JP4274802B2 - 白金族の貴金属回収方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は使用済みのフェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層から、貴金属を回収する方法に関するものである。更に詳しく述べると、この触媒層を特定範囲の濃度及び温度の塩酸に浸漬することにより、触媒層を担持するステンレス鋼の表面の腐食と発生した水素ガスによって、触媒層を剥離・回収した後貴金属を塩素を含む塩酸等で溶解し、電気分解法等によって貴金属を回収する方法である。
【0002】
【従来の技術】
現在貴金属含有触媒は化学工業や自動車排気ガス処理等に広く用いられている。貴金属は高価且つ有限でありまた資源保全の観点からも、廃触媒等からの貴金属の回収は重要な課題である。このため以前から研究され多くの回収方法が開示されている。
【0003】
自動車排気ガス処理に用いられている触媒には、セラミックベースに担持させた触媒と金属ベースに担持させた触媒がある。金属ベースに担持させた触媒の担体は、主としてフェライト系ステンレス鋼(Fe-Crが主成分) の波箔と平箔を交互に巻いて円筒形としたハニカム構造体からなり、その表面に貴金属を含有させたアルミナがコーティングされている。このハニカム体は更に金属製の円筒形の外筒に装入して使用される。
【0004】
金属ベースに担持させた貴金属触媒から貴金属を回収する方法としては、この触媒をアルカリ溶液中で熱処理して、貴金属を担持したアルミナを剥離、回収した後にアルミナ層を強酸処理して、貴金属を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、金属ベースに担持させた貴金属触媒を硝酸中で加熱溶解して、貴金属を担持したアルミナ層をメタル担体から剥離し、更に硝酸に塩酸を添加して貴金属を溶解、回収する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
或いは、金属ベースに担持させた貴金属触媒の加熱と水冷を繰り返し、金属ベースとアルミナ層との熱膨張率の差を利用して、貴金属を担持したアルミナ層を剥離回収後、回収したアルミナ層を強酸処理して貴金属を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
【特許文献1】
特公平6-55277 号公報(第2頁)
【特許文献2】
特開平3-154640号公報(第2頁)
【特許文献3】
特開平11-158563 号公報(第2−3頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述の様に、使用済みのフェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層から貴金属を回収するため、多くの方法が開示されている。しかし、これらの方法は何れも工程が複雑で薬液所要量が多く、廃液処理が容易でないか、或いは回収装置が大型でその構造が複雑でありコンパクト化が困難である等の問題点があった。本発明は薬液所要量及び廃液処理量の減少と装置のコンパクト化によって、経済性を高めた回収方法を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
フェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層(以下、貴金属含有触媒層という)から、貴金属を回収する方法の一つが前記の特公平6-55277 号公報に開示されている。しかし、この方法では、貴金属含有触媒層を剥離せしめた後貴金属を強酸で溶解するためには、アルカリを中和し更に酸を加えて貴金属を溶解する必要がある。このため工程が複雑化すると共に、薬液所要量と廃液処理量が増加する他、後述の比較例7にも示す様に、貴金属の回収率が低い難点がある。
【0010】
また、特開平3-154640号公報に開示されている方法では、硝酸で触媒層を溶解・剥離後、硝酸に塩酸を添加して貴金属を溶解するため、溶解後の硝酸・塩酸混合廃液は循環使用ができず、この様な組成の薬液はその他の分野でも再利用できる用途は限られているため、結局薬液所要量及び廃液処理量が増加してコストアップが避けられない。
【0011】
更に、特開平11-158563 に開示されている方法では、水蒸気爆発の危険性があり、またメタル担体のハニカム体のガス流路に水を10〜50リットル/ 分・ cm2 注入するための複雑で大型な設備が必要となって、設備費が嵩むためコストアップが避けられない。
【0012】
これらの方法は何れも担体のステンレス鋼を損傷せずに、触媒層を剥離・回収する方法であり、その中でも、薬液による剥離方法では薬液の循環・再使用ができないため、多量の薬液と廃液処理が必要となる。今後環境への配慮から廃液処理の費用及び設備費は益々増大すると考えられる。本発明者は担体のステンレス鋼を損傷させても、薬液所要量及び廃棄量を大幅に減少させれば、却って経済性を向上させ得る可能性があるとの観点から、塩酸で担体のステンレス鋼の表面を腐蝕することにより、触媒層を剥離・回収する方法について検討した。
【0013】
その結果、触媒層が担持されているステンレス鋼表面の溶解に使用された塩酸を補充するのみで循環・再使用が可能である。更に水洗・回収された触媒層に含まれる貴金属を、王水または塩素を含んだ塩酸で溶解し、電気分解法で回収すれば溶媒も循環・再使用が可能となる。従って、この両プロセスを組み合わせれば、薬液所要量は触媒層剥離工程及び、貴金属溶解工程で消費される塩酸及び少量の王水等の補充分のみとなり、廃液処理量及びその処理設備費も著しく減少する。このため、塩酸による担体のステンレス箔ハニカム体の損傷費を考慮しても尚、貴金属回収工程全体の経済性を向上させ得る余地が考えられる。
【0014】
その結果、貴金属含有触媒層を塩酸に浸漬した場合、塩酸がポーラスなアルミナ層に浸透してステンレス鋼の表面に接触すると、ステンレス鋼と反応して水素ガスが発生する。この際塩酸の濃度及び温度が一定の範囲以上に達すると、水素ガス発生量が急激に増加し、そのガス圧が高まるためアルミナ層の剥離が促進されることに着目した。塩酸濃度が 5.0 N以上で、且つ温度 50 ℃以上となると、ステンレス鋼の表面で発生した水素ガスによって、触媒層の剥離が促進されることが認められる。
【0015】
一方、フェライト系ステンレス鋼の表面が塩酸で腐食された場合、表面各部の浸食程度が均一ではなく、その結果表面には不規則な凹凸形状が生成する。この現象はその他の耐酸性金属材料として化学装置に使用される、銅等が塩酸で腐蝕された場合表面が比較的均一に腐食されるのに較べて、ステンレス鋼の表面腐蝕の顕著な特徴である。しかしてステンレス鋼の侵量に対する不均一性すなわち、部分的に生ずる浅深の度合は、浸食速度が速い程大きくなる。
【0016】
このため塩酸の濃度及び温度が一定範囲以上に達すると、ステンレス鋼の表面に生成する凹凸の程度が益々激しくなり、そのため侵蝕度すなわち金属成分の溶解量が或る程度以上に達しても、尚部分的に未剥離の触媒層が残存する状態となる。その結果、触媒層を完全に剥離するために要する塩酸所要量が大幅に増加することに注目した。すなわち、貴金属含有触媒層を完全にステンレス鋼の表面から剥離して、貴金属を経済的に回収するためには、一定の範囲の塩酸濃度及び処理温度、浸漬時間で処理する必要があることが分かった。
【0017】
更にこの様な上限及び下限の範囲内で、貴金属含有触媒層と接触するステンレス鋼の表面を、一定範囲の時間内腐蝕・溶解させることによって、未剥離の触媒層が残存せずに、塩酸消費量を低下させ、且つ設備のコンパクト化が可能となり、経済性が向上できることが分かった。また、バッチ式で処理した場合には、反応時間と共に塩酸濃度が低下するため、反応の終末段階では反応速度が低下して、ステンレス鋼の表面に生成する凹凸のばらつきの生成が抑制される効果もあるため、更に塩酸所要量が減少して設備のコンパクト化も可能となる。これらの知見に基づいて詳細に貴金属含有触媒層の剥離率と塩酸所要量との関係及び、貴金属回収率について検討した結果本発明に到達した。
【0018】
すなわち、フェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層を、濃度 5.0 N以上、10.0 N以下の塩酸温度50℃以上、90℃以下、溶解時間10分以上、30分以下の範囲内において予め該ステンレス鋼の表面の腐蝕・溶解による、水素ガスの発生速度及び、塩酸濃度低下の推移状況と、溶解時間と貴金属回収率との関係について試験し、その結果に基づいて、塩酸濃度、溶解温度及び溶解時間を設定する。
【0019】
該設定条件に従って、該ステンレス鋼の表面部分を腐蝕・溶解して、その表面と触媒層との間に間隙を生成させ、更にステンレス鋼の腐蝕によって発生した水素ガスの圧力と相まって、該触媒層を該ステンレス鋼の表面より剥離・回収した後、該触媒層に含まれる貴金属を、塩素を含有する塩酸または王水で溶解し、得られた溶解液から貴金属を回収することを特徴とする、白金族の貴金属回収方法である。ここで、貴金属を含む触媒層の剥離を回分操作で行う方法も本発明に含まれている
【0020】
フェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層を、塩酸に浸漬する工程または / 及び、浸漬後の洗浄工程を要すれば更に回分操作及び / または超音波照射の下で該触媒層を該ステンレス鋼の表面より剥離・回収する。剥離された該触媒層に含まれる貴金属を、塩素を含有する塩酸または王水で溶解して得られた溶解液から、電気分解法によって白金族の貴金属を回収する、請求項1または2に記載の白金族の貴金属回収方法である。尚、貴金属含有触媒層をその表面にコートされた、フェライト系ステンレス鋼の箔からなる担体は、その構造的な特徴からハニカム状成形体と言われることもある。以下、本発明について詳しく説明する。
【0021】
貴金属含有触媒層はポーラスなγ- アルミナからなり、その中に貴金属として白金、パラジウム及びロジウムの一種または複数種類が含まれている。貴金属含有触媒層の担体には、通常厚さ約 50 〜60μm 程度の薄いフェライト系ステンレス鋼の箔が使用される。この平箔と波箔を交互に巻いたハニカム状成形体の表面に、貴金属含有触媒層がコートされている。このハニカム状成形体は通常更にフェライト系ステンレス鋼のケースに収納されて使用される。
【0022】
使用済の貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体から、本発明方法によって貴金属を回収する場合には、濃度 5.0 N以上、10.0 N以下の塩酸に、温度50℃以上、90℃以下で浸漬する必要がある。この際塩酸はポーラスなアルミナ層を浸透して、テンレス鋼の表面を浸食し水素ガスを発生させるが、塩酸濃度が 5.0N以上で、且つ温度 50 ℃以上になると、水素ガス発生量が急激に増加してそのガス圧が高まり、そのため触媒層の剥離が促進されるからである。
【0023】
塩酸濃度が 5.0 N以下或いは、温度 50 ℃以下では腐食速度が低下するため、水素ガス発生量が少なく、貴金属含有触媒層の剥離が不十分となるため、本発明には適用できない。尚、使用後鉄及びクロム等の金属塩化物が含まれている塩酸も、或いは他の金属精錬工程等から排出された廃塩酸でも、濃度が 5.0N 以上の塩酸であれば本発明に使用可能である。
【0024】
一方、塩酸濃度が 5.0 N以上で、且つ温度 50 ℃以上となると、水素ガス発生量が増加する傾向は塩酸の濃度及び温度が高まる程促進される。しかし、塩酸濃度が 10.0 N 以上か、或いは温度 90 ℃以上となると、塩酸によるステンレス鋼表面の腐食速度が益々高まり、その結果、浸食されてステンレス鋼の表面に生成する凹凸の度合が益々激しくなる傾向が認められる。
【0025】
更にこの腐食量のばらつきは、ステンレス鋼表面の腐食速度が高まる程増大する。このために腐食が進んでも尚部分的に未剥離の触媒層が残存するため、完全に触媒層を剥離するために要する塩酸所要量が大幅に増加する。従って、本発明に適用される塩酸濃度及びその温度は 10.0 N 以下で、且つ 90 ℃以下とする必要がある。尚、貴金属含有触媒層の剥離工程において、触媒層に含まれるアルミナも多少溶解されるが、触媒層を剥離する場合の障害にはならない。
【0026】
また塩酸濃度が 10.0 N 以上になると、水素ガスの発生速度が更に急激となるため、突沸して危険があるので火傷・爆発等の危険防止の設備が必要となる。また、塩化水素ガスの発生量も増加するため、環境対策のための設備も必要となる。これらの点から塩酸濃度が 10.0 N 以上になると、経済性が一層低下するので本発明には不適当である。
【0027】
前述の塩酸濃度及び浸漬温度が一定の範囲内において、貴金属含有触媒層を担体であるハニカム状成形体の表面から、完全に剥離するために要する時間は、塩酸濃度及び浸漬温度によって変化するが、浸漬時間を 10 分以上、30分以下の範囲内とする必要がある。浸漬時間が 10 分以下となると、触媒層の剥離が不十分となる。また、浸漬時間が 30 分以上となると、ステンレス鋼表面の浸食量が増大すると共に、溶液中の塩化鉄及び塩化クロムの含有量が増加し、系外に排出される薬液量が増加して、経済性が大幅に低下するため本発明には不適当である。
【0028】
更に前述の貴金属含有触媒層を塩酸に浸漬して、担体のステンレス鋼の表面を腐食し触媒層を剥離・回収する工程おいて、触媒層に超音波照射をすることにより剥離を促進させることができる。これはポーラスなアルミナ層とハニカム状成形体との接触面への塩酸の浸透速度を高めると共に、ハニカム状成形体表面のステンレス鋼の腐食を促進するためである。この工程で照射される超音波の周波数は、工業的に用いられている周波数 28KHz, 45KHz または 100KHz が好適である。また、ムラなく超音波を照射するためには、超音波発振子或いはハニカム成形体を移動させることがより好ましい。更に、剥離された触媒層を担体のハニカム状成形体から分離洗浄する工程においても、前記と同様に超音波照射をすることにより触媒層の担体からの分離を促進して、触媒層の回収率を高めるために有効である。
【0029】
剥離後洗浄された触媒層に含まれる貴金属は、塩素を含有する塩酸または王水により溶解される。塩素を含有する塩酸の濃度は特に限定しないが、例えば 35 %塩酸に塩素ガスを吸収させたものが好適である。また、王水は塩酸と硝酸との混合比率が多少変化しても使用可能である。
【0030】
得られた溶解液から貴金属を回収するには、抽出分離法により貴金属を分離した後、化学還元法によって回収する方法或いは、電気分解法により貴金属を分離回収する方法等が適用可能である。電気分解法はコンパクト化が可能で、設備費及び運転コストが安価であり、また回収された貴金属を精製高純度化し易いため好適である。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0032】
(実施例1)
貴金属含有触媒層を担持した、厚さ50μm のフェライト系ステンレス鋼で形成されている、直径89 mm 、高さ 136 mm の使用済みのハニカム状成形体から、白金及びパラジウムの回収を行った。貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体 (外筒を含む) の重量は 880g 、白金含有量 0.88g、パラジウム含有量 2.64g及び、アルミナ重量 88 .0g である。このハニカム状成形体から次の方法によって白金及びパラジウムを回収した。
【0033】
この触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 8.0N の塩酸に、温度 80 ℃で20分間浸漬した。この時のハニカム状成形体表面のステンレス鋼の金属成分溶解量は、その重量変化から 20.5 %であった。ハニカム状成形体と外筒は容易に分離され、分離したハニカム状成形体を回収し、篩の上で成形体を洗浄し塩酸と洗浄液を濾過して、貴金属含有触媒層を回収した。触媒量は 87.1g であった。ここで、ステンレス鋼の腐食で生成した金属成分溶解量はこの工程における、塩酸消費量の指標ともなっている。また、この溶解された成分には白金及びパラジウム等の貴金属は含まれていない。
【0034】
前記の様にして回収した貴金属含有触媒層を、濃度 35 %塩酸(11.27 N) に塩素をバブリングさせながら、温度 100℃に加熱して白金及びパラジウムを溶解した。得られた貴金属を含む溶解液の白金含有量は 7.43 g/l 、パラジウム含有量は 22.3 g/l であり、この溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した。この溶解液に含まれている白金及びパラジウムは剥離された触媒層に含まれていたものの他、剥離工程で塩酸中に懸濁し、洗浄・濾過工程で回収されたものも含まれている。この溶解液から電気分解法による白金及びパラジウムの回収率はほぼ100 %であり、その結果貴金属含有触媒層からの白金及びパラジウムの回収率は、それぞれ 98.9 %及び 98.7 %であった。
【0035】
一方、前記の塩酸に塩素をバブリングさせながら溶解して得られた溶解液から、DHS(ジ-n- ヘキシルスルフィド) により、パラジウムを抽出した後、28%アンモニア水で逆抽出し、得られた逆抽出液を水素で還元して白金及びパラジウムを回収した。その結果、貴金属含有触媒層からの白金及びパラジウムの回収率はそれぞれ 98.3 %及び 97.9 %であった。
【0036】
更に、前記の塩酸に塩素をバブリングさせながら溶解して得られた溶解液の代わりに、王水で溶解した場合には電気分解法による回収率が 99.3 %であり、貴金属含有触媒層からの白金及びパラジウムの回収率はそれぞれ 98.3 %及び 98.2 %であった。何れの方法でも回収率は良好であった。
【0037】
(実施例2)
実施例1において、貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、塩酸に浸漬した後濾過して得られた使用済塩酸の濃度を 8.0N に調整して、再度ハニカム状成形体から貴金属含有触媒層を剥離するために用いた以外は、実施例1と同様に処理して、貴金属含有触媒層を回収した。
【0038】
その結果、回収した触媒層は 86.8gであり、回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 98.1 %及び 98.1 %であった。使用済の塩酸を濃度調整した後再度使用したが、貴金属の回収率は良好であった。
【0039】
(実施例3)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体の塩酸浸漬時、触媒層に 28 KHz の超音波を2分間照射した以外は実施例1と同様に処理して、触媒層をハニカム状成形体から剥離・回収した。その結果、回収した触媒層は 87.8gであり、触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた白金及びパラジウムの溶解液から電気分解法によってこれらの貴金属を回収した。白金及びパラジウムの回収率はそれぞれ 99.4 %及び 99.2 %であった。超音波照射によって貴金属の回収率が、実施例1より更に向上したことが認められる。
【0040】
(実施例4)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 6.0N の塩酸に温度60℃で、12分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体表面の金属成分溶解量は、その重量変化から 14.5 %であり、回収した触媒層は 86.2gであった。回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた白金及びパラジウムの溶解液から電気分解法によって、これらの貴金属を回収した。白金及びパラジウムの回収率はそれぞれ 97.4 %及び 97.2 %であった。貴金属の回収率は良好であった。
【0041】
(実施例5)
実施例4において、貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、塩酸に浸漬した後濾過して得られた使用済塩酸の濃度を 8.0N に調整して、再度ハニカム状成形体から貴金属含有触媒層を剥離するために用いた以外は、実施例1と同様に処理して、貴金属含有触媒層を回収した。
【0042】
その結果、回収した触媒層は 86.9gであり、回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 98.3 %及び 98.4 %であった。使用済の塩酸を濃度調整した後再使用したが、貴金属の回収率は良好であった。
【0043】
(実施例6)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 9.5N の塩酸に温度 85 ℃で、25分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体の金属成分溶解量は、その重量変化から 25.1 %であった。また、回収した触媒層は 87.2gであり、触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 98.1 %及び98.3%であった。貴金属の回収率は良好であった。
【0044】
(実施例7)
実施例6において、貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、塩酸に浸漬した後濾過して得られた使用済塩酸の濃度を 8.0N に調整して、再度ハニカム状成形体から貴金属含有触媒層を剥離するために用いた以外は、実施例1と同様に処理して、貴金属含有触媒層を回収した。
【0045】
その結果、回収した触媒層は 86.7gであり、回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 98.1 %及び 98.0 %であった。使用済の塩酸を濃度調整した後再使用したが、貴金属の回収率は良好であった。
【0046】
(比較例1)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 3.0N の塩酸に温度40℃で、 5分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体表面の金属成分溶解量が 5.6%であったが、尚、外筒とハニカム状成形体は分離できず、且つ触媒層も 50 %しか回収できなかった。回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解し、得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 48.0 %及び 48.0 %であった。触媒層の剥離が不十分であり、そのため貴金属の回収率が低い結果となった。
【0047】
(比較例2)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 12.0Nの塩酸に温度 100℃で、40分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。触媒層の塩酸浸漬時に溶液が突沸し危険であった。また、ハニカム状成形体表面の金属成分溶解量は、その重量変化から 51.1 %であり、回収した触媒層は 86.8gであった。
【0048】
回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解し、得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した。その結果、白金及びパラジウムの回収率は、それぞれ 98.0 %及び 97.9 %であった。貴金属回収率はほぼ良好であるが、金属成分溶解量が大きく塩酸所要量が大幅に増加することを示している。更に、廃液量の増加及びその処理費、設備等を考慮すれば、経済性が大幅に低下するので、本発明には不適当である。
【0049】
(比較例3)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 6.0N の塩酸に温度60℃で、 5分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体表面の金属成分溶解量は 7.4%であり、回収した触媒層は 56.4gであった。回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解し、得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した。その結果、回収率はそれぞれ 62.0 %及び 62.1 %であった。触媒層の剥離が不十分であり、そのため貴金属の回収率が低い結果となった。
【0050】
(比較例4)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 11.0Nの塩酸に温度60℃で、12分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体表面の金属成分溶解量は 22.0 %であり、回収した触媒層は 80.2gであった。回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解し、得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した。その結果、白金及びパラジウムの回収率はそれぞれ91.2%及び 90.8 %であった。
【0051】
金属成分溶解量よりみてステンレス鋼表面の腐食がかなり進んでいるにも拘わらず、尚、貴金属の回収率が低い結果となっている。これは未剥離の触媒層がかなり残存したためであり、貴金属の回収率が低いため本発明には不適当である。
【0052】
(比較例5)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 9.5N の塩酸に温度85℃で、5分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体の金属成分溶解量は 8.1%であり、回収した触媒層は 64.3gであった。回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 70.7%及び 71.3 %であった。触媒層の剥離が不十分であり、そのため貴金属の回収率が低い結果となった。
【0053】
(比較例6)
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 11.0Nの塩酸に温度85℃で、25分間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理して触媒層を剥離・回収した。その結果、ハニカム状成形体表面の金属成分溶解量は 31.3 %であり、回収した触媒層は 85.7gであった。回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 97.0 %及び 96.8 %であった。
【0054】
金属成分溶解量よりみてステンレス箔表面の腐食がかなり進んでいるにも拘わらず、尚、貴金属の回収率が低い結果となっている。これは未剥離の触媒層がかなり残存したためであり、貴金属の回収率が低いので本発明には不適当である。
【0055】
(比較例7)
実施例1で用いた貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、20%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、120 ℃で3時間加熱処理を行い、このハニカム状成形体を取り出した後に、水酸化ナトリウム水溶液を濾別して剥離された貴金属含有触媒層を回収した。その触媒層を水洗・粉砕した後粒径1〜5mmに造粒し、600 ℃で焼成した。ここで得られた粒子を王水に溶解し、この溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した。その結果、回収率はそれぞれ 72.3 %及び 68.4 %であった。貴金属の回収率が低い結果となっている。
【0056】
(比較例8)
実施例1で用いた貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、濃度 3.0Nの硝酸に浸漬し、120 ℃で3時間加熱処理を行って貴金属含有触媒層を、担体のハニカム状成形体から剥離した。残存したハニカム状成形体を取り出した後、残存液に濃度 10.0Nの塩酸を加えて王水を調整し、100 ℃で3時間加熱して触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した。その結果、回収率はそれぞれ 98.4 %及び 98.1 %であった。
【0057】
貴金属の回収率は本発明とほぼ同程度であったが、回収後の残存液は王水であるため、貴金属含有触媒層を担体のハニカム状成形体からの剥離液としては再利用できない。廃棄する場合には中和等排出可能な成分となる様に再処理をする必要がある。一方、本発明方法では貴金属含有触媒層剥離用の塩酸は、一部ステンレス鋼の金属成分の溶解による濃度低下分を補充すれば、循環使用が可能であり、また王水も、電解によって白金及びパラジウムを回収した後、循環使用が可能であるため薬液所要量が少なく、経済性が高い。
【0058】
しかし、前述の硝酸による触媒層の剥離方法では電解後多量の王水が廃棄されるが、その他で王水を利用できる分野は限定されている。このため廃棄する場合には本発明方法と較べて、薬液所要量及び廃棄のための再処理費用が大幅に増加する。従って、経済性低下が著しく低下することは避けられない。
【0059】
(比較例9)
実施例1で使用した貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を、常圧で加熱炉にて 1000 ℃に加熱した後、炉から取り出し、圧力 10Kg/cm2G、流量50リットル/ 分・cm2 の高圧水を、このハニカム状成形体のガス流路を通過して排出される様に、成形体が冷却される迄注入した。この操作を3回繰り返し、ハニカム状成形体から剥離された触媒層を回収した。回収された触媒層に含まれる白金及びパラジウムを王水で溶解した。得られた溶解液から電気分解法によって白金及びパラジウムを回収した結果、回収率はそれぞれ 94.7 %及び 93.1 %であった。
【0060】
この方法は貴金属含有触媒層の剥離・回収に薬液を使用しない点では優れているが、ハニカム状成形体の加熱炉、高圧水が噴射可能な設備、ハニカム状成形体に高圧水を噴射して貴金属含有触媒層の剥離・回収するための設備更に、高圧水の循環設備が必要となるため、設備の複雑化・大型化が避けられず、設備のコンパクト化は望めない。更に水蒸気爆発の危険性を考慮すれば、保安設備等が必要となり、更に設置場所も制約される。従って、設備費が高額となるため経済性が大幅に低下することは避けられない。
【0061】
【発明の効果】
貴金属含有触媒層を担持したハニカム状成形体を塩酸に浸漬し、ステンレス鋼表面を腐食させ、触媒層を剥離・回収する工程で、塩酸を補充することにより浸漬液の循環使用が可能となる。更に、回収した触媒層に含まれる白金及びパラジウムを、王水等で溶解後電気分解法による貴金属回収工程でも、電解液を循環使用することによって、薬液所要量を低下させ、且つ廃液を減少させることができる。これらの薬液所要量等の減少による経済性の向上と、電気分解法による装置のコンパクト化が可能であり、また高純度の貴金属が得られる。

Claims (3)

  1. フェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層を、濃度 5.0 N以上、10.0 N以下の塩酸に、温度 50 ℃以上、90℃以下で、浸漬時間10分以上、30分以下の範囲内において予め該ステンレス鋼の表面の腐蝕・溶解による、水素ガスの発生速度及び、塩酸濃度低下の推移状況と、溶解時間と貴金属回収率との関係について試験し、その結果に基づいて、塩酸濃度、溶解温度及び浸漬時間を設定し、
    該設定条件に従って該ステンレス鋼の表面部分を腐蝕・溶解して、その表面と触媒層との間に間隙を生成させ、更にステンレス鋼の腐蝕によって発生した水素ガスの圧力と相まって、該触媒層を該ステンレス鋼の表面より剥離・回収し、剥離した触媒層を溶解液で洗浄した後
    該触媒層に含まれる貴金属を、塩素を含有する塩酸または王水で溶解し、得られた溶解液から貴金属を回収することを特徴とする、白金族の貴金属回収方法。
  2. フェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層を、塩酸に浸漬する工程または/ 及び、浸漬後の洗浄工程を回分操作で行う、請求項1記載の白金族の貴金属回収方法。
  3. フェライト系ステンレス鋼の表面に、白金族の貴金属を含むアルミナ層を担持せしめた触媒層を、塩酸に浸漬する工程または / 及び、浸漬後の洗浄工程を超音波照射の下で行い、剥離された該触媒層に含まれる貴金属を、塩素を含有する塩酸または王水で溶解して得られた溶解液から、電気分解法によって白金族の貴金属を回収する、請求項1または2に記載の白金族の貴金属回収方法。
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