以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、磁石として、希土類元素を含む希土類磁石を例に挙げて説明することとする。
図1は、本実施形態の希土類磁石を示す模式斜視図であり、図2は図1に示す希土類磁石のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す図である。図1、2に示すように、希土類磁石1は磁石素体3(金属磁石素体)と、その磁石素体3の表面を被覆する保護層5とを備えている。また、保護層5は、磁石素体3側から順に、希土類元素を含有する第1の層6及び希土類元素を実質的に含有しない第2の層7を有する内部保護層9、並びに、外部保護層8を備えている。以下、希土類磁石1の各構成についてそれぞれ説明する。
[磁石素体]
まず、磁石素体3について説明する。磁石素体3は、希土類元素を含有する永久磁石である。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素のことをいう。ここで、ランタノイド元素には、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が含まれる。
磁石素体3の構成材料としては、上記希土類元素と、希土類元素以外の遷移元素とを組み合わせて含有させたものが例示できる。この場合、希土類元素としては、Nd、Sm、Dy、Pr、Ho及びTbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、これらの元素にLa、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有したものであるとより好適である。
また、希土類元素以外の遷移元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、Fe及び/又はCoがより好ましい。
より具体的には、磁石素体3の構成材料としては、R−TM−B系やR−Co系のものが例示できる。前者の構成材料においては、RとしてはNdを主成分とした希土類元素が好ましい。また、TMとしてはFe、Co等の遷移元素が挙げられる。さらに、後者の構成材料においては、RとしてはSmを主成分とした希土類元素が好ましい。
磁石素体3の構成材料としては、特に、R−Fe−B系の構成材料が好ましい。このような材料は実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有しており、また、この主相の粒界部分に希土類元素の配合割合が高い希土類リッチ相、及び、ホウ素原子の配合割合が高いホウ素リッチ相を有している。これらの希土類リッチ相及びホウ素リッチ相は磁性を有していない非磁性相であり、このような非磁性相は通常、磁石構成材料中に0.5〜50体積%含有されている。また、主相の粒径は、通常1〜100μm程度である。
このようなR−Fe−B系の構成材料においては、希土類元素の含有量が8〜40原子%であると好ましい。希土類元素の含有量が8原子%未満である場合、主相の結晶構造がα鉄とほぼ同じ結晶構造となり、保持力(iHc)が小さくなる傾向にある。一方、40原子%を超えると希土類リッチ相が過度に形成されてしまい、残留磁束密度(Br)が小さくなる傾向にある。
Feの含有量は42〜90原子%であると好ましい。Feの含有量が42原子%未満であると残留磁束密度が小さくなり、また、90原子%を超えると保持力が小さくなる傾向にある。さらに、Bの含有量は2〜28原子%であると好ましい。Bの含有量が2原子%未満であると菱面体構造が形成されやすく、これにより保持力が小さくなる傾向にあり、また28原子%を超えると、ホウ素リッチ相が過度に形成されて、これにより残留磁束密度が小さくなる傾向にある。
上述した構成材料においては、R−Fe−B系におけるFeの一部が、Coで置換されていてもよい。このようにFeの一部をCoで置換すると、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。この場合、Coの置換量は、Feの含有量よりも大きくならない程度とすることが望ましい。Co含有量がFe含有量を超えると、磁石素体3の磁気特性が低下する傾向にある。
また上記構成材料におけるBの一部は、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)又は銅(Cu)等の元素により置換されていてもよい。このようにBの一部を置換することによって、磁石素体の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。このとき、これらの元素の置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とすることが望ましく、構成原子総量に対して4原子%以下とすることが好ましい。
さらに、保持力の向上や製造コストの低減等を図る観点から、上記構成に加え、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、ハフニウム(Hf)等の元素を添加してもよい。これらの添加量も磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、具体的には、構成原子総量に対して10原子%以下とする。また、その他、不可避的に混入する成分としては、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、カルシウム(Ca)等が考えられ、これらは構成原子総量に対して3原子%程度以下の量で含有されていても構わない。
このような構成を有する磁石素体3は、粉末冶金法によって製造することができる。この方法においては、まず鋳造法やストリップキャスト法等の公知の合金製造プロセスにより所望の組成を有する合金を作製する。次に、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて10〜100μmの粒径となるように粉砕した後、更にジェットミル、アトライター等の微粉砕機により0.5〜5μmの粒径となるようにする。こうして得られた粉末を、好ましくは600kA/m以上の磁場強度を有する磁場のなかで、0.5〜5t/cm2の圧力で成形する。
その後、得られた成形体を、好ましくは不活性ガス雰囲気又は真空下中、1000〜1200℃で0.5〜10時間焼結させた後に急冷する。さらに、この焼結体に、不活性ガス雰囲気又は真空中、500〜900℃で1〜5時間の熱処理を施し、必要に応じて焼結体を所望の形状(実用形状)に加工して、磁石素体3を得る。
このようにして得られた磁石素体3には、さらに酸洗浄が施されることが好ましい。すなわち、後述する熱処理の前段において磁石素体3の表面に対して酸洗浄が施されることが好ましい。
酸洗浄で使用する酸としては、硝酸を用いることが好ましい。一般の鋼材にメッキ処理を施す場合、塩酸、硫酸等の非酸化性の酸が用いられることが多い。しかし、本実施形態での磁石素体3のように、磁石素体3が希土類元素を含む場合には、これらの酸を用いて処理を行うと、酸により発生する水素が磁石素体3の表面に吸蔵され、吸蔵部位が脆化して多量の粉状未溶解物が発生する。この粉状未溶解物は、表面処理後の面粗れ、欠陥および密着不良を引き起こすため、上述した非酸化性の酸を酸洗浄処理液に含有させないことが好ましい。したがって、水素の発生が少ない酸化性の酸である硝酸を用いることが好ましい。
このような酸洗浄による磁石素体3の表面の溶解量は、表面から平均厚みで5μm以上、好ましくは10〜15μmとするのが好適である。磁石素体3の表面の加工による変質層や酸化層を完全に除去することで、後述する熱処理により、所望の酸化膜をより精度よく形成することができる。
酸洗浄に用いられる処理液の硝酸濃度は、好ましくは1規定以下、特に好ましくは0.5規定以下である。硝酸濃度が高すぎると、磁石素体3の溶解速度が極めて速く、溶解量の制御が困難となり、特にバレル処理のような大量処理ではばらつきが大きくなり、製品の寸法精度の維持が困難となる傾向がある。また、硝酸濃度が低すぎると、溶解量が不足する傾向がある。このため、硝酸濃度は1規定以下とすることが好ましく、特に0.5〜0.05規定とすることが好ましい。また、処理終了時のFeの溶解量は、1〜10g/l程度とする。
酸洗浄を行った磁石素体3の表面から少量の未溶解物、残留酸成分を完全に除去するため、超音波を使用した洗浄を実施することが好ましい。この超音波洗浄は、磁石素体3の表面に錆を発生させる塩素イオンが極めて少ない純水中で行うのが好ましい。また、上記超音波洗浄の前後、及び酸洗浄の各過程で必要に応じて同様な水洗を行ってもよい。
[内部保護層]
次に、内部保護層9について説明する。内部保護層9は、上述の如く、磁石素体3側から順に、第1の層6及び第2の層7を備えている。
第1の層6は、希土類元素を含有する層であり、また、第2の層7は第1の層よりも希土類元素の含有量が少ない層である。この第1の層6及び第2の層7は、磁石素体3由来の元素及び酸素を含んでいる。より具体的には、磁石素体3における上述した主相を構成する元素及び酸素を含んでいる。
ここで、磁石素体3由来の元素は、磁石素体3の構成材料であって、少なくとも希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素が含まれ、さらにB、Bi、Si、Alなどが含まれる場合がある。第1の層6及び第2の層7は、磁石素体3上に塗布等によって別途付着させたものではなく、磁石素体3の構成元素が反応する等して、当該磁石素体3が変化することによりその表面に形成される層である。かかる反応としては、酸化反応が挙げられる。このため、内部保護層9には磁石素体を構成しない新たな金属元素は含まれないが、酸素、窒素などの非金属元素が含まれる場合がある。
第1の層6は、磁石素体3由来の希土類元素と酸素とを含有し、より具体的には、酸素、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有している。例えば、磁石素体3の構成材料がR−Fe−B系のものである場合、遷移元素としてはFeを主として含み、その構成材料の組成によりCoなどを含んでいてもよい。
また、第2の層7は、磁石素体3由来の元素及び酸素を含有しているが、第1の層よりも希土類元素の含有量が少ない層である。例えば、磁石素体3の構成材料がR−Fe−B系のものである場合には、遷移元素はFeを主として含み、その構成材料の組成によりCoなどを含んでいてもよい。この第2の層7による更に優れた耐食性を得る観点からは、第2の層7における希土類元素の含有量は、第1の層6における希土類元素の含有量の半分以下であると好ましく、第2の層7が、希土類元素を実質的に含有しない層であると更に好ましい。つまり、第2の層7は、酸素及び磁石素体3に含まれている希土類元素以外の遷移元素を含有する層であると特に好適である。
第1の層6及び第2の層7の各構成材料の含有量は、EPMA(X線マイクロアナライザー法)、XPS(X線光電子分光法)、AES(オージェ電子分光法)又はEDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)等の公知の組成分析法を用いて確認することができる。ここで、第2の層7における「希土類元素を実質的に含有しない」態様としては、上述した組成分析法によって希土類元素が検出されない態様が考えられる。すなわち、第2の層7においては、希土類元素の含有率が、上記組成分析法による検出限界以下程度となっている。
上記各層からなる内部保護層9の形成方法としては、以下に示す方法が挙げられる。すなわち、第1の層6及び第2の層7は、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、磁石素体3を、酸化性ガス雰囲気下で熱処理(加熱)する熱処理工程により形成することができる。この熱処理においては、磁石素体3の表面に、第1の層6及び第2の層7の両方が形成されるように、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。なお、かかる熱処理の際には、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間の3つの条件全てを調整することがより好ましい。
ここで、酸化性雰囲気とは、酸化性ガスを含有する雰囲気であれば特に限定されず、例えば、大気、酸素雰囲気(好ましくは酸素分圧調整雰囲気)、水蒸気雰囲気(好ましくは水蒸気分圧調整雰囲気)等の酸化が促進される雰囲気である。酸化性ガスとしては、酸素、水蒸気等が挙げられる。この中で、例えば、水蒸気雰囲気とは水蒸気分圧が10hPa以上の雰囲気であり、その雰囲気には、水蒸気と共に不活性ガスが共存していてもよい。かかる不活性ガスとしては窒素が挙げられる。酸化性雰囲気を水蒸気雰囲気とすることで、より簡易に内部保護層9を形成することができる傾向にある。
上記条件を調整する際には、先ず、磁石素体3を、酸化性ガス分圧、処理温度、処理時間を適宜変化させながら熱処理して、磁石素体3の表層部の構成と、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件との相関を求める。次に、その相関に基づき、磁石素体3の表面に第1の層6及び第2の層7の両方が形成されるように、熱処理の際に、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。
熱処理により第1の層6及び第2の層7を形成するためには、処理温度を、300〜550℃の範囲で調製することが好ましく、350〜500℃の範囲で調整することがより好ましい。処理温度が上記上限値を超えると、磁石素体3の腐食が発生し易くなる傾向にある。一方、上記下限値未満であると、上記第1及び第2の層6,7が良好に形成され難くなる傾向にある。
また、処理時間は、1分〜24時間の範囲で調整することが好ましく、5分〜10時間の範囲で調整することがより好ましい。処理時間が上記上限値を超えると、磁気特性が劣化する傾向にある。一方、上記下限値未満であると、上記第1及び第2の層6,7が良好に形成され難くなる傾向にある。
酸化性雰囲気が水蒸気雰囲気である場合には、先ず、磁石素体3を、水蒸気分圧、処理温度、処理時間を適宜変化させながら熱処理して、磁石素体3の表層部の構成と、水蒸気分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも一つの条件との相関を求める。次に、その相関に基づき、磁石素体3表面に第1の層6及び第2の層7の両方が形成されるように、熱処理における水蒸気分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。このとき、処理温度及び処理時間は、上述した範囲内で調整することが好ましい。また、水蒸気分圧は、10〜2000hPaの範囲で調整することが好ましい。
第1の層6と第2の層7との総膜厚は、0.1〜20μmとすることが好ましく、0.1〜5μmとすることがより好ましい。この総膜厚を0.1μm未満としようとすると、第1の層6と第2の層7の両層が良好に形成され難くなる傾向にある。一方、総膜厚が20μmを超えるように第1の層6及び第2の層7を形成するのは困難な傾向にある。また、第2の層7の膜厚は、20nm以上であると好ましい。この膜厚が20nm未満であると、第1の層6の腐食を抑制する効果が不十分となり、希土類磁石1の耐食性が低下する傾向にある。
[外部保護層]
外部保護層8は、内部保護層9を覆うように形成された層である。本実施形態の希土類磁石1における外部保護層8は、有機高分子からなる構造単位及び無機高分子からなる構造単位を含む有機無機ハイブリッド化合物を含有する層、又は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む層である。以下、これらの外部保護層8の構成についてそれぞれ説明する。
(有機無機ハイブリッド化合物を含有する外部保護層)
外部保護層8に含まれる有機無機ハイブリッド化合物は、有機分子からなる構造単位及び無機分子からなる構造単位を含む化合物である。以下、説明の便宜上、必要に応じて「有機高分子からなる構造単位」を「有機構造単位」といい、「無機高分子からなる構造単位」を「無機構造単位」という。
有機構造単位としては、炭素原子同士の結合により構成される主鎖を有する高分子構造が挙げられる。当該主鎖は、その一部に炭素以外の原子、例えば酸素原子、窒素原子等を有していてもよい。このような有機構造単位としては、有機化合物から形成される重合体構造であれば特に制限はなく、例えば、付加重合、重縮合、重付加等の各種重合反応により形成された有機化合物の重合体構造が挙げられる。なかでも、ビニル基含有モノマーから形成されるビニル系重合体構造やエポキシ基含有モノマーから得られるエポキシ系重合体構造が好適である。
また、無機構造単位としては、炭素原子以外の元素により構成される主鎖を有する高分子構造が挙げられる。かかる主鎖は、炭素以外の元素として金属原子を含有しており、金属原子と酸素原子とが交互に結合してなる構造を有するものであると好ましい。無機構造単位の主鎖が有している金属原子としては、Si、Al、Ti、Zr、Ta、Mo、Nb又はBが好ましい。
なかでも、−Si−O−結合を含む主鎖を有する高分子構造、特にポリシロキサン構造は比較的容易に合成することが可能であり、種々の構造を有する重合体を形成できることから、無機構造単位における主鎖を構成する重合体構造として特に好ましい。この−Si−O−結合を含む主鎖を有する高分子構造としては、下記式(1);
R1 mSi(OR2)4−m …(1)
で表される化合物及び/又はこの加水分解生成物を、縮合又は共縮合させてなる重合体構造が特に好適である。このような重合体構造からなる無機構造単位は優れた応力緩和性を有しているため、この構造を含む有機無機ハイブリッド化合物を含む保護層は、クラック等が発生し難いものとなる。なお、上記式中、R1は炭素数1〜8の有機基、R2は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、mは1又は2である。R1又はR2が複数存在する場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。
有機無機ハイブリッド化合物としては、有機構造単位と無機構造単位とが共有結合により結合した化合物、有機構造単位と無機構造単位とが水素結合により結合した化合物、又は、芳香環を有する有機構造単位と芳香環を有する無機構造単位とがこれらの芳香環同士の相互作用によって結合した化合物が挙げられる。以下、これらの有機無機ハイブリッド化合物についてそれぞれ説明する。
まず、有機構造単位と無機構造単位とが共有結合により結合した有機無機ハイブリッド化合物について説明する。
有機構造単位と無機構造単位との共有結合は、主に、有機構造単位における炭素原子と無機構造単位における金属原子との間の結合である。この共有結合は、上記炭素原子と上記金属原子とが直接結合してなるものであってもよく、また炭素原子と金属原子とがこれら以外の元素を介して結合したものであってもよい。後者の場合、炭素原子と金属元素との間には、共有結合のみが形成されることになる。なかでも、有機無機ハイブリッド化合物における共有結合は、前者の炭素原子と金属原子とが直接結合してなるものが好ましい。
このような有機無機ハイブリッド化合物は、例えば、以下に示す方法によって形成することができる。すなわち、互いに縮合可能な官能基をそれぞれ有している有機高分子化合物及び無機化合物を準備し、有機高分子化合物と無機化合物との縮合反応を生じさせるとともに、無機化合物同士の縮合反応を生じさせて高分子化し、これにより有機構造単位及び無機構造単位を有する有機無機ハイブリッド化合物を得る方法が挙げられる。
このような製造方法において、有機高分子化合物又は無機化合物が有する縮合可能な官能基の組み合わせとしては、ヒドロキシル基とアルコキシ基の組み合わせやヒドロキシル基同士の組み合わせが挙げられる。また、双方がアルコキシ基を有していてもよく、この場合は、一方のアルコキシ基を加水分解してヒドロキシル基を形成することで、上述した縮合を生じさせることができる。
例えば、有機高分子化合物が、一部に−M1−OR(M1は金属元素)で表される官能基を有し、無機化合物が−M2−ORで表される官能基を有している場合、これらの加水分解−縮合反応によって、−M1−O−M2−で表される結合が生じる。また、無機化合物中の−M2−ORで表される官能基同士で縮合反応が生じ、これにより無機構造単位が形成される。その結果、有機構造単位と無機構造単位とが共有結合により結合した有機無機ハイブリッド化合物が得られる。M1及びM2で表される金属元素としては、縮合反応の容易さ及び入手の容易さ等を考慮すると、Siが特に好ましい。
そして、このような有機無機ハイブリッド化合物を含む外部保護層8は、例えば、上述した有機高分子化合物及び無機化合物を含む溶液を準備し、これを内部保護層9の表面に塗布した後、加熱するか、又は、大気中に放置することにより無機化合物の重合反応(例えば、縮合反応)を生じさせることによって形成することができる。また、外部保護層8は、予め有機無機ハイブリッド化合物を形成しておき、これを内部保護層9の表面に塗布することにより形成してもよい。
次に、有機高分子からなる構造単位と無機高分子からなる構造単位とが水素結合により結合した有機無機ハイブリッド化合物について説明する。
ここで、「水素結合」とは、2原子間に水素が介在して形成される結合のことをいい、一般的にはX−H…Yで表される。X及びYは、水素結合により結合される2つの原子を示し、X−HはX原子と水素の共有結合を示す。つまり、X−Hで表される基とY原子との間で水素結合が形成されている。このような観点からは、かかる有機無機ハイブリッド化合物は、互いに別々の分子である有機高分子と無機高分子とが水素結合によって結合したものと考えることもできる。
有機構造単位及び無機構造単位は、水素結合を形成するために、互いに水素結合を形成可能な官能基を分子中に有している。ここで、水素結合を形成可能な官能基としては、水素結合において水素を供与するプロトン供与性の官能基(上記X−Hで表される基)、及び、水素結合において水素を受容するプロトン受容性の官能基(上述のYを含有する基)の組み合わせが挙げられる。
有機構造単位及び無機構造単位は、それぞれプロトン供与性及びプロトン受容性のうちどちらの官能基を有していても構わないが、有機構造単位がプロトン受容性の官能基を有しており、無機構造単位がプロトン供与性の官能基を有していると好ましい。
有機構造単位の有する、プロトン受容性の官能基としては、電気陰性の大きい酸素原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子等を有する官能基が挙げられる。具体的には、アミド基、イミド基、カーボネート基、ウレタン基が好ましい。なかでも、アミド基が、水素結合を形成する際に高いプロトン受容性を発揮し得ることから特に好ましい。このような有機構造単位(有機高分子)としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、ポリアクリルアミド誘導体、ポリ(N−ビニルカプロラクトン)、ポリビニルアセトアミド又はナイロン誘導体が挙げられる。
無機構造単位におけるプロトン供与性の官能基は、例えば−OH、−NHで表される構造を有する官能基である。このような構造を含む官能基としては、具体的には水酸基やアミノ基が例示できる。なかでも水酸基は、上述したプロトン受容性の官能基と水素結合を良好に形成し得ることから特に好ましい。
このような無機構造単位としては、上記式(1)で表される化合物及び/又はこの加水分解生成物を縮合又は共縮合させてなる重合体構造であって、かかる構造中に、上記縮合又は共縮合反応において−OR2で表されるアルコキシ基が加水分解されて生じた水酸基を有するものが好適である。その結果、主鎖が−Si−O−結合により構成されており、プロトン供与性の官能基である水酸基を有しているポリシロキサンが得られる。
有機構造単位と無機構造単位との間に水素結合が形成されているかどうかは、例えば、フーリエ変換赤外分光測定装置(FT−IR)によって確認することができる。具体的には、外部保護層8の剥離片をFT−IRにより分析すると、水素結合が形成されている場合、水素結合に寄与している官能基が、通常、水素結合に関与していない状態で得られる吸収波数からシフトした位置に吸収を示すようになる。
このような有機無機ハイブリッド化合物は、例えば、プロトン受容性の官能基を有する有機高分子化合物、及び、プロトン供与性の官能基を有する無機化合物を準備し、これらを混合した後、無機化合物の重合を生じさせることにより、有機構造単位及び無機構造単位を有する有機無機ハイブリッド化合物を得る方法が挙げられる。この場合、無機化合物は、上述のアルコキシ基のような、加水分解等の反応後にプロトン供与性の官能基となる官能基を有するものであってもよい。
かかる製造方法に用いる有機高分子化合物としては、上述した有機構造単位を形成し得るポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、ポリアクリルアミド誘導体、ポリ(N−ビニルカプロラクトン)、ポリビニルアセトアミド又はナイロン誘導体が挙げられる。また、無機化合物としては、上記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
そして、このような有機無機ハイブリッド化合物を含む外部保護層8は、例えば、上述した有機高分子化合物及び無機化合物を含む溶液を準備し、これを内部保護層9の表面に塗布した後、加熱、又は、大気中に放置することによりかかる溶液中で無機化合物の重合反応(例えば、縮合反応)を生じさせることによって形成することができる。なお、外部保護層8は、予め有機無機ハイブリッド化合物を形成しておき、これを内部保護層9の表面に塗布することにより形成してもよい。
次に、芳香環を有する有機構造単位と芳香環を有する無機構造単位とがこれらの芳香環同士の相互作用によって結合した有機無機ハイブリッド化合物について説明する。
芳香環とは、芳香族に属する環の総称であり、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン系芳香環、複素芳香環等のような、π電子が非局在化している熱力学的に安定な環状構造をいうものとする。なかでも、有機構造単位及び無機構造単位が有している芳香環としては、ベンゼン環が好ましい。
そして、この有機無機ハイブリッド化合物は、有機構造単位と無機構造単位とが、それぞれの芳香環におけるπ電子同士の相互作用(π−π相互作用)によって弱く結合したものである。このような観点からは、かかる有機無機ハイブリッド化合物は、互いに別々の分子である有機高分子と無機高分子とがπ−π相互作用によって結合したものと考えることもできる。
このような芳香環を有する有機構造単位(有機高分子)は、主鎖又は側鎖のいずれに芳香環を有するものであってもよく、熱可塑性の有機高分子及び熱硬化性の有機高分子の両方を適用できる。熱可塑性の有機高分子としては、ポリスチレン、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。また、熱硬化性の有機高分子化合物としては、繰り返し構造単位中に一つ以上の芳香環を有する、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。
また、芳香環を有する無機構造単位(無機高分子)は、主鎖又は側鎖のいずれに芳香環を有するものであってもよく、例えば、上記式(1)で表される化合物及び/又はその加水分解生成物を縮合又は共縮合させてなる重合体構造であって、R1で表される基の少なくとも1つが芳香環を有する基であるものが好ましい。かかる芳香環は、ベンジル基、β−フェネチル基、p−トルイル基、メシチル基、p−スチニル基又はフェニル基の形で上記式(1)の化合物に導入されていると好ましい。
そして、このような有機無機ハイブリッド化合物を含む外部保護層8は、例えば、上述した有機高分子化合物及び無機化合物を含む溶液を準備し、これを内部保護層9の表面に塗布した後、加熱、又は、大気中に放置することによりかかる溶液中で無機化合物の重合反応(例えば、縮合反応)を生じさせることによって形成することができる。なお、外部保護層8は、予め有機無機ハイブリッド化合物を形成しておき、これを内部保護層9の表面に塗布することにより形成してもよい。
(フェノール樹脂、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂を含む外部保護層)
本実施形態の希土類磁石1において外部保護層8は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂を含む層であってもよい。なかでも、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂と、メラミン樹脂とを組み合わせて含む層であるとより好ましい。
外部保護層8を形成し得るフェノール樹脂としては、アルキルフェノール樹脂やアルキル多価フェノール樹脂が挙げられ、例えば、アルキルフェノール、アルキル多価フェノールのモノマー、オリゴマーやこれらの混合物を硬化して得られたものが例示できる。硬化は、例えば、上述したモノマー等とホルムアルデヒドとを反応させてレゾールを形成した後、得られたレゾールを重合する方法や、ウルシオールと水とを重合する方法により行うことができる。
アルキルフェノール又はアルキル多価フェノールとしては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
式中、R21及びR22はヒドロキシル基又はアルキル基を示し、R21及びR22のうち少なくとも一方はアルキル基である。なかでも、式中のヒドロキシ基のオルト位にヒドロキシ基を有するとともに、メタ位又はパラ位にアルキル基を有するアルキル多価フェノールが好ましい。このようなアルキル多価フェノールとしては、一般にうるし塗料に含まれる成分が好適であり、具体的には、メタ位に−C17H25基を有するウルシオール、パラ位に−C17H33基を有するチチオール又はメタ位に−C17H31基を有するラッコール等が挙げられる。
上記のアルキルフェノール又はアルキル多価フェノールは、還元剤として作用することができるため、硬化の際に高温で熱処理が行われたとしても、磁石素体3は強い還元雰囲気で覆われることとなり、磁石素体3が酸化されることによる劣化を大幅に低減することができる。
また、エポキシ樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ビスフェノール型、ポリオールのグリシジルエーテル型、ポリアシッドのグリシジルエステル型、ポリアミンのグリシジルアミン型、脂環式エポキシ型等のエポキシ化合物が適用できる。また、エポキシ樹脂は、上述したエポキシ化合物に加え、当該化合物を硬化させ得る硬化剤を更に含むことが好ましい。硬化剤としては、例えば、ポリアミン類、ポリアミンのエポキシ樹脂付加物、ポリアミドアミン類、ポリアミド樹脂等が挙げられ、具体的には、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン等が例示できる。
さらに、メラミン樹脂は、メラミン(2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)とホルムアルデヒドを反応させてメチロールメラミンを得た後、これを硬化して得られる樹脂である。このようなメラミン樹脂は、単独で外部保護層8を形成してもよいが、例えば、上述したフェノール樹脂やエポキシ樹脂と組み合わせて用いることがより好ましい。メラミン樹脂は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂中に多くの架橋構造を形成することができることから、これらを組み合わせて含む外部保護層8は、耐熱性及び強度に極めて優れたものとなる。その結果、希土類磁石1の耐食性、耐熱性が一層向上する。
これらの樹脂を含む外部保護層8は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂を溶媒に溶解又は分散させて溶液又はワニスとし、これを内部保護層9の表面上に塗布し、適宜乾燥等を行った後、加熱等により上記樹脂を硬化させることによって形成することができる。
(無機添加剤)
外部保護層8は、上述した有機無機ハイブリッド化合物又は樹脂に加え、無機添加剤を含有していてもよい。このように無機添加剤を含有することで、外部保護層8は、更に優れた耐熱性を有するほか、強度の点においても優れるものとなる。このような無機添加剤は、板状構造を有する無機添加剤(板状無機添加剤)であると好ましく、上記の有機無機ハイブリッド化合物や樹脂、或いは、外部保護層の形成時に用いる溶媒等に対して不溶のものが好ましい。
このような無機添加剤の構成材料としては、例えば、タルク、シリカ、チタニア、アルミナ、カーボンブラック(CB)、酸化亜鉛(ZnO)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO)、硫酸バリウム(BaSO4)等が挙げられる。外部保護層8中の無機添加剤の含有量は、外部保護層8の総質量中、1〜30質量%とすることが好ましい。
以上、好適な実施形態に係る希土類磁石1及びその製造方法について説明したが、このような構成を有する希土類磁石1においては、まず、第1の層6及び第2の層7からなる内部保護層9は、磁石素体3の表面が変化することにより形成されていることから、緻密な構造を有し、また磁石素体3への密着性に優れるという特性を有している。このため、磁石素体3に対する湿気等の外気の影響を良好に低減し得る。また、この内部保護層9を覆うようにされた外部保護層8は、磁石素体3(第2の層7)の表面上に別途設けられた安定な層であるから、磁石素体3由来の層では得られ難い優れた耐熱性を発揮し得る。
特に、外部保護層8が有機無機ハイブリッド化合物を含むものである場合、かかる外部保護層8は、柔軟でありピンホール等が形成され難いという有機分子からなる保護層の特徴と、耐熱性及び耐透湿性に優れるという無機分子からなる保護層の特徴との両方を具備するものとなる。このため、かかる外部保護層8を有する希土類磁石1は、上述した内部保護層9との相乗効果によって極めて優れた耐食性を奏するほか、優れた耐熱性をも発揮し得るものとなる。
また、外部保護層8が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂のうちの少なくとも一種を含む場合、これらの樹脂は、極めて優れた耐熱性を有することから、かかる外部保護層8は、極めて優れた耐熱性を発揮し得るものとなる。その結果、このような外部保護層8を備える希土類磁石1は、内部保護層9による耐食性に加え、外部保護層8による優れた耐熱性を有するものとなる。
従来、希土類磁石の保護層としては、磁石素体の表面を酸化して得られる単層の酸化物層、又は、磁石素体の表面に塗布等により形成された樹脂層等が知られているが、単層の酸化物層のみでは十分な耐食性が得られ難く、また、樹脂層のみでは十分な耐熱性(具体的には、120℃程度を超える温度に耐え得る耐熱性)が得られ難い傾向にあった。これに対し、本実施形態の希土類磁石1は、上述したような内部保護層9と外部保護層8を含む保護層5を備えていることから、上記従来の保護層を備える希土類磁石に比して、耐食性に優れるのみならず、ハイブリッドカーのモーター等の用途において要求される200℃程度の高温にも耐え得る耐熱性を有するものとなる。
なお、本発明の希土類磁石は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を適宜変更することができる。すなわち、まず、上述した実施形態では、磁石として希土類元素を含む希土類磁石を例示したが、これに限定されず、本発明は、希土類元素を含まない金属磁石に適用することもできる。
また、上述した実施形態では、内部保護層8として、第1の層6及び第2の層7を備える2層構造のものを例示したが、これに限定されず、内部保護層8は一層構造のものであってもよい。一層構造の内部保護層8としては、例えば、酸化物層、具体的には、磁石素体3の表面を酸化してなる酸化物層が挙げられる。このような酸化物層は、酸素及び磁石素体に由来する元素(希土類元素及び/又は遷移元素)を含むものが好ましく、希土類磁石においては、磁石素体の主相を構成する元素を含むものがより好ましい。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[希土類磁石の製造]
(実施例1)
粉末冶金法により、組成が13.2Nd−1.5Dy−77.6Fe−1.6Co−6.1B(数字は原子百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を35mm×19mm×6.5mmの寸法に切り出し加工し、実用形状に加工した磁石素体を得た。
次に、得られた磁石素体を2%HNO3水溶液中に2分間浸漬し、その後超音波水洗を施した。それから、この酸洗浄(酸処理)を施した磁石素体を、酸素分圧70hPa(酸素濃度7%)の酸素−窒素混合雰囲気中、450℃で8分間の熱処理を行い磁石素体の表面に内部保護層を形成させた。
その後、溶媒であるキシレン40質量部、熱硬化性アルキルフェノール60質量部を含む組成物を準備し、これを、上記熱処理後の磁石素体の表面に塗布し、常温で乾燥した後、大気中で150℃、30分間加熱して硬化させて、内部保護層の表面上に外部保護層を形成し、希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石を、集束イオンビーム加工装置を用い薄片化し、表面近傍の膜構造を透過型電子顕微鏡(日本電子製のJEM-3010)で観察したところ、磁石素体の表面上には、内部保護層として、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側からこの順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDS(NoraanInstruments社製のVoyagerIII)を用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、磁石素体から遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(実施例2)
外部保護層の形成材料として、熱硬化性アルキルフェノールに代えて、アルキル多価フェノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石の表面近傍の膜構造を実施例1と同様にして観察したところ、磁石素体の表面上には、内部保護層として、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側からこの順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、磁石素体から遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(実施例3)
外部保護層の形成材料として、エポキシ樹脂(アラルダイト)を30質量%更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石の表面近傍の膜構造を実施例1と同様にして観察したところ、磁石素体の表面上には、内部保護層として、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側からこの順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、磁石素体から遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(実施例4)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を製造した後、この磁石素体の表面上に内部保護層を形成した。
また、これとは別に、メタクリル酸メチル28g、メタクリル酸−2−エチルヘキシル6g及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6gを40gの2−プロパノールに加えて混合した後、この溶液に2,2’−アゾイソブチロニトリル1.6gを加え、80℃で6時間反応させて、シリル基を有するアクリル樹脂の溶液を調製した。なお、このアクリル樹脂の分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定したところ、その重量平均分子量は約10000であった(標準ポリスチレンを用いた検量線により換算)。
次いで、このアクリル樹脂の溶液40gに、メチルトリメトキシシラン80g、2−プロパノール15g、及び0.1%アンモニア水17.5gを更に添加し、50℃で5時間反応させることにより、アクリル樹脂とメチルトリメトキシシランの重合体とが結合してなる有機無機ハイブリッド化合物を含む塗布液を得た。
その後、この塗布液を、ディップコーティング法により上述した磁石素体における内部保護層の表面に塗布した後、150℃、20分の条件で加熱を行うことにより、有機無機ハイブリッド化合物からなる外部保護層を形成させ、希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石の表面近傍の膜構造を実施例1と同様にして観察したところ、磁石素体の表面上には、内部保護層として、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側からこの順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、磁石素体から遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(実施例5)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を製造した後、この磁石素体の表面上に内部保護層を形成した。
また、これとは別に、重量平均分子量40000のポリビニルピロリドン20gを2−プロパノールに溶解させ、さらにこの溶液にメチルトリメトキシシラン80g、0.1%アンモニア水17.5gを添加した後、50℃で5時間の熱処理を行いメチルトリメトキシシランの重縮合反応を生じさせて、塗布液を調製した。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した後、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算することにより求めた値である。
この塗布液を、ディップコーティング法により上述した磁石素体における内部保護層の表面に塗布した後、150℃、20分の条件で加熱を行うことにより、外部保護層を形成させ、希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石の表面近傍の膜構造を実施例1と同様にして観察したところ、磁石素体の表面上には、内部保護層として、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側からこの順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、磁石素体から遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(実施例6)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を製造した後、この磁石素体の表面上に内部保護層を形成した。
また、これとは別に、重量平均分子量2000のポリスチレン20gをテトラヒドロフラン(THF)80gに溶解させ、さらにこの溶液にフェニルトリメトキシシラン105g、0.1%アンモニア水17.5gを添加した後、50℃で5時間の熱処理を行いフェニルトリメトキシシランの重縮合反応を生じさせて、塗布液を調製した。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した後、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算することにより求めた値である。
この塗布液を、ディップコーティング法により上述した磁石素体における内部保護層の表面に塗布した後、150℃、20分の条件で加熱を行うことにより、外部保護層を形成させ、希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石の表面近傍の膜構造を実施例1と同様にして観察したところ、磁石素体の表面上には、内部保護層として、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側からこの順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、磁石素体から遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(実施例7)
外部保護層の形成材料として、無機添加剤であるタルク(H2Mg3O12Si4)を更に含むものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして希土類磁石を得た。なお、タルクの配合量は、外部保護層中のタルクの含有量が20体積%となるようにした。
(比較例1)
実施例1と同様にして磁石素体を形成した後、この磁石素体の表面上に内部保護層を形成し、これを比較例1の希土類磁石とした。得られた希土類磁石を、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察したところ、磁石素体の表面上には、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側から順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体に隣接する層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、遠い側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
(比較例2)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を製造した。その後、内部保護層は形成させずに、この磁石素体の表面上にビスフェノール型エポキシ樹脂塗料を塗布し、これにより厚さ10μmの保護層を形成させて、希土類磁石を得た。
(比較例3)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を製造した後、この磁石素体の表面上に内部保護層を形成した。次いで、この内部保護層の表面上に、シリコーン樹脂塗料(SR2410、東レシリコーン社製)を塗布し、厚さ10μmの保護層を形成させ、希土類磁石を得た。
[特性評価]
(塩水噴霧試験)
実施例1〜7及び比較例1〜3の希土類磁石に対し、JIS K5600−7−1に準拠して、5%の塩水を35℃で、96時間噴霧する塩水噴霧試験を行った。その結果、実施例1〜7の希土類磁石、及び、比較例2〜3の希土類磁石では錆の発生が見られなかったのに対し、比較例1の希土類磁石では錆の発生が見られた。
(耐熱試験)
実施例1〜7及び比較例1〜3の希土類磁石を、新日本石油社製ATF(オートミッショントランスファーフィールド)に水を添加した溶液に、120℃、500時間の条件で浸漬する浸漬試験を行った。その結果、実施例1〜7の希土類磁石及び比較例1の希土類磁石は、浸漬後の磁束劣化がいずれも0.05%以下であったのに対し、比較例2,3希土類磁石は、外部保護層の剥離が生じ、浸漬後の磁束劣化がそれぞれ3.2%及び2.4%となった。
以上の塩水噴霧試験及び耐熱試験の結果から、実施例1〜7の希土類磁石は、耐食性及び耐熱性の両方の特性に優れることが確認された。これに対し、比較例1の希土類磁石は、耐熱性に優れるものの耐食性がやや低く、また、比較例2,3の希土類磁石は、耐食性に優れるものの、耐熱性が極めて低いことが確認された。