図1を参照すると、1は圧縮着火式多気筒内燃機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内に夫々燃料を噴射するために各気筒に対して夫々設けられた燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドを夫々示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口はエアクリーナ8に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁9が配置される。一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結される。
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路10を介して互いに連結され、EGR通路10内には電子制御式EGR制御弁11が配置される。一方、各燃料噴射弁3は対応する燃料供給管12を介してコモンレール13に連結される。このコモンレール13内へは電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ14により燃料タンク15から燃料が供給され、コモンレール13内に供給された燃料は各燃料供給管12を介して対応する燃料噴射弁3に供給される。コモンレール13にはコモンレール13内の燃料圧を検出するための燃料圧センサ16が取付けられ、燃料圧センサ16の出力信号に基づいてコモンレール16内の燃料圧が目標燃料圧となるように燃料ポンプ14の吐出量が制御される。
電子制御ユニット20はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス21によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)22、RAM(ランダムアクセスメモリ)23、CPU(マイクロプロセッサ)24、入力ポート25および出力ポート26を具備する。燃料圧センサ16の出力信号は対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。一方、アクセルペダル17にはアクセルペダル17の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ18が接続され、負荷センサ18の出力電圧は対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。更に入力ポート25にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ19が接続される。一方、出力ポート26は対応する駆動回路28を介して燃料噴射弁3、スロットル弁9駆動用ステップモータ、EGR制御弁11、および燃料ポンプ14に接続される。
図1に示される各燃料噴射弁3は同一仕様の燃料噴射弁からなり、図2はこれら燃料噴射弁3のうちの一つの燃料噴射弁3の拡大図を示している。図2に示されるように燃料噴射弁3は弁座30上に着座可能なニードル弁31と、ニードル弁31の先端周りに形成されているサック室32と、サック室32から燃焼室2内に延びる噴孔33と、ニードル弁31周りに形成されたノズル室34とを具備する。ノズル室34は燃料噴射弁3の本体内および燃料供給管12内を延びる高圧燃料供給通路、いわゆる高圧ライン35を介してコモンレール13内に連結されており、コモンレール13内の高圧の燃料がこの高圧ライン35を介してノズル室34内に供給される。
ニードル弁31の頂面上には圧力制御室36が形成されており、この圧力制御室36内にはニードル弁31を弁座30に向けて押圧する圧縮ばね37が配置されている。この圧力制御室36は一方では入口側絞り38を介して高圧ライン35の途中に連結されており、他方では出口側絞り39を介して溢流制御弁40により開閉制御される燃料溢流口41に連結されている。圧力制御室36へは絞り38を介して高圧の燃料が常時供給されており、従って圧力制御室36は常時燃料で満たされている。
燃料溢流口41が溢流制御弁40により閉鎖されているときには図2に示されるようにニードル弁31が弁座30上に着座しており、従って燃料噴射は停止されている。このときノズル室34内と圧力制御室36内とは同じ燃料圧となっている。溢流制御弁40が開弁、即ち燃料溢流口41を開口すると圧力制御室36内の高圧の燃料が絞り39を介して燃料溢流口41から流出し、斯くして圧力制御室36内の圧力は徐々に低下する。圧力制御室36内の圧力が低下するとニードル弁31が上昇し、噴孔33から燃料の噴射が開始される。
即ち、圧力制御室36と燃料溢流口41との間には絞り39が設けられており、またその他の遅れ要素によって溢流制御弁40が開弁した後暫らくしてから燃料の噴射が開始される。次いで溢流制御弁40が閉弁、即ち燃料溢流口41を閉鎖すると絞り38を介して圧力制御室36内に供給される燃料によって圧力制御室36内の圧力は徐々に増大し、斯くして溢流制御弁40が閉弁した後暫らくしてから燃料噴射が停止される。
本発明では各燃料噴射弁3から機関の一サイクル中に先の噴射と後の噴射の少なくとも二回の燃料噴射が行われる。図3に代表的な二つの燃料噴射方法を示す。図3(A)は主噴射Mの前にパイロット噴射Pを行うようにした場合を示している。この場合にはパイロット噴射Pが先の噴射であり、主噴射Mが後の噴射となる。
一方、図3(B)は主噴射Mの前の複数回のパイロット噴射P1,P2を行い、主噴射Mの後に複数回のポスト噴射P3,P4を行うようにした場合を示している。この場合にはパイロット噴射P2を後の噴射とするとパイロット噴射P1が先の噴射となり、主噴射Mを後の噴射とするとパイロット噴射P1,P2が先の噴射となり、ポスト噴射P3を後の噴射とするとパイロット噴射P1,P2および主噴射Mが先の噴射となる。
なお、以下図3(A)に示すように主噴射Mの前にパイロット噴射Pを行うようにした場合を例にとって本発明を説明する。
本発明における実施例では目標とする全噴射量QTが図4(A)に示すようにアクセルペダル17の踏込み量、即ちアクセル開度Lと機関回転数Nとの関数としてマップの形で予めROM22内に記憶されている。また、目標とする主噴射量QMが図4(B)に示すように全噴射量QTおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM22内に記憶されている。一方、目標とするパイロット噴射量QPは全噴射量QTから主噴射量QMを減算することによって得られる。
また、主噴射Mの噴射開始時期θMは図5(A)に示されるように全噴射量QTおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM22内に記憶されている。更に、先の噴射が行われてから後の噴射が行われるまでの時間間隔、即ちインターバル時間が予め設定されている。本発明による実施例ではパイロット噴射Pが開始されたときから主噴射Mが開始されるときまでのインターバル時間TIが図5(B)に示されるように全噴射量QTおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM22内に記憶されており、主噴射Mの噴射開始時期θMとインターバル時間TIからパイロット噴射Pの噴射開始時期θPが算出される。
また、本発明による実施例ではコモンレール13内の目標レール圧が予め設定されている。この目標レール圧は概略的に云うと全噴射量QTが増大するほど高くなる。
さて、図2においてニードル弁31が開弁して燃料噴射が開始されるとノズル室34内の圧力は急速に低下する。このようにノズル室34内の圧力が急速に低下すると圧力波が発生し、この圧力波が高圧ライン35内をコモンレール13に向けて伝播する。次いでこの圧力波は高圧ライン35のコモンレール13内への開放端において反射し、今度はこの圧力波は平均圧力に対して圧力が反転した状態で、即ち高圧の圧力波の形で高圧ライン35内をノズル室34に向けて進み、ノズル室34内に高圧を一時的に発生させる。例えばパイロット噴射が行われたとするとその後暫らくしてコモンレール13における反射波によってノズル室34内には一時的に高圧が発生する。
一方、ニードル弁31が閉弁すると燃料の流動が急激に堰き止められるためにノズル室34内の圧力が一時的に上昇し、圧力波が発生する。この圧力波も高圧ライン35内を伝播し、コモンレール13において反射してノズル室34内に戻ってくる。
また、溢流制御弁40の開閉弁動作によってもノズル室34内に伝播する圧力波が発生する。即ち、溢流制御弁40が開弁すれば燃料溢流口41の圧力が急激に低下するために圧力波が発生し、溢流制御弁40が閉弁すれば燃料溢流口41の圧力が急激に上昇するために圧力波が発生する。これらの圧力波は一対の絞り39,38を通ってノズル室34内に伝播してノズル室34内の圧力を上昇或いは低下させ、同時にこの圧力波はノズル室34内において反射してコモンレール13又は燃料溢流口41に向けて伝播する。
このようにパイロット噴射Pが行われるとニードル弁31の開閉動作および溢流制御弁40の開閉動作により発生する圧力波によってノズル室34内の燃料圧が脈動を生ずる。次いでこのようにノズル室34内の燃料圧が脈動を生じているときに主噴射Mが行われる。しかしながらこのようにノズル室34内の燃料圧が脈動を生じているときに主噴射Mが行われるとノズル室34内の燃料圧が高くなったときには噴射量が増大し、ノズル室34内の燃料圧が低くなったときには噴射量が減少するので主噴射Mの噴射量が変動することになる。
次に図6および図7を参照しつつ主噴射Mの燃料量が実際にどのような変動パターンでもって変化するかということ、およびこの変動パターンに基づいて行われる噴射制御の基本的なやり方についてまず初めに説明し、その後本発明において用いられている噴射制御方法について説明する。
図6を参照すると横軸Tiはパイロット噴射Pが開始されたときから主噴射Mが開始されるまでのインターバル時間(msec)を表しており、縦軸dQは主噴射Mの噴射量の目標値に対する変動量(mm3)を表している。また、図6において□印はレール圧が48MPaのときを示しており、○印はレール圧が80MPaのときを示しており、△印はレール圧が128MPaのときを示している。また、図6はパイロット噴射量が2(mm3)で主噴射量が20(mm3)のときを示している。図6(A)は三つの異なるレール圧に対する主噴射Mの噴射量の目標値に対する実際の変動量dQを表しており、図6(A)からパイロット噴射が行われた後、ノズル室34内の燃料圧が上昇と下降を繰返すこと、即ち脈動していることがわかる。
ところで図6(A)をみると各曲線で表される主噴射量の変動パターンは周期は異なるが、即ちレール圧が高くなるほど周期は短かくなるが同じ様な形で上下動していることがわかる。前述したようにノズル室34内の燃料圧はノズル室34とコモンレール13間、或いはノズル室34と燃料溢流口41間を伝播する圧力波によって変動する。これらノズル室34とコモンレール13間は一定長であり、ノズル室34と燃料溢流口41間も一定長であるので圧力波の伝播速度が一定であればパイロット噴射Pが行われた後にノズル室34内に発生する燃料圧は決まった変動パターンで脈動することになる。
ところが圧力波の伝播速度は燃料圧および燃料温によって変化する。即ち、圧力波の伝播速度は、Eを体積弾性係数、γを燃料の密度、gを重力の加速度とすると、(E/γ)・gの平方根で表される。即ち、圧力波の伝播速度は体積弾性係数Eの平方根に比例し、密度γの平方根に反比例することになる。ところで体積弾性係数Eは燃料圧に比例し、燃料温に反比例する。一方、燃料の密度γも燃料圧に比例し、燃料温に反比例する。ところが燃料圧或いは燃料温が変化したときの体積弾性係数Eの変化率は密度γの変化率に比べてはるかに大きく、従って圧力波の伝播速度は体積弾性係数Eの変化の影響を強く受ける。従って圧力波の伝播速度は燃料圧が高くなるほど速くなり、燃料温が高くなるほど遅くなる。即ち、圧力波の伝播速度はレール圧が高くなるほど速くなる。
従ってレール圧が高くなるとノズル室34内の燃料圧の変動周期は短かくなり、このときノズル室34内の燃料圧はその変動パターンが図6(A)における横軸方向、即ちインターバル時間軸方向に収縮したような形で変動する。従って図6(A)に示されるようにレール圧が高くなると主燃料の変動量dQはその変動パターンがインターバル時間軸方向に収縮したような形で変動する。
図6(A)において○印で示されるレール圧80MPaを基準レール圧とし、この基準レール圧のときの主噴射の変動量dQの変動パターンを基準変動パターンとすると□印で示されるレール圧48MPaのときには、即ちレール圧が基準レール圧よりも低いときにはインターバル時間Ti=0を固定点として主噴射の変動量dQの変動パターン全体をインターバル時間軸方向に一様に収縮すると変動パターンの上下変動時期が基準変動パターンの上下変動時期に一致し、△印で示されるレール圧128MPaのときには、即ちレール圧が基準レール圧よりも高いときにはインターバル時間Ti=0を固定点として主噴射の変動量dQの変動パターン全体をインターバル時間軸方向に一様に伸長すると変動パターンの上下変動時期が基準変動パターンの上下変動時期に一致する。図6(B)はこのように変動パターンの上下変動周期が基準変動パターンの上下変動周期に一致するようにレール圧が48MPaのときの変動パターンを収縮させ、レール圧が128MPaの変動パターンを伸長させた場合を示している。
このように各レール圧における変動パターンを収縮又は伸長させると各変動パターンの変動周期を基準変動パターンの変動周期に重ね合わせることができる。一方、図6(B)に示されるように同一のインターバル時間Tiにおける主噴射の変動量dQはレール圧が高くなるほど大きくなる。従って各レール圧における変動パターンを共通の基準変動パターンに規格化するには各レール圧における変動パターンをレール圧に応じて図6(B)の縦軸方向、即ち主噴射の変動量dQの増大又は減少方向に収縮又は伸長する必要がある。図6(C)は各レール圧における変動パターンを共通の基準変動パターンに規格化するために主噴射の変動量dQの増大又は減少方向に収縮又は伸長した場合を示している。このように変動パターンをレール圧に応じてインターバル時間軸方向に収縮又は伸長し、レール圧に応じて主噴射の変動量の増大又は減少方向に収縮又は伸長すると図6(C)に示されるように各変動パターンを共通の基準変動パターンに規格化できることになる。
このように各変動パターンを共通の基準変動パターンに規格化できる場合には各レール圧における主噴射の変動量dQを共通の基準変動パターンから求めることができる。例えば図6(A)において80MPaを基準レール圧とし、レール圧がこの基準レール圧であるときの○印で示される変動パターンを共通の基準変動パターンとすると、レール圧が48MPaのときの□印で示される変動周期は共通の基準変動パターンの変動周期よりも長い。従ってレール圧が48MPaのときの主噴射の変動量dQを共通の基準変動パターンから求める場合にはこの変動量dQは図6(A)に示されるインターバル時間Tiの時間軸を収縮し、収縮された修正インターバル時間Tiに応じた共通の基準変動パターン上の変動量dQに一致する。このときの収縮の度合はレール圧が48MPaのときの変動パターンの変動周期を共通の基準変動パターンの変動周期に一致するように収縮したときの収縮率に一致する。
一方、図6(A)においてレール圧が128MPaのときの△印で示される変動周期は共通の基準変動パターンの変動周期よりも短かく、従ってレール圧が128MPaのときの主噴射の変動量dQを共通の基準変動パターンから求める場合にはこの変動量dQは図6(A)に示されるインターバル時間Tiの時間軸を伸長し、伸長された修正インターバル時間Tiに応じた共通の基準変動パターン上の変動量dQに一致する。このときの伸長の度合はレール圧が128MPaのときの変動パターンの変動周期を共通の基準変動パターンの変動周期に一致するように伸長したときの伸長率に一致する。
また、図6(B)を参照しつつ既に説明したように同一のインターバル時間Tiにおける主噴射の変動量dQはレール圧が高くなるほど大きくなる。従ってレール圧が80MPaのときの変動パターンを共通の基準変動パターンとすると、主噴射の変動量dQをこの共通の基準変動パターンから求める場合にはレール圧が48MPaの場合には共通の基準変動パターンから求められた変動量dQを減少補正し、レール圧が128MPaの場合には共通の基準変動パターンから求められた変動量dQを増大補正する。
一方、図7(A)はレール圧を48MPaに一定に維持した状態で主噴射の噴射量を5(mm3)、10(mm3)、20(mm3)、30(mm3)および40(mm3)としたときの主噴射の変動量dQを示している。インターバル時間Tiが同じであっても主噴射の噴射量が変化すると、即ち噴射期間が変化すると主噴射の変動量dQが変化する。この場合にも各レール圧における変動パターンを共通の基準変動パターンに規格化するには各レール圧における変動パターンをレール圧に応じて図7(A)の縦軸方向、即ち主噴射の変動量dQの増大又は減少方向に収縮又は伸長することが必要である。図7(B)は各レール圧における変動パターンを主噴射の噴射量dQの増大又は減少方向に収縮又は伸長して基準の変動パターンに重ね合わせた場合を示している。
このように例えば80MPaを基準レール圧とし、パイロット噴射量が2(mm3)で主噴射量が20(mm3)の場合を基準噴射量とし、レール圧が基準レール圧でありかつパイロット噴射量および主噴射量が基準噴射量であるときの主噴射の変動量dQの変動パターンを共通の基準変動パターンとしてこの共通の基準変動パターンを予めROM22に記憶しておくと、この記憶された共通の基準変動パターンからレール圧や主噴射量が種々に変化したときの主噴射の変動量を求めることができる。これが変動パターンに基づいて行われる噴射制御の基本的なやり方である。以下に説明するように本発明による実施例でもこのような共通の基準変動パターンを用いて噴射制御が行われる。
さて、ノズル室34内の燃料圧が変動すると主噴射量が変動するのは噴射圧が変動することが一因であるが、主噴射量の変動に対してはノズル室34内の燃料圧の変動に基づくニードル弁31の開弁時期やリフト量の変動も大きな影響を与える。この場合、ニードル弁31の開弁時期に影響を与えるのはニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の燃料圧の変動であり、主噴射量の変動をもたらす噴射圧の変動はニードル弁31が開弁した後の噴射圧の変動、即ちニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧の変動である。
このように主噴射量の変動に対してはニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の燃料圧の変動と、ニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧の変動とが影響を与えており、この場合ニードル弁31の開弁前後におけるこれらノズル室34内の燃料圧の変動は夫々独立して主噴射量の変動に影響を与える。従って主噴射の変動量はニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の燃料圧の変動に基づく変動量と、ニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧の変動に基づく変動量との和となる。
そこでまず初めにニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の燃料圧が主噴射量に与える影響について説明し、次いでニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧が主噴射量に与える影響について説明する。
即ち、主噴射を開始すべき指令に基づいて溢流制御弁40が開弁し、圧力制御室36内の燃料圧が徐々に低下してノズル室34と圧力制御室36との圧力差が一定圧以上になるとニードル弁31が開弁する。この場合、圧力制御室36内の燃料圧が徐々に低下しているときに圧力脈動によりノズル室34内の燃料圧が急激に上昇すると、或いは圧力制御室36内の燃料圧が急激に低下するとノズル室34と圧力制御室36との圧力差が一定値以上となり、斯くしてニードル弁31の開弁時期が早められることになる。これに対し、圧力制御室36内の燃料圧が徐々に低下しているときに圧力脈動によりノズル室34内の燃料圧が急激に下降すると、或いは圧力制御室36内の燃料圧が急激に上昇するとノズル室34と圧力制御室36との圧力差が一定値以上となるまでに時間を要するため、ニードル弁31の開弁時期が遅れることになる。
このようにニードル弁31の開弁時期はニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の燃料圧の変動、或いは圧力制御室36内の燃料圧の変動により早められたり、或いは遅らされたりする。この場合、ニードル弁31の開弁時期が早まると主噴射量は増大し、ニードル弁31の開弁時期が遅れると主噴射量は減少する。従って圧力脈動の影響によりニードル弁31の開弁時期が変動するとそれに伴なって主噴射量が変動することになる。
図8は図1において4つある燃料噴射弁3のうちの一つの燃料噴射弁3についてのインターバル時間Ti(msec)とニードル弁31の開弁時期の変動量△τ(μmsec)との関係を示している。また、図8はパイロット噴射量が2(mm3)の場合を示しており、□印はレール圧が48MPaのときを示しており、○印はレール圧が80MPaのときを示しており、△印はレール圧が128MPaのときを示している。
図8(A)は各レール圧におけるニードル弁31の開弁時期の変動量△τの実際の値を示している。図8(B)はレール圧80MPaを基準レール圧とし、このときのニードル弁31の開弁時期の変動パターンを基準変動パターンとし、図8(A)に示すレール圧が48MPaおよび128MPaのときの変動パターンをこれら変動パターンの上下変動周期が基準変動パターンの上下変動周期に一致するようにインターバル時間軸方向に収縮又は伸長した場合を示している。
一方、図8(C)は図8(B)に示すレール圧が48MPaおよび128MPaのときの変動パターンをこれら変動パターンが基準変動パターンに重なり合うように縦方向、即ちニードル弁31の開弁時期の変動量△τの増大又は減少方向に収縮又は伸長した場合を示している。このようにニードル弁31の開弁時期の変動量△τの変動パターンは図8(C)に示されるように規格化できることがわかる。
なお、図8(C)に示される基準変動パターンは燃料噴射弁3毎に、即ち気筒毎に異なっている。従って本発明による実施例では気筒数と同数の基準変動パターン、図1に示される実施例では4つの基準変動パターンがROM22に記憶されており、これら基準変動パターンに基づいてレール圧に応じた対応する燃料噴射弁3におけるニードル弁31の開弁時期の変動量△τが算出される。
即ち、具体的に言うと、図8(C)に示される基準変動パターンに基づいて図8(A)に示されるレール圧に応じたニードル弁31の開弁時期の変動量△τを求めるには、まず初めにインターバル時間Tiに図9(A)に示される時間軸ゲインIK1を乗算して修正インターバル時間Ti・IK1を求め、この修正インターバル時間Ti・IK1を用いて図8(C)に示される基準変動パターンから基準レール圧における開弁時間の変動量△τを求め、次いでこの変動量△τにレール圧に応じた図9(B)に示されるレール圧ゲインIK2を乗算することによって最終的な開弁時期の変動量△τ(=基準レール圧における変動量△τ・IK2)が求められる。
ここで図9(A)に示される時間軸ゲインIK1について説明すると、レール圧が基準レール圧80MPaよりも低いとき、例えば図8(A)において□印で示される48MPaのときには変動パターンの変動周期を基準変動パターンの変動周期に一致させるためにはインターバル時間軸を収縮させる必要があり、従ってレール圧が48MPaのときのインターバル時間Tiにおける変動量Δτは基準変動パターン上では基準変動パターンにおけるインターバル時間Tiよりも早い時期に表れる。即ち、基準変動パターンからレール圧が48MPaのときの変動量Δτを求めるには使用すべき修正インターバル時間Ti・IK1はレール圧が48MPaのときのインターバル時間Tiよりも短かいインターバル時間とされ、従ってレール圧が低いときには図9(A)に示されるように時間軸ゲインIK1は1.0よりも小さくされる。
これに対し、レール圧が基準レール圧80MPaよりも高いとき、例えば図8(A)において△印で示される128MPaのときには変動パターンの変動周期を基準変動パターンの変動周期に一致させるためにはインターバル時間軸を伸長させる必要があり、従ってレール圧が128MPaのときのインターバル時間Tiにおける変動量Δτは基準変動パターン上では基準変動パターンにおけるインターバル時間Tiよりも遅い時期に表れる。即ち、基準変動パターンからレール圧が128MPaのときの変動量Δτを求めるには使用すべき修正インターバル時間Ti・IK1はレール圧が128MPaのときのインターバル時間Tiよりも長いインターバル時間とされ、従ってレール圧が高いときには図9(A)に示されるように時間軸ゲインIK1は1.0よりも大きくされる。即ち、時間軸ゲインIK1は図9(A)に示されるようにレール圧が高くなるにつれて大きくなる。なお、この時間軸ゲインIK1は全ての燃料噴射弁3からの噴射作用に対して共通である。
なお、レール圧が低くなるほど開弁時間の変動量△τは増大する傾向にあるのでレール圧ゲインIK2はレール圧が低くなるほど増大する。なお、レール圧に応じて変化する開弁時間の変動量△τは燃料噴射弁3毎、即ち気筒毎に異なるのでレール圧ゲインIK2は図9(B)に示されるように各燃料噴射弁3毎に夫々設けられている。
最終的な開弁時期の変動量△τが求まったときにこの変動量△τに基づいて例えば実際の開弁時期が目標値となるように開弁時期の指令値が補正される。例えば開弁時期の変動量△τがプラスの場合には主噴射開始時期が変動量△τだけ遅れるように主噴射の指令値が補正され、開弁時期の変動量△τがマイナスの場合には主噴射開始時期が変動量△τだけ早まるように開弁時期の指令値が補正される。
これに対し、求められた開弁時期の変動量△τに基づいて主噴射の完了時期を制御することもできる。このことについて図10および図11を参照しつつ説明する。図10および図11は主噴射の噴射指令パルスとニードル弁31のリフト量の関係を示しており、図10は目標噴射量が少なくニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁しないときを示しており、図11は目標噴射量が多くニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁した場合を示している。なお、以下、ニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁する型式の燃料噴射弁を用いた場合を例にとって噴射制御の説明を行うがニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁しない型式の燃料噴射弁を用いた場合でも同様なやり方で噴射制御を行うことができる。
図10においてAで示されるように噴射指令パルスが発せられるとニードル弁31のリフト量は図10において実線Bで示されるように噴射指令パルスが発せられてから暫らくして上昇しはじめ、噴射指令パルスの発生が停止されると暫らくしてから下降しはじめる。一方、ニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の圧力脈動によりニードル弁31の開弁時期が△τだけ早まったとするとこのときニードル弁31のリフト量は図10において破線Cで示されるように実線Bに示される場合とほぼ同じ速度で上昇し、実線Bに示される場合と同一時期にほぼ同じ速度で下降を開始する。このようにニードル弁31の開弁時期が早まると噴射期間が長くなり、ニードル弁31の最大リフト量も増大するので噴射量が増大することになる。
一方、図10においてDで示される噴射指令パルスは開弁時期の変動量△τだけ噴射指令パルスの発生時間を短縮した場合を示しており、図10において破線Eはこのときのニードル弁31のリフト量を示している。図10において破線Eで示されるリフト量の変化と実線Bで示されるリフト量の変化は全く同じであり、従ってニードル弁31の開弁時期が△τだけ早まったときに噴射指令パルスの発生時間を△τだけ短縮すると噴射量は目標とする噴射量となる。
一方、図11において実線Gは噴射指令パルスFが発せられたときのニードル弁31のリフト量の変化を示しており、破線Hは圧力脈動によってニードル弁31の開弁時期が△τだけ早まった場合を示している。図11からわかるようにニードル弁31の開弁時期が早まるとニードル弁31の最大リフト量は変化しないが噴射期間が長くなるので噴射量は増大する。一方、図11においてIは△τだけ噴射指令パルスを短縮した場合を示しており、破線Jはこのときのニードル弁31のリフト量の変化を示している。図11において破線Jで示されるリフト量の変化と実線Gで示されるリフト量の変化は全く同じであり、従ってこの場合にもニードル弁31の開弁時期が△τだけ早まったときに噴射指令パルスの発生時間を△τだけ短縮すると噴射量は目標とする噴射量となる。
本発明による実施例ではニードル弁31の開弁時期が早くなるときには噴射指令パルスを短縮し、ニードル弁31の開弁時期が遅くなるときには噴射指令パルスを延長するようにして噴射量を目標とする噴射量に制御するようにしている。
次にニードル弁31の開弁時期が変動したときの主噴射の変動量dQmについて説明する。図12および図13は図10および図11に示されるニードル弁31の開弁時期を別の観点からみたものである。なお、図12においてAで示される噴射指令パルス、実線Bおよび破線Cで示されるニードル弁31のリフト量の変化は、図10において夫々Aで示される噴射指令パルス、実線Bおよび破線Cで示されるニードル弁31のリフト量の変化と全く同一であり、図13においてFで示される噴射指令パルス、実線Gおよび破線Hで示されるニードル弁31のリフト量の変化は、図11において夫々Fで示される噴射指令パルス、実線Gおよび破線Hで示されるニードル弁31のリフト量の変化と全く同一である。
さて、図12においてDで示される噴射指令パルスは開弁時期の変動量△τだけ噴射指令パルスの発生時間を延長した場合を示しており、図12において破線Eはこのときのニードル弁31のリフト量を示している。図12において破線Eで示されるリフト量の変化と実線Cで示されるリフト量の変化は全く同じであり、従ってニードル弁31の開弁時期が△τだけ早まったときと噴射指令パルスの発生時間を△τだけ延長したときとでは噴射量の変動量は同じになる。
一方、図13においてIは△τだけ噴射指令パルスを延長した場合を示しており、破線Jはこのときのニードル弁31のリフト量の変化を示している。図13において破線Jで示されるリフト量の変化と破線Hで示されるリフト量の変化は全く同じであり、従ってこの場合にもニードル弁31の開弁時期が△τだけ早まったときと噴射指令パルスの発生時間を△τだけ延長したときとでは噴射量の変動量は同じになる。
このようにニードル弁31の開弁期間が△τだけ早くなったときの噴射量の変動量は噴射期間を△τだけ延長したときの噴射量の変動量と同じになる。そこで次に噴射期間が△τだけ長くなったときの噴射量の変動量について説明する。
図14の各曲線a,b,c,dは各燃料噴射弁3における噴射指令パルス長と噴射量との関係を示している。図14からわかるように噴射指令パルス長と噴射量との関係は燃料噴射弁3毎に異なっており、従って噴射指令パルス長が同じであっても噴射量は燃料噴射弁3毎に異なる。図14の各曲線a,b,c,dで示される各関係は予め実験により求められており、実験により求められた各関係は予めROM22内に記憶されている。
図14において噴射指令パルス長が短いときには溢流制御弁40の開弁時間が短かすぎるためにニードル弁31が開弁せず、従って噴射量は零となる。一方、噴射指令パルス長が長くなっていくとニードル弁31のリフト量が増大し、その結果噴射量は噴射指令パルス長の増大に伴ない指数関数的に増大する。次いで噴射指令パルス長が一定パルス長Xを越えると噴射量の増大率は小さくなりかつ一定の増大率となる。
図14において噴射指令パルス長がXよりも短かいときはニードル弁31は最大リフトMAXまで開弁せず、噴射指令パルス長がXよりも長くなるとニードル弁31は最大リフトMAXまで開弁する。ニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁しないときにはニードル弁31のリフト量および噴射期間が噴射指令パルス長に対して指数関数的に増大し、従って噴射量が噴射指令パルス長に対して指数関数的に増大する。
これに対し、ニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁したときには噴射指令パルス長の増大に対する噴射量の増大率は低下する。このことは図12および図13を比較するとわかる。即ち、図12に示されるようにニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁しないときに噴射指令パルスを△τだけ長くなると破線Eに示されるようにニードル弁31のリフト量および噴射期間はかなり増大する。これに対し、図13に示されるようにニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁したときに噴射指令パルスを△τだけ長くしても噴射期間はさほど長くならず、しかも噴射期間の増大は噴射指令パルス長の増大に正比例することがわかる。従って噴射指令パルスが一定パルス長を越えると噴射量の増大率は小さくなりかつ増大率は一定となる。
図15は図14に示される各曲線の傾き△Q/△tと噴射量との関係を示している。即ち、△Q/△tは図14において或る噴射量において噴射指令パルス長が一定長△tだけ変化したときの噴射量の変化量△Qを表している。なお、図15における各曲線a,b,c,dは図14における各曲線a,b,c,dに対応しており、従って図15の各曲線a,b,c,dで示される△Q/△tと噴射量との関係も燃料噴射弁3毎に異なっていることがわかる。
図15に示されるように噴射指令パルス長の増大に対する噴射量の増大割合△Q/△tは噴射量が増大すると最初は急速に、次いでゆっくりと増大する。次いで図14の噴射指令パルス長がXのときの噴射量を越えると、即ちニードル弁31が最大リフトまで開弁するようになると△Q/△tは急激に低下し、一定値に維持される。
この図15に示された△Q/△tと噴射量との関係を用いるとニードル弁31の開弁時期が変動したときの主噴射量の変動量dQmを求めることができる。例えば図12においてニードル弁31の開弁時期が△τだけ早くなったときには図12においてAで示される噴射指令パルス長のときの噴射量が図14から求められ、この噴射量のときの△Q/△tが図15から求められる。開弁時期が△τだけ変動したときの噴射量の変動量は噴射指令パルス長が△τだけ変化したときの噴射量の変動量と同じであるのでこのときの主噴射量の変動量dQmは△Q/△tを用いて算出することができる。即ち、開弁時期が△τだけ変動したときの主噴射量の変動量dQmは△Q/△tに△τを乗算した値((△Q/△t)・△τ)となる。
これまでニードル弁31が開弁する前のノズル室34内の燃料圧の変動に基づく主噴射の変動量について説明してきたが、次にニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧の変動に基づく主噴射の変動量について説明する。
ニードル弁31の開弁時期の変動量および主噴射量全体の変動量は検出することができるがニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧の変動に基づく主噴射の変動量のみを検出することはできない。しかしながら上述したようにニードル弁31の開弁時期の変動に基づく主噴射の変動量dQmは算出することができる。従って本発明による実施例では主噴射量全体の変動量からニードル弁31の開弁時期の変動に基づく主噴射の変動量dQmを減算することによりニードル弁31が開弁した後のノズル室34内の燃料圧の変動に基づく主噴射の変動量dQtが求められる。
図16(A)および(B)はこの主噴射の変動量dQtについて夫々図7(A)および(B)と同様な図を示している。即ち、図16(A)はパイロット噴射量が2(mm3)でレール圧が基準レール圧80MPaに規格された場合を示しており、+印は主噴射量が5(mm3)のときを示しており、◇印は主噴射量が10(mm3)のときを示しており、△印は主噴射量が20(mm3)のときを示しており、○印は主噴射量が30(mm3)のときを示しており、□印は主噴射量が40(mm3)のときを示している。一方、16(B)はレール圧が基準レール圧80MPaであって主噴射量が20(mm3)のときの変動パターンを基準変動パターンとし、主噴射量が5(mm3)、10(mm3)、30(mm3)および40(mm3)のときの変動パターンをこれら変動パターンが基準変動パターンに重なり合うように縦方向、即ち主噴射の変動量dQtの増大又は減少方向に収縮又は伸長した場合を示している。
主噴射の変動量dQtを図16(A)に示す状態まで規格化するにはまず初めに図6(A)に示される変動量と同様にレール圧に応じて異なっている主噴射の変動量dQtの変動周期が基準レール圧、例えば80MPaの変動周期に重なるように各レール圧におけるインターバル時間Tiが収縮又は伸長される。次いで図6(B)に示される変動量と同様にレール圧に応じて異なっている主噴射の変動量dQtが基準レール圧、例えば80MPaにおける変動パターンに規格される。図16(A)はこのようにして規格されたパイロット噴射量が2(mm3)でレール圧が基準レール圧80MPaのときの種々の主噴射量についての主噴射の変動量dQtを示している。次いでこの主噴射の変動量dQtは上述したように図16(B)に示す如く主噴射量が20(mm3)のときの変動パターンを基準変動パターンとして規格される。
図16(B)に示される基準変動パターンは各燃料噴射弁毎に求められている。これらの基準変動パターンは予めROM22内に記憶されており、記憶されているこれらの基準変動パターンに基づいて主噴射の変動量dQtが算出される。
即ち、レール圧に応じたニードル弁31の開弁時期の変動量△τを求めるには、まず初めにインターバル時間Tiに図17(A)に示される時間軸ゲインFK1を乗算して修正インターバル時間Ti・FK1を求め、この修正インターバル時間Ti・FK1を用いて図16(B)に示される基準変動パターンから基準レール圧80MPaおよび基準主噴射量20(mm3)における主噴射の変動量dQtを求め、次いでこの主噴射の変動量dQtに主噴射量に応じた図17(C)に示される噴射量ゲインFK3を乗算することによって図16(A)に示される主噴射量に応じた主噴射の変動量dQtを求め、次いでこの主噴射の変動量dQtにレール圧に応じた図17(B)に示されるレール圧ゲインFK2を乗算することによって最終的な主噴射の変動量dQt(=基準変動パターンから求められた主噴射の変動量dQt・FK1・FK2)が求められる。
ここで図17(A)に示される時間軸ゲインFK1は図9(A)に示される時間軸ゲインIK1と全く同一であり、この時間軸ゲインFK1は全ての燃料噴射弁3からの噴射作用に対して共通である。レール圧ゲインFK2は図17(B)において曲線a,b,c,dで示されるように各燃料噴射弁3に対して夫々設定されており、これらレール圧ゲインFK2は図17(B)に示されるようにレール圧が高くなるほど大きくなる。
また、噴射量ゲインFK3は図17(C)において曲線a,b,c,dに示されるように各燃料噴射弁3に対して夫々設定されている。なお、図17(C)の横軸の噴射量は主噴射量を示している。図17(C)に示されるように各曲線a,b,c,dで示される各噴射量ゲインFK3は主噴射量が増大するにつれて増大するが主噴射量が或る噴射量を越えると急激に低下してほぼ一定値となる。ここで各噴射量ゲインFK3が図17(C)に示されるような変化をすることについて図18を参照しつつ説明する。
図18は噴射指令パルスとニードル弁31のリフト量との関係を示しており、図18の(I),(II),(III),(IV)は噴射指令パルス長を変えた場合を示している。また、実線で示されるニードル弁31のリフト量はノズル室34内の燃料圧が目標燃料圧に維持されているときを示している。ノズル室34内の燃料圧が目標燃料圧に維持されているときには図18の(I),(II),(III)に示されるように噴射指令パルス長が長くなるにつれてニードル弁31のリフト量が増大し、噴射指令パルス長が更に長くされると図18の(IV)に示されるようにニードル弁31は最大リフトMAXとなる。
一方、ニードル弁31が開弁した後において圧力脈動によりノズル室34内の燃料圧が例えば目標燃料圧よりも高くなっていたとすると、高い燃料圧がニードル弁31に対しニードル弁31の開弁方向に作用する。その結果、図18の(I)〜(IV)において破線で示されるようにニードル弁31のリフト量は実線で示されるリフト量に対し上方に次第に離れ、図18の(I)〜(III)に示されるようにニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁しない場合にはニードル弁31の最大のリフト量は実線で示される場合よりも高くなる。ニードル弁31が最大のリフト量になるとその後ニードル弁31は実線で示す場合とほぼ同じ速度で下降する。
図18の(I)〜(III)に示されるようにニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁しない場合には噴射指令パルス長が長くなるほど、即ち主噴射量が増大するほどニードル弁31の最大リフト量が高くなり、噴射期間が長くなる。従って圧力脈動によりノズル室34内の燃料圧が増大したときには主噴射量が多いときほど主噴射量の変動量、この場合には主噴射量の増大量が増大する。従って図17(C)に示されるように噴射量ゲインFK3は主噴射量が増大するにつれて高くなる。
一方、図18の(IV)に示されるようにニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁した場合、ニードル弁31が最大リフトMAXから閉弁するときのリフト量変化は実線で示される場合も破線で示される場合も同じになる。従ってニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁したときには噴射期間は変化しない。一方、このとき図18の(IV)の破線からわかるようにニードル弁31が開弁するときには実線で示す場合に比べて早期に最大リフトMAXに達し、ニードル弁31の開弁時の主噴射量が増大する。この主噴射の増大量は図18の(III)で示されるようにニードル弁31が最大リフトMAX近くまで開弁する場合に比べると少なく、しかもこの主噴射の増大量は噴射指令パルス長が長くなっても、即ち主噴射量が増大しても変化しない。従って図17(C)に示されるようにニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁する主噴射量になると噴射量ゲインFK3は急激に低下し、ニードル弁31が最大リフトMAXまで開弁する主噴射量よりも主噴射量が多い領域では噴射量ゲインFK3は比較的小さな一定値となる。
次に図19および図20に示される燃料噴射制御ルーチンについて説明する。
図19および図20を参照するとまず初めにステップ100において図4(A)に示すマップから全噴射量QTが算出される。次いでステップ101では図4(B)に示すマップから主噴射量QMが算出される。次いでステップ102では全噴射量QTから主噴射量QMを減算することによってパイロット噴射量QPが算出される。次いでステップ103では図5(A)に示すマップから主噴射開始時期θMが算出される。次いでステップ104では図5(B)に示すマップからインターバル時間TIが算出される。次いでステップ105では主噴射開始時期θMとインターバル時間TIからパイロット噴射開始時期θPが算出される。
次いでステップ106では図9(A)からレール圧に応じた時間軸ゲインIK1が求められる。次いでステップ107では時間軸ゲインIK1をインターバル時間TIに乗算することにより修正インターバル時間Tiが算出される。次いでステップ108では基準レール圧を80MPa、基準となるパイロット噴射量QPを2(mm3)とすると、即ち図8(C)において○印で示される開弁時期の変動量△τを基準変動量とすると修正インターバル時間Tiに応じた開弁時期の基準変動量が算出される。
次いでステップ109では図9(B)から対応する燃料噴射弁3に対するレール圧に応じたレール圧ゲインIK2が算出される。次いでステップ110ではステップ108において算出された開弁時期の基準変動量△τにレール圧ゲインIK2を乗算することによって最終的な開弁時期の変動量△τが算出される。
次いでステップ111では図17(A)からレール圧に応じた時間軸ゲインFK1が算出される。次いでステップ112では時間軸ゲインFK1をインターバル時間TIに乗算することにより修正インターバル時間Tiが算出される。次いでステップ113では、基準レール圧を80MPa、基準となる主噴射量QMを20(mm3)、基準となるパイロット噴射量QPを2(mm3)とすると、即ち図16(B)において△印で示される変動量を基準変動量dQtとすると、修正インターバル時間Tiに応じた基準変動量dQtが算出される。
次いでステップ114では図17(B)から対応する燃料噴射弁3に対するレール圧に応じたレール圧ゲインFK2が算出され、次いでステップ115では図17(C)から対応する燃料噴射弁3に対する主噴射量に応じた噴射量ゲインFK3が算出される。次いでステップ116ではステップ113において算出された基準変動量dQtにレール圧ゲインFK2および噴射量ゲインFK3を乗算することによって最終的な主噴射の変動量dQtが算出される。
次いでステップ117ではステップ110において求められた最終的な開弁時期の変動量△τおよびステップ116において求められた最終的な主噴射の変動量dQtに基づいて実際の主噴射量が目標値となるように主噴射に対する噴射指令パルス長が補正される。即ち、例えば変動量dQtがプラスの場合にはステップ101において算出された主噴射量QMから変動量dQtが減算され、対応する燃料噴射弁3からの噴射量を減算された主噴射量(QM−dQt)とするのに必要な噴射指令パルス長が図14に示す関係から算出される。
これに対し、変動量dQtがマイナスであれば主噴射量QMに変動量dQtが加算され、対応する燃料噴射弁3からの噴射量を加算された主噴射量(QM+dQt)とするのに必要な噴射指令パルス長が図14に示す関係から算出される。次いでこのようにして算出された噴射指令パルス長に最終的な開弁時期の変動量△τが加算されて最終的な噴射指令パルス長が求められる。このようにして実際の主噴射量が目標値QTに制御される。次いでステップ118ではパイロット噴射および主噴射の噴射処理が行われる。
なお、ステップ110において求められた最終的な開弁時期の変動量Δtから図15に示されるΔQ/Δtを用いて主噴射量の変動量dQm(=(ΔQ/Δt)・Δτ)を算出し、この算出された主噴射量の変動量dQmとステップ116において求められた最終的な主噴射の変動量dQtに基づいて実際の主噴射量が目標値となるように主噴射に対する噴射指令パルス長を補正することもできる。
さて、図17(C)に示される噴射量ゲインFK3は、図16(A)からわかるように各燃料噴射弁3に対し主噴射量を種々に変えたときの主噴射の変動量dQtを求めることにより得ることができる。しかしながら主噴射量を種々に変えて主噴射の変動量dQtを求めるのは多大の時間と労力を有する。ところが噴射量ゲインFK3について検討していた際、この噴射量ゲインFK3は簡単に求まることが判明したのである。以下このことについて説明する。
即ち、図17(C)と図15とを参照すると、図17(C)に示される噴射量に対する噴射量ゲインFK3の変化パターンは、図15に示される噴射量に対する△Q/△tの変化パターンに酷似していることがわかる。なお、この△Q/△tは前述したように噴射指令パルス長の増大に対する噴射量の増大割合を示している。図21および図22は噴射量ゲインFK3の変化パターンが△Q/△tの変化パターンに酷似することを説明するための図であり、従ってまず初めに図21および図22の説明から始める。
図21および図22の(I),(II),(III),(IV)における噴射指令パルス長および実線で示されるニードル弁31のリフト変化は図18の(I),(II),(III),(IV)における噴射指令パルス長および実線で示されるニードル弁31のリフト変化と全く同一である。また、図21において破線で示されるニードル弁31のリフト変化はニードル弁31の開弁時期が△τだけ早められたときのリフト量であり、図22において破線で示されるニードル弁31のリフト変化は噴射指令パルス長を△τだけ延長したときのリフト変化である。
図21および図22において破線で示されるニードル弁31のリフト変化については図10から図13を参照しつつ既に説明しており、前述した如く図21において破線で示されるようにニードル弁31のリフトが変化した場合と図22において破線で示されるようにニードル弁31のリフトが変化した場合とで噴射量の変動量は同じになる。また、前述した如く図22に示されるように噴射指令パルス長が△τだけ延長されると△Q/△tは図15に示されるように変化し、従って図21に示されるようにニードル弁31の開弁時期が△τだけ早められたときには△Q/△tは図15に示されるように変化することになる。
ここで図21において破線で示されるニードル弁31のリフト量と、図18において破線で示されるニードル弁31のリフト量とを比べると異なるところはニードル弁31のリフト量の増大の仕方であってその他の点は極めて類似している。従って破線で示すようにニードル弁31のリフト量が変化したときの主噴射量の増大割合は図21に示す場合と図18に示す場合とでほとんど同じになる。従って図15に示される△Q/△tの変化パターンと図17(C)に示される噴射量ゲインFK3の変化パターンはほとんど同じになる。このことは実験によっても確められている。
従って図15に示される△Q/△tの変化パターンから図17(C)に示される変化パターンを求めることができる。ところで燃料噴射弁3を電気的に制御するようにした内燃機関では図14に示される噴射量と噴射指令パルス長との関係は必ず実験により求められており、従って図14に示す関係から算出される図15の△Q/△tの値は特別な実験を行うことなく求めることができる。従って図15における△Q/△tの変化パターンから求めることのできる図17(C)の噴射量ゲインFK3も特別な実験を行うことなく求めることができることになる。従って、図16(A)に示されるような種々の主噴射量に対する主噴射の変動量dQtを求める必要がなく、一つの基準の主噴射量、例えば20(mm3)のときの主噴射の変動量dQtだけを求めればよいことになる。