JP4267874B2 - フォトマスクの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体部品や、液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネルなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に使用する大型フォトマスク及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、半導体集積回路やFPDの製造にはフォトマスクの使用が不可欠であり、実際大量に使用されている。透光性基板上にCr膜等の遮光性膜パターンを形成したフォトマスクは、多くの薬品に対して安定であるため、その製造工程及び使用工程で洗浄を行うことが可能である。フォトマスクの洗浄には、その取り扱いが難しいにも関わらず、その洗浄効果の高さから、酸やアルカリなどの薬液が使用されることが多い。その中でも、洗浄効果が高く、また低コストで扱いやすい硫酸はフォトマスクのみならず、ウエハー等の洗浄にも多く用いられている。特にFPDの製造に使用される大型フォトマスク(一般にパターン線幅が1μm以上であって、7インチ角(7インチ×7インチ)以上の大きさ(1インチ=25.4mm))の洗浄工程においても硫酸又は硫酸過水を用いた酸洗浄が行われている。洗浄の歩留まりを向上させるためにも、強力な洗浄方法を用いて洗浄回数を減らすことは有効であり、オペレータによる直接的なハンドリング工程が多く、工程途中でマスクが汚染される確率の高い大型フォトマスクでは、酸洗浄に変わる有効な洗浄方法は今のところ殆ど見当たらないというのが現状である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のように硫酸を用いた洗浄工程の後、水洗(リンス)を行っても、そのフォトマスクなどの表面には硫酸が残さとして存在し、それを完全に除去することは一般には困難である。この硫酸残さは、フォトマスクを使用する環境によってはその環境中に存在する物質と反応を起こし、フォトマスク表面での異物発生等の厄介な現象を引き起こす。たとえば、フォトマスク表面に残留した硫酸は、特に大気中のアルカリ雰囲気(例えばアンモニア)の影響を受け、硫酸残さと大気中雰囲気に含まれる塩基性物質からフォトマスク表面に硫酸塩の結晶を成長させる。この硫酸塩の結晶は時には数ミクロンから数十ミクロンのサイズに成長し、フォトマスク上に遮光性の欠陥(黒欠陥)として発生し、その使用に不具合をもたらす。
【0004】
そこで、硫酸を用いた洗浄工程の後、フォトマスク上の硫酸残さを十分に除去するために、純水によるリンス時間を延長したり、純水温度を常温より高くした温純水を使用する方法のほか、純水に電解質・アルカリ物質等を添加したり、電気分解等によって物性を加工した純水を用いる方法(例えば特開平11−167195号公報)などが提案されている。
しかし、これらの方法では、未だフォトマスク表面の異物発生を十分に抑えることが出来ず、しかも洗浄時間の延長や、設備投資をしなければならず、製造コストが高くなるという問題がある。
そこで、本発明は上記従来の問題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、第一に大気中雰囲気の環境下においても硫酸イオン残さによる結晶性異物の発生を抑えることができるフォトマスクを提供することであり、第二に大気中雰囲気の環境下においても酸洗浄で残ったイオン残さの除去を確実かつ低コストで行えるフォトマスクの製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、以下の構成を要することが判明した。
(構成1)透光性基板上に遮光性膜パターンが形成されたフォトマスクであって、少なくとも遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面における硫酸イオンのイオン残さ密度を10ng/cm2以下とすることを特徴とするフォトマスク。
硫酸イオンのイオン残さ密度を10ng/cm2以下とすることにより、フォトマスクの保管環境雰囲気による結晶性異物の発生を最小限に抑えることが出来る。従って、このフォトマスクにおける結晶性異物による黒欠陥の発生を抑えることが出来るので、パターン転写の際、パターン欠陥を防止することが出来る。
硫酸イオンのイオン残さ密度は、好ましくは5ng/cm2以下が望ましい。硫酸イオンのイオン残さ密度は、フォトマスク表面の硫酸残さを純水抽出法で集め、イオンクロマトグラフィーを用いて定量化することができる。
なお、少なくとも遮光性膜パターンが形成された側としたのは、パターン転写の際に、結晶性異物による黒欠陥発生に伴うパターン欠陥を必要最小限に抑えるという意味である。さらには、遮光性膜パターンが形成された側とは反対側(裏面)や端面(側面や面取面)における硫酸イオンのイオン残さ密度も10ng/cm2以下とすることが好ましい。
透光性基板は、フォトマスクが使用される露光波長に対し透光性を有する基板を言い、具体的にはガラス基板が挙げられる。ガラス基板の材料としては、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラスや、無アルカリガラス、低膨張ガラスなどが挙げられる。
遮光性膜パターンの材料としては、フォトマスクが使用される露光波長に対し遮光性を有する材料であればよく、例えば、クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素、フッ素の中から選ばれる少なくとも1つの元素を添加したもの、金属シリサイドや金属シリサイドに酸素、窒素、炭素、フッ素の中から選ばれる少なくとも1つの元素を添加したもの(金属:モリブデン、タングステン、タンタル、チタン、クロム等)などが挙げられ、単層でも複数層としても良い。
【0006】
また、一般に、フォトマスクは、遮光性膜パターンに異物が付着することによるパターン転写の際のパターン欠陥防止のために、遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面にペリクルを設置する。フォトマスク表面に硫酸イオンのイオン残さのある状態でペリクルを設置した場合、露光波長である紫外線との反応により結晶性異物が生成されることがある。この生成した結晶性異物を除去するためにはフォトマスクの再洗浄を行う必要があるが、ペリクルを取り除かなければフォトマスクの再洗浄が行えないので、工程負荷となるとともに、フォトマスクの精度や品質が劣化する。従って、本発明の硫酸イオンのイオン残さ密度が少ない(10ng/cm2以下)のフォトマスクは、フォトマスク表面にペリクルを設置するペリクル付きフォトマスクに有用である。
(構成2)透光性基板上に遮光性膜パターンを形成したフォトマスクを硫酸を含む溶液で酸洗浄した後、水洗(リンス)を行うフォトマスクの製造方法において、前記水洗(リンス)を行う前及び/又は水洗(リンス)中に、少なくとも遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面を、負の電荷に帯電させることを特徴とするフォトマスクの製造方法。
硫酸イオンと同じ種類の電荷(負)に帯電させることで、フォトマスク表面とイオン残さとの間に電気的な反発力を生じさせることが出来る。イオン残さはフォトマスク表面から遊離しやすくなり、水洗(リンス)によってイオン残さを効率よく除去できる。
帯電させるのは、水洗(リンス)を行う前、水洗(リンス)中、水洗(リンス)を行う前と水洗(リンス)中の何れであっても構わない。
フォトマスクを酸洗浄する際の酸としては、硫酸が一般的であるが、遮光性膜パターンが耐酸性を有するものであれば、硫酸に塩酸や硝酸、燐酸、フッ酸等を混合して使用しても構わない。
水洗(リンス)で使用するリンス液としては、純水、超純水やこれらにアンモニアや炭酸ガス等の比抵抗を下げる物質を溶解させたものを使用することが出来る。
帯電させる方法としては、最も簡単で有効な方法としては、構成3の方法が挙げられる。
【0007】
(構成3)少なくとも遮光性膜パターンが形成される側のフォトマスク表面に対向して配置した多数のノズル孔を有するノズルよりリンス液を噴出し、回転したフォトマスク表面に該リンス液を供給することにより、水洗中、フォトマスク表面を負の電荷に帯電させることを特徴とする構成2記載のフォトマスクの製造方法。
ノズルからのリンス液の噴出時と、そのリンス液がフォトマスク表面に当たるときに発生する電荷によってフォトマスク表面を帯電させることが出来る。例えば、リンス液として純水を使用した場合、フォトマスク表面を負(マイナス)側に帯電させる。
硫酸を含む溶液による酸洗浄を行った場合、本発明のフォトマスクの製造方法は有利に適用される。例えば、上述の多数のノズルより噴出する純水をフォトマスク表面に当てることにより、フォトマスク表面はイオン残さである硫酸イオンと同じ種類の電荷(負(マイナス))側に帯電される。これにより、フォトマスク表面とイオン残さとの間に電気的な反発力を生じ、イオン残さはフォトマスク表面から遊離しやすくなり、水洗(リンス)によってイオン残さを効率よく除去できる。
【0008】
(構成4)前記遮光性膜パターンの線幅が1μm以上であることを特徴とする構成2又は3記載のフォトマスクの製造方法。
遮光性膜パターンの線幅が1μm以上としたのは、酸溶液で使用する酸と同じ種類の電荷に帯電させたときに、隣接するパターンの間でショートや放電することによるパターンダメージを抑えることが出来るからである。
具体的には以下の構成5に示すように、液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネルなどのFPDを含む液晶表示装置を作製する大型フォトマスクの製造方法に有用である。
(構成5)液晶表示装置を作製する大型フォトマスクであることを特徴とする構成4記載のフォトマスクの製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述する。
図1(a)は、通常の透光性基板上に遮光性膜パターンが形成されたフォトマスク、図1(b)は、遮光性膜パターン側にペリクルを設置したペリクル付きフォトマスクを示す断面図である。
図1(a)に示す本発明に係るフォトマスク1は、合成石英ガラスなどからなる透光性基板11と、該透光性基板11の表面上に形成されたクロム等の材料からなる遮光性膜パターン12が形成されている。本発明に係るフォトマスクは、液晶表示装置を作製するための大型フォトマスクであって、パターン転写の際、等倍露光のため遮光性膜パターン12のパターン線幅は1μm以上と比較的広いパターンが形成されている。
図1(b)に示す本発明に係るフォトマスク1は、上述の図1(a)に示すフォトマスクの遮光性膜パターン12が形成された側にペリクル13を設けたものである。
なお、図1(a)、(b)に示すフォトマスクの表面(フォトマスク全面)の硫酸イオンのイオン残さ密度は、以下に示すフォトマスクの製造方法によって、10ng/cm2以下に抑えられている。
本発明に係るフォトマスクの製造方法は、前述したように、フォトマスクを硫酸を含む溶液で酸洗浄した後、水洗(リンス)を行うことによりフォトマスクを製造するものであって、水洗(リンス)を行う前及び/又は水洗(リンス)中に、フォトマスク表面を、負の電荷に帯電させることにより、製造したフォトマスクを大気中雰囲気の環境下で保管しても、フォトマスクの使用上の不具合となる遮光性欠陥(黒欠陥)を生じる結晶性異物の発生を十分に抑えることができるものである。
【0010】
フォトマスクを上記のように硫酸溶液で洗浄する場合、硫酸は電離度が大きく水溶液中ではそのほとんどが硫酸イオンと水素イオンとに電離しており、イオン残さとして硫酸イオンがフォトマスク表面に残留することが従来確認されている。低PHの溶液、つまり酸性溶液中ではフォトマスクに用いられるガラス基板の表面は通常、正(プラス)の電荷を持ちやすい傾向がある。したがって、硫酸イオンはアニオンであることから、正(プラス)電荷を持つフォトマスク表面に電気的な吸引力によって残留しやすく、酸洗浄後、水洗(リンス)処理を行っても容易には除去できないと考えられる。そこで、水洗(リンス)を行う前及び/又は水洗(リンス)中に、イオン残さと同じ種類の電荷にフォトマスク表面を帯電させることで、フォトマスク表面とイオン残さとの間に電気的な反発力を生じさせることが出来る。これにより、イオン残さはフォトマスク表面から遊離しやすくなり、水洗(リンス)によりイオン残さを効率良く除去できる。
【0011】
このようにフォトマスク表面をイオン残さと同じ種類の電荷に帯電させる手段として、具体的には、多数のノズル孔を有するノズルより噴出するリンス液をフォトマスク表面に当てる方法を採用することができる。リンス液として純水を使用する場合、ノズルからの純水の噴出時とその純水がフォトマスク表面に衝突する時に発生する電荷によってフォトマスク表面を負(マイナス)側に帯電できる。これにより、フォトマスク表面と硫酸イオン残さとの間に電気的な反発力を生じさせることが出来る。
【0012】
さらに具体的には、本発明は、被洗浄物をフォトマスクとし、除去するイオン残さを硫酸イオンとした場合(酸洗浄を硫酸洗浄とした場合)のイオン残さの除去手段も提案するものである。上述のように、静電荷の発生源には、ノズルからのリンス液の噴出時とそのリンス液がフォトマスクへ衝突したときに発生する電荷を用いる。そのとき、ノズル材料はフッ素樹脂や塩ビ樹脂などの絶縁体を用いて噴出時にリンス液を積極的に帯電させるようにする。リンス液として純水を使用した場合、その純水をフォトマスクに接触させることで、フォトマスク表面を非接触式表面電荷測定器で測定すると約−800Vに帯電させることが可能である。フォトマスクにダメージを与えず、且つフォトマスクの取扱時には作業者が感電するようなことの無いよう、自然放電もしくは除電機やその他の手段によって除電が可能な範囲でなるべくフォトマスクの帯電量を多くすることで、イオン残さの除去効果が増加する。
【0013】
図2は本発明に係るフォトマスクの製造方法における水洗(リンス)を実施する手段の一実施形態を示すもので、その概略構成を示す斜視図である。
硫酸を含む溶液による酸洗浄後、水洗(リンス)を行うが、本実施形態では、フォトマスク1の上方から水洗(リンス)手段2によって水洗(リンス)を行う。本実施形態の水洗(リンス)手段2は、横向きに配置した直管状のノズル管21の下方周面に多数のノズル孔22,22,・・・を設け、このノズル管21に水圧を高めた純水を流し、各ノズル孔22より純水を噴出させて矢印Aで示すようにフォトマスク1表面に衝突させるようにしている。この場合、ノズル孔22の大きさ(径)や形状を変更したり、水圧を変更することで、各ノズル孔22から噴出した純水がフォトマスク1表面に当たる衝突圧(打圧)を変えることが可能である。純水のリンス衝突圧を高めることの二次的効果としては、フォトマスク1表面のイオン残さを機械的エネルギーによって除去できることである。また、フォトマスク1の裏面にも複数のノズルによって矢印Bで示すように純水を適宜供給することが望ましい。
【0014】
このようにフォトマスク1の帯電及びイオン残さを洗い流すために用いている純水は、フォトマスク1に均一な電荷を与え且つ均一なリンス効果を与えるため、スピンテーブルによってフォトマスク1を数回転から数百回転/毎分の間で回転させながら(例えば図示矢印C方向)且つ多数のノズルによってフォトマスク1上に供給することが好ましい。このとき、純水の噴出速度を上げて純水の帯電がしやすくなるよう、十分な流量と噴出圧が保てる範囲でノズル径は0.1〜3.0mmの間とすることが好ましい。また、純水がフォトマスク1に衝突したときに、ノズル管21の各ノズル孔22それぞれから噴出された純水によって生じる水膜が途切れないよう、各ノズル孔22間の距離は1.0〜20mmの間で調整することが好ましい。また、ノズル管21に設ける各ノズル孔22は直線配列とし、その長さはスピン回転中のフォトマスク1の回転最外周より長く、フォトマスク1全体を跨ぐような長さとし、フォトマスク1上で水膜が途切れないように調整することが望ましい。さらに、フォトマスク1上に均一な水膜を形成することで均一な帯電状態を生じるように、スピン回転しているフォトマスク1上に配置したノズル管21をフォトマスク1表面に対して平行に揺動(例えば図示矢印D方向)させることが望ましい。この場合のノズル管21の揺動の中心位置、幅、周期などはフォトマスク1のサイズやノズルサイズによって異なるが、要はフォトマスク1全体に均一に純水が行き渡り常に純水が入れ替わるような条件であれば特に限定はされない。
【0015】
上記のようなノズル配列を取ることで、純水をフォトマスク1上に均一に行き渡らせる効果と同時に、直線状に配列したノズル孔22から噴出する言わばカーテン状の純水がフォトマスク1のスピン回転運動と相俟ってフォトマスク1表面上の一部の純水をせき止める作用をし、ノズル管21の揺動によって各ノズル孔22から噴出している純水の供給箇所から離れた部分が生じてもフォトマスク1上に純水の水膜を保ち続ける効果を発揮する。これにより、フォトマスク1全体を均一に帯電させることが出来、帯電のむらによる電位勾配が生じ難いため、放電等の急激な電気の流れが生じず、フォトマスクに放電破壊によるダメージを生じる恐れがない。
【0016】
本実施形態では、フォトマスク1上のイオン残さが十分除去できるまでは、帯電を継続させ且つ遊離したイオン残さを常時洗い流すため、ノズルから噴出させた純水をフォトマスク表面1に供給を続けることが望ましい。なお、この時の純水はイオン残さの除去効果を更に高めるために常温より温度の高い(100℃以下)純水を用いることがより好ましいが、洗浄装置やフォトマスク1の耐熱温度が高ければ100℃を超えるスチーム状の純水利用も可能である。また、噴出する純水の圧力があまり高いとフォトマスク1へダメージを与える恐れがあるため、純水の噴出圧は10kg/cm2以下であることが望ましい。
【0017】
このような本発明に係るフォトマスクの製造方法を実現する洗浄装置においては、上述の水洗(リンス)手段2を配置することはもちろんであるが、そのほかにフォトマスク1が帯電しやすいように、且つ帯電した電荷が逃げないようにするため、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等の絶縁性の高い樹脂類やセラミック等の絶縁体を組み合わせた固定治具を用いてフォトマスク1を電気的に隔離した状態で固定する必要がある。この固定治具は水洗(リンス)工程を含む一連の洗浄作業を行うときやスピン乾燥時のマスク保持機能も併せ持つ必要がある。
【0018】
図3はフォトマスクの洗浄装置におけるマスクの固定治具の構造を示したもので、(a)はその側面図、(b)はその平面図である。フォトマスク1は、その側面を各辺あたり2箇所の固定治具3により固定され、またその底面を上記固定治具3の近傍に配置した各辺あたり1箇所の固定治具4により固定される。固定治具3と固定治具4とは台板5に一体的に取り付けられている。この図3に示した固定治具3,4の配置はあくまでも一例であってこれに限定する必要は勿論ない。
【0019】
ところで、固定治具3,4との接触によってフォトマスク1へ汚染が生じないように、本実施形態ではフォトマスク1との接触部分を点接触あるいは線接触に近い形で保持するようにしている。すなわち、固定治具3はその形状を円柱状としフォトマスク1側面との接触部分を線接触に近い形で保持し、固定治具4はその先端部を球面状としてフォトマスク1底面との接触部分を点接触に近い形で保持している。理想的な点接触あるいは線接触に近づけるためには高剛性の材料を用いる必要があるが、実際に剛性の高い材料を使用するとフォトマスク1に傷などのダメージを与える恐れがある。そのため、心材に金属やセラミックを用い、その周りをフッ素樹脂等の樹脂類などフォトマスクにダメージを与え難く、且つ絶縁体としての性質を持つ材料で被覆することでこの問題を解決することができる。さらには、上記形状とすることにより、汚染された洗浄液、純水(リンス液)等がフォトマスク1と固定治具3,4との間に溜まり、これが原因のマスクの再汚染や、スピン回転時の洗浄液や純水(リンス液)が固定治具3,4に衝突して生じる飛び散りが原因のマスクの再汚染を防ぐことが出来る。
【0020】
本実施形態では、上記固定治具4の先端部を球面状としたが、点接触に近い形でフォトマスク1を保持でき、しかも純水が固定治具に衝突して生じる飛び散りが減少するような形状であれば、方物面、流線型、楕円等どのような形状でも構わない。また、上記固定治具3は、フォトマスク1に衝突した純水の水滴が水平方向へ逃げるように、例えば図3(a)のごとく、固定治具3のフォトマスク1底面の延長上の位置に溝やテーパー3aを加工することが好ましい。また、固定治具3,4は必要な強度と形状が再現できる範囲でなるべく小さくし、洗浄液や純水が衝突する表面積を小さくする必要がある。上述のように心材に高剛性の材料を使用することで、樹脂等の剛性の低い材料のみでは不可能であった重量物に対応した保持治具や、小型で特殊な形状の保持治具の加工が可能になる。
上述した本発明のフォトマスク及びその製造方法は、とくに大きさが7インチ角(7インチ×7インチ)以上の大型マスクに有利に適用される。主にFDP等の製造に使用される大型フォトマスクの場合、一般にパターン線幅が1μm以上であって、LSI用のフォトマスクなどと比べると、パターンの線幅や精度に対する要求が緩やかであるため、フォトマスク取り扱い時に基板を帯電させたことによる放電が生じ難く、また高圧ノズルより噴出するリンス液によって仮にフォトマスク表面が変化してもそれがパターンの欠陥となる恐れが極めて低い。また、大型フォトマスクの場合、フォトマスク表面にペリクルを設置したペリクル付きの製品とすることも多く、本発明を有利に適用できる。
【0021】
なお、本実施形態では、高圧ノズルによる純水の噴出及び噴出した純水のフォトマスク1への衝突によって生じる電荷を用いてフォトマスク1を帯電させているが、この方法のみでは帯電量や帯電種(正負)の管理が難しい場合には、ノズルから噴出される純水やフォトマスク1の近傍に電極を配置し、その電界内にフォトマスク1や純水を設置したり、純水ノズルや配管を導電性の材料に替えて直接電荷を与えることも出来る。この場合は加える電圧を管理することにより、イオン残さの除去効率を管理することが可能となる。また、樹脂製のブラシ等を摩擦することによって生じた電荷を用い、純水又はフォトマスク1を直接又は間接的に帯電させる方法でも良い。また、フォトマスク1の遮光性膜パターンからの放電が生じてパターンの破壊が生じないようにフォトマスク1の周辺から導体を隔離することが望ましい。水洗(リンス)処理後のフォトマスクの電荷が自然放電により速やかに減少する場合は、処理後の帯電量については特にコントロールを行う必要はないが、フォトマスクを特に高い電位で帯電させて処理したときなどは、フォトマスクの装置への設置時及び取り外し時に、装置とフォトマスクとそれを取り扱う作業者の間に生じる電位差のため放電が生じフォトマスクにダメージが生じる恐れがある場合、それぞれに電気的なアーシングを施したり、除電器等を用いて除電することが望ましい。
【0022】
また、リンス液として純水にアンモニアや炭酸ガス等の比抵抗を下げる物質を溶解させたり、純水を一度タンク等に貯蔵し、純水中に極微量の不純物を溶かし込むことで純水の比抵抗値を低下させ、フォトマスクへのダメージが生じる恐れを防ぐことも可能である。このとき、比抵抗調整器等を用いて純水比抵抗を管理できれば、フォトマスクへのダメージ対策にはより有効である。
本発明に係るフォトマスクの製造方法は、高価な設備や余分な電力エネルギー等をとくに必要とせず、酸洗浄後のイオン残さを効率的に除去し、例えば硫酸洗浄の場合は硫酸イオン残さ量を所定値以下に抑えてフォトマスクの汚染を防止することが可能となる。さらに、スピン洗浄機と組み合わせることで、イオン残さの除去工程により遊離したイオン残さを洗い流すことも一連の工程内で可能となる。
なお、本実施形態では、硫酸洗浄を行うフォトマスクの製造における硫酸イオン残さを取り除くことについて示しているが、硫酸以外の酸を用いた酸洗浄を行う場合に生じるイオン残さであって、フォトマスクとの電気的な反発力によってフォトマスクから遊離出来るものに対しても本発明を適用することが可能である。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明し、同時に比較例を挙げて本発明の有用性を示す。
8インチ角(8インチ×8インチ)の石英ガラス基板上にCr膜を用いた遮光性膜パターン(パターンの線幅は1μm以上)を形成し、次いでこの大型フォトマスクを次の3通りの方法で洗浄した。
(1)上記フォトマスクを濃度80%の硫酸溶液(温度60℃)中で10分間浸漬処理して酸洗浄した後、図4(a)に示すようにバット8中でノズル6から純水を流下させながら10分間水洗(リンス)処理を行い、最後にイソプロピルアルコール(IPA)蒸気中で乾燥した。
(2)上記硫酸溶液中での浸漬処理を行った後、図4(b)に示すようにスピンテーブルによってフォトマスクを矢印C方向に約300回転/分で回転させながら且つ60℃の温純水を2つのノズル7,7で流下させながら、さらにフォトマスクの下面にも複数のノズルで温純水を当てながら10分間水洗(リンス)処理を行った以外は上記(1)と同様にして洗浄した。
(3)上記硫酸溶液中での浸漬処理を行った後、前述の図2に示すような多数の高圧ノズルから噴出する温純水(60℃)をフォトマスク表面に当てるようにしながら10分間水洗(リンス)処理を行った以外は上記(1)と同様にして洗浄した。なお、各ノズル孔22のノズル径は1.0mm、各ノズル孔22間の距離は10mmとし、純水の噴出圧は10kg/cm2以下とした。さらにスピンテーブルによってフォトマスクを矢印C方向に約300回転/分で回転させながら、且つノズル管21を適当な周期で矢印D方向に往復揺動させてフォトマスク全体に均一に純水が行き渡るようにした。
【0024】
このように(1)〜(3)の3通りの方法でそれぞれ洗浄を行い、フォトマスクサンプルNo.1〜3を作製した。これらのサンプルについて、各フォトマスク表面(遮光性膜パターン形成面)の硫酸残さを純水抽出法を用いて集め、硫酸イオンのイオン残さ密度をイオンクロマトグラフで定量化した。
その結果、上記(1)の方法で洗浄したサンプルNo.1(比較例1)、上記(2)の方法で洗浄したサンプルNo.2(比較例2)及び上記(3)の方法で洗浄したサンプルNo.3(実施例)の硫酸イオンのイオン残さ密度はそれぞれ25.3ng/cm2、12.2ng/cm2、4.5ng/cm2であった(図5のグラフ参照)。
上記3通りの洗浄を行ったサンプルNo.1〜3を、加速的な反応条件である高濃度(室温での飽和蒸気圧)のアンモニア雰囲気下に長時間放置した。すなわち、各サンプルは透明樹脂のケースにアンモニアガスと共に密閉し、日照時間内は室外の日当たりの良い場所に放置して高温状態と紫外線を含んだ光線が照射される状況にした。実験開始から86日間(2064時間)経過した後、各サンプルをケースより取り出し、高輝度ランプでそのフォトマスク表面を観察したところ、比較例1,2のサンプルNo.1とNo.2はいずれも遮光性膜パターン面及び裏面共に、表面付着物に由来する曇りが観察された。この曇り部分をさらに顕微鏡で観察したところ、結晶状の異物が確認された。
これに対し本発明の実施例のサンプルNo.3は、このような曇り部分がほとんど確認されず、本発明のフォトマスク及びその製造方法によりフォトマスクの使用上の不具合となる遮光性欠陥を生じる結晶性異物の発生が十分抑えられることがわかった。
【0025】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、請求項1の発明によれば、少なくとも遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面における硫酸イオンのイオン残さ密度を10ng/cm2以下とすることにより、フォトマスクの保管環境雰囲気においても結晶性異物の発生を最小限に抑えることが出来る。従って、このフォトマスクにおける結晶性異物による黒欠陥の発生を抑えることが出来るので、パターン転写の際、パターン欠陥を防止することが出来る。
【0026】
また、請求項2の発明によれば、透光性基板上に遮光性膜パターンを形成したフォトマスクを硫酸を含む溶液で酸洗浄した後、水洗(リンス)を行うフォトマスクの製造方法において、水洗(リンス)を行う前及び/又は水洗(リンス)中に、少なくとも遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面を、負の電荷に帯電させることにより、フォトマスク表面とその表面に残留するイオン残さとの間に電気的な反発力を生じさせることが出来、イオン残さはフォトマスク表面から遊離しやすくなり、水洗(リンス)によってイオン残さを効率よく除去できる。従って、フォトマスク表面のイオン残さが少なく、マスク使用上の不具合となる遮光性欠陥を生じる結晶性異物の発生が抑えられる。
また、請求項3の発明のように、少なくとも遮光性膜パターンが形成される側のフォトマスク表面に対向して配置した多数のノズル孔を有するノズルよりリンス液を噴出し、回転したフォトマスク表面に該リンス液を供給して水洗中、フォトマスク表面を負の電荷に帯電させることにより、ノズルからのリンス液の噴出時と、そのリンス液がフォトマスク表面に当たるときに発生する電荷によってフォトマスク表面を帯電させることが出来るので、フォトマスク表面を帯電させる方法としては最も簡単且つ低コストで有効な方法である。
【0027】
また、請求項4のように、フォトマスクの遮光性膜パターンの線幅が1μm以上であることにより、酸溶液で使用する酸と同じ種類の電荷に帯電させたときに、隣接するパターンの間でショートや放電することによるパターンダメージを抑えることが出来る。
また、請求項5の発明のように、一般に遮光性膜パターンの線幅が1μm以上である、例えば、液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネルなどのFPDを含む液晶表示装置を作製する大型フォトマスクの製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は通常の透光性基板上に遮光性膜パターンが形成されたフォトマスクを示す断面図、(b)は、遮光性膜パターン側にペリクルを設置したペリクル付きフォトマスクを示す断面図である。
【図2】本発明に係るフォトマスクの製造方法における水洗(リンス)を実施する手段の概略構成を示す斜視図である。
【図3】(a)はフォトマスクの洗浄装置における固定治具の構造を示す側面図、(b)はその平面図である。
【図4】(a)及び(b)はそれぞれフォトマスク洗浄方法の比較例を示す斜視図である。
【図5】洗浄方法の違いによるフォトマスク表面の硫酸イオン残さ密度の比較結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 フォトマスク
11 透光性基板
12 遮光性膜パターン
13 ペリクル
2 水洗(リンス)手段
21 ノズル管
22 ノズル孔
3、4 固定治具
6,7 ノズル
8 バット

Claims (5)

  1. 透光性基板上に遮光性膜パターンを形成したフォトマスクを硫酸を含む溶液で酸洗浄した後、水洗を行うフォトマスクの製造方法において、
    前記水洗中に、少なくとも遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面を負の電荷に帯電させることによりフォトマスク表面と硫酸イオン残さとの間に電気的な反発力を生じ、前記フォトマスク表面における硫酸イオン残さ密度を10ng/cm 以下とするように、
    少なくとも遮光性膜パターンが形成された側のフォトマスク表面に対向して配置した多数のノズル孔を直線状に配列して有する絶縁性の材料で構成されたノズル管に水圧を高めた純水を流し、各ノズル孔より10kg/cm 以下の噴出圧で純水を噴出し、噴出した純水をスピン回転しているフォトマスク表面に衝突させて該純水を供給することにより、水洗中、フォトマスク表面を負の電荷に帯電させることを特徴とするフォトマスクの製造方法。
  2. 少なくともフォトマスクとの接触部分が絶縁性の材料で構成された固定治具を用いてフォトマスクを固定することを特徴とする請求項1記載のフォトマスクの製造方法。
  3. 前記水洗中に、スピン回転しているフォトマスク上に配置した前記ノズル管をフォトマスク表面に対して平行に揺動させることを特徴とする請求項1又は2記載のフォトマスクの製造方法。
  4. 前記遮光性膜パターンの線幅が1μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフォトマスクの製造方法。
  5. 液晶表示装置を作製する大型フォトマスクであることを特徴とする請求項4記載のフォトマスクの製造方法。
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