JP7349776B2 - 高圧水素容器、及び、高圧水素用鋼材 - Google Patents

高圧水素容器、及び、高圧水素用鋼材 Download PDF

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Description

本発明は、高圧水素容器、及び、高圧水素用鋼材に関し、さらに詳しくは、水素を燃料として走行する燃料電池自動車や、水素ガスを燃料電池自動車に供給する水素ステーションに利用可能な高圧水素容器、及び、高圧水素用鋼材に関する。
近年、水素を燃料として走行する燃料電池自動車の開発、及び、燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションの実用化が進められている。水素ステーションに設置される高圧水素容器には、高圧の水素ガスが貯蔵される。そのため、高圧水素容器に利用される鋼材には、高圧の水素ガスに耐え得る高強度を有し、かつ、水素脆化を起こしにくいことが要求される。従来の45MPaの高圧水素ガスの利用を想定した水素ステーションの高圧水素容器に用いられる鋼材には、マルテンサイト及びベイナイトのBCC(体心立方格子)構造を主体とするSCM435に相当する鋼材が使用されている。また、大型厚肉の高圧水素容器には、Cr及びMoに加えてさらに1.6~2.0質量%のNiを含有するSNCM439に相当する鋼材が使用されている。
最近では、燃料電池自動車の航続距離をガソリン車と同等にすることを目的として、これまでの45MPaよりも高圧である70MPaの水素を充填可能な高圧水素容器を搭載した自動車(以下、「70MPa級燃料電池自動車」という。)が要望されている。そして、70MPa級燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションには、従前よりも高圧の水素を貯蔵可能な高圧水素容器が要求されている。
ところで、高圧水素容器の構造は、各規格(ISO11439、ANSI/NGV、高圧ガス保安法、容器保安規則例示基準等)により、以下の4つのタイプに区分されている。
・タイプI :金属容器
・タイプII :金属・フープ巻き容器
・タイプIII:金属・全周巻き容器
・タイプIV :非金属・全周巻き容器
70MPa級燃料電池自動車に搭載される高圧水素容器、及び、70MPa級燃料電池自動車に対応するために水素ステーションに設置される高圧水素容器には、高強度及び耐水素脆性の観点から、タイプIIIの複合容器であって内面の金属を炭素繊維で強化したもの、又は、タイプIVの複合容器であって内面の非金属(プラスチック)を炭素繊維で強化したもの、が使用されている。そして、タイプIIIの複合容器の内面金属には、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316系)、又は、アルミニウム合金が使用されている。
しかしながら、タイプIII及びタイプIVの複合容器は非常に高価である。そのため、70MPa以上の高圧水素ガス環境に使用される高圧水素用容器としては、タイプIIIやタイプIVの複合容器よりも安価なタイプIの金属容器が望まれている。
そこで、高い強度を有し、かつ、優れた耐水素脆性を有し、70MPaの高圧水素ガス環境に利用可能な高圧水素容器及び鋼材が、特許文献1(特開2018-012856号公報)、特許文献2(特開2018-012855号公報)、特許文献3(特開2016-172909号公報)、及び、特許文献4(特開2009-074122号公報)に提案されている。
特許文献1に開示された高圧水素用低合金鋼材は、質量%で、C:0.20~0.60%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.35~3.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~0.10%、B:0.0003~0.01%、Ti:0~0.5%、Zr:0~1.0%、Hf:0~2.0%、O:0.005%以下、N:0.008%以下、Cr:0~5.0%、Mo:0~1.5%、V:0~1.0%、W:0~3.0%、Nb:0~0.1%、Ta:0~0.2%、Ni:0~5.0%、Cu:0~3.0%、Co:0~3.0%、Ca:0~0.01%、Mg:0~0.01%、REM:0~0.50%、残部:Feおよび不純物であり、かつ、下記で表されるFn1が0.008~0.05、および、下記で表されるFn2が、0.0003以上である、化学組成を有し、粒径10μm以上の炭窒化物系介在物の個数が断面観察で10個/100mm以下であり、耐久比が0.45以上である。ここで、Fn1=Ti+0.5Zr+0.25Hfであり、Fn2=B-(11/14)N+(11/48)Ti+(11/91)Zr+(11/178)Hfである。特許文献1では、粒径10μm以上の粗大な炭窒化物系介在物の個数を抑えることで、耐久比を高めることができる、と記載されている。
特許文献2に開示された高圧水素用低合金鋼材は、質量%で、C:0.20~0.60%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.35~3.0%、P:0.025%以下、
S:0.010%以下、Al:0.005~0.10%、O:0.005%以下、N:0.008%以下、Cr:0~5.0%、Mo:0~1.5%、V:0~1.0%、W:0~3.0%、Nb:0~0.1%、Ti:0~0.1%、Zr:0~0.2%、Hf:0~0.2%、Ta:0~0.2%、Ni:0~5.0%、Cu:0~3.0%、Co:0~3.0%、B:0~0.01%、Ca:0~0.01%、Mg:0~0.01%、REM:0~0.50%、残部:Feおよび不純物である、化学組成を有し、粒径20μm以上の硫化物系介在物および酸化物系介在物の合計個数が断面観察で10個/100mm以下である。特許文献2では、粒径20μm以上の粗大な硫化物系介在物及び酸化物系介在物の個数を抑えることにより、疲労破壊を抑制し、耐久比を高めることができる、と記載されている。
特許文献3に開示された高圧水素容器は、質量%で、C:0.27~0.38%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.35~2.50%、B:0.0003~0.003%、Al:0.005~0.10%、Cr:0~2.15%、Mo:0~0.30%、Ti:0~0.02%、Zr:0~0.04%、Hf:0~0.05%、V:0~0.03%、W:0~0.4%、Nb:0~0.05%、Ta:0~0.05%、Ni:0~1.0%、Cu:0~1.0%、Co:0~1.0%、Ca:0~0.01%、Mg:0~0.01%、REM:0~0.20%、残部:Feおよび不純物であり、不純物としてのP、S、OおよびNが、P:0.025%以下、S:0.01%以下、O:0.01%以下、N:0.01%以下であり、かつ、Mn+Cr+Moで表されるFn1が、1.50≦Fn1≦2.50を満足する化学組成を有し、旧オーステナイト結晶粒がASTM粒度番号9.0以上であり、厚さが30mm以上の部位における内外面の硬度差が、ロックウェルC硬さで5.0以下であり、かつ引張強さが850MPa以上である。特許文献2では、Mn、Cr及びMo量を調整することにより、高圧水素容器の厚さ方向の焼入れを均一にして、耐水素ガス脆化特性を高める、と記載されている。
特許文献4に開示された高圧水素ガス環境用低合金鋼は、質量%で、C:0.15~0.60%、Si:0.05~0.5%、Mn:0.05~3.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~0.10%、Mo:0.5~3.0%、V:0.05~0.30%、O(酸素):0.01%以下およびN:0.03%以下を含有し、残部Fe及び不純物であり、かつ引張強さが900MPa以上である。特許文献4では、Vを含有し、かつ、Mo含有量を高めることにより、耐水素環境脆化特性を高めることができる、と記載されている。
特開2018-012856号公報 特開2018-012855号公報 特開2016-172909号公報 特開2009-074122号公報
上述の特許文献1~4に提案された鋼材は、いずれも、70MPaの高圧水素ガス環境において、高い強度と優れた耐水素脆性を有する。しかしながら、最近では、70MPaよりもさらに高い90MPaの高圧水素ガス環境に使用可能な高圧水素容器が要望されている。このような高圧水素ガス環境に利用される高圧水素容器には、高い強度だけでなく、高圧水素ガス環境において疲労き裂が発生しても、その疲労き裂の進展を抑制できる耐疲労き裂進展特性も求められる。
本開示の目的は、高い強度を有し、かつ、高圧水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性を有する高圧水素容器、及び、高圧水素用鋼材を提供することである。
本開示による高圧水素容器は、筒状の胴部と、一対の蓋部とを備える。蓋部は、胴部の両端部に配置され、胴部とつながっており、胴部を密閉可能である。
胴部及び/又は蓋部は、質量%で、C:0.20~0.50%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.05~1.00%、P:0.025%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005~0.050%未満、Cr:0.30~1.50%、Mo:0.15~1.50%、Ti:0.002~0.050%、B:0.0001~0.0050%、N:0.0070%未満、O:0.0050%未満、V:0~0.30%、Nb:0~0.100%、W:0~1.00%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Co:0~1.00%、Ni:0~0.50%、及び、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、固溶Cを0.010~0.050質量%含有し、引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上である。
本開示による高圧水素用鋼材は、質量%で、C:0.20~0.50%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.05~1.00%、P:0.025%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005~0.050%未満、Cr:0.30~1.50%、Mo:0.15~1.50%、Ti:0.002~0.050%、B:0.0001~0.0050%、N:0.0070%未満、O:0.0050%未満、V:0~0.30%、Nb:0~0.100%、W:0~1.00%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Co:0~1.00%、Ni:0~0.50%、及び、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、固溶Cを0.010~0.050質量%含有し、引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上であり、90MPaの高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる。
本開示による高圧水素容器は、高強度を有し、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる。本開示による高圧水素用鋼材は、高強度を有し、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる。
図1は、鋼材中の固溶C量と高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性との関係を示す図である。 図2は、本実施形態による高圧水素容器の中心軸を含む面での断面図(縦断面図)である。 図3は、図2と異なる形状の高圧水素容器の縦断面図である。 図4は、図2及び図3と異なる形状の高圧水素容器の縦断面図である。 図5Aは、耐疲労き裂進展測定を評価するための疲労試験に用いられるCT試験片の側面図及び正面図である。 図5Bは、図5Aと異なる寸法の、耐疲労き裂進展測定を評価するための疲労試験に用いられるCT試験片の側面図及び正面図である。
本発明者らは、高強度を有し、かつ、90MPaの高圧水素ガス環境でも優れた耐疲労き裂進展特性を有する高圧水素容器、及び、高圧水素容器に利用可能な高圧水素用鋼材について検討を行った。その結果、次の知見を得た。
鋼材中の転位密度を高めれば、鋼材の引張強度は高まる。一方、転位は水素を吸蔵する可能性がある。そのため、鋼材の転位密度が増加すれば、鋼材が吸蔵する水素量も増加する可能性がある。転位密度を高めた結果、鋼材中の水素濃度が高まれば、高強度は得られても、高圧水素ガス環境での鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、高強度と、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性とを両立させるためには、転位密度を利用した高強度化は、一見すると好ましくないように思える。
しかしながら、本発明者らは、鋼材中の固溶C量を調整することにより、転位密度を利用して引張強度を900~1100MPaまで高めつつ、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性も高めることができることを見出した。この理由については定かではないが、次の理由が考えられる。
転位には、可動転位と不動転位とが存在する。鋼材中の固溶Cは、可動転位を固定して不動転位にすると考えられる。可動転位が固溶Cによって不動化されれば、転位の消滅を抑制し、転位密度の低下を抑制することができる。この場合、鋼材の引張強度を維持することができる。
さらに、固溶Cにより形成された不動転位は、可動転位よりも鋼材中に吸蔵される水素量を低減すると考えられる。したがって、固溶Cにより形成された不動転位密度を高めることにより、鋼材中に吸蔵される水素量が低減されると考えられる。その結果、鋼材の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性を高めることができる。この機構により、引張強度を900~1100MPaとしても、高圧水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られると考えられる。
以上のとおり、本発明者らは、高圧水素用鋼材中の固溶C量を適切に調整すれば、引張強度を900~1100MPaとしつつ、90MPaの高圧水素ガス環境でも優れた耐疲労き裂進展特性が得られると考えた。そこで、本発明者らは、質量%で、C:0.20~0.50%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.05~1.00%、P:0.025%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005~0.050%未満、Cr:0.30~1.50%、Mo:0.15~1.50%、Ti:0.002~0.050%、B:0.0001~0.0050%、N:0.0070%未満、O:0.0050%未満、V:0~0.30%、Nb:0~0.100%、W:0~1.00%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Co:0~1.00%、Ni:0~0.50%、及び、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼材を用いて、固溶C量と、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性とについて、調査した。
[固溶C量と高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性との関係]
図1は、後述の実施例の各試験番号の固溶C量と高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性との関係を示す図である。
本明細書では、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性を、ASTM E647に準拠したCT(Compact Tension)試験片を用いて90MPaの水素ガス中において疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN1(m/cycle)の、ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて常温(25℃)大気中において疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN2(m/cycle)に対する比(以下、疲労き裂進展速度比という)で評価した。つまり、疲労き裂進展速度比は、次の式(A)で定義される。
疲労き裂進展速度比=(da/dN1)/(da/dN2) (A)
疲労き裂進展速度比が小さい場合、90MPaの水素ガス中での疲労き裂進展速度da/dN1が、常温大気中での疲労き裂進展速度da/dN2とそれほど大きく変わらないことを意味する。つまり、高圧水素ガス環境において、耐疲労き裂進展特性に優れることを意味する。一方、疲労き裂進展速度比が大きい場合、90MPaの水素ガス中での疲労き裂進展速度da/dN1が、常温大気中での疲労き裂進展速度da/dN2よりも大きく、高圧水素ガス環境において、疲労き裂が進展しやすく、耐疲労き裂進展特性が低いことを意味する。
後述する実施例のうち、本実施形態の化学組成の範囲を満たす鋼材から得られた固溶C量(質量%)及び疲労き裂進展速度比を用いて、図1を作成した。
図1でプロットされた鋼材の引張強度TSはいずれも、900~1100MPaであった。図1において、疲労き裂進展速度比が100.0以下である場合、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れると判断した。
図1を参照して、上記化学組成を満たす鋼材において、固溶C量が0.010質量%未満の場合、疲労き裂進展速度比が100.0を超え、高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性が極めて低かった。しかしながら、固溶C量が0.010質量%以上の場合、疲労き裂進展速度比が100.0以下となり、高圧水素用鋼材は高圧水素ガス環境において、極めて優れた耐疲労き裂進展特性を示した。そして、固溶C量が0.050質量%を超えれば、疲労き裂進展速度比が再び急上昇して、100.0を超えることが明らかとなった。
固溶C量が0.050質量%を超えた場合に高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性が低くなる理由については明らかになっていない。しかしながら、本実施形態の化学組成、及び、引張強度TSが900~1100MPaの範囲では、固溶C量が0.010~0.050質量%であれば、高圧水素ガス環境において、極めて優れた耐疲労き裂進展特性が得られることが判明した。
以上のとおり、上述の化学組成を有する高圧水素用鋼材において、引張強度を900~1100MPaとし、さらに、固溶C量を0.010~0.050質量%とすることにより、疲労き裂進展速度比が100.0以下となり、高圧水素ガス環境において、極めて優れた耐疲労き裂進展特性を示す。
なお、固溶C量を適正に制御して、可動転位を抑制するために、鋼材のミクロ組織は、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイト主体の組織とする。焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイト主体とは、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率の合計が90%以上であることを意味する。鋼材のミクロ組織が焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイト主体であれば、本実施形態による高圧水素用鋼材において、引張強度TSは900~1100MPaになり、降伏比YR(引張強度TSに対する降伏強度YSの比、すなわち、降伏比YR(%)=降伏強度YS/引張強度TS)は85%以上となる。したがって、高圧水素容器の胴部及び/又は蓋部に本実施形態の高圧水素用鋼材を適用すれば、高圧水素容器が高い強度を有し、かつ、高圧水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性を有する。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による高圧水素容器は、筒状の胴部と、一対の蓋部とを備える。蓋部は、胴部の両端部に配置され、胴部とつながっており、胴部を密閉可能である。
胴部及び/又は蓋部は、質量%で、C:0.20~0.50%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.05~1.00%、P:0.025%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005~0.050%未満、Cr:0.30~1.50%、Mo:0.15~1.50%、Ti:0.002~0.050%、B:0.0001~0.0050%、N:0.0070%未満、O:0.0050%未満、V:0~0.30%、Nb:0~0.100%、W:0~1.00%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Co:0~1.00%、Ni:0~0.50%、及び、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、固溶Cを0.010~0.050質量%含有し、引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上である。
上記化学組成は、V:0.01~0.30%、Nb:0.002~0.100%、及び、W:0.02~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記化学組成は、Ca:0.0001~0.0100%、Mg:0.0001~0.0100%、Zr:0.0001~0.0100%、及び、希土類元素:0.0001~0.0100%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記化学組成は、Co:0.02~1.00%を含有してもよい。
上記化学組成は、Ni:0.02~0.50%、及び、Cu:0.01~0.50%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本実施形態による高圧水素用鋼材は、質量%で、C:0.20~0.50%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.05~1.00%、P:0.025%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005~0.050%未満、Cr:0.30~1.50%、Mo:0.15~1.50%、Ti:0.002~0.050%、B:0.0001~0.0050%、N:0.0070%未満、O:0.0050%未満、V:0~0.30%、Nb:0~0.100%、W:0~1.00%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Co:0~1.00%、Ni:0~0.50%、及び、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、固溶Cを0.010~0.050質量%含有し、引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上であり、90MPaの高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる。
上述の「90MPaの高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる」とは、ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて90MPaの水素ガス中において疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN1(m/cycle)の、ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて常温(25℃)大気中において疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN2(m/cycle)に対する比が、100.0以下であることを意味する。つまり、式(A)で定義される疲労き裂進展速度比が100.0以下であることを意味する。
疲労き裂進展速度比=(da/dN1)/(da/dN2) (A)
本実施形態による高圧水素用鋼材は、上述の高圧水素容器に適用可能である。本実施形態による高圧水素用鋼材はさらに、燃料電池自動車や水素ステーション等に適用される、高圧水素用の配管や、高圧水素用のバルブ、高圧水素用の継手等にも適用できる。つまり、高圧水素用鋼材は、高圧水素用構造物に広く適用可能である。
なお、本実施形態の高圧水素容器、及び、高圧水素用鋼材は、上述のとおり、90MPaの高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れるため、90MPa以下の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性も当然に優れる。具体的には、45MPa以上の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性にも優れ、さらに、70MPa以上の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性にも優れる。
上記固溶C量は、鋼材中の炭化物中のC量(質量%)の、鋼材の化学組成のC含有量からの差分を意味する。鋼材中の炭化物中のC量は、鋼材に対して抽出残渣分析を実施して残渣として得られた炭化物(セメンタイト及びMC型炭化物)中のFe濃度<Fe>a、Cr濃度<Cr>a、Mn濃度<Mn>a、Mo濃度<Mo>a、V濃度<V>a、Nb濃度<Nb>aと、抽出レプリカ法により得られたレプリカ膜を透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以下、「TEM」ともいう。)観察することにより特定されたセメンタイトに対してエネルギー分散型X線分析法(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:以下、「EDS」ともいう。)による点分析を実施して得られたセメンタイト中のFe濃度<Fe>b、Cr濃度<Cr>b、Mn濃度<Mn>b、Mo濃度<Mo>bとを用いて、式(1)~式(5)により求める。
<Mo>c=(<Fe>a+<Cr>a+<Mn>a)×<Mo>b/(<Fe>b+<Cr>b+<Mn>b) (1)
<Mo>d=<Mo>a-<Mo>c (2)
<C>a=(<Fe>a/55.85+<Cr>a/52+<Mn>a/53.94+<Mo>c/95.9)/3×12 (3)
<C>b=(<V>a/50.94+<Mo>d/95.9+<Nb>a/92.9)×12 (4)
(固溶C量)=<C>-(<C>a+<C>b) (5)
なお、本明細書において、セメンタイトとは、Fe含有量が50質量%以上の炭化物を意味する。
以下、本実施形態による高圧水素容器及び高圧水素用鋼材について詳述する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[高圧水素容器の構成]
図2は、本実施形態による高圧水素容器の中心軸を含む断面図である。図2を参照して、高圧水素容器1は、胴部2と、一対の蓋部3A、3Bとを備える。
胴部2は、筒状の部材である。胴部2には高圧の水素ガスが貯蔵される。胴部は、好ましくは、円筒形状であり、胴部の軸方向に垂直な断面(以下、横断形状という)は円環状である。胴部の内面の横断形状は円形状であるのが好ましい。胴部2の表面(内面)は鏡面加工されてもよい。この場合、水素脆化によるき裂がさらに進展しにくくなる。
一対の蓋部3A及び3Bは、胴部2の両端部に配置され、胴部2の両端部とつながっており、胴部2を密閉する。具体的には、図2を参照して、胴部2は、端部2Aと、端部2Bとを含む。端部2Aは、胴部2を軸方向に3等分した場合の、図2での胴部2の左端を含む区域(長手方向に1/3の区域)である。端部2Bは、胴部2を軸方向に3等分した場合の、端部2Aと反対側であって、図2での胴部2の右端を含む区域(長手方向に1/3の区域)である。
蓋部3Aは、胴部2の端部2Aに配置され、端部2Aとつながっている。蓋部3Aは、溶接により端部2Aにつながっていてもよい。また、ボルト等の締結部材を用いて、端部2Aに固定されてもよい。蓋部3Aの端部2Aに対する固定方法は、特に限定されず、高圧水素容器1における周知の固定方法でよい。
蓋部3Bは、胴部2の端部2Bに配置され、端部2Bとつながっている。蓋部3Bは、溶接により端部2Bにつながっていてもよい。また、締結部材を用いて、端部2Bに固定されてもよい。蓋部3Bの端部2Bに対する固定方法は、特に限定されず、高圧水素容器1における周知の固定方法でよい。
図2では、蓋部3Aは、端部2Aの端(胴部2の左端)に固定され、蓋部3Bは、端部2Bの端(胴部2の右端)に固定されている。しかしながら、蓋部3A及び3Bの端部2A及び2Bでの固定位置は、図2に限定されない。たとえば、図3に示すとおり、蓋部3Aが、端部2Aの端よりも胴部2の中央寄りの位置で固定されてもよい。この場合、蓋部3Aは、端部2Aの内面とつながり、端部2Aの内面で固定される。同様に、蓋部3Bが、端部2Bの端よりも胴部2の中央寄りの位置で固定されてもよい。この場合、蓋部3Bは、端部2Bの内面とつながり、端部2Bの内面で固定される。
また、図2及び図3では、蓋部3A及び3Bは円柱状又は円板状であるが、蓋部3A及び3Bの形状は特に限定されない。たとえば、図4に示すとおり、蓋部3A及び3Bが湾曲した形状(鏡形状)を有していてもよい。
なお、高圧水素容器1は、蓋部3A又は3Bに、図示しない口金を備えてもよい。また、高圧水素容器1はさらに、図示しないフープを備えてもよい。フープを備える場合、フープは、胴部2及び蓋部3A、3Bの一部又は全周に巻きつけられている。巻き付け方法はフープ巻きであってもよいし、ヘリカル巻きであってもよい。フープはたとえば、炭素繊維である。
高圧水素容器1の胴部2の肉厚は特に限定されない。胴部2の好ましい肉厚は20mm以上であり、さらに好ましくは25mm以上である。胴部2の好ましい肉厚の上限は特に限定されないが、たとえば55mmである。蓋部3A及び3Bの好ましい厚さは20mm以上であり、さらに好ましくは50mm以上である。蓋部3A及び3Bの好ましい厚さの上限は特に限定されないが、たとえば200mmである。
高圧水素容器1に高圧の水素ガスを貯蔵する場合、胴部2では、高圧水素ガスにより、内部から外部に向かって径方向の力を受ける。したがって、胴部2は高い引張強度だけでなく、優れた耐疲労き裂進展特性を有する方が好ましい。また、蓋部3A及び3Bにおいても、内部の高圧水素ガスから圧力を受ける。したがって、蓋部3A及び3Bは高い引張強度だけでなく、優れた耐疲労き裂進展特性を有する方が好ましい。そこで、本実施形態の高圧水素容器1において、胴部2及び/又は蓋部3A、3Bを構成する鋼材として、以下に説明する高圧水素用鋼材が用いられる。
[化学組成]
本実施形態による高圧水素用鋼材は、上述のとおり、高圧水素容器の胴部及び/又は蓋部に適用可能である。本実施形態の高圧水素用鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
C:0.20~0.50%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Cはさらに、製造工程中の焼戻し時において、炭化物の球状化を促進し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。炭化物が分散されればさらに、鋼材の強度が高まる。C含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、鋼材の靭性が低下し、焼割れが発生しやすくなる。したがって、C含有量は0.20~0.50%である。C含有量の好ましい下限は0.23%であり、より好ましくは0.25%である。C含有量の好ましい上限は0.45%であり、より好ましくは0.40%である。
Si:0.05~0.50%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Si含有量は0.05~0.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.15%であり、より好ましくは0.20%である。Si含有量の好ましい上限は0.45%であり、より好ましくは0.40%である。
Mn:0.05~1.00%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼材の焼入れ性を高める。Mn含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、Mnは、P及びS等の不純物とともに、粒界に偏析する。この場合、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Mn含有量は0.05~1.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.25%であり、より好ましくは0.30%である。Mn含有量の好ましい上限は0.90%であり、より好ましくは0.80%である。
P:0.025%以下
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量は0%超である。Pは、粒界に偏析して鋼材の耐疲労き裂進展特性を低下する。したがって、P含有量は0.025%以下である。P含有量の好ましい上限は0.020%であり、より好ましくは0.015%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
S:0.0200%以下
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量は0%超である。Sは、粒界に偏析して鋼材の耐疲労き裂進展特性を低下する。したがって、S含有量は0.0200%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0050%であり、より好ましくは0.0030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Al:0.005~0.050%未満
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が低すぎれば、この効果が得られず、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。一方、Al含有量が高すぎれば、粗大な酸化物系介在物が生成して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Al含有量は0.005~0.050%未満である。Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、より好ましくは0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、より好ましくは0.035%である。本明細書にいう「Al」含有量は「酸可溶Al」、つまり、「sol.Al」の含有量を意味する。
Cr:0.30~1.50%
クロム(Cr)は、鋼材の焼入れ性を高める。Crはさらに、鋼材の焼戻し軟化抵抗を高め、高温焼戻しを可能にする。その結果、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Cr含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、鋼材の靭性及び耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Cr含有量は0.30~1.50%である。Cr含有量の好ましい下限は0.35%であり、より好ましくは0.40%である。Cr含有量の好ましい上限は1.30%である。
Mo:0.15~1.50%
モリブデン(Mo)は、鋼材の焼入れ性を高める。Moはさらに、微細な炭化物を生成し、鋼材の焼戻し軟化抵抗を高める。その結果、Moは、高温焼戻しにより鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Mo含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、Mo含有量は0.15~1.50%である。Mo含有量の好ましい下限は0.25%であり、より好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.50%である。Mo含有量の好ましい上限は1.30%であり、より好ましくは1.20%であり、さらに好ましくは1.15%である。
Ti:0.002~0.050%
チタン(Ti)は窒化物を形成し、ピンニング効果により、結晶粒を微細化する。その結果、鋼材の強度が高まる。Ti含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Ti含有量が高すぎれば、Ti窒化物が粗大化して鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Ti含有量は0.002~0.050%である。Ti含有量の好ましい下限は0.003%であり、より好ましくは0.005%、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の好ましい上限は0.040%であり、より好ましくは0.030%である。
B:0.0001~0.0050%
ボロン(B)は鋼に固溶して鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。B含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、B含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が生成して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、B含有量は0.0001~0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0.0003%であり、より好ましくは0.0007%である。B含有量の好ましい上限は0.0030%であり、より好ましくは0.0020%である。
N:0.0070%未満
窒素(N)は不可避に含有される。すなわち、N含有量は0%超である。NはTiと結合して窒化物を形成し、ピンニング効果により、鋼材の結晶粒を微細化する。しかしながら、N含有量が高すぎれば、Nは粗大な窒化物を形成して、鋼材の耐疲労き裂進展特性を低下する。したがって、N含有量は0.0070%未満である。N含有量の好ましい上限は0.0065%であり、より好ましくは0.0060%である。上記効果をより有効に得るためのN含有量の好ましい下限は0.0005%であり、より好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
O:0.0050%未満
酸素(O)は不純物である。すなわち、O含有量は0%超である。Oは粗大な酸化物を形成し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を低下する。したがって、O含有量は0.0050%未満である。O含有量の好ましい上限は0.0040%であり、より好ましくは0.0030%、さらに好ましくは0.0020%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
本実施形態による高圧水素用鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、高圧水素用鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による高圧水素用鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
上述の高圧水素用鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V、Nb及びWからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、高圧水素用鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。
V:0~0.30%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、V含有量は0%であってもよい。Vが含有される場合、VはC又はNと結合して炭化物、窒化物、又は、炭窒化物(以下、「炭窒化物等」という)を形成する。炭窒化物等は、ピンニング効果により鋼材のサブ組織を微細化し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Vはさらに、焼戻し時に微細な炭化物を形成する。微細な炭化物は鋼材の焼戻し軟化抵抗を高め、鋼材の強度を高める。Vはさらに、球状のMC型炭化物となるため、針状のMC型炭化物の生成を抑制して、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Vが少しでも含有されれば、これらの効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、鋼材の靭性が低下する。したがって、V含有量は0~0.30%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。V含有量の好ましい上限は0.20%であり、より好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.12%である。
Nb:0~0.100%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Nb含有量は0%であってもよい。Nbが含有される場合、Nbは炭窒化物等を形成する。炭窒化物等はピンニング効果により鋼材のサブ組織を微細化し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Nbはさらに、球状のMC型炭化物となるため、針状のMC型炭化物の生成を抑制して、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Nbが少しでも含有されれば、これらの効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、炭窒化物等が過剰に生成して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Nb含有量は0~0.100%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.007%である。Nb含有量の好ましい上限は0.070%であり、より好ましくは0.050%、さらに好ましくは0.030%である。
W:0~1.00%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、W含有量は0%であってもよい。Wが含有される場合、Wは炭窒化物等の生成を促進し、炭窒化物等のピンニング効果により鋼材のサブ組織を微細化し、鋼材の耐水素脆性を高め、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。しかしながら、W含有量が高すぎれば、鋼材中に過剰な炭窒化物が生成して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、W含有量は0~1.00%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。W含有量の好ましい上限は0.60%であり、より好ましくは0.50%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、Zr、及び、希土類元素(REM)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。
Ca:0~0.0100%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ca含有量は0%であってもよい。Caが含有される場合、Caは、鋼材中の硫化物を微細化し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Caが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Ca含有量は0~0.0100%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0040%であり、より好ましくは0.0025%である。
Mg:0~0.0100%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Mg含有量は0%であってもよい。Mgが含有される場合、Mgは、鋼材中のSを硫化物として無害化し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Mgが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.0100%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0040%であり、より好ましくは0.0025%である。
Zr:0~0.0100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Zr含有量は0%であってもよい。Zrが含有される場合、Zrは鋼材中の硫化物を微細化し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。Zrが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化する。したがって、Zr含有量は0~0.0100%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Zr含有量の好ましい上限は0.0025%であり、より好ましくは0.0020%である。
希土類元素(REM):0~0.0100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、REM含有量は0%であってもよい。REMが含有される場合、REMは鋼材中の硫化物を微細化し、鋼材の耐疲労き裂進展特性を高める。REMはさらに、鋼材中のPと結合して、結晶粒界におけるPの偏析を抑制する。そのため、Pの偏析に起因した鋼材の耐疲労き裂進展特性の低下が抑制される。REMが少しでも含有されれば、これらの効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、REM含有量は0~0.0100%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%である。REM含有量の好ましい上限は0.0040%であり、より好ましくは0.0025%である。
本明細書におけるREMとは、原子番号39番のイットリウム(Y)、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)及び、アクチノイドである原子番号89番のアクチニウム(Ac)~103番のローレンシウム(Lr)からなる群から選択される1種以上の元素である。また、本明細書におけるREM含有量とは、これら元素の合計含有量である。
上記のCa、Mg、Zr及びREMからなる群から選択される2種以上を複合して含有する場合の含有量の合計は、0.0100%以下であることが好ましく、0.0050%以下であることがさらに好ましい。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Coを含有してもよい。
Co:0~1.00%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Co含有量は0%であってもよい。Coが含有される場合、Coは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Coが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Co含有量が高すぎれば、製造コストが大きく嵩む。したがって、Co含有量は0~1.00%である。Co含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Co含有量の好ましい上限は0.60%であり、より好ましくは0.50%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ni及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の焼入れ性を高める。
Ni:0~0.50%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ni含有量は0%であってもよい。Niが含有される場合、Niは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Niが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、局部的な腐食を促進させ、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Ni含有量は0~0.50%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Ni含有量の好ましい上限は0.20%であり、より好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.09%である。
Cu:0~0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Cu含有量は0%であってもよい。Cuが含有される場合、Cuは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、鋼材の焼入れ性が高くなりすぎ、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.50%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Cu含有量の好ましい上限は0.35%であり、より好ましくは0.25%である。
[固溶C量]
本実施形態による高圧水素用鋼材は、固溶Cを0.010~0.050質量%含有する。固溶C量が0.010質量%未満であれば、鋼材中の転位の固定が十分でなく、優れた耐疲労き裂進展特性が得られない。一方、固溶C量が0.050質量%を超えれば、かえって鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。したがって、固溶C量は0.010~0.050質量%である。固溶C量の好ましい下限は0.015質量%であり、より好ましくは0.020質量%である。
この範囲の固溶C量は、たとえば、焼戻し工程の保持時間を制御すること、及び、焼戻し工程の冷却速度を制御することで得られる。この理由は次のとおりである。
焼戻し工程において、焼戻しの保持時間が短い場合、焼戻しが不十分である。この場合、鋼材中の炭化物の析出が不足して、固溶C量が高くなりすぎる。その結果、鋼材の耐疲労き裂進展特性が低下する。一方、焼戻しの保持時間が長すぎる場合、これらの効果は飽和する。したがって、本実施形態においては、焼戻しの保持時間を10~180分とする。
焼戻し工程の焼戻し後の冷却において、冷却速度が遅い場合、固溶したCが温度低下中に再析出する。従来の鋼材の製造方法では、焼戻し後の冷却は放冷で行っていたため、冷却速度が遅かった。そのため、固溶C量はほぼ0質量%であった。そこで、本実施形態においては、焼戻し後の冷却速度を高めて、0.010~0.050質量%の固溶C量を得る。
冷却方法としてたとえば、焼戻し温度から鋼材を連続的に強制冷却し、鋼材の表面温度を連続的に低下する。このような連続冷却処理としてはたとえば、水槽に鋼材を浸漬して冷却する方法や、シャワー水冷、ミスト冷却あるいは強制風冷により鋼材を加速冷却する方法がある。
焼戻し後の冷却速度は、焼戻しされた鋼材の断面内で最も遅く冷却される部位(たとえば両表面を強制冷却する場合は、鋼材厚さの中央部)において測定する。具体的に、鋼材が鋼板である場合、鋼板の板厚中央部に装入したシース型の熱電対で測定した温度から、焼戻し後の冷却速度を決定できる。鋼材が鋼管である場合、鋼管の肉厚中央部に装入したシース型の熱電対で測定した温度から、焼戻し後の冷却速度を決定できる。また、鋼材の片側表面のみを強制冷却する場合、非接触型の赤外線型温度計で測定した、鋼材の非強制冷却側の表面温度から、焼戻し後の冷却速度を決定できる。
500℃から200℃の間は、Cの拡散が比較的早い温度域である。一方、焼戻し後の冷却速度が速すぎると、焼戻しの均熱保持後に固溶していたCがほとんど析出しない。その結果、固溶C量が過剰となる場合がある。したがって、本実施形態においては、500℃から200℃の間の平均冷却速度を5~100℃/秒とする。
本実施形態による鋼材は、この方法によれば、鋼材中の固溶C量を0.010~0.050質量%とすることができる。しかしながら、他の方法によって鋼材中の固溶C量を0.010~0.050質量%に調整してもよい。
[固溶C量の算出方法]
本実施形態において、固溶C量は、鋼材中の炭化物中のC量(質量%)の、鋼材の化学組成のC含有量からの差分を意味する。鋼材中の炭化物中のC量は、鋼材に対して抽出残渣分析を実施して残渣として得られた炭化物(セメンタイト及びMC型炭化物)中のFe濃度<Fe>a、Cr濃度<Cr>a、Mn濃度<Mn>a、Mo濃度<Mo>a、V濃度<V>a、Nb濃度<Nb>aと、抽出レプリカ法により得られたレプリカ膜をTEM観察することにより特定されたセメンタイトに対してEDSによる点分析を実施して得られたセメンタイト中のFe濃度<Fe>b、Cr濃度<Cr>b、Mn濃度<Mn>b、Mo濃度<Mo>bとを用いて、式(1)~式(5)により求める。
<Mo>c=(<Fe>a+<Cr>a+<Mn>a)×<Mo>b/(<Fe>b+<Cr>b+<Mn>b) (1)
<Mo>d=<Mo>a-<Mo>c (2)
<C>a=(<Fe>a/55.85+<Cr>a/52+<Mn>a/53.94+<Mo>c/95.9)/3×12 (3)
<C>b=(<V>a/50.94+<Mo>d/95.9+<Nb>a/92.9)×12 (4)
(固溶C量)=<C>-(<C>a+<C>b) (5)
なお、本明細書において、セメンタイトとは、Fe含有量が50質量%以上の炭化物を意味する。以下、固溶C量の算出方法を詳しく説明する。
[高圧水素用鋼材のC含有量の定量]
高圧水素用鋼材から切粉状の分析サンプルを採取する。鋼材が板材である場合、板厚中央部から分析サンプルを採取する。鋼材が鋼管である場合、肉厚中央部から分析サンプルを採取する。酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により、C含有量(質量%)を分析する。これを鋼材のC含有量(<C>)とする。
[炭化物として析出するC量(析出C量)の計算]
析出C量は、次の手順1~手順4により算出する。具体的には、手順1で抽出残渣分析を実施する。手順2でTEMを用いた抽出レプリカ法、及び、EDSによりセメンタイト中の元素濃度分析(以下「EDS分析」という)を実施する。手順3でMo含有量を調整する。手順4で析出C量を算出する。
[手順1.抽出残渣分析による、Fe、Cr、Mn、Mo、V、及び、Nb残渣量の定量]
手順1では、鋼材中の炭化物を残渣として捕捉し、残渣中のFe、Cr、Mn、Mo、V、及び、Nb含有量を決定する。ここで、「炭化物」とは、セメンタイト(MC型炭化物)及びMC型炭化物の総称である。具体的な手順は以下のとおりである。鋼材から6mm径で長さ50mmの円柱状試験片を採取する。鋼材が鋼板である場合、板厚中央部から、板厚中心が横断面の中心になるように円柱状試験片を採取する。鋼材が鋼管である場合、肉厚中央部から、肉厚中心が横断面の中心になるように円柱状試験片を採取する。採取した円柱状試験片の表面を、予備の電解研磨にて50μm程度研磨して新生面を得る。電解研磨した試験片を、電解液(10%アセチルアセトン+1%テトラアンモニウム+メタノール)で電解する。電解後の電解液を0.2μmのフィルターを通して残渣を捕捉する。得られた残渣を酸分解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析にてFe、Cr、Mn、Mo、V、及び、Nb濃度を質量%単位で定量する。この濃度をそれぞれ<Fe>a、<Cr>a、<Mn>a、<Mo>a、<V>a、及び、<Nb>aと定義する。
[手順2.抽出レプリカ法及びEDSによる、セメンタイト中のFe、Cr、Mn、及び、Mo含有量の定量]
手順2では、セメンタイト中のFe、Cr、Mn、及び、Mo含有量を決定する。具体的な手順は以下のとおりである。鋼材からミクロ試験片を切り出す。鋼材が鋼板である場合、板厚中央部からミクロ試験片を切り出す。鋼材が鋼管である場合、肉厚中央部からミクロ試験片を切り出す。切り出したミクロ試験片に対して鏡面研磨を行い、表面を仕上げる。試験片を3%ナイタール腐食液に10分浸漬し、表面を腐食する。腐食した表面をカーボン蒸着膜で覆う。蒸着膜で表面を覆った試験片を5%ナイタール腐食液に浸漬し、20分保持し、蒸着膜を剥離させる。剥離した蒸着膜をエタノールで洗浄した後、シートメッシュですくい取り、乾燥させる。この蒸着膜(レプリカ膜)を、TEMで観察し、20個のセメンタイトについてEDSによる点分析を行う。セメンタイト中の炭素を除く合金元素の合計を100%とした場合の、Fe、Cr、Mn、及び、Mo濃度を質量%単位で定量する。20個のセメンタイトについて濃度を定量し、それぞれの元素の算術平均値を<Fe>b、<Cr>b、<Mn>b、及び、<Mo>bと定義する。
[手順3.Mo量の調整]
続いて、炭化物中のMo濃度を求める。ここで、Fe、Cr、Mn、及び、Moはセメンタイトに濃化する。一方、V、Nb、及び、MoはMC型炭化物に濃化する。すなわち、Moは、焼戻しによりセメンタイト及びMC型炭化物の両方に濃化する。したがって、Mo量については、セメンタイト及びMC型炭化物について個別に算出する。なお、Vはセメンタイトにもその一部が濃化する場合がある。しかしながら、Vのセメンタイトへの濃化量は、MC型炭化物への濃化量と比較して無視できるほど小さい。したがって、固溶C量を求める上で、VはMC型炭化物のみに濃化するとみなす。
具体的に、セメンタイトとして析出するMoの量(<Mo>c)は、式(1)により算出する。
<Mo>c=(<Fe>a+<Cr>a+<Mn>a)×<Mo>b/(<Fe>b+<Cr>b+<Mn>b) (1)
一方、MC型炭化物として析出するMoの量(<Mo>d)は、式(2)により質量%単位で算出する。
<Mo>d=<Mo>a-<Mo>c (2)
[手順4.析出C量の算出]
析出C量は、セメンタイトとして析出するC量(<C>a)とMC型炭化物として析出するC量(<C>b)の合計として、算出される。<C>a及び<C>bはそれぞれ、式(3)及び式(4)により、質量%単位で算出される。なお、式(3)は、セメンタイトの構造がMC型(MはFe、Cr、Mn、及び、Moを含む)であることから導かれた式である。
<C>a=(<Fe>a/55.85+<Cr>a/52+<Mn>a/53.94+<Mo>c/95.9)/3×12 (3)
<C>b=(<V>a/50.94+<Mo>d/95.9+<Nb>a/92.9)×12 (4)
以上より、析出C量は、<C>a+<C>bである。
[固溶C量の計算]
固溶C量(以下、<C>cともいう)は、鋼材のC含有量(<C>)と、析出C量との差として、式(5)により質量%単位で算出する。
<C>c=<C>-(<C>a+<C>b) (5)
[ミクロ組織]
本実施形態による高圧水素用鋼材のミクロ組織は、主として焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトからなる。より具体的には、ミクロ組織は体積率で90%以上の焼戻しマルテンサイト及び/又は焼戻しベイナイトからなる。すなわち、ミクロ組織は、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率の合計が90%以上である。ミクロ組織の残部はたとえば、残留オーステナイト等である。上述の化学組成を有する鋼材のミクロ組織が、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率の合計が90%以上を含有すれば、引張強度TSが900~1100MPaとなり、及び、降伏比YRが85%以上となる。
本実施形態において、上述の化学組成を有する高圧水素用鋼材の引張強度TSが900~1100MPaであり、降伏比YRが85%以上であれば、ミクロ組織において、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率の合計が90%以上であるものとみなすことができる。好ましくは、ミクロ組織は焼戻しマルテンサイト及び/又は焼戻しベイナイトのみからなる。
なお、本実施形態の高圧水素用鋼材における焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率の合計をミクロ組織観察により求める場合、以下の方法で求めることができる。高圧水素用鋼材が鋼板である場合、板厚中央部から圧延方向10mm、板厚方向10mmの観察面を有する試験片を切り出す。高圧水素用鋼材が鋼管である場合、肉厚中央部から管軸方向10mm、肉厚方向8mmの観察面を有する試験片を切り出す。観察面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによる組織現出を行う。エッチングした観察面を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、二次電子像にて10視野観察する。視野面積は400μm(倍率5000倍)である。各視野において、コントラストから焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトを特定する。特定した焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの面積分率の合計を求める。本実施形態において、全ての視野で求めた、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの面積分率の合計の算術平均値を、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率と定義する。
[高圧水素用鋼材の形状]
本実施形態による高圧水素用鋼材の形状は、特に限定されない。高圧水素用鋼材はたとえば鋼管でもよいし、鋼板でもよい。高圧水素用鋼材が鋼管である場合、継目無鋼管であってもよい。高圧水素用鋼材の厚さは特に限定されない。高圧水素用鋼材が鋼管である場合、好ましい肉厚は20mm以上であり、さらに好ましくは25mm以上であり、さらに好ましくは30mm以上である。好ましい肉厚の上限はたとえば55mmである。高圧水素用鋼材が鋼板である場合、好ましい板厚は20mm以上であり、さらに好ましくは25mm以上であり、さらに好ましくは50mm以上である。好ましい板厚の上限は200mmである。
[高圧水素用鋼材の引張強度TS及び降伏比YR]
本実施形態による高圧水素用鋼材の引張強度TSは900~1100MPaであり、降伏比YRは85%以上である。本明細書でいう引張強度TSは、JIS Z2241(2011)に準拠した、鋼材の長手方向(軸方向、圧延方向と同義)に平行な平行部を有する全厚引張試験片を用い、JIS Z2241(2011)に準拠して、常温(25℃)大気中にて実施する引張試験で得られた引張強度TS(MPa)を意味する。また、降伏比YRは、引張強度TSに対する降伏強度YSの比(YR=YS/TS)である。降伏強度YSは、上述の引張試験により得られた、0.2%耐力(MPa)を意味する。
本実施形態による高圧水素用鋼材の引張強度TS及び降伏比YRは、次の方法で求めることができる。JIS Z2241(2011)に準拠した全厚引張試験片を鋼材から採取する。鋼材が鋼板である場合、板厚に相当する全厚引張試験片を採取する。鋼材が鋼管である場合、肉厚に相当する全厚引張試験片を採取する。全厚引張試験片の平行部は、鋼材の長手方向に平行とする。平行部の長さは60mmとし、平行部の直径は14mmとし、標点距離は50mmとする。
採取された全厚引張試験片を用いて、常温(25℃)、大気中でJIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、一様伸び中の最大応力を引張強度TS(MPa)と定義する。一方、0.2%耐力を降伏強度YS(MPa)と定義する。降伏比YR(%)は、引張強度TSに対する降伏強度YSの比(YR=YS/TS)として求めることができる。
[高圧水素用鋼材の耐疲労き裂進展特性]
本実施形態による高圧水素用鋼材では、90MPaの高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる。本実施形態の高圧水素用鋼材は、90MPaの高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れるため、90MPa以下の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性にも当然に優れる。具体的には、45MPa以上の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れ、さらに、70MPa以上の高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる。ここで、耐疲労き裂進展特性とは、疲労き裂進展抵抗が高いことを意味し、き裂が進展しにくいことを意味する。
本明細書において、「90MPaにおける高圧水素ガス環境での耐疲労き裂進展特性に優れる」とは、ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて90MPaの水素ガス中において疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN1(m/cycle)の、ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて常温(25℃)大気中において疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN2(m/cycle)に対する比が、100.0以下であることを意味する。
より具体的には、耐疲労き裂進展特性は、次の方法により評価できる。高圧水素用鋼材から、ASTM E647に準拠した、図5A又は図5Bに示すCT試験片を採取する。図5A及び図5B中の数字は、寸法(mm)を示す。ただし、図5A及び図5B中の「°」が付与された数値は角度(°)を示し、「Φ」が付与された数値は直径(mm)を示す。鋼材が鋼板である場合、CT試験片を鋼板の板厚中央位置から切り出す。このとき、き裂進展方向が圧延方向となるように、CT試験片を切り出す。鋼材が鋼管である場合、CT試験片を肉厚中央位置から切り出す。このとき、き裂進展方向が圧延方向となるように、CT試験片を切り出す。鋼板の板厚、又は、鋼管の肉厚に対して、厚さ25.0mmのCT試験片が採取可能な場合、図5Aに示すCT試験片を切り出す。鋼板の板厚、又は、鋼管の肉厚に対して、厚さ25.0mmのCT試験片が採取できない場合、図5Bに示すCT試験片を切り出す。
切り出されたCT試験片を用いて、疲労試験を実施する。疲労試験の試験条件は、部分片振り引張の荷重繰り返しとし、応力比R=0.1で一定とする。また、CT試験片の開口部に開口変位計を装着し、疲労き裂進展速度を求める。
常温(25℃)であって90MPaの水素ガス中で上記疲労試験を実施する。そして、パリス則が成立する応力拡大係数ΔK=20MPa・m1/2での疲労き裂進展速度da/dN1(m/cycle)を求める。さらに、別のCT試験片を用いて、常温(25℃)大気中にて上記条件での疲労試験を実施して、応力拡大係数ΔK=20MPa・m1/2での疲労き裂進展速度da/dN2(m/cycle)を求める。得られた疲労き裂進展速度da/dN1及び疲労き裂進展速度da/dN2を用いて、式(A)より、疲労き裂進展速度比を求める。
疲労き裂進展速度比=(da/dN1)/(da/dN2) (A)
上述の本実施形態の高圧水素用鋼材は、高圧水素容器に適用可能である。本実施形態による高圧水素用鋼材はさらに、燃料電池自動車や水素ステーション等に適用される、高圧水素用の配管や、高圧水素用のバルブ、高圧水素用の継手等にも適用できる。つまり、高圧水素用鋼材は、高圧水素用構造物に広く適用可能である。
[製造方法]
本実施形態による高圧水素用鋼材の製造方法は、準備工程と、焼入れ工程と、焼戻し工程とを備える。準備工程は素材準備工程と、熱間加工工程とを含んでもよい。本実施形態では、高圧水素用鋼材の製造方法の一例として、継目無鋼管の製造方法を説明する。継目無鋼管の製造方法は、素管を準備する工程(準備工程)と、素管に対して焼入れ及び焼戻しを実施して、継目無鋼管とする工程(焼入れ工程及び焼戻し工程)とを備える。以下、各工程について詳述する。
[準備工程]
準備工程は、上述の化学組成を有する中間鋼材を準備する。中間鋼材が上記化学組成を有していれば、中間鋼材の製造方法は特に限定されない。ここでいう中間鋼材は、最終製品が鋼板の場合は、板状の鋼材であり、最終製品が鋼管の場合は素管(Hollow shell)である。
準備工程は、素材を準備する工程(素材準備工程)と、素材を熱間加工して中間鋼材を製造する工程(熱間加工工程)とを含んでもよい。以下、素材準備工程と、熱間加工工程を含む場合について、詳述する。
[素材準備工程]
素材準備工程では、上述の化学組成を有する溶鋼を用いて素材を製造する。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、ビレットを製造してもよい。以上の工程により素材(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、準備された素材を熱間加工して中間鋼材を製造する。鋼材が鋼管である場合、中間鋼材は素管に相当する。始めに、ビレットを加熱炉で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、たとえば、1100~1300℃である。加熱炉から抽出されたビレットに対して熱間加工を実施して、素管(継目無鋼管)を製造する。たとえば、熱間加工としてマンネスマン法を実施し、素管を製造する。この場合、穿孔機により丸ビレットを穿孔圧延する。穿孔圧延する場合、穿孔比は特に限定されないが、たとえば、1.0~4.0である。穿孔圧延された丸ビレットをさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。熱間加工工程での累積の減面率はたとえば、20~70%である。
他の熱間加工方法により、ビレットから素管を製造してもよい。たとえば、エルハルト法等の鍛造により素管を製造してもよい。以上の工程により素管が製造される。
熱間加工により製造された素管は空冷されてもよい(As-Rolled)。熱間加工により製造された素管は、常温まで冷却せずに、熱間加工後に直接焼入れを実施したり、熱間加工後に再加熱(補熱)した後、焼入れを実施したりしてもよい。ただし、直接焼入れ、又は、補熱後に焼入れを実施する場合、焼割れの抑制を目的として、焼入れ途中に冷却を停止したり、緩冷却を実施したりする方が好ましい。
熱間加工後に直接焼入れ、又は熱間加工後に再加熱した後焼入れを実施した場合、残留応力を除去することを目的として、焼入れ後であって次工程の熱処理前に、素管に対して応力除去焼鈍処理(SR処理)を実施してもよい。
以上のとおり、準備工程では、中間鋼材を準備する。中間鋼材は、上述の好ましい工程により製造されてもよいし、第三者により製造された中間鋼材、又は、後述の焼入れ工程及び焼戻し工程が実施される工場以外の他の工場、他の事業所にて製造された中間鋼材を準備してもよい。以下、焼入れ工程について詳述する。
[焼入れ工程]
焼入れ工程は、準備された中間鋼材(素管)に対して、焼入れを実施する。本明細書において、「焼入れ」とは、A点以上の中間鋼材を急冷することを意味する。焼入れ温度は800~1000℃である。焼入れ温度とは、熱間加工後に直接焼入れを実施する場合、最終の熱間加工を実施する装置の出側に設置された温度計で測定された、中間鋼材の表面温度に相当する。焼入れ温度とはさらに、熱間加工後に補熱した後、焼入れを実施する場合、再加熱(補熱)を実施する熱処理炉の温度に相当する。
焼入れ温度が高すぎれば、旧γ粒の結晶粒が粗大になり、鋼材の高圧水素ガス環境下での耐疲労き裂進展特性が低下する場合がある。したがって、焼入れ温度は800~1000℃である。焼入れ温度での保持時間は特に限定されないが、たとえば、5~30分である。
焼入れ方法はたとえば、焼入れ開始温度から中間鋼材を連続的に冷却し、中間鋼材の表面温度を連続的に低下させる。連続冷却処理の方法は特に限定されず、周知の方法でよい。連続冷却処理の方法はたとえば、水槽に中間鋼材を浸漬して冷却する方法や、シャワー水冷又はミスト冷却により中間鋼材を加速冷却する方法である。
焼入れ時の冷却速度が遅すぎれば、マルテンサイト及びベイナイト主体のミクロ組織とならず、本実施形態で規定する機械的特性が得られない。したがって、上述のとおり、本実施形態による鋼材の製造方法では、焼入れ時に中間鋼材を急冷する。具体的には、焼入れ工程において、焼入れ時の中間鋼材(素管)の表面温度が800~500℃の範囲における平均冷却速度を、焼入れ時冷却速度CR800-500と定義する。より具体的には、焼入れ時冷却速度CR800-500は、焼入れされる中間鋼材の断面内で最も遅く冷却される部位(たとえば、両表面を強制冷却する場合、中間鋼材厚さの中心部)において測定された温度から決定される。
好ましい焼入れ時冷却速度CR800-500は300℃/分以上である。より好ましい焼入れ時冷却速度CR800-500の下限は450℃/分であり、さらに好ましくは600℃/分である。焼入れ時冷却速度CR800-500の上限は特に規定しないが、たとえば、60000℃/分である。
好ましくは、中間鋼材に対してオーステナイト域での加熱を複数回実施した後、焼入れ処理を実施する。この場合、焼入れ前のオーステナイト粒が微細化されるため、鋼材の高圧水素ガス環境下での耐疲労き裂進展特性が高まる。複数回焼入れ処理を実施することにより、オーステナイト域での加熱を複数回繰り返してもよいし、焼準処理及び焼入れ処理を実施することにより、オーステナイト域での加熱を複数回繰り返してもよい。また、焼入れ処理と後述する焼戻し処理とを組合せて、複数回実施してもよい。すなわち、複数回の焼入れ焼戻し処理を実施してもよい。この場合、鋼材の高圧水素ガス環境下での耐疲労き裂進展特性がさらに高まる。以下、焼戻し工程について詳述する。
[焼戻し工程]
焼戻し工程は、上述の焼入れ処理を実施した後、焼戻し処理を実施する。本明細書において、「焼戻し」とは、焼入れ後の中間鋼材を再加熱して、保持することを意味する。焼戻し温度は、鋼材の化学組成、及び、得ようとする引張強度TSに応じて適宜調整する。つまり、本実施形態の化学組成を有する中間鋼材(素管)に対して、焼戻し温度を調整して、鋼材の引張強度TSを900~1100MPaに調整する。ここで、焼戻し温度とは、焼入れ後の中間鋼材を加熱して、保持する際の熱処理炉の温度に相当する。
焼戻し温度は500℃~Ac変態点である。焼戻し温度が500℃以上であれば、炭化物が十分に球状化され、高圧水素ガス環境下での耐疲労き裂進展特性がさらに高まる。焼戻し温度のより好ましい下限は550℃であり、さらに好ましくは580℃である。焼戻し温度のより好ましい上限は710℃であり、さらに好ましくは690℃である。
焼戻しの保持時間(焼戻し時間)が短すぎれば、炭化物の析出が進まないため、固溶C量が過剰となる。焼戻し時間が長すぎても、固溶C量はほとんど変化しなくなる。したがって、固溶C量を適切な範囲に制御するための、焼戻し時間は10~180分である。焼戻し時間のより好ましい下限は15分である。焼戻し時間のより好ましい上限は120分であり、さらに好ましくは90分である。なお、高圧水素用鋼材が鋼管である場合、他の形状と比較して、焼戻しの均熱保持中に鋼管の温度ばらつきが発生しやすい。したがって、高圧水素用鋼材が鋼管である場合、焼戻し時間は15~90分とするのが好ましい。本実施形態の化学組成の鋼材において、上記焼戻し温度と上記保持時間とを適宜調整することにより、引張強度TSを900~1100MPaの範囲内にすることは、当業者であれば十分に可能である。
[焼戻し後急冷について]
焼戻し後の冷却は、従来は制御されていなかった。しかしながら、500℃~200℃の間は、炭素(C)の拡散が比較的早い温度域である。そのため、焼戻し後(つまり、上記焼戻し温度で上記保持時間保持した後)の鋼材の冷却速度が遅ければ、固溶していたCのほとんどが、温度低下中に再析出してくる。つまり固溶C量が、ほぼ0質量%になる。そこで本実施形態においては、焼戻し後の中間鋼材(素管)を急冷する。
具体的には、焼戻し工程において、焼戻し後の中間鋼材(素管)の温度が500~200℃の範囲における平均冷却速度を、焼戻し後冷却速度CR500-200と定義する。本実施形態による鋼材の製造方法では、焼戻し後冷却速度CR500-200は5℃/秒以上である。一方、焼戻し後冷却速度が速すぎると、固溶していたCがほとんど析出せず、固溶C量が過剰となる場合がある。この場合、鋼材の高圧水素ガス環境下での耐疲労き裂進展特性が低下する。
したがって、本実施形態においては、焼戻し後冷却速度CR500-200は5~100℃/秒である。焼戻し後冷却速度CR500-200の好ましい下限は6℃/秒であり、より好ましくは10℃/秒であり、さらに好ましくは15℃/秒である。焼戻し後冷却速度CR500-200の好ましい上限は50℃/秒であり、より好ましくは40℃/秒である。なお、焼戻し処理を複数回実施する場合、最終の焼戻し後の冷却を制御すればよい。すなわち、最終の焼戻し以外の他の焼戻し処理における、焼戻し後の冷却は従来と同様に実施してもよい。
焼戻し後冷却速度CR500-200を5~100℃/秒とする冷却方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。冷却方法は、たとえば、焼戻し温度から中間鋼材を連続的に強制冷却し、中間鋼材の表面温度を連続的に低下する。このような連続冷却処理としてたとえば、水槽に中間鋼材を浸漬して冷却する方法や、シャワー水冷、ミスト冷却あるいは強制風冷により中間鋼材を加速冷却する方法がある。なお、焼戻し後冷却速度CR500-200は、焼戻しされた中間鋼材の断面内で最も遅く冷却される部位(たとえば両表面を強制冷却する場合は、中間鋼材厚さの中心部)において測定する。
以上の製造方法によれば、本実施形態による高圧水素用鋼材を製造することができる。上述の製造方法では、一例として継目無鋼管の製造方法を説明した。しかしながら、本実施形態による高圧水素用鋼材は、鋼板や他の形状であってもよい。鋼板や他の形状の製造方法も、上述の製造方法と同様に、たとえば、準備工程と、焼入れ工程と、焼戻し工程とを備える。
また、上述の製造方法は一例であり、他の製造方法によって製造されてもよい。したがって、高圧水素用鋼材の化学組成が上述のとおりであって、固溶Cが0.010~0.050質量%であって、引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上であれば、上記製造方法により製造されていなくてもよい。
[高圧水素容器の製造方法]
本実施形態の高圧水素容器の製造方法の一例は次のとおりである。
上述の高圧水素用鋼材を用いて、胴部を製造する。たとえば、高圧水素用鋼材である継目無鋼管を所望の長さに切り出して、胴部を製造する。必要に応じて、胴部の内面を周知の方法で研磨して平滑鏡面としてもよい。同様に、上述の高圧水素用鋼材を用いて、蓋部を製造する。たとえば、高圧水素用鋼材である鋼板を所望の形状に切り出して、蓋部を製造する。
製造された胴部に蓋部を固定して、蓋部を胴部につなげる。固定方法は特に限定されない。たとえば、溶接により固定してもよい。また、胴部と蓋部との接触部分をねじ切りして、ねじにより固定してもよい。また、ボルト等の締結部材を用いて、蓋部を胴部に固定してもよい。以上の方法により、本実施形態の高圧水素容器が製造される。
なお、上述の製造方法では、胴部に本実施形態の高圧水素用鋼材を適用し、蓋部にも本実施形態の高圧水素用鋼材を適用した。しかしながら、本実施形態の高圧水素用鋼材を胴部に適用し、蓋部には本実施形態の高圧水素用鋼材と異なる他の鋼材を適用してもよい。また、本実施形態の高圧水素用鋼材を蓋部に適用し、胴部には本実施形態の高圧水素用鋼材と異なる他の鋼材を適用してもよい。胴部及び/又は蓋部に本実施形態の高圧水素用鋼材と異なる他の鋼材を適用する場合、他の鋼材は、高圧水素ガス環境において高強度を有する鋼材が好ましい。
表1に示す化学組成を有する、溶鋼を製造した。
Figure 0007349776000001
上記溶鋼を用いて外径310mmのビレットを製造した。製造したビレットを1250℃に加熱した後、熱間圧延し、外径232.00mm、肉厚26.30mmの継目無鋼管を製造した。製造した継目無鋼管から、後述する評価試験に用いる試験片が採取可能な大きさで、かつ、厚さ(肉厚)26.30mmの板状供試材を採取した。
採取した各試験番号の板状供試材について、焼入れ及び焼戻し処理を実施した。具体的には、焼入れ処理では表2に示す焼入れ温度で表2に示す保持時間(分)保持した後、板状供試材を水槽に浸漬して急冷(水冷)した。いずれの試験番号においても、焼入れ時冷却速度CR800-500は300℃/分であった。なお、焼入れ温度は、加熱を実施した炉の温度に相当した。また、焼入れ時冷却速度CR800-500は板状供試材の板厚中央部に予め挿入したシース型のK熱電対により測定した温度から求めた。
続いて、焼入れ処理後の板状供試材に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し処理では、引張強度TSが900~1100MPaの範囲となるように、焼戻し温度(℃)及び焼戻し温度での保持時間(分)は表2に示すとおりであった。
各試験番号において、表2に示す焼戻し温度で表2に示す保持時間保持した後、板状供試材を冷却した。冷却は、板状供試材に対してミスト水冷の制御冷却、又は、放冷を実施した。なお、焼戻し温度は、焼戻し処理を実施した炉の温度に相当した。また、焼戻し後冷却速度(CR500-200)は板状供試材の板厚中央部に予め挿入したシース型のK熱電対により測定した温度から求めた。各試験番号の焼戻し後冷却速度CR500-200(℃/秒)は表2に示すとおりであった。
Figure 0007349776000002
[評価試験]
上記の焼戻し処理後の各試験番号の板状供試材に対して、以下に説明する引張強度TS及び降伏比YR試験、固溶C量測定試験、高圧水素環境下における疲労き裂進展速度比評価試験を実施した。
[引張強度TS及び降伏比YR試験]
次の引張り試験により、各試験番号の鋼材の引張強度TS及び降伏比YRを求めた。JIS Z2241(2011)に準拠した全厚引張試験片を板状供試材から採取した。全厚引張試験片の平行部は、鋼材の長手方向に平行とした。平行部の長さは60mmとし、平行部の直径は14mmとし、標点距離は50mmとした。
採取された全厚引張試験片を用いて、常温(25℃)、大気中でJIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、一様伸び中の最大応力を引張強度TS(MPa)として得た。また、0.2%耐力を降伏強度YS(MPa)として得た。降伏比YR(%)は、引張強度TSに対する降伏強度YSの比(YR=YS/TS)で求めた。得られた引張強度TS(MPa)及びYR(%)を表2に示す。
なお、各試験番号の鋼材の引張強度TSはいずれも、900~1100MPaの範囲内であり、降伏比YRも85%以上であった。そのため、いずれの試験番号の鋼材のミクロ組織も、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの体積率の合計が90%以上であると判断した。
[固溶C量測定試験]
各試験番号の鋼材について、上述の測定方法により、固溶C量(質量%)を測定及び算出した。なお、TEMは日本電子(株)製JEM-2010で、加速電圧は200kVとした。EDS点分析は、照射電流を2.56nAとし、各点で60秒の計測を行った。TEMによる観察領域は8μm×8μmとし、任意の10視野で観察した。固溶C量の計算において用いる、各元素の残渣量及びセメンタイト中の濃度は表3のとおりであった。
Figure 0007349776000003
[高圧水素ガス環境下での疲労き裂進展速度比評価試験]
式(A)で定義される高圧水素ガス環境下での疲労き裂進展速度比を、次の試験により求めた。各試験番号の板状供試材から、ASTM E647に準拠した、図5Bに示すCT試験片を採取した。具体的には、板状供試材の肉厚中央位置から、図5Bに示すCT試験片を切り出した。このとき、き裂進展方向が圧延方向となるように、CT試験片を切り出した。
切り出されたCT試験片を用いて、疲労試験を実施した。疲労試験の試験条件は、部分片振り引張の荷重繰り返しとし、応力比R=0.1で一定とした。また、CT試験片の開口部に開口変位計を装着し、疲労き裂進展速度を求めた。
90MPaの水素ガス中で上記疲労試験を実施した。そして、パリス則が成立する応力拡大係数ΔK=20MPa・m1/2での疲労き裂進展速度da/dN1(m/cycle)を求めた。さらに、別のCT試験片を用いて、常温(25℃)大気中にて上記条件での疲労試験を実施して、応力拡大係数ΔK=20MPa・m1/2での疲労き裂進展速度da/dN2(m/cycle)を求めた。
得られた疲労き裂進展速度da/dN1及び疲労き裂進展速度da/dN2を用いて、式(A)より、高圧水素ガス環境下での疲労き裂進展速度比を求めた。
疲労き裂進展速度比=(da/dN1)/(da/dN2) (A)
得られた疲労き裂進展速度比を表2に示す。
[試験結果]
表2に試験結果を示す。
表1及び表2を参照して、試験番号1~18の鋼材の化学組成は適切であり、引張強度TSが900~1100MPaであり、降伏比YRが85%以上であった。さらに固溶C量が0.010~0.050質量%であった。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0以下であり、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られた。
一方、試験番号19では、化学組成が適切であるものの、焼戻し後冷却速度CR500-200が遅すぎた。そのため、固溶C量が0.010%未満となった。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号20では、化学組成が適切であるものの、焼戻し後冷却速度CR500-200が速すぎた。そのため、固溶C量が0.050%を超えた。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号21では、Mo含有量が低すぎた。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号22では、N含有量が高すぎた。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号23では、O含有量が高すぎた。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号24では、Al含有量が高すぎた。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号25及び26では、鋼材の化学組成が適切であるものの、焼戻し後冷却速度CR500-200が遅すぎた。そのため、固溶C量が0.010%未満となった。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
試験番号27及び28では、鋼材の化学組成が適切であるものの、焼戻し後冷却速度CR500-200が速すぎた。そのため、固溶C量が0.050%を超えた。その結果、疲労き裂進展速度比が100.0を遥かに超え、90MPaの水素ガス環境において優れた耐疲労き裂進展特性が得られなかった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本実施形態による高圧水素容器は、燃料電池自動車や水素ステーションに代表される高圧水素ガス環境用途に広く適用可能である。また、本実施形態による高圧水素用鋼材は、高圧水素容器に適用可能であり、さらに、燃料電池自動車や水素ステーション等に適用される、高圧水素用の配管や、高圧水素用のバルブ、高圧水素用の継手等にも適用できる。つまり、高圧水素用鋼材は、高圧水素用構造物に広く適用可能である。
1 高圧水素容器
2 胴部
2A、2B 端部
3A、3B 蓋部

Claims (6)

  1. 筒状の胴部と、
    前記胴部の両端部に配置され、前記胴部とつながっており、前記胴部を密閉可能な一対の蓋部とを備え、
    前記胴部及び/又は前記蓋部は、
    質量%で、
    C:0.20~0.50%、
    Si:0.05~0.50%、
    Mn:0.05~1.00%、
    P:0.025%以下、
    S:0.0200%以下、
    Al:0.005~0.040%、
    Cr:0.30~1.50%、
    Mo:0.15~1.50%、
    Ti:0.002~0.050%、
    B:0.0001~0.0050%、
    N:0.0065以下
    O:0.0040以下
    V:0~0.30%、
    Nb:0~0.100%、
    W:0~1.00%、
    Ca:0~0.0100%、
    Mg:0~0.0100%、
    Zr:0~0.0100%、
    希土類元素:0~0.0100%、
    Co:0~1.00%、
    Ni:0~0.50%、及び、
    Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
    固溶Cを0.010~0.050質量%含有し、
    引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上である、
    高圧水素容器。
  2. 請求項1に記載の高圧水素容器であって、
    前記胴部及び/又は前記蓋部の前記化学組成は、
    V:0.01~0.30%、
    Nb:0.002~0.100%、及び、
    W:0.02~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
    高圧水素容器。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の高圧水素容器であって、
    前記胴部及び/又は前記蓋部の前記化学組成は、
    Ca:0.0001~0.0100%、
    Mg:0.0001~0.0100%、
    Zr:0.0001~0.0100%、及び、
    希土類元素:0.0001~0.0100%からなる群から選択される1種又は2種以
    上を含有する、
    高圧水素容器。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の高圧水素容器であって、
    前記胴部及び/又は前記蓋部の前記化学組成は、
    Co:0.02~1.00%を含有する、
    高圧水素容器。
  5. 請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の高圧水素容器であって、
    前記胴部及び/又は前記蓋部の前記化学組成は、
    Ni:0.02~0.50%、及び、
    Cu:0.01~0.50%からなる群から選択される1種以上を含有する、
    高圧水素容器。
  6. 高圧水素用鋼材であって、
    質量%で、
    C:0.20~0.50%、
    Si:0.05~0.50%、
    Mn:0.05~1.00%、
    P:0.025%以下、
    S:0.0200%以下、
    Al:0.005~0.050%未満、
    Cr:0.30~1.50%、
    Mo:0.15~1.50%、
    Ti:0.002~0.050%、
    B:0.0001~0.0050%、
    N:0.0070%未満、
    O:0.0050%未満、
    V:0~0.30%、
    Nb:0~0.100%、
    W:0~1.00%、
    Ca:0~0.0100%、
    Mg:0~0.0100%、
    Zr:0~0.0100%、
    希土類元素:0~0.0100%、
    Co:0~1.00%、
    Ni:0~0.50%、及び、
    Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
    固溶Cを0.010~0.050質量%含有し、
    引張強度が900~1100MPaであり、降伏比が85%以上であり、
    ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて90MPaの水素ガス中において部分片振り引張の荷重繰り返しとし、応力比R=0.1で疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN1(m/cycle)の、ASTM E647に準拠したCT試験片を用いて常温(25℃)大気中において部分片振り引張の荷重繰り返しとし、応力比R=0.1で疲労試験を実施して得られた疲労き裂進展速度da/dN2(m/cycle)に対する比が、100.0以下である、
    高圧水素用鋼材。
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