JP4257022B2 - 食品の香味劣化抑制剤並びに抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、香味成分を有する食品、飲料、食品素材或いはフレーバー等の食品添加物等(以下「食品」と総称する)に広く適用することができる香味劣化抑制剤及び香味劣化抑制方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食品の香味は製造、流通、保存等の各段階で徐々に劣化し、従来、こうした香味劣化の抑制は酸化防止が主体であり、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール、アスコルビン酸等の酸化防止剤が広く食品に添加され使用されてきた。
しかし、近年、食品香味劣化の要因として、酸素の他に、熱や光が注目されるようになった。それは、最近、店頭ディスプレイ時の製品イメージアップのため透明ガラス容器入り食品、透明又は半透明プラスチック容器入り食品や透明袋入り食品が急増していること、さらにそうした製品をコンビニエンスストア等で長時間、蛍光灯又は日光の下に陳列する販売形態が一般的になってきたからである。かかる状況下では、食品の香味成分が光照射よって異性化或いは分解され、食品本来の芳香や美味が消失したり、さらに分解物が悪臭や異臭成分に変化すると考えられている。
【0003】
そこで、特に光による食品の香味劣化に対して大きな抑制効果を有すると同時に、加熱殺菌工程や加熱保存時の熱及び酸素による香味劣化に対する抑制効果を併せ持ち、かつ人体に対する安全性が高い香味劣化抑制剤が要望されている。
こうした光による劣化を主に抑制するための技術として、例えば、ルチン、モリン、またはケルセチンを添加して悪臭や異味の原因となる物質の発生を防止し、保存性の向上を図った乳含有酸性飲料(特公平4−21450号公報)、クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸とビタミンC、ルチン、ケルセチンとを併用して日光によるフレーバー劣化を防止する方法(特開平4−27374号公報)が提案されている。これらは強力な光吸収効果による香味劣化防止を図るものである。
【0004】
しかしながら、光吸収剤の使用によっても食品の香味劣化抑制は十分ではなく、また、天然物由来の劣化抑制剤はその作用発現のためには相当多量に使用する必要があり、その結果、劣化抑制剤自体が有している味、匂い及び色が食品本来の味や香りに悪影響を与えるなどの問題点が残されている。なお、劣化抑制の物理的な方法として、光透過性を抑えた容器や袋を用いる食品等の包装手段改良による劣化抑制方法も提案されているが、コスト高と香味劣化抑制効果の両面から考えると十分ではなかった。
従って、食品に添加した場合に安全性が高く、しかも食品本来の香味に影響を与えることなく少量の使用で十分な効果を奏し、かつ経済性に優れた、新たなタイプの香味劣化抑制剤又は抑制方法が強く要望されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術における問題点に鑑み、本発明は、食品の製造、流通、保存等の各段階で主として光、さらに熱や酸素等を起因とする香味の劣化を抑制でき、また安全性が高く、しかも食品本来の香味に影響を与えることのない香味劣化抑制剤及び抑制方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、光による香味劣化は、上述したような香味成分の異性化や分解だけではなく、光によって誘発される活性ラジカル種が香味成分にダメージを与えると考えた。従って光吸収剤の単独使用では食品の香味劣化防止効果は十分ではなく、強いラジカル消去活性を有する素材を併用することが有効であるとの見地に立ち、鋭意研究を行った結果、特定の抗酸化剤成分と紫外線吸収剤成分との併用が特に光による香味劣化防止に顕著な効果があることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ラジカル消去活性を有する抗酸化剤成分(a)及び波長300〜400nmに強い吸収能を有する紫外線吸収剤成分(b)からなることを特徴とする食品の香味劣化抑制剤である。また、当該抑制剤において、成分(a)がカリン、マンゴー、ミロバラン、ザクロ、五倍子から溶媒抽出された各抽出物、カテキン類及び没食子酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、成分(b)がクロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸類、カフェー酸、フェルラ酸、ロズマリン酸、ルチン、α−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)、クエルセチン及びクエルシトリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明は、食品に、カリン、マンゴー、ミロバラン、ザクロ、五倍子から溶媒抽出された各抽出物、カテキン類及び没食子酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(a)を0.1〜500ppm、及びクロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸類、カフェー酸、フェルラ酸、ロズマリン酸、ルチン、α−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)、クエルセチン及びクエルシトリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(b)を0.1〜500ppm配合することを特徴とする食品の香味劣化抑制方法である。また、当該抑制方法において、成分(a)と成分(b)の配合比が、50:1〜1:50であることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)抗酸化剤成分(a)
ラジカル消去活性を有する抗酸化成分としては、抗酸化剤のうち光照射によって誘発されるラジカルの消去活性に優れたものが選択される。
かかるラジカル消去活性は、ラジカル捕獲剤である1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)を用いるラジカル消去活性試験で測定され、詳しくは以下のとおりである。すなわち、0.1Mの酢酸緩衝用液(pH5.5、2ml)に各被検物質の50%エタノール溶液(2.0ml)及び2×10-4MのDPPH(ナカライテスク社製)エタノール溶液(1.0ml)を加えて全量5.0mlとし、30分後に517nmにおける吸光度を測定する。結果は被検物質無添加のコントロールに対して、吸光度を1/2に減少させるのに必要な被検物濃度(最終溶液;以下「DPPHラジカル50%消去濃度」という)で評価する。この場合、被検物質の濃度が低いほど強いラジカル消去活性を有するのである。
本発明においては、DPPHラジカル50%消去濃度が25ppm以下、特に5ppm以下の抗酸化剤を使用することが好ましい。
【0010】
さらに、人体への安全性の観点から従来より食品や漢方薬に使用されている植物関連の天然物に由来するものが好ましく、こうした条件を満たすものとして、下記のカリン、マンゴー、ミロバラン、ザクロ、五倍子から溶媒抽出された各抽出物、カテキン類及び没食子酸が好適に選ばれる。これらには、いずれにもタンニン類である、ガロタンニン類(五倍子)、エラジタンニン類(ミロバラン、ザクロ)、デヒドロエラジタンニン類といった加水分解性タンニン類が多量に含まれ、このタンニンが中心となってラジカル消去活性による抗酸化作用をもたらす。
カリン(学名:Choenomeles sinensis(Thouin) Koehne)
マンゴー(学名:Mangifera indica L.)
ミロバラン(学名:Terminalia chebula Retz.)
ザクロ(学名:Punica granatum L.)
五倍子(学名:Rhus javonica L.;ヌルデの若葉にヌルデノミミフシアブラムシの単性無翅雌虫が寄生して形成された虫こぶ)
【0011】
上記のうち五倍子以外の植物については、根、茎(枝幹)、葉、果実を原材料として後述の抽出処理に付される。カリン、ザクロについては果皮、マンゴーについては種子、ミロバランは果実を使用することが好ましい。
以下にカリン、マンゴー、ミロバラン、ザクロ、五倍子からの抽出物の材料と抽出法の一例を挙げるが、本発明に適用される抽出法は、下記の例に限定されるものではない。
【0012】
抽出処理に使用する溶媒は、水又は極性有機溶媒であり、有機溶媒は含水物であっても良い。
極性有機溶媒としては、アルコール、アセトン、酢酸エチル等が例示される。中でも人体への安全性と取扱性の観点から水またはエタノール、プロパノール、ブタノールのような炭素数2〜4の脂肪族アルコールが望ましい。特に水又はエタノール又はこれらの混合物が望ましい。
抽出に用いる溶媒の量は任意に選択できるが、一般には上記原材料1重量部に対し溶媒量2〜100重量部、好ましくは5〜20重量部を使用する。
なお、抽出の前処理としてヘキサン等の非極性有機溶媒であらかじめ脱脂処理をし、後の抽出処理時に余分な脂質が抽出されるのを防止してもよい。またこの脱脂処理で結果的に脱臭等の精製ができる場合がある。
【0013】
抽出処理方法としては、原材料の種類、量等により種々の方法を採用することができる。
例えば前記各種天然物を粉砕したものを溶媒中に入れ、浸漬法又は加熱還流法で抽出することができる。なお浸漬法による場合は加熱条件下、室温又は冷却条件下のいずれであってもよい。
ついで、溶媒不溶物を除去して抽出液を得るが、不溶物除去方法としては遠心分離、濾過、圧搾等の各種の固液分離手段を用いることができる。
【0014】
得られた抽出液はそのままでも抗酸化剤成分として使用できるが、例えば水、エタノール等の液体希釈剤で適宜希釈して使用してもよい。またはデキストリン、シュークロース等を加えることもできる。これらをさらに濃縮してペースト状の抽出エキスとしても、また凍結乾燥又は加熱乾燥などの処理を行い粉末として使用してもよい。
また超臨界抽出による抽出、分画、または脱臭処理したものも使用可能である。
【0015】
上記方法で得られた抽出物は、そのまま食品に配合することができるが、さらに、脱色、脱臭等の精製処理をすることができる。精製処理には活性炭や多孔性のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる合成樹脂吸着剤などが使用できる。精製用の合成樹脂吸着剤としては例えば三菱化学株式会社製「ダイヤイオンHP-20(商品名)」やオルガノ株式会社製「アンバーライトXAD-2(商品名)」などが使用できる。
【0016】
カテキン(3,3′,4′,5,7−ペンタヒドロキシフラバン)、エピカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキンガレート及びエピカテキンガレート等のカテキン類、及び没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)はそれ自体既知の化合物であり、試薬もしくは市販品として入手可能である。これらは精製品でも未精製品でもよく、またこれらの成分を産出する植物、動物、微生物等天然物より得られた粗生成物であってもよく、さらにこれらの成分を含有する抽出物であってもよい。
【0017】
(2)波長300〜400nmに強い吸収能を有する紫外線吸収剤成分(b)
紫外線吸収剤として作用する成分(b)は、300〜400nmの波長領域で大きな吸光度が認められるものであり、具体的には紫外線スペクトル法によって測定されるλmaxの吸光度が0.4以上〔測定条件:0.1Mのクエン酸と0.2Mのリン酸2ナトリウムを混合して得たpH3.5の緩衝溶液(以下、「pH3.5クエン酸緩衝液」と略記する)、濃度20ppm〕であり、また、人体への安全性の観点から天然物由来のものが好ましい。
かかる条件を満たすものとして、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸類、カフェー酸(3,4−ジヒドロキシケイ皮酸)、フェルラ酸(4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸)、ロズマリン酸、ルチン(クエルセチン−3−ルチノシド)、α−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)、クエルセチン及びクエルシトリンが好適なものとして例示される。
【0018】
これらの成分は、いずれもそれ自体既知の化合物であり、試薬もしくは市販品として入手可能である。これらは精製品でも未精製品でもよく、またこれらの成分を産出する植物、動物、微生物等天然物より得られた粗生成物であってもよいし、さらにこれらの成分を含有する抽出物であってもよい。
フェルラ酸、ロズマリン酸、ルチン、α−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)に関しては、東京田辺製薬(株)の「RM−21A」(ロズマリン酸)、東洋精糖(株)製の「精製ルチン」、「αGルチンPS又はαGルチンP」(α−グルコシルルチン)、築野ライスファインケミカルズ(株)製のフェルラ酸等の市販品を用いることができる。また、クエルセチンはルチン分解物としてアルプス薬品工業(株)から入手可能であり、クエルシトリンは試薬として市販されている。
【0019】
また、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸類、カフェー酸の場合には以下の抽出法で得ることができる。すなわち、粉砕したコーヒー生豆に10倍重量の含水エタノールを添加し、1〜3時間還流抽出する。冷却後不溶物を濾別し、減圧で10〜20倍濃縮し、希塩酸を用いてpH2〜3に調製する。調製液を多孔性重合体樹脂に通液させクロロゲン酸類を吸着させる。水で洗浄後、含水エタノールで脱着しクロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸、カフェー酸等を含有する抽出物を得ることができる。さらに分取高速液体クロマトグラフィーを用いて高純度のクロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸、カフェー酸を得ることができる。
また、食品への適用に当たっては、種々の食品原料(例えば、砂糖、醤油、塩等)及び各種食品添加物(例えば、調味料、酸味料等)に適当な濃度となるように混ぜ込んで使用してもよい。
【0020】
(3)香味劣化抑制剤の調製
香味劣化抑制剤は、上記のとおり得られた抗酸化剤成分(a)と紫外線吸収剤成分(b)を原材料として、例えば以下のように調製される。
一般的には各種成分を組み合わせて、例えば水、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の(混合)溶剤に適当な濃度で溶解させ(具体的には、水/エタノール、水/エタノール/グリセリン、水/グリセリン等の混合溶剤)て液剤とする。また、各種成分の溶液に賦形剤(デキストリン等)を添加し噴霧乾燥によりパウダー状にすることも可能であり、用途に応じて種々の剤形を採用することができる。
【0021】
(4)用法
本発明の香味劣化抑制剤又は抑制方法を適用しうる食品としては、特に限定はないが、例えば、店頭陳列される場合が多い炭酸飲料、果汁、果汁飲料、乳性飲料、コーヒー飲料、茶類飲料等の飲料、ヨーグルト、プリン、ゼリー、アイスクリーム等の冷菓、キャンディー、水飴等の菓子等、マーガリン、バター、オイルドレッシング等の油脂加工食品、ポテトチップス、揚げあられ等のフライ食品が挙げられる。
【0022】
本発明の香味劣化抑制剤は、食品の加工段階で適宜添加することができる。抗酸化成分であるカリン、マンゴー、ミロバラン、ザクロ、五倍子抽出物、カテキン類及び没食子酸の添加量については特に制限はなく、使用する香味劣化抑制剤の成分の純度、あるいは添加対象の食品等の種類により異なるが、一般的に0.1〜500ppmの添加量が適当である。食品の本来の香味にほとんど影響を及ぼさないという観点からは、0.1〜100ppm、特に0.1〜20ppmが好ましい。
【0023】
また、紫外線吸収剤成分(a)であるクロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸類、カフェー酸、フェルラ酸、ルチン、α−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)、クエルセチンの使用量についても特に制限はなく、使用する香味劣化防止剤の成分の純度、あるいは添加対象の食品等の種類により異なるが、純度の高いものでは、0.1から〜500ppmが適当である。1〜100ppmの範囲が好ましい。また抗酸剤成分(a)と紫外線吸収剤成分(b)の混合割合は、特に限定されるものではないが、成分(b)の純度が高い場合には、例えば成分(a)と成分(b)成分とを1:100から100:1の範囲内、特に50:1から1:50の間の重量比で混合使用するのが好ましい。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)抗酸化剤成分(a)
以下のとおり各天然物から溶媒抽出して得た。
【0025】
〔抽出例1〕
乾燥したカリンの果皮粉末100gを30%エタノール水溶液500gで1時間還流抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を濃縮、凍結乾燥し、淡褐色の粉末(以下「カリン抽出物」と呼ぶ)32g得た。この抽出物の物性は以下のとおりであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図1に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0(0.1Mクエン酸と0.2Mリン酸2ナトリウムを混合して得たpH3.0の緩衝液{以下pH3.0クエン酸緩衝液と略})。
測定機器は島津製作所「分光光度計UV-2100PC」を使用した(以下の各抽出例も同様)。
λmax:279nm、237nm
b) 溶解性:水に易溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:5.5ppm
なお、試験方法は、前記(1)に示したラジカル消去活性試験による(以下、同様)。
【0026】
〔抽出例2〕
乾燥したカリン果皮100gを粉砕し50%エタノール水溶液1000gを加え、1時間加熱還流抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を10gの活性炭にて脱色した。濾過により活性炭を除去後、濾液を150gまで減圧で濃縮した。この濃縮液50gを多孔性合成吸着剤(ダイヤイオンHP−20)100mlに吸着させた。水1Lで洗浄後50%エタノール1Lで溶出させた。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥し淡黄色の粉末8g(以下「カリン抽出物精製品」と呼ぶ)を得た。物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図2に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:230nm、237nm
b) 溶解性:水に可溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:2.5ppm
【0027】
〔抽出例3〕
マンゴー果実10個から果肉を取り除き、果実種子(核)419gを得た。果実種子から殻と種子皮を取り除き、種子仁216gを得た。種子仁を粉砕機により粉砕し、粉砕物207gを得た。粉砕物に50%エタノール水溶液414gを加え1時間還流抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を濃縮、凍結乾燥し淡黄色の粉末(以下「マンゴー抽出物」と呼ぶ)26.2g得た。この抽出物の物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図3に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:276nm
b) 溶解性:水に易溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:1.9ppm
【0028】
〔抽出例4〕
乾燥したミロバランの果実20gを200gの50%エタノール水溶液で2時間還流抽出後、不溶物を濾過した。濾液を減圧下濃縮した後、凍結乾燥し淡褐色の粉末2.2g(以下「ミロバランアルコール抽出物」と呼ぶ)を得た。この抽出物の物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図4に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:369nm、266nm
b) 溶解性:水に易溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:4.7ppm
【0029】
〔抽出例5〕
乾燥したミロバランの果実20gを熱水200gで1時間抽出後、不溶物を濾過した。濾液を減圧下濃縮した後、凍結乾燥し、淡褐色の粉末2.8g(以下「ミロバラン熱水抽出物」と呼ぶ)を得た。この抽出物の物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図5に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:369nm、267nm
b) 溶解性:水に易溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:18ppm
【0030】
〔抽出例6〕
乾燥したザクロ果皮50gを粉砕し50%エタノール水溶液1kg中に入れ、1時間加熱還流抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮した。続いて濃縮物を凍結乾燥し淡褐色の粉末15g(以下「ザクロ抽出物」と呼ぶ)を得た。この抽出物の物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図6に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:379nm、368nm、258nm、237nm
b) 溶解性:水に可溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:4.9ppm
【0031】
〔抽出例7〕
乾燥したザクロ果皮100gを粉砕し水1kgを加え、加熱還流抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を5gの活性炭にて脱色した。濾過により活性炭を除去後、続いて凍結乾燥し、淡黄色の粉末35gを得た。この粉末10gを水に溶かし、多孔性合成吸着剤(ダイヤイオンHP−20)100mlに吸着させた。水1Lで洗浄後50%エタノール1Lで溶出させた。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥し淡黄色の粉末7g(以下「ザクロ抽出物精製品」と呼ぶ)を得た。物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図7に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:379nm、258nm
b) 溶解性:水に可溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:1.1ppm
【0032】
〔抽出例8〕
乾燥したヌルデの五倍子40gを320gの熱水で1時間抽出した。不溶物を濾過後、濾液を減圧下で濃縮した。濃縮液を凍結乾燥し、白色の粉末8.5g(以下「ヌルデ五倍子熱水抽出物」と呼ぶ)を得た。この抽出物の物性は以下の通りであった。
a) 紫外線吸収スペクトルは図8に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
λmax:276ppm
b) 溶解性:水に易溶、50%エタノールに易溶、エタノールに不溶
c) DPPHラジカル50%消去濃度:21ppm
【0033】
〔カテキン類及び没食子酸〕
エピカテキン:
Aldorich Chem. 社製「(−)−エピカテキン(商品名)」を使用した。
a) 紫外線吸収スペクトルは図9に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
b) DPPHラジカル50%消去濃度:1.2ppm
エピガロカテキン:
栗田工業社製「(−)−エピガロカテキン(商品名)」を使用した。
a) 紫外線吸収スペクトルは図10に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
b) DPPHラジカル50%消去濃度:0.78ppm
エピガロカテキンガレート:
栗田工業社製「(−)−エピガロカテキンガレート(商品名)」を使用した。
a) 紫外線吸収スペクトルは図11に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
b) DPPHラジカル50%消去濃度:0.79ppm
没食子酸:
ナカライテスク社製「没食子酸(商品名)」を使用した。
a) 紫外線吸収スペクトルは図12に示すとおりである(測定濃度:10ppm、希釈溶剤:pH3.0クエン酸緩衝液)。
b) DPPHラジカル50%消去濃度:0.56ppm
【0034】
(2)紫外線吸収剤成分(b)
紫外線吸収剤成分として下記のものを使用した。
1)クロロゲン酸
和光純薬工業(株)製のクロロゲン酸を使用した。
紫外線吸収スペクトルは図13に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
2)フェルラ酸
築野ライスファインケミカルズ(株)製のフェルラ酸を使用した。
紫外線吸収スペクトルは図14に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
3)ルチン
ナカライテスク社製の「ルチン」を使用した。
紫外線吸収スペクトルは図15に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
4)ロズマリン酸
東京田辺製薬(株)の「RM−21A」を使用した。
紫外線吸収スペクトルは図16に示すとおりである(EXTRASYNTHESE社製「ロズマリン酸」を測定;測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
5)α−グルコシルルチン
東洋精糖(株)製のα−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)「αGルチンPS」(以下、αGルチンPSと略す)を使用した。
紫外線吸収スペクトルは図17に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
【0035】
6)カフェー酸
ナカライテスク(株)製のカフェー酸を使用した。
紫外線吸収スペクトルは図18に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
7)3,5−ジカフェオイルキナ酸
コーヒー豆から単離したものを用いた。
紫外線吸収スペクトルは図19に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
8)クエルセチン
ナカライテスク(株)製のクエルセチンを使用した。
紫外線吸収スペクトルは図20に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
9)4,5−ジカフェオイルキナ酸
コーヒー豆から単離したものを用いた。
紫外線吸収スペクトルは図21に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
10)クエルシトリン
ナカライテスク(株)製のクエルシトリンを使用した。
紫外線吸収スペクトルは図22に示すとおりである(測定濃度:20ppm、希釈溶剤:pH3.5クエン酸緩衝液)
【0036】
次に、上記の各抗酸化剤成分と各紫外線吸収剤成分を添加した食品を製造し、香味劣化抑制の効果を評価した。
〔実施例1〕(100%アップルジュース)
市販の濃縮還元100%アップルジュースに各種香味劣化抑制剤を添加し、透明ガラス容器に入れ殺菌(70℃、10分間)した。冷却した後、光安定性試験器に入れ、蛍光灯を照射した後(10000ルクス、10℃、48時間)、習熟したパネル10人を選んで官能評価を行った。
この場合、香味変化のない対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯未照射のアップル飲料を使用し、香味の劣化度合いを評価した。その結果は表1および2のとおりである。
【0037】
なお、表1および2中の評価の点数は、下記の基準で採点(1〜4点)した各パネルの平均点である。
(採点基準)
異味、異臭を非常に強く感じる:4点
異味、異臭を強く感じる :3点
異味、異臭を感じる :2点
異味、異臭を若干感じる :1点
異味、異臭を感じない :0点
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1、2から明らかなように、カリン抽出物、カリン抽出物精製品、マンゴー抽出物、クロロゲン酸、フェルラ酸、ルチンはそれぞれ単独使用でもある程度の効果が認められるが、カリン抽出物、カリン抽出物精製品、マンゴー抽出物とクロロゲン酸、フェルラ酸、ルチンとの併用はそれぞれの添加量が少ないにもかかわらず相乗的に顕著に香味劣化を防止した。
【0041】
〔実施例2〕(ヨーグルト飲料)
牛乳94g、脱脂粉乳6gを混合後、殺菌(90〜95℃、5分間)した。48℃に冷却した後、スターターを接種した。これをガラス容器に入れ、発酵(40℃、4時間、pH4.5)させた。冷却後、5℃にて保存し、これをヨーグルトベースとした。
一方、白糖20g、ペクチン1g、水79gからなる糖液を混合後、90〜95℃、5分間加熱し、ホットパック充填したものを使用した。
上記ヨーグルトベース60g、糖液40g、香料0.1g及び各種香味劣化抑制剤を添加混合し、ホモミキサー処理およびホモゲナイザー処理した。
【0042】
これをそれぞれ半透明プラスチック容器に充填し、光安定性試験器に入れ、蛍光灯を照射した後(6000ルクス、10℃、8時間)、習熟したパネル10人を選んで官能評価を行った。そしてこの場合、香味変化のない対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯未照射のヨーグルト飲料を使用し、香味の劣化度合いを評価した。その結果は表3および4のとおりである。
なお、表3および4中の評価の点数は、実施例1と同様の基準で採点した各パネルの平均点である。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
表3、4から明らかなように、ミロバラン果実熱水抽出物、ザクロ抽出物、ヌルデ五倍子熱水抽出物、クロロゲン酸、フェルラ酸、ロズマリン酸、αGルチンPS(α−グルコシルルチン)はそれぞれ単独使用でもある程度の効果が認められるが、ミロバラン果実熱水抽出物、ザクロ抽出物、ヌルデ五倍子熱水抽出物とクロロゲン酸、フェルラ酸、ロズマリン酸、αGルチンPSとの併用使用はそれぞれの添加量が少ないにもかかわらず相乗的に香味劣化を防止した。
【0046】
〔実施例3〕(レモン飲料)
グラニュー糖10g、クエン酸0.1g、レモン香料0.1gおよび水にて全量100gに調整した。これに各種香味劣化抑制剤を添加し、それぞれガラス容器に充填し殺菌した。それらを光安定性試験器にて光照射を行った(15000ルクス、10℃、72時間)。さらに40度の恒温層にて3日間保管した。習熟したパネル10名を選んで官能評価を行った。そして、この場合、劣化していない対照レモン飲料としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯の未照射、非加熱のレモン飲料を使用し、香味の劣化度合いを評価した。その結果は表5および6のとおりである。
なお、表5および6中の評価の点数は、実施例1と同様の基準で採点した各パネルの平均点である。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
表5および6から明らかなように、ミロバランアルコール抽出物、ザクロ抽出物精製品、エピガロカテキン、没食子酸、クロロゲン酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸、カフェー酸、ルチンはそれぞれ単独使用でもある程度の効果が認められるが、ミロバランアルコール抽出物、ザクロ抽出物精製品、エピガロカテキン、没食子酸とクロロゲン酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸、カフェー酸、ルチンとの併用使用はそれぞれの添加量が少ないにもかかわらず相乗的に香味劣化を防止した。
【0050】
〔実施例4〕(殺菌乳酸菌飲料)
発酵乳原液を水にて5倍希釈し、各種香味劣化抑制剤を適量添加し、ガラス容器に充填後、殺菌(70℃、10分)した。それらを光安定性試験器にて光照射を行った後(15000ルクス10℃、18時間)、習熟した10名のパネルを選んで官能評価を行った。そしてこの場合、対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯未照射の乳酸菌飲料を使用し、香味の変化(劣化)度合いを評価した。その結果は表7および8のとおりである。
なお、表7および8中の評価の点数は、実施例1と同様の基準で採点した各パネルの平均点である。
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
表8(殺菌乳酸菌飲料)
香味劣化抑制剤 官能評価の平均点
1)無添加 3.9
2)ザクロ 1.4
3)4 , 5−ジカフェオイルキナ酸 1.8
4)フェルラ酸(20ppm) 2.1
5)αGルチンPS(20ppm) 2.3
6)ザクロ抽出物(10ppm)と
4,5−ジカフェオイルキナ酸(10ppm)併用 0.8
7)ザクロ抽出物(10ppm)と
フェルラ酸(10ppm)併用 1.2
8)ザクロ抽出物(10ppm)と
αGルチンPS(10ppm)併用 0.5
【0053】
表7および8から明らかなように、ザクロ抽出物、エピカテキン、没食子酸、4,5−ジカフェオイルキナ酸、フェルラ酸、αGルチンPS(α−グリコシルルチン)、クエルセチンはそれぞれ単独使用でもある程度の効果が認められるが、ザクロ抽出物、エピカテキン、没食子酸と4,5−ジカフェオイルキナ酸、フェルラ酸、αGルチンPS、クエルセチンとの併用はそれぞれの添加量が少ないにもかかわらず相乗的に香味劣化を防止した。
【0054】
【発明の効果】
本発明の香味劣化抑制剤を食品に使用することにより、光、熱、酸素等の影響を受けやすいものについて香味劣化を抑制することができる。
特に光に対しては顕著な劣化抑制効果を示し、長期間安定的に香味を持続させることができるので、光照射の影響を受けやすい透明ガラス容器、半透明プラスチック容器、或いは透明袋等に充填された食品等について適用すれば、劣化を大幅に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】抽出例1におけるカリン抽出物の紫外線吸収スペクトル図である。
【図2】抽出例2におけるカリン抽出物精製品の紫外線吸収スペクトル図である。
【図3】抽出例3におけるマンゴー抽出物の紫外線吸収スペクトル図である。
【図4】抽出例4にミロバランアルコール抽出物の紫外線吸収スペクトル図である。
【図5】抽出例5におけるミロバラン熱水抽出物の紫外線吸収スペクトル図である。
【図6】抽出例6におけるザクロ抽出物の紫外線吸収スペクトル図である。
【図7】抽出例7におけるザクロ抽出物精製品の紫外線吸収スペクトル図である。
【図8】抽出例8におけるヌルデ五倍子熱水抽出物の紫外線吸収スペクトル図である。
【図9】エピカテキンの紫外線吸収スペクトル図である。
【図10】エピガロカテキンの紫外線吸収スペクトル図である。
【図11】エピガロカテキンガレートの紫外線吸収スペクトル図である。
【図12】没食子酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図13】クロロゲン酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図14】フェルラ酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図15】ルチンの紫外線吸収スペクトル図である。
【図16】ロズマリン酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図17】αGルチンPSの紫外線吸収スペクトル図である。
【図18】カフェー酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図19】3,5−ジカフェオイルキナ酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図20】クエルセチン紫外線吸収スペクトル図である。
【図21】4,5−ジカフェオイルキナ酸の紫外線吸収スペクトル図である。
【図22】クエルシトリンの紫外線吸収スペクトル図である。
Claims (4)
- ザクロ果皮から水、アルコール又はこれらの混合溶媒で抽出された抽出物(a)及び、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸及びα−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(b)からなることを特徴とする食品の香味劣化抑制剤。
- ザクロ果皮から水、アルコール又はこれらの混合溶媒で抽出された抽出物(a)及び、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸及びα−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(b)からなることを特徴とする食品の光による香味劣化抑制剤。
- 食品に、ザクロ果皮から水、アルコール又はこれらの混合溶媒で抽出された抽出物(a)を0.1〜500ppm、及びクロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸及びα−グルコシルルチン(酵素処理ルチン)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(b)を0.1〜500ppm配合することを特徴とする食品の香味劣化抑制方法。
- 成分(a)と成分(b)の配合比が、50:1〜1:50である請求項3に記載の香味劣化抑制方法。
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