JP2005239577A - 重水素標識ジアジリン化合物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 ジアジリン基は窒素−窒素二重結合を有するため、他の二重結合(例えば炭素−炭奉結合)に選択的に水素添加することは困難であった。ジアジリン化合物に重水素添加できれば光親和性標識試薬として生体高分子の機能解析等に用いることができる。
【解決手段】 Wilkinson触媒を用いて重水素標識ジアジリン化合物を製造できることを見出した。本発明は、下記−般式(化1)
【化1】
Figure 2005239577

(式中、RはCF等、Rは水素原子等、Rは水素原子又はアルコキシ基等、X及びXの少なくとも一方は重水素を表す。)で表される重水素標識ジアジリン化合物である。
【選択図】 なし

Description

この発明は、重水素で標識したジアジリン化合物に関し、より詳細には、Wilkinson触媒を用いて重水素添加されたジアジリン化合物であって、生体高分子の機能解析に用いることのできる光親和性標識試薬として有用な重水素標識ジアジリン化合物に関する。
ジアジリン基は生理活性低分子化合物と生体高分子(蛋白質、核酸等)との相互作用解析できる光親和性標識(光アフィニティーラベル)試薬としてが注目されている(非特許文献1)。
分子内に炭素−ヨウ素単結合を持つジアジリン化合物について短時間の水素気流下パラジウム炭素によるヨウ素の水素への変換(水素添加)が報告されている(非特許文献2)。
一方、炭素−炭素二重結合に対する水素添加反応試薬としてWilkinson触媒が知られているが(非特許文献3,4)、他の炭素−炭素二重結合に対する水素添加反応試薬が窒素−窒素二重結合に反応してしまうため選択的な水素付加が不可能と考えられていたため、この触媒はジアジリン化合物の水素添加反応には利用されてこなかった。
Yakugaku Zasshi 123(8) 673-679 (2003) Eur. J. Org. Chem. 2001, 3961-3964 Chem. Commun., 1965, 131-132 J. Org. Chem. 2002, 67 3163-3164
ジアジリン基は構造内に窒素−窒素二重結合が存在することから、通常の水素添加反応では長時間の反応により窒素−窒素二重結合への水素添加(ジアジリン部の分解)がおこる。そのため化合物中に他の二重結合(例えば炭素−炭奉結合)が存在する場合、他の二重結合に選択的に水素添加する反応は未だ成されていない。
一方、ジアジリン化合物は光親和性があるため、生体高分子と反応させて機能解析に用いることができるが、ジアジリン化合物に重水素を導入することができれば質量分析により、その機能解析をより正確にできることが期待されている。
本発明者らは、上記課題を解決するために、ジアジリン化合物に利用されてこなかったWilkinson触媒を用いて、炭素−炭素二重結合を水素気流下で反応させたところ、ジアジリン中の窒素−窒素二重結合に影響なく、炭素−炭素二重結合のみに選択的に水素添加を行うことが可能であることがわかった。
その結果、水素の代わりに重水素を用いると、ジアジリンに安定的に重水素を導入することが可能になり、生体高分子を検出するための標識ジアジリン化合物を合成することが可能になった。
即ち、本発明は、下記−般式(化1)
Figure 2005239577
(式中、Rはアルキル基又はフッ素置換アルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基、カルボキシル基又はエステル基(−COOR、Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)、Rは水素原子、アルコキシ基又は−O(C2mO)−(CH−R、mは2又は3、nは1〜6、oは1〜4を表し、Rは水素原子、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基を表し、X及びXは水素原子又は重水素原子を表し、X及びXの少なくとも一方は重水素を表す。)で表される重水素標識ジアジリン化合物である。
また本発明は、液相で下記−般式(化2)
Figure 2005239577
(式中、RとRは前記と同様に定義され、RとRの一方はRと同一であり、他方は水素原子を表す。)で表されるジアジリン化合物にWilkinson触媒を用いて重水素添加することから成る、上記重水素標識ジアジリン化合物を製造する方法である。
本発明の重水素標識ジアジリン化合物は下記−般式(化1)
Figure 2005239577
で表される。
はアルキル基又はフッ素置換アルキル基、好ましくはフッ素置換アルキル、より好ましくは−CFを表す。
は水素原子、アルキル基、カルボキシル基又はエステル基、好ましくはカルボキシル基又はエステル基を表す。エステル基は−COORで表され、Rはアルキル基又はアラルキル基、好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素数が1〜3、最も好ましくは炭素数が2のアルキル基(即ち、エチル基)を表す。
は水素原子、アルコキシ基又はアルキレンオキシドを介した置換又は非置換のアルキル基、好ましくは水素原子又はアルコキシ基を表し、アルコキシ基の炭素数は1〜3が好ましい。アルキレンオキシドを介した置換又は非置換のアルキル基は−(C2mO)−(CH−Rで表され、式中、mは2又は3、nは1〜6、oは1〜4を表し、Rは水素原子、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基、好ましくは水素原子を表す。
は−CNに対してメタ位にあることが好ましい。
及びXは水素原子又は重水素原子を表し、X及びXの少なくとも一方は重水素を表す。重水素はデューテリウム又はトリチウムである。
このような重水素標識ジアジリン化合物は、液相で下記−般式(化2)
Figure 2005239577
で表されるジアジリン化合物にWilkinson触媒を用いて重水素添加することにより製造することができる。式中、RとRは前記と同様に定義され、RとRの一方はRと同一であり、他方は水素原子を表す。
この反応において、溶媒として、水や、アルコール、エーテル、ニトリル、エステル等の一般的有機溶媒を用いることができる。特にこの溶媒として、水とアルコールが好ましい。
本発明で用いるWilkinson触媒は、構造式[(C6H5)3P]3RhClで表され、市販品を使用することができる。
触媒の添加量は、0.1〜0.25 mol/l程度である。
重水素は、D、T、DH、THなどを用いることができる。重水素の添加量は0.02〜0.04 l/min程度で反応液に吹き込む。
溶媒中のジアジリン化合物の濃度は好ましくは0.03〜0.5 mol/l程度である。
この反応の温度は、好ましくは10〜25℃である。
この反応時間は、2〜12時間程度である。
生成物である重水素標識ジアジリン化合物は抽出、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の一般的精製法を利用して回収できる。
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
製造例1
下記化合物VIを、既報(J.Org.Chem., 59,383-387, 1994;heterocycles,49, 465-468, 1998)に従い合成した。式中、RはH又はOCH3を表す。
Figure 2005239577
化合物I(50.0 g, 0.267 mol,特級、和光純薬)と金属マグネシウム(6.52 g, 0.268 mol、特級、和光純薬)をテトロヒドロフラン(200 m、無水、和光純薬)中で還流した。金属マグネシウムが溶解した後、-15℃に冷却しトリフルオロアセチルピペリジン(無水トリフルオロ酢酸とピペリジンから調製、38.6 g, 0.213 mol)を加えて室温で8時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水を加えて生じた沈澱をろ過、酢酸エチル(特級、和光純薬)で洗浄後、ろ液を硫酸マグネシウム(特級、和光純薬)で、乾燥した。ろ過後溶媒留去し、残った残渣を蒸留により精製し、化合物IIを得た(収率80%)。
化合物IIと塩酸ヒドロキシルアミン(11.7 g, 0.168 mol、特級、和光純薬)をエタノール(30 ml、特級、和光純薬)とピリジン (100 ml、特級、和光純薬)の混合溶媒に溶解し2時間還流した。濃縮後、残渣を水−酢酸エチルで分配し酢酸エチル層を1N HClで洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後溶媒留去後塩化メチレン−メタノール=20:1によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し化合物(オキシム体)IIIを得た(収率96%)。
化合物III、4-ジメチルアミノピリジン(1.52 g, 0.012 mol、特級、和光純薬)を塩化メチレン(100 ml、特級、和光純薬)とトリエチルアミン(70 ml、特級、和光純薬)に溶解し、0℃で塩化p-トルエンスルホニル(75.0 g, 0.393 mol、特級、和光純薬)を加えた。室温で2時間撹拌後水を加えた。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥しろ過し、濃縮した残渣を塩化メチレン(80 ml)に溶解した。-78℃で液体アンモニア(16 ml、ホクサン製、99%)を加え密封し、室温で18時間撹拌した。濃縮後、残渣を水−塩化メチレンで分配し塩化メチレン層を硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後溶媒留去しエーテルによるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し化合物IVを得た(収率52%)。
化合物IV(37.2 g, 0.171 mol)をトリエチルアミン (50 ml、特級、和光純薬)とメタノール(300 ml) に溶かし0℃でヨウ素 (30.0 g、特級、和光純薬)を加え、1時間撹拌した。濃縮後残渣を水−エーテルで分配しエーテル層を1N HCl、1N硫酸水素ナトリウム(特級、和光純薬)、飽和食塩水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後溶媒留去後塩化メチレン−ヘキサン=1:2によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し化合物Vを得た(収率51%)。
化合物V(2.032 g, 9.40mmol)をジクロロメチルメチルエーテル (5 ml, 55.28 mmol、特級、和光純薬)に溶解した。0℃で塩化チタニウム (2 mL, 18.24 mmol、特級、和光純薬) を滴下した。20分後、水−塩化メチレンで分配し塩化メチレン層を1N HCl、飽和食塩水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後溶媒留去後酢酸エチル−ヘキサン=1:10によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し化合物VIを得た(収率73%)。
製造例1で得た化合物VIから既報(Heterocycles,1998,49,465-468)に従って化合物VIIを合成した。
Figure 2005239577
化合物VI(60.3 mg, 0.282 mmol, heterocycles,49, 465, 1998)とtriphenylcarbethoxymethylenephosphorane(0.1553 g, 0.446 mmol、Aldrich社、特級)を塩化メチレン(1 ml、特級、和光純薬)中、室温で2時間撹拌した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:ヘキサン=1:3)に供し黄色油状物質を(20.3 mg, 0.071 mmol, 76%)得た。1H-NMR(CDCl3) 7.640 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.527 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.180 (2H, d, J = 8.4 Hz), 6.447 (1H, d, J = 16.0 Hz), 4.263 (2H, q, J = 7.3 Hz), 1.330 (3H, t, J = 7.3 Hz), FAB-MS 285 (MH+).
化合物VII(30.8 mg, 0.108 mmol)及び Wilkinson触媒(Aldrich社、88.3 mg, 0.095 mmol)をテトラヒドロフラン:tert-ブタノール(1:1, 2 ml)に溶解し重水素気流下室温で5時間撹拌した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:ヘキサン=1:1) に供し(20.2 mg, 0.070 mmol, 65%)の黄色油状物質を得た。この反応を下記に示す。
Figure 2005239577
生成物の分析データを以下に示す。
1H-NMR 7.239 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.114 (2H, d, J = 8.6 Hz), 4.116 (2H, q, J = 7.3 Hz), 2.922 (1H, br), 2.594 (1H, br), 1.222 (3H, t, J = 7.3 Hz). FAB-MS 289 (MH+)
実施例1で得た化合物VIIから既報(Heterocycles,1998,49,465-468)に従って化合物VIIIを合成した。
Figure 2005239577
化合物VII(0.1383 g, 0.4865 mmol)をエタノール (2 ml、特級、和光純薬)に溶かし1N水酸化ナトリウム溶液(1.25 ml, 1.25 mmol、特級、和光純薬)を加え、室温で2時間撹拌した。溶媒留去後、残査を水に溶解し、1N塩酸により酸性とし不溶性化合物をろ過、乾燥することで無色不定形結晶(0.0954 g, 0.372 mmol, 77%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)7.759 (1H, d, J = 16.2 Hz), 7.576 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.218 (2H, d, J = 8.6 Hz), 6.477 (1H, d, J = 16.2 Hz), FAB-MS 257 (MH+).
化合物VIII(8.5 mg, 0.0332 mmol)及び Wilkinson触媒(16.6 mg, 0.0179 mmol)をテトラヒドロフラン-tert-ブタノール(1:1, 1 ml)に溶解し重水素気流下室温で5時間撹拌した。 溶媒留去後、残査を塩化メチレン-1N水酸化ナトリウム水溶液で分液した。水層を濃塩酸で酸性にし、新たな塩化メトレンで抽出した。この塩化メチレン層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、溶媒留去することにより無色不定形結晶を得た(5.9 mg, 0.0227 mmol, 68%)。この反応を下記に示す。
Figure 2005239577
生成物の分析データを以下に示す。
1H -NMR (CDCl3) δ: 7.23 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.21 (2H, d, J = 9.2 Hz), 2.97 (1H, br), 2.70 (1H, br)、FAB-MS 261 (MH+)
製造例1で得た化合物VIから既報(Heterocycles,1998,49,465-468)に従って化合物IXを合成した。
Figure 2005239577
化合物IX(4.0 mg, 0.0127 mmol)及び Wilkinson触媒(9.0 mg, 0.010 mmol)をテトラヒドロフラン-tert-ブタノール(1:1, 0.4 ml)に溶解し重水素気流下室温で5時間撹拌した。 溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:ヘキサン=1:1)に供し(0.0031 g, 0.0097 mmol, 77%)の黄色油状物質を得た。この反応を下記に示す。
Figure 2005239577
生成物の分析データを以下に示す。
1H -NMR (CDCl3) δ: 7.12 (1H, d, J = 8.0 Hz), 6.80 (1H, d, J = 7.4 Hz), 6.74 (1H, s), 4.12 (2H, q, J = 7.2 Hz), 3.83 (3H, s), 2.92 (1H,br), 2.59 (1H, br), 1.23 (3H, t, J = 7.2 Hz)、FAB-MS 319 (MH+)
製造例1で得た化合物VIから既報(Heterocycles,1998,49,465-468)に従って化合物Xを合成した。
Figure 2005239577
化合物X(2.4 mg, 0.010 mmol)及びWilkinson触媒(4.5 mg, 0.005 mmol)をテトラヒドロフラン-tert-ブタノール (1:1, 0.4 ml)に溶解し水素気流下室温で5時間撹拌した。 溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:ヘキサン=1:3)に供し(0.0018 g, 0.0073 mmol, 73%)の黄色油状物質を得た。この反応を下記に示す。
Figure 2005239577
生成物の分析データを以下に示す。
1H-NMR (CDCl3) 7.16 (1H, d, J=7.9 Hz), 6.74 (1H, d, J=7.9 Hz), 6.58 (1H, s), 3.82 (3H, s), 2.62 (1H, br,), 1.17 (2H, br)、FAB-MS 247(MH+)
本発明の重水素標識ジアジリン化合物を用いた生体の機能解析の手順の一例を示す。
1)重水素化及び通常水素化した同一構造化合物を一定の割合で混合した試薬を調製する。
2)標的蛋白質を含む生体抽出物と反応させた後、光照射を行なう。
3)光照射したサンプルを質量分析計に供し、光照射により試薬と反応した蛋白質を検出する。その際、(蛋白質+試薬)の分子量が検出されるが、1)の割合に応じて、(蛋白質+試薬+重水素)の分子量も同時に検出される。他の質量の蛋白質に関しては、この「+重水素」の分子量が検出されない。光照射によって試薬と反応した蛋白質のみが「+重水素」の分子量を与えることから、一義的に反応した蛋白質を同定できる。

Claims (3)

  1. 下記−般式(化1)
    Figure 2005239577
    (式中、Rはアルキル基又はフッ素置換アルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基、カルボキシル基又はエステル基(−COOR、Rはアルキル基又はアラルキル基を表す。)、Rは水素原子、アルコキシ基又は−O(C2mO)−(CH−R、mは2又は3、nは1〜6、oは1〜4を表し、Rは水素原子、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基を表し、X及びXは水素原子又は重水素原子を表し、X及びXの少なくとも一方は重水素を表す。)で表される重水素標識ジアジリン化合物。
  2. が−CFを表し、Rがカルボキシル基又はエステル基(−COOR、Rがエチル基を表す。)、Rが水素原子又はアルコキシ基を表し、Rが−CNCFに対してメタ位にある請求項1に記載の重水素標識ジアジリン化合物。
  3. 液相で下記−般式(化2)
    Figure 2005239577
    (式中、RとRは前記と同様に定義され、RとRの一方はRと同一であり、他方は水素原子を表す。)で表されるジアジリン化合物にWilkinson触媒を用いて重水素添加することから成る、請求項1又は2に記載の重水素標識ジアジリン化合物を製造する方法。
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