JP4271603B2 - 室温強度及びクリープ強度に優れた高Crフェライト系耐熱鋼 - Google Patents
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フェライト系耐熱鋼には、炭素鋼、低合金鋼、9〜12%Cr鋼等があり、これらの優れた点は、オーステナイト系耐熱鋼に比べ、安価であること、熱膨張係数が低いこと、室温強度が高いことである。
したがってこれらの材料は、これまで火力発電用プラントのタービン、ボイラといった特に低熱膨張性の要求される部材として使用されてきた。
したがって、クリープ強度向上が最優先課題であり、そのための材料開発はこれまで数多く行われてきた。
フェライト系耐熱鋼は、これまで炭素鋼からCr、Mo添加により低合金鋼を経て、現在は9〜12%Cr鋼を基本とした組成による組織制御が行われている。まずさらなるクリープ強度向上が最優先課題であることから、オーステナイト系耐熱鋼に対して安価であるフェライト系耐熱鋼においても、Wを含有させた特許文献1に提案されているような合金開発がなされた。その後Co添加、WとMoの適正化、B添加によるクリープ強度向上による研究が特許文献2、特許文献3、特許文献4で提案された。それとともに、靭性改善のためNi添加も特許文献5、特許文献6で提案され、さらに特許文献7では、B、N、O、Hの最適組成バランスがクリープ強度向上に大きな影響をもたらすことが述べられた。
一方でこの特許文献9で提案された、Cをより低減した材料における室温引張強度に関して、我々は調査を実施した。その結果C量の増加に伴い、強度は低下するとともに、焼き戻し温度の上昇によっても強度は低下した。したがって例えばこのC低減鋼の室温引張強度を12Crタービン材にて要求される室温引張強度レベルまで向上させることを考えると、焼き戻し温度は650℃近傍まで低下させる必要があることがわかった。
以上のことから、Cをより低減したフェライト系耐熱鋼において、室温引張強度、長時間クリープ強度の両方を満足する材料は未だ提供されていない。
この発明は原料溶解後に成形後、次いで1070〜1100℃にて拡散処理し、1070〜1100℃の温度にて焼き入れ処理後、680〜800℃で焼戻し処理を行うことを一態様として提供する。
高温クリープ強度向上のためM23C6の析出を抑制し、MX型析出物を微細に粒界もしくは粒内に析出させる必要がある。そのため十分な固溶化処理が必要不可欠であり、本合金は拡散処理後、1070℃以上の焼入れ処理を施すのが望ましい。
またWを積極的に添加することで、室温強度及びクリープ強度を向上させるFe2W型ラーベス相を析出させる。図1に示すように、Fe2Mo型ラーベス相に対して、Fe2W型ラーベス相はより高温側にノーズが位置しているだけでなく、WはMoに比べ拡散速度が著しく遅いため、マトリックスに多量のWが固溶する。これによりFe2Wの析出速度は抑制され、マトリックス中に微細に析出するばかりでなく、長時間保持後も過時効にならない。
C:(0.03%以下)
Cは添加すればするほど、長時間クリープ強度に悪影響を及ぼす粗大化したM23C6を多量に析出させることとなる。これに対し、C0.01%以下であれば、クリープ強度向上に寄与することは顕著である。そこで本発明では、クリープ強度向上の目的でM23C6をより低減し、MX型析出物の粒界析出抑制を促すようCを極力少なくする。さらに製造費用対効果を考慮し、C添加量は0.03%以下とする。
Siは溶製時の脱酸剤として大きく寄与するが、多量に添加すると、室温強度、クリープ強度を低下させる。したがってSi含有量は、0.01〜0.50%とした。好ましくは、0.01%〜0.20%である。より好ましくは上限を0.10%とする。
MnはSiと同様、溶製時の脱酸剤として大きく寄与するが、0.50%を超えると、クリープ強度を低下させる。よって、Mn含有量は、0.01〜0.50%とした。好ましくは、0.01〜0.30%である。
Pは不可避不純物であり、靭性を低下させるとともに、熱間加工性も低下させるため、極力低減することが望ましい。従って、その上限を0.020%以下とする。
Sも不可避不純物であり、靭性を低下させるとともに、熱間加工性も低下させるため、0.010%以下に含有量を抑えることが望ましい。
Oは酸化物を生成する。しかし0.010%を超えると、酸化物が過剰に生成し、鋼塊清浄度を著しく悪くする。これにより、靱性、加工性、溶接性を低下させるため、可能な限り低減することが望ましく、上限を0.010%とする。好ましくは、0.006%以下である。
Niを添加すると、靭性が向上するので所望により添加する。しかし2.0%を超えると、クリープ強度を著しく低下させる。したがって、Ni含有量は2.0%以下とする。なお、靱性向上効果を十分に得るためには0.01%以上含有させるのが望ましい。
Crは耐酸化性、耐食性向上のため、最低7.0%以上添加する必要がある。このときの組織形態はマルテンサイトである。しかし15.0%を超えると、全面マルテンサイト組織ではなくなり、δフェライトを生成する。このδフェライトは、強度、加工性、靱性を損なうため、Cr含有量は、7.0〜15.0%とする。
Wは、熱処理後Fe2Wラーベス相を主体とする金属間化合物として析出するため、室温強度及びクリープ強度を向上させる。図1に示すように、同類の化合物形態からなるFe2Mo型ラーベス相に対して、Fe2W型ラーベス相は、より高温側にノーズが位置している。またWはMoに比べ拡散速度が著しく遅いため、マトリックスに多量のWが固溶する。これによりFe2Wの析出速度は抑制され、Fe2Wは微細に析出し、長時間クリープ強度向上に寄与する。これに対して、Fe2Moは図1に示すようにより低温側に存在するだけでなく、拡散速度も著しく速いため、早期に析出し、凝集粗大化する。このため、本合金ではMoを無添加とすることを基本としているのが特徴である。このことは、δフェライト有無の指標となるCr当量を著しく下げることにもつながり、Wが4.5%以上にも拘わらず、δフェライト相生成を極力抑制することが可能である。したがってWの含有量は、4.5〜7.0%とする。望ましくは、上限が6.0%である。
Coはオーステナイト生成元素であるため、δフェライト抑制に大きく寄与するばかりでなく、焼入れ性及びクリープ強度向上にも寄与する。しかしCoは非常に高価であり、コスト低減を考慮しなければならない。またCoによる効果は6.0%以下で顕著となるため、Co含有量は0.01〜6.0%とする。望ましくは、下限が2.0%、上限が5.0%である。
Vは炭素、窒素と結びつき、微細な炭窒化物を形成することで、クリープ強度を向上に寄与する。しかし0.50%を超えると、粗大な炭窒化物を生成し、クリープ強度が低下する。したがってV含有量は0.01〜0.50%とする。望ましくは、下限が0.10%、上限が0.30%である。
NbはVと同様、微細な炭窒化物を形成し、クリープ強度向上に寄与する。しかし、0.50%を超えると、Nbは液相から固相への溶解度積が低いという特徴から、オーステナイト域で偏析しやすくなり、クリープ強度低下を招く。したがって、偏析阻止にNbを無添加とする必要もあり、Taによる置換も考慮し、所望により含有させ、その場合の含有量を0.50%以下とした。含有させる場合においては上記作用を十分に得るために、下限0.03%、上限0.10%であることが望ましい。
TaもNbと同様に、微細な炭窒化物を形成しクリープ強度向上に寄与する。またTaは、特にFe2W型ラーベス相析出を遅延させ、さらなるクリープ強度向上の効果を持つ。さらに、Taはマトリックス中のCを強力に固着させる効果を持ち、M23C6やM7C3といった炭化物析出を抑制させることができる。これら効果を得るには、0.01%以上の添加が必要であるが、0.20%を超えると靱性が低下する。また、Taは希少元素であるため、コスト低減も考慮し、含有量0.01〜0.20%とする。望ましくは、下限が0.03%、上限が0.10%である。
Bは微量添加することにより、クリープ寿命向上に寄与する。その理由として析出物粗大化の抑制、長時間クリープ時の粒界強化、各添加元素における拡散速度の遅延があげられる。特に、B添加により各元素のマトリックスに対する拡散速度遅延の効果が顕著に現れるのはWであり、Wの積極的な添加は、マトリックス強化に大きく寄与し、クリープ強度向上には必要不可欠である。そこで、Wとの効果を最大限発揮するには、Bを0.001%以上添加する必要がある。しかし、0.020%を超えて含有させると、Nとの化合物BNを形成し、著しいクリープ強度の低下及び靱性低下を招く。したがって、Bの含有量は0.001〜0.020%とする。望ましくは、下限が0.003%、上限が0.010%である。
NはV、Nb、Taなどからなる窒化物、炭窒化物を形成して、クリープ強度向上に寄与する。その効果を得るためには、0.01%以上の添加が必要であるが、0.10%を超えるとBNが生成すると同時に、鋼塊製造時にはブローホール形成も招き、クリープ強度及び靱性を低下させる。したがって、N含有量は0.01〜0.10%とする。好ましくは、下限が0.03%、上限が0.06%である。
Reは、ごく微量の添加で固溶強化に著しく寄与し、高温クリープ強度を向上させる効果をもつ。さらに析出物の粗大化を抑制することで長時間クリープ強度を高く維持することに寄与するので所望により0.01%以上含有させる。一方、過剰に含有すると加工性を低下させるためその上限を3.0%とした。なおクリープ強度向上に最も効果を発揮するには、0.1%以上の添加が望ましく、上限を1.0%とする必要がある。望ましくは、下限0.1%、上限1.0%である。ただし、Reは高価であるためそれほどクリープ強度を必要としない場合には、無添加としてもよい。
Cr当量=[Cr%]+6[Si%]+4[Mo%]+1.5[W%]+11[V%]+5[Nb%]+2.5[Ta%]−40[C%]−2[Mn%]−4[Ni%]−30[N%]−2[Co%]
このCr当量は、各合金元素の質量%に元素毎に異なる係数をかけたものを足し合わせた値であり、フェライト生成元素にプラス(+)、オーステナイト生成元素にマイナス(−)をつけて、δフェライトが生成する可能性を数値で評価できる。経験的にCr当量は9%を超えると、δフェライトを生成し易くなるため、Cr当量は9%以下に限定するのが好ましい。
これらの鋼を1070〜1100℃にて10〜70h拡散処理後、1100℃で1h保持し空冷後、800℃×1hまたは680℃×20hの焼き戻し処理を行った。
表2に示すように、本発明鋼の800℃及び680℃焼き戻し材は、比較綱に対して、0.2%耐力、引張強度ともに約1.16倍以上の優れた強度を示し、著しく室温強度に優れたフェライト系耐熱鋼が得られている。また表3に示すように、本発明鋼における680℃焼き戻し材の650℃/応力220MPaにおけるクリープ破断時間は、比較綱6より優れているばかりでなく、比較鋼5とも同等レベルの破断時間を示している。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.03%以下、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、O:0.010%以下、Ni:2.0%以下、Cr:7.0〜15.0%、W:4.5〜6.0%、Co:0.01〜6.0%、V:0.01〜0.50%、Nb:0.50%以下、Ta:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.02%、N:0.01〜0.10%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる室温強度及びクリープ強度に優れた高Crフェライト系耐熱鋼。
- 成分としてさらに質量%でRe:0.01〜3.0%を含有することを特徴とする請求項1記載の室温強度及びクリープ強度に優れた高Crフェライト系耐熱鋼。
- 焼き戻し温度680℃以上でTS≧1000MPaを満足することを特徴とする請求項1または2に記載の室温強度及びクリープ強度に優れた高Crフェライト系耐熱鋼。
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