JP4240387B2 - ポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法 - Google Patents

ポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、これまでになかったマトリックス紡糸法により得られる繊度が均一な異形断面を有するポリテトラフルオロエチレン繊維製造方法に関する該繊維を用いた布帛およびそれをフィブリル化させた布帛はダストの捕集効率が高く、フィルター用材料または微粒子封止用材料用の布帛に好適に用いることができる。
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略称することもある。)繊維に代表されるフッ素樹脂系繊維は、その優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性あるいは低摩擦係数などから、産業資材用途に広く用いられている。
PTFEは不溶解性であり、また加熱溶融時に非常に高い溶融粘度を持っているのでその製法は特許文献1、特許文献2などで知られているマトリックス法(エマルジョン法ともいう)、特許文献3などで知られているスプリット剥離法、または特許文献4、特許文献5、特許文献6などで知られているペースト押出法などにより生産される。一方、PTFEを共重合させた共重合系のフッ素系樹脂(4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフロロアルコキシ基共重合体(PFA)または4フッ化エチレン−オレフィン共重合体(ETFE)など)は溶融紡糸により生産が可能である。
スプリット剥離法による異形断面PTFE繊維および該異形断面繊維を用いたフェルト状フィルタ材は公知である(例えば、特許文献7)。しかし、スプリット剥離法で得られる異形断面繊維はその製法上、どうしても扁平断面形状となり、その形状・繊度もランダムで不均一となるため、フェルト加工時にネップが発生しやすく生産が困難であるという欠点があった。
また、共重合タイプのフッ素系樹脂を用いた溶融紡糸による異形断面繊維およびこれを用いたバグフィルタに関しては、特許文献8、特許文献9などで公知である。しかしながら、溶融紡糸を行う共重合タイプのフッ素系樹脂は溶融時の流動性を与える目的で共重合しているため、どうしてもPTFEに比べ耐薬品性・耐熱性に劣ってしまう。PTFE繊維の製法に関しては特許文献10や特許文献11により公知である。しかし、特許文献10に関しては、その目的はPTFE繊維の細繊度化により他繊維との混合のしやすさを目的にしたもので、その製造方法に関する凝固浴濃度、アルカリ浴濃度も幅広く、本発明の異形断面PTFE繊維を製造する範囲とは異なる。また、特許文献11に関しても、その目的はPTFE繊維の高強度化に関するもので、その製造方法も本発明の異形断面PTFE繊維を製造するための方法とは異なるものである。
すなわち、これまで繊度が均一な異形断面形状を有したPTFE繊維は得られていなかったのである。
PTFE繊維は、その用途の中でもゴミ焼却炉のバグフィルター用途に特に広く用いられており、フッ素繊維とガラス繊維との複合品が広く利用されている。あるいはまた、ガラス繊維以外の耐熱性繊維、例えばアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミドあるいはポリパラフェニレンベンゾオキサゾールなどを用いたバグフィルターも広く用いられている。
上記の耐熱性繊維を用いたバグフィルターに対して、現在はダストの捕集効率がさらに高いバグフィルターが求められている。これは例えばガス化溶融処理炉等に用いられるバグフィルターであり、粒径の小さなダストの捕集が可能な高捕集効率のフィルターである。
あるいは、また、フッ素樹脂系繊維を用いた微粒子封止材料も広く用いられている。例えばプリンターのトナー封止材料などであり、150℃以上の温度で微少なトナーを封止するものである。トナーのカラー化が進むにつれ、さらに微少なトナーの封止が可能な材料が求められている。
そこで、耐熱性繊維のフェルト表面にフッ素樹脂の微多孔膜を貼り合わせ、該微多孔膜でダストを高効率に捕集する方法が提案されている(特許文献12等)。この方法では確かに0.5μm以下のダストの捕集効率は高いが、フッ素樹脂の微多孔膜と他素材との接着性が悪いため、剥離してしまうという問題がある。さらにバグフィルター用に使用した場合、逆洗パルスを打つ時にリテーナーと摩擦を生じるため、この摩擦力によっても剥離が発生する問題がある。
あるいは、特許文献13にあるように、極細繊維層とフェルト基材層とをニードルパンチ処理して一体化し、極細化可能繊維の分布を表面から裏面に向かって漸減させ、次に高圧水流パンチによって極細化可能繊維を分割して極細化させるような高捕集効率のフィルターが公知である。しかしこの方法では、2種類以上の異なる繊維を積層する必要があり、加工工程が多い問題がある。さらに、該特許文献13の極細化可能繊維はポリアミド/ポリエステルの分割繊維が例示されているにすぎない。
また、特許文献14には、分枝及び/またはループを有するフッ素樹脂繊維を用いた濾材が記述されているが、該繊維はカーディング処理してウェッブとした後、ニードルパンチすることで分枝及び/またはループを生じる繊維である。この方法で得られる分枝及び/またはループを有する布帛は、表面および内部、全体にわたってフッ素樹脂繊維が分割しているため、ウェッブの強度が低下する問題がある。
PTFE繊維を用い、高圧ジェット水流処理などの物理的衝撃を用いてをフィブリルを生成させて微小なダストの捕集性に優れ、且つ耐摩耗性に優れた布帛を得る方法が特許文献15、特許文献16に開示されている。該特許文献はこれまで市販されてきたマトリックス紡糸法により製造される丸断面のPTFE繊維を用いた手法を記載している。本発明は、このような従来技術を大きく凌駕するための凸部を有するPTFE繊維製造方法関するものである。
特公昭52−25453号公報 特開平1−139840号公報 特公昭51−88727号公報 特公昭51−18991号公報 特公昭58−30406号公報 特開平2−286220号公報 特開2001−276528号公報 特公平3−10723号公報 特開2002−282627号公報 特許2571379号公報 特許3327027号公報 特開2000−140588号公報 特開平4−032649号公報 特開2000−61224号公報 特開2001−146633号公報 特開2002−348765号公報
本発明の課題は、これまで得られていなかった凸部を有するPTFE繊維製造方法提供することにある。本発明で得られた複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維を用いると、より微小なダストの捕集性に優れた布帛を得ることができる。
上記課題を解決するために、本発明に係るポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法では、マトリックスとしてビスコースを用い、ポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液が特定の成分、濃度に調整された凝固浴に、つまり、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%に制御した凝固浴槽に複数の凸部を有する口金から吐出し、紡糸を行う。特に、焼成を行う際、特定の弛緩率でリラックスを与えながら、特定温度で半焼成工程を経た後に特定温度で焼成を行う方法からなる。つまり、紡糸、精練した後、焼成ローラを用い、1〜5%のリラックスを与えながら250〜320℃の半焼成工程を経た後に、320〜380℃の温度で焼成を行う。
本発明によれば、これまでになかった複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するポリテトラフルオロエチレン繊維を提供でき、このポリテトラフルオロエチレン繊維を用いると、これまで以上に微小なダストの捕集性に優れた布帛を得ることができる。
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明は、前述の課題、つまりPTFE繊維の特性を損なうことなく、より微少なダストの捕集性に優れた布帛について、鋭意検討し、布帛の表面に複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維もしくはフィブリル化したPTFE繊維を配して構成したところ、かかる課題を一挙に解決できることを究明したものである。
フッ素系ポリマーにはPTFEの他にPTFEに共重合した4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフロロアルコキシ基共重合体(PFA)、または4フッ化エチレン−オレフィン共重合体(ETFE)などがあり、これらは溶融紡糸により生産されている。しかしながら、耐熱性の点からPTFEが最も優れており、本発明はこれまで開示されていなかったPTFEからなる複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有する形状・繊度が均一な繊維に関するものである。
これまでPTFE繊維の製造方法にはマトリックス紡糸法(エマルジョン法ともいう)、スプリット剥離法、ペースト押出法などが知られている。スプリット剥離法とはPTFEの粉末をシリンダ圧縮せしめた後、焼結、スプリット剥離させた後、延伸する製法である。ペースト押出法とは、マトリックスポリマを用いずにPTFEの粉末をワックス状潤滑剤と混練し、棒状もしくはフィルム状に成形した後、該潤滑剤を除去し、延伸、焼成(焼成しない場合もある)する製法である。しかしながら、これら2つの製法では、どうしてもその製法上細く切り裂いて得られる最終繊維状物の断面は扁平形状であり、しかもランダムで均一性に劣り、特に短繊維としてフェルト加工する際にはネップなどが生成されやすいという欠点があった。
本発明に係る異形断面PTFE繊維を得るにはマトリックス紡糸法の実施が必要である。マトリックス紡糸法とは、ビスコースなどをマトリックスとしてPTFEの水分散液との混合液を凝固浴中に吐出して繊維化し、次いで精錬した後、焼成を行う。ポリマーの融点以上で焼成することで、マトリックスポリマーの大部分を焼成飛散させながら、PTFEを溶融し、粒子間を融着することで、初めてその後の延伸性が付与される。焼成後、未延伸糸は直接1ステップもしくは2ステップに分けて延伸され、強度が発現する。
本発明でいう複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維は該マトリックス紡糸法を用い、しかも特定の条件下で製糸を行うことで初めて得られるのであり、スプリット剥離法やペースト押出法で得ることはできない。
本発明により得られる繊維は、複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維である丸断面形状の繊維に比べ、繊維断面形状に複数の凸部を含む繊維は、その表面積が格段に大きいことから高い集塵効率が得られる。
本発明における複数の凸部を含む繊維断面の断面形状は特に限定されず、三角、四角3葉〜8葉などの多葉断面(3葉はY形とも称する)、およびH形などその他の異形断面などいずれの断面形状も用いることができる。また、凸部の数が2である扁平断面形状であってもよい。紡糸時の糸切れの面からの生産安定性、繊維の表面積を増大させる観点、また布帛後のフィブリル生成のしやすさから、該繊維の凸部の数は3〜8あることが好ましく、更に好ましくは3〜5あることが好ましい。
また、本発明により得られる異形断面PTFE繊維は、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であることが好ましい。一般に、ダスト捕集効率を向上させる目的では表面積を上げるため細繊度化傾向が求められるが、一方で通気性を向上させる目的で太繊度化も要望される。本発明の異形断面繊維を用いれば18.0dtex程度まで太繊度化してもその表面積の増大さゆえ、通気性が高いレベルを保ったまま、ダスト捕集性能も高いフェルトが得られる。フェルト加工性の観点から更に好ましくは、2.0dtex以上15.0dtex以下であり、この範囲内においては、これまでのダスト捕集性能を遙かに凌ぐフェルトが得られる。
次に、本発明の異形断面PTFE繊維の繊度ばらつきは、該繊維の繊度の10%以下であることが好ましい。前述した通り、スプリット剥離法やペースト押出法で得られる繊維の断面はランダムでその繊度も不均一である。従って、その繊度ばらつきも非常に大きい。そのため、ダスト捕集性能は良好であるが、その一方フェルト加工時にネップなどが生成されやすく加工が困難という欠点があった。本発明で異形化とともに繊度ばらつきを抑えた異形断面PTFE繊維を発明したことでこれらの両立ができるようになったのである。繊度ばらつきが該繊維の繊度の10%を超えることは、断面形状および繊度が不均一であることを意味しており、安定した加工を行うことが困難となり好ましくない。
一方、フェルト加工時に本発明で得られる繊度の異なる繊度ばらつきを10%以下に抑えた異形断面繊維同士、もしくは繊度の異なる繊度ばらつきを10%以下に抑えた異形断面繊維と丸断面繊維やスプリット剥離法やペースト押出法で得られる繊維を適正な混合割合で用いても工程通過性に問題なく実施できる。
更に本発明のPTFE繊維をカットして短繊維として使用する際には、繊維長は、30〜100mm程度であればよいが、特に限定されない。
本発明のPTFE繊維の単糸強度は0.7cN/dtex以上、単糸伸度は50%以下であることが好ましい。単糸強度が0.7cN/dtex未満、単糸伸度が50%を越えると、その繊維を後加工する場合、単繊維が延伸され、工程通過性不良となるので好ましくない。
また、本発明の短繊維の300℃×30分における乾熱収縮率は30%以下であることが好ましい。実際フェルトなどを作製して使用する場合、その素材のもつ耐熱性ゆえ、高温度下で使用される用途が多く、乾熱収縮率が高すぎるとフェルトが収縮し、目詰まりも起こしやすくなり、好ましくない。乾熱収縮率は、より好ましくは20%以下である。
本発明の異形断面PTFE繊維は、マトリックスとしてビスコースを用い、PTFEの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%に制御した凝固浴槽に複数の凸部を有する口金から吐出し、紡糸、精練した後、焼成ローラを用い、1〜5%のリラックスを与えながら250〜320℃の半焼成工程を経た後に、320〜380℃の温度で焼成を行うことで製造できる。
上記方法で用いるビスコースは通常レーヨン製造に用いられるもの、すなわちセルロース濃度5〜10重量%、アルカリ濃度4〜10%重量%、二硫化炭素27〜32重量%(セルロースに対し)が好ましい。また、マトリックスとしてビスコースの代わりに特表2001−511222号公報にもあるようにヒドロキシプロピルセルロ−ス溶液またはヒドロキシエチルセルロース溶液を用いることもできる。
上記方法において用いるPTFEの水分散液は濃度は50〜70重量%、安定剤として非イオン活性剤またはアニオン活性剤をPTFEポリマに対して3〜10重量%含有するものが好ましく用いられる。また、PTFE水分散液の分散粒子の大きさは0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下である。
これらビスコースとPTFEの水分散液を混合して混合液を作製する。この際、混合液中のPTFE濃度は20〜40%、好ましくは25〜35%、一方、セルロース濃度は2〜6%、好ましくは3〜5%程度である。この時、PTFE濃度が40%を超えて高すぎると凝固浴中で糸条が凝固しにくくなる。また精練浴・アルカリ浴中で糸条からPTFE粒子が脱落して安定した紡糸が行えなくなってしまう。また、焼成時にPTFE粒子同士の融着が強固となり単糸融着が激しくなる他、単糸自体のフィブリル化も発現しにくくなるので好ましくない。PTFE濃度が20%未満となると、凝固浴中で凝固はしやすくなるが焼成時に異形断面形状を保つことが困難になる他、焼成後の繊維中に炭化成分が多く残存するようになるため繊維強度が低下し好ましくない。
このように混合された混合液は脱泡されるが、この時温度が高いとビスコースが凝固してしまう懸念、また水分が蒸発しPTFEが凝集する懸念がある。そのため、脱泡時は15℃以下の低温に制御する必要がある。真空度は約10Torr程度が好ましい。ビスコースとPTFEの混合のタイミングについては脱泡前にビスコースとPTFE水分散液を混合するか、それぞれ脱泡した後スタティックミキサーなどを用い口金に導く直前で混合する方法が採用できる。
次に、この紡糸混合液は凝固浴中に浸漬された複数の凸部を有する吐出孔からなる成型用口金より吐出し、凝固される。凝固浴としては無機鉱酸および/または無機塩の水溶液が用いられるが、本発明では硫酸−硫酸ソーダの混合水溶液を用いる。このとき硫酸濃度は7〜13%が好ましい。硫酸濃度が7%未満であると凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため所望の異形断面形状を得ることが困難となるので好ましくない。一方、硫酸濃度が13%を超えると繊維表面に付着した硫酸が脱酸されにくく焼成工程で糸切れが多発する他、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、この場合も異形断面形状のコントロールが困難となるので好ましくない。
硫酸ソーダ濃度は7〜15%に調整することが好ましい。硫酸ソーダはセルロースの急激な凝固を抑制する。硫酸ソーダ濃度が7%未満の場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、異形断面形状のコントロールが困難となるので好ましくない。一方、硫酸ソーダ濃度が15%を超える場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため所望の異形断面形状を得ることが困難となり好ましくない。すなわち、本発明ではマトリックス法を用いて上記した硫酸濃度及び硫酸ソーダ濃度の両方を特定の範囲内に調整することでPTFE異形断面繊維を製造することができたのである。
焼成には接触タイプの焼成ローラまたは非接触タイプの焼成ヒーターを用いることができるが、好ましくは、接触タイプの焼成ローラを用いる。精練浴もしくはアルカリ浴から導かれた未焼成糸をそのままもしくはニップローラなどで絞った後、1〜5%のリラックスを与えながら250〜320℃の半焼成工程を行うことが必要である。250〜320℃に保った接触タイプの半焼成工程のローラに導かれた未焼成糸はローラ上で急速に収縮し張力を増す。リラックス率が1%未満であれば張力が高くなりすぎて異形断面形状を保つことが困難となり、また収縮による糸切れも発生しやすい。5%を超えるとリラックス率が高すぎて糸が弛み工程通過性に問題が生じてしまう。但し、1〜5%のリラックスは、半焼成に入る前1回だけではなく半焼成工程のローラ間や焼成工程のローラ間においても行うことができる。半焼成工程は次いで行う焼成工程に入る前になくてはならない工程である。半焼成工程のローラ温度が250℃より低い場合は、次いで行う焼成工程で一気に繊維に熱がかかるため異形断面が変形もしくは単糸間での融着が発生しやすく好ましくない。一方、320℃より高い場合は半焼成段階で一気に繊維に熱がかかるため異形断面が変形もしくは単糸間での融着が発生しやすく好ましくない。従って、半焼成工程のローラは250〜320℃の範囲に保つことが必要である。
次いで、半焼成された糸は320〜380℃の温度で焼成される。この段階でセルロースの大部分は燃焼飛散し、セルロース中のPTFE粒子は繊維状に熱融着してPTFE未延伸糸が得られる。焼成温度が320℃より低いと繊維内のPTFE粒子同士の融着が不十分で、焼成後の延伸時に糸切れが頻発する他、繊維強度も低くなり好ましくない。一方、焼成温度が380℃より高いと熱により異形断面形状が変形し所望のシャープな凸形状を得ることができなくなる他、繊維内のPTFE粒子同士の融着が強固となり、また炭化成分の残留分が減るためフィブリル化しにくい異形断面繊維となってしまう。また、単糸間の融着も生じ製品の開繊性に悪影響を与える結果となるので好ましくない。
次いでPTFE未延伸糸は、通常用いられる公知の延伸方法で300〜400℃の温度で熱延伸されてPTFE延伸糸が得られる。また、焼成の際に非接触タイプの焼成ヒーターを用い上記と同様にし製造することもできる。
精錬された後、半焼成、焼成工程を行う前に0.08〜0.16%のアルカリ濃度でアルカリによる洗浄工程を行うことが好ましい。かかるアルカリ洗浄浴には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩から選ばれた化合物の水溶液を用いるが、一般にはアルカリ金属の水溶液、中でも苛性ソーダ水溶液が好適に用いられる。該化合物の濃度は0.08〜0.16wt%が好ましい。一般に、次工程の焼成温度範囲にもよるが、PTFE繊維は焼成工程に入る際、繊維表面に酸成分が残存していると焼成工程での糸切れが頻発する。従来の丸断面形状であれば、精錬工程のみでもその精錬時間を長く考慮すれば洗浄は十分である。しかしながら、本発明でいう複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有する繊維を製造する場合には、その繊維表面の凹凸に由来する広い表面積ゆえ、凹凸内部の酸成分をアルカリで中和および洗浄することが好ましい。アルカリによる洗浄は脱酸による糸切れ抑制の他に焼成具合つまり色目やフィブリル化しやすさにも影響を与える。本発明の半焼成及び焼成温度の範囲内であれば、アルカリ浴の濃度が0.08〜0.16wt%の範囲が好ましい。アルカリ浴の濃度が0.08wt%未満であると焼成時にセルロース分が分解しにくく、その結果、焼成後の繊維に分解しきれないセルロース分が多く残存し、その後の延伸がしにくくなり、延伸工程で糸切れが頻発する傾向となる。一方、アルカリ浴の濃度が0.16wt%を超えるとアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる。また半焼成・焼成工程に入る際の未焼成糸強度が弱くなり、工程通過性トラブルを発生しやすくなるので好ましくない。また、焼成時繊維内部のPTFE粒子同士の融着が強固となり、フィブリル化しにくくなるので好ましくない。より好ましいアルカリ濃度は、0.10〜0.14wt%の範囲である。
更にアルカリ浴の温度は、20℃以下が好ましい。アルカリ浴の温度が20℃を超えた場合もアルカリ濃度が高すぎる場合と同様にアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる他、半焼成・焼成工程に入る際の未焼成糸強度が弱くなり、工程通過性トラブルを発生しやすくなるので好ましくない。アルカリ浴の温度は、好ましくは15℃以下である。
本発明における、少なくとも一部に本発明のPTFE繊維を用いた布帛は、本発明のPTFE繊維とともにガラス繊維やアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾールなどと混合して作製することができる。しかし、アラミドは分解温度が500℃以上と優れているが、耐酸性が低い弱点があり、ポリフェニレンサルファイドは耐薬品性に優れるものの、融点が285℃と耐熱性がやや低い。ポリイミドの場合耐アルカリ性にやや問題があり、ポリフェニレンベンゾオキサゾールは、高強度ではあるが、市場価格が非常に高価である。ガラス繊維は分解点が700℃以上と耐熱性は問題ないが、耐アルカリ性にやや問題がある。これに対してフッ素樹脂系繊維、中でもPTFEは特定の過フッ化有機液体に299℃以上で溶けることと、溶融アルカリ金属にわずかに侵される以外は、非常に優れた耐薬品性を示し、また耐熱性も融点が327℃と高温であることから総合的に見てフッ素樹脂系繊維が最もバランスよく優れた性能を発揮する。そのため、最もフィルター用途に好適である。その混合比率としては本発明のPTFE繊維を20〜100%、好ましくは40〜100%の割合で混繊することが好ましい。本発明のPTFE繊維はそのまま布帛として使用することもできるが、以下で言うフィブリル化した布帛として使用するとより効果的である。
本発明におけるフィブリル化を有する布帛としては、フィブリル化したPTFE繊維が布帛表面の総面積の50%以上を占めることが好ましい。総面積の50%未満しか占有しない場合は、0.5μm以下のダストの捕集効率が低い布帛しか得ることができないからである。
次に、かかる布帛の製造方法について説明する。すなわち、かかるフィブリル化したPTFE繊維からなる布帛は、フィブリル化していないPTFE繊維から構成される布帛の表面に、物理的衝撃を加えることで、該表面にフィブリル化したPTFE繊維を生成させる手段を用いて製造するものである。
本発明に係る布帛では、表面に最小繊度が1.1dtex以下、更に0.1dtex以下であるフィブリル化したPTFE繊維があり、表面から内部に向かって繊度の大きいPTFE繊維の割合が漸次に増大する布帛が好ましい。なぜなら布帛の厚み方向で全体にわたってフィブリル化したPTFE繊維からなる布帛は、構成繊維が全て細く分割してしまったため、布帛の強度が低下してしまい好ましくない。また、布帛表面でフィブリル化したPTFE繊維と共に、布帛内部にフィブリル化せずに存在する異形断面を保ったPTFE繊維がダストの捕集効率を向上させる。ここでいうフィブリル化していないPTFE繊維からなる布帛は、PTFE短繊維からなるウェッブをニードルパンチで一体化したフェルトであれば、問題なく用いることができる。またここでいうフェルトにおいては、PTFE繊維の短繊維からなるウェッブと、耐熱性繊維のマルチフィラメントやモノフィラメントからなる織物からなる基布を積層したものでもよく、あるいはまた、フッ素樹脂系繊維(4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフロロアルコキシ基共重合体(PFA)または4フッ化エチレン−オレフィン共重合体(ETFE)など)からなる織物や編み物単体でも問題なく用いることができる。さらにまた、フィブリル化していないPTFE繊維からなる布帛は、PTFE繊維からなるウェッブ単体でもよく、あるいはまた、このウェッブをカレンダーした布帛や、樹脂を付着して硬化したレジンボンド不織布でも問題なく用いることができる。
本発明における物理的衝撃は、高圧ジェット水流処理であることが好ましい。なぜなら高圧ジェット水流処理をすることで、例えばニードルパンチなどによって発生する針穴や、繊維の断裂が発生するのを最小限に抑えて、物理的衝撃を与えることができるためである。
ここでいう高圧ジェット水流処理は3MPa以上の処理圧が好ましい。丸断面のフッ素繊維と比べ、本発明で得られる異形繊維を用いることで処理圧を3MPaまで低く設定してもフィブリルの発現が可能となり、繊維へ与えるダメージを極力抑えることが可能である。一方、処理圧が3MPa未満であると繊維がフィブリル化せず、0.5μm以下のような微少ダストの捕集効率が低い布帛しか得られないため、好ましくない。
本発明で得られる布帛はフィルター用材料または微粒子封止用材料用途に好適に用いることができる。本発明の布帛によれば、飛灰や粉塵を捕集するフィルターのみならず、さらには、液体用の濾過フィルターでも問題なく用いることができ、更には微粒子封止材料として、例えばプリンターのトナー封止材料などとして使用することができるが、これらの用途に限定されるものではない。
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、布帛の各物性の測定方法は以下の通りである。
(1)繊度ばらつき
フィブリル化させる前のPTFE延伸糸からサンプルをランダムに抜き取り下記の通り包埋法により断面写真を撮影する。その上でそれぞれの断面写真を切り取り重量を測定することで断面積を求め、本発明のPTFE繊維は比重2.30g/cm3を用いて繊度を計算した。ランダムに30本測定し、平均値を算出する。その平均値と最小繊度、最大繊度の大きい方のばらつきの程度を測定した。
<包埋法>
サンプル糸を成形枠にやや張力を加えセロテープで固定する。200℃で加熱してパラフィンとステアリン酸の混合物を溶融させる。130℃になったらエチルセルロースを少量ずつ加え、攪拌しながら1時間保温して泡を抜く。100℃まで落とした後、成形枠に流し込む。冷却・固化させた後、適当な大きさのブロックに切り分ける。ミクロトームを用いて、ブロックから切片(厚さ7μm程度)を切り出し、スライドグラスの上に載せる。このとき、スライドグラス上にアルブメンを薄く塗り延ばしておく(アルブメンは卵の白身とグリセリン等量、防腐剤としてサリチル酸ソーダ1wt%添加したもの)。70℃に保った乾燥機に20分放置して熱処理を行い乾燥させた後、酢酸イソアミル浴に約1時間浸し、脱包埋を行ない、その後風乾する。スライドグラスの上に流動パラフィンを一滴つけ、空気が入らないようにカバーグラスを静かに載せ、顕微鏡を用いて写真を撮影する。
(2)カード通過性
室内温度30℃、相対湿度60%とし、カード機に2g/m〜10g/mの原綿を投入しつつ、ローラー通過時のシリンダーローラーの巻き付き、ネップの発生を観察し、以下のように評価した。
○:良好、△:やや悪い、×:非常に悪い
(3)布帛表面の総面積に占めるフィブリル糸の割合(以下フィブリルの割合と記述)
布帛の表面写真を撮影し、フィブリル糸の占める面積をよみとった。撮影倍率は50倍で、ビデオハイスコープを用いた。
(4)最小繊維径
布帛の断面写真を電子顕微鏡で撮影し、最も繊維径の細い繊維を選択し、該繊維の繊維直径をよみとる。撮影倍率は1000倍とする。
(5)捕集効率
捕集効率は大気塵計数法により実施した。ダスト粒径は0.5μm以下、濾過風速は1.0m/分で、パーティクルカウンターを使用して、大気中のダストの捕集効率を測定したデータである。
実施例1〜5
ビスコース熟成度(塩点)8.0、セルロース濃度9.0%、アルカリ濃度6.2%のビスコース50重量%と濃度60%のPTFE水分散液50%を混合した後、10Torrの減圧下で脱泡して重合体濃度30%の成形用原液を得た。原液中のポリマーに対するPTFE樹脂含有量は87.0%であり、30℃における原液粘度は132ポイズであった。この原液を複数の凸部を有する成型用口金に導き、表1に示した断面形状、繊度になるように紡糸口金を変更して凝固浴中に吐出した。凝固浴は硫酸濃度10.0%、硫酸ソーダ濃度11.0%の混合水溶液であり、温度は10℃であった。次いで凝固した未焼成糸を温度80℃の温水で洗浄した後、濃度0.12%の苛性ソーダ水溶液を入れたアルカリ浴中に導いて精練し、酸成分を完全に除去した。その後、アルカリ浴から導かれた未焼成糸をニップローラで絞った後、4%のリラックスを与えながら280℃の温度で半焼成を行ない、次いで350℃に保った焼成ローラを用いて焼成を行い30m/分の速度で引き取り、未延伸糸を得た。次いで未延伸糸は350℃の温度で熱延伸され、表1に示す異形断面PTFE延伸糸を得た。
得られた異形断面PTFE延伸糸を合糸し、捲縮を掛けカットして7.7dtex×70mmのPTFE異形断面ステープルを得た。該ステープルをカーディング処理してウェッブを得た。しかる後にPTFEマルチフィラメントよりなる織物(東レ・ファインケミカル製TOYOFLON#4300)の表裏両側に上記のウェッブを積層して、350本/cm2でニードルパンチ処理して一体化し、フェルトを得た。このフェルトの表面と裏面から3回ずつ処理水圧15MPa、送り速度5m/minでウォータージェットパンチ処理し、表面のフィブリル化した布帛を得た。該繊維の繊度、繊度ばらつき、カード通過性、該布帛のフィブリルの割合、最小繊維径、捕集効率を測定した結果を表1に示す。
比較例1
PTFEステープルファイバー(東レ・ファインケミカル社製TOYOFLON7.4dtex×70mm;丸断面)を用い実施例1と同様にして布帛を得た。測定結果を表1に合わせて示す。
比較例1と比べ、本発明の異形断面PTFE繊維を用いて作製したフィブリル化を有する布帛は、フィブリルの割合が多く、最小繊維径は小さく、その結果ダストの捕集効率も高いことが分かる。但し10葉では凸部が小さく丸断面に近づくためかフィブリルの割合が低下し、最小繊維径も大きくなる傾向にあった。しかし、捕集効率は比較例1を上回っていた。
実施例6、比較例2
実施例1および比較例1で得られたフィブリル化していないフェルト布帛についてもフィブリル化を行わないままで、布帛のフィブリルの割合、最小繊維径、捕集効率を測定した。結果を表1に示す。
フィブリル化していない布帛である実施例6と比較例2を比べると、本発明の異形断面PTFE繊維を用いた実施例6の方がダスト捕集効率は遙かに優れていた。また、丸断面繊維をフィブリル化して得た布帛(比較例1)とほぼ同レベルの捕集効率であった。
Figure 0004240387
実施例7〜11
実施例7〜11は、繊度を変更した以外は実施例1と同様にして製糸を行った。結果を表2に示す。実施例7〜10では、実施例7の繊度が1.5dtex未満の1.2dtexであり、繊度ばらつきが10%程度となりカード通過性がやや悪い状態となった。また、実施例11で繊度が18.0dtexを超えた20.0dtexの際、最小繊維径がやや大きくなり、ダスト捕集効率もやや低い傾向となった。また、太繊度のため焼成不足気味で延伸時の糸切れが見られる傾向となった。
Figure 0004240387
これらの結果から明らかなように、本発明で得られる複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維を用いて作製した布帛もしくはフィブリル化させた布帛は微小なダストの捕集性に優れていることが分かる。

Claims (5)

  1. マトリックスとしてビスコースを用い、ポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%に制御した凝固浴槽に複数の凸部を有する口金から吐出し、紡糸、精練した後、焼成ローラを用い、1〜5%のリラックスを与えながら250〜320℃の半焼成工程を経た後に、320〜380℃の温度で焼成を行うことを特徴とする、ポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
  2. 接触タイプの焼成ローラを用いることを特徴とする、請求項に記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
  3. 半焼成、焼成工程を行う前に0.08〜0.16%のアルカリ濃度でアルカリによる洗浄を行う洗浄工程を有することを特徴とする、請求項またはに記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
  4. 製造されるポリテトラフルオロエチレン繊維が、3〜8の凸部をもつ繊維断面、または扁平の繊維断面を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
  5. 製造されるポリテトラフルオロエチレン繊維が、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、その繊度ばらつきが該繊度の10%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
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