JP4251229B1 - 高圧水素ガス環境用低合金鋼および高圧水素用容器 - Google Patents

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Abstract

【課題】引張強さが900MPa以上という高強度でありながら、耐水素環境脆化特性に優れる低合金鋼の提供
【課題手段】質量%で、C:0.15〜0.60%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005〜0.10%、Mo:0.5〜3.0%、V:0.05〜0.30%、O(酸素):0.01%以下およびN:0.03%以下を含有し、残部Fe及び不純物であり、かつ引張強さが900MPa以上である高圧水素ガス環境用低合金鋼。この低合金鋼は、0.0003〜0.003%のBを含有させることが望ましいが、この場合にはNは0.010%以下に制限する。また、Cr、Nb、Ti、ZrおよびCaのうちの1種以上を含有することが望ましい。MoおよびVの含有量は、下記(1)式を満足することが望ましい。
[Mo(%)]・[V(%)]0.2≧0.32 (1)
【選択図】なし

Description

本発明は、高圧水素ガス環境に用いて好適な低合金鋼およびその鋼からなる高圧水素用容器に関する。
燃料電池車は、水素および酸素を燃料とし、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX)等の有害物質を排出することなく、電気動力を得ることができるため、ガソリン車、ディーゼル車に替わる次世代のクリーン自動車として注目されている。我が国においては、2002年に水素ガスボンベを搭載した燃料電池自動車の市販が開始され、年々その数は増加している。しかし、現在の燃料電池車は、ボンベサイズの制約から走行距離が高々300kmであり、これが普及の障害になっている。走行距離を向上させるためには、車載ボンベに収容する水素ガスの圧力を35〜70MPaという超高圧にすることが有効であり、水素ガスの貯蔵用容器、配管、注入用バルブ等の各種機器には、このような高圧水素環境に曝されても安全な材料を使用する必要がある。
しかし、鉄鋼材料を水素ガス環境、特に高圧水素ガス環境で使用する場合には、水素ガスにより引き起こされる水素脆化の問題が生じる。この現象は、水素環境脆化(Hydrogen Environment Embrittlement: HEE)と呼ばれ、水素ガス環境において金属材料の伸び、絞り、破断応力などの機械的特性が低下する現象として知られている。我が国では、2003年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Organization:NEDO)の「水素安全利用等基盤技術開発」において、水素用材料基礎物性の研究が開始され、種々の材料評価が行われている。
この成果としては、非特許文献1などの論文がある。非特許文献1では、高圧水素ガス環境において脆化の起こりにくい金属材料として、アルミニウム合金A6061−T6および安定オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを挙げている。これらの金属材料は、いずれも水素脆化を一般的に起こしにくいと言われているfcc(face−centered cubic)構造を有している。この研究成果は、高圧ガス保安法圧縮水素自動車燃料装置用容器の例示基準第3条(材料)の根拠とされている。しかし、A6161−T6は、引張強さが約300MPa、SUS系のオーステナイト系ステンレス鋼は、引張強さが約500〜600MPaにとどまり、車載用容器の軽量化のための更なる高強度の要請には十分に対応できない。
高強度低合金鋼は、高強度で、製造コストの低減も実現できるため、上記要請に対しては魅力的な材料であるが、水素脆化感受性の高いと言われるbcc(body−centered cubic)構造を有しており、特に強度が高くなると脆化の感受性が高くなることが知られている。高圧水素ガス環境において低合金鋼の詳細な特性評価を行った例は少ないが、例えば、非特許文献2には、低合金鋼(AISI4340鋼、4130鋼および高マンガン鋼)を供試材とした実験において、の引張強さが900MPaを超えると脆化感受性が高くなることが報告されている。従って、水素ステーション用の蓄圧器などに定期的な検査を前提として低合金鋼製の容器が一部適用されつつあるものの、定期検査が困難な車載用容器への低合金鋼の適用は一般に困難と考えられている。
一方、特許文献1において、出願人は、質量%で、C:0.20〜0.35%、Si:≦0.35、Mn:0.3〜2.0%、P:≦0.025%、S:≦0.015%、Cr:0.8〜2.0%、Mo:0.3〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%、Al:0.01〜0.10%およびN:≦0.008%を含有し、または更に、Nb:≦0.10%、Ti:≦0.10%、Cu:≦2.00%、Ni:≦2.00%、V:≦0.10%およびCa:≦0.01%から選択される少なくとも1種を含有し、残部はFeと不純物とからなるボンベ用鋼材に関する発明を提案している。
特開2005−139499号公報 田村元紀ら、「45MPa高圧水素ガス雰囲気下での金属材料の機械的特性評価」、日本金属学会誌第69巻第12号、2005年、1039〜1048頁 日野谷重晴ら、「常温高圧水素ガスによる高張力鋼の水素脆性破壊」、鉄と鋼第64年第7号、1978年、899〜905頁
特許文献1に記載の発明は、特に薄肉のボンベに用いるのに適した高強度鋼材を提供するものであるが、例えば、その実施例に記載されているように、この発明において想定されている内圧は、24.5MPa程度であり、この発明では、車載ボンベに要求される35〜70MPaという超高圧までの検討がなされていない。
水素ステーション用蓄圧器などには、JIS−SCM435、JIS−SCM440などに規定されるCr−Mo含有鋼(質量%で、0.35〜0.40%のC、1%程度のCr、0.2%以下のMoを含有する鋼)が用いられる。通常、これらの鋼は、焼入れ焼戻しにより強度の調整がなされる。しかし、前掲の非特許文献2に記載されるように、引張強さが900MPaを超える低合金鋼は、脆化感受性が高くなる傾向にあり、既存の鋼をそのまま高圧水素ガス環境で用いるのは困難である。
本発明は、引張強さが900MPa以上という高強度でありながら、耐水素環境脆化特性に優れる低合金鋼およびその鋼からなる低合金鋼製容器を提供することを目的とする。
本発明者らは、これらの既存の鋼の水素環境における脆化の破面形態について詳細に検討し、これが旧オーステナイト粒界割れであり、粒界の炭化物形態の改善をすることにより耐水素環境脆化特性が改善できることを知見した。そして、鋭意研究の結果、Vを添加し、さらには既存鋼よりもMo含有量を増すことにより、耐水素環境脆化特性が大きく改善できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、下記の(1)に示す高圧水素ガス環境用低合金鋼および下記(2)に示す高圧水素用容器を要旨とする。
(A)質量%で、
C:0.15〜0.60%、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜3.0%、
P:0.025%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.005〜0.10%、
Mo:0.5〜3.0%、
V:0.05〜0.30%、
O(酸素):0.01%以下および
N:0.03%以下
を含有し、残部Fe及び不純物であり、かつ引張強さが900MPa以上であることを特徴とする高圧水素ガス環境用低合金鋼。
なお、上記(A)の高圧水素ガス環境用低合金鋼は、Feの一部に代えて、質量%で、0.0003〜0.003%のBを含有させることが望ましい。但し、この場合には、N含有量は0.010%以下に制限する必要がある。また、この高圧水素ガス環境用低合金鋼は、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.2〜2.0%、Nb:0.002〜0.1%、Ti:0.002〜0.1%、Zr:0.002〜0.1%およびCa:0.0003〜0.01%の中から選ばれた1種以上を含有することが望ましい。また、MoおよびVの含有量は、下記(1)式を満足することが望ましい。
[Mo(%)]・[V(%)]0.2≧0.32 (1)
(B)上記(A)の高圧水素ガス環境用低合金鋼からなる高圧水素用容器。
本発明の低合金鋼は、高圧水素ガス環境において、引張強さが900MPa以上という高強度でありながら、耐水素環境脆化特性に優れる。
(a)化学組成
以下、本発明の低合金鋼の化学組成とその限定理由を説明する。以下の説明において、各元素についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.15〜0.60%
Cは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を得るためには、0.15%以上含有させる必要がある。一方、0.60%を超えて含有させても、その効果は飽和する。従って、Cの含有量を0.15〜0.60%とした。
Si:0.05〜0.5%
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であり、焼戻し軟化抵抗を高める効果も有する。脱酸効果を得るためには0.05%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が0.5%を超えると、軟化相のフェライト相の析出を促進して、強度を低下させる。従って、Siの含有量を0.05〜0.5%の範囲とした。
Mn:0.05〜3.0%
Mnは、鋼の焼入れ性を確保するのに有効な元素である。この効果を得るためには0.05%以上含有させる必要がある。一方、3.0%を超えて含有させると、P、S等の不純物元素と共に、粒界に偏析して靭性等の機械的特性を低下させる。従って、Mnの含有量を0.05〜3.0%とした。
P:0.025%以下
Pは、粒界に偏析し、靭性等の機械的特性を低下させる元素である。その含有量が0.025%を超えるとその影響が顕著になる。従って、Pは0.025%以下に制限することとした。
S:0.01%以下
SもPと同様に粒界に偏析し、靭性等の機械的特性を低下させる元素である。その含有量が0.01%を超えるとその影響が顕著になる。従って、Sは0.01%以下に制限することとした。
Al:0.005〜0.10%
Alは、鋼の脱酸に有効な元素である。その効果は、Al含有量が0.005%未満では得られない。一方、0.10%を超えて含有させてもその効果は飽和する。従って、Alの含有量を0.005〜0.10%とした。なお、本発明のAl含有量とは、酸可溶Al(sol.Al)を指す。
Mo:0.5〜3.0%
Moは、本発明において重要な元素であり、Vとともに微細なV−Mo系炭化物を形成し、焼戻し温度を高めて耐水素環境脆化特性を向上させるのに有効な元素である。この効果は、その含有量が0.5%以上の場合に発揮される。一方、3.0%を超えて含有させてもその効果は飽和する。従って、Moの含有量を0.5〜3.0%とした。望ましい下限は、0.65%である。また、望ましい上限は、2.5%である。
V:0.05〜0.30%
Vは、本発明において重要な元素であり、Moとともに微細なV−Mo系炭化物を形成し、焼戻し温度を高めて耐水素環境脆化特性を向上させるのに有効な元素である。この観点からは、少なくとも0.05%の含有が必要である。一方、0.30%を超えて含有させても焼入れ時に固溶するVは増加せず、焼戻し温度を高める効果は飽和する。従って、Vの含有量を0.05〜0.30%とした。望ましい下限は、0.08%である。また、望ましい上限は、0.25%である。
O(酸素):0.01%以下
O(酸素)は、不純物として鋼中に存在し、その含有量が0.01%を超えると粗大な酸化物を形成して靭性等の機械的特性を低下させる。従って、O(酸素)は0.01%以下に制限することとした。
N(窒素):0.03%以下、但し、鋼中に0.0003〜0.003%Bが含まれる場合は、0.010%以下
Nは、不純物として鋼中に存在する元素であり、Cとともに、Al、または更に、Nb、TiまたはZrと炭窒化物を形成し、ピニング効果により細粒化して、靭性等の機械的特性を改善する。この効果は、N含有量が微量でも発揮されるが、特に、0.01%以上の場合に顕著となる。しかし、0.03%を超えてNを含有させても上記の効果は飽和する。従って、N含有量を0.03%以下とした。
ただし、Bを含有させて焼入れ性を高めた鋼においては、B窒化物(BN)が生成すると、焼入れ性の向上が不十分となることから、N含有量を0.010%以下に制限する必要がある。また、NをTi窒化物またはZr窒化物として固定するのが望ましい。
本発明の低合金鋼は、上記の元素を含み残部はFeおよび不純物からなるものであるが、機械的特性を向上させる目的で、0.0003〜0.003%のBのほか、0.2〜2.0%のCr、0.002〜0.1%のNb、0.002〜0.1%のTi、0.002〜0.1%のZrおよび0.0003〜0.01%のCaの中から選ばれた1種以上を含有させても良い。
B:0.0003〜0.003%
Bは、含有させなくても良いが、含有させれば、鋼の焼入れ性を向上させる。その効果は、0.0003%以上含有させた場合に顕著となる。一方、過剰に含有させると、粒界粗大炭化物M236(MはFe、Cr、Mo)の生成を促進し、靭性等の機械的特性を低下させる。従って、Bを含有させる場合の含有量は0.0003〜0.003%とするのが望ましい。なお、B添加の効果を充分に得るためには、BがB窒化物(BN)となるのを防止するため、N含有量を0.010%以下に制限する必要がある。また、NをTi窒化物またはZr窒化物として固定するのが望ましい。
Cr:0.2〜2.0%
Crは、含有させなくても良いが、含有させれば鋼の焼入れ性を向上させて強度を高める。その効果が顕著となるのは、Cr含有量が0.2%以上の場合である。しかし、過剰に含有させると粒界粗大炭化物M236(MはFe、Cr、Mo)の生成を促進し、靭性等の機械的特性を低下させる。従って、Crを含有させる場合の含有量は、0.2〜2.0%とするのが望ましい。
Nb:0.002〜0.1%
Ti:0.002〜0.1%
Zr:0.002〜0.1%
Nb、TiおよびZrは、いずれもCおよびNと結びつき、炭窒化物を形成し、ピニング効果により細粒化して、靭性等の機械的特性を改善するのに有効な元素である。この効果が顕著となるのは、それぞれ0.002%以上含有させた場合である。しかし、いずれもの元素も0.1%を超えて含有させても効果が飽和する。従って、これらの元素を含有させる場合のそれぞれの含有量は0.002〜0.1%とするのが望ましい。
Ca:0.0003〜0.01%
Caは、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、介在物の形状を改善して靭性等の機械的特性を改善する。この効果が顕著となるのは、その含有量が0.0003%以上の場合である。しかし、Caを0.01%を超えて含有させてもその効果は飽和する。従って、Caを含有させる場合には、その含有量を0.0003〜0.01%とするのが望ましい。
MoおよびVの含有量は、下記(1)式を満足することが望ましい。以下、その理由を説明する。
[Mo(%)]・[V(%)]0.2≧0.32 (1)
図1は、実施例における結果を、TS・K1H 0.75と[Mo(%)]・[V(%)]0.2との関係について整理した図である。なお、TS・KIH 0.75は、引張強さと耐水素環境脆化特性(実施例参照)とのバランスの指標であり、この値が大きいほど、引張強さおよび耐水素環境脆化特性の双方に優れていることを意味する。
図1に示すように、TS・K1H 0.75は、[Mo(%)]・[V(%)]0.2が0.2を超えた付近から急激に上昇し、[Mo(%)]・[V(%)]0.2が0.32で20000となり、更に、[Mo(%)]・[V(%)]0.2が0.4で25000に到達し、ほぼ飽和する。従って、引張強さと耐水素環境脆化特性とのバランスは、[Mo(%)]・[V(%)]0.2が3.2以上、即ち、上記(1)式を満たす場合に良好となる。なお、[Mo(%)]・[V(%)]0.2は、0.4以上、即ち、下記の(1a)式を満たすことが望ましい。
[Mo(%)]・[V(%)]0.2≧0.4 (1a)
(b)製造方法
鋼材の製造方法に関しては、特に制限はない。通常の方法で鋼塊を製造後、熱間鍛造、熱間圧延などの方法で製造すれば良い。後段の実施例では、板材を用いた試験結果を述べたが、板材を素材とした高圧水素用容器に限られず、例えば、継目無鋼管を素材とした高圧水素用容器の場合も同様に、継目無鋼管の製造において通常採用される方法に従って製造すれば良い。
鋼の熱処理としては、良好な耐水素環境脆化特性を得るためには、焼入れ焼戻し処理を実施するのが望ましい。焼入れは、Cr、Mo、Vなどの炭化物生成元素を充分に固溶させるため、900℃以上の温度とするのが望ましい。また、焼入れ時の冷却は、C(炭素)含有量が0.3%以下の場合には水冷、C含有量が0.3%を超える場合には焼割れを防止するために、油冷またはシャワー冷却を採用するのがよい。
以下、本発明の効果を検証した実施例を説明する。
表1に示す化学組成の鋼を溶製し、これらの溶製鋼を40mmの厚さのブロックに熱間鍛造し、このブロックを厚さ12mmまで熱間圧延を行って板材とした。これらの板材に880〜920℃で保持後水冷または油冷の焼入れ、その後500〜720℃で保持後放冷の焼戻し処理を行い、引張強さを800〜1200MPaに調整し、供試材とした。これらの供試材を、引張試験および下記の水素環境脆化特性試験に供した。
<水素環境脆化特性試験>
試験は、非特許文献1の「2.供試鋼と実験方法」の「2.2 高圧水素中での破壊試験方法」に基づいて行った。但し、試験片に関しては、NACE(米国石油協会)のTM0177−2005 D法に規定されるDCB (Double Cantilever Beam)試験片を用いた。試験環境は、常温の45MPaの高圧水素ガス環境であり、この環境中にくさびを挿入したDCB試験を336時間封入しKIH値を測定した。KIH値に関しては、NACE TM0177−2005 D法に規定される計算式に従い、試験後試験片のアームを常温大気中で引張試験を行うことにより求めたくさび開放応力と、進展した亀裂長さの実測値に基づき計算した。
Figure 0004251229
Figure 0004251229
表2に示すように、本発明例である試験番号1〜16は、いずれもKIH値が60以上である。これらの鋼は、従来のJIS−SCM435やJIS−SCM440鋼よりもMo含有量が高く、かつVを添加しているため、微細なV−Mo系炭化物が多く生成している。この微細炭化物が高温焼戻しに寄与し、セメンタイトなどの粒界炭化物を球状化・均一分散させていることが、耐水素環境脆化特性を改善したと推定される。また、これらのV−Mo系微細炭化物は、水素のトラップサイトとしても作用することで、耐水素環境脆化特性の改善に寄与すると考えられる。表2中の試験番号5、8、11は引張強さを1000MPa以上にして評価を行った結果であるが、それでも比較例である試験番号17〜20よりも高いKIH値を示していた。
一方、比較例である試験番号17〜20は、引張強さが900MPa未満であるにも関わらず、本発明鋼に比べるとKIH値は低く、水素環境脆化の危険性を有する。特に、Vが添加されていない鋼N(JIS−SCM435)および鋼Oを用いた試験番号17および18では、焼戻し温度が低く、充分な耐水素環境脆化特性が得られなかった。Vは添加されているが、Mo含有量が低い鋼PおよびQを用いた試験番号19および20では、充分な耐水素環境脆化特性が得られなかった。
図2および3は、実施例の結果を示す図であり、図2は、KIHとTSとの関係について整理した図であり、図3は、VおよびMoの含有量の関係について整理した図である。なお、図2および3において、○は試験番号1〜14(本発明例)、△は試験番号15および16(本発明例)、×は試験番号17〜20(比較例)の例を示す。また、図3に示した曲線は、[Mo(%)]・[V(%)]0.2=0.32を満足する曲線である。図2および3に示すように、(1)式を満たす本発明例においては、比較例に比べて、引張強さおよび耐水素環境脆化特性が共に高い水準にある。
本発明の低合金鋼は、高圧水素ガス環境において、引張強さが900MPa以上という高強度でありながら、耐水素環境脆化特性に優れるので、特に、高圧水素用容器に使用する鋼材として最適である。
実施例における結果をTS・K1H 0.75と[Mo(%)]・[V(%)]0.2との関係について整理した図 実施例の結果をKIHとTSとの関係について整理した図 実施例の結果をVおよびMoの含有量の関係について整理した図

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.15〜0.60%、
    Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.05〜3.0%、
    P:0.025%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.005〜0.10%、
    Mo:0.5〜3.0%、
    V:0.05〜0.30%、
    O(酸素):0.01%以下および
    N:0.03%以下
    を含有し、残部Fe及び不純物であり、かつ引張強さが900MPa以上であることを特徴とする高圧水素ガス環境用低合金鋼。
  2. 質量%で、
    C:0.15〜0.60%、
    Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.05〜3.0%、
    P:0.025%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.005〜0.10%、
    Mo:0.5〜3.0%、
    V:0.05〜0.30%、
    O(酸素):0.01%以下、
    B:0.0003〜0.003%および
    N:0.010%以下
    を含有し、残部Fe及び不純物であり、かつ引張強さが900MPa以上であることを特徴とする高圧水素ガス環境用低合金鋼。
  3. 質量%で、Feの一部に代えて、
    Cr:0.2〜2.0%、
    Nb:0.002〜0.1%、
    Ti:0.002〜0.1%、
    Zr:0.002〜0.1%および
    Ca:0.0003〜0.01%
    の中から選ばれた1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高圧水素ガス環境用低合金鋼。
  4. MoおよびVの含有量が下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の高圧水素ガス環境用低合金鋼。
    [Mo(%)]・[V(%)]0.2≧0.32 (1)
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載の高圧水素ガス環境用低合金鋼からなる高圧水素用容器。
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