JP4296641B2 - ゲル組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゲル組成物に関する。更に詳しくは、リチウム塩を保持せしめることによりゲルポリマー電解質リチウムイオン二次電池を形成し得るゲル組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話やパーソナル・コンピュタの小型化や軽量化のために、高エネルギー密度の電池が要求され、こうした要求に対応する電池として、体積あるいは重量当りのエネルギー密度や電池容量の大きいリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
一般に製品化されているリチウムイオン二次電池は、正極であるリチウム複合酸化物と負極である導電性炭素質材料の両電極間に、微多孔性膜からなる高分子セパレータを配し、これらがイオン移動媒体であるリチウム塩含有有機電解液中に浸漬された状態となっている。また、有機電解液の漏出を防ぐため、必要個所に電気絶縁性のパッキンを用い、更に電池構造体全体を重厚な金属容器等の密閉容器中に封入した構造をとっている。
【0004】
このようにして構成されている汎用的なリチウムイオン二次電池は、金属リチウムを使用していないため安全性が高く、しかも高エネルギー密度で長寿命であるという特徴を有し、現在小型携帯電子機器用電源として、その需要を急速に拡大しつつある。
【0005】
しかしながら、電池内部において比較的束縛の少ない状態で存在する可燃性の有機電解液が、外部へ漏洩するのを確実に防止しようとすると容器構造が複雑化し、またそうした構造をとっても、落下したりあるいは過充電、過放電、外部短絡、内部短絡、過大電流、異常高温等の過酷な条件に遭遇すると、異常内圧などによる破裂が起り、有機電解液の外部への漏洩や発火などといった危険を避け難いという問題がみられる。こうしたことから、リチウム二次電池では、有機電解液の漏洩対策や着火性低減化対策などの安全性向上のための要求が高まってきている。
【0006】
こうした要求に対応して、液漏れがなくなることによる電池の信頼性や安全性を向上させると共に、薄膜化、積層体化、パッケージの簡略化、軽量化などが期待されている真性ポリマー電解質をイオン移動媒体として構成した真性ポリマー電解質リチウムイオン二次電池が開発されている。特に、イオン伝導性高分子を用いた真性ポリマーの電解質は、易加工性を有するため、電池との積層構造体の形成、電極のイオン吸蔵および放出による体積変化に対応した界面保持ができるなどの好ましい性質を発揮するものとして期待されている。
【0007】
このような真性ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシドのアルカリ金属塩複合体がBritish Polymer Jaurnal第7巻第319頁(1975)に報告されて以来、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンエーテル系材料を始め、ポリアクリロニトリル、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン等を骨格とする真性ポリマー電解質材料が活発に研究されている。これらの真性ポリマー電解質は、通常高分子化合物中に電解質化合物が均一に固溶した形態をとっているが、そのイオン伝導度は有機電解質と比較して著しく低く、これを用いて構成した電池は、電池抵抗が高いなどの課題を有している。
【0008】
こうした有機電解質リチウムイオン二次電池および真性ポリマー電解質リチウムイオン二次電池にみられる問題を改善するために、汎用有機電解液リチウムイオン二次電池の多孔質高分子セパレータの位置に、有機電解質を確実な状態で内部に含浸保持した高分子マトリックスからなるゲル状のポリマー電解質を配置することにより、重たい密閉金属容器の必要性をなくし、あるいは軽量化したタイプのリチウムイオン二次電池、つまりゲルポリマー電解質リチウムイオン二次電池が提案されている。
【0009】
かかるゲルポリマー電解質形成用の高分子マトリックスとしては、難燃性という特徴を有するフッ素系樹脂が多く用いられ、特に結晶性と非晶性とのバランスの良いフッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロペン(HFP)との共重合体が特に好ましい例として挙げられている(米国特許第5,296,318号明細書、特許公表公報8-507407)。しかしながら、このゲルポリマー電解質リチウムイオン二次電池は、充・放電サイクル時の容量維持率が有機電解液を用いた電池よりも劣るため、放電容量の増加が望まれている。
【0010】
放電容量を増加させるためには、ゲル電解質の有機電解液の保持容量を高める必要がある。すなわち、有機電解液の保持量が少ないゲルポリマー電解質は、リチウムイオンの移動度が低くてイオン導電率が低くなり、また内部抵抗が高くなるため充・放電効率が低下し、充電容量およびサイクル時の容量維持率が低下する結果として、電池の放電容量を低下させることになる。
【0011】
前記VdF-HFP共重合体において、VdFは共重合体の骨格部で機械的強度の向上に寄与し、更に有機電解液を保持する。HFPは、共重合体中に非晶質の状態で取り込まれてリチウムイオンの透過部として機能し、更に有機電解液の保持に寄与する。こうしたことから、この共重合体の有機電解液保持容量を高めるためには、HFPの共重合比率を高めればよいことになる。
【0012】
しかるに、HFPの共重合比率の最大値は、通常約60重量%程度であり限界がみられるばかりではなく、HFPの共重合比率を高めると有機電解液の保持容量は高まるものの、ゲルポリマー電解質の強度は低下し、更には多くのHFPを共重合させたものはゲルを形成しなくなるという問題をも生ずるようになる。従って、従来のゲルポリマー電解質においては、有機電解液の保持容量の増加、有機電解液の滲み出し防止、強度の改善などが課題となっている。
【0013】
また、電池の特性上では、低温特性の改善などの要求も高まってきている。このような有機電解液リチウムイオン電池における電池特性の改善は、有機電解液として用いられる有機溶媒の種類や混合比を変えることにより低温特性を改善せんとする試みや室温における充・放電効率、大電流放電特性、サイクル特性、低温特性を改善するための試みとして検討されている。
【0014】
誘電率が高い有機溶媒は、リチウム塩の解離を促進する作用があるため、電解液としては比誘電率の高いものが適しているが、比誘電率が高く、極性の強い溶媒は一般に粘度が高いため、イオンの移動抵抗が大きくなるという欠点がみられる。そのため、電解液として使用する場合には、低粘度溶媒を加えて電解液粘度を下げ、粘度の調整を行う必要がある。
【0015】
ところで、低粘度溶媒はイオン解離度が小さいので、高誘電率溶媒と低粘度溶媒の選択およびその混合比率が、適切な比誘電率と粘度とを得るための重要な要素となる。また、組合せる溶媒の種類によっても、電池特性が変化することも明らかにされている(東レリサーチセンター発行「高性能二次電池材料の最初技術動向」第100〜112頁、特開平8-64241号公報、同8-50923号公報、同7-235327号公報、同7-153486号、同6-267589号、同6-52887号公報など)。
【0016】
しかるに、ゲルポリマー電解質リチウムイオン二次電池においては、有機電解液をポリマーが保持してゲル組成物としなければならないため、有機電解液の種類や混合比率如何になっては、従来用いられてきたポリマーの種類や共重合組成比では、上記のような特性の改善が期待される有機溶媒電解質に溶解もしくは過剰な膨潤度を示すことが本発明者らによって確認されており、結局従来用いられているポリマー組成を有する重合体では、有機溶媒電解液による特性を十分に発揮し得るゲル組成物が得られ難いというのが実情である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、実用的なゲルポリマー電解質リチウムイオン二次電池の特性として重要な低温特性を向上させるために用いられる有機電解液を多量に保持することが可能であり、かつ有機電解液による樹脂劣化の程度を軽減させたゲル組成物を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
かかる本発明の目的は、クロロトリフルオロエチレンを1〜2重量%共重合させたフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体および高誘電率溶媒と低粘度溶媒との炭酸エステル混合溶媒よりなる、リチウム塩を溶解し得る有機溶媒を含有するゲル組成物によって達成される。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるVdF-CTFE(クロロトリフルオロエチレン)共重合体は、CTFEを1〜2重量%共重合させている。この範囲外のCTFE共重合割合のものを用いると、有機電解液による過剰な膨潤が起り、電解液の滲み出しや樹脂劣化を生ずるようになる。
【0020】
VdF-CTFE共重合体中には、7重量%以下の割合でフッ化ビニリデンおよびクロロトリフルオロエチレン以外の含フッ素単量体、例えばヘキサフルオロプロペン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等を共重合させることもできる。
【0021】
また、用いられるVdF-CTFE共重合体の数平均分子量Mnは、約200,000〜700,000、好ましくは約200,000〜500,000であることが望ましい。これ以下のMnのものを用いると、ゲル組成物の機械的強度が低下するようになり、一方これ以上のMnのものを用いると、有機電解液と混合したときの溶液粘度が著しく高くなり、リチウム塩との均一混合が困難となる。
【0022】
リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiClO4、LiBF 4 、Li(CF3SO2)2N、LiCF3SO3、LiC4F9SO3等の少くとも一種が用いられる。これらのリチウム塩は、約0.1〜2モル濃度、好ましくは約0.25〜1.75モル濃度の有機溶媒溶液として用いられる。
【0023】
VdF-CTFE共重合体100重量部当り約10〜200重量部の割合で用いられる、電解質化合物であるリチウム塩化合物を溶解させる有機溶媒としては、化学的に安定なものであれば任意のものを使用し得るが、好ましくは炭酸エステルが用いられる。また、この有機溶媒は電解液として用いられるため、誘電率の高いもの程リチウム塩の解離を促進するのに有効であるが、比誘電率が高くかつ極性の強い溶媒は、一般に粘度が高くなるため、イオンの移動抵抗が大きくなるという欠点がみられる。
【0024】
そのため、電解液として使用される炭酸エステルは、高誘電率溶媒に低粘度溶媒を加えて、電解液粘度を調整した上で用いられる。炭酸エステルとしては、鎖状、環状のいずれをも使用することができる。高誘電率溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等の比誘電率が約30以上、好ましくは約60以上のものが用いられ、また低粘度溶媒としては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の粘度が約1センチポイズ以下、好ましくは約0.7センチポイズ以下のものが用いられる。これらの炭酸エステル類は、低粘度溶媒に対して高誘電率溶媒が約1/4〜4/1、好ましくは約1/2〜2/1の重量比で用いられる。なお、これらの炭酸エステルは、他の有機溶媒と混合して用いることもできる。
【0025】
更に、低温特性を向上させるためには、高融点(高誘電率)炭酸エステルと低融点(低粘度)炭酸エステルとの混合溶媒を用い、混合物中の低融点炭酸エステルの混合割合を高くして用いることが好ましい。
【0026】
リチウム塩を含有するゲル組成物の調製は、フィルム状VdF-CTFE共重合体を室温乃至用いられた炭酸エステルの沸点以下の温度のリチウム塩炭酸エステル溶液中に数分間乃至数10時間程度浸漬し、その後浸漬液中から引き上げられたフィルムの表面に付着したリチウム塩含有電解液をロ紙で吸収する等の方法で物理的に除去することによって行われる。なお、VdF-CTFE共重合体からのフィルムの形成は、共重合体をアセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド等の可溶性溶媒に溶解させた溶液を、ガラス板、金属板、樹脂シート等の基質上にバーコータ、ドクターブレード等を用いる方法あるいはキャスト・スピンコート法による塗布を行ない、室温乃至約150℃で溶媒を乾燥除去させることにより行われる。
【0027】
得られたリチウムイオン二次電池用ゲルポリマー電解質は、リチウム挿入化合物等からなる正極およびリチウム、リチウム合金、炭素等からなる負極との間に配置され、リチウム二次電池を形成させる。
【0028】
【発明の効果】
実用的なゲルポリマー電解質リチウムイオン二次電池の特性として重要な低温特性を向上させるためには、有機電解液保持容量を高めることが必要であるが、本発明に係るゲル組成物は有機電解液による膨潤度を低下せしめながらそれを可能としており、また樹脂劣化度を2%以下に低下させることにより、有機電解液の滲み出しの防止や強度の改善といった効果をも奏する。
【0029】
【実施例】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0030】
参考例
攪拌機を備えた容量10LのSUS316製オートクレーブを排気し、そこに
マロン酸ジエチル 1.0g
フルオロオクタン酸アンモニウム 5.0g
リン酸水素二ナトリウム 10.0g
イオン交換水 4500g
を導入した後、
フッ化ビニリデン[VdF] 490g(98重量%)
クロロトリフルオロエチレン[CTFE] 10g( 2重量%)
の混合ガスを、ゲージ圧2.5MPaで、コンプレッサを用いて圧入した。その後、オートクレーブを80℃に加温し、軽量ポンプによりペルオキソ硫酸アンモニウム4.0gを導入し、重合反応を開始させた。
【0031】
重合反応開始後、VdF1470g(98重量%)およびCTFE30g(2重量%)の混合ガスを2時間かけて分添し、分添終了後反応器を室温迄冷却した。残存ガスをパージし、乳濁液をオートクレーブから取り出し、1重量%塩化カルシウム水溶液中に攪拌しながら滴下した。滴下終了後、凝析した生成物をロ別し、超純水(20℃で1.0μS/cmのイオン伝導度)で攪拌、洗浄し、ロ過、乾燥させた。
【0032】
白色粉末状のVdF-CTFE共重合体が1500g(重合率75%)得られ、その共重合組成(19F-NMRによる)はVdF98重量%、CTFE2重量%で、数平均分子量Mnは約210,000で、また融点(DSC法による)は158℃であった。
【0033】
実施例1
参考例で得られたVdF-CTFE共重合体の10重量%アセトン溶液を、バーコータを用いて銅箔上に塗布、乾燥させた後、剥離することにより、厚さ100μmのフィルムを得た。このフィルムを、50℃のエチレンカーボネート-メチルエチルカーボネート(体積比1:1)混合溶媒中に1時間浸漬保持すると、その膨潤度(膨潤前のサンプル重量に対する増加重量の割合)は55%であった。
【0034】
また、この膨潤したフィルムを、重量変化がみられなくなる迄混合溶媒を減圧下で留去し、乾燥させた後、10mM臭化リチウムジメチルホルムアミド溶液に溶かし、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を行った結果、樹脂劣化度(総樹脂ピーク面積に対する、樹脂劣化により生じた低分子量共重合体よりなる劣化樹脂のピーク面積の割合)は0.5%であった。
【0035】
実施例2
実施例1において、エチレンカーボネート-ジメチルカーボネート(体積比2:1)混合溶媒を用いると、フィルムの膨潤度は43%であり、樹脂劣化により生じた低分子量共重合体よりなる劣化樹脂のピークは確認されなかった。
【0036】
比較例1
実施例1において、参考例で得られたVdF-CTFE共重合体の代りに、VdF-HFP(重量比89:11)共重合体(エルファトケム社製品KYNAR2801;融点143℃)を用いると、フィルムの膨潤度は335%であり、樹脂劣化度は14%であった。
【0037】
比較例2
実施例2において、参考例で得られたVdF-CTFE共重合体の代りに、VdF-HFP共重合体(KYNAR2801)を用いると、フィルムの膨潤度は203%であり、樹脂劣化度は6%であった。
Claims (6)
- クロロトリフルオロエチレンを1〜2重量%共重合させたフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体および高誘電率溶媒と低粘度溶媒との炭酸エステル混合溶媒よりなる、リチウム塩を溶解し得る有機溶媒を含有してなるゲル組成物。
- フッ化ビニリデンおよびクロロトリフルオロエチレン以外の含フッ素単量体を7重量%以下の割合で共重合させたフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体が用いられた請求項1記載のゲル組成物。
- 数平均分子量Mnが200,000〜700,000のフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体が用いられた請求項1または2記載のゲル組成物。
- フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体100重量部に対しリチウム塩を溶解し得る有機溶媒が10〜200重量部の割合で用いられた請求項1記載のゲル組成物。
- 請求項1記載のゲル組成物にリチウム塩を添加したリチウムイオン二次電池用ゲルポリマー電解質。
- 正極および負極間に請求項5記載のゲルポリマー電解質を配置したリチウムイオン二次電池。
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