JP4226131B2 - 耐汚染性、洗浄性、防眩性に優れたステンレス鋼帯の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐汚染性、洗浄性および防眩性に優れたステンレス鋼帯の製造方法、より詳述すれば、塵埃が付着し難くまた付着しても除去し易く、かつ、汚れが目立ち難い表面仕様のダル仕上げ材であって、耐汚染性、洗浄性および防眩性に優れたステンレス鋼帯の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の生活環境の変化に伴って、ステンレス鋼板は、意匠材として、建材、車両などの外装材に多用されるようになった。特に、最近は更なる生活環境の向上が求められ、例えば反射光による交通障害が問題となる移動物体、建築物の屋根、外装材等には、ダル加工を施した防眩性ステンレス鋼板が選択される。
【0003】
しかし、電車、自動車などの車両の交通量が激しく、また工業地帯からの粉塵の多い都市部では、塵埃の浮遊量も多く、防眩用に微細な凹凸を付けた意匠材としてのダル材では、浮遊塵埃の付着による汚れが付き易く、また一旦付着した汚れの洗浄に苦心しているのが現状である。
【0004】
これらの問題の解決のために、これまで種々の改善案が提案されているが、いずれも十分な性能を発揮するには至っていないのが現状である。これらの提案の主なものは次の通りである。
【0005】
特公平2−2928号公報には、冷間圧延→研磨 (粗) →研磨 (細) →光輝焼鈍→調質圧延の各工程を経る、付着物の除去が容易で汚れの目立たない、耐汚染性に優れた研磨仕上げステンレス鋼帯の製造方法が提案されている。
これは研磨品の提案であって、冷間圧延後の研磨は研磨目の粗さの均一性が保ちにくく、実生産上で製造コストの上昇は免れない。
【0006】
また、特公平7−90247 号公報には、冷間圧延→ダル圧延 (十点平均粗さ:10〜30μmRz 、圧下率:3〜30%) →光輝焼鈍の各工程を経た、防眩性、光沢及びクリナビリティに優れたステンレス冷延鋼板の製造方法が提案されている。
【0007】
これは通常の酸洗処理による微細な凹凸の出現を防止するため光輝焼鈍を実施しているが、冷間圧延後のダル圧延も圧延ロールの摩滅が激しく、平均的な凹凸の転写の維持が困難で製造コスト的にも問題がある。また、この方法では、クリナビリテイに主眼を置いたばかりに、防眩性をかなり犠牲にしている。
【0008】
さらに、特開平1−118301号公報には、▲1▼冷間圧延→非酸化性雰囲気焼鈍→ダル圧延 (算術平均粗さ:0.5 〜4.5 μmRa)→非粒界腐食酸洗、▲2▼冷間圧延→ダル圧延 (算術平均粗さ:0.5 〜4.5 μmRa)→非酸化性雰囲気焼鈍→非粒界腐食酸洗、または▲3▼冷間圧延→非酸化性雰囲気焼鈍→非粒界腐食酸洗→ダル圧延 (算術平均粗さ:0.5 〜4.5 μmRa)の各工程を経た、耐指紋汚れ性が良好なダル仕上げオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法が提案されている。
この方法も、前記と同様に非粒界腐食酸洗で微細な凹凸を防止しようとするものである。
【0009】
次に、特開平4−294805号公報には、ダルロールの製造に際し、投射材にグリッドおよびショット材を用い、その形状や粒度を考慮することで、平滑な凹凸を有したダルロールとし、このロールで汚れの付き難い平滑な凹凸の転写を狙った、ダルロールの製造方法及びダル仕上げ鋼板の製造方法が提案されている。
【0010】
さらに、特開平6−182401号公報には、冷間圧延→焼鈍・酸洗→ダル圧延→大気焼鈍、又は光輝焼鈍→酸洗の各工程から成る、防眩性、色調均一性及び耐食性に優れたダル仕上げステンレス鋼板の製造方法を提案している。
【0011】
これはダル圧延による微細なかぶりを除去する目的で酸洗を実施しており、工程の増加による製造費増とダル圧延後に酸洗を実施することによる製品歩留の低下は免れない。
また、色調の均質化を狙った方法としては次のような従来技術が挙げられる。
【0012】
特開平6−184774号公報の開示するダル仕上げステンレス鋼帯の色調制御方法は、ダル圧延→焼鈍・酸洗又は酸洗→鋼帯表面の反射光を連続測定し、酸洗条件を制御するものであり、これは色調の制御に関するもので、耐汚染性には触れていない。
【0013】
特開平7−256303号公報の開示する色調の均一性に優れたダル仕上ステンレス鋼板の製造方法は、ダルロールで調質圧延をする前にステンレス表面を研磨加工し、素材表面の均質化を計り、色調の均質化を狙ったもので、その目的が耐汚染性とは異なる。
【0014】
特開平9−85306 号公報の開示するダル仕上ステンレス鋼板の製造方法は、エッチングによるダル加工により表面粗さの均一化を狙ったもので、従来からあるダルロールの製造方法の一つでエッチング加工に特徴がある。
【0015】
また、特開平9−87868 号公報の開示するダル仕上ステンレス鋼板の製造方法は、ダル加工の前後に強酸洗を実施し、製造ロット間の色調の均一化を主眼にしたものである。
【0016】
このように従来にあっても、種々の提案はあるが、特に今日強く求められている耐汚染性と洗浄性および防眩性をともに満足するステンレス鋼板で経済的なものは見い出されていない。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、可能な限り通常の製造設備・条件を使用して、耐汚染性と洗浄性および防眩性を兼ね備えたステンレス鋼板を安価に、かつ簡便に製造する経済的な方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
ところで、防眩性と耐汚染性は基本的に相反する性質である、防眩性を高めるには出来る限り鋭角的な凹凸を作り反射光を散乱させる必要がある。しかし、これは耐汚染性には極めて不利な状態である。耐汚染性を良好にするには鋭角的ではなく、出来るだけ丸みを持ち、且つ相対的に浅い凹凸で構成された表面形状を製作し、凹凸に汚れが付着し難くまた付着しても簡単に洗浄で除去できる形状を保持する必要がある。
【0019】
このように、両者を同時に満たすことは工業生産上ではある程度の限界があると考えられる。すなわち、本発明の対象とするステンレス鋼板は、その用途が意匠用の製品で数量的にはそれ程多くはなく、このための特別な製造設備を準備するのは経済的ではない状況で、可能な限り通常の製造設備を用いることで、耐汚染性と洗浄性と防眩性とを同時に満足させるステンレス鋼板を工業製品として製造するには大きな困難が予想される。
【0020】
本発明者らは、耐汚染性および洗浄性に優れた防眩性ステンレス鋼板を製造するため、ダル材の凹凸に丸みを付けることが有効なことを見い出し、特開平4−294805号公報においてグリッド−ショット投射法を提案した。この方法はかなりの効果があるものの、まだ十分ではなく、その後の種々の調査研究から、ダル加工による凹凸以外にもステンレス鋼表面に汚れが堆積する部位があることを見い出した。
【0021】
すなわち、ステンレス鋼表面に接している、つまり露出している結晶粒界が、焼鈍後の通常の酸洗で浸食されて凹状の溝に進展する。またこの時には微細な凹状の溝であっても次工程のダル加工でこの部分に力が加わって拡がり、より大きな鋭角的な凹状の溝に成長する場合がある。これらの部位は汚れが付着し易く、一旦汚れが付着すると容易に洗浄されない。そこで、これらの部位も耐汚染性、洗浄性の向上のためには、工業的に制御する必要があることが判明した。
【0022】
ここに、軽酸洗で脱スケールを完了させるとともに、鏡面仕上げロールそしてダルロールと異なった表面性状のロールを用いた調質圧延を2段に行うことで、上述のような両立の難しいと言われている防眩性と耐汚染性とを両立させたステンレス鋼板を製造できることを知り、本発明を完成した。
本発明は次の通りである。
【0023】
(1) 冷延ステンレス鋼帯を連続焼鈍、酸洗前処理、軽酸洗の各工程を経て局部的腐食の少ない平滑な表面に仕上げた後、鏡面仕上げしたロールで1パス〜複数パスの第一調質圧延を行い、次いで、ダルロールで1パス〜複数パス第二調質圧延を行い、算術平均粗さ:0.5 〜1.7 μmRaに仕上げることを特徴とする、耐汚染性、洗浄性および防眩性に優れたステンレス鋼帯の製造方法。
【0024】
(2) 前記酸洗前処理が、中性塩処理またはアルカリ溶融塩処理である上記(1) 記載の製造方法。
(3) 前記軽酸洗で脱スケールを完了させる上記(1) または(2) 記載の製造方法。
【0025】
(4) 前記ダルロールが、丸みのある凹凸を有するダルロールである上記(1) ないし(3) のいずれかに記載の製造方法。
(5) 前記ダルロールが、グリッド投射後さらにショット投射し微細な鋭角的凹凸を制御したダルロールである上記(4) に記載の製造方法。
【0026】
(6)前記ダルロールが、放電、レーザ、電子ビームあるいは化学エッチングで加工する上記(4)に記載の製造方法。
(7)前記ダルロールが、グリッド投射後ワイヤカットでその鋭角的に凸部を除去したダルロールである上記(4)に記載の製造方法。
【0027】
(8) 前記ダルロールが、投射、放電、レーザ、電子ビームあるいは化学エッチング加工したロールにさらにクロムメッキし、その鋭角的な凹凸部を丸くしたダルロールである上記(4) に記載の製造方法。
【0028】
【発明の実施の形態】
図1(a) は、本発明にかかるステンレス鋼帯の製造方法の工程図である。
【0029】
すなわち、本発明にあっては、汚れの堆積する部位である局部的・鋭角的な凹凸を、工業生産ラインの中で如何に軽減させるかに留意して、下記の工程を組合せるのである。
【0030】
冷間ステンレス鋼帯
冷間圧延ステンレス鋼帯 (冷延ステンレス鋼帯という) は、例えば慣用法により製造したものを用いればよく、特に制限されない。材質的には、一般にはオーステナイト系ステンレス鋼帯であるが、フェライト系ステンレス鋼帯であってもよい。寸法等は用途に応じて適宜選定すればよい。
【0031】
連続焼鈍
加工歪の除去、表面均質化のため大気下または酸化性雰囲気下で行うもので、これも例えば慣用法にしたがって行えばよく、本発明においては特に制限されない。一般的な焼鈍条件を例示すれば、LNG の燃焼雰囲気下で1040〜1080℃で2〜4分間かけて連続通板すればよい。
【0032】
酸洗前処理および軽酸洗
次に、連続焼鈍時に生成したスケールを除去するために酸洗を行う。従来は防眩性を付与させるために故意に過酸洗し凹凸を形成していたが、本発明では防眩性を適正な範囲内で低めにコントロールし、耐汚染性・洗浄性の改善を優先させた。つまり、酸洗の前処理を導入し、酸洗は可能な限り軽酸洗にして局部的な浸食による凹凸を制御した。好ましくは、これにより表面粗さを0.2 μmRa以下とする。
【0033】
かかる酸洗前処理は、結晶粒界の浸食防止のために行うものであって、中性塩処理やアルカリ溶融塩処理などで行うが、その内容を例示すれば、アルカリ溶融塩 (ほゞ500 ℃) または中性塩水溶液中に冷延ステンレス鋼帯を浸すことから構成され、これにより、スケール下層の難溶解性クロム酸化物を溶解性の良い低級酸化物に変化させる。
【0034】
中性塩処理としては、例えば硫酸ナトリウム液中に浸漬する処理法が挙げられ、またアルカリ溶融塩処理としては例えば水酸化ナトリウム中に浸漬する処理が挙げられる。例えば硫酸液を使った軽酸洗との組合せによって所定の表面粗さ、好ましくは0.2 μmRa 以下が確保されれば特定のものに制限されない。
【0035】
第1調質圧延 ( 鏡面ロール )
従来は酸洗後に直ちにダルロールでロール表面の凹凸を鋼帯表面に転写したが、本発明では、まず、ステンレス鋼帯表面の微細な凹凸を平滑化するため、ダル加工前に鏡面ロールを使用して第1調質圧延を施し、鋼帯表面の凹凸を平滑化する。
【0036】
すなわち、本発明によれば、前述したように、従来技術にみられる過酸洗による局部的な凹凸の部位も、汚れが堆積する全部位の中でかなり高い比率を占めることが判明した。従って、この部位の生成を制御することは耐汚染性を改善する上で極めて重要になるからである。
【0037】
第2調質圧延 ( ダルロール )
第1調質圧延に続いてダルロールを用いた第2調質圧延を行う。つまり、ロール表面に鋭角的な凹凸が形成されると、このロールで鋼帯表面にそのような凹凸を転写した場合、ステンレス鋼帯表面に鋭角的凹凸が形成され、そこが汚れの堆積部位になるので、工業的に可能な限りこれらを軽減することが重要となる。つまり、丸みのある凹凸を形成されたダルロールを用いるのである。
【0038】
本発明におけるこのような丸みのある凹凸の形成されたダルロールの調整方法はいくつか考えられるが、代表的には次の(i) ないし(iv)が例示される。
(i) グリッド投射後さらにショット投射し微細な鋭角的凹凸を制御したダルロール。
【0039】
(ii)放電、レーザ、電子ビームあるいは化学エッチングで加工した微細な鋭角的な凹凸を制御したダルロール。
(iii) グリッド投射後ワイヤカットでその鋭角的な凸部を除去したダルロール。
(iv)投射、放電、レーザ、電子ビームあるいは化学エッチング加工したロールにさらにクロムメッキし、その鋭角的な凹凸部を丸くしたダルロール。
【0040】
このように、従来は防眩性を最重要視し粗いグリッド投射主体でダルロールを製作していたが、本発明では、グリッド投射後にショット投射を実施、グリッド投射後にワイヤカットを実施、放電加工およびレーザ加工を実施、またはこれらにメッキ加工を実施してダルロールの凹凸を丸みのある凹凸に変換させる方法を採った。
【0041】
仕上げ表面粗さ
相反する性能である耐汚染性・洗浄性と防眩性とを同時に満足させることが必要である。つまり算術平均粗さが1.7 μmRa超だと防眩性は良好だが、耐汚染性・洗浄性は悪化し、逆に算術平均粗さが0.5 μmRa未満になると耐汚染性・洗浄性は極めて良好になるが、防眩性は機能し難くなる。そこで、両者をバランス良く調和させるためには、ステンレス鋼帯表面の算術平均粗さを0.5 〜1.7 μmRaに調整する。
【0042】
仕上げ表面粗さはそれまでの加工履歴によって定まるが、最も影響を与えるのはダルロールによる第2調質圧延であって、ダルロールの表面性状、圧下率、パス数を変更することで調整可能である。
【0043】
これらの一つ一つの手段、工程の採用によっても耐汚染性および洗浄性の改善にかなりの効果が上がるものの、それらを著しく向上させるには至らず、これら全ての工程、つまり酸洗前処理、軽酸洗、鏡面ロールを使った調質圧延による平滑化および丸みのある凹凸が形成されたダルロールによる調質圧延を組合せて採用していくことが極めて重要になる。
【0044】
次に、本発明において上述のように各処理工程を限定した理由についてさらに具体的に説明する。
本発明では、大気焼鈍後のステンレス鋼帯表面に酸洗で生成される局部腐食を可能な限り制御するための前処理、すなわち、中性塩処理やアルカリ溶融塩処理等を採用し可能な限り軽酸洗で脱スケールを完了させ、その表面を可能な限り平滑に仕上げるのである。
【0045】
この理由は、酸洗による局部腐食の凹部にもかなり高い比率で汚れが蓄積し易く、一旦ここに汚れが付着すると洗浄による除去が極めて困難なことがこれまでの調査で判明したからである。
【0046】
その上更に、汚れが蓄積し易いミクロ的な凹凸を制御するため、ステンレス鋼生産に通常用いる鏡面ロールで1パスまたは複数パスの調質圧延を施し、通常の鋼帯表面に存在する微細な凹凸、および軽酸洗で局部的に腐食された微細な凹部を平滑にする。
【0047】
このように、本発明にあっては、従来の過酸洗による防眩性向上を目指した製造法から、粒界溝の形成を十分制御する方法へ変更した。すなわち、軽酸洗でステンレス鋼表面の脱スケールを完了させるために、前工程に中性塩処理やアルカリ溶融塩処理等の酸洗前処理を導入した。これにより、従来はダル材としてのステンレス鋼のより好ましい算術平均粗さが0.3 μmRa以上であったのを、本発明にあっては0.2 μmRa以下に制御することができる。
【0048】
この場合でも本発明にあっては、僅かな粒界溝を平滑にするために、またステンレス鋼表面に通常存在する微細な凹凸を工業的に有効に平滑にするため、例えば、最大高さ1.5 μmRy以下に、望ましくは1.5 μmRy以下に仕上げた鏡面ロールで、最終製品の要求仕様によっても異なるが、1パス以上〜圧下率:4%の調質圧延を行い、ダル調質圧延前のステンレス鋼表面の算術平均粗さを、例えば、0.15μmRa以下、望ましくは0.10μmRa以下に平滑化する。
【0049】
この後にダルロールによる調質圧延を行うが、この際に用いるダルロールも、グリッド投射後にショット投射でダルロール表面の微細な鋭角的凹凸を十分に除去したり、あるいはグリッド投射後の鋭角的な凸部をワイヤーカットしたロールを用いて行う。
【0050】
あるいは、放電加工、レーザ加工、電子ビーム加工、または化学エッチング加工等で製作したダルロールも鋭角的凹凸が出来難いので、極めて有効である。
【0051】
これらのダルロールの表面粗さは、最終ステンレス鋼帯の要求仕様を考慮しながらその表面粗さをコントロールする必要がある。
この場合のダルロールの製作方法について以下詳述する。
【0052】
従来から、グリッド、ショット等の投射材あるいは放電加工、CO2 やYAG 等を用いたレーザ加工、電子ビーム加工等の高密度エネルギービームによる凹凸を形成する方法、あるいは化学エッチング加工法があり、本発明においてもそれらを単独で、あるいは適宜組合せて用いることができる。
【0053】
まず、特開平4−294805号公報に提案したグリッド−ショット投射法も有効である。また、グリッド投射後にワイヤカットによりダルロール表面の急峻な凸部の鋭角的先端を除去することがステンレス鋼製品の耐汚染性に効果的であることが判った。
【0054】
これらの場合、ダルロールの表面粗さは、最終製品の耐汚染性、洗浄性と防眩性とを両立させるために最大高さを5〜38μmRy、望ましくは7〜30μmRyにコントロールすることが重要である。
【0055】
この理由は、最終のステンレス鋼表面の算術平均粗さを、前述したように、0.5 〜1.7 μmRaに仕上げるために必要なダルロールの表面粗さである。この場合の算術平均粗さ0.5 μmRaは必要最小限の防眩性を確保するもので、また算術平均粗さ1.7 μmRaは最小限の耐汚染性および洗浄性を確保するために必要な範囲である。
【0056】
レーザ加工や電子ビーム加工等のように高密度エネルギを用いたダル加工を採用する場合には、クレータの間隔も重要になる。ここで言うクレータは一回のエネルギ投射で形成されるクレータ状の凹凸で、クレータの直径をD、クレータ間隔をLとすると、防眩性の観点からD/L>1が望ましい。また、高密度エネルギ・ダル加工の後に放電加工や投射加工を付与すると防眩性、意匠性を向上させる上で効果的である。これらのダルロールの表面粗さは、最終製品に要求される仕様、例えば、製品硬さ、表面粗さ、防眩性および耐汚染性によっても異なってくるが、最高高さ:5〜34μmRy、出来れば7〜28μmRyにコントロールするのが望ましい。
【0057】
放電加工によるダルロールの場合、その特徴から投射加工により形成されたダルロールの場合より丸みを帯びた凹凸を形成し易いが、凹凸間隔が狭くなると耐汚染性が劣化し易くなる。そこで、一定距離内のピーク数を示す局部山頂の平均間隔を0.050 〜0.250 mmSm (基準長さ:0.8 mm、切断レベルc:0.5 μm) 、好ましくは0.065 〜0.125 mmSmとする。また最大高さは、製品の要求仕様によって異なるが、製品の耐汚染性、洗浄性および防眩性の観点より5〜34μmRy、望ましくは最大高さ:7〜28μmRyがよい。化学エッチング加工も放電加工と同様であり、その条件は放電加工と同様である。
【0058】
また、上記の条件で加工されたダルロールに硬質Crメッキを施すと、ダルロールの耐摩耗性を向上させると共に急峻な凹凸を丸くする効果も認められ耐汚染性、洗浄性に有効であることが判った。この場合、急峻な突起部を少なくするにはメッキ膜厚は7μm以上が望ましい。
【0059】
また、下地にNiメッキを施すことにより急峻な凹凸を滑らかにする効果が期待できる。この場合のロールの最大高さは、5〜38μmRyの上下限が、防眩性と耐汚染性および洗浄性を確保するためには好ましい。
【0060】
上述したダルロールを用いてダル調質圧延を実施するが、ステンレス鋼帯の算出平均粗さが0.5 〜1.7 μmRa、望ましくは0.7 〜1.4 μmRaになるように調整する。この場合の調質圧下率は、最終製品の要求仕様によっても異なるが1パス以上〜圧延率:4%で、鏡面ロールとダルロールの圧下率を組み合わせ、製品の硬さや表面粗さ等を考慮し製品仕様を満足するように調整する。
【0061】
この算術平均粗さは、前述した通り、0.5 μmRa未満では耐汚染性・洗浄性は良好になるが、防眩性に劣り、1.7 μmRa超になると防眩性は良いが耐汚染性・洗浄性が悪くなるので、0.5 〜1.7 μmRaを確保するのが防眩性、耐汚染性および洗浄性を同時に確保するために必要な条件となる。
【0062】
以上を要するに、これまで、防眩性ステンレス鋼に関する発明は種々なされているが、耐汚染性、洗浄性に優れた商品を現状設備で工業生産的かつ経済的に達成することには困難があった。
【0063】
しかしながら、本発明によれば、耐汚染性・洗浄性についての十分な調査・検討の結果を基に、既存の設備を有効に使用することによって、耐汚染性・洗浄性を大幅に向上させることができるのである。
【0064】
【実施例】
本例では、図1(a) に示す本発明にかかる製造工程にしたがってSUS 304 冷延ステンレス鋼帯の製造を行った。比較のために、図1(b) に示す製造工程の従来例をも同時に実施した。
【0065】
図1(a) と図1(b) とを比較すると、本発明においては、酸洗前処理を行っていること、調質圧延を第1、第2調質圧延と2段に分けて行っていることで、従来例と異なっている。
【0066】
前述したように、本発明にかかる方法によれば、可能な限りの軽酸洗で脱スケールを完了させるため中性塩やアルカリ溶融塩でステンレス鋼帯の表面スケールを前処理し、次いで、鏡面ロール (一般のステンレス鋼帯の生産に用いるもの) による調質圧延を行いステンレス鋼帯の表面の平滑さを確保している。その後に、ダルロール (前述した丸みのある凹凸でかつ最大高さを調整したもの) による第2ので調質圧延を行って、ステンレス鋼表面の算術平均粗さを0.5 〜1.7 μmRaに調整する。
【0067】
しかし、従来は防眩性が主な目的であったので出来るだけ鋭角的な凹凸を作り出すため、強酸洗でステンレス鋼表面を荒らし、かつグリッド投射で製作されたダルロール (鋭角的な凹凸の粗いもの) を使用してきた経緯があった。得られた最終ステンレス鋼帯の表面粗さも粗いものが多かった。
本発明例の処理条件を以下にまとめて示す。
【0068】
酸洗前処理:
ほゞ500 ℃に加温されたアルカリ溶融塩中に2〜4分間ステンレス鋼帯を浸すことにより、スケール下層の難溶解性クロム酸化物を溶解性の良い低級酸化物に変化させた。
【0069】
軽酸洗:
硫酸液を使った非結晶粒界酸洗で、表面の脱スケール酸洗を行った。
なお、従来例での「強酸洗」はフッ酸5.0 %、硝酸11%の新しく調製した酸により行った。
本発明に用いたダルロールの製作方法および得られたロールの表面粗さについては表1にまとめて示す。
【0070】
【表1】
【0071】
これらのダルロールを用いて、表2に示す製造方法により製造したステンレス鋼帯の耐汚染性および洗浄性の試験を実施した。表中、酸洗の欄の「強」、「軽」は、従来例の強酸洗、本発明の軽酸洗をそれぞれ示す。調質圧延は第1( 鏡面ロール) 、第2( ダルロール) のいずれの場合も圧下量1.0 %で1パスで行った。
これらの結果をまとめて表2に示す。なお、防眩性はダルロールによるダル仕上げにより表面粗さが0.5 μmRa 以上となっており、いずれも良好であった。
【0072】
【表2】
【0073】
耐汚染性および洗浄性を判断するため、ダル材の表面に付着した汚れや都市部の浮遊粉塵の分析を実施した。これらの結果から代表的な汚れとして、炭素粉を含んだ煤汚れ液、脂汚れの牛脂や尿素を含んだ液を選んだ。
【0074】
これらの液にステンレス試片を浸漬→乾燥→純水噴霧→乾燥→浸漬を繰り返して、通常の環境における汚れのサイクルを模倣した後で各段階での汚れ程度を調べた。
その結果、耐汚染性である汚れの付着と汚れの洗浄性にはある程度の相関性があることが判った。
【0075】
そこで、前述の汚れサイクルを実施した試料について、まず光沢度:I0 値を測定した。その後、洗剤で洗浄し、再度試片の光沢度を測定し、その両者の差:ΔI値を算出した。ここで、汚れの種類による差はあまり無く、ΔI/I0 値で洗浄性を表した。すなわち、ΔI/I0 値が小さい程、耐汚染性および洗浄性が優れていることになる。ΔI/I0 ≦3.0 を合格とする。
【0076】
これらの結果から明らかなように、ダル材の耐汚染性および洗浄性は、
(1) ダル処理前での調整が極めて重要になる、すなわち、酸洗の前処理および軽酸洗の実施により、局部的な腐食による表面凹凸を軽減すること、および、鏡面ロールを用いてステンレス鋼に通常存在する表面凹凸を平滑にすることが耐汚染性や洗浄性を左右する重要な要素になる。
【0077】
また、
(2) ダル処理に用いるダルロールの表面は出来る限り局部的、鋭角的な凹凸の生成を制御することが肝要で、この目的に添うため投射材による二段投射、投射後のピークカット、放電加工、レーザ加工および電子ビーム加工等が有効で、かつこれらのメッキ処理も凹凸を丸めたり耐久性を付与できるので有効な手段となる。かつ、ステンレス鋼帯表面に転写された凹凸の粗さを適当な範囲にコントロールする必要がある。
【0078】
(3) 理想的な方法で製造してもステンレス鋼帯の表面粗さが大き過ぎると耐汚染性は劣る。また、小さ過ぎるとダル材としての意匠性、防眩性に相応しくない。本発明では、そのために表面粗さを算術平均粗さ=0.5 〜1.7 μmRaに規定する。
【0079】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、耐汚染性および防眩性のいずれにも優れたステンレス鋼板が、従来の設備をそのまま使用することで、簡便な手段でもって製造でき、その実用上の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a) は、本発明例の、および図1(b) は従来例の、それぞれステンレス鋼帯の製造方法の工程図である。
Claims (8)
- 冷延ステンレス鋼帯を連続焼鈍、酸洗前処理、軽酸洗の各工程を経て局部的腐食の少ない平滑な表面に仕上げた後、鏡面仕上げしたロールで1パス〜複数パスの第一調質圧延を行い、次いで、ダルロールで1パス〜複数パス第二調質圧延を行い、算術平均粗さ:0.5 〜1.7 μmRaに仕上げることを特徴とする、耐汚染性、洗浄性および防眩性に優れたステンレス鋼帯の製造方法。
- 前記酸洗前処理が、中性塩処理またはアルカリ溶融塩処理である請求項1記載の製造方法。
- 前記軽酸洗で脱スケールを完了させる請求項1または2記載の製造方法。
- 前記ダルロールが、丸みのある凹凸を有するダルロールである請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。
- 前記ダルロールが、グリッド投射後さらにショット投射して微細な鋭角的凹凸を制御したダルロールである請求項4記載の製造方法。
- 前記ダルロールが、放電、レーザ、電子ビームあるいは化学エッチングで加工する請求項4に記載の製造方法。
- 前記ダルロールが、グリッド投射後ワイヤカットでその鋭角的な凸部を除去したダルロールである請求項4に記載の製造方法。
- 前記ダルロールが、投射、放電、レーザ、電子ビームあるいは化学エッチング加工したロールにさらにクロムメッキし、その鋭角的な凹凸部を丸くしたダルロールである請求項4に記載の製造方法。
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