以下、実施の形態に係る物標検出装置について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1は、実施の形態に係る物標検出装置100のブロック図である。
物標検出装置100は、検出範囲R1を有する第1のレーダ100aと、検出範囲R2を有する第2のレーダ100bと、双方のレーダ100a,100bの出力に基づいて演算を行う演算部100cを備えている。扇形の遠距離狭角検出範囲R1と、扇形の近距離広角検出範囲R2とは、それぞれの中心を共通として、部分的に重複している。遠距離狭角検出範囲R1においては、非重複検出範囲をR2aとし、重複検出範囲をR1bとする。近距離広角検出範囲R2においては、左右の非重複検出範囲をR1a,R1cとし、中央の重複検出範囲をR2bとする。
検出範囲R1を有する第1のレーダ100aはDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)のFM−CW方式レーダであり、検出範囲R2を有する第2のレーダ100bは、受信信号の位相差検出をする2チャンネル・モノパルス方式レーダである。
まず、第1のレーダ100aとしてのFM−CW方式レーダについて説明し、次に、第2のレーダ100bとしての2チャンネル・モノパルス方式レーダ100bについて説明し、しかる後、これら複数のレーダを用いた物標検出装置の実施形態について説明する。
(第1のレーダ)
図2は、第1のレーダ100aとしてのFM−CW方式レーダのブロック図である。
このFM−CW方式レーダは、送信1チャネル、受信8チャネルのDBFレーダである。したがって、受信用アレーアンテナ1は各チャネルに対応する8個の受信用アンテナ素子CH1〜CH8を備えている。各アンテナ素子CH1〜CH8はアイソレータ群12を構成する個々のアイソレータを介して、それぞれに対応するミキサ11−1〜11−8に接続されている。
ミキサ11−1〜11−8は、各アンテナ素子に到達した受信信号に、送信信号の一部をミキシングして、ビート信号を得る。ミキサ11−1〜11−8には、ローカル信号としての送信信号成分が与えられる。詳説すれば、この送信信号成分は、電圧制御型発振器(VCO)14から、分岐回路15およびアイソレータ群13を介して、ミキサ11−1〜11−8に与えられる。
電圧制御型発振器14は、中心周波数がf0(たとえば60GHz)のバラクタ制御型ガン発振器であり、変調用の直流電源22から出力される制御電圧によって、f0±ΔFまでの被変調波を出力する。すなわち、電圧制御型発振器14に入力される制御電圧が上昇すると、電圧制御型発振器14から出力される電圧の周波数が高くなり、電圧制御型発振器14に入力される制御電圧が低下すると、電圧制御型発振器14から出力される電圧の周波数が低くなる。
直流電源22は変調用信号源23の制御により周期的に出力電圧値を変化させる。電圧制御型発振器14へ入力される制御電圧は、三角波であるとする。
電圧制御型発振器14から出力されたFM被変調波は、分岐回路15を介して送信用アンテナ21に与えられた送信信号として放射される。送信用アンテナ21から出力される送信信号の周波数の時間波形は、電圧制御型発振器14へ入力される制御電圧に比例するので、三角波となる。
一方、電圧制御型発振器14から出力されたFM被変調波は、分岐回路15によって8チャネルに分岐されてローカル信号となり、各ミキサ11−1〜11−8において8チャネルの受信信号とそれぞれミキシングされ、チャネル別ビート信号を生成する。各チャネル毎のビート信号は、目標物までの距離や相対速度に応じて変化する。すなわち、ビート信号から、距離や相対速度を求めることができる。以下、詳説する。
まず、目標物の相対速度が零の場合のビート周波数変化について説明する。
図3(a)は、電圧制御型発振器14(送信用アンテナ21)から出力される送信信号周波数(=VCOへの制御電圧に比例)の変化と、距離Rの位置にあり相対速度が零の目標物から再放射されて各アンテナ素子CH1〜CH8から出力される受信信号周波数の変化とを示したグラフである。このグラフの縦軸は周波数、横軸は時間を示す。
なお、図3(a)における実線は、送信信号周波数の時間的変化を示し、破線は受信信号周波数の時間的変化を示している。図3(b)は、目標物の相対速度が零の場合において、各ミキサの出力電圧(ビート信号)の周波数(ビート周波数)を示すグラフであり、時間軸(横軸)は図3(a)とタイミングを一致させてある。なお、送信信号周波数と受信信号周波数の差分が、ビート周波数となる。
このグラフから判るように、送信信号には、連続波に三角状の周波数変調を掛けた変調信号を用いる。変調波の中心周波数はf0、周波数偏移幅はΔF、三角波の繰り返し周波数はfmである。
図3(a)に示すように、送信信号の送信タイミングと、受信信号の受信タイミングとの間には、目標物の相対速度が零のときには、目標物までの距離Rに応じた遅延時間τ1(τ1=2R/c:cは光速)が生じる。
次に、目標物の相対速度がVの場合のビート周波数変化について説明する。
図4(a)は、電圧制御型発振器14から出力される送信周波数の変化と、距離Rの位置にあり相対速度がVの目標物から再放射されて各アンテナ素子CH1〜CH8から出力される受信周波数の変化とを示したグラフであり、縦軸に周波数、横軸に時間を示す。
なお、図4(a)における実線は、送信信号周波数の時間的変化を示し、破線は受信信号周波数の時間的変化を示している。図4(b)は、目標物の相対速度がVの場合の各ミキサの出力電圧(ビート信号)の周波数(ビート周波数)を示すグラフであり、時間軸(横軸)は図4(a)とタイミングを一致させてある。
送信信号の送信タイミングと、受信信号の受信タイミングとの間には、目標物の相対速度がVのときには、目標物までの距離Rに応じた遅延時間τ1(τ1=2R/c:cは光の速度)と、相対速度Vに相当する周波数偏移Dを受ける。なお、図4(a)に示す例は、受信信号周波数が同グラフにおいて上方に偏移しており、目標物が接近する場合を示している。これはドップラ効果に起因する。
相対速度が零のときのビート周波数をfr、相対速度Vのときのドップラ周波数をfd、周波数が増加する区間(アップ区間)のビート周波数をfb1、周波数が減少する区間(ダウン区間)のビート周波数をfb2とすると、fb1=fr−fd、fb2=fr+fdが成立するので、これをfrとfdについて解けば、fr=(fb1+fb2)/2、fd=(fb1−fb2)/2となり、目標物の距離Rと速度Vを以下の式により求めることができる。
R=(C/(4・ΔF・fm))・fr=(C/(4・ΔF・fm))・(fb1+fb2)/2
V=(C/(2・f0))・fd=(C/(2・f0))・(fb1-fb2)/2
すなわち、周波数アップ区間のビート周波数fb1と、周波数ダウン区間のfb2を測定すれば、任意のビーム方向について目標物の距離Rおよび相対速度Vを求めることができるので、ビーム走査を行いながら距離Rおよび速度Vを順次算出すれば、目標物の方位、距離、速度を探知することができる。
再び、図2を参照すると、ミキサ群11、アイソレータ群12、13、発振器14、分岐回路15で構成される高周波回路10の後段に、低雑音増幅器24、高速A/D変換器25、DBF信号処理部26、複素FFT演算部27が設けられている。
低雑音増幅器(アンプ)24は、ミキサ11−1〜11−8から出力された8チャネルのビート信号をパラレルに増幅するものである。また、アンプ24は、アンチエリアシングのためにカットオフ周波数77kHzのローパスフィルタを内蔵している。
高速A/D変換器25は、8チャネルの各ビート信号をパラレル且つ同時にA/D変換する回路であり、200kHzでビート信号のサンプリングを行う。このサンプリング周波数で、FM変調における三角波の周波数アップ区間と周波数ダウン区間において、それぞれ128ポイントのサンプリングを行う。
DBF信号処理部26は、高速A/D変換器25からチャネル別のデジタル・ビート信号を取得し、DBF処理および距離・速度演算を行ってターゲット(目標物)の認識処理を行う。複素FFT演算部27は、DBF信号処理部26における一連の処理の中の複素FFT演算を代行して実行する演算部であり、DBF信号処理部26からチャネル別デジタル・ビート信号を受け取り、これに対して複素FFT演算を実施してその結果をDBF信号処理部26に戻す。なお、各チャネルごとに得られるビート信号を複素FFT演算して得られるパワースペクトルを、周波数が距離に対応するため「距離パワースペクトル」と呼ぶ。距離パワースペクトルの例を図5に示す。
DBF信号処理部26では、フェーズドアレーアンテナレーダの移相器の機能をデジタル信号処理で行うことで、ビーム走査やサイドローブ特性等の調整をデジタル状態で行うものであり、全てのアンテナのチャネルからの受信信号をAD変換後に一旦取り込んだ後、各チャネルのビート信号に基づいて、目標物の方位θにおける距離Rと速度Vを演算する。ビーム走査の方位は任意に設定することができる。
すなわち、ビームを送信する車両の進行方向Xに対して、角度θの方向から到来する電波を間隔dで配列されたn個のアンテナ素子からなるアレーアンテナで受信する場合(本例ではn=8個)、アンテナ素子(CH1)に対する電波の伝搬経路長を基準とすると、アンテナ素子(CH2)、…、アンテナ素子(CHn)に対する各伝搬経路長は、それぞれdsinθ、…、(n−1)dsinθだけ長くなる。したがって、その分だけアンテナ素子(CH2)、…、アンテナ素子(CHn)に到達する電波の位相がアンテナ素子(CH1)に到達する電波の位相よりも遅れる。
この遅れ量は、それぞれ(2πdsinθ)/λ、…、(2(n−1)πdsinθ)/λとなる。ここで、λは電波の波長である。この遅れ分だけチャネル毎に位相を進めて合成することにより、θ方向からの電波が全アンテナ素子において同位相で受信されたものと同様となり、指向性がθ方向に向けられたことになる。すなわち、目的の角度θからの受信信号を検出できるように、各チャネルの信号の位相を調整すれば、この調整量が角度θに対応する。
このように、DBFの大きな特徴は、全アンテナ素子(全受信チャネル)の信号を一旦デジタル信号として取り込んでしまうと、それをもとに任意の方向にビーム合成ができるため、一回の信号取り込みで複数のビームを形成することができることにあり、かかるデジタル処理はDBF信号処理部26によって実行される。
DBF信号処理部26は、高速A/D変換器25からチャネル別デジタル・ビート信号を取得し、DBF処理および距離・速度演算を行って物標(目標物)の認識処理を行う。なお、本実施形態のビーム振り幅は、−10度〜+10度までであり、0.5度刻みの角度分解能で40ビームの形成を実行する。
角度毎に合成したビーム信号から、上述の式により、角度毎の相対速度、相対距離を算出し、これらの情報から目標物の認識処理を行う。目標認識処理は用途に応じて従来技術を適用すればよい。
上述のように、DBF信号処理部26は、高速A/D変換器25からチャネル別デジタル・ビート信号を取得し、複素FFT演算部27でチャネル別信号を複素FFT演算し、FFT演算の結果から距離パワースペクトルを演算し、位相遅れ量を考慮することにより、角度θに対するビームを合成し、合成したビームに対して距離Rと速度Vを演算する処理を行うことで、所望の方向θにおける物標の距離RとVを演算して、目標物を認識する。
複素FFT演算部27は、上述のように、DBF信号処理部26における一連の処理の中の複素FFT演算を代行して実行する演算部であり、DBF信号処理部26からチャネル別デジタル・ビート信号を受け取り、これに対して複素FFT演算を実施してその結果をDBF信号処理部26に戻す。
なお、上述のように、各チャネルビート信号をサンプリングしてAD変換した場合、これは不連続値の集合であるため、これを高速フーリエ変換(FFT)でDFT処理すると、周波数軸上のビート周波数fbに対応しているところにピークが現れるが、周波数軸上のビート周波数fbの位置は、物標までの距離Rに対応することとなる。各チャネルの周波数スペクトルが得られた場合に、チャネル間の位相を調整すれば特定の指向角における距離パワースペクトルを得ることができる。
(第2のレーダ)
図6は、第2のレーダ100aとしての2チャンネル・モノパルス方式レーダのブロック図である。
2チャンネルのモノパルス方式レーダは、物標としての目標物Mからの反射波Refを、離隔配置された2つの受信用アンテナ素子A1,A2で受信する。これらのアンテナA1,A2の間隔をDとすると、車両の前方方向からの角度、すなわち、受信信号の入射角θは、2つの受信信号の経路差を「x」とすると、x=Dsinθ≒Dθで与えられ、この経路差「x」に基づく位相差Δφ=2π(x/λ)で与えられ、θ≒Δφ・λ/(2π・D)で与えられる。
処理回路50は、送信用アンテナ52に信号を伝達する発振器53と、受信用アンテナ素子A1,A2からの信号に発振器53の出力を混合するミキシング回路MX1,MX2と、ミキシング回路MX1,MX2によって低周波化された受信信号が入力される演算部51とを備えている。演算部51が、入力される2つの受信信号の、位相差Δφを計測すれば、角度θを求めることができる。なお、位相差Δφは、2つの受信信号を方形波に変換し、方形波間の排他的論理和などをとり、その出力の期間をカウンタでカウントすれば求めることができる。
また、発振器53を電圧制御型発振器として、送信信号に三角波の制御電圧を入力すると、FM変調された送信信号が送信用アンテナ21から出力されることになり、送信信号と受信信号をミキシングしてなるビート信号は、高速フーリエ変換すると、物標までの距離に応じたパワースペクトルとなる。角度θにおける距離パワースペクトルが必要な場合は、2つの受信信号のパワースペクトルの角度θに対応した位相差Δφだけ、位相が進んだ方のスペクトルを遅らせ、同相で増幅すればよい。
また、角度情報を加えない場合は、受信信号から、広角の検出範囲内における全方位検出値の方位平均の距離パワースペクトルを得ることができる。この2チャンネル・モノパルス方式レーダは、DBFのFM−CW方式レーダと比較して、演算量が少ないため、高速に出力を出すことができ、十分な検出精度が得られるが、DBF方式レーダと比較すると検出精度は劣る。
(第1実施形態)
図7は、第1実施形態に係る物標検出装置の検出アルゴリズムを説明するための車両の状態を示す図である。
自車両S1が第1レーダ101aで遠距離狭角検出範囲R1を走査しつつ、第2レーダ101bで近距離広角検出範囲R2を走査しながら、走行している状態が示されている。同図では、自車両S1の前方には、先行車S3が走行中であり、割り込み車S2が、近距離広角検出範囲R2内に割り込んできた状態が示されている。近距離広角検出範囲R2における割り込み車S2の割り込み位置をP1、近距離広角検出範囲R2における先行車S3の後部位置をP2とする。
この物標検出装置は、図1に示した通りであり、遠距離狭角検出範囲R1を有する第1レーダ101a(図1参照)と、遠距離狭角検出範囲R1に部分的に重複する近距離広角検出範囲R2を有する第2レーダ101b(図1参照)を備えている。この物標検出装置は、信号処理部において、特定の検出範囲の重点度を増加させ、かかる範囲を重点的に検出する演算部100c(範囲設定手段)を備えている。
以下、詳説する。
図8は、図7に示した状態において、2チャンネル・モノパルス方式レーダ(検出範囲R2)から得られる方位平均の距離パワースペクトルのグラフである(Z2で示す)。距離パワースペクトルは物標までの距離(受信信号周波数)と受信レベル(dBsm)の関係を示している。このスペクトルZ2では、割り込み位置P1と、先行車S3の後部位置P2において、ピークが観察される。すなわち、スペクトルZ2は、これらの位置P1,P2に、反射波が得られる物標(目標物)が存在するということを意味する。
図9は、路側物Qが存在する場合の車両の状態を示す図である。
自車両S1の進行方向左側には、防音壁やトンネルなどの路側物Qが存在し、車両間の状態は図7に示した状態と同一である。
図10は、図9に示した状態において、2チャンネル・モノパルス方式レーダ(検出範囲R2)から得られる方位平均の距離パワースペクトルのグラフである。実線Z2’は路側物Qが存在する場合のスペクトルを示す。なお、点線Z2は路側物Qが存在しない場合のスペクトルを示す。路側物Qが存在する場合には、ノイズレベルは上昇し、割り込み位置P1及び先行車S3の後部位置P2におけるピークもノイズレベルに埋もれる傾向がある。
ここで、割り込み位置を含む扇形の狭角検出範囲Rxを重点的に検出する。狭角検出範囲Rxは、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2との境界線BLを含むものである。
割り込み車S2が、近距離広角検出範囲R2から遠距離狭角検出範囲R1内に割り込む場合、近距離広角検出範囲R2であって且つ遠距離狭角検出範囲R1でない非重複検出範囲R2a内において、第2レーダ102aの出力(方位平均の距離パワースペクトル)のノイズレベルが上昇した場合には、このノイズレベル上昇した検出範囲R2aに隣接する遠距離狭角検出範囲R1内の領域Rxを重点的検出範囲に設定して物標検出を行う。
重点的検出範囲Rxは、第1のレーダ100a(図1参照)におけるビームの走査角を、境界線BLを含む遠距離狭角検出範囲に設定して行われる。図1に示した演算部100c(範囲設定手段)は、第2のレーダ100bの出力のノイズレベルが上昇したかどうかを判定し、判定結果がノイズレベル上昇を示すものである場合には、上述の重点的検出範囲Rxを設定する。
ここで、近距離広角検出範囲R2であって且つ遠距離狭角検出範囲R1でない非重複検出範囲R2a内において、第2レーダ102aの出力のノイズレベルが上昇したかどうかは、方位平均の距離パワースペクトルのノイズレベルで間接的に判定することができる。
トンネルや防音壁などの路側物が存在する場合、ノイズレベルが向上してしまうため、ピークを検出できない場合が多いので、物標を容易に見失ってしまう。なお、クラッタとは、測定対象物以外の雨や雲等からの不要反射信号をいう。ノイズレベル上昇は、このように検出すべき対象物以外からの反射信号によって受信した信号によって受信信号のレベル、具体的には距離パワースペクトルの受信レベルが上昇したことを検出することによって行われる。例えば、以下に説明するように、方位平均の距離パワースペクトルを用いて、ピーク位置を除く平均値が所定値を超えたノイズレベルが上昇したと判定すればよい。なお、他の判定方法としては、検出した物標が、ガードレールやトンネルや並んで存在する街路樹などのように進行方向、すなわち双方のレーダの前方に沿って連続して存在する路側物であると判定した場合などによってノイズレベル上昇を判定すればよい。また、ノイズレベル上昇の判定は、この例に限られるものではなく、例えば、周期的に存在するリフレクタや街路樹などを、出現の周期性から判定する方法であっても良く、測定対象物以外による反射信号の受信を判定する方法であれば、他の判定基準によって判定してもよい。
ノイズレベル上昇検出の具体例としては、例えば、方位平均の距離パワースペクトルのピーク位置を除く位置に閾値を設定しておき、この閾値を設定期間以上の間、受信レベルの値が超えた場合には、ノイズレベル上昇と判定することができる。ピーク位置を除く位置の設定には、まず、初期閾値を設定しておき、これを受信レベルが超えた場合には、ピーク位置であると判定し、これ以外の領域をピーク位置を除く領域として設定する。
或いは、スペクトルの距離積分値に閾値を設定しておき、この閾値を設定期間以上の間、受信レベルの値が超えた場合には、ノイズレベル上昇と判定することができる。このノイズレベル判定は常時行う。
非重複検出範囲R2a内において、第2レーダ102aの出力のノイズレベルが上昇したかどうかは、方位平均の距離パワースペクトルの規定値以上のノイズレベルの上昇を検出した場合、非重複検出範囲R2aの距離パワースペクトルを検出し、この領域でのノイズレベル上昇を判定することによって、直接的に判定することもできる。
すなわち、非重複検出範囲R2aのみの距離パワースペクトルを用いるためには、2つの受信信号のパワースペクトルの角度θに対応した位相差Δφだけ、位相が進んだ方のスペクトルを遅らせて同相で増幅する動作を、非重複検出範囲R2aを走査するように角度θを変動させて順次実行し、各角度における出力スペクトルを合成すればよい。
すなわち、非重複検出範囲R2aにおけるノイズレベルの上昇の判定は、少なくともこの範囲のノイズレベルが上昇した場合に生じる現象を検出することで行われる。
また、物標検出装置の演算部100cは、第1及び第2レーダ100a,100bの前方に向かうに方向に沿ったノイズレベルの上昇を判定し、判定結果がノイズレベル上昇を示すものである場合、路側物Qの存在を推定する。ノイズレベル上昇判定の手法は上述の通りである。
なお、演算部100cは、進行方向に沿って路側物Qが検出される場合、ノイズレベル上昇であると判定することができる。
なお、重点的検出範囲Rxの開き角は、例えば5度とか、10度とかに設定しておくことができるが、割り込み車S2の大きさに応じて、この角度範囲を調節することができる。好適には、割り込み車S2が、大型車ほど扇形の重点的検出範囲Rxの開き角度(方位DFT処理用の検知角度)を大きく設定する。割り込み車S2が大型車であるか、普通車であるかは、後述の判定手法によって判定することができるので、大型車であると判定された場合には開き角度を例えば10度、普通車であると判定された場合には開き角度を例えば5度に設定すればよい。
図11は、図9に示した状態において、FM−CW方式レーダの重点的検出範囲Rxから得られる距離パワースペクトル(DFT:離散フーリエ変換)のグラフである(重点的検出範囲Rx内のスペクトル合成値)。重点的検出範囲Rxは、演算部100c(図1参照)によって設定される。
実線Z2”は、このDFTのスペクトルを示し、点線Z2’は、路肩物がある場合の方位平均パワースペクトル、点線Z2は路肩物が無い場合の方位平均パワースペクトルを示している。すなわち、FM−CW方式レーダの場合、レーダからの距離に応じてビート周波数は変化するが、この信号をAD変換し、指定の方位の信号をDFT変換すると、その方位における距離に応じたパワースペクトルを得ることができる(方位DFT処理)。
この場合、重点的検出範囲Rx内に属しない路側物Qや、先行車S3からの反射波はDFTのスペクトル内には殆ど含まれないことになる。なお、「重点的検出」とは、第2のレーダ(2チャンネル・モノパルス方式レーダ)による検出や第1のレーダ(DBF−FM−CW方式のレーダ)による重点的検出範囲以外の検出領域における検出と比較して、高頻度で検出を行う検出のことであり、ノイズの影響を受けにくい範囲で行われるので、ノイズ耐性が向上する。
このように、ノイズレベルが上昇した検出範囲R2aに隣接する遠距離狭角検出範囲R1内の領域Rxを重点的検出範囲に設定しておくことで、遠距離狭角検出範囲R1内のノイズレベル上昇側の検出精度の低下を抑制することができる。
特に、割り込み車S2(物標)がノイズレベル上昇領域から遠距離狭角検出範囲R1内に割り込んだ場合においても、遠距離狭角検出範囲R1内の領域Rxは、重点的検出範囲に設定されているので、遠距離狭角検出範囲R1の全ての走査を行う必要がなく、したがって、割り込み車S2を高速に検知することが可能となる。
本例の場合は、第1のレーダでは、重点的検出範囲Rxを検出している場合には、残余の検出領域での検出頻度を減少させる。これにより、FFT処理やDBF処理の演算が重点的検出範囲Rxに集中するため、必要な演算時間を短縮することができ、各方位毎の演算の検出サイクルを短くすることができる。なお、残余の検出領域では検出を行わないこととしてもよい。
割り込み車S2(物標)の検出には、割り込み位置P1において、重点的検出範囲Rx内の受信レベルの閾値を設定しておき、重点的検出範囲Rxを与える角度範囲内において、かかる閾値を受信レベルが超えた場合には、割り込み車S2があるものと判定する。
すなわち、路側物Qが存在する場合には、割り込み車S2の検出が通常では困難となるが、ノイズレベル上昇判定に基づいて重点的検出範囲Rxを設定すれば、ノイズレベルが減少するため、割り込み車S2を検出できるようになり、しかも、高速・高精度で検出できるようになる。
以下、上述の処理を行う演算部100c(図1参照)の手順を説明する。
図12は、近距離広角検出範囲R2における信号処理を示すフローチャートである。
ます、非重複領域R2aにおいて、第2のレーダの出力(距離パワースペクトル)のノイズレベル上昇したかどうかについて検出する(S101)。検出方法は上述の通りであり、当該領域R2a或いは全方位平均の距離パワースペクトルにおける受信レベルが、閾値を超えたかどうかについて判定する。閾値を超えた場合には、ノイズレベル上昇状態であると判定し、超えない場合にはノイズレベル上昇状態ではないと判定する。この判定は、所定の検出タイミングの周期毎に行われ、1つの検出サイクルの期間をそれぞれの検出タイミングとする。
次に、規定回数以上、連続してノイズレベルが上昇状態であるかどうかを判定する(S102)。すなわち、ある期間以上、ノイズレベル上昇状態が続く場合には、ノイズレベル上昇フラグをセットし(S103)、そうでない場合にはフローを終了する。
図13は、遠距離狭角検出範囲R1における信号処理を示すフローチャートである。
まず、近距離広角検出範囲R2内におけるノイズレベル上昇フラグがセットされているかどうかについて判定する(S201)。ノイズレベル上昇フラグがセットされている場合には、路側物Qがあるものと判定する。そして、(条件A)遠距離狭角検出範囲R1と重複しない近距離広角検出範囲R2a、R2c内で物標が存在していると判定されたかどうか、或いは、(条件B)過去の規定検出サイクル内で物標が検出されたかどうかについて判定する(S202)。
この判定には、近距離広角検出範囲R2a、R2c内のノイズレベルの上昇に対応した距離パワースペクトルに閾値を設定しておき、受信レベルが閾値を超えた場合に、物標が存在すると判定し、現在の検出フラグをたてる(条件Aを満たす)。また、過去の検出サイクルにおいて物標が存在すると判定された場合には、その時点で検出フラグがたっているため、規定検出サイクル内で検出フラグがある場合には、条件Bが満たされることになる。
ステップS202において、非重複検出範囲R2a,R2c内で物標が検出されている場合には、ノイズレベルが上昇した状態で、遠距離狭角検出範囲R1内に物標が割り込んでくる可能性が高いということになる。或いは、現在の瞬間においては、検出範囲R2内で物標が検出されていないけれども、過去の規定検出サイクル(期間)内において、非重複検出範囲R2a,R2c内で物標が検出されているのだから(条件B)、これは物標を瞬間的に見失っているだけであるため、この場合にも、遠距離狭角検出範囲R1内に物標が割り込んでくる可能性が高いということになる。いずれでもない場合には、フローを終了する。
したがって、この場合には、現在又は過去規定検出サイクル内に物標が検出された検出範囲R2aに近い方の遠距離狭角検出範囲R1内の境界線BLの近傍領域Rxを方位DFT処理する(S203)。すなわち、物標が重点的検出範囲Rx内に割り込んできた場合には、ノイズレベルが低下した状態で、即時的に物標を検出できる状態が整う。重点的検出範囲Rxに物標が割り込んできた場合には、物標が検出できる。なお、過去の規定サイクル内において物標が検出されたかどうかは、各検出タイミング毎に、物標の存在の有無に関する履歴(検出フラグ)が記憶装置に記憶されており、かかる履歴結果を参照して、過去規定サイクル内の物標の存在の有無を判定する。
物標の存在の有無の判定は、目的の方位における距離パワースペクトルに閾値を設定しておき、かかる閾値を所定期間(規定の検出サイクル)以上の間、受信レベルが超えた場合には、物標の存在を確定する。すなわち、一度の判定結果が、物標有りを示す場合には、物標が検出されたものとして検出フラグをたて、これが複数回に及ぶ場合には、物標の存在を確定する。
なお、範囲設定手段は、上述のノイズレベル上昇した検出範囲R2a内で物標が検出された場合、重点的検出範囲Rxの検出精度を増加させる。すなわち、検出精度が増加することで、ノイズレベル上昇した検出範囲R2aから割り込んできた物標を更に高速に検出することができる。検出精度を増加させるためには、検出サイクルを短縮すればよい。
(第2実施形態)
図14は、路側物Qが存在する場合の車両の状態を示す図である。
本例では、自車両S1の進行方向左側には、防音壁やトンネルなどの路側物Qが存在し、左車線から、「普通車」である割り込み車S2が自車線内に割り込もうとしている状態が示されている。
図15は、路側物Qが存在する場合の車両の状態を示す図である。
本例では、自車両S1の進行方向左側には、防音壁やトンネルなどの路側物Qが存在し、左車線から、トラックなどの「大型車」である割り込み車S2が自車線内に割り込もうとしている状態が示されている。
本発明の演算部(範囲設定手段)100c(図1参照)では、検出した物標の情報に基づいて重点的検出範囲Rxを設定する。
すなわち、大型の物標(大型車)と小型の物標(普通車)では、位置や大きさなどの情報が異なるため、これに合わせて重点的検出範囲Rxを設定することで、必要な重点的検出範囲Rxを最小限に設定することができ、したがって、割り込み物標を更に高速に検知することが可能となる。
また、近距離広角検出範囲R2で物標の距離に基づいて、遠距離狭角検出範囲R1における距離に対応する距離パワースペクトルの部分の判定閾値を下げることで、物標を検出し易くすることもできる。このように、範囲設定手段は、検出した物標の情報に基づいて重点的検出範囲を設定することができる。
図16は、図14、図15に示した状態において、遠距離狭角検出範囲R1における信号処理を示すフローチャートである。なお、トンネルなどの路側物Qによるノイズ上昇フラグのセットの手法については、図12に示した通りである。
まず、近距離広角検出範囲R2内に対応するノイズレベル上昇フラグがセットされているかどうかを判定する(S301)。ノイズレベル上昇フラグがセットされている場合には、遠距離狭角検出範囲R1と重複しない近距離広角検出範囲R2a,R2cで物標が検出されているかどうか、或いは、この非重複検出範囲R2a内で、現在又は過去の規定検出サイクル内で物標が検出されているかどうかについて判定する(S302)(上記:条件A、条件B参照)。ステップS302において物標の存在が検出されている場合には、物標情報(スペクトルのピーク検出幅やピークレベルから乗用車かトラックまたは二輪車などを判断)から方位DFT処理用の検知角度を演算する。
すなわち、大型車は普通車に比較して、車高が高いため、非重複検出範囲R2aにおける距離パワースペクトルの強度が高くなる。
すなわち、非重複検出範囲R2aにおける距離パワースペクトルに普通車用の閾値と、これよりも大きな大型車用の閾値を設定しておき、前者の閾値を受信レベルが超え且つ後者の閾値を超えない場合には普通車が存在するものと判定し、後者の閾値を超えた場合には大型車が存在するものと判定し、前者の閾値を超えない場合には車両が存在しないものと判定する。
各状態のフラグをセットしておき、ステップS303では、大型車ほど扇形の重点的検出範囲Rxの開き角度(方位DFT処理用の検知角度)を大きく設定する。
このようにして設定された角度で、重点的検出範囲Rxが設定され、方位DFT処理が行われる(S304)。すなわち、現在又は過去規定検出サイクル内に物標の存在が検出された領域R2aに近い方の遠距離狭角検出範囲R1内の境界線の近傍領域Rxを方位DFT処理する。これにより、物標が重点的検出範囲Rx内に割り込んできた場合には、即時的に物標を検出できる状態が整い、重点的検出範囲Rxに物標が割り込んできた場合には、即時的に物標を検出することができる。
なお、過去の規定検出サイクル内において物標の存在が検出されたかどうかは、上述の通り、各検出タイミング毎に、物標の存在の有無に関する履歴が記憶装置に記憶されており、かかる履歴結果を参照して、過去規定検出サイクル内の物標の存在の有無を判定する。
物標の存在の検出は、方位DFTにおける目的の方位における距離パワースペクトルに閾値を設定しておき、かかる閾値を所定期間(規定の検出サイクル)以上の間、受信レベルが超えた場合には、物標の存在を確定する。
ここで、重点的検出範囲Rx内における物標の存在の確定について説明する。
図17は、路側物Qが存在する場合の車両の状態を示す図である。
この割り込み車S2は、普通車であっても大型車であっても構わない。路側物Qのある状態で、重点的検出範囲Rx内に割り込み車S2が割り込んできた場合、確定が行われる。すなわち、ノイズレベル上昇した検出範囲R2a内で物標が検出された後、この物標の存在が遠距離狭角検出範囲R1(Rx)内において検出された場合には、この物標を確定する。
上述のように、物標の存在の確定には、その物標の存在が検出された状態が、所定期間以上継続することを要する。
図18は、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2における物標の「検出」と「確定」のタイミングを示すタイムチャートである。
DBFのFM−CW方式レーダ(検出範囲R1を検査)は、演算量が多い(距離パワースペクトルを得るための演算時間が長い)が検出精度が高く、また、モノパルス方式レーダ(検出範囲R2を検査)は、演算量が少なく(距離パワースペクトルを得るための演算時間が短い)、十分な検出精度が得られるもののDBD方式に比べると検出精度が劣るという特性を有する。
同図の例では、遠距離狭角検出範囲R1を走査するFM−CW方式レーダの1つの演算期間(例えば、T1)において、近距離広角検出範囲R2を走査するモノパルス方式レーダでは5つの演算期間(t1〜t5)が設定されている。すなわち、第1のレーダ100a(DBFのFM−CW方式レーダ:図1参照)が1つの出力(距離パワースペクトル)を発生する間に、第2のレーダ100b(モノパルス方式レーダ:図1参照)は5つの出力(距離パワースペクトル)を発生する。
演算部100c(図1参照)は、それぞれから出力された距離パワースペクトルに閾値を設定しておき、この閾値を受信レベルが超えた場合に、物標が存在するものと判定し、1度の検出が行われる。
近距離広角検出領域R2の1度の演算期間内において、物標の存在が一度検出された場合には、「高速検出フラグ(検出フラグ:確度レベルL」を1とし、高速検出フラグが1である演算期間の数(本例の場合は、数=5(t1,t2,t3,t4,t5)が、遠距離狭角検出範囲R1の1つの演算期間(=T1)内でカウントされる。
遠距離狭角検出範囲R1の1度の演算期間内において、物標の存在が一度検出された場合(距離パワースペクトルの受信レベルが閾値を超えた場合)には、「高精度検出フラグ(検出フラグ:確度レベルM)」を1とし、高精度検出フラグが1である演算期間の数がカウントされ、カウント値が規定値を超えた場合には、物標の存在が確定し、「確定フラグ(検出フラグ(確度レベルH))が1となる(演算時間T5において確定フラグがたつ)。
すなわち、ある演算期間(T1)内において、確度レベルLの検出フラグが規定数以上あり、確度レベルMの検出フラグもたち、T1〜T5の期間内において、確度レベルMの検出フラグの数が規定値を超えた場合には、確度レベルHの検出フラグ、すなわち、確定フラグがたつ。なお、確度レベルL、M、Hは、それぞれ、確度が低い状態、中間の状態、高い状態を示す。
遠距離狭角検出範囲R1の最初の演算期間T1において物標の存在判定演算の結果が「未検出」を示すものであり(高精度検出フラグ=0)、演算期間T1の間に近距離広角検出範囲R2において5回の物標の存在判定演算(t1〜t5)が行われた場合、センサーフュージョンにより物標の存在を判定する。
すなわち、センサーフュージョンでは、第1及び第2のレーダで少なくとも1回の物標が「検出(確度レベルL)」され、且つ、例えば、第2のレーダで1つの演算期間T1内に所定回数(例えば3回)以上の「高速検出フラグ」がたった場合に、この演算期間T1内で物標が「検出(確度レベルM)」されたものと判定され、この条件を満たさない場合には、物標は「未検出」であるものと判定される。
本例では、演算期間T1において、第1のレーダにおいて物標の存在が「検出(確度レベルLを満たしてない)」されていないので、演算期間T1の全体としては、物標は「未検出」であると判定する。演算期間T1の結果、物標は存在していないものとし(未検出)、高精度検出フラグを0とする。
続いて、遠距離狭角検出範囲R1の次の演算期間T2において物標が1回検出され(高精度検出フラグ=1)、演算期間T2の間に近距離広角検出範囲R2において5回の物標検出が行われると(高速検出フラグ=1×5)、センサーフュージョンにより物標の存在を判定する。
この場合、上記条件を満たすため、演算期間T2において物標が「検出(確度レベルM)」されたものと判定される。換言すれば、演算期間T2における高精度検出フラグ=1(確度レベルM)が確定する。
このように、センサーフュージョンによる判定結果が「検出:確度レベルM」を示す場合、遠距離狭角検出範囲R1の演算結果(高精度検出フラグ=1)が所定回数(例えば4回)行われた場合には、物標の存在の仮確定状態(確度レベルM)が本確定状態(確度レベルH)となり、この検出結果に基づいて車両制御を行う。車両制御としては、車間距離制御、自動ブレーキ制御、PBA(プリクラッシュ・ブレーキアシスト)、PSB(プリクラッシュ・シートベルト)システムの制御が挙げられる。
すなわち、1回の演算期間(例えば、T1)内における「高精度検出フラグ」=1の状態は、センサーフュージョンによって「仮確定:確度レベルM」することができ、この状態が幾つか重なると、物標の存在が「本確定:確度レベルH」するのである。
物標の存在が「本確定:確度レベルH」した場合、近距離広角検出領域R2の検出結果の信頼性も高くなるため、その後の演算期間T6以降では、第2のレーダによる近距離広角検出範囲R2の演算期間毎に、このときの物標の存在の有無、物標までの距離、相対速度、方位を演算部100c(図1参照)は出力し、この出力に基づいて車両制御を行う。
なお、演算期間T6以降では、それぞれの期間(T6,T7・・・)内の最後の微少期間内で、正確な値を出力する第1のレーダの出力に基づいて、演算部100cは、物体存在の有無、相対速度、方位を出力し、この出力に基づいて、車両制御を行う。
図19は、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2における物標検出と確定のタイミングを示すタイムチャートである。
本例では、演算期間T1における物標の存在の「未検出」(高精度検出フラグ=0)の後、演算期間T2、T3、T4毎に、「検出」(高精度検出フラグ=1:確度レベルM)、「未検出」(高精度検出フラグ=0)、「検出」(高精度検出フラグ=1:確度レベルM)が連続し、続いて「検出」(高精度検出フラグ=1:確度レベルM)が行われることで、物標の存在が本「確定:確度レベルH」する。
すなわち、演算期間T1における「未検出」の後の4回の演算期間T2,T3,T4,T5のうち、3回の演算期間内で「検出」が含まれるかどうかを判定し、演算期間T5における「高精度検出フラグ=1」の後、「本確定フラグ=1」とする。演算期間T6移行は、上述の場合と制御と同じである。
図20は、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2における物標検出と確定のタイミングを示すタイムチャートである。
本例では、演算期間T1における物標の存在の「未検出」(高精度検出フラグ=0)の後、演算期間T2、T3、T4毎に、「検出」(高精度検出フラグ=1:確度レベルM)、「未検出」(高精度検出フラグ=0)、「未検出」(高精度検出フラグ=0)が連続し、続いて「検出」(高精度検出フラグ=1:確度レベルM)が行われるが、物標の存在が確定せず、演算期間T6以降も「検出」が続く。すなわち、演算期間T1における「未検出」の後の4回の演算期間T2,T3,T4,T5のうち、3回の演算期間内で「検出:確度レベルM」があるかどうかを判定した結果、2回の「検出:確度レベルM」しかないため、「検出」を本「確定:確度レベルH」にはしない。換言すれば、演算期間T5における「高精度検出フラグ=1」においても、「本確定フラグ=0」のままである。
図21は、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2における物標検出と確定のタイミングを示すタイムチャートである。
本例では、遠距離狭角検出範囲R1で物標の存在の「未検出」(高精度検出フラグ=0)の後、演算期間T2,T3、T4毎に「検出:確度レベルM」、「検出:確度レベルM」、「検出:確度レベルM」が連続し、続いて演算期間T5において「未検出」が行われるが、演算期間T5では、「未検出」であるため、「検出:確度レベルM」の数は条件を満たしているが、演算期間T5の時点では「本確定フラグ=0」である。
本例では、連続する4回の演算期間T2、T3、T4、T5内において、3回の「検出:確度レベルM」を含むため、センサーフュージョンによって演算期間T5に対応する第2のレーダで「検出:確度レベルL」が規定回数以上出力されている場合には、演算期間T6において、第1のレーダで「検出:確度レベルM」が行われた場合、これを「確定フラグ=1:確度レベルH」にする。
図22は、車両走行中の遠距離狭角検出範囲R1内の物標認識処理を行うフローチャートである。
まず、近距離広角検出範囲R2内におけるノイズレベル上昇フラグがセットされているかどうかについて判定する(S401)。すなわち、路側物Qによって、検出精度が劣化しうる状態であるのかどうかについて判定する。
次に、現在又は過去の規定の検出サイクル内において、非重複検出範囲R2a内で物標が検出されているかどうかについて判定する(S402)。すなわち、第2のレーダで非重複検出範囲R2a内での物標の存在が所定回数以上「検出:確度レベルL」されているかどうかを判定する。1つの検出サイクルは、例えば5×演算時間T1に設定する。この条件が満たされる場合には、路側物Qがある状態で割り込み車S2が存在するということであるから、車両の大きさなどの物標情報から方位DFTの検知角度を算出する(S403)。すなわち、第1のレーダによる重点的検出範囲Rxの開き角を演算する。
次に、重点的検出範囲Rx内において、現在の検出サイクルで物標を検出したか(確度レベルH)、或いは、過去数回の規定検出サイクル内において物標を検出した(確度レベルH)履歴のある検出範囲、本例の場合では、検出範囲R2aに境界線BLを介して隣接する遠距離狭角検出範囲R1を、境界線BLを含む重点的検出範囲Rx(特定範囲)として方位DFT処理し(S404)、境界線への割り込み車両を監視する
(図1参照)。
図23は、ステップS404以降の制御(A)を示すフローチャートである。
まず、遠距離狭角検出範囲(重点的検出範囲Rx)内で物標の存在が検出されたかどうか(確度レベルH)を判定する(S501)。ステップS501において、物標の存在が検出された場合(確度レベルH)、次に、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2との間の重複検出範囲R1b(R2b)において、物標の存在が検出されたかどうか(確度レベルH)を判定する(S502)。なお、重複検出範囲ではセンサーフュージョンが可能である。
重複検出範囲に物標が存在しない場合(No)、存在しないデータの補間処理を行うこともできる。本実施形態では、補間処理は前回までの検出結果の相対速度から今回の物標の位置を予測し、これを検出結果とすることで行っている。なお、本発明における補間処理の方法は、これに限定されるものではなく、前回までの検出結果から、例えば、線形予測などの公知の手法を用いて今回の検出結果を予測してもよいし、より簡便な方法として前回の結果を今回の検出結果としてもよい。
ステップS502においてYesである場合、すなわち、物標が重複検出範囲内に存在し、センサーフュージョンが可能である場合、ステップS503において補間フラグをリセットし(補間フラグ=0)、次のステップS504へと進む。
ステップS504では、連続した幾つかの検出サイクル(例えば、演算期間T1×5)内において、(条件(1))同一物標が存在する旨の「高精度検出フラグ=1:確度レベルM」が規定回数以上カウントされ(確定フラグ=1:確度レベルH)、且つ、(条件(2))補間フラグがセットされてないかどうか(補間フラグ=0)について判定する。
すなわち、補間処理のないセンサーフュージョン状態で、例えば、図18に示すように4つの演算期間内に4つの「検出フラグ:確度レベルM」が含まれる場合には、物標の存在の「確定フラグ:確度レベルH」をセットし(S505)、上述のように車両制御を実行する(S506)。
ステップ501において「No」である場合、すなわち、遠距離狭角検出範囲R1(重点的検出範囲Rx)内で物標の存在が検出されない場合、近距離広角検出範囲R2内だけで物標が存在する旨の「確定フラグ:確度レベルH」がセット(=1)されているかどうか(S402参照)について判定する(S507)。なお、近距離広角検出範囲内単体での物標存在の確定フラグは、検出サイクル内における「高速検出フラグ=1」のカウント数が規定値を超えた場合にセットされる。
ステップS507において「Yes」である場合、すなわち、例えば割り込み車S2が自車両S1の左車線前方に存在する場合、ステップS508を実行する。ステップS508では、近距離広角検出範囲R2内の物標の距離・相対速度と、前回の遠距離狭角検出範囲R1の物標の距離・相対速度のそれぞれの差が、双方とも規定値以内であるかどうかについて判定する。
すなわち、各レーダ出力間の検出誤差が一定の範囲内にあるかどうかについて判定する。検出誤差が一定の範囲内にある場合、すなわち、ステップS508において「Yes」である場合、次に、ステップS509に進み、「No」である場合には終了する。
ステップS509では、連続検出規定回数がゼロではないかどうかについて判定する。すなわち、高速度検出フラグを1回セットすると連続検出規定回数が1つ加算される。換言すれば、少なくとも1回の高速度検出フラグが現時点でセットされているかどうかについて判定する。すなわち、現時点で物標が非重複領域R2a内に存在していることが確認される。
連続検出規定回数がゼロである場合(ステップS509において「No」)、現時点での物標の存在の確度は低下するので、それが路側物Qによるものなのかどうか、すなわち、近距離広角検出範囲R2内におけるノイズレベル上昇フラグがセットされているかどうかについて判定し(S512)、セットされている場合にはステップS510に進み、セットされていない場合にはフローを終了する。
ステップS507において近距離広角検出範囲R2単体の物標確定フラグがセットされており、現時点で物標が検出されているか(S509)、或いは、現時点では物標の検出はないがノイズレベル上昇環境下にある場合には(S512)、現時点の物標の存在を示すデータはないが、物標が存在する確度は高いため、ステップS510において「Yes」の場合には、現在の近距離広角検出範囲R2のデータの補間処理を行う。
距離狭角検出範囲R1では物標を検出していないにもかかわらず(S501)、近距離広角検出範囲R2では、近距離広角検出範囲単体の物体確定フラグがセットされていた場合(S507)、遠距離狭角検出範囲R1の前回値(距離・速度、或いは物標情報)と、近距離広角単体物体確定フラグかセットされた今回値(距離・速度、或いは物標情報)とを比較し、この誤差が規定値以内である場合には、これらが同一物標であると判断し、同一物標であると判断した場合は、補間処理を行う。また、初期補間処理も行う。
なお、初期補間処理とは、物体の確定前においてR1で物標を検出した状態から検出していない状態となったとき、R1が物標を検出していない状態より以前においてR2よりも高速な周期で検出できるため、R2で複数回連続していて、たまたまR1が検出するタイミングで物体を見失った状態となったときには、高速に連続して検出できていた結果を採用して、R1を物標検出状態となるよう補間することで、確定までに掛かる処理時間を短縮することができる。なお、この補間処理による検出状態は、連続検出規定回数に加算されないことが好ましい。例えば、確定前に3回連続検出して、たまたま4回目に何かの陰になって検出ができない状態となったときに連続検出回数が0にリセットされるのを防止し、3回連続検出状態を維持することができ、確定までに掛かる処理時間が短縮される。なお、連続した補間処理は行わない。
なお、演算部100cの物標ロスト判定手段は、検出タイミングにおいて検出フラグが所定回数たたない場合に、物標を見失った(ロスト)ものと判定する。演算部100cの変更手段は、上述のように連続検出規定回数の加算を抑制したり、検出タイミングにおける補間の回数を増加させるなどして、重複検出範囲R2bで検出されている物標がノイズレベルの上昇した近距離広角検出範囲R2に移動しなかった場合に比べて、近距離広角検出範囲R2における物標ロスト判定をし難いように演算部100cの物標ロスト判定手段を設定している。
ステップS510において「Yes」の場合、前回の演算期間において補間処理が行われていないかどうかについて判定する(S510)。前回、補間処理が行われている場合には、連続検出規定回数のカウントをリセットする(S513)。また、前回、補間処理が行われていない場合には、補間処理を行い、補間フラグをセットする(S511)。また、初期補間処理も行う。但し、連続した補間処理は行わない。
すなわち、前回の演算期間において近距離広角検出範囲R2内においてのみ物標が検出されており、ノイズレベル上昇フラグがセットされているか、その存在の確率が現時点で高い場合には、前回の演算期間において補間処理が行われていない場合に限り、今回は補間処理を行う(S511)。
ここで補間処理をしている場合には、物標が近距離広角検出範囲R2から遠距離狭角検出範囲R1との重複検出範囲に移動した場合(S501,S502)、補間フラグがたっているため、ステップS504の条件(2)を満たすことができず、ステップS506の確定フラグはセットされないことになる(S506)。
図24は、車両走行中に近距離広角検出範囲R2における物標認識処理を行うフローチャートである。
まず、近距離広角検出範囲R2のノイズレベルが上昇したかどうかについて判定する(S601)。ステップS601において、ノイズが上昇した場合には、近距離広角検出範囲R2の検出サイクル内において規定回数以上連続してノイズレベルが上昇したかどうかについて判定し(S602)、この判定結果が「Yes」である場合には、ノイズレベル上昇フラグをセットする(S603)。
次に、ノイズレベル上昇フラグのセットの有無に拘らず、ステップS604を実行する。
ステップS604では、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2の重複検出範囲R2b内において、第1のレーダと第2のレーダそれぞれで、同一の物標を検出したかどうかについて判定する。ステップS604において、同一の物標を検出したと判定される場合には、物標存在の確定フラグ(確度レベルH)がセットされているかどうかについて判定する(S605)。確定フラグがセットされている場合には、ステップS606を実行し、セットされていない場合には処理を終了する。
ステップS606においては、第1のレーダから求められる距離・相対速度と第2のレーダから求められる距離・相対速度とのそれぞれの差が、規定値以上であるかどうかについて判定する。規定値以上である場合には、第2のレーダ(低精度)から求められら距離及び相対速度を補正する。すなわち、第2のレーダから求められら距離及び相対速度を、第1のレーダから求められた距離及び相対速度に一致させる又は差分が規定値以内の値に設定する。
ステップS606又はS607を経ることで、レーダ出力間の差分が規定値以内となった距離及び相対速度を用いて、車両制御を行う(S608)。
ステップS604において、「No」と判定される場合には、重複検出範囲R2bにおいて、第2のレーダのみで物標が検出されているかどうかについて判定する(S609)。判定結果が「No」である場合には処理を終了し、「Yes」である場合には、続いてステップS610を実行する。ステップS610では、第2のレーダで、連続して同一物標を検出しているかどうかについて判定する(S610)。
第2のレーダのみで、同一物標を連続して検出している場合には(S610で「Yes」)、近距離広角検出領域R2単体で物標を検出している旨の近距離広角検出領域R2の単体物標確定フラグをセットし、処理を終了する。第2のレーダのみで、同一物標を連続して検出していない場合には(S610でNo)、そのまま処理を終了する。このR2単体物標確定フラグは、図22のステップS402と図23のステップS507において判定に利用される。
上述のように、物標が存在するかどうかを確定するためには、すなわち、確定フラグをセットするためには、数度の検出を必要とする。すなわち、幾つかの検出サイクル内において、高精度検出フラグが規定値以上の回数だけセットされた場合には、確定フラグがセットされる。
一方で、予め、ノイズレベル上昇があった近距離広角検出範囲R2a内において物標の存在が確定している場合、これが遠距離狭角検出範囲R1内において検出された場合には、この検出領域における物標確定に必要な規定回数を制限、すなわち、減少させることによって、物標の存在確定に必要な検出回数を減らすことができる。この構成により、R2a領域で検出はしていたが、ノイズレベルの上昇によって確定できていなかった物標が重複領域Rxに割り込んできた場合に、早期に物標を確定することができるようになる。
図25は、路側物Qが存在する場合の車両の状態を示す図である。
自車両S1の前方の先行車S3が、重複検出範囲R2bから近距離広角検出範囲R2の非重複検出範囲R2aへと移動しようとする状態が示されている。自車両S1の進行方向左側には、防音壁やトンネルなどの路側物Qが存在する。
図26は、図25に示した状態において、第2のレーダ(近距離広角検出範囲R2)から得られる方位平均の距離パワースペクトルのグラフである。実線Z2’は路側物Qが存在する場合のスペクトルを示す。路側物Qの存在によって、ノイズレベルは上昇しているので、物標の存在を検出するための受信レベル閾値THは点線のようにノイズレベルを示す実線よりも高く設定されている。
通常であれば、距離パワースペクトルの特定位置におけるピークが、受信レベル閾値を超えた場合に、物標の存在が検出される。この場合、上述のように検出タイミングにおける補間の回数を増加させても同様の効果が得られる。
図27は、図26のグラフにおける距離方向所定位置範囲内の受信レベル閾値THを限定閾値TH’に変更したグラフである。所定位置範囲内は、自車両S1から比較的近い範囲に設定される。先行車S3は自車両S1の走行路上から離脱するため、先行車S3が自車両S1に近づいてきた場合に先行車S3を見失わないようにすると安全性が高くなる。
なお、所定位置範囲は、自車両S1から遠い位置まで設定し、この領域における受信レベル閾値THを限定閾値TH’に変更してもよい。また、近距離広角検出領域R2の非重複検出範囲R2a内に重点的検出範囲Rx’を設定し、この範囲内の受信レベル閾値のみを低下させるか、或いは、補間の回数を増加することで、物標を見失わないようにしてもよい。
限定閾値TH’は、受信レベル閾値THよりも低く設定されている。したがって、かかる位置範囲内における距離パワースペクトルが限定閾値TH’を超えた場合には、物標の存在が検出されることとなる。
図28は、車両走行中の遠距離狭角検出範囲R1の物標認識処理を行うフローチャートである。
まず、ノイズレベル上昇フラグがセットされているかどうかについて判定する(S701)。遠距離狭角検出範囲R1と重複しない近距離広角検出範囲R2aで、現在、物標検出が行われたか、又は過去の規定検出サイクル内で物標検出が行われたかどうかを判断する(S702)。ステップS702において「Yes」の場合、物標の大きさ等の物標情報から方位DFT検知角度を算出し(S703)、ステップS704を実行する。この方位DFT検知角度は重点的検出範囲Rxの開き角である。
ステップS704では、物標を検出したか、或いは、過去に規定の検出サイクル内で物標を検出した履歴のある範囲(R2a)に近い遠距離狭角検出範囲R1との境界線BL(を少なくとも含む重点的検出範囲Rxを方位DFT処理する。ステップS701、S702において「No」と判断された場合、又はステップS704の後で、A以降の処理を実行する。
図29は、図28におけるA以降の処理を示すフローチャートである。
図29におけるステップS501からS513は、図23と同一である。本例は、図23の処理にステップS801とステップS802を追加したものであり、図25における先行車S3の離脱時における近距離広角検出範囲R2内の物標の存在の検出精度を増加させるものである。
すなわち、ステップ502において重複検出範囲R2bにおいて物標が検出された場合、又はステップS503において補間フラグがリセットされた場合は、遠距離狭角検出範囲R1と近距離広角検出範囲R2との境界線BL(図25参照)上で物標が検出されたかどうかについて検出する(S801)。この境界線BL上で物標が検出された場合には、境界線フラグをセットし(S802)、そうでない場合には境界線フラグをセットしないで以降のステップを実行する。この境界線フラグは、近距離広角検出範囲R2の物標認識処理で用いられる。
図30は、近距離広角検出範囲R2の物標認識処理のフローチャートである。
図30におけるステップS601〜S611は、図24と同一である。本例は、図24の処理にステップS901〜S903を追加したものである。
本例では、先行車S3が自車両S1の走行路から離脱しようとする場合に、境界線フラグがたつと、ノイズレベル上昇時の受信レベル閾値を低下させる、又は、補間の回数を増加させることで、先行車S3の検出精度を向上させることができる。
すなわち、ステップS609において、重複検出範囲R2bで近距離広角検出範囲R2のみで物標が検出されない場合(ステップS609において「No」)、境界線フラグがセットされているかどうかについて判定する(S901)。
上述のように、先行車S3が前方から離脱する場合には、境界線フラグがたっているので、第2のレーダにおける受信レベル閾値TH(図27参照)を、限定閾値TH’に低下させ、物標を見失うことを防止する(S902)。本例では、ステップS902において、境界線にある物標付近の範囲に対して受信レベル閾値THを限定閾値TH’に変更し、再度、物標の検索を行う。
さらに、第2のレーダにおけるデータの補間の回数を増加させる(S903)。換言すれば、検出タイミングの補間の回数を増加させる。検出タイミングにおける補間とは、ノイズレベルが高いために、受信信号(ビート信号)のサンプリングのデータが得られない場合、或いは異常値となる場合があり、この異常値はフィルタをかけることによって除去されるので、かかるサンプリングデータを公知の手法によって補間する処理である。
検出タイミングにおける補間の回数を増加させるとは、例えば、補間処理を行うのが、前回が補間処理でない場合に限定されている場合には、前々回が補間処理でない場合にも補間処理を行うことを許可することで、補間の回数を増加させる。このように、補間処理を行う回数を増加させることもあり、例えば、前記の例のように連続して補間処理を行うことのできる回数の増加であってもよいし、他にも過去の所定回数の検出に占める補間処理の割合すなわち補間の回数を増加するものであってもよい。
遠距離狭角検出範囲R1内の第1のレーダで得られた物体座標に近い境界線付近の位置範囲に対して、通常の閾値THよりも低い閾値TH’で再度ピークを検出し直す(S902)。このとき、ピークを検出できなかった場合でも、補間の回数を増やして離脱車両を監視する(S903)。
これにより、物標を見失うことを防止することができ、また、閾値変更の領域を適切に設定することによって、自車両S1から比較的近い領域における先行車S3を見失うことを防止することができる。
上述の物標検出装置は、遠距離狭角検出範囲R1を有する第1レーダ100aと、遠距離狭角検出範囲R1に部分的に重複する近距離広角検出範囲R2を有する第2レーダ100bと、近距離広角検出範囲R2であって且つ遠距離狭角検出範囲R1でない非重複検出範囲R2a内において、第2レーダ100bの出力のノイズレベルが上昇している状態で、第1及び第2検出範囲R1,R2の重複検出範囲R2b内において検出されていた物標が、ノイズレベル上昇している検出範囲R2a内に移動した場合には、第2レーダ100bによる物標検出判定の閾値THを減少させる、又は、検出タイミングの補間の回数を増加させる演算部100cを備えている。
いずれの処理の場合も、変更手段としての演算部100cが、重複検出範囲R2bで検出されている物標がノイズレベルの上昇した近距離広角検出範囲R2に移動しなかった場合に比べて、近距離広角検出範囲R2における物標を検出と判定しやすいよう、演算部100cの物標検出判定手段を設定している。
重複検出範囲R2b内において検出されている物標が、ノイズレベル上昇している検出範囲R2a内に移動する場合には、物標の検出ができなくなる確率が高くなるものと推定される。したがって、このような場合には、ノイズレベル上昇の検出範囲を有する第2レーダ100bによる物標検出判定の閾値を減少させる、又は、検出タイミングの補間の回数を増加させることで、物標の検出を容易にする。
上述のレーダの配置態様には、幾つかの種類がある。以下、説明する。
図31は、ビーム収集位置が離隔した2つのレーダ100a,100bを備えた物標検出装置100の検出範囲を示す図である。第1のレーダ100aの検出範囲RXと、第2のレーダ100bの検出範囲RYとは、部分的に重複している。また、検出範囲RX,RYは、それぞれ扇形であり、ビーム収集位置は離隔している。ここでは、双方のレーダがDBF−FM−CW方式レーダであるとする。
この物標検出装置は、第1検出範囲RXを有する第1レーダ100aと、第1検出範囲RXに部分的に重複する第2検出範囲RYを有する第2レーダ100bとを備えている。第1検出範囲RXは、非重複検出範囲RXaと重複検出範囲RXbとからなる。また、第2検出範囲RYは、非重複検出範囲RYaと重複検出範囲RYbとからなる。
範囲設定手段としての演算部100cは、第2検出範囲RYであって且つ第1検出範囲RXでない非重複検出範囲RYa内において、第2レーダ100bの出力のノイズレベルが上昇した場合には、このノイズレベル上昇した検出範囲RYaに隣接する第1検出範囲RX内の領域Rxを重点的検出範囲に設定して物標検出を行う。
図32は、ビーム収集位置が離隔した3つのレーダ100a,100b,100dを備えた物標検出装置100の検出範囲を示す図である。第1のレーダ100aの検出範囲RXと、第2のレーダ100bの検出範囲RYとは、部分的に重複している。また、第1のレーダ100aの検出範囲RXと、第3のレーダ100dの検出範囲RZも部分的に重複している。
検出範囲RX,RY,RZは、それぞれ扇形であり、ビーム収集位置は離隔している。ここでは、第1のレーダ100aがDBF−FM−CW方式レーダであり、第2のレーダ100b、第3のレーダ100dは、位相差検出をする2チャンネル・モノパルス方式レーダである。
このように、上記物標検出装置は、第1検出範囲RXを有する第1レーダ100aと、第1検出範囲RXに部分的に重複する第2検出範囲RYを有する第2レーダ100bと、第1検出範囲RXに部分的に重複する第3検出範囲RXを有する第3レーダ100dとを備えている。
第1検出範囲RXは、非重複検出範囲RXaと重複検出範囲RXbとからなる。第2検出範囲RYは、非重複検出範囲RYaと重複検出範囲RYbとからなる。第3検出範囲RZは、非重複検出範囲RZaと重複検出範囲RZbとからなる。
範囲設定手段としての演算部100cは、第2検出範囲RYであって且つ第1検出範囲RXでない非重複検出範囲RYa内において、第2レーダ100bの出力のノイズレベルが上昇した場合には、このノイズレベル上昇した検出範囲RYaに隣接する第1検出範囲RX内の領域Rxを重点的検出範囲に設定して物標検出を行う。この場合、重点的検出範囲Rxは、第1検出範囲RX内の第3検出範囲RZ側には設定されない。
以上、説明したように、上述の物標検出装置では、近距離広角検出範囲R2で、距離パワースペクトルのピーク検出をする際、最大ピーク位置から前後数ポイントを除いた領域のノイズレベルを常時監視している。近距離広角検出範囲R2でのみ検出した物標の履歴が頻繁に失われるため、データの補間処理を行っており、かつ、物標付近に路側物が存在しているパターンに似たノイズレベル上昇を検知した場合、遠距離狭角検出範囲R1を走査するDBF−FM−CW方式レーダヘのセンサーフュージョンを行う物標情報に、路側物フラグを追加する。
遠距離狭角検出範囲R1の検出において、物標情報に路側物フラグが追加されていた場合、遠距離狭角検出範囲R1の境界線BL付近の角度を、物標距離情報に基づき判断した角度範囲で、DFT処理を実行し、割り込み車両の即時確定を行う。このとき、路側物等の影響を考慮し、DFT演算結果に対するピーク検出の閾値を下げて、物標の存在の有無を判断している。
なお、トンネル内や防音壁などの路側物がない場合は、遠距離狭角検出範囲R1の境界線BLでのピーク検出閾値(受信レベル閾値)を通常のまま処理するが、遠距離広角検出範囲R1からの物標の履歴が確認できれば、これを検出し次第、即時物標確定を行っている。
また、近距離広角検出範囲R2のみの領域にて検知したノイズレベル上昇の情報を遠距離狭角検出範囲R1へと別途展開することで、遠距離狭角検出範囲R1で処理している路側物判定処理の事前情報として活用が可能である。逆に遠距離狭角検出範囲R1の路側物判定処理で、明らかに路側物でないと判断された場合は、その情報を近距離広角検出範囲R2の検出情報ヘフィードバックし、ノイズレベル上昇の判定範囲の見直しを行うことができる。
また、上述の構成によれば、遠距離狭角DBF方式レーダのみの構成の場合に比べて割り込み車両検出が1サイグルで判断できるため、ACC・PCSをよりリアルタイムに制御することが可能となる。また、近距離広角モノパルス方式のみの領域でノイズレベル上昇を常時監視し、路側物を判定することで、これが遠距離狭角検出範囲から得られた路側物情報と異なる場合、近距離広角モノパルス方式でのノイズレベル上昇の判定範囲を見直すことが出来る。
近距離広角モノパルス方式で距離パワースペクトルのピーク検出をする際、最大ピーク位置から前後数ポイントを除いた領域のノイズレベルを常時監視し、遠距離広角DBF方式での路側物判定処理結果とのセンサーフュージョン判定を行うことができる。遠近距離狭広角領域R1にて検出している物標が、遠距離狭角DBF方式の境界線BL付近に達した場合、上記ノイズレベル上昇が見られ、物標が路側物方向へ移動する場合、近距離広角モノパルス方式のみで検知している領域の閾値や補間処理回数を変更し、物標を即時的に見失うことを防止できる。物標を即時的に見失うことを防止できることで、ACC・PCSをより精度よく制御することが可能となる。
なお、上述の例では、演算部100cの変更手段が、検出タイミングにおける補間の回数を増加させるなどして、重複検出範囲R2bで検出されている物標がノイズレベルの上昇した近距離広角検出範囲R2に移動しなかった場合に比べて、近距離広角検出範囲R2における物標ロスト判定をし難いように演算部100cの物標ロスト判定手段を設定している。物標ロスト判定手段は、物標を見失った(ロスト)場合に物標ロストであると判定する。
なお、上述の説明では、第1検出範囲R1の検出にはDBF−FM−CW方式レーダを用い、第2の検出範囲R2の検出には2チャンネルモノパルス方式レーダを用いた。これらのレーダを採用する場合の効果としては、以下の通りである。
すなわち、従来、遠距離狭角DBF方式のレーダによって全方位走査を行う検出では、常時各チャンネルの距離パワースペクトルの演算が必要であり、割り込み車を物標として確定するまでは、数サイクルの演算履歴が必要となり、当該割り込み車を即時的に検知できすることができず、特に、トンネル内や防音壁などの路側物などがある場合、舵角情報から車両前方角度を算出し、各チャンネルの全ての距離パワースペクトルを離散フーリエ変換(DFT)を用いて演算して求め、そのピークが検出される方位を求めていたため、ピーク位置を物標として確定するまでは、各方位毎に数サイクル以上の処理時間が必要であった。
また、近距離広角モノパルス方式のレーダでは、トンネルや防音壁などの路側物が存在する場合、クラッタなどによりノイズレベルが上昇してしまうため、ピークを検出できない場合が多いので、物標を容易に見失ってしまう。
このようなレーダ類を組み合わせたとしても、遠距離狭角検出範囲と近距離広角検出範囲との重複検出範囲から、近距離広角検出範囲へと車両が移動する際、トンネルや防音壁などの路側物が存在する場合、ノイズレベルが上昇しているため、物標を確定できず、物標を容易に見失うという問題がある。
しかしながら、上述のレーダの組合せによれば、上述のように、物標を見失わずに高速に検知することができる。
更に、レーダの組合せは、本発明の効果を得ることができる範囲であれば、組合せが異なるレーダ群からなることとしてもよい。
すなわち、第1検出範囲R1の検出には、相対的に高精度の超分解アルゴリズムのレーダを用い、第2検出範囲R2の検出には、相対的に低精度のDBF−FM−CW方式のレーダを用いた場合においても、本発明の効果を得ることができる。超分解アルゴリズムのレーダとしては、MUSIC法、ESPRIT法、MODE法などを用いたレーダが知られている。
例えば、第1検出範囲R1にMUSIC法のレーダを、第2検出範囲R2にDBF−FM−CW方式のレーダを適用したり、或いは、第1検出範囲R1にESPRIT法のレーダを、第2検出範囲R2にモノパルス方式レーダを適用したりすることができる。
本発明の効果が最も得られるのは、高精度な検出方法のレーダが、相対的に車両前方を検出している組合せである。このような組合せの好ましい態様の1つが、上述のDBF−FM−CW方式レーダと、モノパルス方式レーダの組合せであるが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、両方とも同じ検出精度の検出方式であってもよいし、逆であってもよい。
例えば、各レーダの検出範囲が、近距離広角検出範囲と遠距離狭角検出範囲の組合せである場合などのように、相対的に車両から近距離の前方範囲を検出する検出方式をよりも、相対的に車両から遠距離の検出範囲を、高精度な方式のレーダで検出することが好ましい。
例えば、好ましい態様によれば、車両前方を高精度に検出すれば、例えば、プリクラッシュなどに適用する場合、最も重要な車両前方を高精度に検出することができる。しかし、高精度に検出する方法は、分解能が高いため、演算量が多い。割り込み車両は近傍の側方から車両前方に現れることがあるため、高速に検出する必要がある。そこで、側方をカバーするセンサを用いることが考えられるが、路側物などノイズがある場合、物標が近傍側方においてノイズに埋もれた状態から車両前方に車両が現れて初めて検出できるような状況が考えられる。本発明は、このような状況に対し、ノイズがある状況において、高精度な検出方法の重点的検出範囲を、ノイズレベルが上昇した検出範囲に隣接する領域に設定することで、側方からの割り込み車両を高精度かつ早期に検出することが可能となる。
さらに、好ましい態様によれば、重複領域、すなわち、高精度な検出方法によって存在が検出された物標は、側方のセンサは高精度なセンサより比較すれば、ノイズに弱いので、検出のための条件を緩めることで、確定された物標を見失わないで、検出し続けることができる。本発明の構成によれば、高精度に検出した物標の場合のみ閾値を下げているので、ノイズがある場合であっても、検出結果の信頼性を下げずに検出を続けることができる。
1・・・受信用アレーアンテナ、10・・・高周波回路、11・・・ミキサ、12・・・アイソレータ群、14・・・電圧制御型発振器、15・・・分岐回路、21・・・送信用アンテナ、22・・・直流電源、23・・・変調用信号源、24・・・アンプ、24・・・低雑音増幅器、25・・・変換器、26・・・信号処理部、27・・・演算部、50・・・処理回路、51・・・演算部、52・・・送信用アンテナ、53・・・発振器、100a・・・レーダ、100b・・・レーダ、100c・・・演算部、100・・・物標検出装置、A1,A2・・・受信用アンテナ素子、BL・・・境界線、M・・・目標物、MX1,MX2・・・ミキシング回路、Q・・・路側物、R1・・・遠距離広角検出範囲、R2・・・近距離広角検出領域、R2a,R2c・・・非重複検出範囲、Ref・・・反射波、Rx・・・重点的検出範囲、S1・・・自車両、S2・・・割り込み車、S3・・・先行車、TH’・・・限定閾値、TH・・・受信レベル閾値。