JP4252636B2 - 消耗電極ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
消耗電極ガスシールドアーク溶接方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
消耗電極式アーク溶接では、安定な高品質溶接を得るためにアーク長を一定に保つことが必要不可欠である。
一般的に、アーク電圧がアーク長に略比例すると仮定して、アーク電圧をフィードバックし、このアーク電圧が一定となるように、線形なアーク長フィードバック制御系を用いて制御している。
アーク長が長くて短絡が発生しない場合には、アーク電圧がアーク長に略比例するので上述の方法でも特に問題はない。
しかし、短絡が発生するとアーク電圧が急に低減して、後述するように、アーク電圧とアーク長との比例関係が成立しなくなる。そのために、もとの比例関係による等価アーク長がマイナスとなり、アーク長を回復させる調整量が過大となってアークは不安定になってしまう。
【0003】
図1は、ワイヤの先端1aが、チップから突き出し、突き出し長さExを流れる溶接電流Iwによるジュール熱と突き出し長さExのアーク熱とによって、溶融して被溶接材の溶融部に移行する説明図である。
【0004】
図1において、送給ロールによって送給した溶接用ワイヤ1は、ノズルの中にあるチップを通過し、チップから溶接電流Iwを給電する。溶接用ワイヤ1はチップから突き出し、その先端と被溶接材との間にアークを発生する。突き出し長さExを流れる溶接電流Iwによるジュール熱と突き出し長さExのアーク熱とによって、ワイヤの先端1aは溶融して被溶接材2の溶融部に移行する。
【0005】
従来では、アーク長Lがチップと被溶接材2との溶接負荷電圧Vwに比例するという仮定に基づいて、溶接中のアーク長Lを一定に保つために、溶接負荷電圧Vwの平均値を一定に維持させるように制御している。即ち、適切な溶接負荷電圧Vwの平均値に相当する電圧値を設定し、実際の溶接負荷電圧値の平均値をフィードバックして設定した溶接負荷電圧Vwの平均値と比較し、その差を小にするように制御している。
【0006】
図2は、従来の溶接負荷電圧フィードバック方式を採用した消耗電極パルス溶接装置のブロック図である。溶接負荷電圧Vwを検出して平滑したアーク電圧平均値Vaと、所定のアーク長を得るための予め設定したアーク電圧設定値Vsとを比較して、その差の設定・検出電圧比較信号Cm2によって、パルス電流の周波数、ベース電流通電時間等を増減させて、アーク電圧設定値Vsとアーク電圧平均値Vaとが等しくなるように制御する。
【0007】
以下、図2のブロック図の動作について説明する。ワイヤ送給速度設定回路WSは、ワイヤ送給速度設定信号Wsを出力してワイヤ送給モータMWに入力し、ワイヤ送給速度を制御する。溶接電圧瞬時値検出回路VDは、溶接負荷電圧Vwを検出して溶接電圧瞬時値検出信号Vdを出力する。アーク電圧設定回路VSは、所定のアーク長に対応したアーク電圧平均値を設定して、アーク電圧設定値Vsに相当するアーク電圧設定信号Vsを出力する。
【0008】
検出電圧平滑回路VDAは、前述した溶接電圧瞬時値検出信号Vdを入力して平滑したアーク電圧平均値Vaに相当する検出電圧平滑信号Vavを出力する。設定・検出電圧比較回路CM2は、検出電圧平滑信号Vavとアーク電圧設定信号Vsとを入力して、アーク電圧平均値Vaとアーク電圧設定値Vsとを比較してその差の設定・検出電圧比較信号Cm2を出力する。
【0009】
電圧・周波数変換回路VFは、設定・検出電圧比較信号Cm2を入力して、次のピーク電流Ipの通電を指令する周波数制御信号Vfを出力する。
【0010】
ピーク通電時間設定回路TPは、ピーク期間(パルス幅)Tpを設定してピーク通電時間設定信号Tpを出力する。ピーク電流値設定回路IPSは、ピーク電流値Ipを設定してピーク電流値設定信号Ipsを出力する。ベース電流値設定回路IBSは、ベース電流値Ibを設定してベース電流値設定信号Ibsを出力する。
【0011】
パルス周波数・幅制御回路DFは、ピーク通電時間設定信号Tp及び周波数制御信号Vfを入力して、パルス周波数・幅制御信号Dfを出力する。ピーク・ベース電流値切換回路SW1は、パルス周波数・幅制御信号Dfが入力されている期間だけピーク電流値設定信号Ipsを通電し、パルス周波数・幅制御信号Dfが停止されている期間はベース電流値設定信号Ibsを通電するピーク・ベース電流値切換信号Sw1を出力する。
【0012】
設定・検出電流比較回路CM1は、溶接電流検出回路IDの出力である溶接電流検出信号Idとピーク・ベース電流値切換信号Sw1とを入力して溶接電流制御信号Cm1を出力して、PWM制御のインバータ回路を備えた出力端子電圧Vpを出力する溶接電源装置PSに入力して溶接電流Iwを制御する。
【0013】
図3は、前述した図2の従来の溶接装置において各回路の出力信号の時間的経過を示すタイミングチャートである。同図(A)は溶接電圧瞬時値検出信号Vdの波形図であり、同図(B)は検出電圧平滑信号Vav及びアーク電圧設定信号Vsの波形図であり、同図(C)は周波数制御信号Vfの波形図であり、同図(D)はパルス周波数・幅制御信号Dfの波形図であり、同図(E)はピーク・ベース電流値切換信号Sw1の波形図であり、同図(F)は溶接電流検出信号Idの波形図である。
【0014】
図3に示す各信号と前述した図2に示す各回路の動作との関係は次のとおりである。設定・検出電圧比較回路CM2は、図2に示した溶接負荷電圧Vwを平滑したアーク電圧平均値Vaとアーク電圧設定値Vsとを比較して、その差の設定・検出電圧比較信号Cm2を出力し、電圧・周波数変換回路VFは、この設定・検出電圧比較信号Cm2に対応した周波数制御信号Vfを出力する。パルス周波数・幅制御回路DFは、この周波数制御信号Vfとピーク通電時間設定信号Tpとからパルス周波数とピーク期間Tp(パルス幅)とを制御するパルス周波数・幅制御信号Dfを出力する。
【0015】
ピーク・ベース電流値切換回路SW1は、パルス周波数・幅制御信号Dfが入力されているときにピーク電流値設定信号Ipsを出力し、パルス周波数・幅制御信号Dfが入力されていないときにベース電流値設定信号Ibsを出力する。設定・検出電流比較回路CM1は、ピーク電流値設定信号Ipsとベース電流値設定信号Ibsとを繰り返すピーク・ベース電流値切換信号Sw1と溶接電流検出回路IDの出力である溶接電流検出信号Idとを比較して、その差の溶接電流制御信号Cm1を出力する。溶接電源装置PSは、溶接電流制御信号Cm1を入力して溶接電流を出力する。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のアーク長制御をする溶接負荷電圧フィードバック制御方式では以下の問題がある。
従来では、後述する図4に示すように、点Aのアーク長が略ゼロから点Cの短絡までの点線も含めて、見かけのアーク長Lが溶接負荷電圧Vwに比例するという仮定に基づいて、溶接中のアーク長Lを一定にするために、溶接負荷電圧Vwを一定に維持させるように制御している。即ち、適切なアーク電圧設定値Vsを設定し、実際の溶接負荷電圧Vwをフィードバックして、そのフィードバックした溶接負荷電圧Vwの平均値と設定したアーク電圧平均値Vaに相当する設定値とを比較し、その差を無くすように制御している。
【0017】
図4は、アーク長L(横軸)と溶接負荷電圧Vw(横軸)との関係を示すアーク長・溶接負荷電圧特性図である。同図において、アークが発生しているとき(アーク長L>0)の溶接負荷電圧Vwは、実線ABで示すアーク長・溶接負荷電圧直線に示すように、陰極点での陰極電圧降下Vkを定数とする勾配αの直線Vwとなる。
【0018】
しかし、短絡するとアークが消滅して陰極点も消失するために、陰極電圧降下Vkがゼロになり、溶接負荷電圧Vwもゼロになって、現実では、アーク長・溶接負荷電圧特性図の「0」の位置になる。しかし、従来の溶接負荷電圧フィードバック制御方式では、溶接負荷電圧Vwがゼロになってしまうと、同図の点Cに示すように、アーク長Lはマイナスになってしまう。
【0019】
アークが発生してアーク長がL>0のとき(短絡が発生しないとき)の溶接負荷電圧Vwとアーク長Lとの関係は式(1)で表される。
Vw=C+αL=Vk+αL …(1)
ここで、Cは等価陰極降下Vkと等価陽極降下Vpとの和であり、陽極降下Vpが略ゼロなので、主に等価陰極降下Vkによる常数である。αはアーク長・溶接負荷電圧直線ABの勾配であり、Lはアーク長である。
溶接負荷電圧Vwの変化分△Vwに対するアーク長Lの変化分△Lは式(2)で表される。
ΔL=△Vw/α …(2)
【0020】
この式(2)で表される溶接負荷電圧Vwの変化分△Vwに対するアーク長Lの変化分△Lは、図4に示すように、溶接負荷電圧VwがVw1からVw2に低下すると、アーク長Lの変化分△LはL1−L2となって、かなり大きくアーク長を制御しようとすることを示している。
【0021】
一方、短絡が発生すると、等価陰極降下Vk及び等価陽極降下Vpがゼロになる。式(2)において、短絡が発生したときの従来技術の溶接負荷電圧フィードバック制御方式での制御対象になるアーク長Lの変化分ΔLsは次式のように大きな値となる。
ΔLs=−Vk/α …(3)
【0022】
しかし、図4に示すように、短絡直前のアーク長L0が略ゼロであるので、実際には、短絡直前のアーク長L0から短絡時までのアーク長Lの変化分ΔL0は略ゼロと考えられる。
それにもかかわらず、従来技術のフィードバック制御方式では、短絡が発生したときの制御対象になるアーク長Lの変化分ΔLは、前述した式(3)で示すΔLs=−Vk/αのように、大きなマイナス値となっている。
【0023】
また、アーク長の短い実用範囲では、短絡が発生しないときでも、図4に示すように、陰極降下Vkが、例えば、アーク長L2のときのアーク自体による電圧降下(Vw2−Vk)よりも大きいことが多い。
これらの理由によって、従来技術のフィードバック制御方式では、短絡時にフィードバックされた溶接負荷電圧Vwは、アーク長変化を制御するための「誤ったアーク長に制御する信号」(偽情報)の割合がかなり大きい。
【0024】
図5は、従来技術のフィードバック制御方式を使用したパルス溶接において短絡が発生したときのパルス周期の変化状況を示すパルス周期変化図である。
同図に示すように、周期T2において短絡が発生したとすれば、この周期T2のアーク電圧平均値Vaがかなり低下する。
この周期T2の低下したアーク電圧平均値Vaをフィードバックすると、フィードバックされたアーク電圧平均値Vaによって制御しようとする溶接負荷電圧変化値△Vwのときのアーク長変化値△Lは、下記のように、かなり大きくアーク長を制御して、実際の平均アーク長Laよりもかなり低いアーク長L2になってしまう。
【0025】
例えば、短絡が発生したときは、前述した式(3)によって、アーク長変化値ΔLs=−Vk/αとなって、かなり大きくアーク長を制御して、実際の平均アーク長Laよりもかなり低くなってしまう。
【0026】
このような従来技術のフィードバック制御方式のフィードバック制御では、必要以上に次のパルス周期をT3まで減少させることによって、溶接電流値を増加させてワイヤの溶融速度を増加させてアーク長を大に復帰させようとする。
その次の周期T4も、溶接電圧瞬時値検出回路VDの時定数が大きいフィルタのために、正常の周期よりも短くなる。周期T5では、短絡によるアーク長の変化が定常値になっても、短絡によるアーク長の変化前よりも、アーク長Lが長くなってパルス周期も正常よりも長くなる。
【0027】
このようなパルス周期の必要以上の変化は以下の問題をもたらす。
(1)アーク長Lの変化が大きい。
(2)ピーク電流に同期して溶滴移行ができないときが発生して、1パルス1溶滴移行の規則性を維持することができない。
(3)溶滴がピーク電流Ipと同期しないで移動するためにスパッタの発生量が大きくなる。
(4)アーク長Lを短くした低電圧溶接では、さらに長い時間短絡を起こしてアークが不安定になる。
(5)短絡電圧の影響をある程度緩和するために、検出電圧平滑回路VDAのフィルタを大きくする必要があり、制御系の応答性が遅い。
そこで、本発明は、短絡時の溶接負荷電圧のフィードバック量を、短絡が発生してもアーク長に略比例する電圧をフィードバックし、アークを安定させる方法を提供する。
【0028】
【課題を解決するための手段】
請求項1の溶接方法は、パルス溶接方法は勿論、パルス溶接方法でない通常の溶接方法においても適用することができる溶接方法であって、溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、短絡期間中は短絡電圧の代わりに等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法である。
【0029】
請求項2の溶接方法は、溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、溶接負荷電圧瞬時値によって、短絡の発生を瞬時に検出して、短絡期間中に等価陰極降下電圧よりも低い平滑した電圧を、検出された短絡電圧の代わりにフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法である。
【0030】
請求項3の溶接方法は、溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、溶接負荷電圧瞬時値によって、パルス周期の1周期の間の短絡の発生を瞬時に検出して、短絡期間中に等価陰極降下電圧よりも低い平滑した電圧を、検出された短絡電圧の代わりにフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法である。
【0031】
請求項4の溶接方法は、溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、パルス期間の短絡中は、短絡電圧の代わりにピーク電流通電時の等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックし、ベース期間の短絡中は、短絡電圧の代わりにベース電流通電時の等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法である。
【0032】
請求項5の溶接方法は、溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、アーク発生中と短絡とを検出して、短絡期間がパルス期間中かベース期間中かによって、短絡期間中は、短絡電圧の代わりにピーク電流通電時又はベース電流通電時のそれぞれの等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックして、パルス周波数とパルス幅とを制御する信号(Df)を制御してピーク電流とベース電流とを通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法である。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態は、後述する図6に示すように、図1に示した従来の溶接装置のブロック図の各回路に、後述する図6に示す点線で囲んだ各回路を追加した溶接装置であって、つぎの回路から構成される。
(1)溶接負荷電圧Vwを検出して溶接電圧瞬時値検出信号Vdを出力する溶接電圧瞬時値検出回路VD。
(2)この溶接電圧瞬時値検出信号Vdを入力してアーク・短絡検出信号Sdを出力するアーク・短絡検出回路SD。
【0039】
(3)ピーク期間(パルス幅)Tpを設定してピーク通電時間設定信号Tpを出力するピーク通電時間設定回路TP。
(4)ピーク電流値Ipを設定してピーク電流値設定信号Ipsを出力するピーク電流値設定回路IPS。
(5)ベース電流値Ibを設定してベース電流値設定信号Ibsを出力するベース電流値設定回路IBS。
【0040】
(6)パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcpを出力する短絡フィードバック電圧設定回路VCP。
(7)ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcbを出力する短絡フィードバック電圧設定回路VCB。
(8)後述するパルス周波数・幅制御信号Dfによって、パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcpとベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcbとを切り換えて、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2を出力する短絡フィードバック電圧切換回路SW2。
【0041】
(9)アーク・短絡検出信号Sdによって、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2と溶接電圧瞬時値検出信号Vdとを切り換えて、アーク長フィードバック電圧切換信号Sw3を出力するアーク長フィードバック電圧切換回路SW3。
(10)アーク長フィードバック電圧切換信号Sw3を入力して平滑したアーク電圧平均値信号Vdaを出力する検出電圧平滑回路VDA。
【0042】
(11)所定のアーク長に対応したアーク電圧平均値を設定して、アーク電圧設定値Vsに相当するアーク電圧設定信号Vsを出力するアーク電圧設定回路VS。
(12)アーク電圧平均値信号Vdaとアーク電圧設定信号Vsとを比較して設定・検出電圧比較信号Cm2を出力する設定・検出電圧比較回路CM2。
(13)設定・検出電圧比較信号Cm2を入力して、次のピーク電流Ipの通電を指令する周波数制御信号Vfを出力する電圧・周波数変換回路VF。
ピーク通電時間設定信号Tp及び周波数制御信号Vfを入力して、パルス周波数・幅制御信号Dfを出力するパルス周波数・幅制御回路DF。
【0043】
(14)パルス周波数・幅制御信号Dfが入力されている期間だけピーク電流値設定信号Ipsを通電し、パルス周波数・幅制御信号Dfが停止されている期間はベース電流値設定信号Ibsを通電するピーク・ベース電流値切換信号Sw1を出力するピーク・ベース電流値切換回路SW1。
(15)溶接電流Iwを検出して溶接電流検出信号Idを出力する溶接電流検出回路ID。
(16)溶接電流検出信号Idとピーク・ベース電流値切換信号Sw1とを比較して溶接電流制御信号Cm1を出力する設定・検出電流比較回路CM1。
(17)溶接電流制御信号Cm1によって溶接電流Iwを制御する溶接電源装置PS。
【0044】
【実施例】
本発明は、アーク発生中と短絡とを検出して、短絡期間がパルス期間中かベース期間中かを判別し、短絡期間中は、短絡電圧の代わりにピーク電流通電時又はベース電流通電時のそれぞれの等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックする。このように、等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックすることによって、短絡時の溶接負荷電圧Vwの検出電圧が略零になるためにアーク長が負になるようなことはなく、等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックして、アーク長を略零にすることができるので、フィードバック電圧は常にアーク長に比例する。
【0045】
したがって、本発明のアーク長フィードバック方式は、間接的に制御するアーク長が、「誤ったアーク長に制御する信号」を含む短絡の発生に関係せず、常に「真のアーク長を制御することができる信号」が得られる。この「真のアーク長を制御することができる信号」に基づいて、常に最適な値の溶接負荷電圧Vwを出力することができるので、通常の溶接方法において溶接電流値が過大に制御されたり、パルス溶接方法においてパルス周期が過大に制御されることはない。
【0046】
また、実験結果によると、通常の溶接又はパルス溶接において、短絡時間が長くなると、平均アーク長は若干短くなる。この若干短くなったアーク長を検出するために、実用上、短絡期間中の等価陰極電圧降下よりも若干低い設定電圧をフィードバックしてアーク長を補正する。
【0047】
(図6の説明)
図6は、前述した本発明の溶接方法に使用する溶接負荷電圧フィードバック方式を採用した消耗電極パルス溶接装置のブロック図である。従来の溶接負荷電圧フィードバック方式との相違は、溶接負荷電圧瞬時値をそのまま検出回路に入力して、パルス周期の1周期の間の短絡の発生を瞬時に検出する。そして、短絡期間中に等価陰極降下電圧よりもやや低い電圧を、検出された短絡電圧の代わりに検出電圧平滑回路VDAに入力し、平滑した後の信号を検出電圧平滑信号としてアーク長フィードバック制御に使用する。
同図において、点線で示される部分は、今回の追加変更した構成であり、この点線で示される以外の構成は従来の溶接装置と同様である。以下、今回の追加変更した構成だけについて説明する。
【0048】
アーク・短絡検出回路SDは、溶接負荷電圧瞬時値を入力信号とし、短絡期間中かアーク期間中かを判断し、短絡期間中はディジタル信号「0」を出力し、アーク期間中はディジタル信号「1」を出力する。
パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定回路VCPは、パルス期間中に発生する短絡電圧の代わりにピーク電流通電時の等価陰極電圧降下に相当する電圧(パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号)Vcpを設定する。
ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定回路VCBは、ベース期間中に発生する短絡電圧の代わりにベース電流通電時の等価陰極電圧降下に相当する電圧(ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号)Vcbを設定する。
【0049】
入力されたパルス周波数・幅制御信号Dfが、前述した図3(D)に示す次のピーク電流の通電開始までの期間は、短絡フィードバック電圧切換回路SW2がa側になるので、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2は、パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcpとなる。
逆に、パルス周波数・幅制御信号Dfが、次のベース電流の通電開始までの期間は、短絡フィードバック電圧切換回路SW2がb側になるので、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2は、ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcbとなる。
【0050】
アーク長フィードバック電圧切換回路SW3は、アーク・短絡検出信号Sdを入力とし、アーク期間中(Sd=「1」)は、アーク長フィードバック電圧切換回路SW3がa側になるので、アーク長フィードバック電圧切換信号Sw3は、溶接電圧瞬時値検出信号Vdとなる。
逆に、短絡期間中(Sd=「0」)は、アーク長フィードバック電圧切換回路SW3がb側になるので、アーク長フィードバック電圧切換信号Sw3は、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2となる。
アーク長フィードバック電圧切換信号Sw3は、検出電圧平滑回路VDAによって平滑されてアーク電圧平均値信号Vdaとなる。このときの検出電圧平滑回路VDAの時定数を、従来技術の時定数よりも小さく設定しているので、アーク長の復帰が速くなる。
【0051】
(図7の説明)
図7は、本発明の溶接負荷電圧をフィードバックした溶接装置の各回路の信号のタイミングチャートである。同図(A)はパルス周波数・幅制御信号Dfを示し、同図(B)は短絡フィードバック電圧設定信号Sw2を示し、同図(C)は溶接電圧瞬時値検出信号Vdを示し、同図(D)はアーク・短絡検出信号Sdを示し、同図(E)はアーク長フィードバック電圧切換信号Sw3を示す。
【0052】
短絡期間中のフィードバック電圧設定値は、同図(A)のパルス周波数・幅制御信号Dfによって、ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcbとパルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcpとに切り換えられて、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2となる。このとき検出されたアーク電圧は溶接電圧瞬時値検出信号Vdである。
【0053】
同図の周期T2のベース期間中及び周期T4のパルス期間中に短絡が発生したとすると、同図(D)に示すアーク・短絡検出信号Sdとなる。このアーク・短絡検出信号Sdによって、短絡期間中のフィードバック電圧は、短絡フィードバック電圧設定信号Sw2が出力され、さらに、アーク長フィードバック電圧切換信号Sw3が出力される。
従って、ベース期間中に短絡が発生すると、溶接電圧瞬時値検出信号Vdからベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcbに切り換わる。同様に、パルス期間中に短絡が発生すると、溶接電圧瞬時値検出信号Vdからパルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号Vcpに切り換わる。
このように、短絡が発生しても、実際のアーク長に比例するアーク長フィードバック電圧切換信号に置換することによって、短絡が発生した周期及びその後の周期のアーク長が、大きく変化することを防止する。従って、アーク長の変化分ΔLとパルス周波数の変化とが適切に対応し、短絡が発生してもパルス周波数の規則性を維持することができる。
【0054】
図8は、従来のフィードバック方式及び本発明のフィードバック方式においてアークが安定している溶接電圧と溶接電流との選定範囲の比較図である。
同図は、直径1.2[mm]の材質A5183のアルミニウムワイヤを使用して従来のフィードバック方式及び本発明のフィードバック方式によって溶接電流を通電して消耗電極ガスシールドアーク溶接したときに、アークが安定している溶接電圧と溶接電流との選定範囲を比較する図であって、本発明のフィードバック方式においては、短絡が頻発する低電圧領域、例えば、溶接電流60[A]で溶接電圧16[V]の範囲においても、アークが安定し、溶接電圧と溶接電流との選定範囲が拡大していることを示している。
【0055】
【発明の効果】
本発明のフィードバック方式は、検出した溶接負荷電圧を実際のアーク長に比例するアーク長フィードバック電圧切換信号に置き換えているので、アーク長の復帰を制御すれば、以下の効果が得られる。
(1)短絡が発生しても、実際のアーク長に比例するアーク長フィードバック電圧切換信号に置換することによって、短絡が発生した周期及びその後の周期のアーク長が、大きく変化することを防止する。従って、アーク長の変化分ΔLとパルス周波数の変化とが適切に対応し、短絡が発生してもパルス周波数の規則性を維持することができる。
(2)1パルス1溶滴移行の規則性が維持できる。
(3)アークが安定で、低電圧溶接でのスパッタ発生量が少ない。
(4)アークが安定した溶接ができる低電圧選定範囲が拡大する。
(5)検出電圧平滑回路のフィルタの時定数を小さくすることができ、フィードバック制御系の応答性が速くなる。したがって、例えば、チップ被溶接材間距離の変化等の外乱が生じても、アーク長が速く復帰する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ワイヤの先端1aが、チップから突き出し、突き出し長さExを流れる溶接電流Iwによるジュール熱と突き出し長さExのアーク熱とによって、溶融して被溶接材の溶融部に移行する説明図である。
【図2】図2は、従来の溶接負荷電圧フィードバック方式を採用した消耗電極パルス溶接装置のブロック図である。
【図3】図3は、前述した図2の従来の溶接装置において各回路の出力信号の時間的経過を示すタイミングチャートである。
【図4】図4は、アーク長L(横軸)と溶接負荷電圧Vw(横軸)との関係を示すアーク長・溶接負荷電圧特性図である。
【図5】図5は、従来技術のフィードバック制御方式を使用したパルス溶接において短絡が発生したときのパルス周期の変化状況を示すパルス周期変化図である。
【図6】図6は、本発明の溶接方法に使用する溶接負荷電圧フィードバック方式を採用した消耗電極パルス溶接装置のブロック図である。
【図7】図7は、本発明の溶接負荷電圧をフィードバックした溶接装置の各回路の信号のタイミングチャートである。
【図8】図8は、従来のフィードバック方式及び本発明のフィードバック方式においてアークが安定している溶接電圧と溶接電流との選定範囲の比較図である。
【符号の説明】
1 溶接用ワイヤ
1a ワイヤの先端
2 被溶接材
AC 商用電源
CM1 設定・検出電流比較回路
Cm1 溶接電流制御信号
CM2 設定・検出電圧比較回路
Cm2 設定・検出電圧比較信号
DF パルス周波数・幅制御回路
Df パルス周波数・幅制御信号
Ex 突き出し長さ
Ib ベース電流/ベース電流値
IBS ベース電流値設定回路
Ibs ベース電流値設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ip ピーク電流/ピーク電流値
IPS ピーク電流値設定回路
Ips ピーク電流値設定信号
Iw 溶接電流(瞬時値)
L 見かけのアーク長
PS 溶接電源装置
Sd アーク・短絡検出信号
SD アーク・短絡検出回路
SW1 ピーク・ベース電流値切換回路
Sw1 ピーク・ベース電流値切換信号
SW2 短絡フィードバック電圧切換回路
Sw2 短絡フィードバック電圧設定信号
SW3 アーク長フィードバック電圧切換回路
Sw3 アーク長フィードバック電圧切換信号
Tb ベース期間
TP ピーク通電時間設定回路
Tp ピーク期間/ピーク通電時間設定信号
Va アーク電圧/アーク電圧平均値
Vav 検出電圧平滑信号
VCB ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定回路
Vcb ベース期間中の短絡フィードバック電圧設定信号
VCP パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定回路
Vcp パルス期間中の短絡フィードバック電圧設定信号
VD 溶接電圧瞬時値検出回路
VDA 検出電圧平滑回路
Vda アーク電圧平均値信号
Vd 溶接電圧瞬時値検出信号
VF 電圧・周波数変換回路
Vf 周波数制御信号
Vp 出力端子電圧
VS アーク電圧設定回路
Vs アーク電圧設定値/アーク電圧設定信号
Vw 溶接負荷電圧(値)
WM ワイヤ送給モータ
WS ワイヤ送給速度設定回路
Ws ワイヤ送給速度/ワイヤ送給速度設定信号
Claims (5)
- 溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、短絡期間中は短絡電圧の代わりに等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、溶接負荷電圧瞬時値によって、短絡の発生を瞬時に検出して、短絡期間中に等価陰極降下電圧よりも低い平滑した電圧を、検出された短絡電圧の代わりにフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、溶接負荷電圧瞬時値によって、パルス周期の1周期の間の短絡の発生を瞬時に検出して、短絡期間中に等価陰極降下電圧よりも低い平滑した電圧を、検出された短絡電圧の代わりにフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、パルス期間の短絡中は、短絡電圧の代わりにピーク電流通電時の等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックし、ベース期間の短絡中は、短絡電圧の代わりにベース電流通電時の等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックした溶接電流を通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 溶接負荷電圧をフィードバックした溶接電流を通電して溶接する溶接方法において、アーク発生中と短絡とを検出して、短絡期間がパルス期間中かベース期間中かによって、短絡期間中は、短絡電圧の代わりにピーク電流通電時又はベース電流通電時のそれぞれの等価陰極電圧降下に相当する電圧をフィードバックして、パルス周波数とパルス幅とを制御する信号を制御してピーク電流とベース電流とを通電する消耗電極ガスシールドアーク溶接方法。
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