本発明によると、細胞からのコレステロール流出を増加させる新規なポリペプチドが提供される。特に、本発明は、コレステロール流出を増加させることが示された新規なATP−結合カセット1(ABC1)ポリペプチドを提供する。
ABC1は、細胞膜に存在し、ATP加水分解を利用して、原形質膜を横切って広く種々の基質を輸送するATP−結合カセット蛋白質のファミリーのメンバーである。用語「ABC1」および(ABCA1)はともに同一のATP−結合カセット蛋白質をいうことに注意すべきである。用語「ABCA1」は命名委員会によって1999年に導入され、当該分野では限定された許容を受けている。今日まで、このファミリーの30を超えるメンバーばヒトゲノムで同定されている。これらの相同蛋白質は、それを通って、分子が細胞膜を通じて輸送されるチャネル−様構造およびATPと結合してエネルギー発生ATP−加水分解を輸送にカップリングされる1以上のドメインを含有する。ファミリーのメンバーは多薬物抵抗性因子(MDR/P糖蛋白質;Chenら.,Cell,47:381−389(1986);Strideら,Mol.Pharmacol.,49:962−971(1996))、抗原提示に関連する輸送体(Neefjesら,Science,261:769−771(1993);Shepherdら,Cell,74:577−584(1993))、および嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター(Changら,J.Biol.Chem.,269:18572−18575(1994);Rommensら,Science,245:1059−1065(1989))を含む。ABC輸送体ファミリーのメンバーは、一般に、長い荷電領域および高度に疎水性のセグメントによって連結された2つの対称半体内で見いだされる4つのドメインよりなる。各半分は、6つの膜貫通セグメントを含有する疎水性ドメインならびに多くのATPaseに典型的な高度に保存されたWalkerAおよびB配列モチーフを含有する親水性ヌクレオチド結合ドメインを含有する(Hydeら,Nature,346:362−365(1990);Lucianiら,Genomics,21:150−159(1994))。輸送体の活性はヌクレオチド結合ドメインにおけるATPとの相互作用に依存し、2つの対称半体を連結する領域における残渣のリン酸化を介する調節による(Becqら,J.Biol.Chem.,272:2695−2699(1997))。
本明細書中に記載されたいくつかの系列の証拠は、細胞内コレステロール貯蔵のアポリポ蛋白質−媒介可動化における非常に重要な蛋白質としてABC1を同定した。まず、ここに提示された研究は、ABC1がタンジール病、以上HDL−コレステロール代謝によって特徴付けられる遺伝的障害において欠けていることを示した。すでに示され、本明細書中では実施例1に示したごとく、タンジール病における遺伝子欠陥は細胞内からのコレステロールのアポリポ蛋白質媒介流出の経路において欠陥を引き起こしてその結果、かなり減少したコレステロール流出活性および低いHDL−コレステロールレベルをもたらす(Oramら,J.Lipid Res.,37:2743−2491(1996);Francisら.,J.Clin.Invest.,96:78−87(1995))。タンジール病を持つ家族の遺伝的連鎖解析は欠陥遺伝子を染色体9q31上の間隔に帰属させた(Restら,Nature Genetics,20:96−98(1998))。公のデータベースのサーチは、ABC1遺伝子が染色体9q22−9q31に突き止められことを明らかとし、これはRustらで明らかにされた該間隔よりも広いがそれを含む。(Lucianiら,Supra(1994))。そのデータに基づき、ヒトABC1遺伝子の照射ハイブリッドマッピングを行い、これは、Rustらによって報告されたヒト染色体9q31の7−cM領域内にはっきりとある2つのマーカーの間に該遺伝子を位置付けた。加えて、実施例2に示されるごとく、マイクロアレイ分析は、ABC1遺伝子が、正常な細胞と比較してタンジール患者細胞において2.5倍過小発現されることを明らかとした。これらの研究は、タンジール病における欠陥遺伝子をABC1として同定した。加えて、ここに示されたさらなる研究は、ABC1活性をコレステロール流出活性に結び付けた。まず、研究は、4、4−ジイソチオシアノスチルベン−2、2’−ジスルフォン酸(DIDS)およびスルホブロモフタレイン(BSP)のごときABC1輸送活性の阻害剤もまた繊維芽細胞からのアポAI−媒介コレステロール流出を阻害することを示した(実施例6参照)。またアンチセンスABC1オリゴヌクレオチドを用い、ABC1遺伝子発現の阻害が、繊維芽細胞からのアポAI−媒介コレステロール流出を阻害することを示した(実施例7)。対照的に、ABC1遺伝子がマウス単球細胞にトランスフェクトされたトランスフェクション実験は、ABC1の過剰発現の結果、アポAI−媒介流出の増加をもたらすことを示した(実施例8)。最後に、野生型およびタンジール患者mRNAを用いて行ったRI−PCRは、ABC1 mRNA発現が正常な皮膚繊維芽細胞におけるコレステロール流出に関連する細胞状態によって調製されるが、タンジール患者繊維芽細胞においてはそうではないことを明らかにした(実施例9)。これらの知見に基づき、ABC1はコレステロール流出において主要な役割を演じると判断された。
ABC1は、原形質膜の外側リーフレットへの細胞内コレステロールの移動において役割を演じる。ABC1の欠如または欠陥ABC1による細胞内コレステロールの不十分な輸送の結果、それとアポAIおよび他のアポリポ蛋白質が特異的に相互作用する特異的膜ドメインにおけるコレステロールの欠如をもたらす(Stanglら,J.Biol.Chem.,273:31002−31008(1998);Babittら,J.Biol.Chem.,272:13242−13249(1997))。コレステロールのアポAIへの送達の失敗は、血症から迅速に除去されるコレステロール−欠陥HDL粒子の形成に導く(Bojanovskiら,J.Clin.Invest.,80:1742−1747(1987))。
(定義)
以下の定義は、本明細書を通じて用いるある用語の理解を容易にするために掲げる。
本発明においては、「単離された」とは、その元の環境(例えば、もしそれが天然に生じるのであれば天然の環境)かた取り出された物質をいい、かくして、その天然状態から「人の手によって」改変される。例えば、単離されたポリヌクレオチドはベクターまたは組成物の1部となることができるか、あるいは細胞内に含有することができ、依然として「単離されている」。なぜならば、ベクター、組成物または特定の細胞はポリヌクレオチドの元の環境ではないからである。
本明細書で用いるごとく、「ポリヌクレオチド」は、合成および天然の双方の起源のDNAおよびRNAを含むように定義される。ポリヌクレオチドは一本鎖または二本鎖DNAまたはRNA、あるいはRNA/DNAヘテロヂュプレックスとして存在することができる。かくして、本発明のポリヌクレオチドはいずれかのポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドよりなることができ、これは未修飾RNAまたはDNAあるいは修飾RNAまたはDNAで有り得る。例えば、ポリヌクレオチドは、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域、または一本鎖、二本鎖および三本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖、二本鎖RNA、および一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖または、より典型的には二本鎖または三本鎖、あるいは一本鎖および二本鎖領域の混合物で有り得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子より成り得る。加えて、ポリヌクレオチドは、RNAまたはDNAあるいはRNAおよびDNA双方を含む三本鎖領域よりなることができる。また、ポリヌクレオチドは1以上の修飾された塩基または安定性または他の理由で修飾されたDNAまたはRNA骨格を含有することもできる。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化塩基およびイノシンのごとき異常塩基を含む。種々の修飾をDNAおよびRNAに対して成すことができ;かくして、「ポリヌクレオチド」はポリヌクレオチドの化学的に酵素的にまたは代謝的に修飾された形態を含む。用語「ポリヌクレオチド」はしばしばオリゴヌクレオチドといわれる短いポリヌクレオチドも含む。
用語「ポリペプチド」とは、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合によって相互に連結した2以上のアミノ酸を含むいずれのペプチドまたは蛋白質もいう。「ポリペプチド」とは、通常はペプチドと言われる短いアミノ酸配列、ならびに一般に蛋白質といわれるより長いアミノ酸配列をともにいう。ポリペプチドは20の遺伝子がコードするアミノ酸以外のアミノ酸を含有することができる。さらに、ポリペプチドは、プロセッシングおよび他の翻訳後修飾のごとき天然のプロセスによって、または当該分野でよく知られた化学的修飾技術によって修飾することができる。与えられたポリペプチドは多くのタイプの修飾を含有することができる。また、同一タイプの修飾が、ポリペプチドにおける1以上の部位において同一または種々の程度存在することができる。修飾は、ペプチドの骨格、アミノ酸の側鎖およびアミノまたはカルボキシル末端を含めたポリペプチドのどこかで起こることができる。修飾は、限定されるものではないが、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、ホルミル化、ガンマ−カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、セレノイル化、ならびにヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体、脂質または脂質誘導体、またはホスファチジルイノシトールの共有結合を含む。他の修飾は架橋、環化、ピログルタメートの形成、GPIアンカー形成、蛋白質分解プロセッシングラセミ化、およびアルギニル化およびユビキチン化のごときアミノ酸のt−RNA−媒介負荷を含む。例えば、Proteins−Structure and Molecular Properties,第二版,T.E.Creighton,W.H.Freedman and Co.,New York(1993);Word,F.,Posttranslational Protein Modification:Perspectives and Prospects,in Posttranslation Covalent Modification of Proteins.B,C.Johnson.Ed.,Academic Press,New York(1983);Seifterら.,Meth.Enzymol.,182:626−646(1990);および Rattanら.,Protein Synthesis:Posttrasnlational Modification and Aging,Ann.N.Y.Acad.Sci.,663:48−62(1992))参照。本発明のポリペプチドはいずれかの適当な方法で調製することができる。かかるポリペプチドは単離された天然に生じるポリペプチド、組換えにより生産されたポリペプチド、合成により生産されたポリペプチド、またはこれらの方法の組合せによって生産されたポリペプチドを含む。かかるポリペプチドを生産する手段は当該分野でよく知られている。
本発明の「ポリヌクレオチド」は、配列番号:3または配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、1394−1643または1394−1532、あるいはその相補体に対して厳密なハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドを含む。また、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:4、配列番号:5または配列番号:6あるいはその相補体に対して厳密なハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドも含む。
「厳密なハイブリダイゼーション条件」とは、50%フォルミアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸ナトリウム)、mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルトの溶液、10%デキストラン硫酸塩、および20μg/mlの変成した剪断サケ精子DNAを含む溶液中での42℃における一晩のインキュベーション、続いての約65℃における0.1×SSC中でのフィルターの洗浄をいう。
本明細書中で用いるごとく用語「相補性」とは、例えば、二本鎖ポリヌクレオチドの2つのストランドの間、またはオリゴヌクレオチドプライマーおよび増幅もしくは配列決定されるべき一本鎖ポリヌクレオチド上のプライマー結合部位の間のごときヌクレオチドの間のハイブリダイゼーションまたは塩基対合をいう。2つの一本鎖ヌクレオチド分子は、1つのストランドのヌクレオチドが、他のストランドのヌクレオチドの少なくとも約80%にて適当なヌクレオチド挿入、欠失または置換、対をもって最適に整列する場合に相補性であるといわれる。
当該分野で知られている「同一性」は、配列を比較することによって決定して、2以上のポリヌクレオチド配列または2以上のポリヌクレオチド配列の間の関係である。また、「同一性」または「同様性」は、そのような配列のストリングの間のマッチによって決定して、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列の間の配列関連性の程度をいう当該分野で認められた意味を有する。「同一性」および「同様性」は、(Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,(1993);Computer Analysis of Sequence data,Part I,Griggin,A.M.,および Griffin,H.G.,編集,Humana Press,New Jersey,(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,(1987);and Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.および Devereux,J.,編集,M Stockton Press,New York,(1991);および Carillo,H.,および Lipton,D.SIAM J Applied Math 48:1073(1988))に公表されて入るものを含めた多数のよく知られた方法を用いて計算することができる。2つの配列の間の同一性または同様性を判断するのに通常使用された方法は、限定されるのものではないが、“Guide to Huge Computers,” Martin J.Bishop,ed.,Academic Press,San Diego,(1994),および Carillo,H.,および Lipton,D.,SIAM J Applied Math 48:1073’1988)に開示されたものを含む。同一性を決定する好ましい方法は、テストされる配列の間で最大のマッチを与えるように設計される。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを整列させるための方法は、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,R,Nucleic Acids Research(1984) 12(1):387(1984)),BLASTP,BLASTIN,FASTA(Atschul,S.F.ら.,J.Molec.Biol.215:403(1990).Bestfit program(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8for Unix,Genetics Computer Group,University Reserch Park,575 Science Drive,Madison.WI53711(Smith および Waterman,Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981)の局所的相同性アルゴリズムを使用)を含めたコンピュータープログラムに編集されている。
特定の配列が、例えば、参照配列に対して90%同一であるか否かを判断するのに配列整列プログラムのいずれかを用いると、パラメーターは、同一性のパーセンテージが参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの全長にわたって計算され、参照ポリヌクレオチド中のヌクレオチドの合計数の10%までの同一性におけるギャップが許容されるように設定される。
グローバル配列整列ともいわれる、クエリー配列(本発明の配列)および対象配列の間の最良の総じてのマッチを決定する好ましい方法は、Brutlagら(Comp.App.Biosci.6:237−245(1990))のアルゴリズムに基づいたFASTDBコンピュータープログラムを用いて決定することができる。用語「配列」はヌクレオチドおよびアミノ酸配列を含む。配列整列において、クエリーおよび対象配列はともにヌクレオチド配列であるか、あるいはともにアミノ酸配列である。該グローバル配列整列の結果はパーセンと同一性で表す。パーセント同一性を計算するDNA配列のFASTDBサーチで用いる好ましいパラメーターは:マトリックス=ウニタリー、k−tuple=4、ミスマッチペナルティー=1、接合ペナルティー=30、ランダム化基長さ=0、およびカットオフスコア=1、ギャップペナルティー=5、ギャップサイズペナルティー0.05、およびウインドウサイズ=500またはどれだけ短かかろうがヌクレオチド塩基におけるクエリー配列の長さである。アミノ酸整列のパーセント同一性および同様性を計算するのに使用される好ましいパラメーターは:マトリックス=PAM 150、k−tuple=2、ミスマッチペナルティー=1、接合ペナルティー=20、ランダム化基長さ=0、カットオフスコア=1、ギャップペナルティー=5、ギャップサイズペナルティー=0.05、およびウインドウサイズ=500またはどれだけ短かろうがアミノ酸残基におけるクエリー配列の長さである。
説明として、配列番号:1に含有される配列に対して少なくとも90%「同一性」のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド配列が配列番号:1の合計長さの各100ヌクレオチド当たり10までの点突然変異を含み得る以外は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が配列番号:1に含まれる配列と同一であることを意味する。換言すれば、配列番号:1に対して少なくとも90%同一性を有するヌクレオチド配列を含みポリヌクレオチドを得るためには、配列番号:1に含まれる配列においてヌクレオチドの10%までを欠失し、挿入しまたは他のヌクレオチドで置き換えることができる。これらの変化はポリヌクレオチド全体のどこかで起こることができ、ヌクレオチド内または配列番号:1内の1以上の連続群で個々に分散し得る。
同様に、配列番号:2に含まれる配列に対して少なくとも98%「同一性」のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、ポリペプチド配列が配列番号:2の合計長さの各100アミノ酸当たり2までのアミノ酸改変を含むことができる以外は、ポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号:2に含まれる配列と同一であることを意味する。換言すれば、配列番号:2と少なくとも98%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、配列番号:2に含まれる配列中のアミノ酸残基の2%までを欠失し、挿入し、または他のアミノ酸残基で置き換えることができる。これらの変化はポリペプチド全体のどこかで起こることができ、残基間または配列番号:2内の1以上の連続群で個々に分散することができる。
「生物学的活性を有するポリペプチド」とは、用量依存性をもってまたはそれなくして、特定の生物学的アッセイにおいて測定して、本発明のポリペプチドの活性と同様であるが必ずしも同一ではない活性(例えば、コレステロール輸送活性)を呈するポリペプチドをいう、用量依存性が存在する場合には、それは、ポリペプチドのそれと同一である必要はないが、むしろ、本発明のポリペプチドと比較して与えられた活性における用量−依存性に実質的に同様である(例えば、候補ポリペプチドは、本発明のポリペプチドに対してより大きな活性または約25倍以下小さい、好ましくは、約10倍以内小さな活性、最も好ましくは約3倍以下小さい活性を呈するであろう)。
「ポリペプチド変種」とは、本発明のABC1ポリペプチドと異なるが、その本質的な特性を保有するポリペプチドをいう。一般に、変種は総じて密接に似ており、多くの領域に置いて、配列番号:2を含むポリペプチドと同一である。好ましくは、ポリペプチド変種は生物学的活性、すなわち、コレステロール輸送活性を保持する。変種は、限定されるのものではないが、スプライス変種および対立遺伝子変種並びに付加、欠失および置換変種を含む。
同様に、「ポリヌクレオチド変種」とは、本発明のポリヌクレオチドとは異なるがその本質的特性を保有するポリヌクレオチドをいう。該変種はコーディング領域、非コーディング領域、または双方において改変を含むことができる。かくして、例えば、ABC1ポリヌクレオチド変種は、配列番号:1のそれと異なるが、コレステロール輸送活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する。また、例えば、ポリヌクレオチド変種は、配列番号:3のそれと異なるが、プロモーター活性を保有するヌクレオチド配列を有する。特に好ましいものは、サイレント置換、付加または欠失を生じるが、コードされたポリペプチドの特性または活性を改変しない改変を含むポリヌクレオチド変種である。遺伝暗号の縮重のためサイレント置換によって生じたヌクレオチド変種が好ましい。さらに、10−20、5−10、1−5または1−2アミノ酸がいずれかの組合せにおいて置換され、欠失または付加された変種もまた好ましい。ポリヌクレオチド変種は、種々の理由で、例えば、特定の宿主のためのコドン発現を最適化するのに生じさせることができる(例えば、ヒトmRNAにおけるコドンをE.coliのごとき細菌宿主によって好まれるものへの変化)。
「対立遺伝子変種」は、生物の染色体上の与えられた遺伝子座を占有する遺伝子のいくつかの代替形態のうちの1つをいう天然に生じる変種である(Genes II,Lewin,B.編,John Wiley & Sons,New York (1985))。これらの対立遺伝子変種はポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドレベルいずれかにおいて変化することができる。別法として、天然に生じない変種は突然変異誘発技術によってまたは直接的合成によって生じさせることができる。
用語「保存的アミノ酸置換」とは、その部位におけるアミノ酸残基の極性または電荷に対してほとんどまたは全くないような、天然アミノ酸残基の非天然残基での置換をいう。例えば、保存的置換は、いずれかの他の非−極性残基でのポリペプチド中の非極性残基の置換に由来する。保存的置換のもう1つの例は酸性残基のもう1つの酸性残基での置換である。保存的置換は、天然に生じるABC1ポリペプチドのそれと同様な機能的および化学的特徴を有するABC1ポリペプチドを生じると期待させる。
用語「相同分子種」とは、異なる主から同定されたポリペプチドに対応するポリペプチドをいう。例えば、マウスおよびヒトABC1ポリペプチドは相同分子種と考えられる。
用語「ベクター」を用いて、コーディング情報を宿主細胞に移動させるのに使用されるいずれかの分子(例えば、核酸、プラスミドまたはウイルス)をいうのに用いられる。
用語「発現ベクター」とは、宿主細胞の形質転換に適し、挿入された異種核酸配列の配列を指令しおよび/または制御する核酸配列を含むベクターをいう。発現は、限定されるものではないが、もしイントロンが存在すれば、転写、翻訳およびRNAスプライシングのごときプロセスを含む。
本明細書中で用いるごとく、用語「転写調節領域」または「発現変調部分」とは、限定されるものではないが、プロモーター、エンハンサーおよびリプレッサーを含めた遺伝子のいずれかの領域をいう。
本明細書中で用いるごとく、用語「プロモーター」とは、構造遺伝子の転写を制御する(一般に、約100ないし1000bp内の)構造遺伝子の開始コドンに対して上流(すなわち、5’側)に位置する転写されない配列をいう。
本明細書中で用いるごとく、用語「エンハンサー」とは、プロモーターに作用して転写を増加させる、通常長さが10−300bpであるDNAのシス−作用性エレメントをいう。エンハンサーは比較的配向および位置非依存性である。それらは転写ユニットに対して5’および3’側に見いだされている。
「宿主細胞」は形質転換またはトランスフェクトされている、あるいは外因性ポリヌクレオチド配列によって形質転換またはトランスフェクションが可能な細胞である。該用語は、選択された遺伝子が存在する限り、子孫がもとの親と形態または遺伝子的造りが同一であるか否かに拘わらず、親細胞の子孫を含む。
用語「作動可能に連結した」は、ここでは、かく記載されたフランキング配列がその通常の機能を行うように配置されまたは組み立てられたフランキング配列の配置をいうのに用いられる。かくして、コーディング配列に作動可能に連結したフランキング配列はコーディング配列の複製、転写および/または翻訳を行うことができる。例えば、プロモーターが当該コーディング配列の転写を指令できる場合にコーディング配列はプロモーターに作動可能に連結している。フランキング配列は、それが正しく機能する限り、コーディング配列に隣接している必要はない。かくして、例えば、介在するいまだ翻訳されていないが転写された配列はプロモーター配列およびコーディング配列の間に存在することができ、プロモーター配列は依然としてコーディング配列に「作動可能に連結している」と考えられることができる。
用語「トランスフェクション」は、細胞による外来性または外因性DNAの摂取をいうのに用いられ、外因性DNAが細胞膜の内部に導入されてしまっていれば細胞はトランスフェクトされてしまっている。多数のトランスフェクション技術が当該分野でよく知られており、ここに開示される。例えば、Grahamら,1973,Virology 52:456;Sambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratories,1989);Davisら,Basic Methods in Molecular Biology(Elsevier,1986);および Chuら,1981,Gene 13:197参照。そのような技術を用いて1以上の外因性DNA部位を適当な宿主細胞に導入することができる。
(ABC1ポリペプチド)
本発明は新規なヒトABC1ポリペプチドに関する。1つの実施形態において、ABC1ポリペプチドは配列番号;2に示されたアミノ酸配列を含む。他の者によって報告されたヒトABC1蛋白質とは対照的に、配列番号:2に示されたABC1ポリペプチドはアミノ末端にさらに60個のアミノ酸を有し、これは2201アミノ酸よりも2261アミノ酸のABC1蛋白質を明らかにする(Langmannら,in Biochem,Biophys.Res.Comm.257.20−33(1999)参照)。加えて、配列番号:2に示されたABC1ポリペプチドは、いくつかのアミノ酸残基において他の報告された配列とは異なる。具体的には配列番号:2に示された現在のABC1ポリペプチドは残基159においてRの代わりにK、765においてVの代わりにI、823においてIの代わりにM、1495においてTの代わりにI、1588においてPの代わりにL、1914においてRの代わりにK、および2108においてPの代わりにLを有する。公表された記録と合致させたままとするには、前記アミノ酸番号は配列番号:2のものよりもむしろ(Lawnら,Clin.Incest.,104:R25−31(1999)のものである。後記にてさらに詳細に考察するごとく、配列の差異は、最初のABC1 cDNAがPCR−ベースの戦略を用いてマウスからクローンされ、引き続いて報告されたヒトABC1 cDNA配列がマウス蛋白質の配列から予測したという事実に由来するようである。ABC1蛋白質は、SDS−PAGEによって測定された240kDの近似的な分子量を有する。
また、本発明は、配列番号:2のアミノ酸配列に対してその全長さにわたって少なくとも98%同一性を好ましくは有するアミノ酸配列を含むABC1ポリペプチドに関する。より好ましくは、ポリペプチドは配列番号:2のアミノ酸配列に対してその全長さにわたって少なくとも99%同一性を有する。より好ましくは、ポリペプチドは配列番号:2のアミノ酸に対してその全長さにわたって100%同一性を有する。すでに定義したごとく、用語「同一性」とは、ポリペプチド配列の間の配列関連性の程度をいい、これは後記にてさらに定義する。
そのような関連ABC1ポリペプチドは置換、欠失、および挿入変種ならびに対立遺伝子変種、スプライス変種、断片、誘導体および相同分子種を含む。好ましいポリペプチドおよびポリペプチド断片は、ABC1の生物学的活性を保有するポリペプチドおよび断片を含む。特に、逆コレステロール輸送を媒介するポリペプチドおよび断片が好ましい。また、好ましいのは、改良された逆コレステロール輸送活性を有するポリペプチドおよび断片である。
置換、欠失および挿入変種は、配列番号:2に記載されたABC1アミノ酸配列と比較して、1以上のアミノ酸配列置換、欠失および/または付加を含むアミノ酸配列を含むABC1ポリペプチドをいう。好ましい実施形態において、該変種は、1ないし5、約1ないし10、または約1ないし20、または約1ないし40、または約1ないし60アミノ酸置換、付加および/または欠失を有する。例えば、該変種は、当該変種は生物学的機能を保有する限り、ポリペプチド中のどこかに、ならびにカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1以上のアミノ酸残基の付加を有することができる。また、例えば、1以上のアミノ酸は、生物学的機能の実質的喪失無くしてカルボキシル末端および/またはアミノ末端を含めたポリペプチドのいずれかの領域から欠失させることができる(Ronら,J.Biol.Chem.,268:2984−2988(1993);Dobeliら,J.Biotechnology,7:199−216(1988))。ABC1変種がその生物学的活性を保有する限りアミノ酸置換は保存的、非−保存的またはそのいずれかの組合せであり得る。加えて、置換は非−保存アミノ酸残基で行うことができ、ここに、置換された残基は遺伝暗号によってコードされていてもよくまたはされていなくてもよく、アミノ酸残基は置換された基を有する。
ABC1ポリペプチドの適当は変種はよく知られて技術を用いて測定することができる。例えば、生物学的活性を破壊することなく変化させることができるABC1分子の領域を同定することによって、適当なABC1変種を測定することができる。また、当該分野で認識されているごとく、生物学的活性につき、または構造につき重要で有り得る領域でさえ、生物学的活性を破壊することなく、またはポリペプチド構造に有害に影響することなく保存的アミノ酸置換に付すことができる。生物学的活性を破壊することなく変化させることができるアミノ酸残基は、活性につき重要でないABC1ポリペプチドの領域を同定することによって測定することができる(Bowieら,Science,247:1306−1310(1990))。例えば、種々の種からのABC1ポリペプチドを比較して、保存された交差種であるABC1分子のアミノ酸残基および領域を測定することができる。保存されたアミノ酸残基は、生物学的機能および/または構造につき重要なようである。対照的に、保存された交差種でなく、かくして、天然の選択によって許容されるABC1分子の領域の変化は、生物学的活性および/または構造に有害に影響しないであろう。従って、非−保存領域において付加、欠失または置換をもつABC1ポリペプチドは適当な変種のようである。比較的保存された領域に置いてさえ、化学的に同様なアミノ酸は、活性を保有しつつ天然に生じる残基の代わりに置き換えることができる。
加えて、構造−機能実験を用いて、活性または構造につき重要である、ABCRおよびABC−Cのごとき、ATP−結合カセット蛋白質ファミリーの他もメンバーにおける残渣を測定することができる。そのような実験は、他のATP−結合カセット蛋白質において活性または構造につき重要であるアミノ酸残渣に対応するABC1変種における重要なアミノ酸残基の予測を可能とする。例えば、他のATP−結合カセット蛋白質の構造−機能実験に基づき、ABC1における重要なアミノ酸残基は、ヌクレオチド結合およびステロール輸送に関連する領域で見いだされるようである。適当は変種は、例えば、ABC1ポリペプチドのそのような予測される重要なアミノ酸残基の代わりに化学的に同様なアミノ酸置換を有するポリペプチドを含む。
特異的位置にアミノ酸変化を導入する遺伝子工学技術を用いて適当なABC1変種を測定して、ポリペプチド機能につき非常に重要な領域を同定することもできる。アミノ酸変化は、例えば、部位−特異的突然変異誘発またはアラニン−走査突然変異誘発を用いて成すことができる(Cunninghamら,Science,244:1081−1085(1989))。ついで、例えば、本明細書中に記載したコレステロール流出アッセイの内のいずれか1つを用い、得られたABC1変種を生物学的活性につきテストすることができる。破壊されたコレステロール流出活性をもたらす特定のアミノ酸残基置換を有する変種は適当なABC1変種と考えられないであろう。
適当な変種を同定するためのさらなる方法は当該分野でよく知られている。さらに、当業者であれば、蛋白質中のあるアミノ酸位置で許容されるであろうアミノ酸変化を認識するであろう(Bowieら,supra(1990))。例えば、一般に、(蛋白質の三次構造内にある)最も埋もれたまたは内部のアミノ酸残基は非極性側鎖を必要とし、他方、表面または外部側鎖のより少ない特徴が一般に保存されることは知られている。さらに、許容された保存的アミノ酸置換は、死亡族または疎水性アミノ酸Ala、Val、LeuおよびIleの置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの置換、酸性残基AspおよびGluの置換、アミド残基AsnおよびGlnの置換、塩基性残基Lys、ArgおよびHisの置換、芳香族残基Phe、TyrおよびTrpの置換、小さなサイズのアミノ酸Ala、Ser、Thr、MetおよびGlyの置換を含む。
ABC1変種は天然に生じるものであるか、人工的に構築されることができる。天然に生じる変種の例は対立遺伝子変種およびスプライス変種である。対立遺伝子変種は、生物または生物の集団の染色体上にある与えられた遺伝子座を占有する遺伝子のいくつかの代替形態の内の1つをいう(Lewin,B.,ed.,GenesII,John Wiley&Sons,New York(1985))。対立遺伝子変種はポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドレベルいずれかにおいて変化させることができる。スプライス変種とは核酸分子、通常RNAをいい、これはRNA転写体、および対応するポリペプチドにおけるイントロン配列の別のプロセッシングによって生じる。別法として、ABC1変種は人工的に構築することができる。例えば、ABC1変種は、部位−特異的突然変異誘発の技術を用いて構築することができる。また、例えば、ABC1変種は、配列番号:1に記載された野生型DNA配列から記載されたごとく変化するDNA配列を有する、該変種をコードする対応する核酸分子から調製することができる。
ポリペプチド断片とは、配列番号:2に記載されたABC1の全長アミノ酸配列未満を含むポリペプチドをいう。好ましいポリペプチド断片は、ABC1の生物学的活性を保有する断片を含む。特に、逆コレステロール輸送を媒介する、または改良された逆コレステロール輸送活性を有する断片が好ましい。ABC1断片は、生物学的機能が維持される限り、カルボキシル末端および/またはアミノ末端を含めた、ポリペプチドのいずれかの領域から欠失された1以上のアミノ酸を有することができる。ABC1ポリペプチド断片は、代替スプライシングまたはイン・ビボプロテアーゼ活性を通じるごとく天然で生じることができるか、よく知られた方法を用い、人工的に構築することができる。
また、本発明は、ここに定義されるごとく、化学的に修飾されているABC1ポリペプチド、変種または断片をいうABC1ポリペプチド誘導体に関する。誘導体は、ポリペプチドに付着した分子のタイプまたは位置いずれかにおいて、天然に生じるABC1ポリペプチドとは異なるように修飾される。誘導体は、さらに、ABC1ポリペプチドに天然で付着した1以上の化学基の欠失によって形成されたポリペプチドを含む。加えて、配列番号:2のアミノ酸配列を含むABC1ポリペプチドならびに前記ABC1変種および断片を同種ポリペプチドに融合させて、ホモダイマーを形成することができ、あるいは、異種ポリペプチドに融合させてヘテロダイマーを形成させることができる。
本発明のもう1つの態様は、タンジール患者から単離されたポリペプチドに対応する、突然変異体ABC1ポリペプチドおよびその断片に関する。1つの好ましい実施形態において、ABC1ポリペプチドは配列番号:8を含む。蛋白質はタンジール患者(TD1)から単離し、実施例1および5に記載されたごとく配列決定する。配列番号:8に記載されたアミノ酸配列は、位置537におけるグルタミンからアルギニン残渣への置換を例外として野生型配列と同様である(残基番号は(Lawnら,J.Clin.Invest.,104:r25−31(1999))のものであり、これは、配列番号:8の位置597に対応する。この残基の位置はアミノ−末端親水性ドメイン内にあり、第1の予測される膜貫通ドメイン近くにある。置換は蛋白質のこの領域中のアミノ酸の電荷を変化させ、その結果図1に示されるように、かなり減少したコレステロール流出活性を有するABC1蛋白質がもたらされる。
もう1つの好ましい実施形態において、突然変異体ABC1ポリペプチドは配列番号:10を含む。該蛋白質はタンジール患者(TD2)から単離されたポリペプチドに対応し、実施例1および5に記載されたごとく配列決定される。配列番号:10に記載されたアミノ酸配列は、残基527におけるアルギニンのトリプトファンへの置換を例外として野生型配列と同様である(残基の番号はLawnら,supra(1999)、これは 配列番号:10の位置587に対応する)。TED1ポリペプチドと同様に、この置換は、ABC1蛋白質のアミノ−末端親水性ドメイン中のアミノ酸残基の電荷を変化させる。また、得られた突然変異体ABC1蛋白質は、図1に示されるごとく、かなり減少したコレステロール流出活性を有する。
(ABC1ポリヌクレオチド)
本発明のもう1つの態様は、新規なABC1ポリペプチドおよびその変種をコードする単離されたポリヌクレオチドに関する。本発明は、例えば、全長ABC1ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド、野生型ABC1の全長cDNAを含有するポリヌクレオチド、野生型ABC1のコーディング配列の全長を含むポリヌクレオチド、およびABC1の非−コーディング5’および3’配列を含むポリヌクレオチドを提供する。また、本発明は、タンジール患者のもののごとき突然変異体ABC1ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。
1つの好ましい実施形態において、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号:2を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。重要なことには、エクソン3に見いだされる予測された開始メチオニンに基づいて2201アミノ酸の蛋白質につきコードするLangmannらの公表された配列とは対照的に(Langmannら,Biochem,Biophys.Res.Comm.,257:29−33(1999)(GenBank受託番号AJO12376)、現在特許請求されているヌクレオチド配列は50のエクソンを含有し、2261アミノ酸の蛋白質につきコードする(図4参照)。本発明の対応するヌクレオチド配列は、以下の60アミノ酸−末端アミノ酸:
MACWPQLRLLLWKNLTFRRRQTCQLLLEVAWPLFIFLILISVRLSYPPYEQHECHFPNKA
に対応する5’末端にさらなる180ヌクレオチドを含むコーディング配列を含有する。
この位置から上流にイン・フレーム停止コドン6ないし9ヌクレオチドがあると仮定すれば、新しく予測される開始部位は、連続的オープンリーディングフレームを生じ得る税所のメチオニンコドンである。該60のさらなるアミノ酸についてのオープンリーディングフレームをやはり含む関連するABC輸送体配列ABCRおよびABC−C(ABC3としても知られている)とこの新しいABC1 cDNA配列との整列は高度の同様性を示し、これは、相同ABC輸送体蛋白質が、ヒトABC1で提案されたアミノ末端延長配列に関連する配列で始まることを意味する。ヒトABC1の初期に公表された開始部位は、新しく開示されたメチオニンがイン・フレームではないように延長領域に余分なヌクレオチド「n」を含有する公表されたマウスABC1 cDNA配列(Lucianiら,Genomics,21150−159(1994);GenBank受託番号:X75926)から予測されたようである。しかしながら、もしマウス配列中の「n」ヌクレオチドが無視されれば、延長領域のマウスおよびヒト配列は同一である。これらの結果に徴すれば、全長ヒトABC1蛋白質は、Langmannらによって従前に提案されて入るごとく、2201アミノ酸よりはむしろ2261アミノ酸を含有するようである。従って、LangmannらはヒトABC1の十分なオープンリーディングフレームを提示していない。
もう1つの好ましい実施形態において、単離されたポリヌクレオチドは、非−コーディング5’および3’配列いずれかの少なくとも1部を含む全長ABC1 cDNAを含む。好ましくは、該ポリヌクレオチドは配列番号:1に示されたヌクレオチド配列を含む。配列番号:1に示された10.4kbヒトABC1 cDNA配列は、6783ヌクレオチド+5’および3’非翻訳領域のオープンリーディングフレームを含有する。位置291に開始コドン、および位置7074に停止コドンがある。配列番号:1に示された現在のABC1 cDNAは、いくつかの点で公表されたABC1 cDNA(GenBank 受託番号.AJO12376)とは異なる。まず、現在のABC1 cDNAは5’末端にさらなる350ヌクレオチドおよび3’末端にさらなる3136ヌクレオチドを含む(ポリ(A)テールは含まず)。また、本発明のABC1配列は、コーディング領域における10ヌクレオチドの置換によって公表されたABC1 cDNAとは異なる。10の差の内、7つのヌクレオチドの差はアミノ酸変化を予測する。公表された記録と合致させるためには以下のヌクレオチドおよびアミノ酸番号は配列番号:1のものよりはむしろLawnら.,Clin.Invest.,104:R25−31(1999)およびGenBank受託番号AJO12376のものである。ヌクレオチドおよびアミノ酸変化は以下の通りである:(1)ヌクレオチド414におけるGの代わりのA;(2)ヌクレオチド596におけるGの代わりのA(アミノ酸159におけるRの代わりのK);(3)ヌクレオチド705におけるCの代わりのT;(4)ヌクレオチド1980におけるCの代わりのA;(5)2413におけるGの代わりのA(アミノ酸765におけるVの代わりのI);(6)2589におけるAの代わりのG(アミノ酸823におけるIの代わりのM);(7)4604におけるCの代わりのT(アミノ酸1495におけるTの代わりのI);(8)4883におけるCの代わりのT(アミノ酸1588におけるPの代わりのL);(9)5861におけるGの代わりのA(アミノ酸1914におけうRの代わりのK);および(10)6443におけるCの代わりのT(アミノ酸2108におけるPの代わりのL)。アミノ酸変化の内5は保存的アミノ酸変化であり、多形または配列のエラーを表し得る。2つの例において、本発明の配列はGenBank配列からの重要なアミノ酸の差を予測する。該差の結果、残基1588におけるおよび2108におけるプロリンよりはむしろロイシンがもたらされる。興味深いことには、療法の位置において、予測されるロイシンは、分析した3つのTD試料の各々ならびに高度に保存されたマウスABC1蛋白質にも見いだされた。
また、本発明は、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも80%同一性を好ましくは有するヌクレオチド配列を含むABC1ポリヌクレオチドに関する。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも90%同一性を有する。なおより好ましくは、ポリヌクレオチドが、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも95%同一性を有する。最も好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって100%同一性を有する。そのような関連するABC1ポリヌクレオチドは、置換、欠失および挿入変種、ならびに対立遺伝子変種、スプライス変種、断片、誘導体および相同分子種を含み、ここに、1以上のヌクレオチドは置換、欠失、挿入または誘導体化されている。好ましいポリヌクレオチドは、コレステロール流出活性のごとき生物学的活性を保有するABC1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
もう1つの好ましい実施形態において、単離されたポリヌクレオチドはABC1の全コーディング配列を含む。特に好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:1のヌクレオチド291−7074に示された配列を示す。この単離されたポリヌクレオチドは6783ヌクレオチドのABC1オープンリーディングフレームを含有し、前記したごとく、2261アミノ酸のポリペプチドをコードする。
さらにもう1つの好ましい実施形態において、単離されたポリヌクレオチドは、ABC1変種ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。特に、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号:2のアミノ酸配列に対して少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。また、好ましいのは、配列番号:2のアミノ酸配列に対して少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドである。従って、本発明は、記載された置換、欠失および挿入変種、ならじにABC1対立遺伝子変種、スプライス変種、断片、誘導体、融合ポリペプチドおよび相同分子種を含めた、前記ABC1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。好ましいポリヌクレオチドは、ABC1の生物学的活性を保有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。特に、逆コレステロール輸送を媒介するポリペプチドをコードするヌクレオチドが好ましい。また、好ましいのは、改良された逆コレステロール輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
本発明のさらにもう1つの態様は、タンジール患者からの突然変異体ABC1ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドに関する。1つの好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:8のポリペプチドをコードし、そのポリペプチドは患者TD1から単離され、それは前記されている。もう1つの好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:7に記載されたヌクレオチド配列を含む。配列番号:7に記載されたヌクレオチド配列は十分はオープンリーディングフレーム、ならじに5’および3’フランキング配列を含む。該オープンリーディングフレームは、他の置換の内でも、位置537においてAからGへの置換をもたらすヌクレオチド置換を含む2261のアミノ酸のポリペプチドをコードする(Lawnら,supra(1999))のナンバリングを使用)。
突然変異体ABC1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関連するもう1つの好ましい実施形態において、ポリペプチドは配列番号:10のポリペプチドをコードし、そのポリペプチドはタンジール患者TD2から単離され、これはやはり前記した。さらにもう1つの好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:9に記載されたヌクレオチド配列を含む。配列番号:9に記載されたヌクレオチド配列は十分はオープンリーディングフレーム、ならびに5’および3’フランキング配列を含む。オープンリーディングフレームは、他の置換の内でも、残基527においてArgからTrypへの置換をもたらすポリヌクレオチド置換を含む2261アミノ酸のポリペプチドをコードする(Lawnら、supra(1999)のナンバリングを使用)。
本発明のもう1つの態様は、ABC1の非−コーディング5’フランキングおよび3’フランキング領域を含む単離されたポリヌクレオチドに関する。1つの実施形態において、単離されたポリヌクレオチドはABC1の非−コーディング5’フランキング領域を含む。好ましくは、5’フランキング領域は、限定されるものではないが、ABC1プロモーター領域を含む。かくして、好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:3に示された配列を含む。異種レポーターアッセイによって示され、実施例15で議論したごとく、配列番号:3に記載されたポリヌクレオチドはABC1遺伝子の転写調節領域を含む。図13に示すごとく、配列番号:3に記載されたポリヌクレオチドは、位置1522、1435および1383におけるTATAボックスを含めたいくつかの転写調節エレメント、ならびにいくつかの推定SP1部位、およびいくつかの核レポーター半分部位を含めた転写因子結合部位を含有する1643b.p.非−コーディング配列である。加えて、同定されたステロール応答エレメントは位置1483−1500に見いだされる。実施例17に記載されたさらなる異種レポーターアッセイは、いくつかの区別される配列番号:3の部分がプロモーター活性を保有することを明らかとした。従ってもう1つの好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643または1394−1643を含む。特に好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:3のヌクレオチド1394−1532を含み、この配列はABC1プロモーター活性を有することが示された(実施例17参照)。さらにもう1つの好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:3のヌクレオチド1480−1510を含み、これはLXRリガンドに対するABC1転写応答を調節することが示される。
また、5’フランキングポリヌクレオチドは、厳密条件下で配列番号:3に記載されたヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含み、ここに、該ヌクレオチド配列はABC1プロモーター活性を有する。さらにもう1つの実施形態において、ポリペプチドは、厳密な条件下で配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、または1394−1643を含むヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含み、ここに、該ヌクレオチド配列はABC1プロモーター活性を有する。
もう1つの実施形態において、単離されたポリヌクレオチドはABC1の3’フランキング領域を含む。ABC1転写体のポリアデニル化の代替部位を表すことができるいくつかの3’非翻訳領域が同定されて入る。好ましくは、3’フランキング領域は調節配列を含有する。例えば、全長3’UTR(配列番号:6)は、Vigilinの結合に必要なことが示されている46配列(AA)nCU/UC(AA)nを含有する。Vigilin、14K相同性ドメインを持つ普遍的蛋白質はエストロゲン−誘導性ビテロゲニンmRNA 3’−非翻訳領域結合蛋白質である(J.Biol.Chem.,272:12249−12252(1997))。結合HDLに加え、VigilinはmRNAの3’フランキング領域に結合し、mRNA転写体の半減期を増加させることが示されて入る(Mol.Cell.Biol.,18:3991−4003(1998))。かくして、3’−フランキング領域を変化させて、例えば、Vigilinの結合を増加させ、それにより、ABC1 mRNAの半減期を増加させることができるであろう。好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは配列番号:4に示された配列を含む。また、好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは配列番号:5に示された配列を含む。もう1つの好ましい実施形態いおいて、単離されたポリヌクレオチドは配列番号:6に示された配列を含む。他の好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは、厳密な条件下で配列番号:4、配列番号:5または配列番号:6に記載されたヌクレオチド配列にハイブリダイズする配列を含む。
また、本発明は関連するABC1の5’および3’フランキングポリヌクレオチドを含む。従って、本発明は、配列番号:3を含むポリヌクレオチド、配列番号:4を含むポリヌクレオチド、配列番号:5を含むポリヌクレオチド、配列番号:6を含むポリヌクレオチド、または配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643または1394−1643を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも80%同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに関する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、前記したフランキングポリヌクレオチドのいずれかの1つに対してその全長にわたって少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%同一性を有する。好ましいポリヌクレオチドは、転写調節活性のごとき生物学的活性を保有するポリヌクレオチドを含む。
本発明は、さらに、前記したポリヌクレオチド配列のいずれか1つに相補的な単離されたポリヌクレオチドに関することが理解される。本明細書中に用いるごとく、用語「相補的」とは、例えば、二本鎖ポリヌクレオチドの2つのストランドの間のごときヌクレオチドの間のハイブリダイゼーションまたは塩基対合をいう。2つの二本鎖ヌクレオチド分子は、1つのストランドのヌクレオチドが、適当なヌクレオチド挿入、欠失または置換と最適に整列し、他のストランドのヌクレオチドの少なくとも約80%と対合する場合に相補的であるといわれる。
本発明のもう1つの態様は、前記した新規なABC1および適当な担体を含む組成物に関する。1つの実施形態において、該組成物は、配列番号:2を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号:1を含むポリヌクレオチド、配列番号:1のヌクレオチド291−7074を含むポリヌクレオチド、配列番号:2のアミノ酸配列に対して少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および担体を含む。もう1つの実施形態において、該組成物は、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%同一性を有するポリヌクレオチドおよび担体を含む。
もう1つの実施形態において、該組成物は、ABC1 5’フランキング配列および適当な担体を含む。好ましくは、該組成物は、配列番号:3を含むポリヌクレオチド、または配列番号:3のヌクレオチド断片1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643または1394−1643を含むポリヌクレオチドおよび適当な担体を含む。また、好ましくは、該組成物は、記載した5’フランキング配列のいずれか1つを含むポリヌクレオチドのその全長にわたって少なくとも80%、90%または95%同一性を有するポリヌクレオチドおよび適当な担体を含む。さらにもう1つの実施形態において、該組成物は、ABC1 3’フランキング配列を含むポリヌクレオチドおよび適当な担体を含む。好ましい組成物は、配列番号:4を含むポリヌクレオチド、配列番号:5を含むポリヌクレオチド、または配列番号:6を含むポリヌクレオチド、ならびにこれらのポリヌクレオチドのいずれかに対してその全長にわたって少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%同一性を有するポリヌクレオチドおよび適当な担体を含む。本発明のさらに他の組成物は突然変異体ABC1ポリヌクレオチドを含む。好ましくは、該組成物は配列番号:7を含むポリヌクレオチドまたは配列番号:9を含むポリヌクレオチドおよび適当な担体を含む。
加えて、本発明の組成物は、いずれかの組合せにおいて、前記ABC1ポリヌクレオチドのうちの2以上および適当な担体を含む。いずれかの適当な水性担体を該組成物で用いることができる。好ましくは、該担体は、該組成物を、室温または貯蔵温度(すなわち、4℃ないし20℃)のごとき所望の温度で安定とし、適当な中性のpHのものである。適当な担体の例は当業者に公知であり、トリス−EDTAおよびDEPC−H2Oを含む。
(ABC1ベクターと宿主細胞)
また、本発明は、1以上の前記ABC1ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、ABC1ポリヌクレオチドを含む該ベクターで遺伝子工学的に作成した宿主細胞、および組換え技術によるABC1ポリヌクレオチドの生産に関する。前記したごとく、本発明は、前記した1以上の野生型ABC1ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。好ましい実施形態において、組換えベクターは、配列番号:2を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号:1を含むポリヌクレオチド、および配列番号:1のヌクレオチド291−7074を含むポリヌクレオチドを含む。もう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは、配列番号:2のアミノ酸に対して少なくとも98%同一性であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする変種ポリヌクレオチドを含む。また、もう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対して少なくとも80%同一である変種ポリヌクレオチドを含む。さらにもう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは、これらのポリヌクレオチドのいずれかに相補的であるポリヌクレオチドを含む。
もう1つの実施形態において、組換えベクターは、タンジール病患者から単離された突然変異体ABC1ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを含む。好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:8を含むポリヌクレオチドを含む。もう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:10を含むポリヌクレオチドを含む。また、組換えベクターは、これらの配列に対して相補的であるポリヌクレオチド配列を含む。
また、組換えベクターは、いずれかの組合せにおいて、前記野生型、変種、または突然変異体ABC1ポリヌクレオチドのうちの2以上を含むことができることも理解される。
前記した野生型、変種、または突然変異体ポリヌクレオチドのいずれかのごとき、単離されたABC1ポリヌクレオチドはよく知られた連結およびクローニング技術を用いベクターに挿入される。クローニング技術は、Davisら,Basic Methods in Molecular Biology(1986);Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring harbor,N.Y.(1989);Ausbelら編,Current Protocols in Molecular Biology(1991),(Wiley and Sons(1994));Goeddel編,Gene Expression Techology(Methods in Enzymology(1991));Murray編,Gene Transfer and Expression Protocols(Human Press,Clifton,NJ)を含めたいくつかの標準的なマニュアルに記載されている。
ABC1ポリヌクレオチド挿入に適したいずれのベクターも用いることができる。ベクターは、典型的には、使用する特定の宿主細胞で機能するように選択される(すなわち、ベクターは、遺伝子の増幅および/または発現が起こり得るように宿主細胞マシーンに適合する)。好ましくは、ベクターは細菌、昆虫、または哺乳動物宿主細胞に適合する。また、好ましくは、ベクターは発現ベクターである(発現ベクターのレビューについては、Goeddel,D.V.編,Methods Enzymol.,Academic Press Inc.,San Diego,CA(1990))。ベクターは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルス、またはレトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターは複製コンピテントまたは複製欠陥であり得る。後者の場合、ウイルス増殖は、一般に、補充宿主細胞のみで起こるであろう。
典型的には、宿主細胞のいずれかで使用される発現ベクターは、プラスミド維持のための、および外因性ヌクレオチド配列の発現のための配列を含有する。集合的に「フランキング配列」というそのような配列は、好ましくは、以下のヌクレオチド配列:プロモーター、1以上のエンハンサー配列、複製起点、転写終止配列、ドナーおよびアクセプタースプライス部位を含有する完全なイントロン配列、ポリペプチド挿入のためのリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現されるべきポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、および選択マーカーエレメントのうちの1以上を含むべきである。
フランキング配列は同種(すなわち、宿主細胞と同一種および/または株)、異種(すなわち、宿主細胞種または株以外の種)、ハイブリッド(すなわち、1を超える源からのフランキング配列の組合せ)、または合成のものであり得る。また、フランキング配列は、通常、ABC1ポリペプチド発現を調節するように機能する天然配列であり得る。フランキング配列の源は原核生物または真核生物、いずれかの脊椎生物または無脊椎生物、またはいずれかの植物であり得るが、フランキング配列は宿主細胞マシーンで機能し、それによって活性化され得るものとする。
また、ベクターは、好ましくは、宿主における増殖のための少なくとも1つの選択マーカーを含むべきである。選択マーカーは、選択的培地で増殖する宿主細胞の生存および増殖に必要な蛋白質をコードする遺伝子エレメントである。適当な選択マーカー遺伝子は、(a)原核生物宿主細胞についての抗生物質または他のトキシン、例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、またはカナマイシンに対する抵抗性を付与する;(b)細胞の栄養要求性欠陥を補う;または(c)複合培地から利用できない臨界的栄養を供給する蛋白質をコードする。好ましい選択マーカーは真核生物培養についてのゼオシン、G418、ヒグロマイシン、またはネオマイシン抵抗性およびE.coliおよび他の細菌を培養するためのテトラサイクリン、カナマイシン、またはアンピシリン抵抗性を含む。
他の適当な選択遺伝子は、発現された遺伝子を増幅するのに使用されるものを含む。増幅は、増殖に臨界的な蛋白質の生産に対して大きな要求がある遺伝子が、組換え細胞の継続的世代の染色体内で縦列反復するプロセスである。哺乳動物細胞のための適当な選択マーカーの例はジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)およびチミジンキナーゼを含む。哺乳動物細胞形質転換体は選択圧下に置かれ、ここに、形質転換体のみが、ベクターに存在する選択遺伝子により生存するのにユニークに適合する。選択圧は、培地中の選択剤の濃度が連続的に変化し、それにより、選択遺伝子およびABC1遺伝子双方の増幅に導く条件下で形質転換細胞を培養することによって課される。その結果、増大した量のABC1ポリペプチドが増幅されたDNAから合成される。
また、ベクターは、好ましくは、典型的には、ポリペプチドコーディング配列の末端の3’側に位置し、転写を終止させるように働く転写終止配列を含有する。通常、原核生物における転写終止配列はG−Cリッチな断片、続いてのポリT配列である。該配列は商業的ベクターの一部として購入され、あるいは核酸合成のためのよく知られた方法を用い合成される。
また、ベクターは、好ましくは、通常はmRNAの翻訳開始に必要で、シャインダルガノ配列(原核生物)またはコザック配列(真核生物)によって特徴付けられるリボソーム結合部位を含む。該エレメントは、典型的には、プロモーターの3’側であって、発現させるべきABC1ポリペプチドのコーディング配列の5’側である。シャイン−ダルガノ配列は同定されており、その各々はよく知られた方法によって容易に合成することができる。
また、ベクターは、好ましくは、宿主生物によって認識され、コードされたポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを含むべきである。プロモーターは誘導プロモーターまたは構成的プロモーターであり得る。誘導プロモーターは、栄養の存在または不存在、あるいは温度の変化のごとき、培養条件のある変化に応答して、増大したレベルのDNAからの転写をそれらの制御下で開始する。対照的に、構成的プロモーターは継続的遺伝子産物生産を開始する;その結果、遺伝子発現に対してほとんどまたは全く制御はない。制限酵素消化により源DNAからプロモーターを除去し、所望のプロモーター配列をベクターに挿入することによって、適当なプロモーターをポリヌクレオチドに作動可能に連結させる。前記したごとく、天然プロモーターを用いて、ポリヌクレオチドの増幅および/または発現を指令することができる。かくして、組換えベクターは配列番号:3に見いだされるもののごとき、前記した野生型、変種、または突然変異体ABC1ポリヌクレオチドおよびABC1プロモーターのうちの1つを含み得る。また、組換えベクターは、いずれかの組合せにおいて、前記野生型、変種または突然変異体ABC1ポリヌクレオチドおよびABC1プロモーターのうちの2以上を含むことができる。
好ましくは、もしそれが天然ABC1プロモーターと比較してABC1蛋白質のより大きな転写およびより高い収率を与えるならば、およびもしそれが使用のために選択されている宿主細胞系に適合するならば異種プロモーターを用いる。異種プロモーターは単独で、または天然ABC1プロモーターと組み合わせて用いることができる。かくして、1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは前記野生型ABC1ポリヌクレオチドおよび異種プロモーターのいずれか1つを含む。もう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは前記変種ABC1ポリヌクレオチドおよび異種プロモーターのいずれか1つを含む。さらにもう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは、前記突然変異体ABC1ポリヌクレオチドおよび異種プロモーターのいずれか1つを含む。また、好ましい実施形態は、前記野生型、変種および突然変異体ABC1ポリヌクレオチドの2以上および異種プロモーターのいずれかの組合せを含む組換えベクターを含む。
原核生物宿主で用いるのに適した異種プロモーターは限定されるものではないが、ベータ−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系(Villa−Kamaroffら,1978,Proc.Naltl.Acad.Sci.U.S.A.,75:3727−31)、アルカリ性フォスファターゼ、トリプトファン(trt)プロモーター系、およびtacプロモーター(Villa−Kamaroffら,1978,Proc.Naltl.Acad.Sci.U.S.A.,75:3727−31)のごときハイブリッドプロモーターを含む。それらの配列は公表されており、それにより、いずれかの有用な制限部位を供給するのに必要なリンカーまたはアダプターを用い、当業者がそれらを所望のDNA配列に連結するのを可能とする。他の適当な異種プロモーターは当業者に知られている。
哺乳動物宿主細胞で用いるのに適した異種プロモーターは良く知られており、限定されるものではないが、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、(アデノウイルス2のごとき)アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、鳥類、肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B−型肝炎ウイルスおよびシミアンウイルス40(SV40)のごときウイルスのゲノムから得られたものを含む。他の適当な哺乳動物プロモーターは異種哺乳動物プロモーター、例えば、熱−ショックプロモーターおよびアクチンプロモーターを含む。さらなる適当なプロモーターは、限定されるものではないが、SV40初期プロモーターおよび後記プロモーター領域(Bernoist および Chambon,1981,Nature 290:340−10);ラウス肉腫ウイルスの3’ロングターミナルリピートに含まれるプロモーター(Yamamotoら,1980,Cell 22:787−97);ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら,1981,Proc.Natl.Acad.Sci..S.A.78:1444−45);およびメタロチオニン遺伝子の調節配列(Brinsterら,1982,Nature 296:39−42)を含む。好ましくは、プロモーターはサイトメガロウイルスまたはSV40プロモーターである。かくして、特に好ましい実施形態において、組換えベクターは前記野生型ABC1ポリヌクレオチドのうちの1つ、前記した変種ABC1ポリヌクレオチドの1つ、または前記した突然変異体ABC1ポリヌクレオチドおよびサイトメガロウイルスプロモーターのうちの1つを含む。もう1つの特に好ましい実施形態において、組換えベクターは、いずれかの組合せにおいて、前記野生型、変種、またはABC1ポリヌクレオチドおよびサイトメガロウイルスプロモーターの2以上を含む。
また、ベクターは、好ましくは、ABC1のごとき、ポリヌクレオチドの転写を増加させるためのエンハンサー配列を含む。真核生物プロモーターの活性化のための適当なエンハンサーはSV40、サイトメガロウイルス初期プロモーター、ポリオーマおよびアデノウイルスエンハンサーのごときウイルスエンハンサーを含む。
本発明の発現ベクターは、所望のフランキング配列の全てを含有してもまたはしなくても良い、商業的に入手可能なベクターのごとき出発ベクターから構築することができる。ここに記載するフランキング配列の1以上がベクターにすでに存在しない場合、それらは個々に得ることができ、ベクターに連結することができる。フランキング配列の各々を得るのに用いる方法は当業者に良く知られている。
好ましいベクターは、細菌、昆虫および哺乳動物宿主細胞に適合するものである。細菌で用いるのに好ましいベクターは、例えば、pQE70、pQE60およびpQE−9(Quiagen.Inc.)ブルースクリプトベクター、ファージスクリプトベクター、pNH16A、pNH18A、pNH46A(Stratagene Cloning Systems,Inc.)、ptrc99a、pKK223−3、pDR540、pRIT5(Pharmacia Biotech,Inc.),およびpCEP4(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA)。好ましい真核生物ベクターは、限定されるものではないが、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXTIおよびpSG((Stratagene),pSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVL(Pharmacia)およびpGL3(Promega,Medison,WI)を含む。他の適当なベクターは当業者に容易に明らかであろう。
特に好ましい実施形態において、組換えベクターは、実施例4に記載し、図3に示されるpCEPhABC1を含む。組換えベクターpCEPhABC1はプラスミドpCEP4(Invitorogen、サイトメガロウイルスプロモーターおよびエンハンサーを含有する発現ベクターを含む。ベクターpCEPhABC1は、さらに、異種サイトメガロウイルスプロモーターに作動可能に連結したABC1ポリヌクレオチドを含む。ABC1ポリヌクレオチドは、非−コーディング5’フランキング(すなわち、天然ABC1プロモータ)および3’フランキング配列を含めた全長ABC1 cDNAを含有する配列番号:1を含む。
加えて、本発明はABC1フランキング配列ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。1つの実施形態において、組換えベクターは、好ましくはプロモータ活性を含有するABC1 5’フランキング配列を含むポリヌクレオチドを含む。かくして、好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:3を含むポリヌクレオチドを含む。もう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、または1394−1643を含むポリヌクレオチドを含む。特に好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは配列番号:3のヌクレオチド1394−1532を含む。また、もう1つの実施形態において、組換えベクターは、厳密な条件下で配列番号:3に記載されたポリヌクレオチドまたは配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、または1394−1643を含むポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。さらにもう1つの実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号:3を含むポリヌクレオチドまたは配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、または1394−1643を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%同一性を有するヌクレオチド配列を含む。また、組換えベクターは、前記5’フランキング配列のいずれかに相補的なポリヌクレオチドを含む。
もう1つの実施形態において、組換えベクターは、ABC1の3’フランキング配列を含むポリヌクレオチドを含む。好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:4を含むポリヌクレオチドを含む。もう1つの好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:5を含むポリヌクレオチドを含む。同等に好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:6を含むポリヌクレオチドを含む。また、もう1つの実施形態において、組換えベクターは、厳密な条件下で配列番号:4、配列番号:5または配列番号:6に記載されたポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。さらにもう1つの実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号:4、配列番号:5または配列番号:6を含むポリヌクレオチドに対してその全長にわたって少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%同一性を有するヌクレオチド配列を含む。また、組換えベクターは、前記3’フランキング配列のいずれかに相補的なポリヌクレオチドを含む。
前記5’または3’フランキング配列ポリヌクレオチドのいずれかのごとき単離されたABC1フランキング配列ポリヌクレオチドは、よく知られた連結およびクローニング技術を用いベクターに挿入される。前記したベクターのいずれも用いることができる。好ましくは、ベクターは細菌、昆虫または哺乳動物宿主細胞に適合する。また、好ましくは、ベクターは発現ベクターである。ベクターは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイスルまたはレトロウイルスベクターであり得る。
ABC1フランキング配列に加えて、ベクターは以下のフランキングヌクレオチド配列:プロモーター、1以上のエンハンサー配列、複製起点、転写終止配列、ドナーおよびアクセプタースプライス部位を含有する完全なイントロン配列、ポリペプチド分泌のためのリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現されるべきポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、および選択マーカーエレメントのうちの1以上を含有することができる。前記したフランキングヌクレオチド配列のいずれも適当である。フランキング配列は同種、異種、ハイブリッドまたは合成のものであり得る。また、フランキング配列は、ABC1ポリペプチド発現を調節するように通常は機能する天然配列であり得る。フランキング配列の源は原核生物または真核生物、いずれかの脊椎生物または無脊椎生物、またはいずれかの植物であり得るが、フランキング配列は宿主細胞マシーンで機能し、それによって活性化できるものとする。
好ましいベクターは、細菌、昆虫および哺乳動物宿主細胞に適合するものである。適当なベクターは前記したものであり、細菌で用いるpQE70、pQE60、pQE9、ブルースクリプトベクター、ファージスクリプトベクター、pNH16A、pNH18A、pNH46A、ptrc99a、pkk223−3、pDR540,pRIT5およびpCEP4、および真核生物細胞で用いるpWLNEO、pSV2CAT.pOG44、pXTI、pSG、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVLおよびpGL3を含む。
1つの特に好ましい実施形態において、組換えベクターは、ABC1遺伝子の5’フランキング領域を含むポリヌクレオチドを含み、さらに、異種ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。異種ポリヌクレオチドはABC1 5’フランキング配列に作動可能に連結している。ABC1 5’フランキング配列は、好ましくは、ABC1プロモーターを含有する。かくして、好ましくは、5’フランキング配列は配列番号:3に記載された配列を含む。同等に好ましくは、5’フランキング配列は配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643または1394−1643を含む。異種ポリヌクレオチドは、好ましくは、完全な蛋白質または蛋白質の生物学的に活性な断片であるポリペプチドをコードする。ベクターは、1を超える異種ポリヌクレオチドを含有することができる。より好ましくは、異種ポリヌクレオチドはレポーター蛋白質をコードする。そのような場合、組換えベクターは、好ましくは、いずれのさらなるプロモーター配列も含有しない。適当なレポーター蛋白質の例はルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼトランスフェラーゼ、および緑色蛍光蛋白質を含む。好ましくは、レポーターポリヌクレオチドはルシフェラーゼである。かくして、1つの特に好ましい実施形態において、組換えベクターは配列番号:3に記載された5’フランキング配列およびルシフェラーゼレポーターポリヌクレオチドを含む。他の同等に好ましい実施形態において、組換えベクターは、ヌクレオチド配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643または1394−1643を含むポリヌクレオチドおよびルシフェラーゼレポーターポリヌクレオチドを含む。
ABC1 5’フランキング配列を含む発現ベクターは、レポーターポリヌクレオチドを含有する商業的に入手可能なベクターのごとき出発ベクターから構築することができる。適当な発現ベクターの例は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子(Promega,Madison,WIおよびpβGal−Basic(Clontech,Palo Alto,CA)を含有するpGL3−Basicを含む。好ましいベクターはプロモーターがないpGL3−Basicルシフェラーゼレポーターベクターである。ABC1プロモーターを含有する5’フランキング配列、例えば、配列番号:3は、ここに記載する方法(実施例15参照)を含めた良く知られた方法を用い、前記発現ベクターのうちの1つに連結することができる。かくして、特に好ましい実施形態において、組換えベクターはpAPR1、配列番号:3を含むレポーター遺伝子構築体およびpGL3ベクターにおけるルシフェラーゼレポーター遺伝子である(図11参照)。
また、本発明は、前記組換えベクターのいずれか1つを含む宿主細胞に関する。ベクターが構築された後、完成されたベクターを、増幅および/またはポリペプチド発現のために適当な宿主細胞に挿入することができる。宿主細胞は(E.coliのごとき)原核生物宿主細胞または(酵母細胞、昆虫細胞または脊椎動物細胞のごとき)真核生物宿主細胞であり得る。適当な条件下で培養すると、宿主細胞はABC1ポリペプチド、あるいは、引き続いて測定することができるレポーターポリペプチドを合成する。宿主細胞は、形質転換された細胞系を含めた霊長類細胞系または齧歯類細胞系のごとき哺乳動物宿主細胞であり得る。正常なジプロイド細胞、一次組織のイン・ビトロ培養に由来する細胞株、ならびに一次外植体も適当である。候補宿主細胞は、選択遺伝子に表現型的に欠陥があり得るか、または圧倒的に作用選択遺伝子を含有することができる。
多数の適当な宿主細胞が当該分野で知られており、American Type Culture Collection ATCC),Manassas,VAから入手できる。適当な哺乳動物宿主細胞は、限定されるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、CO DHFR−細胞(Urlaubら,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.,97:4216:20)、ヒト胚腎臓(hek)293または293T細胞、または3T細胞、サルCOS−1およびCOS−7細胞系、およびCV−1細胞系を含む。他の適当な哺乳動物細胞系は、限定されるものではないが、マウス神経芽細胞腫N2A細胞、HeLa細胞、マウス1−929細胞、Swiss由来の3T3系、Balb−cまたはNIHマウス、BHKまたはHAKハムスター細胞系、Thp−1、HepG2およびマウスRAW細胞系を含む。これらの細胞系の各々は蛋白質発現分野の当業者に知られており、入手可能である。好ましい宿主細胞は、実施例8にその使用が記載されるマウス単球細胞系RAW264.7である。
適当な細菌宿主細胞は、バイオテクノロジーの分野において宿主細胞として良く知られているE.coliの種々の株(例えば、HB101、DH50、DH10、およびMC1061)を含む。B.subtilis,Pseudomonas spp.,other Bacillus spp.,Streptomyces spp.などの種々の株もこの方法で使用することができる。また、酵母細胞の多くの株もABC1ポリペプチドの発現のための宿主細胞として入手できる。好ましい酵母細胞は、例えば、Saccharomyces cerivisaeおよびPichia pastorisを含む。加えて、昆虫細胞系は適当な宿主細胞であり得る。昆虫細胞系は、例えば、Kittsら、1993,Biotechniques,14:810−17;Lucklow,1993,Curr.Opin.Biotechnol.4:564−72;およびLucklowら、1993、J.Virol.,67:4566−79に記載されている。好ましい昆虫細胞はSf−9およびHi5(Invitrogen)である。
また、本発明は(a)検出可能なレベルのABC1蛋白質を生じさせるのに十分な量のABC1をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターで哺乳動物宿主細胞をトランスフェクトし、次いで、(b)生じたABC1蛋白質を精製する工程を含む哺乳動物宿主細胞においてABC1蛋白質を発現する方法を提供する。1つの好ましい実施形態において、組換え発現ベクターは配列番号:2を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。もう1つの好ましい実施形態において、配列番号:1を含むポリヌクレオチド。さらにもう1つの好ましい実施形態において、配列番号:1のヌクレオチド291−7074を含むポリヌクレオチド。なおもう1つの好ましい実施形態において、配列番号:2を含むポリペプチドに対して少なくとも98%同一であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
組換えABC1ベクターの哺乳動物宿主細胞への導入は、当該分野で良く知られた方法によって行うことができ、Sambrook、前掲のごとき標準的な実験室マニュアルに記載されている。好ましくは、組換えベクターは沈殿にてまたは荷電脂質との複合体にて宿主細胞に導入される。ABC1ベクターの導入に適した方法はリン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質−媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染、または当該分野で知られた他の方法を含む。これらの方法は、例えば、Davisら,Basic Methods in Molecular Biology(1986)に記載されている。もし組換えABC1ベクターがウイルスベクターであれば、それは適当なパッケージンング細胞系を用いイン・ビトロにてパッケージC、次いで、宿主細胞に導入することができる。
ABC1−ポリペプチドは、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンもしくはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレシチンクロマトグラフィーを含めたよく知られた方法を用い、組換え細胞培養から回収し、精製することができる[例えば、SmithおよびJohnson,Gene 63:31−40(1988)参照]。好ましくは、抗−ABC1抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーを精製で用いる。
加えて、本発明は、哺乳動物対象においてABC1蛋白質を発現するのに十分な量のABC1をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを哺乳動物対象に投与する工程を含むことを特徴とする哺乳動物対象においてABC1蛋白質を発現させる方法を提供する。好ましくは、組換え発現ベクターは配列番号:2を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号:1を含むポリヌクレオチド、配列番号:1のヌクレオチド291−7074を含むポリヌクレオチド、または配列番号:2を含むポリペプチドに対して少なくとも98%同一であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。組換えABC1ベクターの哺乳動物対象への導入は当該分野でよく知られた方法によって行うことができ、これはここに後記にて詳細に記載する。ABC1の発現は、それに組換えABC1ベクターを投与した対象から血液試料を得、単球集団を分離し、マクロファージ細胞におけるABC1遺伝子発現を測定することによって測定することができる。ABC1遺伝子発現は、RT−PCRのごとき当該分野でよく知られた方法、および本明細書に記載された方法(実施例9および10参照)。ABC1蛋白質のレベルは、対象から血液試料を得、単球集団を分離し、実施例11に記載された免疫沈殿のごときよく知られた方法を用い、マクロファージ細胞においてABC1蛋白質を測定することによって測定することができる。
(コレステロール流出を増加させるための方法と化合物)
本発明のもう1つの態様において、哺乳動物対象において細胞からコレステロール流出を増加させるのに適した方法が提供される。かかる方法は、該細胞からノコレステロール流出を増加させるのに十分な量でABC1ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを哺乳動物対照に投与することを含む。組換えベクターは、コードされたABC1ポリペプチドが生物学的活性(すなわち、コレステロール輸送活性)を有する限り、前記した野生型または変種ABC1ポリヌクレオチドのいずれかを含有する前記ベクターのいずれかであり得る。好ましくは、組換えベクターは配列番号:2を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号:1のヌクレオチド291−7074を含むポリヌクレオチド、または配列番号:2のアミノ酸配列に対して少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。また、好ましくは、組換えベクターは、コードされたABC1ポリペプチドがコレステロール輸送活性を有する限り、配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対して少なくとも80%、90%または95%同一である変種ポリヌクレオチドを含む。
組換えABC1発現ベクターの哺乳動物対象への投与を用いて、心血管病の治療のために該対象においてABC1遺伝子を発現させることができる。具体的には、この方法は、心血管病を持つ哺乳動物の動脈病巣で見いだされるマクロファージ細胞および他のコレステロール−蓄積細胞にABC1遺伝子を導入することによって治療効果を達成するであろう。標的細胞におけるABC1ポリヌクレオチドの発現はABC1蛋白質のより大きな生産を行うであろう。引き続いて生産されたABC1蛋白質は、動脈病巣で見出されるマクロファージおよび他のコレステロール−負荷細胞からのコレステロールの裸HDL粒子への流出を増加させることによって該病気を軽減するであろう。細胞流出は、動脈プラークのコレステロールリッチのコアのごとき末梢部位からの全コレステロールの除去に至るであろう。これらの病理学的病巣のサイズの同時減少は、心臓発作および狭心症に至る動脈閉塞の危険性を減少させる。この方法は、また、動脈壁におけるコレステロールの蓄積を防止するために予防的に用いることもできよう。
十分な量のABC1発現ベクターは、哺乳動物対象の細胞からのコレステロール流出を増加させるABC1ベクターの量である。そのような量は、種々の投与量の組換えABC1発現ベクターの投与前(対照レベル)および後に対照の細胞中のコレステロール流出を測定し、対照レベルと比較したコレステロール流出の増加を行う用量を測定することによって決定することができる。コレステロール流出は、対象から血液試料を得、単球集団を分離し、対象のマクロファージ細胞におけるコレステロール流出の量を測定することによって測定することができる。ここに記載したアッセイのいずれを用いてコレステロール流出を測定することもできる。
加えて、コレステロール流出は、組換えABC1発現ベクターの投与前(対照)および後に対象における血漿HDL−コレステロールのレベルを決定することによって測定することができる。組換えABC1発現ベクターの投与に続いて対象の血清におけるHDL−コレステロールの観察された増加は、コレステロール流出の増加を示す。血清中のHDL−コレステロールは当該分野で良く知られた方法を用いて測定することができる。
加えて、コレステロール流出は、組換えABC1発現ベクターの投与前(対照レベル)および後に対照の動脈壁に見出されるアテローム性動脈硬化症病巣のサイズを測定することによって測定することができる。動脈病巣のサイズの低下は、コレステロール流出の増加を示す。動脈病巣を測定するアッセイは当該分野で良く知られている。例えば、動脈病巣からの増加したコレステロール流出は、Lawnら,Nature,360:670−672(1992)に記載されているアテローム性動脈硬化症のマウスモデル、ならびに他の公知の方法のいずれかを用いて測定することができる。Lawnらに記載されたLDL受容体ノックアウトマウスを用い、コレステロール流出はABC1ベクターの投与前および後に測定することができる。アテローム発生ダイエットを与えられた動物の群における脂肪ストリーク病巣のサイズは、Lawnらに記載された大動脈切片の油−レッドO染色によって測定することができる。対照ベクターを受け取った群と比較したABC1発現ベクターを受け取った群における脂肪ストリーク病巣のサイズの低下は、該病巣からのコレステロール流出の増加を示す。ヒトにおいては、動脈壁に見出されるアテローム性動脈硬化症病巣のサイズは、例えば、アンジオグラフィーおよび非侵入的超音波方法を用いて測定することができる。
別法として、コレステロール流出は、血液試料を得、次いで、組換えABC1発現ベクターの投与前および後に対象のマクロファージ細胞中のABC1mRNAまたはABC1蛋白質のレベルを測定することによって測定することができる。ルーチン的アッセイを行って、ABC1mRNA濃度およびコレステロール流出の間の相関を決定することができる。同様に、アッセイを行って、ABC1蛋白質の量とコレステロール流出の量と相関させることができる。そのような相関データを用い、組換えABC1発現ベクターの投与後における対象の細胞でのABC1 mRNAまたはABC1蛋白質の観察された増加を用いて、コレステロール流出の増加を示すことができる。ABC1mRNAおよびABC蛋白質レベルは、ここに記載されたアッセイおよびmRNAおよび蛋白質の定量のための他の良く知られた技術を用いて測定することができる。治療投与量および処方は後に詳細に議論する。
核酸分子の標的細胞への導入に適した複数のウイルスおよび非ウイルス方法が当業者に利用できる。例えば、遺伝子治療に適したウイルス送達ベクターは、限定されるものではないが、アデノウイルス、単純疱疹ウイルス、ポックスウイルス(すなわち、ワクシニア)、肝炎ウイルス、パルボウイルス、パポバウイルス、アルファウイルス、コロナウイルス、ラブドウイルス、パピローマウイルス、アデノ−関連ウイルス(AAV)、ポリオウイルス、およびレトロウイルスおよびシンドビスウイルスのごときRNAウイルスを含む。ABC1ポリヌクレオチドは、裸DNA送達(直接的注入、受容体−媒介導入(DNA−リガンド複合体)、エレクトロポレーション、アデノウイルス−リガンド−DNA複合体、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、マクロ粒子衝撃(遺伝子銃技術)、リポソーム−媒介導入、およびリポフェクションのごとき非ウイルス送達系を用いて送達することができる。
細胞の遺伝子的修飾は、遺伝子治療分野で良く知られた1以上の技術を用いて達成することができる(Mulligan,R.,1993,Science,260(5110):926−32)。遺伝子治療の材料および方法は誘導性プロモーター、組織−特異的エンサンサー−プロモーター、部位−特異的一体化のために設計したDNA配列、親細胞よりも優れた選択利点を提供することができるDNA配列、形質転換された細胞を同定するための標識、ネガティブな選択系および発現制御系(安全性の尺度)、(細胞標的化のための)細胞−特異的結合剤、細胞−特異的内部化因子、およびベクターによって発現を増強するための転写因子ならびにベクター製造の方法を含むことができる。遺伝子治療の技術の実践のための方法および材料の例は(エレクトロポレーション技術を含む)米国特許第4,970,154号、(遺伝子送達のためのリポ蛋白質−含有系を記載する)第5、679、559号、(リポソーム担体を含む)第5、676、954号、(リン酸カルシウムトランスフェクションのための方法を記載する)第5、593、875号、および(生物学的に活性な粒子があるスピードで細胞に推進され、それにより、粒子が細胞の表面を貫き、細胞の内部に一体化するようになるプロセスを記載する)第4、945、050号、および(核リガンドを含む)PCT公開番号WO96/40958号に記載されている。
アデノウイルスベクターは、真核生物細胞への遺伝子導入で特に有用であることが判明している(Rosenfeld,M.ら、Science,252:431−4(1991);米国特許第5、631、236号)。ヒトにおけるAd−媒介遺伝子治療の最初の試験は嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレータ(CFTR)遺伝子の肺への導入であった(Crystal,R.ら,1994,Nat.Genet.,8(1):42−51)。イン・ビボで組換えAdを異なる組織に投与するための実験ルートは器官内点滴注入(Rosenfeld,M.ら,1992,Cell,68(1):143−55)、筋肉への注射(Quantin.B.,ら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89(7):2581−4)、末梢静脈内注射(Herz,J.およびGerard,R.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,90(7):2812−6)および脳への定位接種(Le Gal La Salle,G.,ら,1993,Science,259(5097):988−90)を含むものであった。従って、アデノウイルスベクターは当業者に広く入手でき、本発明で用いるのに適する。
アデノ−関連ウイルス(AAV)は、最近、遺伝子治療における優れた適用にて遺伝子導入系として導入されてきた。野生型AAVは、宿主細胞ゲノムへ一体化させるにおいて高レベルの感染性、広い宿主範囲および特異性を示す(Hermonat.P.,およびMuzyczka,N.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81(29):6466−70)。単純疱疹ウイルスタイプ−1(HSV−1)は好ましいベクター系である(Geller,A.,ら,1991,Trends Neurosci.,14(10):428−32;Glorioso,J.,ら,1995,Mol.Biotechnol.,4(1):87−99;Glorioso,J.,ら,1995,Annu.Rev.Microbiol.,49:675−710)。ポックスウイルス科のワクシニアウイルスもまた発現ベクターとして開発されている(Smith,G.,およびMoss,B.,1983,Gene,25(1):21−8;Moss,B.,1992,Biotechnology,20:345−62;Moss,B.,1992,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158:25−38)。前記ベクターの各々は当業者に広く利用でき、本発明で用いるのに適しているであろう。
好ましくは、ウイルス送達系はレトロウイルスベクターを利用する。レトロウイルスベクターは、大きな割合の標的細胞に感染し、細胞のゲノムに組み込むことができる(Miller,A.,およびRosman,G.,Biotechniques,7(9):980−2、984−6,989−90(1989);米国特許第5、672、510号)。レトロウイルスは、他のウイルスよりも比較的初期に遺伝子導入ベクターとして開発され、遺伝子マーキングおよびヒトリンパ球へのアデノシンデアミナーゼ(ADA)のcDNAの導入で最初に成功して用いられた。好ましくは、レトロウイルスベクターはネズミまたは鳥類レトロウイルスの誘導体であり、またはレンチウイルスベクターである。特に好ましいレトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。単一の外来性遺伝子を導入することができるレトロウイルスベクターの例は、限定されるものではないが、Moloneyネズミ白血病ウイルス(MoMuLV)、Harveyネズミ肉腫ウイルス(HaMuSV)、ネズミ乳癌ウイルス(MuMTV)、SIV、BIV、HIVおよびラウス肉腫ウイルスRSV)を含む。多数のさらなるレトロウイルスベクターを複数遺伝子に組み込むことができる。これらのベクターの全ては、導入された細胞を同定し再生させることができるように、選択マーカーのための遺伝子に導入または一体化させることができる。
組換えレトロウイルスは欠陥があるので、それは感染性ベクター粒子を生じさせるには助けが必要である。この助けは、例えば、LTR内の調節配列の制御下でレトロウイルスの構造遺伝子の全てをコードするプラスミドを含有するヘルパー細胞系を用いることによって提供することができる。該ヘルパープラスミドは、パッケージングメカニズムがカプセル化のためのRNA転写体を認識できるようにするヌクレオチド配列を欠く。かくして、ゲノムはパッケージされないので、ヘルパー細胞系は空のビリオンを生じる。適当なヘルパー細胞系は、限定されるものではないが、ψ2、PA317およびPA12を含む。もしパッケージングシグナルが無傷であるが、構造遺伝子が他の注目する遺伝子によって置き換えられているそのような細胞にレトロウイルスベクターが導入されれば、該ベクターをパッケージし、ベクタービリオンを生じさせることができる。次いで、この方法によって生じたベクタービリオンを用いて、NAIH 3T3細胞のごとき組織細胞系を感染させ、大量のキメラレトロウイルスビリオンを生じさせることができる。
本発明のベクターは、当業者に広く利用できる標準的な組換え技術を用いて構築することができる。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Sambrookら,1989,Cold Spring Harbor Laboratory Press),Gene Expression Technology(Methods in Enzymology,Vol.185,edited by D.Goeddel,1991,Academic Press,San Diego,CA),およびPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Innisら,1990,Academic Press,San Diego,CA)のごとき通常の分子生物学文献に見出すことができる。
標的細胞内でのABC1ポリヌクレオチドの転写を得るためには、標的細胞中で遺伝子発現を駆動することができる転写調節領域が利用されなければならない。転写調節領域は、好ましくは、ABC1ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターおよび/またはエンハンサーを含む。プロモーターはABC1遺伝子に対して同種または異種とすることができ、ただし、それは、当該構築体が挿入されるであろう細胞もしくは組織−タイプで活性なものとする。選択された転写調節領域は標的細胞において高レベルの遺伝子発現を駆動すべきである。好ましくは、スカベンジャー受容体A型、マトリックスメタロプロテイナーゼプロモーター(MMP−12)、またはマクロファージ向性レンチウイルスプロモーターのごときマクロファージ−特異的プロモーター(Fabunmiら,Atherosclerosis,148:375−386(1999))を用いる。特に好ましいプロモーターはスカベンジャー受容体A型遺伝子の5’領域であり、これは、ABC1遺伝子の転写を駆動するのに用いることができる強力なマクロファージプロモーターを含有する。加えて、細胞において内因性ABC1ポリペプチドの発現を増加させるための手段は、プロモーター領域に1以上のエンハンサーエレメントを挿入することであり、ここに、エンハンサーエレメントはABC1遺伝子の転写活性を増加させるように働くことができる。同様に、使用されるエンハンサーエレメントは、遺伝子をそこで活性化させることを望む組織に基づいて選択される。かくして、例えば、動脈組織、特にマクロファージ細胞で見出される細胞中でプロモーター活性化を付与することが知られているエンハンサーエレメントが選択されるであろう。本発明で用いるのに適した他の転写調節領域は、限定されるものではないが、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)即時型−初期エンハンサー(プロモーター、SV40初期エンハンサー/プロモーター、JCポリオーマウイルスプロモーター、アルブミンプロモーター、PGK、およびCMVエンハンサーにカップリングしたα−アクチンプロモーターを含む(Doll,R.,ら、1996、Gene Ther.,3(5):437−47)。
ベクター構築体の他の構成要素は、所望により部位−特異的組込のために設計されたDNA分子(例えば、同種組換えで有用な内因性配列)、組織−特異的プロモーター、親細胞よりも優れた選択利点を供することができるDNA分子、形質転換された細胞を同定するための標識として有用なDNA分子、ネガティブ選択系、(細胞標的化のための)細胞特異的結合剤、細胞−特異的内部化因子、ベクターからの発現を増強させる転写因子、およびベクターの生産を可能とする因子を含むことができる。
ひとつの実施形態において、ベクターは、部位−特異的組込のための標的化DNAを含むことができる。標的化DNAは、注目する遺伝子、例えば、ABC1遺伝子の領域に対して相補的(同種)であるヌクレオチド配列である。同種組換えを通じて、ゲノムに挿入されるべきDNA配列は、それを標的化DNAに結合させることによってABC1遺伝子に向けることができる。挿入のためのDNA配列は、例えば、ABC1ポリペプチド、例えば、フランキング配列の発現と相互作用し、またはそれを制御することができるDNAの領域を含む。かくして、所望のABC1ポリペプチドの発現は、ABC1ポリペプチドの転写のための認識可能なシグナルを持つ内因性遺伝子配列を供するDNA調節セグメントとカップリングした標的化DNAの使用によるよりも、ABC1遺伝子それ自体をコードするDNAのトランスフェクションによって達成される(Sauer,Curr.Opin.Biotechnol.,5:521−27(1994);Sauer,Methods Enzymol.,225:890−900(1993))。
さらに他の実施形態において、標的細胞におけるABC1遺伝子の制御された発現のために調節エレメントを含ませることができる。そのようなエレメントは、適当なエフェクターに応答してスイッチが入る。このように、治療ABC1ポリペプチドは望まれる場合に発現させることができる。ひとつの慣用的な制御手段は、DNA−結合蛋白質または転写活性化蛋白質のごとき、小分子−結合ドメインおよび生物学的プロセスを開始させることができるドメインを含有するキメラ蛋白質をダイマー化するための小分子ディメライザーまたはラパログの使用を含む(PCT公開番号WO96/41865、WO97/31898およびWO97/31899参照)。蛋白質のダイマー化を用いて、トランスジーンの転写を開始させることができる。もう1つの適当な制御手段または遺伝子スイッチは、プロゲステロンアンタゴニストであるミフェプリストン(RU486)の使用を含む。プロゲステロンアンタゴニストに対する修飾されたプロゲステロン受容体リガンド−結合ドメインの結合は、次いで、核に通過してDNAをDNAに結合する2つの転写因子のダイマーを形成することによって転写を活性化させる。リガンド−結合ドメインは、天然リガンドに結合する受容体の能力を排除するように修飾される。修飾されたステロイドホルモン受容体系はさらに米国特許第5、364、791号およびPCT公開番号WO96/40911およびWO97/10337に記載されている。さらにもう1つの制御手段は、ポジティブなテトラサイクリン−制御可能トランスアクチベーターを用いる。この系は、転写を活性化するポリペプチドに連結した突然変異tetリプレッサー蛋白質(DNA−結合ドメイン(逆テトラサイクリン−調節トランスアクチベーター蛋白質がもたらされる、すなわち、それがテトラサイクリンの存在下でtetオペレーターに結合する突然変異tet R−4アミノ酸変化)を含む。そのような系は米国特許第5、464、758号、第5、650、298号および第5、654、168号に記載されている。さらなる発現制御系および核酸構築体は米国特許第5、741、679号および第5、834、186号に記載されている。
ABC1ポリヌクレオチドを含有するウイルス送達ベクターは、それが、標的細胞に見出されるもう1つの分子に特異的なリガンドを含有するようにウイルスコートを変化させることによって標的特異的とすることができる。これは、ベクターが所望の細胞型に結合するのを可能とする。該リガンドは、細胞−表面受容体のごとき、標的細胞で見出される分子に特異的に結合する注目するいずれの化合物でもあり得る。好ましくは、受容体は専ら標的細胞で見出され、他の細胞では見出されない。例えば、スカベンジャー受容体Aに対するリガンドを用いて、ウイルス送達ベクターをマクロファージ細胞に向けることができる。別法として、それが、標的細胞上の抗原性エピトープを認識しそれに結合するFabまたはF(ab’)2のごとき抗体または抗体断片を含有するようにウイルスコートを変化させることができる。ウイルスコートは、リガンドをコートするさらなるポリヌクレオチドをウイルスゲノムに挿入することによって変化させることができる。当業者であれば、ウイルスゲノムに挿入して、ABC1ポリヌクレオチドを含有するベクターの標的特異的送達を可能とすることができる他の特異的ポリヌクレオチド配列を知っている。
前記したもののごとき、加えて、裸のABC1ポリヌクレオチドを投与することができる。ABC1ポリヌクレオチドおよび組換えABC1発現ベクターは医薬組成物として投与することができる。そのような組成物は、ここに先に定義した効果的な量のABC1ポリヌクレオチドまたは組換えABC1発現ベクター、および投与の形態でもって適当性で選択された医薬上許容される処方剤を含む。適当な処方材料は、好ましくは、使用される濃度において受容者に非毒性であり、これは後記する。
ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1組換え発現ベクターを含む医薬組成物は、例えば、組成物のpH、容量オスモル濃度、粘度、透明性、色、等張性、匂い、滅菌性、安定性、溶解もしくは放出、吸着または浸透の速度を修飾し、維持し、または保持するための処方材料を含有することができる。適当な処方材料は、限定されるものではないが、(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンのごとき)アミノ酸、抗微生物剤、(アルコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、または亜硫酸水素ナトリウムのごとき)抗酸化剤、(ホウ酸塩、炭酸水素塩、トリス−HCl、クエン酸塩、リン酸塩、または他の有機酸のごとき)緩衝液、(マンニトールまたはグリシンのごとき)増量剤、(エチレンジアミン4酢酸(EDTA)のごとき)キレート化剤、(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ−シクロデキストリン、またはヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンのごとき)複合体化剤、充填剤、単糖、二糖および(グルコース、マンニトールまたはデキストリンのごとき)他の炭水化物、(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンのごとき)蛋白質、着色剤、香味剤、および希釈剤、乳化剤、(ポリビニルピロリドンのごとき)親水性ポリマー、低分子量ポリペプチド、(ナトリウムのごとき)塩−形成対イオン、(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素のごとき)防腐剤、(グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのごとき)溶剤、(マンニトールまたはソルビトールのごとき)糖アルコール、懸濁化剤、(プルロニック;PEG;ソルビタンエステル;ポリソルベート20またはポリソルベート80のごときポリソルベート;トリロン;トロメタニン;レチシン;コレステロールまたはチロキサファルのごとき)界面活性剤または湿潤剤、(スクロースまたはソルビトールのごとき)安定性増強剤、(アルカリ金属ハライド(好ましくは塩化ナトリウムまたはカリウム−またはマンニトール、ソルビトールのごとき)等張性増強剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または医薬アジュバントを含む。Remingotn’s Pharmaceutical Sciences(18th Ed.,A.R.Gennaro,編、Mack Publishing Company 1990)参照。
医薬上活性な化合物(すなわち、ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1ベクター)は、製薬の通常の方法に従って加工して、ヒトおよび他の哺乳動物を含めた患者への投与のために医薬剤を生産することができる。かくして、ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1組換え発現ベクターを含む医薬組成物は(顆粒、粉末または坐薬を含めた)固体形態または液体形態(例えば、溶液、懸濁液またはエマルジョン)で作成することができる。経口投与のための固体投与形態はカプセル剤、錠剤、丸剤、粉末および顆粒を含むことができる。そのような固体投与形態では、活性化合物はスクロース、ラクトースまたは澱粉のごとき少なくとも1つの不活性希釈剤と混合することができる。そのような投与形態は、通常のプラクティスにおいて、不活性希釈剤以外のさらなる物質、例えば、ステアリン酸マグネシウムのごとき滑沢剤を含むことができる。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合には、投与形態は緩衝化剤を含むこともできる錠剤および丸剤は、加えて、腸溶コーティングを施して調製することができる。
経口または非経口投与のための液体投与形態は、医薬上許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシル(水のごとき当該分野で通常用いられる不活性希釈剤を含有)を含有する。そのような組成物は湿潤化剤、甘味剤、香味剤、および香料剤を含むこともできる。例えば、注射用の適当な担体は、恐らくは、非経口投与のための組成物に通常の他の物質を補足した水、生理食塩水または人工脳脊髄液であり得る。中性緩衝化生理食塩水または血清アルブミンを混合した生理食塩水はさらなる例示的担体である。他の例示的な医薬組成物は約pH7.0ー8.5のトリス緩衝液、約pH4.0−5.5の酢酸緩衝液を含み、これは、さらにソルビトールまたは適当な代替物を含むことができる。
ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1発現ベクターを含む組成物で心血管病を治療する投与法は、心血管病のタイプ、患者の年齢、体重、性別および医学的状態、病気の酷さ、投与の経路および使用する特定の化合物を含めた種々の因子に基づく。かくして、投与法は広く代わり得るが、標準的な方法を用いルーチン的に決定することができる。例えば、投与すべきABC1ポリヌクレオチドまたはABC1発現ベクターの量は、哺乳動物対象の細胞からのコレステロール流出を増加させるのに十分な量である。そのような量は、例えば、ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1発現ベクターの投与の前および後に対象の血漿HDL−コレステロールレベルを測定することによって決定することができる。ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1発現ベクターの十分な量は、対象の血漿HDL−コレステロールレベルを増加させる量である。従って、臨床家は投与量を決め、投与経路を修飾して最適な治療効果を得ることができる。典型的な投与量は、前記した因子に基づき、約0.1mg/kgないし約100mg/kg以上の範囲であり得る。
投与の頻度は、使用すべき処方におけるABC1ポリヌクレオチドまたはベクターの薬物動態学パラメーターに依存するであろう。典型的には、所望の効果を達成する投与量に到達するまで、臨床家は組成物を投与するであろう。従って、該組成物は、経時的に単一用量として、(所望の分子の同一量を含有してもまたはしなくてもよい)2または以上の用量にて、または異色デバイスまたはカテーテルを介する連続的注入として投与することができる。適当な投与量のさらなる工夫は当業者によってルーチン的になされ、それは当業者によってルーチン的になされる仕事の範囲内のものである。適当な投与量は、適当な用量−応答データを用いることによって確認することができる。
哺乳動物対象の細胞はイン・ビボ、エクス・ビボまたはイン・ビトロにてトランスフェクトすることができる。イン・ビボにての、ABC1ポリヌクレオチドまたはABC1ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターの標的細胞への投与は、当業者に知られた種々の技術のうちのいずれかを用いて達成することができる。例えば、米国特許第5、672、344号は、組換え神経栄養HSV−1ベクターを含むイン・ビボウイルス−媒介遺伝子導入系を記載する。ABC1ポリヌクレオチドおよび組換えABC1ベクターの前記組成物は、経口、口腔内、非経口、直腸または局所投与によって、並びに吸入スプレイによってイン・ビボにてトランスフェクトすることができる。本明細書中で用いる用語「非経口」は皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内、注入技術または腹腔内を含む。
経口投与では、ABC1ポリヌクレオチドまたは組換えABC1ベクターを含有する医薬組成物は、例えば、カプセル剤、錠剤、懸濁液または液体の形態とすることができる。医薬組成物は、好ましくは、与えられた量のDNAまたはウイルスベクター粒子を含有する投与単位の形態で作成する。例えば、これらは約103−1015ウイルス粒子、好ましくは約106−1012ウイルス粒子の量を含有することができる。ヒトまたは他の哺乳動物についての適当な日用量は、患者の状態および他の因子に応じて広く変化させることができるが、再度、ルーチン的方法を用いて決定することができる。
また、ABC1 DNAまたは組換えABC1ベクターを含有する医薬組成物は直腸投与することもできる。ベクターの直腸投与用の適当な坐薬は、常温では固体であるが、直腸温度では液体であり、従って、直腸内では融解し、ベクターを放出するカカオバターおよびポリエチレングリコールのごとき適当な非−刺激性賦形剤とベクターとを混合することによって調製することができる。
医薬組成物は吸入用に処方することもできる。例えば、ABC1ポリヌクレオチドまたはベクターは吸入用の乾燥粉末として処方することもできる。また、ABC1ポリヌクレオチドまたはベクター吸入溶液は、エアロゾル送達のためのプロペラントを用いて処方することができる。さらにもう1つの実施形態において、溶液は霧化することもできる。
ABC1 DNAまたは組換えABC1ベクターを含有する医薬組成物は注射することもできる。滅菌注射水性または油性懸濁液のごとき注射製剤は、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用い、公知の方法に従って処方することができる。滅菌注射製剤は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液とすることもでき、例えば、1、3−ブタンジオール中の溶液とすることができる。非経口注射用の特定の適当な担体は、ABC1ポリヌクレオチドまたはベクターを、適切に保存された滅菌等張溶液として処方される滅菌蒸留水である。使用することができる許容される担体および溶媒の中にはリンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌不揮発性油が、便宜には、溶媒または懸濁化媒体として使用される。この目的では、合成モノ−またはジグリセリドを含めたいずれの温和な不揮発性油も使用することができる。加えて、オレイン酸のごとき脂肪酸は注射剤の調製で用いることができる。さらにもう1つの製剤は、注射マイクロスフィア、生分解性粒子、ポリマー化合物、ビーズまたはリポソームのごとき剤での所望のABC1分子の処方を含むことができ、これはABC1製品の制御されたまたは保持された放出を提供する(例えば、PCT/US93/00829;Eppsteinら,Proc.Natl.Acad.Sci.,82:3688−3692(1985)参照)。
また、ABC1 DNAまたは組換えABC1ベクターを含有する医薬組成物は局所投与することができる。局所投与では、ベクターは処方の0.001%ないし10%w/w、例えば、1重量%ないし2重量%を含むことができるが、それは処方の10%w/wもと多くを、好ましくは5%w/w以下、より好ましくは0.1%ないし1%を含むことができる。局所投与に適した処方は、皮膚を通じる浸透に適した液体または半液体製剤(例えば、リニメント、ローション、軟膏、クリーム、またはペースト)および目、耳または鼻への投与に適した点剤を含む。本発明のベクターの有効成分の適当な局所用量を毎日1ないし4回、好ましくは、2回または3回投与する。
本発明の核酸および/またはベクターは唯一の活性な医薬剤として投与することができるが、それは本発明または他の剤の1以上のベクターと組み合わせて用いることもできる。組合せとして投与する場合、治療剤は、同一回数または異なる回数投与される別々の組成剤として処方されることができるか、あるいは治療剤は単一の組成物として投与することができる。
本発明のもう1つの実施形態において、標的細胞は標的細胞集団に隣接する「プロジューサー細胞系」の異色によってイン・ビボでトランスフェクトされる(Culver,K.,ら,1994,Hum.Gene Ther.,5(3):343−79;Culver,Kら,Cold Spring Harb.Symp.Quant.Biol.,59:685−90;Oldfield,E.,1993,Hum.Gene Ther.,4(19:39−69)。該プロジューサー細胞系は、ABC1ポリヌクレオチドを含有するウイルスベクターを生産し、標的細胞、すなわち、好ましくは、アテローム性動脈硬化症病巣に見出されるマクロファージ細胞に近接してそのウイルス粒子を放出するように作成される。放出されたウイルス粒子の一部は標的マクロファージ細胞と接触し、その細胞に感染し、かくして、ABC1ポリヌクレオチドを標的マクロファージ細胞に送達する。標的細胞の感染に続き、ABC1ポリヌクレオチドの発現が起こり、マクロファージ細胞に機能的ABC1蛋白質を与える。
もう1つの実施形態において、本発明は、ABC1ポリヌクレオチドまたは組換えABC1発現ベクターのX・ビボ導入によって心血管病を治療する方法を提供する。そのような例において、患者から摘出された細胞、組織または器官をABC1組成物に暴露し、しかる後、細胞、組織または器官を引き続いて患者に戻して移植する。例えば、1つの方法は、心血管病を持つ対象から血液試料を摘出し、該試料を単球が豊富となるようにし、単離された単球を、ABC1ポリヌクレオチドを含有する組換え発現ベクターおよび、所望により、標的特異的遺伝子と接触させることを含む。所望により、単球細胞をGM−CSFのごとき成長因子で処理して、対象へ再び細胞を導入する前に細胞増殖を刺激することもできる。再び導入すれば、当該細胞は、それが元来そこから単離された細胞集団を特異的に標的化する。このように、ABC1ポリペプチドの輸送活性を用いて、対象においてコレステロール流出を促進することができる。
X・ビボ投与のもう1つの方法は、ウイルスを含有する細胞の皮膚移植によって、ABC1ポリヌクレオチドまたは組換えABC1ベクターを哺乳動物対象に導入することを含む。好ましくは、レトロウイルスをこの投与方法で用いる。もし強力なハウスキーピング遺伝子プロモーターを用いて転写を駆動するならば、繊維芽細胞起源の細胞を用い、インプラントにおける外来性遺伝子の長期発現を達成することができる。例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子プロモーターを用いることができる。繊維芽細胞のごとき細胞を、スカベンジャーAのごとき特異的標的化を可能とする遺伝子、および強力なプロモーターと共にABC1ポリヌクレオチドを含有するレトロウイルス構築体を含有するビリオンで感染させることができる。感染した細胞を、受容者対象中の真皮の結合組織に移植することができるコラーゲンマトリックスに埋めることができる。レトロウイルスが増殖し、マトリックスから逃げるにつれ、それは標的細胞集団を特異的に感染するであろう。このようにして、移植の結果、輸送障害を呈する細胞においてコレステロール流出活性の増加した量がもたらされる。
もう1つの実施形態において、米国特許第5、399、346号に記載されているごとく、ABC1ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターをイン・ビトロ技術を用いて投与することができる。例えば、ここに記載するもののごとき方法を用い、遺伝子工学により作成したある種の細胞を移植することによって、ABC1ポリペプチドを送達してABC1ポリペプチドを発現させることができる。外来性種のポリペプチドの投与で起こり得るごとき、ABC1ポリペプチドを投与すべき患者において潜在的な免疫反応を最小化するためには、ABC1ポリペプチドを生産する天然細胞はヒト起源であり、ヒトABC1ポリペプチドを生産するのが好ましい。かくして、ABC1ポリペプチドを生産する組換え細胞は、ヒトABC1ポリペプチドをコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換するのが好ましい。該細胞はオートロガスまたはヘテロガスであり得る。所望により、細胞は不死化することができる。免疫応答の機会を減少させるためには、細胞をカプセル化して周囲の組織の侵入を回避することができる。カプセル化材料は、典型的には、蛋白質産物の報酬を可能とするが、患者の免疫系による、または周囲の組織からの他の有害な因子による細胞の破壊を防ぐ生体適合性の半浸透性ポリマーの容器または膜である。前記した方法を用い、トランスフェクトされた細胞を患者に投与することができる。
生細胞のカプセル化のための技術は当該分野で知られており、カプセル化細胞の調製および患者におけるその移植はルーチン的に達成することができる。例えば、Baetgeら、(PCT公開番号WO95/05452およびPCT/US94/09299)は、生物学的に活性な分子の効果的な送達のための遺伝子工学作成細胞を含有する膜カプセルを記載する。該カプセルは生体適合性であって、容易に回収することができる。該カプセルは、哺乳動物宿主への移植に際してイン・ビボで下降調節に付されないプロモーターに作動可能に連結した生物学的に活性な分子をコードするDNA配列を含む組換えDNA分子でトランスフェクトされた細胞をカプセル化する。該デバイスが、受容者内の特異的な部位への、生細胞からの分子の送達を可能とする。加えて、米国特許第4、892、538号;第5、011、472号;および第5、106、627号参照。生細胞をカプセル化するためのシステムはPCT国際公開WO91/10425(Aebischerら)に記載されている。また、PCT公開番号WO91/10470(Aebischerら);Winnら,1991,Exper.Neurol.113:322−29;Aebischerら,1991,Exper.Neurol.111:269−75;およびTrescoら,1992,ASAIO38:17−23参照。
ABC1をコードするポリヌクレオチドのためのもう1つの送達系は「非ウイルス」送達系である。遺伝子治療で用いられるかまたは提案されている技術はDNA−リガンド複合体、アデノウイルス−リガンド−DNA複合体、DNAの直接的注入、CaPO4沈殿、遺伝子銃技術、エレクトロポレーション、リポフェクションおよびコロイド分散を含む(Mulligan,R.,1993,Science,260(5110):926−32)。これらの方法のいずれも当業者に広く利用でき、本発明で用いるのに適当であろう。他の適当な方法は当業者に利用可能であり、本発明はトランスフェクションの利用可能な方法のいずれを用いても達成できると理解されるべきである。いくつかのそのような方法は当業者に利用されており、種々の程度の成功をおさめている(Mulligan,R.,1993,Science,260(5110):926−32)。
好ましくは、非ウイルス送達系はコロイド分散系である。コロイド分散系はマクロ分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフィア、ビーズ、および水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含めた脂質−ベースの系を含む。本発明の好ましいコロイド系はリポソームであり、これはイン・ビトロおよびイン・ビボにて送達ビヒクルとして有用な人工膜小胞である。リポソームは自己組立性のコロイド粒子であり、ここに、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルコリンのごとき両親媒性分子より構成される脂質二層が、該脂質二層が親水性内部を囲むように周囲の媒質の一部をカプセル化する。単一ラメラまたは多ラメラリポソームは、内部が所望の化学物質、薬物、または本発明におけるごとく、単離されたDNA分子を含有するように構築することができる。例えば、0.2−4.0μmのサイズの範囲である大きな単一ラメラ小胞(LUV)が、RNA、DNAおよび無傷ビリオンのごとき大きなマクロ分子を含有する水性緩衝液の実質的パーセンテージをカプセル化できることが示されている。一旦水性内部内にカプセル化されれば、これらのマクロ分子は生物学的活性な形態で哺乳動物細胞に送達することができ(Fraley,R.およびPapahadjopoulos,D.1981,Trends Biochem.Sci.,6:77−80)。リポソームが効果的な遺伝子導入ビヒクルとなるためには、以下の特徴が存在すべきである:(1)その生物学的活性を台なしにすることなく高効率で注目する遺伝子をカプセル化すること;(2)非標的細胞と比較して標的細胞に優先的かつ実質的に結合すること;(3)高効率で標的細胞の細胞質に小胞の水性内容物が送達されること;および(4)遺伝的情報が正確かつ効果的に発現されること(Mannino,R.ら、1988、Biotechniques,6(7):682−90)。
リポソームの組成物は、通常、通常はステロイド、特にコレステロールと組み合わされた、リン脂質、特に高い相転移温度リン脂質の組合せである。他のリン脂質または他の脂質を用いることもできる。リポソームの物理的特徴はpH、イオン強度、および二価カチオンの存在に依存する。リポソームの生産で有用な脂質の例は、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴ脂質、セレブロシドおよびガングリオシドのごときホスファチジル化合物を含む。特に好ましいのはジアシルホスファチジルグリセロールであり、ここに、脂質部位は14−18の炭素原子、特に16−18の炭素原子を含有し、飽和している。例示的なリン脂質は卵ホスファチジルコリン、ジパルミトリルホスファチジルコリンおよびジステアロイルホスファチジルコリンを含む。
リポソームの標的化は解剖学的および機械的要因に基づいて分類されている。解剖学的分類は選択性のレベル、例えば、器官−特異性、細胞−特異性およびオルガネラ−特異性に基づく。機械的標的化は、それが受動的または能動的であるかに基づいて区別することができる。受動的標的化は洞様毛細血管を含有する器官中の細網内皮細胞系(RES)の細胞に分布するリポソームの天然の傾向を利用する。他方、能動的標的化は、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、糖、糖脂質または蛋白質のごとき特異的リガンドにリポソームをカップリングさせることによって、あるいはリポソームの組成またはサイズを変化させて局所化の天然に起こる部位以外の器官および細胞型への標的化を達成することによって、リポソームを改変することを含む。好ましくは、該リガンドは、リポソームを特異的細胞−表面リガンドに標的化するのに用いることができるポリクローナルまたはモノクローナル抗体である。該リガンドは、それが標的細胞上の抗原性エピトープに効果的に結合する限り、FabまたはF(ab’)2のごとき抗体断片とすることもできる。好ましくは、抗体または抗体断片は、標的細胞に専ら見出される抗原を認識する。例えば、スカベンジャー受容体Aのごとき、マクロファージ細胞上に特異的に発現されるある種の抗原は、抗体−ABC1リポソームを直接的にマクロファージ細胞に標的化する目的で開発することができる。
多数の手法を用いて、リポソーム二層にポリクローナルもしくはモノクローナル抗体いずれかを共有結合させることができる。また、脂質基をリポソームの脂質二層に取り込んで、リポソーム二層と安定に会合した標的化リガンドを維持することができる。加えて、脂質鎖を標的化リガンドに接合するのに種々のリンキング基を用いることができる。
ここに示す研究は、核受容体に対するリガンドがコレステロール流出の増加を行うことができるのを示した。従って、もう1つの実施形態において、本発明は、哺乳動物対象における細胞からのコレステロール流出を増加させるのに十分な量にて核受容体に対する少なくとも1つのリガンドを哺乳動物対象に投与する工程を含むことを特徴とする該細胞からのコレステロール流出を増加させるのに適した方法を提供する。医薬組成物を処方しそれを投与する前記方法を用い、核受容体に対するリガンドを含む医薬組成物を調製しそれを投与することができる。核受容体リガンドの十分な量はコレステロール流出を増加させるリガンドの量である。そのような量は、種々の投与量のリガンドの投与の前および後にコレステロールの流出を測定し、コレステロール流出の増加を行う用量を決定することによって決定することができる。コレステロール流出はさきに記載したアッセイを用いて測定することができる。
核受容体は、小さな親油性ホルモンの効果を転写応答に導入することによって、脊椎動物の発生および成体生理学において臨界的な役割を演じるリガンド−活性化転写因子である。ペルオキシソームプロリフェレーター−活性化受容体(PPAR)、肝臓X受容体(LXR)、レチノイドX受容体(RXR)、ファルネソイドX受容体(FXR)、およびステロイドおよび生体内異物受容体(SXR)を含めた核受容体のいくつかのファミリーが存在する。該PPARファミリーは、3つの密接に関連する遺伝子産物PPARα、PPARγおよびPPARβ/δを含む。PPARσは細胞内および細胞外脂質代謝の鍵となるレギュレーターとして示されてきた。脂肪酸に結合すると、PPARαはペルオキシソームの増殖を刺激し、脂肪酸のβ−酸化に関与するいくつかの酵素の合成を誘導する。また、PPARα受容体はフィブレート、高いトリグリセリドレベルの低下につき処方された薬物に対する分子標的でもある(Issemanら、Nature,347,645(1990))。フィブレートは、リポ蛋白質および脂肪酸の代謝に影響する非常に多数の遺伝子の転写を調節するPPARリガンドとして作用する。加えて、チアゾリジンジオン化合物のクラスに属する化合物のごときPPARγリガンドはHDLを増加させ、ヒトにおいてトリグリセリドレベルを低下させることが示されている。
LXRは、過剰コレステロールの異化を調節するオキシステッロール受容体である。LXRαは、コレステロールの胆汁酸への変換で律速工程を担う酵素をコードするCYP7a遺伝子中のDNA応答エレメントに、RXRを持つヘテロダイマーとして結合することが示されている。研究は、ダイエットコレステロールに応答してCYP7a遺伝子の転写を増加させることができないため、コレステロール−リッチなダイエットを摂取した場合、LXRαを欠くマウスは膨大な量のコレステロールエステルをその肝臓に蓄積することを示してiru(Peetら,Cell,93:693(1998))。LXRαナルマウスでのさらなる研究は、コレステロールおよび脂肪酸のホメオスタシスに参画するいくつかの他の遺伝子の調節にもLXRαが関与することを示す。いくつかの組織において発現され、LXRαと同一のオキシステロールによって活性化される密接に関連する核受容体LXRβの生物学的役割は依然として明らかでない(Songら、Proc.Natl.Acad.Sci.,91:10809(1994);Seol,Mol.Endocrnol.,9:72(1995))。
革命的にLXRαに関連するFXRもまたコレステロールのホメオスタシスに関与する。LXRαと同様に、FXRはRXR受容体とのヘテロダイマーとして機能する(Schwartzら,Curr.Opin.Lipidol.,9:113(1998);Vlahcevicら,Gastroenterology,113:1949(1997))。FXRは、合成レチノイドTTNPBおよび超生理学的濃度の全てのトランスレチノイン酸によって活性化される(Xavackiら,Proc.Natl.Acad.Sci.,94:70−0(1997))。最近の研究は、FXRが核胆汁酸受容体であることを示す。まず、FXRは、肝臓、腸および腎臓を含めた胆汁酸がそれを通って循環する組織で豊富に発現される(Seolら,Mol.Endocrinol.,9:72(1995);Formanら,Cell,81:687(1995))。また、FXRは、最近、そのうちケノデオキシコール酸(CDCA)が最も優れている生理学的濃度のいくつかの胆汁塩に対する受容体として働くことが示されている(Kliewerら,Science,284:757−284(1999);Makishimaら,Science,284:1362−1363(1999))。CDCAは、CYP7aおよび腸胆汁酸−結合蛋白質をコードするものを含めた、胆汁塩のホメオスタシスに参画するいくつかの遺伝子の発現を調節することが知られている。
実施例13に詳細に記載するごとく、LXR、RXRおよびPPAR核受容体に対するリガンドが、コレステロール−負荷マウスマクロファージ細胞においてアポAI−誘導コレステロール流出を増加させることが示された。例えば、9シス−レチノイン酸(30ng/ml)の投与は、これらの細胞においてアポAI−誘導コレステロール流出のほぼ三倍増加を生じた。同様に、22(R)ヒドロキシコレステロール(5μ/ml)の投与は、アポAI−誘導コレステロール流出のほぼ3倍増加を生じた。フェンフィブレート(3μg/ml)を摂取した細胞は、コレステロール流出のほぼ2倍増加を生じた。これらの結果は、核受容体を変調させて、マクロファージからのアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出の速度を増加させることを示す。さらに、実施例13に記載されているごとく、9−シス−RAは、用量依存的にマクロファージ細胞からのコレステロール流出を媒介した。ベンザフィブレートのごとき他の核受容体アクチベータはコレステロール流出を増加させることが示された(データは示さず)。
従って、核受容体リガンドを投与することによってコレステロール流出を増加させる方法において、リガンドは、好ましくは、LXR、RXR、PPAR、FXRおよびSXR核受容体リガンドよりなる群から選択される。LXRリガンドを用いてコレステロール流出を増加させる好ましい実施形態において、リガンドは、より好ましくは、20(S)ヒドロキシコレステロール、22(R)ヒドロキシコレステロール、24−ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、および24(S)、25エポキシコレステロールLXRリガンドよりなる群から選択される。最も好ましくは、LXRリガンドは20(S)ヒドロキシコレステロールである。RXRリガンドを用いてコレステロール流出を増加させる好ましい実施形態において、リガンドは、より好ましくは、9−シスレチノイン酸、レチノール、レチナール、オール−トランスレチノイン酸、13−シスレチノイン酸、アシトレチン、フェンレチニド、エトレチネート、CD495、CD564、TTNN、TTNNPB、TTAB、LDG1069よりなる群から選択される。最も好ましくは、該RXRリガンドは9−シスレチノイン酸である。PPARリガンドを用いてコレステロール流出を増加させるもう1つの好ましい実施形態において、リガンドは、好ましくは、チアゾリジンジオン化合物のクラスから選択される。
もう1つの好ましい実施形態において、1を超える核受容体リガンドが哺乳動物対象に投与されて、コレステロール流出を増加させる。好ましくは、2以上の核受容体リガンドを対象に投与する場合、リガンドはLXRおよびRXRリガンドである。より好ましくは、核受容体リガンドは20(S)ヒドロキシコレステロールおよび9−シスレチノイン酸である。
さらにもう1つの実施形態において、本発明は、コレステロール流出を増加させるのに十分な量でエイコサノイドを哺乳動物対象に投与する工程を含むことを特徴とする哺乳動物対象において、細胞からのコレステロール流出を増加させるのに適した方法を提供する。医薬組成物を処方しそれを投与する前記方法を用い、エイコサノイドを含む医薬組成物を調製し、投与することができるエイコサノイドの十分な量は、コレステロール流出を増加させる量である。そのおうな量は、種々の投与量エイコサノイドの投与前および後にコレステロール流出を測定し、コレステロール流出の増加を行う用量を測定することによって決定することができる。コレステロール流出は前記したアッセイおよび方法を用いて測定することができる。
実施例14に記載されたごとく、エイコサノイドは、コレステロール−負荷マウスマクロファージ細胞におけるアポAI−誘導コレステロール流出を増加させることが示された。例えば、PGI2(25nm)の投与は、これらの細胞においてアポ−誘導コレステロール流出のほぼ2倍増加を生じさせた。同様に、PGE1(nM)の投与はアポAI−誘導コレステロール流出のほぼ3倍増加を生じさせた。これらの結果はエイコサノイドが、マクロファージからのアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出の速度を増加させることができることを示す。従って、好ましい実施形態において、エイコサノイドはプロスタグランジンE2、プロスタサイクリン(プロスタグランジンI2)およびプロスタグランジンJ2エイコサノイドよりなる群から選択される。
(ABC1発現/活性を増加させるための方法と化合物))
コレステロール流出を促進するようにABC1が機能するとすれば、コレステロール流出を増加させる1つの方法はABC1の細胞発現を増加させることである。従って、本発明は、哺乳動物対象における細胞においてABC1の発現を増加させる化合物の治療量を哺乳動物対象に投与することによって、該細胞からのコレステロール流出を増加させるのに適した方法を提供する。化合物の治療量は、ABC1発現を増加させる化合物の量である。そのような量は、種々の投与量の化合物の投与前および後にABC1の遺伝子発現を測定し、ABC1遺伝子発現の増加を行う用量を測定することによって決定することができる。ABC1遺伝子の発現は、対象から血液試料を得、単球集団を分離し、RT−PCRのごとき、当該分野で知られここに記載した方法を用いてABC1 mRNAの濃度を測定することによって測定することができる。
1つの好ましい実施形態において、該方法は、cAMPアナログを投与してABC1の遺伝子発現を増加させることを含む。図8に示すごとく、cAMPは、正常な繊維芽細胞においてABC1 mRNAの発現をほぼ10倍増加させる。好ましくは、cAMPアナログは、8−ブロモcAMP、N6−ベンゾイルcAMPおよび8−チオメチルcAMPよりなる群から選択される。もう1つの好ましい実施形態において、該方法は、cAMPの合成を増加させて、ABC1の遺伝子発現を増大させることを含む。好ましくは、該化合物はフォルスコリンである。さらにもう1つの好ましい実施形態において、該方法は、cAMPの分解を阻害して、ABC1の遺伝子発現を増加させる化合物を投与することを含む。そのような化合物の例はホスホジエステラーゼ阻害剤である。好ましくは、ホスホジエステラーゼ阻害剤はロリプラム、テオフィリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、R020−1724、ビンポセチン、ザプリナスト、ジピリダモール、ミルリノン、アムリノン、ピモベンダン、シロスタミド、エノキシモン、ペルオキシモン、およびベスナリノンホスホジエステラーゼ阻害剤よりなる群から選択される。
もう1つの好ましい実施形態において、該方法は、ABC1の遺伝子発現を増加させるのに十分な量にて核受容体に対するリガンドを哺乳動物対象に投与することを含む。実施例17に記載され、図12に示されるごとく核受容体に対するリガンドはABC1の遺伝子発現を上昇調節できる。ABC1プロモーターの制御下でルシフェラーゼレポーター遺伝子を含有するpAPR1を用いるトランスフェクション実験は、ABC1プロモーターが、LXRおよびRXR核受容体に対するリガンドの存在下で活性化されることを示した。具体的には、pAPR1でトランスフェクトされたマクロファージ細胞は、20OH−コールの存在下でルシフェラーゼレポーター活性の19倍増加、9−シスRAの存在下でルシフェラーゼ活性の16倍増加、およびEtOH対照と比較して双方のリガンドの存在下でルシフェラーゼ活性の280倍増加を生じた。結果は、ステロールおよびレチノイドが共にABC1プロモーターからの強力な転写応答を誘導することを示す。さらに、双方のリガンドで処理した細胞で見出されたルシフェラーゼ活性の劇的な増加によって理解されるごとく、二つのクラスの化合物の間には明らかな相乗効果がある。本発明の方法によると、好ましくは、リガンドはLXR、RXR、PPAR、FXRおよびSXRリガンドよりなる群から選択される。
ABC1蛋白質の細胞レベルの増加に加えて、ABC1蛋白質の活性を増強することによって、逆コレステロール輸送を促進することができる。かくして、もう1つの実施形態において、本発明は、コレステロール流出を増加させるのに十分な量にてABC1活性を増加させる化合物の治療量を哺乳動物対象に投与する工程を含むことを特徴とする哺乳動物対象において細胞からのコレステロール流出を増加させるのに適した方法を提供する。そのような化合物を含む医薬組成物は、医薬組成物を処方しそれを投与する前記方法を用いて調製し、それを投与することができる。化合物の治療量は、コレステロール流出を増加させる化合物の量である。そのような量は、種々の投与量の化合物の投与の前および後にコレステロール流出を測定し、先に記載した方法を用いてコレステロール流出の増加を行う用量を測定することによって決定することができる。コレステロール流出の増加がABC1活性の増加によるか否かを判断するために、化合物の投与の前および後に細胞試料に存在するABC1蛋白質の量をここに記載する方法を用いて測定する(実施例11参照)。双方の測定(すなわち、化合物の投与前および投与後)につき、コレステロール流出活性の量をABC1蛋白質の濃度で割って、ABC1蛋白質の標準的な濃度で見出されるコレステロール活性の量を決定する。蛋白質濃度に対して標準化されたコレステロール活性の観察された増加は、該増加がABC1活性の増加によるものであることを示す。
(治療用化合物を同定するための方法)
本発明のもう1つの態様は、化合物がABC1の遺伝子発現を変調する(すなわち、上昇調節または下降調節)するか否かを判断するために化合物をスクリーニングする方法に関する。そのような化合物は、ABC1発現を増加させ、それにより、コレステロール流出を促進し、HDL−コレステロールの血中レベルを上昇させる治療用化合物の開発で有用であろう。従って、心血管病の治療で有用であり得る化合物を同定する方法が提供される。1つの実施形態において、本発明は、(a)哺乳動物ABC1遺伝子の発現変調部分とレポーターcDNAを作動可能に連結させて、組換えレポーター構築体を生じさせ;(b)組換えレポーター構築体を宿主細胞の集団にトランスフェクトし;(c)トランスフェクトされた宿主細胞の試料においてレポーター遺伝子発現のレベルをアッセイし;(d)トランスフェクトされた細胞を、スクリーニングすべきテスト化合物と接触させ;(e)テスト化合物との接触の後にトランスフェクトされた宿主細胞の試料におけるレポーター遺伝子発現のレベルをアッセイし;次いで、(f)テスト化合物への暴露によって引き起こされたレポーター遺伝子発現のレベルの相対的変化を比較し、それにより、ABC1発現変調活性を決定する工程を含むことを特徴とするABC1発現変調活性につきテスト化合物をスクリーニングする方法を提供する。
まず、ABC1遺伝子の発現変調部分に作動可能に連結した異種レポーター遺伝子を含む組換えレポーター構築体を構築する。Davisら,Basic Methods in Molecular Biology(1986);Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第二版、(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989));および Ausubelら編、Current Protocols in Molecular Biology,(Wiley and SOns(1994))を含めた、ここに記載された標準実験室的マニュアルにおけるもののごとき、良く知られた連結およびクローニング技術を用い、ABC1発現変調ポリヌクレオチドおよびレポーター遺伝子をベクターに挿入することができる。別法として、ABC1発現変調ポリヌクレオチドは、先に記載したもののごとき商業的に入手可能なレポーター構築体に挿入することができる。ABC1ポリヌクレオチドおよびレポーター遺伝子の挿入に適したいずれのベクターも用いることができる。選択されたベクターは、使用される特定の宿主細胞で機能すべきである。好ましくは、ベクターは哺乳動物宿主細胞に適合する。
好ましくは、ABC1遺伝子の発現変調部分は、ABC1プロモーター活性を含有するABC1の5’フランキング領域である。1つの好ましい実施形態において、ABC1遺伝子の発現変調部分は配列番号:3を含む。もう1つの好ましい実施形態において、ABC1遺伝子の発現変調部分は配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、1394−1643または1394−1532を含む。また、好ましくは、異種レポーターは、ルシフェラーゼ、βーガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼおよび緑色蛍光蛋白質をコードするポリヌクレオチドよりなる群から選択される。より好ましくは、異種レポーターは、ルシフェラーゼ蛋白質をコードするポリヌクレオチドである。特に好ましい実施形態において、組換えレポーター構築体は図11に示されるpAPR1である。
次に、組換えレポーター構築体は宿主細胞の集団にトランスフェクトされる。組換えレポーター構築体は、先に記載されたトランスフェクション方法、並びに実施例8および15に記載された方法のいずれかを用いて宿主細胞に導入することができる。例えば、レポーター構築体は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質−媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染、他の公知の記載された方法のいずれかを用いてトランスフェクトすることができる(例えば、(Davisら,Basic Methods in Molecular Biology(1986)参照)。宿主細胞は、適当な条件下で培養すると、引き続いて測定することができるレポーターポリペプチドを合成するいずれの細胞でもあり得る。好ましくは、宿主細胞は哺乳動物宿主細胞である。より好ましくは、哺乳動物宿主細胞はマクロファージ、繊維芽細胞、肝細胞または腸細胞である。より好ましくは、宿主細胞はRAW264.7細胞、Thp−1細胞およびHepG2細胞よりなる群から選択される。レポーター構築体の濃度およびトランスフェクションの持続は、トランスフェクション方法および用いる宿主細胞のタイプおよび濃度に依存して変化させることができる。レポーター構築体の適当な濃度およびトランスフェクション時間の決定は当業者の技量の範囲内のものである。
トランスフェクションに続き、テスト化合物に暴露されなかったトランスフェクト宿主細胞の試料をアッセイして、レポーター遺伝子発現のレベルを測定する。未暴露トランスフェクト宿主細胞の試料で見出されるレポーター遺伝子発現のレベルは対照測定を提供する。トランスフェクトされた宿主細胞を溶解させ、レポーター遺伝子発現のレベルを、当該分野で良く知られた方法のいずれかを用いてアッセイする。レポーター遺伝子発現のレベルを測定するのに用いられるアッセイは、トランスフェクションで用いるレポーター構築体に依存して異なる。例えば、もしルシフェラーゼレポーター構築体を用いれば、細胞溶解物のルシフェラーゼ活性は、実施例15に記載されたごとく、ルミノメーターを用いて光単位として測定される。
トランスフェクトされた宿主細胞の異なる試料を、スクリーニングすべきテスト化合物と接触させ、これらの細胞で見出されるレポーター遺伝子発現のレベルを引き続いて測定する。好ましくは、トランスフェクトされた宿主細胞をテスト化合物と約4−48時間接触させる。より好ましくは、トランスフェクトされた宿主細胞をテスト化合物と約8−36時間接触させる。なおより好ましくは、トランスフェクトされた宿主細胞をテスト化合物と約24時間接触させる。未暴露(対照)細胞におけるレポーター遺伝子発現のレベルを測定するのに用いられる同一アッセイを用いて、テスト化合物に暴露された細胞におけるレポーター遺伝子発現のレベルを測定すべきである。
最後に、未暴露対照細胞で見出されたレポーター遺伝子の発現のレベルをテスト化合物に暴露された細胞で見出されたレポーター遺伝子発現のレベルと比較して、テスト化合物がABC1発現変調活性を有するか否かを決定する。もし双方の細胞試料における遺伝子発現のレベルが同一またはほぼ同一であれば、テスト化合物はABC1遺伝子発現を変調しない。対照細胞で見出されたレポーター遺伝子発現のレベルに対するテスト化合物に暴露された細胞におけるレポーター遺伝子発現のより高いレベルは、テスト化合物がABC1の遺伝子発現を上昇調節することを示す。対照細胞で見出されたレポーター遺伝子発現のレベルに対するテスト化合物に暴露された細胞におけるレポーター遺伝子発現のより低いレベルは、テスト化合物がABC1の遺伝子発現を下降調節することを示す。
本発明のもう1つの態様は、化合物がABC1−媒介コレステロール流出を促進するか否かを決定するためにテスト化合物をスクリーニングする方法に関する。そのような方法は、(a)培養中に維持された哺乳動物細胞の試料におけるコレステロール流出のレベルをアッセイして、コレステロール流出の対照レベルを決定し、(b)哺乳動物細胞をスクリーニングすべきテスト化合物と接触させ;(c)テスト化合物との接触の後に細胞の試料におけるコレステロール流出のレベルをアッセイし;次いで、(d)テスト化合物との接触の後に細胞の試料におけるABC1−依存性コレステロール流出のレベルをアッセイし、それにより、テスト化合物が培養中の細胞からのABC1−媒介コレステロール流出を促進するか否かを決定することを含む。
培養細胞の試料におけるコレステロール流出のレベルは、当該分野で知られここに記載した方法を用いて測定することができる(実施例1参照)。培養に維持することができるいずれの哺乳動物細胞を用いてもコレステロール流出を測定することができる。該細胞は一次培養から、または不死化細胞系から由来することができる。便宜のため、実施例1に記載されたごとく、ヒトパピローマウイルス16のインサート、オンコジーンE6およびE7、および選択マーカー遺伝子を持つベクターを含有する両種性レトロウイルスでトランスフェクトすることによって細胞を不死化することができる。好ましくは、培養された細胞は繊維芽細胞、マクロファージ、肝細胞または腸細胞である。より好ましくは、培養された細胞はRAW264.7細胞である。
テスト細胞と接触されなかった細胞の試料におけるコレステロール流出のレベルを測定して、コレステロール流出の対照レベルが得られる。加えて、テスト化合物と接触された哺乳動物細胞の試料におけるコレステロール流出のレベルを測定して、テスト化合物によって影響されたコレステロール流出の量が測定される。また、テスト化合物と接触された哺乳動物細胞の試料におけるABC1−媒介コレステロール流出のレベルを測定して、テスト化合物によって影響されたABC1−媒介コレステロール流出の量が測定される。好ましくは、コレステロール流出またはABC1−媒介コレステロール流出をアッセイする約8−24時間前に、細胞をテスト化合物と接触させる。ABC1−媒介コレステロール流出のレベルは、結合に際して、ABC1の活性を阻害する抗−ABC1抗体を用いてアッセイすることができる。別法として、ABC1の発現を阻害するアンチセンスABC1ポリヌクレオチドを用い、ABC1−媒介コレステロール流出のレベルをアッセイすることができる。例えば、配列番号:57を含むアンチセンスABC1ポリヌクレオチドを用い、ABC1−媒介コレステロール流出のレベルをアッセイすることができる(実施例7参照)。テスト化合物と接触させると同時におよび同一の持続の間、細胞を抗−ABC1抗体またはアンチセンスABC1ポリヌクレオチドと接触させるべきである。
もし対照コレステロール流出のレベルが、テスト化合物と接触させた細胞で見出されたコレステロール流出のレベルと同一またはほぼ同一であれば、当該化合物はコレステロール流出を促進しない。コレステロール流出の対照レベルよりも大きいテスト化合物と接触した細胞で見出されたコレステロール流出のレベルの増加は、テスト化合物によって促進されたコレステロール流出の量を示す。テスト化合物単独と接触した細胞で見出されたコレステロール流出およびテスト化合物および抗−ABC1抗体またはアンチセンスABC1ポリヌクレオチドと接触した細胞で見出されたコレステロール流出の間の差は、ABC1を通じて媒介されたコレステロール流出の量を示す。例えば、もしコレステロール流出の対照レベルが1.0であって、テスト化合物と接触した細胞で見出されたコレステロール流出のレベルが1.1であれば、テスト化合物は10%だけコレステロール流出を促進する。もしテスト化合物および抗−ABC1抗体またはアンチセンスABC1ポリヌクレオチドと接触した細胞で見出されたコレステロール流出が1.0であれば、テスト化合物によって引き起こされたコレステロール流出の増加は全くABC1−媒介される。
(冠動脈心臓病に対する罹患性を検出する方法)
また、本発明は、ヒト対象を含めた哺乳動物対象においてABC1遺伝子または蛋白質の発現の比較レベルを検出する方法に関する。コレステロール流出におけるABC1の役割を仮定すれば、ABC1遺伝子または蛋白質発現のあらかじめ決定した標準レベルに対する哺乳動物対象におけるABC1遺伝子または蛋白質発現の増加したレベルの測定を用いて、該対象における冠心臓病に対する罹患性を示すことができる。従って、本発明は、(a)哺乳動物対象からテスト細胞試料を得;(b)テスト細胞試料においてABC1 mRNA発現のレベルをアッセイし;次いで、(c)テスト細胞試料におけるABC1 mRNA発現のレベルとABC1 mRNA発現のあらかじめ決定した標準レベルとを比較し、それにより、哺乳動物対象におけるABC1遺伝子発現の比較レベルを検出する工程を含むことを特徴とする哺乳動物対象においてABC1遺伝子発現の比較レベルを検出する方法を提供する。
まず、ヒト対象を含めた哺乳動物対象からテスト細胞試料を得る。テスト細胞試料は、単球集団が豊富化された血液試料であり得る。単球は、例えば、細胞サイズ、細胞密度または細胞新和性に基づいて良く知られた細胞分離手法を用いて豊富化することができる。次に、テスト細胞試料におけるABC1 mRNA発現のレベルをアッセイする。ABC1 mRNA発現のレベルは、実施例2および9においてここに記載した方法を含めた、mRNAの調製および検出についての良く知られた方法のいずれかを用いてアッセイすることができる。例えば、ABC1 mRNAの濃度は、逆転写ポリメラーゼ鎖反応、ノーザンブロット分析またはRNAse保護アッセイによって測定することができる。ABC1 mRNA濃度は、テスト細胞試料で見出された全mRNAの濃度に対して標準化されるべきである。最後に、テスト細胞試料におけるABC1発現を、あらかじめ決定した標準レベルのABC1 mRNA発現と比較する。あらかじめ決定した標準レベルのABC1 mRNA発現は、哺乳動物対象の代表的な集団から採取した細胞試料で見出されたABC1 mRNAの平均濃度および分布を測定することによって得ることができ、ここに、哺乳動物対象は、それからテスト細胞試料が得られた対象と同一の種であり、およびここに、哺乳動物対象は冠心臓病、タンジール病、または低HDL−コレステロールに関連する他の病気を有さず、(正常範囲内にあるHDL−コレステロールレベルによって示して)正常範囲内のコレステロール流出活性を有すると考えられる。ABC1 mRNA発現のあらかじめ決定した標準レベルに対する哺乳動物対象のテスト細胞試料におけるABC1 mRNA発現の減少したレベルの測定を用いて、哺乳動物対象における冠心臓病に対する罹患性を示すことができる。
同様に、ABC1蛋白質の減少したレベルの検出を用いて、コレステロール流出に対する減少した能力および冠心臓病に対する罹患性を示すことができる。従って、本発明のもう1つの実施形態は哺乳動物対象においてABC1蛋白質の比較レベルを検出する方法を提供する。そのような方法は、(a)哺乳動物対象からテスト細胞試料を得;(b)テスト細胞試料においてABC1蛋白質の量をアッセイし;次いで(c)テスト細胞試料におけるABC1蛋白質の量をABC1蛋白質のあらかじめ決定した標準量と比較し、それにより、哺乳動物対象におけるABC1蛋白質の比較レベルを検出する工程を含む。
ABC1蛋白質の量は、蛋白質を測定する良く知られた方法のいずれかを用いてアッセイすることができる。好ましくは、ABC1蛋白質の量はイムノアッセイを用いて測定する。1つの実施形態において、ABC1蛋白質の量は、(a)細胞試料を抗−ABC1抗体の集団と接触させ、次いで、(b)細胞試料と会合した抗−ABC1抗体を検出することによって測定される。例えば、ABC1蛋白質は、実施例11に記載されたごとくC−末端に位置するKNQTVVDAVLTSFLQDEKVKESに対応する合成ペプチドに対して生起した抗血清と接触させることができる。抗−ABC1抗体は、例えば、ウエスタンブロッティング、免疫沈殿およびFACSを含めた当該分野で知られたいくつかの方法を用いて検出することができ、ここに、該検出は放射能、比色または蛍光標識を用いて達成することができる。細胞試料においてABC1蛋白質の量を測定するための1つの好ましい方法は免疫沈殿であり、ここに、ビオチン化ABC1蛋白質を抗−ABC1抗体と接触させ、結合した抗−ABC1抗体をストレプトアビジンホースラディッシュペルオキシダーゼを用いて検出する。
テスト細胞試料中のABC1蛋白質の量をABC1蛋白質のあらかじめ決定した標準量と比較する。ABC1蛋白質のあらかじめ決定した標準量は、哺乳動物対象の集団から採取した細胞試料で見出されたABC1蛋白質の平均濃度を測定することによって得ることができ、ここに、哺乳動物対象は、それからテスト細胞試料が得られた対象と同一の種であり、およびここに、哺乳動物対象は冠心臓病、タンジール病または低HDL−コレステロールに関連する他の病気を有さず、(正常範囲内にあるHDL−コレステロールレベルによって示して)正常範囲内のコレステロール流出活性を有すると考えられる。
(ABC1抗体)
本明細書中で用いるごとく、「抗体」(Ab)または「モノクローナル抗体」(Mab)は、無傷分子、ならびに蛋白質に特異的に結合することができる(例えば、FabおよびF(ab’)2断片のごとき)抗体断片を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)2断片は無傷抗体のFc断片を欠き、循環からより迅速に除去され、無傷抗体よりも低い非特異的組織結合を有することができる(Wahlら,J.Nucl.Med.,24,316−325(1983))。かくして、これらの断片、ならびにFABの産物または他の免疫グロブリン発現ライブラリが好ましい。さらに、本発明の抗体はキメラ、単一鎖およびヒト化抗体を含む。
さらなる実施形態はキメラ抗体、例えば、ネズミモノクローナル抗体のヒト化バージョンを含む。そのようなヒト化抗体は公知の技術によって調製することができ、該抗体をヒトに投与すると低下した免疫原性の利点を提供する。ひとつの実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体はネズミ抗体の可変領域(またはちょうどその抗原結合部位)およびヒト抗体に由来する定常領域を含む。別法として、ヒト化抗体断片はネズミモノクローナル抗体の抗原結合部位およびヒト抗体に由来する(抗原結合部位を欠く)可変領域断片を含むことができる。キメラおよびさらに工夫したモノクローナル抗体の生産のための手法はRiechmannら,(Nature 332:323,1988),Liuら(PNAS 84:3439,1987),Larrickら,(Bio/Technology 7:934,1989),およびWinterおよびHarris(TIPS 14:139,May 1993)に記載されているものを含む。
抗体を生産するひとつの方法は、トランスジェニックマウスのごとき非−ヒト動物を、配列番号:1を含むポリヌクレオチド、配列番号:1のヌクレオチド291−7074を含むポリヌクレオチド、または配列番号:1を含むポリヌクレオチドに対して少なくとも90%同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから翻訳されたポリペプチドで免疫化し、それにより、記載したポリヌクレオチドから翻訳されたポリペプチドに対して向けられた抗体が該動物において創製されることを含む。非−ヒト動物においてヒト抗体を創製するための手法が開発されている。該抗体は部分的にヒトであるか、または好ましくは完全にヒトのものとすることができる。その中に1以上の免疫グロブリン鎖をコードする遺伝物質が導入された(トランスジェニックマウスのごとき)非−ヒト動物を使用することができる。そのようなトランスジェニックマウスは種々の方法で遺伝子的に改変することができる。遺伝子走査の結果、免疫化に際して動物によって生産された少なくともいくつかの(好ましくは、実質的にすべての)抗体において内因性免疫グロブリン鎖を置き換えたヒト免疫グロブリンポリペプチド鎖を得ることができる。トランスジェニック動物を、記載したポリヌクレオチドのいずれかから翻訳されたポリペプチドで免疫化することによって生産された抗体がここに提供される。
1以上の内因性免疫グロブリン遺伝子が種々の手段で不活化されたマウスが調製されている。ヒト免疫グロブリン遺伝子はマウスに導入されて、不活化マウス遺伝子を置き換えている。動物で生産された抗体は、動物に導入されたヒト遺伝物質によってコードされたヒト免疫グロブリンポリペプチド鎖を一体化させる。生産のための技術およびかかるトランスジェニック動物の使用の例は、ここに引用して一体化させる米国特許第5、814、318号、第5、569、825号および第5、545、806号に記載されている。
モノクローナル抗体は、例えば、免疫化スケジュールの完了後にトランスジェニック動物から収穫された脾臓細胞の不死化することによって通常の手法によって生産することができる。通常の手法によって、脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを生産することができる。
ハイブリドーマ細胞系を生産する方法は、そのようなトランスジェニック動物を、記載されたポリヌクレオチドのひとつから翻訳されたポリペプチドの少なくとも7つの連続アミノ酸残基を含む免疫原で免疫化し;免疫化された動物から脾臓細胞を収穫し;収穫された脾臓細胞を骨髄腫細胞系に融合させ、それにより、ハイブリドーマ細胞を創製し;次いで、記載したポリヌクレオチドの1つから翻訳されたポリペプチドに結合するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞系を同定する事を含む。そのようなハイブリドーマ細胞系、およびそれから生産されたモノクローナル抗体は本発明に含まれる。ハイブリドーマ細胞系によって分泌されたモノクローナル抗体は通常の技術によって精製される。
該抗体は、ABC1ポリペプチドへの特異的結合に際して、ABC1ポリペプチドの活性を阻害することができる。好ましくは、抗体は、結合に際して、ABC1ポリペプチドのコレステロール輸送活性を阻害する。そのような抗体は、コレステロール輸送に必須の領域に対応するポリペプチドで非−ヒト動物を免疫化することによって作成することができる。抗体は、記載したコレステロール流出アッセイのいずれかを用いて、それがコレステロール流出を阻害するか否かを判断するためにテストすることができる。そのような不活化抗体を用いて、ここに記載したコレステロール流出アッセイのいずれかのごときイン・ビトロアッセイで使用して、テスト化合物がABC1−媒介コレステロール流出を促進するか否かを決定することができる。また、不活化抗体をイン・ビトロアッセイで用いて、哺乳動物対象の細胞においてABC1蛋白質の比較レベルを検出することができる。該不活化抗体は、化合物がABC1−依存性コレステロール流出を変調するか否かを決定するために化合物をスクリーニングするのに適したキットで有用である。
(治療用化合物同定のためのキット)
また、本発明は、化合物のABC1発現変調活性を測定するために化合物をスクリーニングするのに適したキットを含む。該キットは、少なくとも1つのアッセイを行うのに十分な量にて、別々にパッケージされた試薬として、哺乳動物ABC1遺伝子の発現変調部分に作動可能に連結したレポーターcDNAを含む組換えレポーター構築体を含む。パッケージされた試薬の使用のための指令書もまた典型的には含まれる。哺乳動物ABC1遺伝子の発現変調部分は5’フランキング配列を含む。1つの好ましい実施形態において、哺乳動物ABC1遺伝子の発現変調部分は配列番号:3を含む。1つの好ましい実施形態において、哺乳動物ABC1遺伝子の発現変調部分は配列番号:3のヌクレオチド1−1532、1080−1643、1181−1643、1292−1643、1394−1643または1384−1532を含む。レポーターcDNAはいずれの適当なレポーター遺伝子でもあり得る。特に好ましい実施形態において、組換えレポーター構築体はpAPR1である。もう1つの実施形態において、該キットは、さらに、レポーター蛋白質を検出するための手段を含む。かくして、キットは、レポーター蛋白質検出で用いられる緩衝液および基質のごとき試薬を含む。
本明細書中で用いるごとく、用語「パッケージ」とは、本発明の組換えベクターを固定された限界内に保持することができるガラス、プラスチック、(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリカルボネート)、紙、ホイル等のごとき固体マトリックスまたは材料を言う。かくして、例えば、パッケージは、ミリグラム量の考えられるベクターを含有させるのに用いるガラスバイアルであり得る。
「使用のための指令書」は、典型的には、試薬濃度または試薬および混合すべき試料の相対的量、試薬/試料混合のための維持時間、温度、緩衝液の条件等のような少なくとも1つのアッセイ方法パラメーターを記載する触れることができる表現を含む。
加えて、本発明は、化合物がABC1−依存性コレステロール流出を変調するか否かを決定するために化合物をスクリーニングするのに適したキットを含む。1つの実施形態において、キットは、少なくとも1つのアッセイを行うのに十分な量にて、別々にパッケージされた試薬としての不活化抗−ABC1抗体を含む。パッケージされた試薬の使用のための指令書もまた典型的には含まれる。
もう1つの実施形態において、キットは、少なくとも1つのアッセイに十分な量のアンチセンスABC1オリゴヌクレオチドおよび使用のための指令書を含む。好ましくは、アンチセンスABC1オリゴヌクレオチドは配列番号:53を含む。
(マイクロアレイ)
DNAマイクロアレイ技術を本発明に従って利用することができるのは認識されるであろう。DNAマイクロアレイは、例えばガラスのような、固体支持体上に位置させた核酸のミニチュア高密度アレイである。該アレイ内の各細胞またはエレメントは、相補的核酸配列(例えば、mRNA)とのハイブリダイゼーションのための標的として作用する単一核酸種の多数のコピーを含有する。DNAマイクロアレイ技術を用いる発現プロファイリングにおいて、mRNAをまず細胞または組織試料から抽出し、次いで、酵素により蛍光標識cDNAに変換する。この物質をマイクロアレイにハイブリダイズさせ、未結合cDNAを洗浄によって除去する。次いで、アレイ上に表された区別される遺伝子の発現を、各標識核酸分子に特異的に結合した標識cDNAの量を定量することによって可視化する。このようにして、数千の遺伝子の発現を、生物学的物質の単一試料から高スループット平行方法で定量することができる。
この高スループット発現プロファイリングは、限定されるものではないが:治療剤での標的としてのABC1病気−関連遺伝子の同定および有効化;関連するABC1分子およびその阻害剤の分子毒物学;臨床試験のための代用物マーカーの集団の層化およびその創製;および高スループットスクリーニングにおける選択的化合物の同定で助けることによる関連ABC1ポリペプチド小分子薬物発見の増強を含めた、本発明のABC1分子に対する広い範囲の適用を有する。
実施例2においてここで考察したごとく、遺伝的異常を持つ個体の細胞に由来するRNAの試料を用い、それらを、正常個体からのRNAと比較する方法が開発された。歴史的には、遺伝した病気の原因の同定は、遺伝実験(連鎖分析)において欠陥に密接にリンクすることが示されている数百万の塩基対の間隔内で疑われる遺伝子を同定するための、数年の生化学的分析、またはより最近では、数年の遺伝子マッピングおよび位置クローニングに由来した。最も顕著には「遺伝子チップ」を介するマルチジーン発現分析の使用は、そのような発見のペースを改革することができる。遺伝病をもつ異常個体からの細胞に由来するRNA−対−正常個体からのRNAの試料の発現を比較することは、その対応するmRNAが異常病気細胞において失われ、ひどく過小表現されるかまたはひどく過剰表現される遺伝子を迅速に明らかにすることができる。
本明細書中で用いる用語「個体」とは、例えば、哺乳動物、植物のごとくRNAを有する生きた生物をいう。この方法は、好ましくは、ヒト遺伝子異常性の源を同定するのに用いられる。より好ましくは、該方法は、タンジール病における遺伝的欠陥としてABC1を同定するごときヒト心臓および心血管障害の遺伝的源を検出するのに有用である。
本明細書中で用いられる用語「異常性」とは、ある種の個体の大部分と比較して該種における少数の個体で生理学的偏差を引き起こす遺伝的差異をいう。該異常性はポジティブな異常性またはネガティブな異常性であり得る。例えば、ポジティブな植物異常性は、該種における他の個体と比較していくつかの個体植物を日照り抵抗性とする遺伝的差異であろう。ネガティブな異常性は、植物の同一種における個体を正常植物よりも日照り損傷を受けやすくするものであろう。
該方法は、タンジール病の遺伝的原因に我々の調査を参照することによって最良に記載することができる。我々は、タンジール病を持つ個体から培養した細胞からのRNAを用いて、ほぼ60、000の正常ヒト遺伝子を含有するマイクロアレイをプローブすることによって我々の調査を開始し、我々は、患者がほとんどゼロレベルの循環高密度リポ蛋白質(HDL)および心臓病の増大した危険性を有するこの単一遺伝子病における血管遺伝子としてABC1を同定するのにプローブ結果を用いることができた。血管遺伝子の結果、そのような実験においてゼロレベルの検出可能なmRNAシグナルが得られる必要はない。この成功した例において、マイクロアレイ上の58、800プローブのうち大ざっぱに175が、タンジール病RNA−対−正常において2.5倍を超えて過小発現された。いくつかのさらなる工程を採用して、クルプリット遺伝子の同一性を確認することができる。これらは、タンジール病を持つ無関係な個体でそのようなマイクロアレイプローブを反復し、各遺伝子の染色体地図の位置を決定して、病気にリンクした報告された大きな遺伝子間隔と比較すること、候補蛋白質およびそれらのホモログの同様の機能の考慮、生化学的テスト、および突然変異を見出すための患者における最良の候補遺伝子の配列決定を含む。これらの方法において、遺伝子発現マイクロアレイ分析は、タンジール病における欠陥としてのABC1の同定のごとき遺伝子した遺伝子欠陥の同定に導くことができる。
この方法におけるさらなる利用性は、病気試料vs.正常において過小または過剰発現される他の遺伝子が、補償的応答として、または病気原因に対する寄与者としての、患者における遺伝的欠陥の結果で異なって調節されるものを含む。これは、薬物開発に使用でき、治療および診断に対する関係で、病気の原因を解明するのを助けることができる関連生物学的経路における他の蛋白質の同定を提供することができる。遺伝子欠失または他の突然変異が、サラセミア(グロビン遺伝子欠陥)および他の遺伝子病の多くの例で観察されるごとく、mRNAの完全な不存在を引き起こす場合、病気−対−正常試料の遺伝子発現分析は、より直接的な方法で失われた遺伝子の同定に導くことができる。
これらの例においては、RNA試料でプローブされた遺伝子発現アレイは、プローブ試料が顕微鏡スライド上に整列されたcDNAであるタイプのものであるが、別のアレイ技術が十分であろう。これらは、限定されるものではないが、DNA試料をフィルター膜上に整列させるか、またはフォトリソグラフィーによって「遺伝子チップ」上で合成されたオリゴヌクレオチドプローブを用いるものを含むであろう。
一般に、用語マイクロアレイとは、紙、ナイロンもしくは他のタイプの膜、フィルター、チップ、カバーグラス、またはいずれかの他の適当な個体支持体のごとき基材上で合成された区別されるオリゴヌクレオチドのアレイをいう。当該分野で知られた方法を用い、マイクロアレイを調製し、使用し、分析することができる(例えば、その各々の明細書をここに引用して一体化させるBrennan,T.M.ら(1995)米国特許第5、474、796号;PCT出願WO95−251116;Shalon,D.ら(1995)PCT出願WO95/35505;および米国特許第5、605、662号参照)。
化学的カップリング手法およびインクジェットデバイスを用いて、基材の表面上でアレイエレメントを合成することができる。また、ドットまたはスロット、ブロットと類似したアレイを用いて、熱的、UV、化学的または機械的結合手法を用い、基材の表面にエレメントを配置しリンクさせることができる。典型的なアレイが、手動によって、または利用できる方法およびマシーンを用いることによって作成することができ、それは適切な数のエレメントを含有することができる。ハイブリダイゼーションの後、未ハイブリダイズドプローブを除去し、スキャナーを用いて蛍光のレベルおよびパターンを測定することができる。マイクロアレイ上のエレメントにハイブリダイズする各プローブの相補性の程度および相対的豊富さを、スキャンしたイメージの分析を介して評価することができる。
全長cDNA、発現された配列タグ(EST)、またはその断片はマイクロアレイのエレメントを含むことができる。ハイブリダイゼーションに適した断面は、LASERGENEソフトウェア(DNASTAR)のごとき当該分野でよく知られたソフトウェアを用いて選択することができる。異常個体および正常個体のヌクレオチド配列に対応する全長cDNA、ESTまたはその断片を適当な基材、例えば、スライドグラス上に配置する。該cDNAを、例えば、UV架橋を用いて該スライドに固定し、続いて、熱的および化学的処理および引き続いて乾燥を行う(例えば、Schena,M.ら(1995)Science 270:467−470;Shalon,D.ら(1996)Genome Res.6:639−645)。蛍光プローブのごときプローブを調製し、基材上のエレメントへのハイブリダイゼーションで用いる。
マイクロアレイを用いて試料分析を行うためには、生物学的試料からのRNAまたはDNAをハイブリダイゼーションプローブに作成する。mRNAを単離し、cDNAを生じさせ、それを鋳型として用いてアンチセンスRNA(aRNA)を作成する。aRNAを蛍光ヌクレオチドの存在下で増幅し、標識されたプローブを、プローブ配列がマイクロアレイの相補的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズするようにマイクロアレイと共にインキュベートする。インキュベーション条件は、正確な相補性マッチにて、または種々の程度のより低い相補性にてハイブリダイゼーションが起こるように調整する。ハイブリダイズしなかったプローブの除去の後、スキャナーを用いて蛍光のレベルおよびパターンを測定する。スキャンしたイメージを調べて、マイクロアレイ上の各オリゴヌクレオチドの相補性の程度および相対的豊富さを測定する。生物学的試料は、いずれかの体液(例えば、血液、尿、唾液、粘液質、胃液等)、培養された細胞、バイオプシー、または他の組織調製物から得ることができる。検出システムを用いて、区別される配列の全てについての存在、不存在およびハイブリダイゼーションの量を同時に測定することができる。このデータは、試料間の配列、突然変異、変種または多形についての大規模な修正実験で用いることができる。
マイクロアレイは、好ましくは、非常に多数のユニークな一本鎖核酸配列、通常は、個体支持体に結合した合成アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはcDNAの断片いずれかよりなる。マイクロアレイは、既知の5’または3’配列をカバーするオリゴヌクレオチドを含有することができるか、あるいは全長配列をカバーする順次のオリゴヌクレオチド;または配列の長さに沿った特定の領域から選択されたユニークなオリゴヌクレオチドを含有することができる。マイクロアレイで用いるポリヌクレオチドは、配列の少なくとも断片が知られている注目する遺伝子または複数遺伝子に特異的な、あるいは特定の細胞型、発生または病気の状態に共通する1以上の同定されていないcDNAに特異的なオリゴヌクレオチドであり得る。
マイクロアレイのために公知の配列に対するオリゴヌクレオチドを生じさせるためには、ヌクレオチド配列の5’またはより好ましくは3’末端で出発するコンピューターアルゴリズムを用い、注目する遺伝子を調べる。該アルゴリズムは、遺伝子にユニークな、ハイブリダイゼーションに適した範囲内のGC含有量を有する、およびハイブリダイゼーションに干渉し得る予測される二次構造を欠く規定された長さのオリゴマーを同定する。オリゴマーは、光−指向性化学プロセスを用いて基材上の指定された領域で合成される。基材は紙、ナイロンもしくは他のタイプの膜、フィルター、チップ、スライドグラスまたはいずれかの他の適当な個体支持体であり得る。アレイは、手動によって、または利用可能なデバイス(スロットブロットまたはドットブロット装置)材料およびマシーン(ロボット装備を含む)を用いて作ることができ、8ドット、24ドット、96ドット、384ドット、1536ドットまたは6144ドットのグリッド、あるいは商業的に入手可能な装備の効果的な使用に適するいずれかの他の複数のグリッドを含有することができる。
一旦遺伝した異常性の遺伝子的原因がせばめられるかまたは同定されれば、遺伝子の潜在的にまたは現実の欠陥部分をマイクロアレイにおいて標的として用いることができる。マイクロアレイを用いて、非常に多数の遺伝子の発現レベルをモニターし、潜在的な治療剤および治療剤の活性を開発しモニターすることができる。
以下の実施例は本発明をさらに説明するが、本発明を断じて限定するものと解釈されるべきではない。
(実施例1)
本実施例は、タンジール病(TD)を持つ患者はアポA−I−媒介脂質流出の不存在を有することを示す。
細胞培養:ヒト繊維芽細胞は、ふたりの正常な対象(NL1)および3人のタンジール病(TD)を持つ無関係な患者からの皮膚外植体から得た。TD1細胞は、極端に低い血漿HDLコレステロールおよびアポA−Iレベルならびにタンジール病に典型的な臨床的兆候を持つ53歳の女性から得た。TD2細胞は、非常に低いレベルの血漿HDLコレステロールおよびアポA−Iを含めたタンジール病の臨床的、形態学的および生化学的特徴を持つ56歳の男性から得た(Francisら,J.Clin.Invest.,96,78−87(1995))。TD3細胞は、オレンジ色の扁桃片、非対称運動神経障害、5mg/dLの血漿HDLコレステロールおよび16mg/dLのLDLコレステロールを呈するタンジール病を持つ18歳の男性から得た(Lawnら,J.Clin.Invest.,104,R25−R31(1999))。正常な細胞およびTD対象細胞は、Oramら,J.Lipid Res.,40:1769−1781(1999)に記載されたごとく不死化した。略言すれば、ヒトパピローマウイルスの16のオンコジインE6およびE7のインサートおよびネオマイシン抵抗性選択マーカーを持つベクターを含有する両種性レトロウイルスで細胞をトランスフェクトした。対照細胞はベクター単独で感染させた(模擬感染)。プールした細胞集団をG418の存在下で2継代の間選択し、しかる後、G418を培地から排除した。繊維芽細胞を第5および16継代(初代培養)または第6および15継代(不死化)の間で用いた。不死化された正常およびTD細胞を16−mmウェルまたは35−mm皿に接種し、実験で使用する前にダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)+10%胎児ウシ血清(FBS)中で密集するまで増殖させた。また、RAW264.7マウス単球細胞(American Type Culture Collection,Rockville,MD)を、10%FBSを含有するDMEM中で維持した。
脂質流出を測定するアッセイ:コレステロールおよびリン脂質のアポAI−媒介流出は、Francisら,J.Clin.Invest.,96:78−87(1995)に記載されている方法にしたがってアッセイした。正常およびTD対象からの培養された皮膚繊維芽細胞を、0.2−0.5μCi/ml[3H]コレステロール(40−60 Ci/ミリモル,Amersham Corp.,Arlington Heights,IL)の存在下で密集するまで増殖させることによって標識した。細胞が60−80%密集すると、放射性コレステロールを血清−含有増殖培地に添加した。3日後、細胞をPBS/BSAで2回洗浄し、同時に増殖を阻止し、かつコレステロールを負荷して、アポリポ蛋白質−媒介脂質流出を最大化した。これは、無血清DMEM+2mg/mlの無脂肪酸ウシ血清アルブミン(DMEM/BSA)(Sigma Chemical Co.,St.Louis,ミズーリ州)および30μg/ml非放射性コレステロール中で細胞を48時間インキュベートすることによって達成された。RAW264.7細胞を、Smithら,J.Biol.Chem.,271:30647−30655(1996)に記載されているごとく、アセチル化LDLでの24時間インキュベーションによってスカベンジャー受容体を介してコレステロール−負荷した。略言すれば、24−ウェル皿中のRAW264.7細胞をコレステロール−負荷し、AcLDLと共に37℃にて30分間プレインキュベートした、50μl/mlの1Mグルコース、10μl/mlの200mMグルタミンおよび2%BSAを、およびアセチル化低密度リポ蛋白質(AcLDL)および[3H]−コレステロールを補足した0.5mlのDMEM中で一晩標識して、0.33μCi/ml[3H]−コレステロールの最終濃度を得た。引き続いて、1%BSAを含有するPBSで細胞を5回洗浄し、DMEM/BSA中で一晩(16−18時間)インキュベートして、コレステロールプールを平衡化した。
コレステロールプールの平衡の後、細胞をPBS/BSAで4回すすぎ、流出インキュベーションの前にDMEM/BSAと共に37℃にて1時間インキュベートした。アルブミン単独(対照)、アルブミン+HDL(40μg蛋白質/ml)またはアルブミン+アポA−I(10μg/ml,Biodesign International,Kennebunk,ME)いずれかを含有する流出培地(DMEM/BSA)を添加し、細胞を4、24または48時間インキュベートした。DMEM/BSAの一晩の平衡培地中に10μCi/mlの[3H]コリン(75−85Ci/ミリモル,Amersham Corp.)を含めることによってリン脂質を標識した。培養培地中で見出された放射能は、12、000gにおける15分間の遠心後のシンチレーションカウンティングによって測定した。細胞における放射能は、0.5mlの0.2M NaOH(Smithら、J.Biol.Chem.,21:30647−30655(1996))中での可溶化またはFrancisら,J.Clin.Invest.,96,78−87(1995)に記載されているヘキサン:イソプロパノール(3:2 v/v)中での抽出の後のシンチレーションカウンティングによって測定した。標識されたリン脂質を含有する細胞を1mlのイソプロパノールで1時間、次いで、前記したごときヘキサン:イソプロパノールで抽出した。コレステロールまたはリン脂質の流出は、細胞および培地から回収された合計トリチウム化脂質カウントを超える培地中のトリチウム化脂質カウントのパーセンテージとして表した(cpm培地/cpm(培地+溶解物)×100)。
図1AおよびCに示すごとく、HDLまたはアポA−Iの添加の結果、正常対象から得られたコレステロール−負荷繊維芽細胞からコレステロールが除去される。しかしながら、TD細胞においては、コレステロールを除去するHDLの濃度はわずかに減少し、コレステロールを除去するアポA−Iの能力は完全に存在しない。図1は、正常およびTD繊維芽細胞が、アルブミンとの48時間のインキュベーションの間に、約3−4%の[細胞:3H]−コレステロールを培地に放出することを示す。アルブミン培地へのHDLの添加は正常およびTD繊維芽細胞双方からの[3H]−コレステロールの流出を増加させるが、TD細胞では程度が低い(図1B、D)。アポA−Iの添加は正常な繊維芽細胞からの[3H]−コレステロールの流出を促進した(図A、C)が、TD繊維芽細胞からの[3H]−コレステロール流出に対してはほとんどまたは全く効果を有しなかった。
(実施例2)
本実施例は、175の遺伝子が、正常細胞と比較して、TD細胞において、少なくとも2.5倍減少した発現を示し、375の遺伝子が少なくとも2.5倍増加した発現を示すことを示す。異なる遺伝子発現は、正常個体(非−TD)からの、およびTDを持つ患者からのcDNAの遺伝子−発現マイクロアレイ(GEM)分析を用いて測定した。
細胞培養:正常個体および実施例1に記載されたTD患者から得られた不死化細胞培養を用いた。密集培養をDMEM/BSA中に維持し、1mMの8−ブロモ環アデノシン1リン酸(8−Br−cAMP,Sigma Chemical Co.,St.Louis,ミズーリ州)で24時間補足した。
mRNA抽出およびcDNA合成:正常およびTD繊維芽細胞双方からのmRNAは、トリゾール(Life Technologies Inc.,Bethesda,MD,Cat.#15596−026)で細胞から抽出した全RNAから調製した。該mRNAはOligotex mRNAキット(Qiagen Inc.,Valencia,CA,Cat.#70022)を用い販売業者のプロトコルにしたがって単離した。Cy3またはCy5蛍光色素を用いてmRNAを逆転写して、DeRisiら,Science,24:680−686(1997)に記載された方法にしたがって蛍光標識cDNAを得た。TD細胞から得られたcDNAをCy3蛍光色素で標識し、正常細胞からのcDNAをCy5蛍光色素(Incyte Genoics,Palo Alto,CA)で標識した。
マイクロアレイ分析:TDを持つ個体および正常個体からの細胞における異なる遺伝子発現を分析するために、前記したごとく調製したCy3およびCy5蛍光標識cDNA試料を、顕微鏡スライド(Incyte Genoics,Palo Alto,CA)上のGene Albumマイクロアレイ(GEM)の組にハイブリダイズさせた。6つのスライドの各々は約9、800ヒトcDNA試料+200対照試料を含有し、58、800部分的cDNAのマイクロアレイとなった。したがって、重複性の見積もりを行い、発現されたヒト遺伝子のほぼ30−50%が表された。TD1細胞から調製されたCy3−標識cDNAおよび正常細胞からのCy5−標識cDNAのハイブリダイゼーションは、TD細胞 vs.正常細胞の相対的RNA含有量の発現された遺伝子についての比較を可能とした。加えて、TD2細胞から調製されたCy3−標識cDNAおよび正常細胞からのCy5−標識cDNAをマイクロアレイの同一組にハイブリダイズさせて、異なるTD患者の間の遺伝子発現の変動を調べた。
結果:データはGemToolsソフトウェア(Incyte Genoics,Palo Alto,CA)を用いて分析し、正常細胞に対するTD細胞のmRNAの比率として表した。結果は、大部分の遺伝子がTD1および正常細胞で比較的発現されることを示した。図2(前記セクションにおける対角線の左側)に示すごとく、正常細胞と比較して175の遺伝子のみがTD1細胞において2.5倍過少発現され、他方、正常細胞と比較して375遺伝子がTD1細胞において2.5倍過剰発現された(下方であって対角線の右側)TD細胞でより高度に発現された遺伝子は、補償的応答として、または病気病理学に対する寄与として、タンジール突然変異の結果として異なって調節されるものを含む。TDの観察された表現型に寄与し、TD細胞でより高度に発現される遺伝子は、インターフェロン−β(IFN−β)、マクロファージ炎症性蛋白質−2α、顆粒球走化性蛋白質−2、IL−11、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ−2(COX−2)、トロンボスポンジンおよび単球走化性蛋白質1、3および4を含む(Lawn ら,J.Clin.Invest.,104:R25−R31(1999))。
正常繊維芽細胞で発現された単一RNAで、TD1またはTD2細胞いずれにおいても完全に存在しないものは見出されなかった。また、TD1およびTD2における異なって発現された遺伝子の比較により、個々のTD患者の間でほとんど変動はないことが明らかにされた。例えば、TD2細胞で最も高度に下降調節された遺伝子のうち、正常細胞と比較して92%もまたTD1細胞で過少発現された。遺伝子のうち、TD1またはTD2 vs.正常細胞で2.5倍過少発現されたのはABC1蛋白質についての遺伝子であった。ABC1遺伝子はその相同体のいくつかの帰せられる機能のため追跡し、また、当該遺伝子がTD遺伝子領域として報告された染色体領域にほぼ位置決定されたからである。
(実施例3)
本実施例は、ABC1遺伝子がヒト染色体9q31に位置決定されることを示す。
従前の遺伝子連鎖分析がTD遺伝子をヒト染色体9q31の7−cM領域にマップした(Rustら,Nat.Genet.,20,96−98(1998))。加えて、イン・サイチュハイブリダイゼーション分析により、ABC1遺伝子がより広い染色体間隔9q22−9q31に位置決定されることが明らかとされた(Lucianiら,Genomics,21,150−159(1994))。ヒト/ハムスター照射ハイブリッド(Research Genetics,Inc.,Huntsville,AL)のGeneBridge4 パネルでのPCR方法を用い、ヒトABC1はマーカーWI−14706およびWI−4062の間に位置すると決定され、これは、ヒト染色体9q31の7−cM領域に対応する。93ヒト/ハムスターハイブリッド細胞系からのDNAは、ヒトABC1−得意的プライマーLF:
CCTCTCATTACACAAAAACCAGAC(配列番号:11)およびLR:
GCTTTCTTTCACTTCTCATCCTG(配列番号:12)
を用いるPCRによって増幅した。各系はヒトABC1増幅産物につき陽性または陰性としてスコアを採り、このデータの分析から得られたABC1のマッピングは、インターネット(http://carbon.wi.mit.edu:8000/cgi−bin/contig/fhmapper.pl)を介してアクセスされるGenome Research SoftwareのためのWhitehead Institute/MIT Centerを用いて達成された。これらの結果は、さらに、同等の間隔からのヒトゲノム/酵母人工染色体クローン(Research Genetics,Inc.)へのサザーンブロットハイブリダイゼーションによって確認された。加えて、公のデータベースサーチング(GeneMap’98;National Center for Biotechnology Information)および照射ハイブリッドマッピングは、報告された遺伝子間隔における位置からのマイクロアレイデータにおいて他の有意に過少発現された遺伝子を排除した。これらの補充的データは、ABC1遺伝子がヒト染色体9q31に位置することを示し、さらに、ABC1遺伝子がタンジール病に関連することを示す。
(実施例4)
本実施例は、フランキング領域および全コーディング領域を含めた野生型ABC1遺伝子のヌクレオチド配列の決定を示す。
DNA配列決定は、ABI Prism310遺伝子分析器を用い、またはDavis配列決定(Davis,CA)によって行った。両方のストランドは全体を配列決定した。正常な対象からのABC1遺伝子のオープンリーディングフレームの配列は、正常繊維芽細胞RNAから構築した発現プラスミドライブラリから得られた全長cDNAクローンから決定した。プラスミドライブラリを構築するためにStratageneキットプロトコル(Stratagene,La,Jolla,CA)にしたがってcDNAを合成した。略言すれば、5−メチルcCTPの存在下で、XhoI部位を持つオリゴ−bTプライマーおよびMMLV逆転写構造を用い、第1ストランドcDNAをmRNAから合成した。未修飾dLTPの存在下で、RNase HおよびDNAポリメラーゼIを用いて第2ストランドを合成した。cDNAをpfu DNAポリメラーゼで平滑末端とした後、EcoRIリンカーを該cDNAに連結した。次いで、該cDNAをXhoIで消化し、cDNAの3’末端にXhoI末端を生じさせた。第1ストランド合成の間に、内部XhoI部位をセミ−メチル化によるこの消化から保護した。合成されたcDNAをプラスミドpCEP4(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA#VO44−50)、サイトメガロウイルスプロモーター/エンハンサーを含有する発現ベクターのHindIIIおよびXhoI部位にクローンした。5’−TCCTTGGGTTCAGGGGATTATC(配列番号:13)および5’−CAATGTTTTTGTGGCTTCGGC(配列番号:14)であった既知のABC1配列に基づくプライマーを用い、逆転写構造ポリメラーゼ鎖反応(RT−PCR)によって585bp ABC1プローブを創製した。このABC1プローブを用い、製造業者のプロトコルによるCloneCapture選択キット(CLONTECH Laboratories,Inc.,Palo Alto,CA)を用いて、ヒトABC1 cDNAの10.5kbインサートを含有するクローンをライブラリから回収した。このクローンをpCEPhABC1として図3に示す。該10.5kb ABC1 cDNAインサート配列は配列番号:1に示す。配列決定により、pCEPhABC1が6783ヌクレオチドのヒトABC1オープンリーディングフレーム+5’および3’非翻訳領域を含有し、Langmannら in Biochem.Biophys.Res.Comm.,257,29−33(1999)(GenBank 受託番号AJO12376)によって報告されているcDNA配列よりも大きなオープンリーディングフレームを有することが確認された。
(実施例5)
本実施例は、野生型ABC1遺伝子およびTD1、TD2およびTD3遺伝子配列の間の配列の差を示す。
TD1、TD2およびTD3のcDNA合成:cDNAは、(1)sacIhabcf、5’−AGTCGAGCTCCAAACATGTCAGCTGTTACTGGAAGTGGCC(配列番号:15);
habcr3581、5’−TCTCTGGATTCTGGGTCTATGTCAG(配列番号:16)および(2)habcf3585、5’−GGGAGCCTTTGTGGAACTCTTTC(配列番号:17);habcrsalI、5’
−ACTGGTCGACCATTGAATTGCATTGCATTGAATAGTATCAG(配列番号:18)と命名された、正常ヒトABC1遺伝子配列から設計されたプライマー対の2つの組を用い、製造業者のプロトコル(CLONTECH,Palo Alto,CA;Cat.#8417−1)に従い、Sueerscript Choice cDNAシステムおよびAdvantage cDNAポリメラーゼミックスを用いる逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT−PCR)によって、TD1、TD2およびTD3細胞から調製した。0.4μMの最終濃度のこれらのプライマーでの0.2−0.5μgポリA+RNAの増幅により、ほぼ3.5kbの2つの重複する鋳型が生じた。QIAEX IIシステム(QIAGEN,Inc.,Valencia,CA;Cat.#20021)を用いて該鋳型をゲル−精製し、100ng/μlの濃度に調整した。
TD1、TD2およびTD3 cDNAの配列決定:前記したごとく創製された8μlの各鋳型を、0.5μMの最終濃度の野生型ABC1配列に基づいて設計された個々の配列決定プライマーでの反応で配列決定した。プライマーは以下のとおりであった:1F:5’−TTTCCTGGTGGACAATGAA(配列番号:19)、2F:5’
−AGTGACATGCGACAGGAG(配列番号:20);3F:5’−GATCTGGAAGGCATGTGG(配列番号:21);4F:5’−CCAGGCAGCATTGAGCTG(配列番号:22);5F:5’−GGCCTGGACAACAGCATA(配列番号:23);6F:5’−GGACAACCTGTTTGAGAGT(配列番号:24);7F:5’−AAGACGACCACCATGTCA(配列番号:25);8F:5’−ATATGGGAGCTGCTGCTG(配列番号:26);9F:5’−GGGCATGAGCTGACCTATGTGCTG(配列番号:27);10F:5’−AAGAGACTGCTAATTGCC(配列番号:28):11F:5’−AGCGACAAAATCAAGAAG(配列番号:29);12F:5’−TGGCATGCAATCAGCTCT(配列番号:30);13F:5’−TCCTCCACCAATCTGCCT(配列番号:31);14F:5’−TTCTTCCTCATTACTGTT(配列番号:32);15F:5’−GATGCCATCACAGAGCTG(配列番号:33);16F:5’−AGTGTCCAGCATCTAAA(配列番号:34);1R:5’−CAAAGTTCACAAATACTT(配列番号:35);2R:5’−CTTAGGGCACAATTCCACA(配列番号:36);3R:5’−TGAAAGTTGATGATTTTC(配列番号:37);4R:5’−TTTTTCACCATGTCGATGA(配列番号:38);5R:5’−CTCCACTGATGAACTGC(配列番号:39);6R:5’−GTTTCTTCATTTGTTTGA(配列番号:40);7R:5’−AGGGCGTGTCTGGGATTG(配列番号:41);8R:5’−CAGAATCATTTGGATCAG(配列番号:42);9R:5’−CATCAGAACTGCTCTGAG(配列番号:43);10R:5’−AGCTGGCTTGTTTTGCTTT 配列番号:44)、11R:5’−TGGACACGCCCAGCTTCA(配列番号:45)、12R:5’−CCTGCCATGCCACACACA(配列番号:46)、13R:5’−CTCATCACCCGCAGAAAG(配列番号:47)、14R:5’−CACACTCCATGAAGCGAC(配列番号:48)、15R:5’−TCCAGATAATGCGGGAAA(配列番号:49)、16R:5’−TCAGGATTGGCTTCAGGA(配列番号:50)、UTR1R:5’−AAGTTTGAGCTGGATTTCTTG(配列番号:51)。
結果:ヌクレオチドナンバリングはLawnら(1999)に見出されるナンバリングにしたがう。患者TD1は全長オープンリーディングフレームを保有し、野生型配列とは2つの実質的差異がある(配列番号:8)。これらのうち1つはAからGへの置換であり、その結果、Lawnら(1999)によって公表されているごとく、2201アミノ酸配列の位置537においてグルタミンからアルギニン残基への変化がもたらされる。この残基の位置は、第1の予測される膜貫通ドメインの近くの、NH2−末端親水性ドメイン内にある。また、患者TD2はオープンリーディングフレームを保有し、残基527においてアルギニンからトリプトファンへの置換がある(配列番号:10)。かくして、TD1およびTD2は共に蛋白質の同一領域においてアミノ酸の電荷を変化させる置換を含む。TD3 DNAは、ひとつの対立遺伝子においてヌクレオチド5697に続くそのABC1 cDNA中に14ヌクレオチド挿入を含み、他の対立遺伝子においてヌクレオチド5062後に138bp挿入を含む。
TD1、TD2およびTD3のDNAのゲノム配列決定は、各cDNAで見出された変化を確認した。TD1およびTD2からのcDNAで見出された突然変異を含む繊維芽細胞から単離されたゲノムDNAの156bp領域のPCR増幅によって、ゲノム配列が創製された。ゲノム配列決定は、また、患者TD1がグルタミンからアルギニン置換につきホモ接合であることを示した。ゲノムDNA分析は、TD2が、検出された置換を含む1つの対立遺伝子および未決定の欠陥を含む(検出可能なmRNAを生産できない)第2の対立遺伝子に関し化合物ヘテロ接合であることを示した。非−TD個体のゲノムDNAの80を超える対立遺伝子において、置換突然変異は見出されなかった。TD3挿入は配列分析によって同定され、挿入点を囲うプライマーを用いるRT−PCRによって確認された。ヌクレオチド5697に続く14−bp挿入はフレームシフトを引き起こし、その結果、第2のATP結合ドメイン前の位置から、未成熟蛋白質終止の点までの、野生型アミノ酸配列の置換がもたらされた。他の対立遺伝子におけるヌクレオチド5062に続く138bp挿入はインフレーム停止コドンを含む。
(実施例6)
本実施例は、ABC1輸送活性の阻害剤が繊維芽細胞からのアポA−I−媒介コレステロール流出を阻害することを示す。
ABC1の阻害がアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出のプロセスに影響し得るか否かをテストするために、ABC1阻害剤であると報告された2つの化合物をアッセイでテストし、アポリポ蛋白質媒介コレステロール流出をモニターした。化合物4、4−ジイソチオシアノスチルベン−2、2’−ジスルホン酸(DIDS)およびスルホブロモフタレイン(BSP)は、用量依存的にABC1のアニオン輸送活性を阻害すると報告されている(Becqら,J.Biol.Chem.,272:2695−2699(1997);Hamonら,Blood,90:2911−2915(1997))。アポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出アッセイは、示された変化を施して実施例1に記載されているごとく行った。コレステロール−負荷および[3H]コレステロール−標識正常繊維芽細胞(n=3)を、5μg/mlアポA−Iおよび0、0.2mMまたは0.4mM DIDSと共にまたはそれなくして6時間インキュベートした。加えて、コレステロール−負荷および[3H]コレステロール−標識正常繊維芽細胞(n=3)を、5μg/mlアポA−Iおよび0、0.2mMまたは0.4mMBSPと共にまたはそれなくして6時間インキュベートした[3H]コレステロール流出は実施例1に記載されたシンチレーションカウンティングによって測定し、培地中に出現する全放射性標識コレステロールのパーセンテージとして計算した。結果は、アポA−I−フリー培地についての値を差し引いた後におけるアポA−Iの存在下での流出の平均±SD(n=3)として図5に示す。図5は、DIDSおよびBSPが共にアポリポ蛋白質A−Iによって媒介されるトリチウム化コレステロールの6時間流出を阻害することを示す。加えて、DIDSおよびBSPを用いるトリチウム化ホスファチジルコリンの流出で同様の阻害が観察された(データは示さず)。これらのテストの結果は、実施例1に記載された、TDを持つ患者に由来する繊維芽細胞における流出欠陥と似ている。
(実施例7)
本実施例は、ABC1 mRNA発現のアンチセンス阻害が繊維芽細胞からのアポA−I−媒介コレステロール流出を阻害することを示す。
正常皮膚繊維芽細胞を実施例1に記載したごとく[3H]コレステロールで標識した。次いで、30μM対照モルホリノオリゴヌクレオチド(β−グロビンサラセミアmRNAのアンチセンス相補体に対応する5’−CCTCTTACCTCAGTTACAATTTATA−3’;配列番号:52)または30μM ABC1アンチセンスモルホリノオリゴヌクレオチド(5’−CATGTTGTTCATAGGGTGGGTAGCTC−3’;配列番号:53)いずれかの存在下で掻き、新しい皿の上に再度接種することによって、細胞にオリゴヌクレオチドを負荷した。オリゴヌクレオチドの不存在下で掻き、再度接種することによって、対照細胞を[3H]コレステロール−標識後に模擬負荷した。培地中に出現する全放射性標識コレステロールのパーセンテージとしてのシンチレーションカウンティングによって、12時間後に、アポA−I−媒介流出を測定した。結果は、各実験においてオリゴヌクレオチドの不存在下でのアポA−I−特異的流出についての値に対して正規化した、3つの独立した実験の平均±SEMとして図6に示す。図6に示すごとく、ABC1 mRNAに対して向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、対照アンチセンスオリゴヌクレオチド(β−グロビンアンチセンスオリゴヌクレオチド)と比較して、正常繊維芽細胞からのコレステロール流出の50%低下を引き起こした。
(実施例8)
本実施例は、ヒトABC1遺伝子の過剰発現の結果、単球細胞からのアポA−I−媒介コレステロール流出の増加がもたらされることを示す。
RAW264.7細胞の安定なトランスフェクション:マウス単球RAW264.7細胞を、ヒトABC1についてのpCEPhABC1発現プラスミドで安定にトランスフェクトした。ヒトABC1のオープンリーディングフレームを含有するpCEPhABC1プラスミドの構築を実施例4に記載する。0.8ml無血清DMEM中の2μgのpをCEPhABC1 DNAおよび12μlのgENEPORTERトランスフェクション試薬(Gene Theraphy Systems,Inc.,San Diego,CA;CAT.#T201007)で、ほぼ1×106RAW264.7細胞を5時間トランスフェクトした。2日後、細胞を1:2−1:50の範囲の比率で分け、培養培地に150μg/mlヒグロマイシンを添加することによって選択を適用した。2週間後、ヒグロマイシン−抵抗性コロニーを拾い、増殖させた。
アポA−I−媒介コレステロール流出アッセイ:親RAW264.7細胞およびヒトABC1を安定に発現する3つのクローン系(L3、L5およびL6)を密集するまで増殖させた。細胞をコレステロール−負荷し、実施例1に記載したごとく、0.5μCi(ml)[3H]コレステロールおよび50μg/mlアセチル化LDLでの24時間のインキュベーションによって標識した。DMEM/BSA中での一晩のインキュベーションによるコレステロールプールの平衡の後、細胞を洗浄し、実施例1に記載したごとく流出培地を添加した。細胞培地中でのトリチウム化コレステロールのシンチレーションカウンティングによって、アポA−I−媒介コレステロール流出を前記したごとく測定し、細胞および培地から回収された全カウントのパーセンテージとして表した。結果は、各実験内で親RAW264.7細胞からのアポA−I−特異的流出についての値に対して正規化した3つの別々の実験の平均±SEMとして表す。図7は、親RAW264.7細胞およびL3、L5およびL6トランスフェクト細胞系からのアポA−I−媒介コレステロール流出を示す。理解されるごとく、ABC1発現ベクターでのトランスフェクションの結果、アポA−I−媒介コレステロール流出が4倍(L6)ないし6倍(L3およびL5)増加する。これらの結果は、ABC1遺伝子の過剰発現はマクロファージ細胞からのコレステロール流出の量を実質的に増加させることができるのを示す。
(実施例9)
本実施例は、ABC1mRNAの発現が、正常皮膚繊維芽細胞においてコレステロール流出に関連する細胞状態によって調節されるが、TD繊維芽細胞では調節されないことを示す。
ABC1が細胞ステロール流出において律速的役割を演じるか否かを判断するために、コレステロール流出プロセスに関連する種々の細胞条件下でABC1の合成を測定した。具体的には、正常繊維芽細胞およびTD繊維芽細胞を過剰のcAMP、コレステロールまたはアポA−Iの条件に個々に暴露した。正常皮膚繊維芽細胞およびTD1およびTD2繊維芽細胞の細胞培養は実施例1に記載したごとく調製した。ABC1 mRNAのレベルはRT−PCRによって測定した。
細胞培養:正常皮膚繊維芽細胞およびTD1およびTD2繊維芽細胞の不死化細胞培養は実施例1に記載したごとく調製した。DMEM/BSAおよび示した添加剤での置換前に細胞をDMEM/10%FBS中で24または48時間密集下まで増殖させた。RNAは実施例2に記載したごとく調製した。
RT−PCR:定量的PCRは、GeneAmp 5700 Sequence Detection System(Perkin−Elmer Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いて行った。略言すれば、500ngのDNase−処理mRNAを2.5μのランダムヘキサマープライマーを用いて逆転写した。SYBR緑色コアキット(PE Applied Biosystems,Foster City,CA;#4304886)ならびにヒトABC1プライマーLF:5’−CCTCTCATTACACAAAAACCAGAC(配列番号:11)およびLR:5’−GCTTTCTTTCACTTCTCATCCTG(配列番号:12)を用いるPCRによって、この反応のほぼ5%を増幅して、ヒトABC1のヌクレオチド7018−7099に対応する82bp断片を得た。PCRサイクル条件は以下のとおりであった:95℃における10分間;続いて95℃、15秒間の40サイクルおよび60秒間の60℃。各PCRサイクルの間に生じた二本鎖増幅産物へのSYBR緑色結合によって引き起こされた蛍光の増加を検出することによって、各試料中のmRNAを定量した。全ての試料は三連で実行し、β−アクチンmRNAに対して正規化し、プライマーアクチンF:5’−TCACCCACACTGTGCCATCTACGA(配列番号:54)およびアクチンB:5’−CAGCGGAACCGCTCATTGCCAATGG(配列番号:55)での平行反応で増幅した。標準曲線は同一PCRプレート上でABC1およびβ−アクチン双方について作成した。
8−Br−cAMPアッセイ:正常、TD1およびTD2繊維芽細胞をDMEM/10%FBS中で密集下まで増殖させ、次いで、DMEM/BSA中の1mMの8−Br−cAMPで24時間処理した。
コレステロールアッセイ:正常、TD1およびTD2繊維芽細胞をDMEM/10%FBS中で密集下まで増殖させ、次いで、DMEM/BSA中の30βg/ml遊離コレステロールで48時間処理し、続いてDMEM/BSA中で18−24時間平衡化した。
アポA−Iアッセイ:正常、TD1およびTD2繊維芽細胞をDMEM/10%FBS中で密集下まで増殖させ、次いで、DMEM/BSA中の30μg/ml遊離コレステロールで48時間処理し、続いてDMEM/BSA+10μ/mlアポA−I中で18−24時間平衡化した。
結果:図8は、正常繊維芽細胞においては、ABC1 mRNAは8−Br−cAMPへの暴露によってほぼ10倍増加し、無血清培地中のコレステロールへの暴露によってほぼ17倍増加することを示す。コレステロール−負荷細胞のアポA−Iへの引き続いての暴露の結果、ABC1 mRNA発現が顕著に減少する。メカニズムは示されていないが、従前の研究は、コレステロール流出はcAMPおよびコレステロールのごとき化合物の存在下で促進されることを示している(Hoklandら,J.Biol.Chem.,268:25343−25349(1993))。本結果は、正常繊維芽細胞においては、ABC1 mRNAはコレステロール流出経路のこれらの既知のエフェクターによって誘導され、アポリポ蛋白質コレステロール受容体への暴露によって抑制されることを示し、これは、ABC1の発現がアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出に関連する細胞条件によって調節されることを示す。対照的に、TD患者からの繊維芽細胞はコレステロール流出のエフェクターによって調製されない。まず、TD1およびTD2細胞双方におけるABC1 mRNAのcAMP−誘導レベルは正常細胞のそれのほぼ40%に過ぎない。さらに、コレステロール−負荷細胞のアポA−Iへの暴露はABC1発現を変化させず(TD1細胞)またはABC1発現をわずかに増加させた(TD2細胞)。これらの結果は、TD細胞について記載されたアポ−A−I媒介コレステロール流出における欠陥を反映する。興味深いことには、血清含有培地中での細胞の増殖は、ABC1メッセージを検出限界近くまで抑制した(データは示さず)。これは、脂質流出経路の機能は細胞休止または低下したコレステロール必要性の他の細胞状態を必要とするという事実を反映し得る。結論において、細胞コレステロールの増加した流出に関連する条件(すなわち、コレステロール負荷、cAMP処理、血清枯渇)の結果、正常繊維芽細胞においてABC1 mRNAの発現が増加する。逆に、コレステロール−負荷正常繊維芽細胞のアポA−Iへの暴露はABC1発現を低下させる。
(実施例10)
本実施例は、20−ヒドロキシコレステロールのごときLXR核受容体に対するリガンド、および9−シスレチノイン酸のごときRXR受容体に対するリガンドがマウスRAW264.7細胞においてABC1遺伝子発現を増加させることができるのを示す。
LXR核受容体は核受容体RXRを持つ絶対ヘテロダイマーを形成する転写因子であり、これは、22−ヒドロキシコレステロールおよび20−ヒドロキシコレステロールを含めたオキシステロールのクラスに結合することによって、活性化されてその標的遺伝子の転写を増強する(Janowskiら,Nature,383:728−731(1996))。それ自体、それらはコレステロール−誘導遺伝子転写の媒介についての候補である。さらに、ABC1 mRNAおよび蛋白質がコレステロール負荷に応答して繊維芽細胞およびマクロファージで増加することを示した実験、およびLXRおよびRXR発現が酸化されたLDLへの暴露によってコレステロール−負荷マクロファージ細胞で増加することを示した他の実験に徴すると、LXRおよびRXR核レポーターは、ABC1遺伝子の転写アクチベータについてのかなり可能性のある候補である。LXRおよびRXRレポーターがABC1遺伝子発現で役割を演じるか否かを判断するために、ABC1 mRNAのレベルを、20−ヒドロキシコレステロールおよび9−シスレチノイン酸に応答して測定した。
マウスRAW264.7細胞をDMEM/10%FBS中で密集下まで増殖させ、次いで、9−シスレチノイン酸(10μM)、20−ヒドロキシコレステロール(10μM)または双方のいっしょにしたリガンド(20μM合計)を含む無血清DMEM/BSA中で24時間処理した。対照細胞はエタノールビヒクルのみを摂取した(0.1%v/v)。RNAを抽出しDNaseで処理し、実施例9に記載したごとくPE Biosystems SYBR Green Technologyを用いるRT−PCRによってABC1 mRNAを測定した。図9は、20−ヒドロキシコレステロールまたは9−シスレチノイン酸いずれかでの処理の結果、ABC1 mRNA発現が増加することを示す。加えて、実施例9はいっしょにした双方のリガンドでの処理の結果、顕著な相乗的効果がもたらされ、いずれかのリガンド単独で観察されたABC1発現に対しほぼ6倍増加することを示す。これらの結果は核受容体LXRおよびRXRに対するリガンドがABC1遺伝子の発現を増加させることができるのを示す。
(実施例11)
本実施例は、原形質膜におけるABC1蛋白質の増強された発現は脂質流出に関連することを示す。
細胞−表面標識および免疫沈殿を用いて、原形質膜中でのABC1蛋白質の増加した発現がコレステロール流出の増加と相関するか否かを判断した(図10)。細胞表面のABC1の相対的量は、無傷細胞上の表面蛋白質を膜不浸透性剤スルホ−NHS−ビオチンで架橋させ、続いて、膜可溶化、ABC1抗体での免疫沈殿、SDS−PAGEおよびストレプトアビジンでの検出での工程によって測定した。
細胞培養:正常およびTD1繊維芽細胞を実施例1に記載したごとく不死化した。正常およびTD1細胞双方を制御条件およびアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出を増加させることが知られている条件(Oram.ら,J.Lip.Res.,40:1769−1781(1999))下で培養した。対照細胞をDMEM/10%FBS中で密集するまで増殖させ、次いで、添加物なくしてDMEM/BSA中で18時間インキュベートした(対照)。cAMP−処理細胞をDMEM/10%FBS中で密集するまで増殖させ、次いで、1mMの8−Br−cAMPを含むDMEM/BSA中で18時間インキュベートした(cAMP)。コレステロール−負荷細胞をDMEM/10%FBS中で密集するまで増殖させ、次いで、30μg/mlコレステロールを含むDMEM/BSA中で48時間、および添加物なしで18時間インキュベートした(コレステロール)。cAMPで処理したコレステロール−負荷細胞をDMEM/10%中で密集するまで増殖させ、次いで、30μg/mlコレステロールを含むDMEM/BSA中で48時間、および1mMの8−Br−cAMPを含むので18時間インキュベートした(コレステロール+cAMP)。
細胞−表面標識:原形質膜ABC1の選択的標識のために、1mg/mlスルホ−nhS−ビオチン(30μg/mlコレステロールを含む(Pierce,Rockford.IL;Cat.#21217)を含有する9℃で30分間ビオチン化した(Walkerら,Biochemistry,50:14009−14014(1993))参照。
免疫沈殿:ヒトABC1のC−末端に位置した推定ペプチドKNQTVVDAVLTSFLQDEKVKESに対応する合成ペプチドに対してABC1についてのウサギ抗血清を生起させた。1%トリトンX−100(Sigma,St.Louis,ミズーリ州)およびプロテアーゼ阻害剤ロイペプチン(1mM)、およびペプスタチン(1mM)、およびアプロチニン(1mM)を含有するPBS中で細胞を可溶化することによって、免疫沈殿を行った。細胞抽出物を1:200希釈にて抗−ABC1抗血清で細胞抽出物を4℃にて一晩インキュベートし、5μlのプロテインA−被覆磁性ビーズ(Dynal,Lake Success,NY;Cat.#1001.01)と共にさらに1時間インキュベートした。抗体−抗原複合体を磁石で沈降させ、ビーズを1%トリトン−X/PBSで2回洗浄し、蛋白質を酢酸で1%溶出させた。
ABC1蛋白質の検出:溶出したビオチン化蛋白質をSDS−PAGE(6%ゲル;150V、5時間)に付し、ニトロセルロース膜(200mA、18時間)に移した。該ニトロセルロースをストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Amersham Pharmacia Piscataway,NJ;Cat.#RPN1231)でプローブし、300倍希釈し、販売業者のプロトコル(Amaersham Piscataway,Piscataway,NJ)に従って増強された化学ルミネセンス標識(ECL)によって検出した。細胞内蛋白質の可能なビオチン化につきテストするために、免疫沈殿後上清を細胞内蛋白質β−COPに対するマウスモノクローナル抗体で処理し、免疫沈殿したビオチン化β−COPをストレプトアビジンブロッティングによってアッセイした。何も検出されなかった。
結果:図10にしめすごとく、240kDaのABC1蛋白質がダブレットとして出現する。正常(10A)およびTD1(10B)双方において、ABC1蛋白質は原形質膜に部分的に局所化される。同様の結果が、第2の正常繊維芽細胞系で、およびTD2繊維芽細胞で観察された(データは示さず)。ABC1の細胞−表面発現は、血清中で増殖させた細胞(正常およびTD1細胞)を8−Br−cAMPで処理した場合にわずかに増加した。正常およびTD1細胞双方の血清枯渇およびコレステロール−負荷はABC1の細胞−表面発現を顕著に増加させ、これはcAMP処理によってさらに増強された。これらの結果は、細胞表面におけるABC1の発現が、アポリポ蛋白質−媒介脂質流出を増強する条件によって調節され、これは原形質膜へのその局所化がその脂質輸送機能において鍵となる役割を果たすという考えに合致することを示す。TD1およびTD2細胞における突然変異は、ABC1の発現またはプロセッシングをひどくは損なわないようであり、これは、脂質輸送またはアクセサリー蛋白質との相互作用に対する二次効果がそのNH2末端ドメイン(ここで突然変異が起こる)に依存することを示唆する。
(実施例12)
本実施例は、ホスホジエステラーゼ阻害剤のごとき3’、5’環状AMPの分解を阻害する剤がマクロファージ細胞からのアポリポ蛋白質A−I−媒介流出を増加させることを示す。
図10に示すごとく、cAMPはABC1の活性を増加させる。本実験は、上昇したcAMPの存在下でマクロファージ細胞からのコレステロール流出を測定するために行った。上昇したレベルのcAMPは、cAMP合成を刺激するか、またはcAMPの分解を阻害する剤の存在下で達成することができる。例えば、ロリプラムは、ホスホジエステラーゼ(cAMPを分解する一群の酵素)を阻害することによってcAMPレベルを調節する化合物である。コレステロール流出に対する上昇したcAMPの効果は、実施例1に記載されたアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出アッセイを用いて測定した。略言すれば、1.25×105細胞/mlの密度で懸濁させたRAW264.7細胞を、ピルベートを補足したDMEM/10%FBS中で増殖させた。24時間後、培地を取り出し、DMEM/BSA+放射性標識コレステロール(1μCi/ml[3H]−コレステロール)および50μg/mlのアセチル化LDLで24時間で置き換えた。次いで、DMEM/BSA+アポA−I単独(20μg/ml)、アポA−Iおよび8−ブロモ3’、5’cAMP(1mM)またはアポA−Iおよびロリプラム(50μM)いずれかよりなる平衡培地中で細胞を24時間維持した。12−24時間後、実施例1に記載したごとくシンチレーションカウンティングによって[3H]コレステロール流出を測定し、培地に出現する全放射性標識コレステロールのパーセンテージとして計算した。結果は、アポA−Iを摂取しなかったコレステロール−負荷対照細胞は3%コレステロール流出を示し、他方、アポA−Iのみを摂取した細胞は5%流出を示すことを示した。アポA−IおよびcAMPを摂取したコレステロール−負荷細胞は32%コレステロール流出を示し、これは上昇したcAMPがコレステロール流出を促進することを示す。同様に、アポA−Iおよびホスホジエステラーゼ阻害剤(ロリプラム)を摂取した細胞は17%コレステロール流出を示した。
(実施例13)
本実施例は、LXR、RXRおよびPRAR核受容体のごとき核受容体に対するリガンドである剤がマクロファージ細胞からのアポリポ蛋白質A−I−媒介流出を増加させることを示す。
核受容体に対するリガンドがアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出に影響するか否かを判断するために、実施例12に記載したアポA−I−媒介コレステロール流出アッセイを用いて種々のリガンドをテストした。核受容体スーパーファミリーは、脂質代謝に関係づけられてきた(Russell.D.W.,Cell,97:539−542(1999);Spiegelman,B.W.,Cell,93:153−155(1998);Janowskiら,Nature,383:728−731(1996))肝臓受容体LXR、レチノイド受容体RXRおよびペルオキシソームプロリフェレーター−媒介受容体PPARのごときいくつかのメンバーを含む。さらに、これらの受容体をいくつかに対するリガンドは血漿HDLを増加させることが観察されており、遺伝子発現プロファイリング(マイクロアレイ)データは、ホルモン受容体が参加されたLDLを介してコレステロール負荷に応答することを示した。前記したアッセイを用い、9シス−レチノイン酸(RXRリガンド)、オキシステロール(LXRリガンド)およびフェンフィブレート(PPARリガンド)をテストして、コレステロール流出に対する効果を測定した。アポA−Iを摂取しなかったコレステロール−負荷対照細胞は3%コレステロール流出を示し、他方、アポA−Iのみを摂取した細胞は5%流出を示した。対照的に、アポA−Iおよび9シス−レチノイン酸(30ng/ml)を摂取したコレステロール−負荷細胞は16%コレステロール流出を示した。アポA−Iおよびオキシステロール(5μg/ml)を受容する細胞は14%コレステロール流出を示した。アポA−Iおよびフェンフィブレート(3μg/ml)を摂取した細胞は10%コレステロール流出を示した。これらの結果は、ホルモン受容体を変調して、マクロファージからのアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出の速度を増加させることができるのを示す。
さらに、種々の濃度の9−シス−RA(0.3ng/ml、3.0ng/mlまたは30ng/ml)を用いて流出アッセイを行うと、結果は、9−シス−RAが用量依存的にマクロファージからのコレステロール流出を媒介することを示した。具体的には、対照細胞(アポA−Iのみ)は1890c.p.m.を示し、0.3ng/mlの9−シス−RAは1522c.p.m.を示し、3.0ng/mlの9−シス−RAは3568c.p.m.を示し、および30ng/mlの9−シス−RAは8597c.p.m.を示した。加えて、RAW264.7細胞を48時間コレステロール−負荷させる同様のアッセイを用い、22−ヒドロキシコレステロール(LXRリガンド)およびベンズフィブレートのごとき他の核受容体アクチベータはコレステロール流出を増加させることが示された(データは示さず)。
(実施例14)
本実施例は、プロスタグランジンE1およびプロスタグランジンPG12のごときエイコサノイドがマクロファージ細胞からのアポリポ蛋白質A−I−媒介流出を増加させることを示す。
プロスタグランジンおよびプロスタサイクリンのごときエイコサノイドは、高コレステロール血症の治療で効果的であることが示されている。エイコサノイドがアポリポ蛋白質−媒介流出に影響するか否かを判断するために、実施例12に記載されたアポA−I−媒介コレステロール流出アッセイを用いてPEG1およびPG12をテストした。このアッセイは、アポA−Iを摂取したコレステロール−負荷対照細胞は3%コレステロール流出を有し、アポA−Iのみを摂取した細胞は5%流出を有することを示した。アポA−IおよびPG12(25nM)を摂取したコレステロール−負荷細胞は10%コレステロール流出を示した。アポA−IおよびPEG1(25nM)を摂取した細胞は15%コレステロール流出を示した。これらの結果は、エイコサノイドがマクロファージからのアポリポ蛋白質−媒介コレステロール流出の速度を増加させることができるのを示す。
(実施例15)
本実施例は、ABC1プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を用いて、ABC1遺伝子発現を調節する能力につき化合物をテストすることができるのを示す。
pGL3レシフェラーゼレポーターベクターシステム(Promega,Madison,WI)を用いて、組換えプラスミドを創製し、ABC1プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子発現を測定した。
レポータープラスミドの構築:プロモーターなしのルシフェラーゼ遺伝子を含有する対照プラスミドとして、プラスミドpGL3−Basic(Pronega,Madison,Wi;Cat.#E1751)を用いた。ABC1プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子を含有するレポーターは、ABC1遺伝子(hAPR1 5’プロモーター、配列番号:3のヌクレオチド1080−1643に対応)の5’フランキング領域からのゲノム断片をGL3−BasicプラスミドのSacI部位にクローンして、プラスミドGL−6aを得ることによって作成した。つぎに、プラスミドGL−6aをSpeIおよびAcc65Iで消化した。配列番号:3のヌクレオチド1−1542に対応するABC1ゲノム配列を表す、ラムダサブクローンから切り出したBsiWI−SpeI断片を、この消化によって生じた残りのベクター:ABC1プロモーターに連結した。得られたプラスミドpAPR1は、ヒトABC1プロモーター配列の1.75kbの転写制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードする。
レポーター構築体のトランスフェクション:前記対照またはpAPR1プラスミドを、10%胎児ウシ血清を含有するDMEM中に維持したRAW246.7細胞の密集培養にトランスフェクトした。12ウエル皿の各ウエルを、pGL3−Basic、pGL3−プロモーターまたはpAPR1 DNA(1μg)、ルシフェラーゼプラスミドDNA(1μ)および12μlのGeneporder試薬(Gene Therapy Systems,San Diego,CA;Cat.#T201007)いずれかで5時間トランスフェクトした。加えて、0.1μgのpGMVβプラスミドDNA(Clontech,Palo Alto,CA,Cat.#6177−1)を、トランスフェクション効率のための対照として添加した。5時間後、培養培地を、アセチル化LDL(100βg/ml)の存在下または不存在下で無血清DMEM/BSAで置き換え、24時間インキュベートした。
高スループットスクリーニングにおける負荷された便宜のために、培養された細胞を、以下の手法を用いレポータープラスミドで安定にトランスフェクトすることができる。まず、50μlのGeneporterトランスフェクション試薬(Gene Therapy Stratagene,San Diego,CA)を含む10mlの無血清DMEM中、5×106RAW264.7細胞を、9μのpMPR1プラスミドおよびpCMVscript(Stratagene,LaJolla,CA)で60mm皿中で5時間トランスフェクトする。引き続いて、トランスフェクション培地を完全培地で置き換え、細胞を37℃にて一晩インキュベートする。引き続いて、1:5ないし1:1000の範囲の希釈にて細胞を別々の皿に移し、800μg/mlのG418(Life Technologies,Bethesda,MD)を含有する選択培地中で20日間インキュベートする。目に見えるコロニーを拾い、増殖させ、後記するごとくルシフェラーゼ活性につきアッセイした。この方法を用い、ルシフェラーゼ活性につき陽性の5つのクローン細胞系が、高スループットアッセイで用いるために同定された。
ルシフェラーゼアッセイ:トランスフェクションに続き、各ウエル中の細胞を70μlの1X細胞溶解試薬8Promega,Madison,WI,Cat.#E3971)中で溶解させ、凍結−解凍の1サイクルに付し、溶解物を12、000gにおいて5分間の遠心によって除去した。遠心後に、100μlのルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega,Madison,WI,Cat.#E1501)を10μlの溶解物に添加した。各溶解物のルシフェラーゼ活性を、ルミノメータを用いて光単位として測定した。加えて、製造業者の指示(Tropix Inc.,Bedford,MA:Cat.#BL100G)に従い、Galacto−光キット中に供給された化学ルミネセントアッセイ試薬を用いて、各溶解物のβ−ガラクトシラーゼを測定した。ルシフェラーゼ活性値を測定されたβ−ガラクトシラーゼ値で割ることによって、各溶解物についての正規化されたルシフェラーゼ活性を決定し、相対的光単位として報告する。
結果:pAPR1でトランスフェクトされた細胞で検出されたルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼcDNAのみを含有するpGL3−Basicプラスミドでトランスフェクトされた対照細胞で検出された活性よりも3.3倍高かった。これらの結果は、ABC1の転写調節領域が所定の位置にあることを示した。pAPR1でトランスフェクトした細胞を100μg/mlアセチルLDLとともに24時間インキュベートすると、ルシフェラーゼ活性はアセチルLDLで処理されていない細胞におけるよりも3.25倍高かった。これらの結果は、ゲノムABC1配列が、天然ABC1遺伝子のコレステロール負荷応答を媒介する5’フランキング領域で見出される「コレステロール応答性」エレメントを含有することを示唆する。このレポーター系は、他の化合物をテストして化合物がABC1発現を変調するか否かを決定するのにも用いることができる。
(実施例16)
本実施例は、内因性ABC1プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を用い、ABC1遺伝子発現を調節する能力につき化合物をテストするのに用いることができるさらなるアッセイを示す。
このアッセイは、プロモーター無しのレポーター遺伝子および選択マーカー遺伝子を含有する組換えベクターを構築することを含む。該ベクターを線状化し、レポーター遺伝子が内因性ABC1プロモーターの下流の細胞ゲノムに組み込まれるように細胞にトランスフェクトする。このアッセイを用い、レポーター遺伝子の発現は、テスト化合物に応答して内因性ABC1プロモーターによって駆動される。
レポータープラスミドの構築:プロモーターなしのレポーター遺伝子を含有する組換えベクターは、(ABC1開始部位を含む)エクソン0およびイントロン1の部分を含有するABC1の7kb EcoRIゲノム断片で出発して作成することができる。部位特異的突然変異誘発を用い、2つの既知の開始部位の上流のエクソン0配列に、SalI制限部位を生じさせることができる。組換えベクターは、ルシフェラーゼのごときプロモーター無しのレポーター遺伝子、およびピューロマイシン抵抗性のごときプロモーター無しの選択マーカーそ含むDNA断片をSalI部位に挿入することによって生じさせる。内部リボソームエントリーシグナルは、遺伝子が正しい向きに転写されるようにレポーター遺伝子およびマーカー遺伝子の間に挿入すべきである。組換えベクターは2つのEco47III部位を含有し、そのうちの1つは、例えば、部位−特異的突然変異誘発を用いて排除されなければならない。エクソン0の上流に位置した残りのEco47III部位を用いてベクターを線状化する。
レポーター構築体のトランスフェクション:レポーター遺伝子およびマーカー遺伝子を含有する線状化組換えベクターを、当該分野で知られた種々のトランスフェクション方法のいずれかによって、ヒト細胞を含めた培養細胞に導入する。例えば、実施例15に記載された方法を用い、線状化ベクターをトランスフェクトすることができる。線状化組換えベクターは、ベクターが内因性ABC1遺伝子の部位において細胞ゲノムに組み込まれるようにするABC1配列を含有する。培養培地への適当な抗生物質の添加は、レポーター遺伝子およびマーカー遺伝子が正しい向きで内因性ABC1プロモーターの下流に組み込まれている細胞のみの選択を可能とする。例えば、もしベクターがレポーター遺伝子の下流に挿入されたピューロマイシン抵抗性遺伝子を含有するならば、トランスフェクトされた細胞はピューロマイシンの存在下で増殖するはずである。適切に組み込まれたピューロマイシン抵抗性遺伝子を有し、それにより、機能的な蛋白質をコードすることができる細胞のみがピューロマイシンの存在下で生存する。かくして、トランスフェクトされた細胞は、適当な抗生物質の存在下でABC1プロモーター活性を誘導する条件下で増殖するはずである。生存する細胞をクローン的に培養することができ、PCRまたはサザーンブロット分析を用いてDNAを配列決定し、ゲノム配列の適切な組込につきテストすることができる。
内因性ABC1プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を含有する得られた細胞を用いて、テスト化合物がABC1の発現を変調するか否かを決定することができる。化合物のABC1変調活性は、テスト化合物に暴露された細胞で見出されるレポーター遺伝子発現のレベルをアッセイすることによって決定される。例えば組み込まれたルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞を用いて、化合物に暴露された細胞で見出されたルシフェラーゼ活性の量を測定することによって、テスト化合物のABC1変調活性を決定することができる。
(実施例17)
本実施例は、核受容体に対するリガンドが、ABC1プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現を上昇調節することを示す。
LXRα、LXRβおよびRXRα核レポーターに対するリガンドがABC1遺伝子発現を調節できるか否かを判断するために、ABC1プロモーターの制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を含有するpAPR1プラスミドを、核受容体に対する少なくとも1つのリガンドで処理したRAW264.7細胞にトランスフェクトした(図12)。
レポーター構築体の構築およびトランスフェクション:レポーター構築体pAPR1および対照レポーター構築体pGL3−Basicを実施例15に記載されているごとく得た。RAW264.7細胞を培地に維持し、実施例15に記載されたごとくpGL3−Basic(1μg)またはpAPR(1μg)いずれかでトランスフェクトした。トランスフェクトされたRAW364.7細胞をエタノール(EtOH)(0.1%v/v)、20(S)−ヒドロキシコレステロール(20(S)OH−コール)(10μM)、9−シスレチノイン酸(9−シス(RA)(10αM)または20(S)OA−コールおよび9−シスRA(合計24μM)双方のいずれかで24時間処理した。ルシフェラーゼ活性を測定し、実施例15に記載されたごとく相対的光単位として報告する。
結果:この実験の結果は図12に示す。pGL3−Basicでトランスフェクトした対照細胞はルシフェラーゼ活性を示さなかった(データは示さず)。EtOH対照と比較し、pAPR1でトランスフェクトされた細胞は20OH−コールの存在下でルシフェラーゼレポーター活性の19倍増加を生じ、9−シスRAの存在下でルシフェラーゼ活性の16倍増加を生じ、および双方のリガンドの存在下でルシフェラーゼ活性の280倍増加を生じた。これらの結果は、ステロールおよびレチノイドの双方はpAPR1におけるABC1 5’フランキング配列からの強力な転写応答を誘導することを示す。さらに、双方のリガンドで処理した細胞で見出されたルシフェラーゼ活性の劇的な増加によってわかるごとく、2つのクラスの化合物の明らかな相乗効果がある。LXRαおよびRXRαレポーターは活性なヘテロダイマーを形成することが知られている。かくして、双方の核受容体のリガンド−誘導活性化は同時に転写の観察された相乗的増加を生じ得る。
これらのデータは、20(S)ヒドロキシコレステロールのごときヒドロキシステロール、および9−シスレチノイン酸のごときレチノイドがABC1プロモーターを活性化することを示し、これは、これらおよび関連する化合物が、マクロファージ細胞においてABC1発現を増加させて、過剰のコレステロールの末梢部位を取り除く治療化合物の開発で有用で有り得ることを示す。加えて、本発明のABC1プロモーター/レポーター遺伝子スクリーニングアッセイを用いて、ABC1発現を増加させる他の化合物をスクリーニングし、さらなる治療化合物を同定することができる。
(実施例18)
本実施例は、LXR応答エレメントの同定を含めたABC1プロモーター領域のさらなる特徴付けを示す。
ABC1の5’フランキング領域のいずれの部分が核リガンドに応答して転写活性を保持するかを判断するために、5’フランキング領域の異なる部分およびルシフェラーゼレポーター遺伝子を含有する種々のプラスミドを、核受容体に対する少なくとも1つのリガンドで処理したRAW264.7細胞にトランスフェクトした。この系を用い、配列番号;3のヌクレオチド1480−1510に対応するステロール応答エレメントを同定した。該ステロール応答エレメントは直接反復−4エレメントTGACCGatagTAACCTを含有する。部位−特異的突然変異誘発およびバンド−シフトアッセイ技術を用いてステロール応答エレメントの確認が得られた。
レポーター構築体の構築:レポーター構築体pAPR1および対照レポーター構築体pGL3−Basicは実施例15に記載されているごとく得られた。また、配列番号;3のヌクレオチド1−1523、1080−1643、1181−1643、1292−1643また1394−1643いずれかを含有するレポーター構築体を構築した。配列番号:3のヌクレオチド1080−1623を含有するレポーター構築体(GL−6a)は実施例15に記載したごとく構築した。配列番号:3のヌクレオチド1−1532を含有するレポーター構築体は、pAPR1をSpeIおよびNheIで消化し、ついで、ゲル−精製ベクター断片を再び連結することによって構築した。ヌクレオチド1181ないし1643を含有するレポーター構築体は、まずGL−6aをStyIで消化し、粘着末端をクレノウ酵素で平滑とし、得られたベクターをSacIで消化し、ついで、462塩基対平滑−SacI粘着末端断片を単離することによって構築した。GL−6aをAcc65Iで消化し、粘着末端をクレノウ酵素で平滑とし、SacIで消化し、ついで、ベクター断片をゲル単離することによって得られたベクターにこれをクローンした。ヌクレオチド1292−1643を含有するレポーター構築体は、GL−6aをAcc65Iで連続的に消化し、末端をクレノウ酵素で平滑とし、SacIIで消化し、末端をT4ポリメラーゼで平滑とし、ついで、ゲル−単離ベクター断片を再び連結することによって構築した。ヌクレオチド1294−1643を含有するレポーター構築体は、GL−6aをAcc65Iで消化し、末端をクレノウ酵素で平滑とし、ApaIで引き続いて消化し、T4ポリメラーゼで末端を平滑とし、ついで、ゲル−単離ベクター断片を再び連結することによって構築した。
レポーター構築体のトランスフェクション:実施例15に記載された方法に従い、RAW264.7細胞を培養に維持し、pGL3−Basic(1μg)、pAPR1(1μg)または他のレポーター構築体の内の1ついずれかでトランスフェクトした。トランスフェクトされたRAW264.7細胞をエタノール(EtOH)(0.1%v/v)、20(S)−ヒドロキシコレステロール(20(S)OHコール)(10μM)、22(R)−ヒドロキシコレステロール(22(R)OH−コール)(10μM)、9−シスレチノイン酸(9−シスRA)(10μM)、または20(S)OH−コールおよび9−シスRA(合計20μM)双方のいずれかで24時間処理した。実施例15に記載されているごとく、ルシフェラーゼ活性を測定し、相対的光単位として報告した。
部位−特異的突然変異誘発:配列番号:3のヌクレオチド1480−1510に対応するステロール応答エレメントを、部位−特異的突然変異誘発を用いて前記1080−1643配列中に突然変異した。具体的には、製造業者のプロトコルに従い、GeneEditorシステム(Promega,Madison,WI)を用いて、直接反復−4エレメントTGACCGatagTAACCTを含有する応答エレメントをCTGCACatagTAACCTに突然変異した。
ゲル−シフトアッセイ:Ohllssonら,Cell,45:35−55(1986)の方法によって、核抽出物をRAW264.7細胞から調製した。LXR応答エレメント(TCGAGTGACCGATAGTAACCTCTCGA;配列番号:56)およびその突然変異したカウンターパート(TCGAGCTGCACATAGTAACCTCTCGA;配列番号:57)に対応する32P−標識オリゴヌクレオチド(5ng)を、LXRαおよびLXRβ(Santa Cruz Biotechnology,Cat.No.SC−1591,Santa Cruz,CA)に対する1μg抗血清またはRXR(Santa Cruz,Biotechnology,Cat.No.SC−774,Santa Cruz,CA)に対する抗血清の存在または不存在下、20mMのHEPES、pH7.9、60mMのKCl、1mMのMgCl2、1mMのDTT、66.6μg/mlのポリ(DidC)および10%グリセロール中で、室温にて30分間、5μgの核蛋白質と共に個々にインキュベートした。蛋白質−DNA複合体を、0.5×TBE緩衝液中で150Vにて4%非−変成ポリアクリルアミドゲルに1.5時間適用した。蛋白質−DNA複合体は乾燥したゲルのオートラジオグラフィーによって検出した。
結果:配列番号:3のヌクレオチド1−1643(すなわち、pAPR1)、1−1532、1080−1643、1181−1643、12921643,または1394−1643)に対応する5’フランキング領域を含有する個々のレポーター構築体でのトランスフェクション(各々は同一結果を生じた)。個々の構築体の全ては、EtOH対照と比較して、20(S)OH−コールまたは22(R)OH−コールの存在下で、ルシフェラーゼレポーター活性の3ないし4倍増加を生じた。また、個々の構築体の全ては、9−シスRAの存在下でルシフェラーゼレポーター活性の8ないし10倍増加を生じた。加えて、構築体のいずれかでのトランスフェクションは、EtOH対照と比較して、オキシステロールリガンド((20(S)OH−コールまたは22(R)OHコール)いずれか)およびレチノイドリガンド(9−シスRA)の存在下で、ルシフェラーゼ活性の25ないし50倍増加を生じ、これは相乗的相互反応を示す。記載された構築体の各々は、テストしたリガンドに応答してルシフェラーゼ活性の匹敵するレベルを示し、これは、より短い5’フランキング配列がステロールおよびレチノイドについての転写調節配列を含有したことを示す。具体的には、これらの結果は、ステロールおよびレチノイドについての転写調節配列が配列番号:3のヌクレオチド1394−1532に対応する5’フランキング領域に位置することを示した。
これらの結果は、配列番号:3のヌクレオチド1080−1643に対応する野生型配列を含有するレポーター構築体および配列番号:3のヌクレオチド1080−1643に対応する突然変異した配列を含有するレポーター構築体を用いるルシフェラーゼ活性によって確認され、ここに、ヌクレオチド1480−1500で見出されたステロール応答エレメントは前記したごとく突然変異させた。野生型配列でのトランスフェクションは、20(S)OH−コールまたは9−シスRA単独いずれかの存在下で、ルシフェラーゼ活性の増加によって測定して転写応答を生じ、リガンドを一緒にした双方の存在下で相乗的応答を生じた。対照的に、突然変異した配列でのトランスフェクションは、20(S)OH−コールまたは22(R)OH−コールの存在下で転写応答を生じなかった。突然変異した配列のトランスフェクションは9−シスRAに対する低下した応答を保持し、野生型配列で観察された8ないし10倍増加よりもむしろ、転写活性の4ないし5倍増加を生じた。また、突然変異した配列のトランスフェクションは、20(S)OH−コールおよび9−シスRAを一緒にした存在下で観察された相乗的転写応答を無くした。これらの結果は、さらに、ステロールコンセンサス配列(ヌクレオチド1480−1510)およびその突然変異したカウンターパートを用いるゲルーシフトアッセイによって確認した。ゲル−シフトアッセイは、RAW264.7細胞から単離された核結合蛋白質がステロールコンセンサス配列に結合したが、核蛋白質は突然変異した配列に結合しなかったことを示した。さらに、LXR抗血清の存在下での野生型ステロールコンセンサス配列との核蛋白質のインキュベーションの結果、スーパーシフテッド複合体(すなわち、抗体−蛋白質−DNA複合体)が形成され、核受容体LXRに結合するステロール応答エレメントとしての配列が同定された。対照的に、RXR抗血清の存在下での野生型ステロール応答エレメントとの核蛋白質のインキュベーションの結果、スーパーシフテッド複合体は形成されず、これは、RXRがこの配列に結合しないことを示す。これらの結果は、コンセンサス配列に結合する核蛋白質を破壊する突然変異がLXRリガンドに対する転写応答を無くさせ、RXRリガンドに対する応答を減少させることを示す。さらに、LXRまたはRXR抗血清の存在下で行った核結合実験により、ヌクレオチド1480−1510で見出されたコンセンサス配列はLXR応答エレメントであることが確認された。このエレメントは、また、9−シスRAに対する部分的応答を媒介する。
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