミスタ100を作製することができる。
なお、熱圧着後、必要に応じて架橋処理を施してもよい。具体的には、電子線等を高分子マトリクス中に照射することにより架橋を行う放射線架橋、有機過酸化物をサーミスタ素体中に混入させ、熱処理でラジカルを発生させ架橋処理を行う化学架橋、縮合可能なシランカップリング剤等を高分子マトリックス中に結合させ、水の存在下で脱水縮合反応により架橋を行う水架橋等が用いられる。これにより、本体層11内の高分子材料の架橋反応を進行させ、熱的、機械的に安定化させることができる。
また、上記の熱圧着の際、互いに密着しやすくするために、その熱圧着の事前処理として、電極板13の接合予定面13b、電極板14の接合予定面14b、及び内部固定シート17の接合予定面17a,17bに粗化処理を施してもよい。粗化処理は公知の方法を用いることができる。例えば、ニッケル箔や銅箔の場合は、電気めっき処理を用いることができる。その他の材料である場合についても、エッチング処理、プラズマ処理、サンドブラスト処理等を行うことで表面を粗化することができる。
上記粗化処理は、アンカー効果によって接合面の密着性を高めるものであるが、それ以外にも、シランカップリング処理や、紫外線による表面改質、プラズマ処理などの方法を用いて上記接着予定面13b,14b,17a、17bでの密着性を高めることも可能である。
このようなサーミスタ100は、使用時はリード線等を接合して用いられる。すなわち、電極板13、14にあるリード端子13a、14aにリード線等を接合することによりサーミスタ100の電極板13及び電極板14から外部に電荷を放出又は注入する。このリード線等の接合方法としては、通常のサーミスタの製造方法において用いられる方法であれば特に限定されることなく用いることができる。
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態に係る有機質PTCサーミスタ200について図3及び図4を参照して説明する。
本実施形態の有機質PTCサーミスタ200が第1実施形態の有機質PTCサーミスタ100と異なる点は、内部固定層が本体層の一部と対向し、本体層において内部固定層と対向しない部分同士は接触していることである。具体的には、図3及び図4に示すように、内部固定層22が本体層21の外周部と対向し、内部固定層22がサーミスタ素体20の外周部のみに枠状に形成されている。
本実施形態では、サーミスタ素体20において、本体層21の中央部同士は互いに接触して接触領域23を形成している。これによって、サーミスタ素体20の電極方向の電子伝導性が十分に確保されるため、内部固定層22としては、第1実施形態で例示した導電体のもの以外に、不導体のものも好適に使用することができる。
このような不導体のものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコールなどの結晶性樹脂や、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、熱硬化性樹脂などの非晶性樹脂が挙げられる。その他、セラミックス材料や、紙、不織布、ガラスクロス等を用いたシートや板でも使用可能である。
内部固定層22が不導体である場合、内部固定層22は電極方向に大きな凹凸(図4の点線領域22a参照。)を有していてもよく、また、本体層21の厚みを薄くすることもできる。内部固定層22は、電極板13、14に近くても破壊電圧の低下等の影響を及ぼし難いためである。
このような有機質PTCサーミスタ200は、図5のようにして作製することができる。すなわち、矩形形状の中央部に貫通孔27aを有する枠状の内部固定シート27を用意し、電極板13、成形シート26、枠状の内部固定シート27、成形シート26及び電極板14をこの順で重ねて熱圧着させる。この熱圧着時に、内部固定シート22の貫通孔の部分で成形シート26、26同士が密着されることとなり、図3に示すような有機質PTCサーミスタ200が得られる。
(第3実施形態)
続いて、第3実施形態に係る有機質PTCサーミスタ300について図6を参照して説明する。
本実施形態の有機質PTCサーミスタ300が第2実施形態の有機質PTCサーミスタ200と異なる点は、内部固定層32がサーミスタ素体30の長辺側のみに設けられていることである。すなわち、2つの内部固定層32は、本体層31の外周部のうちの長辺側の部分に対向しており、本体層31は、長辺側以外の領域において、互いに接触して接触領域33を形成している。
このような有機質PTCサーミスタ300は、図7のようにして作製することができる。すなわち、長尺方向に成形シート36の長辺と同じ長さを有する2枚の長尺状の内部固定シート37を用意し、電極板13上に成形シート36を重ね、成形シート36の長辺側にそれぞれ長尺状の内部固定シート37を配置し、更にその上に、成形シート36及び電極板14をこの順で重ねて熱圧着させる。この熱圧着時に、内部固定シート37が配置されていない部分で成形シート36、36同士が密着されることとなり、図6に示すような有機質PTCサーミスタ300が得られる。
(第4実施形態)
続いて、第4実施形態に係る有機質PTCサーミスタ400について図8を参照して説明する。
本実施形態の有機質PTCサーミスタ400が第2実施形態の有機質PTCサーミスタ200と異なる点は、内部固定層42がサーミスタ素体40の短辺側のみに設けられていることである。すなわち、2つの内部固定層42は、本体層41の外周部のうちの短辺側の部分に対向しており、本体層41は、短辺側以外の領域において、互いに接触して接触領域43を形成している。
このような有機質PTCサーミスタ400は、図9のようにして作製することができる。すなわち、長尺方向に成形シート46の短辺と同じ長さを有する2枚の長尺状の内部固定シート47を用意し、電極板13上に成形シート46を重ね、成形シート46の短辺側にそれぞれ長尺状の内部固定シート47を配置し、更にその上に、成形シート46及び電極板14をこの順で重ねて熱圧着させる。この熱圧着時に、内部固定シート47が配置されていない部分で成形シート46、46同士が密着されることとなり、図8に示すような有機質PTCサーミスタ300が得られる。
(第5実施形態)
続いて、第5実施形態に係る有機質PTCサーミスタ500について図10及び図11を参照して説明する。
本実施形態の有機質PTCサーミスタ500が第2実施形態の有機質PTCサーミスタ200と異なる点は、内部固定層52がサーミスタ素体50の中央部のみに設けられている点である。すなわち、内部固定層52は本体層51の中央部に対向しており、本体層51の外周部同士は互いに接触して接触領域53を形成している。
このような有機質PTCサーミスタ500は、図12のようにして作製することができる。すなわち、縦横の寸法がいずれも成形シート56よりも小さい内部固定シート57を用意し、電極板13上に成形シート56を重ね、成形シート56の中央部に小形の内部固定シート57を配置し、更にその上に、成形シート56及び電極板14をこの順で重ねて熱圧着させる。この熱圧着時に、内部固定シート52が配置されていない外周部で成形シート56、56同士が密着されることとなり、図10に示すような有機質PTCサーミスタ500が得られる。
(第6実施形態)
続いて、第6実施形態に係る有機質PTCサーミスタ600について図13を参照して説明する。
本実施形態の有機質PTCサーミスタ600が第1実施形態の有機質PTCサーミスタ100と異なる点は、サーミスタ素体60内に本体層61が3層、内部固定層62が2層形成されている点である。具体的には、サーミスタ素体60は、電極方向に、本体層61、内部固定層62、本体層61、内部固定層62、本体層61の順で積層されたものである。
このような本実施形態の有機質PTCサーミスタ600の厚みが、第1実施形態の有機質PTCサーミスタ100の厚みとほぼ同程度である場合、有機質PTCサーミスタ600は、有機質PTCサーミスタ100に比べて、繰り返しのトリップ動作をさせた場合における抵抗値の変化量を小さくすることができる。これは、内部固定層を複数有すると、トリップ動作時の本体層61での側面方向の膨張をより抑制することができるためと考えられる。
なお、これらの内部固定層62は、2層とも同じ材質である必要はなく、目的に応じて異なる材質で形成されていてもよい。
また、本実施形態では2層の内部固定層を有する有機質PTCサーミスタ600を示したが、必要に応じて、3層以上の内部固定層を形成してもよい。その場合も、各層は同じ材質である必要はなく、目的に応じて、異なる材質で形成されていてもよい。特に、サーミスタ素体の厚みが大きい場合は、このようにサーミスタ素体内に内部固定層を複数設けることが極めて有効である。
以上、本発明のサーミスタの好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、電極方向からみた内部固定層の断面形状は、本発明の効果が得られる範囲内において特に限定されない。すなわち、使用する内部固定シートの形状は、正方形、ひし形、十字形等、目的に合わせた形状を有していればよく、格子状、網状、メッシュ状等に穴加工されたものであってもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
結晶性高分子マトリックスとしてメタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン(融点122℃、密度0.93g/cm3)を60体積%、低分子有機化合物としてポリエチレンワックス(融点100℃、分子量600)を10体積%、導電性粒子としてフィラメント状ニッケル粉末(平均粒径0.7μm)30体積%をミルに投入し、150℃の温度で30分間ラボプラストミル(東洋精機社製)にて加熱混練した。
混練終了後、この混練物を取り出し、0.4mmの厚さになるよう熱成形した。得られたシートを室温まで自然冷却したものを9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×0.4mmの直方体形状の成形シートを得た。このような成形シートを2枚作製した。
次に、両面粗化ニッケル箔(厚さ25μm、線膨張係数1.3×10−5/℃)を上記成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×25μmの内部固定シートを得た。
続いて、図2に示すように、得られた内部固定シートの両面に上記成形シート2枚を対向するように挟み、さらにその両面に、電極板として片面粗化ニッケル板(厚さ100μm)2枚を対向するように挟んで、それぞれ位置合わせを行った。そして、熱圧着機によりこれらを圧着し、全体で厚さ0.7mmの成形体を得た。
得られた成形体に、電子線を加速電圧2MeV、照射線量300kGyの照射条件にて照射し、実施例1の有機質PTCサーミスタを得た(図1参照。)。以下に挙げる実施例及び比較例も含め、有機質PTCサーミスタの厚みは全て0.7mmになるように作製した。
なお、両面粗化ニッケル箔の線膨張係数は、熱機械分析装置(SS6100、セイコー電子製)を用いて測定した。まず、測定物と同材質である10mm×5.0mm×0.1mmの直方体形状のサンプルを用意し、その長手方向に0.1mgの荷重を加えながら、−40℃から60℃まで毎分2℃の昇温速度で測定を行った。また、上述の成形シートの一部を、上記と同条件で熱プレス及び電子線照射を行った後に切削加工して、実施例1の有機質PTCサーミスタでのサーミスタ素体の本体層と同じ組成、強度からなるサンプルを作製し、上述と同様にして線膨張係数を測定した。その測定値は4.0×10−4/℃であった。
[実施例2]
両面粗化ニッケル箔(厚さ40μm、線膨張係数1.4×10−5/℃)を上記成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、さらにその内側で8mm×2.5mmの大きさに打ち抜き、内部をくり抜いて、9mm×3.5mm×40μm(孔部寸法8mm×2.5mm)の枠状の内部固定シートを得た。
図5に示すように、実施例1の片面粗化ニッケル板、実施例1の成形シート、及び上記内部固定シートを重ねて作製した以外は実施例1と同様にして実施例2の有機質PTCサーミスタを得た(図3参照。)。
[実施例3]
両面粗化ニッケル箔(厚さ25μm、線膨張係数1.5×10−5/℃)を9mm×1.0mmの大きさに打ち抜き、9mm×1.0mm×25μmの内部固定シートを得た。このような内部固定シートを2枚作製した。
図7に示すように、実施例1の片面粗化ニッケル板、実施例1の成形シート、及び上記内部固定シート2枚を重ねて作製した以外は実施例1と同様にして実施例3の有機質PTCサーミスタを得た(図6参照。)。
[実施例4]
両面粗化ニッケル箔(厚さ25μm、線膨張係数1.3×10−5/℃)を3.5mm×2.0mmの大きさに打ち抜き、3.5mm×2.0mm×25μmの内部固定シートを得た。このような内部固定シートを2枚作製した。
図9に示すように、実施例1の片面粗化ニッケル板、実施例1の成形シート、及び上記内部固定シート2枚を重ねて作製した以外は実施例1と同様にして実施例4の有機質PTCサーミスタを得た(図8参照。)。
[実施例5]
両面粗化ニッケル箔(厚さ25μm、線膨張係数1.3×10−5/℃)を2.5mm×2.0mmの大きさに打ち抜き、2.5mm×2.0mm×25μmの内部固定シートを得た。
図12に示すように、実施例1の片面粗化ニッケル板、実施例1の成形シート、及び上記内部固定シートを重ねて作製した以外は実施例1と同様にして実施例5の有機質PTCサーミスタを得た(図10参照。)。
[実施例6]
実施例1の混練物を0.27mmの厚さに熱成形し、得られたシートを室温まで自然冷却したものを9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×0.27mmの直方体形状の成形シートを得た。このような成形シートを3枚作製した。さらに、実施例1の内部固定シートを2枚作製した。
得られた成形シート3枚の間にそれぞれ内部固定シートを挟んで作製した以外は実施例1と同様にして実施例6の有機質PTCサーミスタを得た(図13参照。)。
[実施例7]
実施例1の混練物を0.2mmの厚さに熱成形し、得られたシートを室温まで自然冷却したものを9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×0.2mmの直方体形状の成形シートを得た。このような成形シートを4枚作製した。さらに、実施例1の内部固定シートを3枚作製した。
得られた成形シート4枚の間にそれぞれ内部固定シートを挟んで作製した以外は実施例1と同様にして実施例6の有機質PTCサーミスタを得た。
[実施例8]
両面粗化銅箔(厚さ25μm、線膨張係数1.0×10−5/℃)を成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×25μmの内部固定シートを得た。実施例1の内部固定シートに代えて、この内部固定シートを用いて作製した以外は実施例1と同様にして実施例8の有機質PTCサーミスタを得た。
[実施例9]
両面粗化アルミ箔(厚さ25μm、線膨張係数1.3×10−5/℃)を成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×25μmの内部固定シートを得た。実施例1の内部固定シートに代えて、この内部固定シートを用いて作製した以外は実施例1と同様にして実施例9の有機質PTCサーミスタを得た。
[実施例10]
両面粗化ステンレス箔(厚さ25μm、線膨張係数1.65×10−5/℃)を成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×25μmの内部固定シートを得た。実施例1の内部固定シートに代えて、この内部固定シートを用いて作製した以外は実施例1と同様にして実施例10の有機質PTCサーミスタを得た。
[実施例11]
両面粗化された高密度ポリエチレン(厚さ40μm、線膨張係数1.6×10−4/℃)を上記成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、さらにその内側で8mm×2.5mmの大きさに打ち抜き、内部をくり抜いて、9mm×3.5mm×40μm(孔部寸法8mm×2.5mm)の内部固定シートを得た。
図5に示すように、実施例1の片面粗化ニッケル板、実施例1の成形シート、及び上記内部固定シートを位置合わせして作製した以外は実施例1と同様にして実施例11の有機質PTCサーミスタを得た(図3参照。)。
[比較例1]
実施例1の混練物を0.8mmの厚さに熱成形し、得られたシートを室温まで自然冷却した後、9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×0.8mmの直方体形状の成形シートを得た。
内部固定シートを使用せず、この成形シートの両面に、端子電極として片面粗化ニッケル板(厚さ100μm)2枚を対向するように挟んで作製した以外は実施例1と同様にして比較例1の有機質PTCサーミスタを得た。
[比較例2]
両面粗化された低密度ポリエチレン(厚さ40μm、線膨張係数4.4×10−4/℃)を上記成形シートと同様の9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、さらにその内側で8mm×2.5mmの大きさに打ち抜き、内部をくり抜いて、9mm×3.5mm×40μm(孔部寸法8mm×2.5mm)の枠状の内部固定シートを得た。
図5に示すように、実施例1の片面粗化ニッケル板、実施例1の成形シート、及び上記内部固定シートを位置合わせして作製した以外は実施例1と同様にして比較例2の有機質PTCサーミスタを得た(図3参照。)。
(評価方法)
上記実施例1〜11及び比較例1〜2に係る有機質PTCサーミスタを24時間空気中で放置した後、室温抵抗値を測定し初期値の確認をした。次いで、有機質PTCサーミスタを、このサーミスタを十分にトリップ動作をさせることが可能な電気回路(電源5V、60A)に接続し、通電(ON)15秒間、切電(OFF)165秒間のON−OFFによるトリップ動作を1000サイクル繰り返した。その後、再び24時間空気中で放置し、室温抵抗値を測定した。その結果を表1に示す。なお、内部固定層(内部固定シート)の材質や線膨張係数についても表1にまとめて示した。
表1より明らかなように、実施例1〜11はトリップ動作を1000サイクル繰り返しても室温抵抗値を十分に低く保つことができ、高い信頼性を有するサーミスタであることが確認された。一方、内部固定層を有さない従来タイプの比較例1や、内部固定シート(内部固定層)の線膨張係数が、本体層の線膨張係数よりも大きい比較例2では、十分な信頼性を得ることができないことが確認された。
また、実施例1及び比較例1の破壊電圧を測定したところ、実施例1では70V程度、比較例1では60V程度であり、ほぼ同様の値を示した。
10,20,30,40,50,60…サーミスタ素体、11,21,31,41,51,61…本体層、12,22,32,42,52,62…内部固定層、23,33,43,53…接触領域、16,26,36,46,56…成形シート、17,27,37,47,57…内部固定シート、13,14…電極板、13a,14a…リード端子、13b,14b,17a,17b…接合予定面、27a…貫通孔、100,200,300,400,500,600…有機質PTCサーミスタ。