JP4224238B2 - 陰極およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温動作が可能で、酸化トリウムを使用しない陰極およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、IVa族元素の酸化物入り高融点金属からなり、電子放出特性が改良された陰極およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
放電管用陰極、とくに高輝度用あるいは高出力用の陰極としては、酸化トリウム入りタングステン陰極が一般に用いられている。この陰極は、タングステン粒界中に酸化トリウム(ThO2)を最大で5wt%程度まで分散させ、これを転打・線引によりその密度を本来のタングステン金属の密度(19.3g/cm3)近くまで上げ、かつ、繊維状組織とした緻密質体からなっている。ここに転打・線引とは、高温で叩きながら延ばし棒状あるいは線状にする方法を意味する。
【0003】
この転打・線引による繊維状組織化により、機械的強度が向上するばかりでなく、陰極の特性としても有利になる。すなわち、この酸化トリウム入りタングステンは、タングステンとの接触還元作用により生じたトリウムが陰極表面で単原子層を形成することにより、仕事関数を下げ、良好な電子放出特性を実現しているが、この転打・線引によって繊維状組織化することにより、酸化トリウムは薄く長く引き延ばされタングステンとの接触面積が大きくなる。大きい接触面積は、タングステンとの接触還元を促進するので、電子放出特性の改善に寄与する。なお、この転打・線引は通常1600℃〜1700℃程度で行われている。さらに、この繊維状組織は、トリウムの陰極表面への移動(マイグレーション)が主に粒界表面を通じて行われていることから、陰極内部から表面へのトリウムの移動にとって、良好なパスを形成する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、高輝度用または高出力用の陰極としては、酸化トリウム入りタングステン陰極が一般に用いられ、良好な電子放射特性が得られているが、酸化トリウムのトリウムは、放射性物質であり、廃棄や取扱には、厳重な注意が必要になるという問題がある。とくに、環境保全が重視されている咋今においては、製品の寿命が来てもそのまま廃棄することができず、代替材料が望まれている。
【0005】
このような問題を解決するため、本発明者らは、金属とその酸化物との蒸気圧差がトリウムと酸化トリウムと同程度のものという観点から、酸化トリウム入りタングステンの代替材料として、酸化ジルコニウム入りタングステンや酸化ハフニウム入りタングステンなどの陰極材料を開発し、特願2000−262091号により開示している。これらの陰極材料もまた、タングステン粒界中に酸化ジルコニウムあるいは酸化ハフニウムなどを分散させ、転打・線引により作製される。
【0006】
しかし、これら酸化ジルコニウムあるいは酸化ハフニウムなどの分散状態は、酸化トリウムのそれと比較すると大きく異なっている。本発明者らは、鋭意検討を重ねてその原因を調べた結果、酸化ジルコニウムなどの場合は、酸化トリウムと比較すると1600℃〜1750℃での転打・線引が充分に行われず、繊維状組織化が充分に行われていないことに原因があることを見出した。
【0007】
すなわち、転打・線引の工程において、前述の酸化トリウムは、タングステンとの接触還元により一部トリウムとなり、そのトリウムと酸化トリウムとが、約1700℃で液相と固相の混在状態になる。この固液混合状態の存在により、酸化トリウムは比較的、転打・線引を容易に行える。一方、酸化ジルコニウムあるいは酸化ハフニウムなどは、固相の一部に液相が混在する温度が2000℃を超え、通常の転打・線引の温度である1600℃〜1750℃前後では、固相のみであり、かつ、液相が生じる温度より低いので、非常に固く、転打・線引の際には粒子のまま止まり、これがピン止め(繊維状組織が延伸されず、妨害物で寸断された状態)となって線引を困難にし、分散が充分に行われないことに原因があることを見出した。なお、転打・線引温度をさらに上げることは、改善策の一つであるが、装置および作業の点で現実的ではない。
【0008】
このように、酸化ジルコニウムおよび酸化ハフニウム入りタングステンなどからなる陰極は、酸化トリウム入りタングステン陰極と比較すると、製作工程での転打・線引が充分でないため、繊維状組織化が不充分で、酸化ジルコニウムおよび酸化ハフニウムの分散状態が劣る。このため、タングステンとの接触還元作用が不充分で、放電時の電子放出特性が最大限度引き出されていないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、酸化トリウム入りタングステン陰極に代って、酸化ジルコニウムや酸化ハフニウムなどに代表されるIVa族元素の酸化物入り高融点金属からなる陰極を用い、電子放出材料の分散状態を改善し、電子放出特性を改善した陰極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明による陰極は、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物が、高融点金属基体中に含まれることを特徴としている。
【0011】
この構成にすることにより、たとえば酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの共晶点の場合、1710℃程度と比較的低く、比較的低い温度で固液混在の状態にすることができる。その結果、1600〜1700℃程度の温度で転打・線引を行うことにより、タングステンなどの高融点金属の粒界は繊維状組織となり、電子放出材料(エミッタ材)となる酸化ジルコニウムは、その粒界に沿って分散し、また、多孔質高融点金属基体中に含浸させる場合でも、隙間なく含浸させることができる。その結果、電子放出材料と高融点金属との接触面積が増大し、高融点金属との還元作用を増大させ、また、繊維状組織はその表面が前述の還元により生じた、ジルコニウムの容易な移動経路となるので、陰極表面への電子放出材料供給を増やし、電子放出特性を非常に向上させることができる。
【0012】
具体的には、前記共融混合物に含まれる前記金属酸化物が、酸化アルミニウムであり、前記IVa族元素の酸化物が、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムであることが好ましい。前記共融混合物が、多孔質高融点金属体に含浸される構造であっても良い。
【0013】
本発明による陰極の製造方法は、高融点金属粉末に、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物を、該共融混合物の濃度が1〜10wt%の濃度範囲で分散させ、プレス成形して燒結し、該プレス成形して燒結した高融点金属を、略前記共融混合物の共晶点の共晶温度から1900℃の温度範囲で転打し、前記共融混合物を含む高融点金属基体を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明による陰極の製造方法は、多孔質高融点金属基体に、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物を含浸させ、前記共融混合物を含む高融点金属基体を形成することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明による陰極の製造方法は、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物を含浸させた多孔質高融点金属基体を、略前記共融混合物の共晶点の共晶温度から1900℃の温度範囲で転打し、前記共融混合物を含む高融点金属基体を形成することを特徴とする。
【0017】
記共融混合物を含む高融点金属基体を形成した後、真空加熱処理を行い、該高融点金属基体表面から前記酸化アルミニウムを蒸発除去することが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
つぎに、図面を参照しながら本発明の陰極およびその製造方法について説明をする。本発明による陰極は、図1にその一実施形態である、放電管用陰極の側面説明図が示されるように、金属酸化物としての酸化アルミニウムと、IVa族元素としてのジルコニウムの酸化物との共晶点またはその近傍の組成における共融混合物が、たとえばタングステンなどの高融点金属基体中に含まれる材料により形成されている。この陰極1は、たとえば酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムとの共融混合物が、高融点金属を含んだ全体に対し、1〜10wt%程度タングステン中に入れられたもので、転打・線引によりタングステン金属の密度と同程度の密度を有する緻密体に形成されている。
【0019】
金属酸化物としては酸化アルミニウム、酸化チタンが用いられる。また、IVa族元素としては、低蒸発で、高温動作に適したエミッタ材という観点から、とくにZrおよびHfが好ましい。また、高融点金属材料としては、タングステンやモリブデンを用いることができる。図1に示される陰極は、従来の放電管用陰極と同様に、その先端の角度αが20°〜30°で、先端のRは0.1〜0.2mm程度に形成されるのが最適である。先端角度αがこれより鋭角では陰極先端温度が上がり過ぎて陰極寿命が短くなり、これより鈍角では、ランプ特性の輝度が不充分となるからである。
【0020】
前述のように、本発明者らは、陰極のエミッタ材とされる酸化トリウムの代替品として、酸化ジルコニウムや酸化ハフニウムを開発したが、酸化ジルコニウムや酸化ハフニウムなどは、従来の1600℃〜1750℃前後での転打・線引によっては、酸化ジルコニウムなどの分散状態が好ましくなく、電子放出特性が酸化トリウムの場合より低下するという問題を見出した。そして、その原因が、酸化トリウムでは、1735℃程度で、トリウムと酸化トリウムのモル比の広い範囲に亘って、固体と液体との混合領域を有しているため、この温度で転打すると、酸化トリウムが繊維状に引き延ばされたタングステンの粒界に沿って引き延ばされる。また、共晶温度近傍の1600℃の温度でも、必ずしも液相は生じていないが、転打が容易となっている。これに対して、酸化ジルコニウムなどでは、固相の一部に液相が混在する温度が2000℃を超え、通常の転打・線引をする1500〜1750℃程度の温度では、固体のままでかつ、共晶温度よりもはるかに低い温度である為に非常に硬く、タングステン粒界に沿って引き延ばされていかないためであることを見出した。
【0021】
本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、酸化アルミニウム(Al23)と酸化ジルコニウム(ZrO2)の共融混合物にすることにより、図6にAl23とZrO2との相図が示されるように、その共晶点(ZrO2が42.6wt%)が1710℃程度であり、その共晶点の組成からずれた範囲では酸化アルミニウムと液体または酸化ジルコニウムと液体という固体と液体とが混在する領域が得られ、酸化トリウムの場合と同様に1750℃程度の温度で転打・線引により、酸化ジルコニウムを繊維状に延びたタングステン粒界に分散させることができることを見出した。
【0022】
この固相と液相との混在により1750℃程度で転打・線引をすることができるのは、図6に示される相図から、0〜60wt%の範囲となり、また、エミッタ材とする酸化ジルコニウムの量があまり少ないと、電子放出が低下するため、40wt%以上であることが好ましく、60wt%を超えると固相の酸化ジルコニウムが多すぎるため好ましくなく、この範囲を「共晶点の組成またはその近傍の組成の共融混合物」としている。酸化ジルコニウムの場合、具体的には、酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲となる。
【0023】
また、酸化アルミニウム(Al23)と酸化ハフニウム(HfO2)との共晶物においても、その相図が図7に示されるように、共晶点(HfO2が50.4wt%)の組成およびHfO2が20〜75wt%の範囲であれば、同様に固相と液相との混在により、1900℃程度の温度で繊維状のタングステン粒界に沿って分散させることができる。
【0024】
この酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムとの共融混合物が、1〜10wt%程度の割合でタングステン中に入れられるタングステン陰極の製造方法について、図2のフローチャートを参照しながら説明をする。
【0025】
最初に、硝酸ジルコニウムと硝酸アルミニウムとの混合溶液、またはジルコニウム系アルコキシドとアルミニウム系アルコキシドとの混合溶液を作製する(S1)。このときの混合比は、後工程の熱分解後に生じる酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物に対して、酸化ジルコニウム濃度が40〜60wt%になるようにする。40wt%を下回ると、ジルコニウム自体が少な過ぎることにより電子放出特性が低下し、60wt%を超えると、固相分が多くなるため転打が困難になるからである。なお、溶媒としては、メチルアルコールを用いたが、酢酸イソアミルなどを用いることもできる。
【0026】
つぎに、ステップS1で得られる混合溶液と酸化タングステンとを混合する(S2)。このときの混合溶液量も、後工程の熱分解および還元後における共融混合物の濃度が共融混合物入りタングステンに対して、1〜10wt%になるように定める。1wt%を下回ると内在するジルコニウム自体が少なすぎて電子放出特性が低下し、10wt%を超えると、後で行う転打が困難になるからである。
【0027】
ついで、80℃程度の空気雰囲気で溶媒を蒸発させて乾燥し、さらに500℃程度の空気雰囲気中で熱分解する(S3)ことにより、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの共融混合物によりクラッドされた酸化タングステン粉体(酸化タングステン粒子表面が共融混合物で被覆された状態)を形成する。続いて、これを1000℃程度の水素雰囲気中で還元する(S4)ことにより、タングステン中に酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物が微細に分散した粉体を形成する。あるいは、酸化タングステンの代りにタングステンを用いて、共融混合物によりクラッドされたタングステン粉末を形成することもできる。この場合、還元工程(S4)を省略できる。
【0028】
さらに、この粉体をプレス成形し(S5)、2000℃〜3000℃、水素雰囲気で焼成し(S6)、1600℃〜1900℃程度で熱間転打し(S7)、線引する(S8)ことにより、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物入りタングステン棒とする。この後、たとえば図1に示されるような所望の形状に加工する(S9)ことにより、放電管用陰極が得られる。
【0029】
本発明によれば、酸化ジルコニウムに共晶を形成するように酸化アルミニウムなどの金属酸化物を混合しているため、1710℃程度の温度で固相と液相とが混在する領域が得られる。そのため、従来の酸化トリウムを用いた陰極と同程度の温度(具体的には、共晶点の温度1710℃より低い1600℃から1900℃程度の温度)で、固相と液相とが混在した状態あるいは、その状態の近傍で転打・線引をすることができる。その結果、従来と同じ設備を用いて行うことができ、酸化ジルコニウムのみを添加するジルコニウム入りタングステンを充分に転打するのに必要な2000℃を超える設備を必要としないで、繊維状のタングステン粒界間に酸化ジルコニウムを分散させることができ、トリウムを使用しない電子放出特性の優れた陰極を得ることができる。
【0030】
図3は、本発明による陰極の他の実施形態を示す側面説明図である。すなわち、前述の例は、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの共融混合物とタングステンとを粉末から一体成形し、それを陰極形状に加工したが、図3に示される例は、多孔質タングステン体3をまず形成し、それに酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物を含浸させることにより形成されている。
【0031】
この陰極を製造するには、図4にそのフローチャートが示されるように、まず酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物を作製する。この混合割合は前述の例と同様に酸化ジルコニウム濃度が40〜60wt%となるように混合する。この共融混合物の作製方法としては、最も簡単な方法としては、約1μm程度の粒径を有する酸化ジルコニウム粉末と酸化アルミニウム粉末をアルコールと一緒にスラリー状態にして充分に混合する(S11)。そして、そのスラリーを80℃程度の空気雰囲気中で乾燥させる(S12)。つぎに、1500℃程度の空気雰囲気中で5時間程度焼成し、続いて1850℃程度の水素雰囲気中で3分程度の熱処理をすることにより、一旦溶融させ、最後に冷却して固化した共融混合物を粉砕する(S13)ことにより、共融混合物の粉末を得ることができる。
【0032】
共融混合物を得る別の方法としては、硝酸ジルコニウムと硝酸アルミニウムとの混合溶液、またはジルコニウム系アルコキシドとアルミニウム系アルコキシドとの混合溶液を作製し(S11)、これを80℃程度の空気あるいは窒素雰囲気中で乾燥し(S12)、さらに500℃程度の空気あるいは窒素雰囲気中で熱分解をする(S13)。なお、この例のように、硝酸塩またはアルコキシドを用いた方が、酸化物から出発するよりも共融混合物粉末の均質性が良い。
【0033】
一方、陰極基体を作製する。この陰極基体の作製方法としては、たとえば粒径が1〜5μm程度のタングステン粉体を準備し(S14)、その粉体を陰極形状にプレスし(S15)、1800℃程度の水素雰囲気中で仮焼成する(S16)ことにより、多孔質タングステン体3を形成する。また、モリブデン製リード2を準備し(S17)、ステップ16で得られた多孔質タングステン体3と2400℃程度の水素雰囲気中で30分程度熱処理をし、焼ばめによる接合をする(S18)ことにより陰極基体を作製する。
【0034】
このようにして作製された陰極基体の多孔質タングステン体3周囲に、ステップ13で得られた共融混合物を塗布して2000℃程度の水素雰囲気中で3分間の熱処理をすることにより含浸させる(S19)ことにより、陰極が得られる。
【0035】
この方法によれば、転打・線引をする工程はないが、含浸させる場合に液相状態で含浸させることができるため、多孔質タングステン体の細かい間隙部内にも非常に滑らかに浸入し、隙間なく含浸される。図4(S19まで)の方法で製造した陰極の含浸状態をSEM像で調べた結果を図8に示す。図8で、4は多孔質タングステン粒界、5が含浸された酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの共融混合物である。多孔質タングステンの気孔に隙間なく共融混合物が埋まり、タングステン粒界との接触面積が最大限に得られていることが分る。なお、比較例として、共融混合物を含浸させないで、タングステン粉末と共にプレスし、焼成した焼結体を形成したところ、いたるところに空孔ができ、接触面積が最大限得られているとはいえない状態になった。
【0036】
陰極の製造は、図5に示すフローチャートのようにすることもできる。まず、図4で説明したのと同様に、S11〜S13のステップに従い、共融混合物の粉末を製造する。一方、陰極基体の製作は、まず図4の方法と同様に、たとえば1〜5μm程度のタングステン粉体を準備し(S14)、その粉体を棒状にプレス成形し(S15)、1800〜2400℃程度の水素雰囲気中で仮焼結する(S16)。これにより多孔質タングステンからなるタングステン棒を作製する。
【0037】
このようにして作製された多孔質タングステン棒(陰極基体)の周囲に、ステップ13で得られた共融混合物を塗布し、2000℃程度の水素雰囲気中で3分間の熱処理をすることにより含浸させ(S19)、ついで、熱間転打し(S20)、線引する(S21)ことにより、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの共融混合物入りタングステン棒とする。その後、この共有混合物入りタングステン棒を所望の形状に加工する(s22)ことにより、たとえば図1に示される形状の放電管用陰極が得られる。
【0038】
図9は、前述の各製造方法により得られる陰極を放電管などに搭載した場合に、その光出力を低下させないで、長時間に亘って高輝度を維持し得る陰極とする例のフロー図である。すなわち、本発明では、前述のように、酸化ジルコニウムなどをタングステン粒界に沿って分散させやすくするため、酸化アルミニウムとの共融混合物として用いている。この酸化アルミニウムは、電子放出特性を阻害する要因には殆どならないが、放電管などに搭載して動作させるとアルミニウムが蒸発してガラス管壁を汚すおそれがある。ガラス管壁を汚すと、光が遮られてその出力が低下するため、好ましくない。
【0039】
この蒸発を抑制するため、図9に示されるように、前述の各工程(図2のS9、図4のS19または図5のS22)に引き続いて1700℃以上の真空加熱処理を行う。この処理温度は、2000℃程度が効率的である。この真空加熱処理により、たとえば2000℃での蒸気圧が酸化ジルコニウムに比べて高い酸化アルミニウムのみが選択的に蒸発して、少なくとも陰極表面から酸化アルミニウム成分を除去することができる。また同時に、陰極表面は酸化アルミニウムが抜けた分だけタングステン粒界が成長し、陰極最表面を緻密層で覆うことができる。これは、その後の蒸発量の抑制にも効果を発揮する。このときの陰極断面のSEM像を図10に示す。図10において、6が緻密層、7が緻密層直下の分析域、8が中間の分析域、9が陰極中心の分析域をそれぞれ示す。また、7、8、9の領域をEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)によって、アルミニウムとジルコニウム元素の定性分析をした結果を図11に示す。図11で、それぞれ横軸は波長、縦軸は特性X線の強度(カウント数)を示し、このカウント数が多いほど、分析元素が多いことを表している。図11から明らかなように、緻密層直下領域の分析域(陰極表面)7では、ジルコニウム元素の強度が他の領域と同様の大きさであるのに対し、アルミニウム元素の強度は殆どなくなっている。これによりジルコニウムのみが存在し、アルミニウム元素は除去されていることが分る。
【0040】
以上のように、真空加熱処理によって初期蒸発を抑え、放電管でのガラス汚れを抑制することができる。また、同時に、陰極表面に緻密層を形成することにより、初期以降の陰極の蒸発や吹き出しの抑制にも役立つ。
【0041】
前述の各例では、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物を用いたが、酸化ジルコニウムに代えて酸化ハフニウムを用い、酸化ハフニウムと酸化アルミニウムとの共融混合物を用いても同様に酸化ハフニウムの分散性の優れた陰極が得られた。この場合、酸化ハフニウムと酸化アルミニウムとの割合が、共晶点の酸化ハフニウム50.4wt%を用いたが、図7の相図から明らかなように、酸化ハフニウムの割合が40〜75wt%になるように調合することにより、同様の結果が得られる。なお、材料としては、前述の酸化ハフニウム粉末に代えて酸化ジルコニウム粉末を、または硝酸ジルコニウムの代りに硝酸ハフニウムを、ジルコニウム系アルコキシドの代りにハフニウム系アルコキシドを用い、前述の各例のステップと同様に行なうことにより酸化ハフニウムを用いた陰極を得ることができる。
【0043】
また、陰極の電子放射面に炭化タングステン層または炭化モリブデン層を形成することも可能である。
【0044】
さらに、前述の各例は、放電管用陰極の例であったが、本発明は酸化トリウム入りタングステンの代替としての電子放出材料を提案するものであるから、放電管に限らず、真空管、溶接用電極など、従来酸化トリウム入りタングステンが用いられていたもの全てに置き換えることができる。
【0045】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、酸化ジルコニウム入りタングステンや酸化ハフニウム入りタングステンなどのIVa族元素酸化物入り高融点金属において、転打・線引の困難性が改善され、酸化トリウム入りタングステン並みの繊維状組織と分散状態を実現できる。これにより、機械的強度が向上するばかりでなく、陰極特性としてもタングステンとの接触面積が増え、接触還元作用が促進されるので、電子放出特性の改善に寄与する。その結果、従来酸化トリウムを用いていた真空管用陰極、放電管用陰極、溶接用電極などに酸化トリウムを用いた場合と同等以上の性能を有する陰極として使用することができる。また、必要によって、繊維状組織と分散状態を改善した後に、真空加熱処理によって酸化アルミニウムのみを除去することも可能で、放電管などの輝度を低下させることがなく、寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による陰極の一実施形態の側面説明図である。
【図2】図1に示される陰極の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明による陰極の他の実施形態を示す側面説明図である。
【図4】図2に示される陰極の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】図1に示される陰極の別の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの共晶物の相図である。
【図7】酸化ハフニウムと酸化アルミニウムの共晶物の相図である。
【図8】図4に示される方法で製造した陰極の断面をSEM像で観察した写真である。
【図9】本発明による陰極の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【図10】図9の方法により製造した陰極の断面をSEM像で観察した写真である。
【図11】図10の構造で、AlとZrのEPMAによる定性分析の結果を示す図である。
【符号の説明】
1 ZrO2とAl23共融混合物入りタングステン陰極
2 モリブデン製リード
3 多孔質タングステン
4 多孔質タングステン粒界
5 含浸された酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの共融混合物
6 緻密層
7 緻密層直下の分析域
8 中間の分析域
9 陰極中心の分析域

Claims (5)

  1. 酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物が、高融点金属基体中に含まれることを特徴とする陰極。
  2. 高融点金属粉末に、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物を、該共融混合物の濃度が1〜10wt%の濃度範囲で分散させ、プレス成形して燒結し、該プレス成形して燒結した高融点金属を、略前記共融混合物の共晶点の共晶温度から1900℃の温度範囲で転打し、前記共融混合物を含む高融点金属基体を形成することを特徴とする陰極の製造方法。
  3. 多孔質高融点金属基体に、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物を含浸させ、前記共融混合物を含む高融点金属基体を形成することを特徴とする陰極の製造方法。
  4. 酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウムとの共融混合物で、該共融混合物の前記酸化アルミニウムとの混合比が酸化ジルコニウムの場合は酸化ジルコニウムが40〜60wt%の範囲であり、酸化ハフニウムの場合は酸化ハフニウムが20〜75wt%の範囲である前記共融混合物を含浸させた多孔質高融点金属基体を、略前記共融混合物の共晶点の共晶温度から1900℃の温度範囲で転打し、前記共融混合物を含む高融点金属基体を形成することを特徴とする陰極の製造方法。
  5. 記共融混合物を含む高融点金属基体を形成した後、真空加熱処理を行い、該高融点金属基体表面から前記酸化アルミニウムを蒸発除去することを特徴とする請求項2、3または4いずれか記載の陰極の製造方法。
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