JP4265324B2 - 新規なニコチン酸誘導体及びその合成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、質量分析学及びタンパク質・ペプチド化学分野に有用な、新規なニコチン酸誘導体及びその合成方法に関する。特に、本発明は、質量分析学及びタンパク質・ペプチド化学分野に有用な、新規な重水素化ニコチン酸誘導体及びその合成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
市販のICAT試薬が良く知られているように、タンパク質・ペプチドに対する質量マーカーとしてのラベル化試薬は、分子中に安定同位体を含有する。タンパク質・ペプチド中には様々な化学構造が存在するため、ラベル化試薬の種類もそれらに対応して種々の化学構造を有する化合物が模索され報告されている。タンパク質・ペプチドのN末端アミノ基に対するラベル化試薬として、ニコチノイルスクシンイミド誘導体、すなわち1−(ニコチノイルオキシ)スクシンイミド及び1−([D4]ニコチノイルオキシ)スクシンイミドがMunchbackら(Anal. Chem., 2000, 72 (17), 4047-4057)によって合成され、ペプチドの質量分析による発現量解析及びアミノ酸配列解析のために用いられてきた。
【0003】
安定同位体を含有する化合物は一般に、安定同位体を含有する原料化合物を用いて目的の構造を有する化合物へと誘導することによって合成されている。Munchbackらによる合成においても、重水素を含有する出発原料[D4]ニコチン酸(Cambridge Isotope Laboratories (Andover, MA))が用いられている。しかし、重水素等の安定同位体を含有する原料は煩雑な工程を必要とし、高価であること等の問題がある。
【0004】
また、従来のラベル化試薬は、ペプチドの分析における検出の感度に関して不十分であるため、ペプチドを高感度で分析することができるラベル化試薬の開発が望まれている。
【0005】
【非特許文献1】
ミュンヒバック・M(Munchback M)、クアドロニー・M(Quadroni M)、ミオット・G(Miotto G)、ジェームズ・P(James P)著、断片化を促進する成分を用いたペプチドN末端の同位体標識によるタンパク質の定量及び簡便化されたde novoシーケンス(Quantitation and facilitated de novo sequencing of proteins by isotopic N-terminal labeling of peptides with a fragmentation-directing moiety)、「アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)」、2000年9月1日、第72巻、第17号、p.4047−4057
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、タンパク質・ペプチドのN末端アミノ基に対するラベル化試薬として用いることができる新規な化合物を提供することにある。特に本発明の目的は、タンパク質・ペプチドのN末端アミノ基に対するラベル化試薬として用いることができる新規な重水素化化合物を提供することにある。また本発明の目的は、一般的に入手容易な原料を用いて安価かつ簡便に合成することができる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、一般に入手容易な出発原料を用い、より安価に重水素化を行う合成方法を見出した。
【0008】
すなわち本発明は、下記式(1)で表される1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドである。
【化6】
【0009】
本発明は、下記式(2)で表される6−(D3)メチルニコチン酸である。
【化7】
【0010】
本発明は、6−メチルニコチン酸を重水素化して6−(D3)メチルニコチン酸を合成する方法である。
本発明は、6−(D3)メチルニコチン酸をスクシンイミド化して1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドを合成する方法である。
本発明は、6−メチルニコチン酸を重水素化して6−(D3)メチルニコチン酸を合成し、得られた前記6−(D3)メチルニコチン酸をスクシンイミド化して1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドを合成する方法である。
【0011】
本発明は、下記式(3)で表される1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドである。
【化8】
【0012】
本発明は、下記式(4)で表される2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸である。
【化9】
【0013】
本発明は、2,6−ジメチルニコチン酸を重水素化して2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸を合成する方法である。
本発明は、2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸をスクシンイミド化して1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドを合成する方法である。
本発明は、2,6−ジメチルニコチン酸を重水素化して2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸を合成し、得られた前記2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸をスクシンイミド化して1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドを合成する方法である。
【0014】
さらに本発明は、下記式(7)で表される1−(2,6−ジメチルニコチノイルオキシ)スクシンイミドである。
【化10】
本発明は、2,6−ジメチルニコチン酸をスクシンイミド化して1−(2,6−ジメチルニコチノイルオキシ)スクシンイミドを合成する方法である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、上記式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される新規なニコチン酸誘導体である。1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミド(1)及び1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミド(3)は、タンパク質・ペプチドのラベル化試薬に用いることができる。また、6−(D3)メチルニコチン酸(2)及び2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸(4)は、それぞれ上記(1)及び(3)を合成するときの中間体として用いることができる。
【0016】
また本発明は、上記式(7)で表される新規なニコチン酸誘導体である。1−(2,6−ジメチルニコチノイルオキシ)スクシンイミド(7)は、タンパク質・ペプチドのラベル化試薬に用いることができる。
【0017】
このような新規化合物を用いることによるラベル化試薬は、タンパク質・ペプチドの発現量、相対定量、及びタンデム質量解析によるアミノ酸配列の解析を簡便に効率よく行うことを可能にする。
【0018】
さらに本発明は、上記ニコチン酸誘導体(1)、(2)、(3)及び(4)の合成方法である。本発明の方法においては、下記式に示すように、6−メチルニコチン酸(5)や2,6−ジメチルニコチン酸(6)を出発物質として用い、重水素化及び/又はスクシンイミド化することにより合成することができる。本発明の合成方法においては、出発物質に安定同位体を含まない、一般に入手が容易なものを用いる点で好ましい。
【0019】
【化11】
【0020】
【化12】
【0021】
出発物質であるニコチン酸(5)又は(6)は、メチル基の水素が重水素化される。重水素化には、金属水酸化物の重水素置換体の重水溶液を用いることができる。金属水酸化物の重水素置換体の重水溶液としては、NaOD−D2O、KOD−D2O、LiOD−D2O等が挙げられる。上記重水溶液は、金属水酸化物の重水素置換体が0.5〜30重量%のものを用いることができる。また上記重水溶液の量は、例えば反応溶液全体に対して上記ニコチン酸(5)又は(6)が1〜30重量部程度含まれるように用いることができる。
【0022】
重水素化反応は、例えば封管中で、100〜200℃、1〜10時間の条件下で行うことができる。反応後は希塩酸などを用いて中和を行うとよい。このようにして、6−メチルニコチン酸(5)からは6−(D3)メチルニコチン酸(2)を得る。また、2,6−ジメチルニコチン酸(6)からは2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸(4)を得る。本発明においては、これら重水素化ニコチン酸(2)又は(4)を特に精製しなくとも次の反応に用いることができる。
【0023】
次に重水素化ニコチン酸(2)又は(4)がスクシンイミド化される。スクシンイミド化は、重水素化ニコチン酸(2)又は(4)を、N−ヒドロキシスクシンイミドと縮合させることによって行うことができる。N−ヒドロキシスクシンイミドは、重水素化ニコチン酸(2)又は(4)に対して例えば1〜20当量用いることができる。縮合剤としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等を用いることが好ましい。縮合剤は、重水素化ニコチン酸に対して例えば1〜10当量用いることができる。また溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド等を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。溶媒の量としては、全試薬の濃度が1〜30重量%となるように用いることができる。
【0024】
スクシンイミド化は、例えば0〜50℃で0.5時間〜10日間の条件下で行うことができる。このようにして、6−(D3)メチルニコチン酸(2)からは1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミド(1)を得る。また、2,6−ジ(D3)メチルニコチン酸(4)からは1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミド(3)を得る。得られたニコチン酸誘導体(1)又は(3)は、必要に応じカラムクロマトグラフィー、再結晶等によって精製を行うとよい。
【0025】
上記のようにして得られたニコチン酸誘導体(1)又は(3)は、タンパク質・ペプチドのラベル化試薬として用いることができる。このようなラベル化試薬を用いることによって、タンパク質・ペプチドの発現量、相対定量、及びタンデム質量解析によるアミノ酸配列の解析を高価な試薬を用いることなく簡便に効率よく行うことができる。
【0026】
さらに本発明は、上記ニコチン酸誘導体(7)の合成方法である。本発明の方法においては、下記式に示すように、2,6−ジメチルニコチン酸(6)を出発物質として用い、スクシンイミド化することにより合成することができる。スクシンイミド化は、前記重水素化ニコチン酸誘導体(1)又は(3)の合成におけるスクシンイミド化と同様にして行うことができる。
【0027】
【化13】
【0028】
上記のようにして得られたニコチン酸誘導体(7)は、タンパク質・ペプチドのラベル化試薬として用いることができる。このようなラベル化試薬を用いることによって、タンパク質・ペプチドの発現量、相対定量、及びタンデム質量解析によるアミノ酸配列の解析を簡便に効率よく行うことができる。
【0029】
【実施例】
[実施例1]
市販の6−メチルニコチン酸0.5mmolを1重量%NaOD−D2O 1.0mlに溶解し封管中、180℃で3時間反応させた。反応後、希塩酸を加えて中和し、減圧下濃縮乾固し、6−(D3)メチルニコチン酸を生成物として得た。この生成物は精製せずに次の反応に用いた。
【0030】
得られた6−(D3)メチルニコチン酸を乾燥テトラヒドロフラン10mlに溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド0.6mmol、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)0.65mmolを加え、室温で2日撹拌して反応させた。反応後、溶液部分を分離し、減圧濃縮した。得られた残渣をクロロホルム10mlに溶解し、飽和食塩水10mlで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色板状晶の1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドを収率75%で得た。
【0031】
(1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドの同定データ)
mp:165−167℃
1H−NMR(CDCl3, 400MHz):δ 2.92(br. s, 4H, CH2*2), 7.32(d, 1H, J=8.1Hz, 5-H), 8.27(dd, 1H, J=2.2, 8.1Hz, 4-H), 9.22(d, 1H, J=2.2Hz, 2-H)
MS:m/z 237(M+)
【0032】
[実施例2]
2,6−ジメチルニコチン酸は、文献:Kato T., Noda M., Chem. Pharm. Bull.,24, 303-309 (1976)に従って合成した。得られた2,6−ジメチルニコチン酸0.5mmolを1重量%NaOD−D2O 1.0mlに溶解し封管中、180℃で8時間反応させた。反応後、希塩酸を加えて中和し、減圧下濃縮乾固し、2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸を生成物として得た。この生成物は精製せずに次の反応に用いた。
【0033】
得られた2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸を乾燥テトラヒドロフラン10mlに溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド0.6mmol、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)0.65mmolを加え、室温で2日撹拌して反応させた。反応後、溶液部分を分離し、減圧濃縮した。得られた残渣をクロロホルム10mlに溶解し、飽和食塩水10mlで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドを収率70%で得た。酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色板状晶を得た。
【0034】
(1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドの同定データ)
mp:135−137℃
1H−NMR(CDCl3, 400MHz):δ 2.92(br. s, 4H, CH2*2), 7.14(d, 1H, J=8.1Hz, 5-H), 8.27(d, 1H, J=8.1Hz, 4-H)
MS:m/z 254(M+)
【0035】
[実施例3]
2,6−ジメチルニコチン酸は、文献:Kato T., Noda M., Chem. Pharm. Bull.,24, 303-309 (1976)に従って合成した。得られた2,6−ジメチルニコチン酸4mmolを乾燥テトラヒドロフラン80mLに溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド4.8mmol及びEDC5.2mmolを加え室温で2時間撹拌した。粘凋な残渣と溶液部分とを分離した後、溶液部分を減圧濃縮した。ここにクロロホルム80mLを加え、飽和食塩水80mLで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し濃縮乾固した。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、66%の収率で1−(2,6−ジメチルニコチノイルオキシ)スクシンイミドを得た。再結晶を酢酸エチルから行い、無色板状晶を得た。
【0036】
(1−(2,6−ジメチルニコチノイルオキシ)スクシンイミドの同定データ)mp:134−136℃
1H−NMR(CDCl3, 400MHz):δ 2.61(s, 3H, 6-CH3), 2.82(s, 3H, 2-CH3), 2.92(br. s, 4H, CH2*2), 7.19(d, 1H, J=8.1Hz, 5-H), 8.28(d, 1H, J=8.1Hz, 4-H)
EIMS:m/z 248(M+)
【0037】
【発明の効果】
本発明によると、タンパク質・ペプチドのN末端アミノ基に対するラベル化試薬に用いることができる新規な化合物を提供することができる。特に本発明によると、タンパク質・ペプチドのN末端アミノ基に対するラベル化試薬として用いることができる新規な重水素化化合物を提供することができる。また本発明によると、一般的に入手容易な原料を用いて安価かつ簡便に合成することができる方法を提供することができる。
Claims (12)
- 6−メチルニコチン酸を重水素化して6−(D3)メチルニコチン酸を合成する方法。
- 6−(D3)メチルニコチン酸をスクシンイミド化して1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドを合成する方法。
- 6−メチルニコチン酸を重水素化して6−(D3)メチルニコチン酸を合成し、得られた前記6−(D3)メチルニコチン酸をスクシンイミド化して1−[6−(D3)メチルニコチノイルオキシ]スクシンイミドを合成する方法。
- 2,6−ジメチルニコチン酸を重水素化して2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸を合成する方法。
- 2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸をスクシンイミド化して1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドを合成する方法。
- 2,6−ジメチルニコチン酸を重水素化して2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸を合成し、得られた前記2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチン酸をスクシンイミド化して1−{2,6−ジ[(D3)メチル]ニコチノイルオキシ}スクシンイミドを合成する方法。
- 2,6−ジメチルニコチン酸をスクシンイミド化して1−(2,6−ジメチルニコチノイルオキシ)スクシンイミドを合成する方法。
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