JP4265157B2 - フラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、フラットパネルディスプレイ装置、特にプラズマディスプレイ装置に適したガラス基板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プラズマディスプレイ装置は、一般にITO膜、ネサ膜等からなる透明電極が形成された前面ガラス基板表面に誘電体材料を塗布し、Al、Ag、Niからなる電極が形成された背面ガラス基板表面にリブペーストを塗布してから500〜600℃程度の温度で焼成することにより回路を形成し、その後、前面ガラス基板と背面ガラス基板を対向させ、500〜600℃程度の温度で周囲をフリットシールすることにより作製される。従来、ガラス基板としては、建築用または自動車用として広く用いられているソーダ石灰ガラス(熱膨張係数 約84×10-7/℃)が一般的に用いられてきた。
【0003】
ところが、ソーダ石灰ガラスは、歪点が500℃程度と低いため、600℃程度の温度で熱処理を行うと、熱変形や熱収縮が起こる。このため、ソーダ石灰ガラスからなる前面ガラス基板と背面ガラス基板を対向させる際、電極の位置を精度よく合わせることが難しく、特に、大型で高精細のプラズマディスプレイ装置を作製するのは困難であった。
【0004】
また、ソーダ石灰ガラスは、150℃における体積電気抵抗率(log ρ)が8.4Ω・cmと低いため、ガラス中のアルカリ成分の移動度が大きく、ガラス中のアルカリ成分が電極周辺に集まり、電極と反応して電気抵抗値を変化させるという問題も有していた。
【0005】
これらの事情から、現在では、ガラス基板の熱変形、熱収縮および体積電気抵抗率の問題を解決するために、歪点および体積電気抵抗率の高いプラズマディスプレイ装置用ガラス基板が広く使用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した高歪点、高体積電気抵抗率のガラスをプラズマディスプレイのガラス基板に用いると、プラズマディスプレイ装置の製造工程において、ソーダ石灰ガラスに比べて割れが生じやすい。そのため、生産性向上を妨げる原因の一つとなっている。従って、生産性向上のために、ガラス基板を割れにくくする必要がある。つまり、耐クラック性の高いガラス基板が望まれている。
【0007】
また、従来のガラス基板は、耐熱衝撃性が低く、570〜600℃の温度で熱処理した後、急冷すると熱応力に起因する割れが生じる。そのため、熱処理工程での冷却速度が制限され、工程の所要時間が長くなり、生産性を低下させていた。
【0008】
本発明の目的は、高歪点、高体積電気抵抗率を有し、耐クラック性および耐熱衝撃性に優れたフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板は、質量百分率で、SiO2 55〜70%、Al2O3 3〜14%、MgO 1〜15%、CaO 0〜2.5%、SrO 3〜15%、BaO 0〜7%、MgO+CaO+SrO+BaO 18.1〜27%、Na2O 0.01〜5%、K2O 4〜9%、Na2O+K2O 6〜14%未満、ZrO2 0〜7%の組成を有し、K2O/Na2Oの値が2以上であり、且つ、30〜380℃における平均熱膨張係数が65〜74×10−7/℃であることを特徴とする。
【0010】
【作用】
ガラス基板の割れを抑えるには、ガラスの耐クラック性や耐熱衝撃性を向上させることが効果的である。
【0011】
そこで本発明のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板では、K2O/Na2Oの値を2以上に設定してガラスの耐クラック性と耐熱衝撃性を向上させている。
【0012】
K2O/Na2Oの値を2以上にすることで、ガラスに傷がつきにくく、耐クラック性が向上する。これは、ガラスネットワーク中の多員環を構成する酸素原子を介してNa+やK+が多員環に包接されるが、Na+よりもK+はイオン半径が大きいため、1原子あたりに配位できる酸素原子の数が多く、多員環の構造をより強固にできるためである。
【0013】
また、K2O、Na2Oは、共にガラスの熱膨張係数を大きくする成分であるが、K2Oは、Na2Oよりも熱膨張係数を大きくする効果が小さい。従って、K2OをNa2Oよりも多く含有させることで、ガラスの熱膨張係数を小さくすることができ、ガラスの耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0014】
なお、耐熱衝撃性を高めるには熱膨張係数が小さい方がよいが、熱膨張係数が小さすぎるとリブペーストやフリット等の周辺材料との熱膨張係数の整合性が悪化するため、30〜380℃における平均熱膨張係数は65〜74×10−7/℃にする必要がある。
【0015】
さらに、Na+よりもイオン半径や質量の大きいK+を多くすることで、アルカリ成分がガラス中を移動しにくくなり、体積電気抵抗率を高めることができる。
【0016】
本発明のガラス基板において、各成分の割合を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0017】
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーである。SiO2の含有量が55%より少ないと、ガラスの歪点が低下して熱変形や熱収縮が起こりやすくなる。一方、70%より多いと、溶融性が悪化しやすくなる。好ましい範囲は56〜70%であり、より好ましくは56〜68%である。
【0018】
Al2O3は、ガラスの歪点を高める成分である。Al2O3の含有量が14%より多いと、高温粘度が高くなりガラスの成形がしにくくなる。一方、3%よりも少ないと分相したり、歪点が低下する。好ましい範囲は3〜13%であり、より好ましくは4〜13%である。
【0019】
MgOは、ガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高めるとともに体積電気抵抗率も高める成分である。MgOの含有量が1%より少ないと前記効果が得られにくく、15%より多くなるとガラスが失透しやすい。好ましい範囲は2〜13%であり、より好ましくは3〜12%である。
【0020】
CaOは、MgOと同様にガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高めるとともに体積電気抵抗率も高める成分である。CaOの含有量が2.5%より多いとガラスが失透しやすく、また、ガラスの耐クラック性が低下しやすくなる。
【0021】
SrOは、ガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高めるとともに体積電気抵抗率を高める成分である。SrOの含有量が3%より少ないと前記効果が得られにくく、15%より多いとガラスの耐クラック性が低下しやすくなる。好ましい範囲は3〜14%である。
【0022】
BaOは、SrOと同様に、ガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高め、また、体積電気抵抗率を高める成分である。BaOの含有量が7%より多いと、ガラスの耐クラック性が低下しやすくなる。好ましい範囲は5%以下であり、より好ましくは3%以下である。
【0023】
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量が、18.1%よりも少ないとガラスの溶融性が低下しやすく、27%よりも多いとガラスの耐クラック性が低下しやすくなる。これらの合量の好ましい範囲は18.1〜25%であり、より好ましくは18.1〜24%である。
【0024】
Na2Oは、ガラスの熱膨張係数を制御するとともにガラスの溶融性を高める成分である。Na2Oの含有量が0.01%よりも少ないと、溶融性が悪化しやすくなる。一方、5%より多くなると、ガラスの歪点が低下しやすく、また、熱膨張係数が大きくなる。好ましい範囲は0.01〜4.5%以下であり、より好ましくは0.01〜4%以下である。
【0025】
K2Oは、Na2Oと同様、ガラスの熱膨張係数を制御するとともにガラスの溶融性を高める成分である。K2Oの含有量が4%より少なくなると、熱膨張係数が小さくなりやすく、また、溶融性が悪化しやすい。一方、9%より多くなると、ガラスの歪点が低下しやすく、また、熱膨張係数が大きくなりやすい。好ましい範囲は5〜9%であり、より好ましくは6〜9%である。
【0026】
Na2OおよびK2Oの合量が、6%より少ないと溶融性が低下しやすく、熱膨張係数が小さくなる。一方、14%以上になると歪点が低下しやすく、熱膨張係数が大きくなる。これらの合量の好ましい範囲は6〜13%であり、より好ましくは6〜12%である。
【0027】
K2O/Na2Oの値が2より小さいと、耐クラック性および体積抵抗率が低下しやすく、熱膨張係数が大きくなりやすい。K2O/Na2Oの好ましい範囲は3以上であり、より好ましくは4以上である。
【0028】
ZrO2は、ガラスの歪点を高める成分であるが、7%より多いとガラスの耐クラック性が低下しやすい。好ましい範囲は6%以下であり、より好ましくは5%以下である。
【0029】
また、本発明においては、上記成分以外にも種々の成分を添加することができる。例えば紫外線による着色を防止するためにTiO2を5%まで、液相温度を低下させ成形性を高めるためにY2O3、La2O3、Nb2O3を各々3%まで、As2O3、Sb2O3、SO3、Cl等の清澄剤成分を合量で1%まで、Fe2O3、CoO、NiO、Cr2O3、CeO3等の着色剤成分を各1%まで添加することが可能である。
【0030】
また、本発明において、B2O3は歪点を著しく低下させるため、含有量は2%未満に抑えるべきであり、実質的に含有しないことが最も望ましい。
【0031】
P2O5についても、ガラスが乳白して著しく透過率を低下させるため、含有量は0.5%未満に抑えるべきであり、実質的に含有しないことが最も望ましい。
【0032】
本発明のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板は、クラック抵抗値が600mN以上であるとガラス基板に傷がつきにくいため好ましい。
【0033】
本発明のフラットディスプレイ装置用ガラス基板は、歪点が600℃以上であると570〜600℃の温度で熱処理された場合でもガラス基板の熱変形や熱収縮が起こりにくいため好ましい。
【0034】
本発明のフラットディスプレイ装置用ガラス基板は、体積電気抵抗率が150℃において11.0Ω・cm以上であるとガラス中のアルカリ成分が移動しにくくなるため、アルカリ成分がITO膜やネサ膜等の薄膜電極と反応しにくく電極の電気抵抗が変化しにくい。
【0035】
上記組成を有する本発明のガラス基板は、板ガラスの成形方法として知られているスリットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等の方法によって製造できる。
【0036】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0037】
表1は本発明の実施例(試料No.1〜3)を、表2は比較例(試料No.4〜6)をそれぞれ示している。尚、試料No.4は、ソーダ石灰ガラス、No.5は、現在プラズマディスプレイ装置用ガラス基板に使用されている高歪点ガラスである。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0041】
表中の各試料は、次のようにして作製した。
【0042】
まず、表の組成となるようにガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1450〜1600℃で4時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形し、徐冷後、板厚が2.8mmになるように両面研磨して、得られた板ガラスを200mm角の大きさに切断加工することで試料ガラスを作製した。
【0043】
このようして得られた各試料について、熱膨張係数、クラック抵抗、歪点、体積電気抵抗率を測定し、表に示した。
【0044】
熱膨張係数については、ディラトメーターを用いて30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した。
【0045】
ガラスのクラック抵抗は、和田らが提案した方法(M.Wada et al. Proc.,the Xth ICG,vol. 11, Ceram. Soc., Japan, Kyoto, 1974, p39)によって求めた。この方法は、ビッカ−ス硬度計のステージに試料ガラスを置き、この試料ガラスの表面に菱形状のダイアモンド圧子を種々の荷重で15秒間押し付けるものである。そして、ダイアモンド圧子を除いて15秒までに圧痕の四隅から発生するクラック数をカウントし、最大発生しうるクラック数(4ケ)に対する割合を求めクラック発生率とした。また、クラック発生率が50%になるときの荷重を「クラック抵抗」とした。クラック抵抗が大きいほどクラックが発生しにくく、ガラスに傷がつきにくいことを示す。なお、クラック発生率は、同一荷重で20回測定し、その平均値から求めた。また、クラック抵抗は、湿度の影響を受けるため、気温25℃、湿度30%の条件で測定を行った。
【0046】
歪点については、ASTM C336−71に基づいて測定した。
【0047】
体積電気抵抗率については、ASTM C657−78に基づいて150℃における値を測定した。
【0048】
表から明らかなように、実施例である試料No.1〜3の各試料は、熱膨張係数が72〜74×10−7/℃であるため、周辺材料と良好に整合することができ、しかも、熱応力に起因する割れを抑えることができる。また、クラック抵抗は650mN以上であり、現在プラズマディスプレイ装置用ガラス基板に使用されている高歪点ガラス(No.5)と比較して1.4倍以上と、耐クラック性が高かった。歪点は600℃以上であり、熱処理工程におけるガラス基板の熱変形や熱収縮を抑えることができる。さらに、体積電気抵抗率は11.5Ω・cm以上であり、アルカリ成分が移動しにくいため、電極と反応しにくくなり電極の電気抵抗値も変化しにくい。
【0049】
これに対して、比較例である試料No.4は、ソーダ石灰ガラスであるため、熱膨張係数が84×10−7/℃と大きいとともに歪点が510℃と低く、また、体積電気抵抗率も8.4Ω・cmと低かった。また、試料No.5およびNo.6は、熱膨張係数は76×10−7/℃以上と大きいとともに歪点が590℃以下であり、また、クラック抵抗は550mN以下であり耐クラック性が低いと予想される。
【0050】
【発明の効果】
以上のように本発明のガラス基板は、熱応力によって割れにくく、傷がつきにくく、しかも、歪点および体積電気抵抗率も高いため、プラズマディスプレイ装置のガラス基板として好適である。また、プラズマパネルディスプレイ装置以外にも、例えば、有機或いは無機のエレクトロルミネッセンスやフィールドエミッションディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ装置のガラス基板として使用することも可能である。
Claims (4)
- 質量百分率で、SiO2 55〜70%、Al2O3 3〜14%、MgO 1〜15%、CaO 0〜2.5%、SrO 3〜15%、BaO 0〜7%、MgO+CaO+SrO+BaO 18.1〜27%、Na2O 0.01〜5%、K2O 4〜9%、Na2O+K2O 6〜14%未満、ZrO2 0〜7%の組成を有し、K2O/Na2Oの値が2以上であり、且つ、30〜380℃における平均熱膨張係数が65〜74×10−7/℃であることを特徴とするフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板。
- クラック抵抗値が600mN以上であることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板。
- 歪点が600℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板。
- 150℃における体積電気抵抗率が11.0Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板。
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