JP4274844B2 - 透明プラスチックフィルム積層体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は透明プラスチックフィルム積層体に関するものであって、より具体的には、例えば高温高湿下のような環境下であっても、また視認性を確保しようと設計した場合であってもガスバリア層と基材との間の層間密着力が維持出来る透明プラスチックフィルム積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、酸素や水蒸気等に対するバリア性を備えた透明プラスチックフィルム積層体として種々の物が開発され、利用されている。例えばアルミニウム箔を蒸着した透明プラスチックフィルム積層体を原反とした袋はスナック菓子等の包装に広く用いられているし、また酸化珪素や酸化アルミニウム等を蒸着してなる透明プラスチックフィルム積層体は、透明性や視認性に優れた物として、食品全般、医薬品などの包装用袋の他に、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、タッチパネル等の電子機器を構成する部品の一部などに広く用いられている。
【0003】
このように、金属、金属酸化物や無機酸化物などをプラスチックフィルムの表面に蒸着した透明プラスチックフィルム積層体は、すでに日常生活の中において広く利用されているが、それに伴い様々な問題が指摘され始めている。
【0004】
例えば上述した種々の透明プラスチックフィルム積層体であって、例えばこれを包装用袋として利用するレトルト食品用袋の場合、開封前に袋ごと加熱することが行われるが、その際に袋の原材料である無機蒸着フィルムの蒸着膜と基材フィルムとの密着力が低下してしまい、即ち膜剥離が生じてしまい、そのためにガスバリア性が著しく低下してしまい問題である。即ち、無機蒸着フィルムは蒸着膜を形成する無機層の内部応力などにより基材フィルムから剥離しやすいのであるが、特に高温高湿下では内部に水が進入し、より密着力が低下してしまうのである。
【0005】
また、タッチパネルや有機ELなどに用いられる透明プラスチックフィルム積層体では、視認性を確保するために、例えば酸化珪素や酸化アルミニウムを蒸着した透明な透明プラスチックフィルム積層体を用いる事が行われているが、このように視認性を確保しようとした透明プラスチックフィルム積層体におけるガスバリア層と基材フィルムとの間に生じる密着力は容易に向上させられなかった。
【0006】
そこで、このような層間密着力低下発生という問題を解消するために、基材を予めプラズマクリーニングする、膜形成を化学蒸着法により行う、蒸着膜に対してアンカーコーティングを施す、等の手法が提案されてきたが、これらの方法であれば工程が増えることにより設備拡張が必要となり、ひいてはコスト増大を招く結果となり、さらにこのような処理を施しても層間密着力低下を防ぐことはできず、好ましいものではなかった。
【0007】
そこで、より簡潔な方法として酸化珪素単独からなる第1層と、炭素を含む酸化珪素からなる第2層と、を順に積層することにより、高湿下やボイル、レトルト処理時においても密着力が低下しない透明プラスチックフィルム積層体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
【特許文献1】
特開平8−48369号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この特許文献1に記載の手法では酸化珪素を蒸着膜として利用する場合に限定される、最低でも2層積層しなければならない、という条件が課せられており、より幅広く一般的に利用するのが困難であった。そのため、より簡潔な手法によって密着力を維持できる手法の開発が望まれている。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、金属酸化物である酸化珪素をターゲットとし、これを蒸着することでガスバリア層を積層した透明プラスチックフィルム積層体であって、高温高湿下、例えばレトルト処理やボイル処理を施す時であっても層間密着力の低下を生じない、また透明性を維持出来る、層間密着力の低下を生じない透明プラスチックフィルム積層体を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、プラスチックフィルム基材の片面に、金属酸化物である酸化珪素をターゲットとし、これを蒸着することによりガスバリア層を積層したプラスチックフィルム積層体であって、前記ガスバリア層に、遷移元素である鉄が、前記ガスバリア層中において、ガスバリア層に対する質量比で1%以上50%以下の割合で混合されてなること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の透明プラスチックフィルム積層体において、前記遷移元素は、蒸着前に前記ターゲットに予め混合されてなること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の透明プラスチックフィルム積層体において、前記遷移元素は、前記ガスバリア層が形成された後、前記ガスバリア層に注入されてなること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透明プラスチックフィルム積層体において、前記プラスチックフィルム基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムであること、を特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
本願発明にかかる透明プラスチックフィルム積層体について、第1の実施の形態として説明する。この透明プラスチックフィルム積層体は、プラスチックフィルム基材の片面に、金属酸化物である酸化珪素をターゲットとし、これを蒸着してガスバリア層を積層した透明プラスチックフィルム積層体であって、前記ガスバリア層に、遷移元素である鉄が混合されていること、を特徴とするものである。
【0017】
以下、各部材につき簡単に説明する。
まず、基材となるプラスチックフィルムは、特に制限はなく、通常用いられている公知の透明なものであって構わない。例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリビニルアルコールフィルム、シクロオレフィン系フィルム等であれば好適に利用できる。特にPETフィルムであれば、すでに比較的安価で広く流通しており入手も容易である、基本物性が安定して高水準である、等の理由により、大変好適に利用出来る。
【0018】
次に、ガスバリア層について説明する。
このガスバリア層には既述の通り鉄が混入されているが、これはガスバリア層をプラスチックフィルム基材に蒸着する前に、蒸着源であるターゲットに予め鉄を混合することにより形成されていてもよいし、先にガスバリア層をプラスチックフィルム基材に蒸着してガスバリア層を形成した後にガスバリア層に鉄を注入してもよいが、本実施の形態では、蒸着源であるターゲットに予め鉄を混合させることにより、鉄が混入されているガスバリア層を形成するものとする。
【0019】
ここで鉄はガスバリア層中において、ガスバリア層に対する質量比で1%以上50%以下の割合で混合されていることが望ましい。またより好ましくは5%以上20%以下であることが一層好適なものとなる。これは1%以下であれば高温高湿下でのガスバリア層とプラスチックフィルム基材との剥離が生じてしまいやすくなり、また50%以上であれば透明プラスチックフィルム積層体としてのガスバリア性能が好適であっても透明性が確保できなくなるため、高温高湿下においても層間密着力を維持し、いわゆる膜剥がれが生じない、透明性、換言すれば視認性を確保した透明プラスチックフィルム積層体を得るという本実施の形態に係る目的を達するためには上記範囲とすることが望ましいのである。
【0020】
尚、ガスバリア層が形成された後に鉄を注入することにより、一定量の鉄を含むガスバリア層を形成することも可能であり、また注入する方法は自由であるが、特に限定しないが、この手法等については改めてここでは詳述しない。
【0021】
尚、利用する鉄の純度については適宜選択すればよいが、高純度の物であるほど好適な結果を得ることが出来る。尚、本実施の形態における発明者による実験では、純度99%の鉄を使用した。
【0022】
また本実施の形態におけるガスバリア層を形成する金属酸化物としては酸化珪素を用いているが、これ以外のものであっても構わない。
【0023】
以上説明した本実施の形態における透明プラスチックフィルム積層体の製造方法につき、簡単に説明する。
【0024】
まず任意の膜厚を有する透明プラスチックフィルム基材を用意する。次いで、これに蒸着する蒸着源であるターゲットを用意する。このターゲットは、酸化珪素と鉄とよりなるものであるが、予め酸化珪素に対する一定の質量比で鉄を混入させておく。
【0025】
そして鉄が混入されたターゲットを用いて、例えば電子ビーム(EB)蒸着法により透明プラスチックフィルム基材の表面にガスバリア層を形成する。当然、このガスバリア層において、一定の質量比で鉄が混入された状態となっている。
【0026】
このように簡潔な手法を用いるだけで、層間密着力が周囲の状態に左右されることなく常に維持できる透明プラスチックフィルム積層体を得られるのである。
【0027】
そして得られた透明プラスチックフィルム積層体は高温高湿下であっても層間密着力が低下することなく、また透明性も維持できるので、これを例えばレトルト食品などの包装用袋に用いれば、袋ごとレトルト処理を施しても膜剥がれが生じることもなく、即ちガスバリア性が低下することもなくなる、またタッチパネルや有機ELの部品として用いても、同様に膜剥がれが生じないため、常にガスバリア性を維持でき、ひいてはタッチパネルや有機ELの性能低下を引き起こさない、というように、大変効果的な、層間密着力を常に維持できる透明プラスチックフィルム積層体を得られる。
【0028】
尚、本実施の形態にかかる透明プラスチックフィルム積層体は、包装用、電子部材以外の用途であっても、透明性と高温高湿下におけるガスバリア性能の維持が必要であるものであれば、上記以外の用途であっても使用可能である。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を示して本発明の説明をするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではないことを予め断っておく。
【0030】
(実施例1〜5)
まず、一定の質量比となるように予め鉄を混合してなる、酸化珪素(SiO)ターゲットを用意する。次いで、膜厚12μm、A4サイズのPETフィルム(帝人株式会社製)を用意する。
そしてEB蒸着法により、鉄が混合された酸化珪素ターゲットを用いて、A4サイズのPETフィルムにガスバリア層を積層する。
次いで、得られた透明プラスチックフィルム積層体に対し、ガスバリア層の表面にウレタン系接着剤(本実施例ではポリオールとイソシアネートとを混合して得られた接着剤を用いた。)を膜厚が2μmとなるように塗布し、さらにその上に膜厚50μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を貼り合わせた後、60℃で4日間エージングした。
混合された鉄の質量比は、それぞれ10%、20%、40%、50%、60%とした。またその純度は99%のものを使用した。
【0031】
(比較例1)
酸化珪素(SiO)ターゲットに何も混合させず、後は上記実施例と同様にして、透明プラスチックフィルム積層体を得た。そして実施例と同様にして、ガスバリア層の表面にウレタン系接着剤(本実施例ではポリオールとイソシアネートとを混合して得られた接着剤を用いた。)を膜厚が2μmとなるように塗布し、さらにその上に膜厚50μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を貼り合わせた後、60℃で4日間エージングした。
【0032】
上記実施例1〜5及び比較例1の、合計6つのサンプルにおけるガスバリア層の厚みは全て300Åである。
【0033】
得られた6つのサンプルに対し、PETフィルムとCPPとの引き剥がしテストを行った。具体的には引っ張り試験機(株式会社島津製作所製 機械名「AGS100A」)を用いて引き剥がし試験を行った。
【0034】
その結果を表1に示す。尚、表1では本引き剥がしテストにおけるラミネート強度の数値を記載してあるが、その単位はg/15mmである。
【0035】
【表1】
Figure 0004274844
【0036】
上記表1において、「ブランク」はレトルト処理を施していないものである。
「WET」は剥離界面を水に濡らした状態で引き剥がしたものであり、「DRY」は乾燥状態で引き剥がした物である。
「レトルト」は120℃で30分、それぞれ水で茹でた処理を行ったことを示す。尚、ここでレトルトは加圧状態で実行した。
又表において「破」とあるのは、PETフィルムが破断した事を示している。
【0037】
この表1より分かるように、実施例1〜5においては、DRYとWET、ブランクとレトルトとの間における密着力の劣化は一切みられない。しかし比較例1の場合は、明らかにWETにおける密着力の低下がみられる。
【0038】
即ち、本発明に係る、遷移元素である鉄を予め混入したガスバリア層を設けた透明プラスチックフィルム積層体であれば、従来の遷移元素を含まないガスバリア層を設けた透明プラスチックフィルム積層体に比べて、高温高湿下における層間密着力の低下を防止出来ることが分かる。
【0039】
【発明の効果】
以上のように、本願発明にかかる透明プラスチックフィルム積層体によれば、ガスバリア層に遷移元素、特に鉄を注入する、という非常に簡潔な手法でもって、高温高湿下における膜剥がれを防止することが出来るようになり、例えばこの透明プラスチックフィルム積層体をレトルト処理が必要な食品等に用いても処理中に膜剥がれ、ガスバリア性の低下、という現象を防止できるようになる。

Claims (4)

  1. プラスチックフィルム基材の片面に、
    金属酸化物である酸化珪素をターゲットとし、これを蒸着することによりガスバリア層を積層したプラスチックフィルム積層体であって、
    前記ガスバリア層に、遷移元素である鉄が、前記ガスバリア層中において、ガスバリア層に対する質量比で1%以上50%以下の割合で混合されてなり、かつその厚みが300Åであること、
    を特徴とする、透明プラスチックフィルム積層体。
  2. 請求項1に記載の透明プラスチックフィルム積層体において、
    前記遷移元素は、蒸着前に前記ターゲットに予め混合されてなること、
    を特徴とする、透明プラスチックフィルム積層体。
  3. 請求項1に記載の透明プラスチックフィルム積層体において、
    前記遷移元素は、前記ガスバリア層が形成された後、前記ガスバリア層に注入されてなること、
    を特徴とする、透明プラスチックフィルム積層体。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透明プラスチックフィルム積層体において、
    前記プラスチックフィルム基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムであること、
    を特徴とする、透明プラスチックフィルム積層体。
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