JP4277432B2 - 低磁歪二方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気特性に優れた二方向性電磁鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より電動機、発電機、変圧器などの磁心材料には電磁鋼板が用いられている。磁心材料には交流磁界中で磁気的なエネルギー損失が小さいこと、実用的な磁界中での磁束密度が高いことが必要とされている。このような特性を実現するには、鋼の電気抵抗を高め、磁化容易方向であるbcc格子の<001>軸を使用磁界方向に集積させることが有効とされている。特に、磁化容易方向である<001>軸を使用磁界方向に集積させることが磁気特性の飛躍的向上に最も有効な方法であり、このような集合組織を備えた鋼板が望まれている。
【0003】
図1は電磁鋼板の集合組織を説明する模式図であり、図1(a)は{110}面が鋼板面に平行で、<001>軸が圧延方向に集積した集合組織({110}<001>集合組織)を示し、図1(b)は{100}面が鋼板面に平行で、鋼板面に平行な2つの<001>軸がそれぞれ圧延方向と圧延直角方向に集積した集合組織({100}<001>集合組織)を示す。
【0004】
{110}<001>集合組織を有する鋼板は巻き鉄心のように、圧延方向のみに磁束が流れる用途に適し、一方向性電磁鋼板(珪素鋼板)と称される。
{100}<001>集合組織を有する電磁鋼板は圧延方向と圧延直角方向の二方向に優れた磁気特性を示し、巻き鉄心に加え、圧延方向と圧延直角方向の二方向に磁束が流れる積み鉄心や回転機の鉄心にも好適である。このように鋼板面内の直交する2つの方向に優れた磁気特性を示す電磁鋼板は二方向性電磁鋼板と称される。
【0005】
二方向性電磁鋼板の製造方法として、脱炭、もしくは脱炭と脱Mnを生じさせる高温焼鈍を利用した製造方法が開示されている。
特開平7−173452号公報には、質量%で(以下に示す化学組成の%表示は質量%を意味する)C:1%以下、Si:0.2〜6.5%、Mn:0.05〜5%を含む冷間圧延鋼板に、焼鈍分離材として脱炭を促進する物質、もしくは脱炭を促進する物質と脱Mnを促進する物質を用いて、タイトコイル焼鈍もしくは積層焼鈍することを特徴とする{100}面を鋼板面に平行な集合組織を持つ電磁鋼板の製造方法が開示されている。
【0006】
特開平9−20966号公報には、Si:0.2〜6.5%、Mn:0.03〜2.5%を含有する鋼板であって、鋼板面に平行な{100}面密度が方位配向性のないものの面密度の10倍以上の集合組織を有し、Mn濃度が板厚の表面に向かって減少する脱Mn層を有し、表面部のMn濃度が板厚中心部のMn濃度の90%以下、かつMn濃度減少割合の最大値が0.05%/μm以下、さらに平均結晶粒径が板厚の1/4から10倍である電磁鋼板が開示されている。
【0007】
WO98/20179号公報には、SiとMnを、Si(%)+0.5Mn(%)≦4およびSi(%)−0.5Mn(%)≧1.5なる関係を満たす範囲で含有し、鋼板面に平行な断面における平均結晶粒径が板厚の1〜8倍であり、かつ平均結晶粒径をXとするとき全結晶粒の70%以上がX/3から3Xの間にある磁気特性に優れる二方向性電磁鋼板が開示されている。
【0008】
また、同号公報には、Cを0.02〜0.2%含有し、SiとMnの含有量が上記関係式を満足する鋼を熱間圧延した後、750℃以上に急速加熱する中間焼鈍をおこなう2回以上の圧延による冷間圧延を施し、得られた鋼板を焼鈍分離材を用いて減圧下で焼鈍をおこなうことによる二方向性電磁鋼板の製造方法が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
一方向性電磁鋼板は現在実用化され電力用変圧器の主材料となっている。他方、二方向性電磁鋼板は鋼板面内の二方向に優れた磁気特性を示すという特長を持ちながら未だ実用化されていない。その原因は、従来の二方向性電磁鋼板は、磁化による外形寸法の変化(磁歪)が一方向性電磁鋼板に比較して一桁近く大きく、変圧器などの鉄心に使用した際の振動や騒音が大きいことである。
【0010】
従来の二方向性電磁鋼板においても、鋼板に張力を付加することで磁歪が減少することが知られている。すなわち、従来の二方向性電磁鋼板では、鋼板に張力が作用していない状態(無張力状態)では、2×10-5前後の磁歪を示すが、例えば5MPa程度の張力を付加すると、磁歪は付加前のそれの数分の1程度にまで減少する。しかしながら従来の二方向性電磁鋼板では、張力を付加することによる磁歪低減効果が十分ではなく、また、張力の大きさが変化するとその磁歪抑制効果も大きく変動する(損なわれる)という問題がある。
【0011】
Magnetism and Magnetic Materials、Vol.2、1971、p971には、厚さが0.3mmで、結晶粒径が20mm以上の粗大粒からなる結晶組織を有する二方向性電磁鋼板に張力皮膜を備えさせると、その鉄損や磁歪が減少することが報告されている。
【0012】
しかしながらその磁歪は、1.5Tという低磁束密度での測定であるにもかかわらず、張力皮膜が無い場合で14×10-6以上、張力皮膜を形成した状態で2.2×10-6以上である。またその鉄損W15/60 は、張力皮膜形成後でも1.4W/kg以上と非常に悪い、と報告されている。さらに上記文献には、鋼板に作用する張力が変化すると磁歪特性が大きく変動する(損なわれる)ことも記載されている。
【0013】
鉄心として使用中の電磁鋼板には、鉄心質量や鉄心を固定するための締め付け力などに起因する外力が作用するため、電磁鋼板に付加される張力が変動する。従って従来の二方向性電磁鋼板では張力付加により磁歪特性を制御するのが実用上困難であった。
【0014】
本発明の目的は上記問題点を解決し、磁気特性に優れ、かつ、磁歪が小さい二方向性電磁鋼板を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
珪素鋼の磁化容易方向(<001>軸方向)の磁歪定数は正で、4×10-5程度の比較的大きなものである。つまりこの方向に磁化する結晶格子はこの方向に上記磁歪定数の比率で伸びる。これが電磁鋼板を磁化した際に磁歪が生じる原因である。交番磁界下で磁化すると上記寸法変動が繰り返し発生し、騒音問題やエネルギー変換効率の低下などの問題が生じる。
【0016】
一方向性電磁鋼板を圧延方向に磁化した時のように磁化が180゜磁壁の移動のみにより生じる場合には磁化に伴う結晶格子の伸びは鋼板の外形変化としては現れない。これは180°磁壁が移動しても磁化の符号が反転するだけで伸びの方向は変化しないためである。これが、一方向性電磁鋼板の磁歪が小さい理由である。
【0017】
他方、従来の二方向性電磁鋼板の磁歪が非常に大きい原因は、従来の二方向性電磁鋼板には90゜磁壁が多量に存在し、磁化の際にこの90゜磁壁が移動するため、磁化方向が90゜回転し、これに伴って結晶格子の伸びの方向が90°回転し、これが外形変化として表れることにある。
【0018】
本発明者らは、二方向性電磁鋼板の磁歪を小さくするために二方向性電磁鋼板の磁区構造について詳細な研究を重ねた結果、以下のような新たな知見を得た。
図2は、キュリー温度(Tc)以上に加熱して消磁した後に無磁場中で冷却する熱消磁を施した二方向性電磁鋼板で観察される磁区構造を説明するための模式図であり、図2(a)は、磁化方向(図中の矢印で示す)が180°異なる磁区が隣接している領域(180°磁区)を表す。符号2は180°磁壁である。
【0019】
180°磁壁2の形状は磁化容易方向に平行な直線状であり、その間隔(d)は、結晶組織に依存して数十μmから10mm前後の範囲内で大きく変化する。結晶の{100}面が鋼板面と完全に平行でないときは、この磁区に符号3で示すような磁化方向が異なる補助磁区(樹枝状磁区)が多数発生する。
【0020】
図2(b)は、磁化方向が90°異なる磁区が隣接している領域(90°磁区)を表す。符号5は90°磁壁である。結晶の{100}面が鋼板面と完全に平行でないときは、この90°磁区にも樹枝状磁区が多数観察される。
【0021】
図2(c)は、符号4で示すジグザグ状に折れ曲がった磁壁(以下、単に「ジグザグ状磁壁」と記す)を有する磁区構造(以下、単に「ジグザグ状磁区」と記す)を表す。ジグザグ状磁壁4の折れ曲がりの間隔は10μm前後である場合が多い。
【0022】
図3は、ジグザグ状磁区が観察される理由を説明するための模式図である。図中の矢印は磁化方向を表す。図3に示すように、ジグザグ状磁区は、鋼板内部に鋼板面垂直方向に磁化を持つ磁区があり、鋼板面においてこの磁区と環流磁区を形成していると推定される。ジグザグ状磁壁4の折れ曲がりの角度(θ)は110゜前後(理論計算値は106゜)である。ジグザグ状磁区は比較的結晶粒が微細で、鋼板に熱歪みなどによる微小な歪みが分布している場合に生じる傾向がある。
【0023】
二方向性電磁鋼板であっても、結晶粒径が板厚の10倍以下であること、{100}面集積度と鋼板面内の<001>軸集積度が高いこと、熱消磁状態かつ無応力下の鋼板表面で観察される磁区模様における180゜磁壁間の平均間隔が0.50mm以下であること、上記磁区模様におけるジグザク状磁壁を有する磁区が面積率で30%以下であることなどのいずれかの条件を満足する場合には、鋼板面内の磁化容易方向に交番磁界を作用させて磁化した際の磁歪が極めて小さい。
【0024】
この理由は以下のように推定される。熱消磁状態では、一般に二方向性電磁鋼板の磁区構造は90゜磁壁を多量に含むもので、この状態から磁化すると90°磁壁が移動して大きな磁歪を発生する。従来の二方向性電磁鋼板では交番磁界中で磁化した際にも磁化途中でこのような90°磁壁を多量に含む磁区構造となり、引き続く磁化過程でこれらの90゜磁壁が移動して大きな磁歪を発生する。
【0025】
これに対し上記のような結晶組織と磁区構造を有する本発明の二方向性電磁鋼板では、交番磁界中で磁化を繰り返している最中には、従来のものと異なり、磁化途中で消磁状態となっても90°磁壁を生成しないか、生成してもその量が非常に小さいと考えられる。
【0026】
図4は交番磁界を作用させた場合の磁区構造の変化を説明するための模式図であり、図4(a)は従来の二方向性電磁鋼板に関する場合、図4(b)は本発明鋼に関する場合である。
【0027】
図4(a)に示すように、従来の二方向性電磁鋼板では、消磁状態で磁化方向に垂直な方向に向いた磁区が表れて90°磁壁が生成する。他方図4(b)に示すように本発明の二方向性電磁鋼板では、消磁状態で180°磁壁しか生成せず、そのために磁歪が発生しないと考えられる。
【0028】
本発明の二方向性電磁鋼板では熱消磁状態における180゜磁壁間隔(d)が0.50mm以下であり、180゜磁壁が密に発生し易い状態であるので、交番磁界による磁化途中の消磁状態でも180゜磁壁が非常に発生しやすく、90゜磁壁の生成を必要としないのであろう。本発明の二方向性電磁鋼板も熱消磁状態では90°磁壁を多数含んでいるが、交番磁界中では90°磁壁は消失するため、熱消磁状態での90゜磁壁の量は問題とならない。
【0029】
熱消磁状態でジグザグ状磁壁が発生している場合は、交番磁界による磁化のときにもジグザグ状磁区が発生しやすい。ジグザグ状磁区を有する鋼板の磁化には90°磁壁の移動を伴うため、ジグザグ状磁区の発生消滅が繰り返されると磁歪が大きくなる。従って磁歪を減少させるためにはジグザグ磁区を少なくする必要がある。
【0030】
本発明者らはさらに、上記結晶組織と磁区構造を有する鋼板に適度な張力を付加することで一層磁歪を低減し得ることも知見した。従来の二方向性電磁鋼板においても、鋼板に張力を付加することで磁歪を軽減し得ることが知られている。例えば従来の二方向性電磁鋼板の磁歪は鋼板に張力が作用していない状態(無張力状態)では2×10-5前後であるが、鋼板に例えば5MPa程度の張力を付加すると磁歪は数分の1程度にまで低減する。
【0031】
しかしながら従来の二方向性電磁鋼板では、付加する張力の大きさが変化するとその磁歪抑制効果が大きく変動する(損なわれる)という問題点があった。鉄心として使用中の状態では鉄心質量や鉄心を固定するための締め付け力等に起因する外力が電磁鋼板に作用するため電磁鋼板に付加すべき張力が変動する。従って従来の二方向性電磁鋼板では張力付加による磁歪特性の制御が実用上困難であった。
【0032】
これに対し本発明の二方向性電磁鋼板では、張力を付加すると磁歪は10-6程度にまで低減できるうえ、一定値以上の張力を付加したとき張力に対する磁歪の変化率が零に近くなる、すなわち実使用状態でも安定して低磁歪特性を発揮することができるという特長を有する。このような効果が得られる理由は定かではないが、交番磁界による磁化に際して90゜磁壁が生成しにくいことによるものと推測される。
【0033】
さらに、上記張力を、鋼板面内の特定方向のみに付加するのではなくて、圧延方向、圧延直角方向、その他面内各方向にほぼ等しい大きさの張力(「等方的な張力」とも記す)を付加することにより、鋼板面内の直交する2つの磁化容易方向共に優れた磁歪抑制効果が得られる。この方法により一方向性電磁鋼板の圧延方向と同等、もしくはそれ以上の低磁歪低鉄損特性を鋼板面内の直交する二方向で実現することができる。
【0034】
このような張力の付加は、低磁歪特性を発現させるはかりではなく、磁歪を通した応力の磁化への影響を軽減し、電磁鋼板の鉄損を低減したり、鋼板に応力が加わったときの鉄損の劣化をも防止する役割を果たす。
【0035】
本発明はこれらの知見を基にして完成されたものであり、その要旨は下記(1)〜(5)に記載の低磁歪二方向性電磁鋼板にある。
【0036】
(1)C:0.0030%以下、Si:0.5%以上6.5%以下、Mn:2%以下、Al:2%以下、Cr:2.0%以下、Co:1.0%以下、P:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が板厚の10倍以下であり、無応力状態の鋼板の磁化容易方向に交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪が10×10−6以下である鋼板表面に、燐酸塩と珪素酸化物とを含有する張力皮膜、または、アルミナとホウ酸塩とを含有する張力皮膜を備えたことを特徴とする低磁歪二方向性電磁鋼板。
【0037】
(2)C:0.0030%以下、Si:0.5%以上6.5%以下、Mn:2%以下、Al:2%以下、Cr:2.0%以下、Co:1.0%以下、P:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が板厚の10倍以下であり、鋼板面内の磁化容易方向に平行に1MPa以上、鋼の弾性限度以下の張力を付加した状態で交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪が、鋼板面内の二つの磁化容易方向の内の少なくとも一つの方向において3.0×10−6以下である鋼板表面に、燐酸塩と珪素酸化物とを含有する張力皮膜、または、アルミナとホウ酸塩とを含有する張力皮膜を備えたことを特徴とする低磁歪二方向性電磁鋼板。
【0038】
(3)C:0.0030%以下、Si:0.5%以上6.5%以下、Mn:2%以下、Al:2%以下、Cr:2.0%以下、Co:1.0%以下、P:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が板厚の10倍以下であり、鋼板面に平行、かつ面内等方向の1MPa以上、鋼の弾性限度以下の張力を付加した状態で交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪が、二つの磁化容易方向で共に3.0×10−6以下である鋼板表面に、燐酸塩と珪素酸化物とを含有する張力皮膜、または、アルミナとホウ酸塩とを含有する張力皮膜を備えたことを特徴とする低磁歪二方向性電磁鋼板。
【0039】
(4)鋼の結晶集合組織が、鋼板面からの傾斜角度が15°以下である{100}面を有する結晶粒の面積率が70%以上、かつ、鋼板面内の直交する2つの方向から20°以内に<001>軸を有する結晶粒の面積率が70%以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の低磁歪二方向性電磁鋼板。
【0040】
(5)熱消磁状態かつ無応力下の板表面で観察される磁区模様が、下記a項および/またはb項に記載の条件を満足するものであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の低磁歪二方向性電磁鋼板;
a:180゜磁壁間の平均間隔が0.50mm以下である、
b:ジグザク状磁壁を有する磁区の面積率が30%以下である。
【0045】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を詳細に述べる。
(a)鋼の化学組成
C:製品段階では、磁気時効を生じさせないために30ppm以下とすることが好ましい。
【0046】
但し、本発明の二方向性電磁鋼板を製造する際には、最終焼鈍前の鋼板には0.02%以上のCを含有させるのが好ましい。その理由は、最終焼鈍において脱炭を利用した組織制御を可能とするためである。より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.04%以上である。
【0047】
最終焼鈍に供する鋼板のC含有量が過度に多くなると(α+γ)2相域の上限温度が低くなり、焼鈍温度が低く制限されて脱炭終了までの最終焼鈍時間が長くなり、生産性を損なう。また、鋼が脆化し素材の圧延が困難になる。このような不都合を避けるためにC含有量は0.20%以下とするのがよい。より好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.08%以下である。
【0048】
Si:鋼の電気抵抗を高め渦電流損失を低減する作用があるので、鉄損を低減するためにSiは0.5%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2%以上である。Siを多量に含有させると鋼の飽和磁束密度が減少するうえ、鋼が脆くなり加工性を損なう。このような不都合を避けるためにSi含有量は6.5%以下とする。好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0049】
Mn:必須元素ではないが、電気抵抗を高め渦電流損失を低減する作用があり、鋼の鉄損を低減するために含有させても構わない。しかしながら多量に含有させると飽和磁束密度が減少するうえ、鋼が脆くなり加工性を損なう。従ってMnを含有させる場合でも2%以下とするのがよい。
【0050】
Al:必須元素ではないが電気抵抗を高め鉄損を低減する作用があるので含有させても構わない。しかしながらAlを過度に含有させると磁歪が増加するため、含有させる場合でも2%以下とするのがよい。
【0051】
Cr、Co:必須元素ではないが、これらの元素はα−フェライト中に固溶して電気抵抗を高めて鉄損を低減する作用があり、また、Coに関しては飽和磁束密度を増加させる作用がある。従ってこれらの効果を得るために含有させても構わない。しかしながらCoは高価であるうえ、過度に含有させると磁歪が増すので含有させる場合でも1.0%以下とするのがよい。Crは飽和磁化を過度に減少させないため含有させる場合でも2.0%以下とするのが好ましい。
【0052】
P:必須元素ではないが、切削性を改善するため0.05%以下の範囲で含有させてもよい。上記以外はFeおよび不可避的不純物である。
(b)結晶組織
低磁歪低鉄損特性を有する二方向性電磁鋼板とするために、その結晶組織を鋼板面に平行な断面で観察したときの平均結晶粒径が板厚の10倍以下であるものとする。好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。
【0053】
{100}面および<001>軸の集積度が高い鋼板では、結晶間の粒界のほとんどは小角粒界となっている。本発明では両側の結晶方位に1゜以上の角度差がある境界を結晶粒界と定義し、この結晶粒界で囲まれた粒を結晶粒と定義する。結晶粒径は結晶粒の面積と等面積の円の直径と定義する。双晶境界は結晶粒界とは見なさない。
【0054】
なお熱消磁状態の180゜磁壁間隔(d)を小さくして磁歪を減少させるためには、鋼板面に垂直な断面で観察したときに鋼板の厚さ方向に貫通していない結晶粒の存在比率を面積率で3%以上とするのが好ましい。結晶粒径や未貫通結晶粒の比率がこの条件を満足しない場合には、磁区構造が変化し磁歪・鉄損特性共に劣化することがあるからである。
【0055】
上記鋼板の結晶組織と集合組織は、公知のEBSP法(Electron Back Scattering Pattern)を用いて3次元結晶方位分布を求めるなどの手段により確認できる。
【0056】
(c)集合組織
低磁歪特性を有する二方向性電磁鋼板とするために、鋼板面からの傾斜角度が15°以下である{100}面を有する結晶粒の面積率(Ffa)が70%以上、かつ、鋼板面内の直交する2つの方向から20°以内に<001>軸を有する結晶粒の面積率(Fax)が70%以上である集積度の高い集合組織を有するものとするのが好ましい。
【0057】
より低磁歪低鉄損特性を実現するためには、上述の{100}面を有する結晶粒の面積率Ffaは、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。また上述の<001>軸を有する結晶粒の面積率Faxの好ましい範囲は80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0058】
上記の鋼板面内で<001>軸が集積する方向(容易磁化方向)は圧延方向と圧延直角方向とするのが好適であるが、容易磁化方向は必ずしも上記方向に限定する必要はなく、圧延方向と圧延直角方向から任意の方向にそれぞれ同一角度だけ回転した場合であっても、その方向に磁化することにより本発明が目的とする優れた磁気特性と低磁歪性能を十分に発揮することができる。
【0059】
(d)磁区構造
交番磁界中で鋼板面内の磁化容易方向に磁化したときの磁歪を低下させるために、熱消磁状態かつ無応力状態の鋼板表面の磁区構造は、ジグザク状磁区の比率(Aj )が面積率で30%以下、かつ、180°磁壁の平均間隔(d)が0.50mm以下のものとするのが好ましい。鋼板面内の磁化容易方向とは、鋼板面に平行で互いに直交する<001>軸の平均の集積方向を意味する。
【0060】
板表面から観察したときにジグザク状磁区が認められると磁歪が大きくなるので、その比率(Aj )は面積率で30%以下とするのが好ましい。より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0061】
熱消磁状態かつ無応力状態の鋼板表面の180°磁壁の平均間隔(d)が0.50mmを超えると交番磁界中で90°磁壁が消滅しなくなり磁歪改善効果が得られない可能性があるので、dは0.50mm以下とするのが好ましい。より好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下である。
【0062】
磁区構造は、製品鋼板表面を鏡面に研磨し、応力除去と熱消磁した試料を用いてSEM(Scanning Electron Microscope)により観察する等の方法で確認できる。
【0063】
(e)磁歪特性
交番磁界中で磁化したときの磁歪は、差動トランスを用いて鋼板の伸びを検出する方法やレーザーとドップラー効果を用いて鋼表面の伸長速度を検出する方法(レーザードップラー法)などで測定できる。何れも、磁化が零の状態を基準(伸び零)として磁化方向の伸びを求めるのが通例である。磁化方向に収縮する場合の磁歪は負として表示される。本発明における磁歪は、磁化サイクルにおける磁歪の変化量(最大磁歪と最小磁歪の差)を意味し、λp-p として表示する。
【0064】
張力付加による磁歪減少効果は、無応力状態の鋼板の磁歪が、商用周波数(50〜60Hz)の交番磁界を磁化容易方向に作用させて最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪がλp-p で10×10-6以下である場合に、特に顕著な効果が得られる。従って低磁歪二方向性電磁鋼板としては無応力状態の鋼板の上記条件での磁歪がλp-p で10×10-6以下のものとする。張力付加の効果をさらに大きくする観点から、好ましくはλp-p が8×10-6以下、より好ましくはλp-p が6×10-6以下のものである。
【0065】
また、鋼板面に平行に1MPa以上、鋼の弾性限度以下の張力が付加された二方向性電磁鋼板であって、上記と同様の商用周波数の交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときの磁歪がλp-p で、鋼板面内の二つの磁化容易方向の内の少なくとも一つの方向において3.0×10-6以下である場合には磁歪の張力依存性が小さく、張力変動に伴う磁歪変化が小さいので実使用環境において優れた磁歪特性が発揮される。従って低磁歪二方向性電磁鋼板としては上記張力を付加した状態で発生する磁歪のλp-p が3.0×10-6以下であるものがよい。
【0066】
鋼板面内の直交する2つの方向に磁束が流れる積み鉄心や回転機の鉄心に使用する電磁鋼板では、上記2つの方向の磁歪が小さいことが望まれる。鋼板面内で直交する2つの方向での磁歪が共に3.0×10-6以下であれば実使用環境において優れた性能を発揮することができる。
【0067】
(f)張力および張力皮膜
磁歪をより小さくするには、鋼板面に平行に1MPa以上の張力を付加するのが好ましい。付加する張力の大きさはより好ましくは5MPa以上である。塑性変形が生じると磁気特性が劣化するので張力の上限は鋼の弾性限度以下とするのがよい。鋼板面内の一つの磁化容易方向に平行な方向でもよい。この場合には張力方向の磁歪特性が向上する。
【0068】
また、付加する張力は鋼板面内で実質的に等方的な張力でもよい。実質的にとの意味は、少なくとも鋼板面内で直交する2つの磁化容易方向にほぼ同じ大きさの張力が付加されていればよいことを意味する。この場合には鋼板面内で直交する2つの磁化容易方向の磁歪特性が共に向上する。
【0069】
張力を付加する方法は任意であるが、鉄心鋼板に対する引張り力を機械構造的に外部から付加する方法や、鋼板表面に公知の張力皮膜を備えさせるなどの方法が好適である。
【0070】
張力皮膜の種類は特に限定するものではないが、燐酸塩と珪素酸化物とを含有するのも(以下、単に「燐酸塩シリカ系皮膜」とも記す)、または、アルミナ(Al2O3)と酸化硼素(B2O3)を含有する張力皮膜(以下、単に「アルミナ酸化硼素系皮膜」と記す)が好適である。
【0071】
燐酸塩シリカ系皮膜における珪素酸化物の含有量は、乾燥皮膜質量を100%とした場合の質量%(以下、単に「乾燥皮膜あたり」とも記す)で20%以上、80%以下とするのがよい。珪素酸化物の含有量が20%に満たない場合には鋼板に十分な張力を付与することができず、80%を超える場合には、鋼板と皮膜との間の熱膨張係数差が過大になり、皮膜の密着性が低下する。珪素酸化物としては、特にコロイダルシリカ(コロイド珪酸)を塗布、乾燥して得られるものがよい。
【0072】
燐酸塩シリカ系皮膜における燐酸塩は、皮膜の熱膨張係数を調整し、皮膜の強さや密着性を確保するために含有させるものであり、その含有量は、乾燥皮膜あたりで25%以上、75%以下とするのがよい。25%に満たない場合には皮膜の強さや密着性が十分でないために鋼板に十分な張力を付与することができず、75%を超える場合には鋼板に付与される張力が低下する。
【0073】
上記燐酸塩としては、Alの燐酸塩(燐酸アルミニウム)もしくはMgの燐酸塩(燐酸マグネシウム)を主成分とするものがよい。Sr、Ba、Feなどの燐酸塩を用いることもできる。
【0074】
上記皮膜には、必須ではないが、皮膜の密着性を向上させるためにさらに、無水クロム酸、クロム酸、重クロム酸からなる群の内の1種または2種以上を乾燥皮膜あたり1%以上、20%以下含有させても構わない。
【0075】
アルミナ酸化硼素系皮膜は、結晶質または無定型のアルミナ水和物、もしくは、結晶質または無定型の水酸化アルミニウムの微粉末を溶液中に分散させて得られるアルミナゾルと、硼酸とを主成分とする溶液を、鋼板表面に塗布し、乾燥して得られるものである。
【0076】
アルミナ酸化硼素系皮膜において、アルミナには皮膜強度を高めて鋼板に付与する張力を高める作用がある。この効果を確保するために、アルミナ含有量は乾燥皮膜あたり30%以上とするのがよい。アルミナを過度に含有させると皮膜の密着性が低下するので、その含有量は90%以下とするのがよい。
【0077】
酸化硼素には皮膜の密着性を向上させ、熱膨張係数を調整する作用がある。これらの効果を確保するために、酸化硼素含有量は乾燥皮膜あたり10%以上とするのがよい。酸化硼素含有量が過大になると皮膜強度が低下し、鋼板に付与される張力が低下する。従ってその含有量は70%以下とするのがよい。なお、上記張力皮膜には、上記組成物以外に、耐熱性向上のために、Si、Al、Ti、Bなどの酸化物や窒化物を適量含有させても構わない。
【0078】
張力皮膜の厚さは鋼板片面あたりで1g/m2 以上、40g/m2 以下とするのがよい。張力皮膜の厚さが上記下限に満たない場合には鋼板に十分な張力を付与できない。好ましくは2g/m2 以上である。張力皮膜の厚さが40g/m2 を超えると、鋼板を積層した際の占積率が低下するのでよくない。これを避けるために、張力皮膜の厚さは20g/m2 以下とするのが好ましい。
【0079】
また、無機質系の表面皮膜やCVD法(化学蒸着法)によるTiN皮膜、あるいはほうろう系のガラス質皮膜などを施して鋼板に張力を付加することもできる。
【0080】
張力皮膜により付加される張力の大きさは、例えば、酸洗などの方法で鋼板片面の張力皮膜を除去し、発生する鋼板のそり量を鋼板の弾性変形として、鋼板に作用する張力を計算する、などの方法で求めることができる。
【0081】
本発明の鋼板表面には、電磁鋼板を積層し使用する際の鋼板の間の電気絶縁性を確保するため、鋼板表面に絶縁皮膜を塗布することが好ましい。絶縁皮膜の材質には、リン酸塩系やCr酸塩系の溶液を鋼板に塗布し焼き付ける無機質系の絶縁皮膜や、上記無機質系溶液にポリアクリルタイプエマルジョン等の有機樹脂を混合したものを鋼板に塗布し焼き付ける有機−無機混合皮膜が好適である。
【0082】
(g)鋼板の厚さ
本発明の電磁鋼板の厚さ(t)は特に限定するものではないが、渦電流損失を低下させ、鉄損を低減するために0.5mm以下とするのが好ましい。厚さの下限は特に限定するものではなく、公知の冷間圧延方法で製造可能な厚さであればよい。
【0083】
(h)製造方法
本発明の低磁歪二方向性電磁鋼板の好適な製造方法を、{100}<001>集合組織を有し鋼板の圧延方向と圧延直角方向に容易磁化方向を有する低磁歪二方向性電磁鋼板の場合を例として以下に説明する。
【0084】
鋼の化学組成は、最終焼鈍において脱炭を利用した組織制御を可能とするために0.02%以上のCを含有し、C以外は上記a項に記載の条件を満たすものとする。
【0085】
上記化学組成を備えた溶鋼を鋳造して分塊圧延する方法や連続鋳造する方法等公知の方法で鋼片とした後、熱間圧延して熱延板とする。溶鋼をストリップキャスティングして直接熱延板としても構わない。熱間圧延条件は特に限定する必要はないが、熱延板の厚さは5mm以下1mm以上とするのが好ましい。得られた熱延板は酸洗など任意の方法で表面の酸化物を除去した後冷間圧延して冷延板とする。冷間圧延に供する前に、熱延板に焼鈍を施しても構わない。
【0086】
冷間圧延は中間焼鈍を挟んだ2回以上の冷間圧延としておこなう。その場合の中間焼鈍温度は再結晶温度以上とし、それぞれの冷間圧延の圧下率は35〜80%の範囲でおこなうのがよい。
【0087】
得られた冷延板は一次再結晶させた後と最終焼鈍を施すが、一次再結晶が終了した段階での鋼板は、その表面における{100}<001>方位の集積度が、集合組織のない試料の強度に対する比(ランダム比、If )で3倍以上、好ましくは6倍以上、より好ましくは10倍以上であるものとするのがよい。
【0088】
最終焼鈍に供する鋼板表面の集合組織が上記集積度を満足していない場合には、最終焼鈍過程で{111}面などの好ましくない方位の増加や、結晶粒の異常な粗大化、あるいは好ましくない磁区構造の生成などのために低磁歪特性を得ることが困難となる。
【0089】
一次再結晶時に{100}<001>方位の集積度(If )を高めるには、一次再結晶が生じる温度範囲の昇温速度を遅くするのがよい。すなわち、一次再結晶が生じる温度領域である550℃以上、700℃以下の範囲での加熱速度を20℃/分以下とするのがよい。上記一次再結晶は、最終焼鈍工程とは別の一次再結晶焼鈍工程によりおこなってもよいが、最終焼鈍時の加熱速度を上記の条件を満足するように徐加熱とすることで一次再結晶焼鈍工程を省略しても構わない。
【0090】
最終焼鈍をおこなう冷延板間には、脱炭を促進する物質、もしくは脱炭と脱マンガンの両方を促進する物質を含有する焼鈍分離材を介在させ、冷延板が鋼帯である場合にはこれらをコイル状に巻き、鋼板である場合にはこれらを積層して焼鈍すればよい。冷延板間に焼鈍分離材を介在させることにより、最終焼鈍中に脱炭、もしくは脱炭と脱マンガンの両方を生じさせ、それに伴うγ→α変態によって鋼板表面と平行に(100)面を高密度に持つ集合組織を発達させると共に、磁気特性に有害なCの含有量を十分に低くすることができる。
【0091】
上記焼鈍方法においてγ→α変態は鋼板の表面から内部へと順次進行するが、本発明の規定する焼鈍条件下では、(100)面を鋼板面と平行する結晶粒の表面エネルギーが他の方位の結晶粒の表面エネルギーよりも格段に低くなる為、(100)面を鋼板面と平行する結晶粒が優先的に表面から内部へと成長し、鋼板面と平行に(100)面を高密度に持つ集合組織が発達すると考えられる。
【0092】
脱炭を促進させる物質として、例えばSiO2 などのSi酸化物を用いることができる。Si酸化物は室温では安定であるが1000℃程度の高温領域では不安定になり、鋼中の炭素によって還元され、生じたSiは鋼に溶解する。鋼中の炭素は次式のような反応が生じてCOガスとなり鋼板の間隙から排出され脱炭が進行する。
SiO2+2C[鋼中]→Si[鋼中]+2CO[ガス]
上記脱炭作用を有する物質としては、Si酸化物の他にCr2 O3 、TiO2 、FeO、MnO、V2 O3 、V2 O5 、VOなど、高温の適切な雰囲気下で比較的不安定になる、すなわち、焼鈍温度で分解して酸素を発生し、脱炭を促進する酸化物を用いることもできる。
【0093】
酸化物を脱炭促進材として使用する際に、アルカリ金属の炭酸塩、CaCO3 、NaCO3 等の非常に不安定な酸化物の使用を避けるのが望ましい。このような炭酸塩は、低酸素雰囲気下で高温にすると多量の酸素を発生し、鋼板中のSiやMnを酸化して鋼板表面のエネルギー状態を変化させ、ひいては(100)面密度を低下させるので好ましくない。
【0094】
これらの酸化物は、一種もしくは二種以上混合して使用してもよい。また、脱炭反応速度の調整や、焼鈍後に鋼板から焼鈍分離材を剥離しやすくするために、高温で安定な無機物、例えばAl2 O3 などの酸化物、BNやSiCなどの安定な窒化物や炭化物を上記酸化物に混合しても構わない。
【0095】
脱炭促進材として最も好適な物質はSiO2 を含む酸化物である。この酸化物を脱炭促進材に使用すると上記の反応式からわかるように、酸化物が還元され生成する物質が元々鋼板中に添加されているSiであり、容易に鋼中に溶解すると共に、溶解しても鋼板の磁気特性を阻害しないばかりか電気抵抗を高め鉄損を低下させる役割を果たす。またSiO2 の還元を利用して脱炭させる場合には含有される合金元素の中で最も酸化されやすいSi酸化物が還元される条件下にあり、したがって鋼板表面では酸化が生じないので、上述の(100)面を鋼板面と平行する結晶粒の表面エネルギーを低下させる意味からも好適である。
【0096】
脱Mnを促進させる物質として、例えば、Ti酸化物(TiO2 )がある。鋼板中のMnは適切な雰囲気において鋼板表面から昇華し、鋼板表面近傍にはMn欠乏層(脱Mn層)が形成される。TiO2 は鋼板から昇華するMnと複合酸化物(TiMnO2 )を形成し、Mnを吸収することによって、脱Mnを促進すると考えられる。
【0097】
脱Mn促進物質としては、上記のように焼鈍中に鋼板から昇華するMnを吸収する物質であり、脱炭反応や、鋼板の表面エネルギー状態に悪影響を及ぼさないものであればよい。TiO2 以外にZrO2 やTi2 O3 を用いても構わない。特にTiO2 は脱炭促進作用も有するのでTiO2 単独でも脱炭と脱Mnの双方が促進されるので好適である。
【0098】
焼鈍分離材としては、脱炭や脱Mnを効率的に生じさせ、さらに(100)面の表面エネルギーを低めて{100}<001>集合組織の発達を促進するために、SiO2 とTiO2 を共に含むものがよい。より好ましくは、最終焼鈍した鋼板からの焼鈍分離材の剥離性を改善するために、SiO2 とTiO2 に加えてAl2 O3 を含有させる。
【0099】
上記焼鈍分離材の形態は任意であり、焼鈍分離材構成物質を、例えば板状、粉末状、繊維状、繊維をシート状にしたもの、これらの繊維やシートにさらに粉末を混入させたものなどがある。最も望ましい形態は繊維状または繊維をさらにシート状に加工したものである。このような形態にすれば取り扱いが容易であるうえ、繊維間に多量の空隙があるので脱炭反応によって生じた一酸化炭素の系外への排出やMnの昇華が容易になるという利点がある。
【0100】
{100}面集積度を高めるために、焼鈍雰囲気は水素ガス、不活性ガス、または両者の混合ガスを主体とする雰囲気、さらには真空あるいは減圧雰囲気がよい。好ましい減圧雰囲気の真空度は13KPa以下、なお好ましくは130Pa以下である。真空度が13KPaを超えると{100}面密度が低下する。
【0101】
最終焼鈍工程初期には(α+γ)2相混合域で焼鈍して脱炭または脱炭と脱Mnをおこなわせ、脱炭後はα単相となる温度域で焼鈍するのがよい。好ましいのは、{100}面集積度を高めるために850℃以上のα+γ二相共存温度域である。保持温度は1300℃以下が望ましい。1300℃を超える焼鈍温度は工業的に実現するのが困難である。
【0102】
鋼板の炭素量が30ppm以下になれば焼鈍を終了するのがよい。過度に焼鈍を行うと結晶組織が粗大化するのでよくない。例えば1100℃の温度では炭素量が30ppmを下回った後5時間以上均熱しない方がよい。{100}<001>集合組織の集積度の高い材料ほど脱炭が完了した後の結晶粒粒の粗大化が生じ難く、均熱時間の制御が容易となる。これは、{100}<001>集合組織の集積度の高い材料ほど粒界移動速度の小さな小角粒界の存在頻度が高いためであると考えられる。
【0103】
容易磁化方向が圧延方向と圧延直角方向本発明以外の方向である鋼板を得るには、上記一次再結晶終了時の鋼板表面の集合組織が、所望の方位の集積度がランダム比で3以上のものを最終焼鈍に供すればよい。
【0104】
最終焼鈍済みの鋼板に張力皮膜を施すには、鋼板間の焼鈍分離材を除去した後、燐酸塩と珪素酸化物とを主成分とする燐酸塩シリカ系皮膜用溶液、または、アルミナゾルと硼酸とを主成分とするアルミナ酸化硼素系皮膜用溶液(以下、「皮膜組成物溶液」と総称する)を、所望の厚さの乾燥皮膜が得られるように鋼板表面に塗布し、乾燥および焼付け処理を施すのがよい。
【0105】
燐酸塩シリカ系皮膜用溶液は、希釈水を除いた全容液に対する質量比で(以下、皮膜組成物溶液の組成は、希釈水を除いた全容液に対する質量%を意味する)燐酸塩を3%以上、60%以下、珪素酸化物を3%以上、60%以下含有させたものがよい。燐酸塩が3%に満たない場合には、得られる皮膜の機械的強度や鋼板との密着性が十分ではなく、60%を超えると鋼板との熱膨張係数差が大きくなりすぎて過大な応力が皮膜に作用し、鋼板と皮膜の密着性が損なわれる。珪素酸化物が3%に満たない場合には、皮膜とした後の張力が十分ではなく、60%を超えると、鋼板との熱膨張係数差が大きくなりすぎて過大な応力が皮膜に作用し、密着性が損なわれる。
【0106】
燐酸塩としては、皮膜の密着性を高めるために、Alの燐酸塩(燐酸アルミニウム)やMgの燐酸塩(燐酸マグネシウム)などが好適であるが、Sr、Ba、Feなどの燐酸塩を使用しても構わない。
【0107】
上記溶液には、皮膜の密着性を向上させるために、珪素酸化物と燐酸塩に加えて、無水クロム酸、クロム酸、重クロム酸からなる群の内の1種または2種以上を15%以下含有させても構わない。また、耐熱性を向上させる目的で、Si、Al、Ti、Bなどの酸化物や窒化物を含有させても構わない。
【0108】
アルミナ酸化硼素系皮膜用溶液は、結晶質または無定型のアルミナ水和物、あるいは、結晶質または無定型の水酸化アルミニウムの微粉末を溶液中に分散させたアルミナゾルを5%以上、50%以下、および、硼酸を2%以上、30%以下含有させたものがよい。
【0109】
アルミナゾルまたは硼酸の含有量が上記下限に満たない場合には、鋼板に十分な張力を与えることができない。また、上記上限を超える場合には皮膜が容易に剥離するので十分な張力が得られない。アルミナ酸化硼素系皮膜用溶液の残部は水でよい。塗布量は、乾燥膜厚が所望の値になるように、溶液の希釈度に応じて定めればよい。
【0110】
皮膜組成物溶液を塗布した鋼板は、300℃以上で焼付けるのがよい。良好な密着性と張力を得るために、より好ましくは600℃以上で焼付ける。焼付け時の雰囲気は大気でもよいが、不活性ガス、水素ガス、COガス、あるいはこれらの混合ガスを用いるのが好ましい。
【0111】
上記張力皮膜を形成するタイミングは、最終焼鈍して脱炭、または脱炭と脱Mnをおこなった鋼板に、必要に応じて平坦化を目的としたスキンパス圧延、あるいは連続焼鈍などを施した後がよい。
【0112】
皮膜の密着性をさらに向上させるために、上記皮膜処理の前に、脱脂、酸洗、あるいは、Niフラッシュめっきなどの前処理を施しても構わない。また、燐酸塩、無水珪酸塩、水ガラスなどを含む皮膜を下地として鋼板表面に設けた後に上記皮膜処理をおこなってもよい。
【0113】
本発明の鋼板には、電磁鋼板を積層し使用する際の鋼板の間の電気絶縁性を確保するため、リン酸塩系やクロム酸塩系の公知の無機質系溶液、あるいは、上記無機質系溶液にポリアクリルタイプエマルジョン等の公知の有機樹脂を混合した有機−無機混合溶液を公知の方法により塗布し、焼付けても構わない。
【0114】
【実施例】
(参考例1)
真空溶解鋳造して作製した表1の鋼Aに記載の化学組成を有する鋼塊を熱間鍛造して厚さが70mmの鋼片を得た。
【0115】
【表1】
これを熱間圧延して厚さ:3.0mmの熱延板とし、これを酸洗して表面の酸化物を除去した後、冷間圧延して厚さ:0.90mmの冷延板とし、次いで1050℃に加熱する中間焼鈍を施した後、再度冷間圧延して厚さ:0.35mmの冷延板を作製した。得られた冷延板に、昇温速度(Vu )を種々変更して750℃に加熱する一次再結晶焼鈍を施した。
【0116】
焼鈍分離材として、SiO2 とAl2 O3 を質量比で55:45の割合で含有する非晶質酸化物からなる繊維を布状に織り、これにTiO2 粉末を混合した焼鈍分離材シートを作製した。混合比は非晶質酸化物繊維からなる布:50質量%、TiO2 :42質量%、残部は結合材としてのアクリル系樹脂である。
【0117】
一次再結晶焼鈍後の鋼板と上記焼鈍分離材シートとを交互に積層して加熱炉に装入し、真空度:0.13Paの減圧雰囲気で1℃/分の昇温速度で加熱して1100℃で12時間保持する最終焼鈍を施した。最終焼鈍終了後の鋼板の化学組成はC:0.0015%、Si:2.97%、Mn:0.75%であった。
【0118】
一次再結晶後および最終焼鈍後の鋼板の結晶組織と集合組織をEBSP(Electron Back Scattering Pattern)法を用いて解析した。一次再結晶集合組織は、鋼板表面から得た結晶方位のデータから3次元結晶方位分布を求め、その{100}<001>方位の強度を方位配向性のないものの集積度に対する比(It )として算出した。最終焼鈍後の試料については、鋼板表面に平行な面のEBSPのデータから1゜以上の角度差を持つ結晶粒界を求め、これらの結晶粒界で囲まれた結晶粒の結晶方位と結晶粒直径を算出し、板面垂直方向から15°以内に<001>軸を有する結晶粒の面積率(Ffa)、および圧延方向と圧延直角方向から20°以内に<001>軸を有する結晶粒の面積率(Fax)を求めた。また、結晶粒の平均直径(D)を調査し、鋼板厚さ(t)に対する比(D/t)を計算した。
【0119】
磁区構造は、最終焼鈍後の鋼板表面を鏡面に研磨し、歪み除去と熱消磁のため900℃で10分間焼鈍した後、SEM(Scanning ElectronMicroscope)により観察し、ジグザグ状磁区面積率(Aj )および180°磁壁間隔(d)を求めた。
【0120】
磁気特性は、最終焼鈍後の鋼板から圧延方向または圧延直角方向を長手方向とする長さ:100mm、幅:30mmの短冊板を切りだし、歪み取り焼鈍を施した後、各短冊の長手方向に0〜10MPaの範囲の張力(一軸方向の張力)を機械的に付加し、単板磁化測定装置を用いて測定した。磁歪はレーザドップラー法を用いて上記短冊の長手方向に50Hzの交番磁界を印加して最大磁束密度が1.7Tになるように磁化し、λp-p を測定した。磁気特性および磁歪は鋼板の磁化方向に張力を付加した場合についても測定した。
【0121】
一次再結晶焼鈍時の昇温速度と種々の測定結果を表2に記す。
【0122】
【表2】
表2に示すように試番1〜5はいずれも優れた磁束密度を有し、λp-p は、無応力下(張力0)で10×10-6以下の小さな磁歪しか発生しなかった。張力を付加すると磁歪が大幅に減少し、特に試番1〜3では2.9MPa以上の張力を付加すると2×10-6以下の低磁歪特性を有していた。また張力が変動しても磁歪の変化が非常に小さく、安定して低磁歪特性を発揮した。
【0123】
これに対し、一次再結晶焼鈍後の{100}<001>集合組織の集積度(It )が3に満たなかった鋼板を最終焼鈍した試番6〜8では結晶組織、集合組織あるいは磁区構造などが本発明が既定する条件外であり、磁束密度がよくないうえ磁歪が大きく、磁歪の張力による変動も大きかった。
【0124】
図5は試番1における圧延方向の試験片について測定した磁歪曲線の例を示すグラフであり、図5(a)は張力を付加しない場合であり、図5(b)は圧延方向に2.9MPaの張力を作用させた場合である。図中には参考のためにλp−pの測定範囲を示した。本発明が規定する条件を満足する例においては1.7Tまで磁化したときの磁歪の値が小さいだけでなく、磁化途中の磁歪の変化も単調で高調波騒音を発生し難い磁束密度−磁歪特性となっていることもわかる。
【0125】
(参考例2)
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Eを真空溶解鋳造し、熱間鍛造して厚さが40mmの鋼片を得た。これらを熱間圧延して厚さが2.7mmの熱延板とし、酸洗して表面の酸化物を除去した後、中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延により厚さが0.30mmの冷延板を得た。これらの冷延板と参考例1に記載したのと同様の焼鈍分離材シートとを交互に積層し、真空度が0.13Paの減圧雰囲気で0.5℃/分の昇温速度で1080℃に加熱し、14時間保持する最終焼鈍を施した。なお、最終焼鈍時には各鋼板から小試験片を採取して上記と同一条件で700℃まで加熱した後冷却し、これを調査して各鋼板の一次再結晶後のItを求めた。
【0126】
別途比較例として、表1の鋼Fの化学組成を有する厚さが2.7mmの熱延板を上記と同様の条件で作製し、これを1000℃で2時間焼鈍し、酸洗して表面の酸化物を除去した後、中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延により厚さが0.30mmの冷延板とした。その後、真空中で1200℃に加熱し24時間保持する焼鈍を施し、結晶粒径が20mm以上の粗大な結晶粒を有する二方向性電磁鋼板を得た。上記鋼Fに適用した製造方法は表面エネルギーによる二次再結晶を利用する従来の製造方法によるものであり、鋼B〜鋼Eに適用した焼鈍分離材を介在させて最終焼鈍する製造方法とは根本的に異なるものである。これらの材料について参考例1に記載したのと同様の方法で鋼板の化学組成、結晶組織、集合組織、磁区構造、磁気特性および磁歪を測定した。
【0127】
表3に最終焼鈍した鋼板の主要元素の分析結果を示す。表3からわかるように鋼A〜E、G、HおよびIはいずれも十分に脱炭されていた。これらの鋼では脱Mn反応によりMn含有量も減少していた。鋼Fの化学組成は変らなかった。
【0128】
表4に種々の測定結果を示す。
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
表4に示すように、試番21〜28で得られた鋼板はいずれも優れた磁束密度を有しており、無張力下での磁歪や張力変動に対する磁歪の変化率も小さく、安定した低磁歪特性を備えていた。鋼Fを用いて表面エネルギーによる二次再結晶法で製造した試番29で得られた鋼板は最終焼鈍後の結晶粒が粗大であるうえ、180゜磁壁間隔(d)も大きく非常に大きな磁歪を発生した。
【0131】
なお、図6は試番21に記載した鋼Aの最終焼鈍した鋼板の結晶粒の方位を100極点図上に表したものである。図6には53個の結晶粒の方位が表示されているが、{100}<001>方位に強く集積していることがわかる。
【0132】
図7はEBSPによる集合組織解析の例を示すグラフであり、図7(a)、(b)はそれぞれ試番21の鋼Aの一次再結晶後の鋼板表面の{100}極点図および{100}<001>方位への集積を示す3次元方位分布解析例である。これはRoeの表示形式でΦ=45゜断面を示しており、等高線で配向性が無い材料に対する倍率を示す。図上端中央の反射強度の高い部分が{100}<001>方位に対応し、本発明が規定する条件を満足する鋼板は{100}<001>方位に強く集積した集合組織を有していることがわかる。
【0133】
図8は、鋼Cの表面に観察された180°磁壁と樹枝状磁区の例を示す写真であり、図9は鋼Dで観察されたジグザグ状磁壁に囲まれた磁区の例を示す写真である。
【0134】
(参考例3)
参考例2の試番22および29で作製した種々の磁歪を有する二方向性電磁鋼板を用いて、鉄心の外形寸法が高さ:500mm、幅:500mm、厚さ:25mmである3相3脚型のモデル変圧器を作製し、周波数が50Hzの励磁電流を印加して、発生する騒音を測定した。その結果λp−pが10×10−6以下である場合に騒音が極めて低かった。λp−pが3×10−6以下である場合には騒音がさらに低かった。
【0135】
(参考例4)
参考例2に記載の鋼Aの最終焼鈍を終えた鋼板から50mm角の試験片を切り出し、歪み取り焼鈍を施した後、圧延方向と圧延直角方向との二方向に同じ大きさの引張応力が付加されるように、機械的に引っ張った。張力の大きさは3水準に変更した。この二方向の張力を付加することによりにより鋼板には板面内等方的な応力が付加される。これらの試験片の磁束密度と参考例2に記載したのと同様の条件で測定した。磁歪は試験片表面に歪みゲージを張り付けて測定した。
【0136】
表5に得られた結果を示す。
【0137】
【表5】
表5に示すように板面内等方的な張力を付加することにより磁歪特性が顕著に改善され、二方向同時に低磁歪特性を示す鋼板が得られた。
【0138】
(実施例1)
参考例1、表2、試番1に記載の張力が付与されていない鋼板の両面に、表6に示す種々の組成の皮膜組成物溶液(質量%、残部は蒸留水)を塗布し、水素と窒素の混合ガス中で850℃で2分間の焼付け処理を施して鋼板表面に種々の張力皮膜を形成した。
【0139】
得られた鋼板の張力皮膜の密着性は、鋼板を直径が20mmの丸棒に沿わせて曲げて皮膜の剥離状況を目視観察し、剥離がないものを良好として評価した。また、その磁気特性を参考例1に記載したのと同様の方法で測定した。
【0140】
得られた結果を表6に示す。
【0141】
【表6】
表6で、試番31〜35は燐酸塩シリカ系皮膜を備えた鋼板、試番36および37は、アルミナ酸化硼素系皮膜を備えた鋼板である。試番31〜34、36および37はいずれも張力皮膜の密着性が良好であった。その磁歪は、L方向、T方向共に1.4×10-6以下で、極めて良好な磁歪特性を示した。皮膜組成物溶液としてコロイダルシリカ100%溶液を使用した試番35は、張力皮膜の密着性がよくなく、張力皮膜による磁歪改善効果は認められなかった。
【0142】
【発明の効果】
本発明の鋼板は、圧延方向と圧延直角方向の二方向の磁気特性が優れ、しかもその磁歪が安定して小さい。従って本発明の低磁歪二方向性電磁鋼板を、変圧器、電動機、発電機などの鉄心として使用すると、装置のエネルギー変換効率が優れるうえ、使用時の振動や騒音が少なく、例えば変圧器の騒音防止装置が簡素化できるなどの利点が得られる。従って装置の効率性と経済性を大きく改善できるので、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電磁鋼板の結晶集合組織の模式図であり、図1(a)は{110}<001>集合組織を示し、図(b)は{100}<001>集合組織を示す。
【図2】 熱消磁した二方向性電磁鋼板で観察される磁区構造の概念を示す模式図であり、図2(a)は180°磁区、図2(b)はジグザグ状磁区、図2(c)は90°磁区を示す。
【図3】 ジグザグ状磁区が観察される理由を説明する模式図である。
【図4】 二方向性電磁鋼板に交番磁界を作用させた場合の磁区構造の変化を説明するための模式図である。
【図5】 本発明が規定する条件を満足する例に関する磁歪曲線の例を示すグラフである。
【図6】 本発明が規定する条件を満足する例に関する最終焼鈍した鋼板の結晶粒方位を100極点図上に表した図である。
【図7】 EBSPによる集合組織解析の例をRoeの表示形式でΦ=45゜断面で示す図である。
【図8】 鋼Cの表面に観察された180°磁壁と樹枝状磁区の例を示す写真である。
【図9】 鋼Dで観察されたジグザグ状磁壁に囲まれた磁区の例を示す写真である。
【符号の説明】
1:結晶粒界、2:180°磁壁、3:樹枝状磁区、4:ジグザグ状磁壁、5:90°磁壁、d:180°磁壁の間隔。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.5%以上6.5%以下、Mn:2%以下、Al:2%以下、Cr:2.0%以下、Co:1.0%以下、P:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が板厚の10倍以下であり、無応力状態の鋼板の磁化容易方向に交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪が10×10−6以下である鋼板表面に、燐酸塩と珪素酸化物とを含有する張力皮膜、または、アルミナとホウ酸塩とを含有する張力皮膜を備えたことを特徴とする低磁歪二方向性電磁鋼板。
- 質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.5%以上6.5%以下、Mn:2%以下、Al:2%以下、Cr:2.0%以下、Co:1.0%以下、P:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が板厚の10倍以下であり、鋼板面内の磁化容易方向に平行に1MPa以上、鋼の弾性限度以下の張力を付加した状態で交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪が、鋼板面内の二つの磁化容易方向の内の少なくとも一つの方向において3.0×10−6以下である鋼板表面に、燐酸塩と珪素酸化物とを含有する張力皮膜、または、アルミナとホウ酸塩とを含有する張力皮膜を備えたことを特徴とする低磁歪二方向性電磁鋼板。
- 質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.5%以上6.5%以下、Mn:2%以下、Al:2%以下、Cr:2.0%以下、Co:1.0%以下、P:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が板厚の10倍以下であり、鋼板面に平行、かつ面内等方向の1MPa以上、鋼の弾性限度以下の張力を付加した状態で交番磁界を印加して最大1.7Tの磁束密度まで磁化したときに発生する磁歪が、二つの磁化容易方向で共に3.0×10−6以下である鋼板表面に、燐酸塩と珪素酸化物とを含有する張力皮膜、または、アルミナとホウ酸塩とを含有する張力皮膜を備えたことを特徴とする低磁歪二方向性電磁鋼板。
- 鋼の結晶集合組織が、鋼板面からの傾斜角度が15°以下である{100}面を有する結晶粒の面積率が70%以上、かつ、鋼板面内の直交する2つの方向から20°以内に<001>軸を有する結晶粒の面積率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低磁歪二方向性電磁鋼板。
- 熱消磁状態かつ無応力下の板表面で観察される磁区模様が、下記a項および/またはb項に記載の条件を満足するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低磁歪二方向性電磁鋼板;
a:180゜磁壁間の平均間隔が0.50mm以下である、
b:ジグザク状磁壁を有する磁区の面積率が30%以下である。
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